JP6523358B2 - バイオ人工近位尿細管システム及びその使用方法 - Google Patents

バイオ人工近位尿細管システム及びその使用方法 Download PDF

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Description

(関連出願の相互参照)
本出願は、2011年5月27日出願の米国特許仮出願第61/490,890号に基づく利益を主張し、当該出願の内容をその全容において援用するものである。
(発明の分野)
本発明は、一般的に、生物学的足場材、及び足場材上で腎近位尿細管細胞の単層に分化させられる1つ又は2つ以上の前駆細胞(例えば哺乳動物の腎臓由来細胞)を含むバイオ人工近位尿細管装置に関する。本発明は更に、バイオリアクター内で本装置を調製及び培養するための方法に関する。インビトロでの腎毒性又は薬学的化合物のスクリーニングにおいて本装置を使用するための方法も提供される。
慢性腎臓病(CKD)及び末期腎臓病(ESRD)は、腎機能、主として糸球体濾過量の低下によって定義される。これにより、腎臓は、身体によって作られる毒性の代謝老廃物を排出することができなくなる。米国内では、CKDは益々一般的なものとなりつつあり、健康転帰の不良及び高額の医療費と関連している。米国腎臓財団(The National Kidney Foundation)は、2000万人の米国人がCKDを有しており、少なくとも更に2000万人がCKDを発症するリスクにあると推定している。ESRDは、500,000人を上回る患者が罹患しており、CKDを有するリスク集団は150万人に達している。CKD及びESRDの全体のコストは、全体のメディケアコストのおよそ30%を占めるが、これらの患者はメディケア集団全体のわずか8.1%を構成しているにすぎない(2008年米国腎臓データサービス、2008年度年間報告書(2008 US Renal Data Service, 2008 Annual Report))。ESRDの発病率は、過去10年間に50%以上も増加しており、CKDを罹患しているか又はそのリスクを有する患者の数は着実に増加している。したがって、障害を受けた腎臓の修復を可能とする新たな治療の選択肢、及び対象とする化合物の腎毒性を判定することが可能なインビトロシステムに対する大きな需要が存在する。
多くの生体異物又はそれらの分解により生じた分子は、腎臓の腎近位尿細管細胞によって血液から能動輸送により、膀胱に向かう濾液中へと除去される。この輸送機能を行う結果、腎近位尿細管は、これらの化合物の毒性作用によってしばしば障害を受ける。このため、動物実験に代わる可能性のある、インビトロシステムでの潜在的な治療化合物の腎毒性試験が、多大な関心を集めている。
腎近位尿細管上皮単層の形成及び機能を試験するための現在の細胞培養に基づくモデルは、初代細胞を利用したものであるか、あるいは例えばMDCK(メイディン・ダービー・イヌ腎臓細胞)、LLC−PK1(ルイス肺癌ブタ腎細胞1)、又は、ヒトパピローマウイルス16のE6/E7遺伝子による形質導入によって不死化されたヒト腎細胞株であるHK−2細胞などの各種の細胞源から樹立された細胞株を用いて主として開発されたものである。これらの細胞を使用するアッセイシステムは一般的に、多孔質のフィルター(例えば、TRANSWELL(登録商標)フィルターなど)を利用しているが、こうしたフィルターは、細胞の尿細管腔側及び基底膜側の両方において液体への曝露を可能とすることで上皮細胞の分化を促進する。
しかしながら、これらの細胞株の使用には幾つかの問題点がある。これらの細胞株の多くは腫瘍から形質転換又は誘導されたものであり、それらの増殖、分化、及び最終的には機能的特性が変化する可能性がある。更に、これらの細胞株の多くはヒト由来のものではない。したがって、これらの細胞の機能及び異なる化合物に対する応答には種特異的な差がありうる。初代細胞の使用は、これらの細胞が通常、実験に使用される前に新しいものを単離して最小限に増殖させたものであるため、手間がかかる。単離プロセスは、望ましくない細胞集団の混入により困難となりうる。更に、供給源にも大きなばらつきがありうる。
別の一般的な問題点として、初代細胞が完全な単層を形成する時間が限られていることがあり、このため、インビトロの実験における細胞の利用性が限定されることである。初代細胞は、しばしば過剰増殖して表面から離れ、3次元的な集合体を形成するため、MEK阻害剤などの更なる因子を添加して接触阻害を維持する必要がある(米国特許出願公開第2009/0209019号に開示されるように)。多孔質フィルター(例えば、TRANSWELL(登録商標)フィルターなど)は一定の有効性は有するものの、合成材料から形成されるものであるため、インビボで腎尿細管細胞が通常曝露される下層のマトリクスを正確に反映してはいない。
例えばMATRIGEL(商標)又は動物から単離された腎尿細管の培養物などの3Dゲル中において、固体表面上での初代細胞の上記に述べたような過剰増殖を利用した3次元的な尿細管構造の形成に頼った代替的なスクリーニング方法についても述べられている(国際特許出願公開第WO 2010/064995 A1号を参照)。この方法は、単離技術が困難であること、及び考慮する必要のある種間の差の点で問題がある。これらの代替的手法の別の問題点は、培地に添加された生体異物化合物の腎尿細管の管腔内への輸送のみしか評価を行うことができない点である。例えばグルコース再吸収又はアルブミンの取り込みなどの尿細管の正常な機能に対するこれらの化合物の作用は、標識された試験物質を管腔内に導入したり、尿細管の管腔液の試料をアッセイ用に採取したりする信頼性の高い方法がないために評価を行うことができない。更に、様々なインビボ条件下で生じうる流れ、及び生理学的な動的条件の変化の作用は評価することができない。
したがって、当該分野においては、腎近位尿細管上皮の正常な生理学的状態をより反映するバイオアッセイの開発が求められている。これは最終的には、腎疾患の新規かつより効果的な治療法の開発を可能とするものである。
本出願は、その上に腎近位尿細管細胞の単層が前駆細胞(例えば、哺乳動物(例えばヒト)腎由来細胞)から形成される、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材を有するバイオ人工近位尿細管装置を含むものである。
本発明では、脱細胞化された生物学的マトリクスを調製し、その生物学的マトリクスに哺乳動物の腎由来細胞、及び場合により哺乳動物の内皮細胞を播種することによって構築される、バイオ人工近位尿細管装置について述べる。本装置は、バイオリアクター培養を使用して静的に培養又は成熟させることにより、機能する近位尿細管細胞に腎細胞を分化させることができる。得られる装置は、例えば生物学的膜のいずれか一方の側から他方の側への分子の輸送といった、近位尿細管の機能を行うことが可能である。本発明では更に、バイオ人工近位尿細管装置を製造及び成熟させるための異なる方法についても述べる。本発明では、尿細管細胞の輸送、各種の化合物の毒性作用又は医薬化合物のスクリーニングのインビトロでの研究のためのバイオ人工近位尿細管装置の使用方法についても述べる。
一実施形態では、バイオ人工近位尿細管装置は、腎細胞に分化可能な1つ又は2つ以上の細胞(例えば、腎細胞に分化可能な前駆細胞)を、これらの細胞の腎近位尿細管細胞への分化を可能とするのに充分な条件下で播種された、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材を含むことにより、分化した細胞が足場材上に上皮単層を形成する。バイオ人工近位尿細管装置は、場合に応じて、更に血管内皮細胞を含んでもよい。
別の実施形態では、バイオ人工近位尿細管装置は、少なくとも2つの表面を有する脱細胞化された生物学的足場材を含み、少なくとも1つの表面に腎細胞に分化可能な1つ又は2つ以上の細胞(例えば、腎細胞に分化可能な前駆細胞)が、その細胞の腎近位尿細管上皮細胞への分化を可能とするのに充分な条件下で播種されることにより、その細胞が足場材の表面に細胞の単層を形成する。
代替的な一実施形態では、バイオ人工近位尿細管装置は、1又は2つ以上の表面を有する哺乳動物組織に由来する脱細胞化された生物学的足場材、及びその足場材の表面上の腎近位尿細管の上皮単層を含み、上皮単層は、表面に1又は2つ以上の哺乳動物腎由来細胞を、腎臓由来細胞の腎近位尿細管細胞への分化及び単層の形成を可能とするのに充分な条件下で播種することにより形成される。表面の播種は、バイオリアクター中で行うことができる。こうしたバイオリアクターは、上部本体要素、細胞増殖用の領域を有する下部本体要素、及び1又は2つ以上のコネクタを有しうる。
腎細胞に分化可能な1つ又は2つ以上の細胞(例えば前駆細胞)は、初代腎尿細管上皮細胞、腎細胞若しくは腎前駆細胞に分化させた人工多能性幹細胞又は前駆細胞、腎臓から単離した幹細胞、又は腎臓から単離した前駆細胞、及びこれらの混合物であってよい。一実施形態では、腎細胞に分化可能な1つ又は2つ以上の細胞は、例えばヒトなどの哺乳動物からの腎由来細胞である。これらの腎由来細胞は、腎皮質、腎髄質、腎被膜下領域、及びこれらの混合物から得ることができる。
更なる別の実施形態では、バイオ人工近位尿細管装置は、少なくとも2つの表面を有する脱細胞化された生物学的足場材を含み、少なくとも1つの表面に1つ又は2つ以上の哺乳動物腎由来細胞が、腎由来細胞の腎近位尿細管細胞への分化を可能とするのに充分な条件下で播種され、細胞が足場材の表面に上皮単層を形成する。哺乳動物はヒトであってよく、細胞は、腎皮質、腎髄質、又は腎被膜下領域から得ることができる。
特定の実施形態では、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材は、哺乳動物組織に由来するものである。足場材は、例えばブタ組織などの哺乳動物組織に由来するものでありうる。例えば、足場材は、哺乳動物の胃、十二指腸、空腸、回腸又は結腸に由来するものでありうる。本発明の一実施形態では、足場材は小腸粘膜下層に由来するものである。別の実施形態では、脱細胞化された生物学的マトリクスは、粘膜又は粘膜下組織に由来するものでありうる。
本発明の一実施形態では、腎由来細胞は、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、Oct−4、Pax−2及びRex−1のうちの1つ又は2つ以上の発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert及びWnt−4のうちの1つ又は2つ以上の発現について陰性である。別の実施形態では、腎由来細胞は、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、Oct−4及びPax−2のうちの1つ又は2つ以上の発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert及びWnt−4のうちの1つ又は2つ以上の発現について陰性である。
別の実施形態では、腎由来細胞は、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、Eya1、Pax−2、WT1、FoxD1、BMP7、BMP2、GDF5、EpoR又はRex−1のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert又はWnt−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である。特定の実施形態では、腎由来細胞はまた、細胞表面マーカーHLA I、CD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD90、CD166、又はSSEA−4のうちの少なくとも1つについて陽性であってもよく、細胞表面マーカーHLA II、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、CD141、又はE−カドヘリンのうちの少なくとも1つについて陰性であってもよい。
いくつかの実施形態では、足場材の第2の表面には哺乳動物の血管内皮細胞が播種される。例えば血管内皮細胞は、内皮細胞株、内皮前駆細胞、初代内皮細胞、微小血管内皮細胞、及びこれらの混合物であってよい。
本発明の代替的な一実施形態は、1つ又は2つ以上の前駆細胞(すなわち、腎細胞に分化可能な前駆細胞)が、その前駆細胞の腎近位尿細管上皮細胞への分化を可能とするのに充分な条件下で播種された、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材を含むバイオ人工近位尿細管装置であって、分化した細胞が足場材上に上皮単層を形成する、装置である。脱細胞化された生物学的マトリクス足場材は、例えば粘膜又は粘膜下組織などの哺乳動物組織(例えばブタ組織)に由来するものでありうる。一実施形態では、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材は、哺乳動物の消化管に由来するものである。別の実施形態では、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材は、哺乳動物の胃、十二指腸、空腸、回腸又は結腸に由来する(例えば、これらから得られる)ものである。1つ又は2つ以上の前駆細胞は、初代腎尿細管上皮細胞、腎細胞若しくは腎前駆細胞に分化させた人工多能性幹細胞、腎細胞若しくは腎前駆細胞に分化させた前駆細胞、腎臓から単離した幹細胞、又は腎臓から単離した前駆細胞、及びこれらの混合物からなる群から選択される。一実施形態では、前駆細胞はヒト腎由来細胞である。一実施形態では、ヒト腎由来細胞は、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、Oct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7、又はGDF5のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert、Wnt−4、SIX2、E−カドヘリン又はGATA−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である。場合により、これらの細胞はまた、細胞表面マーカーHLA−I、CD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD90、CD166、又はSSEA−4のうちの少なくとも1つについても陽性であり、かつ、細胞表面マーカーHLA II、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、及びCD141のうちの少なくとも1つについても陰性である。また、細胞は場合により更に、栄養因子FGF2、HGF、TGFα、TIMP−1、TIMP−2、MMP−2又はVEGFのうちの少なくとも1つを分泌し、栄養因子PDGF−bb又はIL12p70の少なくとも一方を分泌しない。
本発明の更なる別の代替的な実施形態は、少なくとも2つの表面を有する脱細胞化された生物学的足場材を含むバイオ人工近位尿細管装置であって、少なくとも1つの表面に1つ又は2つ以上の前駆細胞(すなわち、腎細胞に分化可能な前駆細胞)が、細胞の腎近位尿細管上皮細胞への分化を可能とするのに充分な条件下で播種され、細胞が足場材の表面に上皮単層を形成する、装置である。脱細胞化された生物学的マトリクス足場材は、哺乳動物組織(例えばブタ組織)に由来するものである。一実施形態では、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材は粘膜又は、粘膜又は粘膜下組織に由来するものである。また、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材は、哺乳動物の消化管に由来するものである。別の実施形態では、脱細胞化された生物学的足場材は、哺乳動物の胃、十二指腸、空腸、回腸又は結腸に由来する(例えば、これらから得られる)ものである。1つ又は2つ以上の前駆細胞は、初代腎尿細管上皮細胞、腎細胞若しくは腎前駆細胞に分化させた人工多能性幹細胞、腎細胞若しくは腎前駆細胞に分化させた前駆細胞、腎臓から単離した幹細胞、又は腎臓から単離した前駆細胞、及びこれらの混合物からなる群から選択される。一実施形態では、前駆細胞はヒト腎由来細胞である。一実施形態では、ヒト腎由来細胞は、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、Oct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7、又はGDF5のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert、Wnt−4、SIX2、E−カドヘリン又はGATA−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である。場合により、これらの細胞はまた、細胞表面マーカーHLA−I、CD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD90、CD166、又はSSEA−4のうちの少なくとも1つについても陽性であり、かつ、細胞表面マーカーHLA II、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、及びCD141のうちの少なくとも1つについても陰性である。また、細胞は場合により更に、栄養因子FGF2、HGF、TGFα、TIMP−1、TIMP−2、MMP−2又はVEGFのうちの少なくとも1つを分泌し、栄養因子PDGF−bb又はIL12p70の少なくとも一方を分泌しない。別の実施形態では、足場材の第2の表面には哺乳動物の血管内皮細胞が播種される。これらの血管内皮細胞は、内皮細胞株、内皮前駆細胞、初代内皮細胞、又は微小血管内皮細胞から選択することができる。
本発明の更なる別の実施形態は、近位尿細管装置を使用する方法である。すなわち、一実施形態は、1つ又は2つ以上の前駆細胞を腎細胞に分化させる方法であって、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材に1つ又は2つ以上の前駆細胞(すなわち、腎細胞に分化可能な前駆細胞)を播種することと、前駆細胞を足場材上で、前駆細胞の腎近位尿細管上皮細胞への分化を可能とするのに充分な条件下で培養することとを含み、分化した細胞が足場材上に上皮単層を形成する、方法である。脱細胞化された生物学的マトリクス足場材は、2つの表面を有しうる。一実施形態では、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材は、哺乳動物(例えばブタ)組織に由来するものである。すなわち、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材は、粘膜又は粘膜下組織に由来する(例えば、これらから得られる)ものでありうる。別の実施形態では、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材は、哺乳動物の胃、十二指腸、空腸、回腸又は結腸に由来するものである。本方法は、初代腎尿細管上皮細胞、腎細胞若しくは腎前駆細胞に分化させた人工多能性幹細胞、腎細胞若しくは腎前駆細胞に分化させた前駆細胞、腎臓から単離した幹細胞、又は腎臓から単離した前駆細胞、及びこれらの混合物からなる群から選択される1つ又は2つ以上の前駆細胞を用いることができる。一実施形態では、本方法において用いられる前駆細胞は、ヒト腎由来細胞である。
一実施形態では、本方法において用いられるヒト腎由来細胞は、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、Oct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7、又はGDF5のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert、Wnt−4、SIX2、E−カドヘリン又はGATA−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である。別の実施形態では、これらの細胞はまた、細胞表面マーカーHLA−I、CD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD90、CD166、又はSSEA−4のうちの少なくとも1つについても陽性であり、かつ、細胞表面マーカーHLA II、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、及びCD141のうちの少なくとも1つについても陰性である。別の実施形態では、細胞は、栄養因子FGF2、HGF、TGFα、TIMP−1、TIMP−2、MMP−2又はVEGFのうちの少なくとも1つを分泌し、栄養因子PDGF−bb又はIL12p70の少なくとも一方を分泌しない。
本発明の別の実施形態は、腎細胞に分化可能な1つ又は2つ以上の細胞を腎近位尿細管に、分化を可能とするのに充分な条件下で分化させることにより、分化した細胞が上皮単層を形成し、細胞に張力が作用する方法である。本方法は更に、細胞を分化させる前に、脱細胞化された足場材上に細胞を播種することを含む。本方法がこの工程を含む場合、本方法を使用して本発明のバイオ人工装置を製造することが可能である。脱細胞化された生物学的マトリクス足場材は、例えば粘膜又は粘膜下組織などの哺乳動物(例えばブタなど)組織に由来するものでありうる。一実施形態では、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材は、哺乳動物の消化管に由来するものである。別の実施形態では、脱細胞化された生物学的足場材は、哺乳動物の胃、十二指腸、空腸、回腸又は結腸に由来するものである。腎細胞に分化可能な1つ又は2つ以上の前駆細胞は、初代腎尿細管上皮細胞、腎細胞若しくは腎前駆細胞に分化させた人工多能性幹細胞又は前駆細胞、腎臓から単離した幹細胞、又は腎臓から単離した前駆細胞、及びこれらの混合物からなる群から選択される。一実施形態では、腎細胞に分化可能な1つ又は2つ以上の細胞は、哺乳動物の腎由来細胞(例えばヒトの腎由来細胞)である。哺乳動物の腎由来細胞は、腎皮質、腎髄質、腎被膜下領域及びこれらの混合物から得ることができる。一実施形態では、腎由来細胞は、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、Oct−4、Pax−2及びRex−1のうちの1つ又は2つ以上の発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert及びWnt−4のうちの1つ又は2つ以上の発現について陰性である。別の実施形態では、腎由来細胞は、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、Eya1、Pax2、WT1、FoxD1、BMP7、BMP2、GDF5、EpoR又はRex−1のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert又はWnt−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である。更に別の実施形態では、腎由来細胞はまた、細胞表面マーカーHLA I、CD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD166、又はSSEA−4のうちの少なくとも1つについても陽性であり、かつ、細胞表面マーカーHLA II、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、CD141、又はE−カドヘリンのうちの少なくとも1つについても陰性である。
上記の概要及び本発明の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことでより深い理解がなされるであろう。本発明を説明する目的のため、図面は本発明の各実施形態を示している。しかしながら本発明は、示される正確な構成、実施例、及び手段に限定されない点は理解されるべきである。
図1〜6は、ヒト腎由来細胞の代謝パラメータの分析結果を示す。
ヒト腎由来細胞培養(「SW培養」)中の乳酸放出を時間の関数として示す。 SW培養中のグルコース消費を時間の関数として示す。 SW培養中のLDH放出を時間の関数として示す。 脱細胞化された小腸粘膜下層(SIS)上に播種されたヒト腎由来細胞の細胞培養(「SIS−SW培養」)中の乳酸放出を時間の関数として示す。 SIS−SW培養中のグルコース消費を時間の関数として示す。 SIS−SW培養中のLDH放出を時間の関数として示す。 脱細胞化された小腸粘膜下層(SIS)上に播種されたヒト腎由来細胞から増殖された単層(「SIS−ML培養」)中の乳酸放出を時間の関数として示す。 SIS−ML培養中のグルコース消費を時間の関数として示す。 SIS−ML培養中のLDH放出を時間の関数として示す。 ML培養中の乳酸放出を時間の関数として示す。 ML培養中のグルコース消費を時間の関数として示す。 ML培養中のLDH放出を時間の関数として示す。図1〜6において、n=3である。 図7及び図8は、細胞外(すなわち脱細胞化された)マトリクス足場材上のヒト腎由来細胞(hKDC)の組織学的染色を示す。ヒト腎由来細胞を、3つの異なる形態の足場材上に各足場材につき2.5×10細胞の密度で播種し、3週間培養した。次いで、各試料を固定し、切片をヘマトキシリン/エオジン(H&E)で染色した。 コラーゲンサンドウィッチ培養の組織学的染色を示す。 コラーゲン脱細胞化小腸粘膜下層(SIS)サンドウィッチ培養の組織学的染色を示す。 脱細胞化されたSIS単層培養の組織学的染色を示す。 コラーゲンコーティングされたトランスウェル培養の組織学的染色を示す。 細胞外(脱細胞化された)マトリクス足場材上に播種されたhKDCによるアクアポリン1の免疫組織化学的検出を示す。ヒト腎由来細胞を脱細胞化されたSIS足場材上に播種し、一晩付着させた。各試料を3週間培養した後、固定した。この後、厚さ3μmの切片を用いて、抗ヒトアクアポリン1抗体(アブカム社(Abcam)、ケンブリッジ)による免疫組織化学法(IHC)を行った。矢印は、細胞の尿細管腔側の染色領域を示す。 図10は、脱細胞化された足場材上に播種されたhKDCの組織学的染色を示す。ヒト腎由来細胞を、脱細胞化されたSIS足場材上に2つの異なる細胞濃度で播種し、3週間培養した後、固定した。その後、厚さ3μmの切片をヘマトキシリン/エオジン(H&E)で染色した。 1×10細胞を播種した試料のH&E染色を示す。 5×10細胞を播種した試料のH&E染色を示す。 脱細胞化された足場材上に播種されたhKDCの3週間の培養のレクチン染色を示す。ヒト腎由来細胞を、脱細胞化されたSIS足場材上に播種し、3週間培養した後、固定した。この後、厚さ3μmの切片を、ロータス・テトラゴノボラス(Lotus tetragonobolus)レクチン(図11A)及びドリコス・ビフロラス(Dolichos biflorus)アグルチニン(図11B)で染色した。図11Aの矢印及び直線は、陽性染色の領域を示す。 脱細胞化された足場材上に播種されたhKDCのIV型コラーゲン染色を示す。ヒト腎由来細胞を、脱細胞化されたSIS足場材上に播種し、3週間培養した後、固定した。この後、厚さ3μmの切片を抗IV型コラーゲン抗体で染色した。 脱細胞化された足場材上に播種されたhKDCのPgp−1染色を示す。ヒト腎由来細胞を、脱細胞化されたSIS足場材上に播種し、3週間培養した後、固定したこの後、厚さ3μmの切片を抗ヒトP糖タンパク質1抗体で染色した。 脱細胞化された足場材上に播種されたhKDCによる蛍光標識されたウシ血清アルブミン(BSA−FITC)の取り込みを示す。ヒト腎由来細胞を、脱細胞化されたSIS足場材上に播種し、2週間培養した後、BSA−FITCの存在下で1時間培養した。この後、細胞をDAPI(ジアミジノ−2−フェニルインドール)で対比染色し、画像化した。 主なリアクターの要素を示す、細胞培養用のバイオリアクターの概略図である。 バイオリアクターの下部本体要素の詳細図を示す。
本装置、本装置を使用する方法、及び本発明の他の態様に関連する様々な用語が、本明細書及び「特許請求の範囲」の全体を通じて用いられる。これらの用語には、特に断らないかぎりは当該技術分野における通常の意味が与えられるものとする。他の具体的に定義される用語は、本明細書において与えられる定義と一貫するような解釈がなされるものとする。
本発明は、腎細胞に分化することが可能な前駆細胞(腎細胞に分化可能な細胞)(例えば腎由来細胞など)が、分化を可能とする条件下で、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材上に播種された場合に、足場材の表面上に腎近位尿細管上皮単層を形成するという発見に基づいたものである。
本発明は、特定の方法、試薬、化合物、組成物、又は生物学的システムに限定されるものではなく、これらは無論のこと変更可能であることは理解されるはずである。また、本明細書において使用される用語は、あくまで特定の実施形態を説明することを目的としたものに過ぎず、限定的なものではない点も理解されるはずである。本明細書及び添付の「特許請求の範囲」において使用するところの単数形「a」、「an」及び「the」は、その内容について特に明らかに断らないかぎり、複数の指示対象を含むものである。したがって、例えば、「a cell」と言う場合には、2つ又は3つ以上の細胞の組み合わせなどが含まれる。
本明細書において、量、時間の長さなどの測定可能な値を指して使用するところの「約」なる用語は、具体的に示された値からの±20%又は±10%、より好ましくは±5%、更により好ましくは±1%、いっそうより好ましくは±0.1%の変動を含むことを意味するが、このような変動は開示される方法を実施するうえで適切なものである。
特に断らないかぎり、本明細書において使用するすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に述べられるものと同様又は同等の任意の方法及び材料を本発明の試験を実施するために使用することができるが、本明細書では好ましい材料及び方法について述べる。本発明を説明及び特許請求するうえで以下の用語が用いられる。
「分化」とは、特化していない(「コミットしていない」)又はより特化していない細胞が、例えば腎細胞などの特化した細胞の特徴を獲得する過程である。「分化した、又は分化誘導された細胞」とは、細胞の系統内でより特化した(「コミットした」)位置にある細胞である。分化の過程について用いる場合の「コミットした」なる用語は、分化経路上で、通常の条件下において特定の細胞型又は細胞型のサブセットへと分化を継続する点にまで進行しており、通常の条件下では異なる細胞型に分化することも、より未分化の細胞型に戻ることもできない細胞のことを指す。「脱分化」とは、細胞が細胞の系統内においてより特化(又はコミット)していない位置へと戻る過程のことを指す。本明細書で使用するところの細胞の「系統」とは、細胞の遺伝、すなわち、その細胞がどの細胞に由来し、どのような細胞を発生させることができるかを定義する。ある細胞の系統とは、所定の発生及び分化の遺伝体系内にその細胞を位置付けるものである。「系統特異的なマーカー」とは、対象とする系統の細胞の表現型に特異的に関連付けられる特徴のことを指し、コミットしていない細胞の対象とする系統への分化を評価するために使用することができる。
広義には、「前駆細胞」とは、それ自体よりも分化した子孫細胞を作り出す能力を有しながらも、前駆細胞のプールを補充する能力を保持している細胞である。その定義によれば、幹細胞自体もまた、最終分化細胞へのより直接的な前駆細胞であるため、前駆細胞である。本明細書に開示される細胞について言う場合、「前駆細胞」のこの広義の定義を用いる場合がある。分化した細胞は、それ自体が多能性細胞から誘導された多能性細胞から誘導することができる、といった具合である。これらの多能性細胞のそれぞれを幹細胞とみなすことができるが、それぞれが生じうる細胞型の範囲は大きく異なりうる。分化した細胞の中には、より大きな発生能を有する細胞を生じさせる能力を有するものもある。このような能力は自然に備わっている場合もあれば、各種の因子による処理によって人工的に誘導することもできる。「増殖」とは細胞数の増大を示す。
本明細書で使用するところの「腎前駆細胞」とは、同等な能力を有する娘細胞を産生する以外に、脂肪細胞又は骨芽細胞などの細胞を生じることができるか、又は例えば腎組織などの1つ又は2つ以上の種類の組織を生じることができる哺乳動物(例えばヒト)の腎由来細胞である。「腎臓又は腎前駆細胞」とは、成人又は胎児腎組織に実質上由来する多能性(multipotent)又は多能性(pluripotent)細胞である。これらの細胞は、速やかな増殖性及び他の細胞系統に分化する能力を含む、多能性幹細胞に固有の特徴を有することが見出されている。「多能性」腎前駆細胞は、例えば腎細胞系統、脂肪細胞系統、又は骨芽細胞系統などの複数の細胞系統を生じることができる。腎前駆細胞は、初期発生遺伝子マーカー、腎発生遺伝子マーカー、後腎間葉遺伝子マーカー、及び後腎間葉の生存を促進する遺伝子について所定の遺伝子発現プロファイルを示す。例えば、腎前駆細胞(例えばヒト腎由来細胞)は、Oct−4、Pax−2及びRex−1を含む(ただしこれらに限定されない)遺伝子の発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTERT及びWnt−4を含む(ただしこれらに限定されない)遺伝子の発現について陰性である遺伝子発現プロファイルを示す。
「組織」とは、ともに特定の特殊な機能を行う、同様に特化した細胞群又は細胞層のことを指す。「臓器」とは、微小構造を形成する何らかの形の細胞−細胞及び/又は細胞−マトリクス相互作用を維持した2つ又は3つ以上の隣接組織層のことを指す。
「腎臓」とは、腹部内の1対の臓器の一方のことを指す。腎臓は、血液から老廃物を除去し(尿として)、エリスロポエチンを産生して赤血球の産生を刺激し、血圧の調節に一定の役割を担っている。腎臓は、適切な水及び電解質バランスを維持し、酸−塩基濃度を調節し、血液から代謝老廃物を濾過して尿として排出するように機能する。
「初代培養」とは、組織から単離された多くの異なる細胞型の相互作用を可能とする、細胞の混合された細胞集団のことを指す。「初代」なる語は、組織培養の技術分野におけるその通常の意味を有する。「培養中で自己複製及び増殖が可能である」とは、細胞培養中で増殖及び分裂し、細胞マーカー、及び母細胞から娘細胞への栄養因子の分泌により測定した場合にほぼ同じ表現型を維持する哺乳動物の腎由来細胞集団のことを指す。哺乳動物の腎由来細胞集団の複製の特定の時点において、表現型は腎由来細胞のより特化した、又は分化した状態へと変化しうる。
培養中の細胞を説明するうえで様々な用語が用いられる。「細胞培養」とは、生物から採取され、調整された条件下、例えば「培養中」で増殖させた細胞を一般的に指す。「初代細胞培養」とは、生物から直接採取された、最初の継代培養を行う前の細胞、組織又は臓器の培養物である。細胞は、細胞の増殖及び/又は分裂を促進する条件下で、増殖培地内に置かれると培養中で「増殖」して、より大きな細胞集団を形成する。細胞を培養中で増殖させる場合、細胞増殖の速度は、細胞の数が倍加するのに必要な時間の量によってしばしば測定される。これは「倍加時間」と呼ばれる。
「細胞株」とは、初代細胞培養の1回又は2回以上の継代培養によって形成される細胞の集団である。継代培養の各回は、継代数と呼ばれる。細胞が継代培養される場合、細胞が「継代」されたと称する。特定の細胞の集団又は細胞株は、細胞が継代された数によってしばしば呼ばれるか又は特徴付けられる。例えば、10回継代された培養細胞集団は、「P10」培養と呼ぶことができる。初代培養、すなわち、組織から細胞を単離した後の最初の培養はP0と称される。最初の継代培養の後、細胞は2次培養(P1又は継代数1)といわれる。2回目の継代培養の後では、細胞は3次培養(P2又は継代数2)となる、といった具合である。継代の期間中に集団は何度も倍加しうることから、培養の集団倍加数は、継代数よりも通常は大きいことが当業者であれば理解されるであろう。継代間の期間における細胞の増殖(すなわち、集団倍加数)は、播種密度、支持体、培地、及び継代間の時間を含むがこれらに限定されない多くの因子に依存する。
一般的に「栄養因子」とは、細胞の生存、成長、増殖、成熟、分化、及び/若しくは維持を促進するか、又は細胞の活性の増大を刺激する物質として定義される。本明細書において「栄養的支持」とは、細胞の生存、成長、増殖、成熟、分化、及び/若しくは維持を促進する能力、又は細胞の活性の増大を刺激する能力を指して用いられる。本発明の哺乳動物腎由来細胞集団は、増殖因子、サイトカイン、及び分化因子を含むが、これらに限定されない栄養因子を産生する。栄養因子としては、これらに限定されるものではないが、FGF2、HGF、TGFα、TIMP−1、TIMP−2、VEGF、MMP−2、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
「非免疫原性」とは、治療が行われた哺乳動物患者の大部分において有害な免疫反応、すなわち哺乳動物患者の健康を阻害するか又は治療が行われた哺乳動物患者における治療反応を阻害するような免疫反応を引き起こさない細胞又は細胞集団のことを指す。
「遺伝子」とは、遺伝子産物をコードした核酸配列のことを指す。遺伝子は、場合により、遺伝子の発現のために必要とされる配列情報(例えばプロモーター、エンハンサーなど)を含む。「ゲノム」なる用語は、生物のゲノムに関連して用いられる。
「遺伝子発現データ」とは、遺伝子発現の異なる側面に関する情報を含む1つ又は2つ以上のデータ群のことを指す。こうしたデータ群には、場合に応じて、細胞又は細胞由来試料中の標的転写産物の存在、標的転写産物の相対的及び絶対的存在量、異なる処置が特定の遺伝子の発現を誘導する能力、及び異なる処置が特定の遺伝子の発現を異なるレベルに変化させる能力に関する情報が含まれる。
「遺伝子発現プロファイル」とは、選択された発現条件(例えば、1乃至複数の時点における基準化合物又は試験化合物の存在下でのインキュベーション)がない場合の(ベースライン又はコントロール)、又はこうした条件に応じた複数の遺伝子の発現レベルを表したもののことを指す。遺伝子発現は、各遺伝子について転写されたmRNAの絶対量を、コントロール細胞と比較して試験細胞において転写されたmRNAの比として表したものなどによって表すことができる。遺伝子発現プロファイルとは、患者における個々の遺伝子及び個々の遺伝子の組の発現のことも指す。
「単離された」又は「精製された」とは、自然の状態から「人の手によって」変化させられたことを指すものであり、すなわち、自然界に存在するあらゆるものは、その元の環境から取り出された場合に単離されたもの(又はその両方)として定義される。「単離された」は、例えば夾雑物(すなわち細胞とは異なる物質)から分離された哺乳動物腎由来細胞集団のような組成物も定義する。一態様では、細胞の集団又は組成物は、それらが自然界において関連しうる細胞及び物質を実質上含まない。哺乳動物腎由来細胞に関し、「単離された」又は「精製された」又は「ほぼ純粋な」とは、全体の細胞集団を構成する哺乳動物腎由来細胞に対して、少なくとも約50%、少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%純粋である哺乳動物腎由来細胞の集団のことを指す。換言すれば、「ほぼ純粋な」なる用語は、後の培養及び増幅を行う前の最初の未増幅の単離された集団中に約50%よりも少ない、好ましくは約30%よりも少ない、好ましくは約20%よりも少ない、より好ましくは約10%よりも少ない、最も好ましくは約5%よりも少ない、系統コミットした腎細胞を含む、本発明の哺乳動物腎由来細胞の集団のことを指す。細胞の集団又は組成物の純度は、当該技術分野では周知の適当な方法によって評価することができる。
本明細書において使用するところの「に由来する」なる用語は、「から得られた」も意味する。したがって、例えばヒト腎由来細胞とは、ヒト腎組織から単離されて得られた細胞である。この用語にはまた、組織から得られた(例えば単離された)後に培養された細胞も含まれる。
本発明は、脱細胞化された生物学的足場材、及び腎細胞に分化可能な細胞から形成された腎近位尿細管上皮単層を含む近位尿細管装置を開示する。足場材と細胞とはともに多要素の2次元的近位尿細管装置を構成する。この腎近位尿細管細胞上皮単層は、機能する近位尿細管細胞で構成される。
本発明の近位尿細管装置は、例えばMEK阻害剤などの阻害剤を使用することなく、接触阻害の天然の調節機構の機能、及び完全な単層の形成を最適に促進するものである。脱細胞化された生物学的足場材の使用により、本発明の近位尿細管装置は、生体内で腎細胞が通常曝露される下層のマトリクスを有利に代替し、かつ/又は模倣するものでもある。最適な点として、天然の脱細胞化された足場材上への播種により、細胞が分化して、従来の方法によって得られるものよりも安定した上皮単層を形成することが可能となる。
本発明は、輸送の研究、腎毒性のスクリーニング用、又は治療薬の効果をスクリーニングするためのインビトロ試験システムとして使用することが可能な2次元的近位尿細管装置について述べる。一実施形態では、2次元的バイオ人工腎近位尿細管装置は、脱細胞化された生物学的足場材に、腎前駆細胞、及び必要に応じて場合によっては更に微小血管内皮細胞を播種した後、静的培養又はバイオリアクター中で培養を行って、腎細胞を、機能する近位尿細管細胞に分化させ、組織化した装置をインビトロ試験用に維持することによって構築される。これらの機能する近位尿細管細胞は、足場材の表面上に単層を形成する。
本発明はまた、本明細書に述べられるバイオ人工近位尿細管装置の構成要素としての脱細胞化された生物学的足場材の使用についても述べる。脱細胞化された生物学的足場材の1つ又は2つ以上の表面に細胞を播種することができる。一実施形態では、脱細胞化された足場材は、任意の哺乳動物組織、好ましくは消化管の一部分、最も好ましくは胃、十二指腸、空腸、回腸又は結腸に由来するものであってよい。一実施形態では、足場材が由来する組織は、最も好ましくは空腸の一部である。一実施形態では、脱細胞化された生物学的足場材は、粘膜又は粘膜下組織に由来するものである。別の実施形態では、脱細胞化された生物学的足場材は、哺乳動物の小腸粘膜下層に由来するものである。脱細胞化された足場材、又はその小片を、足場材表面の両側の播種を可能とする装置に固定することができる。
脱細胞化された足場材を形成するために使用される供給源組織は、これらに限定されるものではないが、ヒト、霊長類、ウシ、ヒツジ、ブタ、又はラット組織を含む任意の哺乳動物組織でありうる。本発明の一実施形態では、組織は哺乳動物から単離される。別の実施形態では、脱細胞化された足場材は哺乳動物の細胞培養物に由来するものである。更なる実施形態では、供給源組織はブタ組織である。好ましい実施形態では、足場材は、例えば生後6ヶ月未満の若齢動物、又は生後3ヶ月未満の若齢動物のような若齢の動物から単離されたブタ組織に由来するものである。より好ましい実施形態では、足場材は、体重約10〜25kg、又は体重約10〜20kg、又は体重約15〜20kgの若齢動物から単離されたブタ組織に由来するものである。最も好ましい実施形態では、足場材は体重約10〜約15kgの動物から単離されたブタ組織に由来するものである。
組織の非細胞化(例えば脱細胞化)は、従来の方法を用いて行うことができる。一実施形態では、単離される組織の粘膜構造は、単離の間に保存される。好ましい一実施形態では、粘膜構造はその後、部分的又は完全に除去されて細胞を付着させるための粘膜下層が露出させられる。本発明の一実施形態では、腎前駆細胞は、粘膜構造上で培養される。粘膜構造と比較して粘膜下層構造上で培養した場合に、より高い比率(%)の腎前駆細胞が上皮形態を獲得することが観察されている。したがって、代替的な一実施形態では、腎前駆細胞は粘膜下層構造上で最適に培養される。
本明細書において使用するところの「腎細胞に分化可能な細胞」とは、腎細胞に分化する前駆細胞、例えば腎細胞に分化可能な任意の祖先、前駆、又は初代細胞を意味するものである。一実施形態では、細胞は、初代腎近位尿細管上皮細胞、腎細胞若しくは腎前駆細胞(例えば人工多能性幹細胞など)に分化させた前駆(例えば幹)細胞、ヒト腎由来細胞、腎臓から単離した幹細胞、又は腎臓から単離した前駆細胞、及びこれらの混合物から選択することができる。例えば、これらに限定されるものではないが、胚性幹細胞、iPS細胞、臍帯由来細胞、胎盤由来細胞、又は間葉系幹細胞を含む、腎細胞又は腎前駆細胞に分化可能な任意の前駆(例えば幹)細胞を使用することが可能である。
本発明の一実施形態では、分化可能な細胞は哺乳動物腎由来細胞である。したがって、本発明の一実施形態は、哺乳動物の腎臓(例えばヒト腎臓など)から単離された哺乳動物腎由来細胞の、本明細書に述べられるバイオ人工近位腎システムの構成要素としての使用である。その開示内容の全体を本明細書に援用するところのコルター(Colter)らに付与された米国特許出願公開第2008/0112939号に述べられるように、こうした前駆細胞はヒト腎組織に由来するものでよく、これらの腎由来細胞は尿細管構造に自己組織化することが可能であり、腎疾患の治療に使用することが可能であることがこれまでに示されている。
哺乳動物腎由来細胞を単離、培養、及び特性評価するために用いられる代表的な方法は、コルター(Colter)らに付与された米国特許出願公開第2008/0112939号に述べられている。米国特許出願公開第2008/0112939号に述べられるように、ヒト腎由来細胞はヒト腎臓から単離されるものであり、臓器移植に適している。一実施形態では、細胞の単離に先立って、リン酸緩衝溶液などの任意の適当な培地又は緩衝液で洗浄することにより血液及び組織片を腎臓組織から除去する。次いで、例えばヒト腎由来細胞などの腎由来細胞を、酵素消化によって哺乳動物腎組織から単離する。酵素は、哺乳動物(例えばヒト)腎組織から細胞を解離させるために用いられる。一実施形態では、ディスパーゼを使用することができる。また、中性プロテアーゼ(例えばディスパーゼ)、メタロプロテアーゼ(例えばコラゲナーゼ)及びヒアルロニダーゼの組み合わせを使用して、哺乳動物(例えばヒト)腎組織から細胞を解離させることができる。次いで、単離した細胞を、ゼラチンで予めコーティングした滅菌組織培養容器に移す。哺乳動物(例えばヒト)腎由来細胞は、これらに限定されるものではないが、例えばREGM(商標)腎上皮増殖培地(ロンザ社(Lonza)、メリーランド州ウォーカーズビル)、又はADVANCED(商標)DMEM/F12(インビトジェン社(Invitrogen))などの細胞の増殖を持続させることが可能な任意の培地中で培養される。
腎細胞に分化可能な細胞(例えば、腎細胞に分化可能な前駆細胞)又は哺乳動物腎由来細胞は、細胞の集団であってよい。一実施形態では、ヒト腎由来細胞の集団を用いる。別の実施形態では、その集団は均質である。別の実施形態では、その集団はほぼ均質である。
いくつかの実施形態では、腎由来細胞は、腎皮質、腎髄質、腎被膜下領域、及びこれらの混合物から得ることができる。
哺乳動物(例えばヒト)腎由来細胞は、例えば、形態、増殖能、表面マーカー表現型、初期発生遺伝子発現、腎発生遺伝子発現、及び栄養因子分泌などの表現型の特徴によって特徴付けられる。表面マーカー、遺伝子発現及び栄養因子分泌の表現型は、培養中でのヒト腎由来細胞集団の複数回の継代後に維持される。
好ましい実施形態では、単離された哺乳動物腎由来細胞(すなわち細胞集団)は、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、下記に述べるもののいずれかのような固有の発現プロファイルを示す。
本発明の別の実施形態では、ヒト腎由来細胞は、Oct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7、又はGDF5のうちの少なくも1つの発現について陽性である。更なる別の実施形態では、細胞は、Sox2、FGF4、hTert、Wnt−4、SIX2又はGATA−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である。代替的な一実施形態では、細胞は、Oct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7、又はGDF5のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert、Wnt−4、SIX2又はGATA−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である。代替的な一実施形態では、細胞は、Eya1、WT1、FoxD1、BMP7、BMP2、GDF5、EpoR又はRex−1のうちの少なくとも1つの発現について陽性である。更なる別の代替的な一実施形態では、細胞は、Sox2、FGF4、hTert又はWnt−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である。代替的な一実施形態では、細胞は、Eya1、WT1、FoxD1、BMP7、BMP2、GDF5、EpoR又はRex−1のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert又はWnt−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である。本発明の一実施形態では、ヒト腎由来細胞はまた、細胞表面マーカーHLA I、CD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD166、又はSSEA−4の少なくとも1つについても陽性である。別の実施形態では、ヒト腎由来細胞はまた、細胞表面マーカーHLA II、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、CD141、又はE−カドヘリンの少なくとも1つについても陰性である。代替的な一実施形態では、ヒト腎由来細胞はまた、細胞表面マーカーHLA I、CD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD166、又はSSEA−4のうちの少なくとも1つについても陽性であり、かつ、細胞表面マーカーHLA II、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、CD141、又はE−カドヘリンのうちの少なくとも1つについても陰性である。一実施形態では、ヒト腎由来細胞は、栄養因子FGF2、HGF、TGFα、TIMP−1、TIMP−2、MMP−2又はVEGFのうちの少なくとも1つを分泌してもよい。好ましい一実施形態では、細胞は、栄養因子PDGFbb及びIL12p70の少なくとも一方を分泌しない。
代替的な一実施形態では、バイオ人工近位尿細管装置とともに用いられる前駆細胞は、ヒト腎由来細胞である。これらのヒト腎由来細胞は、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、Oct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7、又はGDF5のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert、Wnt−4、SIX2、E−カドヘリン又はGATA−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である。更に、ヒト腎由来細胞はまた、細胞表面マーカーHLA−I、CD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD90、CD166、又はSSEA−4のうちの少なくとも1つについても陽性であってよく、かつ、細胞表面マーカーHLA II、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、及びCD141のうちの少なくとも1つについても陰性であってよい。更に、これらの細胞は場合により、栄養因子FGF2、HGF、TGFα、TIMP−1、TIMP−2、MMP−2又はVEGFのうちの少なくとも1つを分泌し、栄養因子PDGF−bb又はIL12p70の少なくとも一方を分泌しない。
更なる別の実施形態では、ヒト腎由来細胞は、(1)Oct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7及びGDF5の発現について陽性であり、かつ、(2)Sox2、FGF4、hTert、SIX2及びGata−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である。代替的な一実施形態では、腎由来細胞は、(1)Oct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7及びGDF5の発現について陽性であり、かつ、(2)Sox2、FGF4、hTert、SIX2及びGata−4のうちの少なくとも1つについて陰性であり、(3)細胞表面マーカーHLA I、CD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD166、及びSSEA−4について陽性であり、かつ、(4)HLA II、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD90、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、CD141、及びE−カドヘリンについて陰性である。
別の実施形態では、ヒト腎由来細胞は、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、HLA I及びCD44の細胞表面マーカーの発現について陽性であり、Oct−4、Pax−2、及びWT1の遺伝子発現について陽性であり、CD133の細胞表面マーカーの発現及びWtn−4の遺伝子発現について陰性である。一実施形態では、ヒト腎由来細胞は更に、BMP7、BMP2、GDF4、EpoR及びRex−1の遺伝子発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4及びhTertの遺伝子発現について陰性である。
代替的な一実施形態では、ヒト腎由来細胞は、(1)培養の自己複製及び増殖することが可能であり、(2)HLA−I、及びOct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7又はGDF5のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、(3)CD133、及びSOX2、FGF4、hTert、Wnt−4、SIX2、E−カドヘリン又はGATA−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である。これらの細胞は更に、(4)細胞表面マーカーCD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD90、CD166又はSSEA−Aのうちの少なくとも1つについて陽性であってもよく、かつ、(5)細胞表面マーカーHLA II、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、CD141、及びE−カドヘリンのうちの少なくとも1つについて陰性であってもよい。これらの細胞はまた、栄養因子FGF2、HGF、TGFα、TIMP−1、TIMP−2、MMP−2又はVEGFのうちの少なくとも1つを分泌し、栄養因子PDGFbb又はIL12p70の少なくとも一方の分泌を欠いてもよい。代替的な一実施形態では、ヒト腎由来細胞は集団である。
哺乳動物(例えばヒト)腎由来細胞は、最初に使用したものと同じか又は異なる種類の新鮮培地が入れられた別の培養容器に継代し、そこで細胞の集団を有糸分裂により増殖させることができる。次いで、哺乳動物(例えばヒト)腎由来細胞を生物学的マトリクス中に播種し、培養することで腎由来細胞を、機能する近位尿細管細胞に分化させる。本発明の細胞は、継代数0と老化の間の任意の時点で使用することができる。細胞は、好ましくは約3〜約20回、約5〜約10回、約15〜20回、約5〜約7回、及びより好ましくは約3〜約7回継代される。
本発明の一実施形態では、脱細胞化された生物学的足場材の2つ又は3つ以上の表面に細胞を播種する。一実施形態では、足場材の一方の表面に血管内皮細胞を播種し、次いで他方の表面に哺乳動物腎由来細胞を播種する。この後、播種された足場材を培養して腎由来細胞を、機能する近位尿細管に分化させ、反対側の表面上に血管内皮単層を形成させる。
一実施形態では、足場材の再増殖に使用されるヒト血管内皮細胞は、内皮細胞株、骨髄若しくは全血内皮前駆細胞、又は初代内皮若しくは微小血管内皮細胞から選択することができる。使用される血管内皮細胞は、従来の方法を用いて単離される。好ましい一実施形態では、足場材の再増殖に使用される細胞は、初代微小血管内皮細胞である。一実施形態では、使用される血管内皮細胞は、任意の哺乳動物源から単離することができる。好ましい一実施形態では、単離される血管内皮細胞は、ヒト由来のものである。代替的な好ましい一実施形態では、血管内皮細胞は、哺乳動物(ヒト)腎臓から単離した初代微小血管内皮細胞である。
本発明の別の実施形態は、近位尿細管装置を作製するための装置である。
一実施形態では、脱細胞化された足場材の播種は特別に設計された装置(「クラウン」)を使用して行われ、脱細胞化された足場材の小片をその縁部が2枚の金属又はプラスチック片の間に位置するようにして装置に挿入することにより、縁部が効果的に封止されて、足場材によって分離された上部と下部のウェルが形成される。クラウンはまた、脱細胞化された足場材に一定の伸び及び張力を導入する。次いで、細胞を上部ウェル内に播種し、脱細胞化された足場材上に定着させる。クラウンは、ひっくり返すことで足場材の反対側に播種を行ってもよいが、クラウンを分解し、足場材を裏返してから再びクラウンに組み込んで反対側の表面に播種を行うこともできる。腎細胞は足場材上に、約500細胞/cm〜約350,000細胞/cm、又は約1,000細胞/cm〜約100,000細胞/cm、又は約750細胞/cm〜約75,000細胞/cm、又は約10,000細胞/cm〜約300,000細胞/cm、又は約7,500細胞/cm〜約200,000細胞/cm、好ましくは約5,000細胞/cm〜約70,000細胞/cmの範囲の密度で播種することができる。
次いで、装置により細胞播種した足場材を従来の方法を用いて培養することによって腎細胞が分化し、連続的な上皮単層が形成される。培養の時間は、1〜6週間の培養、好ましくは2〜4週間の培養、最も好ましくは3〜4週間でありうる。この後、得られた成熟した近位尿細管装置を、従来の方法を用いて腎輸送の研究、腎毒性試験、又は治療薬の試験に使用することができる。
別の実施形態では、播種された足場材上及びインビトロ試験系における細胞の培養は、足場材が2つの区画の間にバリアを形成するよう、特別に設計されたバイオリアクター内に足場材を置くことによって行われる。バイオリアクターの隔室は、足場材の両面にわたって流体が流れるように設計された流体フローシステムに接続される。流速などのフローシステムの特性を変化させることによって、播種される細胞の種類に応じて、細胞特異的な流体の機械的条件を足場材の両側において確立することで、例えば内皮細胞の基底膜側の機能性を支持することが可能である。足場材は、バイオリアクター内に配置する前に予め細胞を播種するか、あるいはバイオリアクター内に配置した後、バイオリアクター内において細胞を播種してもよい。別の態様では、バイオリアクターは、バイオリアクター内に置かれた脱細胞化された構造体に作用する張力を、細胞の播種及び/又は分化を促進するように、必要に応じて変化させることができるように設計される。
一実施形態では、腎細胞及び場合に応じて内皮細胞の播種について述べた装置を使用して、脱細胞化された足場材に細胞を播種する。次いで、細胞播種した足場材を装置から取り出し、バイオリアクターの隔室に移して下記実施例に述べるように培養又は評価を行う。細胞播種した足場材は、バイオリアクターの隔室に移す前に、装置内で最初に約0〜4週間の間、培養してもよい。腎細胞は足場材上に、約500細胞/cm〜約350,000細胞/cm、好ましくは約5000細胞/cm〜約70,000細胞/cmの範囲の密度で播種することができる。装置内でのインキュベーション時間を含む培養条件は、細胞の供給源及び培地に応じて異なりうる。
別の実施形態では、脱細胞化された足場材を最初にバイオリアクターの隔室内に置き、次いで細胞懸濁液をバイオリアクターの隔室中に灌流し、所定の時間インキュベートして脱細胞化された足場材に細胞を付着させることによって、足場材に播種する。このようなバイオリアクターは、上部本体要素と、足場材の増殖用の領域を有する下部本体要素とを有している。
本発明における使用に適した代表的なバイオリアクターの1つが図15に示されている。図15を参照すると、バイオリアクター100の構成要素は、主本体要素としての上部本体要素110及び下部本体要素120、2個のクリップとしての前部クリップ130及び後部クリップ160、外側閉鎖フラップとしての下部外側閉鎖フラップ140及び上部外側閉鎖フラップ150、並びにコネクタ170である。バイオリアクター100の主リアクター上部本体要素110及び下部本体要素120は、前部クリップ130と後部クリップ160とによって一体に保持されている。上部外側閉鎖フラップ150は、上部本体要素110の上にある。下部外側閉鎖フラップ140は、下部本体要素120の下にある。図16は、バイオリアクターの下部本体要素120の図であり、脱細胞化された足場材にかかる張力を調節するために上部本体要素内のフレームとともに深さを変えることができる溝180が示されている。下部本体要素120は、細胞増殖用領域190を更に有している。
一実施形態では、播種されていない足場材を、バイオリアクター100の上部本体要素110と下部本体要素120との間に配置することができる(図15を参照)。下部本体要素120の溝構造に対応して上部本体要素110内に形成された円形のフレーム構造により、セルクラウンと同様にして足場材を固定することが可能である。張力は、溝の深さ及びフレームのブリッジ幅の異なる、特別に設計されたフレーム/溝の組み合わせを用いることによって調節することができる。フレームを溝180(図16を参照)内に動かすことができる距離によって、足場材の張力が決まり、距離が長いほど張力は高くなる。足場材の直径及び足場材の厚さなどの因子を考慮する必要がある。足場材が配置された後では、バイオリアクターの前部クリップ130と後部クリップ160とによって上部本体要素110及び下部本体要素120は一体に保持され、構造体をセルクラウンのようにして扱うことができる。下部外側閉鎖フラップ140及び上部外側閉鎖フラップにより、システムを閉じることが可能となっており、細胞懸濁液をバイオリアクターのコネクタ170から足場材の一方の側に導入することができる。細胞は細胞増殖領域190で増殖する。細胞ごとに異なる、播種細胞が接着しうる時間の後、閉じた状態のバイオリアクターをひっくり返し、第2の、又は同じ種類の細胞を足場材の反対側に播種することができる。一実施形態では、播種に用いられる細胞懸濁液は、約10細胞/mL〜約10細胞/mLの範囲とすることができる。第1の側に播種された細胞の生存率の低下を防ぐため、第1の側の区画を媒質で満たすことができる。静的条件が必要とされる場合には、この区画は細胞培地で満たせばよい。また、コネクタ170を使用して、異なるフロー条件で媒質の灌流を開始してもよい。
足場材に細胞が接着した後、各隔室区画に媒質を単純に満たし、バイオリアクターのコネクタを閉じることにより、細胞を静的に培養することができる。また、フローシステムの管をバイオリアクターに接続して、灌流を開始してもよい。この後、バイオリアクターの各隔室内において脱細胞化された足場材上に播種された細胞を培養することによって、細胞を増殖させ、腎尿細管細胞の機能性の単層に分化させる。細胞の培養には、静的培養、又はより好ましくは、リニアフロー又は拍動性フローなどの動的条件下での培養が含まれる。流速、圧力、及び拍動の条件は、細胞の増殖及び機能性腎細胞への分化を促進するようにいずれも変化させることができる。バイオリアクター内の媒質の平均流速は、1〜25mL/分、又は約1〜約10mL/分、又は約2.5〜約10mL/分、又は約5〜20mL/分の範囲でよい。好ましい一実施形態では、平均流速は、約2.5〜15mL/分の範囲とすることができる。培養期間は、約1〜約4週間、又は約1〜約2週間、又は約1〜約3週間、又は約2〜約4週間の範囲でよい。好ましい一実施形態では、培養期間は、好ましくは約2〜3週間の範囲とすることができる。この期間の間、当該技術分野においては周知の方法によって細胞層の完全性を監視することができる。一実施形態では、細胞層の完全性は、バイオリアクターの各区画に組み込まれた電極によって経上皮電気抵抗を測定するか、又は例えばイヌリン又はクレアチニンなどの各種の蛍光標識された分子が単層を通過する漏れを測定することによって監視することができる。別の実施形態では、異なる細胞培地が各隔室中で使用される。更なる別の実施形態では、異なる流速、圧力、及び拍動の条件を各隔室内で用いることによって、流動指数せん断応力により、細胞ごとに異なる培養が可能となる。バイオリアクターについての記載は、ドイツ特許出願第102008056037.5−41号及び欧州特許出願公開第2 184 344号にも見ることができ、これらの開示内容をその全容にわたって本明細書に援用するものである。
本発明の別の実施形態は、腎細胞に分化可能な細胞(例えば、哺乳動物(ヒト)腎由来細胞)を、張力下でその細胞を分化させることによって、腎近位尿細管細胞の安定的な単層に分化させる方法である。この方法は、更に、本発明の近位尿細管装置を作製するための本発明の足場材の使用を含みうる。
本発明の近位尿細管装置は、腎毒性のスクリーニングを行うための、又は治療薬のスクリーニングを行うためのインビトロ試験システムとして使用することができる。別の実施形態では、本装置は、所定の化合物又は粒子への曝露時又は曝露後の輸送などの尿細管細胞の機能を監視するために使用することができる。各表面上の流れに対して異なる媒質の配合を使用することにより、一方の媒質の区画から他方へと細胞及び足場材の層を通過する輸送を研究することが可能となる。このような媒質の配合の1つの例として、mvECが播種された区画中に内皮細胞媒質を流し、腎尿細管単層を含む反対側の区画中に糸球体濾液を模した媒質の配合を流すことがある。
これにより、腎尿細管単層の輸送機能を当業者には周知の標準的な方法及び標識分子を使用して評価することができる。対象とする化合物若しくは粒子を、内皮細胞に栄養を供給する、内皮細胞と接触した血管区画の流路に加えるか、又は化合物若しくは粒子を、腎尿細管細胞に栄養を供給する、腎尿細管細胞と接触した尿細管区画の流路に導入し、それぞれ血液及び尿中の毒性生体異物化合物の出現を模することにより、毒性スクリーニングを行うことができる。化合物又は粒子の輸送は、一方又は両方の流路の媒質をアッセイすることにより監視することができる。更に毒性は、対象とする化合物への曝露後の細胞生存率、形態、又は輸送機能に対する影響をアッセイすることにより監視することができる。化合物又は粒子の毒性若しくは治療効果の評価に用いられるアッセイは、上記に述べたものに限定されない。
治療標的は、最初にバイオ装置の腎由来細胞を障害してから、この細胞を試験治療粒子で処理することによってアッセイすることができる。障害は、例えば細胞を毒性化合物又は粒子、例えばシスプラチン又はストレプトゾシンなどに曝露するなど、物理的又は化学的手段によって導入することができる。試験治療化合物又は粒子は、例えば治療薬の静脈内(IV)投与後に細胞が曝露される濃度を模した濃度で、装置の血管区画の流路に加えることによって、細胞と接触させることができる。この後、腎尿細管細胞機能の監視を利用して、適用された試験治療化合物の有効性の度合いを決定することができる。
尿細管機能の監視には、これらに限定されるものではないが、腎尿細管細胞による化合物又は粒子の取り込み、細胞によって取り込まれた化合物又は粒子の、近位尿細管装置の一方の媒質区画から他方への輸送、取り込み又は輸送に対する阻害剤の作用、及び腎尿細管細胞の遺伝子若しくはタンパク質発現、形態、表面マーカーの発現、酵素活性若しくは生存率の変化を検出又は評価することが含まれる。化合物又は粒子の毒性若しくは治療効果の評価に用いられるアッセイは、上記に述べたものに限定されない。
本発明の別の実施形態は、本発明のバイオ人工近位尿細管装置を含むキットである。一実施形態では、キットは、バイオ人工尿細管装置及び製品インサートを含む。
本発明の代替的な一実施形態は、本発明のバイオ人工近位尿細管装置を含む組成物である。一実施形態では、組成物は、本発明のバイオ人工近位尿細管装置及び薬学的に許容される担体を含む。
更なる説明を行わずとも、当業者であれば、上記の説明及び以下の例示的な実施例を利用することで、本発明を行い及び使用し、特許請求される方法を実施することが可能であるものと考えられる。したがって、以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を具体的に指摘するものであって、本開示の残りの記載をいかなる意味においても限定するものとして解釈されるべきではない。更に、本明細書中、以下の実施例及び他の箇所において使用される、本明細書の装置及び方法において有用な腎由来細胞(「hKDC」)は、米国特許出願公開第2008/0112939号の開示に従って単離及び特性評価することが可能である。なお、当該出願公開は、hKDCの説明、単離及び特性評価に関するものであり、その全容を援用するものである。
実施例1:細胞外マトリクス足場材へのhKDCの播種及び分化
この実験では、異なる形態の細胞外(すなわち脱細胞化された)マトリクス足場材、及びコラーゲンコーティングしたトランスウェル上の従来の培養へのヒト腎由来細胞(「hKDC」)の付着、増殖及び分化について試験を行う。
継代数4のhKDCを、3つの異なる形態の足場材及びトランスウェル(コーニング社(Corning)、ニューヨーク州コーニング)上に播種した。細胞を、REGM(商標)腎上皮増殖培地(ロンザ社(Lonza)、メリーランド州ウォーカーズビル)により3週間にわたって培養した。それぞれの形態の足場材を、2.5×10、5×10、及び1×10細胞の3つの異なる細胞濃度で試験した。試験を行った形態は、1)コラーゲンサンドウィッチ培養、2)コラーゲン−SISサンドウィッチ培養、3)SIS単層培養、及び4)コラーゲンコーティングしたトランスウェルである。
コラーゲンサンドウィッチ培養
hKDCを、24穴プレート中、2枚のコラーゲンゲル層の間で培養した。下側のゲルは、最初に冷たいゲル中和溶液をコラーゲン(ラットの尾の腱から単離した1型コラーゲン、0.1%酢酸中、6mg/mL)と1:2の比で混合し、次いで各ウェル当たり500μLのこの溶液を加えることにより流し込んだ。この溶液を37℃/5% COで15分間インキュベートすることによりゲル化した。その後、細胞を各ウェル当たり1mLの培地中に播種した。24時間後、カバーゲルを流し込んだ。培地を吸引し、300μLのゲル溶液(上記のようにして調製したもの)を各ウェルにピペットで加えた。この溶液を37℃/5% COで15分間インキュベートすることによりゲル化した。最後に、各ウェル当たり1mLの培地を加えた。
小腸粘膜下層(SIS)単層培養
従来の方法を用いて小腸粘膜下層(SIS)の切片を脱細胞化することにより、足場材を調製した。簡単に述べると、ブタ小腸の切片の粘膜を機械的に除去した。その後、小腸切片を3.4%のデオキシコール酸ナトリウム中、4℃で1時間、振盪しながらインキュベートすることにより脱細胞化を行った。次いで脱細胞化された切片をPBSでよく洗い、γ線照射により滅菌した。SIS単層の培養には12穴プレートを使用した。脱細胞化されたSISを円形の金属フレームに架け渡し、細胞を播種する前日に各ウェル当たり1mLの培地で覆った。架け渡したSIS表面は、24穴プレートのウェルの表面にほぼ等しい。SIS上に細胞を播種するため、細胞培地を除去し、適量の細胞を各ウェル当たり1mLの培地中に播種した。
SISサンドウィッチ培養
上記に述べたのと同様にしてSIS足場材を調製し、hKDCを播種した。細胞を24時間付着させてから、コラーゲンサンドウィッチ培養と同様にして(上記を参照)カバーゲルを細胞を覆って流し込んだ。
トランスウェル培養
トランスウェルを12穴プレートに移し、それぞれを200μLの1型コラーゲンでコーティングした(0.1%酢酸中、100μg/mL)。コーティング溶液を室温で20分間インキュベートしてから吸引した。適量の細胞を、各ウェル当たり1.5mLの培地中に播種した。
上記の条件のそれぞれで、複数の試料を3週間培養した。1、2及び3週間後に各試料を取り出して組織学的分析を行った。更に、以下の代謝パラメータ、すなわち、グルコース濃度、乳酸、及び乳酸デヒドロゲナーゼについて、培地試料をRANDOX RX DAYTONA(商標)臨床分析装置を使用して分析した。組織学的分析用に採取した各試料を、ブアン固定液で1時間固定した。次いで、各試料を水で少なくとも4時間洗ってからパラフィン中に包埋した。この後、厚さ3μmの切片を調製した。各切片をヘマトキシリン/エオジン(H&E)で染色して、細胞の形態を評価した。更に、以下の抗体、すなわち抗hPAX2、抗hAQP1、抗Ki67、抗hE−カドヘリン及び抗−hN−カドヘリン(下記表1を参照)を使用して免疫組織化学法(IHC)を行って、細胞分化の特性を評価した。免疫組織化学法を行うため、3μmの切片を脱パラフィン化した。標的回復は、プロテイナーゼKによる酵素処理、又はクエン酸緩衝液(pH 6)(ダコ社(Dako)、#S2369)若しくはTris/EDTA緩衝液(pH9)(ダコ社(Dako)、#S2367)中で加熱することによって行った。3%水素ペルオキシダーゼによるブロッキング工程を行って内因性のペルオキシダーゼをブロックした。次いで一次抗体を1時間インキュベートした後、ENVISION(商標)検出システムペルオキシダーゼ/DABウサギ/マウス(ダコ社(Dako)、#K5007)により検出を行った。切片をヘマトキシリンで対比染色した。
Figure 0006523358
代謝パラメータの分析結果は、hKDCの播種状態は良好であり、試験したすべての培養条件で増殖したことを示している(図1〜6を参照)。H&Eによる組織学的染色により、コラーゲンサンドウィッチ及びSIS−コラーゲンサンドウィッチの両方の培養条件において、細胞はほぼ連続的な2重層又は複数層に増殖し、これが管又は嚢胞に似た3次元的な構造に発達したことを示している。これに対して、SIS上で培養された細胞は、コンフルエントな単層を形成し、この単層は、上皮の分化を示す高度に角柱状の形態を示した(図7及び8を参照)。この形態は、使用した最初の細胞播種濃度とは無関係に培養の3週間後に認められた。コラーゲンコーティングされたPET膜を有するトランスウェル上で培養されたhKDCは、平坦な形態、複数層の形成、及び表面からの剥離が認められ、不連続的な細胞層につながる凝集体を示している。コラーゲンコーティングされたPET膜上でのhKDCのこれらの観察された性質のため、コラーゲンコーティングされたPET膜は輸送アッセイには適していない。同様な複数層の形成がポリエステル及びポリカーボネートのトランスウェル膜でも観察されたが、このことは、このような効果は合成膜一般の性質であり、実験に使用した特定の膜に限った性質ではないことを示している。これらの性質はSIS培養では認められず、この足場材が接触阻害の自然の調節機構の機能及び完全な単層の形成を促進することを示唆している。
Ki67抗体を使用した免疫組織化学法の結果は、hKDCが、試験した足場材の形態のそれぞれにおいて増殖していることを示している。腎臓の転写因子Pax−2の発現も、培養期間の全体を通じて陽性であった。デスモソーム及び接着結合の構成成分としてのカドヘリンは、細胞−細胞接触に関与しており、その発現は細胞分化のマーカーである。カドヘリンは、細胞の極性化、ひいては細胞の機能にとって不可欠である。腎臓では、N−カドヘリンが近位尿細管細胞によって発現されるのに対して、E−カドヘリンは遠位尿細管細胞に多く見られる。IHCの結果は、すべての形態の足場材において、hKDCによるN−カドヘリンに対する強い免疫染色を示している。これに対し、E−カドヘリンに対する免疫染色は、極めて弱い数個の染色領域が認められたものの、ほとんど見られなかった。
アクアポリンは、細胞膜を通過する水の輸送を触媒することから腎機能にとって極めて重要である。アクアポリン1が近位腎細胞によって発現されるのに対して、アクアポリン2は遠位尿細管細胞に多く見られる。アクアポリン1の発現が培養の2及び3週間後に検出されたのに対して、アクアポリン2の発現は認められなかった。複数の領域において、アクアポリン1の染色は、立方細胞の尿細管腔側においてのみ認められ(図9を参照)、主として近位側の細胞の分化をやはり示している。遠位尿細管細胞によって発現される輸送体であるナトリウムグルコース共輸送体1(SGLT−1)のIHCについてもアッセイを行ったが、いずれの試料においてもマーカーの発現は認められなかった。
この実施例は、hKDCが近位尿細管細胞に分化可能であること、及び、この分化が細胞が播種される基質の組成に依存することを示している。平面状の天然の細胞外(すなわち脱細胞化された)マトリクスは、hKDCの上皮の形態及び分化に関して、コラーゲン、SIS/コラーゲン足場材、及び標準的なトランスウェル培養よりも優れた性能を示した。形質転換していない近位尿細管細胞(初代細胞)は、コンフルエンスに達した後も一般的に増殖を続け、トランスウェルのような人工の平らな表面上に3次元的な凝集体が形成される。SISなどの天然の脱細胞化された足場材上への播種により、細胞が分化して、従来の方法によって得られるものよりも安定した上皮単層を形成することが可能となる。
実施例2:脱細胞化された足場材上のhKDCの細胞播種濃度の最適化
実施例1では、コラーゲンを含まない2次元的な脱細胞化された足場材上に播種された細胞は、コンフルエントな上皮単層を形成し、培養の3週間後に近位尿細管マーカーを発現することが示された。以下の実験を行って、細胞の播種密度を最適化し、単層の形成に要する培養期間を短縮することを試みた。
実施例1で述べたように、小腸粘膜下層(SIS)の脱細胞化された切片により足場材を調製した。継代数4のhKDCを、3つの異なる濃度(1×10、5×10、及び1×10細胞/ウェル)でSIS足場材上に播種し、REGM(商標)腎上皮増殖培地(ロンザ社(Lonza)、ウォーカーズビル)により3週間培養した。2及び3週間後に各試料を組織学的分析用に取り出し、ブアン固定液で1時間固定した。この後、各試料を水で少なくとも4時間洗ってからパラフィン中に包埋した。この後、厚さ3μmの切片を調製した。各切片をヘマトキシリン/エオジン(H&E)で染色して、細胞の形態を評価した。更に、免疫組織化学法(IHC)を実施例1と同様に行って細胞分化の特性評価を行った。最初に、3μmの切片を脱パラフィン化した。標的回復は、プロテイナーゼKにより酵素処理するか、クエン酸緩衝液(pH 6)(ダコ社(Dako)、#S2369)中で加熱するか、又はTris/EDTA緩衝液(pH 9)(ダコ社(Dako)、#S2367)中で加熱することによって行った。3%水素ペルオキシダーゼによるブロッキング工程を行って、内因性のペルオキシダーゼをブロックした。次いで一次抗体を1時間インキュベートした後、ENVISION(商標)検出システムペルオキシダーゼ/DABウサギ/マウス(ダコ社(Dako)、#K5007)により検出を行った。切片をヘマトキシリンで対比染色した。
レクチン染色を行って細胞分化を更に評価した。上記に述べたように、3μmの切片を脱パラフィン化し、水素ペルオキシダーゼでブロッキングした。次いで、ロータス・テトラゴノボラス(Lotus tetragonobolus)レクチン(バイオゾル社(Biozol)、#B−1325)又はドリコス・ビフロラス(Dolichos biflorus)アグルチニン(バイオゾル社(Biozol)、#B1035)のいずれかのビオチン化レクチンを1時間培養した後、ストレプトアビジン(バイオ・ジェネックス社(Biogenex)、#LP000−ULE)で標識し、アミノエチルカルバゾールクロモゲン(AEC)(バイオ・ジェネックス社(Biogenex)、#HK129−5KE)を加えることにより検出を行った。切片をヘマトキシリンで対比染色した。
H&E染色の結果は、2週間の培養後、調べた播種密度のいずれにおいても100%コンフルエンスに達しなかったことを示している。しかしながら、3週間の培養後では、いずれの密度で播種した細胞もほぼコンフルエンスに達した単層を形成し、核が細胞の下側3分の1の部分に位置する典型的な立方上皮細胞の形態を呈する領域を有していた。より高い密度で播種した細胞もやはりほぼコンフルエンスに達したが、細胞の形態はそれほど均一ではなく、外観は上皮細胞のようではなかった(図10を参照)。
免疫組織化学法の結果を下記表2にまとめて示す。より播種密度の低い、3週間後の試料のIHCにより、近位尿細管のマーカーであるAQP−1(40〜50%)及びN−カドヘリン(約90%)の発現が検出されたが、遠位尿細管マーカーは発現されないか(AQP−2及びSGLT−1)、又は極めて弱く発現されたのみであった(E−カドヘリン)。また、PAX−2の発現が試料の全体にわたって見られ、タイトジャンクションのマーカーであるクラウジン2が試料の複数の領域において検出された。増殖のマーカーであるKi67は、単層が完全にコンフルエンスに達していない領域においてのみ検出された。重要な点として、IV型コラーゲンの基底膜染色により、基底膜タンパク質が各試料の多くの領域において認められた。IV型コラーゲンの発現は、細胞が足場材を再形成し、新しい基底膜を形成していることを示すものである。
より播種密度の低い3週間後の試料の、ロータス・テトラゴノボラス(Lotus tetragonobolus)レクチン(LTL)(近位尿細管細胞のマーカー)及びドリコス・ビフロラス(Dolichos biflorus)アグルチニン(DBA)(遠位尿細管細胞のマーカー)のビオチン化レクチンによる染色によっても、細胞の大部分が近位尿細管細胞に分化したことが示された。LTLの発現が試料の多くの領域において認められたのに対して、DBAの発現はまばらであり、かつ弱かった(図10を参照)。
この実施例は、細胞の分化の度合いが播種密度に依存することを示している。しかしながら、予期しなかった点として、通常の予想に反して、播種密度が低いほど、分化の度合いは大きくなった。
1×10細胞/ウェルで播種した試料についても、抗ヒトIV型コラーゲン抗体(ダコ社(Dako)、#M0785)を用いて、上記に述べたように免疫組織化学法によりIV型コラーゲンの発現について分析を行った。図11に示される結果は、細胞の基底膜表面上のIV型コラーゲンが陽性に染色されたことを示しているが、このことは、細胞が脱細胞化された天然の足場材上で細胞外マトリクス成分を活発に分泌していることを示すものであり、トランスウェルなどの人工足場材と比較してより生理学的な関連の深い、脱細胞化された天然の足場材上で完全な単層を発生させることが可能であることを示している。更に、このことは、細胞の播種密度が、細胞分化及び単層の形成に直接的な影響を及ぼすことを示唆するものである。
Figure 0006523358
実施例3:P糖タンパク質1の免疫組織化学
実施例1で述べたように、小腸粘膜下層(SIS)の脱細胞化された切片により足場材を調製した。継代数4のhKDCを、5×10細胞/足場材でSIS足場材上に播種し、REGM(商標)腎上皮増殖培地(ロンザ社(Lonza)、ウォーカーズビル)により3週間培養した。3週間後に各試料を組織学的分析用に取り出し、ブアン固定液で1時間固定した。この後、各試料を水で少なくとも4時間洗ってからパラフィン中に包埋した。この後、厚さ3μmの切片を調製した。免疫組織化学法(IHC)を行って、近位尿細管細胞によって発現される排出輸送体であるP糖タンパク質1(pgp−1、MDR1としても知られる)の発現を確認した。脱パラフィン化した切片の標的回復は、プロテイナーゼKにより酵素処理するか、クエン酸緩衝液(pH 6)(ダコ社(Dako)、#S2369)中で加熱するか、又はTris/EDTA緩衝液(pH 9)(ダコ社(Dako)、#S2367)中で加熱することによって行った。3%水素ペルオキシダーゼによるブロッキング工程を行って、内因性のペルオキシダーゼをブロックした。次いで、一次抗ヒトpgp−1(バイオ・ジェネックス社(Biogenex)、#AM−391−5M)を1時間インキュベートした後、ENVISION(商標)検出システムペルオキシダーゼ/DABウサギ/マウス(ダコ社(Dako)、#K5007)により検出を行った。切片をヘマトキシリンで対比染色した。
結果は、細胞単層の尿細管腔側の膜上のpgp−1が陽性に染色されたことを示しているが(図13を参照)、このことは、近位尿細管細胞の機能性マーカーの発現を裏付けるものであり、更に、述べられる足場材及び播種方法が、hKDCの機能性近位尿細管細胞への分化を可能とするものであることを示している。
実施例4:脱細胞化された足場材上に播種されたhKDCによるアルブミンの取り込み
実施例1で述べたように、小腸粘膜下層(SIS)の脱細胞化された切片により足場材を調製した。継代数4のhKDCを、5×10細胞/足場材でSIS足場材上に播種し、REGM(商標)腎上皮増殖培地(ロンザ社(Lonza)、ウォーカーズビル)により3週間培養した。アルブミンの取り込みを評価するため、細胞播種した試料を最初に無血清培地(REBM基礎培地、ロンザ社(Lonza)、ウォーカーズビル)中で1時間予めインキュベートした。次いで、培地を、200μg/mLの蛍光標識ウシ血清アルブミン(BSA−FITC)(シグマ社(Sigma)、#A9771)を含んだREBM基礎培地に置き換え、30〜60分間インキュベートした。次いで、各試料をPBSで洗い、DAPI(ジアミノジノ−2−フェニルインドール)で対比染色して、蛍光顕微鏡で画像化した。
結果は、細胞が、近位尿細管細胞の機能であるBSA−FITCの取り込みが可能であることを示している(図14を参照)。これらの結果は、脱細胞化された足場材上に播種されたhKDCが、腎近位尿細管分化のマーカーを発現するのみでなく、近位尿細管上皮細胞として機能することを示している。
以下の実施例5〜9は、本発明の足場材の性質を更に説明するために構成された予測的な実施例である。BSA−FITC取り込みなどの機能性アッセイを用いて、細胞障害又は腎毒性、及び腎輸送機能の回復に対する治療化合物の有効性の評価を行うことができる。
実施例5:脱細胞化された足場材上に播種されたhKDCによる有機アニオンの輸送
この実施例では、ローダミン、ルシファーイエロー、又はカルボキシフルオレスセインなどの蛍光色素の輸送をアッセイすることにより、有機アニオン輸送体、及び排出輸送体であるpgp−1の機能について試験を行う。細胞内への輸送は、各種の有機アニオン輸送体(OAT)によって媒介される。pgp−1輸送体がペラパミルによって阻害されると、ローダミンなどの適用された色素が細胞外に輸送されなくなり、細胞の蛍光が増大する。
実施例1で述べたように、小腸粘膜下層(SIS)の脱細胞化された切片により足場材を調製する。継代数4のhKDCを、5×10細胞/足場材でSIS足場材上に播種し、REGM(商標)腎上皮増殖培地(ロンザ社(Lonza)、ウォーカーズビル)により3週間培養する。次いで、上部区画内の培地を、異なる濃度のローダミン、ルシファーイエロー、又はカルボキシフルオレセイン色素を含む、フェノールレッドを含まない培地と交換する。一部のウェルは更に、上部区画に蛍光色素を含む培地(培地中に更なるベラパミルを加えたもの、及び加えないもの)を加えるのに先立って両方の区画内で異なる濃度のベラパミルと予めインキュベートする。次いで、各ウェルを30〜120分間インキュベートする。次いで、各試料をPBSで洗い、固定し、DAPIで対比染色し、蛍光顕微鏡で画像化する。更に、培地の試料を採取して蛍光色素の存在の定量分析を行う。
実施例6:フローバイオリアクター内の脱細胞化された足場材上へのhKDC(微小血管内皮細胞が存在する場合、又は存在しない場合)の播種及び分化
上記に述べたようにしてバイオリアクターシステムを準備した。足場材を、バイオリアクター100の上部本体要素110と下部本体要素120との間に配置し、セルクラウンと同等の張力で固定した(図15を参照)。バイオリアクター内に配置された足場材上の張力は変化させることができ、細胞の単層の形成及びこれに続く分化に最も適した張力の範囲を決定するために実験を行う。足場材の一方の側にはhKDCを播種した後、(流れのない)適当な接着期間を置く。次いで、足場材の他方の側に内皮細胞を播種することができる。コントロールとして、これらの細胞型の一方のみを有するバイオリアクターも置く。次いで適当な細胞接着の時間の後、バイオリアクターの隔室を灌流する。流速を、分化及び上皮単層の形成を促進するように腎臓の条件に合わせて調節する。単層の形成及び完全性を、経上皮電気抵抗(TEER)を定期的に測定し、蛍光FITC−イヌリンの漏れを測定することによって監視する。両方の細胞型が使用される場合では、流れの条件を上皮及び内皮細胞の両方の単層が維持される適当な条件に調節する。TEER及びイヌリンの監視以外に、試料を1、2、及び3週間後に固定する。上皮の形態及び単層の形成を、ヘマトキシリン及びエオジン染色により評価する。
実施例7:SIS足場材上に播種され、フローバイオリアクター内で培養されたhKDC(微小血管内皮細胞を含むもの、又は含まないもの)によるグルコースの機能的輸送及び他の溶質の再吸収
この実施例では、フローバイオリアクター内においてSIS足場材上に播種された場合の、近位尿細管上皮細胞へのhKDCの機能的分化を、一方の培地区画から細胞播種された膜を通過して別の培地区画へと向かうグルコース及び他の溶質の能動輸送を分析することによって実証する。
SIS足場材を実施例1で述べたようにして調製する。従来の方法に従って単離した微小血管内皮細胞(mvEC)を、足場材の一方の側に播種する。次いでhKDCを、足場材の他方の側に播種する。次いで、足場材を、足場材のそれぞれの側にわたった媒質の流れを可能とするバイオリアクターの隔室内に置き、単層が形成されるように実施例6と同様に培養する。単層の形成を、実施例6と同様にTEERの測定及びFITC−イヌリンの漏れによって監視する。この時点で、それぞれの培地区画を、SIS足場材上の完全な細胞単層のみによって分離された小さいループに閉じ込める。グルコースを測定するには、既知の濃度のグルコースを含んだ培地を、例えばフロリジンなどのグルコース輸送阻害剤を加えるか又は加えずに、異なる培地区画内で使用する。成熟した細胞単層にわたって培地を約48時間流し、培地の試料を定期的に取り出して比色分析によりグルコース濃度を測定する。2個の区画内で異なるグルコース濃度で複数の実験を行うことで、グルコース濃度の経時的な変化を調べる。これらの測定結果を用いて、細胞によるグルコースの消費に対する輸送の相対量を時間に対して計算する。例えばアルブミンなどの、細胞によって輸送されるか又は取り込まれて分解される他の溶質について、同様の実験を行うことができる。
実施例8:ビタミンDの活性化
ビタミンDの活性化は、腎臓の近位尿細管細胞の固有の機能の1つである。したがって、この実施例では、不活性型の25−OH−D前駆体をその活性型である1,25−(OH)に変換する25−(OH)D−12−ヒドロキシラーゼ酵素の活性を試験することにより、ビタミンDの活性化について試験を行う。
ビタミンDの活性化をアッセイするため、実施例1で述べたように調製されるSIS上にhKDCを播種する。継代数4のhKDCを、5×104細胞/足場材でSIS足場材上に播種し、REGM(商標)腎上皮増殖培地(ロンザ社(Lonza)、ウォーカーズビル)により3週間培養する。
培地を、不活性型の25−OH−D前駆体を含む培地に交換する。約15分間〜2時間のインキュベーション時間の後、培地を回収して、前駆体及び活性型の1,25−(OH)の量について、HPLC分析又はELISAにより分析する。インキュベーション時間は、インキュベーション培地及びインキュベーション温度に応じて異なりうる。この変換は副甲状腺ホルモンの添加によって更に誘導するか、又はリン酸の添加により阻害することができる。
実施例9:腎毒性試験及び薬剤発見用途におけるhKDC/SIS腎近位尿細管システム
この実施例では、特定の腎毒性物質(例えば、シスプラチン、ビンブラスチン)又は腎保護性試薬の作用を、hKDC/SIS腎近位尿細管モデルシステムに適用する。これを行うため、hKDCを、静的及び/又はフロー条件下でSIS上に播種し、増殖させて近位尿細管上皮の単層に分化させる。次いで、異なる腎毒性物質をhKDC/SISシステムに適用し、細胞生存率、形態、及び近位尿細管の機能の評価を行う。腎機能のパラメータとしては、例えば、溶質の輸送、TEER、イヌリンの漏れ、アルブミンの取り込み、ビタミンD合成、エリスロポエチン及びプロスタグランジンの産生が挙げられる。更に、hKDC近位尿細管システムを、異なる腎保護性及び他の細胞保護性試薬の作用を検出する能力について試験する。
実施例10:ヒト腎由来細胞の単離
正常なヒト腎臓を、米国立疾患研究交流機関(National Disease Research Interchange)(NDRI、ペンシルバニア州、フィラデルフィア)より入手した。各腎臓を、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM−低グルコース、インビトロジェン社(Invitrogen)、カリフォルニア州カールスバッド)、又はリン酸緩衝溶液(PBS、インビトロジェン社(Invitrogen))中で洗浄して、血液及び組織片を除去した。組織を、腎臓の外側の皮質領域、内側の髄質領域、及び被膜下領域から切り離した。次いで組織を、微細なパルプに細片化されるまで組織培養プレート中で機械的に解離させた。次いで、組織を50mLのコニカルチューブに移した。次いで組織を、0.25単位PZ活性/mLのコラゲナーゼ(NB6、N0002779、セルバ・エレクトロフォレシス社(Serva Electrophoresis GmbH)、ドイツ、ハイデルベルグ)、2.5単位/mLのディスパーゼ(Dispase II 165 859、ロシュ・ダイアグノスティクス社(Roche Diagnositics Corporation)、インディアナ州インディアナポリス)、1単位/mLのヒアルロニダーゼ(Vitrase、アイ・エス・ティー・エー・ファーマシューティカルズ社(ISTA Pharmaceuticals)、カリフォルニア州アーバイン)を含む、優良製造所基準(Good Manufacturing Practice)(GMP)の酵素混合物、又は、500単位/mLのコラゲナーゼ(シグマ社(Sigma)、ミズーリ州セントルイス)、50単位/mLのディスパーゼ(インビトロジェン社(Invitrogen))及び5単位/mLのヒアルロニダーゼ(シグマ社(Sigma))を含む非GMPグレードの酵素混合物中で消化した。腎由来細胞を50単位/mLのディスパーゼによっても単離した。酵素混合物を、腎上皮増殖培地(REGM)(カンブレックス社(Cambrex)、メリーランド州ウォーカーズビル)、又は間葉系幹細胞増殖培地(MSCGM)(カンブレックス社(Cambrex))と合わせた。組織、培地、及び消化酵素が入ったコニカルチューブを、オービタルシェーカーで225rpmで1時間、37℃でインキュベートした。
消化物を150×gで5分間遠心分離し、上清を吸引した。得られた細胞ペレットを、20mLのREGM又はMSCGM中に再懸濁した。細胞懸濁液を40ミクロンのナイロン製BD FALCONセルストレーナー(ビー・ディー・バイオサイエンシーズ社(BD Biosciences)、カリフォルニア州サンホセ)に通して濾過した。濾液を培地(全体の体積50mL)中に再懸濁し、150×gで5分間遠心分離した。上清を吸引し、細胞ペレットを50mLの新鮮な培地中に再懸濁した。この過程を更に2回繰り返した。
最後の遠心分離の後、上清を吸引し、細胞ペレットを5mLの新鮮な培地中に再懸濁した。生存細胞の数を、Guava装置(グアバ・テクノロジーズ社(Guava Technologies)、カリフォルニア州ヘイワード)により測定した。次いで細胞を、2%ゼラチン又はラミニンでコーティングした組織培養フラスコ上に5000細胞/cmの播種密度で播種し、低酸素状態(hypoxia)又は正常酸素状態(normoxia)の雰囲気中で培養した。表1に、腎由来細胞の集団を単離するために用いたドナーの情報及び増殖条件を示す。腎細胞の単一細胞由来のクローンを得るため、限界希釈法を行った。全体として、年齢39、46、21、及び10才の4人の異なる死体ドナーから24の異なる条件を用いて細胞を単離した。
実施例11:ヒト腎由来細胞の形態
単離7日後、腎由来細胞の集団を光学顕微鏡により評価し、細胞の形態学的特徴を観察した。いずれの単離条件も一貫して上皮の形態を有する細胞を生じた。(表11−1を参照)。
Figure 0006523358
このデータは、腎由来細胞がいずれの年齢又は性別のドナーからも単離可能であり、様々な増殖培地の配合又は培養条件を用いて単離可能であることを示している。この単離手順の容易性及び一貫性は、腎由来細胞が、細胞を用いた治療法における有用な細胞源であることを示すものである。
実施例12:腎由来細胞の増殖能
腎由来細胞は、培養中で大規模に増殖させることが可能であり、短時間で相当数の細胞を生成することが可能である。これは、同種細胞療法の開発の基準の1つである。
腎由来細胞を、REGM又はMSCGM中でT75フラスコ上に5,000細胞/cmで播き、37℃、5%二酸化炭素中で培養した。細胞を2〜5日ごとに継代した。各継代で細胞を計数し、Guava装置(グアバ・テクノロジーズ社(Guava Technologies)、カリフォルニア州ヘイワード)を使用して生存率を測定した。細胞集団を、老化に達するまで数週間にわたって連続的に継代した。試験期間中に細胞が1よりも多い集団倍加数を達成できなかった場合に老化と判定した。次に、集団倍加数[ln(最終的な細胞数/最初に播いた細胞数)/ln2]を計算した。
核型分析を行うため、単離番号22及び23からの継代数4及び継代数10の腎由来細胞をT25フラスコに播き、一晩付着させた。その後、フラスコをREGMで満たし、核型分析を行った。
表12−1は、試験した単離番号の増殖データの概要である。細胞を単離するために用いたドナーの年齢、組織源、又は酵素に関して、細胞増殖特性には明らかな影響は見られなかった。
単離番号22及び23について、継代数4及び継代数10の両方で核型分析を行った。いずれも、継代数4及び継代数10で正常な核型を認めた。
Figure 0006523358
平均では、老化時の集団倍加数(PD)は28.5であり、平均生存率は97.6%であった。
以上をまとめると、腎由来細胞は培養中で優れた増殖能を有するものである。これらのデータを用いることで、1個のヒト腎臓全体から生成される細胞の全体の数を推定することができる。すべての腎組織が処理されたものと仮定し、得られた細胞を31回の集団倍加にわたって培養するものと仮定した場合、1個のヒト腎臓全体は、推定で1.89×1016個の総細胞を生じることになる。したがって、1回の細胞の治療用量が1人当たり1×10細胞であることを考慮すると、1個の腎臓から単離される腎由来細胞は1億8900万人の患者を治療するのに充分である。結論として、これらの細胞は、同種系の細胞療法に使用するための極めて増殖性の高い細胞源である。
実施例13:hKDC表面マーカーの表現型
ヒト腎由来細胞にフローサイトメロリー分析を行って、表面マーカーの表現型を調べた。実施例11の単離番号のうちの9つからの細胞を、REGM中、T75フラスコ上で37℃、5%二酸化炭素中で継代数4及び継代数10まで増殖させた。接着細胞をPBSで洗い、TrypLE Select(ギブコ社(Gibco)、ニューヨーク州グランドアイランド)により解離させた。細胞を収穫し、遠心して、PBS中3%(v/v)のFBS中に2×10細胞/mLの濃度で再懸濁した。特異的な抗体を100μLの細胞懸濁液に加え、混合液を暗所で、4℃で30〜45分間インキュベートした。インキュベート後、細胞をPBSで洗い、遠心分離して余分な抗体を除去した。細胞を500μLのPBS中に再懸濁し、フローサイトメトリーで分析した。フローサイトメトリー分析は、Guava装置(グアバ・テクノロジーズ社(Guava Technologies)、カリフォルニア州ヘイワード)により行った。表面マーカーの表現型を特徴付けるために用いた抗体を表13−1に示す。
Figure 0006523358
表13−2は、すべての表面マーカーの表現型データの概要を示す。試験を行ったすべての単離番号は、CD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD166、SSEA−4及びHLA Iについて陽性の染色を、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、CD141、E−カドヘリン及びHLA IIについて陰性の染色を示した。更に、分析を行ったすべての単離番号は、複数世代(継代数10)にわたって増殖しても、それらの表面マーカーの表現型は維持された。
これらの細胞はHLA Iを発現するが、HLA II、CD80又はCD86は発現しない。これらの細胞の発現特性は、ホストの免疫系を逃れる細胞の能力を反映したものである。これらのデータは、腎由来細胞が非免疫原性であり、組織タイピング又は免疫抑制を行う必要なくして患者に投与できることを示している。
以上をまとめると、これらのデータは、複数のドナーからの腎由来細胞を異なる条件下(表11−1を参照)で単離しても、なおそれらの表面マーカーの表現型が維持されうることを示している。更に、これらの細胞は、CD24及びSSEA−4などの予想される前駆細胞マーカーを発現するものの、E−カドヘリンのような成熟した系統コミットしたマーカーは発現しない。最後に、腎由来細胞は非免疫原性であり、したがって、同種系細胞療法で使用するための有望な細胞源である。
Figure 0006523358
実施例14:腎由来細胞の遺伝子発現
RNA抽出キット(RNeasy Mini Kit、キアゲン社(Qiagen)、カリフォルニア州バレンシア)を使用して、単離番号1、2及び17〜23の細胞からRNAを抽出した。RNAを50μLのDEPC処理水で溶出し、−80℃で保存した。ランダムヘキサマーをTaqMan逆転写試薬(アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems)、カリフォルニア州フォスターシティー)とともに使用し、25℃で10分間、37℃で60分間、及び95℃で10分間、RNAを逆転写した。各試料を−20℃で保存した。表14−1に示すプライマーを使用し、選択した遺伝子を従来のPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)により調べた。PCRは、RT PCRプライマーセット(スーパーアレイ・バイオサイエンシーズ社(SuperArray Biosciences Corp)、メリーランド州フレデリック)を使用して、cDNA試料で行った。
Figure 0006523358
製造者の指示に従って、プライマーを1μLのcDNA及び2× ReactionReady(商標)SYBR Green PCRマスターミックス(スーパーアレイ・バイオサイエンシーズ社(SuperArray Biosciences Corp))と混合し、ABI Prism 7000システム(アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems)、カリフォルニア州フォスターシティー)を使用して、PCRを行った。熱サイクル条件は、最初に50℃で2分間及び95℃で10分間の後、95℃で15秒間、60℃で1分間を34サイクル行った。GAPDHについては、アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems)より入手したGAPDHプライマー(カタログ番号402869)、1μLのcDNA溶液、及び1× AmpliTaq GoldユニバーサルミックスPCR反応バッファー(アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems)、カリフォルニア州フォスターシティー)を、製造者の指示に従って使用して、PCRを行った。最後のPCR反応のプライマー濃度は、順方向及び逆方向プライマーの両方とも0.5μMとし、TaqManプローブは加えなかった。2%(w/v)アガロースゲル上に各試料を流し、臭化エチジウム(シグマ社(Sigma)、ミズーリ州セントルイス)で染色した。667 Universal Twinpackフィルム(ブイ・ダブリュー・アール・インターナショナル社(VWR International)、ニュージャージー州サウスプレーンフィールド)及び焦点距離Polaroid(商標)カメラ(ブイ・ダブリュー・アール・インターナショナル社(VWR International)、ニュージャージー州サウスプレーンフィールド)を使用して、画像を撮影した。分析を行った各遺伝子について、最終PCR産物をゲルから切り出し、標的配列をDNAシークエンシングにより確認した。
RT−PCR分析
分析を行ったすべての細胞単離物は、一定かつ安定した遺伝子発現プロファイルを示した。単離番号1、2及び17〜23にRT−PCR分析を行って、初期発生遺伝子マーカー(Oct−4、Rex−1、Sox2、FGF4、hTert)、腎発生遺伝子マーカー(Pax−2、WT−1、Eya−1、Wnt−4、BMP−7、カドヘリン−11、FoxD1)、後腎間葉遺伝子マーカー(Pax−2、Eya−1、WT−1、Six2、及びFoxD1)、及び後腎間葉の生存を促進する遺伝子(BMP−7)の発現を検出した。更に、内胚葉遺伝子(HNF3B、CXC−R4、Sox−17、GATA−4)、及び腎修復を促進するか又は腎疾患を治療する治療効果を有する遺伝子マーカー(Epo、EpoR、BMP−7、BMP−2、GDF5)などの他の発生遺伝子の発現についても分析を行った。
表14−2に示されるように、いずれの単離番号も、Oct−4及びRex−1について陽性の発現を示し、Sox2、FGF4、hTERT及びWnt−4について陰性の発現を示した。単離番号17〜23は、Pax−2、WT1、カドヘリン−11及びFoxD1について陽性の発現を示した。単離番号22及び23は、Eya−1、Sox−17及びCXCR−4について陽性の発現を示し、GATA−4について陰性の発現を示した。単離番号17〜23はEpoRを発現したが、Epoは発現しなかった。単離番号17〜22は、BMP−2、BMP−7及びGDF5を発現した。更に、すべての単離番号を複数世代(継代数10)にわたって増殖させても、なおそれらの遺伝子発現表現型は維持されうる。
Figure 0006523358
以上をまとめると、腎由来細胞は、初期発生及び腎発生に関与する遺伝子を発現する。腎由来細胞は、後腎間葉のマーカー及び腎前駆細胞のマーカーを発現する。腎由来細胞は、内胚葉マーカー、並びに腎修復及び尿細管形成に関与する因子を発現する。
全体として、これらのデータは、腎由来細胞が、障害を受けた腎組織を保護又は修復するための細胞に基づく療法における使用が可能である、予想される腎前駆細胞の細胞源であることを示している。
実施例15:栄養因子分泌の分析
腎由来細胞は、腎臓を保護及び修復する栄養因子を一貫して産生することが示されている。したがって、これらの細胞は、腎疾患を治療するための治療薬となるものと考えられうる。
単離番号17〜21から得た継代数3の細胞を、それぞれに15μLのREGMが入ったT75フラスコ/単離物1個に5,000細胞/cmで播種した。細胞を37℃、5%二酸化炭素中で培養した。一晩の培養後、培地を、無血清培地(DMEM−低グルコース(ギブコ社(Gibco))、0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン(シグマ社(Sigma))、ペニシリン(50単位/mL)、及びストレプトマイシン(50μg/mL、ギブコ社(Gibco))に交換し、更に8時間培養した。インキュベーションの最後に14,000×gで5分間の遠心分離を行って、馴化された無血清培地を回収し、−20℃で保存した。
細胞をPBSで洗い、4mLのTrypLE Select(ギブコ社(Gibco))を使用して解離させ、Guava装置(グアバ・テクノロジーズ社(Guava Technologies)、カリフォルニア州ヘイワード)で計数することにより、各フラスコ内の細胞数を推定した。次いで、Searchlightプロテオームアレイ(ピアース・バイオテクノロジー社(Pierce Biotechnology Inc))を使用し、各試料をELISAにより以下の栄養因子についてアッセイした。すなわち、メタロプロテアーゼ−1(TIMP−1)の組織阻害剤、メタロプロテアーゼ−2(TIMP−2)の組織阻害剤、血小板由来上皮増殖因子bb(PDGF−bb)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、肝細胞成長因子(HGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF2)、血管内皮増殖因子(VEGF)、ヘパリン結合上皮増殖因子(HB−EGF)、単球走化性タンパク質−1(MCP−1)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ストロマ由来因子1b(SDF1b)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、塩基性神経増殖因子(b−NGF)、ニューロトロフィン3(NT−3)、増殖関連オンコジーン−α(GRO−α)、インターロイキン−1b(IL−1b)、インターロイキン−12p40(IL−12p40)、インターロイキン−12p70(IL−12p70)、インターロイキン−11(IL−11)、インターロイキン−15(IL−15)、マトリクスメタロプロテアーゼ−2(MMP−2)、マトリクスメタロプロテアーゼ−9(MMP−9)、アンジオポイエチン2(ANG−2)、及びヒト成長ホルモン(HGH)である。
栄養因子産生の分析
単離番号17〜21で27種類の異なる増殖因子及びサイトカインの分泌について分析を行った。その結果を表15−1にまとめて示す。いずれの単離番号も、TIMP−1、TIMP−2、VEGF、及びMMP−2を、300pg(ピコグラム)/mL/1×10細胞/8時間を上回る量で分泌した。いずれの単離番号も、50〜300pg/mL/1×10細胞/8時間のFGF2及びHGF、並びに1〜50pg/mL/1×10細胞/8時間のKGF、PDGF−bb、b−NGF、IL−12p40及びIL−11を分泌した。SDF−1、ANG−2、HGH及びIl−12p70は検出されなかった。
以上をまとめると、このデータは、腎由来細胞が障害を受けた腎組織を保護及び修復するための複数の栄養因子を分泌することを示している。例えば、FGF2、HGF、及びTGFαは腎修復に関与しているとされている。腎由来細胞は、これらの因子を、高く、かつ一定のレベルで分泌する。したがって、これらの細胞は、腎疾患を標的とした療法において使用するための有用な細胞源である。
Figure 0006523358
実施例16:インビトロでの腎由来細胞による尿細管形成
継代数4及び継代数10の腎由来細胞を解凍してから粉砕し、66% vitrogen 100(3mg/mL(コヒージョン・テクノロジーズ社(Cohesion Technologies)、カリフォルニア州パロアルト)を含むI型コラーゲン溶液中で4×10細胞/mLの単細胞懸濁液とすることができる。懸濁液中の細胞を、脱細胞化された大網膜上に播種することができる。次いで、コラーゲン/細胞混合物を、37℃、5% CO、95%空気中で30分間インキュベートすることによってコラーゲンをゲル化させた後、培地を加えることができる。細胞は、3日ごとに7日間供給する。7日目に、培養を異なる濃度の肝細胞増殖因子で処理し、尿細管形成が観察されるまで更に培養する。
これらの観察結果は、腎由来細胞がインビトロで尿細管構造に自己組織化することが可能であることを示している。これらの構造は、腎臓の復元用途における、また、薬物スクリーニング及び毒物学的アッセイを開発するための構成単位としての価値を有する。
実施例17:インビボでの腎由来細胞による尿細管形成
3つの35/65 PCL/PGA(直径10cm×厚さ2mm)フィルムにヒト腎由来細胞(10,000細胞/cm)を播種し、REGM(カンブレックス社(Cambrex))中、37℃、5%二酸化炭素中で8日間培養した。35/65 PCL/PGA発泡足場材は、本明細書にその全容を援用するところの米国特許第6,355,699号に述べられる方法に従って調製した。次いで細胞/フィルム構築体をフィルム注型皿から取り出し、3層に積層して、35/65 PCL/PGA発泡足場支持体に貼着した。この構築体を更に24時間培養した後、移植に先立って3×3mmの正方形の小片に切断した。各移植片は、PBSで洗い、移植用にPBSで満たした6穴プレートに移した。
これらの移植片を、SCIDマウスの背部外側の胸から腰にかけての領域に左右対称に皮下移植した。5週齢の雄性SCIDマウス(Fox Chase SCID CB17SC系)をタコニック社(Taconic Inc.)(ニューヨーク州ハドソン)より購入した。各SCIDマウスに2個の移植片を移植した。マウスの背にそれぞれ長さ約5mmの2本の皮膚切開を設けた。各切開は、触診される腸骨稜の約5mm頭部側の腰部領域に横方向に、正中線の両側に1本ずつ設けた。次いで、皮膚を下層の結合組織から分離して小さいポケットを作り、移植片を切開の約10mm頭部側に留置した。皮膚切開をReflex 7金属創口クリップで閉じた。3週間後、移植片を皮下ポケットから取り出し、10%ホルマリンで固定し、パラフィンワックス中に包埋し、切片化し、ヘマトキシリン/エオジン(H&E)で染色し、病理学者により光学顕微鏡法を用いて評価を行った。
腎由来細胞は、PCL/PGAフィルムの各層内に尿細管状の構造を形成した。これらの尿細管は、明瞭な上皮壁及び明確な管腔を呈した。腎由来細胞は、発泡足場材に浸潤し、細胞外マトリクスを堆積し、密度の高い組織状の構造を形成した。更に、発泡材内部の腎由来細胞は、血管形成及び血管網の形成を刺激した。
以上をまとめると、ヒト腎固有細胞は、インビボの微小環境に曝露後に尿細管構造を形成した。微小環境のシグナルに反応して、細胞に尿細管を形成するように指令する腎由来細胞の能力は、これらの細胞の腎前駆細胞的な性質を更に示すものである。更に、発泡足場材の内部に遊走した細胞は、血管形成を促進する組織状構造を形成する。このデータは、腎尿細管を復元するための、更に最終的には腎臓組織工学用途において使用するための細胞構成単位としての腎由来細胞の有用性を示すものである。
以上、本発明を、様々な特定の材料、手順及び実施例を参照しながら本明細書に説明及び例示したが、本発明は、その目的のために選択された特定の材料及び手順の組み合わせに限定されない点は理解されるであろう。当業者には認識されるように、このような細部には多くの変更を行いうることが示唆される。本明細書及び実施例はあくまで例示的なものとしてみなされるべきものであり、発明の真の範囲及び趣旨は以下の「特許請求の範囲」によって示されるものである。本出願において引用される参照文献、特許及び特許出願は、いずれもそれらの全容を本明細書に援用するものとする。
〔実施の態様〕
(1) 1つ又は2つ以上の前駆細胞が、該前駆細胞の腎近位尿細管上皮細胞への分化を可能とするのに充分な条件下で播種された、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材を含むバイオ人工近位尿細管装置であって、前記分化した細胞が前記足場材上に上皮単層を形成する、バイオ人工近位尿細管装置。
(2) 少なくとも2つの表面を有する脱細胞化された生物学的足場材を含むバイオ人工近位尿細管装置であって、少なくとも1つの表面に1つ又は2つ以上の前駆細胞が、該前駆細胞の腎近位尿細管上皮細胞への分化を可能とするのに充分な条件下で播種され、前記前駆細胞が前記足場材の前記表面に上皮単層を形成する、バイオ人工近位尿細管装置。
(3) 前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、哺乳動物組織に由来する、実施態様1又は2に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
(4) 前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、粘膜又は粘膜下組織に由来する、実施態様3に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
(5) 前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、哺乳動物消化管に由来する、実施態様3に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
(6) 前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、哺乳動物の胃、十二指腸、空腸、回腸又は結腸に由来する、実施態様5に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
(7) 前記1つ又は2つ以上の前駆細胞が、初代腎尿細管上皮細胞、腎細胞若しくは腎前駆細胞に分化させた人工多能性幹細胞、腎細胞若しくは腎前駆細胞に分化させた前駆細胞、腎臓から単離した幹細胞、又は腎臓から単離した前駆細胞、及びこれらの混合物からなる群から選択される、実施態様1〜6のいずれかに記載のバイオ人工近位尿細管装置。
(8) 前記前駆細胞がヒト腎由来細胞である、実施態様7に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
(9) 前記ヒト腎由来細胞が、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、Oct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7、又はGDF5のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert、Wnt−4、SIX2、E−カドヘリン又はGATA−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である、実施態様8に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
(10) 前記ヒト腎由来細胞が、細胞表面マーカーHLA−I、CD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD90、CD166、又はSSEA−4のうちの少なくとも1つについて陽性であり、かつ、細胞表面マーカーHLA II、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、及びCD141のうちの少なくとも1つについて陰性である、実施態様8又は9に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
(11) 前記ヒト腎由来細胞が、栄養因子FGF2、HGF、TGFα、TIMP−1、TIMP−2、MMP−2又はVEGFのうちの少なくとも1つを分泌し、かつ、栄養因子PDGF−bb又はIL12p70の少なくとも一方を分泌しない、実施態様8〜10のいずれかに記載のバイオ人工近位尿細管装置。
(12) 前記ヒト腎由来細胞が、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、HLA−I、及びOct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7、又はGDF5のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、かつ、CD133、及びSox2、FGF4、hTert、Wnt−4、SIX2、E−カドヘリン又はGATA−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である、実施態様8に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
(13) 1つ又は2つ以上の前駆細胞を腎細胞に分化させる方法であって、脱細胞化された生物学的マトリクス足場材に1つ又は2つ以上の前駆細胞を播種することと、前記前駆細胞を前記足場材上で、前記前駆細胞の腎近位尿細管上皮細胞への分化を可能とするのに充分な条件下で培養することとを含み、前記分化した細胞が前記足場材上に上皮単層を形成する、方法。
(14) 前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、哺乳動物組織に由来する、実施態様13に記載の方法。
(15) 前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、粘膜又は粘膜下組織に由来する、実施態様14に記載の方法。
(16) 前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、哺乳動物の胃、十二指腸、空腸、回腸又は結腸に由来する、実施態様13に記載の方法。
(17) 前記1つ又は2つ以上の前駆細胞が、初代腎尿細管上皮細胞、腎細胞若しくは腎前駆細胞に分化させた人工多能性幹細胞、腎細胞若しくは腎前駆細胞に分化させた前駆細胞、腎臓から単離した幹細胞、又は腎臓から単離した前駆細胞、及びこれらの混合物からなる群から選択される、実施態様13〜16のいずれかに記載の方法。
(18) 前記前記細胞がヒト腎由来細胞である、実施態様17に記載の方法。
(19) 前記ヒト腎由来細胞が、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、Oct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7、又はGDF5のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert、Wnt−4、SIX2、E−カドヘリン又はGATA−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である、実施態様18に記載の方法。
(20) 前記ヒト腎由来細胞が、細胞表面マーカーHLA−I、CD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD90、CD166、又はSSEA−4のうちの少なくとも1つについて陽性であり、かつ、細胞表面マーカーHLA II、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、及びCD141のうちの少なくとも1つについて陰性である、実施態様19に記載の方法。
(21) 前記ヒト腎由来細胞が、栄養因子FGF2、HGF、TGFα、TIMP−1、TIMP−2、MMP−2又はVEGFのうちの少なくとも1つを分泌し、かつ、栄養因子PDGF−bb又はIL12p70の少なくとも一方を分泌しない、実施態様20に記載の方法。

Claims (25)

  1. 哺乳動物組織に由来する脱細胞化された生物学的マトリクス足場材と、前記生物学的マトリクス足場材の表面に1つ又は2つ以上の前駆細胞を播種し、前記1つ又は2つ以上の前駆細胞を腎近位尿細管上皮細胞へと分化させることにより形成された、前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材上の安定な機能性腎近位尿細管上皮細胞単層と、を含むバイオ人工近位尿細管装置であって、前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、粘膜又は粘膜下組織に由来し、前記前駆細胞が、MEK阻害剤を使用することなく、接触阻害を維持し、前記1つ又は2つ以上の前駆細胞が、初代腎尿細管上皮細胞、人工多能性幹細胞、腎前駆細胞、腎臓から単離した幹細胞、又は腎臓から単離した前駆細胞、及びこれらの混合物からなる群から選択される、バイオ人工近位尿細管装置。
  2. 哺乳動物組織に由来する少なくとも2つの表面を有する脱細胞化された生物学的マトリクス足場材を含む、バイオ人工近位尿細管装置であって、少なくとも1つの表面が、前記少なくとも1つの表面上に形成された安定な機能性腎近位尿細管上皮細胞単層を有し、
    前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、粘膜又は粘膜下組織に由来し、
    前記安定な機能性腎近位尿細管上皮細胞単層が、前記少なくとも1つの表面に1つ又は2つ以上の前駆細胞を、前記生物学的マトリクス足場材の前記表面上での該前駆細胞の腎近位尿細管上皮細胞への分化を可能とするのに充分な条件下で播種することにより形成されており、
    前記前駆細胞が、MEK阻害剤を使用することなく、接触阻害を維持し、
    前記1つ又は2つ以上の前駆細胞が、初代腎尿細管上皮細胞、人工多能性幹細胞、腎前駆細胞、腎臓から単離した幹細胞、又は腎臓から単離した前駆細胞、及びこれらの混合物からなる群から選択される、バイオ人工近位尿細管装置。
  3. 前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、粘膜下組織に由来する、請求項1又は2に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
  4. 前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、哺乳動物消化管に由来する、請求項1又は2に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
  5. 前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、哺乳動物の胃、十二指腸、空腸、回腸又は結腸に由来する、請求項4に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
  6. 前記前駆細胞がヒト腎由来細胞である、請求項1又は2に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
  7. 前記ヒト腎由来細胞が、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、Oct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7、又はGDF5のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert、Wnt−4、SIX2、E−カドヘリン又はGATA−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である、請求項6に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
  8. 前記ヒト腎由来細胞が、細胞表面マーカーHLA−I、CD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD90、CD166、又はSSEA−4のうちの少なくとも1つについて陽性であり、かつ、細胞表面マーカーHLA II、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、及びCD141のうちの少なくとも1つについて陰性である、請求項6又は7に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
  9. 前記ヒト腎由来細胞が、栄養因子FGF2、HGF、TGFα、TIMP−1、TIMP−2、MMP−2又はVEGFのうちの少なくとも1つを分泌し、かつ、栄養因子PDGF−bb又はIL12p70の少なくとも一方を分泌しない、請求項6〜8のいずれか一項に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
  10. 前記ヒト腎由来細胞が、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、HLA−I、及びOct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7、又はGDF5のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、かつ、CD133、及びSox2、FGF4、hTert、Wnt−4、SIX2、E−カドヘリン又はGATA−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である、請求項6に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
  11. 哺乳動物組織に由来する脱細胞化された生物学的マトリクス足場材に播種された1つ又は2つ以上の前駆細胞を、前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材上で前記1つ又は2つ以上の前駆細胞を機能性腎近位尿細管上皮細胞単層へと分化させることを可能とするのに充分な条件下で、培養することを含む、バイオ人工近位尿細管装置を製造する方法であって、前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、粘膜又は粘膜下組織に由来し、前記前駆細胞が、MEK阻害剤を使用することなく、接触阻害を維持し、前記1つ又は2つ以上の前駆細胞が、初代腎尿細管上皮細胞、人工多能性幹細胞、腎前駆細胞、腎臓から単離した幹細胞、又は腎臓から単離した前駆細胞、及びこれらの混合物からなる群から選択される、方法。
  12. 前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、粘膜下組織に由来する、請求項11に記載の方法。
  13. 前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、前記哺乳動物の胃、十二指腸、空腸、回腸又は結腸に由来する、請求項11に記載の方法。
  14. 前記前駆細胞がヒト腎由来細胞である、請求項11に記載の方法。
  15. 前記ヒト腎由来細胞が、培養中で自己複製及び増殖することが可能であり、Oct−4、Rex−1、Pax−2、カドヘリン−11、FoxD1、WT1、Eya1、HNF3B、CXC−R4、Sox−17、EpoR、BMP2、BMP7、又はGDF5のうちの少なくとも1つの発現について陽性であり、かつ、Sox2、FGF4、hTert、Wnt−4、SIX2、E−カドヘリン又はGATA−4のうちの少なくとも1つの発現について陰性である、請求項14に記載の方法。
  16. 前記ヒト腎由来細胞が、細胞表面マーカーHLA−I、CD24、CD29、CD44、CD49c、CD73、CD90、CD166、又はSSEA−4のうちの少なくとも1つについて陽性であり、かつ、細胞表面マーカーHLA II、CD31、CD34、CD45、CD56、CD80、CD86、CD104、CD105、CD117、CD133、CD138、及びCD141のうちの少なくとも1つについて陰性である、請求項15に記載の方法。
  17. 前記ヒト腎由来細胞が、栄養因子FGF2、HGF、TGFα、TIMP−1、TIMP−2、MMP−2又はVEGFのうちの少なくとも1つを分泌し、かつ、栄養因子PDGF−bb又はIL12p70の少なくとも一方を分泌しない、請求項16に記載の方法。
  18. インビトロでの腎毒性又は薬学的化合物のスクリーニングのための、請求項1又は2に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
  19. 前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材が、脱細胞化されたブタ小腸粘膜下層である、請求項1又は2に記載のバイオ人工近位尿細管装置。
  20. 前記方法が、5,000細胞/cm〜70,000細胞/cmで播種することを含む、請求項11に記載の方法。
  21. 前記前駆細胞が、連続的な上皮単層を形成する、請求項11に記載の方法。
  22. 前記前駆細胞が、張力下で分化される、請求項11に記載の方法。
  23. 細胞層の完全性を監視することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
  24. 前記バイオ人工近位尿細管装置が、インビトロでの腎毒性又は薬学的化合物のスクリーニングのためのものである、請求項11に記載の方法。
  25. 前記哺乳動物組織に由来する前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材の表面上に播種された前記1つ又は2つ以上の前駆細胞を、前記前駆細胞を前記脱細胞化された生物学的マトリクス足場材上で前記機能性腎近位尿細管上皮細胞単層へと分化させることを可能とするのに充分な条件下で培養することを含む、請求項11に記載の方法。
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