図面を参照して、実施例の半導体装置10について説明する。本実施例の半導体装置10は、一例ではあるが、電力の変換や制御を行うための電力変換装置100(図6等参照)に用いられ、特に、インバータ回路の一つの上下アームを構成する。図1〜図5に示すように、半導体装置10は、第1半導体素子12と、第2半導体素子14と、第1半導体素子12及び第2半導体素子14とを封止する封止体20を備える。第1半導体素子12と第2半導体素子14は、許容電流が100アンペア以上であり、パワー半導体素子に属するものである。図5に示すように、第1半導体素子12と第2半導体素子14は、電気的に直列に接続されている。一例ではあるが、第1半導体素子12と第2半導体素子14のそれぞれは、単一の半導体基板にトランジスタ素子とダイオード素子が形成された半導体素子であり、互いに等しい構造及び特性を有する。なお、第1半導体素子12及び第2半導体素子14の構成は特に限定されない。第1半導体素子12及び第2半導体素子14は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)又はMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)といったトランジスタ素子であってよく、また、必ずしもダイオード素子を内蔵する必要はない。
封止体20は、樹脂材料で構成されている。なお、封止体20を構成する材料は特に限定されず、パワー半導体素子向けの各種の封止材が採用可能である。封止体20は、概して板状の形状を有しており、正面21、背面22、上面23、下面24、右側面25及び左側面26を有する。正面21は、図面においてX軸正方向側の面である。背面22は、図面においてX軸負方向側の面であり、正面21の反対側に位置する。上面23は、図面においてZ軸正方向側の面であり、正面21及び背面22と隣り合う。下面24は、図面においてZ軸負方向側の面であり、上面23の反対側に位置する。下面24は、正面21及び背面22と隣り合う。右側面25は、図面においてY軸負方向側の面であり、正面21、背面22、上面23及び下面24と隣り合う。左側面26は、図面においてY軸正方向側の面であり、右側面25の反対側に位置する。左側面26は、正面21、背面22、上面23及び下面24と隣り合う。
封止体20の正面21及び背面22は、互いに平行な平面であり、それらの法線はX軸に平行である。詳しくは後述するが、半導体装置10が二つの冷却器104の間に配置されたときに、封止体20の正面21及び背面22は、それぞれ隣接する冷却器104にグリス110を介して対向する。封止体20の正面21には、第1溝71と第2溝72が設けられている。封止体20の背面22には、第3溝73と第4溝74が設けられている。第1溝71〜第4溝74の構成、作用及び効果については、後段において詳細に説明する。
図1、図3、図4に示すように、半導体装置10はさらに、二つの第1放熱板32、34と、二つの第2放熱板36、38とを備える。二つの第1放熱板32、34は、封止体20の正面21に露出している。二つの第2放熱板36、38は、封止体20の背面22に露出している。それぞれの放熱板32、34、36、38(以下、放熱板32〜38と称することがある)は、封止体20を構成する材料よりも熱伝達率の高い材料で構成されており、封止体20内で発生した熱(特に半導体素子12、14の発熱)を、封止体20の外部へ放出する。一例ではあるが、本実施例における放熱板32、34、36、38は、金属材料(詳しくは銅)で構成されている。但し、放熱板32、34、36、38を構成する材料は特に限定されない。放熱板32、34、36、38の一部又は全部を、セラミック材料その他の熱伝達率に優れた材料で構成することができる。また、封止体20の正面21又は背面22に露出する放熱板の位置、大きさ、数も特に限定されない。半導体装置10は、封止体20の正面21又は背面22の一方又は両方に、少なくとも一つの放熱板が露出する構成であればよい。
図3を参照して、封止体20の内部の構成について説明する。なお、下記する説明は一例であり、半導体装置10の構成を限定するものではない。図3に示すように、一方の第1放熱板32は、第1スペーサブロック42及びはんだ層51、52を介して、第1半導体素子12の上面電極12aに接合されている。第1スペーサブロック42は、金属材料(詳しくは銅)で形成されており、封止体20を構成する材料よりも高い熱伝達率を有する。また、一方の第2放熱板36は、はんだ層53を介して第1半導体素子12の下面電極12bに接合されている。これらにより、第1半導体素子12は、封止体20の正面21に露出する第1放熱板32と、封止体20の背面22に露出する第2放熱板36の両者と熱的に接続されている。第1半導体素子12で発生した熱は、第1放熱板32及び第2放熱板36へ伝達され、封止体20の外部へ放出される。
第2半導体素子14についても、同様の構成が採用されている。即ち、他方の第1放熱板34は、第2スペーサブロック44及びはんだ層54、55を介して、第2半導体素子14の上面電極14aに接合されている。第2スペーサブロック44は、金属材料(詳しくは銅)で形成されており、封止体20を構成する材料よりも高い熱伝達率を有する。また、他方の第2放熱板38は、はんだ層56を介して第2半導体素子14の下面電極14bに接合されている。これらにより、第2半導体素子14は、封止体20の正面21に露出する第1放熱板34と、封止体20の背面22に露出する第2放熱板38の両者と熱的に接続されている。第2半導体素子14で発生した熱は、第1放熱板34及び第2放熱板38へ伝達され、封止体20の外部へ放出される。
本実施例の半導体装置10では、二つの第1放熱板32、34、二つの第2放熱板36、38、第1スペーサブロック42及び第2スペーサブロック44が、単に放熱用の部材ではなく、第1半導体素子12及び第2半導体素子14へ電気的に接続された導電経路を構成する。ここで、第1半導体素子12の上面電極12aに接続された第1放熱板32と、第2半導体素子14の下面電極14bに接続された第2放熱板38は、はんだ層57を介して接合されており、互いに電気的に接続されている。これにより、第1半導体素子12と第2半導体素子14が電気的に直列に接続されている。
図1、図2、図4に示すように、半導体装置10はさらに、複数の第1信号端子62と、複数の第2信号端子64とを備える。それぞれの第1信号端子62及び第2信号端子64は、封止体20の上面23から、図面においてZ軸正方向に突出している。図4に示すように、複数の第1信号端子62は、第1半導体素子12に設けられた複数の信号パッド12cへ、ボンディングワイヤ63を介して電気的に接続されている。一例であるが、複数の第1信号端子62には、ゲート信号用の信号端子、温度センス用の信号端子及び電流センス用の信号端子が含まれる。同様に、図示省略するが、複数の第2信号端子64は、第2半導体素子14に設けられた複数の信号パッドへ電気的に接続されている。複数の第2信号端子64にも、例えば、ゲート信号用の信号端子、温度センス用の信号端子及び電流センス用の信号端子が含まれる。なお、半導体装置10は、少なくとも一つの第1信号端子62と、少なくとも一つの第2信号端子64とを有すればよい。
前述したように、第1半導体素子12と第2半導体素子14は電気的に直列に接続されている。従って、第1半導体素子12に接続された第1信号端子62と、第2半導体素子14に接続された第2信号端子64との間には、比較的に大きな電位差が生じ得る。そのことから、第1信号端子62と第2信号端子64との間の沿面距離は、比較的に大きく設計されている。なお、ここでいう沿面距離とは、図1に示す沿面最短経路Lの長さであり、沿面最短経路Lは、第1信号端子62と第2信号端子64との間を封止体20の上面23に沿って最短で結んだ経路を意味する。
半導体装置10はさらに、正極端子66と負極端子67と出力端子68とを備える。正極端子66、負極端子67及び出力端子68は、封止体20の下面24から、図面においてZ軸負方向に突出している。正極端子66は、第1半導体素子12の下面電極12bに接合された第2放熱板36と電気的に接続されている。負極端子67は、第2半導体素子14の上面電極14aに第2スペーサブロック44を介して接合された第1放熱板34と電気的に接続されている。そして、出力端子68は、第2半導体素子14の下面電極14bに接合された第2放熱板38と電気的に接続されている。これにより、正極端子66は第1半導体素子12の下面電極12bと電気的に接続され、負極端子67は第2半導体素子14の上面電極14aと電気的に接続され、出力端子68は第1半導体素子12の上面電極12a及び第2半導体素子14の下面電極14bと電気的に接続されている(図5参照)。
次に、封止体20の正面21及び背面22に設けられた第1溝71〜第4溝74の構成について説明する。図1、図2に示すように、第1溝71は、封止体20の正面21に設けられている。第1溝71は、一端71aから他端71bまで直線的に伸びている。第1溝71の一端71aは、封止体20の右側面25に位置しており、右側面25において開放されている。第1溝71の他端71bは、封止体20の左側面26に位置しており、左側面26において開放されている。図1によく示されるように、封止体20の正面21は、第1溝71を境界として、二つの第1放熱板32、34が露出する範囲(図1において第1溝71よりも下側の範囲)と、複数の端子62、64が突出する上面23に連続する範囲(同図において第1溝71よりも上側の範囲)に区分されている。第1溝71は、特許請求の範囲に記載された溝の一例であり、その場合、封止体20の正面21は特許請求の範囲に記載された第1面の一例と理解され、封止体20の上面23は特許請求の範囲に記載された第2面の一例と理解され、封止体20の右側面25及び左側面26はそれぞれ特許請求の範囲に記載された第3面及び第4面の一例と理解される。
図6に示すように、第1溝71の深さD1は、一定ではなく、その長手方向に沿って変化している。詳しくは、第1溝71の深さD1は、長手方向の中央位置71cで最も浅く、両端71a、71bに近づくにつれて深くなっている。ここで、本実施例における第1溝71の深さD1は、その長手方向に沿って一定の変化率(即ち、一定の傾き)で変化している。しかしながら、他の実施形態として、第1溝71の深さD1は、段階的に変化してもよいし、長手方向に沿ってその変化率が異なってもよい。また、他の実施形態として、第1溝71の深さD1は、長手方向に沿って一定であってもよい。さらに、第1溝71の長手方向に垂直な断面形状は特に限定されず、例えば矩形状、半円状、U字状又はその他の断面形状であってよい。
第2溝72もまた、封止体20の正面21に設けられており、一端72aから他端72bまで直線的に伸びている。第2溝の一端72aは、封止体20の右側面25に位置しており、右側面25において開放されている。第2溝の他端72bは、封止体20の左側面26に位置しており、左側面26において開放されている。図1によく示されるように、封止体20の正面21は、第2溝72を境界として、二つの第1放熱板32、34が露出する範囲(図1において第2溝72よりも上側の範囲)と、複数の端子66、67、68が突出する下面24に連続する範囲(同図において第2溝72よりも下側の範囲)に区分されている。第2溝72もまた、特許請求の範囲に記載された溝の一例であり、その場合、封止体20の正面21は特許請求の範囲に記載された第1面の一例と理解され、封止体20の下面24は特許請求の範囲に記載された第2面の一例と理解され、封止体20の右側面25及び左側面26はそれぞれ特許請求の範囲に記載された第3面及び第4面の一例と理解される。なお、図示省略するが、第1溝71と同様に、第2溝72の深さについても、長手方向の中央位置72cで最も浅く、両端72a、72bに近づくにつれて深くなっている。
第3溝73は、封止体20の背面22に設けられている。背面22に位置する第3溝73は、正面21に位置する第1溝71と同様の構成を有している。図6に示すように、第3溝73は、一端73aから他端73bまで直線的に伸びている。第3溝73の一端73aは、封止体20の右側面25に位置し、右側面25において開放されている。第3溝73の他端73bは、封止体20の左側面26に位置し、左側面26において開放されている。そして、詳細な図示は省略するが、封止体20の背面22は、第3溝73を境界として、二つの第2放熱板36、38が露出する範囲と、複数の端子62、64が突出する上面23に連続する範囲に区分されている。第3溝73は、特許請求の範囲に記載された溝の一例であり、その場合、封止体20の背面22は特許請求の範囲に記載された第1面の一例と理解され、封止体20の上面23は特許請求の範囲に記載された第2面の一例と理解され、封止体20の右側面25及び左側面26はそれぞれ特許請求の範囲に記載された第3面及び第4面の一例と理解される。また、第1溝71と同様に、第3溝73の深さD3についても、長手方向の中央位置73cで最も浅く、両端73a、73bに近づくにつれて深くなっている(図6参照)。
第4溝74は、封止体20の背面22に設けられている。背面22に位置する第4溝74は、正面21に位置する第2溝72と同様の構成を有している。従って、詳細な図示は省略するが、第4溝74は、一端から他端まで直線的に伸びている。第4溝74の一端は、封止体20の右側面25に位置し、右側面25において開放されている。第4溝74の他端は、封止体20の左側面26に位置し、左側面26において開放されている。そして、封止体20の背面22は、第4溝74を境界として、二つの第2放熱板36、38が露出する範囲と、複数の端子66、67、68が突出する下面24に連続する範囲に区分されている。第4溝74もまた、特許請求の範囲に記載された溝の一例であり、その場合、封止体20の背面22は特許請求の範囲に記載された第1面の一例と理解され、封止体20の下面24は特許請求の範囲に記載された第2面の一例と理解され、封止体20の右側面25及び左側面26はそれぞれ特許請求の範囲に記載された第3面及び第4面の一例と理解される。
次に、図7、図8、図9を参照して、上述した半導体装置10を採用した電力変換装置100について説明する。電力変換装置100は、電力によって車輪を駆動する電気自動車(ハイブリッドカー及び燃料電池車を含む)用に設計されている。図7、図8に示すように、電力変換装置100は、ケース102と、複数の半導体装置10と、複数の冷却器104と、複数の冷却器104に冷媒(例えば冷却水)を循環させる冷媒管路106、108を備える。複数の半導体装置10と複数の冷却器104は交互に配置されており、各々の半導体装置10は隣接する二つの冷却器104の間に位置している。ケース102は、複数の半導体装置10及び複数の冷却器104を収容する。ケース102の構成は特に限定されない。一例として、本実施例におけるケース102は、金属材料を用いて構成されている。また、電力変換装置100は、複数の半導体装置10の動作を制御する制御基板114を備える。制御基板114は、複数のコネクタ112を有しており、各々のコネクタ112には、一つの半導体装置10の複数の第1信号端子62又は複数の第2信号端子64が接続されている。これにより、制御基板114は、複数の半導体装置10に対して、ゲート信号及びその他の信号を送受信可能に接続されている。制御基板114は、ケース102内に収容されている。
図9に示すように、半導体装置10は、封止体20の正面21が一方の冷却器104に対向し、封止体20の背面22が他方の冷却器104に対向するように配置される。前述したように、封止体20の正面21には、二つの第1放熱板32、34が露出しており、封止体20の背面22には、二つの第2放熱板36、38が露出している。半導体装置10で発生した熱は、放熱板32、34、36、38を介して冷却器104に伝達され、冷却器104内を流通する冷媒によって回収される。これにより、半導体装置10の過熱が防止される。封止体20の正面21と、それに対向する冷却器104との間は、グリス110で満たされている。同様に、封止体20の背面22と、それに対向する冷却器104との間も、グリス110で満たされている。このように、封止体20と冷却器104との間をグリス110で満たすことで、両者の間の微細な隙間が排除され、両者の間の熱伝導性を高めることができる。なお、グリス110は、熱伝導性の高い粒子が混合されたものであり、放熱グリスとも称される。また、半導体装置10と冷却器104との間には、必要に応じて絶縁性のシート材又は板材が配置される。
図10(A)、(B)は、電力変換装置100の製造プロセスにおいて、複数の半導体装置10と複数の冷却器104とを組み合わせる工程を模式的に示す。この工程では、図10(A)に示すように、先ず半導体装置10にグリス110を塗布し、次いでその半導体装置10を二つの冷却器104の間に配置する。このとき、グリス110は、主に、封止体20の正面21に露出する第1放熱板32、34上、及び、封止体20の背面22に露出する第2放熱板36、38上に塗布される。この段階では、二つの冷却器104の間の間隙は十分に広く、半導体装置10及びグリス110はいずれの冷却器にも接触しない。その後、図10(B)に示すように、複数の半導体装置10及び複数の冷却器104に、それらの配列方向に沿って圧縮力Fを加えることによって、それぞれの冷却器104を隣接する半導体装置10の放熱板32〜38に圧接させる。これにより、それぞれの半導体装置10では、それぞれの放熱板32〜38が、グリス110を介して隣接する冷却器104に隙間なく密着する。それぞれの放熱板32〜38が冷却器104に隙間なく密着することで、それぞれの放熱板32〜38と冷却器104との熱伝導性が向上する。
図11に示すように、半導体装置10の第1放熱板32、34と冷却器104とが圧接すると、第1放熱板32、34と冷却器104との間のグリス110が、封止体20の正面21と冷却器104との間を広がる。このとき、仮にグリス110が封止体20の上面23まで進出してしまうと、複数の第1信号端子62及び複数の第2信号端子64(以下、複数の信号端子62、64と称する)のなかで隣接する二以上の端子間にグリスが付着することによって、その二つの端子間の絶縁性が低下するといった問題が生じ得る。なお、グリス110は導電性を有さないので、上面23に進出したグリス110が二つの端子間に付着したとしても、それらの間の絶縁性が直ちに損なわれることはない。しかしながら、上面23に進出したグリス110には、電力変換装置100が使用されていく過程において、例えばケース102や制御基板114等から発生する金属粉といった、導電性異物が付着することがある。そして、多くの導電性異物がグリス110に付着していくと、グリス110自体の絶縁性が低下することになり、その結果、そのグリス110が付着した二つの端子間の絶縁性が損なわれるおそれが生じる。
上記の問題に関して、本実施例の半導体装置10では、封止体20の正面21に第1溝71が設けられている。そして、封止体20の正面21は、第1溝71を境界として、第1放熱板32、34が露出する範囲(即ち、グリス110が配置される範囲)と、上面23に連続する範囲に区分されている。これにより、第1放熱板32、34と冷却器104との間から押し出されたグリス110が、複数の第1信号端子62及び第2信号端子64が存在する上面23に向けて拡散することが抑制される。さらに、第1溝71の両端71a、71bは、上面23とは異なる右側面25及び左側面26において開放されている。これにより、多くのグリス110が第1溝71に流れ込んだとしても、そのグリス110を複数の端子が存在しない右側面25又は左側面26へ排出することができる。従って、グリス110が第1溝71を越えて上面23まで進出することを効果的に抑制することができる。このように、第1溝71は、第1放熱板32、34と冷却器104との間のグリス110が、複数の信号端子62、64が存在する封止体20の上面23に進出することを抑制する。これにより、第1溝71は、複数の信号端子62、64について、グリス110の付着による端子間の絶縁性低下を抑制することができる。
加えて、第1溝71の深さD1は、長手方向の中央位置71cで最も浅く、両端71a、71bに近づくにつれて深くなっている(図6参照)。このような構成によると、第1溝71に流入したグリス110が、第1溝71の両端71a、71bに向けて流動することを効果的に促進することができる。また、第1溝71に流入したグリス110が、第1溝71の中央位置71cに向けて流動することを抑制することができる。第1溝71の中央位置71cは、第1信号端子62と第2信号端子64との間の沿面最短経路Lに近接している(例えば図1参照)。前述したように、第1半導体素子12と第2半導体素子14が直列に接続されているので、第1信号端子62と第2信号端子64との間には比較的に大きな電位差が生じ得る。従って、仮にグリス110が封止体20の上面23に進出したとしても、そのグリス110が沿面最短経路Lに達することは、特に避けられることが好ましい。この点に関して、本実施例における第1溝71は、沿面最短経路Lに近接する中央位置71cで最も浅く、中央位置71cから離れるにつれて深くなっていることから、グリス110が沿面最短経路Lに達することを効果的に抑制することができる。なお、第1溝71の深さが最も浅くなる位置は、長手方向の中央位置71cに限られず、第1溝71のなかで沿面最短経路Lに最寄りに位置する範囲(即ち、沿面最短経路Lまでの距離が最短となる範囲)内に設計することができる。即ち、第1溝71は、沿面最短経路Lに対して最寄りに位置する範囲内で最も浅くなり、その最も浅くなる位置から両端71a、71bに近づくにつれて深くなることが好ましい。
同様に、第2溝72は、第1放熱板32、34と冷却器104との間のグリス110が、封止体20の下面24に進出することを抑制する。従って、第2溝72は、封止体20の下面24に位置する正極端子66、負極端子67及び出力端子68について、グリス110の付着による端子間の絶縁性低下を抑制することができる。なお、第2溝72の作用及び効果の詳細については、上述した第1溝71の作用効果に関する説明から理解されるものとして、ここでは重複して説明することは省略する。第3溝73については、封止体20の背面22において、第2放熱板36、38と冷却器104との間のグリス110が、封止体20の上面23に進出することを抑制する。従って、第3溝73は、封止体20の上面23に位置する複数の信号端子62、64について、グリス110の付着による端子間の絶縁性低下を抑制することができる。第4溝74については、封止体20の背面22において、第2放熱板36、38と冷却器104との間のグリス110が、封止体20の下面24に進出することを抑制する。従って、第4溝74は、封止体20の下面24に設けられた正極端子66、負極端子67及び出力端子68について、グリス110の付着による端子間の絶縁性低下を抑制することができる。
以上のように、本実施例の半導体装置10によると、第1溝71〜第4溝74のそれぞれが、封止体20の上面23又は下面24へグリス110が拡散することを抑制することができる。これにより、グリス110の付着による二つの端子間の絶縁性低下が抑制される。なお、封止体20と冷却器104との間のグリス110の拡散は、上述した電力変換装置100の製造時に限られず、電力変換装置100の使用時においても生じ得る。詳しくは、電力変換装置100の使用時に、半導体装置10は発熱することによって熱膨張する。二つの冷却器104の間で半導体装置10が熱膨張すると、封止体20と冷却器104との間のグリス110が圧縮されることになり、封止体20と冷却器104との間でグリス110の拡散が生じ得る。このような場合でも、第1溝71〜第4溝74のそれぞれは、このようなグリス110の拡散を抑制することができる。
封止体20に設けられた第1溝71〜第4溝74は、それぞれが独立して、グリス110の付着による二つの端子間の絶縁性低下を抑制する効果を奏する。そのことから、他の実施形態として、半導体装置10は、第1溝71〜第4溝74の全てを備える必要はなく、第1溝71〜第4溝74のうちの一つ、二つ、又は三つのみを備えてもよい。また、本実施例の半導体装置10は、封止体20の正面21及び背面22のそれぞれで放熱板32〜38が露出する構造(両面冷却構造)を有しているが、他の実施形態として、半導体装置10は、封止体20の正面21(又は背面22)のみに放熱板が露出する構造(片面冷却構造)を有してもよい。この場合、放熱板が露出する封止体20の正面21(又は背面22)のみに、第1溝71及び第2溝72(又は第3溝73又は第4溝74)の少なくとも一つを設けるとよい。また、半導体装置10は、一つ又は三つ以上の半導体素子を備えてもよく、そのような半導体装置10においても、第1溝71〜第4溝74の一つ又は複数を好適に採用することができる。
その他、半導体装置10の構成は、様々に変更可能である。図12を参照して、一変形例の半導体装置10aについて説明する。この半導体装置10aは、上述した半導体装置10と比較した相違点として、封止体20の上面23から突出する吊りリード65と、同じく封止体20の上面23に設けられた切欠部80を有する。そして、第1溝71は、切欠部80に向けて分岐しており、切欠部80に連なっている。吊りリード65は、第2放熱板38と一体に形成されており、半導体装置10の動作時に出力端子68と同じ電位となる。そのことから、吊りリード65と第2信号端子64との間の沿面距離を長くするために、吊りリード65と第2信号端子64との間に切欠部80が設けられている。切欠部80は、封止体20の正面21から背面22まで、封止体20の上面23を横切るように伸びている。
半導体装置10の封止体20には、動作時の熱膨張等に起因して、応力(歪み)が生じ得る。このとき、封止体20の上面23に切欠部80が設けられていると、切欠部80の位置で応力が集中しやすく、切欠部80を起点として封止体20にクラックCが生じることがある。このようなクラックCが、仮に第2信号端子64に向けて成長した場合、封止体20の内部で第2信号端子64が破断されるといった不具合が生じ得る。この点に関して、本変形例の半導体装置10aでは、第1溝71が切欠部80に連なるように設けられている。このような構成によると、切欠部80の近傍で応力が集中する範囲を、第1溝71に沿った範囲に向けることができ、仮に切欠部80を起点とするクラックCが生じたとしても、そのクラックCが第2信号端子64に向けて成長することを抑制することができる。
上記した半導体装置10aでは、封止体20に設けられた切欠部80が、沿面距離の鉛直を目的とするものであったが、第1溝71を切欠部80に接続するという構成は、様々な目的で封止体20に設けられる各種の切欠部にも同様に採用することができる。なお、封止体20の上面23に設けられた各種の切欠部については、正面21に位置する第1溝71及び背面22に位置する第3溝73の少なくとも一方を接続するとよく、封止体20の下面24に設けられた各種の切欠部については、正面21に位置する第2溝72及び背面22に位置する第4溝74の少なくとも一方を接続するとよい。
以上、いくつかの具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書に記載された技術的事項は、それぞれが独立した技術的事項であり、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものである。