JP6478160B2 - 高周波トランス用磁心、及びその製造方法 - Google Patents

高周波トランス用磁心、及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、特にハイパワー用途に優れる高周波トランス用磁心、及びその製造方法に関する。
特許文献1には、高周波パワートランスの磁心にFe基ナノ結晶軟磁性合金薄帯を用いた構成が記載されている。
特許文献2では、高周波パワートランスではないが、Fe基ナノ結晶軟磁性合金薄帯を用いた高周波加速空胴用磁心にギャップ形成した磁心の記載がある。
前記磁心を構成するFe基ナノ結晶合金薄帯として、例えば、上記特許文献2には10〜30μmの厚さが開示されている(請求項3)。一方、Fe基ナノ結晶軟磁性合金薄帯は、製造性の観点から、典型的には15μmを越える厚さに鋳造して使用されている。
しかしながら、高周波トランスには、更なる低損失の要求がある。磁心の損失の内、渦電流損失を減少させる方法として、一般的に合金薄帯の厚さを薄くすることが知られている。
特許文献3には、磁気特性を改善するために非晶質合金表面を機械研磨または化学研磨することよる改質方法が記載されている。具体的には、ロールが接触しない面を1μm以下、好ましくは0.5μm以下研磨することが記載されている。
尚、高周波用磁心では、Fe基ナノ結晶合金用アモルファス合金薄帯を、巻回積層させた後、結晶化温度以上で熱処理することで作製される。このとき前記合金薄帯の層間の絶縁を確実にすることが必要であるため、連続鋳造された合金薄帯の片面にシリカ粉末やアルミナ粉末を塗布乾燥することで絶縁膜を形成させ、合金薄帯の層間の絶縁度を高くすることが通常行われている。
特開2001−110647号公報 特開2000−138099号公報 特開昭57−39509号公報
前述のように、磁心の更なる低損失化のために、具体的には渦電流損失を低減するために、従来15μmを越える厚さで生産していたFe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金薄帯を、13μm程度の厚さに薄くした合金薄帯を製造し、絶縁膜を形成し、巻回した後、ナノ結晶合金にするための熱処理を行い磁心を作製した。
しかしながら、本来、板厚が薄く渦電流損失が低減できることが期待された13μm程度の厚さの合金薄帯を使用した磁心を作製したところ、期待した効果が得られないことが判明した。
さらに、詳しく調査したところ、従来15μmを越える厚さの場合とは異なり、合金薄帯の層間が十分絶縁されず短絡している頻度が非常に高いことが分かった。高周波用磁心では、磁心に巻かれたコイルに高周波が印可されることにより、磁心の合金薄帯にも渦電流が発生する。そのため、合金薄帯の層間の絶縁が不十分であると、合金薄帯の層間での短絡、導通することにより渦電流損失が増大していると考えられる。
ここで、合金薄帯を巻回積層した磁心の絶縁度の評価方法について述べる。磁心は、樹脂などの絶縁体からなる筒状の内心に、予め合金薄帯の片面にシリカ粉末による絶縁膜を形成した合金薄帯の一端を固定した後、所定の長さLr(例えば200m)を、所定の張力(例えば15N)で巻回積層して、作製される。先ず、予め合金薄帯の長手方向の単位長さあたりの直流電気抵抗値Ruを求めておく。磁心に巻回した合金薄帯長さLrと、前記合金薄帯の最内周と最外周の2端部の直流電気抵抗Rrを測定することにより、層間の合金薄帯間が完全に絶縁された場合の合金薄帯の直流電気抵抗に対する実際の2端部間の直流電気抵抗の比、つまりRr/(Ru×Lr)×100(%)を評価することで磁心の絶縁度を評価することができる。
前記絶縁度は、理想的には100%であるが、合金薄帯厚さが18μm程度の厚さの場合、実際は前記シリカ絶縁膜が部分的に剥がれ、欠落することにより、隣接する合金薄帯同士が一部で接触し、短絡する箇所があるため、80〜90%の値となるのが通常であった。
しかしながら、合金薄帯厚さを13μm程度とした場合、前記絶縁度を評価すると50%未満であり、巻回積層された合金薄帯の層間で、頻度高く電気的に接触していると考えられた。前記絶縁度50%未満の場合、期待される渦電流損失を低減できないばかりでなく、実際の高周波用磁心で使用する際、合金薄帯間で高電圧が発生し、短絡することで、磁心が損傷する恐れがある。
前記接触部分について詳細に調査を行ったところ、13μm程度の厚さの合金薄帯では、合金薄帯の片側主面にクレーター状の窪みを有する突起が多く認められた。他方、18μm程度の厚さの合金薄帯では、クレーター状の窪みを有する突起はほとんど認められなかった。そのため、前記クレーター状の窪みを有する突起では、絶縁膜がほとんど形成されず、隣接する合金薄帯まで接触、導通することで、絶縁度が低下し、渦電流損が増加し、損失が増大していると推測される。
また、合金薄帯は、単ロール法により製造されるが、前記クレーター状の窪みを有する突起が形成される面は、冷却ロールに接する面(以下、ロール接触面という。)の反対面であることも判明した。以下、前記反対面を、自由面という。
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、低損失の高周波トランス用磁心、及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、Fe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金薄帯の自由面に発生するクレーター状の突起に起因する損失の増加を、本来のFe基ナノ結晶合金の有する優れた磁気特性を損なうことなく抑制することを検討した。そして、クレーター状の突起の頂部を形成している部分を研磨して鈍化させることが有効であることを見出し、本発明に到達した。
ここで「鈍化」とはクレーター状の突起の頂部を研磨して、なだらかにする程度の意味で使用するものであり、特定の形状や特定の表面状態に限定されるものではない。以下も同様である。
<1>高周波トランス用磁心
本発明は、単ロール法によるロール接触面と自由面とを有するFe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回された形状を有する磁心であって、前記Fe基ナノ結晶合金薄帯における自由面には、クレーター状の窪みを有する突起が分散すると共に、前記突起は、その頂部が研磨され鈍化されていることを特徴とする高周波トランス用磁心である。
本発明において、Fe基ナノ結晶合金薄帯の厚さが10〜15μmであることが好ましい。
<2>高周波トランス用磁心の製造方法
本発明は、高周波トランス用磁心の製造方法であって、
(1)単ロール法によるFe基ナノ結晶合金薄帯用Fe基アモルファス合金薄帯を作製する工程と、
(2)前記Fe基アモルファス合金薄帯の自由面に円柱状砥石の回転周面を接触させ、前記自由面に分散するクレーター状の窪みを有する突起の頂部を加圧研磨して鈍化する工程と、
(3)前記Fe基アモルファス合金薄帯の自由面及び/またはロール接触面に絶縁層を形成する工程と、
(4)前記絶縁層が形成されたFe基アモルファス合金薄帯を巻回する工程、
(5)前記巻回されたFe基アモルファス合金薄帯を熱処理し、ナノ結晶化させてFe基ナノ結晶合金薄帯とする工程と、
を有することを特徴とする高周波トランス用磁心の製造方法である。
本発明によれば、Fe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金薄帯の自由面に分散するクレーター状の突起に起因する損失の増加を抑制できるため、低損失の磁心を提供することができる。
本発明における合金薄帯自由面のクレーター状の窪みを有する突起の頂部の研磨鈍化後の断面写真である。 合金薄帯自由面のクレーター状の窪みを有する突起の断面写真である。 本発明における合金薄帯自由面のクレーター状の窪みを有する突起の頂部の研磨鈍化後の平面写真である。 合金薄帯自由面のクレーター状の窪みを有する突起の平面写真である。 本発明における合金薄帯自由面のクレーター状の窪みを有する突起の頂部の研磨鈍化の一方法の概略説明図である。
本発明の高周波トランス用磁心に用いるFe基アモルファス合金薄帯は、結晶化熱処理後にナノ結晶組織を有する合金薄帯であって、単ロール法で作製される。単ロール法では、溶融した溶湯をノズルから冷却ロール上に吐出させて急冷させて、凝固後の合金薄帯を冷却ロールから剥がすことで、連続的に鋳造される。
合金薄帯の厚さを15μm以下にすることで、直径が約20〜50μm、高さが5〜10μmの大きさのクレーター状の窪みを有する突起が合金薄帯の自由面側に多数形成される。このような突起が形成される明確な原因は解明されていないが、ノズルから冷却ロールへ向けて溶湯を吐出するときに空気を巻き込むことに起因すると推定されている。合金薄帯1の厚さを薄くするためには、ノズルからの液の吐出量を減らしたり、ノズルと冷却ロールとのギャップを小さくするなどの対応が必要である。かかる条件設定の変更により、空気を巻き込みやすくなっていると考えられる。
前記クレーター状の窪みを有する突起の断面写真を図2に示す。また突起5の平面写真を図4に示す。いずれも突起の頂部に対する研磨鈍化を行っていない状態を示す。
本発明による突起5の頂部を研磨鈍化するための設備の模式図を図5に示す。巻出しリール11は、単ロール法による鋳造後、Fe基アモルファス合金薄帯1を巻き取ったものである。巻取りリール12は、研磨鈍化処理工程が終了した合金薄帯1を巻き取ったものである。
円柱状砥石7は、クレーター状の窪みを有する突起5の頂部を研磨して鈍化させる機能を有する。クリーナーロール8は、研磨鈍化後の合金薄帯表面に付着した研磨粉を除去する機能を有する。張力調整ロール9は、走行する合金薄帯1に所定の張力を作用させて、適切な研磨鈍化が行われるようにする。ガイドロール10は、所定の経路に沿って合金薄帯1が走行できるように多数個が適宜の場所に配置されている。
次に、合金薄帯1に形成されたクレーター状の窪みを有する突起5の頂部を研磨鈍化する工程を図5により説明する。
鋳造後、巻出しリール11に巻き取ったFe基アモルファス合金薄帯1を、複数本のガイドロール10で走行を制御しながら、巻出していく。張力調整ロール9で所定の張力に制御しながら、合金薄帯表面(自由面3)を、円柱状砥石7(砥石ロール)を回転させながら研磨することで、容易にクレーター状の窪みを有する突起5の頂部を鈍化できる。
また、研磨、鈍化後の合金薄帯表面には、研磨粉が付着しているため、クリーナーロール8で研磨粉を除去することが好ましい。
ここでは、合金薄帯1の自由面3の表面の幅方向に、円柱状砥石7(砥石ロール)が全幅で接するが、張力の適正化によりクレーター状の窪みを有する突起5の頂部のみに選択的に圧力がかかり、クレーター状の窪みを有する突起5の頂部のみが、ほぼ選択的に研磨、鈍化させることができる。
円柱状砥石7は、円柱状の電着砥石を使用できる。円柱状の台金に、番数#50〜15000(粒径297〜1μm)のダイヤモンド粉やCBN(立方晶窒化ホウ素)粉を混合したNiめっき液でNiめっきを行うことで作製できる。
効率良く、クレーター状の窪みを有する突起の頂部を研磨、鈍化するには、番数#1000〜#1500(粒径15〜10μm)のダイヤモンド粉やCBN粉を電着した砥石を周速度400〜600m/分で研磨するのが好適である。前記砥石は、耐久性があり、かつ、目詰まりしにくい点で生産性に優れ、好ましい。
図1に前記条件により、クレーター状の窪みを有する突起5の頂部が研磨、鈍化された部分の断面写真を示す。図3は突起5の頂部が研磨、鈍化された部分の平面写真を示す。突起5の頂部を研磨すると、先端が鈍化され、なだらかになる。どの程度研磨するかは、適宜決めることができる。
突起5の頂部を研磨鈍化することで、突起5の頂部の先端がその上に積層された合金薄帯1のロール接触面側に直接接触することにより、短絡してしまう確率を低減させることができる。これにより、例えば13μmのように厚さの薄いFe基ナノ結晶合金薄帯の層間の絶縁を十分得ることができる。また、18μmのように比較的厚い場合でも自由面3の表面にクレーター状の窪みを有する突起5の頂部が形成されうるので、本発明のような研磨鈍化処理は有効である。
渦電流損失を低減するため、合金薄帯の厚さは、15μm以下が好ましい、より好ましくは14μm以下である。しかしながら、溶湯合金が冷却ロール上で凝固し合金薄帯となった後、冷却ロールから合金薄帯を連続的に剥離する際に、合金薄帯自体が破断しない機械的強度が必要であることから、厚さは10μm以上が好ましい。
本発明にかかるFe基ナノ結晶合金薄帯用Fe基アモルファス合金薄帯としては、Feを主体とし、Cu、Auから選ばれる少なくとも1種の元素およびTi、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選ばれる少なくとも1種の元素を必須元素として含むものが適している。例えば、特公平4−4393号に開示のFe−Cu−Nb−Si−B系の他、Fe−Cu−Nb−Zr−Si−B系、Fe−Cu−Nb−Zr−B系、Fe−Mo−B系、Fe−Nb−B系、Fe−Zr−B系、Fe−Cu−Zr−B系、Fe−Nb−Al−Si−B系などがあげられる。
これらの合金は、結晶化温度以上の熱処理により、平均粒径が100nm以下のbcc−Fe固溶体結晶が組織の50%以上を占めるナノ結晶組織を有する軟磁性合金薄帯となる。
図3に示す突起5の頂部が研磨鈍化された合金薄帯1は、クリーナーロール8により磨耗粉が除去された後、巻取りリール12に一旦巻き取られる。一旦巻き取られた後、あらためて絶縁層4を塗布する処理工程が行われる。絶縁層4を形成するための装置は、周知のグラビアコータ等の、ロールコータを用いるのが好ましい。
すなわち、前記合金薄帯1が巻き取られた巻取りリール12を、巻出しリールとして、ロールコータにセットし、合金薄帯1の表面に絶縁層4を塗布することができる。
層間絶縁膜はシリカやアルミナなどを塗布乾燥させて形成される。この場合、金属アルコキシドを含有するアルコール溶液中に、合金薄帯を浸漬させた後、乾燥させることにより形成させる方法、シリカ粉末などを懸濁させた溶液中に合金薄帯を浸漬させた後、乾燥させる方法などが、高効率で連続的に絶縁膜を形成できる方法である。
絶縁層4が塗布されて乾燥すると再び合金薄帯1は巻取りリール12に巻き取られる。このリールの状態で前述の熱処理が行われ、Fe基ナノ結晶合金薄帯が作製される。
本実施形態では自由面3に絶縁層を形成する例を説明したが、ロール接触面2に絶縁層を形成してもよい。また、ロール接触面2と自由面3の両方に絶縁層を形成してもよい。コストおよび処理工程の容易さを考慮すると自由面3のみに形成することが好ましい。
(比較例1)
原子%でCu:1%、Nb:3%、Si:15.5%、B:6.5%、残部Fe及び不可避不純物からなる合金溶湯(合金質量40kg)を単ロ−ル法により急冷し、幅25mm、厚さ13μmのFe基アモルファス合金薄帯を、約17,000m得た。
得られた合金の自由面のクレーター状の窪みを有する突起の状態を確認するために、長手方向任意の場所で、合金薄帯の幅方向で、中央部、2端部の3箇所の、各視野広さ5mm×50mmの視野の合計3視野として、金属顕微鏡で観察したところ、クレーター状の窪みを有する突起が前記3視野内に10個確認できた。
次に、シリカ絶縁膜を塗布した。IPA(イソプロピルアルコール)にシリカ粉を懸濁させた液に合金薄帯を通した後、乾燥させて、合金薄帯の片面(自由面)に1.5〜3μmのシリカ絶縁膜を形成した。
前記シリカ絶縁膜が形成された合金薄帯の一部、長さ200mを、内径180mmの樹脂製巻き芯に巻回して絶縁度を評価したところ、41%であった。
前記シリカ絶縁膜が形成された合金薄帯を、巻回して、内径28mm、外径45mmのトロイダル磁心を作製し、窒素雰囲気で最高保持温度580℃で20分保持することによりナノ結晶合金とした後、前記磁心に直径0.5mmの導線2本を各1回巻回し、周波数100kHz、励磁磁束密度200mTの条件で、損失を測定したところ、200kW/mであった。
前記シリカ絶縁膜が形成された合金薄帯を、巻回して、加速空胴用の形状である内径245mm、外径800mm、高さ25mmのトロイダル磁心を作製し、窒素雰囲気で最高保持温度580℃で20分保持することによりナノ結晶合金とした後、Agilent製LCRメータ4285Aを用いて、周波数0.5MHz、1MHz、5MHz、10MHzでのシャントインピーダンスRpを測定した(発信出力電圧OSC=0.5V、コイル:0.05mm厚さ×28mm幅の銅板、1ターン)。
以下の関係式より、Rpより、μp’・Q・f値(GHz)を求めることができる。μp’・Q・f値は、内径や外径等、磁心形状が異なる場合でも磁心特性を比較できる指標として用いられる。
Rp=μ0・t・ln(b/a)μp’・Q・f
ここで、μ0:真空の透磁率、t:磁心高さ、a:磁心内径、b:磁心外径、μp’:並列等価回路での複素透磁率実数部、Q:磁心のQ値、f:周波数、である。
高周波加速空胴用の磁心では、高いシャントインピーダンスRp、つまり高いμp’・Q・f値であることが望ましいとされる。
前記加速空胴用磁心での、各周波数での、μp’・Q・f値(GHz)は、3.4(0.5MHz)、4.1(1MHz)、6.4(5MHz)、7.6(10MHz)であった。
(比較例2)
比較例1と同組成の合金質量40kgを融点以上で溶融した後、単ロール法により、幅25mm、厚さ18μmになるように、溶融金属をノズルから冷却ロールに吐出させて、合金薄帯を、約12,200m得た。
得られた合金の自由面のクレーター状の窪みを有する突起の状態を確認するために、長手方向任意の場所で、合金薄帯の幅方向で、中央部、2端部の3箇所の、各視野広さ5mm×50mmの視野の合計3視野として、金属顕微鏡で観察したところ、クレーター状の窪みを有する突起が前記3視野内に1個確認できたのみであった。
次に、シリカ膜を塗布した。IPAを懸濁させた液に合金薄帯を通した後、乾燥させて、合金薄帯の片面(自由面)に1.5〜3μmのシリカ絶縁膜を形成した。
前記シリカ絶縁膜が形成された合金薄帯の一部、長さ200mを、内径180mmの樹脂製巻き芯に巻回して絶縁度を評価したところ、87%であった。
比較例1と同様の方法でトロイダル磁心を作製し、損失を測定したところ、250〜300kW/mであった。
比較例1と同組成の合金質量40kgを融点以上で溶融した後、単ロール法により、幅35mm、厚さ18μmになるように、溶融金属をノズルから冷却ロールに吐出させて、合金薄帯を得た。
比較例1と同様に、合金薄帯表面にシリカ絶縁膜を形成した後、巻回して、加速空胴用の形状である内径245mm、外径800mm、高さ35mmのトロイダル磁心を作製し、窒素雰囲気で最高保持温度580℃で20分保持することによりナノ結晶合金とした後、比較例1と同様に各周波数でのシャントインピーダンスRpを測定し、μp’・Q・f値(GHz)を算出した。各周波数での、μp’・Q・f値(GHz)は、3.2(0.5MHz)、3.8(1MHz)、6.0(5MHz)、7.2(10MHz)であった。
(実施例1)
前記比較例1で作製した合金薄帯16,900mの内、500mについて、図5に示すダイヤモンド粉を電着した円柱状砥石(砥石ロール)(#1000)を備える装置で、自由面を研磨した。円柱状砥石の直径は60mmであり、回転数は毎分2500回転で行った。従って、周速は、450m/分となる。また、合金薄帯には、30N・mの張力がかかる状態で、円柱状砥石と合金薄帯の接する距離は4.2mm(角度換算で8°)で行った。自由面のクレーター状の窪みを有する突起の頂部が研磨、鈍化された部分(クリーナーロールにより磨耗粉が除去された後)の断面を観察した結果を図1に示す。図2には、研磨鈍化前の自由面のクレーター状の窪みを有する突起の断面を示す。図2に比べて、図1では表面のクレーター状の窪みを有する突起の頂部が研磨、鈍化されていることが分かる。
前記合金薄帯500mについて、比較例と同様にシリカ絶縁膜を形成した後、長さ200mを、内径180mmの樹脂製巻き芯に巻回して絶縁度を評価したところ、85%であった。前記絶縁度は、自由面のクレーター状の窪みを有する突起の頂部を研磨、鈍化していない比較例1に比べて2倍以上である。また、合金薄帯の厚さが18μmで、クレーター状の窪みを有する突起がほとんど無い比較例2に比べて、2%低いのみであって、ほぼ同等である。
更に、比較例1と同様の方法でトロイダル磁心を作製し、損失を測定したところ、166〜177kW/mであった。前記損失の値は、自由面のクレーター状の窪みを有する突起の頂部を研磨、鈍化していない比較例1に比べて11〜17%低損失となっている。他方、合金薄帯の厚さが18μmの比較例2に比べて、約25%損失が低減されている。
実施例1に記載のシリカ絶縁膜を形成した合金薄帯を用いて、合金薄帯を巻回して、加速空胴用の形状である内径245mm、外径800mm、高さ25mmのトロイダル磁心を作製し、窒素雰囲気で最高保持温度580℃で30分保持することによりナノ結晶合金とした後、比較例1と同様に各周波数でのシャントインピーダンスRpを測定し、μp’・Q・f値(GHz)を算出した。各周波数での、μp’・Q・f値(GHz)は、4.2(0.5MHz)、4.9(1MHz)、7.1(5MHz)、8.4(10MHz)であった。
以上の比較例1、比較例2、実施例1のμp’・Q・f値(GHz)の算出結果を(表1)に示す。
Figure 0006478160
表1より、μp’・Q・f値を対比すると、周波数0.5MHzでは、実施例1は、比較例1に比べて0.8大きく、比較例2に比べて1.0大きい。周波数1MHzでは、実施例1は、比較例1に比べて0.8大きく、比較例2に比べて1.1大きい。周波数5MHzでは、実施例1は、比較例1に比べて1.1大きく、比較例2に比べて1.3大きい。周波数10MHzでは、実施例1は、比較例1に比べて0.8大きく、比較例2に比べて1.2大きい。前記比較的大きいμp’・Q・f値(GHz)によって、実際の高周波加速空胴用途において、優れた特性を示すことを確認できた。
(比較例3)
実施例1は、円柱状砥石(砥石ロール)(#1000)を備える装置で、自由面のクレーター状の窪みを有する突起の頂部を研磨したものであるが、比較例3では、クレーター状の窪みを有する突起の頂部だけでなく、自由面を全面研磨した。ただし比較例3では、#1000の円柱状砥石では目詰まりにより、全面を研磨できなかったため、♯400のダイヤモンド粉を電着した円柱状砥石を用いた。比較例1と同様の方法でトロイダル磁心を作製し、損失を測定したところ、194〜198kW/mであった。従って、全面研磨をすると、クレーター状の窪みを有する突起の頂部のみを研磨した場合に比べて、損失が約15%大きくなることが確認された。
損失が増大した原因として、合金薄帯自由面の面状態が変化することによりシリカ絶縁膜の剥がれが発生しやすくなり、層間の絶縁性が劣化したと推定される。
1 Fe基アモルファス合金薄帯
2 ロール接触面
3 自由面
4 シリカ絶縁膜
5 クレーター状の窪みを有する突起
6 研磨鈍化部分
7 円柱状砥石(砥石ロール)
8 クリーナーロール
9 張力調整ロール
10 ガイドロール
11 巻出しリール
12 巻取りリール

Claims (3)

  1. 単ロール法によるロール接触面と自由面とを有するFe基ナノ結晶合金薄帯が絶縁層を介して巻回された形状を有する磁心であって、前記Fe基ナノ結晶合金薄帯における自由面には、直径が20〜50μm、高さが5〜10μmのクレーター状の窪みを有する突起が分散すると共に、前記突起は、その頂部のみが研磨され鈍化されていることを特徴とする高周波トランス用磁心(但し、高周波加速空胴用磁心を除く)。
  2. 請求項1に記載の磁心であって、前記Fe基ナノ結晶合金薄帯の厚さが10〜15μmであることを特徴とする高周波トランス用磁心(但し、高周波加速空胴用磁心を除く)
  3. 請求項1または2に記載の磁心の製造方法であって、
    (1)単ロール法によるFe基ナノ結晶合金薄帯用Fe基アモルファス合金薄帯を作製する工程と、
    (2)前記Fe基アモルファス合金薄帯の自由面に円柱状砥石の回転周面を接触させ、前記自由面に分散するクレーター状の窪みを有する突起に対し、その頂部のみを加圧研磨して鈍化する工程と、
    (3)前記Fe基アモルファス合金薄帯の自由面及び/またはロール接触面に絶縁層を形成する工程と、
    (4)前記絶縁層が形成されたFe基アモルファス合金薄帯を巻回する工程、
    (5)前記巻回されたFe基アモルファス合金薄帯を熱処理し、ナノ結晶化させてFe基ナノ結晶合金薄帯とする工程と、
    を有することを特徴とする高周波トランス用磁心の製造方法(但し、高周波加速空胴用磁心の製造方法を除く)
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