(第1の実施形態)
図1は、交差点の周囲に存在する自車、二輪車および他車を示している。図2は、図1中の自車5および二輪車8を拡大して示している。図1において、自車5は、道路1を走行しており、交差点3に接近しつつある。自車5の前方には二輪車8が走行しており、二輪車8は、交差点3にまさに進入するところである。自車5が走行している道路1において、交差点3の向こう側の反対車線には他車6が走行している。また、道路1と交わる道路2には、もう1つの他車7が停止している。自車5および他車6、7はそれぞれ四輪の自動車であり、いずれも運転を自動的に行う機能を有する自動運転車両である。一方、二輪車8は自動二輪車である。二輪車8は、運転を自動的に行う機能を有していない。
自車5は、運転制御機能、車車間通信機能、および前方車両監視機能等を備えている。運転制御機能は、自動運転を行うべく、自車5の発進、停止、制動、加速、減速、操舵等を自動的に制御する機能である。車車間通信機能は、自車5と他車6、7との間で無線通信を行い、各車両の自動運転に要する情報等を互いに提供し合う機能である。前方車両監視機能は、自車5の前方の二輪車8が転倒するか否かを判断し、二輪車8が転倒したときには、その旨を自車5の運転者に通知し、または、運転制御機能を利用して自車5を停止させ、または、車車間通信機能を利用して、二輪車8が転倒したことを示す情報を他車6、7に提供する機能である。運転制御機能および前方車両監視機能を実現するために、自車5は、図2に示すように、撮像部の一手段としてのカメラ13をはじめ、後述するように自車5の周囲を監視する種々の撮像手段および検出手段を備えている。なお、他車6、7も自車5と同様に、これらの機能、および車両の周囲を監視する種々の撮像手段および検出手段を備えている。
図3は自車5に設けられた車両制御システム11を示している。上述した運転制御機能、車車間通信機能および前方車両監視機能は、この車両制御システム11により実現される。なお、他車6、7にも図3に示す車両制御システム11が設けられている。
図3において、車両制御システム11は、自車5の周囲を監視する撮像手段として、カメラ13および赤外線カメラ14を備え、自車5の周囲を監視する検出手段として、超音波センサ15、ミリ波レーダ16およびレーザレーダ17等を備えている。カメラ13および赤外線カメラ14は撮像部の具体例である。カメラ13および赤外線カメラ14は、自車5の前方を撮像する装置であり、いずれもビデオカメラ等である。具体的には、カメラ13は、撮像対象から発せられる可視光線を電気信号に変換して画像を生成する装置であり、日中における撮像に用いられる。一方、赤外線カメラ14は、撮像対象から発せられる遠赤外線を電気信号に変換して画像を生成する装置であり、夜間における撮像に用いられる。カメラ13および赤外線カメラ14は、例えば自車5の運転室内においてフロントガラスの近傍に取り付けられている。超音波センサ15は、超音波を発射し、それが対象物に反射して返ってくるまでの時間を計測することで、対象物の有無や、対象物までの距離を検出する装置である。ミリ波レーダ16は、ミリ波帯の電波を発射し、反射波の帰還時間や周波数を測定することで、対象物との距離、速度または方向を検出する装置である。レーザレーダ17は、レーザを照射し、そのレーザの反射を観測することで、対象物との距離を測定する装置である。超音波センサ15、ミリ波レーダ16およびレーザレーダ17は自車5の車体に取り付けられている。
また、車両制御システム11は、主に自車5の位置および状態を認識するための装置として、ジャイロセンサ31、加速度センサ32、車速センサ33、およびGPS(グローバル・ポジショニング・システム)受信部34を備えている。これらのセンサは自車5の車体に取り付けられている。
また、車両制御システム11は、記憶部21、通知部22、前方車両監視部23、運転制御部35、および車車間通信部36を備えている。これらは車体に設けられており、また、これらは例えばバスを介して相互に接続されている。
記憶部21は、例えば書換可能な不揮発性の半導体記憶素子、またはハードディスクドライブ等を備えている。記憶部21には、自車5の位置を認識するのに要する地図データ、および二輪車8の転倒の判断に要する後述の距離基準値等が記憶されている。
通知部22は、自車5の運転室内に設けられ、自車5の運転者に向け、種々の情報を視覚的にまたは音声により出力する装置である。例えば、通知部22は、文字および画像を表示するディスプレイを備え、音声または警報音を鳴らすスピーカを備えている。
前方車両監視部23は、自車5の前方の二輪車8が転倒するか否かを判断し、二輪車8が転倒したときには、通知部22を介してその旨を自車5の運転者に通知し、運転制御部35と協働して自車5を停止させ、かつ、車車間通信部36を介して二輪車8の転倒を他車6、7へ伝える装置である。前方車両監視部23は、例えば演算処理装置にコンピュータプログラムを読み込ませ、それを実行することにより実現される。前方車両監視部23は、二輪車8が転倒するか否かの判断を行う転倒判断部24と、二輪車8が転倒したことを示す情報を通知部22、運転制御部35および車車間通信部36に出力する出力部25とを備えている。前方車両監視部23には、カメラ13、赤外線カメラ14、超音波センサ15、ミリ波レーダ16、およびレーザレーダ17が接続されている。転倒判断部24は、カメラ13もしくは赤外線カメラ14から得られる撮像画像、または超音波センサ15、ミリ波レーダ16もしくはレーザレーダ17から得られる情報を用いて自車5の前方の物体を認識し、カメラ13または赤外線カメラ14から得られる撮像画像を用いてその物体が二輪車8であることを認識し、さらに、当該撮像画像を用いて二輪車8が転倒するか否かを判断する。なお、車両制御システム11において、カメラ13、赤外線カメラ14、超音波センサ15、ミリ波レーダ16、レーザレーダ17、前方車両監視部23、記憶部21および通知部22を含む部分が、本発明の実施形態による前方車両監視装置12に相当する。
運転制御部35は、自車5の発進、停止、制動、加速、減速、操舵等を制御し、自車5の運転を自動的に行う装置である。運転制御部35には、カメラ13、赤外線カメラ14、超音波センサ15、ミリ波レーダ16、レーザレーダ17、ジャイロセンサ31、加速度センサ32、車速センサ33およびGPS受信部34が接続されている。運転制御部35は、ジャイロセンサ31、加速度センサ32、車速センサ33、またはGPS受信部34から得られる情報と、記憶部21に記憶保持された地図データを用い、自車5の位置、速度、走行方向等を特定する。また、運転制御部35は、カメラ13、赤外線カメラ14、超音波センサ15、ミリ波レーダ16、またはレーザレーダ17から得られる情報を用い、自車5の周辺の状態を認識する。さらに、運転制御部35は、車車間通信部36から出力された、他車6、7の位置、速度、走行方向等の情報を用い、他車6、7の走行を予測する。そして、運転制御部35は、自車5の位置、速度、走行方向等の特定、自車5の周囲の状態の認識、および他車6、7の走行の予測を行いつつ、自車5の運転者により指示された目的地に向かって自車5の運転を行う。また、運転制御部35は、二輪車8が転倒したことを示す情報が前方車両監視部23から出力されたときには、自車5を停止させる。また、運転制御部35は、自車5の位置、速度、走行方向等の情報を車車間通信部36へ出力する。
また、車車間通信部36は、運転制御部35から出力された、自車5の位置、速度、走行方向等の情報を他車6、7へ送信する。また、車車間通信部36は、他車6、7の位置、速度、走行方向等の情報を他車6、7から受信し、これらの情報を運転制御部35へ出力する。また、車車間通信部36は、二輪車8が転倒したことを示す情報が前方車両監視部23から出力されたとき、その情報を他車6、7へ送信する。
図4は、前方車両監視装置12が、二輪車8の転倒の発生の有無を判断し、二輪車8が転倒したときには、その旨を示す情報を通知部22、運転制御部35および車車間通信部36に出力する動作を示している。
図4に示すように、自車5が稼働を開始したとき、まず、日中においてはカメラ13が自車5の前方の撮像を開始し、夜間においては赤外線カメラ14が自車5の前方の撮像を開始する(ステップS1)。カメラ13および赤外線カメラ14のそれぞれの視野角は、例えば、図2に示すように30度ないし45度程度である。カメラ13または赤外線カメラ14は、自車5の前方の撮像画像を生成し、この撮像画像を前方車両監視部23へ出力する。また、自車5が稼働を開始したとき、超音波センサ15、ミリ波レーダ16、およびレーザレーダ17が自車5の周囲の状態の検出を開始し、自車5の前方の状態を示す情報を前方車両監視部23へ出力する。
続いて、前方車両監視部23の転倒判断部24が、カメラ13もしくは赤外線カメラ14から出力された撮像画像、または超音波センサ15、ミリ波レーダ16もしくはレーザレーダ17から出力された、自車5の前方の状態を示す情報から、自車5の前方に、自車5と同じ方向に直進している二輪車8が存在するか否かを判断する(ステップS2)。具体的には、転倒判断部24は、カメラ13もしくは赤外線カメラ14から出力された撮像画像、または超音波センサ15、ミリ波レーダ16もしくはレーザレーダ17から出力された情報に基づき、自車5の前方に物体が存在することを認識する。また、転倒判断部24は、カメラ13または赤外線カメラ14から出力された撮像画像に基づき、その物体が二輪車8であることを認識する。さらに、転倒判断部24は、カメラ13もしくは赤外線カメラ14から出力された撮像画像、または超音波センサ15、ミリ波レーダ16もしくはレーザレーダ17から出力された情報に基づき、その二輪車8が自車5と同じ方向に直進していることを認識する。
自車5の前方に自車5と同じ方向に直進している二輪車8が存在しない場合には(ステップS2:NO)、処理はステップS1へ戻る。そして、カメラ13または赤外線カメラ14は自車5の前方の撮像を続行し、超音波センサ15、ミリ波レーダ16、およびレーザレーダ17は自車5の周囲の状態の検出を続行する。
一方、自車5の前方に自車5と同じ方向に直進している二輪車8が存在する場合には(ステップS2:YES)、転倒判断部24が、カメラ13または赤外線カメラ14から出力された撮像画像内に含まれる二輪車画像を特定する(ステップS3)。
ここで、図5は、撮像画像内に含まれる二輪車画像41および地面42の画像を示している。図5に示すように、二輪車画像41は、後方から見た二輪車8およびその運転者を示す画像である。例えば晴天時の日中においてカメラ13から出力された撮像画像には、図5中の実線および破線で示したように、二輪車8の車体43、バックミラー44、テールランプ45、ナンバープレート46、後輪47、運転者の背中48、ヘルメット49等がそれぞれ識別可能に鮮明に映し出される。
ところが、激しい雨のときや霧が発生しているとき等、悪天候時の日中においてカメラ13から出力された撮像画像、または夜間において赤外線カメラ14から出力された撮像画像は、晴天時の日中においてカメラ13から出力された撮像画像と比較して不鮮明となる。例えば、悪天候時の日中または夜間の撮像画像においては、図5中の破線で示した部分等が曖昧になり、例えば二輪車8の車体43と運転者の背中48とを識別することが困難になる。
しかし、悪天候時の日中または夜間の撮像画像においても、自ら発光し、または比較的高い温度の熱を発しているテールランプ45はほぼ鮮明に映し出される。また、悪天候時の日中または夜間の撮像画像においても、4つの直線に囲まれた長方形のナンバープレート46の外形はほぼ鮮明に映し出される。また、悪天候時の日中または夜間の撮像画像においても、二輪車8およびその運転者の全体的な輪郭、すなわち、二輪車8の車体43、バックミラー44、後輪47、運転者の背中48、ヘルメット49の全体的な輪郭はほぼ鮮明に映し出される。したがって、悪天候時の日中または夜間の撮像画像において、テールランプ45、ナンバープレート46、または二輪車8およびその運転者の全体的な輪郭を認識することは、他の部分を認識することと比較して容易である。本実施形態において、転倒判断部24は、撮像画像において、二輪車8およびその運転者の全体的な輪郭を認識し、その輪郭の画像を二輪車画像41として特定する。
続いて、転倒判断部24は、カメラ13または赤外線カメラ14から出力された撮像画像内に含まれる地面を認識する(ステップS4)。図5に示すように、晴天時の日中にカメラ13から出力された撮像画像、悪天候時の日中にカメラ13から出力された撮像画像、および夜間に赤外線カメラ14から出力された撮像画像のいずれにおいても、地面42はほぼ鮮明に映し出される。転倒判断部24は、例えば、撮像画像において、二輪車8の輪郭の下端部(後輪47の下端部)に接する長い直線を地面42として認識する。
もっとも、夜間に赤外線カメラ14から出力された撮像画像において、地面42が不鮮明な場合には、同じ場所で日中に撮像した撮像画像を記憶部21に保持しておき、この日中の撮像画像に映し出されている地面の位置から、夜間の撮像画像における地面を推定してもよい。
続いて、転倒判断部24は、ステップS3で特定した二輪車画像41の図芯51を算出する(ステップS5)。二輪車画像41の図芯51は、二輪車画像の外形に基づいて周知の方法により算出することができる。
続いて、転倒判断部24は、二輪車画像41内であって地面42から離れた所定の位置に観測点を設定する。本実施形態において、転倒判断部24は、二輪車画像41の図芯51に基づいて観測点を設定する(ステップS6)。
ここで、図6は、二輪車画像41の図芯51の変位を示している。二輪車8が直進している間、二輪車8は、地面の凹凸、サスペンションの撓み、または後輪47の撓み等により垂直方向に往復動する。この結果、図6に示すように、自車5の前方を自車5と同じ方向に直進している二輪車8をカメラ13または赤外線カメラ14により継続的に撮像している間、連続的に得られる複数の撮像画像内にそれぞれ含まれる二輪車画像41の位置も垂直方向に変位し、したがって、それぞれの二輪車画像41の図芯51の位置も垂直方向に変位する。転倒判断部24は、例えば、自車5の前方を自車5と同じ方向に直進している二輪車8をカメラ13または赤外線カメラ14により所定時間継続して撮像し、その間に、カメラ13または赤外線カメラ14から出力される複数の撮像画像内にそれぞれ含まれる二輪車画像41を特定し、それぞれの二輪車画像41の図芯51を算出し、算出した複数の図芯51の平均的な位置に観測点52を設定する。例えば、転倒判断部24は、算出した複数の図芯51のうち、最も高い位置にある図芯51Aと、最も低い位置にある図芯51Bとの垂直方向における中間位置に観測点52を設定する。
続いて、転倒判断部24は距離基準値を決定する(ステップS7)。距離基準値とは、撮像画像において、観測点52と地面42との間の距離を示す値であって、二輪車8が左方向または右方向へ揺動し、観測点52と地面42との間の距離がそれよりも小さくなったときに当該二輪車8が転倒する値である。具体的には、距離基準値は、二輪車8のバンク角が最大バンク角に達したときの撮像画像における観測点52と地面42との間の距離である。なお、ここでいう最大バンク角とは、カウルの有無、二輪車の種類(スクータか否か)等、二輪車の構造から推定されるバンク角の最大値である。
距離基準値は予め算定され、記憶部21に記憶保持されている。本実施形態においては、距離基準値が二輪車の構造の相違に応じて複数のタイプに分けて記憶保持されている。具体的には、スクータか否か、カウルを有しているか否か、タイヤのサイズ、車体のサイズ等に基づいて定めた複数の値が距離基準値として記憶保持されている。例えば、(1)スクータでなく、カウルを有していない二輪車に用いる距離基準値、(2)スクータでなく、カウルを有している二輪車に用いる距離基準値、(3)スクータに用いる距離基準値の3タイプの距離基準値が記憶保持されている。転倒判断部24は、ステップS7において、二輪車画像41の外形から、二輪車8がスクータであるか否かを判断し、スクータでない場合には、カウルを有しているか否かをさらに判断し、判断結果に基づいて上述した3タイプの距離基準値の中から、撮像した二輪車画像41に最適な1つを選択する。なお、距離基準値は、過去の撮像データに基づき、学習機能を用いて随時蓄積、更新してもよい。
続いて、転倒判断部24は、ステップS6で設定した観測点52と、ステップS4で認識した地面42との間の距離が、ステップS7で決定した距離基準値よりも小さいか否かを判断する(ステップS8)。そして、転倒判断部24は、観測点52と地面42との間の距離が距離基準値よりも小さい場合には、二輪車8が転倒する可能性があると判断し、そうでない場合には、二輪車8が転倒する可能性がないと判断する。
ここで、図7は、二輪車8の直進時および左折時における二輪車画像41を示している。転倒判断部24は、二輪車の左方向または右方向の揺動に基づいて、二輪車が転倒するか否かを判断する。図7からわかる通り、二輪車を後方から見た場合、二輪車は左方向または右方向に大きく揺動して転倒に至る。二輪車の揺動は明確で単純な動きであるため、撮像画像に基づいて正確かつ容易に認識することができる。また、二輪車はカーブまたは交差点等を曲がるときにも左方向または右方向に揺動するが、例えば、二輪車がカーブまたは交差点等を曲がるときには、揺動の程度が二輪車の最大バンク角以下であり、二輪車が転倒するときには、揺動の程度が二輪車の最大バンク角を超える。したがって、二輪車が、カーブまたは交差点等を曲がっているか、それとも転倒する直前であるのかを、揺動の程度に基づいて識別することができる。
さらに、二輪車の左方向または右方向の揺動は、観測点52と地面42との間の距離に基づいて認識することができる。すなわち、図7において実線で示したように、直進時には、二輪車はほとんど左右に揺動せず、地面に対して垂直に立っている。このとき、観測点52と地面42との間の距離は最大となる。図7中のD1は、二輪車の直進時における観測点52と地面42との間の距離を示している。一方、図7において破線で示したように、例えば二輪車が交差点を左折し、左方向に揺動したとき、二輪車は、その左面が地面に接近するように左方向に傾斜する。これに伴い、観測点52が地面42に接近し、観測点52と地面42との間の距離が小さくなる。図7中のD2は、二輪車のバンク角が最大バンク角に達したときの観測点52と地面42との間の距離を示している。二輪車の揺動の程度が大きくなり、二輪車のバンク角が最大バンク角を超えたとき、二輪車は車体を起こすことが困難となり、転倒の可能性が生じる。すなわち、観測点52と地面42との間の距離がD2よりも小さくなったとき、二輪車の転倒の可能性が生じる。したがって、観測点52と地面42との間の距離がD2よりも小さくなったときに、二輪車が転倒する可能性があると判断することができる。転倒判断部24は、このような考え方に基づき、D2を距離基準値として決定し、観測点52と地面42との間の距離が距離基準値よりも小さくなったときに、二輪車8が転倒する可能性があると判断する。
ステップS8において、二輪車8が転倒する可能性がないと転倒判断部24が判断した場合には(ステップS8:NO)、処理はステップS1へ戻る。一方、二輪車8が転倒する可能性があると転倒判断部24が判断した場合には(ステップS8:YES)、転倒判断部24は、続いて、観測点52と地面42との間の距離が距離基準値よりも小さい状態が所定時間継続したか否かを判断する(ステップS9)。そして、転倒判断部24は、観測点52と地面42との間の距離が距離基準値よりも小さい状態が所定時間継続した場合には、二輪車8の転倒が確定したと判断し、そうでない場合には、二輪車8は転倒しないと判断する。
すなわち、二輪車が大きく揺動し、そのバンク角が一時的に最大バンク角を超えた場合でも、その後、姿勢を持ち直し、転倒を免れることがある。最大バンク角を超えて揺動した二輪車8が姿勢を持ち直して転倒を免れる場合、観測点52と地面42との間の距離が距離基準値よりも小さくなった時点から所定時間が経過するまでの間に、観測点52と地面42との間の距離が距離基準値以上となる。一方、最大バンク角を超えて揺動した二輪車8が姿勢を持ち直すことなく転倒に至る場合、観測点52と地面42との間の距離が距離基準値よりも小さくなった時点から所定時間が経過するまでの間、観測点52と地面42との間の距離が距離基準値よりも小さい状態が維持される。転倒判断部24は、このような考え方に基づき、観測点52と地面42との間の距離が距離基準値よりも小さい状態が所定時間継続した場合に、二輪車8の転倒が確定したと判断する。
ステップS9において、二輪車8が転倒しないと転倒判断部24が判断した場合には(ステップS9:NO)、処理はステップS1へ戻る。一方、二輪車8の転倒が確定したと転倒判断部24が判断した場合には(ステップS9:YES)、続いて、出力部25が、二輪車8が転倒したことを示す情報を通知部22、運転制御部35および車車間通信部36に出力する(ステップS10)。二輪車8が転倒したことを示す情報に応じ、通知部22は、二輪車8が転倒したことを自車5の運転者に通知する。例えば、通知部22は、警告音を鳴らし、警告表示をディスプレイに表示する。また、運転制御部35は、二輪車8が転倒したことを示す情報に応じ、自車5を停止させる。また、車車間通信部36は、二輪車8が転倒したことを示す情報を他車6、7へ送信する。
以上、説明した通り、本発明の実施形態による前方車両監視装置12によれば、転倒判断部24が自車5の前方の二輪車8が転倒することを判断し、出力部25が通知部22を介してその結果を自車5の運転者に伝えるので、夜間や悪天候等により視界が悪くても、自車5の運転者は二輪車の転倒を早期に把握することができ、転倒した二輪車8と自車5との衝突を回避する措置を迅速にとることができる。また、出力部25が、二輪車8が転倒したことを示す情報を運転制御部35に出力することによって、運転制御部35により自車5を早期に停止させることができ、自車5と二輪車8との衝突を確実に回避することができる。さらに、出力部25が、二輪車8が転倒したことを示す情報を、車車間通信部36を介して他車6、7へ送信することにより、他車6、7において、二輪車8との衝突を回避する措置を早期に実行させることができる。
また、前方車両監視装置12によれば、転倒判断部24により、二輪車8が転倒するか否かを二輪車8の揺動に基づいて判断するので、二輪車8の転倒を正確かつ容易に判断することができる。また、二輪車8の揺動の程度に基づいて、二輪車8がカーブまたは交差点等を曲がっているのか、転倒するのかを正確に判別することができる。
また、二輪車画像41内に設定された観測点52と地面42との距離に基づいて二輪車8の揺動の程度を認識することにより、悪天候時や夜間のような視界の悪い状況下において鮮明な撮像画像を得られない場合でも、二輪車8が転倒するか否かを正確に判断することができる。また、二輪車画像41内の観測点52の設定を、二輪車画像41の図芯に基づいて行うので、二輪車8の転倒判断の要素となる観測点52を容易に設定することができる。
また、観測点52と地面42との間の距離が距離基準値よりも小さい状態が所定時間継続したときに、二輪車8が転倒すると判断することにより、二輪車8が大きく揺動したものの、姿勢を持ち直して転倒に至らない場合を認識することができ、二輪車8が転倒するか否かを、より一層正確に判断することができる。
また、二輪車の構造の相違に応じて複数タイプの距離基準値を記憶保持し、それらの中から最適な1つを選択して二輪車8の転倒を判断することにより、二輪車8の転倒判断の精度を高めることができる。
なお、前方車両監視装置12によれば、二輪車8がカーブまたは交差点等を左または右に曲がるときに転倒する場合だけなく、例えば、二輪車8が直進時に、道路に飛び出した人や動物との衝突を避けようとして急ブレーキをかけて転倒する場合等、種々の態様の転倒につき、その発生の有無を判断することができる。
(第2の実施形態)
図8は、本発明の第2の実施形態による前方車両監視装置が、二輪車8の転倒の発生の有無を判断し、二輪車8が転倒したときには、その旨を示す情報を通知部22、運転制御部35および車車間通信部36に出力する動作を示している。図9は、二輪車8の直進時および左折時における二輪車画像41を示している。
上述した第1の実施形態による前方車両監視装置12では、二輪車画像41内に設定された観測点52と地面42との間の距離が距離基準値よりも小さいか否かに基づいて二輪車8が転倒するか否かを判断したが、本発明の第2の実施形態による前方車両監視装置では、二輪車画像41中の直線状の画像要素と地面とのなす角度が基準角度範囲外か否かに基づいて二輪車8が転倒するか否かを判断する。本実施形態による前方車両監視装置のその余の部分は、第1の実施形態による前方車両監視装置12と同じである。
図8において、本実施形態による前方車両監視装置は、第1の実施形態による前方車両監視装置12と同様に、カメラ13または赤外線カメラ14により、自車5の前方の撮像画像を取得し、超音波センサ15、ミリ波レーダ16、およびレーザレーダ17により、自車5の前方の状態を示す情報を取得し、撮像画像および自車5の前方の状態を示す情報から、自車5の前方に、自車5と同じ方向に直進している二輪車8が存在するか否かを判断する(ステップS21、S22)。続いて、自車5の前方に、自車5と同じ方向に直進している二輪車8が存在する場合には、本実施形態による前方車両監視装置の転倒判断部は、第1の実施形態による前方車両監視装置12の転倒判断部24と同様に、撮像画像内に含まれる二輪車画像41および地面42を認識する(ステップS23、S24)。
続いて、本実施形態による転倒判断部は、二輪車画像41中の直線状の画像要素61(図9参照)を特定する(ステップS25)。上述したように、撮像画像が悪天候時の日中または夜間における撮像により得られたものである場合、その撮像画像は、晴天時の日中における撮像により得られた撮像画像と比較して不鮮明である。しかしながら、図9に示すように、悪天候時の日中または夜間の撮像画像においても、二輪車8およびその運転者の全体的な輪郭および地面42は他の部分と比較してほぼ鮮明であり、また、4つの直線に囲まれた長方形のナンバープレート46の外形もほぼ鮮明である。本実施形態による転倒判断部は、直線状の画像要素61として、例えばナンバープレート46の下辺の部分を特定する。なお、ナンバープレート46の上辺、左辺または右辺の部分を直線状の画像要素として特定してもよい。
続いて、本実施形態による転倒判断部は、基準角度範囲を決定する(ステップS26)。基準角度範囲とは、二輪車画像41中の直線状の画像要素61と地面42とのなす角度の範囲を示す情報であって、二輪車8が左方向または右方向へ揺動し、画像要素61と地面42とのなす角度がその範囲内であれば当該二輪車8が転倒しない値である。
ここで、図10(1)は、二輪車8のナンバープレート46の下辺を画像要素61として特定した場合の基準角度範囲の具体例を示し、図10(2)は、二輪車8のナンバープレート46の左辺を画像要素61として特定した場合の基準角度範囲の具体例を示している。いずれの場合においても、基準角度範囲ARは、例えば、右方向に揺動した二輪車8のバンク角が最大バンク角に達したときの画像要素61と地面42とのなす角度MRから、左方向に揺動した二輪車8のバンク角が最大バンク角に達したときの画像要素61と地面42とのなす角度MLまでである。
基準角度範囲は予め算定され、記憶部21に記憶保持されている。本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、二輪車の構造の相違に応じて複数タイプの基準角度範囲が記憶保持されており、転倒判断部24は、ステップS26において、二輪車画像41の外形に基づいて、複数タイプの角度基準範囲の中から、撮像した二輪車画像41に最適な1つを選択する。
続いて、本実施形態による転倒判断部は、画像要素61と地面42とのなす角度が基準角度範囲外であるか否かを判断する(ステップS27)。そして、画像要素61と地面42とのなす角度が基準角度範囲外でない場合には(ステップS27:NO)、転倒判断部は、二輪車8が転倒する可能性はないと判断し、処理をステップS21へ戻す。一方、画像要素61と地面42とのなす角度が基準角度範囲外である場合には(ステップS27:YES)、転倒判断部は、二輪車8が転倒する可能性があると判断し、ステップS28へ処理を進める。
そして、ステップS28において、本実施形態の転倒判断部は、画像要素61と地面42とのなす角度が基準角度範囲外である状態が所定時間継続したか否かを判断し、当該状態が所定時間継続した場合には、二輪車8の転倒が確定したと判断する。二輪車8の転倒が確定したと判断された場合、続いて、本実施形態による出力部が、二輪車8が転倒したことを示す情報を通知部22、運転制御部35および車車間通信部36に出力する(ステップS29)。
このような構成を有する、本発明の第2の実施形態による前方車両監視装置によっても、本発明の第1の実施形態による前方車両監視装置12と同様の作用効果を得ることができる。
なお、上述した第1の実施形態では、二輪車が転倒する可能性があるか否かの判断基準である距離基準値を、二輪車のバンク角が最大バンク角に達したときの観測点と地面との間の距離とし、第2の実施形態では、二輪車が転倒する可能性があるか否かの判断基準である基準角度範囲を、二輪車のバンク角が最大バンク角に達したときの画像要素と地面とのなす角度に基づいて定めたが、本発明はこれらに限らない。例えば、距離基準値を、二輪車の一部またはその運転者の一部が地面と接触した時点における観測点と地面との距離とし、角度基準範囲を、二輪車の一部またはその運転者の一部が地面と接触した時点における画像要素と地面とのなす角度に基づいて定めてもよい。また、二輪車の構造に応じて複数の距離基準値(基準角度範囲)を記憶保持し、それらのうちの1つを選択する場合を例にあげたが、単一の距離基準値(基準角度範囲)を用いて判断を行ってもよい。
また、上述した第1の実施形態では、二輪車画像の図芯に基づいて観測点を設定したが、これに限らず、二輪車の運転者が装着しているヘルメットの図芯に基づいて観測点を設定してもよいし、ヘルメットの上端点に観測点を設定してもよいし、テールランプの図芯に基づいて観測点を設定してもよい。また、上述した第2の実施形態では、ナンバープレートの辺を画像要素として特定したが、これに限らず、例えば左右のバックミラーの上端点を互いに結んだ直線を画像要素として特定してもよい。
また、上述した各実施形態では、カメラ13および赤外線カメラ14といった撮像手段、並びに超音波センサ15、ミリ波レーダ16およびレーザレーダ17といった検出手段を用いて自車5の前方の二輪車の存在を認識する場合を例にあげたが、自車5の前方の二輪車の認識にどのような撮像手段または検出手段を用いるかは適宜設定することができる。また、日中における撮像にはカメラ13を用い、夜間における撮像には赤外線カメラ14を用いる場合を例にあげたが、撮像に用いるカメラの選択基準は適宜設定することができる。また、撮像に用いるカメラを例えば赤外線カメラ14のみとしてもよい。また、カメラと赤外線カメラとを常時併用して撮像を行い、二輪車画像および地面の認識に用いる撮像画像をカメラと赤外線カメラのそれぞれから得られる撮像画像の中から選択するようにしもよい。
また、上述した各実施形態では、自車5が自動運転車両である場合を例にあげ、二輪車が転倒すると判断した場合には自車5を自動的に停止させることとしたが、自車5と二輪車8との衝突を回避する措置として、例えば、自車5を減速させつつその走行方向を変更するといった制御を自動的に行ってもよい。一方、本発明は、手動運転車両にも適用することができる。この場合、二輪車が転倒すると判断した場合には、その旨を運転者に通知するのみとしてもよい。
また、上述した各実施形態では、四輪の自動車に前方車両監視装置を搭載する場合を例にあげたが、本発明はこれに限らず、前方車両監視装置を、自動二輪車等の鞍乗型車両に搭載してもよい。
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う前方車両監視装置もまた本発明の技術思想に含まれる。