以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
本発明の第1実施形態に係る電力変換器10の構成について、図1を参照しながら説明する。電力変換器10は、外部の交流電源から入力された交流電力を直流電力に変換し、これを直流負荷に向けて出力すること(交直変換)ができる。また、外部の直流電源から入力された直流電力を交流電力に変換し、これを交流負荷に向けて出力すること(直交変換)もできる。つまり、電力変換器10は、直流電力と交流電力とを双方向に変換することのできる電力変換器として構成されている。
電力変換器10は、交流接続部20と、第1スイッチング回路30と、第2スイッチング回路40と、直流接続部50と、コンデンサ60と、昇圧回路70と、制御部100と、を備えている。
交流接続部20は、交流電源または交流負荷が接続される部分である。電力変換器10が交直変換を行うときには、交流接続部20は、外部からの交流電力を受け入れる入力部として機能する。このとき、交流接続部20には、例えば商用電源のような交流電源が接続される。
一方、電力変換器10が直交変換を行うときには、交流接続部20は、電力変換後の交流電力が外部に出力される出力部として機能する。このとき、交流接続部20には、例えば電力消費機器のような交流負荷が接続される。
図1には、交流接続部20に商用の交流電源ASが接続されている状態が示されている。以下では、電力変換器10が交直変換を行う場合の例について主に説明することとする。
第1スイッチング回路30は、複数のスイッチング素子31を備えたフルブリッジ回路として構成された部分である。それぞれのスイッチング素子31は、いずれの方向における電流についてもそのON/OFFを切り換えることのできる双方向スイッチング素子である。それぞれのスイッチング素子31の開閉動作、すなわち第1スイッチング回路30のスイッチング動作は、後述の制御部100によって制御される。これにより、交流接続部20から入力された交流電力を、その周波数が高くなるように電力変換した後、トランス14に供給することが可能となっている。つまり、第1スイッチング回路30は所謂マトリックスコンバータとして機能する部分となっている。
トランス14は、この第1スイッチング回路30と、次に説明する第2スイッチング回路40との間を繋いでいる。トランス14は、第1スイッチング回路30と第2スイッチング回路40との間における絶縁を保ちながら、両者の間で交流電力の伝達を可能とするものである。
第2スイッチング回路40は、複数のスイッチング素子41を備えたフルブリッジ回路として構成された部分である。それぞれのスイッチング素子41は、一方向における電流についてはそのON/OFFを切り替えることができる一方で、他方向における電流については常にONとなる単方向スイッチング素子である。それぞれのスイッチング素子41の開閉動作、すなわち第2スイッチング回路40のスイッチング動作は、制御部100によって制御される。これにより、第1スイッチング回路30からトランス14を介して入力された交流電力を、直流電力に変換することが可能となっている。第2スイッチング回路40のスイッチング動作によって電力変換された後の直流電力は、直流接続部50へと入力される。
直流接続部50は、直流電源または直流負荷が接続される部分である。図1の例のように、電力変換器10が交直変換を行うときには、直流接続部50は、電力変換後の直流電力が外部に出力される出力部として機能する。このとき、直流接続部50には直流負荷が接続される。直流負荷とは、例えば充電を行っている蓄電池である。図1には、直流接続部50に(充電先としての)蓄電池DSが接続されている状態が示されている。
一方、電力変換器10が直交変換を行うときには、直流接続部50は、外部からの直流電力を受け入れる入力部として機能する。このとき、直流接続部50には直流電源が接続される。直流電源とは、例えば放電を行っている蓄電池である。
コンデンサ60は、後述の昇圧回路70を介して直流接続部50に接続されたコンデンサである。コンデンサ60は、直流接続部50を流れる直流電流に、脈動(リプル)が生じてしまうことを抑制することを目的として設けられた脈動補償用のコンデンサである。直流接続部50を流れる直流電流に脈動が生じる理由については後に説明する。
昇圧回路70は、直流接続部50とコンデンサ60との間に設けられた回路であって、複数のスイッチング素子71を備えた昇圧チョッパとして構成された部分である。それぞれのスイッチング素子71は、一方向における電流についてはそのON/OFFを切り替えることができる一方で、他方向における電流については常にONとなる単方向スイッチング素子である。それぞれのスイッチング素子71の開閉動作は、制御部100によって制御される。これにより、直流接続部50における直流電圧よりも、コンデンサ60における直流電圧の方が高くなるように昇圧が行われる。
また、それぞれのスイッチング素子71の開閉動作によって、コンデンサ60における充放電が調整される。つまり、コンデンサ60から放電され直流接続部50へと供給される電流、及び、直流接続部50からコンデンサ60へと供給され充電される電流、のいずれもが、昇圧回路70の動作によって調整される。
制御部100についての説明に先立ち、電力変換器10のうち上記以外の部分の構成について説明する。交流接続部20と第1スイッチング回路30との間となる位置には、電圧計11と、電流計12と、リアクトル13とが設けられている。電圧計11は、交流接続部20における電圧値を測定するための電圧センサである。交流接続部20における電圧値とは、本実施形態においては交流電源ASから入力される交流電力の電圧値である。電圧計11によって測定された電圧値は制御部100に入力される。
電流計12は、交流接続部20における電流値を測定するための電流センサである。交流接続部20における電流値とは、本実施形態においては交流電源ASから入力される交流電力の電流値である。電流計12によって測定された電流値は制御部100に入力される。
リアクトル13は、所謂平滑リアクトルである。交流接続部20と第1スイッチング回路30との間を流れる電流は、リアクトル13によってその急変が抑制される。
第2スイッチング回路40と直流接続部50との間となる位置には、コンデンサ15と、電圧計16と、電流計17とが設けられている。コンデンサ15は、所謂平滑コンデンサである。コンデンサ15により、直流接続部50における直流電流にノイズが生じることが防止される。
電圧計16は、直流接続部50における電圧値を測定するための電圧センサである。直流接続部50における電圧値とは、本実施形態においては直流接続部50から蓄電池DSに向けて出力される直流電力の電圧値である。電圧計16によって測定された電圧値は制御部100に入力される。
電流計17は、直流接続部50における電流値を測定するための電流センサである。直流接続部50における電流値とは、本実施形態においては直流接続部50から蓄電池DSに向けて出力される直流電力の電流値である。電流計12によって測定された電流値は制御部100に入力される。
直流接続部50と昇圧回路70との間となる位置には、電流計18とリアクトル72とが設けられている。電流計18は、直流接続部50と昇圧回路70の間を流れる電流の値を測定するための電流センサである。当該電流は、コンデンサ60において充放電される電流に該当する。電流計18によって測定された電流値は制御部100に入力される。
リアクトル72は、所謂平滑リアクトルである。直流接続部50と昇圧回路70との間を流れる電流は、リアクトル72によってその急変が抑制される。これにより、昇圧回路70によるコンデンサ60側の昇圧が実現される。
交流電源ASから交流接続部20に交流電力が入力されると、当該交流電力は、第1スイッチング回路30によってその周波数が高められた後、トランス14を介して第2スイッチング回路40に入力される。第2スイッチング回路40では、そのスイッチング動作によって交流電力が直流電力に変換される。当該直流電力が、直流接続部50から蓄電池DSに向けて出力される。
尚、電力変換器10が直交変換を行うときには、上記と逆方向の処理が行われる。つまり、外部から直流接続部50に直流電力が入力されると、当該直流電力は、第2スイッチング回路40によって交流電力に変化された後、トランス14を介して第1スイッチング回路30に入力される。第1スイッチング回路30では、そのスイッチング動作によって交流電力の周波数が変更される。これにより生成された交流電力が、交流接続部20から外部へと出力される。
このように、電力変換器10では、交流接続部20と直流接続部50との間の部分(リアクトル13、第1スイッチング回路30、トランス14、及び第2スイッチング回路40等)の全体が、電力変換を行うための「スイッチング回路部」に該当する。
制御部100について説明する。制御部100は、電力変換器10の全体の動作を統括制御する部分である。制御部100は、CPU、ROM、RAM、インターフェイス等を備えたコンピュータシステムとして構成されている。制御部100は、交流接続部20又は直流接続部50のいずれかから出力される電力の大きさが所望の値となるように、第1スイッチング回路30及び第2スイッチング回路40におけるそれぞれのスイッチング動作を制御する。また、制御部100は、直流接続部50を流れる直流電流の脈動が抑制されるよう、昇圧回路70のスイッチング動作をも制御する。
制御部100は、機能的な制御ブロックとして、制御信号生成部101と、加算器102と、波形生成部103と、オフセット決定部104と、加算器105と、を備えている。尚、これらのブロックはいずれも、昇圧回路70の動作を制御してコンデンサ60の充放電を適切に調整する機能を実現するためのものである。既に述べたように、制御部100は、第1スイッチング回路30や第2スイッチング回路40の動作を制御するための機能をも有しているのであるが、図1においてはこれらの機能を示すブロックは省略されている。
制御信号生成部101は、コンデンサ60で充放電される電流値、具体的には電流計18で測定される電流値が目標電流値に一致するように、スイッチング素子71にスイッチング動作を行わせる制御信号を生成する部分である。制御信号生成部101で生成された制御信号は、それぞれのスイッチング素子71に直ちに送信される。尚、電流計18で測定される電流値は、直流接続部50からコンデンサ60に向かって流れるときに正の値をとるものとする。
加算器102は、後述の加算器105から送信される目標電流値と、電流計18で測定された実測電流値との偏差を算出し、当該偏差を制御信号生成部101に送信するものである。制御信号生成部101は、この偏差を0に近づけるような制御信号を生成してスイッチング素子71に送信する。
波形生成部103は、上記目標電流値の波形を生成する部分である。後に説明するように、波形生成部103で生成されるのは単なる波形(目標電流値の変動量といってもよい)であって、各時刻における目標電流値の具体的な値まで特定するものではない。各時刻における目標電流値の値は、波形生成部103で生成された波形で示される値(変動量)から、オフセット決定部104で決定されたオフセット値を減じた値となる。当該演算は、加算器105において行われる。
すなわち、加算器105では、波形生成部103で生成された波形に示される値から、オフセット決定部104で決定されたオフセット値が減算される。その結果得られた値が、時間と共に変化する目標電流値として加算器102に入力される。
直流接続部50を流れる直流電流に脈動が生じる理由について説明する。図2の線L1で示されるのは、交流接続部20における交流電力の電力値、の変化を示すグラフである。以下、当該電力値のことを「入力電力値」とも称する。入力電力値は、正弦波状の交流電流値と、同じく正弦波状の交流電圧値との積であるから、その波形は線L1で示されるように周期的に変動するような波形となる。当該変動の周期は、交流電源ASから入力される交流電力の周期、の2倍の周期となる。
図2の線L2で示されるのは、直流接続部50における直流電流の電力値、の変化を示すグラフである。以下、「出力電力値」とも称する。出力電力値は、一定値である直流電流値と、同じく一定値である直流電圧値との積であるから、その波形は線L2で示されるように一定値(PO)の波形となる。尚、実際の波形は脈動を含む波形となり得るのであるが、線L2においては脈動を含まない波形が示されている。つまり、直流接続部50から理想的な直流電力が出力された場合における波形が示されている。
線L1で示される入力電力値の波形と、線L2で示される出力電力値の波形とは互いに一致しない。このため、電力変換器10が交直変換を行っているときには、入力電力値の方が出力電力値よりも大きな状態と、入力電力値の方が出力電力値よりも小さな状態とが、交互に繰り返されることとなる。
入力電力値の方が出力電力値よりも大きな状態においては、電力変換器10に入力されたエネルギーよりも、電力変換器10から出力されるエネルギーの方が小さいこととなる。このため、両者の差であるエネルギー差が0となるように、実際における出力電力値は一時的に値POよりも大きくなる。尚、上記の「エネルギー差」は、図2において領域AR2の面積で示される電力量に相当するものである。
逆に、入力電力値の方が出力電力値よりも小さな状態においては、電力変換器10に入力されたエネルギーよりも、電力変換器10から出力されるエネルギーの方が大きいこととなる。このため、両者の差であるエネルギー差が0となるように、実際における出力電力値は一時的に値POよりも小さくなる。尚、上記の「エネルギー差」は、図2において領域AR1の面積で示される電力量に相当するものである。
以上のようであるから、実際における出力電力値は、値POを跨いで繰り返し変動することとなる。当該変動が、直流接続部50を流れる直流電流の脈動となる。尚、電力変換器10が直交変換を行っているときにも、入力側と出力側とのエネルギー差は上記と同様に生じる。このため、やはり直流接続部50を流れる直流電流には脈動が生じることとなる。
本実施形態に係る電力変換器10では、昇圧回路70の動作によってコンデンサ60からの充放電が調整される。例えば、入力電力値の方が出力電力値よりも大きい期間においては、余剰の電力をコンデンサ60に充電することとすれば、出力電力値が値POを越える現象を抑制することができる。また、入力電力値の方が出力電力値よりも小さい期間においては、不足した電力をコンデンサ60から放電することとすれば、出力電力値が値POを下回る現象を抑制することができる。
上記のように昇圧回路70を動作させるよう、制御部100が行う処理の具体的な内容について、図3を参照しながら説明する。図3に示される一連の処理は、所定の周期が経過する毎に繰り返し実行されている。
最初のステップS01では、現時点における出力電力値が算出される。具体的には、電圧計16で測定された電圧値と、電流計17で測定された電流値との積が出力電力値として算出される。尚、出力電力値は、脈動の影響によって変動している場合がある。従って、上記の積を一定の時間について平均した値が、出力電力値として算出されることとしてもよい。
ステップS01に続くステップS02では、入力電力波形が作成される。入力電力波形とは、外部から電力変換器10に供給されていると推測される電流の波形である。本実施形態では、直流接続部50において流れていると推測される電流の波形に等しい。上記推測は、ステップS01で算出された出力電力値と、電圧計11で測定された電圧値とに基づいて行われる。
具体的には、出力電力値を、電圧計11で測定された電圧値で除することによって得られる電流値が、外部から電力変換器10に供給されていると推測される電流の値となる。当該値の変化を示す波形が、上記の入力電力波形として作成される。入力電力波形は、電圧計11で測定された電圧の波形と同様に、正弦波状の波形となる。
ステップS02に続くステップS03では、波形生成部103によって補償電流波形が作成される。補償電流波形とは、電流計18で測定される電流値についての目標値(すなわち目標電流値)の変動を示す波形のことである。既に述べたように、波形生成部103で生成される補償電流波形は単なる波形であって、各時刻における目標電流値の具体的な値まで特定するものではない。
補償電流波形は、電圧計11で測定される電圧値に、ステップS02で作成された入力電力波形の各時刻における値を乗ずることによって作成される。両者は正弦波状の波形であるから、得られる補償電流波形は図4(A)に示される波形となる。尚、当該波形はその最小値が0となるような波形として作成されるのであるが、個々の時刻における補償電流波形の値自体には特段の意味は無い。
図3のステップS03に続くステップS04では、オフセット決定部104によってオフセット値OFが決定される。既に述べたように、このオフセット値OFは、加算器105において、補償電流波形で示される値から減算される値である。
このような減算が行われると、図4(B)に示されるように、補償電流波形はマイナス側(下方側)にシフトする。すなわち、0を跨いで変動するような波形に変換される。当該波形が、加算器105から加算器102へと入力される目標電流値の変化を示す波形となる。
図4(B)において、目標電流値が0よりも大きくなっている期間は、入力電力値の方が出力電力値よりも大きくなっている期間に概ね等しい。このような期間において、コンデンサ60に供給される電流(つまり、電流計18によって測定される電流)が0よりも大きくなるので、余剰分の電力がコンデンサ60に充電されることとなる。その結果、入力電流値が値PO(図2を参照)を上回ってしまう現象が抑制されるので、直流接続部50を流れる直流電流の脈動も抑制される。
また、図4(B)において、目標電流値が0よりも小さくなっている期間は、入力電力値の方が出力電力値よりも小さくなっている期間に概ね等しい。このような期間において、コンデンサ60に供給される電流(電流計18によって測定される電流)が0よりも小さくなるので、不足分の電力がコンデンサ60から放電され、直流接続部50へと供給されることとなる。その結果、入力電流値が値PO(図2を参照)を下回ってしまう現象が抑制されるので、直流接続部50を流れる直流電流の脈動も抑制される。このように、電力変換器10では、コンデンサ60で充放電される電力の変動が、入力電力値と出力電力値との差(差分電力)の変動と同期するように調整される。
図3に戻って説明を続ける。ステップS04においては、目標電流値が0よりも大きくなっている期間と、目標電流値が0よりも小さくなっている期間とのバランスが、脈動を抑制するために適したバランスとなるようにオフセット値OFが決定される。このようなオフセット値OFは、電流計17によって実測される脈動の大きさをフィードバックすることによって決定されてもよい。
ステップS04に続くステップS05では、目標電流値の算出が行われる。ここでは、ステップS03で作成された補償電流波形からオフセット値OFを減算することにより、目標電流値の算出が行われる。既に述べたように、当該算出は加算器105によって行われる。その後、目標電流値から、電流計18で測定された実測電流値を差し引いた値である偏差が加算器102において算出され、当該偏差が制御信号生成部101へと送信される。
ステップS05に続くステップS06では、制御信号生成部101においてスイッチング信号が生成され、当該スイッチング信号がそれぞれのスイッチング素子71へと出力される。これにより、電流計18を流れる電流を目標電流値に一致させるよう、昇圧回路70が動作する。
以上に説明したように、電力変換器10では、コンデンサ60で充放電される電力の変動が、交流接続部20を流れる交流電力と、直流接続部50を流れる直流電力との差、である差分電力の変動と同期するように、昇圧回路70の動作が制御される。その結果、直流接続部50における直流電流の脈動が効果的に抑制される。
また、昇圧回路70が行う昇圧動作により、コンデンサ60にかかる電圧が、直流接続部50における直流電圧よりも高い状態とされている。これにより、コンデンサ60に蓄えられる電力量が大きなものとなっている。従って、コンデンサ60として大型のものを用いずとも、脈動をより効果的に抑制することが可能となっている。コンデンサ60として、電解コンデンサではなくフィルムコンデンサやセラミックコンデンサ等のような長寿命の素子を用いることとができるので、電力変換器10をメンテナンスフリーな装置とすることが可能となる。
本実施形態では、出力部である直流接続部50の電圧値(電圧計16の測定値)と、直流接続部50の電流値(電流計17の測定値)と、入力部である交流接続部20の電圧値(電圧計11の測定値)と、に基づいて目標電流値の算出が行われ、これにより昇圧回路70の動作が制御される。目標電流値の算出は、上記とは異なる他の方法によって行われてもよい。
このような制御は、電力変換器10が直交変換を行う場合においても上記と同様に行われる。直交変換の場合は、入力電力値の方が出力電力値よりも大きくなっている期間においてはコンデンサ60への充電が行われ、入力電力値の方が出力電力値よりも小さくなっている期間においてはコンデンサ60からの放電が行われるように、目標電流値が算出される。これにより、直流接続部50における直流電流の脈動が抑制される。つまり、直交変換を行う場合であっても、電力変換器10では、コンデンサ60で充放電される電力の変動が、出力電力値と入力電力値との差(差分電力)の変動と同期するように調整される。
直交変換の場合には、出力部である交流接続部20の電圧値(電圧計11の測定値)と、交流接続部20の電流値(電流計12の測定値)と、入力部である直流接続部50の電圧値(電圧計16の測定値)と、に基づいて目標電流値の算出が行われ、これにより昇圧回路70の動作が制御されることとなる。直交変換の場合における目標電流値の算出も、上記とは異なる他の方法によって行うことが可能である。
オフセット値OFは、基本的には、直流接続部50における電流の脈動が可能な限り0に近づくような値、に設定される。しかしながら、本実施形態では、脈動を0に近づけることのみならず、コンデンサ60にかかる電圧(以下、「コンデンサ電圧」とも称する)を適正範囲に収めることをも考慮しながら、オフセット値OFの値が設定される場合がある。
図5(A)に示されるのは、コンデンサ電圧の時間変化の一例を示すグラフである。同図において符号VHで示されるのは、コンデンサ電圧の上限値である。以下、「上限値VH」とも表記する。上限値VHは、コンデンサ60が耐え得る電圧の最大値である。
また、符号VLで示されるのは、コンデンサ電圧の下限値である。以下、「下限値VL」とも表記する。下限値VLは、昇圧回路70が昇圧チョッパとしての動作を行い得るような電圧範囲のうち、最も小さな電圧値である。
コンデンサ電圧の変動範囲が下限値VLに近づいた場合には、オフセット決定部104は、オフセット値OFが小さめの値となるような調整を行う。図4(B)をみると明らかなように、オフセット値が小さめの値になれば、目標電流値が0よりも大きくなっている期間の方が、そうでない期間に比べて長くなる。つまり、コンデンサ60に充電が行われる期間が長くなる。その結果、コンデンサ電圧は高くなり、その変動範囲は上限値VH側へと移動することとなる。
逆に、コンデンサ電圧の変動範囲が上限値VHに近づいた場合には、オフセット決定部104は、オフセット値OFが大きめの値となるような調整を行う。図4(B)をみると明らかなように、オフセット値が大きめの値になれば、目標電流値が0よりも小さくなっている期間の方が、そうでない期間に比べて長くなる。つまり、コンデンサ60から放電が行われる期間が長くなる。その結果、コンデンサ電圧は低くなり、その変動範囲は下限値VL側へと移動することとなる。以上のようなオフセット値OFの調整により、コンデンサ電圧が下限値VLから上限値VHまでの範囲内に収められる。
本実施形態では、出力部である直流接続部50の電圧値(電圧計16の測定値)と、直流接続部50の電流値(電流計17の測定値)と、に基づいて、コンデンサ電圧が変化するように昇圧回路70の動作が制御される。具体的には、直流接続部50の電圧値と、直流接続部50の電流値と、の積である出力電力値が小さくなったときには、コンデンサ電圧が大きくなるように昇圧回路70の動作が制御される。
図5(B)には、出力電力値が小さくなった場合におけるコンデンサ電圧の変化の例が示されている。同図に示されるように、出力電力値が小さくなったときには、コンデンサ電圧の変化の振幅は小さくなる傾向がある。
そこで、本実施形態では、オフセット値OFを一時的に減少させることにより、コンデンサ電圧を上限値VHに到達しない範囲で大きくする。つまり、図6(B)に示されるように、コンデンサ電圧のグラフを上方側にシフトさせるような調整を行う。
このように、可能な場合にはコンデンサ電圧が大きくなるような調整を行うことで、コンデンサ60に蓄ええられる電力量を大きくすることができる。これにより、脈動の抑制が更に効率的に行われる。
このような調整は、電力変換器10が直交変換を行う場合においても上記と同様に行われる。直交変換の場合は、出力部である交流接続部20の電圧値(電圧計11の測定値)と、交流接続部20の電流値(電流計12の測定値)と、に基づいて、コンデンサ電圧が変化するように昇圧回路70の動作が制御されることとなる。具体的には、交流接続部20の電圧値と、交流接続部20の電流値と、の積である出力電力値が小さくなったときには、コンデンサ電圧が大きくなるように昇圧回路70の動作が制御されることとなる。
本実施形態では、出力部である直流接続部50の電圧値(電圧計16の測定値)と、直流接続部50の電流値(電流計17の測定値)と、に基づいて、昇圧回路70の駆動周波数を変化させる制御も行われる。
図6に示されるのは、昇圧回路70の駆動周波数の変化の一例である。図6の例では、時刻t0までの期間においては、昇圧回路70の駆動周波数はF1となっている。尚、F0で示されているのは、第2スイッチング回路40の駆動周波数である。このように、昇圧回路70の駆動周波数(F1)は、第2スイッチング回路40の駆動周波数(F0)とは異なる値として設定されている。これにより、第2スイッチング回路40と昇圧回路70との間で共振が生じてしまうことが防止される。
時刻t0において出力電力値が小さくなると、これに伴って昇圧回路70の駆動周波数がF1からF2へと変更される。F2はF1よりも小さな値である。駆動周波数を小さくすると、リアクトル72における鉄損は大きくなるようにも思われるのであるが、出力電流が小さいのであれば、リアクトル72での損失も小さい。出力電力値が小さいときには、昇圧回路70のスイッチング動作に伴う損失の方が支配的となる。
そこで、本実施形態に係る電力変換器10では、出力電力値が小さいときには昇圧回路70の駆動周波数を小さくするように構成されている。これにより、スイッチング動作に伴う損失が抑制されるので、全体における動作効率を改善することができる。
電力変換器10の構成は、図1に示されるようなものに限定されることなく、種々の構成を採用し得る。例えば、直交変換回路と交直変換回路とを組み合わせたものを、第1スイッチング回路30と置き換えたような構成としてもよい。ただし、この場合には、直交変換回路と交直変換回路との間にコンデンサを挿入し、これにより脈動を抑制することもできる。このため、昇圧回路70の制御による脈動の抑制は、図1に示されるような構成の電力変換器において特に効果を発揮する。
本実施形態に係る電力変換器10は、交直変換及び直交変換の両方を行うことができる電力変換器として構成されている。このような態様に替えて、交直変換又は直交変換のうちいずれか一方のみを行うことのできる電力変換器として構成されていてもよい。
本発明の第2実施形態に係る電力変換器について、図7を参照しながら説明する。この電力変換器は、制御部100Aの構成において第1実施形態と異なっており、他については第1実施形態と同じである。従って、以下では第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
制御部100Aは、図1に示される波形生成部103を有しておらず、代わりに位相調整部111と、振幅決定部112と、乗算器113とを備えている。位相調整部111は、電圧計11から入力される電圧値の変化に基づいて、補償電流波形の位相を決定する部分である。位相調整部111では、図4(A)に示されるような補償電流波形を示す信号が生成される。当該信号の値が0となるタイミング(つまり、補償電流波形の位相)は、電圧計11から入力される電圧値が0となるタイミングと一致するように調整される。位相調整部111では、このように補償電流波形の位相のみが決定される。位相調整部111で生成される信号の振幅は、電圧計11から入力される電圧値によることなく、常に1となっている。
振幅決定部112は、補償電流波形の振幅を決定する部分である。振幅決定部112は、電流計17から入力される電流値の平均値を、補償電流波形の振幅として決定する。
乗算器113では、位相調整部111で生成された信号(振幅が1の波形)に、振幅決定部112で決定された振幅を乗ずることにより、補償電流波形が生成される。この補償電流波形は、図1の波形生成部103で生成される補償電流波形と概ね同一の波形となる。補償電流波形は、乗算器113から加算器105に出力される。その後の処理については第1実施形態と同じである。このような態様であっても、昇圧回路70の動作によって直流電流の脈動を抑制することができる。
本発明の第3実施形態について説明する。図8に示されるように、本実施形態に係る電力変換器10Bでは、第1スイッチング回路30を有しておらず、交流接続部20が第2スイッチング回路40に直接つながっている点においてのみ、第1実施形態と異なっている。その他の構成や処理の内容については、第1実施形態と同じである。このような態様であっても、第1実施形態と同じ効果を奏する。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。