以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
本発明が適用された分析システムASは、試料中に含まれる特定成分を分析するために用いられる。分析システムASは、例えば、病院や動物病院に設置され、ヒトや動物の血液や尿などの試料中に含まれる特定成分の検出や定量に使用される。図1に示すように、分析システムASは、分析用具1と分析装置2とを備えている。試料としては、体液などの液体や糞便などの固形物が使用される。液体試料を用いる場合は、必要に応じて、希釈液により希釈する前処理が行われる。固体試料を分析する場合は、必要に応じて、溶解液により溶解したり、懸濁液により懸濁したりすることにより前処理が行われる。
[分析用具]
分析用具1は、内部に分析試薬14を収容しており、分析試薬と試料中の特定成分とが反応し、検出可能な変化を生じさせる場を提供するためのものである。図2(A)および図2(B)に示すように、分析用具1は、容器10、シート状部材11,12、および分析試薬14を備えている。なお、以降の説明において、上下方向などの方向は、図面の記載にしたがったものとする。
容器10は、上部部材10a、下部部材10c、および接着層10bから構成されている。上部部材10aおよび下部部材10cは、樹脂成形品である。これらは、例えば、射出成形により製造される。分析用具1は、光学的測定に使用されるので、上部部材10aおよび下部部材10cは、光透過性の材料を用いて製造される。材料として、具体的には、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンが用いられる。容器10は、上部部材10aと下部部材10cとを接着層10bを用いて接着することにより、組み立てられる。接着層10bとして、具体的には、両面テープが用いられる。上部部材10aと下部部材10cとが一体化されることにより、容器10の内部には流路13が形成される。その際、下部部材10cは、流路13の底部を形成する。流路13は、液体収容部13a,13cおよび反応部13bを備えている。流路13は本発明でいう内部空間の一例に相当するものである。
上部部材10aの上面10gには、筒状突出部10dが形成されている。液体収容部13aは、筒状突出部10dの内部に形成されている。液体収容部13aに、後述するピペットチップ先端部71aが入り込み、分析用具1の外部において吸入した分析用液体を分注する。分注された分析用液体は、液体収容部13aに溜まり、反応部13bに流れる。一方で、液体収容部13cは、反応部13bの下流に形成されている。液体収容部13cは、反応部13bを通過した余剰の分析用液体を溜めるための部分である。分析用液体として、具体的には、例えば、試料溶液や、流路13内を洗浄するための洗浄液、緩衝液、抗体液、標識抗体液、反応液、発色液、反応抑止液などが挙げられる。
反応部13bには、分析試薬14が配置されている。反応部13bは、分析試薬14と試料中の特定成分と反応させ、検出可能な変化を生じさせるための場である。図1に示すように、後述する発光素子50aにより照射された光が、反応部13bを透過し、透過した光は、後述する受光素子50bにより受光される。この受光データに基づき、吸光度などが算出される。分析試薬14は、例えば、乾燥試薬であり、試料溶液によって溶解される。分析試薬14を用いて検出可能な成分として、例えば、グルコース、尿酸、中性脂肪、アンモニア、クレアチニンなどの物質、および、クレアチンキナーゼ、トランスアミナーゼ、ロイシンアミノペプチダーゼ、α−アミラーゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼなどの酵素が挙げられる。
分析試薬14が封入された容器10は、次のようにして製造される。すなわち、分析試薬14は、試料中に含まれる特定成分を検出するための複数の試薬が混合、溶解された試薬溶液を、組み立て前の下部部材10cに滴下し、乾燥させることにより製造される。乾燥後、下部部材10cは、接着層10bを用いて上部部材10aと接着される。
図2(A)に示すように、筒状突出部10dは、上面視において、円形である。筒状突出部10dの上面10eには、ピペットチップ先端部71aを挿入するための開口10fが形成されている。図2(A)および図2(B)に示すように、上面10eには、開口10fを覆うために、シート状部材11が貼り付けられている。分析用具1において、シート状部材11の全体の形状は、フラットとされている。上面10eは、本発明でいう面の一例に相当するものである。シート状部材11は、反応部13bに配置された分析試薬14が、開口10fからこぼれたり、湿気により劣化したりすることを防止するためのものである。
シート状部材11は、少なくとも2層のシートが積層されたラミネートシートである。シート状部材11において、積層方向に隣接するシート同士は、接着剤又は粘着剤によって接着されている。図3に示すように、分析用具1のシート状部材11は、外側から(すなわち上から)第1シート11b、第2シート11c、および第3シート11dがこの順に積層された3層構造である。
第1シート11bは、最外層に配置され、シート状部材11をピペットチップ先端部71aが貫通したときに、シート状部材11に形成された孔の周縁部とピペットチップ71の外周面との間の密着性を確保可能な所定の弾性を有する高分子フィルムである。第1シート11bとして、高延性でかつ低弾性を有するシート(例えば、破断伸びが200〜720%でかつ弾性率が0.05〜0.5GPa)が用いられる。素材として、具体的には、厚み30〜70μmの低密度ポリエチレン(LDPE)シートが用いられる。LDPEにより形成される第1シート11bは、例えば、破断伸びが480〜720%であり、かつ弾性率が0.19〜0.4GPaである。
なお、第1シート11bの素材は、LDPEに限定されない。例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、脂肪族芳香族コポリエステルなどの高延性でかつ低弾性を有する高分子フィルムもまた第1シート11bの素材として使用できる。LLDPEは、例えば、破断伸びが230〜690%、弾性率が0.17〜0.39GPaである。EVAは、例えば、破断伸びが550%、弾性率が0.05〜0.14GPaである。
第2シート11cとしては、第1シート11bよりも延性が低い素材が選択される。例えば、破断伸びが50%以下の素材が使用される。第2シート11cは、第1シート11bよりも下側(すなわち容器10側)に配置されている。第2シート11cの素材として、具体的には、厚み3〜10μmのアルミニウム(AL)が用いられる。ALで構成された場合、第2シート11cは、例えば、破断伸びが20〜25%であり、弾性率が70GPaである。
なお、第2シート11cの素材は、アルミニウム(AL)に限定されない。例えば、銅(Cu)、スズ(Sn)、金(Au)などもまた第2シート11cの素材として使用できる。第2シート11cとして、Cuが使用された場合、例えば、破断伸びが7〜13%、弾性率が130GPaである。Snが使用された場合、例えば、破断伸びが20%、弾性率が50GPaである。Auが使用された場合、例えば、破断伸びが42%である。なお、第2シート11cは、第1シート11bの内側ではなく、第1シート11bよりも外側に配置することも可能である。
第3シート11dは、粘着剤により構成される粘着フィルムであり、20〜100μmの厚みを有する。この第3シート11dによって、シート状部材11が容器10の筒状突出部10dの上面10eに強固に接着される。
なお、第3シート11dは、容器10に対し熱溶着により接着されても良い。この場合は、第3シート11dの素材として、低密度ポリエチレン(LDPE)シートなどが使用される。
図3に示すように、シート状部材11には、貫通孔11aが形成されている。貫通孔11aは、円形に形成される。この貫通孔11aは、ピペットチップ先端部71aによる穿孔予定部位11gまたはその近傍に形成される。穿孔予定部位11gは、シート状部材11において、例えば、開口10fの中央部またはその近傍に相当する位置に設定される。具体的には、穿孔予定部位11gは、開口10fの中央部から0.5mm以内の範囲に設定される。ここで、貫通孔11aは、本発明でいう誘導手段の一例に相当するものである。誘導手段は、ピペットチップ先端部71aと穿孔予定部位11gとが開口10fが広がる方向に位置ずれしている場合に、ピペットチップ先端部71aを穿孔予定部位11gに誘導するためのものである。
シート状部材11に形成する貫通孔11aの直径をφHとし、液体収容部13aに挿入された状態のピペットチップ71のテ―パ部71eにおけるシート状部材11との接触位置の直径をφBとしたとき、貫通孔11aは、φHとφBとの関係がφH<φBとなるように形成される。
更に、ピペットチップ先端部71aの直径をφTとするとき、貫通孔11aは、φTとφHとφBとの関係がφT≦φH<φBとなるように形成するのが好ましい。中でも、貫通孔11aの直径φHをピペットチップ先端部71aの直径φTより若干大きい程度とすることが好ましい。
また、シート状部材11として、ピペットチップ先端部71aが押し当てられた時に、所定の程度撓む素材が選択された場合には、φTとφHとφBとの関係が、φH<φT<φBとなるように貫通孔11aを形成することも可能である。シート状部材11が、適度に撓むことにより、ピペットチップ先端部71aが、貫通孔11aに滑り込みやすくなるためである。
例えば、貫通孔11aの直径φHは、ピペットチップ先端部71aの直径φTに対し、0.1〜1.5倍または1〜1.5倍とするのが適切である。具体的には、ピペットチップ先端部71aの直径φTがφ0.5〜2.0mmである場合、貫通孔11aの直径φHは、0.05〜3.0mmまたは0.5〜3.0mmとなるように設定するのが好ましい。更に、ピペットチップ先端部71aの直径φTがφ1.0mmである場合、貫通孔11aの直径φHは、0.1〜1.5mmまたは1〜1.5mmとなるように設定するのが好ましい。
図2(A)および図2(B)に示すように、上部部材10aの上面10gには、開口10hが形成されている。開口10hを覆うために、上面10gにおける開口10hの周囲に、シート状部材12が貼り付けられている。シート状部材12には、上述したシート状部材11と同様の素材が採用されている。シート状部材12は、シート状部材11と同様、反応部13bに配置された分析試薬14が、開口10hからこぼれたり、湿気により劣化したりすることを防止するためのものである。シート状部材12には、空気抜き孔12aが形成されている。空気抜き孔12aは、筒状突出部10dの開口10fから、後述する分注要素7を用いて、分析用液体を分注したり吸入したりする動作を円滑に行うために形成されている。
空気抜き穴12aの形成は、分析用具1の製造時に行われる。ただし、空気抜き穴12a形成時は、分析用具1の製造時に限定されるものではない。例えば、使用時に、分析作業者が自ら形成したり、後述する分析装置2が、分析開始時に、ピペットチップ先端部71aを用いて自動的に形成したりするように設定してもよい。また、空気抜き穴12aを設けず、使用時に、シート状部材12を剥がし、開口10h自体を空気抜きのための開放端とすることもできる。
シート状部材11に対し貫通孔11aを開けるための加工は、図4(A)〜図4(C)に示すように行われる。この加工は、シート状部材加工具3を準備して行う。図4(A)に示すように、シート状部材加工具3は、針付部品30とキャップ状部品31とを備えている。針付部品30は、針部30aと胴部30bとを備えている。針付部品30は、針部30aを先端に有している。キャップ状部品31は、分析用具1の筒状突出部10dの外形状に合わせた位置合わせ凹部31aを有している。針付部品30は、位置合わせ凹部31aの奥に形成された嵌入穴31bに胴部30bを嵌め合わせることにより固定される。位置合わせ凹部31bの入り口には、筒状突出部10dが位置合わせ凹部31bに入り込み易くするために、テ―パ部31cが設けられている。
図4(A)に示すように、シート状部材11は、加工前に筒状突出部10dの上面10eに既に貼り付けられている。この状態で、シート状部材加工具3を、筒状突出部10dに向かって、矢印N3で示す方向に移動させる。図4(B)に示すように、シート状部材加工具3は、筒状突出部10dにかぶさると同時に、針部30aがシート状部材11の所定の位置(穿孔予定部位11g)に刺さり、その部分を破断する。次に、図4(C)に示すように、矢印N4で示す方向にシート状部材加工具3を筒状突出部10dから外す。そうすると、シート状部材11の穿孔予定部位11gに貫通孔11aが形成される。なお、貫通孔11aは、本加工例のように、形成時に材料の除去加工を行う必要はない。貫通孔11aは、形成後に多少縮まったり閉じたりしても問題なく機能する。
貫通孔11aは、分析用具1の製造時に製造工場において形成される。しかしながら、貫通孔11aの形成時はこれに限られるものではない。シート状部材加工具3を分析作業者に所有させ、分析を実施する際に、分析作業者が自分で貫通孔11aを形成するようにしても良い。
なお、誘導手段として貫通孔11aを採用した場合は、分析試薬14が湿気により劣化する恐れがある。しかしながら、このような場合には、分析試薬14の劣化を防止するために、更にアルミラミネートフィルム製の袋などに入れるなどの手段を講じれば何ら問題はない。
上記には、ピペットチップ先端部71aを誘導するための誘導手段としてシート状部材11上に形成された貫通孔11aを有する分析用具1を説明した。しかし、分析システムASにおいては、貫通孔11aと異なる誘導手段を有する分析用具もまた適用可能である。そこで、図5(A)〜図5(E)に、貫通孔11aと異なる誘導手段を有する分析用具の他の例を説明する。なお、分析用具1におけるのと同一または類似の機能を奏する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図5(A)に示す分析用具1Aは、シート状部材11Aを備えている。シート状部材11Aは、シート状部材11と同様の3層構造を有するラミネートシートである。シート状部材11Aの全体の形状は、フラットとされている。分析用具1Aは、シート状部材11Aが、貫通孔11aの代わりに、穿孔予定部位11Agに、凹部11Aaを備えている点で、分析用具1と相違している。分析用具1Aにおいて、凹部11Aaの縦断面形状は三角錐であり、シート状部材11A上における凹部11Aaの周縁部11Afの形状は円形である。凹部11Aaは、本発明でいう誘導手段の一例に相当するものである。
図5(B)に示す分析用具1Bは、シート状部材11Bを備えている。シート状部材11Bは、シート状部材11と同様の3層構造を有するラミネートシートである。シート状部材11Bは、貫通孔11Baを有するとともに、開口10fの周縁部10jから貫通孔11Baが形成された穿孔予定部位11Bgに向かって、容器10の内部方向に形成された湾曲形状11Beを有している点で、分析用具1と相違している。分析用具1Bにおいて、貫通孔11Baの形状は、円形である。貫通孔11Baおよび湾曲形状11Beは、本発明でいう誘導手段の一例に相当するものである。また、湾曲形状11Beは、本発明でいう凹形状の一例に相当するものである。
図5(C)に示す分析用具1Cは、シート状部材11Cを備えている。シート状部材11Cは、シート状部材11と同様の3層構造を有するラミネートシートである。シート状部材11Cは、貫通孔11Caを有するとともに、開口10fの周縁部10jから貫通孔11Caが形成された穿孔予定部位11Cgに向かって、容器10の内部方向に形成された傾斜形状11Ceを有している点で、分析用具1と相違している。傾斜形状11Ceは、開口10fの周縁部10jから貫通孔11Caが形成された穿孔予定部位11Cgに向かって、容器10の内部方向に、一定の割合で凹む形状である。分析用具1Cにおいて、貫通孔11Caの形状は、円形である。貫通孔11Caおよび傾斜形状Ceは、本発明でいう誘導手段の一例に相当するものである。また、傾斜形状11Ceは、本発明でいう凹形状の一例に相当するものである。
図5(D)に示す分析用具1Dは、シート状部材11Dを備えている。シート状部材11Dは、シート状部材11と同様の3層構造を有するラミネートシートである。シート状部材11Dは、凹部11Daを有するとともに、開口10fの周縁部10jから凹部11Daが形成された穿孔予定部位11Dgに向かって、容器10の内部方向に形成された湾曲形状11Deを有している点で、分析用具1と相違している。分析用具1Dにおいて、凹部11Daの縦断面形状は三角錐であり、シート状部材11D上における凹部11Daの周縁部11Dfの形状は円形である。凹部11Daおよび湾曲形状11Deは、本発明でいう誘導手段の一例に相当するものである。また、湾曲形状11Deは、本発明でいう凹形状の一例に相当するものである。
図5(E)に示す分析用具1Eは、シート状部材11Eを備えている。シート状部材11Eは、シート状部材11と同様の3層構造を有するラミネートシートである。シート状部材11Eは、凹部11Eaを有するとともに、容器10の内部方向に、開口10fの周縁部10jから凹部11Eaが形成された穿孔予定部位11Egに向かって形成された傾斜形状11Eeを有している点で、分析用具1と相違している。傾斜形状11Eeは、開口10fの周縁部10jから凹部11Eaに向かって、容器10の内部方向に、一定の割合で凹む形状である。分析用具1Eにおいて、凹部11Eaの縦断面形状は三角錐であり、シート状部材11E上における凹部11Eaの周縁部11Efの形状は円形である。凹部11Eaおよび傾斜形状11Eeは、本発明でいう誘導手段の一例に相当するものである。また、傾斜形状11Eeは、本発明でいう凹形状の一例に相当するものである。
分析用具1A〜1Eにおいて、シート状部材11A〜11Eは、分析用具1と同様、専用のシート状部材加工具を用いて、プレス加工により、誘導手段を形成することができる。プレス加工は、シート状部材11A〜11Eが、筒状突出部10dの上面10eに貼り付けられた状態で行われる。図3で説明したピペットチップ先端部71aと貫通孔11aの間の寸法の関係は、シート状部材11A,11D,11Eにおける凹部11Aa,11Da,11Eaの周縁部11Af,11Df,11Efにも適用できる。また、この関係は、貫通孔11Ba,11Caにも適用可能である。
図6に、本発明が適用された分析システムASに含まれる分析用具の他の例を示す。なお、分析用具1におけるのと同一または類似の機能を奏する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
分析用具1Fは、抗原抗体反応などによる試料中の特定成分の分析に用いられるものである。分析用具1Fは、表面プラズモン共鳴の共鳴角の変化に基づいて試料中の特定成分を分析する分析装置や、特定成分若しくは特定成分に標識された蛍光物質が表面プラズモン共鳴に基づく増強電場により励起されて発した蛍光を測定する分析装置に用いられる所謂クレッチマン配置のセンサーチップである。
容器10Aは、金属膜15aを有し、内部に入射した励起光αが、金属膜15aで反射することにより金属膜15aにおいて表面プラズモン共鳴が生じるプリズム部15を備えている。プリズム部15は、表面プラズモンを生じさせるための励起光αが内部に入射するプリズム本体部15bと、プリズム本体部15bの反応部13b側に形成される金属膜15aとを有する。このプリズム本体部15bは、透明なガラス又は樹脂により形成される。
金属膜15aは、金により形成されている。金属膜15aは、プリズム部15においてプリズム本体部15b側からの励起光αが金属膜15aで全反射されることにより生じるエバネッセント波を増幅するためのものである。金属膜15aは、表面プラズモン共鳴を生じさせることができるように膜厚が100nm以下、または30〜70nmとなるように成膜されている。
金属膜15aのプリズム本体部15bと反対側の表面に、反応膜14Aが設けられている。これにより、反応膜14Aは、反応部13bに配置される。この反応膜14Aは、試料溶液に含まれる特定成分(例えば、特定の抗原)を捕捉するための生理活性物質(例えば、前記抗原に対する抗体)が金属膜15a上に固定されることにより形成される。
後述する分析装置2は、分析用具1Fを測定するのに対応するための光学系50Aを備える構成とすることができる。光学系50Aは、励起光αを照射する発光素子50Aaと、励起蛍光を受光する受光素子50Abとを備えている。発光素子50Aaは、分析用具1Fのプリズム部15の入射面15cに対して励起光αを照射する。入射した励起光αは、金属膜15aで反射することにより、金属膜15aにプラズモン共鳴が生じる。金属膜15aに生じたプラズモン共鳴に起因する増強電場によって、反応膜14Aに捕捉された特定成分若しくは特定成分に標識された蛍光物質が発光する。受光素子50Abは、分析用具1Fの上方に位置し、前記増強電場によって励起された励起蛍光α1を受光する。
分析用具1Fは、分析用具1と同様、筒状突出部10dの上面10eに形成された開口10fを覆うためのシート状部材11を備えている。従って、分析用具1Fは、ピペットチップ先端部71aを誘導するための誘導手段として貫通孔11aを備えている。もちろん、分析用具1Fには、これ以外のシート状部材もまた適用することができる。例えば、図5(A)〜図5(E)に記載した分析用具1A〜1Eのシート状部材11A〜11Eを適用することができる。
[分析装置]
図1に示すように、分析装置2は、内部の所定箇所に分析用具1をセットし、試料に含まれる特定成分を分析するためのものである。分析装置2は、制御部40、入力部42、表示部43、検出部5、および分注部6を備えている。
制御部40は、制御線41を介して、分注部6を構成するZ軸モータ8b、X軸モータ9b、およびポンプ70と、検出部5を構成する発光素子50aおよび受光素子50bと、入力部42と、表示部43とに接続されている。制御部40は、中央演算処理装置(CPU)およびメモリを備えている。制御部40は、メモリとして読み出し専用メモリ(ROM)およびランダムアクセスメモリ(RAM)を有している。CPUは、ROMに記憶されたプログラムを読み出して、上記各部の制御処理を行ったり、分析データの演算処理を行ったりする。CPUは、これらの処理を行う際に、RAMをワーキングメモリとして使用する。
入力部42は、分析に必要なデータを入力したり、後述する表示部43に表示された選択項目を選択したりするために使用される部分である。入力部の具体例としては、キーボードやバーコードリーダーが挙げられる。入力データの具体例としては、試料提供者のID番号、分析項目、分析に必要なパラメータなどが挙げられる。
表示部43は、分析に必要な選択事項や分析結果などを表示するためのものである。表示部の具体例としては、例えば、液晶モニタやCRTが挙げられる。
検出部5は、光学系50および載置部51を備えている。光学系50は、発光素子50aおよび受光素子50bを有している。発光素子50aは、分析用具1,1A〜1Eの反応部13bに可視光や紫外光などの光を照射するためのものである。受光素子50bは、反応部13bを透過した光を受光するためのものである。制御部40は、受光素子50bから取得したデータに基づいて、分析結果を算出する。載置部51は、分析実行時に、分析用具1,1A〜1Eを載置するための部分である。載置部51は、光を通過させるための光通過孔51aを有している。
なお、図6に示すように、分析装置2は、分析用具1Fに対して励起光αを照射するための発光素子50Aaと分析用具1Fにおいて発生する励起蛍光α1を受光する受光素子50Abとを組み合わせた光学系50Aを有する構成としてもよい。この場合は、分析用具1Fが、載置部51に載置される。
図1に示すように、分注部6は、分注要素7、ポンプ70、圧縮バネ73、昇降部8、および水平方向移動部9を備えている。分注部6は、この他、各種分析用液体が貯留された複数の貯留容器(図示略)、使用済みの分析用液体を廃棄するための廃液容器(図示略)、使用済みのピペットチップ71を廃棄するためのピペットチップ廃棄用容器(図示略)などを備えている。
分注要素7は、ピペットチップ71とノズル72とを備えている。すなわち、分注要素7は、少なくともピペットチップ71とノズル72とを含む結合体である。ピペットチップ71は、ノズル72に着脱可能に取り付けられる。分注要素7は、ピペットチップ71のピペットチップ先端部71aに設けられた開口71bから分析用具1の流路13に分析用液体Lを吐出または吸引する。ピペットチップ先端部71aは、本発明でいう分注要素先端部の一例に相当するものである。
ピペットチップ71は、使い捨てであり、素材として、例えば、ポリプロプレンを使用して製造される。ピペットチップ先端部71aの外周形状は、円形状である。分注部6は、ピペットチップ先端部71aにより、シート状部材11を穿孔する。ピペットチップ71は、その内部にピペットチップ先端部71aの開口71bから上方に向かって延び、かつ分析用液体Lを貯留するための液体貯留部71cを有している。ピペットチップ71は、液体貯留部71cの上方に、ノズル72に取り付けるための取り付け部71dを有している。ピペットチップ71は、テーパ部71eを有する。テ―パ部71eは、ピペットチップ71の軸方向に対して1°〜15°の傾斜角となるように形成されている。テ―パ部71eの横断面は、円形状である。
もちろん、分注要素7は、ピペットチップ71を構成要素として採用せず、ノズル72だけで構成してもよい。例えば、ノズル72のノズル先端部72aによって、分析用液体Lを吐出または吸引するようにし、ノズル先端部72aを必要に応じて洗浄液を用いて洗浄する構成とすることも可能である。ノズル先端部72aは、先細りの形状とされ、シート状部材11を穿孔可能に構成される。この場合は、ノズル先端部72aが、本発明でいう分注要素先端部の一例に相当するものとなる。
ノズル72は、例えば、ステンレス製である。ノズル72は、後述する分注要素支持部84によって周囲を囲まれるように保持されている。分注要素支持部84の下方には、圧縮バネ73が、配置されている。圧縮バネ73は、ピペットチップ71が分析用具1の筒状突出部10dなどに衝突した場合に衝撃を吸収するためのものである。圧縮バネ73の上端部は、分注要素支持部84の下端部に当接している。ノズル72は、圧縮バネ73の内側を通っており、下端に位置するノズル先端部72aにピペットチップ71を装着するためのピペットチップ装着部72bを有している。ピペットチップ装着部72bには、環状凹部が形成されており、Oリング72cが嵌め込まれている。ノズル72のピペットチップ装着部72bが、ピペットチップ71の取り付け部71dに差し込まれることにより、両者は嵌合する。一方で、ピペットチップ71の軸方向において、ピペットチップ71に対してノズル72からピペットチップ71を離間させる方向に力を加えることにより、ノズル72からピペットチップ71を取り外すことができる。
ノズル72には、中ほどの位置に第1環状溝部および第2環状溝部(図示略)が形成されている。これらの環状溝部のそれぞれには、第1Eリング72dおよび第2Eリング72eが嵌め込まれている。第1Eリング72dは、第2Eリング72eよりも上方に配置されている。第1Eリング72dと第2Eリング72eとは、分注要素支持部84と圧縮バネ73とを重ねて挟むように配置されている。第2Eリング72eの上面は、圧縮バネ73の下端部に当接している。これにより、圧縮バネ73は、落下しないように保持される。また、第1Eリング72dの下面は、分注要素支持部84の上面に当接している。これにより、分注要素7は、落下することなく分注要素支持部84に支持される。ノズル72は、中空管状であり、ピペットチップ71と後述するポンプ70とを繋いでいる。
ポンプ70は、分析用液体Lをピペットチップ71に吸引したり、ピペットチップ71から吐出を行うためのものである。ポンプ70は、チューブ74を介して、ノズル72の上端部72fと繋がっている。ポンプ70は、制御部40と接続され、分析用液体Lの吸引および吐出は、制御部40によって制御される。
昇降部8は、ピペットチップ先端部71aが下方を向いた状態で、分注要素7を昇降させるためのものである。昇降部8は、分注要素7をZ軸方向に往復移動させることにより、ピペットチップ先端部71aを昇降させる。具体的には、昇降部8は、リニアステージ8aとZ軸モータ8bとを備えている。リニアステージ8aは、送りネジ80と、上下方向(すなわちZ軸方向)に延びるガイド部材81と、送りネジ80およびガイド部材81に係合し、かつ分注要素7を所定の範囲内で上下動可能に保持する移動台82とを備えている。移動台82は、移動台本体83と分注要素支持部84とを備えている。分注要素支持部84は、接合部85により移動台本体83に接合され、一体化されている。移動台本体83は、本発明でいう移動部の一例に相当するものである。Z軸モータ8bは、リニアステージ8aの送りネジ80を回転させることにより、移動台82をガイド部材81に沿ってZ軸方向に往復移動させる。このZ軸モータ8bは、制御部40に接続されており、制御部40によって動作制御される。
水平方向移動部9は、分析用液体Lの貯留容器および廃棄容器の配置箇所と検出部5との間で、分注要素7を水平方向に移動させるためのものである。水平方向移動部9は、分注要素7、圧縮バネ73、および昇降部8を一緒にZ軸方向と直交するX軸方向に移動させる。水平方向移動部9は、リニアステージ9aとX軸モータ9bとを備えている。リニアステージ9aは、送りネジ90と、X軸方向に延びるガイド部材91と、送りネジ90およびガイド部材91に係合し、かつ昇降部8を保持する移動台92とを備えている。X軸モータ9bは、送りネジ90を回転させることにより、移動台92をガイド部材91に沿ってX軸方向に移動させる。X軸モータ9bは、制御部40に接続され、制御部40によって動作制御される。
図1および図7(A)に示すように、分注部6は、分析用具1のシート状部材11を穿孔する際に、筒状突出部10dの開口10fに向けて、矢印N2で示す穿孔方向(第1の方向)にピペットチップ先端部71aを移動させる。なお、図1および図7(A)において、矢印N2で示す穿孔方向は、Z軸に沿う方向である。図1、図7(A)、および図7(B)に示すように、分注要素支持部84はスリーブ状であり、分注要素支持部84の内部をノズル72が通っている。分注要素支持部84は、ノズル72の周囲を取り囲むようにして、ノズル72を支持している。分注要素支持部84の内部において、分注要素支持部84とノズル72との間には、隙間84aが、意図的に形成されている。
隙間84aを設けることにより、分注要素7は、分注要素支持部84に対して遊びを有することになる。これにより、分注要素7は、矢印N2で示す穿孔方向に交差する方向(第2の方向)に自由度をもって(自由に)変位することが可能である。別の観点では、分注要素7は、開口10fが広がる方向に自由度をもって変位することが可能である。これにより、ピペットチップ先端部71aもまた、この方向に変位することになる。分注要素7が変位する方向は、具体的には、例えば、図7(A)に示すように、矢印N5で示す穿孔方向に交差する方向である。なお、矢印N5で示す方向は、一方向ではなく、図7(B)に示すように、矢印N2で示す穿孔方向に交差するあらゆる方向である。
図8(A)〜図8(C)は、分析システムASにおいて、分析装置2が分析用具1のシート状部材11を穿孔する際の動作の一例について説明する。この動作は、制御部40によって制御される。
穿孔動作の前に、分析装置2内の所定の箇所に配置された貯留容器から、分析用液体Lが、ポンプ70によってピペットチップ71の液体貯留部71cに吸引される。X軸モータ9bは、送りネジ90を回転させることにより、移動台92をX軸方向に移動させる。これにより、図8(A)に示すように、分注要素7は、載置部51に載置された分析用具1の筒状突出部10dの上方に移動する。本動作例において、分析用液体Lは、例えば、血清などの試料を希釈液で希釈した液である。
図8(A)に示すように、ピペットチップ先端部71aを通る軸C1は、穿孔予定部位11gに形成された貫通孔11aを通る軸C2から、位置ずれΔ1分ずれている。この位置ずれΔ1は、分析用具1の載置位置のずれに起因するものである。図1および図8(A)に示すように、Z軸モータ8bは、送りネジ80を回転させることにより、移動台82をガイド部材81に沿って、矢印N2で示す穿孔方向(第1の方向)に移動させる。これにより、移動台82は、ピペットチップ先端部71aを、穿孔予定部位11gと位置ずれΔ1ずれた状態で、軸C1に沿って、シート状部材11に向かって移動させる。
次に、図8(B)に示すように、ピペットチップ先端部71aが、シート状部材11に当たると、シート状部材11全体が、下方に傾斜するように変形する。貫通孔11aが存在することにより、シート状部材11の下方への変形が起こりやすくする。その過程で、分注要素7は、軸C2に向かって、矢印N6で示す方向(第2の方向)に変位する。この動きにより、位置ずれΔ1は解消する。ピペットチップ先端部71aは、最終的に、貫通孔11aに誘い込まれる。
次に、図8(C)に示すように、ピペットチップ先端部71aは、矢印N2で示す方向に、軸C2に沿って、シート状部材11を破断しつつ更に移動する。Z軸モータ8bは、所定の位置で、ピペットチップ先端部71aの移動を停止する。この後、ポンプ70は、ピペットチップ71の液体貯留部71cに貯留された分析用液体Lを、流路13内に排出する。
上記の動作例において、位置ずれΔ1は、分析用具1の載置位置のずれに起因するものである。しかしながら、位置ずれΔ1の原因は、これに限らない。例えば、位置ずれΔ1が、ピペットチップ71の反りに起因するものであっても、上記と同様の動作により、シート状部材11の穿孔予定部位11gを穿孔することが可能である。
分析システムASにおいて、分注要素支持部84は、ピペットチップ先端部71aが、前記第2の方向に自由度をもって変位し得るように構成されていることにより、貫通孔11aによって穿孔予定部位11gの方向に誘導される。このように誘導することにより、穿孔予定部位11gとピペットチップ先端部71aとの間に位置ずれΔ1がある場合であっても、穿孔予定部位11gを正確に穿孔することができる。このことにより、分注要素7とシート状部材11の穿孔部位との密着性が高まるので、分析用具1に分注した分析用液体Lの液体収容部13aからの漏れを少なくすることができる。一方で、ピペットチップ先端部71aが、前記第2の方向に自動的に変位するので、穿孔予定部位11gとピペットチップ先端部71aとの間に生じる位置ずれをなくすために、高い動作精度を有する昇降部8を備える分析装置2の準備または分析用具1、分析用具の載置台51などの高精度設計もしくは製造工程の厳格な管理を行わなくても、分析用具1の開口10fを覆うシート状部材11の穿孔予定部位11gを正確に穿孔することができる。また、前記第2の方向にピペットチップ先端部71aを駆動するための特別な駆動部を必要としない。また、ピペットチップ71の反りを少なくする措置を採る必要もない。このことにより、分析装置2の製造が容易となる。加えて、分析装置2のコスト削減を図ることもできる。
分注要素支持部84の内部には、隙間84aが形成されており、分注要素7は、隙間84a内で前記第2の方向に自由度をもって変位する構成とされている。このように分注要素7の外周部との間に隙間を設けるだけの簡単な構造で、ピペットチップ先端部71aは、前記第2の方向に自由度をもって変位し、穿孔予定部位11gを正確に穿孔することができる。
分析用具1のシート状部材11に貫通孔11aを形成するための加工は、シート状部材加工具3を用いて容易に行うことができる。また、分析用具1を加工するに際し、新たな部品を追加する必要はない。これにより、分析用具1のコストアップを防止することができる。
穿孔予定部位11gは、シート状部材11において、開口10fの中央部またはその近傍に相当する位置に配置される。これにより、分注要素7とシート状部材11の穿孔部位との密着性をより高めることができる。密着性が高まることにより、分析用液体Lの漏れを少なくすることができる。
シート状部材11は、素材としてラミネートシートを使用しているので、貫通孔11aを形成する加工を簡単に行うことができる。また、最外層に高延性でかつ低弾性を有するシートラミネートシートを使用するので、分注要素7とシート状部材11の穿孔部位との密着性を高めることができる。
貫通孔11aは、シート状部材11を上面10eへ貼り付けた後に形成される。このことにより、分析用具1に対し、貫通孔11aを形成する加工を簡単に行うことができる。
貫通孔11aの直径をφHとし、ピペットチップ先端部71aの直径をφTとするとき、φH≧φTの関係が成立するように構成されている。このように貫通孔11aの寸法を規定することにより、分析用具1の穿孔予定部位11gとピペットチップ先端部71aとの間に位置ずれがある場合であっても、確実にピペットチップ先端部71aを穿孔予定部位11gに誘導することができる。
分析装置2は、図5(A)〜図5(B)によって説明した分析用具1A〜1Eにおけるシート状部材11A〜11Eの穿孔においても同様に動作する。
分析用具1A,1D,1Eは、シート状部材11A,11D,11Eの中央部またはその近傍に、誘導手段として縦断面が三角錐形状の凹部11Aa,11Da,11Eaを備えている。凹部11Aa,11Da,11Eaは、貫通孔と異なり、内部の流路13が外部と連通しない。よって、アルミラミネートフィルム製の袋などに入れることなく、湿気による分析試薬14の劣化の防止を図ることができる点で便利である。
分析用具1B〜1Eは、貫通孔11Ba,11Caまたは凹部11Da,11Eaの他に、誘導手段として湾曲形状11Be,11Deまたは傾斜形状11Ce,11Eeを有している。これらの形状を有することにより、ピペットチップ先端部71aが、穿孔予定部位11Bg〜Egの方向により円滑に変位することができる。
図9(A)および図9(B)に、本発明が適用された分析システムASを構成する分析装置の他の例を示す。分析装置2におけるのと同一または類似の機能を奏する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図9(A)および図9(B)に示すように、分析装置2Aの昇降部8Aは、分注要素支持部84Aを有している。分注要素支持部84Aの内部において、分注要素支持部84Aとノズル72Aとの間には隙間84Aaが形成されている。分析装置2Aは、この隙間84Aaに複数の圧縮バネ84Abが配置されている点で、分析装置2と異なっている。圧縮バネ84Abは、本発明でいう弾性部材の一例に相当するものである。圧縮バネ84Abの数は、図9(B)に示すように、4個であるが、3個以上、例えば、3個、5個、6個、7個、8個などでもよい。
図9(A)に示すように、ノズル72Aの外周面72Acには、バネ受け部72Aeが形成されている。分注要素支持部84Aの内周面84Acには、バネ受け部84Aeが形成されている。圧縮バネ84Abは、一端がバネ受け部72Aeに係止され、他端がバネ受け部84Aeに係止されることにより、隙間84Aa内で支持される。
隙間84Aaを設けることにより、分注要素7Aは、分注要素支持部84Aに対して遊びを有することになる。これにより、分注要素7Aは、矢印N2で示す穿孔方向(第1の方向)に交差する方向(第2の方向)に自由度をもって変位可能である。別の観点によれば、分注要素7Aは、分析用具1の開口10fが広がる方向に自由度をもって変位可能である。これにより、ピペットチップ先端部71aもまた、この方向に変位することになる。前記第2の方向は、例えば、図9(A)に示すように、矢印N5で示す方向である。なお、矢印N5で示す方向は、一方向ではなく、分注要素7Aは、分析装置2におけるのと同様、図9(B)に示すように、矢印N2で示す穿孔方向に交差するあらゆる方向に変位する。分注要素7Aが変位するとその方向にある圧縮バネ84Abは、圧縮される方向に変形する。圧縮バネ84Abを配置したことにより、分注要素7Aが前記第2の方向に変位した場合に、元の位置に戻りやすい。これにより、分析用具1を連続的に取り替えて穿孔を行う場合、穿孔予定部位11gの穿孔をその都度正確に行うことができる。
分析装置2Aが分析用具1のシート状部材11を穿孔する際の動作は、分析装置2におけるのと同様である。また、分析装置2Aは、図5(A)〜図5(B)および図6によって説明した分析用具1A〜1Fを穿孔する際にも同様に動作し、同様の技術的効果が得られる。
図10(A)および図10(B)に、本発明が適用された分析システムASを構成する分析装置の他の例を示す。分析装置2におけるのと同一または類似の機能を奏する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図10(A)および図10(B)に示すように、分析装置2Bの昇降部8Bは、分注要素支持部84Bを有している。分注要素支持部84Bの内部において、分注要素支持部84Bとノズル72Bとの間には隙間84Baが形成されている。分析装置2Bは、この隙間84BaにOリング84Bbが配置されている点で、分析装置2と異なっている。Oリング84Bbは、本発明でいうゴム部材および弾性部材の一例に相当するものである。Oリング84Bbの数は、図10(A)に示すように、2個であるが、少なくとも1個以上、例えば、1個、3個、4個、5個などでもよい。
ノズル72Bの外周面72Beには、環状凹部72Bfが形成されている。Oリング84Bbは、この環状凹部72Bfに嵌め込まれており、隙間84Ba内で支持されている。
隙間84Baを設けることにより、分注要素7Bは、分注要素支持部84Bに対して遊びを有することになる。これにより、分注要素7Bは、矢印N2で示す穿孔方向に交差する方向(第2の方向)に自由度をもって変位可能である。また、別の観点では、分注要素7Bは、分析用具1の開口10fが広がる方向に自由度をもって変位可能であるともいえる。これにより、ピペットチップ先端部71aもまた、この方向に変位することになる。前記第2に方向は、例えば、図10(A)に示すように、矢印N5で示す方向である。なお、矢印N5で示す方向は、一方向ではなく、分注要素7Bは、分析装置2におけるのと同様、図10(B)に示すように、矢印N2で示す穿孔方向に交差するあらゆる方向に変位する。分注要素7Bが変位するとOリング84Bbは、圧縮される方向に変形する。Oリング84Bbを配置したことにより、分注要素7Bが前記第2の方向に変位した場合に、元の位置に戻りやすい。これにより、分析用具1を連続的に取り替えて穿孔を行う場合、穿孔予定部位11gの穿孔をその都度正確に行うことができる。
分析装置2Bが分析用具1のシート状部材11を穿孔する際の動作は、分析装置2におけるのと同様である。また、分析装置2Bは、図5(A)〜図5(B)および図6によって説明した分析用具1A〜1Fを穿孔する際にも同様に動作し、同様の技術的効果が得られる。
図11に、本発明が適用された分析システムASを構成する分析装置の他の例を示す。分析装置2におけるのと同一または類似の機能を奏する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図11に示すように、分析装置2Cの昇降部8Cは、分注要素支持部84Cを有している。分析装置2Cにおいて、分注要素支持部84Cはスリーブ状であり、この分注要素支持部84Cの内部をノズル72Cが通っている。分注要素支持部84Cは、ノズル72Cの周囲を取り囲むようにして分注要素7Cを支持している。ノズル72Cは、分注要素支持部84Cに支持される第1部材72Ceと、ピペットチップ71が取り付けられる第2部材72Cfとを有している。第1部材72Ceには、ピボット受け部72Chが形成されている。第2部材72Cfは、第1部材72Ceに対してピボット72Cgを介して結合されている。第2部材72Cfは、内部に中空部72Ciを有しており、ピペットチップ71の液体貯留部71cに繋がっている。中空部72Ciは、第2部材72Cfの側面から、チューブ74Cを介してポンプ70に接続されている(図示略)。
第1部材72Ceと分注要素支持部84Cとの間には、隙間は設けられていない。一方で、第2部材72Cfと分注要素支持部84Cとの間には、第2部材72Cfが、ピボット72Cgを介して自由に動ける程度の隙間84Caが設けられている。第2部材72Cfは、ピボット72Cgにより、第1部材72Ceに対して揺動する。揺動する結果、第2部材72Cfは、矢印N2で示す穿孔方向(第1の方向)に交差する方向(第2の方向)に自由度をもって変位可能である。別の観点によれば、第2部材72Cfは、分析用具1の開口10fが広がる方向に自由度をもって変位可能であるともいえる。このことにより、ピペットチップ71のピペットチップ先端部71aもまた、この方向に変位することになる。前記第2の方向は、具体的には、例えば、図11に示すように、穿孔方向に交差する、矢印N5で示す方向である。変位した第2部材72Cfは、圧縮バネ73の弾発力によって元の位置に戻る。なお、矢印N5で示す方向は、一方向ではなく、矢印N2で示す穿孔方向に交差するあらゆる方向である。一方で、第1部材72Ceは、前記第2の方向には変位しないように、分注要素支持部84Cに保持されている。
図12(A)〜図12(C)は、分析システムASにおいて、分析装置2Cが分析用具1のシート状部材11を穿孔する際の動作の一例を説明する。
図12(A)に示すように、ピペットチップ71の液体貯留部71cに分析用液体Lを貯留した分注要素7Cは、載置部51に載置された分析用具1の筒状突出部10dの上方に配置される。本動作例において、分析用液体Lは、例えば、血清などの試料を希釈液で希釈した液である。
図12(A)に示すように、ピペットチップ先端部71aを通る軸C1と穿孔予定部位11gに形成された貫通孔11aを通る軸C2との間には、位置ずれΔ2がある。図1および図12(A)に示すように、Z軸モータ8bは、移動台82をガイド部材81に沿って、矢印N2で示す穿孔方向(第1の方向)に移動させる。ピペットチップ先端部71aは、軸C1に沿って、穿孔予定部位11gと位置ずれΔ2ずれた状態で、シート状部材11に向かって移動する。
次に、図12(B)に示すように、ピペットチップ先端部71aが、シート状部材11に当接すると、シート状部材11全体が、下方に傾斜するように変形する。貫通孔11aの存在が、この変形を起こしやすくする。その結果、第2部材72Cfは、矢印N6で示す軸C2の方向(第2の方向)に揺動し、ピペットチップ先端部71aは、位置ずれΔ2の距離を変位する。この動きにより、位置ずれΔ2は解消する。ピペットチップ先端部71aは、最終的に、貫通孔11aに誘い込まれる。
次に、図12(C)に示すように、ピペットチップ先端部71aは、矢印N2で示す穿孔方向(第1の方向)に、軸C2に沿って、シート状部材11を破断しつつ更に移動し、所定の位置で移動を停止する。ポンプ70は、ピペットチップ71の液体貯留部71cに貯留された分析用液体Lを、流路13内に排出する。
上記の動作例において、位置ズレΔ2は、分析用具1の載置位置のずれに起因するものであるとした。しかし、位置ずれΔ2が、ピペットチップ71の反りに起因するものであっても、上記と同様の動作により、シート状部材11の穿孔予定部位11gを正確に穿孔することが可能である。
分析装置2Cは、図5(A)〜図5(B)および図6によって説明した分析用具1A〜1Fにおけるシート状部材11,11A〜11Eの穿孔においても同様に動作する。
第2部材72Cfを第1部材72Ceに対して揺動させることによれば、ピペットチップ先端部71aの変位を比較的大きくすることができる。このことにより、ピペットチップ先端部71aと穿孔予定部位11gに形成された貫通孔11aとの間の位置ずれΔ2の量が、比較的大きくても対応することができる。
本発明は、上述した実施の形態の内容に限定されない。本発明に係る分析用具、分析装置、分析システム、および分析用具の開口を覆うシート状部材の穿孔方法の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
分析用具1A,1D,1Eにおいて、凹部11Aa,11Da,11Eaの断面形状を三角錐としたが、凹部は、半球や円柱などの形状に任意に設定することができる。分析用具1,1B,1Cにおいて、貫通孔11a,11Ba,11Caを円形としたが、孔形状は円形に限らない。楕円形、正三角形を含む三角形、正方形、矩形、正五角形を含む五角形、正六角形を含む六角形、その他の多角形とすることもできる。また、凹部や貫通孔は、専用のシート状部材加工具を用いる以外に、ピペットチップやノズルなどの先端部と同じ形状のもので形成してもよい。また、貫通孔を形成する場合は、打ち抜き加工のように除去加工する必要はなく、予め開けておけば多少縮まるか、閉じてしまっても機能的な問題は生じない。
分析用具1B〜1Eにおいて、シート状部材11B〜11Eは、湾曲形状や傾斜形状などの下方に膨らんだ凹形状に予めプレス加工されている。これらには、穿孔予定部位11Bg〜Egに凹部または貫通孔が形成されている。しかしながら、誘導手段は、凹部または貫通孔を設けず、穿孔予定部位に向けて下方に膨らんだ、湾曲形状や傾斜形状などの形状のみとしてもよい。
分析装置2Cにおいて、分注要素7Cの第1部材72Ceと第2部材72Cfとは、ピボットを介して結合しているが、結合方法はこれに限らない。第1部材72Ceと第2部材72Cfとを関節により結合する構成とすることもできる。