JP6472130B2 - 積層膜付き基板 - Google Patents

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Description

本発明は、積層膜付き基板に関する。
透明基板上に透明導電層など複数の層を積層することにより構成される積層膜付き基板は、例えば、表示デバイス、太陽電池デバイス、およびエレクトロクロミックデバイスなど、様々な分野に使用されている。通常、そのような積層膜付き基板では、透明導電層として、インジウム錫酸化物(ITO)層が使用される場合が多い。
しかしながら、ITO層は、耐酸化性の点で問題があることが知られている。すなわち、ITO層は、400℃程度まで加熱されると、酸化によって酸素欠陥が失われ、導電性が低下してしまう。
特に、積層膜付き基板を備える前述のようなデバイスの製造プロセスには、熱処理工程が含まれる場合が多く、従って、このようなITO層の耐熱性の問題は、製造プロセスを検討する上で、大きな制約となっている。
なお、このようなITO層の酸化の問題に対処するため、透明基板上に形成される積層膜を、透明基板に近い側から、SiOからなる下地層(ただし1.2<x<1.8)、インジウム錫酸化物(ITO)層、および酸化スズからなる耐酸化保護層を順次積層して構成することが提案されている(特許文献1)。
このうち、酸化スズからなる耐酸化保護層は、酸素ガスバリア性を有する。また、下地層を構成するSiOは、ITO層よりも酸化物生成エネルギーが低いため、酸化されやすいという特徴を有する。従って、このような積層膜の構成では、積層膜付き基板を熱処理した際に、耐酸化保護層および下地層の働きによって、ITO層の酸化を抑制することができ、これによりITO層の導電性の低下を抑制し得ることが提案されている。
国際公開第WO2012/157524号
前述のように、特許文献1には、透明基板上に形成される積層膜を、下地層、ITO層、および酸化スズからなる耐酸化保護層の3層で構成することが示されている。
しかしながら、一般に、酸化スズ層は、ウェット法でエッチング処理することは難しい。従って、酸化スズ層を有する積層膜をパターン化する際には、レーザーアブレーション法のような、ドライ法を適用する必要が生じる。
ここで「ウェット法」とは、液体エッチャント(エッチング溶液)を使用することを意味し、「ウェット法でエッチング(処理)する」とは、例えばパターン形成などのため、液体エッチャントを使用して、層をエッチング処理する工程を意味する。なお、「ウェット法」とは対照的なエッチング技術として、「ドライ法」がある。この「ドライ法」では、液体エッチャントを使用せずに(例えばレーザーまたはガスなどにより)、層がパターン処理される。
しかしながら、酸化スズ層を有する積層膜のパターン化にドライ法を適用した場合、高精度で微細なパターンを形成することが難しいという問題が生じ得る。また、ドライ法では、加工時に生じる加工屑の付着により、積層膜が汚染され、最終的に得られるデバイスにおいて、所望の特性が発揮できなくなる可能性がある。
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、400℃以下の熱処理に対して耐熱性を有するとともに、ウェット法でエッチング処理することが可能な積層膜を有する、積層膜付き基板を提供することを目的とする。また、本発明では、そのような積層膜付き基板の製造方法を提供することを目的とする。
本発明では、
透明基板と、
該透明基板の上部に配置されたインジウム錫酸化物を有する透明導電層と、
該透明導電層の上部に配置され、亜鉛(Zn)と錫(Sn)の混合酸化物を有する上部層と、を有し、
前記上部層は、該上部層の密度をA(g/cm )とし、同一組成を有する材料の理論密度をB(g/cm )としたとき、以下の(1)式で表される密度比Pが1.00よりも大きい、積層膜付き基板が提供される。
密度比P=A/B (1)式
また、本発明では、積層膜付き基板の製造方法であって、
(1)透明基板の上部に、インジウム錫酸化物を有する透明導電層を配置するステップと、
(2)前記透明導電層の上部に、亜鉛(Zn)と錫(Sn)の混合酸化物を有する上部層を配置するステップと、を有し、
前記上部層は、0.8Pa以下の圧力下において、スパッタリング法により成膜される、製造方法が提供される。

本発明では、400℃以下の熱処理に対して耐熱性を有するとともに、ウェット法でエッチング処理することが可能な積層膜を有する、積層膜付き基板を提供することができる。また、本発明では、そのような積層膜付き基板の製造方法を提供することができる。
本発明の一実施形態による積層膜付き基板の断面構成を概略的に示した図である。 本発明の一実施形態による別の積層膜付き基板の断面構成を概略的に示した図である。 本発明の一実施形態による積層膜付き基板の製造方法を模式的に示したフロー図である。
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
(第1の積層膜付き基板)
図1には、本発明の一実施形態による積層膜付き基板(以下、「第1の積層膜付き基板」と称する)の断面構成を概略的に示す。
図1に示すように、この第1の積層膜付き基板100は、透明基板110の一方の表面に、積層膜120を配置することにより構成される。積層膜120は、透明基板110に近い側から、透明導電層130および上部層140を有する。
透明基板110は、透明な材料である限り、いかなる材料で構成されても良い。
透明導電層130は、インジウム錫酸化物(ITO)を有する。なお、インジウム錫酸化物(ITO)は、インジウム酸化物と錫酸化物のみからなる2元系材料に限られるものではなく、さらに不純物を含むものであっても良い。
上部層140は、亜鉛(Zn)と錫(Sn)の混合酸化物を含む。ZnとSnの割合は、例えば、モル比で、Zn:Sn=30:70〜80:20の範囲である。
上部層140は、該上部層140の密度をA(g/cm)とし、同一組成を有する材料の理論密度をB(g/cm)としたとき、
以下の(1)式

密度比P=A/B (1)式

で表される密度比Pが1.0よりも大きいことが好ましい。
このような構成の第1の積層膜付き基板100は、上部層140の存在により、400℃までの温度域において、比較的良好な耐熱性を有する。すなわち、第1の積層膜付き基板100に対して400℃程度の熱処理を適用した際に、上部層140が酸素バリアとして機能するため、透明導電層130の酸化が有意に抑制される。
例えば、第1の積層膜付き基板100は、大気中、400℃で30分間熱処理した後のシート抵抗をR(Ω/□)とし、熱処理前のシート抵抗をR(Ω/□)としたとき、以下の(2)式

シート抵抗変化率R400=R/R (2)式

で表されるシート抵抗変化率R400が1.5以下である。シート抵抗変化率R400は、1.4以下であることが好ましい。
このように、第1の積層膜付き基板100は、比較的良好な耐熱性を有するため、積層膜付き基板の製造プロセスにおいて、従来のような制約が少なくなり、すなわち製造プロセスの自由度が広がり、例えば400℃程度の熱処理工程を含む製造プロセスを構築することが可能となる。
また、第1の積層膜付き基板100は、積層膜120をウェット法によりエッチング処理することができるという特徴を有する。これは、上部層140は、錫酸化物の他に亜鉛酸化物を含むため、液体エッチャントを用いてエッチングすることができるためである。例えば、上部層140は、ウェット法によりITOをエッチング処理する際に使用される一般的なエッチャントを使用しても、十分にエッチング処理することができる。
従って、第1の積層膜付き基板100の構成では、ウェット法によるエッチング処理を適用することにより、積層膜120に、比較的高精度で微細なパターンを形成することが可能となる。また、従来のドライ処理のような、加工の際に積層膜120が汚染されるという問題も、有意に軽減することができる。
さらに、例えば、レーザーアブレーション法のようなドライ法では、透明導電層130および上部層140のみを選択的にパターン加工することは難しく、加工の際に、同時に透明基板110も加工されてしまう可能性がある。
これに対して、第1の積層膜付き基板100では、ウェット法でエッチング処理することにより、透明基板110には影響を及ぼさずに、透明導電層130および上部層140のみを選択的にパターン化することが可能となる。
(第2の積層膜付き基板)
図2には、本発明の一実施形態による別の積層膜付き基板(以下、「第2の積層膜付き基板」と称する)の断面構成を概略的に示す。
図2に示すように、この第2の積層膜付き基板200は、透明基板210の一方の表面に、積層膜220を配置することにより構成される。積層膜220は、透明基板210に近い側から、下地層250、透明導電層230および上部層240を有する。
このうち、透明基板210、透明導電層230、および上部層240は、それぞれ、前述の第1の積層膜付き基板100における透明基板110、透明導電層130、および上部層140と同様に構成される。
一方、下地層250は、第2の積層膜付き基板200の熱処理の際、あるいは第2の積層膜付き基板200を備えるデバイスの使用(駆動)中に、透明基板210側から、該透明基板210を構成する成分が、透明導電層230の方にマイグレーションすることを抑制する役割を有する。
すなわち、透明基板210と透明導電層230の間に下地層250を設けることにより、透明導電層230の組成安定性が向上し、長期にわたって所望の特性を維持することができる。特に、このような下地層250は、透明基板210が、例えばソーダライムガラスのようなアルカリ金属を含むガラスで構成される場合に有効である。ガラス中に含まれるアルカリ金属は、熱および電場などの影響下では、外方(透明導電層230側)に移動し易い傾向にあるためである。
下地層250は、例えば、SiOで構成されても良い。
このような構成の第2の積層膜付き基板200においても、前述の第1の積層膜付き基板100と同様の効果を得ることができる。
すなわち、第2の積層膜付き基板200は、400℃までの温度域において、比較的良好な耐熱性を有し、400℃程度の熱処理を適用した際に、透明導電層230の酸化を有意に抑制することができる。また、第2の積層膜付き基板200は、積層膜220をウェット法によりエッチング処理することができる。このため、積層膜220にウェット法によるエッチング処理を適用することにより、積層膜220に、比較的高精度で微細なパターンを形成することが可能となる。また、従来のドライ処理のような、パターン加工の際に積層膜220が汚染されるという問題も、有意に軽減することができる。
さらに、第2の積層膜付き基板200では、ウェット法でエッチング処理することにより、下地層250(さらには透明基板210)には影響を及ぼさずに、透明導電層230および上部層240のみを選択的にパターン化することが可能となる。
(各構成部材について)
次に、図1に示した第1の積層膜付き基板100を例に、積層膜付き基板を構成する各部材の仕様について、より詳しく説明する。
(透明基板110)
透明基板110は、透明な材料である限り、いかなる材料で構成されても良い。透明基板110は、例えば、ガラス、樹脂またはプラスチック等で構成されても良い。
ガラスとしては、例えば、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、石英ガラス、および無アルカリガラス等が挙げられる。
一方、プラスチックとしては、例えば、PET、PTFE、およびポリカーボネート等が挙げられる。
また、透明基板110は、必ずしも単一の部材で構成される必要はなく、例えば複数の層で構成されても良い。
透明基板110の厚さは、特に限られないが、例えば、0.1mm〜6mmの範囲であっても良い。
なお、前述のように、透明基板110がアルカリ金属を含むガラス(例えばソーダライムガラス)で構成される場合、透明基板110と透明導電層130の間には、下地層(図2参照)を配置することが好ましい。
下地層を配置することにより、透明基板110が高温環境および/または電場に晒された際に、透明基板110側から、該透明基板110を構成するアルカリ成分が、透明導電層130の方にマイグレーションすることを抑制できる。
下地層は、例えば、SiOで構成されても良い。ここで、下地層がSiOで構成される場合、SiとOの比は、できるだけ化学量論比(すなわちmol比で1:2)に近づけることが好ましい。これにより、透明基板110側からのアルカリ成分のマイグレーションをよりいっそう抑制することができる。
下地層の厚さは、特に限られないが、例えば、10nm〜50nmの範囲であっても良い。
(透明導電層130)
透明導電層130は、インジウム錫酸化物(ITO)を有する。前述のように、ITOは、インジウム酸化物および錫酸化物からなる2元系酸化物に限られない。すなわち、ITOは、インジウム酸化物と錫酸化物の他に、さらに添加材料を含んでも良い。そのような添加材料としては、例えば、Ga、Ta、Ti、および/またはZr等が挙げられる。
透明導電層130の厚さは、特に限られないが、例えば、10nm〜300nmの範囲であっても良い。
透明導電層130は、例えば、スパッタリング法、蒸着法、およびイオンプレーティング法などに代表されるPVD法等により形成することができる。
(上部層140)
上部層140は、亜鉛(Zn)と錫(Sn)の混合酸化物を含む。ZnとSnの割合は、例えば、モル比で、Zn:Sn=30:70〜80:20の範囲である。ZnとSnの割合は、モル比で、Zn:Sn=33:67〜64:36の範囲であることが好ましい。Znは、両性元素であり両性酸化物を形成することから、Znの割合が多すぎると、酸溶液およびアルカリ溶液に対する化学的耐久性が低下するおそれがあるからである。
上部層140の厚さは、特に限られないが、例えば、10nm〜40nmの範囲であっても良い。
上部層140は、例えば、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法、およびCVD法等により形成することができる。
ここで、スパッタリング法により上部層140を形成する場合、成膜時の圧力は、0.8Pa以下であることが好ましい。成膜時の圧力は、0.5Pa以下であることがより好ましく、0.4Pa以下であることがさらに好ましい。
成膜時の圧力を、0.8Pa以下とすることにより、緻密な上部層140を形成することができ、より有効な酸素バリア特性を得ることができる。
例えば、上部層140の密度をA(g/cm)とし、同一組成を有する材料の理論密度をB(g/cm)としたとき、前述の(1)式で表される密度比Pを1.0よりも大きくすることができる。
ここで、密度比Pは、上部層140の緻密性に対応するパラメータであることに留意する必要がある。密度比Pは、特に、1.03以上であることが好ましく、1.04以上であることがより好ましい。
(積層膜付き基板のその他の特性について)
本発明の一実施形態による積層膜付き基板(例えば、第1の積層膜付き基板100および第2の積層膜付き基板200)は、前述のように、(2)式で表されるシート抵抗変化率R400が1.5以下であっても良い。シート抵抗変化率R400は、1.4以下であることが好ましい。
また、本発明の一実施形態による積層膜付き基板は、70%〜99%の範囲の視感透過率を有しても良い。このような透過率を有する積層膜付き基板は、透明性が要求される各種デバイス、例えば、表示デバイスおよび太陽電池デバイス等に好適に使用できる。
(本発明による積層膜付き基板の製造方法)
次に、図3を参照して、本発明の一実施形態による積層膜付き基板の製造方法について説明する。なお、以下の説明では、前述の図1に示した構成を有する第1の積層膜付き基板100を例に、その製造方法について説明する。従って、各部材を説明する際には、図1に示した参照符号を使用する。ただし、以下の説明が、前述の図2に示した構成を有する第2の積層膜付き基板200の製造方法にも適用できることは、当業者には明らかである。
図3には、本発明の一実施形態による積層膜付き基板の製造方法(以下、「第1の製造方法」と称する)のフローを概略的に示す。
図3に示すように、この第1の製造方法は、
透明基板の上部に、インジウム錫酸化物を有する透明導電層を配置するステップ(ステップS110)と、
前記透明導電層の上部に、亜鉛(Zn)と錫(Sn)の混合酸化物を有する上部層を配置するステップ(ステップS120)と、
を有する。
以下、各ステップについて説明する。
(ステップS110)
まず、積層膜付き基板用の透明基板110が準備される。前述のように、透明基板110は、例えば、ガラス、樹脂またはプラスチックで構成されても良い。
次に、透明基板110の一方の表面に、インジウム錫酸化物を有する透明導電層130が形成される。
透明導電層130の形成方法は、特に限られない。透明導電層130は、例えば、スパッタリング法、蒸着法、およびイオンプレーティング法等により、透明基板100上に成膜しても良い。
透明導電層130の厚さは、例えば、10nm〜300nmの範囲である。
(ステップS120)
次に、透明導電層130の上部に、上部層140が形成される。前述のように、上部層140は、ZnとSnの混合酸化物を有する。
上部層140の厚さは、例えば、10nm〜40nmの範囲である。
上部層140の形成方法は、特に限られない。上部層140は、例えば、スパッタリング法、蒸着法、およびイオンプレーティング法等により、透明導電層130の上部に成膜しても良い。
例えば、スパッタリング法により、透明導電層130の上部に上部層140を成膜する場合、ターゲットとして、酸化亜鉛(ZnO)および酸化錫(SnO)を含む焼結体が使用されても良い。この場合、焼結体に含まれるZnOとSnOの割合を変化させることにより、所望の組成を有する上部層140を成膜することができる。焼結体に含まれるZnOとSnOの割合は、モル比で、例えば、ZnO:SnO=30:70〜80:20の範囲であっても良い。
あるいは、スパッタリング法の適用の際に、複数のターゲットを使用しても良い。例えば、ZnOターゲットと、SnOターゲットの2種類のターゲットを使用しても良い。
なお、スパッタリング法により上部層140を成膜する場合、成膜圧力は、0.8Pa以下であることが好ましい。このような成膜圧力を選定することにより、前述の(1)式で表される密度比Pが1.00を超える、緻密な上部層140を成膜することができる。
成膜圧力は、0.5Pa以下であることが好ましく、0.4Pa以下であることがより好ましい。
以上のようなステップS110〜S120の工程を経て、上部に透明導電層130および上部層140が積層された第1の積層膜付き基板100を製造することができる。
その後、必要に応じて、積層膜120のパターン化工程が実施されても良い。前述のように、第1の積層膜付き基板100において、上部層140は、ウェット法でエッチング処理することができる。このため、第1の積層膜付き基板100の構成では、積層膜120に、比較的高精度で微細なパターンを形成することが可能となる。また、従来のドライ処理のような、加工の際に積層膜120が汚染されるという問題も、有意に軽減することができる。
なお、図2に示したような第2の積層膜付き基板200を製造する際には、前述のステップS110の前に、透明基板上に、下地層(図2参照)を形成するステップが実施される。前述のように、下地層は、SiOを有する。下地層の厚さは、例えば、10nm〜50nmの範囲である。
下地層の形成方法は、特に限られない。下地層は、例えば、スパッタリング法、蒸着法、およびイオンプレーティング法等により、透明基板上に成膜されても良い。
以上、第1の製造方法を例に、本発明の一実施形態による積層膜付き基板の製造方法について説明した。しかしながら、本発明の一実施形態による積層膜付き基板は、その他の製造方法で製造されても良いことは当業者には明らかである。
以下、本発明の実施例について説明する。
(例1−1)
以下の方法で、前述の図2に示したような構成を有する積層膜付き基板を作製した。
まず、透明基板として、厚さ3mmのソーダライム製のガラス基板を準備した。次に、スパッタリング法により、このガラス基板の一方の表面に、厚さ30nmのSiO層を成膜した。なお、膜厚の測定には、触針式段差計(DEKTAK3030;Sloan社製)を使用した。以下の層の測定においても同様の装置を使用した。
次に、このガラス基板を300℃に加熱した状態で、スパッタリング法により、SiO層の上にITO層を成膜した。ターゲットには、SnOを10wt%含むITOターゲットを使用した。成膜されたITO層の膜厚は、150nmであった。
次に、得られたガラス基板のITO層の上に、DCスパッタリング法により、ZnOとSnOを含む混合酸化物層を上部層として成膜した。
ターゲットには、ZnSnの酸化物ターゲットを使用した。この酸化物ターゲット中のZn存在比、すなわちZn/(Zn+Sn)は、0.33(mol比)である。
混合酸化物層の成膜時の投入パワー密度は約28W/cmであり、処理ガスにはアルゴン(Ar)ガスと酸素ガスの混合ガスを使用した。混合ガス中のArガスに対する酸素ガスの割合は、6vol%である。成膜時の圧力は、0.41Paとした。
得られた混合酸化物層の厚さは、20nmであった。また、混合酸化物層に含まれるZnの割合、すなわちZn/(Zn+Sn)は、0.33(mol比)であった。
以上の工程により、積層膜付き基板(以下、「例1−1に係る基板」という)を得た。
(例2−1)
以下の方法で、前述の図2に示したような構成を有する積層膜付き基板を作製した。
まず、透明基板として、厚さ3mmのソーダライム製のガラス基板を準備した。次に、スパッタリング法により、このガラス基板の一方の表面に、厚さ30nmのSiO層を成膜した。
次に、このガラス基板を300℃に加熱した状態で、スパッタリング法により、SiO層の上にITO層を成膜した。ターゲットには、SnOを10wt%含むITOターゲットを使用した。成膜されたITO層の膜厚は、150nmであった。
次に、得られたガラス基板のITO層の上に、DCスパッタリング法により、ZnOとSnOを含む混合酸化物層を上部層として成膜した。
ターゲットには、1:1の割合(重量比)でZnとSnとを含む金属ターゲットを使用した。
混合酸化物層の成膜時の投入パワー密度は約28W/cmであり、成膜ガスにはアルゴン(Ar)ガスと酸素ガスの混合ガスを使用した。混合ガス中のArガスに対する酸素ガスの割合は、50vol%である。成膜時の圧力は、0.15Paとした。
得られた混合酸化物層の厚さは、20nmであった。また、混合酸化物層に含まれるZnの割合、すなわちZn/(Zn+Sn)は、0.64(mol比)であった。
以上の工程により、積層膜付き基板(以下、「例2−1に係る基板」という)を得た。
(例2−2)
前述の例2−1と同様の方法により、積層膜付き基板(以下、「例2−2に係る基板」という)を作製した。ただし、この例2−2では、ZnOとSnOを含む混合酸化物層の成膜時の圧力は、0.36Paとした。その他の条件は、例2−1の場合と同様である。
(例2−3)
前述の例2−1と同様の方法により、積層膜付き基板(以下、「例2−3に係る基板」という)を作製した。ただし、この例2−3では、ZnOとSnOを含む混合酸化物層の成膜時の圧力は、0.80Paとした。その他の条件は、例2−1の場合と同様である。
(例2−4)
前述の例2−1と同様の方法により、積層膜付き基板(以下、「例2−4に係る基板」という)を作製した。ただし、この例2−4では、ZnOとSnOを含む混合酸化物層の成膜時の圧力は、0.40Paとした。また、混合酸化物層の膜厚は40nmとした。その他の条件は、例2−1の場合と同様である。
(例2−5)
前述の例2−4と同様の方法により、積層膜付き基板(以下、「例2−5に係る基板」という)を作製した。ただし、この例2−5では、混合酸化物層の膜厚は30nmとした。その他の条件は、例2−4の場合と同様である。
(例2−6)
前述の例2−4と同様の方法により、積層膜付き基板(以下、「例2−6に係る基板」という)を作製した。ただし、この例2−6では、混合酸化物層の膜厚は20nmとした。その他の条件は、例2−4の場合と同様である。
(例2−7)
前述の例2−7と同様の方法により、積層膜付き基板(以下、「例2−7に係る基板」という)を作製した。ただし、この例2−7では、混合酸化物層の膜厚は10nmとした。その他の条件は、例2−4の場合と同様である。
その他の条件は、例2−4の場合と同様である。
(例3−1:比較例)
以下の方法で、積層膜付き基板を作製した。
まず、透明基板として、厚さ3mmのソーダライム製のガラス基板を準備した。次に、スパッタリング法により、このガラス基板の一方の表面に、厚さ30nmのSiO層を成膜した。
次に、このガラス基板を300℃に加熱した状態で、スパッタリング法により、SiO層の上にITO層を成膜した。ターゲットには、SnOを10wt%含むITOターゲットを使用した。成膜されたITO層の膜厚は、150nmであった。
以上の工程により、積層膜付き基板(以下、「例3−1に係る基板」という)を得た。なお、例3−1に係る基板では、上部層は設置されていない。
以下の表1には、各積層膜付き基板における上部層の成膜条件をまとめて示した。
Figure 0006472130
(評価)
前述の方法で作製された各積層膜付き基板を用いて、以下の評価を行った。
(上部層の緻密性評価)
前述のように、積層膜付き基板の上部層の緻密性は、以下の(1)式で表される密度比Pを用いて評価することができる:

P=A/B (1)式

すなわち、密度比Pが大きいほど、上部層の緻密性が高いと言える。そこで、各積層膜付き基板(例3−1に係る基板は除く)において、上部層の密度A(g/cm)を測定し、密度比Pを算定した。
なお、同一組成を有する材料の理論密度B(g/cm)は、ZnOとSnOのそれぞれの理論密度(それぞれ、5.61g/cmおよび6.95g/cm)と、ZnOおよびSnOの存在比(ZnO:SnO)から、算定することができる。
例えば、例1−1に係る基板の場合、上部層は、ZnO:SnO=0.33:0.67(mol比)であるため、同一組成を有する材料の理論密度B=6.50g/cmと算定される。また、例2−1〜例2−7に係る基板の場合、上部層は、ZnO:SnO=0.64:0.36(mol比)であるため、同一組成を有する材料の理論密度B=6.09g/cmと算定される。
上部層の密度A(g/cm)の測定には、X線反射率分析法(X−ray Reflection Analysis:XRR)を使用した。このXRR法では、X線回折装置(RIGAKU社製ATX−G)を用いて上部層のX線回折スペクトルを取得した後、取得データのフィッティングを行うことにより、密度A(g/cm)を求めることができる。フィッティング用の解析ソフトウェアには、GlobalFit2(RIGAKU社製)を使用した。
得られた上部層の密度A(g/cm)から、密度比Pの値を算定した。
前述の表1の「上部層の密度比P」の欄には、各積層膜付き基板の上部層において得られた密度比Pの値をまとめて示した。
この結果から、例1−1に係る基板、および例2−1〜例2−3に係る基板の何れにおいても、密度比Pは1.0を超えており、緻密な上部層が形成されていることがわかった。
(ウェット処理によるエッチング特性評価)
各積層膜付き基板において、上部層およびITO層をウェット法により同時にエッチング処理し、エッチング処理の適用性について評価した。
エッチング液には、塩酸および塩化第二鉄を含む水溶液を使用した。水溶液の組成は、塩酸:塩化第二鉄・六水和物:水=1:1:1(重量比)とした。このエッチング液中に、各積層膜付き基板を完全に浸漬させ、上部層およびITO層が完全に溶解するまでの時間(エッチング時間)を測定した。エッチング液の温度は、40℃に保持した。
得られた結果から、各積層膜付き基板のエッチング特性を判定した。なお、判定は、◎(エッチング時間が2分以下)、○(エッチング時間が2分超3分以下)、および×(エッチング時間が3分超)の3段階とした。
なお、例3−1に係る基板については、上部層が存在しないため、ITO層のみのエッチング特性として判断した。
得られた結果を、前述の表1の「エッチング特性」の欄にまとめて示す。
この結果から、例1−1に係る基板、および例2−1〜例2−7に係る基板の何れにおいても、良好なエッチング特性が得られることがわかった。特に、例2−1〜例2−7に係る基板は、上部層を有しない例3−1に係る基板の場合と同等の、良好なエッチング特性を示すことがわかった。
(耐熱性評価)
各積層膜付き基板に対して熱処理を実施し、熱処理前後における積層膜付き基板のシート抵抗を比較することにより、各積層膜付き基板の耐熱性を評価した。
熱処理は、大気環境下で、各積層膜付き基板を所定の熱処理温度まで加熱し、30分間保持した後、室温まで徐冷することにより実施した。熱処理温度は、350℃および400℃の2種類とした。
シート抵抗は、ホール効果測定機(Accent HL5500 Hall System:Accent Optics Technologies社製)を用いて、ファン・デル・パウ法により測定した。
なお、ここでは、耐熱性評価の指標として、シート抵抗変化率R350およびシート抵抗変化率R400を使用した。前述のように、シート抵抗変化率R400は、400℃における熱処理後の積層膜付き基板のシート抵抗をR(Ω/□)とし、熱処理前のシート抵抗をR(Ω/□)としたとき、以下の(2)式で表される:

シート抵抗変化率R400=R/R (2)式

同様に、シート抵抗変化率R350は、350℃における熱処理後の積層膜付き基板のシート抵抗をR(Ω/□)とし、熱処理前のシート抵抗をR(Ω/□)としたとき、以下の(3)式で表される:

シート抵抗変化率R350=R/R (3)式

(2)式および(3)式から、R350およびR400の値が小さいほど、その積層膜付き基板は、熱処理によるシート抵抗の変化(上昇)が小さく、耐熱性が高いと言える。
前述の表1の「R350」および「R400」の欄には、各積層膜付き基板において得られたシート抵抗変化率R350およびシート抵抗変化率R400の結果をまとめて示す。
この結果から、例1に係る基板、および例2−1〜例2−7に係る基板は、例3−1に係る基板に比べて、何れも良好な耐熱性を有することがわかる。特に、例2−1および例2−2に係る基板は、シート抵抗変化率R400が1.22以下となっており、優れた耐熱性を示すことがわかった。
(透過率の測定)
各積層膜付き基板の透過率について評価した。透過率の測定には、視感度簡易透過率計Model304(ASAHI SPECTRA社製)を使用した。
各積層膜付き基板において得られた結果を、表1の「透過率」の欄に示した。
以上のように、例1−1に係る基板、および例2−1〜例2−7に係る基板は、上部層およびITO層のウェット法によるエッチング処理が可能である上、良好な耐熱性を有することが確認された。
本発明は、例えば、表示デバイス、太陽電池デバイス、およびエレクトロクロミックデバイス等に利用することができる。
100 積層膜付き基板(第1の積層膜付き基板)
110 透明基板
120 積層膜
130 透明導電層
140 上部層
200 積層膜付き基板(第2の積層膜付き基板)
210 透明基板
220 積層膜
230 透明導電層
240 上部層
250 下地層

Claims (10)

  1. 透明基板と、
    該透明基板の上部に配置されたインジウム錫酸化物を有する透明導電層と、
    該透明導電層の上部に配置され、亜鉛(Zn)と錫(Sn)の混合酸化物を有する上部層と、を有し、
    前記上部層は、該上部層の密度をA(g/cm )とし、同一組成を有する材料の理論密度をB(g/cm )としたとき、以下の(1)式で表される密度比Pが1.00よりも大きい、積層膜付き基板。
    密度比P=A/B (1)式
  2. 前記上部層は、モル比で30%以上の亜鉛を有する、請求項1に記載の積層膜付き基板。
  3. 前記透明基板は、ガラス基板である、請求項1または2に記載の積層膜付き基板。
  4. 前記ガラス基板はソーダライム製である、請求項に記載の積層膜付き基板。
  5. 前記ガラス基板と前記透明導電層の間には、SiOを含む下地層が配置される、請求項に記載の積層膜付き基板。
  6. 当該積層膜付き基板は、70%〜99%の範囲の透過率を有する、請求項1乃至のいずれか一つに記載の積層膜付き基板。
  7. 当該積層膜付き基板は、大気中、400℃で30分間熱処理した後のシート抵抗をR(Ω/□)とし、熱処理前のシート抵抗をR(Ω/□)としたとき、以下の(2)式で表されるシート抵抗変化率R400が1.5以下である、請求項1乃至のいずれか一つに記載の積層膜付き基板。
    シート抵抗変化率R400=R/R (2)式
  8. 積層膜付き基板の製造方法であって、
    (1)透明基板の上部に、インジウム錫酸化物を有する透明導電層を配置するステップと、
    (2)前記透明導電層の上部に、亜鉛(Zn)と錫(Sn)の混合酸化物を有する上部層を配置するステップと、を有し、
    前記上部層は、0.8Pa以下の圧力下において、スパッタリング法により成膜される、製造方法。
  9. 前記上部層は、モル比で30%以上の亜鉛(Zn)を有する、請求項に記載の製造方法。
  10. さらに、前記(1)のステップの前に、
    (3)前記透明基板の上部に、SiO2を含む下地層を配置するステップ
    を有し、
    前記(1)のステップにおいて、前記透明導電層は、前記下地層の上部に配置される、請求項8または9に記載の製造方法。
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