以下に、図面を参照しながら開示技術を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
(第1実施形態)
開示技術を適用した第1実施形態について、図1〜図8を参照して説明する。本実施形態では、ヒートポンプ装置に相当するヒートポンプサイクル10を車両用空調装置1に適用している。ヒートポンプサイクル10は蒸気圧縮式の冷凍サイクルである。このヒートポンプサイクル10は、車両用空調装置1において、空調対象空間である車両の室内へ送風される送風空気を冷却あるいは加熱する機能を果たす。
本実施形態の車両用空調装置1は、例えば、車両走行用の駆動力を走行用電動モータから得る電気自動車に適用されている。この電気自動車では、車両停止時に外部電源から供給される電力を蓄電手段であるバッテリに充電し、車両走行時にバッテリに蓄えられた電力を走行用電動モータへ供給して走行する。車両用空調装置1は、例えば、走行用の駆動力源として電動モータ及び内燃機関の両者を搭載する車両や、走行用の駆動力源として内燃機関のみを搭載する車両に適用することもできる。
図1及び図2に示すように、車両用空調装置1は、ヒートポンプサイクル10、室内空調ユニット30、及び、空調制御装置40等を備えている。室内空調ユニット30は、ヒートポンプサイクル10によって得られる温熱や冷熱を用いて温度調節された送風空気を車室内へ吹き出す。本実施形態において制御装置に相当する空調制御装置40は、車両用空調装置1の各種電気式の構成機器の作動を制御する。
ヒートポンプサイクル10は、例えば2つの空調運転モードの冷媒回路に切り替え可能に構成されている。1つは、送風空気を冷却して車室内を冷房する冷房運転モードの冷媒回路である。他の1つは送風空気を加熱して車室内を暖房する暖房運転モードの冷媒回路である。
ヒートポンプサイクル10は、圧縮機11、熱交換器37、室外熱交換器16、室内蒸発器20、暖房用固定絞り13、冷房用固定絞り18、開閉弁15、及び、三方弁17等を備えている。上記した各機器は、図1に示すように、冷媒循環配管12で相互に接続されている。圧縮機11は、冷媒を圧縮して吐出し、環状をなす冷媒循環配管12内に冷媒を循環させる。
熱交換器37は、ヒートポンプサイクル10の冷媒と熱媒体との熱交換を行なう冷媒−熱媒体熱交換器である。熱交換器37は、例えば、冷媒と熱媒体とを対向流として冷媒と熱媒体との熱交換を行なうことができる。熱交換器37の熱媒体通路部とヒータコア36とは、熱媒体通路38で接続されている。熱交換器37の熱媒体通路部の熱媒体出口側には、ヒータコア36の熱媒体入口側が接続されている。また、ヒータコア36の熱媒体出口側には、熱交換器37の熱媒体通路部の熱媒体入口側が接続されている。
熱媒体通路38には、熱交換器37とヒータコア36との間で熱媒体を循環させる循環ポンプ39が設けられている。熱媒体通路38は、本実施形態における熱媒体循環路に相当する。循環ポンプ39は、本実施形態における循環装置に相当する。
熱媒体は、液相の流体である。熱媒体は、例えば、エチレングリコール等の凝固点降下成分を含む水である。熱媒体は、凝固点降下成分を含む水に限定されるものではない。熱媒体は、水であってもよいし、水以外の液体であってもよい。熱媒体は、例えば不燃性のオイルであってもかまわない。
熱媒体が相変化しない場合、ヒータコア36は、熱媒体の顕熱を空調空気へ放熱する熱交換器として機能する。ヒータコア36は、液相の熱媒体との顕熱交換によりケーシング31の内部を流れる空気を加熱する加熱用熱交換器である。ケーシング31は、本実施形態における空調ダクトに相当する。熱媒体通路38には、熱交換器37の熱媒体通路部から流出してヒータコア36の熱媒体入口へ流入する熱媒体の温度を検出する熱媒体温度センサである水温センサ45が設けられている。
熱交換器37の冷媒通路部は、ヒートポンプサイクル10の冷媒流路において圧縮機11と暖房用固定絞り13との間に介設されている。すなわち、圧縮機11の吐出口側には、熱交換器37の冷媒通路部の冷媒入口側が接続されている。また、熱交換器37の冷媒通路部の冷媒出口側には、暖房用固定絞り13を介して室外熱交換器16の冷媒入口側が接続されている。
ヒータコア36及び室内蒸発器20は、送風空気を加熱あるいは冷却する室内熱交換器である。暖房用固定絞り13及び冷房用固定絞り18は、冷媒を減圧膨張させる減圧装置である。開閉弁15及び三方弁17は、冷媒流路を切り替える冷媒回路切替装置である。
ヒートポンプサイクル10では、例えば、冷媒としてHFC系冷媒を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない蒸気圧縮式の亜臨界冷凍サイクルを構成している。冷媒には、例えばR134aを用いることができる。また、冷媒として、HFO系冷媒等を採用してもよい。冷媒には、例えばR1234yfを用いることができる。冷媒には圧縮機11の摺動部を潤滑するための冷凍機油が混入されており、冷凍機油の一部は冷媒とともにサイクルを循環する。
圧縮機11は、例えば、車室外となる車両ボンネット内に配置されている。圧縮機11は、ヒートポンプサイクル10において冷媒を吸入し、圧縮して吐出するものである。圧縮機11は、例えば吐出容量が固定された固定容量型の圧縮機構を電動モータにて駆動する電動圧縮機として構成されている。圧縮機構としては、例えば、スクロール型圧縮機構、ベーン型圧縮機構等の各種圧縮機構を採用できる。
圧縮機11の電動モータは、例えば、インバータから出力される交流電圧によって、その作動が制御される交流モータである。電動モータは、交流モータの回転速度、すなわち、単位時間当たりの回転数が制御される。圧縮機11のインバータは、空調制御装置40から出力される制御信号に応じた周波数の交流電圧を出力する。そして、この周波数制御によって、圧縮機11の冷媒吐出能力が変更される。従って、電動モータは、圧縮機11の吐出能力変更手段を構成している。
圧縮機11の吐出口側には、熱交換器37の冷媒通路部の冷媒入口側が接続されている。熱交換器37の冷媒通路部の冷媒出口側には、暖房用固定絞り13を介して室外熱交換器16の冷媒入口側が接続されている。暖房用固定絞り13は、暖房運転モード時に熱交換器37から流出した冷媒を減圧させる減圧装置であって、オリフィス、キャピラリチューブ等を採用できる。
また、本実施形態では、熱交換器37から流出した冷媒を、暖房用固定絞り13を迂回させて室外熱交換器16の冷媒入口側へ導くバイパス通路14が設けられている。バイパス通路14には、バイパス通路14を開閉する電磁弁からなる開閉弁15が配置されている。減圧装置は、暖房モード時に冷媒を減圧させる機能を発揮できれば、固定絞りに限定されるものではない。暖房用固定絞り13及び開閉弁15の組み合わせに替えて、全開機能付き電気式膨張弁等の可変絞り機構を採用してもよい。
開閉弁15は、運転モードに応じて冷媒回路を切り替える冷媒回路切替装置を構成するもので、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される電磁弁である。開閉弁15は、冷房運転モード時に開き、暖房運転モード時に閉じる。
開閉弁15が開いた状態で冷媒がバイパス通路14を通過する際に生じる圧力損失は、開閉弁15が閉じた状態で冷媒が暖房用固定絞り13を通過する際に生じる圧力損失に対して極めて小さい。従って、開閉弁15が開いた状態では、熱交換器37から流出した冷媒のほぼ全流量がバイパス通路14を介して室外熱交換器16側へ流れる。
室外熱交換器16は、例えば、車両ボンネット内に配置されて、内部を流通する熱交換器37下流側の冷媒と送風ファン16aにより送風された車室外空気である外気とを熱交換させるものである。送風ファン16aは、空調制御装置40から出力される制御電圧によって回転数が制御され送風能力が調節される電動式送風機である。
室外熱交換器16の冷媒出口側には、三方弁17が接続されている。三方弁17は、開閉弁15とともに上述した各運転モードにおける冷媒回路を切り替える冷媒回路切替装置を構成している。三方弁17は、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される電気式の三方弁である。
三方弁17は、冷房運転モード時には、室外熱交換器16の冷媒出口側と冷房用固定絞り18とを接続する冷媒回路に切り替える。一方、三方弁17は、暖房運転モード時には、室外熱交換器16の冷媒出口側と圧縮機11の吸入口側に配置されたアキュムレータ19の冷媒入口側とを接続する冷媒回路に切り替える。
冷房用固定絞り18の基本的構成は暖房用固定絞り13と同様である。冷房用固定絞り18の冷媒出口側には、室内蒸発器20の冷媒入口側が接続されている。室内蒸発器20は、室内空調ユニット30のケーシング31内のうち、ヒータコア36の送風空気流れ上流側に配置されている。室内蒸発器20は、その内部を流通する冷媒と送風空気とを熱交換させて送風空気を冷却する冷却用熱交換器である。
室内蒸発器20の冷媒出口側には、アキュムレータ19の入口側が接続されている。アキュムレータ19は、内部に流入した冷媒の気液を分離して、サイクル内の余剰冷媒を蓄える気液分離器である。さらに、アキュムレータ19の気相冷媒出口には、圧縮機11の吸入口側が接続されている。
次に、室内空調ユニット30について説明する。室内空調ユニット30は、例えば、車室内最前部の計器盤の内側に配置されている。室内空調ユニット30は、その外殻を形成するケーシング31内に送風機32、室内蒸発器20、エアミックスドア34、ヒータコア36等を収容して構成されている。
ケーシング31は、車室内に吹き出される空調空気の空気通路を形成するものである。ケーシング31は、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた、例えばポリプロピレン樹脂にて成形されている。ケーシング31内の空気流れ最上流側には、ケーシング31内へ車室内空気である内気と車室外空気である外気とを切替導入する内外気切替装置33が配置されている。
内外気切替装置33は、ケーシング31内へ内気を導入させる内気導入口及び外気を導入させる外気導入口の開口面積を、内外気切替ドアによって連続的に調整して、内気の風量と外気の風量との風量割合を連続的に変化させるものである。内外気切替ドアは、内外気切替ドア用の電動アクチュエータ51によって駆動され、この電動アクチュエータ51は、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
内外気切替装置33の空気流れ下流側には、内外気切替装置33を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する送風機32が配置されている。送風機32は、遠心多翼ファンを電動モータにて駆動する電動送風機である。送風機32は、空調制御装置40から出力される制御電圧によって回転数が制御され送風能力が調節される。送風機32は、本実施形態における送風装置に相当する。
送風機32の空気流れ下流側には、室内蒸発器20及びヒータコア36が、送風空気の流れに対して、室内蒸発器20、ヒータコア36の順に配置されている。換言すると、室内蒸発器20はヒータコア36よりも空気流れ上流側に配置されている。
室内蒸発器20の空気流れ下流側であって、かつ、ヒータコア36の空気流れ上流側には、エアミックスドア34が配置されている。エアミックスドア34は、室内蒸発器20を通過した空気のうち、ヒータコア36を通過する風量とヒータコア36をバイパスする風量との風量割合を調整する。エアミックスドア34は、エアミックスドア駆動用の電動アクチュエータ52によって駆動される。電動アクチュエータ52は、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される。ヒータコア36の空気流れ下流側には、ヒータコア36にて熱媒体と熱交換して加熱された温風とヒータコア36をバイパスした冷風とを混合させる混合空間35が設けられている。
ケーシング31の空気流れ最下流部には、ヒータコア36を通過した送風空気あるいはヒータコア36を迂回した送風空気を、空調対象空間である車室内へ吹き出すための開口が設けられている。この開口としては、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すデフロスタ開口部、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス開口部、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すフット開口部が設けられている。これらの開口部の空気流れ下流側は、それぞれ空気通路を形成するダクトを介して、車室内に設けられたセンターフェイス吹出口、サイドフェイス吹出口等からなるフェイス吹出口、フット吹出口及びデフロスタ吹出口に接続されている。
従って、エアミックスドア34がヒータコア36を通過させる風量の割合を調整することによって、混合空間35にて混合される空調風の温度が調整されて、各吹出口から車室内へ吹き出される空調風の温度が調整される。エアミックスドア34は、車室内へ送風される空調風の温度を調整する温度調整装置を構成している。
デフロスタ開口部、フェイス開口部及びフット開口部の空気流れ上流側には、それぞれ、デフロスタドア、フェイスドア、フットドアが配置されている。デフロスタドアは、デフロスタ開口部の開口面積を調整する。フェイスドアは、フェイス開口部の開口面積を調整する。フットドアは、フット開口部の開口面積を調整する。
フェイスドア、デフロスタドア及びフットドアは、吹出口モードを切替える吹出口モード切替装置を構成するものであって、リンク機構等を介して、吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータ53に連結されて連動して回転操作される。なお、この吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータ53も、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
吹出口モード切替装置によって切り替えられる吹出口モードとしては、フェイスモード、バイレベルモード、フットモード、及びフットデフロスタモードがある。フェイスモードは、センターフェイス吹出口等から車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出す。バイレベルモードは、センターフェイス吹出口とフット吹出口の両方を開口して車室内乗員の上半身と足元に向けて空気を吹き出す。フットモードは、フット吹出口を全開するとともにデフロスタ吹出口を小開度だけ開口して、フット吹出口から主に空気を吹き出す。フットデフロスタモードは、フット吹出口及びデフロスタ吹出口を同程度開口して、フット吹出口及びデフロスタ吹出口の双方から空気を吹き出す。
さらに、乗員が操作パネル50に設けられた吹出モード切替スイッチをマニュアル操作することによって、デフロスタ吹出口を全開してデフロスタ吹出口からフロント窓ガラス内面に空気を吹き出すデフロスタモードとすることもできる。
次に、本実施形態の電気制御部について説明する。図2に示す空調制御装置40は、CPU、ROM及びRAM等を含むマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶された空調制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された機器の作動を制御する。出力側に接続された機器としては、以下に示すものが挙げられる。接続機器は、送風機32、圧縮機11、送風ファン16a、開閉弁15、三方弁17、内外気切替ドア用の電動アクチュエータ51、エアミックスドア用の電動アクチュエータ52、吹出モードドア用の電動アクチュエータ53、循環ポンプ39等である。
また、空調制御装置40の入力側には、各センサからの検出信号が入力される。このセンサとしては、内気温センサ41、外気温センサ42、日射センサ43、水温センサ45、蒸発器温度センサ46等が挙げられる。
内気温センサ41は、車室内温度Trを検出する。外気温センサ42は、外気温度Tamを検出する。日射センサ43は、車室内の日射量Tsを検出する。水温センサ45は、ヒータコア36へ流入する熱媒体の温度TWCを検出する。蒸発器温度センサ46は、室内蒸発器20から吹き出される空気温度として蒸発器温度TEを検出する。本実施形態では、蒸発器温度センサ46には、例えば、室内蒸発器20のアウタフィンに取り付けられたフィン温度センサを用いることができる。空調制御装置40は、上記したセンサ以外の他のセンサからの信号も入力するものであってもよい。
空調制御装置40の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された操作パネル50に設けられた各種空調操作スイッチからの操作信号が入力される。各種空調操作スイッチとしては、車両用空調装置1の作動スイッチ、圧縮機11の作動、停止を選択する圧縮機の作動スイッチ、運転モードの切替スイッチが挙げられる。また、吹出口モードの切替スイッチ、送風機32の風量設定スイッチ、車室内温度設定スイッチ、ヒートポンプサイクルの省動力化を優先させる指令を出力するエコノミースイッチ等も挙げられる。
空調制御装置40の入力側には、プレ駆動スイッチ59からの指令信号が入力される。プレ駆動スイッチ59は、車室内に乗員が搭乗する前に予め空調の準備を行なう旨の指令信号を出力する。プレ駆動スイッチ59は、例えば、車両のリモコンキースイッチ装置に設けることができる。また、プレ駆動スイッチ59は、例えば、携帯電話やスマートフォン等の通信機器に設けることができる。プレ駆動スイッチ59は、例えば、キーレスエントリー装置のドアロック解除スイッチと兼用であってもよい。
プレ駆動スイッチ59は、携帯機器に設けるものに限定されない。プレ駆動スイッチ59は、例えば、駐車場所近くの建物に設けるものであってもよい。また、プレ駆動スイッチ59は、例えば、車両に設けるものであってもよい。
次に、本実施形態の車両用空調装置1の作動を説明する。空調制御装置40は、空調熱負荷に基づいて各種機器の制御目標値、例えば、送風機32の送風量、吸込口モード、吹出口モード、エアミックスドア34の開度、ヒートポンプサイクル10の運転モード等を決定する。そして、その決定内容に応じた制御信号を各種機器に対して出力することで、各種機器が作動する。
図3に示すように、空調制御装置40は、通常の空調制御を行なうときには、まず、ステップ60で、空調制御に用いられる車両環境状態の信号、すなわち上述のセンサ群の検出信号や、操作パネル50の操作信号を読み込んでステップ65へ進む。
ステップ65では、車室内へ吹き出す空調空気の目標吹出温度TAOを算出する。目標吹出温度TAOは、空調熱負荷、すなわち、車室内設定温度と、車室内温度等の車両環境条件とに基づいて算出され、例えば、下記数式1により算出される。
(数式1)
TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C
ここで、Tsetは車室内温度設定スイッチによって設定された車室内設定温度、Trは内気温センサ41によって検出された車室内温度、Tamは外気温センサ42によって検出された外気温度、Tsは日射センサ43によって検出された日射量である。Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
ステップ65で目標吹出温度TAOを算出したら、ステップ70へ進み、ヒートポンプサイクル10の運転モードを決定する。ステップ70では、目標吹出温度TAO、内外気導入口からの吸気温度等に基づいて、ヒートポンプサイクル10の空調運転モードを決定する。ステップ70では、冷房運転モード、暖房運転モードのいずれか1つに決定する。
ステップ70で運転モードを決定したら、ステップ75へ進み、ステップ70で決定した運転モードが暖房運転モードであるか否かを判定する。このとき、暖房運転モードであれば、ステップ80へ進む。一方、冷房運転モードであれば、NOと判定して、ステップ90へ進む。
ステップ80では、各アクチュエータ等に対して、暖房運転を実行するための制御信号を出力する。具体的には、開閉弁15に対して、閉じるように制御信号を出力する。また、三方弁17に対して、室外熱交換器16の冷媒出口側とアキュムレータ19の冷媒入口側とを接続し、冷房用固定絞り18側を閉じるように制御信号を出力する。また、エアミックスドア用の電動アクチュエータ52に対して、ヒータコア36側の通路を全開とするための制御信号を出力する。また、目標吹出温度TAO等に基づいて、圧縮機11の回転数、エアミックスドア34の開度、送風機32の送風量、送風ファン16aの送風量等の各種機器の制御目標値を決定して出力する。また、空調制御装置40は、循環ポンプ39を作動させる。
ステップ80が実行されると、車両用空調装置1は、図5に示すような暖房運転モードが設定される。エアミックスドア34は、室内蒸発器20を通過後の送風空気の全風量をヒータコア36へ流入させる暖房位置に配置することができる。
暖房運転モードでは、図5中の矢印で示すように冷媒を循環させる冷媒回路が構成される。ヒートポンプサイクル10には、圧縮機11、熱交換器37、暖房用固定絞り13、室外熱交換器16、アキュムレータ19、圧縮機11の順に冷媒が循環する回路が構成される。暖房用固定絞り13は、本実施形態における減圧装置に相当する。また、熱媒体通路38には、熱交換器37とヒータコア36との間で循環する熱媒体流れが形成される。
圧縮機11にて圧縮された冷媒は、熱交換器37にて熱媒体通路38を循環する熱媒体に放熱する。熱交換器37で加熱され熱媒体通路38を循環する熱媒体は、ヒータコア36にて送風機32から送風された送風空気に放熱する。これにより、ヒータコア36を通過する送風空気が加熱され、車室内の暖房が実現される。また、熱交換器37から流出した冷媒は、暖房用固定絞り13にて減圧されて室外熱交換器16へ流入する。
室外熱交換器16へ流入した冷媒は、送風ファン16aから送風された車室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器16から流出した冷媒は、三方弁17を介してアキュムレータ19へ流入する。アキュムレータ19にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
暖房運転では、熱交換器37を、冷媒を凝縮させる凝縮器として機能させ、室外熱交換器16を、冷媒を蒸発させる蒸発器として機能させて、室外熱交換器16から熱交換器37へ熱を輸送するヒートポンプサイクルが構成される。
ステップ90では、各アクチュエータ等に対して、冷房運転を実行するための制御信号を出力する。具体的には、開閉弁15に対して、開くように制御信号を出力する。また、三方弁17に対して、室外熱交換器16の冷媒出口側と冷房用固定絞り18の冷媒入口側とを接続し、アキュムレータ19側を閉じるように制御信号を出力する。また、エアミックスドア用の電動アクチュエータ52に対して、ヒータコア36をバイパスする側の通路を全開とするための制御信号を出力する。また、目標吹出温度TAO等に基づいて、圧縮機11の回転数、エアミックスドア34の開度、送風機32の送風量、送風ファン16aの送風量等の各種機器の制御目標値を決定して出力する。
ステップ90が実行されると、車両用空調装置1は、図6に示すような冷房運転モードが設定される。エアミックスドア34は、室内蒸発器20を通過後の送風空気の全風量を、ヒータコア36を迂回させる冷房位置に配置することができる。
冷房運転モードでは、図6中の矢印で示すように冷媒を循環させる冷媒回路が構成される。ヒートポンプサイクル10には、圧縮機11、熱交換器37、室外熱交換器16、冷房用固定絞り18、室内蒸発器20、アキュムレータ19、圧縮機11の順に冷媒が循環する回路が構成される。
圧縮機11にて圧縮された高圧高温冷媒が、熱交換器37を流通する。このとき、循環ポンプ39は作動していないので、熱交換器37では冷媒と熱媒体との熱交換は行われない。熱交換器37から流出した冷媒は、バイパス通路14を介して室外熱交換器16へ流入し、室外熱交換器16にて送風ファン16aから送風された外気と熱交換して放熱する。
室外熱交換器16から流出した冷媒は、三方弁17を介して冷房用固定絞り18へ流入し、冷房用固定絞り18にて減圧膨張される。冷房用固定絞り18にて減圧された低圧冷媒は室内蒸発器20へ流入し、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。この冷媒の吸熱作用により、室内蒸発器20を通過する送風空気が冷却され、車室内の冷房が実現される。室内蒸発器20から流出した冷媒は、アキュムレータ19へ流入する。アキュムレータ19にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
冷房運転では、室外熱交換器16を凝縮器として機能させ、室内蒸発器20を蒸発器として機能させて、室内蒸発器20から室外熱交換器16へ熱を輸送するヒートポンプサイクルが構成される。
冷房運転モード時には、循環ポンプ39を作動させると共に、エアミックスドア34の開度を調整して、室内蒸発器20にて冷却された送風空気の一部をヒータコア36で加熱することで、吹出口から車室内へ吹き出される送風空気の温度を調整することができる。このように、室内蒸発器20にて冷却された送風空気の一部がヒータコア36で加熱されることによって、送風空気温度が目標吹出温度TAOに近づくように調整され、好適な車室内の冷房が実現される。このときには、熱交換器37及び室外熱交換器16を放熱器として機能させ、室内蒸発器20を蒸発器として機能させるヒートポンプサイクルが構成される。
車両用空調装置1は、除湿暖房運転モードを設定することも可能である。除湿暖房運転モードでは、図7中の矢印で示すように冷媒を循環させる冷媒回路が構成されると共に、循環ポンプ39が運転される。また、目標吹出温度TAO等に基づいて、圧縮機11の回転数、エアミックスドア34の開度、送風機32の送風量、送風ファン16aの送風量等の各種機器の制御目標値を決定して出力する。除湿暖房運転では、熱交換器37を凝縮器として機能させ、室内蒸発器20を蒸発器として機能させるヒートポンプサイクルが構成される。このとき、室外熱交換器16は、外気温度に応じて、放熱器、蒸発器、もしくは、単なる冷媒通路のいずれかとして機能する。
次に、空調制御装置40が、暖房運転を行なう前に暖房準備運転を行なうときの制御動作について説明する。暖房準備運転制御は、乗員が降車して車両走行可能状態を設定するスイッチがオフされている際に、乗員が所定時間内に車室内へ搭乗するか否かを予測して、所定時間内に搭乗が予測された場合に圧縮機11及び循環ポンプ39を駆動させる制御である。暖房準備運転制御は、例えばイグニッションスイッチ等の車両走行可能状態の設定スイッチがオフであってもスタートする。
図4に示すように、空調制御装置40は、まず、ステップ100で、乗員が降車して車両走行可能状態の設定スイッチがオフされている際に、乗員が所定時間内に車室内へ搭乗するか否かを予測する。ステップ100では、プレ駆動スイッチ59から入力する信号に基づいて、乗員が所定時間内に車室内へ搭乗するか否かを予測する。ステップ100において所定時間内の乗員の搭乗がないと判断した場合には、ステップ100へリターンし監視を継続する。
ステップ100において、所定時間内に乗員が搭乗すると判断した場合には、ステップ110へ進む。ステップ100において搭乗判断の基となる信号は、搭乗のためのスイッチ操作情報を含む信号とすることができる。ステップ100において搭乗判断の基となる信号は、車両の走行可能状態を準備するためのスイッチ操作情報を含む信号であってもよい。ステップ100において搭乗判断の基となる信号は、暖房準備を希望する情報を含む信号であってもよい。なお、プレ駆動スイッチ59からの入力信号が車室内の暖房を予約する情報を含む場合には、例えば、暖房開始設定時刻よりも所定時間前のタイミングでステップ110へ進む。
ステップ110では、センサからの信号を入力する。ステップ110では、内気温センサ41及び外気温センサ42の少なくともいずれかから信号を入力する。ステップ110を実行したら、ステップ120において暖房運転が必要であるか否かを判断する。ステップ120では、ステップ110で入力した内気温及び外気温の少なくともいずれかに基づいて、乗員搭乗後に車室内を暖房する必要があるか否かを判断する。
ステップ110では、日射センサ43からの信号や操作パネル50の温度設定スイッチによる設定温度信号を入力するものであってもよい。ステップ110で内気温及び外気温に加え日射熱負荷や設定温度に関する信号を取得した場合には、ステップ120において目標吹出温度TAOを算出して、この目標吹出温度TAOに基づいて暖房運転が必要であるか否かを判断してもよい。
ステップ120において、暖房運転が必要ないと判断した場合には、ステップ130へ進む。ステップ130では、空調運転を開始する状態が設定されたか否かを判断する。ステップ130では、例えば、空調制御装置40の出力側に接続された機器に給電が可能な状態となり、かつ、操作パネル50のエアコンスイッチがオン状態であるときに、空調運転を開始する状態が設定されたと判断する。エアコンスイッチがオン状態とは、例えば、圧縮機11の作動、停止を選択する圧縮機作動スイッチが作動を選択している状態である。
ステップ130において空調運転を開始する状態が設定されていないと判断した場合には、ステップ130へリターンし、空調運転開始状態が設定されることを監視する。ステップ130において空調運転を開始する状態が設定されたと判断した場合には、ステップ180へ進み、図3に示した通常の空調運転制御を実行する。
ステップ120において暖房運転が必要であると判断した場合には、ステップ140へ進む。ステップ140では、熱媒体通路38内の熱媒体の昇温を行なう水昇温運転制御を行なう。水昇温運転制御は熱媒体昇温運転制御である。
ステップ140では、車両用空調装置1を暖房運転モード時と同様に設定し、圧縮機11及び循環ポンプ39を駆動する。このとき、送風機32は停止した状態のままとする。圧縮機11及び循環ポンプ39の運転を開始すると、ヒートポンプサイクル10内に冷媒が循環すると共に、熱媒体通路38に熱媒体が循環する。これにより、ヒータコア36及び熱交換器37の熱媒体通路部を含む熱媒体通路38内の熱媒体が熱交換器37における冷媒との熱交換により加熱され、熱媒体に蓄熱が行なわれる。
ステップ140では、ステップ110における入力信号等に基づいて熱媒体の昇温の目標温度が設定される。ステップ140では、水温センサ45が検出する熱媒体温度が目標温度に到達するまでは、圧縮機11をオン状態に連続して設定する。検出熱媒体温度が目標温度に到達するまでは、圧縮機11を連続運転する。一方、水温センサ45が検出する熱媒体温度が目標温度に到達した後には、圧縮機11をオン状態とオフ状態とに交互に設定して、検出する熱媒体温度が目標熱媒体温度を維持するようにする。このとき、目標熱媒体温度は、所定温度範囲として設定される。熱媒体温度が目標熱媒体温度を維持するとは、熱媒体温度が目標とする所定温度範囲内に収まっていることである。所定温度範囲の上限と下限との温度差は、例えば5℃である。
目標熱媒体温度は、内気温センサ41が検出する内気温、外気温センサ42が検出する外気温、日射センサ43が検出する日射量及び操作パネル50において設定された車室内設定温度に基づいて算出できる。空調制御装置40は、算出された目標熱媒体温度と水温センサ45が検出する実熱媒体温度との偏差及び偏差変化率とに基づいて、圧縮機11の回転数を変化させる。
空調制御装置40は、ステップ140を実行しつつ、ステップ150も実行する。ステップ150では、熱交換器37において熱媒体が冷媒で加熱された際の、熱媒体の単位時間当たり吸熱量Q/tを算出する。熱媒体の単位時間当たり吸熱量Q/tは、ステップ140実行時の時間当たりの熱媒体の温度変化と、熱媒体の量及び熱媒体の物性値とから算出される。
Q/tは、例えば、水温センサ45が検出する時間当たりの熱媒体の温度変化、熱媒体の質量、及び熱媒体の比熱に基づいて算出することができる。また、Q/tは、例えば、水温センサ45が検出する時間当たりの熱媒体の温度変化、熱媒体の体積、熱媒体の密度、及び熱媒体の比熱に基づいて算出することができる。熱媒体の物性値は、空調制御装置40の記憶部に例えばマップとして予め記憶されている。また、熱媒体の量に関する値も、空調制御装置40の記憶部に予め記憶されている。
ステップ140、150はステップ160でYESと判定されるまで繰り返し実行される。ステップ160でYESと判定されるまでステップ140を継続して実施し、ステップ150は、1回もしくは所定インターバルで複数回行なうものであってもよい。ステップ160では、ステップ130と同様に、空調運転を開始する状態が設定されたか否かを判断する。ステップ160において空調運転を開始する状態が設定されていないと判断した場合には、ステップ140へリターンする。ステップ160において空調運転を開始する状態が設定されたと判断した場合には、ステップ170へ進む。
ステップ170では、初期暖房運転制御を行なう。ステップ170では、圧縮機11及び循環ポンプ39の運転は継続したままで、送風機32の運転を行なう。送風機32の運転を開始することで、ヒータコア36で熱媒体と送風空気とが熱交換して送風空気が加熱され、車室内へ温風が吹き出す。
ステップ170での初期暖房運転は、通常空調制御における暖房運転とは、送風機32の送風レベルの設定方法が異なる。通常運転制御では、例えば目標吹出温度TAOに基づいて、送風機32の送風量、圧縮機11の回転数、エアミックスドア34の開度、吹出モード等が決定される。一方、初期暖房運転制御では、例えば目標吹出温度TAOに基づいて、圧縮機11の回転数、エアミックスドア34の開度、吹出モード等が決定される。ただし、送風機32の送風量は目標吹出温度TAOに係らず決定される。
ステップ170では、ステップ150で算出した熱媒体の単位時間当たり吸熱量Q/tに基づいて、送風機32の送風量が決定される。ステップ170では、単位時間当たり吸熱量Q/tに対応した単位時間当たり放熱量でヒータコア36において熱媒体が放熱するように、送風機32の送風量を調節する。熱媒体の単位時間当たり吸熱量と単位時間当たり放熱量をバランスさせることで、車室内へ吹き出す空気の温度を経時的に安定させることができる。
ステップ170では、例えば、単位時間当たり吸熱量と同じ単位時間当たり放熱量Q/tをヒータコア36で放熱するための通過風量は、空気の密度、空気の比熱、及びヒータコア36における空気の上昇温度に基づいて算出することができる。また、ヒータコア36における空気の上昇温度は、水温センサ45が検出するヒータコア36へ流入する熱媒体の温度とヒータコア36の吸込み空気温度との差、及び、ヒータコア36の熱交換効率に基づいて算出することができる。なお、吸込み空気温度は、蒸発器温度センサ46の検出値を用いることができる。
ステップ170では、上述したように、例えば、単位時間当たり放熱量Q/tをヒータコア36で放熱するためのヒータコア通過風量の空調風流れを形成するように送風機32の送風量を決定する。なお、ヒータコア36の熱交換効率は、空調制御装置40の記憶部に例えばマップとして予め記憶されている。
なお、単位時間当たり放熱量は、単位時間当たり吸熱量に対応するものであればよい。単位時間当たり放熱量は、例えば、単位時間当たり吸熱量にほぼ同等とすることができる。単位時間当たり放熱量は、厳密に単位時間当たり吸熱量と同等でなくてもよい。
なお、ステップ170では、圧縮機11及び循環ポンプ39の運転は継続したままで、送風機32の運転を開始する。ステップ170では、圧縮機11がオン状態であるときに送風機32の運転を開始することが好ましい。圧縮機11が連続運転されている場合は、圧縮機11がオン状態を連続しているので、ステップ170を実行する際に速やかに送風機32の運転を開始することができる。圧縮機11が断続運転されている場合は、圧縮機11がオン状態とオフ状態とを繰り返す。ステップ170を実行する際に、圧縮機11が断続運転のオン状態であるときには、速やかに送風機32の運転を開始することができる。ステップ170を実行する際に、圧縮機11が断続運転のオフ状態であるときには、次に圧縮機11がオン状態となるのを待って、送風機32の運転を開始することができる。
ステップ170を実行したら、所定条件を満たしたタイミングでステップ180へ進み、図3に示した通常の空調運転制御を実行する。ステップ170からステップ180へ移行する際に満たすべき所定条件は、例えば、ステップ170における送風機32の送風量と、ステップ180における送風機32の送風量とが一致したタイミングである。すなわち、初期暖房運転における送風レベルと、通常空調制御における送風レベルとが一致したタイミングである。
ステップ170からステップ180への移行のタイミングは、送風レベルの一致に限定されない。ステップ170からステップ180への移行のタイミングは、例えばステップ170を開始以降の所定時間の経過時点であってもかまわない。また、ステップ170からステップ180への移行のタイミングは、例えば圧縮機11の回転数が所定回転数に到達したときであってもかまわない。
本実施形態において、ヒートポンプサイクル10は加熱装置に相当する。また、ステップ100は、所定時間内に車室内へ乗員が搭乗することを予測する搭乗予測部に相当する。また、ステップ140は、車室内への乗員の搭乗前に、搭乗予測部が所定時間内に車室内へ乗員が搭乗すると予測した場合に、送風装置を停止した状態で循環装置及び加熱装置の運転を開始して車室内の暖房の準備をする暖房準備運転を行なう準備運転部に相当する。また、ステップ150、170、180は、車室内への乗員の搭乗後に、循環装置及び加熱装置の運転を継続しつつ送風装置の運転を開始して車室内を暖房する暖房運転を行なう暖房運転部に相当する。
また、暖房運転部において、ステップ150は、準備運転部が暖房準備運転を行なった際の熱媒体の昇温特性に基づいて、加熱装置により加熱された熱媒体の単位時間当たり吸熱量を算出する吸熱量算出部に相当する。また、ステップ170は、吸熱量算出部が算出した単位時間当たり吸熱量に対応した単位時間当たり放熱量でヒータコア36において熱媒体が放熱するように、送風装置の送風量を調節する風量調節部に相当する。
本実施形態の車両用空調装置1によれば、以下に述べる効果を得ることができる。
車両用空調装置1は、車室内へ吹き出す空気を流通するための空調ダクトであるケーシング31と、ケーシング31の内部に車室内へ吹き出す空気流を発生させる送風機32とを備える。また、車両用空調装置1は、ケーシング31の内部に設けられ、液相の熱媒体との顕熱交換によりケーシング31の内部を流れる空気を加熱するヒータコア36と、ヒータコア36を含む熱媒体通路38に熱媒体を循環させる循環ポンプ39とを備える。また、車両用空調装置1は、熱媒体通路38を循環する熱媒体を加熱するヒートポンプサイクル10と、送風機32、循環ポンプ39及びヒートポンプサイクル10の運転を制御する空調制御装置40とを備える。
この空調制御装置40は、搭乗予測部であるステップ100と、準備運転部であるステップ140と、暖房運転部であるステップ150、170、180とを備える。ステップ100は、所定時間内に車室内へ乗員が搭乗することを予測する。ステップ140は、車室内への乗員の搭乗前に、ステップ100が所定時間内に車室内へ乗員が搭乗すると予測した場合に、送風機32を停止した状態で循環ポンプ39及び圧縮機11の運転を開始して車室内の暖房の準備をする暖房準備運転を行なう。ステップ150、170、180は、車室内への乗員の搭乗後に、循環ポンプ39及び圧縮機11の運転を継続しつつ送風機32の運転を開始して車室内を暖房する暖房運転を行なう。なお、ここでいう、圧縮機11の運転とは、圧縮機11を連続運転する場合ばかりでなく、圧縮機11を断続運転する場合も含む。
これによると、車室内への乗員搭乗前に準備運転部が暖房準備運転を行ない、乗員搭乗後に暖房運転部が暖房運転を行なう。暖房準備運転では、送風装置を停止した状態で循環装置及び加熱装置の運転を行ない、ヒータコア36を含む熱媒体通路38内の熱媒体を加熱装置で加熱昇温させて、比較的比熱が大きく熱容量が大きい液相の熱媒体に顕熱として蓄熱することができる。暖房運転では、循環装置及び加熱装置の運転を継続しつつ送風装置の運転を行ない、ヒータコア36における熱媒体との顕熱交換により車室内へ吹き出す空気を加熱することができる。したがって、乗員搭乗前には送風を行なわずに熱媒体通路38内の液相の熱媒体に蓄熱を行ない、乗員搭乗後に送風を開始して車室内へ比較的高温の温風を吹き出すことができる。これによれば、車室内へ搭乗した乗員が温熱を感じ易い。
本実施形態の車両用空調装置1によれば、車室内へ搭乗した乗員は、空調装置をオンしたのとほぼ同時に比較的高温の吹き出し空気に触れて、インパクトのある温熱感を得ることができる。車室内の空気を乗員搭乗前に予め温める場合よりも、少ない熱量であっても乗員が温熱感を得ることができる。また、本実施形態の車両用空調装置1によれば、乗員が搭乗する前や乗員が搭乗する際に車室内から熱が逃げ難いので、エネルギーの損失を抑制できる。暖房準備運転時には、ヒータコア36を含む熱媒体通路38内の熱媒体からの放熱を抑制できるので、エネルギー損失を抑制することができる。
また、暖房準備運転部であるステップ140では、熱媒体の温度が目標温度に到達するまでは、圧縮機11のオン状態を連続して設定して圧縮機11を連続運転する。ステップ140では、熱媒体の温度が目標温度に到達した後には、熱媒体の温度が目標温度を維持するように、圧縮機11のオン状態とオフ状態とを交互に設定して圧縮機11を断続運転する。ステップ140では、圧縮機11がオン状態であるときに、送風機32の運転を開始する。
これによると、暖房運転部は、加熱装置による液相熱媒体の加熱が行なわれているときに送風装置の運転を開始する。したがって、送風装置を始動して温風吹き出しを開始しても、ヒータコア36において空気と熱交換する液相熱媒体の温度が低下し難い。これにより、車室内へ吹き出す空気の温度が低下することを抑制できる。
また、暖房運転部は、吸熱量算出部であるステップ150と、風量調節部であるステップ170とを有する。ステップ150では、準備運転部が暖房準備運転を行なった際の熱媒体の昇温特性に基づいて、加熱装置により加熱された熱媒体の単位時間当たり吸熱量を算出する。ステップ170では、ステップ150で算出した単位時間当たり吸熱量に対応した単位時間当たり放熱量でヒータコア36において熱媒体が放熱するように、送風機32の送風量を調節する。
これによると、ヒータコア36を含む熱媒体通路38内の熱媒体の単位時間当たり吸熱量に対応した単位時間当たり放熱量で、ヒータコア36において車室内へ吹き出す空気を加熱することができる。したがって、送風機32を運転して温風吹き出しを行なった際に、液相熱媒体の温度が変化し難い。これにより、車室内へ吹き出す空気を安定して加熱することができる。これによれば、車室内へ吹き出す空気の温度変化を抑制し易い。
また、本実施形態の加熱装置は、圧縮機11、凝縮器として機能する熱交換器37、減圧装置である暖房用固定絞り13及び蒸発器として機能する室外熱交換器16を冷媒循環配管12で環状に接続してなるヒートポンプサイクル10である。ヒートポンプサイクル10は、圧縮機11の駆動により冷媒循環配管12内に冷媒を循環して、室外熱交換器16から熱交換器37へ熱を輸送するヒートポンプ装置である。ヒートポンプサイクル10は、熱交換器37における冷媒と熱媒体との熱交換により熱媒体を加熱する。空調制御装置40は、加熱装置であるヒートポンプ装置の圧縮機11の運転を制御する。
これによると、室外熱交換器16から熱交換器37へ冷媒の潜熱として効率よく輸送された熱量で、熱媒体通路38内の熱媒体を容易に加熱し、液相熱媒体に顕熱として蓄熱することができる。
図8に示すように、本実施形態の車両用空調装置1が暖房準備運転を開始すると、圧縮機11が所定回転数で運転され、熱媒体温度が徐々に上昇していく。このとき、循環ポンプ39も所定回転数で運転され、送風機32は停止している。図8に示す例では、熱媒体温度が目標温度に到達した時点で、空調装置がオンされている。すなわち、熱媒体温度が目標温度に到達した時点で、空調運転を開始する状態が設定されている。したがって、暖房準備運転から暖房運転へ移行する際には、圧縮機11はオン状態となっている。
圧縮機11がオン状態であるときに、送風機32による送風が開始され、熱媒体の単位時間当たり吸熱量と単位時間当たり放熱量をバランスさせる風量レベルが設定されるので、暖房運転における車室内への吹出温度は経時的に安定している。圧縮機11が、連続運転から断続運転へ移行し、圧縮機11が断続運転中のオフ状態であるときに空調装置がオンされた場合には、圧縮機11がオフ状態からオン状態に変更された後に送風機32の運転を開始する。このようにすれば、図8に示した例と同様に、吹出温度の低下を抑制して吹出温度を安定化することができる。
なお、本実施形態に対する比較例として、熱交換器37や循環ポンプ39を設けずに、ヒートポンプサイクルの室内凝縮器をヒータコアの位置に配設する空調装置も構成し得る。そして、暖房準備運転として、送風機の運転を行なわずに圧縮機を運転して、暖房運転前に室内凝縮器を予め加熱することも可能である。しかしながら、この比較例では、室内凝縮器に高温のガス冷媒を溜められるだけで、多量の熱量を蓄熱することは困難である。すなわち、比較例の暖房準備運転では、液相熱媒体ではなくガス冷媒に蓄熱することになり、室内凝縮器を予熱できる程度の効果が得られるのみである。これに対して、本実施形態によれば、比較的熱容量が大きい液相の熱媒体に蓄熱できるので、暖房運転を開始した際に、乗員に対してインパクトのある温風吹き出しを行なうことができる。
(他の実施形態)
この明細書に開示される技術は、その開示技術を実施するための実施形態に何ら制限されることなく、種々変形して実施することが可能である。開示される技術は、実施形態において示された組み合わせに限定されることなく、種々の組み合わせによって実施可能である。実施形態は追加的な部分をもつことができる。実施形態の部分は、省略される場合がある。実施形態の部分は、他の実施形態の部分と置き換え、又は組み合わせることも可能である。実施形態の構造、作用、効果は、あくまで例示である。開示技術の技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示技術のいくつかの技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
上記実施形態では、空調制御装置40は、目標熱媒体温度と水温センサ45が検出する実熱媒体温度との偏差及び偏差変化率とに基づいて、圧縮機11の回転数変化量を求め、圧縮機11を運転制御していたが、これに限定されるものではない。空調制御装置40は、例えば、目標吹出温度TAOと推定吹出温度との偏差及び偏差変化率とに基づいて、圧縮機11の回転数変化量を求め、圧縮機11を運転制御してもよい。
なお、空調制御装置40は、例えば、内気温センサ41が検出する内気温、外気温センサ42が検出する外気温、日射センサ43が検出する日射量及び操作パネル50において設定された車室内設定温度に基づいて目標吹出温度TAOを算出できる。また、空調制御装置40は、例えば、蒸発器温度センサ46が検出する空気温度、水温センサ45が検出する熱媒体温度及びエアミックスドア34の開度位置に基づいて推定吹出温度を算出できる。
また、上記実施形態では、空調制御装置40は、圧縮機11を断続運転しているときにステップ170を実行する場合には、圧縮機11が断続運転のオフ状態であったならば、圧縮機11が次のオン状態となるのを待って、送風機32の運転を開始していた。しかしながら、これに限定されるものではない。例えば、圧縮機11が断続運転のオフ状態であるときに送風機32の運転を開始してもよい。
また、上記実施形態では、暖房運転部は、吸熱量算出部であるステップ150と、風量調節部であるステップ170とを有していた。そして、ステップ150では、準備運転部が暖房準備運転を行なった際の熱媒体の昇温特性に基づいて、加熱装置により加熱された熱媒体の単位時間当たり吸熱量を算出していた。ステップ170では、ステップ150で算出した単位時間当たり吸熱量に対応した単位時間当たり放熱量でヒータコア36において熱媒体が放熱するように、送風機32の送風量を調節していた。しかしながら、これに限定されるものではない。
吸熱量算出部では、例えば、準備運転部が暖房準備運転を行なった際の熱媒体の昇温特性に基づいて、加熱装置により加熱された熱媒体の単位時間当たり吸熱量の関連物理量を算出する。そして、風量調節部では、吸熱量算出部が算出した単位時間当たり吸熱量の関連物理量に対応した単位時間当たり放熱量でヒータコア36において熱媒体が放熱するように、送風機32の送風量を調節するものであってもよい。熱媒体の単位時間当たり吸熱量の関連物理量としては、例えば、熱媒体の単位時間当たり上昇温度や、熱媒体が所定温度昇温するのに要する時間等を採用することができる。空調制御装置40は、例えば、熱媒体の単位時間当たり上昇温度と送風機32の回転数との対応関係を予め記憶しており、この記憶する対応関係から送風機32の回転数を制御するものであってもよい。
また、ステップ150及びステップ170を省略するものであってもよい。すなわち、熱媒体の単位時間当たり吸熱量と単位時間当たり放熱量とのバランスを考慮する初期暖房運転制御を行なわないものであってもよい。空調制御装置40は、例えば、暖房準備運転から暖房運転へ移行する際には、暖房運転の最初から目標吹出温度TAOに基づいて送風機32の送風量を決定するものであってもよい。
また、上記実施形態では、熱媒体を加熱する加熱装置はヒートポンプサイクル10であり、空調制御装置40は、圧縮機11の運転制御を行なうことで加熱装置を運転制御するものであってが、これに限定されるものではない。加熱装置は、例えばPTCヒータ等の電気ヒータであってもよい。
また、上記各実施形態では、空調制御装置40は、空調運転の運転モードを、冷房運転を含む複数のモードで切り替え可能であったが、これに限定されるものではない。例えば、暖房運転のみを行なうものであっても、開示された技術を適用することができる。