JP6510816B2 - スラストころ軸受の保持器、およびその製造方法 - Google Patents

スラストころ軸受の保持器、およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、スラストころ軸受の保持器(以下、単に「保持器」という場合がある)、およびその製造方法に関するものであり、特に、プレスを用いて製造されるスラストころ軸受の保持器、およびその製造方法に関するものである。
例えば、自動車用の自動変速機、カーエアコン用コンプレッサ等においてスラスト荷重が負荷される箇所には、スラスト荷重を受けるスラストころ軸受が配置される場合がある。このようなスラストころ軸受は、低燃費化、および省力化の観点から、軸受の回転トルクの低減が望まれている。スラストころ軸受は、回転軸方向に配置される軌道輪と、軌道輪の軌道面上を転動する複数の針状ころと、複数の針状ころを保持する保持器とを備える。保持器は、鋼板を折り曲げた後、ころを収容するポケット抜きを行って製造される場合がある。
このようなスラストころ軸受に備えられる保持器に関する技術が、例えば特開平10−220482号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1のスラストころ軸受用保持器は、もみ抜きあるいは打ち抜き等されてなる環状本体と、この環状本体の外径側に設けられている凸部とで構成され、凸部は環状本体の折り返された外径側の端面における各ポケットに位置する部位を、内径方向へと突出してころの中心付近にその先端が対向するように突設されている。
特開平10−220482号公報
回転トルクを小さくするためには、上記特許文献1において、凸部の先端は、ころの外周側端面の中心付近に接触することが望ましい。しかしながら、上記特許文献1では、凸部の先端の位置が所望の位置からずれることがあり、回転トルクの低減が十分でない場合があった。
そこで、本発明は、回転トルクを低減するスラストころ軸受の保持器およびその製造方法を提供することを課題とする。
上記特許文献1において凸部の先端がころの外径側端面の中心に接触しないことは、環状本体の折返し位置から外径側の領域が小さいため、つまり、折り曲げ高さが低いため、環状本体を折り返しにくいので、折返し位置が所望の位置からずれることに起因していることを本発明者は見出した。そこで、本発明者は、環状本体を折り返す位置精度を高め、かつ環状本体を容易に折り返す手段について鋭意研究した結果、本発明を完成させた。
すなわち、本発明のスラストころ軸受の保持器は、スラストころ軸受に備えられ、ころを収容するポケットが複数設けられているスラストころ軸受の保持器であって、ポケットよりも外径側に設けられた環状の溝を折り曲げ起点として内径側に折り曲げて形成された外径領域折り曲げ部と、ポケットのそれぞれに整列した位置で外径領域折り曲げ部の先端に設けられ、ポケットに収容されたころの端面に接触するようにポケットの外径側の端縁から内径側に突出する突出部とを備え、折り曲げ起点には、溝の痕跡が残っている。
本発明のスラストころ軸受の保持器の製造方法は、スラストころ軸受に備えられ、ころを収容するポケットが複数設けられているスラストころ軸受の保持器の製造方法であって、以下の工程を備えている。保持器となる保持器素材を準備する。保持器素材に対して、ポケットに収容されたころの端面に接触するようにポケットの外径側の端縁から内径側に突出する突出部となる部分を有する外形形状を形成する。保持器素材に対して、ポケットを形成する。保持器素材に対して、ポケットよりも外径側に環状の溝を形成する。溝を折り曲げ起点として、保持器素材においてポケットよりも外径側に位置する領域を内径側に折り曲げて、外径領域折り曲げ部を形成する。
本発明のスラストころ軸受の保持器およびその製造方法によれば、ポケットよりも外側に設けられた環状の溝を折り曲げ起点として内径側に折り曲げることにより、外径領域折り曲げ部を形成している。このため、環状の溝が折返し位置となるので、折返し位置がずれることを防止できる。また、折り曲げ高さが低くても、環状の溝により折り曲げやすくなる。したがって、環状の溝により、外径領域折り曲げ部の位置精度を高め、かつ容易に折り返すことができるので、外径領域折り曲げ部の先端に設けられた突出部を、ころの外径側端面の中心付近に接触させることができるため、回転トルクを低減することができる。
本発明のスラストころ軸受の保持器において好ましくは、突出部のうち、ころの端面と接触する領域は、面押し加工されている。
本発明のスラストころ軸受の保持器の製造方法において好ましくは、突出部のうち、ころの端面と接触する領域に面押し加工を行う工程をさらに備えている。
これにより、突出部のうち、ころ端面と接触する領域は、面押し加工されているため、軸受の回転時において、ころ端面と突出部のうちのころ端面と接触する領域との摺動により油膜が途切れることを軽減することができる。そうすると、この接触領域の潤滑性が向上し、ころのいわゆる保持器の突出部への攻撃性を緩和することができる。したがって、このようなスラストころ軸受の保持器は、軸受の回転トルクをさらに低減できる。
なお、上記「面押し加工」とは、外径領域折り曲げ部を形成する工程の際に、倒れ込み量を規制するためのストッパー的な役割を果たす金型の外径面を利用して、突出部を拡径方向に加圧することで、加工前後の表面の粗さ形状を平滑化する加工を意味する。具体的には、外形形状を形成する工程時に形成された、プレスせん断面または破断面が、面押し加工によって算術平均粗さRa(JIS B 0601)が2μm以下程度にまで平滑化できる。
本発明のスラストころ軸受の保持器およびその製造方法によれば、回転トルクを低減できる。
この発明の一実施形態に係るスラストころ軸受の保持器の一部を示す図である。 図1に示すスラストころ軸受の保持器の断面図である。 図2に示すスラストころ軸受の保持器の一部を示す拡大断面図である。 この発明の一実施形態に係るスラストころ軸受の保持器の製造方法の代表的な工程を示すフローチャートである。 凹凸形状形成工程を行った後の保持器素材の断面図である。 パイロット穴形成工程を行った後の保持器素材の一部を拡大して示す拡大断面図である。 外形形状形成工程を行った後の保持器素材の一部を拡大して示す拡大断面図である。 ポケット形成工程を行った後の保持器素材の一部を示す図である。 ポケット形成工程を行った後の保持器素材の一部を拡大して示す拡大断面図である。 外径領域折り曲げ工程の途中段階の保持器素材の一部を拡大して示す拡大断面図である。 外径領域折り曲げ工程を行う状態を示す拡大断面図である。 外径領域折り曲げ工程を行う状態を示す拡大断面図である。 外径領域折り曲げ工程を行った後の保持器素材の一部を拡大して示す拡大断面図である。 外径領域折り曲げ工程を行った後の保持器素材の一部を拡大して示す拡大断面図である。 外径領域折り曲げ工程を実施する状態を示す拡大断面図である。 面押し加工工程を行う状態を示す拡大断面図である。 面押し加工工程を行った後の外径領域折り曲げ部の先端部を拡大して示す拡大断面図である。 この発明の他の実施形態に係るスラストころ軸受の保持器の一部を示す断面図である。 この発明のさらに他の実施形態に係るスラストころ軸受の保持器の一部を示す図である。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
図1は、この発明の一実施形態に係るスラストころ軸受の保持器11の一部を示す図である。図1は、保持器11を保持器11の回転軸方向から見た図である。図2は、図1に示すスラストころ軸受の保持器11の断面図である。図2は、図1中のII−IIで示す断面で切断した場合である。具体的には、図2の右側領域において、後述するポケットが形成されている部分の断面を示し、図2の左側領域において、後述する柱部が形成されている部分の断面を示している。図3は、図2に示すスラストころ軸受の保持器11の一部を示す拡大断面図である。図3は、図2中のIIIで示す領域の拡大断面図である。なお、図2および図3において、保持器11の回転軸線12を一点鎖線で示している。また、理解の容易の観点から、図3においては、後述するポケット21に収容される針状ころ13、および保持器11の回転軸方向の両側に配置される一対の軌道輪14、15の一部を図示している。なお、図1における紙面表裏方向、図2および図3における紙面上下方向が、保持器11の回転軸方向となる。また、図1中の矢印Aで示す方向またはその逆の方向が、周方向となる。なお、理解の容易の観点から、図2および図3中の紙面上側を、軸方向の上側とする。すなわち、図2および図3中の矢印Aで示す方向が、上方向となる。また、図2および図3における紙面左右方向が、径方向となる。図3中の矢印Aで示す方向が、外径方向となる。
図1〜図3を参照して、まず、この発明の一実施形態に係るスラストころ軸受の保持器11の構成について説明する。この発明の一実施形態に係るスラストころ軸受の保持器11は、円板状であって、その中央領域に板厚方向に真直ぐに貫通する貫通穴22が設けられている。貫通穴22には、図示しない回転軸が配置される。
保持器11は、それぞれ径の異なる一対の環状部23、24と、針状ころ13を収容するポケット21を形成するように周方向に間隔を開けて設けられ、一対の環状部23、24を連結する複数の柱部25とを備える。この場合、一部の図示は省略するが、保持器11には、28個のポケット21と28個の柱部25が設けられている。
ポケット21は、軸方向から見た場合に、略矩形状である。ポケット21は、保持器11の回転軸線12を中心に放射状に配置されている。ポケット21の側壁面には、ポケット21に収容された針状ころ13の軸方向の上側への脱落を防止する上側ころ止め部26と、ポケット21に収容された針状ころ13の軸方向の下側への脱落を防止する下側ころ止め部27、28とが設けられている。上側ころ止め部26は、ポケット21の径方向中央に設けられている。また、下側ころ止め部27は、ポケット21の内径側に設けられ、下側ころ止め部28は、ポケット21の外径側に設けられている。上側ころ止め部26、および下側ころ止め部27、28はそれぞれ、ポケット21の周方向の両側の側壁面において、ポケット21側に突出するようにして設けられている。
針状ころ13は、ポケット21内にかち込むようにして収容される。針状ころ13の端面、具体的には軸受外方側に位置する端面16および軸受内方側に位置する端面17の形状は、平らである。
保持器11には、板材を板厚方向に数回折り曲げて屈曲させた凹凸形状が形成されている。具体的には、保持器11は、径方向に延びる四つの円板部31、32、33、34と、軸方向に延びる四つの円筒部36、37、38、39とを含む。四つの円板部31〜34は、内径側から、第一の円板部31、第二の円板部32、第三の円板部33、第四の円板部34の順に、その内径が大きくなるよう構成されている。また、四つの円筒部36〜39は、内径側から第一の円筒部36、第二の円筒部37、第三の円筒部38、および第四の円筒部39の順に配置される。第一の円筒部36、および第二の円筒部37は、軸方向に真直ぐに延びるように構成されている。第三の円筒部38は、内径側部分が外径側部分よりも軸方向の下側に位置するように、やや傾斜して構成されている。一方、最も外径側に位置する第四の円筒部39は、内径側部分が外径側部分よりも軸方向の上側に位置するように、やや傾斜して構成されている。なお、上記した上側ころ止め部26は、第三の円板部33に設けられる。また、上記した下側ころ止め部27は、第二の円板部32に設けられ、上記した下側ころ止め部28は、第四の円板部34に設けられる。なお、上記した内径側の環状部23は、第一の円板部31、第二の円板部32の一部、第一の円筒部36、および第二の円筒部37を含む構成である。また、上記した外径側の環状部24は、第四の円板部34の一部、後述する外径領域折り曲げ部41、および後述する突出部44を含む構成である。上記した柱部25は、第二の円板部32の一部、第三の円板部33、第四の円板部34の一部、第三の円筒部38、および第四の円筒部39を含む構成である。
保持器11は、保持器11の外径側の領域を内径側に折り曲げた外径領域折り曲げ部41を含む。外径領域折り曲げ部41は、軸方向に立上った立壁部であり、環状に連なって延びるように形成されている。具体的には、外径領域折り曲げ部41は、ポケット21よりも外径側に設けられた環状の溝を折り曲げ起点として内径側に折り曲げて形成されている。この折り曲げ起点には、図3に示すように、環状の溝の痕跡29が残っている。痕跡29は、厚みの薄い部分、圧縮痕などである。
本実施の形態の外径領域折り曲げ部41は、ポケット21よりも外径側に位置する領域を内径側に斜めに折り曲げて形成されている。具体的には、外径領域折り曲げ部41は、最も外径側に配置される第四の円板部34の外径側の端部を、軸方向の上側に向けて所定の角度に折り曲げて形成される。
この外径領域折り曲げ部41の角度、すなわち、外径領域折り曲げ部41の内径側に位置する面42と第四の円板部34の上側の面43との間の角度は、図2および図3中の角度Bで示され、0°であってもよいが、鋭角であることが好ましい。
この外径領域折り曲げ部41の先端には、ポケット21のそれぞれに整列した位置で突出部44が設けられている。つまり、突出部44は、各ポケット21に整列する位置に、径方向内側に向いている。ポケット21に整列した位置とは、突出部44の外周縁が、ポケット21の外周縁と重なり合う位置である。すなわち、外径領域折り曲げ部41の内径側の端縁は、ポケット21の外径側の端縁と重なり合う。
突出部44は、ポケット21に収容されたころ13の端面16に接触するようにポケット21の外径側の端縁から内径側に突出する。つまり、各突出部44は、各ポケット21に収容されたころの端面に当接してころの径方向外側への移動を規制する。突出部44は、具体的には、外径領域折り曲げ部41の内周側縁から内径側に連なって延びる形状である。すなわち、外径領域折り曲げ部41と突出部44とは一体成形されている。
突出部44は、周方向の位置において、ポケット21の周方向の中央に、その突出部44の頂点が位置するように形成されている。具体的には、突出部44のうちの最も内径側に位置する部分である面42側の角部45(突出部44のうちの最も内径側に位置する角部45)が、ポケット21の収容された針状ころ13の端面16の中央に接触するよう設けられる。この場合の角部45は、突出部44のうちの第四の円板部34側に位置する角である。
ここで、保持器11には、三つのパイロット穴51、52が設けられている。この三つのパイロット穴51、52は、位置合わせ用の係合部となる。図1においては、パイロット穴の一つの図示を省略している。三つのパイロット穴51、52は、周方向に間隔を開けて板厚方向に真直ぐに貫通するように設けられている。三つのパイロット穴51、52はそれぞれ、丸穴状に開口されている。三つのパイロット穴51、52は、略等配に設けられており、この場合、保持器11の回転軸線12を中心として120度間隔で設けられている。このパイロット穴51、52は、具体的には、最も内径側に位置する第一の円板部31において、径方向の中央に設けられている。なお、パイロット穴51、52の直径としては、例えば、φ2.5mmや、φ3mmが選択される。
なお、このような保持器11が備えられたスラストころ軸受20は、例えば、複数の針状ころ13と、上側に位置する軌道輪14、下側に位置する軌道輪15とを備える構成である。そして、スラストころ軸受20の軸受稼働時において、ポケット21に収容された針状ころ13は、軸方向の上側に位置する軌道輪14の軌道面18、および軸方向の下側に位置する軌道輪15の軌道面19上を転動する。保持器11は、回転軸線12を中心に自転運動を行う。また、ポケット21に収容された各針状ころ13はそれぞれ、自転運動を行いながら公転運動を行う。ここで、針状ころ13には、外径側への遠心力が働く。そして、針状ころ13の端面16の中央は、保持器11に設けられた突出部44、具体的には、保持器11に設けられた突出部44の最も内径側に位置する角部45とすべり接触する。すなわち、突出部44のうちのこの角部45が、針状ころ13の端面16と接触する領域となる。
ここで、角部45は、面押し加工されている。この面押し加工により、角部45は、鋭利に尖った部分を有さず、角部45を構成する面と滑らかに連なることとなる。このため、角部45が接触する相手側の部材への攻撃性が緩和される。
次に、この発明の一実施形態に係るスラストころ軸受の保持器11の製造方法について、説明する。スラストころ軸受の保持器11の製造については、トランスファープレスを用いて行う。トランスファープレスは、装置構成がさほど複雑ではなく、比較的安価なプレス装置である。図4は、この発明の一実施形態に係るスラストころ軸受の保持器11の製造方法の代表的な工程を示すフローチャートである。
図4を参照して、まず、後に保持器11となる保持器素材を準備する(保持器素材準備工程:ステップS1)。この保持器素材としては、例えば、薄い平板状の鋼板が用いられる。ここで、保持器素材としては、後の外形形状形成工程(ステップS4)において、最終的な保持器の外形形状を形成するため、この段階においては、略矩形状に切断された板材であってもよいし、円板状の板材であってもよい。
次に、このような保持器素材に対し、板厚方向に凹凸形状を形成する(凹凸形状形成工程:ステップS2)。これにより、薄板状の保持器11であっても、保持器11の回転軸方向の長さ寸法を大きく確保することができ、ころを適切に保持することができる。
この工程では、具体的には、保持器素材に対して、絞り加工を施すことにより行う。この場合、凹凸形状をより効率的に形成することができる。図5は、凹凸形状形成工程を行った後の保持器素材の断面図である。図5に示す断面は、図2に示す断面に相当する。具体的には、図5を参照して、平板状の保持器素材56に対し、絞り加工を行って、第一〜第四の円板部61〜64、および第一〜第四の円筒部66〜69を形成する。そして、中央に板厚方向に貫通する丸穴状の貫通穴57を設ける。すなわち、この場合、保持器素材56は、軸方向に複数回屈曲させたいわゆる山谷形状を有することとなる。
次に、係合部としてのパイロット穴を形成する(パイロット穴形成工程:ステップS3)。図6は、パイロット穴形成工程を行った後の保持器素材56の一部を拡大して示す拡大断面図である。図6に示す断面は、図2における領域VIに示す部分に相当する。係合部としてのパイロット穴71は、第一の円板部61の径方向の中央において、板厚方向に真直ぐに貫通するように設けられる。パイロット穴71は、周方向に120度の間隔を開けて略等配に合計三つ設けられる。
その後、保持器素材56の外形形状を形成する(外形形状形成工程:ステップS4)。図7は、外形形状形成工程を行った後の保持器素材56の一部を拡大して示す拡大断面図である。図7に示す断面は、図2における領域VIに示す部分に相当し、図8中のVII−VIIで示す断面で切断した場合である。この場合、具体的には、後で実施する外径領域折り曲げ工程(ステップS7)等によって最終的な保持器11の外形形状となるように、保持器素材56を板厚方向に真直ぐに打ち抜くようにして形成する。この場合、保持器素材56の外形形状を比較的容易に、かつ、精度よく形成することができる。このようにして、保持器11の外径側の端部72、具体的には、第四の円板部64の外径側の端部72が形成される。
ここで、外形形状を形成する際に、後に突出部70となる部分を形成するようにして、保持器素材56を打ち抜く。すなわち、この場合、外形形状形成工程は、突出部を形成する突出部形成工程でもある。図8は、外形形状形成工程の後に行われるポケット形成工程を行った後の保持器素材56の一部を示す図である。図8は、図1に対応する。突出部70を形成するよう打ち抜く際には、複数のパイロット穴71を利用して、周方向の位置決めを行う。具体的には、先端が尖っており、テーパ状に徐々にその径を大きくしていくいわゆる鉛筆形状の位置決め治具となるガイドピン(図示せず)を複数準備し、複数のパイロット穴71に板厚方向の一方側から、それぞれ徐々に挿入する。そして、複数のガイドピンにより位置決めを行って、突出部70の位置、形状等を考慮して、全体の外形形状を打ち抜く打ち抜き装置(図示せず)により打ち抜く。こうすることにより、多少、打ち抜き装置と保持器素材56との位置が正確に突出部70を設ける位置からずれていたとしても、先端が尖った鉛筆形状のガイドピンがパイロット穴71に徐々に挿入されていく過程において、打ち抜き装置との位置関係について、突出部70を設けるべき正しい位置に保持器素材56を戻して、打ち抜きを行うことができる。この場合、三つのパイロット穴71が設けられているため、位置決めを行う際に保持器素材56の回転等を防止して、より確実な位置決めを行うことができる。
次に、ポケットを形成する(ポケット形成工程:ステップS5)。図9は、ポケット形成工程を行った後の保持器素材の一部を拡大して示す拡大断面図である。図9に示す断面は、図2における領域IIIに示す部分に相当し、図8中のIX−IXで示す断面で切断した場合である。この場合、ポケット73は、第二の円板部62の一部、第三の円板部63、第四の円板部64の一部に亘り、かつ、第三の円筒部68、および第四の円筒部69に亘って、保持器素材56を板厚方向に真直ぐに貫通するようにポケット抜きして形成される。ここでは、図9中の図示はしないが、ポケット73の周方向の内側に突出する形状の上側ころ止め部、下側ころ止め部も同時に形成される。すなわち、上側ころ止め部および下側ころ止め部の形状を考慮した上で、ポケット73に収容される針状ころ13の外形形状に沿って、ポケット抜きを行う。ポケット抜きによってポケット73を複数同時に形成することにしてもよいし、ポケット73を一つずつ形成することにしてもよい。
ここで、保持器素材56にポケット73を形成するに際しても、ポケット抜きを行う打ち抜き装置(図示せず)と打ち抜かれる保持器素材56との位置合わせは、パイロット穴71を用いて行う。すなわち、パイロット穴71が設けられた位置を基準として、ポケット73を形成する。この場合も、上記した外形形状形成工程と同様に、複数のパイロット穴71を利用して、周方向の位置決めを行う。具体的には、上記と同様に、尖った鉛筆形状の位置決め治具としてのガイドピンを複数準備し、複数のパイロット穴71に板厚方向の一方側から先端を徐々に挿入させる。そして、複数のガイドピンにより位置決めを行って、ポケット73の位置、形状等を考慮して、打ち抜き装置によりポケット73を打ち抜く。こうすることにより、設けられるポケット73と突出部70との周方向の位相を揃えて、形成されるポケット73と形成される突出部70との位置関係を適切にすることができる。このため、形成される突出部70と形成されるポケット73との位置関係において、突出部70を精度よく効率的に形成することができるとともに、適切な箇所に精度よく突出部44(図3参照)が形成されているため、軸受稼働時において針状ころ13の端面16と突出部44とを適切に接触させることができる。なお、複数のポケット73を同時に打ち抜いて形成してもよいし、一つずつポケット73を打ち抜いて形成してもよい。
本実施の形態では、ポケット73よりも内径側の領域にパイロット穴71を形成している。この場合、保持器11の有するスペースを有効に利用して、パイロット穴71を形成することができる。
また、本実施の形態では、周方向において、ポケット73が設けられる箇所を避けた位置にパイロット穴71を形成している。この場合、保持器11の周方向において、局部的な強度の低下を回避することができる。なお、パイロット穴71との位置関係については、任意に定められる。この場合においては、具体的には、隣り合うポケット73同士の周方向の中央に対応する位置にパイロット穴71が配置されるようにして、複数のポケット73が形成されている。
次に、図8および図9に示すように、保持器素材に対して、ポケット73よりも外径側に環状の溝79を形成する(溝形成工程:ステップS6)。この工程(ステップS6)では、後述する外径領域折り曲げ工程(ステップS7)において、外径領域折り曲げ部41を形成するために折り曲げ起点となる位置に、環状の溝79を形成する。溝79の形成方法は特に限定されず、プレス加工、切削加工などが採用され、リング状の楔でプレスすることが好ましい。溝79の形状は特に限定されず、溝底は尖っていてもよく、曲面であってもよい。なお、ステップS4〜S6の順序は特に限定されない。
次に、溝79を折り曲げ起点として、保持器素材56においてポケット73よりも外径側に位置する領域を内径側に折り曲げて、外径領域折り曲げ部を形成する(外径領域折り曲げ工程)(ステップS7)。この工程では、溝79を折り曲げ起点としているため、曲げ位置がコントロールしやすいので、位置精度を高めて、保持器素材56の外径側の領域を容易に内側に折り曲げることができる。この工程では、鋭角の傾斜角度で内径側に斜めに折り曲げて、外径領域折り曲げ部を形成することが好ましい。
図10は、外径領域折り曲げ工程の途中段階の保持器素材の一部を拡大して示す拡大断面図である。図11および図12は、外径領域折り曲げ工程を実施する状態を示す拡大断面図である。図13および図14は、外径領域折り曲げ工程を行った後の保持器素材56の一部を拡大して示す拡大断面図である。図10および図13に示す断面は、図2における領域VIに示す部分に相当する。図14に示す断面は、図2における領域IIIに示す部分に相当する。図11および図12に示す断面は、保持器素材56において図2における領域VIに示す部分に相当する箇所のさらに外径側の領域と、保持部材101、102および押圧部材103との位置関係を示す。ここでは、図10に示すように、溝79を折り曲げ起点として、環状に延びる保持器素材56の外径側の端部72を全域に亘って一旦、板厚方向に真直ぐとなるよう折り曲げる。すなわち、外径領域折り曲げ部74の内径側に位置する面75と第四の円板部64の上側の面76との間の角度Bは、おおよそ直角である。直角に折り曲げる方法は特に限定されないが、例えば、以下のように行う。図11に示すように、保持器素材56において第四の円板部64の外径側の領域を除く領域を保持部材101、102で上下方向に挟み込んで保持し、第四の円板部64の外径側の領域の下に押圧部材103を配置する。次いで、図12に示すように、押圧部材103を上に押し上げることにより、外径側領域折り曲げ部74が第四の円板部64に対して直角になるように折り曲げることができる。
その後、図13および図14に示すように、外径側領域折り曲げ部74を内径側に向かって折り曲げて、外径領域折り曲げ部74を形成する。この工程を実施することにより、図13および図14に示すように、折り曲げ起点の環状の溝の痕跡29が形成される。
なお、折り曲げの角度(傾斜角度)、すなわち、外径領域折り曲げ部74の内径側に位置する面75と第四の円板部64の上側の面76との間の角度は、図13および図14中の角度Bで示される。角度Bは、上記した角度Bに相当する。すなわち、角度Bと角度Bとは等しい関係にある。角度Bおよび角度Bは、鋭角であることが好ましい。
この場合、周方向の位置関係において、突出部70がポケット73の周方向の中央に設けられているため、適切な箇所に突出部70が形成されることになる。そして、環状の溝79により外径領域折り曲げ部74が所望の位置で折り曲げられているので、適切な位置に突出部70が形成されることになる。具体的には、突出部70のうち、第四の円板部64側に位置する角部77で、針状ころ13の端面16の中央と当接することになる。最後に、突出部70のうち、針状ころ13の端面16と接触する領域の面押し加工を行う。このようにして、上記した図1〜図3に示す構成のスラストころ軸受の保持器11を製造する。
なお、環状に延びる保持器素材56の外径側の端部72が板厚方向に真直ぐとなるよう折り曲げられた保持器素材56を内径側に向かって折り曲げる工程と、面押し加工を行う工程とは連続して実施してもよい。図15は、外径領域折り曲げ工程を実施する状態を示す拡大断面図である。図16は、面押し加工工程を実施する状態を示す拡大断面図である。図17は、面押し加工工程を行った後の外径領域折り曲げ部の先端を拡大して示す拡大断面図である。
具体的には、図15に示すように、外径側領域折り曲げ部74が第四の円板部64に対して直角になるように折り曲げられた保持器素材56において、外径側領域折り曲げ部74よりも内径側の領域を金型104、105で上下方向に挟み込んで保持する。このとき、上側の金型104の外径側端縁は、下側の金型105の外径側端縁よりも内径側に位置している。さらに、外径領域折り曲げ部74を上方から下方に向けて加圧する金型106を、外径領域折り曲げ部74の外径側に位置する面78に接するように配置する。金型106は、上側の金型104と突き合わされ、かつ鉛直方向に延びる内径側端面106aと、この内径側端面106aと連なり、かつ外径側に延びる水平面106bと、外径領域折り曲げ部74の外径側の面78と突き合わせられ、かつ鉛直方向に延びる内径側面106cとを備え、水平面106bと内径側面106cとの交差する部分106dは、丸(R)形状である。この状態で内径側端面106aが金型104の外径側端面104aに沿うように金型106を下方に移動すると、丸形状である部分106dに案内されて、外径領域折り曲げ部74を内径側に向かって斜めになるように折り曲げることができる。これにより、環状の溝79は、図16に示すように、プレスによる圧縮痕である痕跡29となる。
その後、図16に示すように、金型104をさらに下方に移動し、金型104の外径側端面104aで外径領域折り曲げ部74において内径側に位置する角を平滑化し、かつ金型106の水平面106bで外径領域折り曲げ部74における外径側に位置する角を平滑化する。これにより、図17に示すように、ころの端面と接触する領域が面押し加工されている突出部70を形成することができる。
以上説明したように、本実施の形態のスラストころ軸受の保持器11およびその製造方法によれば、溝形成工程(ステップS6)でポケット73よりも外側に環状の溝79を形成し、外径領域折り曲げ工程(ステップS7)において溝79を折り曲げ起点として内径側に折り曲げることにより、外径領域折り曲げ部74を形成している。このため、環状の溝79が折返し位置となるので、折り曲げ位置をコントロールできる。また、折り曲げる鍔部分が小さくても、環状の溝79により外径側の領域を折り曲げやすい。したがって、外径領域折り曲げ部の先端に設けられた突出部において、ころの中心との当接部分を正確に位置決めできるので、回転トルクを低減することができる。なお、このような保持器11には、環状の溝79の痕跡が残っている。
ここで、上記の実施の形態においては、突出部のうちの第四の円板部側に位置する角部が、ポケットに収容された針状ころの端面の中央に接触することとしたが、以下の構成としてもよい。図18は、この場合の保持器の一部を示す断面図である。図18は、図3に示す保持器の断面に相当する。
図18を参照して、この発明の他の実施形態に係るスラストころ軸受の保持器81には、外径領域折り曲げ部82のうち、ポケット85が形成された位置において、突出部83が設けられている。突出部83は、第四の円板部86側と逆の角部84において、ポケット85に収容された針状ころ13の端面16の中央に接触する構成としている。この角部84に、面押し加工が施されている。なお、このような構成とするには、外径領域折り曲げ工程において、角部84に沿う角度を持った治具を使用して加工して行うとよい。なお、図18に示す保持器81においても、外径領域折り曲げ部82の折り曲げ起点である環状の溝の痕跡89が残っている。
また、パイロット穴を設ける位置については、ポケットが設けられる位置としてもよい。すなわち、複数設けられるポケットのうちの一つを、パイロット穴としてもよい。図19は、この場合における保持器の一部を示す図である。図19を参照して、この発明のさらに他の実施形態に係るスラストころ軸受の保持器91は、複数のポケット92と、隣り合う二つのポケット92の間に位置する柱部93とを含む。そして、ポケット92とポケット92との間において、ポケット92が形成されるべき柱部94の位置に、パイロット穴95が設けられている。このパイロット穴95は、周方向に等配に設けられる複数のポケット92のうち、一つのポケット92をパイロット穴95でいわゆる代替した形状となる。
なお、上記の実施の形態においては、パイロット穴については、板厚方向に真直ぐに貫通するよう構成することとしたが、これに限らず、例えば、パイロット穴の壁面がテーパ状となるように貫通していてもよい。また、丸穴状の形状に関わらず、四角形状の穴や三角形状の穴等を採用することもできる。なお、係合部としてパイロット穴を設けることとしたが、これに限らず、係合部を他の構成、例えば、切り欠きによって構成することにしてもよい。
また、上記の実施の形態においては、凹凸形状形成工程において絞り加工を行うこととしたが、これに限らず、絞り加工以外の工程、例えば折り曲げ加工によって凹凸形状を形成することにしてもよい。
なお、上記の実施の形態においては、保持器は板厚方向に凹凸形状を形成するよう構成することとしたが、これに限らず、保持器は板厚方向に凹凸形状を有さず、いわゆる2枚板合わせの形状の保持器を用いるよう構成してもよい。
また、上記の実施の形態において、このような保持器が備えられるスラストころ軸受において、軌道輪を備えない構成としてもよい。さらには、針状ころ以外のころ、例えば、棒状ころ等を用いることにしても構わない。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
この発明に係るスラストころ軸受の保持器、およびその製造方法は、性能の良好なスラストころ軸受の保持器、およびこのようなスラストころ軸受の保持器のより効率的な製造が要求される場合において、有効に利用される。
11,81,91 保持器、12 回転軸線、13 ころ、14,15 軌道輪、16,17 端面、18,19 軌道面、20 スラストころ軸受、21,73,85,92 ポケット、22,57 貫通穴、23,24 環状部、25,93,94 柱部、26,27,28 ころ止め部、29,89 痕跡、31,32,33,34,61,62,63,64,86 円板部、36,37,38,39,66,67,68,69 円筒部、41,74,82 外径領域折り曲げ部、42,43,75,76,78 面、44,70,83 突出部、45,77,84 角部、51,52,71,95 パイロット穴、56 保持器素材、72 端部、79 溝、101,102 保持部材、103 押圧部材、104,105,106 金型、104a 外径側端面、106a 内径側端面、106b 水平面、106c 内径側面、106d 部分。

Claims (4)

  1. スラストころ軸受に備えられ、ころを収容するポケットが複数設けられているスラストころ軸受の保持器であって、
    前記ポケットよりも外径側に設けられた環状の溝を折り曲げ起点として内径側に斜めに折り曲げて形成された、環状に連なって延びる外径領域折り曲げ部と、
    前記ポケットのそれぞれに整列した位置で前記外径領域折り曲げ部の先端に設けられ、前記ポケットに収容されたころの端面に接触するように前記ポケットの外径側の端縁から内径側に突出する突出部とを備え、
    前記折り曲げ起点には、前記溝の痕跡が残っている、スラストころ軸受の保持器。
  2. 前記突出部のうち、前記ころの端面と接触する領域は、面押し加工されている、請求項1に記載のスラストころ軸受の保持器。
  3. スラストころ軸受に備えられ、ころを収容するポケットが複数設けられているスラストころ軸受の保持器の製造方法であって、
    保持器となる保持器素材を準備する工程と、
    前記保持器素材に対して、前記ポケットに収容されたころの端面に接触するように前記ポケットの外径側の端縁から内径側に突出する突出部となる部分を有する外形形状を形成する工程と、
    前記保持器素材に対して、前記ポケットを形成する工程と、
    前記保持器素材に対して、前記ポケットよりも外径側に環状の溝を形成する工程と、
    前記溝を折り曲げ起点として、前記保持器素材において前記ポケットよりも外径側に位置する領域を内径側に斜めに折り曲げて、環状に連なって延びる外径領域折り曲げ部を形成する工程とを備える、スラストころ軸受の保持器の製造方法。
  4. 前記突出部のうち、前記ころの端面と接触する領域に面押し加工を行う工程をさらに備える、請求項3に記載のスラストころ軸受の保持器の製造方法。
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