JP6445960B2 - 圧力センサの製造方法 - Google Patents
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Description
圧力センサを構成する継手と圧力検出素子とは溶接で互いに接合されている(特許文献1)。
圧力検出素子は、センサモジュールとも称されるものであり、特許文献1では、圧力検出素子を析出硬化系ステンレス鋼製の筒状支持台の上面に金属製ダイアフラムが一体とした構成であり、筒状支持台と、金属製の継手とがビーム溶接されている。
例えば、所定の合金を用いて冷間加工により金属製ダイアフラムの本体を成形し、この本体を400℃以上に加熱しつつ化学蒸着法により絶縁膜を形成した圧力センサがある(特許文献2)。
さらに、析出硬化型ステンレス鋼の未硬化状態で鍛造加工等を施して中間成形体を成形し、この中間成形体に加熱処理を施して形成された圧力センサ用ダイアフラムがある(特許文献3)。特許文献3の加熱処理は、鍛造加工等で生じる加工歪を開放するための再固溶化処理と、再固溶化処理後の冷却後に実施され加工歪をなくすための析出硬化処理とから構成されている。
特許文献1の従来例では、析出硬化系ステンレス鋼製の筒状支持台と金属製の継手とをビーム溶接しているため、筒状支持台と継手との溶接部が脆弱部となる。溶接部に圧力がかかるとしても、使用する圧力レンジに応じて材料を選定し、溶接方法を工夫しているので、通常の圧力レンジでは、問題はない。しかし、最近、市場が要求する圧力レンジは極めて高いものとなっており、特許文献1で示される圧力センサを高耐圧レンジで使用すると、溶接部及びその周囲が割れるおそれがある。
特許文献3では、再固溶化処理と析出硬化処理とから構成される加熱処理を中間成形体に施す構成が開示されるのみで、当該加熱処理が施された圧力センサ用ダイアフラムが継手に接合される構成は開示されていない。引用文献3からは、加熱処理された圧力センサ用ダイアフラムを継手に溶接することが想定できるが、特許文献1と同様に、高耐圧レンジで使用した場合、溶接部及びその周囲が割れるおそれがある。
本発明の圧力センサの製造方法は、被取付部材に取り付けられ被測定流体が流通する導入孔が形成された金属製の継手と、前記継手に設けられる筒状部及び前記筒状部の一端部に一体形成されるダイアフラム部を有し前記導入孔を通じて被測定流体が導入される凹部が形成されたセンサモジュール用金属部材とを備えた圧力センサを製造する方法であって、前記継手と前記センサモジュール用金属部材とを溶接し、その後、前記継手と前記センサモジュール用金属部材とを加熱処理し、前記加熱処理は、再固溶化処理と、前記再固溶化処理後に加熱放冷し析出硬化させる析出硬化処理とを備える、ことを特徴とする。
加熱処理が、継手とセンサモジュール用金属部材とを溶接後に加熱放冷し析出硬化させる析出硬化処理であれば、溶接後の加熱処理が析出硬化処理のみであるため、製造工程が簡略化される。
加熱処理が、溶接で粗大化した組織を均一化するための再固溶化処理と、再固溶化処理後に加熱放冷し析出硬化し溶接部及びその周囲の強度を向上させる析出硬化処理とであれば、再固溶化処理と析出硬化処理とを続けて実行することで、溶接部及びその周囲の硬さと他の箇所の硬さとがほぼ同じになる。
この構成では、センサモジュール用金属部材を加熱処理した後にダイアフラム部に歪みゲージを有する検出部を貼付するので、歪みゲージ自体が加熱されることに伴う測定誤差を回避できる。
図1に示される通り、圧力センサ1は、図示しない被取付部材に取り付けられる継手10と、継手10に設けられるセンサモジュール用金属部材20と、センサモジュール用金属部材20に設けられる検出部30とを有する。
継手10は、SUS630、その他の金属材料から形成されており、軸部11と軸部11に設けられたフランジ部12とが一体に形成された構造である。
軸部11の外周部には雄ねじ部13が形成されている。軸部11には被測定流体が流通する導入孔11Aが軸方向に沿って形成されている。
センサモジュール用金属部材20には導入孔11Aを通じて被測定流体が導入される凹部20Aが形成されている。
継手10と筒状部21とは溶接部40を介して互いに接合されている。
継手10の導入孔11Aとセンサモジュール用金属部材20の凹部20Aとには溶接部40に対応する位置に溶接用パイプ50が設けられている。溶接用パイプ50は、SUS304、その他の金属材料から形成されている。
検出部30は、ダイアフラム部22の平面に貼り付けられた歪みゲージ31を有する。ダイアフラム部22への歪みゲージ31の貼り付けは、例えば、ガラス接着剤を用いる。なお、図1では、歪みゲージ31の構成をわかりやすくするために、歪みゲージ31が厚く図示されている。
図2(A)は、継手10とセンサモジュール用金属部材20とが組み立てられる状態が示されている。図2(A)において、それぞれ熱処理されていない継手10及びセンサモジュール用金属部材20と、溶接用パイプ50とを用意する。この状態では、溶接前の継手10及びセンサモジュール用金属部材20は、JIS等で規定する固溶化処理がされている。
継手10の導入孔11Aに溶接用パイプ50の一端部を差し込み、センサモジュール用金属部材20の凹部20Aに溶接用パイプ50の他端部を差し込むようにして、継手10とセンサモジュール用金属部材20とを当接する。この際、溶接用パイプ50の位置は、継手10とセンサモジュール用金属部材20とが当接する位置に対応させておく。
継手10とセンサモジュール用金属部材20との当接部分の外周から電子ビーム溶接をする。電子ビーム溶接は、継手10とセンサモジュール用金属部材20との当接部分の外周に沿って行われる。継手10とセンサモジュール用金属部材20との間には電子ビーム溶接により、溶接部40が形成される。
図2(C)において、ヒータHを備えた加熱炉2が示されており、加熱炉2の内部には、溶接部40を介して接合された継手10及びセンサモジュール用金属部材20が収納されている。
加熱炉2では、継手10とセンサモジュール用金属部材20とを溶接後に加熱放冷し析出硬化させる析出硬化処理からなる第一加熱モードと、溶接で粗大化した組織を均一化するための再固溶化処理と、再固溶化処理後に加熱放冷し析出硬化させる析出硬化処理とを有する第二加熱モードとが実施される。
第二加熱モードで実施される析出硬化処理は、第一加熱モードで実施される析出硬化処理と同じである。
第二加熱モードで実施される再固溶化処理は、JISで規定されるSの熱処理であり、溶体化処理とも呼ばれる。再固溶化処理は、適温に加熱・保持し、金属材料の合金成分を固体の中に溶かし込み、析出物を出さないように急冷する処理である。例えば、継手10及びセンサモジュール用金属部材20がSUS630で形成される場合、加熱炉2に1020℃以上1060℃以下の条件で加熱・保持し、急冷する。
図2(D)において、加熱処理した後のセンサモジュール用金属部材20のダイアフラム部22の平面に、歪みゲージ31からなる検出部30をガラス接着剤で接着固定する。
[試験片]
図3には試験片が示されている。
図3(A)には、溶接型テストピース3Aが示されている。
溶接型テストピース3Aは、小径部4Aの両側に大径部5Aが一体形成されたものである。小径部4Aの軸方向中心に溶接用パイプに相当する部材6Aが埋め込まれ、外周に沿って電子ビーム溶接されている。溶接型テストピース3Aの大径部5Aには、ねじ部が形成されている。
溶接型テストピース3Aの材料は、SUS630である。溶接前は、小径部の半分と大径部とが一体形成されたピースが2つ用意され、これらの2つのピースの小径部同士を突き合わせて電子ビーム溶接がされる。
図3(B)には、一体型テストピース3Bが示されている。
一体型テストピース3Bは、溶接型テストピース3Aとの実験結果を比較するために用いられるものであり、その外形形状や材料は溶接型テストピース3Aと同じである。一体型テストピース3Bは、小径部4Bの両側に大径部5Bが一体形成されている。
実験1は、前述の試験片の軸方向に沿った基準寸法が72mmである場合の熱処理前後における軸方向での寸法変化をデジタル式ノギスで求めたものである。
溶接型テストピース3Aについて、第一加熱モードを実施したものを実験例1として示し、第二加熱モードを実施したものを実験例2として示し、従来例の加熱をしたものを比較例として示す。第二加熱モードでは、熱処理が2回あるが、第二加熱モードのうち再固溶化処理のみをした実験を参考例1として示した。
一体型テストピース3Bについて、「H900」の析出硬化をしたものを参考例2として示し、「H1025」の析出硬化をしたものを参考例3として示す。参考例3の加熱条件であるH1025は、SUS630の試験片を540℃以上560℃以下で加熱するものである。
比較例は、溶接前にH900で示される「H900」の析出硬化処理を行ったものである。寸法変化を求めるにあたり、溶接型テストピース3Aを構成する2つのピースを突き合わせた。
図4で示される通り、実験例1は、一体型テストピース3Bを用いた参考例2,3と寸法変化がかわらない。これに対して、実験例2及び参考例1は、再固溶化処理がされているので、熱処理後の変化寸法が参考例2,3に比べて大きいものとなっている。そのため、第二加熱モードを実施する場合には、変化寸法を考慮して圧力センサを設計することが必要である。
実験2では、実験例1,2、参考例1及び比較例のサンプルをそれぞれ1つずつ用意する。サンプルは図3(A)で示される溶接型テストピース3Aである。図3(A)で示される通り、溶接型テストピース3Aの小径部4Aの突き合わせ部分(溶接部L0)から軸方向に±7mmの位置L1でそれぞれ切断し、切断された小径部4Aのうち突き合わせ部分を含むサンプルを軸方向の位置L2に沿って切断する。切断したサンプルを図示しない樹脂部材に埋め込み、サンプルを研磨する。実験2では、サンプルをマーブル試薬で表面処理し、金属顕微鏡で観察した。マーブル試薬の割合は、硫酸銅4g、塩酸20cc、水20ccである。金属顕微鏡は、オムロン社製の型番「VC3500」、名称「デジタルファインスコープ」を用いた。
実験例1の顕微鏡写真のコピーを図5で示し、実験例2の顕微鏡写真のコピーを図6で示し、参考例1の顕微鏡写真のコピーを図7で示し、比較例の顕微鏡写真のコピーを図8で示す。
図5(A)で示される通り、矢印Bで示される溶接部と、矢印Cで示される熱影響部とにはそれぞれ薄いながらも溶接線が残されていることがわかる。
図5(B)で示される溶接部の金属組織と、図5(C)で示される熱影響部の金属組織とは、図5(D)で示される金属組織とは若干異なるが、析出物が見られる。
図6(A)で示される通り、矢印Bで示される溶接部と、矢印Cで示される熱影響部分とには、溶接線が見受けられない。
図6(B)で示される溶接部の金属組織と、図6(C)で示される熱影響部の金属組織とは、図6(D)で示される金属組織と同じように見られる。これは、再固溶化熱処理により、金属組織が均一に腐食していることになり、SUS630を固溶化熱処理した通常の組織に近い組織に回復していると考えられるからである。なお、実験1で説明した通り、実験例2では、寸法変化が大きいが、これは、組織の回復によるものと考えられる。
図7(A)で示される通り、矢印Bで示される溶接部と、矢印Cで示される熱影響部とには溶接線が見受けられない。
図7(B)で示される溶接部の金属組織と、図7(C)で示される熱影響部の金属組織とには、黒色の析出物は確認されていない。これは、参考例1では、析出硬化処理がされていないことに起因するものと思われる。
図8(A)で示される通り、矢印Bで示される溶接部と、矢印Cで示される熱影響部とには、明確な溶接線が見受けられる。
図8(B)で示される溶接部の金属組織と、図8(C)で示される熱影響部の金属組織とは、図8(D)で示される金属組織と明らかに異なることがわかる。
図5から図8に示される通り、実験例1は、組織が回復はしないが、溶接部に近い熱影響部の組織に析出物が析出していることがわかる。実験例2は、従来例に対応する比較例に比べて、溶接部と熱影響部との金属組織がSUS630を固溶化熱処理した通常の組織に近いことがわかるので、実験例2では、溶接の影響が少ないことになる。
実験3は、実験2で用いたサンプルを利用して実施されるHRC(ロックウェル)硬さ試験である。
硬さ試験機は、アカシ社製の型番「MVK−H1」の装置を用いた。
図5(A)で示される実験例1のサンプルと、図6(A)で示される実験例2のサンプルと、図7(A)で示される参考例1のサンプルと、図8(A)で示される比較例のサンプルとを図中左右方向に沿って測定を行う。
溶接ビードの幅が1.5mmであるため、左右方向の測定ピッチを、0.1mmとした。硬さ試験は、溶接の深さに応じて、図中上下に3列で行う。中央部は、矢印Bで示される部分の中心位置を通る線上にあり、上部は中央部より上側(溶接が浅い側)に位置し、下部は中央部より下側(溶接が深い側)に位置する。これらの上部、中央部及び下部は、それぞれ、溶接部中央を0とし、右側をプラスの位置、左側をマイナスの位置とする。なお、隣合う圧痕の中心間の距離を0.02mm以下とならないように荷重を設定した。
図9において、HRC硬さは、上部、中央部及び下部のそれぞれにおいて、−2mm、溶接部中央及び+2mmにかけて、ほぼ同じ値であり、これらの値は全て下限値(40.0)を上回っている。
図10は、実験例2におけるグラフである。
図10において、HRC硬さは、上部、中央部及び下部のそれぞれにおいて、−2mm、溶接部中央及び+2mmにかけて、ほぼ同じ値であり、これらの値は全て下限値(40.0)を上回っている。実験例2は実験例1に比べて、上部、中央部及び下部におけるHRC硬さにばらつきが少ない。
図11において、HRC硬さは、上部、中央部及び下部のそれぞれにおいて、−2mm、溶接部中央及び+2mmにかけて、ほぼ同じ数値であるが、全てにおいて、実験例2のHRC硬さの数値を下回っている。
図12は、比較例におけるグラフである。
図12において、HRC硬さは、上部、中央部及び下部のそれぞれにおいて、−2mmの近傍及び+2mmの近傍で下限値(40.0)を上回っているものの、溶接部中央において、下限値を下回っている。
(1)継手10とセンサモジュール用金属部材20とを溶接した後に、加熱するので、溶接部及びその周囲の強度が向上する。つまり、実験2により、溶接後に析出硬化処理を実施した実験例1は、溶接前に析出硬化処理を実施した比較例(従来例)に比べて、溶接部及びその周辺の熱影響部の金属組織が他の金属組織と大きな相違はないが、溶接後に析出効果処理することで、溶接部及びその周囲の熱影響部の金属組織は析出効果が現れ、析出物が生成していることがわかる。つまり、実験3により、実験例1は、溶接部とその両側に渡って、HRC硬さが下限値より上回っているが、比較例は、溶接部を中心に、HRC硬さが下限値より下回っている。これは、比較例が溶接により硬度が低くなっているのに対して、実験例1が溶接後の加熱により、析出硬化の効果が現れ、硬度が下限値を満たすものになっているからである。
従って、センサモジュール用金属部材20に導入される被測定流体の圧力が高いものであっても、センサモジュール用金属部材20と継手10との溶接部及びその周囲から割れることを防止できる。
Claims (3)
- 被取付部材に取り付けられ被測定流体が流通する導入孔が形成された金属製の継手と、前記継手に設けられる筒状部及び前記筒状部の一端部に一体形成されるダイアフラム部を有し前記導入孔を通じて被測定流体が導入される凹部が形成されたセンサモジュール用金属部材とを備えた圧力センサを製造する方法であって、
前記継手と前記センサモジュール用金属部材とを溶接し、その後、前記継手と前記センサモジュール用金属部材とを加熱処理し、
前記加熱処理は、前記継手と前記センサモジュール用金属部材とを溶接後に加熱放冷し析出硬化させる析出硬化処理である、
ことを特徴とする圧力センサの製造方法。 - 被取付部材に取り付けられ被測定流体が流通する導入孔が形成された金属製の継手と、前記継手に設けられる筒状部及び前記筒状部の一端部に一体形成されるダイアフラム部を有し前記導入孔を通じて被測定流体が導入される凹部が形成されたセンサモジュール用金属部材とを備えた圧力センサを製造する方法であって、
前記継手と前記センサモジュール用金属部材とを溶接し、その後、前記継手と前記センサモジュール用金属部材とを加熱処理し、
前記加熱処理は、再固溶化処理と、前記再固溶化処理後に加熱放冷し析出硬化させる析出硬化処理とを備える、
ことを特徴とする圧力センサの製造方法。 - 請求項1又は請求項2に記載された圧力センサの製造方法において、
前記継手と前記センサモジュール用金属部材とを加熱処理した後、前記センサモジュール用金属部材のダイアフラム部に歪みゲージを有する検出部を貼り付ける、
ことを特徴とする圧力センサの製造方法。
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