JP6512543B2 - 蒸着セル、薄膜作製装置および薄膜作製方法 - Google Patents

蒸着セル、薄膜作製装置および薄膜作製方法 Download PDF

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Description

本発明は、無機あるいは有機半導体デバイスの活性層作製のための蒸発源となる蒸着セル、薄膜作製装置および薄膜作製方法に関する。
有機半導体薄膜を用いた有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、RFID(Radio Frequency Identifier)タグ、人工皮膚などに代表されるフレキシブルデバイスにおいて、大面積回路の大量生産を達成するべく、キャリア移動度の向上と製造コストの削減が要望されている。
近年、有機半導体材料をインク化し、印刷や塗布といった方法で大面積基板へ成膜するウェットプロセスで、単結晶薄膜を作製する技術が発表され、高いキャリア移動度が得られ始めたことから、低コストプロセスとして実用化に期待が集まっている。しかし、このウェットプロセスを用いて単結晶薄膜を作製するには、以下に述べる問題点がある。
まず、印刷や塗布といった方法を用いることから、インク化が必要であり、インク化のため、溶媒に可溶な材料に限定されてしまうことである。次に、仮に、不溶性の材料に可溶性を持たせる官能基を付加する場合、付加する官能基によって電荷輸送を妨げてしまうことである。さらには、材料を乾燥させる時に発生する応力によって、不規則に欠陥が発生しやすいということである。その上、成膜の際に行う乾燥・熱処理に時間がかかるため、サイクルタイムが長くなることである。
一方、真空蒸着法は、膜厚、純度および異種分子混合比の制御性に優れており、結晶性のよい薄膜を作製できるという特徴がある。しかし、真空蒸着法は、大面積での薄膜製造コストの高さが問題となっており、大量生産プロセスでの採用は困難である。
通常、真空蒸着法は、蒸着装置として“るつぼ”(蒸着セル)を用いて、蒸着させる材料を蒸発させる。多くの有機低分子材料は、真空中で昇華性であり、熱伝導率が低く粉末状態であるため、蒸着セルの温度を一定に制御しても材料全体が均一な温度とならない。その上、個々の粒子の構造や接触状態に応じて、突発的に蒸発分子が、蒸着セルの外に放出されてしまうので、高い分子流密度を一定制御することが困難である。そのため、蒸着セルから放出する分子流密度を安定して制御できる範囲の温和な条件で、材料の蒸着を行う必要があるため、面積あたりの成膜速度が遅くなってしまう。
また、真空蒸着法では、大がかりな真空チャンバーと高性能真空ポンプが必要であり、これらの装置導入コストが高いことに加えて、薄膜への残留ガス混入を抑制するためには高真空が必要であり、真空排気のための大がかりな真空ポンプと長い排気時間を要する。
これらのことから、真空蒸着法では、面積あたりの成膜速度の遅さと、真空排気の待ち時間とから、サイクルタイムが長く、製品あたりのコストが高くなるといった問題がある。かかる問題を克服するためには、蒸着速度を高速に制御できる仕組みが必要である。
こういった状況下、有機ELディスプレイの製造に用いる真空蒸着装置において、蒸発源のるつぼから蒸着マスクへの放射熱の影響を
軽減し、蒸着マスクの膨張を抑制することで精度の高い蒸着を行うことのできる蒸着装置が知られている(特許文献1を参照)。
特許文献1に開示された真空蒸着装置の場合、被蒸着基板と対向するるつぼ上部に突出した状態に突出部が、るつぼの長手方向に複数形成されており、突出部の外形状は円柱形状、円錐台形状、角錐台形状などであり、るつぼ上面より突出している構造になっている。そして、突出部の高さは、突出部の周囲に、金属製の蒸着マスクの温度上昇に伴う膨張を抑制するための放射阻止体が設けられるため、その放射阻止体上面と同等の高さもしくは高くなるようにしている。そして、突出部の内側は、るつぼ内より蒸発させた蒸着材料を射出する出射孔が、るつぼ内部より被蒸着基板方向に向かって段階的あるいは連続的に先細りとなる形状を有しており、るつぼ内で蒸発させた蒸着材料が出射孔の射出側開口部に向かって飛散する際の妨げにならないような構造となっている。
特許文献1に開示された真空蒸着装置では、蒸着マスクへの放射熱の影響を軽減する目的で成されたもので、蒸着速度を高速に制御するものではない。
また、大型基板上に膜厚が均一で有機ELディスプレイの上部電極用の金属薄膜を高速に成膜させ、蒸気漏れやノズルの温度低下を低減し、長時間連続運転可能な蒸発源及び真空蒸着装置が知られている(特許文献2を参照)。特許文献2に開示された蒸発源及び真空蒸着装置では、開口を設けたるつぼと、るつぼの外側壁を囲むように設けたヒータと、るつぼの内側壁にノズルの板厚以上の長さで接するように設けられたノズルが設けられ、ノズルがるつぼの内側壁と密閉性を保つために、その一部にるつぼと密閉するシール部品が設けられている。
特許文献2に開示された蒸発源及び真空蒸着装置の場合、るつぼの内側壁にノズルの板厚以上の長さで接するように設けることから、ノズルを支持する構造をるつぼに設ける必要や、ノズルの温度低下による放熱や蒸気漏れを低減するための部材の選定や板厚の調整、シール性を確保できる構造を設ける必要があり、るつぼの構成が複雑になるといったデメリットがある。また、特許文献2に開示された蒸発源及び真空蒸着装置では、高い分子流密度を一定制御できるものではない。
また、希ガスをチャンバーに導入し、蒸着材料の有機分子を含む超音速分子線を発生させ、スキマと差動排気によって高い運動エネルギーをもった蒸着材料の分子線を選択的に基板に入射させることにより、基板を昇温することなく、結晶性の高い膜を作製する方法が知られている(非特許文献1を参照)。
非特許文献1の方法では、超音速分子線によって、高い分子流密度を一定制御して、面積あたりの成膜速度を速くできるという利点があるが、大量の希ガスと超高真空雰囲気を要することから、膜の作製コスト面で問題がある。
特開2004−214185号公報 特開2014−198863号公報
S.Iannotta and T.Toccoli, J.Polym.Sci., Part B:Polym.Phys.41 (2003) 2501
上述のように、従来の真空蒸着法における蒸着セルでは、高い分子流密度を一定制御することが困難である。この問題を回避するために、安定して制御できる温和な条件で蒸着を行うと、蒸着セルと基板の間の典型的な距離では、成長速度が1オングストローム/秒程度にとどまってしまい、成膜速度の低下を招く。
かかる状況に鑑みて、本発明は、簡易な構成で、高い分子流密度を一定制御し、成膜速度を速めることができる蒸着セル、薄膜作製装置及び薄膜作製方法を提供することを目的とする。
上記の課題を解決すべく、本発明の薄膜作製方法は、材料を真空蒸着法によって基板上に薄膜を作製する方法において、蒸着源となる蒸着セルには、少なくとも1つのキャピラリ構造の放出口が用いられ、蒸着セル内が、キャピラリ内部に所定の圧力勾配が生じる材料蒸気圧に調整されることを特徴とする。
蒸着源となる蒸着セルに、キャピラリ構造の放出口を用いることにより、高い分子流密度を一定制御し、成膜速度を速めることができる。このキャピラリ内部には、圧力勾配が生じるように、材料蒸気圧が調整されることが必要である。
本明細書において、キャピラリ構造とは、密閉型の蒸着セルのケーシングの一部に設けられた細管(髪の毛のように細い管)構造と定義する。キャピラリ構造の直径と長さは、入射口側で十分に粘性流領域にまで高められた蒸着材料の蒸気圧と蒸着セル外の真空との間の圧力差によって、十分に速い成膜速度が得られるだけの分子流束が生じるようなコンダクタンス(直径d、長さlの円柱状キャピラリの場合において、粘性係数ηの原料分子のキャピラリ内平均圧力がpの粘性流状態である場合、コンダクタンスは(π/128)・(d4p/ηl)で表されるが、本発明の場合はキャピラリ両端での圧力差が大きく、粘性流状態から中間流状態を経て分子流状態にまで至るため、シミュレーション等によらなければ決めることが困難である。)が得られるように調整される。また、本明細書では、“キャピラリ構造”と単に“キャピラリ”と言う場合があるが、“キャピラリ”は“キャピラリ構造体”を指す意味で使用する。
上記構造により、より高い温度で、閉じられた蒸着セル内で平衡蒸気圧が達成され、キャピラリ構造の放出口から高い分子流密度の蒸着材料を放出でき、成膜速度を速めることができる。また、真空であるチャンバー雰囲気との間で急激な圧力勾配を形成することができる。
なお、蒸着させる材料は、昇華性の材料であれば、有機無機問わず用いることが可能である。蒸着セルは、準閉鎖型構造にして、蒸着方向にキャピラリ構造の放出口を設ける。
ここで、キャピラリ内部に圧力勾配が生じる材料蒸気圧は、キャピラリ内の入射側と出射側に圧力差があり、蒸着させる材料が入射側の粘性流状態から出射側の分子流状態に遷移する圧力勾配であることが好ましい。すなわち、蒸着させる材料の気体分子が、入射側の粘性流領域の運動状態(分子がキャピラリ内壁に衝突する頻度より、分子同士の衝突頻度が大きい状態)から出射側の分子流領域の運動状態(分子同士が衝突する頻度より、キャピラリ内壁に衝突する頻度が大きい状態)に遷移する圧力勾配であることが好ましい。キャピラリ内部で、材料の入射側は蒸発セルの内側になり、材料の出射側は蒸発セルの外側になる。圧力が高い状態では、分子同士の衝突が支配的な粘性流領域の状態であり、圧力が下がっていくと気体分子の平均自由行程は大きくなって、分子同士の衝突より分子と壁の衝突の頻度が大きくなる分子流領域の状態となる。
このように、蒸着セル内部の圧力を、材料分子が粘性流領域となる圧力まで高めることで、キャピラリ内に急激な圧力勾配が生じる。このような条件下では、キャピラリ内部で衝突した材料分子がキャピラリ出口方向に加速され、熱平衡状態より平均運動エネルギーが大きい状態となり、材料分子が細いビーム状の高速分子線のように射出される。本発明における高速分子線とは、このようにして熱平衡状態より平均運動エネルギーが大きい状態となり、その結果として細いビーム状にキャピラリから出射される分子線である。このようなビーム状の高速分子線を効果的に発生させるためには、キャピラリ内部の圧力分布は、前記条件に加えて、分子流領域に達するキャピラリ内の位置がキャピラリ出射側に近い位置となるようにすることが好ましい。
細いビーム状のように射出された高速の材料分子によって、ターゲット基板上での分子拡散が促進され、基板温度を昇温することによる結晶性向上と等価ではないが同様の効果を得られることになる。従って、基板上に成膜される薄膜の結晶性あるいはアモルファス膜の構造安定性を高めるために行う基板の昇温プロセスを省略することが可能となり、真空蒸着法のサイクルタイムの更なる短縮及び加熱昇温装置のコスト低減の2つの効果が期待できる。
また、上記の蒸着セルは、少なくとも蒸着セルの内壁とキャピラリの内壁に、熱伝導性材料が被覆されたことが好ましい。セル内部が材料と共にすばやく均熱化され、高い分子流密度を安定に制御することが可能になるからである。
蒸着セル全体、或は、キャピラリ全体が、熱伝導性材料で構成されてもよい。熱伝導性材料としては、金属、金属酸化物、炭素、若しくは、それらの複合材料が挙げられる。
また、キャピラリ内壁が材料蒸気の温度より低くなるとキャピラリ内で材料が凝集し、閉塞状態となるため、特にキャピラリ部は蒸着セル加熱源からの熱伝導を良くする必要がある。そのために、キャピラリは特許文献1に見られるような突出した構造とせず、キャピラリ−の長さがそのまま厚みとなる熱伝導性材料壁に形成されていることが望ましい。
蒸着セルに被覆される熱伝導性材料が金属である場合、熱伝導性材料の表面には、材料に対して不活性なコート剤が被覆されることが好ましい。高温の金属による材料の分解等の変性を防ぐためである。例えば、無酸素銅が熱伝導性材料としてコーティングされており、蒸着させる材料として有機材料を用いる場合、有機材料と無酸素銅の化学反応を防ぐために、無酸素銅の表面は不活性な膜、例えば酸化珪素(SiO)でコーティングされるのが好ましい。
キャピラリ構造は、上述の通り、その直径と長さは、入射口側で十分に粘性流領域にまで高められた蒸着材料の蒸気圧と蒸着セル外の真空との間の圧力差によって、十分に速い成膜速度が得られるだけの分子流束が生じるようなコンダクタンスが得られるように大きさが決められるが、典型的には直径0.1〜1mm、長さ1〜100mmとなる。ただし、材料の物性と要求される成膜速度によって上記条件を満たすように調整され、この範囲に限定するものではない。
また、キャピラリ内の空間は、少なくとも分子流状態となる部分が直線状である。上述の通り、蒸着セルは準閉鎖型構造にして、蒸着方向にキャピラリ構造の放出口を設けるのであるが、このキャピラリ構造は、パスカルの原理から、蒸着セルに設けられる場所に左右されることなく、圧力条件は同じになる。通常、蒸着セルの上に基板が設けられることから、蒸着セルの上蓋中央にキャピラリ構造が設けられることでよい。キャピラリ構造が設けられる位置よりも重要なことは、キャピラリ構造が直線状であることである。分子流状態となる部分が直線状であることによって、蒸着材料の気体分子の多くが整ったビーム状に放出されることになる。仮に、キャピラリ構造が曲がっていて、分子流状態となる部分が直線状でないとすると、放出される蒸着材料の気体分子の多くがキャピラリ内壁によって不規則に散乱され、ビーム状に放出されないといった不都合が生じることになる。
キャピラリ内の空間形状は、円柱、楕円柱、多角柱、円錐台、楕円錐台、又は、多角錐台、若しくは、それらを組み合わせた形状であることが好ましい。これらの形状であれば、キャピラリ内の空間は長さ方向に直線状であり、分子流状態となる部分も直線状となり、高い指向性を持った圧力勾配が生じやすくなる。
円錐台、楕円錐台、多角錐台などの場合、入射側開口面積と出射側開口面積が異なり、キャピラリ内部に圧力勾配が生じやすいが、この時に、出射側開口面積が入射側開口面積よりも大きくする方がよい。但し、面積差が大きくなれば、圧力勾配の指向性が低下してしまうことに留意しなければならない。
本発明の薄膜作製方法において、蒸着セルは、同一形状、同一サイズの複数のキャピラリ構造を備え、複数のキャピラリは、一次元的あるいは二次元的に等間隔に配置されてもよい。
蒸着セル単体での蒸着面積は微細素子を作製するのには十分であるが、大型ディスプレイのような大面積デバイスの大量生産を達成するためには、蒸着面積を大きくする必要がある。このような場合には、同一セルに対して一次元的あるいは二次元的にキャピラリを並べて取り付けた拡張型の蒸着セルを用いて、セルを走査するか基板を走査することにより、蒸着面積を大きくする。
ここで、キャピラリ構造を一次元に等間隔に配置した蒸着セルに対しては、基板側を走査する方法、或は、ロール・ツー・ロール方式により、基板上に材料を蒸着させて薄膜を作製する。一方、キャピラリ構造を二次元に等間隔に配置した蒸着セルに対しては、蒸着セルのサイズと薄膜を作製する基板側のサイズによって、基板を固定して蒸着させることや、或は、基板側を走査しながら材料を蒸着させて、基板上に薄膜を作製する。
単一の蒸着セルに複数のキャピラリ構造を設けることにより、総出射分子を上回る分子が蒸着材料から現実的な温度で蒸発できる。また、1つのセルに複数のキャピラリ−を有する構造では、加工精度さえ確かであれば、全てのキャピラリからの出射分子流が同じになるという利点がある。
また、同一形状、同一サイズのキャピラリ構造を有する複数の蒸着セルが、一次元的あるいは二次元的に等間隔に配置されてもよい。そして、基板側を走査する方法、或は、ロール・ツー・ロール方式により、基板上に材料を蒸着させて薄膜を作製する。
蒸着セルが同一形状、同一サイズの複数のキャピラリ構造を備え、複数のキャピラリが一次元的あるいは二次元的に等間隔に配置されて、薄膜を作製する場合、キャピラリの中心間距離と、基板とキャピラリの放出口との距離と、材料蒸気圧による材料の放出角度分布とから、薄膜の膜厚分布が制御されるのがよい。
同一形状、同一サイズのキャピラリ構造を有する複数の蒸着セルが、一次元的あるいは二次元的に等間隔に配置されて、薄膜を作製する場合も、キャピラリの中心間距離と、基板とキャピラリの放出口との距離と、材料蒸気圧による材料の放出角度分布とから、薄膜の膜厚分布が制御されるのがよい。
この場合、蒸着セル毎に、キャピラリ構造と同一形状、同一サイズのフラックスモニタリング用キャピラリが設けられることが好ましい。
キャピラリ単位で複数配置される場合や、蒸着セル単位で複数配置される場合に、蒸着用キャピラリとは別に、フラックスモニタリング用のキャピラリを設けて、フラックス(単位時間・単位面積あたりに流れる量)の変化によって出射分子速度を制御することができる。例えば、大型の複数のキャピラリ構造を有する蒸着セルにおいて、1つだけ離れた位置にモニタリング用のキャピラリ構造(蒸着用と同じ形状ならびにサイズ)を設け、その出射口の直上に水晶振動子を配置することによって分子フラックスをモニタリングする。
次に、本発明の蒸着セルについて説明する。
本発明の蒸着セルは、材料を真空蒸着法によって基板上に薄膜を作製するために用いられる蒸着セルにおいて、蒸着セルは、少なくとも1つのキャピラリ構造の放出口を備え、キャピラリ内部に、入射側が粘性流状態、出射側が分子流状態となるような圧力勾配が生じる材料蒸気圧にセル内圧力が調整された場合に、ビーム状分子線を射出する。
この蒸着セルにおいて、少なくとも蒸着セルの内壁とキャピラリの内壁に、熱伝導性材料が被覆されることが好ましい。また、熱伝導性材料が金属であり、熱伝導性材料の表面には、前記材料に対して不活性なコート剤が被覆されることが好ましい。
キャピラリの内径に対する長さは、目的とする蒸着速度が得られる状態で、前記圧力勾配条件が得られるコンダクタンスとなるよう調整される。キャピラリ内の空間は、少なくとも分子流状態となる部分が直線状である。そして、キャピラリ内の空間形状は、円柱、楕円柱、多角柱、円錐台、楕円錐台、又は、多角錐台、若しくは、それらを組み合わせた形状である。
次に、本発明の薄膜作製装置について説明する。
本発明の薄膜作製装置は、材料を真空蒸着法によって基板上に薄膜を作製する装置において、上述の本発明の蒸着セルが、同一形状、同一サイズの複数のキャピラリ構造を備え、複数のキャピラリが一次元的あるいは二次元的に等間隔に配置されたものである。そして、蒸着セルからの放出フラックスを一定制御するために、蒸着用のキャピラリ構造と同一形状、同一サイズのフラックスモニタリング用キャピラリが設けられる。大面積基板に均一な厚みの薄膜を作製するために、この蒸着セル、あるいは、フラックスモニタと蒸着セルを一組としたものを直交する二方向に走査する機構を有してもよい。或は、この目的のために、蒸着セル、あるいは、フラックスモニタと蒸着セルを一組としたものを一方向に走査する機構と、それとは直交する方向に基板を移動させる機構を有してもよい。
或は、本発明の薄膜作製装置は、材料を真空蒸着法によって基板上に薄膜を作製する装置において、上述の本発明の蒸着セルが、一次元的あるいは二次元的に等間隔に複数配置されたものである。そして、蒸着セル毎に、キャピラリ構造と同一形状、同一サイズのフラックスモニタリング用キャピラリが設けられる。
本発明によれば、簡易な構成で、高い分子流密度を一定制御し、従来の真空蒸着法では達成できなかった速い成膜速度で安定に蒸着することができるといった効果がある。
なお、蒸着セルは、真空付近でなくとも、大気圧付近でも、微粒子作製法としての材料蒸発源として用いることが可能である。
蒸着セルの説明図 膜厚分布測定の模式図 膜厚分布の極座標を示す図 キャピラリ径ごとに成膜速度を変化させた場合の膜厚分布図 (a)拡散するモデルと(b)並行ビームを射出するモデルのイメージ 数式1を用いて実験結果のフィッティングを行った結果を示す図 成膜速度“high”での粘性流領域からの等方的散乱のモデルを示す図 本実施例の蒸着セルとキャピラリ構造を備えていないセルの射出イメージ 本実施例の蒸着セルの3つの成膜速度における気体分子の射出の概念図 本実施例の蒸着セルにおける分子流領域と粘性流領域の遷移図 作製した有機薄膜トランジスタの構造模式図 キャピラリ径と成膜速度を変化させて作製したペンタセン薄膜の表面高さ像の原子間力顕微鏡(AFM)画像 キャピラリ径と成膜速度変化による有機薄膜トランジスタの伝達特性図 キャピラリ径ごとの移動度およびドメインサイズと成膜速度の関係図 キャピラリ径ごとの成膜速度と移動度の関係図 並行ビーム成分と移動度の関係を示す図 成膜速度とドメインサイズの関係図(実施例3) 作製したペンタセン薄膜の表面高さ像のAFM画像(実施例3) 移動度およびドメインサイズと成膜速度の関係図(実施例3) 成膜速度と移動度の関係図(実施例3) 一次元的に配置されたマルチキャピラリ構造を備えた蒸着セルの構造図(実施例4)
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
図1は、蒸着セルを示している。蒸着セル1はセル素材としてセラミックスが使用され、セル内壁11は無酸素銅で被覆されている。蒸着セル1の上面は開放されており、上蓋2を取付けることで準閉鎖型セルを構成する。上蓋2は素材として無酸素銅が使用され、中央部には、1つのキャピラリ3が形成されている。蒸着セル1は内径が10mm程度の円筒容器であり、上蓋2に設けられたキャピラリ3は、内径dが1mm以下の円筒孔であり、円筒の長さlは3mm程度である。
蒸着セル1の内部には、蒸着材料4が置かれ、蒸着セル1の下側と周囲にはヒータ(図示せず)が設けられている。ヒータで蒸着セル1を加熱すると、蒸着材料4が蒸発して気体分子となり、蒸着セル1内部の圧力が増大する。キャピラリ3のセル内部側が入射口31、セル外部側が出射口32となり、キャピラリ3から気体分子が放出されることになる。
図2は、膜厚分布測定の模式図を示している。上記の蒸着セルについて、並行ビーム状の気体分子の放出を確認し、その効果を検証するため、キャピラリ径と成膜速度を変化させ射出口軸上を0°とした放出角ごとの膜厚を測定した。得られた膜厚分布を基に、各条件における蒸着分子の振る舞いを以下に説明する。
膜厚分布の測定のため、ドーム状ホルダ5の内側の蒸着セル1の射出口32の直上部分をθ=0°とし、15°刻みでθ=75°まで、19 mm×13 mmのガラス基板7を計6枚設置した。また、40°の位置に開口部を設け、膜厚センサ6を設置した。
図3は、膜厚分布の極座標を示している。図2に示すドーム状ホルダ5は、射出口32を中心とする半径110mmの球面になっている。各ガラス基板7はアセトン中で10分間超音波洗浄した後、85°Cに加熱したアセトンに浸漬させ、UV/O処理を施している。
基板洗浄後、蒸着セル1を用いてペンタセンを蒸着した。本実施例では、キャピラリのサイズとして、長さ3 mm,直径が0.25,0.50,1.00 mmの3種類を用いている。洗浄したガラス基板をセットしたドーム状ホルダ5を蒸着チャンバー内に固定し、2.0×10−4Paまで真空排気後、蒸着セル1を電熱ヒータで加熱し、所望の成膜速度まで高めて安定させた後に蒸着を開始した。蒸着終了後、ガラス基板を取り出し、各ガラス基板の中心の膜厚を触針式段差計により測定し、極座標表示でプロットし、膜厚分布を得た。
図3において、膜厚分布は0°位置の膜厚を基準とした相対膜厚で表している。また、塗りつぶし部分が成膜された範囲を示している。なお、破線は理想的な微小面蒸着源のからの拡散条件である、f(θ)=cosθのプロットを示している。
図4は、キャピラリ径ごとに成膜速度を変化させた場合の膜厚分布図を示している。
それぞれの正確な成膜速度は各々の膜厚分布図の右上に記している。ここでは、成膜速度(Deposition rate)を便宜的に、“low”,“mid”,“high”の3つの領域に分けて示している。また、比較用に、キャピラリ構造が無く上端が開口された蒸着セル(キャピラリ径が13mm相当)を用いた測定を行った。以下では、本発明の蒸着セルと区別するため「従来型セル」と呼ぶ。
成膜速度が“low”の領域では、従来型セルの膜厚分布(放出角度分布)と比較して、蒸着セルでの膜厚分布は、いずれも従来型セルの膜厚分布と比べて低角側で膜厚が大きく減少しており、分布が細くなっていることがわかる。すなわち、るつぼ内は十分に分子流領域になっており、出射口の大きさに応じて拡散していると言える。
次に、キャピラリ径と蒸着速度の相関について述べる。キャピラリ径d=0.25の列において、成膜速度が“low”から“mid”の領域に移行したとき、低角側での膜厚が著しく減少し分布が細くなった。一方、成膜速度が“mid”から“high”に移行したときは、低角側での膜厚が再度増加し、膜厚分布は広く拡散するように戻る様子が確認できた。他のキャピラリ径においても、成膜速度が“mid”の領域での膜厚分布は、分布が細くなっており、“high”の領域では再び拡散しているように見受けられた。
なお、従来型セルを用いた場合、開口部が広いため“mid”以上の成膜速度に達するまでに材料が枯渇してしまい、また、準閉鎖型の構造ではないために成膜速度を安定させることができなかったため、“mid”及び“high”に相当する成膜速度での蒸着ができなかったことから、“low”に相当する成膜速度の結果だけを示している。
図5は、(a)拡散するモデル(cosθ成分)、(b)並行ビームを射出するモデル(ガウス関数成分)を示している。膜厚分布は、ビーム状の高速な気体分子の射出(以下、高速分子線という)が発現する条件下において、キャピラリ3内における分子同士の衝突によって、圧力勾配が発生する射出方向に指向性を持って飛び立つ蒸着分子の流れ(I)と、キャピラリ3の内壁から飛び立ち、広がっていく蒸着分子の流れ(II)の2種類の分子の流れの重ね合わせの結果、各方位に堆積する分子の体積によって決定される。実験により取得した膜厚分布に関して、(I)および(II)の効果を表す関数によってフィッティングし、各成分の定性的な評価を行った。
まず、蒸着セルの直上方向への狭い広がりを持った並行ビームを表す成分(I)としてガウス関数を想定する。次に、射出口から拡散していくような分子の流れの分布は、理想的な微小面蒸着源の場合、cos関数で記述されるが、現実の多くの系ではcos関数にはならず、経験的にcosθで表されるような分布になることが知られているため、cosθの関数を成分(II)として用いる。対象となる実験データをこれらの関数でフィッティングしたとき、それぞれの寄与の大きさを評価するため、下記数式1を用い、放出角度分布における並行ビーム成分の寄与の大きさをAの大きさで評価した。
図6は、上記数式1を用いて実験結果のフィッティングを行った結果を示している。従来型セルでは、A=0より並行ビーム成分の寄与が全く無く、nが“low”の領域の中で最も小さいことから、従来型セルの場合、セルの広い開口径に従って広範囲に拡散していることがわかる。一方、蒸着セルの各キャピラリ径における蒸着速度依存性は、d=0.25,0.50,1.00mmのいずれにおいても、成膜速度が“low”の範囲では、Aの値が十分に小さい。すなわち、成分(II)の寄与が大きく、広範囲に拡散した放出角度分布をとっている。
一方、成膜速度が“mid”の条件では、それぞれAの値が大きくなっていることから、成分(I)の寄与が大きくなっており、より並行ビームに近づいていることが確認された。このような変化は、キャピラリ内での圧力勾配の発生による並行ビーム化が起きたことを示している。また、この条件下では、キャピラリ径dが小さくなるほどAが大きくなっていることも特徴であり、キャピラリ径が小さいほど成膜速度の変化に対して、より大きく放出角度分布が変化することが確認できた。
図7は、成膜速度が“high”における粘性流領域からの等方的散乱のモデルを示している。成膜速度が“high”の条件では、逆に全ての径においてAの値が小さくなり、拡散した放出角度分布をとることがわかる。最も成膜速度が速かったキャピラリ径1.00mmの成膜速度“high”の結果から、Aの寄与がなくなった後、成膜速度が高いほどcosθの関数がn=1に近づき、75°までの角度に等方的に拡散していく傾向が確認された。最も開口径が大きい従来のセルの結果のnが十分に大きいことを考えると、これはキャピラリの内壁から分子が拡散する形とは全く異なり、粘性流領域からの等方的散乱を反映しているものと言える。
図8は、キャピラリ構造を備えていないセルと本実施例の蒸着セル(成膜速度“low”,“mid”,“high”の3つの領域)の射出イメージを示している。図8(1)がキャピラリ構造を備えた蒸着セルの射出イメージを示しており、図8(2)がキャピラリ構造ではないセルの射出イメージを示している。キャピラリ構造ではないセルの射出イメージは、キャピラリ構造を備えた蒸着セルの成膜速度が“high”の射出イメージと似ている。
図9は、本実施例の蒸着セルの3つの成膜速度における気体分子の射出の概念図を纏めたものである。また、図10は、本実施例の蒸着セルにおける分子流領域と粘性流領域の遷移図を示している。図10に示すように、圧力が高くなると、蒸着セルの気体分子の放出が分子流領域から粘性流領域に変化する。成膜速度が“low”の場合、圧力が低いために、蒸着セル1の内部、キャピラリ3の内部、キャピラリ3から出射して蒸着セル1の外部に出るところのいずれにおいても分子流領域である。また、成膜速度が“high”の場合、圧力が高いために、蒸着セル1の内部及びキャピラリ3の内部では、粘性流領域になっており、キャピラリ3から出射して蒸着セル1の外部に出た後で、粘性流領域から分子流領域に変化している。そして、成膜速度が“mid”の場合、蒸着セル1の内部は粘性流領域で、キャピラリ3の内部は粘性流領域から分子流領域にちょうど遷移し、キャピラリ3から出射して蒸着セル1の外部に出た後は分子流領域になっている。
実施例1では、キャピラリ内部に圧力勾配を作り出すことにより、キャピラリから高い指向性を持った並行ビーム状の気体分子を放出でき、それによって成膜速度を従来の数倍に改善できることを示した。
実施例2では、実施例1の蒸着セルを用いて、キャピラリ径と成膜速度を変化させた条件で、ペンタセン薄膜を形成し、薄膜表面状態の変化や、有機薄膜トランジスタ(OTFT)の特性の変化について、キャピラリの放出角度分布と照らし合わせて説明を行う。
先ず、有機薄膜トランジスタを作製した。図11に作製した有機薄膜トランジスタの構造模式図を示す。膜厚190nmのSiO熱酸化膜付き高ドープn型Siウェハ(抵抗率<0.02Ωcm)をゲート絶縁膜及びゲート電極兼基板として使用した。有機半導体層成膜前にHMDS(Hexamethyldisilazane)によってゲート絶縁膜の表面処理を行った。この表面処理によって、大気中で基板表面に付着した水酸基(シラノール基)を覆い疎水性を向上させ、活性層成膜前に水を主成分とする不純物の付着を抑えることができる。
HMDSによるゲート絶縁膜の表面処理には、蒸着分子の密着性を向上させ、結晶生成を促し、トランジスタを作製した際にはON/OFF比や移動度を向上させる作用がある。表面処理は浸漬法を用いて行った。窒素で満たされたグローブバック中で、洗浄後の基板を、トルエンを用いて10%に希釈したHMDS溶液中に2時間浸漬した。浸漬後は、基板をトルエンでリンスした後、基板表面に残ったHMDS分子を完全に取り除くためにアセトン中で10分間の超音波洗浄を行った。
洗浄した基板を2枚のホルダにセットして蒸着チャンバーに入れ、真空度2.0×10−4(Pa)まで排気した後、蒸着セルを200℃に加熱させて十分に時間を置いた。その後、各成膜条件に合わせて、真空度が極端に悪くならないよう確認しながら目標成膜速度までセルを逐次的に加熱し、蒸着速度を十分に安定させ、直径10mmの範囲に約30nmの膜厚で成膜した。また、成膜中は膜厚の不均一性を無くすため、15rpmの速さで基板を回転させた。成膜後、基板と蒸着セルが昇華温度より十分に冷えたことを確認した後、基板を真空チャンバーから取り出し、金属電極作製用のホルダとNiマスクパターンに設置した。基板をセットし、1.0オングストローム/秒でAuを30nm真空蒸着し、ソース−ドレイン電極パターンを形成した。ソース−ドレイン電極は、チャネル長が100μm、チャネル幅が5mmである。
図12に、キャピラリ径と成膜速度を変化させて作製したペンタセン薄膜の表面高さ像を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察した結果を示す。AFM像は全て、探針と試料を間欠的に接触させながらスキャンするタッピングモードによって測定しており、スキャン範囲は5μm×5μmである。それぞれのAFM像の右上に示した値は、それぞれペンタセン薄膜を蒸着した際の成膜速度と、平均結晶ドメインサイズ(以下、単にドメインサイズと呼ぶ)を示している。
ビーム状の放出分布となるような成長条件では、基板内で薄膜成長にムラが生じることが懸念されるが、最も分布が鋭くなるキャピラリ径0.25mm、成膜速度が“mid”の条件で成長した薄膜において、ピラミッド状のグレインが敷き詰められており、画像の範囲内において、ドメインサイズにムラはなく、均一な膜が成長していることが確認できた。また、成膜速度ごとの結晶生成の相関をみると、どの径においても成膜速度が上昇するほど、ドメインサイズが小さくなっていた。
これに関して、気相成長の標準的なモデルであるBCF(Burton,Cabrera,Frank)モデルでは、蒸発分子が基板で結晶として成長するまでのプロセスについて、(a)蒸着分子の入射と蒸発、(b)表面拡散、(c)結晶核発生と成長の3段階に分けて考えると、不純物や凹凸のない基板を想定した場合、蒸着分子は原子スケールでのフラットな結晶面であるファセットや、微斜面上での結晶化するような層成長の状態となり、結晶核の発生も熱揺らぎを由来とした均一核形成によるものとなる。
最終的に成長した結晶同士が衝突して基板の蒸着範囲を覆うと、単位面積当たりに存在するグレインが多くなる。またそれに伴い、一つ一つの結晶グレイン、またドメインのサイズが小さくなる。よって、成膜速度が速くなるほど、ドメインサイズは小さくなる。
図13は、キャピラリ径と成膜速度変化によるOTFTの伝達特性の変化を示している。成膜速度が“high”の領域において、成膜速度が従来の真空蒸着法に対して30倍以上、最大で約42倍の速度でペンタセン薄膜を成膜しても、OTFTとして動作しており、移動度も0.174cm/Vsと比較的高い値が得られた。活性層膜厚30nmのこの素子において活性層成膜の所要時間は約10秒と非常に早く成膜できた。
次に、キャピラリ径ごとの移動度と成膜速度の相関について説明する。図14は、キャピラリ径ごとの移動度およびドメインサイズと成膜速度の関係図を示している。図14に示されるように、キャピラリ径が大きいd=1.00 mm,0.50 mmでは、成膜速度を上げていくと移動度とドメインサイズが共に低下し、その傾向はキャピラリ径の小さい0.50mmの方が小さかった。また、最もキャピラリ径が小さいd=0.25 mmでは全般に移動度が低いものの、ドメインサイズが低下しているにもかかわらず、移動度がほとんど低下することなく、成膜速度“mid”においては微増した。
図15は、キャピラリ径ごとの成膜速度と移動度の関係図を示している。キャピラリ径0.25mmの時のみ、移動度が成膜速度に対して反比例しないことから、キャリア輸送障壁高さがドメインサイズとともに低下していることが推測される。また、キャピラリ径0.25mmの時のみ、高速分子線の状態でドメインサイズが減少したにもかかわらず、移動度が最大になっており、結晶配向性向上に伴い、ドメイン内部のキャリア移動度が向上していることが推測される。
図16は、並行ビーム成分と移動度の関係を示している。図16に示すように、膜厚分布測定における並行ビーム成分Aと、その条件のときに作成されたOTFTの移動度を比較すると、キャピラリ径が小さくなるほど、成膜速度“low”(0.25,0.50,1.00の何れの径もグラフ上側)と成膜速度“mid”(並行ビーム状態)の差が小さく、全体的な変化が少ないといった結果になった。この結果から、本実施例の蒸着セルによる圧力勾配をもって射出された蒸着分子は、従来型セルによって蒸着されたものよりも高い運動エネルギーを持ってターゲット基板に到達したことで、基板温度を昇温することと同等の効果が得られ、より結晶性の高い結晶を生成した可能性があると言える。
上述の実施例2では、基板を蒸着チャンバーに入れ、成膜中は膜厚の不均一性を無くすため、15rpmの速さで基板を回転させながら蒸着セルを加熱させ、蒸着速度を十分に安定させ、直径10mmの範囲に約30nmの膜厚で成膜した。
実施例3では、基板の回転を止めて、回転によって基板に間欠的に与えられていたフラックスを定常的に与えるようにし成膜し、また、蒸着セルと基板の間の距離を小さくしフラックスを増やして、高指向性条件で蒸着させて成膜した。すなわち、より高速分子線効果を大きくするような条件で成膜を行った。そして、実施例2と同様のサイズの有機薄膜トランジスタを作製し特性比較を行った。キャピラリの直径dが0.25mmの蒸着セルを用いて、実施例2における成膜速度“mid”と同じ条件で成膜を行った結果を示す。
通常、成膜速度を低く、基板温度を高くするとドメインは大きく成長し、反対に、成膜速度を高く、基板温度を低くするとドメインは成長し難いと言う傾向がある。しかしながら、図17では、基板温度に差異がなく、実質的に成膜速度が高くなっている(実施例2と比較したとき、同じ成膜条件“mid”であっても、蒸着セルと基板の間の距離が近づいたことから、成膜速度が5.71オングストローム/秒となっており高くなっている)にも関わらず、ドメインサイズが低下しないといった結果が得られた。すなわち、並行ビーム化の傾向が大きかった径dが0.25mmに着目し、入射フラックスの大きい条件で蒸着すると、ドメインサイズが低下しなかったのである。ここで、ドメインサイズが低下しないということは、基板の加熱に近い効果と言える。
図18は、作製したペンタセン薄膜の表面高さ像のAFM画像を示している。図19は、移動度およびドメインサイズと成膜速度の関係を、図20は、成膜速度と移動度の関係を示している。成膜されたもので薄膜トランジスタを作製すると、ほぼ同じようなドメインサイズの基板と比較して、また、実施例2と比較しても、移動度が大幅に向上するといった結果を得た。このことは、ドメインサイズの向上で移動度が向上するといった基板加熱による効果とは異なる傾向である。
実施例4では、同一形状、同一サイズの複数のキャピラリ構造が一次元的に等間隔に配置された蒸着セルについて説明する。実施例3の蒸着セルは、産業的に大面積デバイスに適用するためを目的とする。
図21は、一次元的に配置されたマルチキャピラリ構造を備えた蒸着セルの構造図を示している。図17において、(1)は蒸着セルの上面、(2)は蒸着セルの長辺方向断面、(3)は蒸着セルの短辺方向断面を示している。同一形状、同一サイズの複数の円筒状のキャピラリ3が、1つの蒸着セル41の上面に5つ設けられている。キャピラリ3は成膜条件下での放出角度分布を考慮して等間隔に設計されている。このような条件においては、それぞれのキャピラリの放出角度分布が同じであることが保証されているため、蒸着範囲から離れた点にフラックスモニタリング用のキャピラリ3mを設置することで、単一のフラックスモニタで成膜量を観測できることになる。
上述の通り、実施例2や実施例3の蒸着セルの場合、従来型セルでは達成できなかった高成膜速度で安定に蒸着することができた。ペンタセン分子を蒸着レート26.5オングストローム/秒という従来の25倍以上の速度で蒸着することに成功し、さらに成膜された薄膜を用いて作製した電界効果トランジスタの動作を確認し、成膜時の基板温度を昇温していないにもかかわらず、約0.2cm/Vsほどの実用的なキャリア移動度を確認できた。また、この作製条件において、例えば有機トランジスタの活性層成膜に必要な時間は、わずか7秒であった。
このような成膜速度は、従来型セルと基板の間の距離が長い装置をそのまま利用した場合の値であり、実施例3のように、多数のキャピラリを有する走査型の蒸着セルを基板により近接させて配置する場合、この数十倍の成膜速度とすることも可能であろう。
さらに、このような高い成膜速度では、単位時間あたりに基板に入射する分子線密度が高くなることから、相対的に成膜室内残留ガスを膜に取り込む割合が小さくなる。従って、従来よりも2桁程度低い真空度の装置で同等の不純物量の膜を成膜することが可能となり、装置コストを低減する効果が期待できる。
本発明は、有機ELディスプレイ、有機トランジスタ回路、有機太陽電池などの大面積有機半導体デバイスの作製などに有用である。
1,41 蒸着セル
2 上蓋
3 キャピラリ
4 蒸着材料
5 ドーム状ホルダ
6 膜厚センサ
7 ガラス基板
11 セル内壁
12 ヒータ
31 入射口
32 出射口

Claims (19)

  1. 昇華性の材料を真空蒸着法によって基板上に薄膜を作製する方法において、
    蒸着源となる蒸着セルには、直径0.1〜1mmのキャピラリ構造の少なくとも1つの放出口が用いられ、
    前記蒸着セル内前記材料を蒸発させて気体分子同士の衝突が支配的な粘性流状態となるまで圧力を高め、前記キャピラリ内部の入射側と出射側に圧力差があり、前記入射側の粘性流状態から前記出射側の分子流状態に遷移する圧力勾配が生じる材料蒸気圧に調整され、ビーム状分子線のような材料分子を前記放出口から射出することを特徴とする薄膜作製方法。
  2. 前記蒸着セルにおいて、少なくとも前記蒸着セルの内壁と前記キャピラリの内壁に、熱伝導性材料が被覆されたことを特徴とする請求項に記載の薄膜作製方法。
  3. 前記熱伝導性材料が金属であり、
    前記熱伝導性材料の表面には、前記材料に対して不活性なコート剤が被覆されたことを特徴とする請求項に記載の薄膜作製方法。
  4. 前記キャピラリの内径に対する長さが2倍以上である請求項1〜の何れかに記載の薄膜作製方法。
  5. 前記キャピラリ内の空間は、少なくとも分子流状態となる部分が直線状であることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の薄膜作製方法。
  6. 前記キャピラリ内の空間形状は、円柱、楕円柱、多角柱、円錐台、楕円錐台、又は、多角錐台、若しくは、それらを組み合わせた形状であることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の薄膜作製方法。
  7. 前記蒸着セルは、同一形状、同一サイズの複数の前記キャピラリ構造を備え、複数の前記キャピラリは、一次元的あるいは二次元的に等間隔に配置されたことを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の薄膜作製方法。
  8. 同一形状、同一サイズの前記キャピラリ構造を有する複数の前記蒸着セルが、一次元的あるいは二次元的に等間隔に配置されたことを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の薄膜作製方法。
  9. 前記キャピラリの中心間距離と、基板と前記キャピラリの放出口との距離と、前記材料蒸気圧による前記材料の放出角度分布とから、薄膜の膜厚分布が制御されることを特徴とする請求項又はに記載の薄膜作製方法。
  10. 前記蒸着セル毎に、前記キャピラリ構造と同一形状、同一サイズのフラックスモニタリング用キャピラリが設けられたことを特徴とする請求項又はに記載の薄膜作製方法。
  11. 昇華性の材料を真空蒸着法によって基板上に薄膜を作製するために用いられる蒸着セルにおいて、
    前記蒸着セルは、直径0.1〜1mmのキャピラリ構造の少なくとも1つの放出口を備え、
    前記蒸着セル内で、前記材料を蒸発させて気体分子同士の衝突が支配的な粘性流状態となるまで圧力を高め、前記キャピラリ内部に、入射側が粘性流状態、出射側が分子流状態となるような圧力勾配が生じる材料蒸気圧にセル内圧力が調整された場合に、ビーム状分子線のような材料分子を前記放出口から射出することを特徴とする蒸着セル。
  12. 前記蒸着セルにおいて、少なくとも前記蒸着セルの内壁と前記キャピラリの内壁に、熱伝導性材料が被覆されたことを特徴とする請求項11に記載の蒸着セル。
  13. 前記熱伝導性材料が金属であり、
    前記熱伝導性材料の表面には、前記材料に対して不活性なコート剤が被覆されたことを特徴とする請求項12に記載の蒸着セル。
  14. 前記キャピラリの内径に対する長さが2倍以上である請求項1113の何れかに記載の蒸着セル。
  15. 前記キャピラリ内の空間は、少なくとも分子流状態となる部分が直線状であることを特徴とする請求項1114の何れかに記載の蒸着セル。
  16. 前記キャピラリ内の空間形状は、円柱、楕円柱、多角柱、円錐台、楕円錐台、又は、多角錐台、若しくは、それらを組み合わせた形状であることを特徴とする請求項1114の何れかに記載の蒸着セル。
  17. 材料を真空蒸着法によって基板上に薄膜を作製する装置において、
    請求項1116の何れかの蒸着セルが、同一形状、同一サイズの複数の前記キャピラリ構造を備え、複数の前記キャピラリが一次元的あるいは二次元的に等間隔に配置されたことを特徴とする薄膜作製装置。
  18. 材料を真空蒸着法によって基板上に薄膜を作製する装置において、
    請求項1116の何れかの蒸着セルが、一次元的あるいは二次元的に等間隔に複数配置されたことを特徴とする薄膜作製装置。
  19. 前記蒸着セル毎に、前記キャピラリ構造と同一形状、同一サイズのフラックスモニタリング用キャピラリが設けられたことを特徴とする請求項17又は18に記載の薄膜作製装置。
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