以下、本発明に係る成膜装置について具体化した第1実施形態乃至第4実施形態に基づき図面を参照しつつ詳細に説明する。先ず、第1実施形態に係る成膜装置1の概略構成について図1及び図2に基づいて説明する。
[第1実施形態]
図1に示すように、第1実施形態に係る成膜装置1は、処理容器2、真空ポンプ3、ガス供給部5、及び制御部6等から構成されている。処理容器2は、ステンレス等の金属製であって、気密構造の処理容器である。真空ポンプ3は、圧力調整バルブ7を介して処理容器2の内部を真空排気可能なポンプである。処理容器2の内部には、成膜対象である導電性を有する被加工材料8が、ステンレス等で形成された導電性を有する保持具9により保持されている。
被加工材料8の材質は、導電性を有していれば、特に限定されるものではないが、第1実施形態では低温焼戻し鋼である。ここで低温焼戻し鋼とは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)、G4401(炭素工具鋼鋼材)、G44−4(合金工具用鋼材)、又はマルエージング鋼材などの材料である。被加工材料は、低温焼戻し鋼以外にも、セラミック、または樹脂に導電性の材料がコーティングされているものでもよい。
ガス供給部5は、処理容器2の内部に成膜用の原料ガスと不活性ガスとを供給する。具体的には、He、Ne、Ar、Kr、またはXeなどの不活性ガスとCH4、C2H2、又はTMS(テトラメチルシラン)等の原料ガスとが供給される。第1実施形態では、CH4、C2H2のうちのいずれか1種類、及びTMSの原料ガスにより被加工材料8がDLC成膜処理されるとして説明する。
また、ガス供給部5から供給される原料ガス、および不活性ガスの流量、および圧力が制御部6を介して制御されてもよいし、作業者により制御されてもよい。また、原料ガスは、アルキン、アルケン、アルカン、芳香族化合物などのCH結合を有する化合物、または炭素が含まれる化合物が含まれるガスであればよい。また、H2が原料ガスに含まれてもよい。
処理容器2の内部に保持された被加工材料8に対してDLC成膜処理を行うためのプラズマが発生される。このプラズマは、マイクロ波パルス制御部11、マイクロ波発振器12、マイクロ波電源13、負電圧電源15、及び負電圧パルス発生部16により発生される。第1実施形態では、特開2014−189900号公報に開示された方法(以下「MVP法(Microwave−sheath Voltage Combination Plasma法)」という。)により表面波励起プラズマが発生されるとして説明する。以降の記載では、MVP法を説明する。
マイクロ波パルス制御部11は制御部6の指示に従い、パルス信号を発振し、この発振したパルス信号をマイクロ波発振器12へ供給する。マイクロ波発振器12は、マイクロ波パルス制御部11からのパルス信号に従って、マイクロ波パルスを発生する。マイクロ波電源13は、制御部6の指示従い、指示された出力で2.45GHzのマイクロ波を発振するマイクロ波発振器12へ電力供給する。つまり、マイクロ波発振器12は、2.45GHzのマイクロ波をマイクロ波パルス制御部11からのパルス信号に従って、パルス状のマイクロ波パルスで後述するアイソレータ17に供給する。
そして、パルス状のマイクロ波パルスは、マイクロ波発振器12からアイソレータ17、チューナー18、導波管19、導波管19から図示されない同軸導波管変換器を介して突設された同軸導波管21、及び石英などのマイクロ波を透過する誘電体等からなるマイクロ波導入口22を経由し、保持具9及び被加工材料8の処理表面に供給される。アイソレータ17は、マイクロ波の反射波がマイクロ波発振器12へ戻ることを防ぐものである。チューナー18は、反射エネルギー検出部で検出した導波管19内を反射してくるマイクロ波の位相と大きさに基づいてマイクロ波の反射波が最小になるようにチューナー18前後のインピーダンスを整合をするものである。
マイクロ波導入口22の上端面を除く外周面は、つまり、マイクロ波導入面22Aを除く外周面は、ステンレス等の金属で形成された側面電極23で被覆されている。側面電極23は、処理容器2の内側面にネジ止め等によって固定され、電気的に処理容器2に接続されている。側面電極23は、すくなくとも1のネジなどの取付部材で取り付けられればよい。
図1及び図2に示すように、側面電極23は、マイクロ波導入面22Aの外周に接触する部分から、側面電極23の全周に渡って処理容器2内へ所定高さ、例えば、約30mm〜50mmの高さで突出された筒状の包囲壁23Aが形成されている。包囲壁23Aは、保持具9及び被加工材料8から構成される中心導体25を内側に囲むようにマイクロ波導入面22Aの全周に渡って形成されている。即ち、包囲壁23Aは、ステンレス等の金属で形成されている。
また、包囲壁23Aの処理容器2内側の先端部は、被加工材料8の下端部よりも低くなるように形成され、包囲壁23Aの内周面から中心導体25の外周面までの距離は、包囲壁23Aのマイクロ波導入面22Aからの高さ寸法よりも短くなるように形成されている。従って、包囲壁23Aは、マイクロ波導入面22A側が閉塞され、且つ、処理容器2内側が開放された略円筒状に形成され、中心導体25を囲む包囲空間26を内側に形成している。
従って、包囲壁23Aの内周面と中心導体25の外周面との間に形成された包囲空間26は、シース層のシース厚さ方向の幅が狭く、且つ、マイクロ波が伝搬する伝搬方向へ高くなるように形成される。これにより、包囲空間26内へ供給された原料ガスにより中心導体25への成膜が行われた後に、プラズマ化された不活性ガスで満たされた包囲空間26内への更なる原料ガスの供給を低減することができ、マイクロ波導入面22Aへの膜成分の付着量を低減することができる。
ここで、包囲壁23Aの内周面から中心導体25の外周面までの距離は2mm以下、望ましくは1mm以下である。また、マイクロ波導入面22Aから包囲壁23Aの先端部23Bまでの高さは、30mm以上になるように形成されるのが望ましい。これによりマイクロ波導入面22Aへの膜成分の付着による汚れを大幅に抑制することができ生産性が向上する。包囲壁23Aの内周面から中心導体25の外周面までの距離が3mm以上となるとマイクロ波導入面22Aの汚れの抑制効果が小さくなり、頻繁にマイクロ波導入面22Aの清掃が必要となる。
尚、筒状の包囲壁23Aの部分だけが、別部品のセラミック、または樹脂で形成され、少なくとも包囲壁23Aの内周面に、導電性の金属材料がコーティングされてもよい。そして、筒状の包囲壁23Aの軸方向一端側をステンレス等の金属製の側面電極23の上側に固定して、包囲壁23Aの内周面と中心導体25の外周面との間に包囲空間26を形成するようにしてもよい。
包囲壁23Aの内周面は金属で形成されており、この内周面には負のバイアス電圧が印加されないので、包囲壁23Aの内側に配置される中心導体25にプラズマが集中する。従って、電界集中によるアーキングの発生を低減させることができる。更に、包囲壁23Aの内周面が処理容器2と等電位であっても、包囲壁23Aの内側に配置される中心導体25にプラズマが集中する。
また、マイクロ波導入口22の中央には同軸導波管21の中心導体が延長されている。保持具9も中心導体の延長上にあり、マイクロ波導入口22内では中心導体となる。従って、マイクロ波導入口22の中心導体と側面電極23とで同軸導波管として機能する。このため、マイクロ波導入口22に供給されたマイクロ波パルスによって、マイクロ波導入面22Aにマイクロ波が伝搬し、包囲空間26にプラズマが生成される。尚、マイクロ波導入口22の中心導体は真空を保持するため、途中で分断されているが、誘電体とのろう付け等で真空が保持されれば、貫通していてもよい。被加工材料8は、例えば棒状であり、マイクロ波導入口22の中心導体の延長線上に保持される。
また、包囲壁23Aの外側には、包囲壁23Aを内側に囲み、被加工材料8側に開口した筒状の排気壁28が設けられている。即ち、排気壁28は、包囲壁23Aの突出方向において、マイクロ波導入面22Aと反対側に開口する。排気壁28は、包囲壁23Aと略同軸の略円筒状に形成され、包囲壁23Aの処理容器2内側の先端部よりも包囲壁23Aの突出方向に突出し、ステンレス等の金属で形成されている。
また、筒状の排気壁28のマイクロ波導入口22側の端縁部から延出され、側面電極23を内側に囲む排気ダクト31が設けられている。排気ダクト31は、側面電極23の近くの処理容器2の内側面に形成された排気口29を内側に囲むように設けられている。排気ダクト31は、ステンレス等の金属で形成され、処理容器2の内側面にネジ止め等によって固定され、電気的に処理容器2に接続されている。
従って、排気壁28及び排気ダクト31は、包囲壁23A及び側面電極23の外側周囲を囲み、包囲壁23Aの処理容器2内側の先端部周囲に形成された平面視略円環状の吸気口32Aから排気口29に連通する排気流路32を形成する。また、排気口29には、圧力調整バルブ7が接続され、真空ポンプ3を介して処理容器2内の真空排気が制御可能に構成されている。
また、被加工材料8は、被加工材料8を保持する保持具9からマイクロ波導入口22に対して処理容器2の内側に向かって突出するように配置されている。また、被加工材料8の保持具9に対して反対側の部分の先端部8Aには、負のバイアス電圧パルスを印加するための負電圧電極35が電気的に接続されている。
負電圧電源15は、制御部6の指示に従い、負電圧パルス発生部16に負のバイアス電圧を供給する。負電圧パルス発生部16は、負電圧電源15から供給された負のバイアス電圧をパルス化する。このパルス化の処理は、負電圧パルス発生部16が制御部6の指示に従い、負のバイアス電圧パルスの大きさ、周期、及び、デューティ比を制御する処理である。このデューティ比に従うパルス状の負のバイアス電圧である負のバイアス電圧パルスが、処理容器2の内部に保持された被加工材料8に負電圧電極35を介して印加される。
即ち、被加工材料8が、金属基材の場合、またはセラミック、または樹脂に導電性の金属材料がコーティングされた場合であっても、被加工材料8の少なくとも処理表面全域に負のバイアス電圧パルスが印加される。また、保持具9の表面全域にも被加工材料8を介して負のバイアス電圧パルスが印加される。
そして、発生されたマイクロ波パルス、および負のバイアス電圧パルスの少なくとも一部が同一時間に印加されるように制御されることにより、図1に示すように、表面波励起プラズマ36が発生される。マイクロ波は2.45GHzに限らず、0.3GHz〜50GHzの周波数であればよい。負電圧電源15、および負電圧パルス発生部16が本発明の負電圧印加部の一例である。
マイクロ波パルス制御部11、マイクロ波発振器12、マイクロ波電源13、アイソレータ17、チューナー18、及び導波管19が本発明のマイクロ波供給部の一例である。尚、成膜装置1は負電圧電源15、および負電圧パルス発生部16を備えたが、正電圧電源、および正電圧パルス発生部を備えてもよいし、負電圧パルス発生部16の代わりに、パルス状の負のバイアス電圧でなく、連続する負のバイアス電圧を印加する負電圧発生部を備えてもよい。
図1に示す制御部6は、不図示のCPU、RAM、ROM、ハードディスクドライブ(以下、「HDD」という。)、タイマ等を備え、コンピュータから構成され、成膜装置1の全体の制御を行う。制御部6のROMとHDDは、不揮発性記憶装置であり、マイクロ波パルスと負のバイアス電圧パルスの印加タイミングを示す情報等を記憶している。
制御部6は、負電圧電源15とマイクロ波電源13に制御信号を出力してマイクロ波パルスの印加電力と負電圧パルスの印加電圧を制御する。制御部6は、負電圧パルス発生部16及びマイクロ波パルス制御部11に制御信号を出力することによって、パルス状の負のバイアス電圧パルスの印加タイミング、供給電圧、及びマイクロ波発振器12から発生されるマイクロ波パルスの供給タイミング、及び供給電力を制御する。
また、制御部6は、ガス供給部5に流量制御信号を出力して原料ガス及び不活性ガスの供給を制御する。制御部6は、処理容器2に取り付けられた真空計27から入力される処理容器2内の圧力を表す圧力信号に基づいて、制御信号を圧力調整バルブ7に出力して、排気流路32を介して処理容器2内の原料ガスや不活性ガスを外部に排気して、処理容器2内の圧力を制御する。また、ガス供給部5から処理容器2内に原料ガス及び不活性ガスが供給されるガス供給口5Aは、排気壁28のマイクロ波導入面22Aに対して反対側の先端部よりも包囲壁23Aの突出方向側に配置されている。ガス供給口5Aは、処理容器2内の天井部近傍に配置されるのが好ましい。
[表面波励起プラズマの説明]
通常、表面波励起プラズマを発生させる場合、ある程度以上の電子(イオン)密度におけるプラズマと、これに接する誘電体との界面に沿ってマイクロ波が供給される。供給されたマイクロ波は、この界面に電磁波のエネルギーが集中した状態で表面波として伝播される。その結果、界面に接するプラズマは高エネルギー密度の表面波によって励起され、さらに増幅される。これにより高密度プラズマが生成されて維持される。ただし、この誘電体を導電性材料に換えた場合、導電性材料は表面波の導波路としては機能せず、好ましい表面波の伝播及びプラズマ励起を生ずることはできない。
一方、プラズマに接する物体の表面近傍には、本質的に単一極性の荷電粒子層、いわゆるシース層が形成される。物体が、負のバイアス電圧を加えた導電性を有する被加工材料8の場合、シース層とは電子密度が低い層、すなわち、正極性であって、マイクロ波の周波数帯においてはほぼ比誘電率ε≒1の層である。このため、印加する負のバイアス電圧の絶対値を例えば−100Vの絶対値より大きくすることによりシース層のシース厚さを厚くできる。すなわちシース層が拡大する。このシース層が、プラズマとプラズマに接する物体との界面に表面波を伝播させる誘電体として作用する。
従って、図1に示すように、被加工材料8を保持する保持具9の一端に近接して配置されたマイクロ波導入面22Aからマイクロ波が供給され、かつ被加工材料8及び保持具9に、負電圧電極35を介して負のバイアス電圧が印加されると、マイクロ波はシース層とプラズマとの界面に沿って表面波として伝搬する。この結果、被加工材料8及び保持具9の表面に沿って表面波に基づく高密度励起プラズマが発生する。この高密度励起プラズマが、上述した表面波励起プラズマ36である。
このような被加工材料8の表面の近傍での表面波励起による高密度プラズマの電子密度は1011〜1012cm―3に達する。このMVP法を用いたプラズマCVDによりDLC成膜処理される場合は、通常の負のバイアス電圧エネルギーのプラズマCVDによりDLC成膜処理される場合よりも1桁から2桁高い成膜速度3〜30(ナノm/秒)が得られる。この結果、MVP法によるプラズマCVDの成膜時間は通常のプラズマCVDの成膜時間の1/10〜1/100となる。
従って、上記のように構成された第1実施形態に係る成膜装置1では、DLC成膜時には、制御部6を介して圧力調整バルブ7及び真空ポンプ3が駆動制御されて、包囲壁23A及び側面電極23と、排気壁28及び排気ダクト31とによって形成された排気流路32の吸気口32Aから処理容器2内の原料ガスや不活性ガスが吸気され、排気ダクト31内を流れて排気口29から排気される。このため、処理容器2内の原料ガスは、包囲壁23Aのマイクロ波導入面22Aに対して反対側の先端部の周囲に生成された表面波励起プラズマ36を通過した後、排気ダクト31内を流れて処理容器2の外部に排気される可能性が高くなる。
これにより、原料ガスと不活性ガスのほとんどが被加工材料8の処理表面の周囲に生成された表面波励起プラズマ36を通過させられる。その結果、被加工材料8の処理表面に高い成膜速度でDLC成膜が行われても、原料ガスを被加工材料8の周囲に生成された表面波励起プラズマ36に効率よく供給して、被加工材料8の処理表面における成膜速度の向上を図ることができる。また、処理容器2内に不活性ガスのみが供給された場合には、供給された不活性ガスを被加工材料8の周囲に生成された不活性ガスの表面波励起プラズマ36に効率よく供給して、被加工材料8の処理表面のクリーニング速度、つまり、エッチング速度の向上を図ることができる。
また、排気壁28は、包囲壁23Aの突出側先端部23Bよりも包囲壁23Aの突出方向に突出するため、排気壁28の先端部28Aが、被加工材料8のマイクロ波導入口22側端部の周囲に生成された表面波励起プラズマ36を囲むことが可能となる。これにより、原料ガスや不活性ガスを被加工材料8のマイクロ波導入口22側端部の周囲に生成された表面波励起プラズマ36に効率よく供給することができる。
尚、図2に示すように、排気壁28の内周面と包囲壁23Aの外周面との距離L2は、包囲壁23Aの内周面と中心導体25の外周面との距離L1よりも大きくなるように形成されるのが望ましい。これにより、処理容器2内の原料ガスや不活性ガスの排気速度を落とさずに、原料ガスを被加工材料8の周囲に生成された表面波励起プラズマ36に効率よく供給することができる。
また、原料ガスと不活性ガスが処理容器2内に供給されるガス供給口5Aは、排気壁28のマイクロ波導入面22Aに対して反対側の先端部28Aよりも包囲壁23Aの突出方向側に配置されているため、排気壁28のマイクロ波導入面22Aに対して反対側の先端部28Aの周囲に生成された表面波励起プラズマ36に原料ガスと不活性ガスをより無駄なく供給することができる。
また、DLC成膜初期においては、包囲空間26においてプラズマが発生し、原料ガスが消費される。それ以降は、初期において包囲空間26内に供給されていた原料ガスは消費され、包囲空間26内はプラズマ化した不活性ガスで満たされているので、更なる包囲空間26内への原料ガスの供給は低減され、この原料ガスのプラズマの発生が抑えられる。
この結果、マイクロ波導入面22AへのDLC膜成分の付着量を低減させることができる。また、更に、マイクロ波導入面22Aに付着したDLC膜は、包囲空間26内のプラズマ化した不活性ガスによってイオンクリーニングされ、マイクロ波導入口22の使用可能回数を大幅に伸ばすことが可能となり、生産性の向上を図ることができる。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る成膜装置41について図3に基づいて説明する。尚、上記第1実施形態に係る成膜装置1と同一符号は、上記第1実施形態に係る成膜装置1と同一あるいは相当部分を示すものである。
この第2実施形態に係る成膜装置41の全体構成は、第1実施形態に係る成膜装置1とほぼ同じ構成である。また、第2実施形態に係る成膜装置41の制御構成及び制御処理は、第1実施形態に係る成膜装置1の制御構成及び制御処理とほぼ同じである。
但し、第2実施形態に係る成膜装置41は、排気壁28に替えて、排気壁42が設けられている点で第1実施形態に係る成膜装置1と異なっている。
図3に示すように、排気壁42は、排気壁28とほぼ同じ構成であるが、包囲壁23Aの外周面と排気壁42の内周面との距離が、包囲壁23Aの処理容器2内側への突出方向に向かって大きくなる略筒状に形成されている。例えば、排気壁42の外側方向への傾き角度は、約5度乃至10度である。また、排気壁42は、包囲壁23Aの処理容器2内側の先端部23Bよりも包囲壁23Aの突出方向に突出して包囲壁23Aを囲み、ステンレス等の金属で形成されている。
そして、排気壁42及び排気ダクト31は、包囲壁23A及び側面電極23の外側周囲を囲み、包囲壁23Aの処理容器2内側の先端部周囲に形成された平面視略円環状の吸気口43Aから排気口29に連通する排気流路43を形成する。従って、包囲壁23Aの処理容器2内側の先端部周囲に形成された正面視略円環状の吸気口43Aの外径は、第1実施形態に係る成膜装置1の正面視略円環状の吸気口32Aの外径よりも大きい外径に形成される。また、排気口29には、圧力調整バルブ7が接続され、真空ポンプ3を介して処理容器2内の真空排気が制御可能に構成されている。
上記のように構成された第2実施形態に係る成膜装置41では、DLC成膜時には、制御部6を介して圧力調整バルブ7及び真空ポンプ3が駆動制御されて、包囲壁23A及び側面電極23と、排気壁42及び排気ダクト31とによって形成された排気流路43の吸気口43Aから処理容器2内の原料ガスや不活性ガスが吸気され、排気ダクト31内を流れて排気口29から排気される。このため、処理容器2内の原料ガスは、包囲壁23Aのマイクロ波導入面22Aに対して反対側の先端部の周囲に生成された表面波励起プラズマ36を通過した後、排気ダクト31内を流れて処理容器2の外部に排気される。
従って、第2実施形態に係る成膜装置41は、第1実施形態に係る成膜装置1が奏する効果に加えて、排気壁42は、包囲壁23Aの外周面と排気壁42の内周面との距離が包囲壁23Aの突出方向に向かって大きくなるように形成されているため、吸気口43Aからより多くの原料ガスと不活性ガスを排気流路43内に吸気して処理容器2の外部に排気することが可能となる。その結果、ほとんどの原料ガスと不活性ガスが被加工材料8の処理表面の周囲に生成された表面波励起プラズマ36を通過させられる。
これにより、原料ガスを被加工材料8の周囲に生成された表面波励起プラズマ36に更に効率よく供給して、被加工材料8の処理表面における成膜速度の向上を図ることができる。また、処理容器2内に不活性ガスのみが供給された場合には、供給された不活性ガスを被加工材料8の周囲に生成された不活性ガスの表面波励起プラズマ36に効率よく供給して、被加工材料8の処理表面のクリーニング速度、つまり、エッチング速度の向上を図ることができる。
また、包囲壁23Aの外周面と排気壁42の内周面との距離が、包囲壁23Aの処理容器2内側への突出方向に向かって大きくなるように形成されると共に、包囲壁23Aの突出側先端部23Bよりも包囲壁23Aの突出方向に突出する。このため、排気壁42の先端部42Aが、被加工材料8のマイクロ波導入口22側端部の周囲に生成された表面波励起プラズマ36をほとんど囲むことが可能となる。これにより、原料ガスや不活性ガスを被加工材料8のマイクロ波導入口22側端部の周囲に生成された表面波励起プラズマ36に更に効率よく供給することができる。
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る成膜装置51について図4に基づいて説明する。尚、上記第2実施形態に係る成膜装置41と同一符号は、上記第2実施形態に係る成膜装置41と同一あるいは相当部分を示すものである。
この第3実施形態に係る成膜装置51の全体構成は、第2実施形態に係る成膜装置41とほぼ同じ構成である。また、第3実施形態に係る成膜装置51の制御構成及び制御処理は、第2実施形態に係る成膜装置41の制御構成及び制御処理とほぼ同じである。
但し、第3実施形態に係る成膜装置51は、排気壁42の処理容器2内側の先端部から全周に渡って包囲壁23Aの突出方向に延出されて、表面波励起プラズマ36を囲むプラズマ包囲部52が設けられている点で、第2実施形態に係る成膜装置41と異なっている。
図4に示すように、プラズマ包囲部52は、排気壁42の被加工材料8までの距離が最も広い処理容器2内側の先端部から、全周に渡って、包囲壁23Aの突出方向に向かって略筒状に延出されている。また、略筒状のプラズマ包囲部52は、プラズマ包囲部52の内周面と被加工材料8の外周面との距離が、包囲壁23Aの突出方向に向かって小さくなるように形成されている。また、包囲壁23Aの突出方向側のプラズマ包囲部52の先端部は、排気壁42のマイクロ波導入口22側端部の内径にほぼ等しい内径で処理容器2内に開口している。
更に、プラズマ包囲部52の表面には、原料ガスと不活性ガスとが内側へ通過可能に貫通した多くのプラズマ用通気孔52Aが、周方向所定間隔で包囲壁23Aの突出方向全高さに渡って高さ方向所定間隔で形成されている。また、プラズマ包囲部52は、被加工材料8の先端部8Aよりも包囲壁23Aの突出方向に突出して被加工材料8を囲み、ステンレス等の金属で形成されている。従って、被加工材料8及び保持具9の表面に沿って発生した表面波励起プラズマ36は、排気壁42及びプラズマ包囲部52によって囲まれる。
そして、排気壁42及び排気ダクト31は、包囲壁23A及び側面電極23の外側周囲を囲み、包囲壁23Aの処理容器2内側の先端部周囲に形成された正面視略円環状の吸気口43Aから排気口29に連通する排気流路43を形成する。従って、排気壁42及びプラズマ包囲部52によって囲まれた被加工材料8の周囲の空間53は、吸気口43Aを介して排気流路43に連通している。また、排気口29には、圧力調整バルブ7が接続され、真空ポンプ3を介して処理容器2内の真空排気が制御可能に構成されている。
上記のように構成された第3実施形態に係る成膜装置51では、DLC成膜時には、制御部6を介して圧力調整バルブ7及び真空ポンプ3が駆動制御されて、包囲壁23A及び側面電極23と、排気壁42及び排気ダクト31とによって形成された排気流路43の吸気口43Aから、排気壁42及びプラズマ包囲部52によって囲まれた被加工材料8の周囲の空間53内の原料ガスや不活性ガスが吸気され、排気ダクト31内を流れて排気口29から排気される。
このため、処理容器2内の原料ガスと不活性ガスは、プラズマ包囲部52の表面部に形成された各プラズマ用通気孔52Aから、排気壁42及びプラズマ包囲部52によって囲まれた被加工材料8の周囲の空間53内に流入し、被加工材料8及び保持具9に周囲に生成された表面波励起プラズマ36を通過した後、吸気口43Aから排気ダクト31内を流れて処理容器2の外部に排気される。
従って、第3実施形態に係る成膜装置51は、第2実施形態に係る成膜装置41が奏する効果に加えて、処理容器2内の原料ガスは、プラズマ包囲部52に形成された多くのプラズマ用通気孔52Aを介して、排気壁42及びプラズマ包囲部52によって囲まれた被加工材料8の周囲の空間53内に吸気され、表面波励起プラズマ36に更に効率よく供給されて、被加工材料8の処理表面における成膜速度の向上及び均一化を図ることができる。
[第4実施形態]
次に、第4実施形態に係る成膜装置61について図5及び図6に基づいて説明する。尚、上記第1実施形態に係る成膜装置1と同一符号は、上記第1実施形態に係る成膜装置1と同一あるいは相当部分を示すものである。
この第4実施形態に係る成膜装置61の全体構成は、第1実施形態に係る成膜装置1とほぼ同じ構成である。また、第4実施形態に係る成膜装置61の制御構成及び制御処理は、第1実施形態に係る成膜装置1の制御構成及び制御処理とほぼ同じである。
但し、第4実施形態に係る成膜装置61は、排気壁28に替えて、排気壁62が設けられている点で第1実施形態に係る成膜装置1と異なっている。
図5及び図6に示すように、排気壁62は、排気壁28とほぼ同じ構成であるが、包囲壁23Aと略同軸の略円筒状に形成され、包囲壁23Aの処理容器2内側の先端部23Bとほぼ同じ高さになるように包囲壁23Aの突出方向に突出し、ステンレス等の金属で形成されている。そして、排気壁62と包囲壁23Aの突出方向側、つまり、被加工材料8側の先端部は、ステンレス等の平板の金属で形成された略リング状の連結部63で連結されている。
また、連結部63には、断面円形の8個の吸気孔63Aが同心円上にほぼ等間隔で貫通して形成されている。各吸気孔63Aの直径は、排気壁62の内周面から包囲壁23Aの外周面までの距離にほぼ等しい寸法に形成されている。尚、各吸気孔63Aの断面形状は、円形に限らず、楕円形、菱形、矩形、三角形、六角形等の任意の形状に形成してもよい。
また、略円筒状の排気壁62のマイクロ波導入口22側の端縁部から全周に渡って延出され、側面電極23を内側に囲むと共に、側面電極23の近くの処理容器2の内側面に形成された排気口29を囲む排気ダクト65が設けられている。排気ダクト65は、ステンレス等の金属で形成され、処理容器2の内側面にネジ止め等によって固定され、電気的に処理容器2に接続されている。一方、ステンレス等の金属で形成された側面電極23は、処理容器2の内側面に固定されておらず、処理容器2内側面に当接され、連結部63、排気壁62及び排気ダクト65を介して処理容器2内に固定され、電気的に処理容器2に接続されている。
尚、筒状の包囲壁23Aの部分と側面電極23とが、ステンレス等の金属で形成された別部品で形成されるようにしてもよい。そして、包囲壁23Aは、連結部63を介して排気壁62に連結されるようにしてもよい。また、側面電極23は、処理容器2の内側面にネジ止め等によって固定され、電気的に処理容器2に接続されるようにしてもよい。包囲壁23Aは、連結部63、排気壁62及び排気ダクト65を介して処理容器2内に固定され、側面電極23の上側に当接されるようにしてもよい。
従って、排気壁62及び排気ダクト65は、包囲壁23A及び側面電極23の外側周囲を囲み、連結部63に形成された8個の吸気孔63Aから排気口29に連通する排気流路66を形成する。また、排気口29には、圧力調整バルブ7が接続され、真空ポンプ3を介して処理容器2内の真空排気が制御可能に構成されている。
上記のように構成された第4実施形態に係る成膜装置61では、DLC成膜時には、制御部6を介して圧力調整バルブ7及び真空ポンプ3が駆動制御されて、包囲壁23A及び側面電極23と、連結部63、排気壁62及び排気ダクト65とによって形成された排気流路66の各吸気孔63A(隙間)から処理容器2内の原料ガスや不活性ガスが吸気され、排気ダクト65内を流れて排気口29から排気される。このため、処理容器2内の原料ガスと不活性ガスは、包囲壁23Aのマイクロ波導入面22Aに対して反対側の先端部の周囲に生成された表面波励起プラズマ36を通過した後、各吸気孔63Aから排気ダクト65内を流れて処理容器2の外部に排気される。
従って、第4実施形態に係る成膜装置61は、第1実施形態に係る成膜装置1が奏する効果に加えて、処理容器2内の原料ガスは、包囲壁23Aのマイクロ波導入面22Aに対して反対側の先端部の周囲に生成された表面波励起プラズマ36を通過した後、排気ダクト65内を流れて処理容器2の外部に排気される。
これにより、原料ガスのほとんどが被加工材料8の処理表面の周囲に生成された表面波励起プラズマ36を通過した後に排気される。その結果、被加工材料8の処理表面に高い成膜速度でDLC成膜が行われても、原料ガスを被加工材料8の周囲に生成された表面波励起プラズマ36に効率よく供給して、被加工材料8の処理表面における成膜速度の向上を図ることができる。
また、包囲壁23A及び側面電極23と、排気壁62及び排気ダクト65とは、連結部63によって連結されているため、包囲壁23A及び側面電極23と、排気壁62及び排気ダクト65とを一体的に交換することができ、交換作業の効率化を図ることができる。
尚、本発明は前記第1実施形態乃至第4実施形態に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。例えば、以下のようにしてもよい。また、以下の説明において、上記図1乃至図6に示す前記第1実施形態乃至第4実施形態に係る各成膜装置1、41、51、61の構成等と同一符号は、前記第1実施形態乃至第4実施形態に係る各成膜装置1、41、51、61の構成等と同一あるいは相当部分を示すものである。
例えば、成膜装置1の排気壁28と成膜装置41の排気壁42を、包囲壁23Aの突出側先端部と同じ高さになるように形成してもよい。これにより、原料ガスや不活性ガスを被加工材料8のマイクロ波導入口22側端部の周囲に生成された表面波励起プラズマ36を通過させることが可能となる。その結果、原料ガスを被加工材料8の周囲に生成された表面波励起プラズマ36に効率よく供給して、被加工材料8の処理表面における成膜速度の向上を図ることが可能となる。