次に、この発明の実施の形態を第1〜第5実施例と変形例とに基づいて説明する。
A.第1実施例:
図1は、本発明の一実施例としての排水処理装置800の処理フローを示す説明図である。本実施例の排水処理装置800は、一般家庭等からの排水の浄化処理を行う装置である(このような装置は「浄化槽」とも呼ばれる)。排水処理装置800は、複数のステップを経て浄化処理を行うために、複数の水処理槽(「水処理機構」とも呼ぶ)を有している。図1の実施例では、排水処理装置800は、上流(図1の左側)から順番に、夾雑物除去槽810、嫌気濾床槽820、接触曝気槽830、処理水槽840、消毒槽850の各水処理槽を、収容している。排水処理装置800に流入した排水は、夾雑物除去槽810、嫌気濾床槽820、接触曝気槽830、処理水槽840、消毒槽850で順次処理された後に、排水処理装置800の外部に放流される。以下、各水処理槽を流れる水を「被処理水」あるいは、単に「水」と呼ぶ。
図2は、排水処理装置800の内部構成を模式的に表す説明図である。図2は、排水処理装置800を横から見た概略構成を示している。図3は、図2中のA−A断面図であり、排水処理装置800を鉛直方向の上方から下方に向かって見た図を示している。図3の下部には、接触曝気槽830と処理水槽840とのそれぞれの壁を表す説明図が示されている。図4は、図2中のB−B断面図である。これらの図中において、Z方向は、鉛直方向の下方から上方へ向かう方向を示し、X方向は、排水処理装置800の長手方向(水平な方向)を示し、Y方向は、X方向とZ方向とのそれぞれと直交する方向(水平な方向)を示している。
夾雑物除去槽810は、排水中の夾雑物を分離する水処理槽である。図2、図3に示すように、夾雑物除去槽810は、排水処理装置800の外壁を成す槽本体801の最上流部に配置されている。流入口802からの排水(汚水とも呼ばれる)は、まず、夾雑物除去槽810に流入する。夾雑物除去槽810は、流入バッフル812等の固液分離手段を有しており、排水中の夾雑物を被処理水から分離する。夾雑物が分離(除去)されたあとの水は、移流開口814を通じて、嫌気濾床槽820に移流する。
嫌気濾床槽820は、嫌気性微生物による嫌気処理を行う水処理槽である。嫌気濾床槽820は、嫌気性微生物が付着するための濾材822を有している。嫌気処理によって、被処理水中の有機物が分解される。また、濾材822は、被処理水中の浮遊物を捕捉し得る。
図2、図3に示すように、嫌気濾床槽820の下流側(+X側)の側壁803は、槽本体801を、X方向に対して垂直に、2つに仕切る壁である(以下、この壁を「仕切板803」とも呼ぶ)。仕切板803の反対側(+X側)には、上から見て略U字状に配置された側壁部843、842、844が、固定されている。仕切板803と側壁部843、842、844で囲まれる空間が、処理水槽840に相当する。仕切板803と槽本体801とで囲まれる空間のうちの、側壁部843、842、844の外側の空間は、接触曝気槽830に相当する。側壁部843、842、844の構成については、後述する。
仕切板803における嫌気濾床槽820と接触曝気槽830との境界を成す部分には、移流開口824が形成されている(図2、図3)。移流開口824は、仕切板803の上部に配置されており、通常時には、水面WLは、この移流開口824の途中に位置する。嫌気濾床槽820で処理された水は、移流開口824を通じて、接触曝気槽830に移流する。
接触曝気槽830は、好気性微生物による好気処理を行う水処理槽である。図3に示すように、接触曝気槽830は、処理水槽840の三方(+Y方向、+X方向、−Y方向)を囲むように形成されている。図4に示すように、接触曝気槽830は、好気性微生物が付着するための接触材832、833を有している。第2接触材833は、第1接触材832の下に配置されている。これらの接触材832、833のそれぞれは、処理水槽840の両側(+Y側と−Y側)に配置されている(図3、図4)。また、接触曝気槽830は、接触材832、833よりも下に配置された散気装置834を有している。散気装置834には、図示しないブロワー(送風機)が接続される。散気装置834は、ブロワーによって供給された空気を、接触曝気槽830内に供給する。好気性微生物は、空気に含まれる酸素を利用して、被処理水中の有機物を分解する。接触曝気槽830で処理された水は、接触曝気槽830の底部と処理水槽840の底部とを連通する移流開口836を通じて、処理水槽840に移流する。
処理水槽840は、接触曝気槽830から移流した水を一時的に滞留して、水中の固形物(例えば、汚泥や浮遊物質等)を沈降・分離する水処理槽である。この処理水槽840は、特許請求の範囲における「分離槽」に相当する。後述するように、処理水槽840は、底部から水が流入する上向流の水処理槽である。
図3に示すように、鉛直方向の上から下に向かって見たときに、第2側壁部842は仕切板803と対向し、第3側壁部843は第4側壁部844と対向する。第3側壁部843は、第2側壁部842の一方の端部842e1と仕切板803とを接続する。第4側壁部844は、第2側壁部842の他方の端部842e2と仕切板803とを接続する。第3側壁部843と仕切板803との接続部分843eと、第4側壁部844と仕切板803との接続部分844eとのそれぞれは、仕切板803の両端803e1、803e2よりも内側に配置されている。以下、仕切板803のうちの第3側壁部843と第4側壁部844との間の部分(処理水槽840の側壁として機能する部分)を、「第1側壁部841」とも呼ぶ。また、これらの側壁部841、842、843、844の全体が、処理水槽840の「側壁」に相当する。
図2に示すように、処理水槽840の下部分849は、いわゆるホッパー構造を有している(以下、この下部分849を「ホッパー部分849」とも呼ぶ)。ホッパー部分849では、第2側壁部842が鉛直方向に対して傾斜しており、処理水槽840の断面積(水平な断面積)は、底壁845に近いほど小さい(第2側壁部842のうちの傾斜した部分842dを「傾斜部842d」とも呼ぶ)。また、図4に示すように、ホッパー部分849の下部分849Lにおいては、さらに、第3側壁部843と第4側壁部844とのそれぞれも、鉛直方向に対して傾斜している(側壁部843、844のそれぞれの傾斜した部分も「傾斜部」と呼ぶことができる)。この下部分849Lは、いわゆる3面ホッパー構造を有している。処理水槽840において分離された固形物は、側壁部842、843、844によって、処理水槽840の底部(処理水槽840の上部よりも狭い空間)に集められる。
図2に示すように、仕切板803(第1側壁部841)の下端は、槽本体801の底面に接続されている(第1側壁部841は、底面から上方に延びている)。一方、図2、図4に示すように、側壁部842、843、844の下端は、槽本体801の底面から離れている。側壁部842、843、844の下端と、槽本体801の底面との間の隙間は、移流開口836に相当する(側壁部842、843、844と底壁845とは、移流開口836を形成している、ということもできる。すなわち、第2側壁部842は移流開口836の一部を形成しているということもできる)。このように、移流開口836がホッパー部分849の上端849uよりも低い位置に配置されているので、ホッパー部分849も、固形物の分離に利用することができる。その結果、水質を向上させることができる。従って、処理水槽840の小型化が可能であり、また、処理水槽840の構成の簡素化が可能である。
なお、鉛直方向の上から下に向かって見たときに(図3)、槽本体801の底面(底壁)のうちの、側壁部842、843、844のそれぞれの下端と仕切板803(第1側壁部841)とに囲まれる部分が、処理水槽840の底壁845に相当する(図3の下部分図では、底壁845にハッチングが付されている)。
図2に示すように、処理水槽840には、循環エアリフトポンプ860が設けられている。循環エアリフトポンプ860は、処理水槽840の底部から水面WLよりも上まで上方に向かって延びる第1移流管861と、第1移流管861の上部に接続されて、夾雑物除去槽810の水面WLの上方まで、緩い下り勾配で延びる第2移流管863と、を有している。第1移流管861の底部側の端は吸入口862を形成している。第2移流管863の夾雑物除去槽810側の端は排出口864を形成している。循環エアリフトポンプ860は、処理水槽840の底部から夾雑物除去槽810へ、固形物や水を移送(返送)する。上述したように、処理水槽840の下部分849はホッパー構造を有しているので、処理水槽840で分離された固形物は、底部(吸入口862の近傍)の狭い空間に集められる。その結果、分離された固形物の処理水槽840からの除去を容易に行うことができる。なお、循環エアリフトポンプ860は、上述した図示しないブロワーからの空気によって、駆動される。ブロワーからの空気の分配量は、図示しないバルブによって調整される。循環エアリフトポンプ860は定常的に駆動されてよい。また、循環エアリフトポンプ860を間欠駆動してもよい。
消毒槽850は、被処理水を消毒する水処理槽である。消毒槽850は、処理水槽840の上部に配置されている(図2)。本実施例では、消毒槽850は、放流エアリフトポンプ870を有している。放流エアリフトポンプ870の吸入口872は、処理水槽840の水面WLの近傍に配置されており、放流エアリフトポンプ870の排出口874は、消毒槽850の上流側に配置されている。なお、吸入口872は、処理水槽840のホッパー部分849の上端849uよりも上に配置されている。処理水槽840の水面WL近傍の水(固形物が分離された水)は、吸入口872から放流エアリフトポンプ870に流入する。放流エアリフトポンプ870に流入した水は、放流エアリフトポンプ870の駆動によって、消毒槽850に少しずつ移送される。放流エアリフトポンプ870は、上述した図示しないブロワーからの空気によって、駆動される。ブロワーからの空気の分配量は、図示しないバルブによって調整される。また、消毒槽850は、消毒剤(例えば、固形塩素剤)が充填された薬剤筒854を有している。消毒槽850において、被処理水は消毒剤と接触し、消毒剤によって被処理水が消毒される。消毒された水は、流出口804を通じて、排水処理装置800の外部へ放流される。
図5は、排水処理装置800における、仕切板803の下流側(+X側)を示す斜視図である。図中には、接触曝気槽830、処理水槽840、消毒槽850が示されており、槽本体801の図示が省略されている。図中では、水の流れが矢印によって、表されている。図示するように、処理水槽840の底部において、3方向(第2側壁部842側と第3側壁部843側と第4側壁部844側)から、水が処理水槽840に流入する。特に、第2側壁部842側から流入する水は、第1側壁部841(仕切板803)に向かって流れる。
図6は、処理水槽840の一部分の断面図である(Y方向と垂直な断面図)。図示するように、第2側壁部842側から流入した水は、第1側壁部841(仕切板803)に向かって流れる。そして、水が第1側壁部841に接触すると、第1側壁部841によって水の流れる方向が変えられる。具体的には、水は、第1側壁部841に沿って移動しようとする。そのような水の一部は、第1側壁部841に沿って上方へ移動する(水流WF1)。この水流WF1は局所的に速い流れである。このように局所的に速い水流WF1(側壁に沿って上方に向かう水流)が、短絡流を引き起こし得る(例えば、この水流WF1が、放流エアリフトポンプ870(図2)の吸入口872に到達する)。
このような短絡流が生じる可能性を低減するために、本実施例では、第1側壁部841に阻流板880が設けられている。阻流板880は、第1側壁部841から処理水槽840の内部に向かって突出して端P(阻流板880の端)に至る部材である。阻流板880は、特許請求の範囲における「突出部」に相当する。本実施例では、阻流板880は、第1側壁部841からほぼ水平に延びて端Pへ至る第1板881と、第1板881よりも上方の第1側壁部841から斜め下に向かって延びて同じ端Pへ至る第2板882と、を有している。また、図4、図5に示すように、阻流板880(板881、882)は、第3側壁部843から第4側壁部844までほぼ水平に延びている(図3、図4では、阻流板880にハッチングが付されている)。このような阻流板880は、例えば、断面形状が略V字状の棒を、第1側壁部841に押し当てて、第3側壁部843から第4側壁部844まで渡す(延ばす)ことによって、形成可能である。なお、図3に示すように、鉛直方向の上から下に向かって見た場合に、循環エアリフトポンプ860(第1移流管861)の一部が阻流板880と重なっている。本実施例では、阻流板880に、第1移流管861を納めるための切り欠きを設けることによって、阻流板880と第1移流管861との干渉を回避している。
図6に示すように、第1側壁部841に沿って上方に移動する水は、阻流板880に接触する。その結果、阻流板880よりも上へ水が移動することが阻流板880によって阻まれ、そして、水の流れが分散される(水流WF2)。その結果、局所的に速い水流が阻流板880よりも上に到達する可能性が低減される。これにより、処理水槽840内の短絡流(例えば、処理水槽840の流入部(移流開口836)から流出部(放流エアリフトポンプ870の吸入口872)の近傍へ至る短絡流)が生じる可能性が低減される。また、阻流板880を設けるという簡単な構成で短絡流の可能性を低減できるので、処理水槽840の設計に対する制限を緩和できる。例えば、阻流板880が無い場合と比べて、本実施例では短絡流の可能性が小さいので、処理水槽840を小型化することができる。また、長い越流堰を設けなくても、良い水質を維持することができる。
図6中の第1角度θ1は、阻流板880の下面と鉛直方向の下方向(ここでは、第1側壁部841の表面)とが成す角度を示している。「0度<第1角度θ1<90度」は、阻流板880の下面が、第1側壁部841から斜め下に向かって突出していることを示している。第1角度θ1=90度は、阻流板880の下面が水平であることを示している。「90度<第1角度θ1<180度」は、阻流板880の下面が、第1側壁部841から斜め上に向かって突出していることを示している。第1側壁部841に沿って下方から上方に向かう水流を抑制するためには、「0度<第1角度θ1≦120度」が好ましい。こうすれば、水流を、水平方向あるいは斜め下方向に向かって分散させることができる。また、「90度<第1角度θ1≦120度」であれば、阻流板880の形状を含む成形型を用いて、阻流板880の形状を含む第1側壁部841を一体的に成形する場合に、成形型から第1側壁部841(阻流板880)を引き抜く作業を容易に行うことができる。
図6中の第2角度θ2は、阻流板880の上面と鉛直方向の下方向(ここでは、第1側壁部841の表面)とが成す角度を示している。第1角度θ1と同様に、「0度<第2角度θ2<90度」は、阻流板880の上面が第1側壁部841から斜め下に向かって延びていることを示している。阻流板880の上面に固形物が堆積することを抑制するためには、「0度<第2角度θ2<90度」が好ましい。ここで、阻流板880の上面の固形物をスムーズに下に流すためには、「第2角度θ2<80度」が好ましく、「第2角度θ2<45度」が特に好ましく、「第2角度θ2<30度」が最も好ましい。
また、図4に示すように、阻流板880は、第1側壁部841の水平方向の一端841e1(第3側壁部843との接続位置)から他端841e2(第4側壁部844との接続位置)まで延びている。すなわち、阻流板880と接触せずに、第1側壁部841の表面上を阻流板880の下から上へ移動することができない。その結果、第1側壁部841に沿って上方に移動しようとする水が、阻流板880を避けて阻流板880の下方から上方へ移動する可能性を大幅に低減できる。その結果、短絡流が生じる可能性を大幅に低減できる。また、阻流板880を第1側壁部841の一端841e1から他端841e2まで延ばすという簡単な構成で短絡流の可能性を低減できるので、処理水槽840の設計に対する制限を緩和することができる。なお、阻流板880と第3側壁部843との間と、阻流板880と第4側壁部844との間との少なくとも一方に隙間が空いていてもよい。この場合も、上方に向かう水流を、阻流板880によって阻むことができる。
なお、阻流板880は、第1側壁部841の一端841e1(第3側壁部843)と接している必要はなく、阻流板880と一端841e1(第3側壁部843)との間に隙間が空いていてもよい。同様に、阻流板880と他端841e2(第4側壁部844)との間に隙間が空いていても良い。そのような隙間を設ければ、阻流板880や処理水槽840の製造誤差が許容されるので、排水処理装置800(特に、処理水槽840)の製造をスムーズに行うことができる。なお、そのような隙間(第1側壁部841の水平方向の端(第3側壁部843や第4側壁部844)と阻流板880の端との間の水平方向の距離)は、30mm以下であることが好ましく、25mm以下であることが特に好ましく、20mm以下であることが最も好ましい。なお、そのような隙間(水平方向の距離)が30mm以下であれば(第1側壁部841の端(側壁部843、844)と阻流板880の端が接している場合を含む)、「阻流板880は、第1側壁部841の端の近傍まで(あるいは、近傍から)延びている」ということができる。
また、本実施例では、処理水槽840の下部分849がホッパー構造を有しているので、処理水槽840の底部で局所的に速い水流(上方に向かう水流)が生じると、固形物が巻き上げられる可能性がある。しかし、そのような水流の可能性が阻流板880という簡単な構成によって低減されているので、良好な水質を得るための処理水槽840の構成を簡素化できる。また、図2に示すように、本実施例では、阻流板880は、処理水槽840のホッパー部分849の上端849uよりも低い位置に配置されている。従って、局所的に速い水流がホッパー部分849よりも上に到達する可能性を低減できるので、ホッパー部分849の底部に貯まった固形物が、ホッパー部分849の上まで巻き上がる可能性を低減できる。
また、図3に示すように、本実施例では、鉛直方向の上から下に向かって見た場合に、第1移流管861(吸入口862)は、側壁部842、843、844よりも、第1側壁部841に近い位置に配置されている。従って、第1移流管861を第1側壁部841に固定することが容易である。例えば、アームや結束バンド(「ケーブルタイ」とも呼ばれる)やU字状のボルトを用いて第1移流管861を第1側壁部841に固定してもよい。特に、本実施例では、第1側壁部841に大きな屈曲部が無く、第1側壁部841が略平板状の壁であるので、直線状のパイプを用いて第1移流管861を形成し、そして、そのような第1移流管861を、容易に、第1側壁部841に固定することができる。また、循環エアリフトポンプ860による固形物や水の移送に起因して、吸入口862に向かう水流が生じる。吸入口862は、第1側壁部841に近いので、吸入口862に向かう水の一部は、第1側壁部841に向かって流れ得る。ここで、水が第1側壁部841に接触して上方に向かって流れようとした場合であっても、阻流板880によってそのような水流が阻まれるので、短絡流の可能性を低減できる。
なお、本実施例において、阻流板880を第1移流管861に固定してもよい。例えば、接着剤によって阻流板880を第1移流管861に固定してもよい。こうすれば、第1移流管861を配置することによって阻流板880も配置されるので、阻流板880の配置を簡単に行うことができる。また、阻流板880と第1移流管861との間に隙間が生じる可能性を容易に低減できる(例えば、隙間が小さくなるように、阻流板880を加工してもよい。また、阻流板880を第1移流管861に固定する際に、隙間を接着剤等で埋めても良い)。その結果、阻流板880と第1移流管861との間の隙間を通じて短絡流が生じる可能性を低減できる。
この代わりに、阻流板880を第1側壁部841と一体的に形成してもよい。例えば、FRP(繊維強化プラスチック)を用いたオーバーレイによって、第1側壁部841の表面に、阻流板880を形作る部材を一体的に固定してもよい。また、阻流板880の形状を含む成形型を用いて、阻流板880の形状を含む第1側壁部841を一体的に成形してもよい。これらのように阻流板880を第1側壁部841と一体的に形成すれば、第1側壁部841にかかる力を阻流板880に分散させることができるので、第1側壁部841の強度を高めることができる。
いずれの場合も、循環エアリフトポンプ860における吸入口862から上方に向かって延びる移流部(例えば、第1移流管861や、第1移流管861に固定された部材(例えば、継手等)を含む)を、阻流板880と接触する位置に設ければ、移流部(例えば、第1移流管861)と阻流板880との間の相対的な位置ズレの可能性を容易に低減できる。例えば、排水処理装置800の製造時や運搬時に、第1移流管861の位置がズレてしまう可能性を低減できる。ここで、移流部が阻流板880に固定されていなくてもよい。ただし、移流部が阻流板880に固定されていれば、相対的な位置ズレの可能性を大幅に低減できる。
また、図2、図6に示すように、本実施例では、第1側壁部841が底壁845(槽本体801の底面)に接続されている。また、第1側壁部841には、処理水槽840に連通する連通孔は設けられていない。従って、第1側壁部841を、処理水槽840と他の任意の処理槽との間を仕切る仕切板として利用することができるので、処理水槽840の隣に他の任意の処理槽を配置することができる(本実施例では、第1側壁部841は、嫌気濾床槽820と処理水槽840との間を仕切る仕切板803の一部である)。このように、処理槽の設計に対する制限を大幅に緩和することができる。
また、図2、図6に示すように、本実施例では、槽本体801に、内側に向かって凹んだ複数の波型形状部分が形成されている(例えば、図6の部分890)。このような複数の波型形状部分を有する形状は、コルゲート形状とも呼ばれている。コルゲート形状は、強度を高めるために利用されている。図6の部分890は、槽本体801の底部に形成されており、Y方向に向かって延びる溝状のくぼみである(以下、この部分890を「コルゲート部890」とも呼ぶ)。コルゲート部890の断面形状(Y方向と垂直な断面形状)は、台形から下底を省略した形状と、同様である。コルゲート部890は、水平方向(X方向)に対して傾斜した傾斜部892を有している。この傾斜部892は、移流開口836の近傍に配置されており、斜め上方(+Z方向)に向かって延びて仕切板803に近づく。図6中のライン892Lは、傾斜部892を含む平面を示している。交点CPは、ライン892Lと第1側壁部841との交点を示している。
移流開口836を通じて第2側壁部842側から処理水槽840へ流入する水の流れる方向は、傾斜部892によって、斜め上方に向けられる(図6)。斜め上方に進む水流は、第1側壁部841に接触した後、第1側壁部841に沿って上方に進む(水流WF1)。ここで、水流が第1側壁部841と接触する位置は、交点CPとほぼ同じである。従って、上方へ向かう水流を阻流板880で阻むためには、阻流板880の位置が、交点CPよりも上方であることが好ましい。なお、このような波型形状部分を、槽本体801から省略してもよい。
B.第2実施例:
図7、図8は、阻流板880を有する排水処理装置の別の実施例を示す説明図である。図7は、図5と同様の斜視図を示し、図8は、図4と同様の断面図を示している(図8では一部のみ示されている)。図示するように、第2実施例では、阻流板880が仕切板803の水平方向の一端から他端まで横断するように延びている(本実施例における排水処理装置の他の構成は、上述の排水処理装置800の構成と同じである)。この阻流板の全体を「補強部材400」とも呼ぶ。本実施例では、補強部材400は、仕切板803と一体的に形成されている。そして、補強部材400は、槽本体801と仕切板803との一方の接続位置400e1から他方の接続位置400e2まで補強部材400が延びている。このような補強部材400を採用すれば、仕切板803の強度を更に向上させることができる。なお、本実施例では、補強部材400のうちの処理水槽840内に存在する部分が、阻流板880に相当する。
C.第3実施例:
図9(A)、9(B)は、阻流板の別の実施例(阻流板880A)の側面図(図6と同様の断面図)、上面図(図3と同様の断面図)をそれぞれ示している(図には、排水処理装置の一部(阻流板880Aを含む)が示されている)。図6に示す阻流板880との差異は、第1板881が省略されている点だけである。このように、1枚の板(第2板882)を用いて阻流板を形成してもよい。また、本実施例では、阻流板880Aは継手884A(ソケットとも呼ばれる)に固定されており、その継手884Aは、第1移流管861の途中に挿入(固定)されている。なお、阻流板880Aを直接に第1移流管861に固定してもよい。ただし、第3実施例のように、小さい部材(継手884A)に阻流板880Aを固定し、その継手884Aを第1移流管861に固定すれば、大きい部材(第1移流管861)に阻流板880Aを固定する場合と比べて、固定位置の精度を容易に高めることができる(本実施例のように継手884Aを介して阻流板880Aを第1移流管861に固定すれば、阻流板880Aと第1移流管861との間の位置の精度を容易に高めることができる)。また、仕切板803に阻流板880Aを一体的に固定する場合と比べて、大がかりな設備(例えば、FRPのオーバーレイのための道具や、阻流板の形状を一体的に含む仕切板のための成形型等)を用いずに、阻流板880Aを配置できる。
また、阻流板880Aは、継手884Aに限らず、第1移流管861に設けられる種々の部材に固定してよい。例えば、第1移流管861の途中には、ブロワーからの空気を供給するパイプを接続するために、T字管継手(チーズとも呼ばれる)が設けられ得る。このように、阻流板880Aの固定とは異なる目的のために第1移流管861に設けられている部材(例えば、T字管継手)に阻流板880Aを固定すれば、阻流板880Aの固定に要する部品数を増やさずに済むので、処理水槽840の構成を合理化できる。また、図9に示す阻流板880Aに限らず、他の構成を有する阻流板(例えば、図6に示す阻流板880)を、第1移流管861(あるいは、第1移流管861に設けられる部材)に固定してもよい。
また、図中の角度θ1、θ2の意味は、図6の角度θ1、θ2の意味とそれぞれ同じである。本実施例では、第1角度θ1が、0度より大きく90度よりも小さいので、上方に向かう水流を効果的に抑制できる。また、第2角度θ2が、0度よりも大きく90度よりも小さいので、阻流板880Aの上面に固形物が堆積することを抑制できる。
D.第4実施例:
図10(A)、10(B)、10(C)は、阻流板の別の実施例(阻流板880B)の側面図(図6と同様の断面図)、上面図(図3と同様の断面図)、正面図(図4と同様の断面図)をそれぞれ示している(図には、排水処理装置の一部(阻流板880Aを含む)が示されている)。図9の阻流板880Aとの差異は、2点ある。
第1の差異は、図10(C)に示すように、阻流板880Bの幅(Y方向の長さ)が、第1側壁部841の幅よりも短く、阻流板880Bと第3側壁部843との間と、阻流板880Bと第4側壁部844との間とのそれぞれに、隙間が空いている点である。この場合も、阻流板880Bによって、上方に向かう水流を抑制できる。
第2の差異は、図10(B)に示すように、鉛直方向の上から下に向かって見たときに、阻流板880Bが、第1移流管861の全周をカバーしている点である。この構成によれば、第1側壁部841に沿った水流に加えて、第1移流管861に沿って上方に向かう水流を抑制することができる。第1移流管861に沿って上方に向かう水流は、処理水槽840に流入した水が第1移流管861に接触することによって生じ得る。
なお、本実施例では、阻流板880Bは、継手884Bに固定されており、この継手884Bが第1移流管861の途中に挿入(固定)されている。また、本実施例において、阻流板880Bが、第1側壁部841の水平方向の一端の近傍から他端の近傍まで延びていても良い。すなわち、阻流板880Bが、第3側壁部843の近傍から第4側壁部844の近傍まで延びていても良い。
E.第5実施例:
図11は、上に向かう水流を抑制する構成の他の実施例の説明図である。本実施例では、阻流板880に加えて、第1移流管861に傘状の部材300(「阻流壁300」と呼ぶ)が固定されている(本実施例における排水処理装置の他の構成は、上述の排水処理装置800の構成と同じである)。図11(A)、11(B)、11(C)は、阻流壁300の側面図(図6と同様の断面図)、阻流壁300の断面図、阻流壁300の上面図(図3と同様の断面図)をそれぞれ示している(図には、排水処理装置の一部(阻流壁300を含む)が示されている)。阻流壁300は、第1移流管861から、鉛直方向の斜め下に向かって延びる壁であり、第1移流管861の全周に亘って形成されている。阻流壁300の形状は、第1移流管861を中心軸とする略円錐形状である。このような阻流壁300を第1移流管861に固定すれば、第1移流管861に沿って上方に移動する水流WF3を阻むことができる。このように阻流板880と阻流壁300との両方を利用すれば、より効果的に上方に向かう水流を抑制できる。なお、本実施例では、部材300が継手302に固定され、継手302が第1移流管861の途中に挿入(固定)されている。
図11(B)の第1角度θaは、阻流壁300の下面と鉛直方向の下方向(ここでは、第1移流管861の表面)とが成す角度を示している。「0度<第1角度θa<90度」は、阻流壁300の下面が、第1移流管861から斜め下に向かって突出していることを意味している。「第1角度θa=90度」は、阻流壁300の下面が水平であることを示している。下方から上方に向かう水流を抑制するためには、「0度<第1角度θa≦90度」が好ましく、「0度<第1角度θa<90度」が特に好ましい。また、図11(B)の第2角度θbは、阻流壁300の上面と鉛直方向の下方向(第1移流管861の表面)とが成す角度を示している。第1角度θaと同様に、「0度<第2角度θb≦90度」は、阻流壁300の上面が第1移流管861から水平あるいは斜め下に向かって延びていることを示している。阻流壁300の上面に固形物が堆積することを抑制するためには、「0度<第2角度θb<90度」が好ましい。
なお、阻流壁300の形状は、円錐形状に限らず、種々の形状を採用可能である。例えば、複数の平板を組み合わせて得られる多面体を採用してもよい。いずれの場合も、鉛直方向の上から下に向かって見たときに、第1移流管861の全周に亘って壁が配置されていることが好ましい。こうすれば、第1移流管861の表面の種々の位置に沿って上方に向かう水流を、阻流壁300で阻むことができる。ただし、第1移流管861の周囲の一部にのみ壁が配置されていてもよい。
F.阻流板の効果(位置と大きさ)について:
本願の発明者らは、シミュレーションと、実験槽を用いた実験とを用いて阻流板の効果(好ましい大きさと好ましい位置)を検討した。まず、シミュレーション結果について説明し、その後に、実験結果について説明する。図12、図13、図14は、このシミュレーションの説明図である。このシミュレーションでは、図1〜図5に示す処理槽830、840に相当するモデル槽MTを準備し、そのモデル槽MTを用いて、処理水槽840における水の流速を計算している。具体的には、接触曝気槽830から処理水槽840に水が流入して、処理水槽840内を水が上昇する際の、その上昇速度を計算している。このシミュレーションは、数値流体力学解析ソフト「FLUENTバージョン6.3(FLUENTは、アンシス社の商標)」を用いて行われている。水の物性としては、FLUENTで予め準備されている標準的な水の物性を採用している。
図12は、モデル槽MTの説明図である。図12(A)は、モデル槽MTを+Zから−Zに向かって見た図を示し、図12(B)は、モデル槽MTを+Xから−Xに向かって見た図を示し、図12(C)は、モデル槽MTを−Yから+Yに向かって見た図を示している。図中の、X方向、Y方向、Z方向は、図1〜図5に示す同じ名前の方向と、それぞれ同じである。
このモデル槽MTは、直方体の水槽を用いて形成されており、その内部を境界面で仕切ることによって、接触曝気槽と処理水槽が形成されている。このモデル槽MTでは、図1〜図5の実施例の接触曝気槽830と処理水槽840とが、簡略化して再現されている。以下、図1〜図5に示す要素に相当する要素が図12に示されている場合には、図12でも同じ符号を用いることとする。なお、このモデル槽MTは、実験槽をモデル化したものである。実験槽では、図2〜図4に示すような丸みを帯び、波型形状部分(コルゲート形状)を有する槽本体801の内部に処理水槽840が形成されている。モデル槽MTでは、そのような槽本体801の代わりに、直方体の水槽を採用しているが、モデル槽MTにおける処理水槽840の構成と寸法とは、実験槽の処理水槽840の構成と寸法とほぼ同じである。なお、モデル槽MTでは省略されているが、実験槽には、図2〜図4に示すように循環エアリフトポンプ860が設けられている。
次に、モデル槽MTの構成について説明する。以下、X方向の長さを「奥行き」とも呼び、Y方向の長さを「幅」とも呼び、Z方向の長さを「高さ」とも呼ぶ。
モデル槽MTの高さTzは1320mmであり、モデル槽MTの奥行きTxは585mmであり、モデル槽MTの幅Tyは800mmである。処理水槽840の底部の奥行きBxは160mmであり、底部の幅Byは160mmである。第2側壁部842の下端とモデル槽MTの底面との間の距離Bz2は、50mmである。第2側壁部842のホッパー角度Ha2は、60度である(ここで、ホッパー角度は、側壁と水平面とが成す角度を意味しており、90度は、側壁が鉛直方向と平行であることを示し、0度は、側壁が水平方向と平行であることを示している)。図12(C)に示すように、側壁部843、844の下端は、第2側壁部842の下端から、斜め下に向かって延びて、第1側壁部841に至る。側壁部843、844の下端の高低差Bz1は、35mmである。側壁部843、844のホッパー角度Ha1は、70度である。処理水槽840の上部では、幅がステップ状に狭くなっている。モデル槽MTの上端から、この段差までの距離Pzは、130mmである。なお、図中には、水深BHの代表的な値が、水平面を示す破線とともに、示されている。水深BHは、モデル槽MTの底面からの高さを示している。
消毒槽850の幅Syは360mmである。消毒槽850の底面850bの奥行きSxは165mmである。モデル槽MTの上端から消毒槽850の底面850bまでの距離Szは、352mmである。消毒槽850の底面850bの−X側の端部からは、側壁850sが斜め上方に向かって延びている。底面850bと側壁850sとの成す角度Saは、96度である。消毒槽850の側壁850sの−X側には、放流エアリフトポンプ870(図2)を収容するバッフルに相当する直方体(以下、「バッフル870b」と呼ぶ)が配置されている。このバッフル870bは、モデル槽MTの上面から下に向かって延びている。バッフル870bの幅Ayは150mmであり、高さAzは150mmであり、奥行きAxは100mmである。このバッフル870bの側壁は、水が通れない壁を形成し、バッフル870bの下面は水が通ることが可能な開口を形成している。モデル槽MTの−X側の壁(第1側壁部841)から、バッフル870bまでの距離Axsは、262mmである。
第1側壁部841には、阻流板880が設けられている。阻流板880の高さPHは、モデル槽MTの底面(すなわち、処理水槽840の底面)から、阻流板880の下面まで距離を示し、突出長PLは、阻流板880のX方向の長さ(第1側壁部841から阻流板880の端までの距離)を示している。後述するように、シミュレーションでは、突出長PLと高さPHとを変化させて、計算を行っている。
シミュレーションでは、処理水槽840内での水の流れを検討している。従って、処理水槽840の下流側の消毒槽850の内部の詳細な構成が、シミュレーション結果に与える影響は十分に小さいと考えられる。また、接触曝気槽830と処理水槽840とは、底部の移流開口836で連通しているので、接触曝気槽830と処理水槽840との上部の詳細な構成が、シミュレーション結果に与える影響は十分に小さいと考えられる。そこで、このシミュレーションでは、消毒槽850の構成を省略している。そして、水の流入は、モデル槽MTの上面における処理水槽840以外の部分の全体(図12(A)中の太線BLで囲まれた領域)から均等に行われることとしている。なお、処理水槽840の上部の形状は、図12に示すように、消毒槽850を考慮した形状に形成されている。
このシミュレーションでは、モデル槽MTの全体に水が満たされていることと仮定している。各処理槽830、840、阻流板880、バッフル870bの境界面では、境界面を通り抜けるような水の移動が無いことと仮定している。上述したように、水の流入は、モデル槽MTの上面(処理水槽840部分を除く)から均等に行われる。水の流出は、モデル槽MTの上面における流出領域WEから均等に行われる(図12(A)では、流出領域WEがハッチングで示されている)。流出領域WEは、バッフル870bの上面の+X方向の端部に配置されている。この流出領域WEの幅Wyは50mmであり、奥行きはバッフル870bの奥行きAxと同じ100mmである。
シミュレーションでの水の移動態様は、以下の通りである。まず、接触曝気槽830の上部から流入した水は、接触曝気槽830を下に向かって移動する。接触曝気槽830の底部に移動した水は、移流開口836を通じて、処理水槽840に流入する。処理水槽840に流入した水は、処理水槽840を上に向かって移動する。そして、流出領域WEから水が流出する。水の流量は、13L/minとする。この水量は、浄化槽(例えば、5人槽〜10人槽相当の浄化槽)の性能評価試験で用いられている移送水量と同じである。シミュレーションでは、水が、13L/minで定常的に流入することとしている。
図13(A)は、阻流板880の突出長PLと最高流速比との関係を示すグラフである。このグラフはシミュレーションによって得られた結果を示している。突出長PLは、第1側壁部841からの、水平方向(X方向)に沿って測った、阻流板880の長さである(図12(C))。換言すれば、突出長PLは、阻流板880が水平方向に沿って第1側壁部841からどのくらい突出しているかを示している。
図13(B)〜図13(D)は、シミュレーションに用いた阻流板880の形状と突出長との説明図である。図13(B)〜図13(D)は、−Yから+Yに向かって見た、阻流板880の断面図を示している。
図13(B)は、突出長が50mmの場合を示している。阻流板880の断面は、台形である。後面BW1は、第1側壁部841と同じ平面上にあり、後面BW1と対向する前面FW1は、後面BW1と平行である。底面UW1は、Z方向と垂直な面であり、後面BW1の下端と前面FW1の下端とを接続する。後面BW1の上端と前面FW1の上端とは、傾斜面DW1によって接続されている。後面BW1の高さBH1は、110mmであり、前面FW1の高さFH1は30mmである。また、底面UW1の長さPL1(突出長PLに相当する)は、50mmである。
図13(C)は、突出長が20mmの場合を示している。この阻流板880の形状は、図13(B)の阻流板880における前面FW1と傾斜面DW1とを、30mmだけ、−X方向にシフトして得られる形状と同じである。傾斜面DW1が第1側壁部841に近づくことによって、図13(C)での傾斜面DW2と後面BW2とは、それぞれ、小さくなる。また、底面UW2の長さPL2(突出長PLに相当する)は、20mmである。
図13(D)は、突出長が50mm以上の場合を示している。この阻流板880の形状は、図13(B)の阻流板880における前面FW1と傾斜面DW1とを、突出長に合わせて+X方向にシフトして得られる形状と同じである。傾斜面DW1が第1側壁部841から離れるので、傾斜面DW1の上端から水平に(−X方向に)延びて第1側壁部841へ至る上壁TW3が追加される。底面UW3の長さPL3は、突出長PLと同じである。
図13(A)の最高流速比は、阻流板880を設けることによって、+Z方向の水の流速がどのくらい低減したかを示している。この最高流速比が小さいほど+Z方向の流速が小さいので、阻流板880による上向流の抑制の効果が高いということができる。最高流速比は、阻流板880が無い場合(突出長PL=0mm)の+Z方向の最高流速に対する、阻流板880を設けた場合(突出長PL>0mm)の+Z方向の最高流速の割合をパーセントで示している。最高流速としては、水深BH=1020mm(図12:モデル槽MTの上面から300mm下)の断面における最も速い流速を用いている。この水深BH(1020mm)は、処理水槽840のホッパー部分849よりも上であり、流出領域WEに十分に近い水深である。従って、この水深BH(1020mm)で+Z方向の流速を低減できれば、処理水槽840の底部から流出領域WEへ通じる短絡流が抑制される、ということができる。さらに、この水深BH(1020mm)は、消毒槽850によって処理水槽840の断面積が小さくなった部分に含まれている。すなわち、この水深BH(1020mm)では、+Z方向の流速が速くなりやすい。そのような水深で流速を低減できれば、短絡流抑制の効果を適切に確認することができる。
図13(A)のグラフには、阻流板880の高さPH(図12(C))を700mmに設定した場合と、300mmに設定した場合との結果が示されている。阻流板880の高さPHは、モデル槽MTの底面(すなわち、処理水槽840の底面)から阻流板880の底面(例えば、図13(B)の底面UW1)までの距離を示している。
グラフに示すように、阻流板880を設けることによって、流速が低減する(最高流速比がおおよそ80%以下である)。特に、突出長PLが20mm、50mm、100mmの場合に良好な結果が得られている。従って、突出長PLの範囲としては、良好な突出長PL(20mmおよび100mm)と、その隣の突出長PL(0mmおよび150mm)との間を境界とする「10mm以上125mm以下」の第1範囲R1が好ましい。また、それらの良好な突出長PLで占められる「20mm以上100mm以下」の第2範囲R2が特に好ましい。また、最も良好な、おおよそ50mmが最も好ましい。
図14は、阻流板880の高さPHと最高流速比との関係を示すグラフである。最高流速比は、図13(A)のグラフで説明した最高流速比と同じである。阻流板880の高さPH(図12(C))も、図13(A)のグラフで説明したものと同じである。なお、このグラフの結果は、突出長PLが50mmの阻流板880を用いて得られている。
グラフに示すように、阻流板880を設けることによって、流速が低減している。特に、高さPHが200mm、300mm、500mm、700mmの場合に良好な結果が得られている。従って、阻流板880の高さPHの範囲としては、良好な高さPH(200mmおよび700mm)と、その隣の高さPH(100mmおよび900mm)との間を境界とする「150mm以上800mm以下」の第1範囲R11が好ましい。またそれらの良好な高さPHで占められる「200mm以上700mm以下」の第2範囲R12が特に好ましい。また、最も良好な、おおよそ200mmが最も好ましい。また、図12に示すように水深BHが700mm以下の範囲は、ホッパー部分849に含まれている。これから、図14の結果は、阻流板880をホッパー部分に設けると良いことを示していると考えることもできる。
なお、高さPHが200mmの場合には、特に良好な結果が得られている(最高流速比が40%)。この理由は、移流開口836(図12(C))から流入した水が、丁度、阻流板880にぶつかって拡散され易いからだと推定される。なお、処理水槽840への流入部分(移流開口836)の高さBz2は、50mmである。従って、阻流板880の底面は、流入部分の上端よりも150mm上方に配置されている。このような構成を採用すれば、短絡流の可能性を大幅に低減できる。
また、高さPHが100mmの場合には、最高流速比は、ほとんど100%である。このように結果が芳しくない理由は、阻流板880が低すぎて移流開口836(図12(C))から流入した水が阻流板880の上部に流れ込んでしまうからだと推定される。また、高さPHが900mmの場合に、最高流速比が若干高くなる。この理由は、900mmという高さPHが、最高流速を求める水深BH(1020mm)に近く、阻流板880によって水流が分散されたとしても、分散後の水流が水深BH(1020mm)に到達してしまうからだと推定される。
また、900mmという高さPHは、流出領域WEから420mm下の位置である。少なくとも、阻流板880を、流出部から420mmだけ下の位置(高さPH=900mm)よりも低い位置に配置すれば、阻流板880を設けることによって、短絡流が生じる可能性を低減できると考えられる。
なお、図12に示すように、処理水槽840の水平な断面積は、水深BHに応じて大きく変化し得る。以下に、水深BHと断面積との関係を示す。
水深BH(mm):断面積(cm2)
100mm:371cm2
200mm:664cm2
300mm:1041cm2
400mm:1502cm2
500mm:2047cm2
600mm:2626cm2
700mm:2944cm2
800mm:3218cm2
900mm:3218cm2
1000mm:2611cm2
図14のグラフでは高さPHが200mm、300mm、500mm、700mm、900mmである場合に、良好な結果が得られている。高さPHを断面積に置き換えると、断面積が664cm2、1041cm2、2047cm2、2944cm2、3218cm2である場合に、良好な結果が得られている。このように、阻流板880は、様々な断面積の部分において、有効に機能する。これらから、処理水槽840の各高さPHにおける断面積を変更した場合にも、阻流板880は有効に機能すると推定できる。すなわち、図12に示す形状を有する処理水槽840に限らず、他の形状を有する処理水槽(例えば、ホッパー構造の無い処理水槽)を採用する場合にも、阻流板880を設けることによって、短絡流が生じる可能性を低減できると推定できる。
次に、実験槽を用いた実験結果について説明する。上述したように、実験槽における処理水槽840は、図12のモデル槽MTにおける処理水槽840と同様である。この実験では、シミュレーションと同じ13L/minで定常的に水を接触曝気槽830に流入させて、処理水槽840の内部における水の流速(+Z方向の速度)を測定した。流速の測定には、超音波ドップラー流速計を用いた。測定位置は、図12のモデル槽MTを参照して説明すると、槽底部(処理水槽840の底面(図6のコルゲート部890の水平な面))から+Z方向に720mm、第1側壁部841から+X方向に60mm、処理水槽840の中心面Cny(図12(B))から+Y方向に80mmの位置である。中心面Cnyは、Y方向と垂直な面であり、処理水槽840の外形(消毒槽850との境界を除く)は、おおよそ、中心面Cnyを対称面とする面対称である。このように、実験では、第1側壁部841に近い位置での流速を測定している。なお、実験槽およびモデル槽MTのそれぞれにおいて、接触曝気槽830の外形(消毒槽850との境界を除く)も、おおよそ、中心面Cnyを対称面とする面対称である。
また、実験では、図6に示すような阻流板880が用いられている。阻流板880の高さPH(図12(C))は、300mmである。阻流板880の外形は、図13(B)に示す外形と同じである。ここで、突出長PL1は、50mmであり、高さFH1は10mmであり、高さBH1は95mmである。
実験では、阻流板880が無い場合の流速に対する阻流板880が有る場合の流速の比率が得られており、その比率は51%であった。このように、実験からも、阻流板880による上向流の抑制を確認することができた。また、実験では、上向流が生じやすいと考えられる第1側壁部841に近い位置で、上向流の抑制が確認されている。これにより、阻流板880によって上向流の勢いが処理水槽840内の他の領域に分散されて、処理水槽840内の広い領域を有効に活用して、処理水槽840内における局所的な上向きの流速が均されると推定できる。
F.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
変形例1:
固形物を沈降分離する分離槽の構成としては、上記各実施例における処理水槽840の構成に限らず、種々の構成を採用可能である。例えば、いわゆるホッパー構造の無い構成を採用してもよい。また、循環エアリフトポンプ860の吸入口862が、第1側壁部841よりも他の側壁部842、843、844に近い位置に配置されてもよい。また、循環エアリフトポンプ860を省略してもよい。また、分離槽の流入部が、底壁から上方に離れた位置に設けられていても良い。また、上述の実施例では、流入部(図2、図4の移流開口836)は、3方向の側壁部842、843、844によって形成されているが、流入部は、1方向の側壁部あるいは2方向の側壁部のみによって形成されていてもよい。いずれの場合も、突出部を、流入部よりも高い位置に配置することが好ましい。また、鉛直方向と垂直な断面(水平な断面)は、矩形に限らず任意の形状であってよい。いずれの場合も、鉛直方向の上から下に向かって見たときに、分離槽への水の流入が非等方的に行われる場合には、水の流入の無い方向(流入部の無い方向)の側壁部に突出部(例えば、図2の阻流板880)を設けることによって、短絡流を阻むことができる。ここで、水の流入が有る方向(流入部の有る方向)の側壁部には、突出部を設けないことが好ましい。こうすれば、突出部によって水面積が過剰に小さくなって流速が速くなることを抑制できる。すなわち、固形物の沈降分離が阻害されることを抑制できる。
また、突出部の構成としては、上述の各実施例のような板状の突出部に限らず、側壁部から延びて端に至る種々の構成を採用可能である。例えば、断面が矩形のパイプを、側壁部に沿って水平に延びるように配置してもよい。また、鉛直方向の上から下に向かって見た場合の突出部の形状としても、矩形や台形に限らず、他の任意の形状を採用可能である。例えば、扇形状や円形状を採用してもよく、凹部と凸部が交互に並んだ凹凸形状を採用してもよい。凹部の形状と凸部の形状とのそれぞれとしては、任意の形状を採用可能である。例えば、1つの凹部の形状が四角形状であってもよく三角形状であってもよい。同様に、1つの凸部の形状が四角形状であってもよく三角形状であってもよい。また、互いに分離した複数の突出部が分離槽の第1側壁部に設けられていても良い。ここで、複数の突出部のそれぞれが互いに異なる高さに配置されていてもよい。いずれの場合も、鉛直方向の上から下に向かって見た場合に、複数の突出部の全体によって、第1側壁部の一端の近傍から他端の近傍までカバーされていることが好ましい。
また、分離槽からの水の流出部の構成としても、放流エアリフトポンプ870(図2)を用いる構成に限らず、任意の構成を採用可能である。例えば、分離槽の上部に越流堰を設けて、処理済みの水を越流させてもよい。いずれの場合も、流出部が、流入部よりも高い位置に配置されていれば、固形物を沈降分離することができる。また、流出部が突出部よりも上に配置されていれば、短絡流の可能性を突出部によって低減できる。
また、局所的に特に速い水流(上方に向かう水流)は、分離槽の側壁の近傍に限らず、分離槽内の他の種々の位置に生じ得る。例えば、分離槽の流入部と流出部とを結ぶ直線上に、速い上向流が生じる場合がある。上述の突出部は、そのように種々の位置に生じ得る上向流を抑制するために用いることができる。ここで、突出部を分離槽内に配置する方法として、エアリフトポンプ等の移送部に突出部を固定する方法を採用してもよい。移送部(例えば、分離槽の底部に配置された吸入部から上方に向かって延びる移流部)に突出部を固定すれば、分離槽内に突出部を容易に配置することができ、そして、速い上向流を容易に抑制できる。なお、移送部は、分離槽内の種々の位置に配置され得る。従って、移送部に突出部を固定すれば、突出部を分離槽内の種々の位置に配置することができる。その結果、速い上向流の生じ得る位置に突出部を容易に配置することができる。以上の説明は、分離槽の側壁に突出部を設ける場合(側壁の近くに突出部を配置する場合)にも、同様に適用できる。
変形例2:
排水処理装置の構成としては、上記各実施例における構成に限らず、他の種々の構成を採用可能である。例えば、接触曝気槽830に設けられる接触材が2段構成ではなく1段構成であってもよい。また、各処理槽の配置としては、図2〜図5に示す配置に限らず、他の種々の配置を採用してもよい。例えば、1枚のほぼフラットな仕切板を介して処理水槽840が接触曝気槽830に隣接していてもよい。また、処理フローとしても、図1に示すフローに限らず、他の種々のフローを採用可能である。例えば、接触曝気槽830の代わりに、微生物が付着した担体が流動する担体流動槽を採用してもよい。また、接触曝気槽や担体流動槽に限らず、任意の好気性処理槽を採用してもよい。そして、固形物を沈降分離する分離槽(例えば、処理水槽840)が、その三方が好気性処理槽に囲まれるように形成されてもよい。また、夾雑物除去槽810の代わりに嫌気濾床槽を採用してもよい。いずれの場合も、固形物を沈降分離する分離槽を有する任意の排水処理装置に、突出部を適用可能である。