JP3146344B2 - 米貯蔵蛋白質の抽出方法 - Google Patents

米貯蔵蛋白質の抽出方法

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JP3146344B2 JP08195696A JP8195696A JP3146344B2 JP 3146344 B2 JP3146344 B2 JP 3146344B2 JP 08195696 A JP08195696 A JP 08195696A JP 8195696 A JP8195696 A JP 8195696A JP 3146344 B2 JP3146344 B2 JP 3146344B2
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康造 木崎
直人 岡崎
功 荒巻
博之 矢尾
康次郎 高橋
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国税庁長官
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、米、米粉又は白糠
から、米貯蔵蛋白質を抽出する方法に関し、更に詳細に
は、米貯蔵蛋白質の内プロテインボディーIIのみを分
解、変性させることなく、安全且つ効率的に選択抽出す
る方法に関するものである。
【0002】本方法によって抽出された蛋白質は、例え
ば米蛋白質分解酵素活性測定用の基質といった各種試薬
として有用であるのみでなく、抽出過程において有害な
薬品等を使用していないので、飲食品への蛋白質の補
強、機能性ペプチド製造の材料等として、食品公害の発
生を懸念することなく自由且つ広範に使用することがで
きる。
【0003】
【従来の技術】米中の蛋白質は、主にアリューロン顆
粒、プロテインボディーI及びII(以下PB−I及びII
と略記することもある)の3種の蛋白質顆粒に存在し、
アリューロン顆粒は米のアリューロン層に、PB−I及
びIIは主に精白米に存在するといわれている(田中、増
村:化学と生物、26,543(1988))。
【0004】一般に蛋白質は、溶媒への溶解性から、水
に解ける蛋白質をアルブミン、塩溶液に解けるものをグ
ロブリン、薄い酸やアルカリ液に解けるものをグルテリ
ン及びアルコールに溶解する蛋白質をプロラミンとして
いるが、精白米およびその米粉もしくは白糠に存在する
PB−I及びIIの内PB−IIは主にグリテリンで構成さ
れており、PB−Iはプロラミンで構成されていること
が明らかとなっている。
【0005】このうちPB−IIは人間の消化酵素によっ
て消化・分解されるものの、PB−Iは消化されずに排
泄されるが、この原因はPB−Iの強固な層状構造によ
るためと言われている(前出、化学と生物)。清酒醸造
において、本発明者らは、清酒醪中ではPB−IIは分解
されアミノ酸、ペプチドとなるものの、PB−Iは消化
されずに清酒粕に移行することを明らかにしている(木
崎:第14回酒造米懇談会講演要旨集p1〜12(19
90))。
【0006】本発明者は、清酒中のアミノ酸の低減のた
めの方法として、白米を浸漬する場合に薄い酸を用いる
と米貯蔵蛋白質が全蛋白質の約25%程度溶出すること
も明らかとしているが、溶出蛋白質は薄い酸に溶解する
グルテリン蛋白質(PB−II)だけでなくプロラミン蛋
白質(PB−I)も溶出されることを明らかにした。ま
た、グルテリン蛋白質を構成する約40kDaの酸性サ
ブユニットと約20kDaの塩基性サブユニットのうち
酸性サブユニットが一部分解されることも明らかにした
(木崎、松永、小関、荒巻、小林:平成3年度日本醸造
学会大会講演要旨集、講演No.4(1991))。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、米、米粉又
は白糠からPB−II区分(グルテリン蛋白質)のみを選
択的且つ効率的に抽出する方法を単に開発するだけでな
く、分離抽出したPB−II蛋白質の食品や医薬等への用
途も考慮して、食品公害のない安全性も高い方法を開発
する目的でなされたものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記したよう
に数多くのファクターが複雑にからみ合って解決するこ
とが困難な課題を解決するためになされたものであっ
て、各方面から検討した結果、米、米粉または白糠中に
は、3種類の米貯蔵蛋白質が含まれていることが知られ
ているが、蒸す操作および薄い酸による浸漬によりプロ
テインボディーIIのみを選択的に抽出できることを発見
した。そして、この方法により抽出される蛋白質は、米
蛋白質分解酵素活性を測定する場合の基質として最適で
あるほか、食品への蛋白質の補強、機能性ペプチド製造
の材料として利用しうるという有用な新知見も得た。
【0009】そして更に、本発明者は、蒸米と薄い酸と
の関係を知るため、蒸した米を薄い乳酸に浸漬し、溶出
する蛋白質の組成を検討した結果、蒸さない米とは異な
りグルテリン蛋白質のみが、溶出すること、さらに、オ
ートクレーブ処理による加圧蒸し(121℃、1.2気
圧、15分)を行うと、蛋白質がほとんど溶出されない
ことも確認した。このように、米、米粉または白糠を蒸
して薄い酸に浸漬する事により、米のグリテリン蛋白質
のみを抽出することができることを発見し、更に研究の
結果、本発明を完成するのに成功した。以下、本発明に
ついて詳述する。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明を実施するには、米、米粉
又は白糠を原料として用い、処理を行う。なお、本発明
を白米の場合を例にとって説明するが、米粉や白糠を原
料として用いる場合には、白米に準じて処理を行えばよ
い。
【0011】浸漬処理は、白米に対して1〜20倍量の
水を用い、10〜20℃で30分〜10時間浸漬すれば
よい。次いで必要あれば脱水機で1〜10分間、好まし
くは3分程度処理するか自然水切りによって水切りを行
った後、蒸きょう処理を行う。蒸きょう処理は、酒造米
の処理の場合と同様にこしきないし蒸し器や自動蒸きょ
う装置等を用いて10〜100分程度水蒸気で蒸せばよ
い。
【0012】蒸した後、冷却し、そのままあるいは乾燥
させ、次いで希酸で処理する。希酸としては、乳酸、リ
ンゴ酸、コハク酸、クエン酸、フマール酸、酢酸、リン
酸、及び/又は塩酸の0.05〜5%液を使用する。希
酸処理は、希酸中に蒸米を浸漬する等、白米と希酸とが
充分に接触する処理であればすべての処理が使用可能で
ある。希酸水溶液に浸漬する場合、10〜20℃で1〜
30時間浸漬すればよい。その際、蒸米を直接希酸水溶
液中に浸漬してもよいし、サラン(商品名)製等の網に
白米を包み、これを希酸水溶液中に入れて浸漬処理して
もよい。
【0013】浸漬後、上記したように水切りを行い、あ
るいは、濾過等の固液分離処理を行って、浸漬白米と浸
漬水とに分離する。蛋白質は浸漬水中に含まれているの
で、浸漬水を透析後、凍結乾燥することによって目的蛋
白質を得る。
【0014】このようにして得た蛋白質は、PB−IIの
グルテリン蛋白質のみであることが確認され、本発明に
よってはじめて、米貯蔵蛋白質中のプロテインボディー
II区分のみを選択的且つ効率的に抽出することが可能と
なり、しかも食品公害等の危険性もなく安全に抽出する
ことができる。以下、本発明の実施例について述べる
が、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
【実施例1】 (1)蒸し米の乳酸浸漬は次のようにして行った。精米
歩合70%の日本晴を10倍量の水(15℃)に2時間
浸漬した後、水切りし(脱水機3分)、こしきを用いて
50分間蒸きょうした。そして放冷し(荒抜き、20分
放冷)、ここで蒸し米の吸水率を測定した。結果を下記
表1(A欄)に示す。
【0016】
【表1】
【0017】浸漬米をサラン(商品名)製の網に包み、
原料白米の10倍量の乳酸水溶液(乳酸濃度0〜0.9
%)に15℃で18時間浸漬した。そして水切りし(脱
水機3分)て浸漬白米と浸漬水に分離した(乳酸浸漬後
の吸水率を測定し、結果を表1(B欄)に示す。)。
【0018】浸漬水(抽出液)1mlに2%のスルフォ
サリチル酸1mlを加え、蛋白質を沈殿せしめた。遠心
分離して上澄と残渣に分離し、残渣(蛋白質沈殿部)を
0.1NのNaOHに溶解し、牛血清アルブミンを標準
蛋白質としてローリー法により乳酸に溶出する蛋白質量
を求めた(O. H. Lowry et. al., J. Biol. Chem., 19
3, 265(1951))。得られた結果を表1(C欄)に示す。
【0019】表1に示したように、乳酸を含まない水で
は、ほとんど蛋白質が抽出されないのに対し、乳酸濃度
0.18から0.90%の範囲で白米1gあたり5.5
mgから6.1mgの蛋白質が抽出できた。なお、この
抽出量は、表1(D欄)に示した生米の乳酸浸漬の約4
0%程度である。しかしながら、下記するように、生米
を使用した場合は、PB−I及びPB−IIのいずれもが
抽出されてしまい、PB−IIのみを選択的に抽出するこ
とはできないし、そのうえ、PB−IIは一部分解してお
り、この方法では所期の目的は達成されない。
【0020】(2)前項と同様に酸浸漬処理を行い(但
し、蒸きょう処理は行わず、生米を使用した)、各種酸
溶液(w/v%)処理における溶出蛋白質について、L
aemmliのバッファーによる10〜20%のリニア
グラジエントのSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳
動(以下、SDS−PAGEという)を行い(U. K.Lae
mmli, Nature, 227(15), 680-685(1970))、図1の結果
を得た。図中、Mはマーカー(カーボニック アンハイ
ドラーゼ:Carbonic anhydrase、分子量29,00
0)、レーン1は蒸留水、レーン2〜4は乳酸(0.1
8%、0.54%、0.90%)、レーン5〜7はリン
ゴ酸(0.20%、0.60%、1.0%)、レーン8
〜10はクエン酸(0.20%、0.60%、1.0
%)を示す。
【0021】この結果から明らかなように、生米を使用
したのでは、いくら酸処理をしても、約40kDaと約
20kDaのPB−IIを構成するグルテリンの酸性及び
塩基性のサブユニット蛋白質、それに、10〜16kD
aのPB−Iを構成するプロラミン蛋白質もともに溶出
してしまい、PB−IIのみを選択的に抽出することは不
可能である。また、グルテリン蛋白質のバンドが一部分
解していることもわかる。
【0022】(3)上記に対して、蒸米を使用して乳酸
浸漬処理を行い、抽出された蛋白質の組成についてSD
S−PAGEを行い、図2の結果を得た。図中、各レー
ンは、それぞれ下記の意味を有する。 M:タンパク質マーカー(MW=29kDaのカーボニ
ックアンハイドラーゼ) 1:蒸留水抽出 2:乳酸0.09%抽出 3:乳酸0.18%抽出 4:乳酸0.54%抽出 5:乳酸0.90%抽出
【0023】この結果から明らかなように、PB−IIの
グルテリンの蛋白質のみが選択的に抽出された。すなわ
ち、図の様に、50分蒸しの蒸米の乳酸浸漬による溶出
蛋白質にはPB−IIを構成するグルテリン区分のみが現
れ、10〜16kDaのバンドはほとんど見られない。
蒸すことにより、PB−Iの乳酸水溶液に対する溶出性
は極端に低下するものと考えられる。また、PB−IIに
関しては、2本のバンドのみが観察され、生米の乳酸浸
漬で見られたグルテリンの分解は見られない。溶出PB
−IIの分解の抑制は、明らかに加熱によるためと考えら
れる。
【0024】(4)生米、10分蒸し、60分蒸し、及
び加圧蒸米の粉砕試料を使用して、0.9%の乳酸浸漬
処理を行い、残渣及び抽出された蛋白質の組成について
SDS−PAGEを行い、図3の結果を得た。図中、レ
ーン1〜4は残渣の、また、レーン5〜8は溶出した蛋
白質を示し、Mは分子量マーカーを示す。
【0025】この結果から明らかなように、対照であ
る、レーン5の生米ではPB−II及びPB−Iの構成蛋
白質が溶出し、レーン6、7の10分、60分蒸しでは
PB−II区分のみが溶出されるのに対し、レーン8の加
圧蒸米では蛋白質はほとんど溶出しないことが判明し
た。
【0026】(5)以上、米蛋白質の蒸きょうに伴う性
質変化をまとめて下記表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】上記から明らかなように、乳酸浸漬試験に
おいては、常圧蒸米ではPB−IIのみが溶出し、その量
は白米全蛋白質の約10%程度で、しかもPB−IIの分
解が抑制されること、加圧蒸米では乳酸による蛋白質の
溶出がほとんどないことが確認された。
【0029】
【発明の効果】本発明によって、米、米粉又は白糠か
ら、米貯蔵蛋白質の内プロテインボディーII(Protein
Body-II)区分のみを、分解、変性させることなく、効
率的、工業的に抽出することができる。このようにして
得られたグルテリン蛋白質は、純度が高いだけでなく安
全性も高いので、試薬はもとより、基質、医薬又は食品
用の各種素材として広範な用途に広く使用することがで
きる。
【図面の簡単な説明】
【図1】生米の各種酸浸漬における溶出蛋白質のSDS
−PAGEを示す。
【図2】乳酸液によって蒸米から抽出された蛋白質のS
DS−PAGEを示す。
【図3】生米、蒸米、加圧蒸米の乳酸液浸漬における溶
出蛋白質のSDS−PAGEを示す。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 矢尾 博之 広島県東広島市鏡山三丁目7番1号 国 税庁醸造研究所内 (72)発明者 高橋 康次郎 広島県東広島市鏡山三丁目7番1号 国 税庁醸造研究所内 (72)発明者 小林 信也 広島県東広島市鏡山三丁目7番1号 国 税庁醸造研究所内 (56)参考文献 特開 昭48−99200(JP,A) 特開 昭61−67447(JP,A) 特開 昭61−143323(JP,A) 特開 昭63−179899(JP,A) 特公 昭50−16798(JP,B1) 特公 昭52−20480(JP,B1) 石谷孝佑、外1名著、「米の科学」朝 倉書店発行(’95.9.1)、p.71− 75 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C07K 14/415 BIOSIS(DIALOG) WPI(DIALOG)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 米、米粉又は白糠を吸水し蒸した後、そ
    のままもしくは乾燥し、次いで希酸処理することによ
    り、米貯蔵蛋白質中のプロテインボディーII区分のみを
    抽出すること、を特徴とする米蛋白質の抽出方法。
  2. 【請求項2】 希酸処理が、乳酸、リンゴ酸、コハク
    酸、クエン酸、フマール酸、酢酸、リン酸、及び/又は
    塩酸の0.05〜5%液に浸漬する処理であること、を
    特徴とする請求項1に記載の抽出方法。
JP08195696A 1996-03-12 1996-03-12 米貯蔵蛋白質の抽出方法 Expired - Lifetime JP3146344B2 (ja)

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JP2009213371A (ja) * 2008-03-07 2009-09-24 National Institute Of Agrobiological Sciences 米粉としてパン類の原料に用いられる米を評価及び選別する方法
JP6651201B2 (ja) * 2018-01-30 2020-02-19 学校法人金沢工業大学 レジスタントプロテイン含有物の製造方法
JP2020074715A (ja) * 2018-11-08 2020-05-21 食協株式会社 水中油滴型乳化物および水中油滴型乳化物の製造方法

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石谷孝佑、外1名著、「米の科学」朝倉書店発行(’95.9.1)、p.71−75

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