JP6485010B2 - 後輪転舵制御装置 - Google Patents
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Description
この従来技術は、車速と前輪転舵角に基づいて後輪操舵を行う。そして、操舵角が増大方向にあるときは、後輪転舵角を前輪転舵角に対して一次遅れで制御を行い、操舵角が減少方向、あるいは操舵角減少方向でかつ操舵速度が所定値以上であるときは、後輪転舵角を、前輪転舵角に比例して制御するようにしている。
したがって、前後輪逆相で転舵させる場合に、後輪転舵角が前輪転舵角に対して一次遅れで転舵することにより、車体後端部が旋回外側に張り出すことを抑制し、高い取り回し性を得ることができる。
このため、後輪転舵角が不自然に変化し、それに伴い、車両のヨーレート挙動も不自然に変化し、運転者に強い違和感を与えるおそれがある。
前輪転舵角に対して一次遅れで後輪を転舵させるよう後輪転舵装置を作動させる制御手段を備えた後輪転舵制御装置において、
前記制御手段は、前記前輪転舵角に応じて後輪転舵角が予め設定された特性で変化するように設定された定常ゲインと、前記前輪転舵角に対し前記後輪転舵角を一次遅れで変化させるよう設定された一次遅れ由来成分と、の積に基づいて後輪転舵角を決定し、
かつ、前輪転舵角速度の絶対値が予め設定した閾値を超えた場合に、前記前輪転舵角速度の絶対値が大きいほど前記一次遅れ由来成分の時定数ゲインを減少させて一次遅れを軽減させることを特徴とする後輪転舵制御装置とした。
一方、前輪転舵角度の絶対値が閾値よりも高い場面では、前輪転舵角速度の絶対値が大きいほど一次遅れ由来成分の時定数ゲインを減少させて一次遅れを軽減させる。したがって、前輪転舵角速度が高い操舵切替時に、後輪の転舵遅れによる後輪転舵角の不自然な変化を抑制でき、これにより、車両のヨーレート挙動も不自然な変化を抑制し、運転者に与える違和感を抑えることができる。
以上のように、本発明では、取り回し性を損なうことなく、前輪転舵角速度が高い場合、すなわち、前輪転舵角度の絶対値が閾値よりも高い場合の後輪転舵遅れによる車両挙動の違和感を軽減できるという効果を得ることができる。
(実施の形態1)
まず、構成を説明する。
実施の形態1の後輪転舵制御装置を適用した車両用転舵制御装置の構成を、「全体システム構成」、[後輪転舵角制御]に分けて説明する。
図1は、実施の形態1の後輪転舵制御装置を適用した車両の操舵系を示す全体システム図である。
以下、図1に基づき、全体システム構成を説明する。
実施の形態1の後輪転舵制御装置Aは、図1に示す4WS車両MVに適用されている。
すなわち、この4WS車両MVは、実施の形態1の後輪転舵制御装置Aにより、後輪WR,WRを、操舵による前輪WF,WFの転舵とは独立して転舵可能となっている。
この前輪操舵装置20は、前輪ラックアンドピニオン21と、ハンドル22とを備えている。すなわち、運転者がハンドル22を操舵することで、前輪ラックアンドピニオン21の内部の図示を省略したピニオンギアが回転して図示を省略したラックが左右に移動することで、前輪WF,WFを転舵させる。
この後輪転舵コントローラ40は、前記操舵角度センサ51と、後輪転舵モータ回転角度センサ52と、後輪車輪速度センサ53とに接続されている。
後輪転舵モータ回転角度センサ52は後輪転舵モータ31の回転角度を検出するもので、後輪転舵コントローラ40は、この回転角度から後輪WRの転舵角を求める。
後輪車輪速度センサ53は、後輪WRの車輪速をあらわすパルス信号を車速情報として後輪転舵コントローラ40に送り、後輪転舵コントローラ40は、この回転速度から車体速度を算出する。
次に、図2のフローチャートに基づいて、後輪転舵コントローラ40による後輪操舵制御において、前述の後輪転舵角目標値δr *(S)を決定する処理の流れについて説明する。
この後輪操舵制御は、図外のイグニッションスイッチをONとすることで開始され、イグニッションスイッチがOFFとなるまで、予め設定された制御周期で繰り返し実行する。
すなわち、ステップS102において、操舵角速度θ*の大きさ(絶対値)が予め設定した角速度判定値θ0*以上かどうかを判定し、角速度判定値θ0*以上の場合はステップS103に進み、角速度判定値θ0*未満の場合は、ステップS104に進む。
そして、操舵角速度θ*の大きさが角速度判定値θ0*以上の場合に進むステップS103では、時定数ゲインを、操舵角速度θ*に応じ、操舵角速度θ*が大きくなるほど時定数ゲインを小さく設定した後、ステップS105に進む。
一方、操舵角速度θ*の大きさ(絶対値)が角速度判定値θ0*未満の場合に進むステップS104では、時定数ゲインを1に設定した後、ステップS105に進む。
なお、図3において、点線は、角速度判定値θ0 *を0近傍の値に設定した場合を示している。この場合、操舵角速度θ*が0の近傍で、時定数ゲインを1に設定し、操舵角速度が0よりも大きくなるほど、時定数ゲインを0に近付けるように設定する。
このステップS105では、予め車両ごとに設定された定数値に、ステップS103、S104のいずれかで設定した時定数ゲインを乗じた値を、一次遅れ時定数とする。
まず、ステップS106では、操舵角θの大きさ(絶対値)が0であるか否か判定し、操舵角θ=0の場合はステップS107に進み、操舵角θ≠0の場合には、ステップS108に進む。そして、操舵角θの大きさ(絶対値)が0の場合に進むステップS107では、定常ゲインα(θ)を0に設定する。
一方、操舵角≠0の場合に進むステップS108では、操舵角θの大きさに応じた線形特性により定常ゲインα(θ)を設定する。ここで、操舵角θの大きさに応じた線形特性の定常ゲインα(θ)を、図4に示す。この図4に示すように、操舵角θがフル転舵(前輪最大舵角)時の定常ゲインα(θ)が、(最大後輪転舵角/最大操舵角)となる線形特性としている。よって、この定常ゲインα(θ)は、前輪WFの最大舵角時には、後輪WRを最大後輪転舵角まで転舵させるように設定されている。
なお、車速Vに基づいて、車速Vが上がるにつれて定常ゲインα(θ)が低下するように、すなわち、この線形特性を寝かせるようにし、フル転舵時の後輪WRの転舵角が減少するように設定してもよい。
ここで、後輪転舵角目標値δr *(S)は、定常ゲインα(θ)と一次遅れ由来成分の積として、下記式(1)により演算する。
δr *(S)=−α・{1/(1+τ・S)}θ(S) ・・・(1)
上記式(1)において、マイナス符号がついているのは、操舵角や前輪転舵角に対し、後輪転舵角が逆相方向に転舵されることを表している。すなわち、この後輪転舵制御では、後輪WRを前輪WFに対して逆相に転舵させる。
また、一次遅れの由来成分{1/(1+τ・S)}θにおいて、τは前述のように一次遅れ時定数であり、Sはラプラス演算子であり、θは操舵角である。
次に、図5〜図9A、図9Bに基づいて実施の形態1の作用を比較例と比較しつつ説明する。
図5は実施の形態1の後輪転舵制御装置Aを搭載した4WS車両MVにおいて、停車状態からのフル転舵で発進を行った後、逆方向にフル転舵で切り返しを行った場合の、前輪WFと後輪WRの転舵角変化と、ヨーレート変化を示している。
このような操舵を行いながらの発進は、例えば、4WS車両MVを、図8に示す縦列駐車状態(MV(st))から発進し、矢印のように車道RWに出るような走行例があげられる。
したがって、この一次遅れ時定数τ(θ*)に基づいて算出する後輪転舵角目標値δr *(S)は、車体張り出し抑制に応じた値に設定され、車体後部の張り出しが抑制され、取り回し性に優れる。
さらに、ハンドル22の切り返し時には、一旦、操舵角θの大きさ(絶対値)が0となることから、ステップS106→S107の処理に基づいて定常ゲインα(θ)を一旦0に設定する。
したがって、ハンドル22の切り返しにより操舵角θが直進状態から逆方向に切り替わる図5のt0以降のtbの場面では、後輪転舵角は、一旦0となった後、遅れを軽減された状態で前輪転舵角と逆相側に緩やかに立ち上がる。
その結果、車両のヨーレート変化が滑らかであり、操舵に対する車両挙動の違和感を大きく軽減できる効果が得られる。また、操舵角速度θ*の値に関係なく、操舵の切り返し時には、後輪転舵角が必ず0に戻るため、車体のヨーレートを0に近づけることができ、後輪WRの切れ残り感を解消している。
図6は、実施の形態1のステップS102〜S104の処理を行わずに、ステップS105において、一次遅れ時定数τ(θ*)として、定数値×1の値を常時使用した場合の動作例である。
この比較例では、ハンドル22の切り返しにより、操舵角θが0となるt0の時点で後輪転舵角を0としヨーレートを0に戻すものの、その後の場面0tbでは、後輪転舵角を、一次遅れ成分により前輪転舵角の同相側に転舵させることになる。
このため、操舵角0の前後でヨーレート変化が大きくなり、操舵に対する車両挙動に違和感を与える。
この場合、後輪転舵角は、操舵角θが0になっても、前輪転舵角に対して遅れを持って変化するため、後輪転舵角およびヨーレートに位相遅れが残る。このため、運転者に後輪WRの切れ残り感を与え、操舵に対する車両挙動に大きな違和感を与える。加えて、操舵角が0となった後に、前輪WFと後輪WRの操舵方向が同相となる状態が生じ、より違和感が大きくなる。
図9Aは、本実施の形態1における上述の縦列駐車状態からの発進時の車体の軌跡(trM)、前輪WFの車幅方向中央の軌跡(trF)、後輪WRの車幅方向中央の軌跡(trR)を示している。また、図9Bは、同様の縦列駐車状態から発進時に、単に後輪WRを前輪WFに対して逆相で転舵させた場合の、車体の軌跡(trM)、前輪WFの車幅方向中央の軌跡(trF)、後輪WRの車幅方向中央の軌跡(trR)を示している。
また、ハンドル22の切り返しにより図9Aの例では、移動距離がdaの位置で後輪WRの中央の軌跡(trR)が、前輪WFの中央の軌跡(trF)に一致している。それに対し、図9Bでは、この距離daでは、後輪WRは、一次遅れにより前輪WFと軌跡が異なり、これが後輪WRの切れ残り感を招く。
以下に、実施の形態1の後輪転舵制御装置の効果を列挙する。
1)実施の形態1の後輪転舵制御装置は、
駆動手段としての後輪転舵モータ31を駆動させて後輪WRを転舵させる後輪転舵装置30と、
前輪転舵角としての操舵角θを検出する前輪転舵角検出手段としての操舵角度センサ51と、
前記前輪転舵角に対して一次遅れで前記後輪WRを転舵させるよう前記後輪転舵装置30を作動させる制御手段としての後輪転舵コントローラ40と、
を備えた後輪転舵制御装置において、
前記後輪転舵コントローラ40は、前記前輪転舵角に応じて後輪転舵角が予め設定された特性で変化するように設定された定常ゲインα(θ)と、前記前輪転舵角に対し前記後輪転舵角を一次遅れで変化させるよう設定された一次遅れ由来成分{1/(1+τ・S)}θと、
の積に基づいて後輪転舵角目標値δr*(S)を求め、
かつ、前輪転舵角速度としての操舵角速度θ*の絶対値が予め設定した閾値としての角速度判定値θ0*を超えた場合に、前記前輪転舵角速度としての操舵角速度θ*の絶対値が大きいほど前記一次遅れ由来成分の時定数ゲインを減少させて一次遅れを軽減させることを特徴とする。
したがって、前輪転舵角に対して後輪WRを一次遅れで転舵させるのにあたり、操舵開始時など操舵角速度θ*が角速度判定値θ0*よりも低い場面では、後輪WRの一次遅れによる転舵遅れを確保する。したがって、前後単純逆相と比較すると車体後端の旋回外側への張り出しが抑制され、取り回し性を確保できる。 また、角速度判定値θ0*よりも低速の操舵角速度域で、一次遅れを一定に保つことで、低速域で一次遅れ量が変化する違和感を抑えることができる。
一方、操舵角速度θ*(前輪転舵角度)が角速度判定値θ0*よりも高い場面では、操舵角速度θ*の絶対値が大きいほど前記一次遅れ由来成分の時定数ゲインを減少させて一次遅れを軽減させて、前輪転舵角度が角速度判定値θ0*よりも低い場面に比べて、後輪WRの一次遅れによる転舵遅れを軽減する。
したがって、前輪転舵角速度が高い操舵切替時に、後輪WRの転舵遅れによる後輪転舵角の不自然な変化を抑制でき、これにより、車両のヨーレート挙動も不自然な変化を抑制し、運転者に与える違和感を抑えることができる。
以上のように、本発明では、取り回し性を損なうことなく、前輪転舵角速度が高い場合の後輪転舵遅れによる車両挙動の違和感を軽減できるという効果を得ることができる。
前記後輪転舵コントローラ40は、前記前輪転舵角としての操舵角速度θ*の絶対値が0のとき、前記定常ゲインαを0に設定することを特徴とする。
したがって、操舵実行後に操舵角θを0に戻す場面では、操舵角速度θ*の値に関係なく、操舵角θを0とした時点で後輪転舵角も必ず0に戻るため、後輪WRの切れ残り感(操舵角θを0に戻しているのに、車体後部が横へ動く感覚)をなくすことができる。そのため、操舵に対する挙動の違和感をさらに軽減できる効果が得られる。
次に、他の実施の形態のモータユニットについて説明する。
なお、他の実施の形態を説明するのにあたり、実施の形態1と共通する構成には実施の形態1と同じ符号を付して説明を省略し、実施の形態1との相違点のみ説明する。
以下に、本発明の実施の形態2の後輪転舵制御装置について説明する。
この実施の形態2は、後輪操舵制御における処理の一部が実施の形態1と異なる。
すなわち、実施の形態2では、図10のフローチャートに示すように、一次遅れ時定数τ(θ*)を算出するステップS105bと、操舵角θが0よりも大きい場合に定常ゲインを設定するステップS108bの処理の内容が実施の形態1と異なる。
τ=λ/V ・・・(2)
ここで、定数長λについては、どのような値に設定しても構わないが、本実施の形態1では車両のホイールベースよりも短い値、例えば、実施の形態1の定数値と同じ値とする。また、車速V=0の場合は、V≠0の微小な値を用いて、0による除算を回避する。
つまり、後輪WRが進むのに要する時間は、車速Vが低いほど長くなり、車速Vが高いほど短くなる。よって、定数長λを車速Vにより除算した値を一次遅れ時定数τ(θ*)とすることにより(式(2))、転舵時に高操舵角速度時には短時間で、低速時には時間をかけて後輪WRを転舵させることができる。
次に、実施の形態2の作用を説明する。
まず、車速Vに応じた後輪転舵角の一次遅れ時定数τ(θ*)の設定による作用を説明する。
一次遅れ時定数τ(θ*)は、定数値に時定数ゲインを乗じて求める。
この時定数ゲインは、操舵角速度θ*が0の場合には、1に設定する。
この操舵角速度θ*が0となるのは、直進時以外にも、例えば、前輪WFをフル転舵のまま発進したり、操舵角θを段階的に変化させるステップ操舵を行ったりした場合のように、操舵走行中に生じる場合がある。
そして、前者のように後輪WRの転舵の遅れが不足した場合は、後輪WRは、前輪WFの軌跡に対して内側に入り、後者のように後輪WRの転舵の遅れが過大な場合には、後輪WRは、前輪WFの軌跡に対して、外側に膨らむ。
前輪転舵角に対する定常ゲインα(θ)の特性が、図11Aの点線により示すような線形であると、ハンドル22を切り込んでいく際に、図11Bの点線により示すように大舵角領域で急激に後輪転舵角が増加してしまう。このため、操舵に対する後輪WRの挙動に違和感を与えるおそれがある。
そこで、図11Aにおいて実線により示すように、前輪転舵角に対する定常ゲインα(θ)の特性を、1次関数に対して上に凸となる特性とした場合には、図11Bにおいて実線により示すように、操舵角の小さい範囲から後輪転舵角が徐々に増加する。このため、図において点線で示す後輪転舵角特性よりも大舵角領域での後輪転舵角の増加を穏やかにすることができ、図において点線で示す後輪転舵角特性よりも、後輪WRの挙動の違和感を軽減できる。
実施の形態2の後輪転舵制御装置は、実施の形態1で説明した上記の1)〜3)の効果に加え、以下に列挙する効果を奏する。
2-1) 実施の形態2の後輪転舵制御装置は、
前記後輪転舵コントローラ40は、前記前輪転舵角としての操舵角θの絶対値に対する前記定常ゲインα(θ)を、操舵角θに対する一次の線形関数に対し増加側に凸の非線形特性(図11A参照)としたことを特徴とする。
操舵角θ(前輪転舵角)に対する定常ゲインα(θ)の特性が線形であると、ハンドル22を切りこんでいく際に、大舵角領域で急激に後輪転舵角が増加し、その挙動が、運転者に違和感を与えるおそれがある。
それに対して、定常ゲインα(θ)の特性を上記のように上に凸の非線形とした場合、後輪転舵角が、操舵角θの小さい領域から線形特性に近い特性で徐々に増加していくため、結果として大舵角領域での後輪転舵角の増加を穏やかにすることができる。そのため、運転者に、操舵に対する挙動の違和感を与えることを軽減できる。
前記後輪転舵コントローラ40は、前記前輪転舵角速度としての操舵角速度θ*が0の場合、前記一次遅れ由来成分としての一次遅れ時定数τ(θ*)を、車両のホイールベース長に基づいて予め設定した定数長λを車速Vで除算した値に基づいて求めることを特徴とする。
したがって、前輪WFを転舵させた状態で操舵角速度θ*=0を保って走行している場合に、低速領域において車速が多少上下しても、ほぼ同じ車両軌跡・車体後端張り出し量が得られる。そのため、挙動の違和感を低減したまま、低速取り回し性をさらに向上できる効果が得られる。
まず、実施の形態3の後輪転舵制御装置の構成を説明する。
この実施の形態3は、ハンドル22と前輪ラックアンドピニオン21との間に可変機構が備わっている構成に適用し、かつ、後輪WRをフル転舵まで転舵しやすくした例である。
このステップS301〜S304の処理は、後輪WRをフル転舵しやすくするために、後輪転舵角(暫定値)を、予め設定したフル転舵相当の上限値でカットするようにした例である。
ステップS301では、前輪転舵角δf、一次遅れ時定数τ(δf *) 、定常ゲインβ(δf) を用いて一次遅れ由来成分の積として後輪転舵角暫定値pδr *(S)を下記式(3)により演算した後、ステップS302に進む。なお、この後輪転舵角暫定値pδr *(S)は、実施の形態1,2における後輪転舵角に相当する。
pδr *(S)=−β・{1/(1+τ・S)}δf(S) ・・・(3)
ここで、右辺にマイナス符号がついているのは、前輪転舵角δfに対し、後輪転舵角を前輪転舵角の逆相方向に転舵することを表している。
そして、続くステップS304では、後輪転舵角暫定値pδr *(S)を後輪転舵角目標値δr *(S)とする。すなわち、後輪転舵角暫定値pδr *(S)が上限値を超過していなければ、後輪転舵角暫定値pδr *(S)がそのまま後輪転舵角目標値δr *(S)となり、後輪転舵角暫定値pδr *(S)が上限値を超過していれば、上限値が後輪転舵角目標値δr *(S)となる。
ここで、ステップS303で設定した上限値は、後輪転舵角のフル転舵角(最大転舵角)に設定する。したがって、実施の形態1,2と比較して、前輪転舵角がフル転舵角よりも手前の転舵角で、後輪転舵角目標値がフル転舵相当値となる。
次に、実施の形態3の作用を説明する。
図14Bは、本実施の形態3との比較例であり、後輪転舵角目標値演算部340による上限カットを実施しない場合を示している。
すなわち、この比較例では、前輪転舵角δfを最大転舵角(フル転舵)で、後輪転舵角δrが最大転舵角となるようにしている。この場合、一次遅れが完全収束するまでに時間を要するため、後輪WRを最大転舵角まで使い切れない場面が多くなる。
実施の形態3では、実施の形態1,2で述べた1)〜3)、2-1)2-2)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
3-1)実施の形態3の後輪転舵制御装置は、
前記後輪転舵コントローラ40は、前記定常ゲインβと前記一次遅れ由来成分{1/(1+τ・S)}δfとの積によって後輪転舵角暫定値pδr *(S)を求め、前記後輪転舵角暫定値pδr *(S)の絶対値が、予め設定した後輪転舵角上限値を超過した場合、超過した分をカットする補正を行った前記後輪転舵角暫定値pδr *(S)に基づいて後輪転舵角目標値δr *(S)を決定することを特徴とする。
実施の形態3では、後輪転舵角暫定値pδr *(S)の絶対値が、後輪転舵角上限値を超過した場合、超過した分をカットし、この上限値が最大転舵角となるように、後輪転舵角目標値δr *(S)を設定する。したがって、後輪転舵角に一次遅れを与えても最大舵角まで転舵されやすくなり、挙動の違和感を低減しつつ、低速取り回し性をさらに向上できる効果がある。
実施の形態では、車両の駆動手段として駆動モータを用いた前輪駆動車を示したが、車両の駆動手段および駆動形式は、これに限定されない。すなわち、車両の駆動手段としてはエンジンなど他の手段を用いることができ、駆動形式も、後輪駆動、四輪駆動、左右独立駆動などを用いることができる。
また、実施の形態では、前輪転舵角速度(操舵角速度)に応じて時定数ゲインを設定するのにあたり、時定数ゲインを、前輪転舵角速度(操舵角速度)に応じて一次関数的に設定する例を示したが、これに限定されない。要は、前輪転舵角速度(操舵角速度)が高いほど、時定数ゲインを下げればよく、その場合、複数次関数的に下げてもよいし、段階的に下げてもよい。
なお、図3において、点線は、角速度判定値θ0 *を0近傍の値に設定した場合を示している。この場合、操舵角速度θ*が0の近傍で、時定数ゲインを1に設定し、操舵角速度が0よりも大きくなるほど、時定数ゲインを0に近付けるように設定する。線形でもよいし、段階的に設定してもよい。
30 後輪転舵装置
40 後輪転舵コントローラ(制御手段)
51 操舵角度センサ(前輪転舵角検出手段)
A 後輪転舵制御装置
WF 前輪
WR 後輪
α(θ) 定常ゲイン
β(θ) 定常ゲイン
δf 前輪転舵角
δf * 前輪転舵角速度
pδr *(S) 後輪転舵角暫定値
δr *(S) 後輪転舵角目標値
θ* 0 角速度判定値
θ 操舵角
θ* 操舵角速度
λ 定数長
τ(δf *) 一次遅れ時定数
Claims (4)
- 駆動手段を駆動させて後輪を転舵させる後輪転舵装置と、
前輪転舵角を検出する前輪転舵角検出手段と、
前記前輪転舵角に対して一次遅れで前記後輪を転舵させるよう前記後輪転舵装置を作動させる制御手段と、
を備えた後輪転舵制御装置において、
前記制御手段は、前記前輪転舵角に応じて後輪転舵角が予め設定された特性で変化するように設定された定常ゲインと、前記前輪転舵角に対し前記後輪転舵角を一次遅れで変化させるよう設定された一次遅れ由来成分と、の積に基づいて前記後輪転舵角を決定し、
かつ、前輪転舵角速度の絶対値が予め設定した閾値を超えた場合に、前記前輪転舵角速度の絶対値が大きいほど前記一次遅れ由来成分の時定数ゲインを減少させて一次遅れを軽減させ、
さらに、前記前輪転舵角の絶対値に対する前記定常ゲインを、前記前輪転舵角に対する一次の線形関数に対し増加側に凸の非線形特性としたことを特徴とする後輪転舵制御装置。 - 駆動手段を駆動させて後輪を転舵させる後輪転舵装置と、
前輪転舵角を検出する前輪転舵角検出手段と、
前記前輪転舵角に対して一次遅れで前記後輪を転舵させるよう前記後輪転舵装置を作動させる制御手段と、
を備えた後輪転舵制御装置において、
前記制御手段は、前記前輪転舵角に応じて後輪転舵角が予め設定された特性で変化するように設定された定常ゲインと、前記前輪転舵角に対し前記後輪転舵角を一次遅れで変化させるよう設定された一次遅れ由来成分と、の積に基づいて前記後輪転舵角を決定し、
かつ、前輪転舵角速度の絶対値が予め設定した閾値を超えた場合に、前記前輪転舵角速度の絶対値が大きいほど前記一次遅れ由来成分の時定数ゲインを減少させて一次遅れを軽減させ、
さらに、前記定常ゲインと前記一次遅れ由来成分との積によって後輪転舵角暫定値を求め、前記後輪転舵角暫定値の絶対値が、予め設定した後輪転舵角上限値を超過した場合、超過した分をカットする補正を行った前記後輪転舵角暫定値に基づいて後輪転舵角目標値を決定することを特徴とする後輪転舵制御装置。 - 請求項1または請求項2に記載の後輪転舵制御装置において、
前記制御手段は、前記前輪転舵角の絶対値が0のとき、前記定常ゲインを0に設定することを特徴とする後輪転舵制御装置。 - 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の後輪転舵制御装置において、
前記制御手段は、前記前輪転舵角速度が0の場合、前記一次遅れ由来成分の一次遅れ時定数を、車両のホイールベース長に基づいて予め設定した定数長を車速で除算した値に基づいて求めることを特徴とする後輪転舵制御装置。
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