JP6469371B2 - 人工多能性幹細胞(iPS細胞)から成る胚様体に複数の外来遺伝子を発現させる方法 - Google Patents

人工多能性幹細胞(iPS細胞)から成る胚様体に複数の外来遺伝子を発現させる方法 Download PDF

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本発明は、エピソーマルベクターを用いたiPS細胞からの効果的な分化誘導等を目的とする複数の外来遺伝子を胚様体に発現させる方法、該方法で製造する胚様体に関する。
ヒト人工多能性幹(iPS)細胞は体細胞に分化するため、iPS細胞は創薬及び再生医療のための有用なツールである(非特許文献1)。ヒト由来の体細胞の利用には限界がある。例えば、初代培養された肝細胞を治療に応用するとき、初代培養された肝細胞は薬物の効果及び毒性の予測に有用である(非特許文献2、3)。初代培養された肝細胞の肝不全の患者への移植が報告されている(非特許文献4)。しかし、培養された幹細胞は、アポトーシス及び損傷が惹起され易い(非特許文献5)。さらに、培養された肝細胞は増殖しない(非特許文献6)。そこで、肝細胞がiPS細胞から作製されれば、移植のために十分な量の肝細胞が提供されることになる。
また、創薬への応用のもう1つの例は筋ジストロフィーである。疾患患者由来の体細胞は創薬に有用である。しかし、十分な量の患者由来の体細胞は患者から得られない。そこで、Id2又はId3遺伝子をはじめとする複数の遺伝子の発現を抑制するiPS細胞から筋細胞に分化させることにより、iPS細胞を創薬のための研究に使用することができる(特許文献2、非特許文献7)。
ヒトiPS細胞は各患者毎にそれぞれに確立可能なため、倫理的問題及び移植片対宿主病をヒトiPS細胞の使用によって回避できる。したがって、ヒトiPS細胞は、患者のための理想的な治療細胞供給源となる。胚性幹細胞又はiPS細胞は懸滴法(hanging drop method)でそれら自身が結集され、接着分子の受容体を発現する(非特許文献8)。これらの細胞凝集体は胚様体(EB)と呼ばれる。胚様体は発生初期の3次元(3D)構造を模倣し、肝細胞又は心筋細胞などの分化した細胞タイプへのiPS細胞の分化を促進する(非特許文献9−11)。胚様体の3D構造は2次元(2D)の細胞よりも分化をより効率的に促進し、3D構造がこの現象の根底のメカニズムであると提案されている(非特許文献12)。増殖因子での刺激及び増殖因子の導入は、ヒトiPS細胞からの肝細胞様細胞の産生を促進する(特許文献1、非特許文献13−16)。分化に必要不可欠な遺伝子を発現する胚様体は、より効率的な分化を期待できる。したがって、複数の、例えば、転写因子等の目的とする分化のための、遺伝子を胚様体に発現させるための方法を確立する必要がある。
転写因子の導入は、分化した細胞タイプへのヒトiPS細胞の分化において重要なステップである(非特許文献17)。特に、複数の転写因子のiPS細胞への導入は、標的体細胞への分化を促進する(特許文献1、非特許文献18)。転写因子は、ベクター又はウィルスベクターを介してiPS細胞に導入される(非特許文献3、17、19、20)。トランスフェクション試薬又はエレクトロポレーションが、関心のある遺伝子をiPS細胞に導入するために従来から用いられている(非特許文献21、22)。しかし、トランスフェクション試薬の効率は低く、トランスフェクションされた細胞の選択が必要である(非特許文献20)。エレクトロポレーションは、細胞損傷を誘発する可能性があり問題である(非特許文献23)。ウィルスベクターは、目的の遺伝子の導入を促進するためのより効果的な方法である。しかし、これらのウィルスベクターの構築は、複雑で、面倒である。アデノウィルスベクターの構築は、複数のステップ及び多くの日数を必要とする(非特許文献16)。アデノウイルスベクターは、それ自体が異物であるため、免疫応答を惹起する(非特許文献24)。さらに、遺伝子発現はアデノウィルスでは一過性である。レトロウイルスベクターは、それら自体が宿主ゲノムに組み込まれるため、発がん性を有する(非特許文献25)。一方、プラスミドDNAは、それ自体は外因性タンパク質を生成しないため、免疫応答を誘発しない(非特許文献26)。プラスミドDNAは、それ自体は宿主ゲノムに組み込まれないため、発がん性にも関係ない(非特許文献27)。プラスミドDNAの一種であるエピソーマルベクターは、ベクターの潜在的複製開始点(latent origin of plasmid replication)(oriP)、及び、複製因子をエンコードするエプスタイン−バーウイルス核抗原(EBNA−1)遺伝子を含み、oriP及びEBNA−1は、エプスタイン−バーウイルスエピソームの持続的な有糸分裂分配を可能にする(非特許文献28)。そこで、エピソーマルベクターは、エピソーマル複製を介して娘細胞に分配される。したがって、エピソーマルベクターは、複数の導入遺伝子を発現する安定な細胞株を1週間で確立するために使用することが可能である(非特許文献29、30)。
特開2013-226127号公報 特開2010-208980号公報
Takahashi Kら、Cell.131:861-72;2007. Romano Gら、 J Cell Physiol.229:148-52;2014. Tashiro Kら、Cell Reprogram.12:501-7;2010. Strom SCら、Semin Liver Dis.19:39-48;1999. Fisher RLら、Cryobiology.30:250-61;1993. Mitaka Tら、Hepatology.13:21-30;1991. Abujarour Rら、Stem Cells Transl Med.3:149-60;2014. Bratt-Leal AMら、Biotechnol Prog.25:43-51;2009. Lu Hら、J Dig Dis.11:376-82;2010. Lim SYら、Stem Cells Transl Med.2:715-25;2013. Tomizawa Mら、Cell Tissue Res.333:17-27;2008. Baharvand Hら、Int J Dev Biol.50:645-52;2006. Song Zら、Cell Res.19:1233-42;2009. DeLaForest Aら、Development.138:4143-53;2011. Si-Tayeb Kら、Hepatology.51:297-305;2010. Takayama Kら、Mol Ther.20:127-37;2012. Zhang Yら、Neuron.78:785-98;2013. Ieda Mら、Cell.142:375-86;2010. Eiges Rら、Curr Biol.11:514-8;2001. Vallier Lら、Stem Cells.22:2-11;2004. Takarada Tら、PLoS One.8:e63947;2013. Liskovykh Mら、PLoS One.6:e27345;2011. Cao Fら、Mol Imaging Biol.12:15-24;2010. Raper SEら、Mol Genet Metab.80:148-58;2003. Miura Kら、Nat Biotechnol.27:743-5;2009. Wells DJら、Cell Biol Toxicol.26:21-8;2010. Ledwith BJら、Intervirology.43:258-72;2000. Yates JLら、Nature.313:812-5;1985. Tanaka Jら、Biochem Biophys Res Commun.264:938-43; 1999. Shibata MAら、Med Mol Morphol.40:103-7;2007.
本発明は、複数の外来遺伝子並びに薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子のiPS細胞への効果的なトランスフェクション方法と、該方法によって製造される前記外来遺伝子を100%発現する胚様体の形成方法と、該方法によって製造された胚様体の提供を目的とする。
本発明者は、エピソーマルベクターでトランスフェクションされた複数の外来遺伝子を発現する胚様体を形成するためのさまざまな方法を検討し、外来遺伝子並びに薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子を100%発現する胚様体の形成方法を確立した。
本発明において、最初に、トランスフェクション方法について最も効率的な方法を探求し、次に、胚様体の形成の効率的な方法の確立のために、2つのレポーター遺伝子及び薬剤選択マーカーをトランスフェクションした細胞を選択する方法と培養方法とを検討した。そして、iPS細胞の増殖凝集体である胚様体が、2つのレポーター遺伝子及び薬剤選択マーカーを発現している細胞で形成されることを確認することにより、本発明を完成させた。
具体的には、本発明は、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から成る胚様体に複数の外来遺伝子を発現させる方法であって、
1)エピソーマルベクターを用いて、iPS細胞に外来遺伝子を非リポソーム型カチオン性脂質トランスフェクション試薬を用いてトランスフェクションする工程、
2)外来遺伝子がトランスフェクションされたiPS細胞を、薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子を用いて選別する工程、及び
3)選別されたiPS細胞を、非静的な培養方法で培養し、胚様体まで増殖させる工程
を含む方法を提供する。
本発明の前記方法において、前記外来遺伝子が2種以上であり、遺伝子毎に異なる薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子を組み合わせてエピソーマルベクター構築物を作製する場合がある。
本発明の前記方法において、前記外来遺伝子が2種であり、外来遺伝子毎に異なる薬剤選択マーカー及び/又は配列番号7又は8に記載の配列を有するレポーター遺伝子から選択される核酸から選択される核酸を含む場合がある。
本発明の前記方法において、前記外来遺伝子が、分化を誘導する転写因子より選ばれる場合がある。
本発明の前記方法において、前記転写因子は、FOXA2、GATA4、HEX及びC/EBPαからなる群から選択される2種以上である場合がある。
本発明の前記方法において、前記非静的な培養方法は回転培養法である場合がある。
本発明の前記方法において、前記回転培養法における培養時の回転速度が2.5から9.9rpmである場合がある。
本発明の前記方法において、前記iPS細胞の培養は、1.6から160×10個/mLの細胞濃度のiPS細胞の懸濁液を添加して培養する場合がある。
さらに、本発明は、前記方法により製造された前記外来遺伝子が導入された胚様体を提供する。
また、本発明は、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から成る胚様体に複数の外来遺伝子を発現させる方法であって、
1)エピソーマルベクターに、
(i) 外来遺伝子、
(ii) G418(登録商標)又はハイグロマイシンBに対する薬剤選択マーカー、及び、
(iii) EGFPをコードする核酸配列(配列番号7)又はCherryPicker(登録商標)をコードする核酸配列(配列番号8)を有するレポーター遺伝子
の(i)ないし(iii)を組み合わせて組み込んだ複数の種類のエピソーマルベクター構築物を作製する工程、
2)複数のエピソーマルベクター構築物を非リポソーム型カチオン性脂質トランスフェクション試薬を用いてiPS細胞にトランスフェクションすることにより、複数の外来遺伝子をiPS細胞にトランスフェクションする工程、
3) (i)ないし(iii)の組み合わせに対応して、
G418及び/又はハイグロマイシンBの添加により薬剤選択マーカーを用いて、及び/又は、
緑色及び/又は赤色の蛍光を指標としてレポーター遺伝子を用いて、
前記複数の外来遺伝子が導入されたiPS細胞を選別する工程、並びに、
4)選別されたiPS細胞を、1.6から160×10個/mLの細胞濃度で、回転速度2.5から9.9rpmの回転培養法で培養し、胚様体まで増殖させる工程
を含む方法を提供する。
本発明の方法を用いることにより、目的とする外来遺伝子を有するベクターを短期間で効率的にiPS細胞に導入し、薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子の発現を指標に、目的とする外来遺伝子を有するiPS細胞を効率的に選択し、前記複数の遺伝子を100%の割合で発現するiPS細胞の増殖凝集体である胚様体を簡便な操作で短期間に高い効率で形成させることができる。この外来遺伝子が導入されたiPS細胞からなる胚様体は、さらに増殖し、分化誘導させることにより、例えば、患者毎に移植可能な又は創薬研究に応用可能な肝細胞若しくは筋細胞又はそれらの前駆細胞等の体細胞様細胞を簡便な操作で、短期間に大量に製造することが可能である。
一過性のトランスフェクションの経時変化を示すグラフ。4つの試薬を、pMetLuc2−レポーターベクターを201B7細胞にトランスフェクションするために使用した。分泌型アルカリホスファターゼを発現するベクターをトランスフェクション効率をモニターするためにトランスフェクションした。トランスフェクションを、ウェル表面に接着している細胞(破線)、又は、培地に懸濁された細胞(実線)に対して実施した。96ウェルプレートにおいて、1.8×10細胞/ウェル(図1A)又は9.0×10細胞/ウェル(図1B)の細胞濃度の細胞をトランスフェクションした。細胞(1ウェルあたり1.8×10細胞)を96ウェルプレートに播種した。メトリディアルシフェラーゼが培地に分泌された。培地を採取し、ルシフェラーゼアッセイを用いて解析した。メトリディアルシフェラーゼの活性は分泌型アルカリホスファターゼの活性で除算した(相対ルシフェラーゼ活性)。メトリディアルシフェラーゼをpEBMulti−Hyg(pEBMulti/Met−Hyg)にサブクローニングし、LTX又はFuGENE HD試薬を用いて201B7細胞にトランスフェクションした(図1C)。 誤差バーは同一条件で3回繰り返した実験結果の標準偏差を示す。また、アスタリスクはチューキー−クレーマー(Tukey-Kramer)検定でp値が0.05未満であることを示す。黒丸はFuGENE HDを示し、黒四角はリポフェクタミンLTXを示し、白丸はTransIT 2020を示し、白四角はX−tremeGENEを示す。 トランスフェクションされた細胞の選択のためのG418及びハイグロマイシンB濃度を示す顕微鏡写真を白黒に変換した図。201B7細胞を24ウェルプレートでコンフルエントに培養し、G418又はハイグロマイシンBを添加した。細胞を前記試薬の添加後7日に顕微鏡下で観察した。倍率は200倍であり、目盛尺(scale bar)は100μmである。 トランスフェクションされた細胞の経時変化を示す顕微鏡写真を白黒図に変換した図。Eで示された列の写真は顕微鏡写真の緑色を、Cで示された列の写真は顕微鏡写真の赤色を、いずれも白色に変換することにより、白黒図を作成した。6ウェルプレートにおいて、201B7細胞が、4.5×10細胞/ウェルで、リポフェクタミンLTX(「LTX」と記載)又はFuGENE HD(「Fu」と記載)での懸濁培養法を用いてpEBNK/EGFP−Neo及びpEBNK/Cherry−Hygをトランスフェクションされた。G418及びハイグロマイシンBをトランスフェクション後4日ないし6日に添加した。Wは白色光を示し、EはEGFPを示し、CはCherryPickerを示す。倍率は200倍であり、目盛尺(scale bar)は100μmである。 EGFP及びCherryPickerを発現する細胞を示す顕微鏡写真を白黒に変換した図、及び、経時変化(%)を示すグラフ。図4B及び図4Dは、顕微鏡写真の赤色を白色に変換することにより、白黒図を作成した。図3の同一実験の写真に対して、薬剤選択マーカーを100%発現する細胞を得るためのG418及びハイグロマイシンBでのインキュベーション期間を決定するために解析を行った。ImageJ 1.42qを用いて、細胞の領域を選択し、細胞領域を輪郭化した(矢印)(図4A)。CherryPicker陽性細胞の画像(図4B)は、赤色(図4C)、緑色及び青色の波長帯域に分離した。シグナルの閾値を設定し、CherryPickerシグナル(赤色)の面積を測定した。CherryPicker陽性細胞の面積(図4D)を、陽性細胞の割合(%)(図4E)を算出するために、輪郭化された領域の面積(図4A)で除算した。矢印は細胞領域の輪郭を示す。倍率は200倍であり、目盛尺(scale bar)は100μmである。図4Eにおいて、誤差バーは同一条件で3回繰り返した実験結果の標準偏差を示す。また、アスタリスクはチューキー−クレーマー(Tukey-Kramer)検定でp値が0.05未満であることを示す。黒丸はFuGENE HDを示し、黒四角はリポフェクタミンLTXを示す。 201B7細胞の回転培養の結果を示す顕微鏡写真の図及びグラフ。201B7細胞を、96ウェル、24ウェル、12ウェル又は6ウェルプレート、及び、6cm又は10cm組織培養ディッシュ又は10cmペトリ皿に播種した。細胞をマイルド細胞振盪機を用いて培養し、胚様体(EB)を形成させた。胚様体は、9.9rpm(図5A)及び2.5rpm(図5B)で回転する6ウェルプレートに1.6×10細胞の細胞濃度で播種した細胞から形成された。各胚様体の長さ(長径)(a)及び幅(短径)(b)を測定した(図C)。細胞を、1.6×10細胞/mL(s)、1.6×10細胞/mL(m)、又は、1.6×10細胞/mL(l)の細胞濃度で播種した。プレート/ディッシュを、9.9rpm(黒色)又は2.5rpm(灰色)で回転した。ウェル/ディッシュあたりの胚様体数を、胚様体の形成効率を算出するために、回転培養(図5E)開始時の細胞数で除算した。胚様体のサイズは、前記長さ(a)に前記幅(b)を乗算することによって算出した(図5F)。胚様体の幅と長さの割合は、前記長さ(a)を前記幅(b)で除算して算出した(図5G)。 倍率は100倍(図5A、図5B)及び200倍(図5C)であり、目盛尺(scale bar)は200μm(図5A、図5B)及び100μm(図5C)である。誤差バーは同一条件で3回繰り返した実験結果の標準偏差を示す。また、アスタリスクはチューキー−クレーマー(Tukey-Kramer)検定でp値が0.05未満であることを示す。 EGFP及びCherryPickerをトランスフェクションしたヒト人工多能性幹細胞の回転培養の結果を示す顕微鏡写真の図。トランスフェクションしていない201B7細胞は、12ウェルプレートで1時間9.9rpmでの回転培養に供された(図6A、図6C、図6E)。pEBNK/EGFP−Neo及びpEBNK/Cherry−Hygを同時トランスフェクションした201B7細胞をG418及びハイグロマイシンBを用いて選択した。生存する細胞を12ウェルプレートで1時間9.9rpmでの回転培養に供した(図6B、図6D、図6F)。倍率は200倍であり、目盛尺(scale bar)は100μmである。図6A及び図6Bは白色光を示し、図6C及び図6DはEGFPを示し、図6E及び図6FはCherryPickerを示す。図6C及び図6Dは緑色を白色に、図6E及び図6Fは赤色を白色に変換することにより、白黒図とした。 EGFP及びCherryPickerをトランスフェクションした胚様体の顕微鏡写真の図。胚様体は、9.9rpmでの回転培養24時間後に6ウェルプレートでヒト人工多能性幹細胞から形成された。胚様体は、pEBNK/EGFP−Neo及びpEBNK/Cherry−Hygがトランスフェクションされ、EGFP(図7B)及びCherryPicker(図7C)を検出するために顕微鏡下で観察された(図7A)。G418及びハイグロマイシンBを添加した(図7D)。倍率は100倍であり、スケールバーは200μmである。なお、図7Bは緑色を、図7Cは赤色を、白色に変換することにより、顕微鏡写真の白黒図を作成した。
本発明は、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から成る胚様体に複数の外来遺伝子を発現させる方法であって、
1)エピソーマルベクターを用いて、iPS細胞に該外来遺伝子を非リポソーム型カチオン性脂質トランスフェクション試薬を用いてトランスフェクションする工程、
2)該外来遺伝子がトランスフェクションされたiPS細胞を、薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子を用いて選別する工程、及び、
3)選別されたiPS細胞を、非静的な培養方法で培養し、胚様体まで増殖させる工程
を含む方法を提供する。
本発明の前記方法において、前記外来遺伝子が2種以上であり、遺伝子毎に異なる薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子を組み合わせてエピソーマルベクター構築を行う場合がある。
本明細書において、「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」とは、「誘導多能性幹細胞ともいわれ、分化した体細胞(例えば、線維芽細胞)へ数種類の転写因子(遺伝子)を導入することにより確立されたES細胞(胚性幹細胞)に似た分化万能性を持つ細胞のことである。哺乳動物由来の体細胞を用いることにより、公知の方法でiPS細胞を作製可能である(特開2008−283972、特開2009−165478、特開2009−165479等)。本発明において、iPS細胞は、ヒト由来のiPS細胞が好ましい。ヒトiPS細胞は、独立行政法人医薬基盤研究所JCRB(Japanese Collection of Research Bioresources)細胞バンク、ATCC(American Type Culture Collection)、ECACC(European Collection of Cell Cultures)、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターのCELL BANK等より各種の細胞が分譲されており、これらを入手して使用することが可能である。また、ヒト人工多能性幹細胞の一種である201B7細胞は、理化学研究所から入手可能である。
本明細書において、「胚様体(EB;embryoid body)」とは、iPS細胞を培養して非特異的に分化又は一部分化させて形成される球状の細胞塊をいう。iPS細胞の分化は、典型的には、異なる細胞タイプ間の相互干渉を可能にする胚様体を形成する段階を含み、胚からの組織形成に類似した組織形成を促進する。
胚様体は、特にiPS細胞を3次元で培養するため目的の細胞への分化に有用である(Tomizawa Mら、 Cell Tissue Res 333:17-27;2008)。したがってエピソーマルベクターを使用してiPS細胞に分化誘導遺伝子又はRNA干渉(RNAi)用の小核酸分子をコードする外来遺伝子を導入し、該外来遺伝子が発現した細胞のみを選択して胚様体を形成させ、さらに増殖、分化させることにより、目的の体細胞又はその前駆細胞を効率的に増殖し、分化誘導できる。
本明細書において、「外来遺伝子」とは、エピソーマルベクターに組み込まれて、トランスフェクション試薬を用いてiPS細胞に導入し、iPS細胞又は該iPS由来の細胞で発現させることにより、所望の形質を発現又は導入するための核酸をいう。具体的には、転写因子をコードするDNA及びRNA干渉を惹起するRNAをコードするDNA等をいうが、これらに限定されない。
本明細書において、「エピソーマルベクター(episomal vector)」は、有核細胞の核内で環状DNAとして自己複製し、遺伝子導入細胞中においてベクターが細胞分裂後の娘細胞に分配されるベクターであって、数コピーから数十コピーで子孫細胞に維持されるプラスミドベクターを意味する。エピソーマルベクターは“oriP”と”Epstein-Barr virus nuclear antigen (EBNA-1)”を有する。oriPとEBNA-1が存在すると宿主の細胞分裂に伴い細胞質内でエピソーマルベクターも増幅する(Yates JLら、Nature 313:812-815;1985)。したがってエピソーマルベクターを用いて導入された遺伝子の発現は、宿主の細胞が分裂しても一定の期間減衰することなく維持される。エピソーマルベクターを用いると一週間で安定細胞株(stable cell line)が作製可能である(Tanaka Jら、 Biochem Biophys Res Commun 264: 938-943;1999、Shibata MAら、 Med Mol Morphol 40: 103-107;2007)。具体的には、例えばマウスポリオーマウイルス由来のエピソーマルベクター、ヒトポリオーマウイルスの一種であるBKウイルス由来のエピソーマルベクター、エプスタイン−バールウイルス(EBV)由来のエピソーマルベクター、ウシパピローマウイルス(BPV)由来のエピソーマルベクター(特表2011−525794号公報)などのウイルス由来のエピソーマルベクターが挙げられる。また、EBV由来のエピソーマルベクターの一部は市販されており、これらを使用することができる。
本発明において、エピソーマルベクターを使用してiPS細胞に目的とする形質を導入又は転換することにより、形質導入又は転換されたiPS細胞が分裂して増殖した細胞は、該形質を一定の期間安定して維持することができる。分化誘導のための転写因子を導入した場合には、iPS細胞が分裂増殖しても、継続した安定した分化誘導が維持され、胚様体を形成させて、さらに増殖し、分化誘導させることにより所望の体細胞又はその前駆細胞を得ることができる。
形質を導入又は転換する外来遺伝子として、例えば、転写因子及び/又はエフェクター分子をコードする核酸が挙げられるが、これらに限定されない。また、RNAiを惹起する小核酸分子をコードする核酸を発現させることにより、iPS細胞又は該iPS由来の細胞の形質を転換することも可能である。
転写因子の好ましい例の一つとして、iPS細胞より肝細胞又は肝前駆細胞を製造する場合に、これに限定されない分化誘導用の転写因子が挙げられる。例えば、iPS細胞から形成された胚様体をさらに増殖することにより大量の肝前駆細胞を短期間で製造するための分化誘導用転写因子として、FOXA2、GATA4、HEX及びC/EBPαが挙げられる(特許文献1)。これらの分化誘導用転写因子をコードする外来遺伝子を、エピソーマルベクターに挿入し、所定のトランスフェクション試薬でiPS細胞にトランスフェクションし、所定の培養方法で培養することにより、短期間で大量の肝前駆細胞を製造できる。製造した肝前駆細胞の肝疾患患者への移植による肝疾患の治療が期待される。
本明細書において、「RNA干渉(RNAi)」とは、人工的に製造された小核酸分子を標的とする細胞に導入し、mRNAからのタンパク質の翻訳を調節することをいい、RNA干渉(RNAi)を媒介し得る小核酸分子として、例えば、短干渉核酸(siNA)、短干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)、および短ヘアピンRNA(shRNA)分子が挙げられるが、これらに限定されない。
また、RNA干渉用の小核酸分子をiPS細胞に導入することにより、iPS細胞より分化誘導される細胞の所望の形質発現を調節することが可能となる。形質発現に関与するタンパク質の発現の抑制、又は、形質発現に関与するタンパク質発現を調節するタンパク質の発現の抑制により、前記所望の形質発現を調節することができ、胚様体を製造して、さらに増殖、分化させることにより所望の形質を有する体細胞又はその前駆細胞を得ることができる。
iPS細胞から製造された胚様体を用いて、筋細胞への分化誘導を行うには、iPS細胞の遺伝子発現を抑制する公知の方法により行うことができる。例えば、iPS細胞のId2又はId3遺伝子の発現を抑制することにより、iPS細胞を筋細胞に分化誘導することができる(特許文献2)。iPS細胞のId2又はId3遺伝子を抑制するには、RP58を導入する(特許文献2)、又は、RNA干渉によりId2又はId3遺伝子の発現を抑制した胚様体を製造し、該胚様体をさらに増殖し、分化誘導させることにより筋細胞を得ることが可能である。iPS細胞から分化誘導された筋細胞を用いて、創薬研究に使用することができる。
さらに、短期間で効率的かつ大量に目的とする外来遺伝子を導入した胚様体を製造する場合、前記転写因子をコードする外来遺伝子と共に、薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子をエピソーマルベクターに挿入し、共発現させ、薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子がコードする転写因子を発現した細胞を選別することにより、転写因子が発現した細胞を選択することが可能となる。転写因子が発現した細胞を選択することにより、非発現の細胞による増殖や分化の影響を受けることなく、目的とする外来遺伝子を組み込んだ胚様体を短期間で効率的かつ大量に製造することができる。
2種以上の前記転写因子をコードする外来遺伝子と共に、薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子をエピソーマルベクターに組み込むときに、2種以上の前記転写因子をコードする外来遺伝子毎にそれぞれ異なった薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子を組み合わせてそれぞれをエピソーマルベクターに挿入して共発現させることにより、各所望の分化誘導用転写因子の発現した細胞を簡便に選別し、体細胞又はその前駆細胞等への分化誘導効率を高めることができる。
本発明において、エピソーマルベクターに発現を目的とする外来遺伝子を組み込んだエピソーマルベクター構築物は、リポソーム型カチオン性脂質トランスフェクション試薬を使用してiPS細胞にトランスフェクションすることができる。本発明において、該エピソーマルベクター構築物をiPS細胞へ導入する時期は特に限定されないが、胚様体を形成する前が好ましい。
本明細書において、トランスフェクション試薬は、遺伝子を細胞に導入し、該細胞に形質を導入又は該細胞の形質を転換するためのエピソーマルベクター構築物をiPS細胞にトランスフェクションするための試薬をいう。本明細書において、「非リポソーム型カチオン性脂質トランスフェクション試薬」とは、カチオン性脂質を含むトランスフェクション試薬であって、非リポソーム型のものをいい、具体的には、これらに限定されない、特表2014−508102号公報に記載のカチオン性脂質を含有する非リポソーム型のトランスフェクション試薬、又は、市販され購入可能な非リポソーム型カチオン性脂質トランスフェクション試薬をいい、LIPOFECTACE(登録商標)、GS 2888 CYTOFECTIN(登録商標)、FUGENE HD(登録商標)、FUGENE 6(登録商標)、EFFECTENE(登録商標)およびLIPOFECTAMINE(登録商標)、LIPOFECTAMINE 2000(登録商標)、LIPOFECTAMINE PLUS(登録商標)、LIPOTAXI(登録商標)、POLYECT(登録商標)、SUPERFECT(登録商標)、TFXN(商標)、TRANSFAST(商標)、TRANSFECTAM(登録商標)、TRANSMESSENGER(登録商標)、ベクタミジン(3−テトラデシルアミノ−N−tert−ブチル−N’−テトラデシルプロピオンアミジン(ジC14−アミジン)、OLIGOFECTAMINE(登録商標)をいう。本発明において、これらの市販の非リポソーム型カチオン性脂質トランスフェクション試薬を使用可能であり、本発明において、好ましくはFuGene HD(登録商標)である。
本発明において、エピソーマルベクターにより高効率に核酸が導入された細胞の選別は、薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子を前記所望の核酸と共にエピソーマルベクターに組み込みiPS細胞に導入することにより、公知の方法で、選別することができる。
本明細書において「薬剤選択マーカー」とは、遺伝学的解析で標識として用いられる遺伝子をいい、組換え実験などで組換え型の細胞等を検出するために用いられる遺伝子である。本発明では、薬剤選択マーカーを発現している細胞に、抗生物質又は薬物に対する耐性を与えるものでもよい。薬剤選択マーカーは、宿主細胞に特定の表現型を与えるために使用することもできる。例えば、薬剤耐性遺伝子として、G418耐性遺伝子、ハイグロマイシンB耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子及びブラストサイジンS耐性遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において、「G418(登録商標)」は、IUPAC名(2R,3S,4R,5R,6S)-5-amino-6-[(1R,2S,3S,4R,6S)-4,6-diamino-3-[(2R,3R,4R,5R)-3,5-dihydroxy-5-methyl-4-methylaminooxan-2-yl]oxy-2-hydroxycyclohexyl]oxy-2-(1-hydroxyethyl)oxane-3,4-diolのゲンタマイシンに類似した構造のアミノグリコシド系抗生物質であり、ジェネティシン(geneticin)とも呼ばれる化合物をいう。
本明細書において、「ハイグロマイシンB(hygromycin B)」は、IUPAC名 (3'R,3aS,4S,4'R,5'R,6R,6'R,7S,7aS)-4-[(1R,2S,3R,5S,6R)-3-amino-2,6-dihydroxy-5-(methylamino)cyclohexyl]oxy-6'-[(1S)-1-amino-2-hydroxyethyl]-6-(hydroxymethyl)spiro[4,6,7,7a-tetrahydro-3aH-[1,3]dioxolo[4,5-c]pyran-2,2'-oxane]-3',4',5',7-tetrolの抗生物質をいう。
本明細書において「レポーター遺伝子」は、トランスフェクションした細胞での発現が検出可能なものであれば特に制限されない。レポーター遺伝子となり得る遺伝子としては、酵素活性を有するタンパク質、蛍光性タンパク質又は化学発光性タンパク質をコードする遺伝子を挙げることができる。
例えば、酵素レポーターの例には、特に限定されないが、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、ペルオキシダーゼ遺伝子、アルカリホスファターゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ニトロレダクターゼ遺伝子、及びβ−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)等、蛍光タンパク質の例には、特に限定されないが、GFP(Green Fluorescense Protein)等、並びに、好適な化学発光タンパク質には、特に限定されないが、エクオリン等を挙げることができる。
また、レポーター遺伝子は、市販のレポーター遺伝子を挿入したベクターよりレポータータンパク質をコードする核酸配列をサブクローニングすることにより、使用することができる。
レポーター遺伝子アッセイを実施するための方法は公知である(Schenbom,E.ら、Mol.Biotechnol. ,13:29-44;1999)。好ましくは、レポーター遺伝子はプロモーター又は最小プロモーターと共に存在するエンハンサーの転写調節下に置かれる。市販のセルソーターを用いることにより、レポーター遺伝子が発現する細胞を選別することができる。
前記薬剤選択マーカー又は前記レポーター遺伝子をクローニングする方法、及び、市販のベクターよりサブクローニングする方法として、制限酵素を用いるライゲーションクローニング法、TAクローニング法又はインフュージョンクローニング法(米国特許7,575,860号公報)などの公知の方法が挙げられるが、これらに限定されない。サブクローニング法により、レポーター遺伝子を本発明で使用するベクターに組み込む場合、市販のレポーター遺伝子を挿入したベクターとして、pEGFP−N1、pCherryPicker1、pZsGreen、pAcGFP1、pAmCyan、pAsRed2、pmCherry、pZsYellow、pmOrange、pTagCFP−C、pTagYFP−C、pTagRFP−C、pTagBFP−C、及びpmKate2−Cなどが挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において、「EGFP(enhanced green fluorescent protein)」とは、GFPを改変することによりGFPと比較して増強した蛍光性を有するタンパク質であり、該タンパク質をコードする核酸配列は配列番号7で表される。
本明細書において、CherryPicker(登録商標)とは、赤色の蛍光を有するタンパク質であり、該タンパク質をコードする核酸配列は配列番号8で表される。
本発明において、安定細胞系の作製のために、目的とする外来遺伝子と共に薬剤選別マーカー及び/又はレポーター遺伝子をエピソーマルベクターに組み込むことによりエピソーマルベクター構築物を作製し、該エピソーマルベクター構築物をトランスフェクション試薬を用いてiPS細胞に導入することにより、形質導入されたiPS細胞を得ることができる。
本発明において、iPS細胞からの胚様体の製造は、標的核酸を導入したiPS細胞を培養することにより製造されるが、培養方法は、固定培養法、懸濁培養法又は浮遊培養法のいずれでも良いが、好ましくは非静的な懸濁又は浮遊培養法で大量の細胞を培養可能な旋回培養、撹拌培養、振盪培養又は回転培養を用いる。もっとも好ましくは、回転培養法を用いる懸濁又は浮遊培養法で培養される。
前記外来遺伝子を組み込んだエピソーマルベクターをトランスフェクションしたiPS細胞を前記非静的な培養方法で培養する場合に、該iPS細胞の細胞濃度は、1.0〜100x10細胞/mL、好ましくは、1.6〜160x10細胞/mL、最も好ましくは、16x10細胞/mLのiPS細胞をより多くの用量で添加して培養することにより、より多くの個数の胚様体を得ることができる。
前記外来遺伝子を組み込んだエピソーマルベクターをトランスフェクションしたiPS細胞を前記非静的な培養方法で培養する場合に、該iPS細胞の細胞濃度は、1.0〜100x10細胞/mL、好ましくは、1.6〜160x10細胞/mL、最も好ましくは、16x10細胞/mLのiPS細胞を添加して培養することにより、添加iPS細胞当たりもっとも多くの個数の胚様体を得ることができる。
前記外来遺伝子を組み込んだエピソーマルベクターをトランスフェクションしたiPS細胞を前記非静的な培養方法で培養する場合に、該iPS細胞を培養する培養液の容量は、1mL以上、好ましくは3mL以上、もっとも好ましくは5mL以上において、より多数の胚様体を製造することが可能である。
回転培養法を使用してサイズが大きい胚様体を製造する場合の回転速度は、1.0ないし15rpm、好ましくは2.5ないし9.9rpm、もっとも好ましくは2.5rpmである。
また、エピソーマルベクターを、iPS細胞にトランスフェクションするときに、エピソーマルベクターのiPS細胞への効果的なトランスフェクションを阻害しないことを条件として、細胞培養条件(例えば、温度、時間、ガス組成、培養液、添加剤、抗生物質、細胞濃度、培養規模など)を変更する場合がある。
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除および置換を行うことができる。
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。ここに記述される実施例は本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
材料及び方法
細胞培養
ヒトiPS細胞株201B7(理研細胞バンク、つくば)を、マトリゲル(ベクトン・ディッキンソン、米国ニュージャージー州フランクリン・レイクス)の薄層コーティングを伴うプレート又はディッシュ(アサヒテクノグラス、船橋)においてReproFF培地(ReproCELL、横浜)でフィーダー細胞なしで培養した。加湿チャンバーにおいて5%CO下、37°Cに保たれ、アキュターゼ(イノベーティブ セル テクノロジーズ社、米国サンディエゴ)を用いて細胞を採取した。この細胞を、それぞれ、メトリディアルシフェラーゼ(MetLuc)アッセイを実施するために24ウェル及び96ウェルプレートに播種した。これらのディッシュ及びプレートに対して、マトリゲル(0.3mL)及びDMEM−F12培地(8.7mL)の混合物を塗布することによって薄くコーティングした。このディッシュを室温で3時間インキュベーションした。前記細胞の形態学的特徴をCKX41N−31PHP顕微鏡(オリンパス、東京)で観察した。選択条件を決定するために、G418(和光純薬株式会社、大阪)及び/又はハイグロマイシンB(和光純薬株式会社)を培地に添加し、7時間後に顕微鏡下で細胞を観察した。2重トランスフェクションした細胞を選択するために、G418(200μg/mL)及びハイグロマイシンB(300μg/mL)を、それぞれ、トランスフェクション4日ないし6日後に添加した。トリパンブルーで染色し、血球計算盤を用いて細胞数を計測した。
回転培養
細胞(1.6×10、×10及び×10細胞/mL)を、10μmol/L Y−27632(和光純薬)を添加したReproFF培地に懸濁し、CSM03020マイルド細胞振盪機(タイテック、越谷)を用いて加湿チャンバーにおいて5%CO下、37°Cで24時間、回転培養した。50μL、100μL、300μL及び500μLの細胞懸濁液を、それぞれ、96ウェル、24ウェル、12ウェル及び6ウェルプレートのウェルに加えた。1mL、5mL及び5mLの細胞懸濁液を、それぞれ、6cm及び10cmの組織培養ディッシュ及び10cmペトリ皿に加えた。Y−27632を、Rho関連コイルドコイルフォーミングキナーゼ(Rho-associated coiled-coil forming kinase)を阻害し、201B7細胞のアポトーシスを回避するために添加した(Watanabe Kら、Nat Biotechnol.25:681-6;2007)。至適細胞固定及び増殖について表面処理の効果を比較するために、10cm組織培養ディッシュ及び10cmペトリ皿を比較した。回転速度は、回転速度の効果を解析するために9.9rpm又は2.5rpmに設定した。胚様体のサイズ及び形状を解析するために長さ(長径)及び幅(短径)を測定した。
ベクター構築物の作製
EGFPをコードする配列(配列番号7:クロンテック、カリフォルニア州マウンテンビュー)を有するポリヌクレオチドをLA PCR Kit Ver.2.1(タカラ、京都)を用いてpEGFP−N1から増幅し、pBlue/EGFPを作製するためにpBluescript II SK(−)(アジレント・テクノロジー株式会社、カリフォルニア州サンタクララ)の5’−KpnI−XbaI−3’部位にサブクローニングした。EGFP配列をバリデーションした(株式会社バイオマトリックス研究所、流山)。CherryPicker(登録商標:CherryPicker1)(クロンテック)のコーディング領域(配列番号8)をLA PCR Kit Ver.2.1を用いて増幅し、pBlue/Cherryを作製するためにpBluescript II SK(−)の5’−KpnI−XbaI−3’部位にサブクローニングした。前記コーディング領域の配列をバリデーションした(株式会社バイオマトリックス研究所)。
EGFPのクローニングに使用したフォワードプライマー(配列番号1)及びリバースプライマー(配列番号2)は、それぞれ、以下のとおりである。
(配列番号1) 5’-ATCGTCTAGAATGGTGAGCAAGGGCGAGGA-3’
(配列番号2) 5’-ATCGGGTACCTTACTTGTACAGCTCGTCCA-3’
CherryPickerのクローニングに使用したフォワードプライマー(配列番号3)及びリバースプライマー(配列番号4)は、それぞれ、以下のとおりである。
(配列番号3) 5’-ATCGTCTAGAATGATGGTGGACGGCGACAA-3’
(配列番号4) 5’-ATCGGGTACCTCATTTGTACAGCTCGTCCA-3’
PCRは以下の条件で実施された。
(1)98°Cで変性反応20秒間
(2)60°Cでアニーリング及び伸長反応3分間
(1)及び(2)を30サイクル
EGFPは、pEBNK/EGFP−Neoを作製するのに制限酵素切断部位5’−NotI−KpnI−3’を用いてpBlue/EGFPからpEBNK−Neoにサブクローニングした。CherryPickerを、pEBNK/Cherry−Hygを作製するのに制限酵素切断部位5’−NotI−KpnI−3’を用いてpBlue/CherryからpEBNK−Hygにサブクローニングした。pEBMulti−Neo及びpEBMulti−Hygを和光純薬株式会社から入手した。pEBMulti−Neo及びpEBMulti−Hygの制限酵素切断部位は、5’−NotI−KpnI−3’の方向にそろえた。EGFP及びCherryPickerの5’−NotI−KpnI−3’断片は2つのベクターにサブクローニングし、挿入断片を逆向きに挿入した。EGFP及びCherryPickerの5’−NotI−KpnI−3’断片を正しい向きに挿入するために、マルチクローニングサイト(MCS)を5’−NotI−KpnI−3’に変更した。この実施のために、リンカー配列(配列番号5及び6)をNotI及びKpnIで消化し、pEBNK−Neo及びpEBNK−Hygを作製するためにpEBMulti−Neo及びpEBMulti−Hygにサブクローニングした。
(配列番号5)5’-AGCGGCCGCGAGCTCGGTACCTA-3’
(配列番号6)5’-GGCCTAGGTACCGAGCTCGCGGCCGCTGTAC-3’
メトリディアルシフェラーゼ(MetLuc)を、pEBMulti/Met−Hygを作製するために制限酵素切断部位5’−SalI−NotI−3’を用いてpMetLuc2−レポーター(クロンテック)からpEBMulti−Hygにサブクローニングした。
201B7細胞のトランスフェクション
接着培養法では、播種後24時間の細胞がウェルの底に接着したときに、細胞にトランスフェクションした。懸濁培養法では、細胞をアキュターゼで採取し、ドラフト内において、室温で5分間トランスフェクション試薬に懸濁した後、インキュベーションした。トランスフェクション試薬は、FuGENE HDトランスフェクション試薬(プロメガ、米国ウィスコンシン州マディソン)、リポフェクタミンLTX(ライフテクノロジーズ、米国ニューヨーク州グランドアイランド)、X−tremeGENEトランスフェクション試薬(ロシュ、スイスバーゼル)、及び、TransIT−2020トランスフェクション試薬(ミラスバイオ、米国ウィスコンシン)を製造者の取扱説明書に従って使用した。
胚様体(EB)のトランスフェクション
胚様体を6ウェルプレートで201B7細胞から形成させた。胚様体を156×gでの遠心分離によって採取し、上清を除去した。この胚様体を、ReproFF培地に懸濁し、そしてトランスフェクションした。胚様体を2mLのReproFFに懸濁し、FuGENE HDとともに、1.0μgのpEBNK/EGFP−Neo及び1.0μgのpEBNK/Cherry−Hygでトランスフェクションした。
メトリディアルシフェラーゼ及び分泌型アルカリホスファターゼアッセイ
96ウェルプレートでは、ウェルあたり50μLの培地で培養した201B7細胞に100ngのpMetLuc2−レポーターをトランスフェクションした。トランスフェクションされた細胞はメトリディアルシフェラーゼを前記培地中に分泌する。トランスフェクション後、培地を50μLのReproFFで毎日交換した。メトリディアルシフェラーゼの活性を、製造者の取扱説明書に従ってReady−To−Glow分泌型ルシフェラーゼレポーターアッセイ(クロンテック)を用いて測定した。ルシフェラーゼ活性をモニターするために前記培地を毎日交換した。ルシフェラーゼ活性は、Gene Light(GL−200A)(マイクロテック社、船橋)を用いて測定した。トランスフェクション効率をモニターするために、pSEAP2対照ベクター(クロンテック)を、pMetLuc2−レポーター又はpEBMulti/Met−Hygの10%でトランスフェクションした。転写活性は、製造者の取扱説明書に従って分泌型胚性アルカリホスファターゼ(SEAP)化学発光キット(クロンテック)及びGene Lightを用いて測定した。ルシフェラーゼ活性は、前記メトリディアルシフェラーゼ活性を前記SEAP活性で除算して算出した。
EGFP及びCherryPickerを発現する細胞の選択
懸濁培養法を用いて、201B7細胞に対してFuGENE HDを用いて1.0μgのpEBNK/EGFP−Neo及び1.0μgのpEBNK/Cherry−Hygをトランスフェクションした後、10μmol/LのY−27632を添加した6ウェルプレートで培養した。G418(200μg/mL)及びハイグロマイシンB(300μg/mL)を、トランスフェクション後4日に添加した。G418及びハイグロマイシンBを、インキュベーション後2日に培地から除去した。
画像解析
ImageJ 1.42q(アメリカ国立衛生研究所、メリーランド州ベセスダ)を画像解析で使用した。画像の201B7細胞の領域を輪郭化し、その面積を測定した。ソフトウェアでCherryPickerのシグナル面積を自動的に測定した。この画像を、赤色、緑色及び青色の波長帯域に分離した。この赤色の波長帯域(CherryPicker)をさらなる解析のために選定した。CherryPicker陽性細胞の百分率を算出するために、CherryPickerシグナルの面積を、上記輪郭化された関心領域の面積で除算した。
統計解析
一元配置分散分析(ANOVA)は、JMP 10.0.2ソフトフェア(SAS Institute Japan株式会社、ノースカロライナ州ケーリー)で行った。p値が0.05未満の場合に、統計学的に有意とした。チューキー−クレーマー(Tukey-Kramer)検定を対の統計学的有意なデータの研究に適用した。
結果
FuGENE HD、リポフェクタミンLTX、X−tremeGENE及びTransIT−2020のトランスフェクション試薬について比較することにより、トランスフェクションの最も効率的な試薬を同定した。接着細胞及び懸濁された細胞におけるメトリディアルシフェラーゼの活性を分泌型胚性アルカリホスファターゼ(SEAP)の活性で除算して、相対ルシフェラーゼ活性によって比較した。トランスフェクション効率における細胞濃度の影響を比較するために、96ウェルプレートに1.8×10及び9.0×10細胞/ウェルで細胞を播種した。実験を3回繰り返した。FuGENE HDを用いる細胞トランスフェクションの懸濁培養法が、1.8×10細胞/ウェル(図1A)及び9.0×10細胞/ウェル(図1B)の両方の細胞濃度で最も効率的であった(P<0.05)。1.8×10細胞/ウェル(図1A)で、FuGENE HDを用いる懸濁培養法又は接着培養法、及び、LTXを用いる接着培養法は、より高い相対ルシフェラーゼ活性を示した(P<0.05)。9.0×10細胞/ウェル(図1C)での、FuGENE HD及びLTXを用いる懸濁培養法又は接着培養法が、最高効率をもたらした(P<0.05)。さらなる研究のために、9.0×10細胞/ウェルで、FuGENE HD又はリポフェクタミンLTXを用いる懸濁培養法を選択した。
相対ルシフェラーゼ活性の経時的な変化の検討を、エピソーマルベクターの発現期間を決定するために実施した(図1C)。pEBMulti/Met−Hyg(100ng)を、pSEAP2対照ベクター(10ng)とともに、懸濁培養法を用いて96ウェルプレートの201B7細胞(1.8×10細胞/ウェル)にトランスフェクションした。相対ルシフェラーゼ活性はトランスフェクション後4日でピーク活性に達し、エピソーマルベクターでトランスフェクションした遺伝子の発現レベルがピークに達したことをも示した。相対ルシフェラーゼ活性は、リポフェクタミンLTXよりもFuGENE HDでのトランスフェクションでより高かった(P<0.05)。したがって、FuGENE HDを用いる懸濁培養法を、さらなる研究で使用した。
201B7細胞を顕微鏡下で試験した後、G418又はハイグロマイシンBを、これらの至適濃度を決定するために培地に添加した。201B7細胞は、いずれのベクターでもトランスフェクションされていない。インキュベーション7日後、全ての201B7細胞に対して、G418(200μg/mL)又はハイグロマイシンB(300μg/mL)処理によって傷害(選択圧)が与えられた。これらの濃度を、トランスフェクションした細胞の後の選択で使用した(図2)。
懸濁培養法を用いて、201B7細胞(4.5×10細胞/ウェル)を、6ウェルプレートで、リポフェクタミンLTX又はFuGENE HDを用いてpEBNK/EGFP−Neo及びpEBNK/Cherry−Hygをトランスフェクションした(図3)。細胞の小集団は、EGFP及びCherryPickerに対して陽性であった。EGFP及びCherryPicker由来のシグナルが同一の細胞で観察された。G418及びハイグロマイシンBは、トランスフェクション後4日の、ルシフェラーゼ活性がピークに達する日に添加された(図1C)。顕著な変化は、G418及びハイグロマイシンBの1日間のインキュベーション後に全く観察されなかった。インキュベーション2日後、全ての生存細胞はEGFP及びCherryPickerを発現し、2日間のG418及びハイグロマイシンBのインキュベーションが、トランスフェクションした細胞の選択に十分であることを示した。G418及びハイグロマイシンBは、トランスフェクション後6日に培地から除去された。EGFP及びCherryPickerのシグナル強度は、トランスフェクション後11日に減弱した。
図3での同一実験の写真を、薬剤選択マーカーを100%発現している細胞を得るための、G418及びハイグロマイシンBでのインキュベーション期間を決定するために解析した。G418及びハイグロマイシンBでの2日間のインキュベーション後(トランスフェクション後6日)、前記細胞の100%がCherryPickerに対して陽性であった(図4)。前記細胞は、図3に基づいてEGFP及びCherryPickerを同時に発現させたため、CherrPickerを解析した。細胞をトランスフェクション後11日に観察すると、この割合は減少していた。G418及びハイグロマイシンBでの2日間のインキュベーションは、薬剤選択マーカーを発現する細胞の選択に適切であることが示された。
次に、201B7細胞からの胚様体の形成の最適な方法を検討するために、201B7細胞から胚様体を形成させるための異なる方法を実験した(図5)。胚様体のサイズ及び形状を同様に解析した。1.6×10細胞/mLの細胞濃度の細胞を、9.9rpm(図5A)及び2.5rpm(図5B)で回転する6ウェルプレートで胚様体を形成させるために培養した。胚様体のサイズ及び形状を解析するために胚様体の長さ及び幅を測定した(図5C)。胚様体は、1.6×10細胞/ウェルの細胞濃度で播種された細胞からは形成されなかった。最大数の胚様体が、10cmの組織培養ディッシュ及びペトリ皿に播種された細胞から形成された(P<0.05)(図5D)。これらの結果は、5mLの細胞懸濁液でより多くの細胞を培養した結果と推測された。胚様体の形成効率は、形成された胚様体の個数を、培養された細胞数で除算して算出された(図5E)。胚様体の形成は、他のプレート/ディッシュのいずれと比較して6ウェルプレート及び6cmディッシュで最も効率的であった(P<0.05)。9.9rpmでの回転は、胚様体の形成の促進において、2.5rpmでの回転よりもより効率的であった。ディッシュ/プレートのいずれのタイプにおいても、1.6×10細胞の細胞濃度で播種された細胞から作製された胚様体は、9.9rpmよりも2.5rpmでより大きかった(図5F)。低回転速度が胚様体の形成により効果的であることが示された。
胚様体の形状を解析するために、幅と長さの割合を算出した(図5G)。完全に丸い胚様体は1.0の割合である。この割合は、プレート/ディッシュ、細胞濃度、又は、回転速度に依存した有意な相違を示さなかった。
次に、胚様体が2重トランスフェクションした遺伝子を発現できるかについて検討した。懸濁培養法を用いて、4.3×10細胞/ウェルの細胞濃度の201B7細胞に対して、6ウェルプレートで、FuGENE HDを用いて1.0μgのpEBNK/EGFP−Neo及び1.0μgのpEBNK/Cherry−Hygをトランスフェクションした。G418及びハイグロマイシンBを、トランスフェクション後4日に添加した。生存する201B7細胞をアキュターゼを用いて採取し、12ウェルプレートで、9.9rpmで1時間、回転培養に供した(図6B、D及びF)。G418及びハイグロマイシンBでの選択で十分な細胞を得られなかったため、12ウェルプレートを使用した。トランスフェクションしていない対照201B7細胞を、12ウェルプレートで、9.9rpmで1時間、回転培養に供した(図6A、C、E)。胚様体の形成が白色光下で観察された(図6A、B)。トランスフェクションしていない胚様体は、EGFP(図6C)又はCherryPicker(図6E)を発現しなかった。一方、pEBNK/EGFP−Neo及びpEBNK/Cherry−Hygをトランスフェクションした胚様体は、EGFP(図6D)及びCherryPicker(図6F)の両方を発現した。
次に、トランスフェクションが胚様体で起こった領域の選択、及び、トランスフェクションされた部分を選択することが可能であるかについて検討した。胚様体に、pEBNK/EGFP−Neo及びpEBNK/Cherry−Hygをトランスフェクションし、G418及びハイグロマイシンBでの選択に供した。胚様体を、トランスフェクション後に白色光下で観察した(図7A)。EGFP(図7B)及びCherryPicker(図7C)シグナルは胚様体の表面で観察された。胚様体は、G418及びハイグロマイシンBの2日間のインキュベーション後に完全に死滅した(図7D)。胚様体の表面細胞だけがトランスフェクションされ、内部細胞にトランスフェクションすることは困難であることをこれらのデータは示した。
総括
さまざまな試薬でのベクターのトランスフェクションの操作は簡単である。ベクターのトランスフェクションで大きく制限されることの1つは、低いトランスフェクション効率である。本発明では、初めに、iPS細胞でより高いトランスフェクション効率を達成する方法を確立するために、FuGENE HD、リポフェクタミンLTX、X−tremeGENE及びTransIT−2020の試薬を比較した。トランスフェクションは、典型的に、プレート又はディッシュで増殖し付着している細胞で実施される。しかし、解離細胞及び懸濁細胞でのアデノウイルスベクターの導入は、接着細胞よりもより効率的であることが示されている(非特許文献3)。接着培養法を用いて、アデノウイルスベクターは、iPS細胞コロニーの周縁部に導入される(非特許文献3)。本発明者は、接着培養法及び懸濁培養法を比較した。上記の結果は、非リポソーム型カチオン性脂質トランスフェクション試薬であるFuGENE HDトランスフェクション試薬を用いる懸濁培養法が最も効果的であることを示した。特に、FuGENEは、エレクトロポレーションの場合のように、同一のトランスフェクション効率を達成する(非特許文献19)。したがって、懸濁培養法を用いてのFuGENE HDでのトランスフェクションが、iPS細胞にベクターを導入するのに最も適しているとの結論を得た。
エピソーマルベクターは従来のベクターと異なり、エピソーマルベクターを娘細胞に伝達する。上記結果は、エピソーマルベクターの発現をトランスフェクション後11日に検出できることを示した。エピソーマルベクターのもう1つのメリットは、2種以上の外来遺伝子の安定なトランスフェクションを達成できることである。従来のベクターを用いる場合、安定なトランスフェクションされた細胞は1つの遺伝子を発現する(非特許文献20)。iPS細胞を分化した細胞タイプに分化させるのに、複数の遺伝子を導入することが必要である。上記の実験結果は、安定な多重トランスフェクションがエピソーマルベクターで可能であることを明らかにした。標準的な方法を用いると、抗生物質での選択で2週間必要である(非特許文献20、23)。対照的に、上記の結果では、安定なトランスフェクション細胞を得るのに6日間しか要しない。エピソーマルベクターが、従来のベクターよりも短時間で安定な多重トランスフェクションを可能にすることを上記結果は示した。
増殖因子の存在下で、胚様体の形成はiPS細胞の分化を促進する(非特許文献21、及びGreenhough Sら、Cell Reprogram.15:9-14;2013)。胚様体が分化に不可欠な転写因子を発現する場合に、標的細胞タイプがより効率的に獲得される。エピソーマルベクターが、胚様体を形成しているiPS細胞において、2種以上のトランスフェクションする遺伝子を発現できることを上記の結果は示した。また、胚様体はその表面のみでトランスフェクションされるため、iPS細胞に胚様体の形成前に目的とする外来遺伝子をトランスフェクションすることが推奨される。
結論として、FuGENE HDを用いることによるエピソーマルベクター構築物のトランスフェクションと回転培養法によるトランスフェクション細胞の培養が、iPS細胞のための最も適切な方法であった。さらに、エピソーマルベクターは、標的とする転写因子をコードする外来遺伝子等が導入された胚様体を形成するのに安定な多重トランスフェクションを行うことができる。

Claims (10)

  1. ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から成る胚様体にタンパク質をコードする複数の外来遺伝子を発現させる方法であって、
    1)前記外来遺伝子毎に該外来遺伝子を挿入したエピソーマルベクターを用いて、iPS細胞の懸濁液を添加して培養するiPS細胞に外来遺伝子を非リポソーム型カチオン性脂質トランスフェクション試薬を用いてトランスフェクションする工程、
    2)外来遺伝子がトランスフェクションされたiPS細胞を、薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子を用いて選別する工程、及び
    3)選別されたiPS細胞を、16から160×10 3 個/mLの細胞濃度で、非静的な培養方法で培養し、胚様体まで増殖させる工程
    を含む方法。
  2. 前記外来遺伝子が2種以上であり、遺伝子毎に異なる薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子を組み合わせてエピソーマルベクター構築物を作製することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  3. 前記外来遺伝子が2種であり、外来遺伝子毎に異なる薬剤選択マーカー及び/又は配列番号7又は8に記載の配列を有するレポーター遺伝子から選択される核酸を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記外来遺伝子が、分化を誘導する転写因子より選ばれることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記転写因子は、FOXA2、GATA4、HEX及びC/EBPαからなる群から選択される2種以上であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
  6. 前記非静的な培養方法は回転培養法であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記回転培養法における培養時の回転速度が2.5から9.9rpmであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
  8. ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から成るタンパク質をコードする外来遺伝子が導入された胚様体であって、
    1)前記外来遺伝子毎に該外来遺伝子を挿入したエピソーマルベクターを用いて、iPS細胞に外来遺伝子を非リポソーム型カチオン性脂質トランスフェクション試薬を用いてトランスフェクションする工程、
    2)外来遺伝子がトランスフェクションされたiPS細胞を、薬剤選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子を用いて選別する工程、及び
    3)選別されたiPS細胞を、16から160×10 3 個/mLの細胞濃度で、非静的な培養方法で培養し、胚様体まで増殖させる工程
    を含む方法で製造された胚様体。
  9. ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から成る胚様体にタンパク質をコードする複数の外来遺伝子を発現させる方法であって、
    1)エピソーマルベクターに、
    (i) 外来遺伝子、
    (ii) G418(登録商標)又はハイグロマイシンBに対する薬剤選択マーカー、及び、
    (iii) EGFPをコードする核酸配列(配列番号7)又はCherryPicker(登録商標)をコードする核酸配列(配列番号8)を有するレポーター遺伝子の(i)ないし(iii)を組み合わせて組み込んだ、前記外来遺伝子毎に該外来遺伝子を挿入した複数の種類のエピソーマルベクター構築物を作製する工程、
    2)複数のエピソーマルベクター構築物を非リポソーム型カチオン性脂質トランスフェクション試薬を用いてiPS細胞にトランスフェクションすることにより、複数の外来遺伝子をiPS細胞にトランスフェクションする工程、
    3) (i)ないし(iii)の組み合わせに対応して、
    G418及び/又はハイグロマイシンBの添加により薬剤選択マーカーを用いて、及び/又は、
    緑色及び/又は赤色の蛍光を指標としてレポーター遺伝子を用いて、
    前記複数の外来遺伝子が導入されたiPS細胞を選別する工程、並びに、
    4)選別されたiPS細胞を、16から160×103個/mLの細胞濃度で、回転速度2.5から9.9rpmの回転培養法で培養し、胚様体まで増殖させる工程
    を含む方法。
  10. ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から成るタンパク質をコードする複数の外来遺伝子が導入された胚様体であって、
    1)エピソーマルベクターに、
    (i) 外来遺伝子、
    (ii) G418(登録商標)又はハイグロマイシンBに対する薬剤選択マーカー、及び、
    (iii) EGFPをコードする核酸配列(配列番号7)又はCherryPicker(登録商標)をコードする核酸配列(配列番号8)を有するレポーター遺伝子の(i)ないし(iii)を組み合わせて組み込んだ複数の種類のエピソーマルベクター構築物を作製する工程、
    2)前記外来遺伝子毎に該外来遺伝子を挿入した複数のエピソーマルベクター構築物を非リポソーム型カチオン性脂質トランスフェクション試薬を用いてiPS細胞にトランスフェクションすることにより、複数の外来遺伝子をiPS細胞にトランスフェクションする工程、
    3) (i)ないし(iii)の組み合わせに対応して、
    G418及び/又はハイグロマイシンBの添加により薬剤選択マーカーを用いて、及び/又は、
    緑色及び/又は赤色の蛍光を指標としてレポーター遺伝子を用いて、
    前記複数の外来遺伝子が導入されたiPS細胞を選別する工程、並びに、
    4)選別されたiPS細胞を、16から160×103個/mLの細胞濃度で、回転速度2.5から9.9rpmの回転培養法で培養し、胚様体まで増殖させる工程
    を含む方法で製造された胚様体。
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