JP5343655B2 - 膜モジュールの運転方法 - Google Patents

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本発明は、原水の膜ろ過処理を行うための膜モジュールの運転方法に関するものである。
膜ろ過による膜分離法は、省エネルギー、省スペース、省力化およびろ過水質向上等の特徴を有するため、様々な分野において使用が拡大してきている。例えば、精密ろ過膜や限外ろ過膜を河川水や地下水や下水処理水から工業用水や水道水を製造する浄水プロセスへ適用したり、海水淡水化逆浸透膜処理工程における前処理へ適用したりする例があげられる。
原水を膜でろ過すると、原水に含まれる濁質や有機物、無機物等の除去対象物が膜に蓄積し、膜の目詰まりが起こる。これにより膜のろ過抵抗が上昇する。定流量ろ過の場合、膜間差圧が上昇し、膜モジュールの限界膜間差圧に達すると、ろ過を継続することができなくなる。そこで膜ろ過性能を維持するため、定期的に膜の洗浄を行う必要がある。膜の洗浄には膜ろ過水を膜のろ過水側(2次側)から原水側(1次側)へ逆流させる逆洗工程や、気体を膜の原水側に供給して膜の汚れを取る空洗工程や、空洗工程や逆洗工程で膜から剥離した汚れを膜モジュールから排出する排水工程がある。また逆洗工程や空洗工程で除去できない汚れがある場合には、薬液を一定時間膜と接触させて洗浄する薬液洗浄工程がある。これらの洗浄手段を有効に行うことが膜ろ過を安定に運転するために非常に重要である。
膜の目詰まりをモニタリングしながら運転する手法として、特許文献1には、膜のゼータ電位を測定しながら膜ろ過運転を行い、ろ過過程および物理洗浄過程におけるゼータ電位の差とゼータ電位の変化から、ろ過膜の汚染状態または洗浄効果の状態を予測する方法が記載されている。この方法は、ろ過膜が十分に汚染されるとろ過膜のゼータ電位が一定の値に収束するという知見に基づき、予め算出しておいた汚染状態でのろ過膜のゼータ電位と対比して、ろ過運転時のろ過膜の汚染状態またはろ過膜の洗浄状態を予測する方法であるが、この方法は、あくまでろ過膜の汚染状態を把握する手法として、ろ過膜のゼータ電位測定を行っているにとどまり、ろ過膜のゼータ電位測定値から、ろ過膜をどのように制御するとろ過膜の目詰まりが抑制できるかといった知見を見出すには至っていなかった。
特開2005−351707号公報
本発明の目的は、原水の膜ろ過処理を行うための膜モジュールの運転を行う際、膜の目詰まりを効率的に防ぎ、長期間安定して膜モジュールを運転する方法を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明の膜モジュールの運転方法は、次の特徴を有するものである。
(1)膜ろ過に使用される膜モジュールの運転方法について、膜ろ過運転を一度停止して膜を酸洗浄するに際し、酸洗浄後、膜のゼータ電位測定結果に基づいて、膜のゼータ電位が−5mV以下となる時点まで薬液と接触させた後に、膜ろ過運転を再開することを特徴とする膜モジュールの運転方法。
)膜のゼータ電位測定結果に基づいて、膜のゼータ電位を−5mV以下とする薬液接触条件を決定することを特徴とする()に記載の膜モジュールの運転方法。
)薬液接触条件が、薬液の種類、薬液の濃度、薬液と膜との接触時間、から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする(2)に記載の膜モジュールの運転方法。
)薬液が次亜塩素酸ナトリウム溶液またはアルカリ溶液であることを特徴とする()〜()のいずれかに記載の膜モジュールの運転方法。
)膜ろ過される原水中の粒子のゼータ電位を、原水にアルカリ溶液を添加して原水のpHをアルカリ側に制御する方法、アニオン系の有機高分子凝集剤を原水に添加する方法、または原水に直接電気的に電場をかけて原水中の粒子を負に帯電させる方法によって負に保ちながら、膜ろ過運転を行うことを特徴とする(1)〜()のいずれかに記載の膜モジュールの運転方法。
)膜ろ過される原水に凝集剤を加えて凝集フロックを形成し、該凝集フロックのゼータ電位が−10mV以上0mV未満の範囲となるように、原水にアルカリ溶液を添加して原水のpHをアルカリ側に制御する方法、アニオン系の有機高分子凝集剤を原水に添加する方法、または原水に直接電気的に電場をかけて原水中の凝集フロックを負に帯電させる方法によって制御することを特徴とする()に記載の膜モジュールの運転方法。
本発明の膜モジュールの運転方法によれば、効率良く膜の目詰まりを抑えながら、安定して膜モジュールを運転することができる。
本発明が適用される加圧型膜ろ過装置の一例を示す装置概略フロー図である。 実施例1において小型膜でラボテストを行った際の膜ゼータ電位測定結果を示す図である。 実施例1における膜間差圧の推移を示す図である。 比較例1における膜間差圧の推移を示す図である。
本発明の最良の実施形態を、加圧型中空糸膜モジュールろ過装置を用いて膜ろ過する場合を例にとって、図1を参照しながら以下に説明する。但し、本発明が以下に示す実施態様に限定される訳ではない。
図1は本発明が適用される膜ろ過装置の概略フロー図である。この図では、加圧型の中空糸膜モジュール(以下、膜モジュールという)3による膜ろ過が行われる。この図において、原水槽1に溜められた原水を、供給ポンプ2により膜モジュール3に供給する。原水は膜モジュール3内に収められた中空糸膜によって中空糸膜原水側(1次側)から中空糸膜ろ過水側(2次側)にろ過される。ろ過水はろ過水配管4を経てろ過水貯留槽5へと送液され貯留される。
所定時間の膜ろ過を行った後、膜モジュール3内の中空糸膜に付着した汚れを除去するために、当該中空糸膜の逆流洗浄が行われる。まず、原水ポンプ2を止め、ろ過水弁V1を閉にして膜ろ過を中断させた後、膜モジュール3のエア抜き弁V2を開く。その後、洗浄水弁V4を開き、ろ過水貯留槽5に溜められた水を、逆流洗浄ポンプ6によってろ過水配管4へと送液し、膜モジュール3内の膜ろ過水側(2次側)から膜原水側(1次側)に逆流させる。逆流洗浄が終了した後は、排水弁V3やエア抜き弁V2から膜モジュール3内の汚れを含んだ水を排出した後、膜ろ過を再開する。
本発明においては、膜ろ過に使用される膜モジュールの運転方法について、膜のゼータ電位測定を行いながら運転を行い、膜のゼータ電位測定値に基づいて膜を負荷電状態に制御しながら運転することを特徴とする。膜モジュール内の膜のゼータ電位測定は、実際に原水膜ろ過運転を行っている膜モジュールの膜のゼータ電位を測定することが必要である。
膜をモジュールから取り出したり、膜の一部をサンプリングしたりして膜のゼータ電位を直接測定する場合、電気泳動光散乱装置(ELS−8000:大塚電子(株)製)などの表面電位測定装置を用いて測定することができる。また、一定圧力で溶液を流した際に膜間に発生する電位を測定することにより得られる流動電位から、Helmholtz−Smoluchowskiの式(式1)を用い、膜のゼータ電位を算出する方法によって求めることもできる。膜のゼータ電位を求める場合、Eは膜間流動電位(mV)、Pは膜間差圧(mBar)、ηは膜ろ過される溶液の粘度(Pa・s)、λは膜ろ過される溶液の導電率を示す。
Figure 0005343655
オンラインによる膜モジュール内の膜のゼータ電位測定は、特開2005−351707号公報に記載されているように、(式1)を使い、膜モジュールを設置した膜ろ過装置の膜間差圧計(P)、膜間電位計(E)、膜ろ過される溶液の導電率計(λ)および膜ろ過される溶液の水温計から求められる溶液の粘度(η)により測定可能である。なお、本値は膜間差圧と膜間電位差測定から計算されるため、膜ろ過が行われている時のみ測定可能であり、酸洗浄中等に膜ろ過や逆流洗浄を停止している間は測定することができない。この場合膜ろ過停止後に、原水のろ過を再開した際や、膜ろ過水による逆流洗浄を行う際に、ゼータ電位を測定することが可能である。
本発明においては膜のゼータ電位を測定し、膜のゼータ電位を負に制御しながら運転を行うことが必要である。ここで膜のゼータ電位を負に制御する方法として、膜と薬液とを接触させる方法があり、簡便にゼータ電位を制御できることから好ましく採用することができる。膜と薬液とを接触させる方法としては、原水に薬液を投入して膜ろ過を行いながら接触させる方法や、逆流洗浄時、薬液貯留槽7から薬液注入ポンプ8を使用して逆流洗浄水に薬液を添加する方法や、原水側またはろ過水側から薬液を膜モジュールに供給し、一定時間膜と薬液とを接触させた後に薬液を排出し、膜ろ過運転を再開する手法等がある。
薬液と接触させる以外に膜のゼータ電位を負に制御する方法としては、膜モジュールに直接電気的な電場をかけ、膜モジュールを負に帯電させる方法がある。
通常、自然水中に含まれる粒子や膜ファウリング成分は負に帯電していることが多いことから、膜ファウリング抑制のためには、静電吸着を考慮して、膜のゼータ電位を負に制御することが膜ファウリング抑制に重要である。また、膜のゼータ電位が−15mVよりも小さいと、正に帯電する膜ファウリング成分と静電吸着しやすくなる場合がある。従って、膜ファウリング抑制のためには、膜のゼータ電位を−15mV以上−5mV以下に制御することがより好ましい。
ここで膜のゼータ電位とは、原水を膜ろ過する際のpHにおいて測定される膜のゼータ電位のことである。
膜ろ過を行うと原水中の無機物による膜ファウリングが発生することがある。原水中の無機物によるファウリングとは鉄やマンガンやカルシウムが主成分であることが多い。一般的にこれら無機物による膜ファウリングを除去するためには、酸による洗浄が有効である。無機物によるファウリングが発生した膜は酸洗浄を行うことにより、効果的にファウリング物が除去され、膜のろ過抵抗を回復させることができる。しかし、酸洗浄後原水の膜ろ過を開始すると、酸洗浄を行う前に比べて急激な膜ファウリングが起きることがある。この現象について発明者等による鋭意検討の結果、酸洗浄後の膜は膜のゼータ電位が正になっており、この影響で負に帯電した原水中の微粒子が静電吸着により膜ファウリングし易い状態となり、急激な膜ファウリングが発生することがわかった。
この酸洗浄後の急激な膜ファウリングを防ぐ方法について、発明者等による鋭意検討の結果、酸洗浄後、薬液と膜とを接触させる方法などにより、膜のゼータ電位を負に戻してから、膜ろ過運転を再開することが、急激な膜ファウリング防止に非常に効果的であることがわかった。すなわち、本発明は、膜ろ過に使用される膜モジュールの運転方法について、膜ろ過運転を一時停止して膜を酸洗浄するに際し、酸洗浄後、薬液との接触により膜のゼータ電位を負に戻してから、膜ろ過運転を再開することを特徴とする。
ここで本発明において、膜ろ過される原水は無機系凝集剤を添加した水であることが好ましい。これは無機系凝集剤を添加した場合、無機系凝集剤自身が膜のファウリングとなって蓄積することがあり、その場合、酸による洗浄が非常に有効であるからである。
ここで、酸洗浄時の酸の種類としては無機酸や有機酸が使用可能である。無機酸としては、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、亜硫酸水素ナトリウム等が使用できる。また有機酸としては、クエン酸、シュウ酸等が使用可能である。酸洗浄時の酸の濃度としては数十mg/l〜数万mg/lの範囲が好ましい。
ここで、膜を酸洗浄する方法としては、逆流洗浄水に酸を添加する方法や、原水側またはろ過水側から酸溶液を膜モジュールに供給し、一定時間膜と酸溶液と接触させた後に薬液を排出し、膜ろ過運転を再開する手法等がある。
酸洗浄後の薬液との適切な接触時間は、薬液の種類や膜の種類、原水の種類によって様々である。薬液との接触時間が長すぎると、膜ろ過運転を停止する時間が長くなり、装置の稼働時間が短くなるため、膜ろ過装置の生産水量が減り、経済的に不利となる。また薬液との接触時間が短すぎると、膜が十分に負荷電状態にならず、ファウリング抑制効果が不十分となる。また薬液に十分な耐性を持たない膜の場合、薬液との接触時間を必要最低限にすることは、膜モジュールの寿命を長くする点で重要である。
よってこの課題を解決するため本発明では、膜のゼータ電位測定結果に基づいて、膜のゼータ電位が−5mV以下となる時点で、膜を負荷電に戻す薬液との接触を終了し、原水の膜ろ過を再開することが好ましい。薬液との接触終了時の膜のゼータ電位は負であれば良いが、−5mV以下であるほうがよりファウリングが抑えられるため好ましい。
膜のゼータ電位測定結果を得るためには、実際に薬液と接触させている際の膜モジュールの膜のゼータ電位を測定することが好ましいが、予め実験室等で小型の膜を使った模擬テストを行い、薬液との接触時間により、どのように膜の荷電状態が変化するかを測定し、実機の膜ろ過装置の薬液接触時間を決定しても良い。また、膜ろ過装置においてオンラインにて、膜間電位と膜間差圧を測定することにより膜のゼータ電位を算出することも可能である。オンラインによる膜のゼータ電位測定は、薬液を膜に原水側からまたはろ過水側から膜を通して流すことによって測定可能であるが、薬液のpHが原水のpHと異なると、原水pHにおけるゼータ電位を測定することができない。この場合、予めpHと膜のゼータ電位との関係を測定結果より把握しておき、換算式によって原水pHのゼータ電位を推定することが可能である。また原水pHと同じpHの膜ろ過水等の清澄水を原水側からまたはろ過水側から膜を通して流すことによっても、膜のゼータ電位測定が可能である。
本発明においては、酸洗浄後、薬液との接触により膜のゼータ電位を負に戻す薬液接触条件を、膜のゼータ電位測定結果に基づいて決定することが好ましい。膜のゼータ電位測定結果に基づくことで、効率よく薬液接触条件を決定することができるためである。また、この際の当該薬液接触条件は、薬液の種類、薬液の濃度、薬液と膜との接触時間、から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。これらを最適化することにより膜ろ過運転や膜ろ過装置の経済性を高めることが可能となる。
本発明において用いられる、膜と接触させて膜を負荷電状態に制御する薬液、および膜のゼータ電位を負に戻す薬液は、次亜塩素酸ナトリウム溶液またはアルカリ溶液であることが好ましい。これらの薬液は膜を負荷電状態に制御したり戻したりするだけでなく、膜モジュールの洗浄効果も期待することができる。ここでアルカリ溶液としては、例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムといった無機アルカリ性化合物の溶液が使用可能である。
原水に薬液を添加し、膜ろ過水を生産しながら薬液と膜を接触させる場合は、薬液濃度は0.1mg/l〜数十mg/lが好ましい。それ以外の方法では、薬液の濃度は数十mg/l〜数万mg/lであることが好ましい。これら薬液との接触時間は数分〜数時間であることが好ましく、数分〜数十分であることがより好ましい。
本発明においては、膜ファウリング抑制効果を高めるため、膜ろ過される原水の粒子のゼータ電位を負に保ちながら、膜ろ過運転を行うことが好ましい。これは、膜の荷電状態を負に制御している関係で、正に帯電した原水中の微粒子が膜でろ過されると膜ファウリングが急激に発生する恐れがあるためである。原水中の粒子には、一般的に土砂等由来の無機系微粒子や、微生物や藻類といった生物系由来の有機系粒子がある。ゼータ電位を負に保つ方法としては、原水にアルカリ溶液を添加して、原水のpHをアルカリ側に制御する方法や、アニオン系の有機高分子凝集剤を原水に添加する方法や、原水に直接電気的に電場をかけ、原水中の粒子を負に帯電させる方法がある。
また、本発明においては、膜ろ過される原水に凝集剤を加えて凝集フロックを形成し、該凝集フロックのゼータ電位を−10mV以上0mV未満の範囲に制御することが好ましい。凝集フロックのゼータ電位が−10mV未満であると荷電中和が十分に起こらず、反発力を保ったままコロイド粒子が浮遊するため、凝集不十分となり易く、膜ファウリングを十分に抑制することが困難である。また凝集フロックのゼータ電位が0mV以上となると、膜のゼータ電位が負である膜への付着力が急激に上昇し、ファウリングが促進される。凝集フロックのゼータ電位はさらには、−5±2.5mVの範囲内であることが、より好ましい。これは、凝集フロックのゼータ電位を0mVに近づけすぎて制御すると、原水水質の変化によって凝集フロックのゼータ電位の制御が誤って0mV以上となる危険性があり、凝集フロックのゼータ電位が0mV以上になると、急激に膜ファウリングが起こりやすくなるためである。
ここで、凝集フロックのゼータ電位は、電気泳動光散乱装置(ELS−8000:大塚電子(株)製)などの表面電位測定装置を用い、凝集フロックの電気泳動による移動速度から測定することができる。また、一定圧力で凝集処理水を押し流した際に電極間に発生する電位を測定することにより得られる流動電位から、Helmholtz−Smoluchowskiの式(式1)を用い、凝集フロックのゼータ電位を算出する方法によって求めることもできる。流動電位は、コロイド粒子電荷計(日本ルフト社製)などの流動電位測定装置により測定を行うことができる。
また、原水を凝集処理する際に注入する凝集剤としては、例えば、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム(PACl)等のアルミニウム塩や、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄等の鉄塩等の無機凝集剤を用いることができる。またこれらの無機凝集剤とともに、有機高分子凝集剤を凝集補助剤として併用することもでき、この併用により極めて良好な凝集処理を行うことができることがある。なお、原水pHの調整には、硫酸や塩酸や硝酸といった無機酸溶液や、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムといった無機アルカリ溶液等の添加を行っても良い。
原水と凝集剤との凝集攪拌を行う方法としては、急速攪拌槽のみを設置して攪拌してもかまわないし、急速攪拌槽の後段に緩速攪拌槽を設置しても良い。攪拌手段としては、攪拌翼を用いる攪拌手段や水路を迂回させて攪拌する手段等の一般的な撹拌手段を用いてもよい。また、攪拌槽を設けず、配管内でポンプやスタティックミキサーを用いて、原水と凝集剤とを攪拌しても良い。
また、凝集水は、沈殿処理、加圧浮上処理および砂、その他のろ材を用いたろ過等で懸濁物質を除去した後に、ろ過膜モジュールに供給しても良い。
ここで、膜モジュールに使用するろ過膜としては、ろ過機能を有する多孔質膜であれば特に限定しないが、セラミック等の無機素材や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエーテルスルホン、ポリ塩化ビニールからなる群から選ばれる少なくとも1種類の重合体を含んでいる多孔質膜が挙げられる。さらに膜強度や耐薬品性の点からはポリフッ化ビニリデン(PVDF)製多孔質膜が好ましく、親水性が高く耐汚れ性が強いという点からはポリアクリロニトリル製多孔質膜が好ましい。膜の細孔径については特に限定されず、精密ろ過膜であっても限外ろ過膜であってもかまわない。また、ろ過膜の形状としては、中空糸膜であっても平膜であっても差し支えない。
膜モジュールの構造を、中空糸膜モジュールを一例に挙げて説明する。膜モジュールは多数本の多孔質中空糸膜束の少なくとも片端部を、接着剤で膜透過水を集める容器内に接着固定し、その接着固定部分を開口した構造とし、中空糸膜面によって原水を固液分離できる構造ならば、特に形状は限定されない。
(実施例1)
外圧式PVDF限外ろ過中空糸膜モジュールHFU−1010(東レ(株)製)を1本使用して、図1に示したフローにて以下の条件で実験を行った。
海水を原水とし、ろ過流速1.5m/(m・d)、全量ろ過方式かつ定流量ろ過方式にて、膜ろ過を30分間行った後、この中空糸膜のろ過水を使って1分間、逆洗流速2.0m/(m・d)での逆流洗浄と25l/分での空気洗浄を同時に行い、その後膜モジュール内の水を排水し、再びろ過を行うという工程を繰り返した。
この繰り返しとは別に、2日に1度、次の方法で酸洗浄を行った。ろ過水貯留槽5の膜ろ過水を逆流洗浄ポンプ6によって逆流させると同時に、酸貯留槽9の硫酸溶液を酸注入ポンプ10によって硫酸200mg/l(pH3)となるように逆流水に添加し、酸溶液(pH3)による2分間の逆流洗浄を行った後、膜と酸溶液を20分間浸漬接触させた。
酸洗浄後、膜ろ過水を1分間逆流洗浄するリンスを1回行った後、薬液貯留槽7に貯留された次亜塩素酸ナトリウム水溶液を薬液注入ポンプ8によって膜ろ過水に次亜塩素酸ナトリウムが50mg/lとなるように添加し、この膜ろ過水によって1.5分間逆流洗浄を行った。逆流洗浄実施後、膜と次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを10分間浸漬接触させた。その後、膜ろ過水を1分間逆流洗浄するリンスを2回行い、その後膜ろ過運転を再開した。
酸溶液と膜の接触後の、次亜塩素酸ナトリウム水溶液と膜の接触時間は、予め本膜モジュールと同一膜でできた小型膜でラボテストを行った際の膜ゼータ電位測定結果(図2)から、−5mV以下になる接触時間を求めて決定した。このラボテストは限外ろ過膜でろ過処理を行った海水に硫酸を200mg/lになるように添加してpH3とし、この酸溶液に小型膜を20分間浸漬させ、その後蒸留水で小型膜を数回すすいだ後に、所定時間次亜塩素酸ナトリウム50mg/l水溶液に浸漬させ、再び蒸留水で小型膜を数回すすいだ後に、小型膜のゼータ電位を電気泳動光散乱装置にて、原海水と同一pHにて測定することにより行った。この結果、酸溶液と20分間接触させた直後の小型膜のゼータ電位は+3mVであり、次亜塩素酸ナトリウム水溶液と5分間接触させた後は−3mV、10分間接触させた後は−9mVであった。この結果から、酸溶液と膜を接触させた後の次亜塩素酸ナトリウム50mg/l水溶液との接触時間は10分間に設定することにした。
酸洗浄と次亜塩素酸ナトリウム水溶液への浸漬が終了した後、膜ろ過運転を再開した直後の膜の一部を膜モジュールからサンプリングし、ゼータ電位を測定したところ、膜のゼータ電位は−10mVであった。なお、膜モジュールのサンプリングした部分は、接着剤を使って補修した。
この2日に1度の酸洗浄と次亜塩素酸ナトリウム水溶液との繰り返しとは別に、1日1度、次の方法で次亜塩素酸ナトリウム洗浄を行った。この洗浄では、次亜塩素酸ナトリウムが300mg/lとなるように添加した膜ろ過水による逆流洗浄を1.5分間行った後、膜と次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを20分間接触させた。次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄後は、膜ろ過水を1分間逆流洗浄するリンスを3回行った。この次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄直後に膜の一部をサンプリングし、ゼータ電位を測定したところ、膜のゼータ電位は−12mVであった。なお、膜モジュールのサンプリングした部分は、接着剤を使って補修した。
運転を開始した初期の膜間差圧は、25℃温度補正膜間差圧で20kPaであった。酸洗浄時の膜間差圧の推移の例を図3に示す。酸洗浄によって膜間差圧は低下し、酸洗浄後も急激な膜間差圧上昇がなく膜間差圧は安定に推移した。膜ろ過1ヶ月間運転を行った後の膜間差圧は25℃温度補正膜間差圧で40kPaであり、安定した運転を続けることが可能であった。なお、ここで25℃温度補正膜間差圧とは、膜間差圧は温度によって変化する水の粘度に比例するため、水温25℃の膜間差圧に補正した値を意味する。膜ろ過試験期間中に数回、膜の一部をサンプリングし、膜のゼータ電位を測定したところ、ろ過運転開始直後は−12mVであり、その後も常に−10mV±3mVであった。なお、膜モジュールのサンプリングした部分は、サンプリングする毎に、接着剤を使って補修した。なお、膜のゼータ電位測定は全て、電気泳動光散乱装置(ELS−8000:大塚電子(株)製)を用いて行った。
上述の通り、膜のゼータ電位を常に負荷電状態に制御しながら膜ろ過運転を行ったことにより、膜ろ過運転を1ヶ月継続した後も、膜間差圧が25℃温度補正膜間差圧で40kPaであり、安定した運転を続けることができた。
(比較例1)
図1に示したフローにて実験を行ない、実施例1で酸洗浄直後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液50mg/lを添加した膜ろ過水で逆流洗浄を行い、膜と次亜塩素酸ナトリウム溶液と10分間接触させ、リンスを行うという一連の操作を除いた以外は同一条件として膜ろ過運転を行った。
運転を開始初期の膜間差圧は25℃温度補正膜間差圧で20kPaであった。酸洗浄時の膜間差圧の推移の例を図4に示す。酸洗浄直後は、膜間差圧は低下する傾向が見られたが、酸洗浄後に膜ろ過運転を開始したところ急激な膜間差圧の上昇がおき、酸洗浄前よりも膜間差圧が上昇してしまう傾向が見られた。酸洗浄直後に膜の一部をサンプリングし、ゼータ電位を測定したところ、膜のゼータ電位は+3mVであった。なお、膜モジュールのサンプリングした部分は、接着剤を使って補修した。1ヶ月間運転を行った後の膜間差圧は25℃温度補正差圧で150kPaに達し、膜ろ過運転を続けることが困難となった。膜ろ過試験期間中に数回、膜の一部をサンプリングし、膜のゼータ電位を測定したところ、ろ過運転開始直後は−12mVであったが、1ヶ月間運転後は、−2mVまで上昇していた。なお、膜モジュールのサンプリングした部分は、サンプリングする毎に、接着剤を使って補修した。
上述の通り、酸洗浄の後に膜のゼータ電位が正荷電状態となったにも関わらず、負荷電状態に制御せず膜ろ過運転を行ったことにより、膜ろ過運転を1ヶ月継続した後、膜間差圧が25℃温度補正膜間差圧で150kPaに達し、膜ろ過運転を続けることができなかった。
本発明は、原水の膜ろ過処理を行うための膜モジュールを膜ろ過運転する際に適用される。さらに詳しくは、上水道における飲料用水製造分野、工業用水、工業用超純水、食品、医療といった産業用水製造分野、都市下水の浄化および工業廃水処理といった下廃水処理分野や海水淡水化逆浸透膜前処理などに使用される膜モジュールを用いた水処理方法に適用されるが、これらに限られるものではない。
1 原水槽
2 供給ポンプ
3 膜モジュール
4 ろ過水配管
5 ろ過水貯留槽
6 逆流洗浄ポンプ
7 薬液貯留槽
8 薬液注入ポンプ
9 酸貯留槽
10 酸注入ポンプ
11 逆止弁
V1 ろ過水弁
V2 エア抜き弁
V3 排水弁
V4 洗浄水弁

Claims (6)

  1. 膜ろ過に使用される膜モジュールの運転方法について、膜ろ過運転を一度停止して膜を酸洗浄するに際し、酸洗浄後、膜のゼータ電位測定結果に基づいて、膜のゼータ電位が−5mV以下となる時点まで薬液と接触させた後に、膜ろ過運転を再開することを特徴とする膜モジュールの運転方法。
  2. 膜のゼータ電位測定結果に基づいて、膜のゼータ電位を−5mV以下とする薬液接触条件を決定することを特徴とする請求項に記載の膜モジュールの運転方法。
  3. 薬液接触条件が、薬液の種類、薬液の濃度、薬液と膜との接触時間、から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項に記載の膜モジュールの運転方法。
  4. 薬液が次亜塩素酸ナトリウム溶液またはアルカリ溶液であることを特徴とする請求項のいずれかに記載の膜モジュールの運転方法。
  5. 膜ろ過される原水中の粒子のゼータ電位を、原水にアルカリ溶液を添加して原水のpHをアルカリ側に制御する方法、アニオン系の有機高分子凝集剤を原水に添加する方法、または原水に直接電気的に電場をかけて原水中の粒子を負に帯電させる方法によって負に保ちながら、膜ろ過運転を行うことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の膜モジュールの運転方法。
  6. 膜ろ過される原水に凝集剤を加えて凝集フロックを形成し、該凝集フロックのゼータ電位が−10mV以上0mV未満の範囲となるように、原水にアルカリ溶液を添加して原水のpHをアルカリ側に制御する方法、アニオン系の有機高分子凝集剤を原水に添加する方法、または原水に直接電気的に電場をかけて原水中の凝集フロックを負に帯電させる方法によって制御することを特徴とする請求項に記載の膜モジュールの運転方法。
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