以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、サスペンション振動情報推定装置Eは、車両Aにおける前輪Wf側のばね下振動情報である前輪ばね下振動情報を得る前輪ばね下振動情報検知部1と、車両Aにおける後輪Wr側のばね上振動情報である後輪ばね上振動情報を得る後輪ばね上振動情報検知部2と、車両Aの後輪側のばね下振動情報を推定する後輪ばね下振動情報推定部3と、後輪ばね下振動情報と後輪ばね上振動情報とに基づいて車両Aにおける後輪Wr側のサスペンション振動情報を求めるサスペンション振動情報推定部4とを備えて構成されており、車両Aにおける前輪Wfが通過する路面と同一の路面を前輪Wfに対して車両Aの前後方向の後ろ側に配置される後輪Wrが通過すると仮定して、前輪Wf側の情報を利用して後輪Wr側のサスペンション振動情報を求めるようになっている。なお、車両Aにおけるばね上部材は、車体Bであり、この車体Bの変位、速度、加速度などの振動を把握可能な情報がばね上振動情報である。また、車両Aにおけるばね下部材は、前輪Wfおよび後輪Wrであり、この前輪Wfの変位、速度、加速度などの振動を把握可能な情報が前輪ばね下振動情報であり、この後輪Wrの変位、速度、加速度などの振動を把握可能な情報が後輪ばね下振動情報である。
サスペンション振動情報推定装置Eが求めたサスペンション振動情報は、たとえば、図13に示すように、車両Aの車体Bと後輪Wrとの間に介装されるダンパDが発生する減衰力や、図示はしないがアクチュエータが発生する制御力を決定する際の情報として制御装置Cにて使用される。また、車両Aは、車体Bと前輪Wfとの間および車体Bと後輪Wrとの間に介装される懸架ばねSpとダンパDとを備えていて、車体Bは懸架ばねSpによって弾性支持されている。なお、ダンパDは、内部に減衰力調整部Fを備えており、制御装置Cが減衰力調整部Fへ制御指令を出力するようになっていて、これにより、ダンパDの減衰力は、制御装置Cが決定した制御力通りに制御されるようになっている。
以下、サスペンション振動情報推定装置Eの各部について、詳細に説明する。本実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eでは、前輪ばね下振動情報検知部1は、図1に示すように、前輪ばね下振動情報として前輪Wfの上下方向の速度である前輪ばね下速度Vwfを検知するようになっている。前輪ばね下振動情報検知部1は、本例では、前輪ばね上振動情報としての前輪ばね上速度Vbfと、車体Bと前輪Wfとの上下方向の相対速度Vsfを検出して、前輪ばね上速度Vbfに相対速度Vsfを加算して前輪ばね下速度Vwfを検知するようになっている。
前輪ばね上速度Vbfの検出にあたっては、前輪ばね下振動情報検知部1は、車体Bに同一水平面上の同一直線上に並ばないように配置された三つの加速度センサG1,G2,G3で検出した車体Bの上下方向の加速度から求めるようになっている。車体Bを剛体と見なして、車体Bの同一水平面上の同一直線上にない任意の3箇所の上下方向の加速度を得れば、車体Bの任意の位置における上下方向の加速度を求めることができる。そのため、前輪ばね下振動情報検知部1は、加速度演算部1aを備えており、加速度演算部1aで前輪Wfの直上の上下方向の加速度を求め、得られた前輪の直上の上下方向の加速度を積分することで、前輪ばね上速度Vbfを検知するようになっている。なお、加速度センサG1,G2,G3の代わりに、車体Bの前輪Wfの直上に加速度センサを設けることで、車体Bの上下方向の加速度を検出するようにしてもよい。また、後述するように、後輪ばね上振動情報検知部2で車体Bにおける後輪Wrの直上の上下方向加速度を検出する必要があって、四輪車の前後輪Wf,Wrの四輪全ての直上の車体Bの加速度を加速度センサで検出する場合、四つの加速度センサが必要であるので、前記したように三つの加速度センサG1,G2,G3で加速度を検知するほうがセンサ1つ分コスト低減できる点で有利となる。このことは、四つの加速度センサを用いることを排除するものではない。
前輪ばね下振動情報検知部1は、車体Bと前輪Wfとの上下方向の相対速度Vsfを検出するため、ストロークセンサHを備えている。ストロークセンサHは、図示はしないが、前輪Wfと車体Bの相対変位を直接検出するものであればよいし、前輪Wfと車体Bの相対変位に換算できる状態量を検出するものでもよい。したがって、前輪Wfを車体Bに連結するサスペンションアームの車体Bに対する揺動角度を検出するものであってもよい。
ダンパDは、防振ゴムなどを備えた図示しないマウントを介して車体Bへ連結され、前輪Wfには図示しないブッシュを介して連結されるが、マウントやブッシュの変形による影響は軽微であるので、ダンパDのストローク変位を検知することでこれをサスペンションの変位である車体Bと前輪Wfとの上下方向の相対変位とみなすことができる。したがって、ストロークセンサHは、車体Bと前輪Wfとの間に介装されるダンパDに一体に組み込まれるものであってもよい。
そして、前輪ばね下振動情報検知部1は、ストロークセンサHが検出する車体Bと前輪Wfとの上下方向の相対変位を微分して、車体Bと前輪Wfとの上下方向の相対速度Vsfを検知する。
前輪ばね下振動情報検知部1は、加算部1bを備えており、前記のようにして得た前輪ばね上速度Vbfと相対速度Vsfを加算部1bで加算して前輪ばね下速度Vwfを求める。ところで、本実施の形態では、前輪ばね下振動情報検知部1は、加速度センサG1,G2,G3が検出した加速度から前輪Wfの直上の加速度を演算によって求め、当該加速度を積分して前輪ばね上速度Vbfを求めている。また、相対速度Vsfは、ストロークセンサHが検出する車体Bと前輪Wfの相対変位を微分して求めている。こうして得られた前輪ばね上速度Vbfと相対速度Vsfをそのまま加算して前輪ばね下速度Vwfを求めることができる。なお、相対速度Vsfは、前輪Wfのサスペンションにおけるレバー比を含んで検知される。たとえば、ストロークセンサHが車体Bと、前輪Wfを支持するサスペンションアームとの変位を検出しているような場合、ストロークセンサHが検出するストローク量に対して実際の車体Bと前輪Wfの相対変位量が異なることになるが、ストロークセンサHの前記アームへの取付位置とアーム長さを考慮したレバー比をゲインとしてストロークセンサHが出力するストローク量に乗じればよい。また、前輪Wfが振動すると必ず車体Bも振動する関係にあり前輪ばね下速度Vwfおよび前輪ばね上速度Vbfには連成振動成分が重畳されている。さらに、前輪Wfのサスペンションのレバー比が設定されている。前輪ばね下速度Vwfから前輪ばね上速度Vbfを差し引いて相対速度Vsfを求める場合、前輪ばね下速度Vwfから前輪ばね上速度Vbfを差し引いた値をそのまま前輪側の相対速度Vsfとすると、前記した連成振動成分およびレバー比の影響で、相対速度Vsfと実際の相対速度とに見過ごせない誤差が生じる場合がある。そのような場合には、求めた相対速度Vsfに補償ゲインを乗じる図示しない補償ゲイン乗算部を設けて、連成振動成分およびレバー比の影響を除去するようにしてもよい。このようにすれば、相対速度Vsfを精度良く実際の相対速度に一致させることができる。
また、前輪Wfの前輪ばね下速度Vwfには、レバー比の他にタイヤが撓むため、このタイヤの撓みに起因し、前輪ばね上速度Vbfに比例した成分が重畳され、前輪ばね上速度Vbfには、前輪ばね下速度Vwfに比例した成分が重畳される。具体的には、前輪ばね下速度Vwfには、前輪ばね上速度Vbfに懸架ばねSpのばね定数をタイヤのばね定数で割ったばね定数比を乗じた値の速度成分が重畳される。よって、相対速度Vsfの演算に際し、このタイヤの撓みに起因する速度成分を除去するようにすれば、相対速度Vsfをより一層精度良く実際の相対速度に一致させることができる。なお、このタイヤの撓みに起因する速度成分の除去に際し、レバー比も考慮にいれてもよく、たとえば、レバー比を考慮に入れた上記ばね定数比を一つのゲインと考え、前輪ばね上速度Vbfにこのゲインを乗じて相対速度Vsfから除去すべき速度成分を算出してもよい。また、このように、レバー比の他、タイヤの撓みについても考慮に入れると、後述するサスペンション振動情報推定部4で推定する後輪側のサスペンション速度Vsrを実際のサスペンション速度に精度よく一致させられる。
前輪ばね上速度Vbfは、前輪Wfの直上の加速度を積分することで得られるため、前輪ばね下振動情報検知部1は、加速度演算部1aで求めた前輪Wfの直上の上下方向の加速度を積分処理する第一積分用ローパスフィルタ10を備えている。この第一積分用ローパスフィルタ10は、図2に示すように、車両のサスペンションの実用域、一般的には1Hz〜10数Hzの周波数帯域で、実用域を超えると周波数の増加に対するゲインの落ち込みが大きくなる特性を備えている。第一積分用ローパスフィルタ10で当該加速度を濾波することで当該加速度の積分値相当の値を得ることができる。したがって、第一積分用ローパスフィルタ10で前記加速度を濾波することで前輪ばね上速度Vbfを得ることができる。このように、第一積分用ローパスフィルタ10で加速度を積分する場合、低周波の積分ドリフトが問題となる。第一積分用ローパスフィルタ10で処理して得た前輪ばね上速度Vbfから積分ドリフトを取り除くため、前輪ばね下振動情報検知部1は、第一低周波除去用ハイパスフィルタ11を備えており、前輪ばね上速度Vbfを第一低周波除去用ハイパスフィルタ11で濾波して、低周波成分を除去して積分ドリフトが取り除かれた前輪ばね上速度Vbfが得られる。第一低周波除去用ハイパスフィルタ11の遮断周波数は、図3に示すように、ばね上共振周波数より低周波域にあり、前輪ばね上速度Vbfからばね上共振周波数成分が除去されないように配慮されている。第一積分用ローパスフィルタ10と第一低周波除去用ハイパスフィルタ11のゲイン周波数特性を合成すると、図4に示す特性となる。なお、第一積分用ローパスフィルタ10の前に第一低周波除去用ハイパスフィルタ11で前記加速度を濾波するようにしてもよく、処理順序は任意に変更可能である。また、前輪ばね下振動情報検知部1は、第一積分用ローパスフィルタ10と第一低周波除去用ハイパスフィルタ11を別個に備えるのではなく、代わりに第一積分用ローパスフィルタ10と第一低周波除去用ハイパスフィルタ11の特性を合成した図4に示した特性を持つ単一のバンドパスフィルタを備え、このバンドパスフィルタで処理するようにしてもよい。
相対速度Vsfは、ストロークセンサHが検出する車体Bと前輪Wfの相対変位を微分して得られるため、前輪ばね下振動情報検知部1は、微分用ハイパスフィルタ12を備えている。この微分用ハイパスフィルタ12は、図5に示すように、車両のサスペンションの実用域、一般的には1Hz〜10数Hzの周波数帯域で、実用域以下の周波数帯では周波数の増加に対してゲインの立ち上がりが大きくなる特性を備えている。微分用ハイパスフィルタ12で当該相対変位を濾波すると、当該相対変位の微分値に相当する値が得られる。したがって、前輪ばね下振動情報検知部1は、微分用ハイパスフィルタ12で前記相対変位を濾波して、相対速度Vsfを得る。このように、微分用ハイパスフィルタ12で相対変位を微分する場合、微分後の情報に高周波の微分ノイズが重畳する問題がある。微分用ハイパスフィルタ12で処理して得た相対速度Vsfから微分ノイズを取り除くため、前輪ばね下振動情報検知部1は、高周波除去用ローパスフィルタ13を備えており、相対速度Vsfを高周波除去用ローパスフィルタ13で濾波して、高周波成分を除去して微分ノイズが取り除かれた相対速度Vsfを得る。高周波除去用ローパスフィルタ13の遮断周波数は、図6に示すように、ばね下共振周波数より高周波域にあり、相対速度Vsfからばね下共振周波数成分が除去されないように配慮されている。微分用ハイパスフィルタ12と高周波除去用ローパスフィルタ13のゲイン周波数特性を合成すると、図7に示す特性となる。なお、微分用ハイパスフィルタ12の前に高周波除去用ローパスフィルタ13で前記相対変位を濾波するようにしてもよく、処理順序は任意に変更可能である。また、前輪ばね下振動情報検知部1は、微分用ハイパスフィルタ12と高周波除去用ローパスフィルタ13を別個に備えるのではなく、代わりに微分用ハイパスフィルタ12と高周波除去用ローパスフィルタ13の特性を合成した図7に示した特性を持つ単一のバンドパスフィルタを備え、このバンドパスフィルタで処理するようにしてもよい。
ここで、前輪ばね上速度Vbfと相対速度Vsfとに含まれるばね上振動成分の一致度合が高ければ、相対速度Vsfに含まれるばね上共振周波数成分が前輪ばね上速度Vbfと相対速度Vsfの加算によって正確に相殺される。他方、前輪ばね上速度Vbfと相対速度Vsfとに含まれるばね上振動成分の一致度合が低い場合、両者のばね上共振周波数成分が相殺されず誤差となって求めた前輪ばね下速度Vwfに含まれたままとなってしまう。
したがって、実用域で、車両の場合、一般的には1Hz〜10数Hzの周波数帯域で、第一積分用ローパスフィルタ10と第一低周波除去用ハイパスフィルタ11で処理して得た前輪ばね上速度Vbfと、微分用ハイパスフィルタ12と高周波除去用ローパスフィルタ13で処理して得た相対速度Vsfとに含まれるばね上振動成分の一致度合が高ければよい。
このように、前輪Wfの直上の加速度を第一積分用ローパスフィルタ10と第一低周波除去用ハイパスフィルタ11で処理し、車体Bと前輪Wfの相対変位を微分用ハイパスフィルタ12と高周波除去用ローパスフィルタ13で処理しており、両情報ともハイパスフィルタとローパスフィルタで処理されるから、処理後の両情報のゲイン特性の一致度を実用域で高めて、両情報から求める前輪ばね下速度Vwfの正確性が向上する。
なお、積分ドリフトが問題とならないようであれば、第一低周波除去用ハイパスフィルタ11を廃することができ、また、微分ノイズが問題とならないようであれば高周波除去用ローパスフィルタ13を廃することができる。前輪Wfの直上の加速度の積分は、第一積分用ローパスフィルタ10によらず積分演算によっても求めてもよいし、車体Bと前輪Wfの相対変位の微分は、微分用ハイパスフィルタ12によらず微分演算によって求めてもよい。
さらに、第一積分用ローパスフィルタ10と第一低周波除去用ハイパスフィルタ11の特性を合成した特性を、微分用ハイパスフィルタ12と高周波除去用ローパスフィルタ13の特性を合成した特性に一致させると、前輪ばね上速度Vbfと相対速度Vsfのゲインの一致だけでなく、両者の位相ずれをも緩和させることができ、求めた前輪ばね下速度Vwfからばね上共振周波数成分を効果的に除去して精度よく前輪ばね下速度Vwfを検知することができる。
なお、前記したところでは、前輪ばね上速度Vbfと相対速度Vsfとを加算して前輪ばね下速度Vwfを求めるが、前輪ばね上速度Vbfと相対速度Vsfの符号の取り方によって、前輪ばね上速度Vbfから相対速度Vsfを減算する、或いは、相対速度Vsfから前輪ばね上速度Vbfを減算することで前輪ばね下速度Vwfを求める場合もある。
前輪ばね下振動情報検知部1は、前記のようにして前輪ばね下速度Vwfを予め決められたサンプリング周期毎に継続して検知し続け、得られた前輪ばね下速度Vwfを記憶部5に記録させる。記憶部5は、データの記憶が可能であって、前輪ばね下速度Vwfを記憶し続ける。また、記憶部5は、前輪ばね下速度Vwfのデータ量が記憶部5の記憶容量一杯となるまで蓄積されるか、予め決められた個数のデータ数が蓄積されると、古いデータから順に新しい前輪ばね下速度Vwfのデータによって上書きして、データを更新しつつ前輪ばね下速度Vwfを記憶するようになっている。
本実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eでは、後輪ばね下振動情報推定部3は、図1に示すように、前輪ばね下振動情報検知部1で検知した前輪ばね下振動情報としての前輪ばね下速度Vwfと、車両Aの前後方向の速度Vaと車両Aのホイールベース長Lとに基づいて車両Aの後輪Wr側のばね下振動情報として後輪ばね下速度Vwrを推定するようになっている。車両Aの速度Vaは、車両Aに設置された速度センサ14によって検出されて後輪ばね下振動情報推定部3に入力される。
具体的には、後輪ばね下振動情報推定部3は、車両Aにおける後輪Wrが車両Aにおける前輪Wfが通過した路面と同一路面を通過すると仮定して、後輪ばね下速度Vwrを推定する。図8に示すように、車両Aが走行中、図8中の上図のように、前輪Wfがある地点の路面r1に到達し、これを通過した後、車両Aが直進すると、その前輪Wfの車両Aの前後方向に沿う同一線上であって当該前輪Wfの後方に設けられた後輪Wrは、図8中の下図のように、何秒後かに前輪Wfが通過した路面と同一の路面r1を通過することになる。車両Aの速度Vaが一定である場合、車両Aの前輪Wfと後輪Wrとの距離であるホイールベース長Lが分かっていれば、前輪Wfが路面r1を通過してから後輪Wrが路面r1に到達するまでの時間は、L/Vaを演算すれば求めることができる。前輪Wfが路面r1を通過した後に、車両Aの速度Vaが変化した場合、速度Vaを監視して、前輪Wfが路面r1の通過後の速度Vaの積分値がホイールベース長Lに等しくなった時点が、後輪Wrが同一の路面r1に到達するときである。前記のごとく仮定することで、後輪Wrが路面r1に到達する時点から何秒前に前輪Wfが路面r1を通過したかが分かる。そして、路面r1を通過したときの後輪Wrは、前輪Wfが路面r1を通過する際の前輪Wfと同様の動きを呈すると予想されることから、前輪Wfが路面r1を通過した際の前輪ばね下速度Vwfを後輪Wrが路面r1を通過した際の後輪ばね下速度Vwrと推定することができる。なお、車両Aが旋回中か、或いは前輪Wfが路面r1を通過した後に車両Aが旋回して、車両Aのハンドルの舵角が小さく、後輪Wrが路面r1を通過する場合も、同様に、前輪Wfが通過後、前輪ばね下速度Vwfを後輪Wrが路面r1を通過した際の後輪ばね下速度Vwrと推定できる。
以上より、後輪ばね下振動情報推定部3は、車両Aの速度Vaとホイールベース長Lとから前輪Wfが路面r1を通過した時点から後輪Wrが路面r1を通過すると考えられる時点までの時間Tを求める。そして、後輪ばね下振動情報推定部3は、後輪Wrが路面r1を通過すると考えられる時点において、当該時間Tだけ前の時点に得られた前輪ばね下速度Vwfを後輪Wrが路面r1を通過する際の後輪ばね下速度Vwrであると推定することができる。具体的には、後輪ばね下振動情報推定部3は、車両Aの前後方向の速度情報としての速度Vaとホイールベース長Lとから時間Tを求め、後輪ばね下速度Vwrを推定する時点から時間T前に得られた前輪ばね下速度Vwfを記憶部5から読み込んで、これを後輪ばね下速度Vwrとする。このように、後輪ばね下振動情報推定部3が時間Tを求めて、時間T前に得られた前輪ばね下速度Vwfを後輪ばね下速度Vwrとする場合、記憶部5は前輪ばね下速度Vwfを記憶する際に、当該前輪ばね下速度Vwfにこの前輪ばね下速度Vwfが検知された時刻を関連付けて、記憶するようにすればよい。なお、後輪ばね下速度Vwrを推定する時刻から時間Tを遡った時刻を時刻tとして、記憶部5に時刻t丁度に得られた前輪ばね下速度Vwfがない場合がある。このような場合には、後輪ばね下振動情報推定部3は、時刻tに一番近い時刻と二番目に近い時刻に得られた二つの前輪ばね下速度Vwfを線形補間して当該時刻tに得られた前輪ばね下速度Vwfを推定して、この前輪ばね下速度Vwfを後輪ばね下速度Vwrとすればよい。
後輪ばね下振動情報推定部3は、前述のように、時間Tを求めて、時刻tに得られた前輪ばね下速度Vwfを後輪ばね下速度Vwrとすることもできる。また、後輪ばね下振動情報推定部3は、時間Tを求めることに変えて、記憶部5に前輪ばね下速度Vwfに走行距離を関連付けすることで、時間Tを求めずに後輪ばね下速度Vwrとするべき前輪ばね下速度Vwfのデータを抽出することもできる。たとえば、記憶部5内に記憶させるデータ数を8とした場合を例に、時間Tを求めずに前輪ばね下速度Vwfのデータを抽出する手法を説明する。
前輪ばね下振動情報検知部1は、所定のサンプリング周期で前輪ばね下速度Vwfを検知しており、前輪ばね下速度Vwfが検知されるたびに、記憶部5に設けた#1から#8までの8つの記憶領域であるメモリのデータを更新する状況を図9に示した。より詳細には、前輪ばね下振動情報検知部1が検知する前輪ばね下速度Vwfが図10に示すように推移した際に得られる前輪ばね下速度Vwfを、順次、記憶部5に記録する場合のデータ状況を図9に示している。図10は、車両Aが走行を開始し加速する際に、前輪ばね下速度Vwfを14回検知したデータをプロットしたグラフである。なお、図10では、図9のデータ状況を簡単に理解できるよう、前輪ばね下速度Vwfの値を仮想的な値として実車で得られる値とは乖離した値となっている。また、図10中で、検知したデータを黒丸でプロットし、推定される後輪ばね下速度Vwrを×印でプロットしてある。
記憶部5には、前輪ばね下速度Vwfが走行距離と関連付けられて記憶部5内の記憶領域に設けられるメモリ#1〜#8に検知された順に記録される。後輪ばね下振動情報推定部3は、前記記録を行うたびにカウンタ値を加算し、前輪ばね下速度Vwfと走行距離を記憶部5に記録する際に、これらをカウンタ値と同じ番号のメモリへ格納する。この実施の形態の場合、メモリが#1から#8までの8個あるので、カウンタ値は、1から順に加算されて9となると、リセットされて1に書き換えられる。よって、後輪ばね下振動情報推定部3は、メモリ#8に前輪ばね下速度Vwfと走行距離を記憶させると、カウンタ値がリセットされて、次回の前輪ばね下速度Vwfと走行距離の記憶処理を行う際にはカウンタ値が1であるので、メモリ#1にこれらの情報を記録させることになる。
一回目に検知される前輪ばね下速度Vwfは、図10に示すように、0であるため、記憶部5のメモリ#1には、前輪ばね下速度Vwfの値が0として記録される。また、メモリ#1には、メモリ#1に記録される前輪ばね下速度Vwfの値が得られた時点での走行距離が関連付けされるため、走行距離は0となり、メモリ#1の走行距離には0が入力される。なお、図9のデータ状況を簡単に理解できるよう、走行距離も前輪ばね下速度Vwfの値と同様に仮想的な値として実車で得られる値とは乖離した値となっている。
二回目に前輪ばね下速度Vwfが検知されると、二回目の前輪ばね下速度Vwfは、メモリ#2に格納される。二回目の前輪ばね下速度Vwfの値は1であるから、メモリ#2には前輪ばね下速度Vwfが1として記録される。また、メモリ#2には、メモリ#2に記録される前輪ばね下速度Vwfの値が得られた時点での走行距離が関連付けされるため、メモリ#2に記録される走行距離は0であるので、0が入力される。他方、すでに、一回目の前輪ばね下速度Vwfの値が入力されているメモリ#1の走行距離には、前回までの走行距離の値に、一回目の前輪ばね下速度Vwfが検知された時点から二回目の前輪ばね下速度Vwfが得られた時点までに車両Aが走行した距離の値を加算した値が記録される。図9に示したところでは、走行距離が1であり、前回に記録されている走行距離が0であるので、メモリ#1の走行距離に1が格納される。前輪ばね下速度Vwfが検知されるサンプリング周期Tsが分かっているので、このサンプリング周期Tsと車両Aの速度VaからVa/Tsを演算することで走行距離を求めることができる。
三回目に前輪ばね下速度Vwfが検知されると、三回目の前輪ばね下速度Vwfは、メモリ#3に格納される。三回目の前輪ばね下速度Vwfの値は2であるから、メモリ#3には前輪ばね下速度Vwfが2として記録される。また、メモリ#3の前輪ばね下速度Vwfに関連付けされる走行距離は、前記一回目および二回目の前輪ばね下速度Vwfへの走行距離の関連付けと同様に0とされる。他方、すでに、一回目の前輪ばね下速度Vwfの値が入力されているメモリ#1の走行距離には、前回に更新された走行距離に、二回目の前輪ばね下速度Vwfが検知された時点から三回目の前輪ばね下速度Vwfが得られた時点までに車両Aが走行した距離を加算した値に記録される。つまり、すでに前輪ばね下速度Vwfが記録されている番号のデータの走行距離は、前回までに記録されている走行距離に今回走行した距離を加算した値に更新される。図9に示したところでは、二回目から三回目までの走行距離が2であるので、前回までに記録されているメモリ#1の走行距離の1に今回の走行距離の2を加算して、メモリ#1の走行距離の値が3に更新されることになる。つまり、新しく前輪ばね下速度Vwfが検知されて記憶部5に記録される際に、それ以前に前輪ばね下速度Vwfが記録されている番号のデータの走行距離には、その前輪ばね下速度Vwfが検知された時点から最新の前輪ばね下速度Vwfが検知された時点までの走行距離が記録されることになる。同様に、メモリ#2の走行距離は、前回までに記録されている走行距離の値が0であるから、これに今回の走行距離の2が加算され2となる。
以降、順次、前輪ばね下速度Vwfが検知されると、前回に前輪ばね下速度Vwfが更新された番号のデータの次に大きな番号のデータへ前輪ばね下速度Vwfが記録される。なお、メモリ#8に前輪ばね下速度Vwfが記録されると、次回に検知される前輪ばね下速度Vwfは、メモリ#1に上書きされて記録される。つまり、この実施の形態では、8個のデータを記憶部5に記録することができ、前輪ばね下速度Vwfの検知回数が9回を超えると、9回目からは過去に得られた前輪ばね下速度Vwfの値を新しく得られた前輪ばね下速度Vwfに更新されることになる。そして、前輪ばね下速度Vwfを新しく得られた値に更新した場合、走行距離をリセットして0とする。したがって、各番号のデータにおける走行距離は、同じデータ内の前輪ばね下速度Vwfが検知された時点から現時点までに車両Aが走行した距離となる。
以上のように、記憶部5に前輪ばね下速度Vwfに走行距離を関連付けしてデータが記録されると、たとえば、ホイールベース長Lが14であるとすると、走行距離が14であるデータを参照すれば、後輪ばね下速度Vwrとして採用すべき前輪ばね下速度Vwfを抽出することができる。前輪Wfから後輪Wrまでの距離は、ホイールベース長Lに等しい。また、データ内に格納されている走行距離は、前輪ばね下速度Vwfが得られてから今までに走行した距離である。このことから、走行距離がホイールベース長Lに等しい番号のデータを参照すれば、後輪Wrが路面r1に到達したと考えられる時点において、前輪Wfが路面r1を走行した際に検知される前輪ばね下速度Vwfを得ることができるのである。よって、順次記憶部5に記録された前輪ばね下速度Vwfのうち、走行距離がホイールベース長Lに等しいデータを選択し、このデータ内に格納されている前輪ばね下速度Vwfを後輪ばね下速度Vwrとすることで、時間Tを求めずに後輪ばね下速度Vwrを推定することができる。
なお、走行距離が丁度ホイールベース長Lに等しいデータが無い場合、後輪ばね下振動情報推定部3は、走行距離がホイールベース長Lに一番近い値を持つデータと、前記一番近い値がホイールベース長Lより大きい場合にはホイールベース長より小さな値であってホイールベース長に二番目に近い値を持つデータを、前記一番近い値がホイールベース長Lより小さい場合にはホイールベース長より大きな値であってホイールベース長に二番目に近い値を持つデータを選択する。そして、後輪ばね下振動情報推定部3は、このようにして選択した一番近い値と二番目に近い値の二つのデータから前輪ばね下速度Vwfを得て、走行距離がホイールベース長となるように線形補間して後輪ばね下速度Vwrを推定すればよい。図10では、こうして得られた後輪ばね下速度Vwrを×印でプロットしてある。走行距離がホイールベース長Lに満たない状態では、前輪Wfが通過した路面r1に後輪Wrが到達しないため推定できない。この実施の形態の場合、図9に示すように、5回目の記録まではこの条件を満たしていないので、後輪ばね下速度Vwrを推定できない。そのため、後輪ばね下振動情報推定部3は、後輪ばね下速度Vwrの値を0とするようになっている。6回目以降の記録では、走行距離がホイールベース長L以上となっているデータが存在するため、後輪ばね下速度Vwrの推定が可能となる。なお、本例では、記憶部5内に記録されるデータ数が8であるが、データ数は任意に設定することができる。
また、後輪ばね下振動情報推定部3は、車両の速度情報を用いて後輪ばね下速度Vwrの推定を行う。速度情報には、車両Aの速度Vaのほか、速度Vaをサンプリング周期Tsで割り算して求めた走行距離や、速度Vaの二乗値などの速度Vaを加工した情報や、車輪の回転速度など速度Vaを推定可能な情報が含まれる。
前述した時間Tを求めずに後輪ばね下速度Vwrとするべき前輪ばね下速度Vwfのデータを抽出して、後輪ばね下速度Vwrの推定する際の後輪ばね下振動情報推定部3における具体的な処理手順を説明する。
図11に示すように、後輪ばね下振動情報推定部3は、速度センサ14で検出する速度Va、前輪ばね下振動情報検知部1が検知する現在の前輪ばね下速度Vwf、現在のカウンタ値を読み込む(ステップS21)。
つづいて、後輪ばね下振動情報推定部3は、記憶部5の各メモリ内に保存されている前輪ばね下速度Vwfと走行距離を読み込み(ステップS22)、走行距離を求めて読み込んだ各メモリ内の走行距離に求めた走行距離を加算して値を更新する(ステップS23)。
後輪ばね下振動情報推定部3は、カウンタ値を参照して、カウンタ値に一致する番号のメモリの走行距離をゼロリセットすべく0に書き換える(ステップS24)、さらに、カウンタ値に一致する番号のメモリに保存されていた前輪ばね下速度Vwfの値を現在の前輪ばね下速度Vwfの値に更新する(ステップS25)。
後輪ばね下振動情報推定部3は、各メモリに保存されている走行距離の最大値を抽出し(ステップS26)、この走行距離の最大値がホイールベース長L以上であるか否かを判断する(ステップS27)。この判断の結果、走行距離の最大値がホイールベース長L未満である場合には、前輪Wfが通過した路面r1に後輪Wrが達していない状況であるため、後輪ばね下振動情報推定部3は、後輪ばね下速度Vwrを推定できないので、後輪ばね下速度Vwrを0に設定し(ステップS34)、ステップS36の処理へ移行する。他方、走行距離の最大値がホイールベース長L以上である場合には、後輪ばね下振動情報推定部3は、走行距離がホイールベース長Lに最も近い値と二番目に近い値を抽出する(ステップS28)。
走行距離がホイールベース長に一番近い一番目の値と二番目に近い二番目の値を抽出するステップS28の処理につづいて、後輪ばね下振動情報推定部3は、抽出された走行距離が等しいか否かを判断する(ステップS29)。その結果、抽出された走行距離が等しい場合には、車両は停止していることになるから、後輪ばね下振動情報推定部3は、後輪ばね下速度Vwrの推定を要しないため、後輪ばね下速度Vwrを0に設定し(ステップS35)、ステップS36の処理へ移行する。他方、抽出された走行距離が異なる場合には、後輪ばね下振動情報推定部3は、一番目の値と二番目の値とホイールベース長Lとから、線形補間の演算に必要な比率を求める(ステップS30)。
次に、後輪ばね下振動情報推定部3は、前記した一番目の値とともに同じメモリに格納されていた前輪ばね下速度Vwfの値と、前記した二番目の値とともに同じメモリに格納されていた前輪ばね下速度Vwfの値を抽出し(ステップS31)、ステップS30で求めた比率を用いて抽出した二つの前輪ばね下速度Vwfの値を線形補間演算することで、走行距離がホイールベース長Lとなるときの前輪ばね下速度Vwfを推定する(ステップS32)。後輪ばね下振動情報推定部3は、後輪ばね下速度Vwrを線形補間演算によって求めた前輪ばね下速度Vwfの値に設定する(ステップS33)。
そして、後輪ばね下振動情報推定部3は、ここまでの処理で更新された前輪ばね下速度Vwfの値および走行距離の値を対応する各メモリへ保存する(ステップS36)。
後輪ばね下振動情報推定部3は、カウンタ値に1を加算し(ステップS37)、カウント値と全メモリ内に保存されているデータ数を比較する(ステップS38)。この比較の結果、カウンタ値が保存データ数を超える場合、すでに記憶部5に保存されている前輪ばね下速度Vwfのデータ数が記憶部5に設けられたメモリ数となっているため、次回以降に記録される前輪ばね下速度Vwfのデータを古いデータが記録されているメモリから順に上書き更新して記録するべく、カウンタ値をリセットして1とし(ステップS39)、ステップS40の処理へ移行する。カウンタ値が保存データ数以下である場合、保存されている前輪ばね下速度Vwfのデータうち、カウンタ値に一致する番号のメモリが存在し、その番号のメモリを更新すべきであるからカウンタ値のリセットは不要であり、ステップS40の処理へ移行する。
最後に、後輪ばね下振動情報推定部3は、前述の処理手順を実行することで推定される後輪ばね下速度Vwrをサスペンション振動情報推定部4へ出力する(ステップS40)。後輪ばね下振動情報推定部3は、前述の一連の処理を繰り返し行い、後輪ばね下速度Vwrを推定し続けるようになっている。
本実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eでは、後輪ばね上振動情報検知部2は、図1に示すように、後輪Wr側のばね上振動情報である後輪ばね上振動情報として後輪Wrの直上の車体Bの上下方向の速度である後輪ばね上速度Vbrを検知するようになっている。後輪ばね上振動情報検知部2は、後輪ばね上速度Vbrの検出にあたって、前述した前輪ばね上速度Vbfと同様に、加速度演算部2aを備えており、加速度演算部2aによって三つの加速度センサG1,G2,G3で検出した車体Bの上下方向の加速度から後輪Wrの直上の上下方向の加速度を得る。つづいて、後輪ばね上振動情報検知部2は、この加速度を積分することで、後輪ばね上速度Vbrを検知するようになっている。
後輪ばね上速度Vbrは、後輪Wrの直上の加速度を積分することで得られるため、後輪ばね上振動情報検知部2は、第二積分用ローパスフィルタ20を備えている。この第二積分用ローパスフィルタ20は、当該加速度を濾波して当該加速度の積分値に相当する値を得ることができる。したがって、第二積分用ローパスフィルタ20は、前記加速度を濾波することで後輪ばね上速度Vbrを得ることができる。このように、加速度を積分する場合、積分ドリフトが問題となる。第二積分用ローパスフィルタ20で処理して得た後輪ばね上速度Vbrから積分ドリフトを取り除くため、後輪ばね上振動情報検知部2は、第二低周波除去用ハイパスフィルタ21を備えている。よって、後輪ばね上振動情報検知部2は、後輪ばね上速度Vbrを第二低周波除去用ハイパスフィルタ21で濾波することで、低周波成分を除去して積分ドリフトが取り除かれた後輪ばね上速度Vbrを得ることができる。第二低周波除去用ハイパスフィルタ21の遮断周波数は、ばね上共振周波数より低周波域にあり、後輪ばね上速度Vbrからばね上共振周波数成分については除去されないように配慮されている。なお、第二積分用ローパスフィルタ20の前に第二低周波除去用ハイパスフィルタ21で前記加速度を濾波するようにしてもよく、処理順序は任意に変更可能である。また、後輪ばね上振動情報検知部2は、第二積分用ローパスフィルタ20と第二低周波除去用ハイパスフィルタ21を別個に備えるのではなく、代わりに第二積分用ローパスフィルタ20と第二低周波除去用ハイパスフィルタ21の特性を合成した特性を持つ単一のバンドパスフィルタを備え、このバンドパスフィルタで処理するようにしてもよい。
このようにして得られた後輪ばね上速度Vbrは、サスペンション振動情報推定部4の後輪側のサスペンション速度Vsrの推定に利用される。サスペンション振動情報推定部4は、この実施の形態の場合、後輪ばね下速度Vwrから後輪ばね上速度Vbrを差し引くことで後輪側のサスペンション速度Vsrを求める。
したがって、実用域で、車両の場合、一般的には1Hz〜10数Hzの周波数帯域で、第二積分用ローパスフィルタ20と第二低周波除去用ハイパスフィルタ21で処理して得た後輪ばね上速度Vbrと後輪ばね下速度Vwrの位相特性とゲイン特性の一致度を高めればよい。
後輪Wrの直上の加速度を第二積分用ローパスフィルタ20と第二低周波除去用ハイパスフィルタ21で処理して後輪ばね上速度Vbrを得て、後輪ばね下速度Vwrについても、第一積分用ローパスフィルタ10、第一低周波除去用ハイパスフィルタ11、微分用ハイパスフィルタ12および高周波除去用ローパスフィルタ13で処理することで、両情報のゲイン特性の一致度を実用域で高められ、両情報から求める後輪側のサスペンション速度Vsrの正確性が向上する。
なお、積分ドリフトが問題とならないようであれば、第二低周波除去用ハイパスフィルタ21を廃することができる。後輪Wrの直上の加速度の積分は、第二積分用ローパスフィルタ20によらず積分演算によっても求めてもよい。
さらに、第一積分用ローパスフィルタ10と第一低周波除去用ハイパスフィルタ11の特性を合成した特性と、微分用ハイパスフィルタ12と高周波除去用ローパスフィルタ13の特性を合成した特性と、第二積分用ローパスフィルタ20と第二低周波除去用ハイパスフィルタ21の特性を合成した特性とを同じにすると、後輪ばね上速度Vbrと後輪ばね下速度Vwrのゲイン特性の一致だけでなく、両者の位相特性のずれをも緩和させることができ、求めたサスペンション速度Vsrと実際のサスペンション速度との一致度を高めることができる。
サスペンション振動情報推定部4は、前記したように、推定された後輪ばね下振動情報としての後輪ばね下速度Vwrと後輪ばね上振動情報としての後輪ばね上速度Vbrとに基づき、後輪ばね下速度Vwrから後輪ばね上速度Vbrを差し引いて車両Aにおける後輪Wr側のサスペンション振動情報としての後輪側のサスペンション速度Vsrを求める。
このように、本発明のサスペンション振動情報推定装置Eは、後輪ばね下振動情報と後輪ばね上振動情報とに基づいて車両Aにおける後輪Wr側のサスペンション振動情報を求めており、後輪側の車体Bの振動状況も加味してサスペンション振動情報を推定する。したがって、本発明のサスペンション振動情報推定装置Eは、正確に後輪Wr側のサスペンション振動情報を推定することが可能である。
なお、後輪Wrが振動すると必ず車体Bも振動する関係にあり後輪ばね下速度Vwrおよび後輪ばね上速度Vbrには連成振動成分が重畳されている。また、後輪Wrのサスペンションのレバー比が設定されている。後輪ばね下速度Vwrから後輪ばね上速度Vbrを差し引いた値をそのまま後輪側のサスペンション速度Vsrとすると、前記した連成振動成分およびレバー比の影響で、サスペンション速度Vsrと実際のサスペンション速度とに見過ごせない誤差が生じる場合には、図1に示すように、補償ゲイン乗算部6を設けて、補償ゲインをサスペンション速度Vsrに乗じて、連成振動成分およびレバー比の影響を除去するようすることで、サスペンション速度Vsrを精度良く実際のサスペンション速度に一致させることができる。補償ゲイン乗算部6は、省略してもよい。なお、前記したところでは、後輪ばね下速度Vwrから後輪ばね上速度Vbrを差し引いてサスペンション速度Vsrを求めるが、後輪ばね上速度Vbrとサスペンション速度Vsrの符号の取り方によって、後輪ばね上速度Vbrから後輪ばね下速度Vwrを減算する、或いは、後輪ばね上速度Vbrと後輪ばね下速度Vwrとを加算してサスペンション速度Vsrを求める場合もある。
また、サスペンション振動情報推定部4が求めたサスペンション速度Vsrと実際のサスペンション速度とに見過ごせない位相ずれが生じる場合には、図12に示すように、位相補償フィルタ7を設けて、サスペンション速度Vsrの位相を実際のサスペンション速度の位相に一致させるようにすることができる。このように位相を一致させることで、より正確なサスペンション速度Vsrを求めることができる。
ところで、前述したところでは、サスペンション振動情報推定装置Eは、前輪Wfが通過した路面r1と同一の路面r1を後輪Wrが通過することを前提として、後輪Wr側のサスペンション速度Vsrを推定するが、後輪Wrが路面r1を通過しないような状況では、推定したサスペンション速度Vsrが実際のサスペンション速度に一致する信頼度(サスペンション速度Vsrの信頼度)が低くなる。
たとえば、図13に示すように、車両Aにおける車体Bと後輪Wrとの間に介装された減衰力を調整可能なダンパDを制御する制御装置Cでサスペンション振動情報推定装置Eが推定したサスペンション速度Vsrを利用することを考えると、推定したサスペンション速度Vsrの信頼度が低い場合、制御装置Cが信頼度の低いサスペンション速度Vsrを基づいてダンパDの減衰力を制御しても車体Bや後輪Wrの制振制御で良好な結果を得られない可能性が高くなる。サスペンション速度Vsrは、後輪Wrと車体Bとの間に介装されるダンパDの伸縮速度であるダンパ速度と等価であり、本実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eでは、ダンパ速度を求めていることになる。ダンパDはダンパ速度に対して減衰力を発揮するものであるから、このようにサスペンション振動情報推定装置Eでダンパ速度を求めることで、ダンパDの減衰力制御を行う制御装置Cに適した情報を提供することができる。
したがって、このようにサスペンション速度Vsrの信頼度が低い場合には、サスペンション振動情報推定装置Eでサスペンション速度Vsrを推定しないほうがよい、或いは、推定してもそのままそのサスペンション速度Vsrを制御装置Cへ出力するのではなく、エラー信号を出力するといった対処をするほうがよい。
そこで、本実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eでは、図1に示すように、サスペンション振動情報推定部4が求めたサスペンション速度Vsrが実際の後輪Wr側のサスペンション速度に一致する信頼度を判定する判定部8を設けている。
判定部8は、前記信頼度の判定に当たり、前記信頼度を数値として求めてもよいし、前記信頼度の有無を判断することもできる。この実施の形態の場合、判定部8は、図1に示すように、前記信頼度を数値として求めて、前記信頼度を信頼度ゲイン乗算部9へ出力する。信頼度ゲイン乗算部9は、前記信頼度に応じて信頼度ゲインPを求めて、信頼度ゲインPをサスペンション振動情報推定部4が求めたサスペンション速度Vsrに乗じる。したがって、本実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eは、信頼度ゲインPが乗じられたサスペンション速度Vsrを最終的なサスペンション速度Vsrlとして出力するようになっている。
前述したように、前輪Wfが通過した路面r1を後輪Wrが通過しない状況では、サスペンション速度Vsrの信頼度が低くなる。前輪Wfが通過した路面r1を後輪Wrが通過しない可能性が高くなるケースとしては、(1)ハンドルの舵角が大きい場合、(2)車両旋回中にカウンターステアを行った場合、(3)著しいアンダーステアで走行している場合(4)ニュートラルステアではあるが4輪がスライドするドリフト走行している場合、(5)車両が後退している場合が考えられる。
前述のケース(1)では、車両Aのハンドルの舵角を監視すればよく、ケース(2)からケース(4)では、車体Bに実際に作用する横方向の加速度と、速度Vaとハンドルの舵角とから推定される車体Bの横方向の加速度との乖離量や乖離度合から信頼度を判定することができる。スタビリティファクタを称される値を車体Bに実際に作用する横方向の加速度、速度Vaおよびハンドルの舵角θとから求めて、スタビリティファクタの値から信頼度を判定することも可能である。さらに、ケース(5)では、車両Aの速度Vaを監視すればよい。
前述の場合とは異なり、前輪Wfが通過した路面r1を後輪Wrが通過する場合であっても、(6)前輪Wfが路面r1を通過した際の速度と後輪Wrが路面r1を通過する速度との速度変化が大きい場合には、サスペンション速度Vsrの信頼度が低下する。このケース(6)については、後程詳細に説明する。
以下、各ケース毎の判定部8における判定手法についてより詳細に説明する。ケース(1)では、舵角が大きな場合には信頼度を低下させる。車両Aが旋回する場合、内輪差或いは外輪差によって、車両Aの前後方向に並ぶ前輪Wfと後輪Wrの軌跡の半径が異なり、前輪Wfの軌跡の半径のほうが後輪Wrの軌跡の半径よりも大きくなる。また、車両Aの前輪Wfの舵角が大きくなればなるほど、内輪差或いは外輪差が大きくなる。以上から、図1に示すように、車両AのハンドルSwの中立位置からの舵角θを舵角センサ30で検出して、舵角θに基づいて判定部8でサスペンション速度Vsrの信頼度を求めればよい。具体的には、前記舵角θの絶対値に対して閾値θaを設けて、閾値θaを超えると信頼度を徐々に低下させることも可能であるし、舵角θの絶対値が閾値θaを超えると信頼度を0とするようにしてもよい。閾値θaは、たとえば、内輪差或いは外輪差で前輪Wfを通過した路面r1を後輪Wrが通過しないことが確実となる舵角に設定すればよい。なお、閾値θaの具体的な設定は、ホイールベース長L、トレッド長から求めることができる。
路面r1がそのポイントにおいて周辺の路面とは無関係な特徴を持っていると考える場合、舵角θの絶対値が閾値θaを超えると後輪Wrが前輪Wfを通過した路面r1を走行しないので、判定部8は信頼度を最小値、たとえば、0とし、反対に、舵角θの絶対値が閾値θaの範囲内であれば、判定部8は信頼度をあらかじめ設定した最大値として、信頼度ゲイン乗算部9へ出力すればよい。つまり、信頼度として取り得る値は、図14に示すように、最小値か最大値とされることになる。信頼度の最小値と最大値は、任意に設定することができ、たとえば、百分率で表現する場合には、図14に示すように、最小値を0%として、最大値を100%とすればよい。
これに対して、路面r1がそのポイントにおいて周辺の路面の形状に影響を受けると考える場合、舵角θの絶対値が閾値θaを超えると後輪Wrが前輪Wfを通過した路面r1を走行しないので、判定部8は信頼度を最小値とし、反対に、たとえば、舵角θの絶対値が閾値θaの範囲内であれば舵角θの絶対値に応じて、判定部8は、信頼度を最小値から最大値の間で変化させるようにすることも可能である。つまり、舵角θの大きさに応じて信頼度の値が変化するようにすることも可能である。なお、図15に示すように、舵角θの絶対値の値が前輪Wfの通過した路面r1を後輪Wrが確実に通過するであろうと思われる舵角範囲内では信頼度を最大値として、その舵角θbまで範囲を超えて閾値までの範囲内では信頼度が最大値から最小値へ変化するようにすることも可能である。この実施の形態では、判定部8は、ハンドルSwの舵角θを用いて信頼度を判定しているが、舵角θを特定可能な舵角情報を用いて判定すればよく、舵角情報には、舵角θそのものの他、操向輪の実際の舵角や舵角θを加工した情報も含まれる。
ケース(2)からケース(4)では、車両Aは、舵角θ通りに旋回するのではなく、車両Aが横滑りしている状態である。このような場合には、車体Bが横方向に滑っているために、前輪Wfが通過した路面r1の後輪Wrの通過を期待することができない。よって、このような状況であると判定される場合、判定部8は、信頼度を低下させることになる。
車両Aが旋回中に車体Bに作用する横方向の加速度は、車両Aが旋回することで車体Bに作用する遠心加速度が主成分である。前輪Wfおよび後輪Wrが横滑りしていないことを前提に、舵角θによって車両Aの旋回半径が決まり、旋回速度は、速度センサ14で検出する速度Vaとなるため、舵角θと速度Vaが分かれば、車両Aが旋回中に車体Bに作用する横方向の加速度を推定することができる。
具体的には、ハンドルSwの舵角θに対して実際の操向輪である前輪Wfの舵角をθwとすると、舵角θと舵角θwは比例関係にあり、ホイールベース長Lと舵角θwとから車両Aの旋回半径を求めることができる。車両Aが旋回中に車体Bに作用する横方向の加速度は、速度Vaを二乗した値を旋回半径で割り算することで求めることができ、具体的には、加速度=Va2・θw/Lを演算することで求めることができる。よって、舵角θと速度Vaを得ることで、車体Bに作用する横方向の加速度を推定することができる。そして、判定部8では、舵角センサ30および速度センサ14から舵角θおよび速度Vaを得て、前述したように車体Bに作用する横方向の加速度を推定する。なお、判定部8では、操向輪の舵角θwが分かればよいので、ハンドルSwの舵角θではなく、前輪Wfの実舵角θwを検出し信頼度を判定してもよいし、操向輪が後輪Wrであれば、後輪Wrの実舵角を検出して、信頼度を判定してもよい。
前述したように、ケース(2)からケース(4)では、車両Aは、舵角θ通りに旋回するのではなく、車両Aが横滑りしている状態であるから、車体Bに作用している実際の横方向の加速度αと前述のようにして推定された横方向の加速度とでは乖離が生じる筈である。実際の横方向の加速度αは、加速度センサG1,G2,G3で検出した加速度から車体Bが剛体であると仮定することで、求めることが可能である。そして、判定部8では、加速度センサG1,G2,G3で検出した加速度から車体Bに実際に作用している横方向の加速度を検知するようになっている。なお、前記の横方向の加速度の検知は、加速度センサG1,G2,G3とは別に加速度センサを設けて行ってもよい。
判定部8は、実際の加速度αと推定した加速度の乖離から信頼度を求める。具体的には、判定部8は、加速度αと推定した加速度との偏差の加速度αに対する割合を調べて、加速度αと推定した加速度の一致度を求め、これを信頼度としたり、前記偏差と信頼度との関係をマップ化しておき、偏差から信頼度を求めるとしたりすることができる。
また、ケース(2)からケース(4)では、車両Aが横滑りしている状態であるので、スタビリティファクタを求めることで、信頼度を求めるようにしてもよい。スタビリティファクタをSfとすると、車体Bに作用する横方向の加速度α、速度Va、ホイールベース長L、操向輪である前輪Wfの実際の舵角θwとの間に、α=Va2・θw/{(1+Sf・Va2)・L}の関係がある。加速度α、速度Vaおよび舵角θwは、上述したようにセンサで検出することができ、ホイールベース長Lは既知であるからスタビリティファクタSfを算出することができる。
スタビリティファクタSfが0の値をとる場合、加速度α=Va2・θw/Lとなり、Va2・θw/Lは遠心加速度に他ならないから、車両Aは横滑りしていないことがわかる。スタビリティファクタSfが正の値のときには、車両Aはアンダーステアの状態であり、反対に、スタビリティファクタSfが負の値のときには、車両Aはオーバーステアの状態であることを示している。よって、スタビリティファクタSfの値を求めて、車両Aが横滑り状態であるか否かを判断することができる。
このように判定部8でスタビリティファクタSfを求める場合には、スタビリティファクタSfの値が0から乖離すればするほど、車両Aの横滑りの程度が大きくなることから、信頼度も低下することになる。たとえば、スタビリティファクタSfの絶対値をパラメータとして当該絶対値と信頼度をマップ化しておき、スタビリティファクタSfの絶対値から信頼度を数値的に求めることができるし、閾値を設けておき、閾値で信頼度の有無を判定することも可能である。
また、ケース(2)からケース(4)では、ハンドルSwの舵角θ通りに旋回するのではなく、車両Aが横滑りしている状態であり、車両Aの実際のヨーレートとハンドルSwの舵角θから推定したヨーレートとは乖離する。よって、車体Bに作用している実際の横方向の加速度αと推定された横方向の加速度との乖離から信頼度を求めることに代えて、車両Aの実際のヨーレートとハンドルSwの舵角θから推定したヨーレートとの乖離から信頼度を求められる。車両Aの実際のヨーレートは、車両Aにヨーレートセンサを設けて検出すればよい。また、ヨーレートは、旋回中の車両Aの接線方向速度を旋回半径で割り算して求められるが、旋回半径は前述のとおりホイールベース長Lと舵角θから求められ、接線方向速度は速度Vaであるから、ヨーレートを速度Vaと舵角θを用いて推定できる。
そして、車両Aの実際のヨーレートとハンドルSwの舵角θから推定したヨーレートとの乖離が大きい場合、車両Aが横滑りしている状態であるから、乖離が大きくなればなるほど、信頼度が低下するので、乖離を求めれば信頼度を求められる。ケース(5)では、速度Vaを監視して、検出される速度Vaの値から車両Aが後退していると判断される場合、信頼度を最小値にするようにすればよい。また、車両の後退は、トランスミッションのギアポジションを監視することでも判断できる。
次に、ケース(6)の前輪Wfが路面r1を通過した際の速度と後輪Wrが路面r1を通過する速度との速度変化が大きい場合の処理について説明する。まず、加減速時に前輪ばね下振動情報を後輪ばね下振動情報として採用すると信頼度が低下することについて説明する。加減速中あるいは前輪Wfが路面r1を通過してから加減速する場合、速度が一定でないものの、前輪Wfが路面r1を通過してから後輪Wrが路面r1に達するまでに要する時間は、車両Aの速度Vaの速度変化を監視すれば求めることができる。原理的には、現在、路面r1に後輪Wrが達したとして、前記のように速度変化を監視して求めた時間だけ前に得られた前輪ばね下速度Vwfを後輪Wrの後輪ばね下速度Vwrであると推定することができそうである。たとえば、前輪Wfが路面r1を通過してから速度Vaが2倍になったと仮定して、前述のとおりに後輪ばね下速度Vwrを推定すると、図16に示すように、前輪Wfの前輪ばね下速度Vwfを得た時の振動波形に対して推定によって得られる後輪ばね下速度Vwrは振動周期が2分の1に圧縮されることになる。他方、ばね下部材である前輪Wfおよび後輪Wrはタイヤと車体Bの間に介装される懸架ばねのばねマス系であって、前輪Wfおよび後輪Wrは、基本的には特定の共振周波数で振動することになる。前述のように、速度Vaが二倍になって推定される後輪ばね下速度Vwrの振動周波数は、前輪ばね下速度Vwfの振動周波数の二倍になってしまうが、実際には、後輪Wrの共振周波数は変化しないから、推定される後輪ばね下速度Vwrは実際の後輪ばね下速度Vwrから乖離する。前輪Wfが路面r1を通過してからの車両Aの速度Vaの変化量が大きいほど、両者の乖離が顕著となり、信頼度が低下してしまうことになる。前記したところでは、前輪Wfが路面r1を通過した後、加速した場合を説明したが、減速する場合には、推定される後輪ばね下速度Vwrの振動周波数が共振周波数よりも低くなる。よって、減速時も推定される後輪ばね下速度Vwrは、実際の後輪ばね下速度Vwrから乖離する。
よって、判定部8では、前輪Wfが路面r1を通過した際の速度と後輪Wrが路面r1を通過する速度との速度変化に応じて信頼度を低下させるようになっている。
具体的には、前輪Wfが路面r1を通過した際の速度Vaに着目すると、速度Vaが高くなればなるほど、前輪Wfが路面r1を通過してから後輪Wrが路面r1を通過するまでの時間は短くなる。また、前輪Wfが路面r1を通過してから後輪Wrが路面r1を通過する時間は、加速或いは減速時の加速度(車両Aの前後方向の加速度)が車両Aに作用する時間であるから、加速度が一定であれば、この時間が短ければ短いほど速度変化量は小さくなる。反対に、前輪Wfが路面r1を通過する際の車両Aの速度Vaが低くなると、加減速時の加速度が車両Aに作用する作用時間が長くなるために、速度変化量が多くなる。よって、前輪Wfが路面r1を通過する際の車両Aの速度Vaが高いほど、推定される後輪ばね下速度Vwrと実際の後輪ばね下速度Vwrの乖離は小さく、当該速度Vaが低いほど、推定される後輪ばね下速度Vwrと実際の後輪ばね下速度Vwrの乖離は大きくなる。以上から、前輪Wfが路面r1を通過する際の車両Aの速度Vaが高いほど、推定される後輪ばね下速度Vwrが実際の後輪ばね下速度Vwrに一致する信頼度は高くなり、当該速度Vaが低いほど、推定される後輪ばね下速度Vwrが実際の後輪ばね下速度Vwrに一致する信頼度が低くなる。また、車両Aの前後方向に作用する加速度の絶対値が大きいほど、速度変化量が多くなって、信頼度が低下することになる。
そこで、判定部8では、ケース(6)では、前述した速度Vaおよび車両Aの前後方向の加減度に基づいて信頼度を判定する。ホイールベース長L=2.5mの車両Aにて、時速100kmで走行中の車両Aを−20km/sの加減速率で減速させる場合、縦軸に車両Aの速度Vaをとり、横軸に車両Aの走行距離(前輪または後輪がある地点を通過してからの走行距離)をとって、前輪Wfと後輪Wrが同じ路面を通過する際の速度Vaは図17(A)に示すように推移する。図17(A)中実線は、前輪Wfが路面を通過した際の車両Aの速度変化を示しており、同図中の破線は、後輪Wrが前輪Wfと同じ路面と通過した際の車両Aの速度変化を示している。また、縦軸にある路面を前輪Wfが通過する時の車両Aの速度で同一路面を後輪Wrが通過する時の車両Aの速度を割った速度比をとり、横軸に車両Aの走行距離をとると、前記速度比は図17(B)に示すように推移する。前記速度比が90%となるポイントに着目すると、前輪Wfが路面r1を通過する際の速度Vaが時速45kmよりも低くなると、速度比が90%を下回り、前輪Wfと後輪Wrが同一路面r1と通過する際の速度変化量が多くなる。また、時速100kmで走行中の車両Aを−40km/sの加減速率で減速させる場合、縦軸に車両Aの速度Vaをとり、横軸に車両Aの走行距離(前輪または後輪がある地点を通過してからの走行距離)をとって、前輪Wfと後輪Wrが同じ路面を通過する際の速度Vaは図18(A)に示すように推移し、また、縦軸にある路面を前輪Wfが通過する時の車両Aの速度で同一路面を後輪Wrが通過する時の車両Aの速度を割った速度比をとり、横軸に車両Aの走行距離をとると、前記速度比は図18(B)に示すように推移する。図18(A)中実線は、前輪Wfが路面を通過した際の車両Aの速度変化を示しており、同図中の破線は、後輪Wrが前輪Wfと同じ路面と通過した際の車両Aの速度変化を示している。前記速度比が90%となるポイントに着目すると、前輪Wfが路面r1を通過する際の速度Vaが時速65kmよりも低くなると、速度比が90%を下回り、前輪Wfと後輪Wrが同一路面r1と通過する際の速度変化量が多くなる。
減速時においてはある路面を前輪Wfが通過する時の車両Aの速度で後輪Wrが通過する時の車両Aの速度を割った速度比βとし、加速時においてはある路面を前輪Wfが通過する時の車両Aの速度を後輪Wrが通過する時の車両Aの速度で割った速度比γとすると、速度比β或いは速度比γが90%となる状況では、推定される後輪ばね下速度Vwrの振動周期は、実際の後輪ばね下速度Vwrの振動周期に対して、減速時では0.9倍となり、加速時では約1.1倍となる。よって、速度比β,γが90%以下では、推定される後輪ばね下速度Vwrの振動周期と実際の後輪ばね下速度Vwrの振動周期に10%以上のずれが生じ、両者が一致する度合が低く、信頼度が低いと判断し、本実施の形態では、速度比が90%以下となると信頼度を0とするようにしている。
速度比β,γが90%となる限界速度Vlimと加減速率との関係を図19に示す。図19に示すように、加減速率が大きくなると限界速度が大きくなり、この傾向は、減速時も加速時も同様である。また、速度比β,γが93%となる値をグラフ中にプロットしており、速度比βが93%となる速度と速度比γが93%となる速度の平均速度から速度比β,γが90%までの範囲では、信頼度を徐々に低下させるようにしている。なお、図19において、実線は加速時に速度比γが90%となる速度、破線は減速時に速度比βが90%となる速度、一点鎖線は速度比βが93%となる速度と速度比γが93%となる速度の平均速度を描いたものである。以下、この一点鎖線を境界速度線と表現する。たとえば、信頼度を百分率で表現する場合、速度と加減速率の関係がこの境界速度線上にある時の信頼度を100%とし、速度比β,γが90%の時の信頼度を0%とし、境界速度線から速度比β,γが90%の間の区間は、信頼度が線形的に変化するようにしている。よって、判定部8は、図19に示すような限界速度と、加減速率と速度比βが93%となる速度と速度比γが93%となる速度の平均速度との関係をマップ化して保有しておき、速度Vaと加減速率とから信頼度を値として求めるようにすればよい。なお、縦軸に限界速度の2乗値とする場合、図20に示すように、限界速度の二乗値は、加減速率に対してほぼ比例する特性がある。また、加減速率に対して速度比βが93%となる速度と速度比γが93%となる速度の平均速度を同じ図にプロットしても、同じように平均速度は加減速率に比例的に変化する。このことから、マップを利用するのではなく、演算式で速度比βが93%となる速度と速度比γが93%となる速度の平均速度と速度比β,γが90%となる速度を加減速率から求めることができ、求めたこれら速度を閾値として現在の速度とを比較して信頼度を求めてもよい。なお、図20においても、実線は加速時に速度比γが90%となる速度、破線は減速時に速度比βが90%となる速度、一点鎖線は速度比βが93%となる速度とγが93%となる速度の平均速度を描いたものである。
前述したところでは、速度比β,γが90%となる速度を閾値として信頼度0%とするように判定しているが、車両の仕様などにより90%以外の速度比β,γで閾値を設定することができる。なお、ホイールベース長Lが前輪Wfの路面r1の通過から後輪Wrの路面r1の到達までの時間に影響を与えるので、ホイールベース長Lを考慮に入れて判定部8で保有するマップ、演算式を設定すればよい。
以上、判定部8は、ケース(1)のハンドルSwの舵角θから求めた信頼度と、
ケース(2)からケース(4)の車両Aが横滑りしている状態か否かの観点から求めた信頼度と、ケース(5)の車両Aが後退しているか否かを判断して求めた信頼度と、ケース(6)の速度Vaと加減速率から求めた信頼度のうち、一番値の小さい信頼度を選択(ローセレクト)して信頼度ゲイン乗算部9へ出力する。
信頼度ゲイン乗算部9は、信頼度から信頼度ゲインを求めるマップ或いは演算式を利用して信頼度ゲインを求め、サスペンション振動情報推定部4が求めたサスペンション速度Vsrに信頼度ゲインを乗じて出力する。なお、図12に示すように、位相補償フィルタ7を設ける場合には、位相補償フィルタ7の出力に信頼度ゲインを乗じてもよいし、位相補償フィルタ7の前段でサスペンション振動情報推定部4が求めたサスペンション速度Vsrに信頼度ゲインを乗じるようにしてもよい。
なお、判定部8は、ケース(1)からケース(6)の場合、四つの信頼度を求めるようになっているが、四つの信頼度のうち、一部の信頼度のみを求めるようにすることも可能である。ただし、前記した全ての信頼度を求めてローセレクトすることで、前輪Wfと同じ路面r1を後輪Wrが通過できない状況を多面的に網羅できるので、信頼性の高いサスペンション速度Vsrを求めることができる。判定部8を設けずとも後輪側のサスペンション速度Vsrを求めることができるが、判定部8で推定される後輪ばね下速度Vwrの信頼度を求め、信頼度ゲイン乗算部9で信頼度を加味して、サスペンション振動情報としてのサスペンション速度Vsrを求めるので、実際のサスペンション速度により一致度の高いサスペンション速度Vsrを得ることができる。また、判定部8は、ケース(2)からケース(6)の判定を行う際に、車両Aの前後方向の速度Vaを利用するが、車両の速度情報を用いて判定を行うことができる。速度情報は、前述したように、車両Aの速度Vaの二乗値などの速度Vaを加工した情報や車輪の回転速度など車速Vaを推定可能な情報が含まれる概念である。
信頼度ゲイン乗算部9では、百分率で表現される信頼度の値に信頼度ゲインを関連付けて信頼度ゲインを求める。たとえば、信頼度が最大値の100%から0%に変化するのに対応して、図21のマップに示すように、信頼度ゲインを1から0にまで連続的に変化するように設定してもよいし、図22のマップに示すように、信頼度のある値で信頼度ゲインの値が1から0にステップ的に変化するようにすることもできる。前者であれば、信頼度が低下することに伴ってサスペンション速度Vsrが徐々に0に近づくので、制御装置Cへの入力されるサスペンション速度Vsrの信号がフェードアウトするような効果を得ることができ、値の急変を避けることができる。後者であれば、制御装置Cで、たとえば、サスペンション速度Vsr以外の振動情報からもダンパDの目標減衰力を求め、複数の目標減衰力のうち最大値を最終的な目標減衰力とするハイセレクトによる制御を行う場合には、制御装置Cでの信頼度が低下したサスペンション速度Vsrを用いた制御を直ちに停止させることができる効果を得ることができる。後者では信頼度の有無を判断するような効果を得るものであるから、判定部8で信頼度が有無を判定する場合には、判定部8が1或いは0の値を出力して、信頼度ゲイン乗算部9では、判定部8の出力をそのままサスペンション速度Vsrに乗じてもよい。
前述したところでは、前輪Wfが通過した路面r1を後輪Wrが通過せず信頼性の高いサスペンション速度Vsrを求めることができない状況であるか否かと、前輪Wfが通過した路面r1を後輪Wrが通過するような状況であっても加減速によって信頼性の高いサスペンション速度Vsrを求めることができない状況であるか否かという点に着目して、判定部8で信頼度を求めるようにしているが、これとは別に、記憶部5の記憶容量に起因して後輪ばね下速度Vwrを正確に推定できない場合がある。
車両Aの速度Vaが低速であればあるほど、前輪Wfが路面r1を通過してから後輪Wrが路面r1に到達するまでに時間がかかることになる。他方、前輪ばね下速度Vwfは、前述したように、あらかじめ決められたサンプリング周期Tsで定期的に検知される。時間がかかるということは、前輪Wfが路面r1を通過してから後輪Wrが路面r1に到達するまでに検知される前輪ばね下速度Vwfのデータ数が多くなるということである。
前輪Wfが路面r1を通過してから後輪Wrが路面r1に到達するまでにサンプリングされる前輪ばね下速度Vwfのデータ数が記憶部5に保存することができる前輪ばね下速度Vwfのデータ数を上回る状況となると、後輪Wrが路面r1に到達して後輪ばね下速度Vwrを推定する際に参照すべき前輪ばね下速度Vwfの値は、前輪Wfが路面r1とは異なる路面を通過した際のデータに置き換わっているので、正確に後輪ばね下速度Vwrを推定することができない。
そこで、本実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eでは、推定停止判断部15を設けている。この推定停止判断部15は、速度閾値を設けて、速度Vaが速度閾値より低いと、信頼度ゲイン乗算部9の後段で、サスペンション振動情報としてのサスペンション速度Vsrに0を乗じ、速度Vaが速度閾値以上である場合には、サスペンション速度Vsrに1を乗じて出力するようになっている。この実施の形態の場合、この出力がサスペンション振動情報推定装置Eの求めた最終的なサスペンション速度Vsrとなる。なお、判定部8における信頼度の判定に当たり、ケース(1)に相当するハンドルSwの舵角θが大きな場合には信頼度を低下させることを説明したが、一般的にハンドルSwの舵角θが大きくなるのは、車両Aの速度Vaが低速である場合であるから、判定部8において前記舵角θによる信頼度の判定に変えて推定停止判断部15による判断のみを行うようにしてもよい。また、速度閾値Vrefは、データ数N、ホイールベース長L、サンプリング周期Tsを利用して、決めることができる。また、推定停止判断部15は、記憶部5に格納可能なデータ数が多く、速度Vaが低速であっても問題にならないようであれば、省略してもよい。
以上、サスペンション振動情報推定装置Eの各部について説明したが、当該サスペンション振動情報推定装置Eにてサスペンション振動情報を得るための処理について説明する。この処理は、四輪車の左右の前輪Wfの前輪ばね下振動情報から各前輪Wfのそれぞれ後方に配置されている左右の後輪Wrのサスペンション速度をそれぞれ求める処理となっている。
図23に示すように、サスペンション振動情報推定装置Eは、速度センサ14が検出する速度Va、加速度センサG1,G2,G3が検出する加速度、舵角センサ30が検出する舵角θ、ストロークセンサHが検出する車体Bと前輪Wfの相対変位の各検出データを読み込む(ステップS1)。
つづいて、サスペンション振動情報推定装置Eは、加速度センサG1,G2,G3が検出する加速度から車両Aの前後のばね上振動情報としてばね上速度Vbf,Vbrを演算する(ステップS2)。また、このステップS2の処理では、前輪ばね上振動速度Vbfを第一積分用ローパスフィルタ10と第一低周波除去用ハイパスフィルタ11で濾波する処理と、後輪ばね上速度Vbrを第二積分用ローパスフィルタ20と第二低周波除去用ハイパスフィルタ21で濾波する処理を行う。
次に、サスペンション振動情報推定装置Eは、前輪ばね下振動情報として前輪ばね下速度Vwfを求める(ステップS3)。具体的には、サスペンション振動情報推定装置Eは、ストロークセンサHで検出した車体Bと前輪Wfとの上下方向の相対変位を微分して、車体Bと前輪Wfとの上下方向の相対速度Vsfを求める。さらに、サスペンション振動情報推定装置Eは、ステップS2で得られた前輪ばね上速度Vbfと相対速度Vsfを加算し、車両Aの左右の二つの前輪Wfについてそれぞれ前輪ばね下速度Vwfを求める。このステップS3の処理では、相対速度Vsfを微分用ハイパスフィルタ12および高周波除去用ローパスフィルタ13で濾波する処理も行われる。
そして、サスペンション振動情報推定装置Eは、前輪Wfが通過した路面r1を後輪Wrが到達すると予測し、車両Aの左右の後輪Wrのそれぞれについて、その前方にある前輪Wfが路面r1を通過したときの前輪ばね下速度Vwfを後輪ばね下速度Vwrであると推定する(ステップS4)。この推定処理は、前述したステップS21からステップS40までの処理に相当する。なお、前記ステップS21からステップS40の処理に変えて、前輪Wfが通過した路面r1を後輪Wrが到達するまでに要する時間Tを速度Vaとホイールベース長Lとから求めて、時間Tだけ前に記憶部5に保存された前輪ばね下速度Vwfを後輪ばね下速度Vwrとする処理を行うようにしてもよい。
さらに、サスペンション振動情報推定装置Eは、ステップS4で求めた左右の後輪Wrの後輪ばね下速度Vwrから左右の後輪Wrに対応して、当該各後輪Wrの直上の後輪ばね上速度Vbrを差し引くことで左右の後輪Wrのサスペンション速度Vsrを求める(ステップS5)。このステップS5の処理では、前述した連成振動成分およびレバー比の影響で求めたサスペンション速度Vsrと実際のサスペンション速度とに見過ごせない誤差が生じる場合がある場合には、補償ゲイン乗算部6による補償ゲインをサスペンション速度Vsrに乗じる処理も行う。また、サスペンション速度Vsrと実際のサスペンション速度とに見過ごせない位相ずれが生じる場合には、位相補償フィルタ7でサスペンション速度Vsrを濾波して、位相を実際のサスペンション速度の位相に一致させるようにする処理も行う。補償ゲイン乗算部6の処理と、位相補償フィルタ7の処理は、不要であれば省略することもできる。
つづいて、サスペンション振動情報推定装置Eは、求めたサスペンション速度Vsrの信頼度を求め、信頼度に応じた信頼度ゲインをサスペンション速度Vsrに乗じて、サスペンション速度Vsrを補正する(ステップS6)。この処理は、前述した判定部8にて行う処理である。
さらに、サスペンション振動情報推定装置Eは、ステップS6で処理した後のサスペンション速度Vsrに対して、速度Vaが速度閾値以上であるかを判断して、速度Vaが速度閾値より低いとサスペンション速度Vsrに0を乗じ、速度Vaが速度閾値以上である場合には、サスペンション速度Vsrに1を乗じて出力する(ステップS7〜S10)。なお、速度Vaが速度閾値より低い場合にサスペンション速度Vsrを0とし、速度Vaが速度閾値以上である場合には、サスペンション速度Vsrをそのまま出力する処理としてもよい。サスペンション振動情報推定装置Eは、前述の一連の処理を繰り返し行い、サスペンション速度Vsrを制御周期毎に求めて制御装置Cへ出力し続ける。
なお、サスペンション振動情報推定装置Eは、この実施の形態の場合、ハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、速度センサ14、加速度センサG1,G2,G3、舵角センサ30、ストロークセンサHが出力する信号を取り込むためのA/D変換器と、振動レベル検知と電流値Iの演算に必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、前記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)などの演算装置と、前記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよく、CPUが前記プログラムを実行することで、サスペンション振動情報推定装置Eの前記した前輪ばね下振動情報検知部1、後輪ばね上振動情報検知部2、後輪ばね下振動情報推定部3、サスペンション振動情報推定部4、記憶部5、補償ゲイン乗算部6、位相補償フィルタ7、判定部8、信頼度ゲイン乗算部9および推定停止判断部15の各部を構成して、前記処理を実現すればよい。
以上、サスペンション振動情報推定装置Eによれば、後輪ばね下振動情報と後輪ばね上振動情報とに基づいて車両Aにおける後輪Wr側のサスペンション振動情報を求めており、後輪側の車体Bの振動状況も加味してサスペンション振動情報を推定する。したがって、本発明のサスペンション振動情報推定装置Eによれば、正確に後輪Wr側のサスペンション振動情報を推定することが可能である。
さらに、サスペンション振動情報推定装置Eでは、後輪Wr側のサスペンション振動情報を後輪Wr側のストローク変位や加速度といった状態量を検出するセンサを用いることなく求めることができるから、装置自体のコストを低減することができる。
また、後輪ばね下振動情報推定部3は、具体的には、車両Aにおける後輪Wrが車両Aにおける前輪Wfが通過した路面r1と同一路面r1を通過すると仮定して、速度情報、ホイールベース長Lおよび車両Aにおける前輪Wfが路面r1を通過した際に取得された前輪ばね下振動情報Vwfとに基づいて、路面r1を後輪Wrが通過する際の後輪ばね下振動情報Vwrを推定するので、後輪ばね下振動情報Vwrを精度よく推定することができる。また、サスペンション振動情報推定部4は、路面r1を後輪Wrが通過する際の後輪ばね下振動情報Vwrと、路面r1を後輪Wrが通過する際の後輪ばね上振動情報Vbrに基づいてサスペンション振動情報Vsrを推定するので、リアルタイムに変化する後輪側の車体Bの振動状況も加味され、正確に後輪Wr側のサスペンション振動情報Vsrを推定できる。
サスペンション振動情報推定装置Eによれば、サスペンション振動情報を車両Aの車体Bと後輪Wrの間に介装されるダンパDのダンパ速度としているので、ダンパDの減衰力制御を行う制御装置Cに適した情報を提供することができる。
さらに、本実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eにあっては、前輪ばね下振動情報検知部1は、前輪ばね下振動情報としての前輪ばね下速度Vwfを前輪Wfと車体Bとの相対変位と前輪ばね上加速度とを用いて求め、当該相対変位を濾波する微分用ハイパスフィルタ12と、相対変位から高周波成分を取り除くため高周波除去用ローパスフィルタ13と、前輪ばね上加速度を積分する第一積分用ローパスフィルタ10と、前輪ばね上加速度から低周波成分を除去する第一低周波除去用ハイパスフィルタ11とを備えている。このようにすることで、相対変位と前輪ばね上加速度の両情報がハイパスフィルタとローパスフィルタで処理されるため、処理後の両者に含まれるばね上振動成分を実用域で一致させやすく、求めた前輪ばね下速度Vwfの正確性を向上することができる。また、第一積分用ローパスフィルタ10と第一低周波除去用ハイパスフィルタ11の特性を合成した特性を、微分用ハイパスフィルタ12と高周波除去用ローパスフィルタ13の特性を合成した特性に一致させることで、前輪ばね上速度Vbfと相対速度Vsfのゲインの一致だけでなく、両者の位相ずれをも緩和させることができ、求めた前輪ばね下速度Vwfからばね上共振周波数成分を効果的に除去して精度よく前輪ばね下速度Vwfを検知することができる。
そして、さらに、本実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eにあっては、後輪ばね上振動情報検知部2は、後輪ばね上振動情報を車両Aの後輪ばね上速度Vbrとし、車体Bの後輪側の上下方向の加速度を用いて前記後輪ばね上速度Vbrを求め、前記加速度を積分する第二積分用ローパスフィルタ20と、前記加速度から低周波成分を除去する第二低周波除去用ハイパスフィルタ21とを備えている。また、微分用ハイパスフィルタ12と高周波除去用ローパスフィルタ13とを合成した特性と、第一積分用ローパスフィルタ10と第一低周波除去用ハイパスフィルタ11とを合成した特性と、第二積分用ローパスフィルタ20と第二低周波除去用ハイパスフィルタ21とを合成した特性とを同じとしている。そのため、後輪ばね上速度Vbrと後輪ばね下速度Vwrのゲインの一致だけでなく、両者の位相ずれをも緩和させることができ、求めるサスペンション振動情報としてのサスペンション速度Vsrと実際のサスペンション速度との一致度を高めることができる。
本実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eにあっては、サスペンション振動情報の位相を実際のサスペンション振動情報の位相に近づけるように位相補償する位相補償フィルタ7を備えているので、より正確なサスペンション振動情報を求めることができる。
また、本実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eにあっては、求めたサスペンション振動情報が実際のサスペンション振動情報に一致する信頼度を判定部8で判定するようになっている。そのため、信頼度が低い場合には、サスペンション振動情報の値を0とするなどとして、外部機器での当該情報の利用を制限させることができる。また、信頼度を外部機器へ信号として出力させるような場合には、求めたサスペンション振動情報を利用する外部機器で当該サスペンション振動情報を使用できるか否かの判断材料を提供することができる。さらに、判定部8がサスペンション振動情報の信頼度が低いと判定する場合、サスペンション振動情報に乗じる信頼度ゲインを低下させるようにすることで、信頼性が低下するとサスペンション振動情報を信号として外部機器へ出力する際に当該信号を信頼度の低下に伴ってフェードアウトさせることができる。
さらに、本実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eにあっては、判定部8は、前輪Wfが路面r1を通過した際の速度情報と、後輪Wrが同一路面r1を通過したと仮定されるときの速度情報の比に基づいて、サスペンション振動情報の信頼度を判定するので、車両Aが急激な加減速により後輪ばね下振動情報を正確に推定できない状況を把握でき、このような場合に信頼度を低下させることができる。また、判定部8が前輪Wfの舵角情報に基づいて、前記サスペンション振動情報の信頼度を判定する場合には、前輪Wfが通過した路面r1を後輪Wrが通過できない状況を把握することができ、このような場合に信頼度を低下させることができる。
本実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eにあっては、車両Aの速度Vaが速度閾値Vrefより低いと、サスペンション振動情報の推定を行わないようになっているので、後輪Wrが路面r1に到達して後輪ばね下速度Vwrを推定する際に参照すべき前輪ばね下速度Vwfの値が前輪Wfが路面r1とは異なる路面を通過した際のデータに置き換わっているような場合に、サスペンション振動情報の推定を停止することができる。よって、外部機器へ推定したサスペンション振動情報を制御装置へ出力する場合には、誤った情報に基づく制御を行わせることがない。さらに、舵角θが大きな場合に信頼度を低下させる判定部8の機能の代わりを果たすことができる。
なお、前述したところでは、前記した後輪Wr側のサスペンション振動情報を後輪Wr側のサスペンション速度Vsrとしているが、サスペンション振動情報をサスペンション変位やサスペンション加速度、サスペンション加速度変化率といった後輪Wr側のサスペンション振動を把握することが可能な情報とすることができる。前輪ばね下振動情報は、前輪Wfの上下方向の変位、速度、加速度、加速度変化率といった前輪Wfの振動を把握可能な情報であればよく、後輪ばね下振動情報および後輪ばね上振動情報についても同様である。たとえば、サスペンション振動情報をサスペンション変位とする場合、前輪ばね下振動情報、後輪ばね下振動情報および後輪ばね上振動情報を変位で統一すると扱いやすくなる。
つづいて、第二の実施の形態のサスペンション振動情報推定装置E1について説明する。このサスペンション振動情報推定装置E1は、図24に示すように、遮断周波数がばね上共振周波数より低周波域にあって、後輪ばね上振動情報、或いは後輪ばね上振動情報を得る過程の情報から低周波域の成分を除去する第一ハイパスフィルタ31と、遮断周波数がばね上共振周波数より低周波域にあって、ばね上共振周波数でのゲイン特性および位相特性が前記第一ハイパスフィルタ31の特性と同じ特性を持ち、前記前輪ばね下振動情報、或いは前記前輪ばね下振動情報を得る過程の情報、或いは前記前輪ばね下振動情報から低周波域の成分を除去する第二ハイパスフィルタ32とを備えており、第一低周波除去用ハイパスフィルタ11、高周波除去用ローパスフィルタ13および第二低周波除去用ハイパスフィルタ21を備えていない点で、第一の実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eと異なっている。
そのため、この実施の形態では、後輪ばね上振動情報検知部2は、第二低周波除去用ハイパスフィルタ21を備えておらず、第一ハイパスフィルタ31が別途設けられている。第一ハイパスフィルタ31は、三つの加速度センサG1,G2,G3で検出した車体Bの上下方向の加速度から後輪Wrの直上の上下方向の加速度を得てから、後輪ばね上速度Vbrを求めるまでの間の過程で生成される信号を処理してもよいし、後輪ばね上速度Vbrを処理してもよい。そして、この第一ハイパスフィルタ31の遮断周波数は、ばね上共振周波数より低周波域にあって、求めた後輪ばね上速度Vbrから積分ドリフト成分が除去される。
第二ハイパスフィルタ32は、図24中では加算部1bの後段に設けられているが、前輪ばね下振動情報検知部1が前輪ばね上速度Vbfと相対速度Vsfから前輪ばね下速度Vwfを求める過程で生成される情報、前輪ばね下速度Vwf、或いは、後輪ばね下振動情報推定部3によって前輪ばね下速度Vwfから得られる後輪ばね下速度Vwrのいずれかを処理すればよい。そして、この第二ハイパスフィルタ32は、ばね上共振周波数でのゲイン特性および位相特性が前記第一ハイパスフィルタ31の特性と同じ特性を持ち、処理前の情報から低周波成分を除去するようになっている。
このように、第二の実施の形態のサスペンション振動情報推定装置E1では、後輪Wrの直上の上下方向の加速度を積分して後輪ばね上速度Vbrを求めるようになっており、第一ハイパスフィルタ31で処理することで後輪ばね上速度Vbrから積分ドリフト成分を除去する。そして、サスペンション振動情報推定部4で後輪ばね下速度Vwrと後輪ばね上速度Vbrとから後輪側のサスペンション速度Vsrを求める。ここで、前輪ばね下速度Vwfから後輪ばね下速度Vwrを得るまでの情報が、ばね上共振周波数でのゲイン特性および位相特性が前記第一ハイパスフィルタ31の特性と同じ特性をもつ第二ハイパスフィルタ32で処理されるから、後輪ばね下速度Vwrと後輪ばね上速度Vbrのばね上共振周波数成分の位相ずれを緩和する。よって、第二の実施の形態のサスペンション振動情報推定装置E1にあっても、精度よくサスペンション速度Vsrを求めることができる。
つづいて、第三の実施の形態のサスペンション振動情報推定装置E2について説明する。このサスペンション振動情報推定装置E2は、図25に示すように、遮断周波数がばね下共振周波数より高周波域にあって、前記前輪ばね下振動情報、或いは前記前輪ばね下振動情報を得る過程の情報、或いは前記前輪ばね下振動情報から得られる情報から高周波域の成分を除去する第一ローパスフィルタ33と、遮断周波数がばね下共振周波数より高周波域にあって、ばね下共振周波数でのゲイン特性および位相特性が前記第一ローパスフィルタ33の特性と同じ特性を持ち、後輪ばね上振動情報、或いは前記後輪ばね上振動情報を得る過程の情報から高周波域の成分を除去する第二ローパスフィルタ34とを備えており、第一低周波除去用ハイパスフィルタ11、高周波除去用ローパスフィルタ13および第二低周波除去用ハイパスフィルタ21を備えていない点で、第一の実施の形態のサスペンション振動情報推定装置Eと異なっている。
第一ローパスフィルタ33は、具体的には、前輪ばね下振動情報検知部1が前輪ばね上速度Vbfと相対速度Vsfから前輪ばね下速度Vwfを求める過程で生成される情報、前輪ばね下速度Vwf、或いは、後輪ばね下振動情報推定部3によって前輪ばね下速度Vwfから得られる後輪ばね下速度Vwrを処理する。そして、この第一ローパスフィルタ33の遮断周波数は、ばね下共振周波数より高周波域にあって、ストロークセンサHが検知する相対変位を微分して相対速度Vsfを求めるにあたって後輪ばね上速度Vbrに重畳される微分ノイズ成分が除去される。
この実施の形態では、後輪ばね上振動情報検知部2は、第二低周波除去用ハイパスフィルタ21を備えておらず、第二ローパスフィルタ34が別途設けられている。第二ローパスフィルタ34は、三つの加速度センサG1,G2,G3で検出した車体Bの上下方向の加速度から後輪Wrの直上の上下方向の加速度を得てから、後輪ばね上速度Vbrを求めるまでの間の過程で生成される信号を処理してもよいし、後輪ばね上速度Vbrを処理してもよい。そして、この第二ローパスフィルタ34にあっては、遮断周波数がばね下共振周波数より高周波域にあって、ばね下共振周波数でのゲイン特性および位相特性が第一ローパスフィルタ33の特性と同じ特性を持ち、処理前の情報から低周波成分を除去するようになっている。
このように、第三の実施の形態のサスペンション振動情報推定装置E2では、前輪Wfと車体Bとの間の相対変位を微分して得た相対速度Vsfを用いて前輪ばね下速度Vwfを求め、前輪ばね下速度Vwfから後輪ばね下速度Vwrを求めるようになっており、第一ローパスフィルタ33で処理することで後輪ばね上速度Vbrから微分ノイズ成分を除去する。そして、サスペンション振動情報推定部4で後輪ばね下速度Vwrと後輪ばね上速度Vbrとから後輪側のサスペンション速度Vsrを求める。ここで、後輪ばね上速度Vbfを得るまでの情報が、ばね下共振周波数でのゲイン特性および位相特性が前記第一ローパスフィルタ33の特性と同じ特性をもつ第二ローパスフィルタ34で処理されるから、後輪ばね下速度Vwrと後輪ばね上速度Vbrのばね下共振周波数成分の位相ずれを緩和する。よって、第三の実施の形態のサスペンション振動情報推定装置E2にあっても、精度よくサスペンション速度Vsrを求めることができる。
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。