JP6504799B2 - 地下水の溶存酸素量の増加防止方法 - Google Patents

地下水の溶存酸素量の増加防止方法 Download PDF

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本発明は、地下水の溶存酸素量の増加防止方法に関する。
従来、井戸を用いて地下水を汲み上げて、生活用水、工業用水、農業用水など各種の用途に利用している。
土壌中には鉄、マンガン等の金属が存在することから、地下水にはこれら金属がイオンの状態で存在している。金属イオンを含む地下水が大気と接触すると、大気中の酸素が地下水に溶け込み、金属イオンが酸化される。
地下水の溶存元素の酸化を防止する方法として、例えば特許文献1には、自噴またはポンプにより汲み上げた地下水を貯蔵する貯水タンクに不活性ガスを供給して、地下水の溶存元素の酸化を防止する方法が開示されている。
特開2012−122189号公報
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、井戸から汲み上げられ、貯水タンクに貯蔵された地下水の溶存元素の酸化を防止する方法であり、井戸に湧出する地下水中の金属イオンの酸化を防止するには至っていない。
地下水の溶存酸素量は、井戸内で湧出した直後は低いが、水面と接触している大気中の酸素が地下水に溶解するため次第に増加する。酸素が地下水に溶解すると水面近傍の大気中の酸素濃度は下がるが、地下水の水面水位は変動するため井戸内に新しい空気が流れ込むことで、水面近傍の大気中の酸素濃度が元に戻り、飽和状態になるまで地下水への酸素の溶解が進む。井戸内にて地下水に酸素が溶解すると、地下水中の金属イオンは酸化され、凝集して地下水中で懸濁し、地下水の汲み上げに用いる各種配管やポンプなどに付着してこれらを閉塞させる原因となる。
また、地下水中に酸素が溶解すると鉄バクテリアが繁殖しやすくなる。鉄バクテリアは鉄イオンを体内に取り入れ蓄積させる。この鉄バクテリアが凝集し、あるいは付着することで地下水の汲み上げに用いる各種配管やポンプなどを閉塞させる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、井戸内において、地下水中の金属イオンの酸化および鉄バクテリアの繁殖を防止できる地下水の溶存酸素量の増加防止方法を提供することを課題とする。
本発明は以下の態様を有する。
[1] 井戸に湧出する地下水の溶存酸素量の増加を防止する方法であって、地下水の水面に、地下水と大気との接触を妨げる接触防止剤を供給する、地下水の溶存酸素量の増加防止方法。
[2] 接触防止剤が窒素またはアルゴンである、[1]に記載の地下水の溶存酸素量の増加防止方法。
[3] 井戸に気体不透過性の保護管を挿入する、[1]または[2]に記載の地下水の溶存酸素量の増加防止方法。
[4] 地下水の水面への接触防止剤の供給が、地下水中への窒素またはアルゴンの供給によりなされる、[3]に記載の地下水の溶存酸素量の増加防止方法。
[5] 地下水に、地下水を酸性に調整するpH調整剤を添加する、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の地下水の溶存酸素量の増加防止方法。
本発明の地下水の溶存酸素量の増加防止方法によれば、井戸内において、地下水中の金属イオンの酸化および鉄バクテリアの繁殖を防止できる。
本発明の地下水の溶存酸素量の増加防止方法を実施するための増加防止システムの一実施形態を示す概略図である。 本発明の地下水の溶存酸素量の増加防止方法を実施するための増加防止システムの他の実施形態を示す概略図である。 本発明の地下水の溶存酸素量の増加防止方法を実施するための増加防止システムの他の実施形態を示す概略図である。
以下、図面を参照して本発明を詳しく説明する。
なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
また、図2、3において、図1と同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。
<増加防止システム>
図1は、本発明の地下水の溶存酸素量の増加防止方法を実施するための増加防止システムの一実施形態を示す概略図である。
この例の増加防止システム(地下水の溶存酸素量の増加防止システム)10は、井戸11と、井戸11内に湧出する地下水Wを汲み上げるポンプ12および揚水配管13と、地下水Wの水面Sに接触防止剤18を供給する供給手段14と、地下水WにpH調整剤を添加する添加手段15とを備える。
井戸11は、地面Gから下方に向かって帯水層Xまで掘削された掘削穴Hに挿入された、気体不透過性の保護管16を有する。
保護管16は、土砂崩落などから掘削穴Hを保護するための有底筒状の管である。
保護管16の底部近傍には、掘削穴Hに挿入した際の帯水層Xの位置に、帯水層Xの地下水を保護管16内に取り込む取水口16aが形成されている。この取水口16aには、砂等が保護管16内に侵入するのを防ぐための金網17が取り付けられている。
なお、本発明において「気体不透過性」とは、保護管16から帯水層Xなどの土壌へ気体を透過させないことを意味する。
ポンプ12および揚水配管13としては特に制限されず、井戸に用いられる公知のポンプおよび揚水配管を用いることができる。
供給手段14は、地下水Wの水面Sに、地下水Wと大気Aとの接触を妨げる接触防止剤18を供給するものである。
供給手段14は、末端が接触防止剤18を貯蔵するタンク(図示略)に接続された供給配管14aを有する。
供給配管14aは、その先端14bが地下水Wの水面Sの上方かつ近傍に位置するように設置される。
接触防止剤18としては、窒素、アルゴン等の不活性ガス;食用油等の油などが挙げられる。地下水Wと大気Aとの接触を妨げる効果に優れる点で、不活性ガスが好ましい。また、接触防止剤18として油を用いると、地下水Wを汲み上げる際に油も一緒に汲み上げられる。そのため、汲み上げた地下水Wを各種用水に利用する前に、油を除去する処理が必要となる。よって、地下水Wを汲み上げた後の処理が不要である点においても、不活性ガスが好ましい。
なお、窒素、アルゴン以外の不活性ガスを用いることもできるが、二酸化炭素は地下水Wに溶け込み、金属イオンの酸化を引き起こす。よって、接触防止剤として不活性ガスを用いる場合は、二酸化炭素以外の不活性ガスを用いる。中でも、窒素、アルゴンは安価であり、取り扱いも容易であるため、接触防止剤18として好適である。また、これら不活性ガスは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
添加手段15は、地下水WにpH調整剤を添加するものである。
添加手段15は、末端がpH調整剤を貯蔵するタンク(図示略)に接続された添加配管15aを有する。
添加配管15aは、その先端15bが地下水Wに浸漬するように設置される。
pH調整剤としては、地下水WのpHを酸性に調整するものであれば特に制限されないが、例えば硫酸、塩酸などが挙げられる。
<地下水の溶存酸素量の増加防止方法>
このような増加防止システム10を用いた、本発明の第一の態様の地下水の溶存酸素量の増加防止方法では、帯水層Xから湧出し、保護管16の取水口16aから保護管16内に取り込まれた地下水Wの水面Sに供給手段14から接触防止剤18を供給する。接触防止剤18を供給することで地下水Wの水面S近傍の大気Aが追いやられて水面Sに接触防止剤18からなる層が形成され、地下水Wと大気Aとの接触が妨げられる。
接触防止剤18として油を用いる場合、油の供給量は、接触防止剤18からなる層の厚さが5〜300mmとなる量が好ましい。
一方、接触防止剤18として不活性ガスを用いる場合、少なくとも地下水Wの水面S近傍の大気が不活性ガスに置換されるまで不活性ガスを供給することが好ましい。
また、例えば図2に示すように、井戸11に空気穴(図示略)が形成された蓋19をして、不活性ガスを供給してもよい。井戸11に蓋19をすれば、井戸11内に枯葉などのゴミが混入するのを抑制できる。
なお、窒素は空気よりも軽いが、地下水Wの水面Sに窒素を供給し続ければ、窒素が地下水Wの水面S近傍に滞留しやすく、地下水Wと大気Aとの接触が妨げられる。
地下水の溶存酸素量の増加防止方法では、添加手段15から地下水WにpH調整剤を添加することが好ましい。地下水WにpH調整剤を添加することで、地下水W中の鉄、マンガン等の金属イオンの酸化がより起こりにくくなる。また、地下水W中の鉄バクテリアを殺菌したり、繁殖を防止したりできる。
金属イオンの酸化防止や、鉄バクテリアの殺菌・繁殖防止の観点では、地下水WのpHは低いほど好ましい。ただし、地下水WのpHが低すぎると、例えば地下水を飲み水として利用するには、地下水のpHを元に戻す処理が必要となり、その処理に手間がかかる。よって、pH調整剤の添加量は、地下水WのpHが5〜6程度になる量が好ましい。地下水WのpHが5〜6であれば、汲み上げられた地下水WのpHを元に戻す処理が不要となるか、処理する場合であっても手間がかかりにくい。
地下水W中へpH調整剤を添加するタイミングは、接触防止剤18の供給と同時でもよいし、接触防止剤18の供給の前または後でもよいが、接触防止剤18の供給と同時または接触防止剤18の供給の前が好ましい。
<作用効果>
以上説明した本発明の第一の態様の地下水の溶存酸素量の増加防止方法によれば、地下水の水面に、地下水と大気との接触を妨げる接触防止剤を供給するので、井戸内において地下水に酸素が溶解するのを抑制でき、地下水の溶存酸素量の増加を防止できる。よって、本発明によれば地下水中の金属イオンの酸化および鉄バクテリアの繁殖を防止でき、その結果、地下水の汲み上げに用いる揚水配管やポンプなどが閉塞するのを抑制できる。
なお、地下水の汲み上げは、本発明の地下水の溶存酸素量の増加防止方法を実施しながら行ってもよいし、本発明の地下水の溶存酸素量の増加防止方法を実施した後に行ってもよい。
ところで、汚染された土壌や地下水を浄化する方法としてバイオスパージング法が知られている。バイオスパージング法は、スパージング井戸から送り込まれた気体がスパージング井戸の下端近傍に設けられたスクリーンを透過して汚染された土壌や地下水に拡散することで、汚染原因である揮発性有機化合物(VOC)を液相から気相へ移動させ、気相に移動したVOCのガスをブロワー等で吸引し除去することによって浄化する技術である。なお、スパージング井戸のスクリーンは気体を透過させるものであり、地下水を取り込むための取水口とは異なる。
バイオスパージング法に用いる気体としては、土壌に生息する微生物の種類により選択される。例えば微生物が好気性であれば空気など酸素を含む気体を用い、微生物が嫌気性であれば二酸化炭素などの不活性ガスを用いる。
また、バイオスパージング法では、微生物を活性化させるための栄養剤を汚染された土壌や地下水に供給することもある。
しかし、空気や二酸化炭素を地下水へ供給するとこれらが地下水へ溶解し、地下水中の金属イオンを酸化させる。また、栄養剤を地下水へ供給すると鉄バクテリアが繁殖し、金属イオンの酸化が進行する。
そのため、本発明では栄養剤を地下水へ供給することなく、地下水の水面に接触防止剤を供給する。また、接触防止剤として不活性ガスを用いる場合は、二酸化炭素以外の不活性ガスを用いる。
なお、本発明の対象となる地下水は、汲み上げられた後に生活用水、工業用水、農業用水など各種の用途に利用される。よって、井戸を設置する場所は土壌や地下水が汚染されていない場所が好ましい。ここで、「土壌や地下水が汚染されていない」とは、バイオスパージング法による浄化を必要としない程度を意味する。
<他の実施形態>
本発明の地下水の溶存酸素量の増加防止方法は、上述した方法に限定されない。例えば、図1に示す増加防止システム10は、供給配管14aの先端14bが地下水Wの水面Sの上方かつ近傍に位置するように供給配管14aが設置されているが、接触防止剤18が不活性ガスの場合は、図3に示すように供給配管14aの先端14bが地下水Wに浸漬していてもよい。
図3に示す増加防止システム10を用いた、本発明の第二の態様の地下水の溶存酸素量の増加防止方法では、帯水層Xから湧出し、保護管16の取水口16aから保護管16内に取り込まれた地下水W中へ供給手段14から接触防止剤18を供給する(ストリッピング)。このときに用いる接触防止剤18は不活性ガスである。不活性ガスを地下水W中へ供給することで、地下水W中に溶解していた酸素が脱気されるとともに、地下水Wの水面Sに不活性ガスからなる層が形成され、地下水Wと大気Aとの接触が妨げられる。
本発明の第二の態様の地下水の溶存酸素量の増加防止方法によれば、井戸内において地下水に酸素が溶解するのを抑制でき、地下水の溶存酸素量の増加を防止できる。しかも、地下水中に既に溶解している酸素も脱気できるので、地下水の溶存酸素量をより低減できる。また、井戸内の地下水が酸素以外の気体(例えばアンモニアガスやVOCなど)を溶解している場合、地下水中に不活性ガスを供給すれば、酸素に加えて酸素以外の気体も脱気されるので、地下水から除去できる。
なお、本発明の第二の態様の地下水の溶存酸素量の増加防止方法では、井戸に気体不透過性の保護管を挿入しているので、不活性ガスが保護管を透過して帯水層へ拡散しにくい。
また、図1〜3に示す増加防止システム10では、添加配管15aの先端15bが地下水Wに浸漬しているが、接触防止剤18が不活性ガスの場合は、添加配管15aの先端15bが地下水Wの水面Sの上方に位置するように添加配管15aを設置してもよい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例1、2は参考例である。
「実施例1」
地面から下方に向かって直径約150mm、深さ30mまで掘削し、得られた掘削穴に有底筒状であり、気体不透過性の保護管を挿入し、図1に示すような井戸11を設置した。井戸の設置には、土壌や地下水が汚染されていない場所を選んだ。保護管16としては、掘削穴Hに挿入した際の帯水層Xの位置に取水口16aが形成され、この取水口16aに金網17が取り付けられているものを用いた。
図1に示すように、保護管16内にポンプ12および揚水配管13を配置し、地下水Wの汲み上げを可能とした。また、供給配管14aの先端14bが地下水Wの水面Sの上方かつ近傍に位置するように供給手段14を設置した。
帯水層Xから湧出し、保護管16の取水口16aから保護管16内に取り込まれた地下水Wの水面Sに、供給手段14から接触防止剤18として食用油を3L供給し、水面Sに食用油からなる層(厚さ170mm)を形成した状態で、地下水Wを汲み上げた。溶存酸素計を用いて汲み上げた地下水Wの溶存酸素量を測定した。結果を表1に示す。
「実施例2」
実施例1と同様にして井戸11を設置し、保護管16内にポンプ12および揚水配管13を配置し、地下水Wの汲み上げを可能とした。また、供給配管14aの先端14bが地下水Wの水面Sの上方かつ近傍に位置するように供給手段14を設置した。
帯水層Xから湧出し、保護管16の取水口16aから保護管16内に取り込まれた地下水Wの水面Sに、供給手段14から接触防止剤18として窒素を供給しながら、地下水Wを汲み上げた。窒素の供給量は5L/分とした。溶存酸素計を用いて汲み上げた地下水Wの溶存酸素量を測定した。結果を表1に示す。
「実施例3」
実施例1と同様にして井戸11を設置した。
図3に示すように、保護管16内にポンプ12および揚水配管13を配置し、地下水Wの汲み上げを可能とした。また、供給配管14aの先端14bが保護管16の底部近傍に到達するように供給手段14を設置した。
帯水層Xから湧出し、保護管16の取水口16aから保護管16内に取り込まれた地下水W中に、供給手段14から接触防止剤18として窒素を供給しながら、地下水Wを汲み上げた。窒素の供給量は5L/分とした。溶存酸素計を用いて汲み上げた地下水Wの溶存酸素量を測定した。結果を表1に示す。
「比較例1」
地下水の水面に食用油を供給しなかった以外は実施例1と同様にして地下水を汲み上げた。溶存酸素計を用いて汲み上げた地下水Wの溶存酸素量を測定した。結果を表1に示す。
Figure 0006504799
表1の結果から明らかなように、各実施例で汲み上げた地下水の溶存酸素量は、比較例1で汲み上げた地下水の溶存酸素量よりもはるかに低いものであった。よって、各実施例では、比較例1に比べて地下水中の金属イオンの酸化および鉄バクテリアの繁殖を防止できるといえる。
10 増加防止システム
11 井戸
12 ポンプ
13 揚水配管
14 供給手段
14a 供給配管
14b 先端
15 添加手段
15a 添加配管
15b 先端
16 保護管
16a 取水口
17 金網
18 接触防止剤
19 蓋
A 大気
G 地面
H 掘削穴
X 帯水層
S 水面
W 地下水

Claims (4)

  1. 井戸に湧出する地下水の溶存酸素量の増加を防止する方法であって、
    地下水の水面に、地下水と大気との接触を妨げる接触防止剤を供給し、
    その地下水の水面への接触防止剤の供給が、先端が前記地下水に浸漬した供給配管(ただし、供給配管の先端部に微小な穴の空いた多孔体を取り付ける場合を除く。)から直接、地下水中へ前記接触防止剤を供給することによりなされる、地下水の溶存酸素量の増加防止方法。
  2. 接触防止剤が窒素またはアルゴンである、請求項1に記載の地下水の溶存酸素量の増加防止方法。
  3. 井戸に気体不透過性の保護管を挿入する、請求項1または2に記載の地下水の溶存酸素量の増加防止方法。
  4. 地下水に、地下水を酸性に調整するpH調整剤を添加する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の地下水の溶存酸素量の増加防止方法。
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