本発明は、以下に説明する複数の発明を包含する発明群に属する発明であり、以下に、その発明群の実施の形態として、第1ないし第4の実施の形態について説明するが、そのうち、第1および第2の実施の形態が、本出願人が特許請求の範囲に記載した発明に対応するものである。
以下、本発明の実施の形態による可変容量型斜板式油圧ポンプの構成について、添付図面に従って詳細に説明する。
まず、図1ないし図5は本発明の第1の実施の形態に係る可変容量型斜板式油圧ポンプを示している。
図1において、可変容量型斜板式油圧ポンプ1(以下、油圧ポンプ1という)は、例えば建設機械等に搭載された各種アクチュエータ(図示せず)で使用する圧油を吐出するものである。なお、油圧ポンプ1は、後述するピストン8の上死点が上側に位置し、下死点が下側に位置するように図示している。この油圧ポンプ1は、圧油の吐出方向が予め決められた油圧ポンプとして構成されている。油圧ポンプ1は、後述のケーシング2、斜板支持部材4、回転軸5、シリンダブロック6、シリンダ7、ピストン8、シュー9、弁板11、斜板12、静圧軸受用油溝13、突起嵌合溝14、突起15、傾転アクチュエータ16,17等により構成されている。
ケーシング2は、油圧ポンプ1の外殻となる筒状体として形成されている。このケーシング2は、筒状のケーシング本体2Aと、該ケーシング本体2Aの両端側を閉塞したフロントケーシング2B、リヤケーシング2Cとからなり、その内部はポンプ室2Dとなっている。なお、ケーシング本体2Aは、フロントケーシング2Bまたはリヤケーシング2Cのいずれか一方と一体に形成する構成としてもよいものである。
ケーシング本体2Aの一側に位置するリヤケーシング2Cには、図2に示すように、一対の給排通路を構成する吸込通路3Aと吐出通路3Bとが設けられている。吸込通路3Aは、作動油の供給源となる作動油タンク(図示せず)に接続され、吐出通路3Bは、制御弁装置に向けて延びる吐出管路(いずれも図示せず)に接続される。また、ケーシング本体2Aの他側に位置するフロントケーシング2Bには、後述の斜板支持部材4が斜板12の裏面側に対向して設けられている。
斜板支持部材4は、ケーシング2のポンプ室2D内の他側となるフロントケーシング2B側に設けられている。斜板支持部材4には、図2、図4に示すように、後述の回転軸5を挟んで、一対の傾転支持面4A,4Bが一体に形成されている。斜板支持部材4の傾転支持面4A,4Bは、後述の斜板12を傾転可能(揺動可能)に支持するものである。
斜板支持部材4の傾転支持面4A,4Bは、斜板12を構成する脚部12A,12Bの凸湾曲面12C,12Dに対応して凹湾曲状に形成されている。斜板支持部材4は、斜板12を、図1中の矢示A,B方向に傾転(摺動)可能に案内するものである。また、斜板支持部材4には、図2に示すように、各傾転支持面4A,4B間に位置して軸挿通孔4Cが穿設され、この軸挿通孔4C内には、回転軸5が隙間をもって挿通される。
ここで、斜板支持部材4の傾転支持面4A,4Bは、図4に示すように、長さ方向の一端縁4A1,4B1と他端縁4A2,4B2に対し、長さ方向の中間部が最深部4A3,4B3となる凹湾曲面として形成されている。そして、傾転支持面4A,4Bは、斜板12を構成する各脚部12A,12Bの凸湾曲面12C,12Dが傾転(摺動)可能に嵌合するもので、この傾転支持面4A,4Bのうち、高圧側(圧油の吐出側)に位置する傾転支持面4Aには、後述する突起15が設けられている。
回転軸5は、ケーシング2のポンプ室2D内を軸方向に延びて設けられ、該回転軸5は、フロントケーシング2Bとリヤケーシング2Cとにそれぞれ軸受を介して回転可能に支持されている。回転軸5の他端側は、フロントケーシング2Bから軸方向に突出する突出端5Aとなり、この突出端5Aには、エンジン等の原動機が動力伝達機構等(いずれも図示せず)を介して連結される。
シリンダブロック6は、回転軸5と一体に回転するようにケーシング2内に設けられ、該シリンダブロック6には、その周方向に離間して軸方向に延びる複数のシリンダ7(図1、図2中にそれぞれ1個ずつ図示)が設けられている。一般的に、シリンダブロック6に設けられるシリンダ7の個数は、奇数個、例えば7個または9個に設定されている。
ピストン8は、シリンダブロック6の各シリンダ7内にそれぞれ摺動可能に挿嵌されている。各ピストン8は、シリンダブロック6の回転に伴ってシリンダ7内を往復動し、吸入行程と吐出行程とを繰返すものである。
シュー9は、各ピストン8にそれぞれ設けられている。具体的には、各シュー9は、シリンダブロック6のシリンダ7から回転軸5の軸方向に突出するピストン8の端部にそれぞれ揺動可能に取付けられている。
シュー押え10は、各シュー9を斜板12に対して保持するものである。このシュー押え10は、図1に示す如く、後述する斜板12の平滑面12Eに向けてシュー9をそれぞれ押圧し、斜板12の平滑面12E上で各シュー9が環状軌跡を描くように摺動変位するのを補償するものである。
弁板11は、ケーシング2内に位置してリヤケーシング2Cとシリンダブロック6との間に固定して設けられている。この弁板11は、シリンダブロック6の端面に摺接することにより、回転軸5と一体に回転するシリンダブロック6を回転可能に支持している。また、弁板11には、眉形状をなす一対の給排ポート11A,11Bが円を描くように形成され、これらの給排ポート11A,11Bは、リヤケーシング2Cの吸込通路3A,吐出通路3Bと連通している。
弁板11の給排ポート11A,11Bは、シリンダブロック6の回転時に各シリンダ7と間欠的に連通する。このとき、各シリンダ7内を往復するピストン8は、その吸入行程で、吸込通路3A、給排ポート11Aを介して各シリンダ7内に作動油を吸込む。また、ピストン8による吐出行程では、各シリンダ7内で高圧状態となった圧油を給排ポート11Bを介して吐出通路3Bから吐出させる。
これにより、作動油を吸込む吸込通路3A側と圧油を吐出する吐出通路3B側とでは、それぞれの位置でピストン8がシュー9を介して斜板12を押圧する力が異なる。しかも、このときの押圧力は、シリンダブロック6内の各ピストン8の位置によっても異なる。このため、油圧ポンプ1の稼働時には、図5に示すように、斜板12に対し揺動モーメントCが発生し、この揺動モーメントCは、斜板12を矢示B方向(傾転角度が小さくなる方向)に傾転させるように作用することになる。
斜板12は、ケーシング2内に斜板支持部材4を介して傾転可能に設けられている。この斜板12の裏面側には、図3、図4に示すように、斜板支持部材4の傾転支持面4A,4Bに向けて凸湾曲状に突出した一対の脚部12A,12Bが設けられている。
斜板12の脚部12A,12Bは、回転軸5を挟むように離間して配置され、凹湾曲状をなす斜板支持部材4の傾転支持面4A,4Bに摺動可能に嵌合されるものである。即ち、脚部12A,12Bは、斜板支持部材4の傾転支持面4A,4Bに摺動可能に嵌合する凸湾曲面12C,12Dを有する円弧状の半円柱体として形成されている。この半円柱体からなる脚部12A,12Bの凸湾曲面12C,12Dは、斜板支持部材4の傾転支持面4A,4Bに油膜を挟んで嵌合するように、該傾転支持面4A,4Bとほぼ同じ湾曲面をなしている。
具体的には、凸湾曲面12C,12Dは、湾曲した長さ方向の一端縁12C1,12D1と他端縁12C2,12D2に対し、長さ方向の中間部が頂部12C3,12D3となる凸湾曲状に突出して形成されている。そして、脚部12Aは、その凸湾曲面12Cが傾転支持面4Aに摺動可能に嵌合されている。一方、脚部12Bは、その凸湾曲面12Dが傾転支持面4Bに摺動可能に嵌合されている。ここで、各脚部12A,12Bのうち、圧油の吐出側(高圧側)に位置する脚部12Aの凸湾曲面12Cには、後述する静圧軸受用油溝13が設けられている。
一方、斜板12の表面側(シリンダブロック6側)は、図1、図3に示すように、各シュー9を摺動可能に案内する平滑面12Eとなっている。また、斜板12の中央位置には、その板厚方向(ケーシング2の軸方向)に貫通して延びる貫通孔12Fが設けられ、該貫通孔12Fには、脚部12A,12B間に位置して回転軸5が隙間をもって挿通される。斜板12は、後述の傾転アクチュエータ16,17を用いることによって、図1中の矢示A,B方向に傾転駆動される。そして、油圧ポンプ1の吐出容量(圧油の吐出流量)は、斜板12の傾転角に応じて可変に制御されるものである。
次に、本発明の特徴部分となる静圧軸受用油溝13、突起嵌合溝14、突起15の構成について述べる。
静圧軸受用油溝13は、斜板12に設けられた一対の脚部12A,12Bのうち、圧油の圧力を受承した吐出行程のピストン8によって押圧される脚部12Aの凸湾曲面12Cに設けられている。この静圧軸受用油溝13は、脚部12Aの凸湾曲面12Cに沿って溝深さが深く切欠かれ、吐出通路3Bから後述の導油通路18を通じて圧油が導かれることにより、脚部12Aの凸湾曲面12Cと斜板支持部材4の傾転支持面4Aとの間を潤滑状態に保持するものである。
静圧軸受用油溝13は、図4、図5に示すように、半円柱体として形成された脚部12Aに設けられた凸湾曲面12Cの頂部12C3を中心にし、半円柱体の両方の端縁12C1,12C2に向けて一定長さ延びる長溝として形成されている。この静圧軸受用油溝13は、例えば矩形状またはU字状の断面が連続するように一定の幅寸法をもって延びる凹溝として形成されている。静圧軸受用油溝13の長さ寸法は、斜板12を最大傾転角度とした場合でも、後述の導油通路18と連通することができる寸法に設定されている。
ここで、静圧軸受用油溝13は、凸湾曲面12Cから溝底13Aまでの深さ寸法が寸法H1に設定されている。静圧軸受用油溝13は、図5中で矢示A方向側となる溝端位置が一端面13Bとなり、この一端面13Bは、深さ寸法H1により大きな面積を有している。
一方、静圧軸受用油溝13は、図5中で矢示B方向側となる溝端位置が他端面13Cとなり、この他端面13Cは、後述する突起嵌合溝14と繋がる(連続する)ことで、一端面13Bでの深さ寸法H1よりも小さな深さ寸法H2となっている(H2<H1)。これにより、他端面13Cは、一端面13Bよりも小さな受圧面積を有している。
なお、各端面13B,13Cは、凸湾曲面12Cに対してほぼ垂直となるように放射方向に延びて形成しているが、凸湾曲面12Cに対して傾斜させる構成としてもよい。また、静圧軸受用油溝13は、矩形状、U字状以外の断面形状、例えば三角形状、五角形状等の断面形状とすることもできる。
このように形成された静圧軸受用油溝13は、吐出通路3Bから導油通路18を介して圧油が供給されることにより、この圧油によって潤滑状態を保持し、斜板支持部材4の傾転支持面4Aとの間で静圧軸受として機能することができる。
突起嵌合溝14は、静圧軸受用油溝13と一緒に脚部12Aの凸湾曲面12Cに設けられている。この突起嵌合溝14は、静圧軸受用油溝13の位置から凸湾曲面12Cに沿って円弧状に延び、後述する突起15が摺動可能に嵌合するものである。
ここで、突起嵌合溝14は、静圧軸受用油溝13と同一の幅寸法をもった矩形溝として形成され、静圧軸受用油溝13の溝端位置となる他端面13Cから連続し、脚部12Aの凸湾曲面12Cに沿って切欠かれている。突起嵌合溝14の深さ寸法は、静圧軸受用油溝13の全体の深さ寸法H1よりも浅い寸法H3に設定されている。これにより、静圧軸受用油溝13の他端面13Cにおける深さ寸法は、全体の深さ寸法H1よりも突起嵌合溝14の深さ寸法H3だけ浅くなった寸法H2に設定されている(H2=H1−H3)。
突起15は、斜板支持部材4に設けられた一対の傾転支持面4A,4Bのうち、斜板12の脚部12Aと対面する一方の傾転支持面4Aに設けられている。突起15は、脚部12A側の突起嵌合溝14に嵌合されることにより、吐出通路3Bから導かれた圧油を静圧軸受用油溝13内に封じ込め、この圧油が外部に漏洩するのを抑えるものである。
この場合、突起15は、傾転支持面4Aから突起嵌合溝14および静圧軸受用油溝13に向け突出した状態で前記傾転支持面4Aに沿って延び、脚部12Aの突起嵌合溝14に摺動可能に嵌合されるものである。
また、突起15は、突起嵌合溝14に対して圧油が漏れない僅かな隙間で嵌合するように、矩形状に突出しつつ、傾転支持面4Aに沿って円弧状に延びる突条として形成されている。さらに、突起15は、傾転支持面4Aの他端縁4A2から最深部4A3の近傍まで延びて設けられている。
これにより、突起15は、斜板12の傾転動作を許しつつ、突起嵌合溝14に嵌合されることにより、静圧軸受用油溝13を密閉することができる。これにより、突起15は、一端面13Bと他端面13Cとに圧油による圧力を作用させることにより、静圧軸受用油溝13の長さ方向の両端に受圧面積差をもたせることができる。
一対の傾転アクチュエータ16,17は、斜板12を傾転駆動するものである。各傾転アクチュエータ16,17は、図1に示すように、シリンダブロック6の径方向外側に位置してケーシング本体2Aに形成されたシリンダ穴16A,17Aと、該シリンダ穴16A,17A内に摺動可能に挿嵌され、該シリンダ穴16A,17Aとの間に油圧室16B,17Bを画成した傾転ピストン16C,17Cと、油圧室16B,17B内に傾転制御圧を給排するためケーシング本体2Aに形成された制御圧通路16D,17Dとを含んで構成されている。
傾転アクチュエータ16,17は、ケーシング本体2Aに対しシリンダブロック6の径方向で互いに対向する位置に配設され、傾転ピストン16C,17Cによって斜板12を矢示A,B方向に傾転駆動する。即ち、傾転アクチュエータ16,17の油圧室16B,17Bには、図1に示す制御圧通路16D,17Dを通じて外部から傾転制御圧が給排される。なお、傾転アクチュエータ16,17に供給される傾転制御圧には、吐出通路3Bから吐出される圧油を利用することもできる。
ここで、図1に示す如く、傾転制御圧により傾転アクチュエータ17の傾転ピストン17Cがシリンダ穴17A内から伸長し、傾転アクチュエータ16の傾転ピストン16Cがシリンダ穴16A内に縮小するときには、斜板12が傾転ピストン16Cによって矢示A方向(斜板12の傾転角が大きくなる正方向)に傾転駆動される。一方、傾転ピストン16Cがシリンダ穴16A内から伸長し、傾転ピストン17Cがシリンダ穴17A内に縮小するときには、斜板12が傾転ピストン17Cによって矢示B方向(斜板12の傾転角が小さくなる逆方向)に傾転駆動される。
導油通路18は、ケーシング2に設けられている(図2参照)。この導油通路18は、長さ方向の一側がリヤケーシング2C側で吐出通路3Bに接続されている。一方、導油通路18の長さ方向の他側は、分岐してフロントケーシング2B側で斜板支持部材4の傾転支持面4Aの最深部4A3と傾転支持面4Bの最深部4B3とに開口している。これにより、導油通路18は、吐出通路3Bに吐出される圧油を静圧軸受用油溝13等に供給することができる。
第1の実施の形態による可変容量型斜板式油圧ポンプ1は、上述の如き構成を有するもので、次に、斜板12の傾転動作について説明する。
まず、油圧ポンプ1の吐出容量を増大させるときには、傾転アクチュエータ17の傾転ピストン17Cを伸長させ、傾転アクチュエータ16の傾転ピストン16Cを縮小させる。これにより、斜板12は、傾転角が大きくなるように図1中の矢示A方向に傾転駆動される。
一方、油圧ポンプ1の吐出容量を減少させるときには、傾転アクチュエータ16の傾転ピストン16Cを伸長させ、傾転アクチュエータ17の傾転ピストン17Cを縮小させる。これにより、斜板12は、傾転角が小さくなるように図1中の矢示B方向に傾転駆動される。
ここで、可変容量型斜板式の油圧ポンプ1では、シリンダ7から吐出通路3Bに吐出される圧油の圧力を油圧反力として受圧したピストン8が、シュー9を介して斜板12を斜板支持部材4側に押圧する。このとき、各ピストン8が斜板12を押圧する力により、斜板12を傾転(揺動)させようとするモーメント(図5中の揺動モーメントC)が発生する。傾転アクチュエータ16,17によって斜板12を揺動モーメントCが作用する方向と同じ方向に傾転させる場合には、同方向に作用する揺動モーメントCによって小さな操作力で傾転させることができる。しかし、傾転アクチュエータ16,17によって斜板12を揺動モーメントCに逆らう方向に傾転させる場合には、逆方向に作用する揺動モーメントCの分だけ大きな操作力が必要になる。
然るに、第1の実施の形態によれば、斜板12の脚部12Aには、凸湾曲面12Cに沿って溝深さが深く切欠かれ、吐出通路3Bからの圧油が導かれる静圧軸受用油溝13を設ける。また、斜板12の脚部12Aには、前記静圧軸受用油溝13の溝端位置となる他端面13Cから連続して前記凸湾曲面12Cに沿って切欠かれ、静圧軸受用油溝13の深さ寸法H1よりも浅い寸法H3をもった突起嵌合溝14を設ける。さらに、斜板支持部材4の傾転支持面4Aには、該傾転支持面4Aから突起嵌合溝14および静圧軸受用油溝13に向け突出した状態で傾転支持面4Aに沿って延び、脚部12Aの突起嵌合溝14に摺動可能に嵌合される突起を設ける。従って、突起15は、突起嵌合溝14に嵌合されることにより、静圧軸受用油溝13の長さ方向の両端面13B,13Cに受圧面積差をもたせることができる。
即ち、静圧軸受用油溝13は、一端面13Bの面積を大きな深さ寸法H1によって大きく設定し、他端面13Cの面積を小さな深さ寸法H2によって小さく設定している。この構成では、静圧軸受用油溝13に圧油が供給されたときには、圧油の圧力が各端面13B,13Cに作用する。この場合、斜板12には、大きな一端面13Bと小さな他端面13Cとの受圧面積差により、圧力が矢示A方向に傾転させるように作用する。
これにより、斜板12に揺動モーメントCが作用した場合でも、一端面13Bで圧油の圧力を受承することにより、斜板12には、揺動モーメントCに対抗する矢示A方向に押圧力を作用させることができる。
この結果、斜板12を傾転動作させる傾転アクチュエータ16,17は、揺動モーメントCに逆らう方向に斜板12を傾転させる場合、揺動モーメントCの方向に斜板12を傾転させる場合のいずれも場合でも、小さな操作力で斜板12を傾転させることができる。これにより、傾転アクチュエータ16,17を小型化できるから、可変容量型斜板式油圧ポンプ1の小型化、軽量化、低コスト化を図ることができる。
次に、図6および図7は本発明の第2の実施の形態を示している。この実施の形態の特徴は、例えば、油圧閉回路に用いられる両傾転式の油圧ポンプを対象にしている。このため、突起嵌合溝は、斜板に設けられた一対の脚部に回転軸を基準にして点対称となるようにそれぞれ設け、突起は、同じく回転軸を基準にして点対称となるように斜板支持部材に設けられた一対の傾転支持面にそれぞれ設ける構成としている。なお、第2の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図6において、第2の実施の形態による可変容量型斜板式油圧ポンプ21(以下、油圧ポンプ21という)は、後述の斜板24の傾転方向によって圧油の吐出方向を切換えることができる両傾転式の油圧ポンプとして構成されている。油圧ポンプ21は、前述した斜板支持部材4、回転軸5、シリンダブロック6、シリンダ7、ピストン8、シュー9、弁板11、傾転アクチュエータ16,17と、後述のケーシング22、斜板24、静圧軸受用油溝25,26、突起嵌合溝27,28、突起29,30とを含んで構成されている。
第2の実施の形態によるケーシング22は、第1の実施の形態によるケーシング2とほぼ同様に、ケーシング本体22A、フロントケーシング22Bおよびリヤケーシング22Cから構成されている。しかし、第2の実施の形態によるケーシング22は、リヤケーシング22Cに一対の給排通路23A,23Bが設けられている点で、第1の実施の形態によるケーシング2と相違している。ここで、給排通路23Aと給排通路23Bとは、後述する斜板24の傾転角を、角度零の位置から一方向と他方向とに選択的に傾転駆動することにより、作動油を吸込む吸込通路と圧油を吐出する吐出通路とを相互に切換えて使用することができる。
第2の実施の形態による斜板24は、第1の実施の形態による斜板12とほぼ同様に、脚部24A,24B、凸湾曲面24C,24D(一端縁24C1,24D1、他端縁24C2,24D2、頂部24C3,24D3)、平滑面24E、貫通孔24Fにより構成されている。しかし、第2の実施の形態による斜板24は、第1の実施の形態による斜板12に比較し、作動油の吸込側と吐出側とを反転できる位置まで傾転角が大きく設定されている点で相違している。
第2の実施の形態による第1の静圧軸受用油溝25は、第1の実施の形態による静圧軸受用油溝13と同様に、脚部24Aの凸湾曲面24Cに設けられ、溝底25A、一端面25B、他端面25Cにより構成されている。
一方、第2の静圧軸受用油溝26は、回転軸5の軸線を基準にして第1の静圧軸受用油溝25と点対称となるように、脚部24Bの凸湾曲面24Dに設けられ、溝底26A、一端面26B、他端面26Cにより構成されている。
第1の突起嵌合溝27は、第1の実施の形態による突起嵌合溝14と同様に、第1の静圧軸受用油溝25と同一の幅寸法をもった矩形溝からなり、該第1の静圧軸受用油溝25と一緒に脚部24Aの凸湾曲面24Cに設けられている。この第1の突起嵌合溝27は、後述する第1の突起29が摺動可能に嵌合するもので、第1の静圧軸受用油溝25と連続するように、該第1の静圧軸受用油溝25の他端面25Cから凸湾曲面24Cの他端縁24C2まで、該凸湾曲面24Cに沿って円弧状に延びている。
第2の突起嵌合溝28は、回転軸5の軸線を基準にして第1の突起嵌合溝27と点対称となるように、第2の静圧軸受用油溝26と一緒に脚部24Bの凸湾曲面24Dに設けられている。この第2の突起嵌合溝28は、第2の静圧軸受用油溝26と同一の幅寸法をもった矩形溝として形成されている。第2の突起嵌合溝28は、後述する第2の突起30が摺動可能に嵌合するもので、第2の静圧軸受用油溝26と連続するように、該第2の静圧軸受用油溝26の一端面26Bから凸湾曲面24Dの一端縁24D1まで、該凸湾曲面24Dに沿って円弧状に延びている。
第1の突起29は、斜板支持部材4の傾転支持面4Aに設けられている。第1の突起29は、第1の実施の形態による突起15と同様に、脚部24A側の第1の突起嵌合溝27に嵌合されることにより、第1の静圧軸受用油溝25の長さ方向の両端面25B,25Cに受圧面積差をもたせるものである。
第1の突起29は、第1の突起嵌合溝27に対して圧油が漏れない僅かな隙間で嵌合するように、矩形状に突出しつつ、傾転支持面4Aに沿って円弧状に延びる突条として形成されている。また、第1の突起29は、傾転支持面4Aの他端縁4A2から最深部4A3の近傍まで延びて設けられている。これにより、第1の突起29は、斜板24の傾転動作を許しつつ、第1の静圧軸受用油溝25を密閉することで、その一端面25Bと他端面25Cとに圧油による圧力を作用させることができる。
第2の突起30は、回転軸5の軸線を基準にして第1の突起29と点対称となるように、斜板支持部材4の傾転支持面4Bに設けられている。第2の突起30は、脚部24B側の第2の突起嵌合溝28に嵌合されることにより、第2の静圧軸受用油溝26の長さ方向の両端面26B,26Cに受圧面積差をもたせるものである。
第2の突起30は、第2の突起嵌合溝28に対して圧油が漏れない僅かな隙間で嵌合するように、矩形状に突出しつつ、傾転支持面4Bに沿って円弧状に延びる突条として形成されている。また、第2の突起30は、傾転支持面4Bの一端縁4B1から最深部4B3の近傍まで延びて設けられている。これにより、突起30は、斜板24の傾転動作を許しつつ、第2の静圧軸受用油溝26を密閉することで、その一端面26Bと他端面26Cとに圧油による圧力を作用させることができる。
第1の導油通路31は、図6に示すように、長さ方向の一側が給排通路23Aと接続され、他側が第1の静圧軸受用油溝25に連通するように、斜板支持部材4の傾転支持面4Aの最深部4A3に開口している。これにより、第1の導油通路31は、給排通路23Aを流通する圧油を第1の静圧軸受用油溝25に供給することができる。
第2の導油通路32は、長さ方向の一側が給排通路23Bと接続され、他側が第2の静圧軸受用油溝26に連通するように、斜板支持部材4の傾転支持面4Bの最深部4B3に開口している。これにより、第2の導油通路32は、給排通路23Bを流通する圧油を第2の静圧軸受用油溝26に供給することができる。
かくして、第2の実施の形態によれば、第1の静圧軸受用油溝25と第2の静圧軸受用油溝26、第1の突起嵌合溝27と第2の突起嵌合溝28、第1の突起29と第2の突起30は、回転軸5を基準にして点対称となるようにそれぞれ設ける構成としている。これにより、傾転角が零の位置を基準として斜板24を一方向と他方向とに選択的に傾転して圧油の吐出方向を切換えることができる両傾転式の油圧ポンプ21でも、揺動モーメントCに対抗する押圧力を斜板24に作用させることができ、この斜板24を傾転駆動する傾転アクチュエータを小型化することができる。
次に、図8および図9は本発明の第3の実施の形態を示している。この実施の形態の特徴は、斜板に設けられた一対の脚部のうち少なくとも一方の脚部には、凸湾曲面に沿って切欠かれ各給排通路からの圧油が導かれる静圧軸受用油溝を設け、一対の脚部のうち少なくとも一方の脚部には、凸湾曲面から斜板支持部材の傾転支持面に向け突出し静圧軸受用油溝の溝端位置から凸湾曲面に沿って延びる突起を設け、斜板支持部材に設けられた一対の傾転支持面のうち少なくとも一方の傾転支持面には、傾転支持面に沿って切欠かれ脚部の突起が摺動可能に嵌合される突起嵌合溝を設け、突起は、突起嵌合溝に嵌合されることにより静圧軸受用油溝の長さ方向の両端に受圧面積差をもたせる構成としたことにある。なお、第3の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図8において、第3の実施の形態による静圧軸受用油溝41は、斜板12の脚部12Aの凸湾曲面12Cに設けられている。この静圧軸受用油溝41は、凸湾曲面12Cの頂部12C3を中心にし、半円柱体の両方の端縁12C1,12C2に向けて一定長さ延びる長溝として形成されている。この静圧軸受用油溝41は、例えば矩形状またはU字状の断面が連続するように延びる凹溝として形成され、凸湾曲面12Cから溝底41Aまでの深さ寸法は、図9に示すように、寸法H4に設定されている。静圧軸受用油溝41は、矢示A方向側となる端部が一端面41Bとなり、矢示B方向側となる端部が他端面41Cとなっている。
ここで、静圧軸受用油溝41は、一端面41Bの深さ寸法H4(径方向寸法)を、後述する突起42の高さ寸法H5によって径方向の外側に延長することにより大きな寸法H6としている(H6=H4+H5)。これにより、静圧軸受用油溝41の一端側には、他端面41Cの深さ寸法H4よりも大きな寸法H6の端面を形成することができる(H6>H4)。
静圧軸受用油溝41は、吐出通路3Bから導油通路18を介して圧油が供給されることにより、この圧油によって潤滑状態を保持し、斜板支持部材4の傾転支持面4Aとの間で静圧軸受として機能することができる。
突起42は、静圧軸受用油溝41と一緒に脚部12Aの凸湾曲面12Cに設けられている。この突起42は、静圧軸受用油溝41の位置から傾転支持面4Aに向けて突出し、脚部12Aの凸湾曲面12Cに沿って円弧状に延びる突条として形成されている。突起42は、後述の突起嵌合溝43に摺動可能に嵌合するもので、静圧軸受用油溝41の溝端位置となる一端面41Bと半円柱体をなす脚部12Aの凸湾曲面12Cの一端縁12C1との間に、例えば静圧軸受用油溝41と同一の幅寸法をもって断面矩形状に突出している。
ここで、突起42は、静圧軸受用油溝41の一端面41Bと連続するように設けられている。突起42の端面42Aは、径方向の高さ寸法H5(突出寸法)を有している。これにより、突起42は、圧力を受承する一端面41Bの深さ寸法H4(径方向寸法)を、端面42Aの高さ寸法H5の分だけ大きくすることができる。
突起嵌合溝43は、斜板支持部材4の傾転支持面4Aに設けられている。この突起嵌合溝43は、傾転支持面4Aに沿って円弧状に延び、脚部12Aの突起42が摺動可能に嵌合されるものである。突起嵌合溝43は、傾転支持面4Aの一端縁4A1から最深部4A3の近傍まで延びて設けられている。
従って、突起嵌合溝43は、突起42が嵌合されることにより、吐出通路3Bから導かれた圧油を静圧軸受用油溝41内に封じ込め、前記圧油が外部に漏洩するのを抑えることができる。これにより、静圧軸受用油溝41を密閉することで、その一端面41Bと他端面41Cとに圧油による圧力を作用させることができる。
かくして、第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、第3の実施の形態によれば、静圧軸受用油溝41は、一端面41B側の面積を大きな深さ寸法H6によって大きく設定し、他端面41Cの面積を小さな深さ寸法H4によって小さく設定している。これにより、斜板12には、大きな一端面41Bと小さな他端面41Cとの面積差(受圧面積の差)により、揺動モーメントCに抗する方向に斜板12を押圧することができる。
次に、図10は本発明の第4の実施の形態を示している。この実施の形態の特徴は、例えば、油圧閉回路に用いられる両傾転式の油圧ポンプを対象にしている。このため、突起嵌合溝は、斜板支持部材に設けられた一対の傾転支持面に回転軸を基準にして点対称となるようにそれぞれ設け、突起は、同じく回転軸を基準にして点対称となるように斜板に設けられた一対の脚部にそれぞれ設ける構成としている。なお、第4の実施の形態では、前述した第3の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図10において、第4の実施の形態による斜板51は、脚部51A,51B、凸湾曲面51C,51D、平滑面51E、貫通孔51Fにより構成されている。この第4の実施の形態による斜板51は、第3の実施の形態による斜板12に比較し、作動油の吸込側と吐出側とを反転できる位置まで傾転角が大きく設定されている点で相違している。
第4の実施の形態による第1の静圧軸受用油溝52は、第3の実施の形態による静圧軸受用油溝41と同様に、脚部51Aの凸湾曲面51Cに設けられ、溝底52A、一端面52B、他端面52Cにより構成されている。
一方、第2の静圧軸受用油溝53は、回転軸5の軸線を基準にして第1の静圧軸受用油溝52と点対称となるように、脚部51Bの凸湾曲面51Dに設けられ、溝底53A、一端面53B、他端面53Cにより構成されている。
第4の実施の形態による第1の突起54は、第3の実施の形態による突起42と同様に、脚部51Aの凸湾曲面51Cから傾転支持面4Aに向けて突出し、脚部51Aの凸湾曲面51Cに沿って円弧状に延びる突条として形成されている。
第2の突起55は、回転軸5の軸線を基準にして第1の突起54と点対称となるように、第2の静圧軸受用油溝53と一緒に脚部51Bの凸湾曲面51Dに設けられている。この第2の突起55は、設置された向き以外について第1の突起54と同様に形成されている。
第4の実施の形態による第1の突起嵌合溝56は、第3の実施の形態による突起嵌合溝43と同様に、斜板支持部材4の傾転支持面4Aに設けられている。この第1の突起嵌合溝56は、傾転支持面4Aに沿って円弧状に延び、脚部51Aの第1の突起54が摺動可能に嵌合されるものである。
第2の突起嵌合溝57は、回転軸5の軸線を基準にして第1の突起嵌合溝56と点対称となるように、斜板支持部材4の傾転支持面4Bに設けられている。この第2の突起嵌合溝57は、設置された向き以外について第1の突起嵌合溝56と同様に形成されている。
かくして、第4の実施の形態によれば、第1の静圧軸受用油溝52と第2の静圧軸受用油溝53、第1の突起54と第2の突起55、第1の突起嵌合溝56と第2の突起嵌合溝57は、回転軸5を基準にして点対称となるようにそれぞれ設ける構成としている。これにより、傾転角が零の位置を基準として斜板51を一方向と他方向とに選択的に傾転して圧油の吐出方向を切換えることができる両傾転式の油圧ポンプでも、揺動モーメントCに対抗する押圧力を斜板51に作用させることができ、この斜板51を傾転駆動する傾転アクチュエータを小型化することができる。
なお、第1の実施の形態では、斜板支持部材4を、ケーシング2と別個に設けた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、傾転支持部材をケーシングのフロントケーシングと一体的に形成する構成としてもよい。この構成は、他の実施の形態についても同様に適用できるものである。