本発明の技術的思想は、トラクタ、田植機、コンバイン等の農作業機やホイルローダ等の特殊作業車両をはじめ、あらゆる作業車両に適用することが可能である。以下では、代表的な作業車両であるトラクタを用いて説明する。
まず、トラクタ100について簡単に説明する。
図1は、トラクタ100を示している。図中には、トラクタ100の前後方向、左右方向及び上下方向を表す。
トラクタ100は、主に、フレーム1と、エンジン2と、トランスミッション3と、フロントアクスル4と、リヤアクスル5と、で構成されている。また、トラクタ100は、キャビン6を備えている。キャビン6は、その内側が操縦室になっており、運転座席やアクセルペダル、シフトレバーなどが配置されている。
フレーム1は、トラクタ100の前部における骨格をなす。フレーム1は、トランスミッション3やリヤアクスル5とともにトラクタ100のシャシを構成する。以下に説明するエンジン2は、フレーム1によって支持される。
エンジン2は、燃料を燃焼させて得た熱エネルギーを運動エネルギーに変換する。つまり、エンジン2は、燃料を燃やすことによって回転動力を生み出す。なお、エンジン2には、エンジン制御装置が接続されている(図示せず)。エンジン制御装置は、オペレータがアクセルペダルなどを操作すると、その操作に応じてエンジン2の運転状態を変更する。また、エンジン2には、排気浄化装置2Eが備えられている。排気浄化装置2Eは、排気に含まれる微粒子や一酸化炭素、炭化水素などを酸化する。
トランスミッション3は、エンジン2の回転動力をフロントアクスル4やリヤアクスル5に伝達する。トランスミッション3には、連結クラッチを介してエンジン2の回転動力が入力される。なお、トランスミッション3には、変速機構3Sが設けられている(図2参照)。変速機構3Sは、オペレータがシフトレバーなどを操作すると、その操作に応じてトラクタ100の走行速度を変更する。
また、トランスミッション3には、前輪駆動機構3Fや作業機駆動機構3Pが設けられている(図2参照)。前輪駆動機構3Fは、オペレータがセレクトスイッチを操作すると、その操作に応じてフロントタイヤ41の駆動態様を変更する。作業機駆動機構3Pは、オペレータがパワースイッチなどを操作すると、その操作に応じて作業機(図示せず:例えばロータリーなど)の稼働態様を変更する。
フロントアクスル4は、エンジン2の回転動力をフロントタイヤ41に伝達する。フロントアクスル4には、トランスミッション3を介してエンジン2の回転動力が入力される。なお、フロントアクスル4には、操舵装置が並設されている(図示せず)。操舵装置は、オペレータがハンドルを操作すると、その操作に応じてフロントタイヤ41の舵角を変更する。
リヤアクスル5は、エンジン2の回転動力をリヤタイヤ51に伝達する。リヤアクスル5には、トランスミッション3を介してエンジン2の回転動力が入力される。なお、リヤアクスル5には、制動機構5Bが備えられている(図2参照)。制動機構5Bは、オペレータがブレーキペダルを操作すると、その操作に応じてリヤタイヤ51の回転速度を低下若しくは停止させる。また、制動機構5Bは、オペレータがハンドルを操作すると、その操作に応じて一方のリヤタイヤ51の回転速度を低下若しくは停止させることもできる(かかる機能を「オートブレーキ機能」という)。
次に、トラクタ100の動力伝達系統について説明する。
トラクタ100の動力伝達系統は、主に、トランスミッション3と、フロントアクスル4と、リヤアクスル5と、で構成されている。ここでは、トランスミッション3の構造に着目して説明する。
図2は、トラクタ100の動力伝達系統を示すスケルトン図である。
主変速装置31は、インプットシャフト312とアウトプットシャフト313の回転速度の比を無段階に変更できる。無段変速装置311は、インプットシャフト312とアウトプットシャフト313が接続されている。インプットシャフト312は、回転自在に支持されたプランジャブロックに連結されている。プランジャブロックは、高圧の作動油を送り出し、油圧ポンプ31Pとしての機能を果たす。アウトプットシャフト313は、回転自在に支持されたモータケースに連結されている。モータケースは、高圧の作動油を受けることによって回転し、油圧モータ31Mとしての機能を果たす。なお、アウトプットシャフト313には、前進駆動ギヤ316と後進駆動ギヤ317が取り付けられている。前進駆動ギヤ316と後進駆動ギヤ317は、前後進切換装置32へ回転動力を伝達する。
前後進切換装置32は、前進クラッチ321と後進クラッチ322のいずれかを介して回転動力を伝達できる。前進クラッチ321は、前進駆動ギヤ316に噛み合う前進従動ギヤ323を有している。前進クラッチ321は、作動することにより、アウトプットシャフト313の回転動力をセンターシャフト325に伝達する。後進クラッチ322は、リバースギヤを介して後進駆動ギヤ317に噛み合う後進従動ギヤ324を有している。後進クラッチ322は、作動することにより、アウトプットシャフト313の回転動力をセンターシャフト325に伝達する。
なお、センターシャフト325には、超低速駆動ギヤ326と一速駆動ギヤ327と二速駆動ギヤ328が取り付けられている。超低速駆動ギヤ326と一速駆動ギヤ327と二速駆動ギヤ328は、副変速装置33へ回転動力を伝達する。
副変速装置33は、センターシャフト325とセンターシャフト337の回転速度の比を複数段階に変更できる。超低速ドグユニット331は、超低速駆動ギヤ326に噛み合う超低速従動ギヤ334に隣接している。超低速ドグユニット331は、作動することにより、センターシャフト325の回転動力をセンターシャフト337に伝達する。一速ドグユニット332は、一速駆動ギヤ327に噛み合う一速従動ギヤ335に隣接している。一速ドグユニット332は、作動することにより、センターシャフト325の回転動力をセンターシャフト337に伝達する。二速ドグユニット333は、二速駆動ギヤ328に噛み合う二速従動ギヤ336に隣接している。二速ドグユニット333は、作動することにより、センターシャフト325の回転動力をセンターシャフト337に伝達する。
なお、センターシャフト337には、フロント駆動ギヤ338とリヤピニオンギヤ339が取り付けられている。フロント駆動ギヤ338は、フロント従動ギヤ33Aと等速駆動ギヤ33Bと増速駆動ギヤ33Cとを有するカウンタシャフト33Dを介して前輪駆動切換装置34へ回転動力を伝達する。リヤピニオンギヤ339は、デファレンシャルギヤユニット33Eを介してリヤアクスル5へ回転動力を伝達する。
前輪駆動切換装置34は、等速クラッチ341と増速クラッチ342のいずれかを介して回転動力を伝達できる。等速クラッチ341は、等速駆動ギヤ33Bに噛み合う等速従動ギヤ343を有している。等速クラッチ341は、作動することにより、カウンタシャフト33Dの回転動力をセンターシャフト345に伝達する。増速クラッチ342は、増速駆動ギヤ33Cに噛み合う増速従動ギヤ344を有している。増速クラッチ342は、作動することにより、カウンタシャフト33Dの回転動力をセンターシャフト345に伝達する。
なお、センターシャフト345には、プロペラシャフト346が取り付けられている。また、プロペラシャフト346には、フロントピニオンギヤ347が取り付けられている。フロントピニオンギヤ347は、フロントアクスル4へ回転動力を伝達する。
このような構造により、トランスミッション3は、トラクタ100の走行速度(停止を含む走行速度)を変更自在としている。また、トランスミッション3は、トラクタ100の走行方向(前進又は後進)を変更自在としている。更に、トランスミッション3は、フロントタイヤ41の駆動態様(等速四輪駆動若しくは増速四輪駆動又は非駆動)を変更自在としている。
作業機駆動切換装置35は、PTOクラッチ351を介して回転動力を伝達できる。PTOクラッチ351は、駆動ギヤ318に噛み合う従動ギヤ352を有している。PTOクラッチ351は、作動することにより、インプットシャフト312の回転動力をセンターシャフト353に伝達する。なお、センターシャフト353には、一速駆動ギヤ354と二速駆動ギヤ355と三速駆動ギヤ356と四速駆動ギヤ357と逆転駆動ギヤ358が取り付けられている。一速駆動ギヤ354と二速駆動ギヤ355と三速駆動ギヤ356と四速駆動ギヤ357と逆転駆動ギヤ358は、作業機変速装置36へ回転動力を伝達する。
作業機変速装置36は、センターシャフト353とセンターシャフト369の回転速度の比を複数段階に変更できる。第一ドグユニット361は、一速従動ギヤ364と二速従動ギヤ365の間に配置されている。第一ドグユニット361は、スリーブが一方へ摺動することにより、一速駆動ギヤ354と一速従動ギヤ364を介してセンターシャフト353の回転動力をセンターシャフト369に伝達する。また、第一ドグユニット361は、スリーブが他方へ摺動することにより、二速駆動ギヤ355と二速従動ギヤ365を介してセンターシャフト353の回転動力をセンターシャフト369に伝達する。
第二ドグユニット362は、三速従動ギヤ366に隣接している。第二ドグユニット362は、スリーブが一方へ摺動することにより、三速駆動ギヤ356と三速従動ギヤ366を介してセンターシャフト353の回転動力をセンターシャフト369に伝達する。第三ドグユニット363は、四速従動ギヤ367と逆転従動ギヤ368の間に配置されている。第三ドグユニット363は、スリーブが一方へ摺動することにより、四速駆動ギヤ357と四速従動ギヤ367を介してセンターシャフト353の回転動力をセンターシャフト369に伝達する。また、第三ドグユニット363は、スリーブが他方へ摺動することにより、逆転駆動ギヤ358とリバースギヤと逆転従動ギヤ368を介してセンターシャフト353の回転動力をセンターシャフト369に伝達する。
なお、センターシャフト369には、ドライブシャフト36Aが取り付けられている。また、ドライブシャフト36Aには、PTO駆動ギヤ36Bが取り付けられている。PTO駆動ギヤ36Bは、PTO従動ギヤ36Cを有するPTO軸36Dを介して作業機へ回転動力を伝達する。
タンデムポンプユニット37は、各油圧ユニットへの作動油の供給源である。タンデムポンプユニット37にはセンターシャフト371が接続されている。センターシャフト371には従動ギヤ372が取り付けられている。従動ギヤ372は従動ギヤ352に噛み合っている。これにより、インプットシャフト311の回転動力がセンターシャフト371に伝達され、タンデムポンプユニット37が駆動する。
このような構造により、トランスミッション3は、作業機の稼働速度(停止を含む稼働速度)を変更自在としている。また、トランスミッション3は、作業機の稼働方向(正転又は逆転)を変更自在としている。また、トランスミッション3は、各油圧ユニットへ作動油を供給可能としている。
次に、トラクタ100の油圧伝達系統について説明する。
トラクタ100は、作動油によって稼動する油圧ユニットを備え、例えば、上記の主変速装置31の油圧ポンプ31P及び油圧モータ31M、上記の前後進切換装置32、フロントタイヤ41の操舵用のパワーステアリングシリンダ73(図3参照)、上記の作業機駆動切換装置35、姿勢制御用シリンダ89(図3参照)、リフトシリンダ91(図3参照)等の油圧ユニット(油圧アクチュエータ)を備えている。
図3は、トラクタ100の油圧伝達系統を示す油圧回路図である。図4及び図5は、トランスミッション3の斜視図である。
トラクタ100は、上記の油圧ユニットへの作動油の供給源として、第1油圧ポンプ37a及び第2油圧ポンプ37bよりなるタンデムポンプユニット37を備えている。タンデムポンプユニット37は、トランスミッション3に備えられており、両ポンプ71a・71bは、エンジン2の動力を受けて駆動される。
第1油圧ポンプ37aの吐出油は、その全量が、圧油管71を介して、パワーステアリング用バルブセット72の入口ポート72aに供給される。パワーステアリング用バルブセット72には、パワーステアリング作動油給排ポート72c・72dが設けられており、これらのポート72c・72dは、配管を介してパワーステアリングシリンダ73に接続される。パワーステアリング用バルブセット72内のバルブは、ハンドルの操作に基づき制御され、これにより、入口ポート72aよりパワーステアリング用バルブセット72に導入された作動油のパワーステアリングシリンダ73に対する給排制御が行われる。
パワーステアリング用バルブセット72及びパワーステアリングシリンダ73に供給された油は、パワーステアリング用バルブセット72の出口ポート72bから排出され、圧油管74、ラインフィルタ75、圧油管76を介して、トランスミッション3に備えられる第1走行用バルブセット77の入口ポート77aへ供給される。第1走行用バルブセット77から排出された油の一部は、第2走行用バルブセット78へ供給される。
第1走行用バルブセット77には、変速機構に対する油圧を制御するバルブ群が組み込まれている。一方、第2走行用バルブセット78には、前輪駆動機構及び制動機構に対する油圧を制御するバルブ群が組み込まれている。
具体的には、第1走行用バルブセット77には、前後進切換装置32の前進クラッチ321及び後進クラッチ322に対する作動油の給排制御用バルブ群が組み込まれている。一方、第2走行用バルブセット78には、前輪駆動切換装置34の等速クラッチ341及び増速クラッチ342、オートブレーキ用油圧シリンダ53・54に対する作動油の給排制御用バルブ群が組み込まれている。この作動油給排制御用バルブ群に含まれる各バルブについて説明する。
第1走行用バルブセット77において、前進クラッチ321に対する作動油給排制御用には、切換弁771が設けられている。後進クラッチ322に対する作動油給排制御用には、切換弁772が設けられている。切換弁771及び切換弁772は切換弁773に接続されている。
第1走行用バルブセット77には、リリーフ弁774が組み込まれており、リリーフ弁774のリリーフ油が、主変速装置31におけるチャージ弁機構31aまたは31bを介して、油圧ポンプ31P・油圧モータ31M間の閉回路の作動油の補填に用いられる。該リリーフ弁774を通らずに流れる入口ポート77aからの油は、その一部が、第1走行用バルブセット77より主変速装置31へと分流し、主変速装置31の方向制御弁31c及び油圧シリンダ31dへと供給され、残りが、第1走行用バルブセット77における作動油給排制御用バルブ群、第2走行用バルブセット78及びPTOクラッチ制御用バルブセット79へ供給される。
第2走行用バルブセット78において、等速クラッチ341に対する作動油給排用には、切換弁781が設けられている。増速クラッチ342に対する作動油給排用には、切換弁782が設けられている。また、オートブレーキ用油圧シリンダ53・54に対する作動油給排用には、切換弁783・784が設けられている。
PTOクラッチ制御用バルブセット79に供給された油は、該PTOクラッチ制御用バルブセット79に組み込まれたバルブを介して、PTOクラッチ351用の作動油としてはたらく。
一方、第2油圧ポンプ37bの吐出油は、圧油管81を介して、トランスミッション3に設けられた作業機用のバルブプレート83の入口ポート83aに供給される。また、第2油圧ポンプ37bの吐出油は、圧油管81を介して、トランスミッション3に設けられた作業機の油圧制御(フロート制御等)用の外部取出ポートを有する作業機油圧制御用バルブセット87へも供給される。なお、第2油圧ポンプ37bの吐出油は、圧油管81を介してシステムリリーフバルブ82へも供給される。
バルブプレート83内の油は、姿勢制御用シリンダ89に対する作動油給排用の姿勢制御用バルブセット88及びリフトシリンダ91に対する作動油給排用のリフトシリンダ用バルブセット90へ供給される。バルブプレート83には、リリーフ弁831・832が組み込まれている。
なお、図3ではリフトシリンダ91が一つ図示されているが、実際には、左右一対のリフトシリンダ91を、図4に示すようにトランスミッション3に設けられた左右一対のリフトアーム7のボス部7cと左右一対のロアリンクとの間に介設している。また、姿勢制御用シリンダ89は、左右いずれか一方のリフトアーム7の先端のブラケット7bとその側のロアリンクとの間に介設されており、左右他方のリフトアームのブラケット7bとその側のロアリンクとの間にはリンクロッドが介設されている。
姿勢制御用バルブセット88には、姿勢制御用シリンダ89への作動油の給排を切り換える切換弁881が設けられている。切換弁881は切換弁882を介して入口ポート83aに接続されている。
リフトシリンダ用バルブセット90には、リフトシリンダ91への作動油の給排を切り換える4つの切換弁901・902・903・904が設けられている。また、リフトシリンダ用バルブセット90には、リリーフ弁905が組み込まれている。
リフトシリンダ用バルブセット90から排出された油は、下降防止バルブ833及びスローリターンバルブ834を介して、リフトシリンダ91へ供給される。
また、バルブプレート83の出口ポート83bから排出された油は、油管84を介して、トラクタ100の前部に配設されるオイルクーラー85へ供給される。オイルクーラー85にて冷却された油は、油管86を介して、PTOクラッチ351及び前後進切換装置32へ供給され、潤滑油としてはたらく。
次に、図4及び図5を参照して、トランスミッション3における各機構や部材等の配置構成について説明する。特に、第1及び第2走行用バルブセット77、78については、図6及び図7を参照して詳述する。
トランスミッション3の筐体は、主に、トランスミッションハウジング10で構成され、その左右側面にリヤアクスルハウジング52・52が取り付けられている。トランスミッションハウジング10は、主に、メインブロック101と、センターブロック102と、フロントカバー103と、リヤカバー104とで構成されている。
トランスミッションハウジング10の上面には、リフトケース11が取り付けられている。リフトケース11の上面には、バルブプレート83が取り付けられている。バルブプレート83の上面には、姿勢制御用バルブセット88及びリフトシリンダ用バルブセット90が取り付けられている。
リフトケース11の後上端部には、左右一対の作業機昇降用のリフトアーム7が取り付けられている。各リフトアーム7の基端部は、左右方向延伸状の回動支点軸7aを介してリフトケース11に枢支される。
各リフトアーム7の先端部にはブラケット7bが形成されており、上述したように、左右一方のリフトアーム7のブラケット7bには、該一方のリフトアーム7をその側のロアリンクに連結するように、姿勢制御用シリンダ89が連結され、左右他方のリフトアーム7のブラケット7bには、該他方のリフトアーム7をその側のロアリンクに連結するようにリフトロッドが連結される。また、各リフトアーム7の、基端部と先端部との間の途中部には、ボス部7cが設けられ、左右各リフトアーム7のボス部7cには、上述したように、各リフトアーム7を左右各ロアリンクに連結するように、リフトシリンダ91が連結される。
このような構造により、リフトシリンダ91のピストンロッドが摺動して押し出されると(リフトシリンダ91が伸張すると)、リフトアーム7が上方へ回動することとなる。すると、リフトアーム7がリフトロッドと姿勢制御用シリンダ89を介して左右のロアリンクを引き上げるので、作業機の高さが高くなる。
反対に、リフトシリンダ91のピストンロッドが摺動して引き込まれると(リフトシリンダ91が収縮すると)、リフトアーム7が下方へ回動することとなる。すると、リフトアーム7がリフトロッドと姿勢制御用シリンダ89を介して左右のロアリンクを押し下げるので、作業機の高さが低くなる。
加えて、姿勢制御用シリンダ89のピストンロッドが摺動して押し出されると(姿勢制御用シリンダ89が伸張すると)、姿勢制御用シリンダ89が取り付けられているロアリンクのみが下方へ回動することとなる。すると、姿勢制御用シリンダ89が取り付けられているロアリンクが押し下げられるので、作業機は姿勢制御用シリンダ89が取り付けられている側に傾く。
反対に、姿勢制御用シリンダ89のピストンロッドが摺動して引き込まれると(姿勢制御用シリンダ89が収縮すると)、姿勢制御用シリンダ89が取り付けられているロアリンクのみが上方へ回動することとなる。すると、姿勢制御用シリンダ89が取り付けられているロアリンクが引き上げられるので、作業機は姿勢制御用シリンダ89が取り付けられている側とは反対側に傾く。
また、トランスミッションハウジング10のメインブロック101の右側面には、第1及び第2走行用バルブセット77、78が取り付けられている。なお、第1及び第2走行用バルブセット77、78はトランスミッションハウジング10の左側面に設ける構成としてもよい。
図6は、第1及び第2走行用バルブセット77、78の上面側斜視図であり、図7は、第1及び第2走行用バルブセット77、78の下面側斜視図である。
第1走行用バルブセット77と第2走行用バルブセット78とは、上下に並設されている。なお、第1走行用バルブセット77を下側に、第2走行用バルブセット78を上側に配置してもよい。また、第1走行用バルブセット77と第2走行用バルブセット78とは、前後に並設してもよい。また、第1及び第2走行用バルブセット77、78は必ずしも並設する必要はなく、トランスミッションハウジング10の同一面に併設される形態であってもよい。
第1走行用バルブセット77は、アルミ合金やねずみ鋳鉄等による鋳造品である。第1及走行用バルブセット77内には、作動油を案内する複数の油路77bが彫り込まれ、油路77bに接続された切換弁771・772・773及びリリーフ弁774が組み込まれている。
第1走行用バルブセット77の前面にはコネクタ775が取り付けられている。コネクタ775から第1走行用バルブセット77内部への配線は、電磁弁である切換弁771・772・773及びリリーフ弁774に接続されている。一方、コネクタ775にはエンジン制御装置からの配線のコネクタが接続される。これにより、切換弁771・772・773及びリリーフ弁774はエンジン制御装置により制御される。
第1走行用バルブセット77の左側面には、メインブロック101へ取り付けるための平らな取付座面77cが形成されている。第1走行用バルブセット77には、取付座面77cを貫通するように、ボルトを通すための複数の穴77dが開けられている。第1走行用バルブセット77は、メインブロック101の右側面の取付座面にボルトで固定される。
第2走行用バルブセット78は、アルミ合金やねずみ鋳鉄等による鋳造品である。第2走行用バルブセット78内には、作動油を案内する複数の油路78bが彫り込まれ、油路78bに接続された切換弁781・782・783・784が組み込まれている。
第2走行用バルブセット78の前面にはコネクタ785が取り付けられている。コネクタ785から第2走行用バルブセット78内部への配線は、電磁弁である切換弁781・782・783・784に接続されている。一方、コネクタ785にはエンジン制御装置からの配線のコネクタが接続される。これにより、切換弁781・782・783・784はエンジン制御装置により制御される。
第2走行用バルブセット78の左側面には、メインブロック101へ取り付けるための平らな取付座面78cが形成されている。第2走行用バルブセット78には、取付座面78cを貫通するように、ボルトを通すための複数の穴78dが開けられている。第2走行用バルブセット78は、メインブロック101の右側面の取付座面にボルトで固定される。
上記の実施形態では、等速四輪駆動及び増速四輪駆動を実現するために油圧式の前輪駆動切換装置34を用い、オートブレーキを実現するためにオートブレーキ用油圧シリンダ52・53を用いたが、他の仕様として、機械式の四輪駆動とし、オートブレーキを搭載しない仕様がある。この仕様の場合、第2走行用バルブセット78は不要となるので、第2走行用バルブセット78は取り付けない。この仕様の油圧伝達系統は、図3において第2走行用バルブセット78を省いたものとなる。
よって、油圧式の四輪駆動とし、オートブレーキを搭載する仕様の場合には、第1及び第2バルブセット77、78を取り付け、一方、機械式の四輪駆動とし、オートブレーキを搭載しない仕様の場合には、第1バルブセット77を取り付け、第2バルブセット78を取り付けないことにより、組み立て時に容易に異なる仕様に対応することができる。
このように、トランスミッションの稼働に関わる油圧ユニットを制御するための種々のバルブを一部品のバルブセットに集約せず、バルブセットを構成するバルブの組み合わせを適切に選択して第1バルブセット77と第2バルブセット78とに分けているので、異なる仕様を容易に実現することができる。上記の2つの仕様の場合、第1バルブセット77を兼用化でき、使用しないバルブが含まれることもないので、部品点数の削減とコストダウンとを両立できる。
上記の実施形態では主変速装置31を用いて油圧式の無段変速を実現する仕様について説明したが、他の仕様として、機械式の有段変速を実現する仕様も実施可能である。以下ではこの仕様を他の形態として、上記の実施形態と異なる点を中心に説明する。
図8は、他の形態の動力伝達系統を示すスケルトン図であり、図9は、他の形態の油圧伝達系統を示す油圧回路図、図10は、他の形態のトランスミッションの斜視図、図11は、他の形態の第1及び第2走行用バルブセットの上面側斜視図、図12は、他の形態の第1及び第2走行用バルブセットの下面側斜視図である。なお、図1から図7で示した部材と同じものには同符号を付し、その詳細な説明を省略する。
まず、図8を参照して動力伝達系統について説明する。
動力伝達切換装置30は、伝達クラッチ301を介して回転動力を伝達できる。伝達クラッチ301には、インプットシャフト302とアウトプットシャフト303が接続されている。伝達クラッチ301は、作動することにより、インプットシャフト302の回転動力をアウトプットシャフト303に伝達する。
なお、アウトプットシャフト303には、シンクロユニット30Aが取り付けられている。シンクロユニット30Aは、スリーブが一方へ摺動することにより、アウトプットシャフト303の回転動力をメインシャフト304に伝達する(正転させる)。また、シンクロユニット30Aは、スリーブが他方へ摺動することにより、カウンタシャフト30Dを介してアウトプットシャフト303の回転動力をメインシャフト304に伝達する(逆転させる)。
メインシャフト304には、超低速駆動ギヤ305と一速駆動ギヤ306と二速駆動ギヤ307と三速駆動ギヤ308が取り付けられている。超低速駆動ギヤ305と一速駆動ギヤ306と二速駆動ギヤ307と三速駆動ギヤ308は、主変速装置38へ回転動力を伝達する。なお、シンクロユニット30Aやカウンタシャフト30Dは、前後進切換機構3Rを構成している。
主変速装置38は、メインシャフト304とセンターシャフト387の回転速度の比を複数段階に変更できる。第一ドグユニット381は、超低速従動ギヤ383と三速従動ギヤ386の間に配置されている。第一ドグユニット381は、スリーブが一方へ摺動することにより、超低速駆動ギヤ305と超低速従動ギヤ383を介してメインシャフト304の回転動力をセンターシャフト387に伝達する。また、第一ドグユニット381は、スリーブが他方へ摺動することにより、三速駆動ギヤ308と三速従動ギヤ386を介してメインシャフト304の回転動力をセンターシャフト387に伝達する。
第二ドグユニット382は、一速従動ギヤ384と二速従動ギヤ385の間に配置されている。第二ドグユニット382は、スリーブが一方へ摺動することにより、一速駆動ギヤ306と一速従動ギヤ384を介してメインシャフト304の回転動力をセンターシャフト387に伝達する。また、第二ドグユニット382は、スリーブが他方へ摺動することにより、二速駆動ギヤ307と二速従動ギヤ385を介してメインシャフト304の回転動力をセンターシャフト387に伝達する。
なお、センターシャフト387には、第一駆動ギヤ388と第二駆動ギヤ389が取り付けられている。第一駆動ギヤ388と第二駆動ギヤ389は、副変速装置39へ回転動力を伝達する。
副変速装置39は、センターシャフト387とセンターシャフト397の回転速度の比を複数段階に変更できる。第一ドグユニット391は、第一従動ギヤ393と第二従動ギヤ394の間に配置されている。第一ドグユニット391は、スリーブが一方へ摺動することにより、第一駆動ギヤ388と第一従動ギヤ393を介してセンターシャフト387の回転動力をセンターシャフト397に伝達する。また、第一ドグユニット391は、スリーブが他方へ摺動することにより、第二駆動ギヤ389と第二従動ギヤ394を介してセンターシャフト387の回転動力をセンターシャフト397に伝達する。
第二ドグユニット392は、第三従動ギヤ395と第四従動ギヤ396の間に配置されている。第二ドグユニット392は、スリーブが一方へ摺動することにより、第一駆動ギヤ388や第一従動ギヤ393のほか、カウンタシャフト398と第三従動ギヤ395を介してセンターシャフト387の回転動力をセンターシャフト397に伝達する。また、第二ドグユニット392は、スリーブが他方へ摺動することにより、第一駆動ギヤ388や第一従動ギヤ393のほか、カウンタシャフト398と第四従動ギヤ396を介してセンターシャフト387の回転動力をセンターシャフト397に伝達する。
なお、センターシャフト397には、フロント駆動ギヤあとリヤピニオンギヤ39Aが取り付けられている。フロント駆動ギヤ399は、フロント従動ギヤ39Bと等速駆動ギヤ39Cと増速駆動ギヤ39Dを有するカウンタシャフト39Eを介して前輪駆動切換装置34へ回転動力を伝達する。リヤピニオンギヤ39Aは、デファレンシャルギヤユニット39Fを介してリヤアクスル5へ回転動力を伝達する。
このような構造により、トランスミッション300は、作業機の稼働速度(停止を含む稼働速度)を変更自在としている。また、トランスミッション300は、作業機の稼働方向(正転又は逆転)を変更自在としている。また、トランスミッション300は、各油圧ユニットへ作動油を供給可能としている。
次に、図9を参照して他の形態の油圧伝達系統について説明する。
第1油圧ポンプ37aの吐出油は、パワーステアリング用バルブセット72に供給され、パワーステアリング用バルブセット72から第1走行用バルブセット16の入口ポート16aへ供給される。入口ポート16aに供給された油の一部は、第2走行用バルブセット78及びPTOクラッチ制御用バルブセット79へ供給される。
第1走行用バルブセット16には、変速機構に対する油圧を制御するバルブ群が組み込まれている。具体的には、第1走行用バルブセット16には、動力伝達切換装置30の伝達クラッチ301に対する作動油の給排制御用バルブ群と、伝達クラッチ301に対する潤滑油の供給制御用バルブ群とが組み込まれている。
第1走行用バルブセット16において、伝達クラッチ301に対する作動油給排制御用には、圧力制御弁161とリリーフ弁162とが設けられている。圧力制御弁161は操縦室に設けられたシフトレバーによって操作される機械式バルブである。伝達クラッチ301に対する潤滑油の供給制御用には、切換弁163とリリーフ弁164とが設けられている。
一方、第2油圧ポンプ37bの吐出油は、圧油管81を介して、トランスミッションに設けられた作業機用のバルブプレート12の入口ポート12aに供給される。
バルブプレート12内の油は、姿勢制御用シリンダ14に対する作動油給排用の姿勢制御用バルブセット13及びリフトシリンダ91に対する作動油給排用のリフトシリンダ用バルブセット15へ供給される。
姿勢制御用バルブセット13には、姿勢制御用シリンダ14への作動油の給排を切り換える切換弁131とリリーフ弁132とが設けられている。切換弁131は入口ポート83aに接続されている。
リフトシリンダ用バルブセット15には、リフトシリンダ91への作動油の給排を切り換える切換弁151・152が設けられている。切換弁151は操縦室に設けられたレバーによって操作される機械式バルブである。また、リフトシリンダ用バルブセット15には、リリーフ弁153・154が組み込まれている。
リフトシリンダ用バルブセット15から排出された油は、スローリターンバルブ834を介して、リフトシリンダ91へ供給される。また、バルブプレート12の出口ポート12bから排出された油は、油管84を介して、PTOクラッチ351へ供給され、潤滑油としてはたらく。
次に、図10を参照して他の形態のトランスミッション300における各機構や部材等の配置構成について説明する。特に、第1及び第2走行用バルブセット77、78については、図11及び図12を参照して詳述する。
図10に示したトランスミッション300が図5に示したトランスミッション3と異なる外観上の主な点は、第1走行用バルブセット16、姿勢制御用バルブセット13及びリフトシリンダ用バルブセット15の形状である。第1走行用バルブセット16、姿勢制御用バルブセット13及びリフトシリンダ用バルブセット15の配置は、トランスミッション3における配置と同様である。
図11及び図12に示すように、第1走行用バルブセット16と第2走行用バルブセット78とは、上下に並設されている。なお、第1走行用バルブセット16を下側に、第2走行用バルブセット78を上側に配置してもよい。また、第1走行用バルブセット16と第2走行用バルブセット78とは、前後に並設してもよい。また、第1及び第2走行用バルブセット16、78は必ずしも並設する必要はなく、トランスミッションハウジング10の同一面に併設される形態であってもよい。
第1走行用バルブセット16は、アルミ合金やねずみ鋳鉄等による鋳造品である。第1及走行用バルブセット16内には、作動油を案内する複数の油路16bが彫り込まれ、油路16bに接続された圧力制御弁161と切換弁163とリリーフ弁162・164とが組み込まれている。
第1走行用バルブセット16の右側面にはレバー165が取り付けられている。このレバー165は圧力制御弁161を操作するものであり、ワイヤーを介して操縦室内のシフトレバーに繋がっている。これにより、圧力制御弁161はオペレータによって操作される。
第1走行用バルブセット16の左側面には、メインブロック101へ取り付けるための平らな取付座面16cが形成されている。第1走行用バルブセット16には、取付座面16cを貫通するように、ボルトを通すための複数の穴16dが開けられている。第1走行用バルブセット16は、メインブロック101の右側面の取付座面にボルトで固定される。
この第1走行用バルブセット16は、上述した油圧式の無段変速用の第1走行用バルブセット77とほぼ同じ形状である。そして、取付座面16cも取付座面77cとほぼ同じ形状であり、穴16dは穴77dと同じ位置に開けられている。したがって、メインブロック101の取付座面に形成される穴の位置は変更する必要がない。これにより、メインブロック101には、第1走行用バルブセット77と同じ位置に第1走行用バルブセット16を取り付けることができる。
上記の他の実施形態では、等速四輪駆動及び増速四輪駆動を実現するために油圧式の前輪駆動切換装置34を用い、オートブレーキを実現するためにオートブレーキ用油圧シリンダ52・53を用いたが、他の仕様として、機械式の四輪駆動とし、オートブレーキを搭載しない仕様がある。この仕様の場合、第2走行用バルブセット78は不要となるので、第2走行用バルブセット78は取り付けない。この仕様の油圧伝達系統は、図9において第2走行用バルブセット78を省いたものとなる。
よって、油圧式の四輪駆動とし、オートブレーキを搭載する仕様の場合には、第1及び第2バルブセット16、78を取り付け、一方、機械式の四輪駆動とし、オートブレーキを搭載しない仕様の場合には、第1バルブセット16を取り付け、第2バルブセット78を取り付けないことにより、組み立て時に容易に異なる仕様に対応することができる。
このように、トランスミッションの稼働に関わる油圧ユニットを制御するための種々のバルブを一部品のバルブセットに集約せず、バルブセットを構成するバルブの組み合わせを適切に選択して第1バルブセット16と第2バルブセット78とに分けているので、異なる仕様を容易に実現することができる。上記の2つの仕様の場合、第1バルブセット16を兼用化でき、使用しないバルブが含まれることもないので、部品点数の削減とコストダウンとを両立できる。
なお、上記の実施形態では4つの仕様について説明したが、これらの仕様に限定されることはなく、第1バルブセット及び/又は第2バルブセットは、上記以外の仕様にも用いることができる。