JP6463939B2 - 免疫機能調整口腔剤 - Google Patents

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Description

本発明は、口腔粘膜から体内に吸収されることで免疫機能を調整する免疫機能調整口腔剤に関するものである。
乳酸菌は自然界に200種類以上存在すると言われ、現在、26属381種に分類されている。
乳酸菌は免疫機能を調整するという報告があり、乳酸菌(Lactobacillus rhamnosus)を投与された乳児のアトピー性皮膚炎の早期予防に有効であったことが報告されている(非特許文献1)。また、スギ花粉症患者を対象に、乳酸菌(Bifidobacterium longum)で発酵させたヨーグルトを投与した臨床試験では、花粉症状の軽減効果が認められている(非特許文献2)。
炎症性腸疾患においても、乳酸菌が有効であったという報告がある(非特許文献3)。
以上は、生菌としての乳酸菌の効果であるが、加熱処理した乳酸菌エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)で、免疫調整作用が確認され(非特許文献4)、死菌でも免疫調整作用が認められることがマウスで確認されている(非特許文献5)。
乳酸菌の死菌における免疫力は、細胞を破砕し細胞壁のみを摂取した場合より、菌の形態で摂取した方が高いことが、乳酸菌(Lactobacillus pentosus)で明らかにされており、乳酸菌エンテロコッカス・フェカリスでは、加熱殺菌体を細胞固体にバラバラにすることで、免疫活性が高まることが、マウスで確認されている(非特許文献6)。
一方、リポ多糖(Lipopolysaccharide)(以下、「LPS」と略記する)は、グラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分であり、脂質及び多糖から構成される物質(糖脂質)である。
LPSは、例えばストレス等により腸内細菌が生体内に侵入し、LPSの生体内移行が起こる。
LPSは、内毒素(エンドトキシン、Endotoxin)であり、哺乳類等の他の生物の細胞に作用すると、シグナル伝達経路を介して種々の炎症性サイトカインの分泌を促進する作用を持つ。サイトカインの産生は、細菌を除去するための生体防御反応として行われるが、過剰になった場合に毒性が発現しショック状態に陥る。
また、LPSは、抗原提示細胞である樹状細胞やマクロファージを活性化し、未分化なT細胞(ナイーブT細胞)を1型ヘルパーT細胞(Th1細胞)へと分化誘導する働きを持ち、炎症性刺激を与え、他にも、発熱、播種性血管内凝固、多臓器不全、白血球減少、頻脈、凝固・線溶系活性、敗血症性ショック等の多彩な生物活性を発現する。
近年、花粉症等アレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎等のアレルギー性疾患の患者数は、環境の要因も加わって増加しているが、その一方で、上記したような、微生物による感染に起因した種々の症状も大きな問題になっており、より安全性が高い免疫機能調整剤が求められていた。
特許文献1には、免疫抗原物質の粒子径を1μm未満にすることにより、抗原提示細胞に効率よく取り込まれ、Th1(I型ヘルパーT細胞)が産生するTh1型サイトカインの一種であるIL−12(インターロイキン−12)の産生能を増強し、免疫活性効果が上がることが記載されており、かかる免疫抗原物質に使用できる細菌が列挙されている。
しかし、口腔粘膜から体内に吸収されることで免疫機能を調整できることについては記載がない。
また、特許文献1は、該免疫抗原物質の摂取方法や剤型に特徴があるものではなく、従って、口腔剤として必要な「口腔内に排出された菌体の量に対して唾液の量が多くなるように摂取すること」等については記載されておらず、そのような剤型についても示唆されていない。
特許文献2には、乳酸菌の菌体粒度の最頻値を1.0μm以下にする製造方法が記載されており、得られた菌体に免疫賦活作用があることが記載されている。
しかし、特許文献2もその摂取方法や剤型に特徴があるものではなく、菌体の量に対する唾液の量が多くなるように摂取することも、口腔剤の記載がないことは勿論、特定の剤型が好ましいことも記載されていない。
特許文献3には、乳酸菌を有効成分とする口腔用組成物が記載されている。
しかしながら、特許文献3の口腔用組成物は、歯肉炎・歯周炎等の歯周病の予防・治療剤であるか、又は、口臭の予防・治療に用いられる局所剤であって、口腔剤のように口腔粘膜から体内に取り込まれるものではない。
すなわち、特許文献3の剤型は、練り歯磨剤、軟膏剤、口内清涼剤等の歯周病予防・治療剤であり、体内に取り込まれて免疫機能を調整する口腔剤とは全く異なる。菌体の量に対する唾液の量が多くなるように摂取する口腔剤について記載も示唆もされていない。
特許文献3〜5には、乳酸菌を含有する(健康)食品として、チューインガムの例が記載されており、チューインガムを噛むと確かに唾液は出るものの、該(健康)食品が口腔粘膜から体内に吸収されることも、口腔剤として機能することについても記載も示唆もされていない。特に、特許文献3及び特許文献5においては、チューインガムは単なる例示列挙の一行記載に過ぎない。
一般のチューインガムは、3分間も噛むと含有物の70質量%は、チューインガムの外、すなわち口腔内に排出された後に唾液と共に飲み込まれる。従って、特許文献3〜5には、口腔剤についての示唆はない。
更に、特許文献4の発明は、アレルギー性鼻炎、花粉症等の抗アレルギー組成物又は即効性高アレルギー剤の発明であり、血液中の免疫機能関連マーカーの数値を低下させるものではなく、むしろその薬効は逆である。
近年、感染症の治療・予防への要求、アレルギー症状の緩和への要求、及び、それらの両立への要求は、ますます高くなってきているが、かかる公知技術では症状の緩和効果が不十分であった。
そこで、日常的に摂取が可能で、しかも効果的に免疫機能を調整する方法が望まれていた。
特開2008−195631号公報 国際公開第2009/157073号 特開2007−131601号公報 特開2011−020987号公報 国際公開第2009/149816号
Isolauri,E. et al, Clin Exp Allergy, 30:1604‐1610, 2000 Xiao,J.Z. et al, J Investig Allergol Clin Immunol, 16:86‐93, 2006. Hormannsperger, et al, Int J Med Microbiol, 300:63‐73, 2010. 横山輝男、乳酸菌の科学と技術、乳酸菌研究集談会編、学会出版センター、東京、322-334, 1996. Hasegawa et al, J.Vet Med Sci, 56:1203‐1206, 1994 長谷川秀夫他,New Food Industry, 50(8), 2008.
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、安全な食品成分で構成され、安心して口腔内に含むこと及び摂取することができ、免疫を調整する機能を向上させた免疫機能調整口腔剤を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、「乳酸菌の死菌よりなる乳酸菌体を含有し、かつ一定値以下の粒子径を有する乳酸菌ナノ粒子」を、唾液の分泌量が多い形態(剤型)で摂取すると、そうでない場合に比較して薬効が上昇することを見出した。
すなわち、乳酸菌ナノ粒子は、粒子であり溶解していないにもかかわらず、意外にも口腔粘膜から体内に吸収される口腔剤として機能していることを見出した。
そして、該乳酸菌がそのように体内に導入されることによって、血液中の体免疫機能の調整に関する複数のマーカーの値が有意に低下することを見出して本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、乳酸菌の死菌よりなる乳酸菌体を含有する頻度分布において1次粒子のピーク粒子径が1μm以下である乳酸菌ナノ粒子、を有してなり、口腔粘膜から体内に吸収されることで免疫機能を調整するものであることを特徴とする免疫機能調整口腔剤を提供するものである。
また、本発明は、上記の免疫機能調整口腔剤、及び、結合成分を有するものであることを特徴とする免疫機能調整食品を提供するものである。
また、本発明は、上記の免疫機能調整口腔剤を摂取することを特徴とする免疫機能の調整方法を提供するものである。
本発明によれば、前記問題点と課題を解決し、本発明の免疫機能調整口腔剤を口腔内摂取したヒト等の哺乳動物は、リポ多糖(LPS)、可溶性タンパク質(sCD14)、インターフェロン誘導タンパク質(IP10)及びインターロイキン(IL7)等の免疫機能関連マーカーの数値が有意に低下する。
すなわち、「同一の乳酸菌の死菌を含有し、同一の粒子径の乳酸菌ナノ粒子」を、口腔内に滞在させることなく飲み込んで消化器のみから吸収させた場合よりも、言い換えれば、口腔剤の形態以外の形態で摂取した場合よりも、上記の免疫機能関連マーカーの数値が有意に低下する。
従って、本発明の免疫機能調整口腔剤を摂取すれば、LPS、sCD14、IP10、IL7等の「血液中の免疫機能関連マーカー」の数値を低下させ、免疫機能を好適に調整でき、例えば、炎症性刺激を押え、発熱、播種性血管内凝固、多臓器不全、白血球減少、白血球不活性、頻脈、凝固・線溶系活性、敗血症性ショック等を抑制・治療したり予防したりできる。
口腔剤の形態にすれば、又は、更に該口腔剤を有する徐放性の(健康)食品の形態にすれば、そうでない形態(直接又は短時間に飲み込む等)に比べ、LPS、sCD14、IP10、IL7等の「血液中の免疫機能関連マーカー」の数値が有意に低下する。
すなわち、消化管を経由して体内に取り込まれる経路に比較して、口腔内から直接体内に取り込まれる経路は、乳酸菌の死菌よりなる乳酸菌体を含有する乳酸菌ナノ粒子の摂取方法として極めて有効であるため、本発明の免疫機能調整口腔剤は、上記効果をより発揮する。
口腔粘膜は、小腸等の消化管に比べると吸収性は低いが、肝臓、小腸、それを繋ぐ門脈等での(酵素等による)代謝の影響を受けず、初回通過効果を受けることができるので、免疫機能に関する効果を十分に発揮できる。
特に、唾液の分泌量が多くなるような剤型又は(健康)食品にして摂取すれば、例えば、該乳酸菌体の口腔内及び/又は唾液中への排出を徐放性にするような剤型又は(健康)食品の形態にすれば、口腔粘膜から体内に、より吸収され易くなり、より免疫機能を好適に調整することが可能となる。
また、本発明の免疫機能調整口腔剤は、安全な食品成分で構成することができるため、安心して経口摂取することができ、また、安価であるため経済的にも優れることから、簡便に日常的に継続して摂取することができる。
そのため、即効的な症状緩和効果に加え長期的にも有効な免疫機能調整口腔剤を提供することができる。
また、食品として安心して使用でき、味を大きく邪魔しない等の利点があるので、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)が向上する等、その利用の可能性は大きい。
乳酸菌体の粒子径の分布を示す図である。 (a)本発明における乳酸菌ナノ粒子の粒子径の分布を示す図である。 (b)微粒子化処理をしなかった乳酸菌体の粒子径の分布を示す図である。 免疫機能調整口腔剤から口腔内に出てきた乳酸菌体の数を、A〜Eの5人の被験者がチューインガムを噛み始めてからの経過時間ごとに示した積算棒グラフである。
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
本発明の免疫機能調整口腔剤は、「乳酸菌の死菌よりなる乳酸菌体を含有して、かつ、頻度分布において1次粒子のピーク粒子径が1μm以下である乳酸菌ナノ粒子」を有してなり、口腔粘膜から体内に吸収されることで免疫機能を調整するものである。
本発明の免疫機能調整口腔剤は、「口腔粘膜から体内に取り込まれる口腔剤」の機能・形態を有していれば、その具体的・実際的な形態・剤型や口腔内での滞留方式には特に限定はなく、シート剤、顆粒剤、錠剤、ゼリー剤等の口腔剤(buccals)の種々の剤型であってもよく、チュアブル錠(咀嚼錠)等の唾液と良く混合するような剤型であってもよく、歯・歯茎の間に挟んで使用するものでもよい。
また、本発明の免疫機能調整口腔剤は、後述する結合成分と併用(混合)させて免疫機能調整食品の形態でも使用できる。
「乳酸菌ナノ粒子」とは、少なくとも、乳酸菌の死菌よりなる乳酸菌体、及び、「好ましくは該乳酸菌体に付与された分散剤」を有しており、頻度分布において1次粒子のピーク粒子径が1μm以下のものを言う。
本発明における乳酸菌ナノ粒子に含有される乳酸菌体の原料となる乳酸菌は、限定されるわけではないが、具体例として、例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidphilus)、ラクトバチルス・ガセリ(L.gasseri)、ラクトバチルス・マリ(L.mali)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ブヒネリ(L.buchneri)、ラクトバチルス・カゼイ(L.casei)、ラクトバチルス・ジョンソニー(L.johnsonii)、ラクトバチルス・ガリナラム(L.gallinarum)、ラクトバチルス・アミロボラス(L.amylovorus)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・ラムノーザス(L.rhamnosus)、ラクトバチルス・ケフィア(L.kefir)、ラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)、ラクトバチルス・クリスパタス(L.crispatus)等のラクトバチルス属の菌;ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptcoccus thermophilus)等のストレプトコッカス属の菌;ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)等のラクトコッカス属細菌;エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(E.faecium)等のエンテロコッカス属の菌;ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(B.adolescentis)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B.infantis)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B.breve)、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム(B.catenulatum)等のビフィドバクテリウム属の菌;等が挙げられる。
中でも、ラクトバチルス属の菌;エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(E.faecium)等のエンテロコッカス属の菌;等が、本発明の免疫機能調整効果を奏し易いために好ましい。
本発明における乳酸菌ナノ粒子に含有される乳酸菌体は、乳酸菌の死菌である。
乳酸菌の死菌よりなる乳酸菌体を用いると、前記した免疫機能の調整が好適に行われ、特にLPS等の免疫機能関連マーカーの数値の低下傾向が著しい。
死菌であっても、免疫調整機能は、全く低下しないことは勿論のこと、むしろ高まる場合がある。特に、乳酸菌エンテロコッカス・フェカリスにおいては、加熱殺菌体を2μm以下(特に1μm以下)の細胞個体にバラバラにすること、又は、細胞壁を微粒子化することで免疫活性が高まる。
また、生菌の場合、製品製造以降の配送時や陳列時に形態変化を起こす可能性があるため、本発明においては、それ以上の形態変化を起こさない死菌が必須である。
本発明においては、乳酸菌体から乳酸菌ナノ粒子を得るために、微粒子化工程を経ることが好ましく、本発明における「乳酸菌ナノ粒子」は、乳酸菌体に対して、殺菌処理と微粒子化処理とを施した粒子であることが好ましい。
ここで、「殺菌処理」とは死菌を得るための処理であり、該殺菌処理としては、加熱処理、加圧処理等が挙げられ、好ましくは加熱処理である。これらの処理は公知の方法で行なわれる。
免疫機能を調整し、前記した本発明の効果を示すものは、少なくとも乳酸菌体の細胞壁であると考えられる。乳酸菌体に対し、加熱処理、加圧処理等を施すことで、上記したような「製造後に形態変化を起こす可能性がない」という効果以外に、免疫機能調整効果が更に上昇する。
本発明において、「乳酸菌ナノ粒子」は、特に限定はされないが、具体的には、例えば、培養して得られた生菌を、遠心分離等の手段で菌体を回収し、殺菌処理を施し、要すれば、洗浄処理、濃縮処理等を行い、それを、この段階で分散剤溶液と混合し、噴霧乾燥、凍結乾燥等により乾燥して得ることが好ましい。
各工程の間、例えば、菌体回収の直前、菌体回収の直後、殺菌処理の直前、殺菌処理の直後、乾燥の直前及び/又は乾燥の後に、後述する方法等を使用して、1次粒子のピーク粒子径が1μm以下にまで微粒子化処理を行なって、本発明における「乳酸菌ナノ粒子」を得る。
以下に限定はされないが、具体的には、例えば、乳酸菌を、MRS培地で培養した後、遠心分離等の適当な手段で菌体を回収する。回収した菌体を、水洗、濃縮し、この濃縮菌体懸濁液に分散剤を加え撹拌しながら、80〜180℃の温度、100〜500mL/秒の流速に設定した瞬間殺菌装置にて、1〜20秒間、連続加熱処理した後、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、それらの組み合わせ等の手段により乾燥する。乾燥前に分散剤を配合することが好ましい。
上記微粒子化処理を行う時期は、特に限定はないが、何れかの工程の間に、1次粒子のピーク粒子径が1μm以下にまで微粒子化を行なって、本発明における「乳酸菌ナノ粒子」として用いる。
微粒子化処理を行う時期については、乾燥後に種々の粉砕方法(粉砕装置)で粉砕処理をしてもよいが、好ましくは乾燥中又は乾燥前に、特に好ましくは乾燥前に微粒子化処理を行うことが、免疫機能調整口腔剤同士が凝集しないように得られる、「結合成分を有する免疫機能調整食品」の内部に安定して分散させ易くなる、本発明の前記した免疫機能調整効果を好適に奏する、等の点で好ましい。
乳酸菌は、培養時の生育環境が劣悪になると、そのストレスで形態が変化することが知られている。本発明における乳酸菌ナノ粒子では、培養及び/又は処理条件を制御することで、乳酸菌体の形態が一定になるように維持しながら乳酸菌を増殖させたり、乾燥前に微粒子化処理をしたりして、後述する「1次粒子のピーク粒子径」にすることが好ましい。乾燥工程中若しくは乾燥工程後に微粒子化すると、菌体同士が結合して塊になる場合があり、この塊は、唾液でバラバラにならず、本発明の前記した免疫機能調整効果を好適に奏さない場合がある。
本発明の免疫機能調整口腔剤における「乳酸菌ナノ粒子」は、横軸を粒子径、縦軸を頻度とした頻度分布において、1次粒子のピーク粒子径が1μm以下の粒子である。
乳酸菌ナノ粒子の1次粒子のピーク粒子径は、好ましくは0.9μm以下、より好ましくは0.8μm以下、特に好ましくは0.7μm以下である。下限は特に限定はないが、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上が特に好ましい。
1次粒子のピーク粒子径が大き過ぎると、口腔内粘膜から取り込まれ難くなり、本発明の前記した効果が低減する又は得られなくなる場合がある。
一方、1次粒子のピーク粒子径が小さ過ぎると、製造が難しくなる、2次凝集し易くなる、それ以上小さくする必要性がない等の場合がある。
本発明における「乳酸菌ナノ粒子」の1次粒子のピーク粒子径は、レーザ回折・散乱法を用いたSALD−3100粒度分布測定装置((株)島津製作所社製)により測定し、そのように測定したものとして定義される。
本発明における代表的な「乳酸菌ナノ粒子」の上記装置により測定した粒度分布を図1(a)に示す。図1(a)に示す「乳酸菌ナノ粒子」は、生体可能粒子径である20μm以下に100個数%が入っている。
一方、特に粒子径に拘らず微粒子化処理をしなかった乳酸菌の、同様に測定した粒度分布を図1(b)に示す。生体可能粒子径である20μm以下に30〜40個数%が入っているのみである。
本発明の「乳酸菌ナノ粒子」は、I型ヘルパーT細胞(Th1)及び/又はII型ヘルパーT細胞(Th2)に作用するものが好ましく、それによっても本発明の効果を奏する。本発明における「乳酸菌ナノ粒子」は、その1次粒子のピーク粒子径が1μm以下であるため、Th1サイトカインを誘導し細胞性免疫を活性化させる。
本発明においては、上記乳酸菌ナノ粒子は、上記乳酸菌体に加え、更に、該乳酸菌体に付与された分散剤を含有するものであることが好ましい。
「分散剤」とは、乳酸菌体を分散させる性質を有する剤であるが、それに加えて、「乳酸菌体の表面にコーティングする」、「乳酸菌体を包埋する」等によって、乳酸菌体に付与される剤でもあることが、下記効果を好適に奏するために好ましい。
本発明は、乳酸菌ナノ粒子に徐放性があることが好ましいので、そのためには、本発明における分散剤は、乳酸菌体の表面にコーティングされたり、乳酸菌体を包埋したりする剤であることが好ましい。
分散剤は、1種を使用又は2種以上を併用できる。2種以上の分散剤に性質(機能)を分担させてもよい。
本発明における「乳酸菌ナノ粒子」においては、乳酸菌ナノ粒子の製造中に乳酸菌体同士が凝集し難くするため、製造後の乳酸菌ナノ粒子の再凝集防止のため、唾液中に安定分散させるため、口腔内に入れた「免疫機能調整口腔剤又はそれを含有する(健康)食品」から該乳酸菌ナノ粒子が口腔内に排出し終わる時間を延ばすため、徐放性にしてその間に分泌される唾液量を増やすため、乳酸菌体が口腔内の粘膜から好適に体内に取り込まれ易くするため、口腔剤として製造し易くするため等の点から、乳酸菌体に分散剤を付与することが好ましい。本発明における「分散剤」は、上記した点のうち少なくとも1点の性能・物性を示す。
分散剤は、予め培養液に添加しておいて付与されたものでも、集菌後で微粒子化処理の前に付与されたものでも、微粒子化処理の過程で付与されたものでも、微粒子化後で乾燥前に付与されたものでも、乾燥工程で付与されたものでもよい。すなわち、1次粒子のピーク粒子径を1μm以下に微粒子化する前、微粒子化している最中、微粒子化した後、に付与されたものでもよい。好ましくは、分散剤は、微粒子化後であって乾燥工程の前又は乾燥工程中に付与される。
分散剤は、エタノール若しくはメタノール又はそれらと水との混合溶媒に溶解して、回転ドラムを使用するか、該分散剤溶液に乳酸菌体を懸濁分散させて、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、それらの組み合わせ等の適当な手段により乾燥することが好ましい。分散剤によって、本発明の前記した効果を好適に得ることができる。
また、分散剤は乳酸菌体の表面に付与されることが好ましい。すなわち、本発明における「乳酸菌ナノ粒子」は、上記乳酸菌体に加え、更に、該乳酸菌体の表面に付与された分散剤を含有するものであることが、前記効果を得るために好ましい。
乳酸菌ナノ粒子の製造中に使用(配合)される分散剤の量や、乳酸菌ナノ粒子にける乳酸菌体の表面に実際に付与された分散剤の量は、特に限定はないが、質量換算で乳酸菌体に対して、1〜100倍量が好ましく、2〜20倍量がより好ましく、5〜10倍量がより好ましい。
分散剤としては、具体的には、例えば、澱粉、寒天、カラギーナン等の多糖類;デキストリン、難消化デキストリン、シクロデキストリン、ペクチン等のオリゴ糖類;トレハロース、麦芽糖、ショ糖、乳糖等の二糖類;ブドウ糖、果糖等の単糖類;糖脂肪酸エステル等の糖誘導体;ゼラチン、タンパク質、シェラック、ゼイン、ペプチド等のアミノ酸重合物;ヒプロメロースフタル酸エステル;アルギン酸;カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート等のセルロース誘導体;(メタ)アクリル酸コポリマー、ビニルアルコールコポリマー等のポリビニル化合物;プロピレングリコール、エチレングリコール等のアルキレングリコール及びその誘導体;パーム油、ヤシ油、大豆油、ゴマ油、菜種油、サフラワー油、綿実油、ひまわり油、アマニ油等の油脂;等が挙げられる。
中でも、澱粉、寒天、カラギーナン等の多糖類;デキストリン、難消化デキストリン、シクロデキストリン、ペクチン等のオリゴ糖類;糖脂肪酸エステル等の糖誘導体;ゼラチン、タンパク質、ゼイン、ペプチド等のアミノ酸重合物;ヒプロメロースフタル酸エステル;アルギン酸;カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート等のセルロース誘導体;(メタ)アクリル酸コポリマー等のポリビニル化合物;パーム油、ヤシ油、大豆油、ゴマ油、菜種油、サフラワー油、綿実油、ひまわり油、アマニ油等の油脂;等が好ましい。
特に好ましくは、澱粉、寒天、カラギーナン、デキストリン、シクロデキストリン、トレハロース、ペクチン、ゼラチン、タンパク質、ゼイン、ヒプロメロースフタル酸エステル、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、(メタ)アクリル酸コポリマー、パーム油、ヤシ油、大豆油、ゴマ油、菜種油及びサフラワー油よりなる群から選ばれた1種以上の物質である。
また、分散剤は、乳酸菌体を分散させ、乳酸菌体同士の凝集を抑制するが、口腔内に入れた際に、乳酸菌ナノ粒子が、「免疫機能調整口腔剤」又は「免疫機能調整口腔剤及び結合成分を有する免疫機能調整食品」から、口腔内に排出し難くする機能を有し、乳酸菌体が唾液と十分混合し易くできるものが好ましい。
そのような分散剤としては、後述する結合成分等と相互作用をして、乳酸菌体と結合成分とを結びつけて、乳酸菌体が徐々に結合成分から離れて口腔内に排出されるようにできるものが挙げられる。
本発明の免疫機能調整口腔剤は、単独でも摂取できるが、結合成分と併用して免疫機能調整食品として使用することが好ましい。
本発明の免疫機能調整食品としては、チューインガム、グミ、ゼリービーンズ、チューイングキャンディー、飴、粉末状・顆粒状・タブレット状・カプセル状・ゼリー状(健康)食品等が挙げられる。
上記「結合成分」は、本来の食品としての形を形成させるために用いられる。更に、該「成形という役割」と共に、「乳酸菌ナノ粒子」を免疫機能調整食品中に封じ込めて徐放性にする、速やかに飲み込めないような形態にする、等の役割を果たすものが好ましい。
本発明において、該結合成分及び/又は該分散剤は、限定はされないが、口腔内に入れた免疫機能調整食品中における該乳酸菌ナノ粒子の半減時間が1分以上になるように設定・設計されているものが好ましい。また、1分以内に食べ終わらない若しくは飲み込めないように設定・設計されているものが好ましい。
そうすることで、該乳酸菌体の口腔内及び/又は唾液中への排出を抑制させ、「徐放性」にすることが可能であり、乳酸菌体の量に対する唾液の量を多くし、乳酸菌体が腔粘膜から体内に吸収され易くできる。
本発明においては、結合成分を併用して上記形態にすると、そうでないとき、すなわち唾液の少ないときに比べ、LPS等の免疫関連のマーカーの数値がより減少し、前記した本発明の免疫機能調整の効果をより奏するようになる。その結果、口腔から取り込まれる口腔剤として機能する。
本発明の特に好ましい形態は、血液中のリポ多糖(LPS)の濃度を抑制するものである上記の免疫機能調整食品である。言い換えると、本発明は、上記の免疫機能調整口腔剤よりなるものであることを特徴とする血液中LPS濃度抑制食品である。
また、本発明の他の形態は、上記の免疫機能調整口腔剤を摂取することを特徴とする免疫機能の調整方法である。
本発明の免疫機能調整食品がチューンガムの形態をとるときは、該免疫機能調整食品を口腔内に入れた状態で、該免疫機能調整食品中における乳酸菌ナノ粒子の半減時間は、1分以上が好ましく、2分以上4時間以下がより好ましく、3分以上2時間以下が特に好ましく、5分以上1時間以下が更に好ましい。
下限が上記以上であると、唾液と混和して免疫機能調整の効果がより向上する、口腔内から直接体内に取り込まれ易くなる等の効果を発揮し易い。一方、上限が上記以下であると、噛み続けて顎が痛くなることがない、同じものを口の中に入れ続けて飽きることもない。また、長過ぎる時間は、免疫機能調整機能や口腔剤としての機能を発揮するのに無駄である。
また、本発明の免疫機能調整食品が、チュアブル錠(咀嚼錠)、グミ、ゼリービーンズ、チューイングキャンディー等の形態を採るときには、上記時間範囲内は、免疫機能調整口腔剤自体、すなわち乳酸菌ナノ粒子自体が口腔内に滞留することが好ましい。限定されるわけではないが、公知の形態より、硬くして噛み難くしたり、飲み込み難くしたり、溶け難くしたりすることが、前記点から好ましい。
また、本発明の免疫機能調整食品が、飴の形態を採るときには、口腔内で溶けるまでの時間が上記時間範囲内に収まるようにすることが、前記点から好ましい。
本発明の免疫機能調整食品は、口腔内に排出された乳酸菌体の量又は免疫機能調整口腔剤の量に対する唾液の量が多くなるような形態が好ましい。また、口腔内に入れた該組成物中における該乳酸菌ナノ粒子の半減時間が前記のように長くなるような形態が好ましい。従って、「結合成分」は、乳酸菌ナノ粒子が、該食品の外(口腔内)に速やかに排出されることを抑制・防止する役割を担っているため重要である。
「結合成分」としては、上記役割を果たせれば(上記効果を奏するものであれば)特に限定はないが、結合成分の一成分(各成分)としては、一般に薬剤の賦形剤として知られているもののほか、水溶性や唾液に対する溶解性が低い物質や該溶解性を低下させる物質、水不溶性のフィラー、免疫機能調整食品を硬くして噛み難くする物質、口腔内の温度(体温)で軟化し難いポリマー等が挙げられる。
本発明の免疫機能調整食品は、特に限定はないが、チューインガム、グミ、ゼリービーンズ、チューイングキャンディー又は飴の形態をとっているものが、前記した形態に設計し易いために好ましい。「チューイングキャンディー」とは、舐めるだけではなく噛まないと飲み込めないもので、噛むとチューインガムのような感触になるものを言う。
本発明の免疫機能調整食品がチューインガムの形態をとるときは、例えば、チクル、ポリ−1,4−イソプレン、エステルガム、ポリ酢酸ビニル、ポリイソブチレン及び炭酸カルシウムよりなる群から選ばれた1種以上の物質を有する結合成分を含有させて、唾液を出させて乳酸菌体を口腔粘膜から吸収し易い状態にすることが好ましい。
具体的には、結合成分の分子量を上げる;2種以上を併用して分子量が大きい若しくは水溶性が低い方の結合成分の含有量比率を上げる;炭酸カルシウム等のフィラーの量を上げる;等が挙げられる。
本発明の免疫機能調整食品が、グミ、ゼリービーンズ又はチューイングキャンディーの形態をとるときは、例えば、ゼラチン、ペクチン、水飴、澱粉、寒天、油脂、増粘多糖類及び蜜蝋よりなる群から選ばれた1種以上の物質を有する結合成分を含有させて、唾液を出させて乳酸菌体を口腔粘膜から吸収し易い状態にすることが好ましい。
具体的には、結合成分の分子量を上げる;2種以上を併用して分子量が大きい若しくは水溶性が低い方の結合成分の含有量比率を上げる;等が挙げられる。
本発明の免疫機能調整食品が飴の形態をとるときは、例えば、水飴、澱粉、ショ糖、果糖及び麦芽糖よりなる群から選ばれた1種以上の物質を有する結合成分を含有させて、唾液を出させて乳酸菌体を口腔粘膜から吸収し易い状態にすることが好ましい。
具体的には、水飴の量を増やす;結合成分の多糖類の重合度を上げる;2種以上を併用して重合度が大きい若しくは水溶性が低い方の結合成分の含有量比率を上げる;等が挙げられる。
本発明の好ましい態様は、前記の免疫機能調整口腔剤及び結合成分を有する「血液中LPS濃度抑制食品」である。該血液中LPS濃度抑制食品は、上記したような、チューインガム、グミ、ゼリービーンズ、チューイングキャンディー又は飴の形態をとっているものが特に好ましい。
本発明の免疫機能調整口腔食品を製造するにあたっては、前記以外の、結合剤、崩壊剤、保湿剤、界面活性剤、滑剤、乳化剤、防腐剤、有機・無機フィラー、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤、着色剤、光沢剤、増粘剤、天然甘味料、合成甘味料、香料、調味料、矯味剤、栄養素、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、前記以外の油脂、食物繊維等を配合して、常法に従って製造することができる。
また、前記した薬剤・食品以外に、飼料としても使用できる。上記飼料としては、具体的には、例えば、家畜、競走馬、鑑賞動物等の飼料;ペットフード;等が挙げられる。
口腔内に排出された乳酸菌体の量に対して唾液の量が多くなるように設定することで、血液中のLPS等の免疫機能関連マーカーの数値に著しい低下傾向が認められた。
本発明の免疫機能調整口腔剤を投与した際の、血中LPSの低下傾向は、腸内細菌叢に占めるグラム陰性桿菌の割合が低下した結果、LPS産生が低下したと考えられる。
LPSの産生低下は、sCD14の低下に繋がり、更に、IP10、IL7等の炎症性サイトカインの低下に関与した可能性が考えられる。そして、口腔剤の形態で投与されると、消化器から投与されるよりも、上記過程により免疫機能調整作用が高まったと考えられる。
安全性の検討においては、実施例に示した通り、下痢等の症状発生の報告もなく、一般血液検査の変化も認められなかったことより、本発明における、乳酸菌の死菌よりなる乳酸菌体及び乳酸菌ナノ粒子の安全性が確認された。また、ヒトへの本発明の免疫機能調整口腔剤の投与は安全であり、免疫機能調整作用の存在が確認された。
その際、唾液による口腔粘膜を介しての経口吸収においては、少量で有効性が高いと考えられた。
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
製造例A
<「乳酸菌ナノ粒子A」の調製>
乳酸菌エンテロコッカス・フェカリス株を、MRS培地(Difco社製)にて、28〜32℃で、18〜24時間培養し、遠心分離機で菌体を回収し、該菌体を水洗いし、該菌体が懸濁液全体に対して40質量%になるように調整して菌体の懸濁液を調製した。
この菌体の懸濁液を、流速15m/秒に設定した高温(110〜120℃)高速瞬間殺菌機で3秒間殺菌した後、湿式で150kgf/cmの高圧ホモゲナイザーを用いて、20℃で5分間処理して微粒子化処理をした。
以下、微粒子化処理をした乳酸菌体を、単に「nEC」と略記する。
得られたnECを、「85質量%のエタノールと15質量%の水よりなる混合溶媒にシクロデキストリンを溶解させた溶液」に加えて、10分間撹拌して均一にした。nECを1質量部に対して、分散剤としてシクロデキストリンを7質量部用いた。
その後、噴霧し凍結乾燥機により乾燥して、乳酸菌ナノ粒子Aを調製した。シクロデキストリン中にnECが包埋され、それの全体が、1次粒子のピーク粒子径0.8μmとなるように微粉化されて乳酸菌ナノ粒子Aが形成されていた。
後述の評価例1で示すが、該乳酸菌ナノ粒子Aがそのまま免疫機能調整口腔剤Aとして機能した。
得られた「乳酸菌ナノ粒子A」の1次粒子の粒度分布を、SALD−3100粒度分布測定装置((株)島津製作所社製)を用いて測定した。
結果を図1(a)に示す。「乳酸菌ナノ粒子A」の1次粒子のピーク粒子径は0.8μmであった。また、「乳酸菌ナノ粒子A」の粒子径は、0.1μm〜3.0μmの範囲に、ほぼ100個数%が入っていた。
なお、「乳酸菌ナノ粒子A」の調製過程で、上記微粒子化処理をしなかった乳酸菌体の粒子径の分布を図1(b)に示す。微粒子化処理をしなかった乳酸菌体の1次粒子のピーク粒子径は27μmであった。
製造例1
<チューインガムの製造>
酢酸ビニル75質量部、ポリイソブチレン20質量部、及び、炭酸カルシウム5質量部よりなる結合成分に、上記「乳酸菌ナノ粒子A」を加えて、常法に従って混錬し、1個が3gのチューインガムを評価に必要な数だけ製造した。
「乳酸菌ナノ粒子A」については、3gのチューインガム1個に対して、1.0×1012個を含むように加えた。
評価例1
<測定>
20歳以上の健常人A、B、C、D、Eの5名を対象とした。チューインガム1個を口腔内に入れて噛み始めてから、1、3、6、10、20及び30分後に、口腔内に溜まった唾液を排出して採取して被検試料とした。また、それぞれの時間ごとに採取した被検試料の唾液の量(mL)を測定した。
この被検試料をよく攪拌した後、一部を分注し、「乳酸菌ナノ粒子A」の濃度(個/mL)を測定するまで−30℃で保管した。
<乳酸菌ナノ粒子の唾液中の濃度の測定方法並びに個数の算定方法>
噛み始めてから各時間後に採取した被検試料について、乳酸菌ナノ粒子の唾液中の濃度(個/mL)を、抗nEC抗体(精製IgG)及びビオチン標識抗nEC抗体を用いたサンドウィッチELISA法(Broma Institute Co.,Ltd., Tokyo Japan)によって、常法に従い測定した。nECの標準曲線の作成には、チューインガムに練りこんであるnECと同一ロットのnECを使用した。
乳酸菌ナノ粒子の唾液中の濃度(個/mL)に、それぞれの時間ごとの被検試料の唾液の量(mL)を掛けて、それぞれの時間ごとの乳酸菌体(nEC)の唾液中の個数を算定した。
<結果>
チューインガムを噛み始めてから出てくる唾液の量は個人差が認められたが、チューインガムを噛み始めた直後から、チューインガム中の乳酸菌体(nEC)は唾液中に排出され始めた。
図2に、被験者A〜Eの、チューインガムを噛み始めてから、1、3、6、10分後の、唾液中のnECの個数を積算棒グラフで示す。
図2に示すように、初期のチューインガムの1個に含まれる1.0×1012個(10000×10個)のnEC数に対して、噛み始めてから1分後に40〜50%、3分後に70〜90%が、チューインガムから唾液中に排出された。
6分後〜10分後には、5人全ての被験者で、nECの排出が飽和し始め、10分後には3名の被験者で、口腔内に入れた初期のチューインガム中におけるnEC数が、測定上100%を超えたため(1.0×1012個を超えたため)、20分後の被検試料の測定は中止した。
製造例2
<グミの製造>
ゼラチンを5質量部、及び、ペクチン2.5質量部よりなる結合成分に、ショ糖8質量部、クエン酸1質量部、水83.5質量部、及び、「乳酸菌ナノ粒子A」を加えて、常法に従って混合し、1個が3gのグミを評価に必要な数だけ製造した。
「乳酸菌ナノ粒子A」については、3gのグミ1個に対して、0.5×1012個を含むように加えた。
評価例2
評価例1と同様の健常人A、B、C、D、Eの5名を対象とし、製造例2で製造したグミ1個を普通に食べてもらった。
5人全員が、15秒以内にグミ1個を食べ終わってしまった。すなわち、口腔内に15秒以下しか滞留しなかったので、唾液は15秒以下しか出なかった。
グミは、製造例1で製造されたチューインガムに比べて、格段に口腔内の滞留時間と唾液との接触時間が短かった。
評価例3
<4週間投与後の免疫機能関連項目の測定方法と評価結果>
製造例1で製造したチューインガムと製造例2で製造したグミについて、4週間投与後に、免疫関連項目及び安全性を確認するため一般血液検査項目を測定した。
20歳以上の健常者60名を対象とした。入院中の患者や、副腎皮質ホルモン等の免疫抑制剤、抗がん剤等の投与を受けている者は除外した。
本臨床研究は、原土井病院臨床研究審査委員会において承認を得て実施された。対象者は、本試験の目的、試験方法等について十分な説明を受け、書面にて同意を得た。
1×1012個のnECを含むチューインガムを30名に、0.5×1012個のnECを含むグミを30名に、それぞれ4週間投与した。
ガム投与群30例の年齢中央値は36歳、性別は男性15例、女性15例で、グミ投与群30例の年齢中央値は41歳で、性別は男性12例、女性18例であった。
ガム投与群は、チューインガム1粒(3g)を1日1回投与した。口腔内で噛み始めて30分間は嚥下せずに噛み続けた。
グミ投与群は、nECの初期の数をチューインガムと統一するため、グミ2粒(3g×2粒)を1日1回投与した。なお、その後、グミを通常通り噛んでもらったが、全員が15秒で食べ終わった(飲み込んだ)。
両群ともに、投与前、投与2週目と4週目に、問診及び採血を施行し、一般血液検査と免疫機能関連項目の検査を実施した。測定項目は以下の通りである。
<<一般血液検査>>
一般血液検査の項目は、白血球、赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板、アルブミン、alanineaminotransferase(ALT)、尿素窒素、及び、総コレステロールである。
免疫機能関連マーカーの測定項目と測定方法は以下の通りである。各ELISAは、二重測定が行われた。
<<免疫機能関連マーカー>>
(1)lipopolysaccharide(LPS)(pg/mL)
Human LPS ELISA Kit, Cusabio Biotech Co., Ltd.Wuhan, China、感度1.56pg/mL
(2)solubleCD14(sCD14)(pg/mL)
Quantikine ELISA Human sCD14Immunoassay, R & D SYSTEMS, Inc., Minneapolis, USA、感度125pg/mL
(3)interferon-inducibleprotein(IP10)(pg/mL)
Quantikine ELISA HumanCXCL10/IP‐1Immunoassay, R & D SYSTEMS, Inc., Minneapolis, USA、感度1.67pg/mL
(4)interleukin(IL7)(pg/mL)
Quantikine HS ELISA IL‐7Immunoassay, R & D SYSTEMS, Inc., Minneapolis, US、感度0.1pg/mL
<統計学的解析の方法>
データは中央値(四分位範囲)で表示し、2群間の比較は、Wilcoxon順位和検定を行った。有意水準を0.05未満とし、統計ソフトは、JMP version 9.0.2 (SAS Institute Japan Ltd., Tokyo, Japan)を用いた。
<結果>
被験者の投与前の背景については、一般血液検査と免疫機能関連マーカーの何れも、両群に差は認められなかった。また、各検査項目の年齢差・男女差についても差が認められなかった。
<<一般血液検査と問診の結果>>
投与期間中の自覚症状についての問診を行ったが、下痢等の有害事象は認められなかった。
また、投与前と投与4週間後の前記一般血液検査の中央値推移について、両群共に投与前と投与4週間後に有意差は認められなかった。また、両群の間に有意差は認められなかった。
これより、チューインガムとグミの安全性が確認され、また、乳酸菌の死菌よりなる乳酸菌体の安全性が確認された。
<<免疫機能関連マーカーの結果>>
免疫機能関連マーカーの投与前と投与開始後2週間と4週間後の数値を表1に示す。
Figure 0006463939
表1の数値データは、全て中央値(四分位)である。
[△2週間後]=[2週後の数値]−[投与前の数値]
[△4週間後]=[4週後の数値]−[投与前の数値]
であり、被験者毎に数値を引き算してから、それらの中央値(四分位)をとったものである。
ガム投与群では、投与開始後は、投与前に比較して、何れの免疫機能関連マーカーも低下傾向が認められた。特に、LPSについては、著しい低下が認められた(P<0.05)。
一方、グミ投与群では、LPS値は最終的に(4週間後に)若干の低下傾向が見られたが、sCD14、IP10及びIL7は、数値の低下が見られなかった。
個人別にみると、ガム投与群では、4週目には、LPSは24例(80%)、sCD14は24例(80%)、IP10は22例(73%)、IL7は22例(73%)に低下が見られ、全30例において何らかの免疫機能関連マーカーの低下が見られた。
一方、グミ投与群では、LPSは19例(63%)、sCD14は20例(67%)、IP10は19例(63%)、IL7は16例(53%)に低下が見られたが、その低下はわずかであった。
チューインガムは、前記した通り、初期のnEC数に対して、噛み始めてから1分後には40〜50%、3分後には70〜90%が唾液中に排出されて唾液と混合された。一方、グミは、15秒間は唾液と混合した可能性があるが、15秒以内に飲み込まれた。
以上から、唾液と混合される時間が長いと、免疫機能関連マーカーの数値低下が見られることが分かった。また、口腔内に滞在する時間が長いと、免疫機能関連マーカーの数値低下が見られることが分かった。
これより、チューインガムでは、分散剤や結合成分が徐放性を示すように調整されているため、乳酸菌ナノ粒子や乳酸菌体(nEC)が、時間をかけて口腔内に出てくるので、唾液の量が多くなり、唾液と混合される時間も長くなり、また、口腔内に滞在する時間が長くなり、その結果、グミより免疫機能関連マーカーの数値低下が見られた。
これより、乳酸菌ナノ粒子Aは、口腔粘膜から体内に吸収される口腔剤として機能していることが分かり、乳酸菌ナノ粒子Aは免疫機能調整口腔剤であることが分かった。
グミ、ゼリービーンズ及びチューイングキャンディーでも、結合成分や分散剤を調整して、特に結合成分を、固くする、水溶性を低下させる、弾力を出してダレを防止する等して、乳酸菌ナノ粒子や乳酸菌体(nEC)が、食品内から時間をかけて口腔内に徐々に出てくるようにすれば、唾液と混合される時間が長くなったり、口腔内に滞在する時間が長くなったりして、チューインガムのように免疫機能関連マーカーの数値低下が見られることが予想された。
また、飴では、口腔内に入れた免疫機能調整口腔剤(飴)の体積が半分になる時間(半減時間)を長くすれば、より唾液と混合される時間が長くなり、口腔内に滞在する時間が長くなるので、上記した改良チューインガム同様、免疫機能関連マーカーの数値低下が見られることが予想された。
製造例3
グミ、ゼリービーンズ及びチューイングキャンディーで、製造例2でグミを製造するときに用いた結合成分に関して、ゼラチンとペクチンの量を増加させ、その分、水を減量して、乳酸菌ナノ粒子とそれに含有される乳酸菌体(nEC)の該食品内における半減時間を3分以上にした。また、全て飲み込まれるまでの時間を5分以上とした。
また、飴で、水溶性を低下させ、口腔内に入れた免疫機能調整口腔剤(飴)の体積が半分になる時間を5分以上にした。
何れも1個3gとし、「乳酸菌ナノ粒子A」については、3gの食品1個に対して、0.5×1012個を含むように加えた。
評価例4
<4週間投与後の免疫機能関連項目の測定方法と評価結果>
製造例3で得られたグミ、ゼリービーンズ及びチューイングキャンディーの何れも、製造例1で製造し評価例3で評価したチューインガムと同様、何れの免疫機能関連マーカーでも低下傾向が認められ、特に、LPSについてはより明確な低下が認められた。
乳酸菌ナノ粒子や乳酸菌体(nEC)が、口腔粘膜から吸収されて免疫機能関連マーカーの数値低下が見られた。
製造例4、評価例5
製造例Aの乳酸菌ナノ粒子Aの調製過程で、微粒子化処理のみを行わなかった乳酸菌体(図1(b)に粒径分布を示したものであって、1次粒子のピーク粒子径は27μm)を用いた以外は、製造例1と同様に、比較チューインガムを製造した。
比較チューインガムを、評価例4と同様に評価したが、免疫機能関連マーカーの数値の低下が認められなかった。
製造例5、評価例6
製造例1のチューインガムの製造において、酢酸ビニルの分子量を上げ、炭酸カルシウム8質量部を用いた以外は、同様にして、チューインガム中に残存する乳酸菌体(nEC)や乳酸菌ナノ粒子の半減時間が5分のチューインガムを製造し、同様に評価をした。
製造例1で製造し評価例3で評価したチューインガムに比べ、LPSについてより明確な低下が認められた。
乳酸菌ナノ粒子や乳酸菌体(nEC)が、口腔粘膜からより吸収されて免疫機能関連マーカーの数値低下が見られた。
<実施例まとめ>
LPSは、大腸菌等の腸内細菌を代表とするグラム陰性桿菌の外膜成分であり、エンドトキシンの本体である。グラム陰性桿菌による感染症では、血中に侵入した細菌が壊れて多量にエンドトキシンが放出され、過剰な免疫応答が起こる場合がある。
sCD14は、血中でLPSと結合すると、単球、マクロファージや好中球上のCD14分子に結合し、tumor necrosis factor(TNF)−α, IL−6, interferon(IFN)−γ等の炎症性サイトカインが分泌され炎症を惹起する。
IP10は、ケモカインの1つで、IFN−γ等の炎症性サイトカインの刺激により、単球や上皮細胞、内皮細胞で産生され、単球やリンパ球の走化性因子として働く。
IL7は、単球に作用して炎症性サイトカインの誘導に関与しており、炎症性腸疾患との関連も示唆されている。
血中LPSの低下は、唾液中の乳酸菌ナノ粒子が吸収されることにより、腸内細菌叢に占めるグラム陰性桿菌の割合が低下した結果、LPS産生が低下したことに起因すると推察される。LPSの低下は、sCD14の低下に繋がり、IP10、IL7等の炎症性サイトカインの低下に関与した可能性が考えられる。
本発明において、血中LPSを初めとする炎症性免疫関連マーカーの低下傾向が認められた。
更に、乳酸菌ナノ粒子が口腔粘膜から体内に吸収される剤型にすることで免疫機能調整口腔剤として機能することが分かった。乳酸菌ナノ粒子が、免疫機能調整食品から徐々に口腔内に排出するようにし、口腔内に長く滞留させて唾液の量を多くすると、より免疫機能調整の効果が向上することが確かめられた。
評価例3〜5では、多くの唾液によって口腔粘膜を介して、直接体内に取り込まれたと考えられ、製造例Aで得られた「乳酸菌ナノ粒子A」は、それ自体で免疫機能調整口腔剤であると考えられた。
本発明の免疫機能調整口腔剤は、LPS産生の抑制の他、各種免疫機能関連マーカーの値を下げるので、医薬分野に広く利用できるほか、機能性食品や健康食品としても広く利用できるものである。

Claims (6)

  1. エンテロコッカス属の乳酸菌の死菌よりなる乳酸菌体を含有する頻度分布において1次粒子のピーク粒子径が1μm以下である乳酸菌ナノ粒子、を有してなり、かつ、該乳酸菌ナノ粒子が5分以上口腔内に滞留する程度に徐放性になっているものであって、口腔粘膜から体内に吸収されることで免疫機能を調整する用途に使用されるものであることを特徴とする免疫機能調整口腔剤。
  2. リポ多糖(LPS)、可溶性タンパク質(sCD14)、インターフェロン誘導タンパク質(IP10)及びインターロイキン(IL7)よりなる群から選ばれた1種又は2種以上の血液中の免疫機能関連マーカーの数値を低下させる用途に使用されるものである請求項1に記載の免疫機能調整口腔剤。
  3. 上記乳酸菌ナノ粒子が、上記乳酸菌体に加え、更に、該乳酸菌体に付与された分散剤を含有するものである請求項1又は請求項2に記載の免疫機能調整口腔剤。
  4. 上記エンテロコッカス属の乳酸菌が、乳酸菌エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)である請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の免疫機能調整口腔剤。
  5. 請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の免疫機能調整口腔剤、及び、結合成分を有するものであることを特徴とする免疫機能調整食品。
  6. 血液中のリポ多糖(LPS)の濃度抑制用のものである請求項5に記載の免疫機能調整食品。
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