以下,本発明を具体化した最良の形態について,図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に,本形態に係るレーザー溶接の接合対象である電池1の外観における斜視図を示す。電池1は,図1に示すように,外形が扁平形状のものである。電池1は,図1に示すように,正極端子40および負極端子50を有している。そして,電池1は,正極端子40および負極端子50を介して充放電を行うことができる二次電池である。電池1としては,リチウムイオン二次電池や,ニッケル水素電池などが例示される。
また,電池1は,ケース本体10を有している。ケース本体10の内部には,充放電を行うため,正負の電極板よりなる電極体や電解液などが収容されている。ケース本体10の上部には,内部に電極体などを収容するための開口部11が形成されている。ケース本体10の開口部11は,図1においては,封口板20により塞がれている。本形態において,ケース本体10および封口板20の材質はともに,アルミニウムである。
正極端子40および負極端子50は,封口板20に設けられている。また,封口板20には,電解液を内部に注入するための注液口を封止している注液口封止部材60が設けられている。注液口封止部材60は,注液口より電解液をケース本体10の内部に注入した後に取り付けられたものである。
さらに,本形態の電池1において,ケース本体10と封口板20とは,レーザー溶接により接合されている。具体的には,ケース本体10と封口板20とは,ケース本体10の開口部11内に封口板20をはめ込み,ケース本体10と封口板20との間の溶接線に沿ってレーザー光を照射するレーザー溶接を行うことで接合されている。
また,レーザー溶接により,ケース本体10と封口板20との溶接線上には一周,接合部30が形成されている。すなわち,図1に示す電池1の外観図には,説明のため,ケース本体10の開口部11(内壁面13)と封口板20の側面21とを符号を付して示している。しかし,実際には,ケース本体10の開口部11(内壁面13)と封口板20の側面21とは,これらの付近が溶融して混ざり合って形成された接合部30となっていることにより,電池1の外側には存在していない。
次に,図2により,本形態の電池1に係るレーザー溶接を行うための溶接装置100について説明する。図2は,レーザー光Lを電池1に照射する溶接装置100の概略構成図である。図2に示すように,溶接装置100は,レーザー発振器110,コリメートレンズ120,回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)130,ガルバノスキャナ150,集光レンズ160,保護レンズ170を有している。
レーザー発振器110は,レーザー光を発生させ,発生したレーザー光を出射することのできる出射器である。レーザー発振器110より出射されたレーザー光の光路には,コリメートレンズ120,回折光学素子130,ガルバノスキャナ150,集光レンズ160,保護レンズ170が,この順で設けられている。そして,溶接装置100は,保護レンズ170の下面よりレーザー光Lを電池1に向けて投射することのできるものである。
コリメートレンズ120は,レーザー発振器110より出射され,光ファイバー111を通じて入射したレーザー光を平行状態に調整することのできるものである。回折光学素子130は,レーザー光の照射パターンを調整することのできるものである。図2には,回折光学素子130に入射するレーザー光を,入射光Liとして示している。そして,電池1に照射されるレーザー光Lは,入射光Liが回折光学素子130の入射点を通過した後のものである。
また,回折光学素子130は,スライド部140に取り付けられている。スライド部140は,回折光学素子130を,入射光Liに対して移動させるスライド移動を行うことのできるものである。回折光学素子130およびスライド部140については,後に詳述する。
ガルバノスキャナ150は,一対の反射鏡(ガルバノミラー)151,152を有している。反射鏡151,152はそれぞれ,モーターによって回転されることで角度が調整されるものである。
そして,ガルバノスキャナ150は,反射鏡151,152の回転により,レーザー光Lを定めた位置に正確に照射することのできるものである。つまり,ガルバノスキャナ150は,反射鏡151,152の回転により,レーザー光Lによる溶接線の走査を,高速で行うことのできる走査部である。そして,本形態の溶接装置100は,図3に示すように,反射鏡151,152の回転により,電池1の接合部30の形成箇所(溶接線)に沿って一周,レーザー光Lを照射することができる。
また,本形態のガルバノスキャナ150は,図2に示すように,Z軸レンズ153を有している。本形態のガルバノスキャナ150は,Z軸レンズ153を,レーザー光の進行方向について移動することのできるものである。さらに,集光レンズ160は,コリメートレンズ120によって平衡状態に調整されたレーザー光を集光することのできるものである。そして,溶接装置100においては,Z軸レンズ153の移動により,集光レンズ160により集光されたレーザー光Lのジャストフォーカス位置を,レーザー光Lの進行方向(図2において上下方向)について移動させることができる。
また,溶接装置100は,各部を制御するため,制御部180を有している。制御部180は,レーザー発振器110によるレーザー光の出射を制御することができる。また,制御部180は,スライド部140によるスライド移動を制御することができる。さらに,制御部180は,ガルバノスキャナ150によるレーザー光Lの走査を制御することができる。加えて,制御部180は,ガルバノスキャナ150のZ軸レンズ153の移動により,ジャストフォーカス位置を移動させることも可能である。
図4に,溶接装置100の回折光学素子130およびスライド部140の平面図を示している。図4において,入射光Liは,奥行き方向の手前より,回折光学素子130に入射している。また,図4には,入射光Liが入射した入射点LPを示している。本形態において,入射点LPは,0次元の点ではなく,ある程度の面積をもつものである。
また,図4に示すように,回折光学素子130は,形成領域131と非形成領域132とを有している。形成領域131は,回折光学素子130の中央に設けられた,外形が正方形の領域である。非形成領域132は,正方形の形成領域131を外側から囲う,回折光学素子130の周囲の領域である。このため,回折光学素子130において,形成領域131と非形成領域132とは,図4に示すように隣接している。回折光学素子130は,形成領域131および非形成領域132においてともに,レーザー光を通過させることのできる材質により構成されている。このような回折光学素子130の材質として,例えば,石英ガラスを用いることができる。
回折光学素子130の形成領域131は,回折パターンが形成されている領域である。このため,形成領域131は,入射光Liが入射しているとき,その入射光Liを入射点LPから放射させ,照射箇所にレーザー光の回折による干渉縞によって照射パターンを形成することができる。
一方,本形態の回折光学素子130において,非形成領域132は,回折パターンが形成されていない領域である。このため,非形成領域132は,入射光Liが入射しているとき,その入射光Liを入射点LPに透過させ,照射箇所に照射パターンを形成することができる。
スライド部140は,図4に示すように,可動部141と固定部142とを有している。可動部141は,固定されている固定部142に対してスライド移動を行うことができる。本形態のスライド部140は,可動部141が,回折光学素子130の面内において移動することができるものである。
また,図4に示すように,可動部141には,回折光学素子130が固定されている。よって,スライド部140は,回折光学素子130を,その面内でスライド移動させることができる。そして,本形態のスライド部140は,スライド移動により,入射光Liの回折光学素子130への入射点LPを変更することができるものである。具体的に,本形態のスライド部140は,レーザー溶接を行う際には,図4に実線で示すスライド位置Aと二点鎖線で示すスライド位置Bとの間でスライド移動を行うことができる。これにより,入射光Liの回折光学素子130への入射点LPの位置を移動させることができる。
スライド位置Aおよびスライド位置Bではいずれも,入射光Liが,回折光学素子130の形成領域131と非形成領域132とにともに入射している。ただし,スライド位置Aでは,入射光Liの左側が形成領域131に,入射光Liの右側が非形成領域132に入射している。一方,スライド位置Bでは,入射光Liの右側が形成領域131に,入射光Liの左側が非形成領域132に入射している。
次に,図5,図6,図7により,入射光が回折光学素子130に入射することにより形成される照射パターンPについて説明する。図5,図6,図7に示す照射パターンPはいずれも,ジャストフォーカス位置に形成されるものである。
具体的に,図5には,回折光学素子130の形成領域131に入射した入射光により,ジャストフォーカス位置に形成される照射パターンPを示している。図5に示すように,形成領域131に入射した入射光によりジャストフォーカス位置に形成される照射パターンPは,斜線ハッチングにより示す外縁スポット群SGを有している。外縁スポット群SGは,8つの外縁スポットS11,S12,S21,S22,S31,S32,S41,S42により構成されている。外縁スポット群SGはすべて,照射パターンPにおける中央領域A1の周囲の外縁領域A2内に位置している。また,図5に示すように,形成領域131に入射した入射光によりジャストフォーカス位置に形成される照射パターンPは,中央領域A1内には,スポットが形成されていない。
このように,外縁スポット群SGは,回折光学素子130の形成領域131に入射した入射光により形成されたものである。つまり,外縁スポット群SGは,入射光が,形成領域131によって放射されたレーザー光により形成されたものである。すなわち,本形態の回折光学素子130の形成領域131には,入射光を回折させた干渉縞により,ジャストフォーカス位置における外縁領域A2に外縁スポット群SGが形成されるような回折パターンが形成されている。
また,形成領域131は,入射点の位置に関わらず,形成領域131へ入射した入射光の1次以上の回折光によって外縁スポット群SGの各スポットが形成されるように回折パターンが形成されている。すなわち,入射点が形成領域131の中央に位置しているときにも,入射点が形成領域131の端部付近に位置しているときにも,その形成領域131の入射点から放射されたレーザー光によって外縁スポット群SGの各スポットが形成される。
図6には,回折光学素子130の非形成領域132に入射した入射光により,ジャストフォーカス位置に形成される照射パターンPを示している。図6に示すように,非形成領域132に入射した入射光によりジャストフォーカス位置に形成される照射パターンPは,ドットハッチングにより示す主スポットS0により構成されている。主スポットS0は,回折光学素子130の非形成領域132に入射した入射光が,入射点において非形成領域132を透過したレーザー光(0次光)により形成されたものである。また,非形成領域132に入射した入射光によりジャストフォーカス位置に形成される照射パターンPの主スポットS0は,照射パターンPにおける中央領域A1内に位置している。さらに,図6に示すように,非形成領域132に入射した入射光によりジャストフォーカス位置に形成される照射パターンPは,外縁領域A2内には,スポットが形成されていない。
図7には,回折光学素子130の形成領域131と非形成領域132とにともに入射した入射光により,ジャストフォーカス位置に形成される照射パターンPを示している。図7に示すように,形成領域131と非形成領域132とに入射した入射光によりジャストフォーカス位置に形成される照射パターンPは,斜線ハッチングで示す外縁スポット群SGと,ドットハッチングで示す主スポットS0とにより構成されている。
また,図5および図7に示すように,照射パターンPにおける外縁スポット群SGは,中央領域A1に位置する主スポットS0を中心として放射状に配置されている。具体的に,外縁スポット群SGの外縁スポットS11,S12は,主スポットS0の右上に配置されている。外縁スポットS21,S22は,主スポットS0の右下に配置されている。外縁スポットS31,S32は,主スポットS0の左下に配置されている。外縁スポットS41,S42は,主スポットS0の左上に配置されている。
さらに,外縁スポット群SGの左側の外縁スポットS31,S32,S41,S42と,右側の外縁スポットS11,S12,S21,S22との間には,隙間が設けられている。さらに,外縁スポット群SGの上側の外縁スポットS11,S12,S41,S42と,下側の外縁スポットS21,S22,S31,S32との間にも,隙間が設けられている。これら外縁スポット群SGの左側と右側との隙間,および,上側と下側との隙間はともに,後述する溶接線における隙間以上の大きさとされている。
そして,本形態では,「1.挿入工程」と「2.接合工程」とをこの順で行うことにより電池1に接合部30を形成する。
まず,「1.挿入工程」について説明する。挿入工程は,図8に示すように,ケース本体10の開口部11に封口板20を挿入する工程である。挿入工程では,図8に示すように,ケース本体10に封口板20が挿入されることにより,ケース本体10の内壁面13と封口板20の側面21とが対面している。また,ケース本体10の内壁面13と封口板20の側面21との間には,隙間Gが設けられている。隙間Gは,ケース本体10の開口部11に封口板20を円滑に挿入するためのものである。
さらに,本形態の挿入工程では,図8に示すように,封口板20の上側の面である外面22が,ケース本体10の上側の面である外面12よりもケース本体10の内側に位置するまで挿入している。これにより,ケース本体10の外面12が封口板20の外面22よりも上側に出っ張った状態としている。また,図8には,ケース本体10の外面12と封口板20の外面22との段差Dを示している。この段差Dは,例えば,1mm程度にしておくことができる。
次に,「2.接合工程」を行う。接合工程では,上記で説明した溶接装置100を用いてレーザー溶接を行い,電池1に接合部30(図1)を形成する。そのため,本形態の溶接装置100の制御部180は,接合工程では,レーザー発振器110にレーザー光を出射させる接合制御を行う。また,本形態の制御部180は,接合制御では,ガルバノスキャナ150に,レーザー光を,溶接線に沿って走査させる走査制御を行う。
図9は,挿入工程後,接合工程前における電池1の平面図である。図9に示す電池1では,接合部30(図1)は,まだ,形成されていない。そして,本形態の接合工程では,ケース本体10の内壁面13と封口板20の側面21とが対面してなる対面箇所70の溶接線80に沿ってレーザー溶接を行う。
また,図9に示すように,扁平形状の電池1は,左右方向であるX軸方向を長手方向とし,上下方向であるY軸方向を短手方向とするものである。このため,溶接線80は,X軸方向を長手方向とし,Y軸方向を短手方向とする,全体として長方形をしているものである。また,溶接線80には,ともにX軸方向に平行に延びる直線区間である長手区間X1,X2がある。さらに,溶接線80には,ともにY軸方向に平行に延びる直線区間である短手区間Y1,Y2がある。加えて,溶接線80には,上記の直線区間の間を繋ぐ屈曲区間R1,R2,R3,R4がある。
そして,本形態の接合工程は,溶接装置100を用い,短手区間Y1上に示す開始位置Tから時計回りに一周,溶接線80をレーザー光によって走査するレーザー溶接により行う。そのため,制御部180は,レーザー発振器110にレーザー光を出射させる接合制御を行い,その接合制御において,ガルバノスキャナ150に溶接線80に沿ってレーザー光を走査させる走査制御を行う。
制御部180は,走査制御では,ガルバノスキャナ150に短手区間Y1に沿って開始位置TからY軸の正方向の向きである矢印YW1の向きにレーザー光を走査させる正短手走査制御を行う。また,走査制御では,ガルバノスキャナ150に長手区間X1に沿ってX軸の正方向の向きである矢印XW1の向きにレーザー光を走査させる正長手走査制御を行う。さらに,走査制御では,ガルバノスキャナ150に短手区間Y2に沿ってY軸の負方向の向きである矢印YW2の向きにレーザー光を走査させる負短手走査制御を行う。加えて,走査制御では,ガルバノスキャナ150に長手区間X2に沿ってX軸の負方向の向きである矢印XW2の向きにレーザー光を走査させる負長手走査制御を行う。
なお,上記の最初の正短手走査制御においては,短手区間Y1のうちの開始位置Tよりも長手区間X2側にレーザー光が照射されていない。このため,走査制御では,負長手走査制御の後,短手区間Y1のうちの開始位置Tよりも長手区間X2側にレーザー光を照射するため,再度,その区間に矢印YW1の向きにレーザー光を走査させる正短手走査制御を行う。
また,制御部180は,正短手走査制御,正長手走査制御,負短手走査制御,負長手走査制御,正短手走査制御の各間に,ガルバノスキャナ150に屈曲区間R1,R2,R3,R4に沿ってそれぞれレーザー光を走査させる第1から第4までの屈曲走査制御を行う。すなわち,本形態の制御部180は,走査制御では,正短手走査制御,第1屈曲走査制御,正長手走査制御,第2屈曲走査制御,負短手走査制御,第3屈曲走査制御,負長手走査制御,第4屈曲走査制御,正短手走査制御を,この順で行う。
なお,走査制御の終了位置付近は,開始位置T付近と適度にラップさせておくことが好ましい。ケース本体10と封口板20とを,溶接線80に沿って切れ目なく接合することができるからである。そのため,2回目の正短手走査制御では,開始位置Tに到達した後にも引き続き,ガルバノスキャナ150に適度にレーザー光の走査を行わせることが好ましい。
また,本形態の接合制御は,スライド部140の位置を,スライド位置Aまたはスライド位置Bとした状態で行う。つまり,ジャストフォーカス位置に図7に示す照射パターンPが形成される状態で接合制御を行う。また,図7には,X軸およびY軸を示している。そして,本形態の溶接装置100は,図7に示す照射パターンPを,図9に示す電池1と,X軸およびY軸が合わさる回転位置で照射する。すなわち,溶接装置100は,電池1と照射パターンPとの回転位置が各走査制御においていずれも同じ回転位置となるようにレーザー光の照射を行う。
また,本形態では,照射パターンPの中央領域A1の中心に,溶接線80が通るようにして各走査制御を行う。つまり,図7に示すジャストフォーカス位置における照射パターンPの主スポットS0の中心に,溶接線80が通るようにして各走査制御を行う。
そして,本形態では,長手区間X1に係る正長手走査制御,および,長手区間X2に係る負長手走査制御を,ケース本体10の外面12をデフォーカス位置に設定して行う。さらに,長手区間X1に係る正長手走査制御においては,図4に実線で示すように,スライド部140をスライド位置Aとする。一方,長手区間X2に係る負長手走査制御においては,図4に二点鎖線で示すように,スライド部をスライド位置Bとする。以下,このことについて説明する。
図10には,長手区間X1に係る正長手走査制御中における照射パターンPを示している。また,図10には,ドットハッチングの密度により,照射パターンPにおけるパワー密度を示している。図10に示す長手区間X1に係る正長手走査制御の照射パターンPは,上記のように,スライド部140をスライド位置Aとしたときにおいて形成されているものである。
そして,図10に示す照射パターンPにおいては,主スポットS0が,ジャストフォーカス位置のときよりもY軸における正方向に移動し,ケース本体10の外面12に形成されている。これは,ケース本体10の外面12の位置を,ジャストフォーカス位置とは異なるデフォーカス位置となるように,ケース本体10を溶接装置100に対して移動させていることによるものである。
つまり,本形態では,長手区間X1に係る正長手走査制御の開始時に,ケース本体10を,その外面12に主スポットS0が形成されるデフォーカス位置まで移動させている。デフォーカス位置とするためのケース本体10の移動方向は,レーザー光の進行方向であり,ケース本体10の外面12と直交する方向である。また,本形態では,デフォーカス位置を,主スポットS0の中心が溶接線80から1mm程度,ジャストフォーカス位置よりもケース本体10側に移動する位置としている。なお,図10に示すように,ケース本体10の外面12をデフォーカス位置に設定したときにも,外縁スポット群SGのXY平面における位置は,ジャストフォーカス位置から移動していない。そして,長手区間X1に係る正長手走査制御では,矢印XW1の向きに照射パターンPを移動させる。
また,図10には,外縁スポット群SGについて,先行スポット群SPと後行スポット群SFとに分けて示している。先行スポット群SPは,外縁スポット群SGのうち,主スポットS0よりも走査方向の前方の箇所に形成されている外縁スポットS11,S12,S21,S22から構成されている。後行スポット群SFは,外縁スポット群SGのうち,主スポットS0よりも走査方向の後方の箇所に形成されている外縁スポットS31,S32,S41,S42から構成されている。先行スポット群SPおよび後行スポット群SFはいずれも,溶接線80上以外の箇所に形成されている。
そして,長手区間X1に係る正長手走査制御では,レーザー光の照射箇所に,先行スポット群SP,主スポットS0,後行スポット群SFをこの順で形成することができる。このため,まず,先行スポット群SPにより溶融部Mを形成し,その後,主スポットS0により溶融部Mの深さを深くすることができる。また,先行スポット群SPは,溶接線80の隙間Gには照射されていないため,先行スポット群SPに係るレーザー光が隙間Gを通過してしまうレーザー抜けを抑制することができる。また,主スポットS0が照射されるときには,すでに,隙間Gは,先行スポット群SPによって形成された溶融部Mによって塞がれている。よって,主スポットS0に係るレーザー光のレーザー抜けについても,抑制することができる。また,後行スポット群SFに係るレーザー光のレーザー抜けについても,抑制されている。
さらに,本形態の正長手走査制御では,図10に示すように,パワー密度の高い主スポットS0の中心がケース本体10の外面12上に位置しているため,封口板20よりも,ケース本体10への入熱量を多くすることができる。よって,図8に示すように,溶接箇所において封口板20よりも出っ張っているケース本体10について,適切に溶融し,溶融部Mの溶融深さを十分に確保することができる。
次に,図11には,長手区間X2に係る負長手走査制御中における照射パターンPを示している。また,図11においても,ドットハッチングの密度により,照射パターンPにおけるパワー密度を示している。図11に示す長手区間X2に係る正長手走査制御の照射パターンPは,上記のように,スライド部140をスライド位置Bとしたときにおいて形成されているものである。
そして,図11に示す照射パターンPにおいては,主スポットS0が,ジャストフォーカス位置のときよりもY軸における負方向に移動し,ケース本体10の外面12に形成されている。これは,ケース本体10の外面12の位置を,ジャストフォーカス位置とは異なるデフォーカス位置となるように,ケース本体10を溶接装置100に対して移動させていることによるものである。なお,本形態の長手区間X2に係る負長手走査制御において,デフォーカス位置とするためのケース本体10のジャストフォーカス位置からの移動方向および移動量は,長手区間X1に係る正長手走査制御と同じである。本形態の正長手走査制御と負長手走査制御とにおいて異なるのは,入射光の回折光学素子130における位置のみである。なお,図11に示すように,ケース本体10の外面12をデフォーカス位置に設定したときにも,外縁スポット群SGのXY平面における位置は,ジャストフォーカス位置から移動していない。そして,長手区間X2に係る負長手走査制御では,矢印XW2の向きに照射パターンPを移動させる。
また,図11にも,外縁スポット群SGについて,先行スポット群SPと後行スポット群SFとに分けて示している。先行スポット群SPは,外縁スポット群SGのうち,主スポットS0よりも走査方向の前方の箇所に形成されている外縁スポットS31,S32,S41,S42から構成されている。後行スポット群SFは,外縁スポット群SGのうち,主スポットS0よりも走査方向の後方の箇所に形成されている外縁スポットS11,S12,S21,S22から構成されている。さらに,先行スポット群SPおよび後行スポット群SFはいずれも,溶接線80上以外の箇所に形成されている。
そして,長手区間X2に係る負長手走査制御でも,レーザー光の照射箇所に,先行スポット群SP,主スポットS0,後行スポット群SFをこの順で形成することができる。このため,負長手走査制御においても,まず,先行スポット群SPにより溶融部Mを形成し,その後,主スポットS0により溶融部Mの深さを深くすることができる。また,先行スポット群SPは,溶接線80の隙間Gには照射されていない。このため,負長手走査制御においても,先行スポット群SPに係るレーザー光が隙間Gを通過してしまうレーザー抜けを抑制することができる。また,負長手走査制御においても主スポットS0が照射されるときには,すでに,隙間Gは,先行スポット群SPによって形成された溶融部Mによって塞がれている。よって,負長手走査制御においても主スポットS0に係るレーザー抜けを,抑制することができる。また,後行スポット群SFに係るレーザー光のレーザー抜けについても,抑制されている。
さらに,本形態の負長手走査制御でも,図11に示すように,パワー密度の高い主スポットS0の中心がケース本体10の外面12上に位置しているため,封口板20よりも,ケース本体10への入熱量を多くすることができる。よって,図8に示すように,溶接箇所において封口板20よりも出っ張っているケース本体10について,適切に溶融し,溶融部Mの溶融深さを十分に確保することができる。
すなわち,本形態では,長手区間X1に係る正長手走査制御および長手区間X2に係る負長手走査制御においてともに,十分な深さを有する適切な溶融部Mを形成することができる。これにより,接合部30を,十分な深さを有するものとすることができる。また,本形態では,前述したように,レーザー光が隙間Gを通過してしまうことによるレーザー抜けが抑制されている。これにより,レーザー抜けによってケース本体10内の電極体等が損傷してしまうことが抑制されている。すなわち,本形態では,レーザー溶接に伴う不良の発生が抑制されている。
さらに,本形態では,先行スポット群SP,主スポットS0,後行スポット群SFのいずれについても,ケース本体10および封口板20を溶融させる程度の高いパワー密度とすることができる。このため,長手区間X1に係る正長手走査制御および長手区間X2に係る負長手走査制御においてともに,レーザー光の走査速度を速くすることができる。すなわち,レーザー溶接を高速で,短時間で行うことができる
なお,上記では,ケース本体10の外面12をジャストフォーカス位置とは異なるデフォーカス位置とするため,ケース本体10を,レーザー光の進行方向について,溶接装置100に対して移動させている。すなわち,上記では,ケース本体10の外面12をデフォーカス位置とするため,ケース本体10の移動により,ケース本体10と溶接装置100との間隔をジャストフォーカス位置と異なるものとしている。
しかし,ケース本体10を固定とし,溶接装置100側を,レーザー光の進行方向について,ケース本体10に対して移動させることにより,ケース本体10の外面12をデフォーカス位置とすることも可能である。あるいは,ケース本体10と溶接装置100との間隔を固定としつつ,ガルバノスキャナ150のZ軸レンズ153を移動させることにより,ケース本体10の外面12をデフォーカス位置とすることも可能である。
また,上記では,図10に示す照射パターンPを形成する場合にはスライド部140にスライド位置Aをとらせ,図11に示す照射パターンPを形成する場合にはスライド部140にスライド位置Bをとらせている。すなわち,図10に示す照射パターンPと図11に示す照射パターンPとをそれぞれ,回折光学素子130への入射光の入射点の位置を異なる位置とすることにより形成している。
しかし,スライド部140にスライド位置Aをとらせた状態のまま,ケース本体10と溶接装置100との間隔の大きさを異なるものとすることにより,図10に示す照射パターンPと図11に示す照射パターンPとをそれぞれ形成することもできる。例えば,ケース本体10を,レーザー光の進行方向について,ケース本体10の外面12がジャストフォーカス位置よりも溶接装置100に近いデフォーカス位置となる位置と,溶接装置100から遠いデフォーカス位置となる位置との間で移動させればよい。また例えば,溶接装置100を,レーザー光の進行方向について,ケース本体10の外面12がジャストフォーカス位置よりも溶接装置100に近いデフォーカス位置となる位置と,溶接装置100から遠いデフォーカス位置となる位置との間で移動させてもよい。
あるいは,図10,図11に示す照射パターンPは,スライド部140にスライド位置Aをとらせ,ケース本体10と溶接装置100との間隔を固定としつつ,ガルバノスキャナ150のZ軸レンズ153を移動することにより,形成することもできる。ガルバノスキャナ150のZ軸レンズ153を移動させることにより,ジャストフォーカス位置を,レーザー光の進行方向について,ケース本体10の外面12に対して移動させることができるからである。この場合,スライド部140はなくてもよい。回折光学素子130を,スライド部140にスライド位置Aをとらせたときの位置で固定しておけばよいからである。このため,ガルバノスキャナ150のZ軸レンズ153の移動により,図10に示す照射パターンPと図11に示す照射パターンPとをそれぞれ形成することが最も好ましいと考えられる。溶接装置100に,スライド部140の構成が不要になるからである。すなわち,溶接装置として,簡素な構成のものを用いることができるからである。
以上詳細に説明したように,本形態では,開口部11が形成されたケース本体10と,開口部11を塞いでいる封口板とを有する電池1を,挿入工程と接合工程とにより製造する。挿入工程では,ケース本体10の開口部11に封口板20を,封口板20の外面22が,ケース本体10の外面12よりもケース本体10の内側に位置するまで挿入する。接合工程では,ケース本体10の開口部11の内壁面13および封口板20の側面21が対面する溶接線80上に沿って一周,レーザー光を照射するレーザー溶接を行い,接合部30を形成する。さらに,接合工程では,レーザー発振器110,回折光学素子130,ガルバノスキャナ150,集光レンズ160を有する溶接装置100を用いる。回折光学素子130は,ケース本体10の外面12がジャストフォーカス位置であるとき,入射光によって溶接線80上に主スポットS0を形成する非形成領域132と,先行スポット群SPおよび後行スポット群SFを形成する形成領域131とが設けられている。そして,接合制御における正長手走査制御および負短手走査制御では,ケース本体10の外面12の位置を,主スポットS0がジャストフォーカス位置よりもケース本体10の外面12の側に形成されるデフォーカス位置とする。これにより,不良の発生を抑制しつつ,接合部を短時間で形成することのできる密閉型容器の製造方法が実現されている。
また,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。従って本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,上記の実施形態においては,密閉型容器である電池1の製造方法について,本発明を具体的に説明している。しかし,電池1以外の密閉型容器についても適用することができる。
また,上記の実施形態では,ともにアルミニウムよりなるケース本体10および封口板20を接合対象として用いた場合の例について具体的に説明している。しかし,アルミニウム同士に限らず,レーザー溶接により接合できる材質同士の組み合わせであれば,本発明を適用することが可能である。