JP6501350B2 - 動物の軟骨からプロテオグリカンを調製する方法 - Google Patents
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Description
(1)サケの鼻軟骨を原料として用いてその破砕物を得る工程
生のサケの頭部から摘出した鼻軟骨を5〜10mm程度の大きさに切り刻んだ後、10倍容のエタノール(含水量は約1%、以下同じ)に投入し、4℃で3時間、撹拌することで脱水及び脱脂した。この操作をもう一度繰り返した後、得られた軟骨片を乾燥させた。次に、この乾燥軟骨片2gを15mLのエタノールに投入し、ローターステーター型ホモジナイザー(ヒスコトロンNS−100:マイクロテック・ニチオン社)を用い、4℃で1000rpmで60秒間ホモジナイズした後、濾紙で濾過し、濾紙上の軟骨破砕物を乾燥させた。得られた乾燥軟骨破砕物(乳白色粉末)を顕微鏡で観察したところ、2〜35μmの大きさの粒子からなり、平均の大きさは7μmであって、粒子の大部分(約80%)が2〜10μmの大きさであった。この乾燥軟骨破砕物1gに含まれるウロン酸量(カルバゾール−硫酸法による、以下同じ)は150mgであった。なお、15mLの蒸留水を用いて乾燥軟骨片2gを上記と同じ条件でホモジナイズしたところ、乾燥軟骨片が溶けてしまい、15mLのエタノールを用いて乾燥軟骨片2gをホモジナイズすることで得られた大きさの粒子からなる乾燥軟骨破砕物は得られず、プロテオグリカンと大量のコラーゲンを含む夾雑タンパク質が混在する溶液が得られた。
工程(1)で得たサケの鼻軟骨の乾燥破砕物300mgを、溶出溶媒としての4Mの塩化マグネシウム水溶液(0.1M Tris−HCl緩衝液(pH7.3)に溶解、以下同じ)20mLに投入し、37℃で振盪撹拌することで軟骨破砕物からプロテオグリカンを溶出させた。24時間後に遠心分離によって上清を回収し、残渣に対して4Mの塩化マグネシウム水溶液20mLを加え、37℃で振盪撹拌することで残渣からプロテオグリカンを溶出させた。この操作をもう一度繰り返した後、24時間ごとに回収した上清(溶出液)について、ウロン酸量とタンパク質量(ブラッドフォード法による、以下同じ)を測定した。結果を図1に示す。なお、図1には、溶出溶媒として、緩衝液(0.1M Tris−HCl緩衝液(pH7.3)、以下同じ)、4%の酢酸水溶液、6Mの尿素水溶液(0.1M Tris−HCl緩衝液(pH7.3)に溶解、以下同じ)、4Mのグアニジン塩酸水溶液(0.1M Tris−HCl緩衝液(pH7.3)に溶解、以下同じ)のそれぞれを用いて同じ条件で実験を行った結果をあわせて示す。図1から明らかなように、溶出溶媒として4Mの塩化マグネシウム水溶液を用いた場合、溶出溶媒として6Mの尿素水溶液と4Mのグアニジン塩酸水溶液を用いた場合に匹敵する量のプロテオグリカンを溶出させることができた(ウロン酸量の比較による)。一方、溶出溶媒として4Mの塩化マグネシウム水溶液を用いた場合における夾雑タンパク質の混入量は、溶出溶媒として6Mの尿素水溶液と4Mのグアニジン塩酸水溶液を用いた場合に比較して遥かに少なかった(タンパク質量の比較による。但しブラッドフォード法を採用しているためこの方法で検出することができないコラーゲン量は反映されていない)。溶出溶媒として4%の酢酸水溶液を用いた場合、溶出溶媒として4Mの塩化マグネシウム水溶液を用いた場合に比較して、夾雑タンパク質の混入量は遥かに少なかったが、プロテオグリカンの溶出量も少なかった。溶出溶媒として緩衝液を用いた場合、溶出溶媒として4Mの塩化マグネシウム水溶液を用いた場合に比較して、プロテオグリカンの溶出量も夾雑タンパク質の混入量も少なかった。なお、溶出溶媒として4Mの塩化マグネシウム水溶液を用いて得たプロテオグリカンの溶出液は、エタノール沈殿を行って脱塩した後、50mMのTris−HCl緩衝液(pH7.4)で平衡化した陰イオン交換カラム(DEAE Sepharose,2.7×30cm,GE Healthcare Japan社)に供し、0〜1Mの塩化ナトリウムの直線濃度勾配によりプロテオグリカン画分を溶出させ(およそ0.5Mの塩化ナトリウムでプロテオグリカン画分が溶出される)、得られたプロテオグリカン画分をAmicon Ultra(Millipore社、以下同じ)を用いて限外ろ過することにより脱塩することでプロテオグリカンの水溶液を得て、−20℃において保存し、以下の性状分析に用いた。
実施例1で溶出溶媒として4Mの塩化マグネシウム水溶液を用いて得たプロテオグリカンからグリコサミノグリカンを調製し、セルロースアセテート膜電気泳動に供した(サンプルアプライ量:100ng(ウロン酸量として))。プロテオグリカンからのグリコサミノグリカンの調製は、プロテオグリカンをプロテアーゼ処理することでコアタンパクを分解することにより行った。具体的には、まず、プロテアーゼとしてアクチナーゼE(Kaken Pharmaceutical社)を用い、10mMの塩化カルシウムを含む0.1MのTris−HCl緩衝液(pH8.0)中、50℃で24時間、プロテアーゼ反応を行った。得られた反応液を1%のトリクロロ酢酸水溶液にして、タンパク質を酸沈殿させ、上清を回収し、回収した上清に対してエタノール沈殿を行ってプロテオグリカンのプロテアーゼ反応物を得た。次に、Aspergillus niger由来のセルラーゼが持つendo−β−xylosidase活性を利用してグリコサミノグリカンとセリン残基との間のxyroside結合の加水分解を行うため、0.1Mの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)中、50℃で16時間、プロテオグリカンのプロテアーゼ反応物に対してセルラーゼ反応を行った。得られた反応液を0.1MのTris−HCl緩衝液(pH7.3)で平衡化した陰イオン交換カラム(DEAE Sepharose,10×100mm,GE Healthcare Japan社)に供し、0〜2Mの塩化ナトリウムの直線濃度勾配によりグリコサミノグリカン画分を溶出させ、得られたグリコサミノグリカン画分をAmicon Ultraを用いて限外ろ過することより脱塩することでグリコサミノグリカンの水溶液を得た(−20℃において保存)。標準物質としては、ヘパリン、コンドロイチン硫酸(おもにコンドロイチン6−硫酸を含む)、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸を用いた。その結果、コンドロイチン硫酸のみが検出された。ヒアルロン酸が検出されなかったことは、溶出溶媒として4Mの塩化マグネシウム水溶液を用いて得たプロテオグリカンにはヒアルロン酸が混入していないか、混入していてもその量はわずかであることを反映していると推察された。なお、この結果は、実施例1で溶出溶媒として、緩衝液、4%の酢酸水溶液、4Mのグアニジン塩酸水溶液のそれぞれを用いて得たプロテオグリカンでも同じであった。
実施例1で溶出溶媒として4Mの塩化マグネシウム水溶液を用いて得たプロテオグリカンの平均分子量を、ゲル濾過HPLCを行うことによって推定した。結果をヒアルロン酸の分子量マーカーに対する相対分子量として図2に示す。また、図2には、実施例1で溶出溶媒として、緩衝液、4%の酢酸水溶液、4Mのグアニジン塩酸水溶液のそれぞれを用いて得たプロテオグリカンの平均分子量を、ヒアルロン酸の分子量マーカーに対する相対分子量としてあわせて示す。図2から明らかなように、溶出溶媒として4Mの塩化マグネシウム水溶液を用いて得たプロテオグリカンの平均分子量は、溶出溶媒として4Mのグアニジン塩酸水溶液を用いて得たプロテオグリカンの平均分子量と同じ24万6千であったが、溶出溶媒として4Mの塩化マグネシウム水溶液を用いて得たプロテオグリカンには、溶出溶媒として4Mのグアニジン塩酸水溶液を用いて得たプロテオグリカンに認められる、プロテオグリカンの凝集体と推定される存在は認められなかった。溶出溶媒として4%の酢酸水溶液を用いて得たプロテオグリカンの平均分子量は17万5千であったことから、溶出溶媒として4%の酢酸水溶液を用いて軟骨破砕物からプロテオグリカンを溶出させた場合にはプロテオグリカンの分解が起こることがわかった。溶出溶媒として緩衝液を用いて軟骨破砕物からプロテオグリカンを溶出させた場合にもプロテオグリカンの分解が起こり、主たるプロテオグリカンの平均分子量は17万6千と3万3千であった。
実施例1で溶出溶媒として4Mの塩化マグネシウム水溶液を用いて得たプロテオグリカンを標準的な方法で還元アルキル化した後、ウロン酸量とタンパク質量を測定し、ウロン酸7μg分を用いて、プロテオグリカンに含まれるアグリカンのコアタンパクのG1ドメインとG3ドメインに対する抗体反応を行った(用いた抗体は次の通り。Anti G1 antibody:recognizes HA binding region of aggrecan,mouse monoclonal 12/21/1−C−6,Developmental Studies Hybridoma Bank(Iowa,IA,USA)、Anti G3 antibody:anti rabbit polyclonal antibody against aggrecan G3,Affinity BioReagents(Golden,Co,USA))。結果はドットブロット法により解析し、溶出溶媒として4Mのグアニジン塩酸水溶液を用いて得たプロテオグリカンを用いて同じ条件で行った抗体反応の結果に対する相対値で評価した。結果を図3に示す。また、図3には、実施例1で溶出溶媒として緩衝液と4%の酢酸水溶液のそれぞれを用いて得たプロテオグリカンを用いて同じ条件で行った抗体反応の結果をあわせて示す。図3から明らかなように、溶出溶媒として緩衝液と4%の酢酸水溶液を用いて得たプロテオグリカンは、コアタンパクのG1ドメインとG3ドメインの欠失が認められ、とりわけG3ドメインの欠失が顕著であった。これに対し、溶出溶媒として4Mの塩化マグネシウム水溶液を用いて得たプロテオグリカンは、コアタンパクのG1ドメインの欠失はほぼ認められず、G3ドメインの欠失は認められるものの、欠失の程度は、溶出溶媒として緩衝液と4%の酢酸水溶液を用いて得たプロテオグリカンのコアタンパクのG3ドメインの欠失の程度と比較すると抑制されていた。
実施例1の工程(1)で得たサケの鼻軟骨の乾燥破砕物300mgを、溶出溶媒としての各種の濃度の塩化マグネシウム水溶液(0.1M Tris−HCl緩衝液(pH7.3)に溶解)20mLに投入し、37℃で振盪撹拌することで軟骨破砕物からプロテオグリカンを溶出させた。24時間後に遠心分離によって回収した上清(溶出液)について、ウロン酸量とタンパク質量を測定し、0Mの塩化マグネシウム水溶液、即ち、緩衝液(0.1M Tris−HCl緩衝液(pH7.3))を溶出溶媒として用いて同じ条件でプロテオグリカンを溶出させて回収した上清について測定したウロン酸量とタンパク質量に対する相対量で評価した。結果を図4に示す。図4から明らかなように、0.5M以上の塩化マグネシウム水溶液において、塩化マグネシウムの濃度が高くなるにつれてプロテオグリカンの溶出量が増加する一方、夾雑タンパク質の混入量が減少する現象が認められた。この現象は、中性付近のpH(6.5〜8.0)の塩化マグネシウム水溶液において一様に認められるものであった。
以上の結果は、溶出溶媒として用いた塩化マグネシウム水溶液のイオン強度によって、軟骨破砕物中でコラーゲンやヒアルロン酸と相互作用し合っているプロテオグリカンが、こうした相互作用から開放されて塩化マグネシウム水溶液に効率的に溶出されるとともに、塩化マグネシウム水溶液の塩析作用によって夾雑タンパク質が沈殿し、その混入が抑制されたことによる効果と推察され、他のいずれの溶出溶媒を用いた場合よりも総合的に優れるものであった。
Claims (1)
- エタノール中で動物の軟骨を破砕した後、溶出溶媒として2M以上の濃度の塩化マグネシウム水溶液を用いて軟骨破砕物からプロテオグリカンを溶出させることによるプロテオグリカンの調製方法。
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