本発明に係るボール用表皮材(以下、単に表皮材とも称する)は、繊維基材と、繊維基材の一面に配された、高分子弾性体と無機粒子とプロテインパウダーとを含む表面樹脂層と表面樹脂層と繊維基材とを接着する接着剤層と、を備える。図1は、本発明に係るボール用表皮材の基本構成を有する、第1実施形態のボール用表皮材10の断面模式図である。図1中、1は繊維基材であり、2は繊維基材1の表面に接着剤層5を介して接着された、高分子弾性体2aと無機粒子2bとプロテインパウダー2cとを含む表面樹脂層である。
繊維基材としては、不織布及び不織布に含浸付与された高分子弾性体を含む繊維基材が用いられる。
不織布の種類は特に限定されない。不織布を形成する樹脂の具体例としては、例えば、ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,芳香族ポリアミド,ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリトリメチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂;アクリル樹脂;オレフィン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂等繊維形成能を有する合成樹脂から形成された繊維や、各種天然繊維や半合成繊維等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。合成繊維の製造方法としては、樹脂材料を融点以上の温度で溶融させてエクストルーダーから押し出して溶融紡糸する方法や、ポリマー溶液を細孔より押し出し溶媒を蒸発させる乾式溶液紡糸する方法や、高分子溶液を非溶剤中に紡出する湿式溶液紡糸する方法等、とくに限定なく用いられる。
不織布に含浸される高分子弾性体の種類は特に限定されないが、具体的には、例えば、ポリウレタン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体やアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルの共重合体等のアクリル系弾性体、ポリアミド系弾性体、シリコーンゴム等の各種高分子弾性体が挙げられる。これらの中では、良好な風合が得られる点からポリウレタンがとくに好ましい。なお、ポリウレタンのソフトセグメントはポリエステル単位、ポリエーテル単位、ポリカーボネート単位の中から1種類または複数種類選択される。また、高分子弾性体は単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、必要に応じて、顔料、染料、凝固調節剤、安定剤などを含有してもよい。
表面樹脂層は、ボール用表皮材に耐摩耗性等の耐久性を付与するとともに、牛革に似た外観及び風合いを付与する層であり、高分子弾性体と無機粒子とプロテインパウダーとを含む。表面樹脂層に含有される高分子弾性体の種類も特に限定されず、上述した不織布に含浸される高分子弾性体と同様のものから、要求特性等に応じて適宜選択されて用いられる
また、無機粒子の具体例としては、例えば、酸化チタン等の白色顔料やカーボンブラック等の黒色顔料、その他、酸化鉄、シリカ等の無機粒子が挙げられ、これらは目的に応じて適したものが配合される。なお、一般的な硬式野球ボールは白色であるために、一般的な硬式野球ボールの表皮材の場合には、酸化チタンが好ましく用いられる。
また、プロテインパウダーとは、シルク,コラーゲン,卵殻膜等のたんぱく質を微粉末化した材料である。具体的には、例えば、絹の繊維を機械的に微粉化したシルクプロテインパウダーや、卵殻膜を機械的に微粉化した卵殻膜パウダー、天然コラーゲン繊維を微粉末化したコラーゲンパウダー等が挙げられる。これらの中では、非水溶性のプロテインパウダー、とくには非水溶性のシルクプロテインパウダーが、使用時に水と接触しても溶解せず、効果の持続性が高い点から好ましい。
表面樹脂層中の無機粒子の含有割合としては、10〜50質量%、さらには20〜40質量%、とくには25〜35質量%であることが好ましい。表面樹脂層中の無機粒子の含有割合が低すぎる場合には、繊維基材を充分に隠蔽できなくなる傾向がある。また、表面樹脂層中の無機粒子の含有割合が高すぎる場合には、表面樹脂層が硬く、脆くなりやすく、耐摩耗性が低下する傾向がある。
また、表面樹脂層中のプロテインパウダーの含有割合としては、1〜20質量%、さらには5〜10質量%であることが好ましい。表面樹脂層中のプロテインパウダーの含有割合が低すぎる場合には、表面樹脂層が溶融したように削れてしまう現象が充分に抑制されなくなる傾向がある。また、表面樹脂層中のプロテインパウダーの含有割合が高すぎる場合には、表面樹脂層が脆くなりやすく、また、触感にドライ感が強くなる傾向がある。
以上、図1を参照して本発明に係るボール用表皮材の基本構成を有する、第1実施形態のボール用表皮材10について説明した。次に、本発明に係るボール用表皮材の、より好ましい第2実施形態を図2を参照して詳しく説明する。
図2は、第2実施形態のボール用表皮材20の断面模式図である。図2中、11は繊度0.5dtex以下の極細長繊維を含む不織布及び不織布に含浸付与された高分子弾性体を含む繊維基材である。また、12は表面樹脂層である。表面樹脂層12は、厚さ10〜50μmの中モジュラスの高分子弾性体を含む第1の層13と、厚さ10〜20μmの高モジュラスの高分子弾性体を含む第2の層14とを含む。15は、表面樹脂層12と繊維基材11とを接着する接着剤層である。さらに、表面樹脂層12の表面には、必要に応じてグリップ感を調整するために、厚さ0.001〜2μmの最表層16がさらに積層されていてもよい。そして、第1の層13及び第2の層14は無機粒子2bを含み、また、第1の層13、第2の層14の何れか一方、または両方にプロテインパウダー2cが含有される。
第2の層14は、ボールの表面側に配される、高モジュラスの第2の高分子弾性体及び無機粒子を含有する高弾性層である。また、第1の層13は、ボールの芯球側に配される、中モジュラスの第1の高分子弾性体及び無機粒子を含有する中弾性層である。さらに、最表層16は、低モジュラスの高分子弾性体を含む低弾性層である。
以下、ボール用表皮材の各要素について詳しく説明する。
繊維基材11は、繊度0.5dtex以下の極細長繊維を含む不織布及び不織布に含浸付与された高分子弾性体を含む。繊度0.5dtex以下の極細長繊維を含む不織布によれば、牛革に含まれるコラーゲン繊維を含む表層のような、繊維の粗密ムラが低く均質性の高い、緻密で平滑性の高い表面が得られる。このような繊維基材を用いることにより、投手がボールを握ったときの指が沈むような感触を抑制できる。また、極細繊維の不織布を用いた場合には、不織布のみで平滑な表面を形成することができるために、繊度の高い繊維からなる不織布を用いた場合のように、表面の繊維により形成される凹凸を平滑化するための厚い発泡ウレタン層等を配さなくても平滑な面が得られる。
極細繊維の不織布は、例えば、海島型複合繊維のような極細繊維発生型繊維を絡合処理して繊維絡合体を形成し、極細繊維化処理することにより得られる。なお、本実施形態においては、海島型複合繊維を用いる場合について詳しく説明するが、海島型複合繊維以外の極細繊維発生型繊維を用いても、また、極細繊維発生型繊維を用いずに、直接極細繊維を紡糸してもよい。
海島型複合繊維は、例えば、相溶性を有しない2種のポリマーを混合して溶融し、紡糸口金から吐出する混合紡糸方法や、相溶性を有しない2種のポリマーを別々に溶融し、各溶融物を紡糸口金で合流させ吐出する複合紡糸方法により紡糸される。そして、得られた海島型複合繊維の海成分を溶解または分解除去することによって繊維束状の極細繊維が形成される。
極細繊維は、海島型複合繊維の島成分を形成する樹脂からなる。島成分を形成する樹脂の具体例としては、例えば、ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,ポリアミド612等のポリアミド;ポリプロピレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類;アクリル系ポリマー;ポリオレフィン等が挙げられる。これらの中では、ポリアミド6及びポリエチレンテレフタレートが耐久性に優れている点から特に好ましい。海成分を形成する樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、共重合ポリエステル、熱可塑性ポリビニルアルコール等が挙げられる。
極細繊維の繊度は0.5dtex以下であり、0.0001〜0.5dtex、さらには0.0001〜0.2dtexであることが好ましい。0.5dtexを超える場合には、表面平滑性が低下する。また、0.0001dtex未満の場合には量産性が低下する傾向がある。
本実施形態における極細繊維の不織布は、長繊維の極細繊維の不織布であることが好ましい。このような長繊維の極細繊維の不織布は、海島型複合繊維の長繊維のウェブを経て製造されることが好ましい。長繊維の極細繊維の繊維絡合体は、繊維密度を緻密にでき、また、高い絡合を形成できるために、高い引張強力や引裂強力も得られる。
海島型複合繊維の長繊維のウェブは、いわゆるスパンボンド法により形成されることが好ましい。具体的には、ウェブは、例えば、紡糸口金から吐出された海島型複合繊維を形成するための溶融ポリマーをエアージェットノズルのような吸引装置により2000〜5000m/分の速度で牽引細化した後、開繊させながら移動式の捕集面上に堆積させてウェブを形成させることにより形成される。
なお、長繊維とは、紡糸後に意図的にカットされた短繊維ではない、連続的な繊維であることを意味する。さらに具体的には、例えば、繊維長が3〜80mm程度になるように意図的に切断された短繊維に由来するものではない繊維であることを意味する。極細繊維化する前の海島型複合繊維の繊維長は100mm以上であることが好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、製造工程において不可避的に切断されない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。なお、後述する絡合時のニードルパンチや、表面のバフィングにより、製造工程において不可避的に長繊維の一部が切断されて短繊維になることもある。
そして、複数層のウェブを積層した積重ウェブを得た後、ニードルパンチ処理や高圧水流などにより三次元絡合処理することにより海島型複合繊維の繊維絡合体が得られる。ニードルパンチ処理の場合、例えば、両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件で行うことが好ましい。パンチング密度はとくに限定されないが、300〜5000パンチ/cm2の範囲、さらには500〜3500パンチ/cm2の範囲であることが好ましい。
なお、ウェブを積層して積重ウェブを形成する際には、スパンボンド法によって形成されたウェブを製造ラインの進行方向に平行なMD方向に沿って、所定の折り返し角度及び所定の間隔ごとに、所定の積層数になるように折り畳むことが、引張強力や引裂強度の異方性を抑制することができる点から好ましい。このような工程により、ウェブが複数層に重なるように折り畳まれて積層された積重ウェブが得られる。
このようにして形成されたウェブをニードルパンチ処理や高圧水流などにより三次元的に絡合処理することにより海島型複合繊維の繊維絡合体が得られる。ニードルパンチ処理の場合、例えば、両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件で行うことが好ましい。パンチング密度はとくに限定されないが、300〜5000パンチ/cm2の範囲、さらには500〜3500パンチ/cm2の範囲であることが好ましい。海島型複合繊維の繊維絡合体の目付けは特に限定されないが、300〜2000g/m2であることが好ましい。
また、積重ウェブは、機械的特性の異方性を緩和するために加熱処理されながら、幅方向に張力を付与する拡幅処理(巾出し)されることが好ましい。このような拡幅処理により巾方向の引張強力や引裂強力を向上させることができる。拡幅処理の巾出し割合は特に限定されないが、5%以上、さらには10%以上であることが好ましい。
次に、海島型複合繊維の繊維絡合体に高分子弾性体を含浸させる。高分子弾性体を海島型複合繊維の繊維絡合体に含浸させる方法としては、例えば、高分子弾性体の溶液またはエマルジョン等の分散液を海島型複合繊維の繊維絡合体に含浸させた後、高分子弾性体を凝固させる方法が挙げられる。高分子弾性体の含浸は、海島型複合繊維の極細繊維化処理の前に行っても、極細繊維化処理の後に行っても、極細繊維化処理の前及び後のそれぞれで行ってもよい。とくには、海島型複合繊維の極細繊維化処理の前に行うことが、極細繊維化後の海成分が除去された部分に空隙が形成されることにより、繊維基材が適度にしなやかな触感を維持できる点から好ましい。高分子弾性体の種類は特に限定されず、上述したような各種高分子弾性体が用いられる。
高分子弾性体の溶液または分散液を調整するための溶媒または分散媒は特に限定されない。具体的には、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等の有機溶媒であっても、水系溶媒であってもよい。これらの中ではポリウレタンの良溶媒で、湿式凝固性に優れている点から、DMFがとくに好ましい。このような高分子弾性体の溶液または分散液を絡合不織布に含浸させて、液温25〜70℃の水浴中あるいは高分子弾性体の良溶剤と水との混合液浴中に浸漬することにより高分子弾性体を湿式凝固させることができる。このような高分子弾性体は多孔質であることが好ましい。
高分子弾性体の含有割合は、不織布を形成する繊維と高分子弾性体との質量比(繊維/高分子弾性体)が、40/60〜70/30、さらには、50/50〜60/40の範囲であることが好ましい。高分子弾性体の割合が高すぎる場合には、得られるボール用表皮材がゴムライクな硬い風合いになる傾向があり、高分子弾性体の割合が低すぎる場合には、得られるボール用表皮材の形態安定性が低下して、縫合する糸の張力に負けて伸びやすくなる傾向がある。
海島型複合繊維の繊維絡合体に極細繊維化処理を施すことにより、繊維束状の極細繊維の繊維絡合体である不織布が形成される。極細繊維化処理は高分子弾性体を付与する前でも、付与した後でも、何れの段階で行ってもよい。海成分を選択的に除去する溶剤または分解剤に、海島型複合繊維の繊維絡合体を所定の時間浸漬して海成分を選択的に除去することにより、海島型複合繊維が、繊維束状の極細繊維に変換される。例えば、島成分がポリアミドまたはポリエチレンテレフタレート、海成分がポリエチレンである場合には、溶剤としてトルエン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどが好ましく用いられうる。また、島成分がポリアミドまたはポリエチレンテレフタレートであり、海成分が易アルカリ分解性の変性ポリエステルである場合には、分解剤として苛性ソーダ水溶液などが好ましく用いられうる。このような処理により、海島型複合繊維の繊維絡合体から海成分が除去されて、極細繊維の繊維絡合体である不織布が得られる。
海島型複合繊維から形成された極細繊維は、例えば、5〜70本が束状に存在することが、引張強力や引裂強力が高くなって、得られるボール用表皮材を縫合する糸の張力によっても伸びにくくなる点から好ましい。束状を形成する極細繊維の本数は、10〜50本であることがさらに好ましい。
このようにして形成された極細繊維の繊維絡合体である不織布には、必要に応じて繊維間の摩擦係数を制御する目的でシリコン系油剤等の油剤を付与してもよい。付与方法としては、油剤の水溶液または水分散液をディップ・ニップして強制的に含浸させる方法や、スプレー等で噴霧し浸透させる方法、バーコーター、ナイフコーター、コンマコーター等で刷り込んで浸透させる方法、これらの方法を組み合わせた方法が挙げられる。また、表面を平滑化するために表面や裏面をバフィング処理等してもよい。
このようにして、極細繊維の不織布に高分子弾性体を含浸付与させた繊維基材が得られる。繊維基材の厚さは特に限定されないが、800〜2000μm、さらには1000〜1500μmであることが好ましい。繊維基材が薄すぎる場合には、縫製の際に皺が発生しやすくなる傾向があり、厚すぎる場合には重くなりすぎて野球規則で定められた規格から外れやすくなる傾向がある。
高分子弾性体を含まない不織布自身の見かけ密度は0.2〜0.6g/cm3、さらには0.25〜0.4g/cm3であることが好ましい。不織布自身の見かけ密度が低すぎる場合には、繊維の形状に由来する凹凸が表面に表れやすくなる傾向があり、また、高い引張強度や引裂強度が得られにくくなる傾向がある。また、繊維基材の見かけ密度としては、0.4〜0.8g/cm3、さらには0.5〜0.7g/cm3であることが好ましい。繊維基材の見かけ密度が低すぎる場合には、高い引張強度や引裂強度が得られにくくなる傾向がある。また、繊維基材の見かけ密度が高すぎる場合には、表皮材の縫製性も低下する傾向がある。
図2に示すように、第2実施形態におけるボール用表皮材20は、繊維基材11に、第1の層13及び第2の層14を含む表面樹脂層12が接着剤層15を介して接着されている。さらに、表面樹脂層12の表面には、最表層6がさらに積層されていてもよい。
第2の層は、ボール用表皮材の実質的な表皮になってボール表面に耐摩耗性を付与する層であり、高モジュラス高分子弾性体及び無機粒子を少なくとも含有する高弾性層である。一方、第1の層は、牛革の表皮材の触感に近い表面に吸い付くような表面触感を発現させるとともに、縫製時に皺が発生することを抑制する層であり、中モジュラス高分子弾性体及び無機粒子を少なくとも含有する中弾性層である。そして、第1の層13、第2の層14の何れか一方、または両方にプロテインパウダー2cがさらに含有される。
第2の層は、高モジュラス高分子弾性体を含有する。高モジュラス高分子弾性体の100%モジュラスとしては、10〜15MPa、さらには11〜13MPaであることが好ましい。高モジュラス高分子弾性体の100%モジュラスが高すぎる場合には、表面樹脂層が硬くなりすぎて牛革の表皮材の触感に近い表面に吸い付くような表面触感が低下し、また、縫製時に皺が入りやすくなる傾向がある。また、高モジュラス高分子弾性体の100%モジュラスが低すぎる場合には、耐摩耗性が低下する傾向がある。
第2の層の厚さは、10〜20μm、さらには12〜18μm、とくには14〜16μmであることが好ましい。第2の層の厚さが薄すぎる場合には、低弾性層である第1の層の影響が大きくなり、耐摩耗性が低下する。また、第2の層の厚さが厚すぎる場合には、表面樹脂層が硬くなりすぎて牛革の表皮材の触感に近い表面に吸い付くような表面触感が低下し、また、縫製時に皺が入りやすくなる。
第1の層は、中モジュラス高分子弾性体を含有する。中モジュラス高分子弾性体の100%モジュラスとしては、4〜8MPa、さらには5〜7MPaであることが好ましい。中モジュラス高分子弾性体の100%モジュラスが高すぎる場合には、表面樹脂層が硬くなりすぎて牛革の表皮材の触感に近い表面に吸い付くような表面触感が低下し、また、縫製時に皺が入りやすくなる。また、中モジュラス高分子弾性体の100%モジュラスが低すぎる場合には、耐摩耗性が低下する。
第1の層の厚さは10〜50μm、15〜30μm、さらには20〜25μmであることが好ましい。第1の層が薄すぎる場合には、牛革の表皮材の触感に近い表面に吸い付くような表面触感が低下する傾向がある。また、第2の層のみではボールを掴んだときに樹脂のような触感になり、牛革の触感との違いが大きくなる傾向がある。また、第1の層が厚すぎる場合には牛革の表皮の重量に比べて重くなりやすく、野球規則で定められた規格を外れたり、牛革の触感との違いが大きくなったりしりやすくなる傾向がある。
第1の層及び第2の層を形成するための高分子弾性体としては、上述したようにそれぞれ規定された100%モジュラスを有する高分子弾性体が好ましく用いられる。このような高分子弾性体の樹脂の種類としては、ポリウレタン、アクリル系弾性体、ポリアミド系弾性体、シリコーンゴム等の各種高分子弾性体が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリウレタンが、牛革に似た風合いが得られ、耐摩耗性や強力等の機械的特性にも優れている点から好ましい。なお、高分子弾性体の100%モジュラスは、樹脂の種類の選択や架橋密度を調製することにより適宜調整できる。また、ポリウレタンにおいては、第2の層には耐摩耗性に優れたポリエーテル系ポリウレタンを用い、第1の層には耐候性、耐摩耗性、耐油性に優れたポリカーボネート系ポリウレタンを用いることがとくに好ましい。また、第1の層及び第2の層を形成するための高分子弾性体は、非多孔性の高分子弾性体であることが、高い耐摩耗性を維持できる点から特に好ましい。
ポリウレタンとしては2液型ポリウレタンが好ましく用いられる。2液型ポリウレタンを架橋するための架橋剤としては、公知の架橋剤であれば特に限定されない。その具体例としては、例えば、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、有機ポリイソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、メラミンホルムアミド化合物、ユリアメチロール化合物などが挙げられる。ポリウレタンと架橋剤との質量比率としては50/1〜50/10、さらには50/2〜50/7であることが湿潤時に膨潤しにくく、風合いにも優れる点から好ましい。
第1の層及び第2の層のそれぞれに含有される無機粒子の割合は、10〜50質量、さらには20〜40質量%、とくには25〜35質量%であることが好ましい。第1の層及び第2の層のそれぞれに含有される無機粒子の割合が低すぎる場合には、繊維基材を充分に隠蔽できなくなる傾向がある。また、第1の層及び第2の層のそれぞれに含有される無機粒子の割合が高すぎる場合には、表面樹脂層が硬く、脆くなり、耐摩耗性が低下する傾向がある。
そして、第1の層、第2の層の何れか一方、または両方にプロテインパウダーがさらに含有される。これらの中では、第2の層にプロテインパウダーが、1〜20質量%、さらには5〜10質量%含有されることが、耐摩耗性と触感に優れる点からとくに好ましい。
第1の層と第2の層とを含む表面樹脂層は、例えば、離型紙上に乾式造面により第1の層及び第2の層を含む表面樹脂層を形成するためのフィルムを形成し、さらに、そのフィルムに接着剤層を形成して繊維基材表面に接着した後、離型紙を剥離することにより形成される。また、離型紙として、例えば毛穴調の凹凸を有する離型紙を用いた場合には、より牛革に近い外観が得られ、グリップ性も向上する点から好ましい。なお、第1の層、第2の層、最表層または接着剤層の何れかは、水の浸透及び表面の磨耗を抑制するために無孔質の層であることが好ましい。
表面樹脂層と繊維基材とを接着する接着剤層の厚さは100μm以下、さらには30〜100μm、とくには40〜60μmであることが好ましい。接着剤層を形成する接着剤の種類としては、ポリウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、ポリアミド系接着剤、シリコーンゴム系接着剤等の各種高分子弾性体の接着剤が好ましく用いられる。これらの中ではポリウレタン系接着剤、特には、架橋性のポリウレタン系接着剤が好ましい。架橋性のポリウレタン接着剤から形成される接着剤層は水に膨潤しにくいために、水に濡れるような過酷な条件でボールが使用された場合にも表面樹脂層との高い接着力を維持することができる。
また、表面樹脂層の表面には、100%モジュラスが0.5〜4MPaの低モジュラス高分子弾性体を含む、厚さ0.001〜2μmの最表層がさらに積層されていることが好ましい。このような100%モジュラスがとくに低い最表層をさらに積層することにより、ボールのグリップ感を向上させることができる。このような最表層を形成するための高分子弾性体としては、100%モジュラスが0.5〜4MPa程度の低モジュラス高分子弾性体であれば特に限定なく用いられる。このような高分子弾性体の樹脂の種類としては、ポリウレタン系樹脂、ゴム系樹脂、石油系炭化水素樹脂等が挙げられる。
最表層の厚さは0.001〜2μm、さらには、0.01〜1μm、とくには、0.1〜1μmであることが好ましい。最表層が厚すぎる場合には、表面のグリップ感が高くなりすぎる傾向があり、薄すぎる場合には、グリップ感の向上効果が充分に得られなくなる傾向がある。
上述した各層にはそれぞれ、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、その他の顔料、充填剤、耐光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤等の添加剤等を配合してもよい。
なお、上述した各層の厚みは、いずれも平均厚みである。表皮材の表面樹脂層には、例えば毛穴調の凹凸を有する離型紙を用いて形成される凹凸や、繊維基材の繊維の形状に由来する凹凸が存在することもある。従って、各層の厚みは、後述するように、無作為に選びだした少なくとも30箇所の膜厚の平均を算出した値である。
表面樹脂層及び接着剤層の合計厚みとしては、50〜120μm、さらには60〜80μmであることが好ましい。表面樹脂層及び接着剤層の合計厚みが厚すぎる場合には、牛革の表皮の重量に比べて重くなりやすく、その場合には、野球規則で定められた規格を外れたり、投手がボールを握ったときの指が沈むような感触が大きくなったりする傾向がある。
また、第1の層に対する第2の層の厚み比率(第2の層/第1の層)は、0.2〜1.0、さらには0.3〜0.6であることが縫製時に皺が発生しにくく、また、牛革の表皮材を用いたボールにより近い触感が得られる点から好ましい。
このようにして第2実施形態の表皮材が得られる。また、表皮材は、表面樹脂層の形成前、形成後、又は形成前及び形成後において、必要に応じて公知の揉み処理等を行ってもよい。揉み処理により、柔軟性及び牛革に似た揉み皺を付与することができる。揉み処理は、高圧液体流染色機、ウインス、タンブラー、および機械的な揉み機等公知の手段を用いることができる。
このようにして得られた表皮材の厚さとしては、800〜2000μm、さらには1000〜1500μmであることが好ましい。表皮材の厚さが薄すぎる場合には縫製時に大きな皺が発生しやすく、厚すぎる場合には重くなりすぎて野球規則で定められた規格から外れやすくなる傾向がある。
また、第2実施形態の表皮材は、面方向において、任意の第1方向と、第1方向に直行する第2方向と、第1方向に45度で交差する第3方向の全ての方向において、引裂強力が120N以上、とくには150N以上、さらには170N以上であり、且つ、20%強力が50N/25mm以上、さらには65N/25mm以上であることが好ましい。従来の人工皮革の表皮材は、糸で縫合されたときに縫合の糸の張力により縫目部分が広がったり、使用中に縫目から裂けたりすることがあった。縫目から裂けたり、表皮材自身が延びて糸の張力に負けて延びたりした場合、表皮材自身が損傷を受ける。表皮材自身が損傷を受ける前に、糸がほつれたり切れたりした場合には、再度、新たな糸で表皮材を縫合して修理することもできる。しかしながら、表皮材自身が損傷を受けた場合には、再度、新たな糸で表皮材を縫合して修理しても、もとの特性が得られにくい。このような場合において、あらゆる方向において、ボールの縫合に用いられる一般的な糸の張力よりも高い引張強力を有するように調整することにより、糸の張力に負けて表皮材自身が損傷を受けることが抑制される。
このようにして得られた表皮材は、野球やソフトボールの硬式野球ボールの表皮材として好ましく用いられる。このような表皮材は、硬式野球ボール等の公知の製造方法を用いてボールを製造する際の革の代わりに用いられる。具体的には、コルク芯とゴム層からなるコアの外周に毛糸層が形成された芯球の周りを、所定形状に裁断して得られた2枚のボール用表皮材で包み、ボール用表皮材の継ぎ目を縫糸で、例えば、108個の縫目ができるように縫い合わせて作製することができる。
なお、革を用いた試合用の硬式野球ボールの場合には、綿糸のような天然糸が縫糸として一般的に用いられているが、天然糸は摩耗によりほつれやすいという問題があった。本実施形態の表皮材を用いて得られたボールの場合には、芳香族ポリアミド系樹脂繊維の糸のような耐摩耗性が高く高強度の合成樹脂からなる縫糸を用いてもよい。例えば、ピッチングマシンにだけ用いられるバッテイング練習用のボールは、ピッチングマシンのホイールによる摩耗やほつれが起きやすく、使用回数も多いために、高い耐久性を長期間維持することが求められる。このような用途においては、芳香族ポリアミド系樹脂のような合成樹脂からなる縫糸を用いることにより、高い耐久性を長期間維持させることができる。また、グランドでの練習に用いられるボールにも、綿糸に芳香族ポリアミド系樹脂繊維の糸を混紡すること、例えば、約半分を芳香族ポリアミド系樹脂繊維の糸にすることにより耐久性が向上し、その結果、土砂との摩耗によるほつれ等を抑制することができる。
なお、綿糸の引張強度は通常60〜80N程度である。また、芳香族ポリアミド系樹脂繊維の糸の引張強度は130N〜140N程度ある。従って、これらを所定の割合で混紡することにより、60〜140N程度の範囲で引張強度を調整することができる。例えば、綿糸と芳香族ポリアミド系樹脂繊維を同量で混紡した場合には、引張強度100〜110N程度に調整できる。
上述したような引張強度の高い縫糸を用いた場合には、表皮材は、縫合する糸の張力により縫目部分が広がったり、糸で縫合された縫目から裂けたりしやすくなる。このような問題は、上述したような、面方向において、任意の第1方向と、第1方向に直行する第2方向と、第1方向に45度で交差する第3方向の全ての方向において、縫糸の引張強度よりも高い強度を有する表皮材を用いることにより解決できる。具体的には、例えば、引張強度100〜110N程度の縫糸を用いる場合、面方向において、任意の第1方向と、第1方向に直行する第2方向と、第1方向に45度で交差する第3方向の全ての方向において、引裂強力が120N以上であり、且つ、20%強力が50N/25mm以上の上述したような表皮材を用いることにより、表皮材が糸の張力に負けて損傷を受けることが抑制されやすくなる。引張強度100〜110N程度の縫糸で縫合された縫目から裂けを防止するには、表皮材の引裂強力は150N以上あることがとくに好ましい。
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は下記実施例に限定されるものではない。はじめに、本実施例で用いた評価方法を以下にまとめて説明する。
(1)耐摩擦溶融性
得られたボール用表皮材から短冊状試験片(3×6cm)を切り出した。そして、短冊状試験片の表面樹脂層が形成された面を1800rpmで回転する桜製ローラー(直径73mm、巾26mm)に荷重2.0 lb(907g)で2秒間接触させた。そして、摩擦溶融面の状態を次の基準で目視により判定した。
A:摩擦溶融が殆ど生じなかった。
B:芯球の毛糸は見えなかったが摩擦溶融は生じていた。
C:芯球の毛糸が見える程度に摩擦溶融が生じていた。
(2)ボール用表皮材の表面の柔軟性
ボールを握ったときの吸い付くような触感を定量的に判定することは難しいが、ボール用表皮材の表面の柔軟性にある程度、相関がある。表面が硬い場合には吸い付くような触感が得られない。ボール用表皮材の表面の柔軟性を、ISO 17235:2002 (IULTCS/IUP 36)で規定された革の柔軟性の測定に使用するソフトテスターを用いて評価した。具体的には、ボール用表皮材を金属製の25mmリングのある台上に固定し、一定荷重のかかった金属製の直径5mmのピンを押し下げる。表面が柔らかい革ほどピンが深く侵入する。侵入深さが大きいほど、ボールを握ったときの吸い付くような感覚が大きいと思われる。
(3)ボールの触感
得られたボールを大学の野球部の投手10人に投球練習用のボールとして使用させ、牛革を用いた試合用ボールとの触感の差を以下の基準により判定させた。
A:7人以上が、吸い付くような表面の触感と、握ったときの触感が牛革の表皮材に近いボールであると判定した。
B:5人がAと同様の判定、5人がCと同様の判定であった。
C:7人以上が、吸い付くような表面の触感と、握ったときの触感が牛革の表皮材と明らかに異なるボールであると判定した。
(4)表面樹脂層の各層を形成する樹脂の100%モジュラス
各層を形成するために用いた高分子弾性体の厚みが50〜100μmのフィルムを作製した。このフィルムから試験片2.5cm×16cmを作成し、JIS L1096の8.12.1「引張強度試験」に記載の測定方法に準じて応力−歪み曲線を得た。そして、応力−歪み曲線から100%伸びたときの応力を読み取り、100%モジュラスを求めた。
(5)表面樹脂層の各層の厚み
得られたボール用表皮材の厚さ方向と平行な任意の断面をSEMで300倍で観察した。そして、無作為に選び出した30箇所の膜厚を測定し、その平均値を求めた。
[実施例1]
島成分であるポリアミド6と海成分であるポリエチレンとをそれぞれ単軸押出機中で溶融し、複合紡糸ノズルから質量比50:50、25島の海島型複合繊維を溶融紡糸した。そして、複合紡糸ノズルから吐出された海島型複合繊維を3500m/分の空気流で延伸しながら捕集ネットに吹き付けることにより長繊維のウェブを形成させた。得られたウェブの目付けは30g/m2であり、海島型複合繊維の繊度は2dtexであった。
得られたウェブを、ウェブの長さ方向に対して、折り返し角度84度になるように一定間隔で連続的に折り畳みを繰り返すことによりウェブが10層積み重ねられた、幅176cm、目付け593g/m2の積重ウェブを得た。そして、得られた積重ウェブに、1バーブのフェルト針を用いて1400パンチ/cm2のニードルパンチ処理した後、幅方向に張力を付与して拡幅処理することにより、10%の巾出しを行い、さらに、加熱ロール間を通過させて熱プレス処理することにより、目付け420g/m2、厚み1.60mmの海島型複合繊維の長繊維からなる絡合不織布を得た。
次に、海島型複合繊維の絡合不織布にポリエステル系ポリウレタンの18%DMF溶液を含浸させ、水中で多孔質状に湿式凝固させた。そして、海島型複合繊維の海成分であるポリエチレンを95℃のトルエンで抽出除去することにより、海島型複合繊維を極細長繊維に変換した。このようにして、0.03dtexの極細繊維の長繊維の不織布及び高分子弾性体を含む、密度0.36g/cm3、目付け415g/m2、厚み約1150μmの繊維基材が得られた。
次いで、毛穴調の離型紙上に、ポリカーボネート系ポリウレタン(NY−360:DIC(株)製、固形分25%)100質量部、酸化チタン20質量部、非水溶性のシルクプロテインパウダー(イデアテックスジャパン製の「プロテインパウダーG−SF」)5質量部、DMF20質量部、イソプロパノール10質量部、酢酸エチル10質量部、バーノックDN950(DIC(株)製の架橋剤)3質量部を配合した、第2の層を形成するための塗液をウェット塗布量70g/m2で塗布した後、乾燥することにより第2の層を形成した。第2の層はシルクパウダー10質量%及び酸化チタンを40質量%含有する。また、架橋したポリカーボネート系ポリウレタンは、100%モジュラスが11MPaであった。
次に、第2の層の表面に、ポリエーテル系ポリウレタン(ME8116:大日精化(株)製)100質量部、酸化チタン30質量部、DMF30質量部、メチルエチルケトン30質量部、NE架橋剤(大日精化(株)製)3質量部を配合した、第1の層を形成するための塗液をウェット塗布量105g/m2で塗布した後、乾燥することにより第1の層を形成した。第1の層は酸化チタンを30質量%含有する。また、架橋したポリエーテル系ポリウレタンは、100%モジュラスが7.5MPaであった。
そして、第1の層の表面に、ポリエーテル系ポリウレタン(UD−8310:大日精化工業(株)製)100質量部、架橋剤タケネートD110N(三井化学(株)製)10質量部、架橋促進剤(QS:武田薬品工業(株)製)2質量部、DMF15質量部、酢酸エチル15質量部を配合した、接着剤層を形成するための塗液をウェット塗布量135g/m2で塗布した後、130℃で乾燥した後、樹脂のタックが残る状態で、繊維基材の表面に貼り合わせて、さらに乾燥し、接着剤層の架橋反応を促進するために、雰囲気温度60℃の乾燥機内で48時間のキュアリング処理を行った。そして、離型紙を剥がすことにより、繊維基材の表面に接着剤層を介して接着された第1の層、第2の層が順に積層された表面樹脂層が形成された。
次いで、最表層を形成するために、100%モジュラスが0.7MPaのポリエーテル系ポリウレタン樹脂をトルエンで溶解したものを塗液として、固形分で、1g/m2となるようにグラビアロールで塗布した。
このようにして、厚さ約1240μmのボール用表皮材が得られた。得られたボール用表皮材の断面を走査型電子顕微鏡(300倍)で観察し、無作為に選び出した30箇所の膜厚を測定し、その平均値を求めたところ、第2の層の厚みは15μm、第1の層の厚みは23μm、接着剤層の厚みは50μm、最表層の厚みは1μm未満であった。
得られたボール用表皮材を用いて練習用に用いられる硬式野球ボールを作製した。具体的には、球状のコルクが中心にあるゴム芯に毛糸を巻きつけた芯材を、所定の寸法に裁断されたボール用表皮材で包み、綿と繊度1815dtexで引張強度137Nの芳香族ポリアミド樹脂繊維であるケブラー(登録商標)を同量で含む混紡糸である引張強度104Nの縫糸を108個の縫目が形成されるように縫い針を用いてボール用表皮材を縫合した。このようにして、重量145g、周囲230cmの硬式野球ボールが得られた。
そして、得られたボール用表皮材及び硬式野球ボールの特性を上述した評価方法により評価した。硬式野球ボール特性及び評価結果を表1に示す。
[実施例2]
実施例1において、第2の層がシルクプロテインパウダーを15質量%含有するように変更した以外は実施例1と同様にして表皮材及びボールを製造し、評価した。結果を表1に示す。
[実施例3]
実施例1において、第2の層がシルクプロテインパウダーを18質量%含有するように変更した以外は実施例1と同様にして表皮材及びボールを製造し、評価した。結果を表1に示す。
[実施例4]
実施例1において、第2の層を形成するための塗液においてシルクプロテインパウダーを配合しなかった塗液を用いて第2の層を形成した。そして、第2の層の表面に塗布する第1の層を形成するための塗液として、ポリエーテル系ポリウレタン(ME8116:大日精化(株)製)100質量部、酸化チタン30質量部、シルクプロテインパウダー5質量部、DMF30質量部、メチルエチルケトン30質量部、NE架橋剤(大日精化(株)製)3質量部を配合した塗液を用い、ウェット塗布量105g/m2で塗布した後、乾燥することにより第1の層を形成した以外は実施例1と同様にして表皮材及びボールを製造し、評価した。なお、第1の層はシルクプロテインパウダー8質量%及び酸化チタンを46質量%含有する。結果を表1に示す。
[実施例5]
実施例1において、第2の層の表面に塗布する第1の層を形成するための塗液として、ポリエーテル系ポリウレタン(ME8116:大日精化(株)製)100質量部、酸化チタン30質量部、シルクプロテインパウダー5質量部、DMF30質量部、メチルエチルケトン30質量部、NE架橋剤(大日精化(株)製)3質量部を配合した塗液を用い、ウェット塗布量105g/m2で塗布した後、乾燥することにより第1の層を形成した以外は実施例1と同様にして表皮材及びボールを製造し、評価した。結果を表1に示す。
[実施例6]
実施例1において、第2の層の100%モジュラスが11MPaになるポリカーボネート系ポリウレタンに代えて、架橋剤を増量して100%モジュラスが15MPaになるポリカーボネート系ポリウレタンに変更した以外は実施例1と同様にして表皮材及びボールを製造し、評価した。結果を表1に示す。
[実施例7]
実施例1において、第2の層の厚さを15μmに代えて12μmに変更した以外は実施例1と同様にして表皮材及びボールを製造し、評価した。結果を表1に示す。
[実施例8]
実施例1において、第2の層の厚さを15μmに代えて20μmに変更した以外は実施例1と同様にして表皮材及びボールを製造し、評価した。結果を表1に示す。
[実施例9]
実施例1において、第2の層の厚さを15μmに代えて38μmに変更し、また、第1の層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして表皮材及びボールを製造し、評価した。結果を表1に示す。
[実施例10]
実施例1において、シルクプロテインパウダーに代えてコラーゲンパウダーを配合した以外は実施例1と同様にして表皮材及びボールを製造し、評価した。結果を表1に示す。
[比較例]
実施例1において、第2の層を形成するための塗液においてシルクプロテインパウダーを配合しなかった塗液を用いて第2の層を形成した。
表1の結果を参照すれば、本件発明に係る表面樹脂層にプロテインパウダーを含有させた実施例1〜10のボール用表皮材は、プロテインパウダーを含有させなかった比較例に比べて摩擦溶融が抑制されていた。