図1(a)は、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2を含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタ1(以下で単にプリンタと言うことがある)の概略の側面図であり、図1(b)は、概略の平面図である。プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pをガイドローラ82Aから搬送ローラ82Bへと搬送することにより、印刷用紙Pを液体吐出ヘッド2に対して相対的に移動させる。制御部88は、画像や文字のデータに基づいて、液体吐出ヘッド2を制御して、記録媒体Pに向けて液体を吐出させ、印刷用紙Pに液滴を着弾させて、印刷用紙Pに印刷などの記録を行なう。
本実施形態では、液体吐出ヘッド2はプリンタ1に対して固定されており、プリンタ1はいわゆるラインプリンタとなっている。本発明の記録装置の他の実施形態としては、液体吐出ヘッド2を、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に往復させるなどして移動させる動作と、印刷用紙Pの搬送を交互に行なう、いわゆるシリアルプリンタが挙げられる。
プリンタ1には、印刷用紙Pとほぼ平行となるように平板状のヘッド搭載フレーム70(以下で単にフレームと言うことがある)が固定されている。フレーム70には図示しない20個の孔が設けられており、20個の液体吐出ヘッド2がそれぞれの孔の部分に搭載されていて、液体吐出ヘッド2の、液体を吐出する部位が印刷用紙Pに面するようになっている。液体吐出ヘッド2と印刷用紙Pとの間の距離は、例えば0.5〜20mm程度とされる。5つの液体吐出ヘッド2は、1つのヘッド群72を構成しており、プリンタ1は、4つのヘッド群72を有している。
液体吐出ヘッド2は、図1(a)の手前から奥へ向かう方向、図1(b)の上下方向に細長い長尺形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。1つのヘッド群72内において、3つの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に沿って並んでおり、他の2つの液体吐出ヘッド2は搬送方向に沿ってずれた位置で、3つの液体吐出ヘッド2の間にそれぞれ一つずつ並んでいる。液体吐出ヘッド2は、各液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲が、印刷用紙Pの幅方向に(印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向に)繋がるように、あるいは端が重複するように配置されており、印刷用紙Pの幅方向に隙間のない印刷が可能になっている。
4つのヘッド群72は、記録用紙Pの搬送方向に沿って配置されている。各液体吐出ヘッド2には、図示しない液体タンクから液体、例えば、インクが供給される。1つのヘッド群72に属する液体吐出ヘッド2には、同じ色のインクが供給されるようになっており、4つのヘッド群72で4色のインクが印刷できる。各ヘッド群72から吐出されるインクの色は、例えば、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。このようなインクを、制御部88で制御して印刷すれば、カラー画像が印刷できる。
プリンタ1に搭載されている液体吐出ヘッド2の個数は、単色で、1つの液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲を印刷するのなら1つでもよい。ヘッド群72に含まれる液体吐出ヘッド2の個数や、ヘッド群72の個数は、印刷する対象や印刷条件により適宜変更できる。例えば、さらに多色の印刷をするためにヘッド群72の個数を増やしてもよい。また
、同色で印刷するヘッド群72を複数配置して、搬送方向に交互に印刷すれば、同じ性能の液体吐出ヘッド2を使用しても搬送速度を速くできる。これにより、時間当たりの印刷面積を大きくすることができる。また、同色で印刷するヘッド群72を複数準備して、搬送方向と交差する方向にずらして配置して、印刷用紙Pの幅方向の解像度を高くしてもよい。
さらに、色の付いたインクを印刷する以外に、印刷用紙Pの表面処理をするために、コーティング剤などの液体を印刷してもよい。
プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pに印刷を行なう。印刷用紙Pは、給紙ローラ80Aに巻き取られた状態になっており、2つのガイドローラ82Aの間を通った後、フレーム70に搭載されている液体吐出ヘッド2の下側を通り、その後2つの搬送ローラ82Bの間を通り、最終的に回収ローラ80Bに回収される。印刷する際には、搬送ローラ82Bを回転させることで印刷用紙Pは、一定速度で搬送され、液体吐出ヘッド2によって印刷される。回収ローラ80Bは、搬送ローラ82Bから送り出された印刷用紙Pを巻き取る。搬送速度は、例えば、75m/分とされる。各ローラは、制御部88によって制御されてもよいし、人によって手動で操作されてもよい。
記録媒体は、印刷用紙P以外に、ロール状の布などでもよい。また、プリンタ1は、印刷用紙Pを直接搬送する代わりに、搬送ベルトを直接搬送して、記録媒体を搬送ベルトに置いて搬送してもよい。そのようにすれば、枚葉紙や裁断された布、木材、タイルなどを記録媒体にできる。さらに、液体吐出ヘッド2から導電性の粒子を含む液体を吐出するようにして、電子機器の配線パターンなどを印刷してもよい。またさらに、液体吐出ヘッド2から反応容器などに向けて所定量の液体の化学薬剤や化学薬剤を含んだ液体を吐出させて、反応させるなどして、化学薬品を作製してもよい。
また、プリンタ1に、位置センサ、速度センサ、温度センサなどを取り付けて、制御部88が、各センサからの情報から分かるプリンタ1各部の状態に応じて、プリンタ1の各部を制御してもよい。例えば、液体吐出ヘッド2の温度や液体タンクの液体の温度、液体タンクの液体が液体吐出ヘッド2に加えている圧力などが、吐出される液体の吐出量や吐出速度などの吐出特性に影響を与えている場合などに、それらの情報に応じて、液体を吐出させる駆動信号を変えるようにしてもよい。
次に、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2について説明する。図2は、図1に示された液体吐出ヘッド2の要部であるヘッド本体13を示す平面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大平面図であり、ヘッド本体13の一部を示す図である。図4は、図3と同じ位置の拡大平面図である。図3および図4では、図を分かりやすくするため、一部の流路を省略して描いている。また、図3および図4では、図面を分かりやすくするために、圧電アクチュエータ基板21の下方にあって破線で描くべき加圧室10、しぼり12および吐出孔8などを実線で描いている。図5(a)は図3のV−V線に沿った縦断面図であり、図5(b)は、図5(a)の吐出孔8付近の拡大縦断面図である。
ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、圧電アクチュエータ基板21とを有している。流路部材4は、吐出孔を有するノズルプレート31と、プレート22〜30が積層された流路部材本体とが積層されて成っている。圧電アクチュエータ基板21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向に平行になるように流路部材4の上面に配置されている。また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータ基板21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う
圧電アクチュエータ基板21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。このオーバーラップしている部分の圧電アクチェータ基板21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータ基板21により吐出された液滴が混在して着弾することになる。
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路部材4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている。開口5bは、4つの圧電アクチュエータ基板21が配置された領域を避ける位置に形成されている。マニホールド5には開口5bを通じて図示されていない液体タンクから液体が供給されるようになっている。
流路部材4内に形成されたマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド5aということがある)。開口5bに繋がるマニホールド5は、圧電アクチュエータ基板21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータ基板21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータ基板21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。これらの副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータ基板21に対向する領域に互いに隣接してヘッド本体13の長手方向に延在している。
流路部材4は、複数の加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの加圧室群9を有している。加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータ基板21に対向する領域のほぼ全面にわたって配列されている。したがって、これらの加圧室10によって形成された各加圧室群9は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、各加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータ基板21が接着されることで閉塞されている。
本実施形態では、図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4列のE1〜E4の副マニホールド5aに分岐し、各副マニホールド5aに繋がった加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に4列配列されている。副マニホールド5aに繋がった加圧室10の並ぶ列は副マニホールド5aの両側に2列ずつ配列されている。
全体では、マニホールド5から繋がる加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に16列配列されている。各加圧室列に含まれる加圧室10の数は、アクチュエータである変位素子50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。
ノズルである吐出孔8は、ヘッド本体13の解像度方向である長手方向において、約42μm(600dpiならば25.4mm/150=42μm間隔である)の間隔で略等間隔に配置されている。これによって、ヘッド本体13は、長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。台形形状の圧電アクチュエータ基板21がオーバーラップしている部分では、2つの圧電アクチュエータ基板21の下方にある吐出孔8が、互いに補完し合うように配置されていることにより、吐出孔8は、ヘッド本体13の長手方向に600dpiに相当する間隔で配置されている。
また、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路32が接続されている。これは、600dpi分の吐出孔8を4つ列の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路32が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である)以下の間隔で個別流路32が形成されているということである。
圧電アクチュエータ基板21の上面における各加圧室10に対向する位置には後述する個別電極35がそれぞれ形成されている。個別電極35は加圧室10より一回り小さく、加圧室10とほぼ相似な形状を有しており、圧電アクチュエータ基板21の上面における加圧室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
流路部材4の下面である吐出孔面4−1には、吐出孔8が多数開口している。吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータ基板21と対向する領域内に配置されている。吐出孔8の集まりである吐出孔群は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータ基板21の変位素子50を変位させることにより吐出孔8から液滴が吐出できる。そして、それぞれの吐出孔群内の吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30およびノズルプレート31である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路32および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体13は、図5に示されているように、加圧室10は流路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、吐出孔8は下面にと、個別流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、加圧室10を介して副マニホールド5aと吐出孔8とが繋がる構成を有している。
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された加圧室10である。第2に、加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に形成された個別供給流路6とが含まれている。
第3に、加圧室10の他端から吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には加圧室10の出口)からノズルプレート31(詳細には吐出孔8)までの各プレートに形成されている。ディセンダの吐出孔8側は特に断面積が小さい、ノズルプレート31に形成された吐出孔8となっている。ノズルプレート31の表面には、金属膜61が設けられている。金属膜61については、後述する。
第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜30に形成されている。
このような連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から吐出孔8に至る個別流路32を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で吐出孔8から吐出される。まず、副マニホールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、加圧室10の一端部に至る。さらに、加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した吐出孔8へと進む。
圧電アクチュエータ基板21は、図5に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータ基板21の変位する部分である変位素子50の厚さは40μm程度であり、100μm以下であることにより、変位量を大きくすることができる。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の加圧室10を跨ぐように延在している(図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
圧電アクチュエータ基板21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極34、Au系などの金属材料からなる個別電極35を有している。個別電極35は上述のように圧電アクチュエータ基板21の上面における加圧室10と対向する位置に配置されている。個別電極35の一端は、加圧室10と対向している個別電極本体35aと、加圧室10と対向している領域外に引き出されて引出電極35bからなっている。
圧電セラミック層21a、bおよび共通電極34は、それぞれ略同じ形状であることにより、これらを同時焼成により作製する場合に、反りを小さくできる。100μm以下の圧電アクチュエータ基板21は焼成過程で反りが生じやすく、その量も大きくなる。また、反りが生じていると、流路部材4に積層した際に、その反りを変形させて接合することになり、その際の変形が変位素子50の特性変動に影響し、ひいては液体吐出特性のばらつきにつながるため、反りは、圧電アクチュエータ基板21の厚さと同程度以下に小さいことが望ましい。そして、内部電極のある場所とない場所の焼成収縮挙動の差による反りを少なくするために内部電極34は内部にパターンのないベタで形成される。なお、ここで略同じ形状であるとは、外周の寸法の差がその部分の幅の1%以内であることを言う。圧電セラミック層21a、bの外周は、基本的に焼成前に重ねられた状態で切断して形成されるので、加工精度の範囲内で同じ位置になる。内部電極34も、ベタ印刷した後に、圧電セラミック層21a、bと同時に切断することで形成されると反りが生じ難いが、圧電セラミック層21a、bと相似形状で少し小さいパターンで印刷することにより、圧電アクチュエータ21の側面に内部電極34が露出しなくなるため、電気的信頼性が高くなる。
詳細は後述するが、個別電極35には、制御部88から外部配線であるFPC(Flexible Printed Circuit)を通じて駆動信号(駆動電圧)が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。共通電極34は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極34は、圧電アクチュエータ基板21に対向する領域内のすべての加圧室10を覆うように延在している。共通電極34の厚さは2μm程度である。共通電極34は図示しない領域において接地され、グランド電位に保持されている。本実施形態では、圧電セラミック層21b上において、個別電極35からなる電極群を避ける位置に個別電極35とは異なる表面電極(不図示)が形成されている。表面電極は、圧電セ
ラミック層21bの内部に形成されたスルーホールを介して共通電極34と電気的に接続されているとともに、多数の個別電極35と同様に外部配線と接続されている。
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この個別電極35に対応する加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路32を通じて、対応する吐出孔8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータ基板21における各加圧室10に対向する部分は、各加圧室10および吐出孔8に対応する個別の変位素子50(アクチュエータ)に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする変位素子50が加圧室10毎に、加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極34、圧電セラミック層21b、個別電極35により作り込まれており、圧電アクチュエータ基板21には変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって吐出孔8から吐出される液体の量は5〜7pL(ピコリットル)程度である。
圧電アクチュエータ基板21を平面視したとき、個別電極本体35aは加圧室10と重なるように配置されており、加圧室10の中央に位置している部位の、個別電極35と共通電極34とに挟まれている圧電セラミック層21bは、圧電アクチュエータ基板21の積層方向に分極されている。分極の向きは上下どちらに向かっていてもよく、その方向に対応し駆動信号を与えることで駆動できる。
図5に示されるように、共通電極34と個別電極35とは、最上層の圧電セラミック層21bのみを挟むように配置されている。圧電セラミック層21bにおける個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域は活性部と呼称され、その部分の圧電セラミックスには厚み方向に分極が施されている。本実施形態の圧電アクチュエータ基板21においては、最上層の圧電セラミック層21bのみが活性部を含んでおり、圧電セラミック21aは活性部を含んでおらず、振動板として働く。この圧電アクチュエータ基板21はいわゆるユニモルフタイプの構成を有している。
本実施の形態における実際の駆動手順は、あらかじめ個別電極35を共通電極34より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極35を共通電極34と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極35が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、bが元の形状に戻り、加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、bが加圧室10側へ凸となるように変形し、加圧室10の容積減少により加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、高電位を基準とするパルスを含む駆動信号を個別電極35に供給することになる。このパルス幅は、加圧室10内において圧力波がマニホールド5から吐出孔8まで伝播する時間長さであるAL(Acoustic Length)が理想的である。
これによると、加圧室10内部が負圧状態から正圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
図5(b)は、吐出孔8付近の流路部材4の部分縦断面図である。ノズルプレート31は、ニッケルを主成分とする基材60と、基材60の表面に設けられている、ニッケルおよびパラジウムを主成分とする金属膜61とを有している。基材60は、流路部材4の外部側に位置する第1主面60aと、第1主面60aの反対側の面である第2主面60bとを有している。また、基材60は、第1主面60aと第2主面60bとを繋いでいる貫通孔8aを有している。本実施形態では、金属膜61は、基材60のほぼ全面に設けられているが、基材60の一部に設けられていてもよい。
基材60の第1主面60aには、金属膜61である第1金属膜61aが設けられている。第1金属膜61の外側の面は、吐出孔面4−1となっている。
貫通孔8aの内壁には、内壁金属膜61baが設けられている。なお、貫通孔8aは、基材60単体の状態で開いている孔を指す。貫通孔8aの内壁に、内壁金属膜61baが設けられる場合は、内壁金属膜61baが設けられた状態が吐出孔8であり、内壁金属膜61baが設けられない場合は、吐出孔8と貫通孔8とは同じものを指す。
基材60の第2主面60bには、金属膜61である内部金属膜61bbが設けられている。吐出孔8は、流路部材4に配置されている個別流路32の一部となっている。ノズルプレート31に配置されている吐出孔8に繋がっている流路は、加圧室10まで繋がっている。貫通孔8aの周囲のノズルプレート31の第2主面60bには、個別流路32に面している領域60baが存在する。内部金属膜61bbは、少なくとも個別流路32に面している領域60ba全体に設けられているのが好ましい。
第2金属膜61bは、貫通孔8aの内壁あるいは第2主面60bに設けられた金属膜61を表すものである。すなわち、内壁金属膜61baは第2金属膜61bであり、内部金属膜61bbも第2金属膜61bである。
ノズルプレート31の厚さは、例えば、20〜100μmである。吐出孔8の断面形状は、円形状であるのが好ましいが、楕円形状、三角形状、四角形状などの他の回転対称な形状であってもよい。吐出孔8は、吐出孔面4−1に近づくにしたがって断面の直径が小さくなっているテーパー形状をしている。テーパー角は、例えば、10〜30度である。吐出孔8の吐出孔面4−1付近は、吐出孔面4−1付近に近づくにしたがってわずかに直径が大きくなっていく逆テーパー形状をしていてもよい。吐出孔面4−1における吐出孔8の開口の直径は、例えば、10〜200μmである。
基材60は、例えば、電鋳により形成された電鋳膜である。電鋳膜をパターンニングして形成することで、貫通孔8aが形成される。基材60を電鋳で形成することで、貫通孔8aを所望の形状で、高い精度で形成することができる。例えば、パンチングや、レーザーで貫通孔8aを形成すると、繰り返し精度が低くなるおそれがある。
基材60は、ニッケルを主成分としており、ニッケルの含有率は95質量%以上である。ニッケル以外の成分は、基本的に不純物であり、ニッケルの含有率は98質量%以上、さらに99質量%以上であるのが好ましい。
ニッケルは電鋳膜を形成する上では、好ましい材料であるが、酸に対する耐食性が比較的劣る。そのため、酸性の液体を吐出させていると、吐出孔8や、第2主面60bの個別流路32に面した領域60baの形状が崩れて、吐出精度が低下することがある。
ニッケルおよびパラジウムを主成分とするニッケルパラジウムは、ニッケルよりも酸などに対する耐食性が高い。ニッケルを主成分とする基材60の表面に、ニッケルパラジウムの金属膜61を設けて、ノズルプレート31の耐食性を高くすることができる。金属膜61におけるパラジウム含有率は、60質量%以上、さらに70質量%以上、特に85質量%以上が好ましい。パラジウム含有率を高くすることで、耐食性を高くすることができる。金属膜61におけるパラジウム含有率は、98質量%以下、さらに、95質量%以下であるのが好ましい。また、金属膜61におけるニッケル含有率は、2質量%以上、さらに5質量%以上にするのが好ましい。パラジウム含有率を低くし、ニッケル含有率を高くすることで、基材との接合強度を強くできる。また、ニッケルの方が安価であるため、コ
ストを低くすることができる。
なお、ニッケルおよびパラジウムを主成分とするとは、ニッケル含有率とパラジウム含有率との合計が80質量%以上であることを指す。ニッケル含有率とパラジウム含有率との合計は、さらに95質量%以上、特に99質量%以上であるのが好ましい。
なお、ノズルプレート31のノズル面4−1には、使用する液体に対する接触角が大きくなるように、さらに撥水膜が形成してもより。なお、使用する液体の主成分が水でない場合もあるが、そのような場合も含めて便宜上、撥水膜と呼ぶ。
金属膜61には、硫黄が含まれている。硫黄は、耐食性の観点から言えば、含まれていない方が望ましいが、不純物として含まれている場合が多く、検出不能なレベルまで含有率を減らすのは現実的には難しい。硫黄の含有量は、耐食性に影響するため、不純物量として調整される。また、硫黄が微量含まれていると、金属粒子間に硫黄が存在することで金属膜61が変形しやすくなり、ノズルプレート31に生じる反りを少なくできる効果もあるため、微量添加することもある。
金属膜61が腐食されたり、物理的に傷ついたり、あるいは金属膜61に微小な欠陥が存在したりすると、基材60と、金属膜61と、吐出させる液体とが接触した状態になることがある。基材60と金属膜61とでは、電位に差があるので、液体がイオン電導など生じるものであれば、接触電位差により電気が流れて、ニッケルイオンが液体に溶け出すことで、腐食がより進むことになる。そして、この際に、金属膜61に硫黄が含まれていると腐食の進行がより速くなる。
上述したように、金属膜61には、吐出孔面4−1に存在する第1金属膜61aと、個別流路32に面している部分に存在する第2金属膜61bとがある。第2金属膜61bは、液体吐出ヘッド2を使用している間、ほぼ継続して液体と接触していることになる。これに対して、第1金属膜61aは、液体に接触している時間は限られる。すなわち、第1金属膜61aが液体に接触するのは、吐出の際にいったん吐出孔8から液体が柱状にせり出した後、柱状の液体が吐出孔8に引き戻される際に吐出孔8に戻りきれずに溢れたり、吐出した液体の一部が、いったんミストになった後に付着したりした場合であり、時間的に限られる。また、吐出孔面4−1への液体の付着が多くなってくると、液体の吐出に影響を与えることになるので、吐出孔面4−1に付着した液体は、ワイピングなどにより定期的に取り除かれる。
すなわち、第1金属膜61aは、第2金属膜61bよりも液体に接触している時間が短いため、その分、腐食の進行は遅くなる。その結果、金属膜61あるいは金属膜61に接触している部分の基材60が腐食することによる吐出特性の変動などは、第2金属膜61bあるいは第2金属膜61bに接触している部分の基材60が腐食することにより生じることになる。
そこで、第1金属膜61aの硫黄の含有率S1[質量%]を、第2金属膜61bの硫黄の含有率S2[質量%]よりも多くする。このようにすれば、第1金属膜61a周辺と、第2金属膜61b周辺との両方で接着電位差による腐食が進行している場合に、第1金属膜61a周辺において流れている電流の影響で、第2金属膜61b周辺における電位差が小さくなるので、第2金属膜61b周辺での腐食の進行が遅くなる。
第1金属膜61a周辺における腐食の進行は、硫黄の含有率を多くした分、速くなるが、上述したように、第1金属膜61aで腐食が進行する時間は限られているので、その分も考慮した腐食の進行が、第2金属膜61b周辺のよりも速くならなければよい。
第1金属膜61aの硫黄含有率S1[質量%]および第2金属膜61b硫黄含有率S2[質量%]は、そもそも腐食の進行が速くならないように、1質量%以下であるのが好ましく、さらに0.5質量%以下、特に0.2質量%以下であるのが好ましい。また、第1金属膜61aおよび第2金属膜61bが硫黄を含有しているとは、硫黄含有率S1[質量%]および硫黄含有率S2[質量%]が0.01質量%以上であること意味する。硫黄を実質的に含まない0.01質量%未満とするのは、現実的には難しい。
第1金属膜61aの硫黄含有率S1[質量%]は、第2金属膜61bの硫黄含有率S2[質量%]よりも、0.03質量%以上大きいことが好ましい。硫黄含有率の差が大きいことにより、第1金属膜61a周辺と第2金属膜61b周辺との両方で腐食が進行している際に、第2金属膜61b周辺における腐食の進行を遅らせることができる。第2金属膜61b周辺における腐食の進行をより遅らせるように、S1−S2は0.05以上であることがより好ましい。
第1金属膜61a周辺の腐食が、第2金属膜61b周辺の腐食よりも速く進行しないようにするのが望ましいが、これには、液体吐出ヘッド2が使用される際に、吐出孔面4−1に液体が付着した状態になっている時間の割合が影響する。吐出孔面4−1に液体が付着した状態が続かないような使用条件であれば、第1金属膜61aの硫黄含有率S1[質量%]を1質量%以下にすれば十分である。一般的な使用状況においては、S1−S2を0.5以下とすればよく、さらに0.2以下とすればよい。
第1金属膜61aにおいて、ノズルプレート31の外側における硫黄含有率は、基材60側における硫黄含有率よりも低いことが好ましい。硫黄含有率が高くなっていると、その部分の第1金属膜61aは変形しやすくなる。第1金属膜61a全体の平均の硫黄含有率が同じ場合、主成分に差がある基材60に近い側が変形しやすくなっていることで、ノズルプレート31の反りを小さくできる。また、ノズルプレート31の外側における硫黄含有率が低いことで、初期の腐食を進行し難くできる。
第2金属膜61bにおいて、ノズルプレート31の外側における硫黄含有率は、基材60側における硫黄含有率よりも低いことが好ましい。硫黄含有率が高くなっていると、その部分の第2金属膜61bは変形しやすくなる。第2金属膜61b全体の平均の硫黄含有率が同じ場合、主成分に差がある基材60に近い側が変形しやすくなっていることで、ノズルプレート31の反りを小さくできる。また、ノズルプレート31の外側における硫黄含有率が低いことで、初期の腐食を進行し難くできる。
第1金属膜61aの中では、吐出孔8の近傍は、液体に接触している時間が比較的長くなる。液体吐出ヘッド2の使用条件によっては、吐出孔8の近傍では、第1金属膜61aの腐食の進行が速くなることがある。そこで、吐出孔8の近傍より外側の第1金属膜61bの硫黄含有率を、第2金属膜61bの硫黄含有率よりも大きくし、吐出孔8の近傍の第1金属膜61aの硫黄含有率は、第2金属膜61bの硫黄含有率と同程度にしてもよい。また、吐出孔8の近傍の第1金属膜61aの硫黄含有率を、第2金属膜61bの硫黄含有率よりも大きく、吐出孔8の近傍より外側の第1金属膜61bの硫黄含有率よりも小さくしてもよい。ここで、吐出孔8の近傍とは、吐出孔8の縁から吐出孔8の開口径程度離れた範囲のことを指す。
金属膜61の厚さは0.1μm以上、さらに0.5μm以上とするのが好ましい。厚さ厚くするよることにより、基材60に到達した液体により基材60が腐食される可能性を小さくできる。金属膜61の厚さは5μm以下、さらに3μm以下とするのが好ましい。厚みを薄くすることで、厚みばらつきが大きくなり吐出孔8の形状のばらつきが大きくな
ったり、ノズル面4−1の平坦性が低くなることを低減できる。
続いて、このような吐出孔8を備えたノズルプレート31を作製する方法について説明する。まず、ステンレスなどの金属からなる電鋳基板を準備する。続いて、電鋳基板にネガ型のフォトレジスト膜を形成する。
所望の寸法および配置で貫通孔8aが形成できるようにマスクパターンが形成されたフォトマスクを準備する。フォトマスクを通して、フォトレジスト膜に露光する。フォトマスクには、貫通孔8aとなる部分で光を透過するようになっており、その部分のフォトレジスト膜に光が当たり、硬化する。硬化しなかった部分は、現像液により溶解させられて、取り除かれ、硬化した部分が残る。
続いて、電鋳基板にニッケルめっきを行ない、基材31となる電鋳膜を形成する。フォトレジスト膜が硬化して残っている部分には、電鋳膜が形成されないため、その部分が貫通孔8aとなる。続いて、貫通孔8a内部のフォトレジスト膜を、有機溶剤などを用いて除去する。さらに、電鋳膜を電鋳基板から剥離することで、貫通孔8aの形成された基材60を得ることができる。
基材60に、酸素でアッシングを行ない、基材60表面にある、フォトレジスト膜の残渣などの炭素などの汚れを取り除く。これにより、基材60の表面のほぼ全面に酸素リッチ層が形成される。ノズルプレート31になった状態における酸素リッチ層の酸素含有率が1原子%以上となるようにアッシングを行なうことにより、基材60の表面の炭素などを効果的に取り除くことができる。
ここで、基材60の表面のほぼ全面にニッケルストライクめっきを行なってもよい。ニッケルストライクめっきを行なうことにより、ニッケルパラジウムの金属膜61と基材60との接合を強くなる。ニッケルストライクめっきの層の厚さは、例えば、20〜200nm程度とする。ニッケルストライクめっきで析出するのはニッケルであるので、ニッケルストライクめっきの層まで含めて基材60とする。基材60と金属膜61との間には、他の組成の薄膜、厚くても数百nm程度のものを形成してもよい。
続いて、基材60の第2主面60bおよび貫通孔8aにレジストを塗布し、第1主面60aに、ニッケルおよびパラジウムのめっき行ない、めっき膜である第1金属膜61aを形成する。続いて、レジストを駆使した、基材60の第1主面60aに別のレジストを塗布し、第2主面60bおよび貫通孔8aの内壁に、ニッケルおよびパラジウムのめっきを行ない、めっき膜である第2金属膜61bを形成する。第2金属膜61bを形成する際のめっきでは、めっき槽の硫黄含有率を制御し、第2金属膜61bの硫黄含有率を、第1金属膜61aの硫黄含有率よりも低くする。さらに、第1金属膜61aの表面に、フッ素樹脂やカーボンなどで撥水膜などを形成してもよい。
硫黄含有率の制御は、次のように行なってもよい。第1金属膜61aおよび第2金属膜61bは、同時にめっきを行なうか、あるいはほぼ同じ条件でめっきを行なう。その後、ノズルプレート31の吐出孔面4−1にレジストを塗布するか、樹脂製のフィルムなどを張り付ける。これにより第1金属膜61aは、それらのもので覆われた状態になる。続いて、ノズルプレート31を大気中で加熱する。第2金属膜61bに含まれている硫黄は、大気中の酸素と反応してガス化するため、ノズルプレート31表面から硫黄は少なくなっていく。これに対して、第1金属膜61bに含まれている硫黄の放出は、レジストや樹脂フィルムがあるため、あまり生じない。第2金属膜61bにおける硫黄の放出元は、第2金属膜61bの基材60側まで達するため、第2金属膜61bの硫黄含有率は基材60側においても、第1金属膜61aの硫黄含有率よりも低くなる。また、第2金属膜61bに
おける硫黄含有率は、基材60側よりもノズルプレート31の外側の方が低くなる。