以下、本発明の実施形態に係る水処理装置について図面を参照して詳細に説明する。本実施形態に係る水処理装置は、金属イオンを含有する原水から膜モジュールによって分離される膜処理水(ろ過水)において金属イオンの濃度を低減するための装置である。この水処理装置は、膜モジュールとは別体として設けられた接触滞留槽を備えている。この水処理装置では、膜モジュールに原水を供給する前に、接触滞留槽において原水に酸化剤などの添加剤を添加するとともに金属イオンの酸化物を触媒として作用させることによって金属イオンから固形分への析出反応を促進させる。そして、金属イオンの濃度が低減された原水を膜モジュールに供給して膜処理水を分離するので、分離された膜処理水の金属イオンの濃度を効果的に低減することができる。
金属イオンとしては、例えば鉄イオン、マンガンイオンなどが挙げられるが、これらに限られない。本実施形態に係る水処理装置は、金属イオンが酸化されにくいマンガンイオンである場合に好適である。金属イオンが析出して得られる固形分は、金属イオンの酸化物であり、例えば金属イオンがマンガンイオンである場合にはその酸化物である二酸化マンガンである。
本実施形態では、処理対象とされる原水は、分析により検出可能な含有量(例えば0.000005mg/L以上)の金属イオンを含有するものであればよい。原水としては、例えば地下水、河川水、湖沼水などを挙げることができるが、これらに限られない。金属イオンの濃度を測定する方法としては、原水のサンプルを孔径0.45μm以下の精密ろ過膜、限外ろ過膜などを用いてろ過し、その膜処理水をフレームレス−原子吸光法、ICP発光分光分析法(測定波長257.610nm)、ICP質量分析法などによって測定する方法が挙げられるが、これらに限られない。
金属イオンを固形分にするために原水に添加される添加剤としては、例えば酸化剤などを挙げることができる。酸化剤としては、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムなどの次亜塩素酸塩、二酸化塩素等の塩素系酸化剤が好ましい。
(水処理装置の構造)
図1は、本発明の一実施形態に係る水処理装置1を示す概略図であるが、本発明は、図1に示す水処理装置1に限定されるものではない。図1に示すように、本実施形態に係る水処理装置1は、接触滞留槽2と、膜モジュール3と、原水送り機構4と、洗浄排水槽5と、返送機構6と、添加剤注入設備7と、受水槽8と、これらを接続する複数の配管21〜27と、複数のポンプ31〜33と、水処理装置1の運転を制御する制御部(制御手段)とを備える。
接触滞留槽2は、金属イオンを含有する原水を貯留する容器である。接触滞留槽2では、原水中において金属イオンの少なくとも一部を固形分として析出させる。接触滞留槽2には、配管21を通じて原水が流入する。また、接触滞留槽2には、添加剤注入設備7から配管22を通じて酸化剤などの添加剤が流入する。
接触滞留槽2の容積は、後述する滞留時間(接触滞留槽2内の原水において金属イオンと添加剤と固形物とを共存させる時間)を調節する一つの要素となり得る。すなわち、滞留時間を長くすることにより、原水中の金属イオンを添加剤及び固形分に接触させて金属イオンを固形分として析出させるための時間を接触滞留槽内において十分に確保することができる。
接触滞留槽2の容積は、例えば、配管23(原水配管23)を流れる原水の流量X(リットル/分)、膜モジュール3に流入する原水の流量X(リットル/分)などに基づいて設定することができる。具体例を挙げると、例えば、滞留時間を例えば5分以上とするためには、接触滞留槽2の容積V(リットル)は5X以上に設定され、滞留時間を例えば15分以上とするためには、接触滞留槽2の容積V(リットル)は15X以上に設定され、滞留時間を例えば30分以上とするためには、接触滞留槽2の容積V(リットル)は30X以上に設定される。
接触滞留槽2における滞留時間を長くするという観点では、配管21を通じて原水が接触滞留槽2に流入する位置(第1位置)と、接触滞留槽2内の原水が原水配管23に流出する位置(第2位置)との距離が大きくなるように構成されるのが好ましい。図1に示す本実施形態では、第1位置及び第2位置の一方を接触滞留槽2の上部に設け、第1位置及び第2位置の他方を接触滞留槽2の下部に設けている。より具体的には、第1位置を接触滞留槽2の上部に設け、第2位置を接触滞留槽2の下部に設けているが、これに限られず、例えば、第1位置を接触滞留槽2の下部に設け、第2位置を接触滞留槽2の上部に設けてもよい。
膜モジュール3は、原水から固形分と膜処理水を分離する機能を有する。膜モジュール3は、接触滞留槽2外に設けられている。膜モジュール3としては、例えば中空糸膜を有する中空糸膜モジュール3を用いることができる。中空糸膜モジュール3としては、細長い筒形状の筐体内に中空糸膜が設けられた構造を例示できるが、これに限られない。膜モジュール3は、原水から固形分と膜処理水を分離する機能を有するものであればよく、中空糸膜以外の他の分離膜が筐体内に設けられた構造であってもよい。
中空糸膜の素材としては、種々の材料を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール及びポリエーテルスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種類を含んでいるのが好ましく、膜強度や耐薬品性の観点でポリフッ化ビニリデン(PVDF)がより好ましい。
中空糸膜モジュール3における中空糸膜の孔径は、所定の膜処理水量を確保でき、原水から固形分(例えば二酸化マンガン粒子)と膜処理水を分離できれば特に限定されない。中空糸膜の孔径が0.001〜5μmの範囲内である場合には、高い透水性を有し、ろ過効率が低下するおそれが小さい。なお、中空糸膜の孔径とは、粒子径が既知の基準物質(例えば、コロイダルシリカ、エマルジョン、ラテックスなどの基準物質)を中空糸膜でろ過した際に、その90%が排除される場合の基準物質の粒子径を言う。中空糸膜の孔径は均一であることが好ましい。限外ろ過膜(UF膜)である場合には、上記のような基準物質の粒子径に基づいて孔径を求めることは不可能であるが、分子量が既知の蛋白質を用いて同様の測定を行ったときに、分画分子量が3000以上あるものが好ましい。
中空糸膜モジュール3では中空糸膜がモジュール化されてろ過に使用される。モジュールの形態は、ろ過方法、ろ過条件、中空糸膜の洗浄方法などに応じて適宜選択することができる。中空糸膜モジュール3では、筐体内に1本または複数本の中空糸膜エレメントが装着されて構成されていてもよい。具体的に、中空糸膜モジュール3としては、例えば、数十本〜数十万本の中空糸膜が束ねられて筐体内でU字型に配置された形態、中空糸繊維束の一端を適当なシール材により一括封止した形態、中空糸繊維束の一端を適当なシール材により1本ずつ固定されていない状態(フリー状態)で封止した形態、中空糸繊維束の両端を開口した形態などが挙げられる。中空糸膜モジュール3の形状は、特に限定されることはなく、例えば円筒状であってもよく、スクリーン状であってもよい。特に、フリー状態で封止した「片端フリー」タイプの中空糸膜モジュール3は、気体逆圧洗浄による膜付着物質の剥離及び排出を効果的に行うことができる点で好ましい。
中空糸膜モジュール3におけるろ過の方式としては、外圧全量ろ過、外圧循環ろ過などを例示でき、膜分離処理の条件、要求される性能に応じて適宜選択することができる。膜寿命の点ではろ過膜表面の洗浄を同時に行うことのできる循環方式(外圧循環ろ過方式)が好ましく、設備の単純さ、設置コスト、運転コストの点では全量ろ過方式が好ましい。気泡による膜表面の洗浄を行う際に中空糸膜同士がこすれ合うことによる洗浄効果が発現するという観点では、外圧全量ろ過方式が好ましい。
中空糸膜の力学的性質およびモジュールとしての膜面積の観点では、中空糸膜の外径は200〜3000μmの範囲内に設定するのが好ましく、500〜2000μmの範囲内であることがより好ましい。同様に中空糸膜の厚さは50〜700μmの範囲内にあることが好ましく、100〜600μmの範囲内であることがより好ましい。
原水送り機構4は、配管23(原水配管23)と、ポンプ31(原水ポンプ31)とを含む。原水配管23は、原水を接触滞留槽2から膜モジュール3に送るための配管であり、原水ポンプ31が設けられている。接触滞留槽2に貯留されている原水は、原水ポンプ31が運転されることによって原水配管23を通じて膜モジュール3に送られる。
洗浄排水槽5は、膜モジュール3の逆圧洗浄によって生じた洗浄排水を貯留する容器である。洗浄排水は、膜モジュール3の逆圧洗浄によって膜から除去された固形分を含む。逆圧洗浄によって生じた洗浄排水は、配管25を通じて洗浄排水槽5に流入する。配管27は、洗浄排水槽5に貯留されている洗浄排水を槽外に排出するための配管であり、排出ポンプ33が設けられている。洗浄排水槽5に貯留されている洗浄排水の一部は、排出ポンプ33が運転されることによって配管27を通じて槽外に排出される。
本実施形態では、洗浄排水槽5が設けられているので、膜モジュール3の逆圧洗浄によって生じた洗浄排水を洗浄排水槽5に一旦貯留することができる。そして、洗浄排水槽5に貯留された洗浄排水のうち、必要な量の洗浄排水(適量の固形分)を接触滞留槽2に送ることができ、不要な洗浄排水を配管27を通じて槽外に排出することができるので、水処理装置1の処理効率が過度に低下するのを抑制できる。
返送機構6は、配管26(返送配管26)と、ポンプ32(返送ポンプ32)とを含む。返送配管26は、固形分を含む洗浄排水を洗浄排水槽5から接触滞留槽2に送るための配管であり、返送ポンプ32が設けられている。洗浄排水槽5に貯留されている洗浄排水は、返送ポンプ32が運転されることによって返送配管26を通じて接触滞留槽2に送られる。
洗浄排水槽5から接触滞留槽2に送られる洗浄排水の成分のばらつきを抑制するという観点では、配管25を通じて洗浄排水が洗浄排水槽5に流入する位置(第3位置)と、洗浄排水槽5内の洗浄排水が返送配管26に流出する位置(第4位置)との距離が大きくなるように構成されるのが好ましい。図1に示す本実施形態では、第3位置及び第4位置の一方を洗浄排水槽5の上部に設け、第3位置及び第4位置の他方を洗浄排水槽5の下部に設けている。より具体的には、第3位置を洗浄排水槽5の上部に設け、第4位置を洗浄排水槽5の下部に設けているが、これに限られず、例えば、第3位置を洗浄排水槽5の下部に設け、第4位置を洗浄排水槽5の上部に設けてもよい。
添加剤注入設備7は、例えば、添加剤を貯留する貯留槽、貯留槽内の添加剤を配管22を介して接触滞留槽2に送る図略のポンプなどを備えている。
受水槽8は、膜モジュール3において分離された膜処理水を貯留する容器である。分離された膜処理水は、配管24を通じて受水槽8に流入する。
本実施形態では、水処理装置1は、膜モジュール3に空気を送るエアーコンプレッサー10をさらに備えている。コンプレッサー10は、膜モジュール3を逆圧洗浄するための逆圧洗浄用ポンプとして機能するとともに、膜モジュール3をスクラビング(空気洗浄)するためのスクラビング用ポンプとしても機能する。コンプレッサー10は、気送配管28によって膜モジュール3と接続されている。気送配管28は、一対の分岐管28A,28Bを備える。一方の分岐管28Aは、膜モジュール3の一端側に接続されており、他方の分岐管28Bは、膜モジュール3の他端側に接続されている。
分岐管28A,28Bの少なくとも一方は、膜モジュール3の気体逆圧洗浄を行うときに膜モジュール3に空気を供給するための配管として機能する。また、分岐管28A,28Bの少なくとも一方は、膜モジュール3において上昇する気泡を含んだ水流により膜を揺動させて膜表面の固形物を除去するスクラビングを行うときに膜モジュール3に空気を供給するための配管として機能する。分岐管28A,28Bの一方又は両方に図略の開閉弁が設けられていてもよい。
本実施形態では、水処理装置1は、接触滞留槽2内の原水を撹拌するための撹拌機構9をさらに備えている。図1に示す具体例では、撹拌機構9は、撹拌翼9Aと、撹拌翼9Aを回転させるモータ9Bとを備えているが、これに限られない。撹拌機構9は、例えば、接触滞留槽2内の原水を槽下部から排出して槽の上部に戻す循環流路と循環ポンプとを備えた構造であってもよい。撹拌機構9は省略可能である。
本実施形態の水処理装置1では、上述したように、膜モジュール3の逆圧洗浄によって生じた洗浄排水を貯留する洗浄排水槽5が設けられており、接触滞留槽2には、固形分を含む洗浄排水の少なくとも一部が洗浄排水槽5から返送配管26を通じて返送される。このように洗浄排水に含まれる固形分を接触滞留槽2内の原水に供給することができるので、接触滞留槽2内の原水中の固形分の含有量(金属イオンが酸化された金属酸化物の含有量)を高めることができる。すなわち、すでに酸化された金属酸化物である固形分を接触滞留槽2内の原水中に積極的に存在させ、この固形分を触媒として作用させることにより、接触滞留槽2内において金属イオンから固形分への析出反応を促進させることができる。
しかも、本実施形態では、膜モジュール3は、接触滞留槽2内に浸漬されるのではなく、接触滞留槽2外に設けられており、膜モジュール3には、接触滞留槽2内の原水が供給される。したがって、原水中の金属イオンを添加剤及び固形分に接触させて金属イオンを固形分として析出させるための時間を接触滞留槽2内において十分に確保することが可能になる。
接触滞留槽2で生じるマンガンイオンの粒子化(固形物化)は、次のようにして生じる。通常、原水に存在するマンガンイオンは、酸化剤によって水和二酸化マンガンなどの酸化物とし、析出させて除去する。しかし、単に酸化剤を共存させるだけでは、酸化の進行が極めて遅く、原水中のマンガンイオンが十分に水和二酸化マンガン粒子とはなりにくいという問題がある。しかし、すでに酸化された水和二酸化マンガン粒子等を積極的に存在させると、該粒子が触媒として作用し、マンガンイオンの酸化は促進される。
反応式(1)で示すように、マンガンイオンは水和二酸化マンガンに交換吸着されると、マンガンイオンと接触した水和二酸化マンガンはMnO2・MnOとなり、接触酸化力を失うが、反応式(2)で示すように、塩素系酸化剤による酸化反応で、水和二酸化マンガン粒子となり、再び活性化する。
Mn2++MnO2・H2O→MnO2・MnO+2H+ (1)
MnO2・MnO+HOCl+2H2O→2(MnO2・H2O)+H++Cl− (2)
マンガンイオンを酸化するためには、交換吸着するための水和二酸化マンガンと、水和二酸化マンガンを再び活性化するための酸化剤が必要であるが、中空糸膜モジュール3を逆洗した固形分含有洗浄排水を接触滞留槽2に供給することで、マンガンイオンが効率よく酸化物となるため、効率的にマンガンイオンが酸化除去された膜処理水が受水槽8に貯留される。
(水処理方法)
次に、本実施形態の水処理装置1を用いた水処理方法について説明する。この水処理方法は、金属イオンを含有する原水(未処理の原水)に添加剤を添加して金属イオンの少なくとも一部を固形分として析出させ、金属イオンの濃度が低減された原水を膜モジュール3に流入させ、膜モジュール3において原水から固形分と膜処理水を分離する方法であって、膜モジュール3の逆圧洗浄によって生じた洗浄排水を一旦貯留し、貯留された洗浄排水の少なくとも一部を未処理の原水に混合することを特徴としている。
以下では、金属イオンがマンガンイオンであり、膜モジュール3が中空糸膜モジュール3であり、添加剤が酸化剤である場合を例に挙げて説明するが、これらの場合に限られない。
水処理装置1を用いた水処理方法では、まず、原水が配管21を通じて接触滞留槽2に供給されて接触滞留槽2内に貯留される。接触滞留槽2内の原水には、添加剤注入設備7から配管22を通じて酸化剤が注入される。
水処理装置1では、接触滞留槽2内の原水において、酸化剤の濃度が固形分(二酸化マンガン)の濃度の2倍以上となるように、接触滞留槽2内の原水に酸化剤が添加されるのが好ましい。
マンガンイオンが二酸化マンガン(水和二酸化マンガン)に交換吸着されると、水和二酸化マンガンはMnO2・MnOとなり、接触酸化力を失うが、酸化剤による酸化反応によって水和二酸化マンガンに戻り、再び活性化する。接触滞留槽2内の原水において酸化剤の濃度が二酸化マンガンの濃度の2倍以上となる場合には、接触滞留槽2内の原水において、二酸化マンガンが再活性化するのに必要な酸化剤を二酸化マンガンに対して十分に確保することができ、これにより、接触滞留槽2内においてマンガンイオンから二酸化マンガンへの析出反応を促進する効果が低下するのを抑制できる。具体例を挙げると、例えば、接触滞留槽2内の原水において二酸化マンガン濃度が0.2ppmである場合には、接触滞留槽2内の原水において酸化剤の濃度は0.5ppm以上であれば析出反応は問題なく進行する。
接触滞留槽2内の原水における二酸化マンガンの濃度及び添加剤の濃度は、例えば次のようにして検知することができる。二酸化マンガン濃度の定量法としては、例えば、硫酸とシュウ酸で分解して、残余のシュウ酸を過マンガン酸カリウムで滴定する方法が挙げられる。酸化剤濃度の定量法としては、例えば、酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムの場合、水溶液に含まれる残留塩素濃度の測定による方法が挙げられる。具体的には、例えば、ジエチル−p−フェニレンジアンモニウム(ジエチル−p−フェニレンジアミン,DPD)比色法や、ヨウ化カリウムで遊離したヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで酸化還元滴定する方法が挙げられる。
洗浄排水槽5に洗浄排水が貯留されている場合には、返送ポンプ32が運転されることによって返送配管26を通じて洗浄排水が洗浄排水槽5から接触滞留槽2に送られ、これにより、洗浄排水に含まれる固形分(二酸化マンガン)が接触滞留槽2内の原水に供給される。
水処理装置1では、接触滞留槽2内の原水において、固形分としての二酸化マンガンの濃度がマンガンイオンの濃度の5倍以上となるように、洗浄排水槽5から接触滞留槽2に送られる洗浄排水の返送量が調節されるのが好ましい。
洗浄排水の返送量は、例えば返送ポンプ32の運転を断続的に行うことによって調節することができる。接触滞留槽2内の原水において二酸化マンガンの濃度がマンガンイオンの濃度の5倍以上となる場合には、接触滞留槽2内の原水において、触媒作用を有する二酸化マンガンをマンガンイオンに対して十分に確保することができ、これにより、接触滞留槽2内においてマンガンイオンから二酸化マンガンへの析出反応を促進する効果が低下するのを抑制できる。具体例を挙げると、例えば、原水に含まれるマンガンイオンの濃度が0.035ppmである場合には、接触滞留槽2内の原水において二酸化マンガンの濃度は0.2ppm以上であれば、析出反応が問題なく進行する。なお、原水に含まれるマンガンイオンの濃度とは、配管21を通じて接触滞留槽2に流入する原水中の濃度(酸化される前の濃度)のことである。
接触滞留槽2内の原水におけるマンガンイオンの濃度は、例えばIPC発光分析装置で定量することができる。
なお、水処理装置1の運転初期においては、中空糸膜モジュール3の逆圧洗浄が未だ行われていないので、洗浄排水槽5には洗浄排水が貯留されていない場合がある。この場合、洗浄排水を洗浄排水槽5から接触滞留槽2に送ることができない。したがって、このような運転初期においては、返送ポンプ32を運転せずに、洗浄排水に含まれる固形分と同様のもの(例えば二酸化マンガン)を接触滞留槽2に別途添加するのが好ましい。
接触滞留槽2内の原水は、撹拌機構9によって撹拌が十分に行われるのが好ましい。撹拌機構9による撹拌が行われる場合には、接触滞留槽2内の原水中において、例えば二酸化マンガンなどの固形分が沈殿するのを抑制して原水中に分散されるので、原水中の金属イオンと固形分とを効率よく接触させることができる。
本実施形態では、接触滞留槽2内の原水が原水ポンプ31によって中空糸膜モジュール3に供給される前に、接触滞留槽2内の原水において、マンガンイオンを二酸化マンガンとして析出させることによってマンガンイオンの濃度を十分に低下させる。このためには、接触滞留槽2内の原水において、マンガンイオンと酸化剤と二酸化マンガンとを共存させる滞留時間を十分に確保するのが好ましい。具体的に、接触滞留槽2内の原水において、マンガンイオンと酸化剤と二酸化マンガンとが共存する滞留時間は、5分以上であるのが好ましく、15分以上であるのがより好ましく、30分以上であるのがさらに好ましい。
上記の滞留時間は、例えば接触滞留槽2の大きさを調節することによってある程度確保することができる。すなわち、配管21を通じて接触滞留槽2に供給された原水が接触滞留槽2から原水配管23に流出するまでの平均的な時間は、接触滞留槽2が大きくなるほど長くなる。具体的には、例えば、マンガンイオン濃度が0.07mg/Lの場合、原水の滞留時間が5分以上となるような接触滞留槽の大きさに設計するのが好ましい。上記のように原水が接触滞留槽2から流出する時間が十分に確保されている場合には、原水ポンプ31を連続的に運転して接触滞留槽2内の原水を中空糸膜モジュール3に連続的に送ることができる。なお、ここでいうマンガンイオン濃度とは、配管21を通じて接触滞留槽2に流入する原水中の濃度(酸化される前の濃度)のことである。
また、上記の滞留時間は、例えば、原水ポンプ31を断続的に運転して接触滞留槽2内の原水を中空糸膜モジュール3に断続的に送ることによって制御してもよい。
また、接触滞留槽2内に、仕切りを設けたり、蛇行流路を設けたりすることによって、配管21を通じて接触滞留槽2に供給された原水が接触滞留槽2から原水配管23に流出するまでの時間をかせぐことが可能な構造を採用してもよい。
また、接触滞留槽2内の原水のマンガンイオンの濃度を直接又は間接的に検知できるセンサーを設けてもよい。このようなセンサーとしては、例えば原水の電気伝導率などを検知するセンサーを挙げることができるが、これに限られない。このセンサーによる検知結果と予め定められた基準値とを比較して、原水ポンプ31の運転と停止の制御を行ってもよい。
次に、接触滞留槽2内の原水は、原水ポンプ31によって原水配管23を通じて中空糸膜モジュール3に供給される。中空糸膜モジュール3は、原水から固形分と膜処理水を分離する。中空糸膜モジュール3において分離された膜処理水は、中空糸膜モジュール3から配管24に流出し、受水槽8に送られる。一方、中空糸膜モジュール3において分離された固形分は、中空糸膜に捕捉される。
中空糸膜モジュール3におけるろ過時間は、原水の水質や膜透過流束に応じて適宜設定するのが好ましいが、所定の膜ろ過差圧に到達するまでろ過時間を継続させてもよい。
中空糸膜モジュール3においてろ過運転を継続すると、中空糸膜モジュール3の膜表面や膜細孔内に鉄やマンガンの酸化物、フミン酸などの有機物などが付着していく。このような付着物が多くなると、中空糸膜モジュール3において膜処理水量の低下、膜間差圧の上昇などを引き起こすため、所定時間ごとに以下の洗浄工程が行われる。
洗浄工程では、まず、原水ポンプ31を停止して、図略の原水供給バルブ及び膜処理水バルブを閉じた後、図略の逆圧洗浄バルブを開いて、コンプレッサー10を運転する。これにより、流体を用いた中空糸膜モジュール3の逆圧洗浄が行われ、膜表面や膜細孔内に付着したマンガンの酸化物などの付着物が膜から剥離する。逆圧洗浄によって生じた洗浄排水は、配管25を通じて洗浄排水槽5に送られる。洗浄排水槽5に送られた洗浄排水の一部は、返送ポンプ32が運転されることによって返送配管26を通じて接触滞留槽2に送られる。
逆圧洗浄の時間は、特に制限されるものではないが、5秒以上120秒以下の範囲内とするのが好ましい。1回の逆圧洗浄時間が5秒未満では、十分な洗浄効果が得られず、120秒を超えると中空糸膜モジュール3の稼働効率が低くなったり、水回収率が低下したりする。
逆圧洗浄の流束は、特に制限されるものではないが、ろ過流束の0.5倍以上2倍以下であることが好ましい。逆圧洗浄の流束がろ過流束の0.5倍未満では、膜面に付着、堆積したファウリング物質を十分に除去することが難しい。逆圧洗浄の流束は高いほうが膜の洗浄効果が高くなるので好ましいが、高すぎると水回収率が低下すること、膜モジュール容器の破壊や膜の亀裂等の損傷が起こる問題が発生することから、そうならない範囲内に適宜設定される。
逆圧洗浄の頻度は、ろ過流束やろ過時間、原水水質に応じて適宜設定すればよく、特に制限するものではないが、数十分〜数時間に1回程度であることが好ましい。
水処理装置1において、逆圧洗浄に用いる流体としては例えば水、空気などが挙げられるが、水が用いられる液体逆圧洗浄では、逆圧洗浄によって生じる洗浄排水の量が多くなるのに対し、空気が用いられる気体逆圧洗浄では、逆圧洗浄によって生じる洗浄排水の量が液体逆圧洗浄に比べて少なくなるという利点がある。また、水処理装置1が、膜モジュール3において上昇する気泡を含んだ水流により膜を揺動させて膜表面の固形物を除去するスクラビング(空気洗浄)を行うためのコンプレッサー10を備えている場合には、このコンプレッサー10を気体逆圧洗浄にも用いることができる。したがって、気体逆圧洗浄が採用される場合には、気体逆圧洗浄に必要な付帯設備(すなわちコンプレッサー10)を別途設ける必要がない。これに対し、水(例えば膜処理水(透過液))が逆圧洗浄用の流体として使用される液体逆圧洗浄では、逆圧洗浄用のポンプ、処理水槽などの付帯設備を別途設ける必要がある。
また、本実施形態では、洗浄工程において、中空糸膜の原水側に液体を満たした状態で、中空糸膜の処理水側から中空糸膜のバブルポイント未満の圧力の気体を導入し、20秒以内で中空糸膜モジュールの処理水側の液体を完全に排出する加圧工程を行ってもよい。そして、この加圧工程中または加圧工程後に中空糸膜の原水側を気泡で洗浄する洗浄を行う。
加圧工程に用いる気体としては空気、窒素などが挙げられる。加圧工程時および後述する気泡による膜表面洗浄時には、中空糸膜の原水側が液体で満たされていることが必要である。加圧工程に使用する気体の圧力は、中空糸膜のバブルポイント、中空糸膜の破裂圧力および中空糸膜モジュールの耐久圧力の内、最も低い値を超えない範囲内で選択されるが、中空糸膜のバブルポイントおよび破裂圧力が何れも0.5MPaよりも大きい場合は、加圧気体の圧力が0.1〜0.5MPaの範囲内にあることが好ましく、0.15〜0.3MPaの範囲内にあることがより好ましい。
気体による加圧工程を実施する時間は、中空糸膜モジュールの処理水側の液体を完全に排出することが可能な時間以上が必要であるが、加圧気体の単位時間あたりの導入量と中空糸膜モジュール3の処理水側との体積とにより加圧時間が異なる。外圧全量ろ過方式の場合には、中空糸膜の内部体積も考慮して加圧時間を設定する必要があるが、20秒以内に実施することが好適である。
上述した気体による加圧工程中または加圧工程後に、中空糸膜の原水側を気泡で洗浄するのが好ましい。この気泡洗浄工程で用いる気体としては、空気、窒素などが挙げられる。気泡の供給量は特に限定されないが、膜洗浄効果が高く、膜破損のおそれが小さいことから、気泡の供給量が中空糸膜の面積1m2あたり5〜500NL/hrの範囲内にあることが好ましく、10〜300NL/hrの範囲内にあることがより好ましい。上記した「片端フリー」タイプのモジュールを使用した場合、気泡による膜表面洗浄効果が極めて高くなる。
本実施形態の水処理装置1では、気泡洗浄工程はろ過工程中には行われないので、膜モジュールの下方から気泡を発生させながらろ過工程を行う特許文献1の水処理方法に比べて省エネルギー化が可能であり、また、膜擦過由来のろ過性能低下を抑制することができる。
(実施例)
図1に示す水処理装置1を用いて、0.056mg/Lの濃度のマンガンイオンを含有する地下水を処理した。中空糸膜モジュール3には株式会社クラレ製の孔径0.02μmのポリフッ化ビニリデン系中空糸膜(膜面積:42m2)を用いた。ろ過運転方式は、ろ過流束が1.5m/dの定流量ろ過運転とし、膜処理水中の残留塩素濃度が0.5mg/Lとなるように、添加剤注入設備7から次亜塩素酸ナトリウムを注入した。ろ過工程を60分実施後、原水ポンプ31を停止し、原水供給バルブ、ろ過バルブを閉じてろ過工程を停止した。その後、空気洗浄するために逆洗用配管28を通じて中空糸膜モジュール3に空気を1分間供給した。洗浄工程終了後、ろ過工程を再開した。ここで、洗浄工程によって得られた排水は、洗浄排水槽5に送液され、さらに洗浄排水槽5から返送配管26を通じて接触滞留槽2に送液した。このとき、送液する量は30Lであった。以上の工程を2日間継続して運転した。
その結果、マンガンイオンの濃度が0.001mg/L未満(検出限界)の膜処理水を得ることができ、水道水質基準である0.05mg/L以下を達成した。また、ろ過差圧は運転開始直後の0.018MPaに対して、運転開始から6ヶ月後も0.020MPaと安定していた。
(比較例)
洗浄工程で得られた排水を、接触滞留槽2に送液しないこと以外は、実施例と全く同じにした。その結果、マンガンイオンの濃度が0.056mg/Lの膜処理水となり、水道水質基準である0.05mg/L以下を達成しなかった。また、ろ過差圧は運転開始直後の0.020MPaに対して、運転開始から6ヶ月後には0.1MPaに達した。
(変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。
前記実施形態では、膜モジュール3として、片端フリータイプの中空糸膜モジュール3を用いた場合を例示したが、例えば図2に示すように筐体内において中空糸膜の両端が固定された中空糸膜モジュール3を用いることもできる。
また、図2に示す変形例の水処理装置1は、膜モジュール3において送液方向を切り換える機構を備える。具体的に、変形例の水処理装置1では、受水槽8に膜処理水を送る配管24の上流側が2つの分岐管24A,24Bに分岐しており、これらの一方が中空糸膜モジュール3の一端側に接続され、他方が中空糸膜モジュール3の他端側に接続されている。そして、図2の変形例では、2つの分岐管24A,24Bの一方又は両方に図略の弁を設けている。当該弁の開閉動作が行われることによって、膜モジュール3内を流れる液の送液方向を切り換えることができる。