A.第1実施例:
図1は、一実施例としての排水処理装置800の処理フローを示す説明図である。本実施例の排水処理装置800は、一般家庭等からの排水の浄化処理を行う(このような装置は「浄化槽」とも呼ばれる)。排水処理装置800は、複数のステップを経て浄化処理を行うために、複数の水処理槽を有している。図1の実施例では、排水処理装置800は、上流(図1の左側)から順番に、夾雑物除去槽810、嫌気濾床槽820、接触曝気槽830、処理水槽840、消毒槽850の各水処理槽を、収容している。排水処理装置800に流入した排水は、夾雑物除去槽810、嫌気濾床槽820、接触曝気槽830、処理水槽840、消毒槽850で順次処理された後に、排水処理装置800の外部に放流される。以下、各水処理槽を流れる水を「被処理水」あるいは、単に「水」と呼ぶ。
図2は、排水処理装置800を横から見た概略構成図である。図3は、図2中のA−A断面から下方を向いて見た排水処理装置800の概略構成を示している。図3の下部には、接触曝気槽830と処理水槽840とのそれぞれの壁を表す説明図が示されている。図4は、図2中のB−B断面から夾雑物除去槽810側を向いて見た排水処理装置800の概略構成を示している。これらの図中において、Z方向は、鉛直方向の下方から上方へ向かう方向を示し、X方向は、排水処理装置800の長手方向(水平な方向)を示し、Y方向は、X方向とZ方向とのそれぞれに直交する方向(水平な方向)を示している。以下、X方向を「+X方向」とも呼び、X方向側を「+X側」とも呼び、X方向の反対方向を「−X方向」とも呼び、−X方向側を「−X側」とも呼ぶ。Y方向、Z方向についても、同様である。
夾雑物除去槽810は、排水中の夾雑物を分離する水処理槽である。図2、図3に示すように、夾雑物除去槽810は、排水処理装置800の最上流部に配置されている。流入口802からの排水(汚水とも呼ばれる)は、まず、夾雑物除去槽810に流入する。夾雑物除去槽810は、固液分離手段(本実施例では、流入バッフル900)を有しており、排水中の夾雑物を被処理水から分離する。夾雑物が分離(除去)されたあとの水は、移流開口814を通じて、嫌気濾床槽820に移流する。
嫌気濾床槽820は、嫌気性微生物による嫌気処理を行う水処理槽である。嫌気濾床槽820は、嫌気性微生物が付着するための濾材822を有している。嫌気処理によって、被処理水中の有機物が分解される。また、濾材822は、被処理水中の浮遊物を捕捉し得る。
図2、図3に示すように、嫌気濾床槽820の下流側(+X側)の側壁803は、槽本体801を、X方向に対して垂直に、2つに仕切る壁である(以下、この壁を「仕切板803」とも呼ぶ)。仕切板803の反対側(+X側)には、上から見て、仕切板803から+X側(図3中の右側)に突出する略U字状に配置された側壁部843、842、844が、固定されている。仕切板803と側壁部843、842、844で囲まれる空間が、処理水槽840に相当する。仕切板803と槽本体801とで囲まれる+X側の空間のうちの、側壁部843、842、844の外側の空間は、接触曝気槽830に相当する。側壁部843、842、844の構成については、後述する。
仕切板803における嫌気濾床槽820と接触曝気槽830との境界を成す部分には、移流開口824が形成されている(図2、図3)。移流開口824は、仕切板803の上部に配置されており、通常時には、水面WLは、この移流開口824の途中に位置する。後述するように、水面WLは、低水位LWLと高水位HWLとの間で、変動し得る。嫌気濾床槽820で処理された水は、移流開口824を通じて、接触曝気槽830に移流する。
接触曝気槽830は、好気性微生物による好気処理を行う水処理槽である。図3に示すように、接触曝気槽830は、処理水槽840の三方(+Y方向、+X方向、−Y方向)を囲むように形成されている。図4に示すように、接触曝気槽830は、好気性微生物が付着するための接触材832、833を有している。第2接触材833は、第1接触材832の下に配置されている。これらの接触材832、833のそれぞれは、処理水槽840の両側(+Y側と−Y側)に配置されている(図3、図4)。また、接触曝気槽830は、接触材832、833よりも下に配置された散気装置834を有している。散気装置834には、図示しないブロワー(送風機)が接続される。散気装置834は、ブロワーによって供給された空気を、接触曝気槽830内に供給する。好気性微生物は、空気に含まれる酸素を利用して、被処理水中の有機物を分解する。接触曝気槽830で処理された水は、接触曝気槽830の底部と処理水槽840の底部とを連通する移流開口836を通じて、処理水槽840に移流する。
処理水槽840は、接触曝気槽830から移流した水を一時的に滞留して、水中の固形物(例えば、汚泥や浮遊物質等)を沈降・分離する水処理槽である。後述するように、処理水槽840は、底部から水が流入する上向流の水処理槽である。
図3に示すように、鉛直方向の上から下を向いて見たときに、第2側壁部842は仕切板803と対向し、第3側壁部843は第4側壁部844と対向する。第3側壁部843は、第2側壁部842の+Y側の端部842e1と仕切板803とを接続する。第4側壁部844は、第2側壁部842の−Y側の端部842e2と仕切板803とを接続する。第3側壁部843と仕切板803との接続部分843eと、第4側壁部844と仕切板803との接続部分844eとのそれぞれは、仕切板803の両端803e1、803e2よりも内側に配置されている。なお、仕切板803は、処理水槽840の−X側の側壁部(第1側壁部とも呼ぶ)を形成している。
図2に示すように、処理水槽840の下部分849は、いわゆるホッパー構造を有している(以下、この下部分849を「ホッパー部分849」とも呼ぶ)。ホッパー部分849では、第2側壁部842が鉛直方向に対して傾斜しており、処理水槽840の断面積(水平な断面積)は、底に近いほど小さい(第2側壁部842のうちの傾斜した部分842dを「傾斜部842d」とも呼ぶ)。また、図4に示すように、ホッパー部分849の下部分849Lにおいては、さらに、第3側壁部843と第4側壁部844とのそれぞれも、鉛直方向に対して傾斜している(側壁部843、844のそれぞれの傾斜した部分も「傾斜部」と呼ぶことができる)。この下部分849Lは、いわゆる3面ホッパー構造を有している。処理水槽840において分離された固形物は、側壁部842、843、844によって、処理水槽840の底部(処理水槽840の上部よりも狭い空間)に集められる。
図2に示すように、仕切板803の下端は、槽本体801の底面に接続されている。一方、図2、図4に示すように、側壁部842、843、844の下端は、槽本体801の底面から離れている。側壁部842、843、844の下端と、槽本体801の底面との間の隙間は、移流開口836に相当する。
図2に示すように、処理水槽840には、循環エアリフトポンプ860が設けられている。循環エアリフトポンプ860は、処理水槽840の底部から高水位HWLよりも上まで上方に向かって延びる第1移流管861と、第1移流管861の上部に接続されて、夾雑物除去槽810の上方まで、緩い下り勾配で延びる第2移流管863と、を有している。第1移流管861の底部側の端は吸入口862を形成している。第2移流管863の夾雑物除去槽810側の端は流出口864を形成している。第2移流管863は、流入バッフル900の孔を貫通しており、流出口864は、流入バッフル900内に配置されている。循環エアリフトポンプ860は、処理水槽840の底部から夾雑物除去槽810へ、固形物や水を移送(返送)する。上述したように、処理水槽840の下部分849はホッパー構造を有しているので、処理水槽840で分離された固形物は、底部(吸入口862の近傍)の狭い空間に集められる。その結果、分離された固形物の処理水槽840からの除去を容易に行うことができる。なお、循環エアリフトポンプ860は、上述した図示しないブロワーからの空気によって、駆動される。ブロワーからの空気の分配量は、図示しないバルブによって調整される。循環エアリフトポンプ860は定常的に駆動されてよい。また、循環エアリフトポンプ860を間欠駆動してもよい。
消毒槽850は、被処理水を消毒する水処理槽である。消毒槽850は、処理水槽840の上部に配置されている(図2)。本実施例では、消毒槽850は、放流エアリフトポンプ870を有している。放流エアリフトポンプ870の吸入口872は、処理水槽840内の低水位LWLの高さに配置されており、放流エアリフトポンプ870の流出口874は、消毒槽850の上流側に配置されている。処理水槽840の水面WL近傍の水(固形物が分離された水)は、吸入口872から放流エアリフトポンプ870に流入する。放流エアリフトポンプ870に流入した水は、放流エアリフトポンプ870の駆動によって、消毒槽850に少しずつ移送される。放流エアリフトポンプ870は、水位WLが低水位LWL以上である状態で、水を移送可能である。このように、通常の使用状態では、最も低い水位WLは、低水位LWLである。このような低水位LWLは、設計上の最低水位ということができる。また、放流エアリフトポンプ870は、上述した図示しないブロワーからの空気によって、駆動される。ブロワーからの空気の分配量は、図示しないバルブによって調整される。
消毒槽850は、消毒剤(例えば、固形塩素剤)が充填された薬剤筒854を有している。消毒槽850において、被処理水は消毒剤と接触し、消毒剤によって被処理水が消毒される。消毒された水は、放流口804を通じて、排水処理装置800の外部へ放流される。
一時的に大量の排水が排水処理装置800に流入した場合には(例えば、ピーク流入時)、放流エアリフトポンプ870よりも上流側の水処理槽810、820、830、840の水位WLは、一時的に、通常時の水位(図中の低水位LWL)よりも上昇し得る。図2の実施例では、水位WLは、高水位HWLまで、上昇し得る。水位WLが高水位HWLを超えると、消毒槽850に設けられた図示しないオーバーフロー開口を通じて、処理水槽840から消毒槽850へ水がオーバーフローする。このように、通常の使用状態では、最も高い水位WLは、高水位HWLである。このような高水位HWLは、設計上の最高水位ということができる。なお、単位時間当たりの流入水量が想定された範囲を超える場合には、一時的に水位が高水位HWLよりも高い位置まで上昇し得る。
このように、ピーク流入時には、複数の水処理槽810、820、830、840の水位が一時的に上昇することによって、接触曝気槽830からの単位時間当たりの流出量の増大が抑制される。この結果、接触曝気槽830から未処理の水が流出する可能性を低減できる。このように、放流エアリフトポンプ870は、ピーク流入に起因する接触曝気槽830からの単位時間当たりの流出量の増大を抑制する機構(「ピークカット機構」と呼ぶ)として、動作する。
図5は、流入バッフル900の説明図である。図中の方向X、Y、Zは、流入バッフル900を排水処理装置800の夾雑物除去槽810に取り付けた状態での方向X、Y、Z(図2〜図4)を示している。低水位LWLと高水位HWLとは、流入バッフル900が夾雑物除去槽810に取り付けられた場合の水位LWL、HWL(図2、図4)の位置を示している。図5(A)は、上方から下方(すなわち、−Z方向)を向いて流入バッフル900を見た上面図であり、図5(B)〜図5(E)は、互いに異なる水平方向を向いて流入バッフル900を見た側面図であり、図5(F)は、斜め上方向を向いて流入バッフル900を見た斜視図である。また、図5(G)は、図5(A)と同じ上面図である。
流入バッフル900は、流入バッフル900の底を塞ぐ底壁部950と、底壁部950から上方側に向かって延びる側壁部910、920、930、940と、を有している。4つの側壁部910、920、930、940は、それぞれ、+X方向側、−Y方向側、−X方向側、+Y方向側の側壁である。これらの側壁部910、920、930、940は、上方側から下方側へ延びる流路990を形成する筒状の壁部を形成する。
図5(E)に示すように、第3側壁部930は、第3側壁部930の上部に位置する流入口932を形成している。流入口932には、流入管を接続するための管状の流入ソケット892(図2)が挿入される。流入ソケット892は、槽本体801の流入口802と流入バッフル900の流入口932とを貫通した状態で、槽本体801に固定されている。すなわち、流入ソケット892は、流入口932を貫通した状態で、流入口932に接続されている、と言うことができる。この流入ソケット892を通じて、流入バッフル900に排水が導かれる。
図5(B)に示すように、第2側壁部920は、第2側壁部920の下端に位置する流出口922を形成している。また、図5(D)に示すように、第4側壁部940は、第4側壁部940の下端に位置する流出口942を形成している。流入口932を通じて流入する排水は、側壁部910、920、930、940によって下方側に導かれ、そして、流出口922、942から夾雑物除去槽810内に流出する。このように、流入バッフル900の流出口922、942は、底壁部950には設けられずに、側壁部920、940に設けられている。従って、流入バッフル900から流出する水は、下方(−Z方向)ではなく、おおよそ水平方向(ここでは、+Y方向と−Y方向)に向かって、流出する。
図5(C)に示すように、第1側壁部910は、第1側壁部910の上部に位置する開口912を形成している。この開口912には、第2移流管863(図2)が挿入されている。
図6は、流入バッフル900の断面図である。図6(A)は、図5(A)、図5(C)のA−A断面を示している。A−A断面は、Y方向に垂直な断面であり、側壁部910、930のおおよそ中央を通る断面である。図中の矢印FLは、水の流れを示している。図示するように、第1側壁部910は、流路990の内側に向かって(ここでは、−X側に向かって)突出した部分である棚部914を有している。棚部914は、底壁部950の+X側の端部から、上方側に向かって延びている。
棚部914の上端部分は、流入口932の下端よりも低い位置に設けられた段部916を形成している。この段部916では、流路990の内面を上方側から下方側に辿る場合に、内面が、流路990の内側に向かって階段状に隆起している。本実施例では、段部916は、3つの部分916a、916b、916cを有している。第2部分916bは、おおよそ水平に(ここでは、X方向におおよそ平行に)延びる部分である。第1部分916aは、第2部分916bの+X側の部分から上方側に向かって曲がる部分である。第3部分916cは、第2部分916bの−X側の部分から下方側に向かって曲がる部分である。第2部分916bの内面916sは、上方側を向いている。
図5(A)には、下方(すなわち、−Z方向)を向いて見た場合の、流入口932と段部916の内面916sとの位置関係が示されている。図中では、内面916sにハッチングが付されている。図示するように、下方を向いて見る場合に、段部916では、流路990の内面が流路990の内側に向かって隆起している。また、段部916の内面916sは、流入口932とは反対側に配置されている。従って、図6(A)に示すように、流入口932を通じて流入する排水(ここでは、流入ソケット892を通じて流入する排水)が流出口922、942に至る前に、水の流れが内面916sによって受けられる可能性が高い。内面916sは、下方側に移動する水の流れを内面916sで受けることによって、水の流れを内面916s上の位置から鉛直下方向とは異なる方向(例えば、−X方向、+Y方向、−Y方向など)に向かわせる。これにより、下方側に移動する水の勢いを内面916sによって緩和することができる。この結果、流出口922、942から流出する水の勢いが緩和されるので、夾雑物除去槽810内がかき乱されることを抑制できる。例えば、夾雑物除去槽810の底部に堆積した汚泥が撹拌されることを抑制できる。また、夾雑物除去槽810内の水面WLの近傍に形成されたスカムが破砕されることを抑制できる。
また、流出口922、942から流出する水の勢いが緩和されるので、流出口922、942から、空気を伴う水(気液混合水)が夾雑物除去槽810に流入することが抑制される。この結果、流出口922、942から夾雑物除去槽810へ流入した空気が水面WLに浮上してスカムを破砕することを抑制できる。
また、段部916の内面916sは、高水位HWLよりも低い位置に配置されている。また、段部916の内面916sは、流入口932よりも低い位置に配置されている。従って、内面916sは、流入バッフル900に水が流入することによって流路990内を下方側に移動する水の勢いを、適切に緩和できる。
図5(G)には、図5(A)と同じ上面図が示されている。図中には、投影範囲PRが、ハッチングで示されている。この投影範囲PRは、流入口932を+X方向に投影する場合の投影された流入口932に重なり得る範囲を示している。流入口932の投影方向は、下方を向いて見る場合に、流入口932に接続される管である流入ソケット892の延びる方向、すなわち、流入ソケット892の中心軸に平行な方向と同じである(ここでは、+X方向)。流入ソケット892を流れる水の移動方向は、流入ソケット892の延びる方向とおおよそ同じである。従って、下方を向いて見る場合に、流入ソケット892から流入バッフル900の流路990内に流入する水は、主に、この投影範囲PR内で流入ソケット892の延びる方向(ここでは、+X方向)に向かって移動する。本実施例では、下方を向いて見る場合に、段部916の内面916sは、この投影範囲PR内に位置する部分を含んでいる。従って、水が流入口932を通過して流路990内に流入する場合に、段部916の内面916sは、流路990内に流入する水の流れを受け易い。この結果、段部916の内面916sによって、容易に、流路990内を下方側に移動する水の勢いを緩和できる。
また、本実施例では、段部916の内面916sは、投影範囲PRの投影方向に垂直な方向の一端PRe1から他端PRe2まで延びる部分を含んでいる。従って、内面916sは、流入口932の種々の位置を通る水の流れを、適切に受けることができる。
また、流入ソケット892を通って勢いの強い水が流入する場合(例えば、ピーク流入時)、図6(A)に示すように、流入口932に対向する第1側壁部910が流入した水の流れを受け、そして、第1側壁部910に沿って水が下方側に移動する。本実施例では、図5(G)のように下方を向いて見る場合に、段部916は、流入口932に対向する第1側壁部910の投影範囲PR内の部分に設けられている。従って、段部916の内面916sは、第1側壁部910に沿って下方側に移動する水の流れを容易に受けることができる。従って、段部916は、流路990内を下方側に移動する水の勢いを容易に緩和できる。
また、内面916sは、流路990の内側に向かって階段状に隆起する段部916によって形成されている。従って、内面916sを有する板を流路990の内面に固定する場合と比べて、内面916sを容易に形成できる。また、第1側壁部910は、このように立体的に隆起する段部916を有しているので、第1側壁部910の全体が平らな板である場合と比べて、第1側壁部910、ひいては、流入バッフル900の強度を向上できる。
図6(B)は、図5(A)、図5(B)、図5(D)のB−B断面を示している。B−B断面は、X方向に垂直な断面であり、側壁部920、940のおおよそ中央を通る断面である。図示するように、第2側壁部920は、流路990の内側に向かって(ここでは、+Y側に)突出する突出部926を有している。図5(A)に示す内面926sは、突出部926の上方側の内面を示している(内面926sには、ハッチングが付されている)。このように、下方を向いて見る場合に、突出部926は、流路990の内側に向かって突出している。そして、この突出部926の内面926sは、上方側を向いている。また、図5(B)、図5(F)、図6(B)に示すように、突出部926は、流出口922の上端を成す辺の全体を形成している(図5(F)では、流出口922にハッチングが付されている)。
図6(B)に示すように、第4側壁部940は、流路990の内側に向かって(ここでは、−Y側に)突出する突出部946を有している。第4側壁部940の突出部946と流出口942との形状と、第2側壁部920の突出部926と流出口922との形状とは、Y方向に垂直な平面を対称面とする鏡像の関係にある。すなわち、下方を向いて見る場合に、突出部946は、流路990の内側に向かって突出している。そして、この突出部946の内面946sは、上方側を向いている(図5(A)では、内面946sにハッチングが付されている)。また、図5(D)に示すように、突出部946は、流出口942の上端を成す辺の全体を形成している。
このように、下方を向いて見る場合に、第2側壁部920と第4側壁部940との突出部926、946は、それぞれ、流路990の内側に向かって突出している。従って、図6(B)に示すように、流入口932を通じて流入する排水が流出口922、942に至る前に、突出部926、946の内面926s、946sは、下方側に移動する水の流れを受けることができる。内面926s、946sは、下方側に移動する水の流れを内面926s、946sで受けることによって、水の流れを内面926s、946s上の位置から鉛直下方向とは異なる方向(例えば、Y方向に平行な方向)に向かわせる。これにより、下方側に移動する水の勢いを、内面926s、946sによって緩和することができる。この結果、流出口922、942から流出する水の勢いが緩和されるので、夾雑物除去槽810内がかき乱されることを抑制できる。
また、図5(B)、図5(D)に示すように、突出部926、946は、段部916よりも低い位置に設けられている。従って、流入口932を通じて流入し流出口922、942から流出する水の勢いは、段部916の内面916sと、突出部926、946の内面926s、946sと、の両方によって、緩和され得る。従って、流出口922、942から流出する水の勢いを適切に緩和できる。
また、図5(A)に示すように、突出部926は、流路990の−Y側の側壁部920に形成され、突出部946は、+Y側の側壁部940に形成されている。また、段部916は、流路990の+X側の側壁部910に形成されている。このように、突出部926、946の内面926s、946sは、段部916の内面916sとは異なる方向側の側壁に形成されている。そして、図6(A)、図6(B)に示すように、段部916の内面916sは、水の流れる方向を、内面916sから離れる方向(例えば、+Y方向や、−Y方向や、−X方向)に変化させる。従って、図6(B)に示すように、段部916の内面916sによって勢いが緩和された後の水の勢いを、さらに、突出部926、946の内面926s、946sのいずれかによって容易に緩和できる。
また、図5(A)に示すように、下方を向いて見る場合に、第2側壁部920と第1側壁部910との接続部分は、外側に向かって凸となるように湾曲している。また、第2側壁部920と第3側壁部930との接続部分も、外側に向かって凸となるように湾曲している。そして、突出部926は、第2側壁部920の内面と、湾曲した接続部分の内面と、に接続されている。従って、突出部926が平らな内面のみに接続されている場合と比べて、突出部926の強度を向上できる。突出部946についても、同様である。
また、図5、図6に示すように、流入バッフル900の壁部910〜950は、水平な断面での流路990の断面積が下方に向かって連続的に小さくなるテーパ構造を有している。従って、成形型を用いて流入バッフル900を容易に成形できる。例えば、1回の成形(例えば、ハンドレイアップ成形、スプレーアップ成形、射出成形、ブロー成形など)で流入バッフル900の全体を成形した後に、容易に離型できる。なお、流入バッフル900の材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、繊維強化プラスチック(FRP)、ジシクロペンタジエン等の種々の樹脂を採用可能である。また、樹脂とは異なる他の材料を採用してもよい(例えば、金属、セラミックなど)。
また、流出口922、942は、底壁部950ではなく、側壁部920、940に形成されている。従って、水が流入バッフル900から下方に向かって流出することを抑制できるので、夾雑物除去槽810の底部に堆積した汚泥がかき乱されることを抑制できる。また、底壁部950が、下方側に移動する水の流れを受けることによって水の流れの勢いを緩和できるので、流出口922、942から流出する水の勢いを緩和できる。
また、図5(B)、図5(D)、図6(B)に示すように、突出部926は、流出口922の上端を形成し、突出部946は、流出口942の上端を形成している。従って、上方側から下方側に向かって流れる水が、突出部926、946の内面926s、946sによって勢いが緩和されることなく直接的に流出口922、942から流出することを、抑制できる。
B.阻流部の効果について:
本願の発明者らは、シミュレーションを用いて、下方側に移動する水の流れを受ける阻流部(例えば、図5、図6の段部916と突出部926、946)の効果を検討した。まず、段部916の効果について検討し、次に、突出部926、946の効果について検討する。
B1.段部916の効果について:
図7は、シミュレーションの説明図である。このシミュレーションでは、夾雑物除去槽と流入バッフルとに相当するモデル槽MT1を準備し、そのモデル槽MT1を用いて、流入バッフルを通って夾雑物除去槽に水が流入する際の、夾雑物除去槽内における水の流速を計算した。このシミュレーションは、数値流体力学解析ソフト「ANSYS Fluent 14.0(「ANSYS」と「Fluent」とは、アンシス社の商標)」を用いて行われている。水の物性としては、 ANSYS Fluent 14.0で予め準備されている標準的な水の物性を採用している。
図7(A)は、モデル槽MT1の斜視図である。図中の、X方向、Y方向、Z方向は、図2〜図6に示す同じ名前の方向に、それぞれ対応している。このモデル槽MT1では、夾雑物除去槽と流入バッフルとが簡略化して再現されている。図中の部分900maは、流入バッフルに対応し、部分810mは、夾雑物除去槽(流入バッフルに含まれる部分を除いた残りの部分)に対応する(以下、「流入バッフル900ma」、「夾雑物除去槽810m」と呼ぶ)。なお、図中には、モデル槽MT1のうち+Y側の半分の部分が示されている。−Y側の半分の部分の図示を省略するが、モデル槽MT1の構成は、Y方向に垂直な面Psを対称面とする面対称である。
夾雑物除去槽810mの形状は、図2、図3の夾雑物除去槽810のように、角が丸められ、そして、リブ(内側に向かって突出する部分)を有する形状である。この夾雑物除去槽810mの上部に、流入バッフル900maが配置されている。流入バッフル900maのY方向の位置は、夾雑物除去槽810m内の中央の位置である(図7(A)では、対称面Psに接する位置)。流入バッフル900maのX方向の位置は、夾雑物除去槽810m内の−X側の端の位置である。
モデル槽MT1の上面(+Z側の面)は、水面に対応する。夾雑物除去槽810mの底からの水面の高さHWは、1150mmであった。この水面の高さHWは、例えば、図2の低水位LWLの高さとして採用可能である。また、夾雑物除去槽810mの底からの流入バッフル900maの下端の高さHbは、900mmであった。
このシミュレーションでは、モデル槽MT1の全体に水が満たされていることと仮定している。各処理槽810m、900mの境界面では、境界面を通り抜けるような水の移動が無いことと仮定している。水の流入は、流入バッフル900ma内の水面上に設けられた流入領域Aiから下方(−Z方向)に向かって均等に行われることとした。水の流出は、夾雑物除去槽810mの+X側の面の上部に設けられた流出領域Aoaから行われることとした。流出領域Aoaは、水面から−Z方向に向かって延びる矩形領域である。
シミュレーションでは、流入バッフル900maを含む4種類の流入バッフルが用いられた。図7(B)〜図7(E)は、4種類の流入バッフルの斜視図である。図7(B)〜図7(E)には、流入バッフルの+Y側の半分の部分が示されている。以下、この半分の部分の構成について説明する。図示と説明とを省略するが、−Y側の半分の部分の構成は、+Y側の半分の部分の構成と、同じである。
第1流入バッフル900ma(図7(B))は、水平な断面形状が多角形であり上方側から下方側に向かって延びる筒形状のバッフルである。水平な断面積は、下方側に向かって徐々に小さくなる。この流入バッフル900maの水平な方向側の壁部である側壁部910maには流出口が設けられず、そして、下方側の壁部である底壁部が省略されている。これにより、流入バッフル900maの底は、開いた流出口OPaを形成している。シミュレーションの結果、流出口OPaからは、おおよそ下方(−Z方向)に向かって、水が流出した。この理由は、流入領域Aiから下方に向かって流入した水が、そのまま、流入バッフル900maの底の流出口OPaから下方側に向かって流出するからである。
第2流入バッフル900mb(図7(C))は、第1流入バッフル900maの底を底壁部950mbによって閉じ、そして、側壁部910maの+Y側の部分の下部に流出口OPbを設けて得られるバッフルである。流出口OPbの形状は、直径が100mmの円形状である。この流出口OPbは、底壁部950mb(すなわち、底面)から上方に離れた位置に配置されている。流入領域Aiから流入した水は、流入バッフル900mbの底面によって勢いが緩和された後に、流出口OPbから流出する。シミュレーションの結果、流出口OPbからは、水平方向から若干上方に向けて傾斜した方向(すなわち、水面に向かう方向)に向かって、水が流出した。この理由は、底面から流出口OPbに向かう方向が、水平方向から若干上方に向けて傾斜した方向であるからである。
第3流入バッフル900mc(図7(D))は、第2流入バッフル900mb(図7(C))の流出口OPbを矩形の流出口OPcに置換して得られるバッフルである。流出口OPcの形状は、125mm×125mmの矩形状である。第2流入バッフル900mbの流出口OPbとは異なり、流出口OPcの下辺は、側壁部910maの下辺(すなわち、第3流入バッフル900mcの底面)に重なっている。シミュレーションの結果、流出口OPcからは、水平方向から若干下方に向けて傾斜した方向に向かって、水が流出した。流出口OPcから流出する水の下方に向かう勢いは、第1流入バッフル900maを用いる場合と比べて緩和されていた。この理由は、流入領域Aiから下方に向かって流入した水の勢いが、底壁部950mbによって緩和されるからである。
第4流入バッフル900md(図7(E))は、第3流入バッフル900mc(図7(D))の流入領域Aiの下方に阻流板PPを設けて得られるバッフルである。阻流板PPは、側壁部910maの+X側の部分から−X方向に向かって突出する板を模する平面であり、X方向の長さは、48mmであった。シミュレーションでは、この阻流板PPを通り抜ける水の移動が無いこととした。上方から下方を向いて見る場合、流入領域Aiの全体が、阻流板PPに重なっている。この阻流板PPは、図5の段部916を想定して設けられている。シミュレーションの結果、流出口OPcからは、ほぼ水平な方向に向かって、水が流出した。また、第3流入バッフル900mcを用いる場合と比べて、流出口OPcから流出する水の流速は、小さかった。この理由は、阻流板PPによって水の勢いが緩和されたからである。
シミュレーションでは、流入領域Aiから59L/分で定常的に水が流入することとした。この水量は、浄化槽(例えば、5人槽〜10人槽相当の浄化槽)の性能評価試験で用いられているピーク流入の水量と同じである。また、シミュレーションの準備の都合により、流出領域の形状は、流入バッフルの種類に応じて異なっている。第1流入バッフル900maと第2流入バッフル900mbとを利用する場合には、図7(A)の流出領域Aoa(第1流出領域Aoaと呼ぶ)が用いられた。第1流出領域Aoaは、Y方向の長さが150mmであり、Z方向の長さが220mmである矩形状の領域である。第3流入バッフル900mcと第4流入バッフル900mdとを利用する場合には、図7(A)の第1流出領域Aoaの代わりに、図7(F)の第2流出領域Aobが用いられた。第2流出領域Aobは、第1流出領域Aoaと同様に、水面から−Z方向に向かって延びる領域である。第2流出領域Aobは、Y方向の長さが110mmであり、Z方向の長さが220mmである矩形状の領域のうち、下方側の端部を110mmの直径を有する半円によって丸めることによって得られる領域である。
なお、第1流出領域Aoaと第2流出領域Aobと間では、夾雑物除去槽810mの+X側の面における位置は、同じである。また、第1流出領域Aoaと第2流出領域Aobとのいずれも、流入水量に対して十分に大きい。従って、第1流出領域Aoaと第2流出領域Aobとの間の違いがシミュレーション結果に与える影響は、十分に小さいと推定される。
図8は、夾雑物除去槽810mの底面からの高さHと最大流速Vmとの関係を示すグラフである。横軸は、高さH(単位は、cm)を示し、縦軸は、最大流速Vm(単位は、cm/秒)を示している。このグラフは、シミュレーションによって得られた計算結果を示している。最大流速Vmは、夾雑物除去槽810mの底面からの高さが高さHである水平な面上における最大の流速である(流れの方向は問わない)。また、高さHb(H=90cm)は、流入バッフルの下端の高さを示している。なお、グラフの凡例としては、流入バッフルの符号と流入バッフルの種類(特に、流出口の方向と阻流部(ここでは、阻流板PP)の有無)とが示されている。後述する他のグラフでも、同様の凡例を用いた。
図示するように、流入バッフルの下端の高さHbから遠いほど、すなわち、高さHが低いほど、最大流速Vmが小さかった。この理由は、流入バッフルの下端から遠い位置では、流入バッフルから流出した水が広い範囲に分散されているので、流入バッフルの下端から遠いほど水の流れの勢いが弱くなるからだと推定される。
また、4種類の流入バッフルの間で最大流速Vmを比較すると、最大流速Vmの大きい順番は、高さHに依らずに、流入バッフル900ma、900mc、900mb、900mdの順番であった。第1流入バッフル900maの最大流速Vmが大きい理由は、第1流入バッフル900maには、底壁部950mbも阻流板PPも設けられておらず、故に、第1流入バッフル900ma内を下方側に向かって移動する水の勢いが緩和されずに、流出口OPaから下方に向かって水が流出するからである。
第2流入バッフル900mbの最大流速Vmが第3流入バッフル900mcの最大流速Vmよりも小さい理由は、以下の通りである。上述したように、第2流入バッフル900mbの流出口OPbからは、水平方向から若干上方に向けて傾斜した方向に向かって、水が流出した。一方、第3流入バッフル900mcの流出口OPcからは、水平方向から若干下方に向けて傾斜した方向に向かって、水が流出した。以上により、流入バッフルの下端の高さHbよりも低い位置では、第3流入バッフル900mcよりも第2流入バッフル900mbを用いる方が、流速を小さくできる。
第4流入バッフル900mdの最大流速Vmが第3流入バッフル900mcの最大流速Vmよりも小さい理由は、阻流板PPによって水の流れの勢いが緩和されるからである。特に、流入バッフルの下端の高さHbから10cm低い位置(H=80cm)において、第4流入バッフル900mdの最大流速Vmは、2.8cm/秒であったが、第3流入バッフル900mcの最大流速Vmは、7.4cm/秒であった。
図9は、流出口での最大流速Voを示すグラフである(単位は、cm/秒。流れの方向は問わない)。このグラフは、上述の4種類の流入バッフル900ma〜900mdを用いた4つのシミュレーションの計算結果を示している。最大流速Voの大きい順番は、流入バッフル900ma、900mc、900mb、900mdの順番であった。第2流入バッフル900mbと第3流入バッフル900mcとの間では、最大流速Voは、おおよそ同じであった。第1流入バッフル900maの最大流速Voと比べて、流入バッフル900mb、900mcの最大流速Voが小さい理由は、底壁部950mbによって水の流れの勢いが緩和されるからである。流入バッフル900mb、900mcの最大流速Voと比べて、第4流入バッフル900mdの最大流速Voが小さい理由は、阻流板PPによって水の流れの勢いが緩和されるからである。特に、図9に示すように、阻流板PPを用いることによって、最大流速Voは、おおよそ半分に低減している。このように、阻流板PPを用いることによって、流入バッフルから流出する水の勢いを大幅に緩和できる。例えば、図5の実施例では、段部916の内面916sによって、流入バッフル900から流出する水の勢いを大幅に緩和できると推定される。
B2.突出部926、946の効果について:
図10は、シミュレーションの説明図である。このシミュレーションでは、夾雑物除去槽と流入バッフルとに相当するモデル槽MT2を準備し、そのモデル槽MT2を用いて、流入バッフルを通って夾雑物除去槽に水が流入する際の、夾雑物除去槽内における水の流速を計算した。図7で説明したシミュレーションとの差異は、モデル槽MT2の形状、すなわち、流入バッフルに対応する部分(図10(A)では、部分900me)の形状と、夾雑物除去槽に対応する部分(図10(A)では、部分810m2)の形状とが、図7で説明したモデル槽MT1の対応する部分の形状と、異なっている点だけである。シミュレーションの方法は、図7で説明したシミュレーションの方法と同じである。
図10(A)は、モデル槽MT2の斜視図である。図中の、X方向、Y方向、Z方向は、図2〜図6に示す同じ名前の方向に、それぞれ対応している。このモデル槽MT2では、夾雑物除去槽と流入バッフルとが簡略化して再現されている。図中の部分810m2は、夾雑物除去槽に対応し、部分900meは、流入バッフルに対応する(以下、「夾雑物除去槽810m2」、「流入バッフル900me」と呼ぶ)。なお、図中には、モデル槽MT2のうち+Y側の半分の部分が示されている。−Y側の半分の部分の図示を省略するが、モデル槽MT2の構成は、Y方向に垂直な面Ps2を対称面とする面対称である。
夾雑物除去槽810m2の形状は、図2、図3の夾雑物除去槽810のように、角が丸められ、そして、リブを有する形状である。流入バッフル900meは、この夾雑物除去槽810m2の上部の、Y方向の中央の位置(図10(A)では、対称面Ps2に接する位置)であって、−X側の端の位置に、配置されている。モデル槽MT2の上面(+Z側の面)は、水面に対応する。夾雑物除去槽810m2の底からの水面の高さHWは、図7の例と同じ1150mmであった。また、夾雑物除去槽810m2の底からの流入バッフル900meの下端の高さHb1は、700mmであった。流入領域Ai2は、流入バッフル900me内の水面上に設けられている。この流入領域Ai2から、下方(−Z方向)に向かって均等に、59L/分で定常的に水が流入することとした。流出領域Ao2は、Y方向に並んで配置された3個の円領域である(図10(A)では、+Y側の半分の部分が示されている)。各円領域の直径は、77mmであった。また、夾雑物除去槽810m2の底からの各円領域の中心の高さは、650mmであった。
シミュレーションでは、流入バッフル900meを含む3種類のバッフルが用いられた。図10(B)〜図10(D)は、3種類の流入バッフルの透視図である。図10(B)〜図10(D)には、流入バッフルの+Y側の半分の部分が示されている。以下、この半分の部分の構成について説明する。図示と説明とを省略するが、−Y側の半分の部分の構成は、+Y側の半分の部分の構成と、同じである。
第5流入バッフル900me(図10(B))は、水平な断面形状が多角形であり上方側から下方側に向かって延びる筒形状のバッフルである。水平な断面積は、下方側に向かって徐々に小さくなる。この流入バッフル900meの水平な方向側の壁部である側壁部910meには流出口が設けられず、そして、下方側の壁部である底壁部が省略されている。これにより、流入バッフル900meの底は、開いた流出口OPeを形成している。図中では、流出口OPeにハッチングが付されている。図7(B)の第1流入バッフル900maを用いる場合と同様に、流出口OPeからは、おおよそ下方(−Z方向)に向かって、水が流出した。この流入バッフル900meのZ方向の長さは、450mmであった。
第6流入バッフル900mf(図10(C))は、第5流入バッフル900meの側壁部910meのうち+X側の部分mx1と−X側の部分mx2とを下方側に延長し、そして、延長済の部分mx1L、mx2Lの下端に第6流入バッフル900mfの底を閉じる底壁部950mfを接続して得られるバッフルである。側壁部910meの+Y側の部分mx3は延長されておらず、この部分mx3の下端と、底壁部950mfとの間には、+Y側を向く流出口OPfが形成されている。図中では、流出口OPfにハッチングが付されている。流出口OPfのZ方向の幅は、80mmであった。シミュレーションの結果、流出口OPfからは、斜め下方に向かって、水が流出した。流出口OPfから流出する水の下方に向かう勢いは、第5流入バッフル900meを用いる場合と比べて緩和されていた。この理由は、流入領域Ai2から下方に向かって流入した水の勢いが、底壁部950mfによって緩和されるからである。
第7流入バッフル900mg(図10(D))は、第6流入バッフル900mf(図10(C))の流出口OPfの上端に、流路の内側に向かって突出する突出部PQが形成されている点だけである。突出部PQは、側壁部910meの+Y側の部分mx3の下端、すなわち、流出口OPfの縁のうち上方側の辺の全体から、−Y方向に向かって突出する板を模する平面である。−Y方向の突出長は、20mmであった。この突出部PQは、図5の突出部946を想定して設けられている。シミュレーションの結果、流出口OPfからは、ほぼ水平な方向に向かって、水が流出した。流出する水の下方(−Z方向)の流速は、第6流入バッフル900mfを用いる場合と比べて、小さかった。この理由は、突出部PQによって水の下方(−Z方向)の勢いが緩和されたからである。
図11は、夾雑物除去槽810m2の底面からの高さHと最大流速Vmとの関係を示すグラフである。横軸は、高さH(単位は、cm)を示し、縦軸は、最大流速Vm(単位は、cm/秒)を示している。このグラフは、シミュレーションによって得られた計算結果を示している。高さHと最大流速Vmとの意味は、図8の高さHと最大流速Vmとの意味と、それぞれ同じである。また、第1高さHb1(H=70cm)は、第5流入バッフル900meの下端の高さを示し、第2高さHb2(H=62cm)は、第6流入バッフル900mfと第7流入バッフル900mgの下端の高さを示している。
図8の例と同様に、流入バッフルの下端の高さHb1、Hb2から遠いほど、すなわち、高さHが低いほど、最大流速Vmが小さかった。また、3種類の流入バッフルの間で最大流速Vmを比較すると、最大流速Vmの大きい順番は、高さHに依らず、流入バッフル900me、900mf、900mgの順番であった。第5流入バッフル900meの最大流速Vmが大きい理由は、第5流入バッフル900meには、底壁部950mfも突出部PQも設けられておらず、故に、第5流入バッフル900me内を下方側に向かって移動する水の勢いが緩和されずに、流出口OPeから下方に向かって水が流出するからである。
第7流入バッフル900mgの最大流速Vmが、第6流入バッフル900mfの最大流速Vmよりも小さい理由は、突出部PQによって水の流れの勢いが緩和されるからである。特に、流入バッフルの下端の高さHb2から2cm低い位置(H=60cm)において、第7流入バッフル900mgの最大流速Vmは、4.9cm/秒であったが、第6流入バッフル900mfの最大流速Vmは、6.4cm/秒であった。
以上、図7〜図9のシミュレーション結果と、図10、図11のシミュレーション結果と、について説明した。モデル槽の詳細な形状と寸法との説明を省略したが、図7〜図9で比較された4種類のモデル槽の間では、流出口OPa〜OPcの構成と阻流板PPの有無とが異なるものの、流入バッフル900ma〜900mdの形状と寸法と夾雑物除去槽810mの形状と寸法とは、共通である。従って、4種類のシミュレーション結果の間の差は、流出口OPa〜OPcの構成と阻流板PPの有無とによって生じている。そして、阻流板PPを採用することによって最大流速Vmと最大流速Voとが小さくなる効果は、流入バッフルの流路内で阻流板PPが水の流れの勢いを緩和することによって、得られている。従って、流入バッフルの形状と寸法と夾雑物除去槽の形状と寸法とを変更した場合にも、阻流板PPを採用することによって最大流速Vmと最大流速Voとを小さくできると推定される。図10、図11で比較された3種類のシミュレーション結果の間の差も、同様に、流出口OPe、OPfの構成と突出部PQの有無とによって生じている。従って、流入バッフルの形状と寸法と夾雑物除去槽の形状と寸法とを変更した場合にも、突出部PQを採用することによって最大流速Vmを小さくできると推定される。
以上のように、シミュレーションの結果、段部916(図5)に対応する阻流板PP、または、突出部926、946に対応する突出部PQを用いることによって、流入バッフルから夾雑物除去槽に流入する水の勢いによって夾雑物除去槽内がかき乱されることを適切に抑制できた。阻流板PPと突出部PQとの両方を用いれば、さらに、水の勢いを緩和できると推定される。例えば、段部916と突出部926、946とを有する流入バッフル900を採用すれば、夾雑物除去槽内がかき乱されることを更に抑制できると推定される。
C.変形例:
(1)下方側に移動する水の流れを受ける阻流部の構成としては、図5、図6に示す構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。例えば、突出部926が、流出口922から離れた位置に配置されてもよい。例えば、突出部926が、流出口922の上端よりも高い位置に配置されてもよい。突出部946についても同じである。また、対向して配置される2つの側壁部を繋ぐ橋状の阻流部を採用してもよい。例えば、図5に示す実施例において、第2側壁部920の内面から第4側壁部940の内面へ至る橋状の阻流部を採用してもよい。このような橋状の阻流部は、図5(G)の上面図において、投影範囲PR内に位置する部分を含んでいる。また、側壁部の内面に固定された板状の阻流部を採用してもよい。例えば、図5(A)の実施例において、第2側壁部920と第3側壁部930とが接続される隅に、阻流部としての板を固定してもよい。ここで、板を、第2側壁部920と第3側壁部930との両方に固定すれば、板の強度を向上できる。また、阻流部に、1以上の貫通孔が形成されていてもよい。
いずれの場合も、阻流部は、上方側を向く内面を有することによって、下方側に移動する水の流れを受けることができる。ここで、上方側を向く内面としては、内面の法線ベクトルが鉛直上方向と厳密に一致しているような内面に加えて、法線ベクトルと鉛直上方向とが成す角度(「傾斜角度」と呼ぶ)が小さい内面を採用可能である。ここで、鉛直上方向は、流入バッフルが排水処理装置の水処理槽に取り付けられた場合の鉛直上方向である。傾斜角度は、例えば、40度以下であることが好ましく、20度以下であることが特に好ましく、10度以下であることが更に好ましい(いずれの場合も、傾斜角度はゼロ度以上)。このように小さい傾斜角度を採用すれば、阻流部は、バッフルの流路内を下方側に移動する水の流れを内面で受けることによって、水の流れの勢いを適切に緩和できる。
また、上方側を向く内面を形成する阻流部が、バッフルの流路内を下方側に移動する水の流れを内面によって受けるためには、排水処理装置の設計上の最高水位の高さから下方(−Z方向)を向いてバッフルを見る場合に、阻流部の上方側を向く内面の少なくとも一部が、バッフルの阻流部以外の部分に隠れずに視認可能な位置に配置されていることが好ましい。例えば、図5(A)の例では、阻流部916、926、946の内面916s、926s、946sは、いずれも、下方を向いて見る場合に視認可能である。これは、高水位HWLの高さから下方を向いて見る場合にも、同じである。この構成によれば、阻流部は、バッフルの流路内を下方側に移動する水の流れを内面によって容易に受けることができる。ただし、下方を向いて見る場合に、阻流部の上方側を向く内面が、バッフルの阻流部以外の部分の下方に隠れていても良い。この場合にも、阻流部が省略される場合と比べて、阻流部は、水の流れの勢いを緩和できる。
また、阻流部の上方側を向く内面の鉛直方向の位置としては、流入バッフルが水処理槽に取り付けられた場合の水処理槽の設計上の最高水位の位置よりも低く、かつ、流入バッフルの流出口よりも高い範囲内の位置を採用することが好ましい。この構成によれば、阻流部は、流入バッフルの流路内を下方側に移動する水の勢いを適切に緩和できる。例えば、阻流部の内面が、低水位LWLよりも高い位置に配置されてもよい。いずれの場合も、バッフルが流入口を有する場合には、阻流部は、流入口よりも低い位置に配置されることが好ましい。
(2)バッフルの構成としては、上述した構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。例えば、図5、図6の実施例において、段部916と突出部926と突出部946から任意に選択された、1つ、または、2つの部分を省略してもよい。また、2つの流出口922、942のいずれか一方が、塞がれていてもよい。また、突出部926が、流出口922の上端の一部のみを形成してもよい。例えば、流出口922の上端を成す辺のうち一部分のみに突出部が設けられていてもよい。また、段部916(ひいては、棚部914)が、第1側壁部910の+Y側の端から−Y側の端まで延びていてもよい。すなわち、図6(A)の断面形状が、第1側壁部910の+Y側の端から−Y側の端まで、続いていてもよい。また、第2側壁部920と第3側壁部930と第4側壁部940との少なくとも1つが、段部916と同様の段部を有してもよい。また、第1側壁部910と第3側壁部930との少なくとも1つが、突出部926、946と同様の突出部を有しても良い。また、流入口932が省略されてもよい。この場合、流入バッフルは、上方側の開口(側壁部910〜940に囲まれる開口)から、水を受け入れてもよい。同様に、開口912が省略されてもよい。また、図7(E)の第4流入バッフル900mdのように、阻流板PPを有する流入バッフルを採用してもよい。また、図10(D)の第7流入バッフル900mgのように、突出部PQを有する流入バッフルを採用してもよい。また、バッフルの底壁部に流出口が形成されてもよい。また、底壁部が省略されてもよい。
また、バッフルの阻流部は、互いに離れた複数の上方側を向く内面を形成する複数の部分(「部分阻流部」と呼ぶ)を含むことが好ましい。この構成によれば、バッフルに設けられた阻流部の内面の総数が1つである場合と比べて、バッフルの流路内を下方側へ移動する水の勢いを、複数の部分阻流部の複数の内面によって適切に緩和できる。ここで、上方から下方(すなわち、−Z方向)を向いて見る場合に、複数の部分阻流部が、互いに重ならない位置に配置される内面を有することが好ましい。例えば、図5(A)の実施例では、3個の阻流部916、926、946は、互いに重ならない位置に配置される内面916s、926s、946sを有している。このような構成を採用すれば、複数の部分阻流部を適切に活用して、下方側へ移動する水の勢いを緩和できる。
また、バッフルを構成する壁部(例えば、図5の壁部910〜950)は、バッフルの流路の水平な断面での断面積(「水平断面積」と呼ぶ)が下方に向かって変化せずに維持される部分を含んでもよい。一般的には、壁部は、水平断面積が下方に向かって、連続的に、または、階段状に、小さくなるように、構成されていることが好ましい。すなわち、壁部が、水平断面積が下方に向かって大きくなる部分を含まないように構成されていることが好ましい。この場合、壁部は、水平断面積が下方に向かって小さくなる部分で構成されている、または、壁部は、水平断面積が下方に向かって小さくなる部分と水平断面積が下方に向かって変化せずに維持される部分とで構成されている。このような構成を採用すれば、成形型を用いてバッフルを容易に成形できる。例えば、1回の成形でバッフルの全体を成形した後に、容易に離型できる。ただし、壁部が、水平断面積が下方に向かって大きくなる部分を含んでも良い。
また、バッフルの流入口(例えば、図2の流入口802)と、流入口に接続される管(例えば、流入ソケット892)との接続方法としては、任意の方法を採用可能である。例えば、管とバッフルとが一体成形によって成形されてもよい。
(3)排水処理装置800の構成としては、図1〜図4に示す構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。例えば、夾雑物除去槽810に嫌気濾材が充填されてもよい。また、接触曝気槽830に代えて、微生物を保持する担体が流動する担体流動槽を採用してもよい。
また、ピークカット機構としては、図2の実施例の放流エアリフトポンプ870に限らず、種々の構成を採用可能である。例えば、排水処理装置が、好気処理部(例えば、接触曝気槽830)と、原水を受けれて受け入れた原水を好気処理部へ供給するための前段処理部(図1の実施例では、夾雑物除去槽810と嫌気濾床槽820との全体)とを有する場合には、前段処理部から好気処理部へ被処理水を少量ずつ移送するエアリフトポンプを採用可能である。また、前段処理部から好気処理部への単位時間当たりの移流量を制限する堰(例えば、V型堰や小孔)を採用してもよい。このようなピークカット機構を設けることによって、好気処理部から未処理の水が流出する可能性を低減できる。ただし、ピークカット機構が省略されてもよい。この場合、排水処理装置の各水処理槽内では、通常の使用状態では、水位は、変動せずにおおよそ一定である。このような一定の水位は、設計上の最高水位ということができる。
また、処理フローとしては、図1に示すフローに限らず、他の任意のフローを採用可能である。例えば、水位センサと、水位センサによって特定される水位に応じて制御される移送ポンプと、を有する流量調整槽が設けられても良い。また、家庭からの排水に限らず、産業排水を処理する排水処理装置を採用してもよい。
いずれの場合も、阻流部を有する流入バッフルが取り付けられる水処理槽としては、夾雑物除去槽810(図2)に代えて、他の任意の水処理槽を採用可能である。例えば、嫌気濾床槽820に流入バッフル900が取り付けられても良い。この場合、移流開口814に流入バッフル900の流入口932が連通するように、流入バッフル900が取り付けられる。この構成によれば、流入バッフル900から流出する水の勢いが緩和されるので、嫌気濾床槽820の底部に堆積した汚泥が撹拌されることを抑制できる。
一般的には、排水処理装置の外部から排水処理装置へ流入する水の勢いは、排水処理装置内の水処理槽から他の水処理槽へ移流する水の勢いと比べて、強い。従って、複数の水処理槽を有する排水処理装置において、排水処理装置の外部から排水処理装置へ流入する水を受け入れる水処理槽に、阻流部を有する流入バッフルを取り付けることが好ましい。この構成によれば、水の勢いが水処理に与える影響を緩和できる。例えば、堆積汚泥の撹拌やスカムの破砕等を抑制できる。
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。