図1は、加熱調理器本体の前方斜視図である。図2は、同本体の外枠を除いた状態で後方側から見た斜視図、図3は、図1のA−A断面図である。図6は、図1のA−A断面図であって、赤外線センサの動作説明図である。
図において、加熱調理器の本体1は、加熱調理器の本体1の上面と左右側面を覆うキャビネットである外枠7を有し、外枠7の内部に形成された加熱室28に食品(被加熱物60c)を入れ、マイクロ波やヒータの熱、過熱水蒸気を使用して食品を加熱調理する。加熱室28は、被加熱物60c(図6)と、被加熱物60cを載置する容器60(図6参照)とが収納される。
ドア2は、加熱室28の内部に食品を出し入れするために開閉するもので、ドア2を閉めることで加熱室28を密閉状態にし、食品を加熱する時に使用するマイクロ波の漏洩を防止し、ヒータの熱や過熱水蒸気を封じ込め、効率良く加熱することを可能とする。
取っ手9は、ドア2に取り付けられ、ドア2の開閉を容易にするもので、手で握りやすい形状になっている。
ガラス窓3は、調理中の食品の状態が確認できるようにドア2に取り付けられており、ヒータ等の発熱による高温に耐えるガラスを使用している。
入力手段71は、ドア2の前面下側の操作パネル4に設けられている。入力手段71は、マイクロ波加熱やヒータ加熱等の加熱手段を選択し、加熱する時間等と加熱温度など加熱条件の入力するための操作部6と、操作部6から入力された内容や調理の進行状態を表示する表示部5とを含む。
入力手段71で設定する調理の加熱条件には、加熱室底面28aに置いたテーブルプレート24に載置した被加熱物60c(図6)を加熱する調理群と、受け皿111(図4)を使用し、被加熱物60cを加熱室天面28cの裏側に取り付けたグリル加熱手段12に近づけて加熱する調理群がある。具体的には、受け皿111に設けた金属脚部114(図4)をテーブルプレート24に置いて、被加熱物60cの位置を加熱室28内の高い位置で調理するものである。
水タンク42は、水蒸気を作るのに必要な水を溜めておく容器であり、加熱調理器の本体1の前面下側に設けられ、本体1の前面から着脱可能な構造とすることで給水および排水が容易にできるようになっている。
後板10は、前記したキャビネットの後面を形成するものであり、上部に外部排気ダクト18が取り付けられ、食品から排出した蒸気や本体1の内部の部品を冷却した後の冷却風(廃熱)39を外部排気ダクト18の外部排気口8から排出する。
機械室20は、加熱室底面28aと本体1の底板21との間の空間部に設けられ、底板21上には食品を加熱するためのマグネトロン33、マグネトロン33に接続された導波管47、制御手段23a(図13参照)を実装した制御基板23、その他後述する各種部品、これらの各種部品を冷却するファン装置15等が取り付けられている。
加熱室底面28aは、略中央部が凹状に窪んでおり、その中に回転アンテナ26が設置され、マグネトロン33より放射されるマイクロ波エネルギーが導波管47、回転アンテナ26の出力軸46aが貫通する開孔部47aを通して回転アンテナ26の下面に流入し、該回転アンテナ26で拡散されて加熱室28内に放射される。回転アンテナ26の出力軸46aは回転アンテナ駆動手段46に連結されている。
ファン装置15は、底板21に取り付けた冷却モータと、該冷却モータに取り付けられた冷却ファンとで構成する。このファン装置15によって発生する冷却風39は、機械室20内の自己発熱するマグネトロン33やインバータ回路(図示無し)、奥側重量センサ25c,左側重量センサ25b,右側重量センサ(図示しないが、底板21に対して左側重量センサ25bの反対側に位置する)などを冷却する。また、加熱室28の外側と外枠7の間、および熱風ケース11aと後板10の間を流れ、外枠7と後板10を冷却しながら外部排気ダクト18の外部排気口8より排出される。
さらに、熱風モータ13を冷却するためのダクト16aと、後述する赤外線ケース48内に収められた赤外線ユニット50を冷却するためのダクト16bが設けられ、赤外線ユニット50を冷却した冷却風39は、加熱室28内の排熱(水蒸気など)を廃棄する排気ダクト28eの反対側から排出された後外部排気ダクト18より外に排出される。
レンジ加熱手段330(図14参照)はマグネトロン33とインバータ回路(図示せず)を含み、制御手段23aによって制御される。レンジ加熱手段330は、加熱室28の下面より加熱室28にマイクロ波を供給する。
加熱室28の後部には、熱風ユニット11が取り付けられ、熱風ユニット11内には加熱室28内の空気を効率良く循環させる熱風ファン32が取り付けられ、加熱室奥壁面28bには空気の通り道となる熱風吸気孔31と熱風吹出し孔30が設けられている。
熱風ファン32は、熱風ケース11aの外側に取り付けられた熱風モータ13の駆動により回転し、熱風ヒータ14で循環する空気を加熱する。
また、熱風ユニット11は、加熱室奥壁面28bの後部側に熱風ケース11aを設け、加熱室奥壁面28bと熱風ケース11aとの間に熱風ファン32とその外周側に位置するように熱風ヒータ14を設け、熱風ケース11aの後側に熱風モータ13を取り付け、そのモータ軸を熱風ケース11aに設けた穴を通して熱風ファン32と連結している。
熱風モータ13は、加熱室28や熱風ヒータ14からの熱によって温度上昇するため、それを防ぐために、熱風モータカバー17によって囲い、略筒状に形成されてダクト16aを熱風ケース11aと後板10との間に位置し、ダクト16aの上端開口部を熱風モータカバー17の下面に接続し、下端開口部をファン装置15の吹出し口に接続し、ファン装置15からの冷却風39の一部を熱風モータカバー17内に取り入れるようにしている。オーブン加熱手段230は、熱風モータ13と熱風ヒータ14よりなり、制御手段23aによって制御される。
加熱室28の加熱室天面28cの裏側には、ヒータよりなるグリル加熱手段12が取り付けられている。グリル加熱手段12は、マイカ板にヒータ線を巻き付けて平面状に形成し、加熱室28の天面裏側に押し付けて固定し、加熱室28の天面を加熱して加熱室28内の食品を輻射熱によって焼くものである。グリル加熱手段12は、加熱室28の上面から位置を高くした受け皿111に載置した被加熱物60cを加熱する。
また、加熱室28の加熱室天面28cの奥側には後述する赤外線ユニット50が設けられ、赤外線ユニット50を冷却するために赤外線ケース48にて覆い、略筒状に形成されてダクト16bを熱風ケース11aと後板10との間に位置し、ダクト16bの上端開口部を赤外線ケース48の側面に接続し、下端開口部を熱風モータカバー17上面と接続し、ファン装置15からの冷却風39の一部を熱風モータカバー17内に取り入れるようにしている。
加熱室28の上方に加熱室天面28cの左奥側にはサーミスタによって加熱室28内の雰囲気室温度Qを検出する加熱室温度センサ80を設ける。
また、加熱室底面28aには、複数個の重量センサ25、例えば前側左右に左側重量センサ25b、右側重量センサ(図示無し)、後側中央に奥側重量センサ25cが設けられ、その上にテーブルプレート24が載置されている。
テーブルプレート24は、食品を載置するためのもので、ヒータ加熱とマイクロ波加熱の両方に使用できるように耐熱性を有し、かつ、マイクロ波の透過性が良い材料で成形されている。また、周囲に持ちやすくするフランジ部24b(立上壁24aを含む)を設けている。さらにフランジ部24b(立上壁24aを含む)を設ける事で、加熱時の被加熱物の出し入れ時に例えば飲み物をこぼした場合でも、汚れはテーブルプレート24に止まり後の清掃が容易である。
ボイラー43は、加熱室側面28fまたは熱風ユニット11の外側面に取り付けられ、水蒸気もしくは過熱水蒸気を加熱室28内に噴出する。
ポンプ手段87は、水タンク42の水をボイラー43まで汲み上げるもので、ポンプとポンプを駆動するモータで構成される。ボイラー43への給水量の調節はモータのON/OFFの比率で決定する。スチーム加熱手段430(図13参照)はボイラー43とポンプ手段87よりなり前記制御手段23aによって制御される。スチーム加熱手段430は被加熱物60cを水蒸気で加熱する。
加熱手段はレンジ加熱手段330、オーブン加熱手段230、グリル加熱手段12、スチーム加熱手段430などである。
制御手段23aは、入力手段71からの入力に応じて重量センサ25と赤外線センサ52と加熱室温度センサ80の検出結果から被加熱物60cの加熱時間を算出して加熱手段を制御する。
次に、図4、図5において、加熱室28にセットする容器60としての受け皿111について説明する。
図4において受け皿111は、被加熱物60c(図4)を焼く金属皿部112と、受け皿111の左右端面112eには受け皿111の高さを変えるための脚部(樹脂脚部113aと金属脚部114)と、受け皿111を加熱室28の棚(図示せず)に載せるための左右に開いて用いる張り出し部119により構成されている。前記脚部はテーブルプレート24に載置して用いる。
金属皿部112は、マグネトロン33より放射されるマイクロ波を透過しない金属製のアルミ材料により形成され、焦げ付き等を防止するため表面処理はフッ素PCMにより構成されている。
金属皿部112の裏面には、マグネトロン33より放射されたマイクロ波を吸収することで発熱する高周波発熱体120(図5)を設ける。高周波発熱体120が発した熱は金属皿部112に伝達され、金属皿部112表面に載置されている被加熱物60cを加熱する。
金属皿部112は略中心部に被加熱物60cを載置するものであり、お好み焼きの生地のように液状の被加熱物60cに含まれる水分等が外部に漏れないよう、外壁112dが設けられている。また金属皿部112の表面には波状の凹凸部112cを設け、肉などの被加熱物60cの内部に含まれる余分な脂分を排出しながら加熱される凹部は外周部と繋がっている。
また、受け皿111の左右端面112eには、樹脂製の脚ベース113を備え、脚ベース113の前後には樹脂脚部113aが配置される。また、受け皿111の左右端面112eには、前後の樹脂脚部113aの間で脚ベース113に先端を挿入して係止させる金属脚部114を備える。金属脚部114は、樹脂脚部113aより高さを高くする脚で、金属皿部112の下側に回動して折り畳み可能である。図4は金属脚部114を立てた状態である。
次に、図6〜図10を用いて加熱室28の上方に設けられた非接触で被加熱物60cの温度を検出する赤外線センサ52について詳細を説明する。
51はモータで、モータ51の向きは、回転軸51aと加熱室奥壁面28bと並行となるように取り付けられている。そして、回転軸51aが後述する筒状のユニットケース54を回転(駆動)させることで、ユニットケース54に収めた赤外線センサ52搭載した基板53を回転させて赤外線センサ52のレンズ部52aの向きを加熱室底面28aの奥側(加熱室奥壁面28b側)から加熱室開口部28dまでの範囲を回転移動して温度を検出できるようにしている。モータ51はステッピングモータを使用し内部に減速用のギアを備え、制御基板23に設けられた制御手段23aの制御によって回転軸51aを正転、逆転、また回転角度を好みに動作可能となっている。モータ51は、調理の加熱条件に合わせた動作となるように制御される。
52は赤外線センサで、赤外線検出素子(例えばサーモパイル)を複数個設けたもので、ここでは、回転軸51aの鉛直方向に一列に8素子整列した赤外線センサを使用している。そのため、加熱室底面28aの左右方向は一度に前記複数個所の温度の検出が可能であり、加熱室28の奥側(加熱室奥壁面28b側)(図8)から前側(ドア2側)(図9)にかけては、赤外線センサ52を一定角度の回転を複数回行う事(温度の測定時は回転を停止)で加熱室底面28aの全域を複数に分けて温度を検出するものである。具体的には、加熱室底面28aに載置するテーブルプレート24の全面の温度を検知する。また、図7で示す加熱室28に受け皿111をセットして、入力手段71で受け皿111を使用する調理群の加熱条件を制御手段23aに設定した場合には、受け皿111の金属皿部112の温度を検知する。
55は金属板から成るシャッタである。シャッタ55は、赤外線センサ52を使用しない時に観測窓44aを閉じるものである(図10参照)。44aは観測部44に設けた観測窓で、赤外線センサ52の検出する視野範囲となる範囲を開口している。観測部44を加熱室28の内側に突出させることで、最低限の狭い観測窓開口範囲で広範囲の温度検知が可能となる。
次にモータ51の動作について図6を用いて説明する。
制御手段23aは、モータ51を駆動して赤外線センサ52の視野を閉鎖状態から基準位置(検知点a)に回転移動する。
その後、観測面の温度の検知を開始する。初めに基準位置で温度検知を行い、備えている検出素子の複数個分の温度を検知しそのデータを保存する。
その後、次の検知点bの温度を測定できるように、モータ51を回転して赤外線センサ52を一定角度たとえば終点方向(ドア2側)へ3度回転移動して、観測面の温度を測定した後、再び3度回転移動を行い、赤外線センサ52の視野が終点の検知点hを向くまで前記の動作を繰り返して測定する。本実施例では、8素子の赤外線検出素子を14回回転移動させて15列の温度データを検出している。全温度データは120カ所の温度を検出している。移動角度はS1(約42度)となる。
赤外線センサ52によって終点位置である検知点hの温度の検出が終了した後、復路では、温度の検出を行わないで直接基準位置に戻るため早く基準位置に戻れる。以上の往復動作を一周期として、基準位置に戻ったら再び測定を開始して前記動作を繰り返す。
赤外線センサ52は、テーブルプレート24に載置した被加熱物60cの略大きさ・外形を認識できるように、前記したように複数(例えば8素子)の赤外線センサ52を一列に配置して、この赤外線センサ52を3度ずつ14回移動させて15列の温度を測定することで、デーブルプレート24内を総数120(8×15)個の温度データを取得する。
次に赤外線センサ52の動作について図7を用いて説明する。テーブルプレート24に置いた受け皿111の金属皿部112に載置した被加熱物60cの温度を検出できるように赤外線センサ52を回転駆動する。制御手段23aは、モータ51を駆動して赤外線センサ52の視野を閉鎖状態から基準位置(検知点a)に回転移動する。その後、観測面の温度の検知を開始する。初めに基準位置で温度検知を行い、備えている検出素子の複数個分の温度を検知しそのデータを保存する。
その後、次の検知点の温度を測定できるように、モータ51を回転して赤外線センサ52を一定角度たとえば終点方向(ドア2側)へ3度回転移動して、観測面の温度を測定した後、再び3度回転移動を行い、赤外線センサ52の視野が終点の検知点Kを向くまで前記の動作を繰り返して測定する。本実施例では、8素子の赤外線検出素子を16回回転移動させて17列の温度データを検出している。全温度データは136カ所の温度を検出している。移動角度はS2(約48度)となる。
赤外線センサ52によって終点位置である検知点Kの温度の検出が終了した後、復路では、温度の検出を行わないで直接基準位置に戻るため、基準位置までの帰還に要する時間は素早くなる。以上の往復動作を一周期として、基準位置に戻ったら再び測定を開始して前記動作を繰り返す。
次に、図7に示すように、受け皿111を用いて被加熱物60cの位置を高くした時の被加熱物60cの制御について、「鶏のハーブ焼き」を例にして詳細に説明する。
まず、被加熱物60cの内部温度とうまみ成分との関係について説明する。うまみ成分としては、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸などが知られている、イノシン酸は肉類や魚、グルタミン酸は野菜や昆布、グアニル酸はきのこ類に含有量がそれぞれ多い。うまみ成分として、本実施例ではイノシン酸とグルタミン酸の例で説明する。イノシン酸(Inosinic Acid)は核酸に分類され、ヌクレオチド構造の有機化合物であり、主に肉類に含まれる天然化合物である。グルタミン酸(Glutamic Acid)は、たんぱく質を構成するアミノ酸の一種である。
鶏肉を含む肉類を急速加熱した場合、イノシン酸が保持され、逆に緩慢加熱した場合はイノシン酸が分解される。理由は、イノシン酸は酵素の働きで分解されて失われるためである。そこで、本実施例では酵素の働きが半減もしくは失活化する50℃〜55℃以上に被加熱物をすばやく加熱することで、イノシン酸の分解を少なくしている。また、グルタミン酸は55〜80℃で増加するので、この温度帯で加熱を行うようにする。
次に、図11,図12を基に「鶏のハーブ焼き」の加熱工程について説明する。
この加熱工程は、三つの工程に分かれ、第一加熱工程は、イノシン酸が分解される酵素の働きが失活する50℃〜55℃までを短い時間で通過させるように、被加熱物60cの内部温度Nの昇温速度を急速に上昇させる工程である。第二加熱工程は、グルタミン酸の増加が期待できる80℃までをなるべく長い時間で通過させるように緩慢加熱を行う工程である。第三加熱工程は、焼き上げの工程、すなわち仕上げ工程である。
具体的に実際の調理加熱工程を説明する。まず、被加熱物60cである鶏肉に下味をつけて(例えば塩、こしょう、ハーブをまぶし)、受け皿111に載置する。受け皿111の金属皿部112に被加熱物60cを載せて、金属脚部114を立てた状態で、テーブルプレート24に載せて、加熱室28に収容する。加熱室28の略中間の高さに金属皿部112が配置される。入力手段71で、加熱条件として受け皿111を使用する調理群である焼き物の「鶏のハーブ焼き(図示無し)」の自動調理を制御手段23aに設定して調理を開始する。
制御手段23aは、入力手段71からの被加熱物60cの焼き物を行う入力に応じて重量センサ25と赤外線センサ52と加熱室温度センサ80の検出結果に基づいて前記加熱手段を制御する。
加熱工程は、図11のように、レンジ加熱手段330によるレンジ加熱Rの第一加熱工程K1と、レンジ加熱手段330によるレンジ加熱Rの第二加熱工程K2と、グリル加熱手段12によるグリル加熱Gの第三加熱工程K3である。
調理が開始されると、重量センサ25により受け皿111と被加熱物60cの重量を測り、受け皿111の重さを風袋引きする(被加熱物60cと受け皿111の重さの合計から、受け皿111の重さを減じる)ことで被加熱物の重量Wを検出する。
また、入力手段71により、受け皿111(図4)を使用する調理群が入力されたことによって、8素子並んだ赤外線センサ52をモータ51によって回転移動し、検知点aから検知点Kまで16回移動して136個(8×17)の温度データを取得する。
制御手段23aは、重量センサ25によって被加熱物60cの重量Wと、赤外線センサ52によって被加熱物60cの初期温度Pを検出し、焼き物に必要な、第一加熱工程K1の基準加熱時間Tk1、第二加熱工程K2の基準加熱時間Tk2、第三加熱工程K3の基準加熱時間Tk3からなる基準加熱時間Tkを決定する。
第一加熱工程K1では、レンジ加熱手段330でレンジ加熱手段出力MPの第一出力MP1で加熱し、加熱室28の下面より加熱室28にマイクロ波を供給する。受け皿111の金属皿部112の裏面に設けられた高周波発熱体120がマイクロ波によって発熱し、金属皿部112で被加熱物60cを下から加熱する。
制御手段23aは、赤外線センサ52を駆動し、被加熱物60cの表面の温度Pを検出し続け、被加熱物の温度が事前に組み込まれている第一所定温度D1に到達するのを確認する。
赤外線センサ52で検出する温度Pが第一所定温度D1に到達すると、第一加熱工程K1の基準加熱時間TK1の経過より優先して第二加熱工程K2に移行する。
理由は、第一加熱工程K1の被加熱物60cの温度が、酵素の働きが悪くなる温度と次工程のうまみ成分のグルタミン酸を増加させる温度帯を確保するためである。
第1加熱工程K1でのレンジ加熱Rでは、約800Wのマイクロ波で受け皿111の高周波発熱体120を発熱させて、金属皿部112によって温度ムラのない状態で被加熱物60cを下面より加熱する。
受け皿111は、マイクロ波によって金属皿部112が発熱し被加熱物60cは底面側から加熱される。赤外線センサ52は、加熱室天面28cより被加熱物60cの温度を検出するため、加熱時間の経過により、被加熱物60cで覆われていない金属皿部112の検出温度が高くなる。そのため、赤外線センサ52で検出して第一所定温度と比較する温度は、金属皿部112の領域の温度を検出している中で、最も温度変化が少なく推移している箇所の温度となる。次工程においても同様である。
第二加熱工程K2では、第一加熱工程K1と同様にレンジ加熱手段330を用いて、加熱室28の下面より加熱室28にマイクロ波を供給する。受け皿111の金属皿部112の裏面に設けられた高周波発熱体120がマイクロ波によって発熱し、金属皿部112で被加熱物60cを下から加熱する。レンジ加熱手段の出力MPの第二出力MP2は、第一出力MP1に比べて低い出力である。
被加熱物の温度検出も第一加熱工程K1と同様に赤外線センサ52を駆動し、被加熱物60cの表面の温度Pを検出し続け、被加熱物の温度が事前に組み込まれている第二所定温度D2に到達するのを確認する。
制御手段23aは、第二加熱工程K2の開始から被加熱物の温度が第二所定温度D2に到達するまでの経過時間となる到達時間T9を計時し、事前組み込まれている第二所定温度D2に到達するまでの所定時間T7と比べ、被加熱物60cの温度上昇の度合いを確認する。
制御手段23aは前述した被加熱物60cの温度上昇の度合いを確認した後、第二加熱工程K2の残りの加熱工程を決定する。
到達時間T9が所定時間T7より短い場合、被加熱物60cが早く加熱されることでグルタミン酸を多く生成する温度帯を越さないようにする。そのために、残りの加熱工程では、レンジ加熱手段330のレンジ加熱手段出力MPを第二出力MP2から出力の小さな第三出力MP3に変更する。加熱時間は、第二加熱工程K2の基準加熱時間Tk2から到達時間T9を差し引いた残分T8を求め(基準加熱時間Tk2−到達時間T9=残分T8)、レンジ加熱手段330の出力を下げたことで加熱量が不足しないように、加熱時間は残分T8の時間よりも長い変更時間T80となるように補正する(加熱時間Tj=到達時間T9+変更時間T80)。
一方、到達時間T9が所定時間T7より長い場合は(到達時間T9>所定時間T7)、レンジ加熱手段330の第二出力MP2を変更せず、第二加熱工程K2の基準加熱時間Tk2を変更することなく加熱工程を実行する。
以上、第2加熱工程では、うまみ成分が増加する温度帯(55〜80℃)に被加熱物の温度を長時間留めることで、うまみ成分であるグルタミン酸の増加を図る。
第三加熱工程K3では、加熱室28の上面からグリル加熱手段12によって加熱室28の雰囲気の温度を上昇させて、被加熱物60cの表面から被加熱物60cを加熱する。
制御手段23aは、第三加熱工程K3の開始から加熱室温度センサ80の検出する雰囲気温度Qが事前に組み込まれている第三所定温度D3に到達するまでの到達時間T29を計時し、事前に組み込まれている第三所定温度D2に到達するまでの第二所定時間T27と比べ加熱時間を決定する。
第三加熱工程K3の加熱時間は、到達時間T29が第二所定時間T27よりも早く到達した場合(到達時間T29<所定時間T27)は、第二所定時間T27から到達時間T29を引いた差分T28(差分T28=第二所定時間T27−到達時間T29)を求め、加熱時間Tj3は第三加熱工程K3の基準加熱時間Tk3から前記差分T28を差し引いた時間(加熱時間Tj3=基準加熱時間Tk3−差分T28)としている。
逆に、到達時間T29が第二所定時間T27よりも遅く到達した場合(到達時間T29>所定時間T27)は、第三加熱工程K3の基準加熱時間Tk3に差分T28(差分T28=到達時間T29−所定時間T27)を加えた時間を加熱時間Tj3とする(加熱時間Tj3=基準加熱時間Tk3+差分T28)。
このようにして、第一から第三の加熱工程を進行しながら、焼き物に必要な全加熱時間Tzを決定して調理が実行される。この例では、加熱時間Tj1と加熱時間Tj2と加熱時間Tj3の合計が全加熱時間Tzとなる。
こうして、被加熱物60cのイノシン酸の低下を防止し、グルタミン酸を増加させるものである。
以上は被加熱物60cが鶏肉の例を示したが、被加熱物60cが鶏肉ではなく、他の食材の場合でも鶏肉と同じように酵素が活性化する温度範囲が存在する。
図12は、被加熱物60cである鶏肉を加熱調理する過程において、レンジ加熱手段の各出力MPにおける加熱時間変化と被加熱物60cの内部温度Nと一例を示すものである。この図12の加熱制御は、被加熱物60cのうまみを十分に引き出す加熱調理を可能としたものである。
内部温度Nの目標値N0,N1,N2の絶対温度は食材の酵素によって異なる。上述のような加熱制御を用いることで、酵素を利用して食材のうまみ成分を増加させる加熱調理が可能である。
例えば、牛肉や豚肉などの畜肉においては、食材に含まれるうまみ成分やうまみ成分の分解酵素、またタンパク質分解酵素も鶏肉とほぼ同じ種類の成分や酵素を含んでいる。そのため、鶏肉の例と同様の内部温度Nの目標値N0=50℃,N1=被加熱物60cの種類に応じた温度,N2=80℃で、同様の加熱制御を行うことで、食材のうまみ成分を増加させることが可能である。
図12においては、被加熱物60cが鶏肉の場合において、時間T1におけるレンジ加熱手段出力MPを第二出力MP2(500W)≦第一出力MP1(1000W)にした例を示したが、第二出力MP2よりも第一出力MP1が大きければ、レンジ加熱手段出力MPの絶対値は特に問わない。
本実施例によれば、被加熱物60cのうまみ成分が分解されることによって減少する時間における被加熱物60cの昇温速度が、被加熱物60cのうまみ成分が生成されて増加する時間における被加熱物60cの昇温速度より速くなるように制御手段によって制御することにより、被加熱物60cのうまみ成分の減少を防ぎ、被加熱物60cのうまみ成分を増加させることができる加熱調理器を提供する。
なお、この実施例においても、レンジ加熱、グリル加熱時における加熱手段の出力は上記の値に限られるものではなく、適宜設定することができる。
ここで、加熱調理開始時に高出力のレンジ加熱Rのあと、低出力のレンジ加熱Rとグリル加熱による被加熱物60cの内部を緩慢加熱させる組み合わせの加熱調理を行うことによって、被加熱物60cをムラなく温度上昇させるとともに、グリル加熱によって加熱室と被加熱物60cの表面を均一に加熱する効果を高めることができる。