JP6496484B2 - 創傷治癒剤 - Google Patents
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また、ガーゼ、脱脂綿及び軟膏等に代わり、適度な湿潤環境を維持するために、カルボキシメチルセルロース(CMC)ゲル(特許文献1)等の湿潤環境維持を目的とした創傷被覆材が用いられる場合がある。しかしながら、CMCゲルは滲出液等によりゲル構造を保持することが難しく、創傷部から脱離したり、菌感染の温床になる問題がある。
一方で、湿潤環境を保つだけでなく、肉芽組織形成や上皮化を促進する創傷治癒剤として、コラーゲンスポンジ(特許文献2)が知られている。コラーゲンスポンジは生体適合性が良いなどの特徴を有するものの、湿潤環境維持に乏しく、細菌に感染しやすい、細菌が増殖しやすい、滲出液により劣化する、及び材料が入手困難である等の問題がある。
また、従来の創傷治癒剤を用いた場合、肉芽組織が形成されても、その後肉芽組織の線維化が進まず、不良肉芽や過剰肉芽となる場合がある。また、肉芽組織の線維化を促進させる剤は知られていない。
アミノ酸配列(X):VPGVG配列(2)、GVGVP配列(3)及びGAHGPAGPK配列(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列。
アミノ酸配列(X’):アミノ酸配列(X)中の1〜2個のアミノ酸がそれぞれリシン又はアルギニンで置換されたアミノ酸配列。
複素せん断弾性率:創傷治癒剤を37℃で75時間、レオメーター(10rpm)にて複素せん断弾性率を測定し、10分おきに値を観測し、複素せん断弾性率の変化量が1%以内になったときの値。
アミノ酸配列(X):VPGVG配列(2)、GVGVP配列(3)及びGAHGPAGPK配列(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列。
アミノ酸配列(X’):アミノ酸配列(X)中の1〜2個のアミノ酸がそれぞれリシン又はアルギニンで置換されたアミノ酸配列。
複素せん断弾性率:創傷治癒剤を37℃で75時間、レオメーター(10rpm)にて複素せん断弾性率を測定し、10分おきに値を観測し、複素せん断弾性率の変化量が1%以内になったときの値。
本発明において、βシート構造率が上記範囲であることで、タンパク質(A)中のアミノ酸配列(X)及び/又はアミノ酸配列(X’)が効率よく細胞と相互作用し、肉芽組織形成作用や上皮化促進作用に優れる。さらに、長期的にゲル構造を保持することができる。また、創傷治癒剤の複素せん断弾性率が上記範囲であることで、形成された肉芽組織の線維化促進作用に優れる。また、本発明の創傷治癒剤は、時間の経過及び熱等の刺激を加える等によりゲル化するので、創傷に適用した際にゲル化し、創傷部を密閉することができ、菌の増殖を抑制することができる。また、ゲル化物は、湿潤環境を維持し、細胞の増殖を促すことができる。
βシート構造率は、ゲル化能維持の観点から、25.5〜60%が好ましく、さらに好ましくは30〜60%、特に好ましくは35〜60%である。
βシート構造率は、(A)を硫安沈殿、限外濾過、アフィニティクロマトグラフィー及び陰イオン交換クロマトグラフィー等により、リフォールディングすることによって増加させることができる。また、変性剤や熱等で変性させることによって低下させることができる。
(A)の円二色性スペクトル法によるβシート構造率は、下記測定法によって測定する。
タンパク質を0.3mg/mlとなるように脱イオン水(4℃)に溶解し、タンパク質の水溶液を作製する。作製した(A)の水溶液を円二色性スペクトル測定器(日本分光株式会社製、「J−820」)にて測定し(測定温度:4℃)、二次構造解析プログラム(JWSSE型−480型:日本分光株式会社製)にてβシート構造率を算出する。
また、タンパク質(A)1分子中のGAGAGS配列(1)の含有量(質量%)は、βシート構造率を適度にする観点から、(A)の分子質量を基準として、5〜65質量%が好ましく、さらに好ましくは10〜50質量%である。
<GAGAGS配列(1)の含有量と、アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計含有量の測定法>
特定のアミノ酸残基で切断出来る切断方法から2種類以上を用いて、タンパク質(A)を30残基以下程度まで分解する。その後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分離した後、プロテインシークエンサーにてアミノ酸配列を読み取る。得られたアミノ酸配列からペプチドマッピングして、タンパク質(A)の全配列を決定する。その後、以下記載の測定式にてGAGAGS配列(1)、アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計含有量を算出する。
GAGAGS配列(1)の含有量(質量%)=[{GAGAGS配列(1)の分子質量}×{GAGAGS配列(1)の数}]/{(A)の分子質量}×100
アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計含有量(質量%)=[{アミノ酸配列(X)の分子質量}×{アミノ酸配列(X)の数}+{アミノ酸配列(X’)の分子質量}×{アミノ酸配列(X’)の数}]/{(A)の分子質量}×100
タンパク質(A)における全アミノ酸数のうちGAGAGS配列(1)が占める割合は、プロテインシークエンサーによって求めることができる。具体的には、下記の測定法により求める。
特定のアミノ酸残基で切断出来る切断方法の2種類以上を用いて、タンパク質(A)を30残基以下程度まで分解する。その後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分離した後、プロテインシークエンサーにてアミノ酸配列を読み取る。得られたアミノ酸配列からペプチドマッピングして、タンパク質(A)の全配列を決定する。その後、以下記載の測定式にてGAGAGS配列(1)の占める割合を算出する。
GAGAGS配列(1)の占める割合(%)=[{GAGAGS配列(1)の数×6}/{(A)中の全アミノ酸の数}×100
ポリペプチド鎖(S)において、GAGAGS配列(1)が連続する個数は、βシート構造率を適度にする観点から、2〜100個が好ましく、さらに好ましくは2〜50個であり、特に好ましくは2〜10個である。
アミノ酸配列(X):VPGVG配列(2)、GVGVP配列(3)及びGAHGPAGPK配列(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列。
アミノ酸配列(X’):アミノ酸配列(X)の1〜2個のアミノ酸がそれぞれリシン又はアルギニンで置換されたアミノ酸配列。
アミノ酸配列(X’)は、細胞親和性及び(A)がゲル化する観点から、GKGVP配列(7)、GKGKP配列(8)及びGRGRP配列(10)からなる群より選ばれる少なくとも1種の配列が好ましく、さらに好ましくはGKGVP配列(7)及び/又はGKGKP配列(8)である。
ポリペプチド鎖(Y’):(Y)において、(Y)中の全アミノ酸数の0.1〜20%のアミノ酸がそれぞれリシン又はアルギニンで置換されたポリペプチド鎖。
タンパク質(A)1分子中に、ポリペプチド鎖(Y)を複数有する場合は、(VPGVG)b配列、(GVGVP)c配列及び(GAHGPAGPK)d配列からなる群から選ばれる1種を有してもよく、2種以上を有してもいい。
また、タンパク質(A)中にポリペプチド鎖(Y)を複数有する場合は、上記(X)の連続する個数は、(Y)ごとに同一でも異なっていてもよい。すなわち、(X)の連続する個数b〜dが同じポリペプチド鎖(Y)を複数有してもよく、b〜dが異なるポリペプチド鎖(Y)を複数有してもよい。
ポリペプチド鎖(Y)としては、細胞親和性、(A)がゲル化する及びβシート構造率を適度にする観点から、(VPGVG)b配列及び/又は(GVGVP)c配列が好ましい。
ポリペプチド鎖(Y’)において、(Y)中の全アミノ酸数のうちリシン又はアルギニンで置換された合計割合は、(A)の水への溶解性、細胞親和性及びβシート構造率を適度にする観点から、0.5〜10%が好ましく、さらに好ましくは1〜5%である。
(A)中の(Z)の含有量(質量%)は、(A)の分子質量を基準として、細胞親和性及びβシート構造率を適度にする観点から、0〜20質量%が好ましく、さらに好ましくは0〜10質量%である。
(A)中の(T)の含有量(質量%)は、(A)の分子質量を基準として、細胞親和性及びβシート構造率を適度にする観点から、0〜10質量%が好ましく、さらに好ましくは0〜5質量%である。
以下に、各精製タグ(i)とそのタグを認識結合するリガンド(ii)との組み合わせの一例を示す。
(i−1)グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GTS) (ii−1)グルタチオン
(i−2)マルトース結合タンパク質(MBP) (ii−2)アミロース
(i−3)HQタグ (ii−3)ニッケル
(i−4)Mycタグ (ii−4)抗Myc抗体
(i−5)HAタグ (ii−5)抗HA抗体
(i−6)FLAGタグ (ii−6)抗FLAG抗体
(i−7)6×Hisタグ (ii−7)ニッケル又はコバルト
前記精製タグ配列の導入方法としては、発現用ベクターにおけるタンパク質(A)をコードする核酸の5’又は3’末端に精製タグをコードする核酸を挿入する方法や市販の精製タグ導入用ベクターを使用する方法等が挙げられる。
また、GAGAGS配列(1)の数と、アミノ酸配列(X)及び(X’)の数との比[配列(1):{(X)及び(X’)}]は、細胞親和性及びβシート構造率を適度にする観点から、1:1〜1:12が好ましく、さらに好ましくは1:1〜1:6であり、次にさらに好ましくは1:1〜1:4である。
(A1)アミノ酸配列(X)がGVGVP配列(3)であるタンパク質
(A11)GVGVP配列(3)が2〜200個連続したポリペプチド鎖(Y1)中のアミノ酸がK(リシン)で置換されたポリペプチド鎖(Y’1)とGAGAGS配列(1)が2〜200個連続したポリペプチド鎖(S1)とを有するタンパク質
(A11−1)GVGVP配列(3)が8個連続したポリペプチド鎖(Y11)の1個のアミノ酸がKで置換された(GVGVP)4GKGVP(GVGVP)3配列(6)(Y’11)と、GAGAGS配列(1)が2〜200個連続したポリペプチド鎖(S1)を有するタンパク質
(A11−1−1)GAGAGS配列(1)が4個連続した(GAGAGS)4配列(5)と(GVGVP)4GKGVP(GVGVP)3配列(6)とを有するタンパク質
具体的には、下記タンパク質が含まれる。
(i)(GAGAGS)4配列(5)を12個及び(GVGVP)4GKGVP(GVGVP)3配列(6)を13個有し、これらが交互に化学結合してなるものに、(GAGAGS)2配列(14)が化学結合した分子質量が約80kDaの配列(27)のタンパク質(SELP8K)
(ii)(GAGAGS)2配列(14)及び(GVGVP)4GKGVP(GVGVP)3配列(6)をそれぞれ17個有し、これらが交互に化学結合してなる構造を有する分子質量が約82kDaの配列(15)のタンパク質(SELP0K)
具体的には、下記タンパク質が含まれる。
(i)(GAGAGS)8配列(16)及び(GVGVP)8配列(17)をそれぞれ12個有し、これらが交互に化学結合してなる構造を有する分子質量が約90kDaの配列(18)のタンパク質(SELP3)
(ii)(GAGAGS)8配列(16)及び(GVGVP)40配列(19)をそれぞれ5個有し、これらが交互に化学結合してなる構造を有する分子質量が約110kDaの配列(20)のタンパク質(SELP6.1)
(iii)(GAGAGS)6配列(21)及び(GVGVP)2配列(22)をそれぞれ29個有し、これらが交互に化学結合してなる構造を有する分子質量が約120kDaの配列(23)のタンパク質(SLP4.1)
(A21)VPGVG配列(2)が2〜200個連続したポリペプチド鎖(Y2)とGAGAGS配列(1)を有するタンパク質
(i)GAGAGS配列(1)、(VPGVG)4配列(24)及び(VPGVG)8配列(25)をそれぞれ40個有し、これらが配列(24)、配列(1)、配列(25)の順に結合したブロックが40個化学結合してなる構造を有する分子質量約200kDaの配列(26)のタンパク質(ELP1.1)
創傷治癒剤中のタンパク質(A)の含有量(重量%)は、(A)の水への溶解性、(A)がゲル化する観点及び創傷への適用のしやすさの観点から、創傷治癒剤の重量を基準として、5〜40重量%が好ましく、さらに好ましくは10〜40重量%、特に好ましくは15〜40重量%である。
創傷治癒剤中の水の含有量(重量%)は、(A)の水への溶解性、(A)がゲル化する観点及び創傷への適用のしやすさの観点から、創傷治癒剤の重量を基準として、60〜95重量%が好ましく、さらに好ましくは60〜90重量%であり、特に好ましくは60〜85重量%である。
創傷治癒剤中の無機塩の含有量(重量%)は、人間の体液と浸透圧を同等にする観点及び複素せん断弾性率を適度にするという観点から、創傷治癒剤の重量を基準として0.4〜1.3重量%が好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.2重量%、特に好ましくは0.6〜1.1重量%である。
リン酸(塩)としては、リン酸及びリン酸塩が挙げられる。
塩としては、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が挙げられ、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩等が挙げられる。
創傷治癒剤中のリン酸(塩)の含有量(重量%)は、創傷治癒の観点から、創傷治癒剤の重量を基準として0.10〜0.30重量%が好ましく、さらに好ましくは0.12〜0.28重量%、特に好ましくは0.14〜0.26重量%である。
この範囲であれば、創傷治癒剤中のタンパク質(A)が変性することなく、βシート構造率を維持でき、創傷治癒剤を用いて菌増殖を抑制し、肉芽組織形成や上皮化を促進し、拘縮抑制をすることができる。
(1)本発明のタンパク質(A)及び水を4〜25℃で混合し、創傷治癒剤とする。水中には必要により塩及び/又はリン酸(塩)を含んでもいい。また、タンパク質(A)を水に溶解させた後、必要により塩及び/又はリン酸(塩)を含むようにしてもよい。
複素せん断弾性率は、(A)を溶解させる溶媒のイオン強度を高く(無機塩濃度を高く)したり、創傷治癒剤中のタンパク質(A)の濃度を上昇させることで大きくすることができる。
複素せん断弾性率:創傷治癒剤を37℃で75時間、レオメーター(10rpm)にて複素せん断弾性率を測定し、10分おきに値を観測し、複素せん断弾性率の変化量が1%以内になったときの値。
複素せん断弾性率は下記測定法により求めることができる。
創傷治癒剤を37℃で75時間、レオメーター(ティー・エイ・インスツルメント社製、回転数:10rpm)にて複素せん断弾性率を測定し、10分おきに値を観測する。複素せん断弾性率の変化量が1%以内になったときの値を複素せん断弾性率とする。
患部への適用方法の一例を示す。
(1)患部に創傷治癒剤を投与する。
(2)投与後、創傷治癒剤が患部から流出しないように、適当なドレッシングで被覆する。
ドレッシングの形状としては、創傷治癒剤を投与後に、創傷治癒剤が患部から流出しないように被覆できれば制限なく使用できるが、フィルム状が好ましい。
創傷治癒剤をゲル化させる温度は、創傷治癒剤を短時間でゲル化させる観点から、創傷治癒剤を25℃〜80℃が好ましい。80℃以下であると、組織再生用材料の機能を低下させずにゲル化させることができ、また、ゲル化までの時間が適度である。
また、創傷治癒剤を使用する場合、適用時の創傷治癒剤の温度は、タンパク質(A)の熱安定性及びハンドリング性の観点から、4〜80℃が好ましく、さらに好ましくは4〜60℃、次にさらに好ましくは25〜50℃、特に好ましくは30〜40℃である。
[タンパク質(A1−1)の作製]
○SELP8Kタンパク質(A1)の生産
特許第4088341号公報の実施例記載の方法に準じて、SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345を作製した。
作製したプラスミドを大腸菌にトランスフォーメーションし、SELP8K生産株を得た。以下、このSELP8K生産株を用いて、配列(27)のタンパク質(A)であるSELP8Kタンパク質(A1)を生産する方法を示す。
30℃で生育させたSELP8K生産株の一夜培養液を使用して、250mlフラスコ中のLB培地50mlに接種した。カナマイシンを最終濃度50μg/mlとなるように加え、該培養液を30℃で攪拌しながら(200rpm)インキュベートした。培養液が濁度OD600=0.8(吸光度計UV1700:島津製作所製を使用)となった時に、40mlを42℃に前もって温めたフラスコに移し、同じ温度で約2時間培養した。培養した培養液を氷上で冷却し、培養液の濁度OD600を測定し、遠心分離にて大腸菌を集菌した。
集菌した大腸菌を、下記1:菌体溶解、2:遠心分離による不溶性細片の除去、3:硫安沈殿、4:限外濾過、5:陰イオン交換クロマトグラフィー、6:限外濾過、7:凍結乾燥を行うことにより大腸菌バイオマスから精製した。このようにして、分子質量が約80kDaの配列(27)のタンパク質(A)である精製したタンパク質(A1−1)を得た。
集菌した大腸菌100gに対して、脱イオン水200gを加えて、高圧ホモジナイザー(55MPa)にて菌体溶解し、溶解した菌体を含む菌体溶解液を得た。その後、菌体溶解液を氷酢酸にてpH4.0に調整した。
さらに菌体溶解液を遠心分離(6300rpm、4℃、30分間)して、上清を回収した。
回収した上清に硫安濃度が25重量%となるように飽和硫安溶液を投入した。その後、8〜12時間静置した後、遠心分離にて沈殿物を回収した。回収した沈殿物を脱イオン水に溶解した。溶解した液に対して、同様に硫安濃度が25重量%となるように飽和硫安溶液を投入した。その後、8〜12時間静置した後、遠心分離にて沈殿物を回収した。回収した沈殿物を脱イオン水に溶解し、溶液を得た。
3で得た溶液を分子質量30,000カットの限外濾過装置(ホロファーバー:GEヘルスケア製)に供した。3で得た溶液に対して、10倍量の脱イオン水を用いて、限外濾過を実施し、限外濾過後のタンパク質を得た。
限外濾過後のタンパク質を10mM酢酸ナトリウム緩衝液に溶解して20g/Lとし、陰イオン交換カラムHiPrepSP XL16/10(GEヘルスケア社製)をセットしたAKTAPrime(アマシャム社製)に供した。溶出液として500mM 10mM酢酸ナトリウム緩衝液を用いて、溶出画分を回収した。
5で得た溶液を上記「4:限外濾過」と同様にして処理し、限外濾過後のタンパク質を得た。
タンパク質を脱イオン水に溶解して10g/Lとし、水位が15mm以下となるようにステンレス製のバットに入れる。その後、凍結乾燥機(日本テクノサービス社製)に入れて、−40℃、8時間かけて凍結させる。凍結後、真空度が8Pa以下、−20℃で、70時間かけて1次乾燥、真空度が8Pa以下、10℃で、24時間かけて2次乾燥させ、精製したタンパク質(A1−1)を得た。
得られたタンパク質(A1−1)を下記の手順で同定した。
抗ラビットSELP8K抗体及びC末端配列の6×Hisタグに対する抗ラビット6×His抗体(Roland社製)を用いたウエスタンブロットにより分析した。見かけ分子質量80kDaのタンパク質バンドが、各抗体に抗体反応性を示した。また得られたタンパク質をアミノ分析供した結果、該生成物が、グリシン(43.7重量%),アラニン(12.3重量%),セリン(5.3重量%),プロリン(11.7重量%)及びバリン(21.2重量%)に富むものであった。また、該生成物はリシンを1.5重量%含んでいた。下記の表1は、精製された生成物の組成と、合成遺伝子配列から推測された予測理論組成との相関関係を示す。
したがって、タンパク質(A1−1)はGVGVP配列(3)が8個連続したポリペプチド鎖(Y)であり、(Y)中のVのうち1個がKに置換された(GVGVP)4GKGVP(GVGVP)3配列(6)のポリペプチド鎖(Y’11)を13個及びGAGAGS配列(1)が4個連続した(GAGAGS)4配列(5)のポリペプチド鎖(Y11)を12個有し、これらが交互に化学結合してなる配列(27)のタンパク質であることを確認した。
ウエスタンブロット用サンプル20μLに3×SDS処理バッファ(150mM Tris HCl(pH6.8)、300mM ジチオスレイトール、6重量% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.3重量% ブロモフェノールブルー、及び30重量% グリセロールを含む)10μLを添加して95℃5分間加温し、泳動用試料を調製した。この泳動用試料15μLを用いてSDS−PAGEを行った。泳動後のゲルをPVDFメンブレンにトランスファーし、これをブロッキングバッファ(20mM Tris(pH7.6)、137mM NaCl、0.1重量% Tween20、及び5重量% スキムミルクを含む)に浸漬して1時間室温で振蕩することによりメンブレンのブロッキング処理を行った。ブロッキング処理後、メンブレンをTBS−T(20mM Tris(pH7.6)、137mM NaCl、及び0.1重量% Tween20を含む)で2分間洗浄した。次に、メンブレンを一次抗体溶液(一次抗体:抗His−tag抗体(Rockland社製)をTBS−Tで500分の1に希釈した溶液)に浸漬し、4℃で一晩静置して抗体反応を行った。反応後、このメンブレンをTBS−Tで5分間、4回洗浄した後、一次抗体に結合可能であり且つ標識酵素として西洋ワサビペルオキシダーゼを結合させた二次抗体の溶液(二次抗体:ECL anti−mouse IgG HRP linked F(ab’)2 fragment(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)をTBS−Tで2000分の1に希釈した溶液)にメンブレンを浸漬し、30分間室温で静置して抗体反応を行った。反応後、メンブレンをTBS−Tで5分間、4回洗浄した後、ECL−Advance Western Blotting Detection Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)により酵素反応を行った。ルミノメーターForECL(アマシャム社製)を用いて、高感度インスタント黒白フィルム(富士フイルム株式会社製)に感光させ、バンドを可視化した。肉眼でバンドが確認できない場合、分解吸収され、無くなったと判断した。
得られたタンパク質(A1−1)について、下記手順でβシート構造率を測定した。
タンパク質(A1−1)を0.3mg/mlとなるように脱イオン水(4℃)に溶解し、タンパク質(A1−1)水溶液を作製した。作製したタンパク質(A1−1)水溶液を円二色性スペクトル測定器(日本分光:J−820)にて測定し(測定温度:4℃)、二次構造解析プログラム(JWSSE型−480:日本分光株式会社製)にてβシート構造率を算出した。結果を表2に示す。
製造例1の「タンパク質(A1−1)の作製」において、「タンパク質(A1−1)の精製」の「5:陰イオン交換クロマトグラフィー」と「6:限外濾過」との間に、下記「5−2:リフォールディング(大希釈法)」を行う以外は同様にして、タンパク質(A1−2)を作製し、βシート構造率を測定した。結果を表2に示す。
5−2:リフォールディング(大希釈法)
陰イオン交換クロマトグラフィーの溶出画分をタンパク質変性剤である10Mウレア溶液にて、6Mウレア溶液となるように調製し、12時間、4℃で静置した。調製した溶液を透析膜(Viskase Companies,Inc.社製)に投入し、溶出画分の10倍容量の脱イオン水にて12時間、透析した。その後、脱イオン水を捨て、新たに溶出画分の10倍容量の脱イオン水にて12時間、透析した。この操作を残り3回、計5回繰り返した後、透析膜中の溶液を回収した。
製造例1の「タンパク質(A1−1)の作製」において、「タンパク質(A1−1)の精製」の「5:陰イオン交換クロマトグラフィー」を実施しない以外は同様にして、タンパク質(A1−3)を作製し、βシート構造率を測定した。結果を表2に示す。
製造例1の「タンパク質(A1−1)の作製」において、「タンパク質(A1−1)の精製」の「3:硫安沈殿、4:限外濾過、5:陰イオン交換クロマトグラフィー」を実施せず、上記「5’:アフィニティクロマトグラフィー」行う以外は同様にして、タンパク質(A1−4)を作製し、βシート構造率を測定した。結果を表2に示す。
5’:アフィニティクロマトグラフィー
「2:遠心分離による不溶性細片の除去」後のタンパク質(A1−1)を、His−tagを用いたアフィニティクロマトグラフィー(クロンテック社製、TALON(登録商標)Single Step Columns)にて精製し、溶出画分を回収した。
タンパク質(A1−1)を、20mMリン酸緩衝液(NaCl:8g/L、KCl:0.2g/L、pH7.4)に溶解し、20重量%となるように調整した創傷治癒剤(1)を作製した。
タンパク質(A1−1)を、20mMリン酸緩衝液(NaCl:13g/L、KCl:0.2g/L、pH7.4)に溶解し、20重量%となるように調整した創傷治癒剤(2)を作製した。
タンパク質(A1−1)を、20mMリン酸緩衝液(NaCl:4.8g/L、KCl:0.2g/L、pH7.4)に溶解し、20重量%となるように調整した創傷治癒剤(3)を作製した。
タンパク質(A1−2)を、20mMリン酸緩衝液(NaCl:8g/L、KCl:0.2g/L、pH7.4)に溶解し、20重量%となるように調整した創傷治癒剤(4)を作製した。
タンパク質(A1−1)を、20mMリン酸緩衝液(NaCl:8g/L、KCl:0.2g/L、pH7.4)に溶解し、30重量%となるように調整した創傷治癒剤(5)を作製した。
タンパク質(A1−1)を、20mMリン酸緩衝液(NaCl:8g/L、KCl:0.2g/L、pH7.4)に溶解し、40重量%となるように調整した創傷治癒剤(6)を作製した。
タンパク質(A1−1)を、20mMリン酸緩衝液(NaCl:8g/L、KCl:0.2g/L、pH7.4)に溶解し、15重量%となるように調整した創傷治癒剤(7)を作製した。
タンパク質(A1−1)を、20mMリン酸緩衝液(NaCl:21.3g/L、KCl:0.2g/L、pH7.4)に溶解し、20重量%となるように調整した創傷治癒剤(8)を作製した。
タンパク質(A1−1)を、20mMリン酸緩衝液(NaCl:0.8g/L、KCl:0.2g/L、pH7.4)に溶解し、20重量%となるように調整した創傷治癒剤(9)を作製した。
タンパク質(A1−3)を、20mMリン酸緩衝液(NaCl:8g/L、KCl:0.2g/L、pH7.4)に溶解し、20重量%となるように調整した創傷治癒剤(10)を作製した。
タンパク質(A1−4)を、20mMリン酸緩衝液(NaCl:0.8g/L、KCl:0.2g/L、pH7.4)に溶解し、20重量%となるように調整した創傷治癒剤(11)を作製した。
タンパク質(A1−1)を、20mMリン酸緩衝液(NaCl:8g/L、KCl:0.2g/L、pH7.4)に溶解し、10重量%となるように調整した創傷治癒剤(12)を作製した。
タンパク質(A1−4)を、20mMリン酸緩衝液(NaCl:8g/L、KCl:0.2g/L、pH7.4)に溶解し、20重量%となるように調整した創傷治癒剤(13)を作製した。
創傷治癒剤(1)〜(13)を37℃で75時間、レオメーター(ティー・エイ・インスツルメント社製、回転数:10rpm)にて複素せん断弾性率を測定し、10分おきに値を観測した。複素せん断弾性率の変化量が1%以内になったときの値を複素せん断弾性率とした。
(タンパク質(A)のゲル化能評価)
創傷治癒剤(1)〜(13)を37℃で静置し、ゲル化するまでの時間を測定した。ゲル化をしたかどうかの確認は、創傷治癒剤(100μL)が入ったプラスティックチューブ容器(エッペンドルフチューブ、1.5mL)を5分毎に転倒し、溶液が垂れない場合はゲル化しているとし、溶液が垂れる場合もしくはゲル化するまでに300分を超える場合はゲル化しないと判断した。結果を表2に示す。
(健常モルモットを用いた全層欠損層モデルでの治療試験)
健常モルモット♀ std Hartley(日本エスエルシー社製)7週齢を麻酔下で除毛し、消毒したモルモット背部皮膚に脂肪層が完全に露出した創面10×10mmの全層皮膚欠損創を作製し、止血、乾燥した後、創傷治癒剤(1)〜(13)を各々、注入し、ポリウレタンフィルムを貼付した。その後、各創傷部の上にガーゼをのせて、ナイロン糸で創傷部周囲と固定した。治療期間5、10日目に検体を擬死させ、創傷部を含む皮膚を採取し、病理標本(HE染色)を作製した。それぞれの創傷治癒剤について、病理標本を1種類につき11個作製した。
作製した治療期間5日目の病理標本用いて、パニキュラス(筋様膜)からの肉芽組織高をマイクロルーラーを使用して測定した。評価結果は表2に示す。
なお、評価結果は、病理標本11個の平均値である。
また、治療期間10日目の病理標本用いて、正常組織から伸長した上皮化長をマイクロルーラーを使用して測定した。評価結果は表2に示す。
なお、評価結果は、病理標本11個の平均値である。
(健常モルモットを用いた全層欠損層モデルでの菌増殖抑制試験)
健常モルモット♀ std Hartley(日本エスエルシー社製)7週齢を麻酔下で除毛し、消毒したモルモット背部皮膚に脂肪層が完全に露出した創面10×10mmの全層皮膚欠損創を作製し、止血、乾燥した後、緑膿菌106個/1創傷部となるように播種し、創傷治癒剤(1)〜(13)を各々、注入し、ポリウレタンフィルムを貼付した。その後、各創傷部の上にガーゼをのせて、ナイロン糸で創傷部周囲と固定した。治療期間3日目に検体を擬死させ、創傷部を含む皮膚を採取し、細菌コロニー法にて細菌数を測定した。評価結果は表2に示す。
(健常モルモットを用いた全層欠損層モデルでの肉芽組織の線維化スコアリング試験)
評価2において、治療期間14日目で検体を擬死させる以外は同様にして、それぞれの創傷治癒剤(1)〜(13)について、病理標本を1種類につき13個作製した。作製した病理標本について、形成された肉芽組織の中でも新生血管及び線維芽細胞に富み、膠原線維の再生を伴う部分(線維性肉芽組織)を、以下の5段階の評価基準で評価し、点数化した。結果を表2に示す。なお、評価結果は、病理標本13個の平均値である。
1点:欠損部に対して全く肉芽組織が形成していない状態又は肉芽組織が形成された部分の面積内、線維性肉芽組織が0%
2点:肉芽組織が形成された部分の面積内、線維性肉芽組織が0%より大きく25%未満
3点:肉芽組織が形成された部分の面積内、線維性肉芽組織が25%以上50%未満
4点:肉芽組織が形成された部分の面積内、線維性肉芽組織が50%以上75%未満
5点:肉芽組織が形成された部分の面積内、線維性肉芽組織が75%以上
Claims (2)
- GAGAGS配列(1)並びに下記アミノ酸配列(X)及び/又は下記アミノ酸配列(X’)を有するタンパク質(A)と水と無機塩とを含む創傷治癒剤であって、無機塩の含有量が創傷治癒剤の重量に基づいて 0.4〜1.3重量%であり、タンパク質(A)が配列表の配列番号27のタンパク質であり、(A)の円二色性スペクトル法によるβシート構造率が25〜60%であり、創傷治癒剤の下記複素せん断弾性率が1×104〜1×108Paである創傷治癒剤。
アミノ酸配列(X):VPGVG配列(2)、GVGVP配列(3)及びGAHGPAGPK配列(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列。
アミノ酸配列(X’):アミノ酸配列(X)中の1〜2個のアミノ酸がそれぞれリシン又はアルギニンで置換されたアミノ酸配列。
複素せん断弾性率:創傷治癒剤を37℃で75時間、レオメーター(10rpm)にて複素せん断弾性率を測定し、10分おきに値を観測し、複素せん断弾性率の変化量が1%以内になったときの値。 - 創傷治癒剤の重量を基準として、タンパク質(A)が5〜40重量%、水が60〜95重量%である請求項1に記載の創傷治癒剤。
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