近年、HV(Hybrid Vehicle)車に続き、世界各国で電気自動車(EV: Electric Vehicle)の本格的な実用化が進みつつある。こうしたなかSiC半導体デバイスを使用した小型、高性能、かつ安価な絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT: Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールの研究開発が進められている。
第1世代のIGBTモジュールでは、当初、絶縁回路基板としてDBC(Direct Bonded Cupperセラミック基板に、導電性の優れたCuを回路層として接合したもの。)が用いられていたが、より厳しい使用環境で使用することができ、より寿命が長いDBA(Direct Bond Aluminum。セラミック基板に、導電性の優れたAlを回路層として接合したもの。)が用いられるようになって実用化された。その後、放熱基板とサーマルグリスを省略し、DBAと冷却器をAlパンチングメタルで接合した構造を採ることで第1世代のIGBTモジュールに比べて熱抵抗を30%低減した第2世代のIGBTモジュールが実用化された。
第3世代のIGBTモジュールは、Si半導体デバイスの両面にCu薄板の放熱基板電極をはんだ付けした両面冷却構造を有しており、Si4N3セラミック(以下SiNと称す)薄板により半導体デバイスが絶縁され、硬質樹脂からなる絶縁グリスにより冷却器と接合される。こうした新しい構造を採ることにより、第1世代のIGBTモジュールに比べて熱抵抗を65%低減し、第2世代のIGBTモジュールに比べて熱抵抗を50%低減した、優れた冷却性を有するIGBTモジュールが実用化された。
Al2O3、AlN、SiN等のセラミック基板により絶縁性を担保するDBCやDBAの構造では、その上下面に他の部材をハンダ付けして接合するための金属層が設けられている。こうした構造では接合部分が多いため、金属層が剥離したりセラミック基板に割れが生じたりしやすく信頼性に問題がある。また高価でもある。これらの点を解決するために更なる開発が行われているが、依然として同じ問題が存在している。
また、熱抵抗を低くするためにAl2O3、AlN、SiN等の薄いセラミック基板の上下両面に絶縁樹脂のグリスを配して各部材に接合する構造では、グリスの流出(ポンプアウト現象)を生じさせないために硬質樹脂が用いられる。こうした構造では、加圧下で繰り返し温度を上昇、下降させるヒートサイクルテストを行うと、薄いセラミック基板で割れ等の劣化が起こる問題がある。熱抵抗が大きく、また高価であるという問題もある。
こうしたことから、冷却器等との接合のための金属層や硬質樹脂からなる絶縁グリスとともに用いられるセラミック基板では、熱伝導性を向上(熱抵抗を低下)するために薄くする方向にある。しかし、その結果、半導体モジュールの製作時や加圧下でのヒートサイクルテストで部分的に偏った圧力がかかり割れが起こる問題がある。また、接合部が多く剥離しやすいという問題もある。さらに、はんだや蝋材にAgを含む場合は、Agがセラミック内部を移動する現象(マイグレイション現象)が起こることにより絶縁破壊が起こるという問題が生じたり、セラミックの種類によっては湿度が高くなると劣化で絶縁性が担保されなくなったりするという問題がある。このマイグレイション現象や湿度による劣化は、セラミック基板が薄くなるとより起こりやすくなる。こうした問題が生じると絶縁部材として所期の特性が得られなくなり、また信頼性も低下する。そのため、使用可能なセラミックの種類や厚さが限定される。
既に、両面冷却構造を有する第3世代のIGBTモジュールでは、冷却性能の向上や、サーマルグリスと放熱基板、DBA、あるいはリードフレム等を省略することにより冷却性能や信頼性の向上が図られている。しかし、薄いSiNの薄板と硬質樹脂の絶縁グリスの組み合わせにより絶縁する構造であり、開示されている半導体IGBTモジュールの資料から推定すると熱抵抗が熱路全体の65%と高く、サーマルグリスと放熱基板等の部材を省略した効果が出ていない。両面冷却構造の1本の熱路は半導体デバイス(発熱側)・はんだ・放熱基板電極・絶縁部材層・冷却器(冷却側)と簡素化された構成になっている。しかし、絶縁層の熱抵抗が高いことが顕在化している。これが冷却性の向上の障害になっていることは明らかである。
従来、開示されているいずれのIGBTモジュールでも、IGBTモジュールを構成する部材間の熱接触抵抗が考慮されていない。そのため、各部材を構成する材料の熱伝導率と各部材の大きさから計算される熱抵抗値と実際の温度分布とが一致していない。第3世代のIGBTモジュールでは、DBA、放熱基板、サーマルグリス、及びリード線が省略され、更に両面冷却構造にすることで大幅な冷却性と信頼性の向上を実現している。このIGBTモジュールでは、熱路が発熱体(半導体デバイス)、絶縁部(はんだ・放熱基板電極・絶縁関連層)、冷却体(冷却器)から構成されるが、依然として絶縁部の熱抵抗が熱路全体の熱抵抗の大半を占めている。
以上を踏まえると、絶縁部材の開発において、該部材を構成する材料の特性を考慮するだけでは十分でなく、実際の使用を想定した、放熱基板電極(発熱側)や冷却器(冷却側)に接合された状態での熱接触抵抗を考慮する必要があることが分かる。また、半導体モジュールへの実装を考慮すると、絶縁部材は、接合する放熱基板電極と同程度の大きさと一定程度の厚さを有する必要がある。またその厚さの範囲は0.2〜3.0mmの範囲内であることが望ましい。これよりも薄いと絶縁性を確保することができない可能性があり、また各部材の寸法のバラツキを補正する機能が不足する。また、これよりも厚いと加圧下でのヒートサイクルテストで内部破断が起こりやすくなる。本発明は、こうした課題を解決すべくなされたものである。
また、次世代の電気自動車に搭載することを念頭に、車載用の第4世代のIGBTモジュールでは、1/4程度の大きさに小型化したり、モーターに内蔵したりするなどの開発が進められている。第4世代のIGBTモジュールでは、SiC半導体デバイスの性能を最大限引き出すため、半導体デバイスの動作時の最高温度が300℃に達すると見込まれている。その一方、最高動作温度が300℃に達する半導体デバイスから発せられる熱を放出するような熱路を構成するのは難度が高く、熱路以外の部材の開発との歩調を合わせる必要もある。このため、半導体デバイスの最高動作温度を200℃、250℃、300℃と段階的に上昇させつつ絶縁部材の熱抵抗を低減(熱伝導率を向上)してIGBTモジュールを開発していくことが望まれている。
上述した第3世代のIGBTモジュールでは2本の熱路が構成されるため、各熱路では放出を要する熱量の半分を放出すればよい。また、第3世代のIGBTモジュールでは、半導体デバイスが放熱基板電極を介して絶縁部材に接合されるため、両者を直接接合する場合に比べて絶縁部材の温度上昇が抑制される。従って、絶縁部材の一部に樹脂材料を用いることが可能である。特に、熱伝導率の高いCu(熱伝導率393W/m・K)を主たる材料とする放熱基板電極や、金属とダイヤモンドを主たる材料とする放熱基板電極(例えば熱伝導率800W/m・Kの放熱基板電極)を用いることにより、絶縁部材の温度負担を更に抑制することができる。
そこで、DBCやDBAよりも安価で柔軟性があり、大型化も容易な樹脂材料を用いた絶縁部材の開発が行われてきた。そのような絶縁部材について、従来、提案されているものを本発明者が調査した結果を以下に説明する。
特許文献1及び2には、SiN等のセラミックやダイヤモンドといった高熱伝導性材料を、シリコーン樹脂等の樹脂材料に分散させたシート状の絶縁部材が記載されている。以下、このように芯材の内部に分散配置される材料を「フィラー」とも呼ぶ。
特許文献3には、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂からなり可撓性を有する絶縁シートの厚さ方向に、SiNやダイヤモンド等の高熱伝導性材料の柱状体を貫通させ、その端部をシート表面から露出させたシート状の絶縁部材が記載されている。以下、このように芯材を貫通するように配置(縦型配置)される材料を「ポール」とも呼ぶ。この絶縁部材は熱伝導率が高く(材料としての熱伝導率25W/m・K以上)、電気絶縁性を有する(電気絶縁抵抗率1012Ω・cm以上)と記載されている。また、その表面にハンダバンプを設け、該ハンダバンプを介して冷却器の金属部材等に接合することが記載されている。
特許文献4には、耐熱性樹脂やガラス中にダイヤモンド粒子のポールを配した主層と、該主層の表裏面に配置された金属からなる高熱伝導体層とを有し、主層に配したダイヤモンド粒子を該主層の表裏面から突出させて高熱伝導体層に食い込ませた構造の絶縁部材が記載されている。
特許文献1及び2のように、樹脂材料の内部に高熱伝導率のセラミックやダイヤモンドのフィラーを分散配置して熱伝導率を高めた絶縁部材(主にシート状のもの)は、従来、多数提案されている。しかし、フィラーによる熱伝導率の上昇効果はそれほど大きくない。また、フィラーの量を多くするにつれてシート材の柔軟性が失われて脆くなり、被接合部材(放熱基板電極や冷却器など)との接合性も悪くなる。柔軟性のあるグリス状の樹脂材料を用いることにより脆くなることを防止したり被接合部材との接合性を高めたりすることはできるものの、半導体モジュールに絶縁部材を実装した状態を想定したヒートサイクルテストにおいて加圧下で温度変化が繰り返されると、樹脂材料が流出するポンプアウト現象が起こってしまう場合がある。
上記のような構成の絶縁部材に関しては、絶縁樹脂材料の種類、高熱伝導性絶縁材料(フィラーやポール)の種類、形状、配置形態といった要素の組み合わせを適宜に変更したものが提案されている。樹脂材料としては、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂などが用いられている。高熱伝導性絶縁材料には、Al2O3、AlN、SiN、BN、あるいはh-BN(六方晶窒化ホウ素)といったセラミックや、ダイヤモンドなどが用いられている。上述のとおり、分散配置構造はフィラーを樹脂材料の内部に均一分散したものである。縦型配置構造には樹脂材料の厚さ方向に貫通し表面から露出するようにポールを配置した構造のものがある。また、高熱伝導性絶縁材料からなる基板(すなわち、芯材を使用しないもの)も一種の縦型配置構造とみなすことができる。
シート状の樹脂材料を用いる場合には、ロール加工時の加工性を考慮して50μm以下の比較的小さな粒子をフィラーとして使用しネットワーク化しているが、加工時にフィラーのネットワークが破壊されて欠陥になりやすいという問題がある。このような欠陥が生じた絶縁部材について、実際に半導体モジュールに組み込まれた状態を想定して加圧下でのヒートサイクルテストを行うと劣化し、該絶縁部材に接合されている部材が剥離する。また、ヒートサイクルテスト後に絶縁耐圧テストを行うと、欠陥部分でアーク放電の雪崩現象が起こり絶縁破壊に至る。さらに、これらに伴って熱伝導率も低下する。樹脂材料の内部にフィラーを分散配置した絶縁部材の中には実用化されているシート状のものがあるものの、それらの熱伝導率は2W/m・K以下であり、家電製品や産業用の小型の低性能のIGBTモジュールにおける使用に留まっている。
特許文献3に記載の放熱シートでは高い熱伝導率が得られるとされている。しかし、絶縁材料シートの表面に露出させたセラミックやダイヤモンドと、放熱シートに接合される放熱基板電極や冷却器の金属部材はいずれも硬質かつ高融点の材料であるため、両者を接触させても通常の温度では接合されない。また、表面にハンダバンプを設け、冷却器の金属部材等と部分的に接合する方法も提案されているが、セラミックやダイヤモンド(線膨張係数2.5〜6.5ppm/K)と金属(線膨張係数17〜23ppm/K)では線膨張係数の差が大きく、半導体モジュールに組み込まれた状態を想定した加圧下でのヒートサイクルテストを行うと、ハンダの亀裂や破断が生じたり、ポールと樹脂材料の界面で歪みが生じたりして両者が剥離する。さらに、ヒートサイクルテスト後に絶縁耐圧テストを行うと絶縁破壊が起こる可能性がある。
特許文献4に記載の絶縁部材では、耐熱性樹脂やガラスからなる接合層に複数のダイヤモンド粒子のポールを配置して表面から突出させた絶縁体層を構成し、それらのダイヤモンド粒子を硬質の材料である金属(Al, Cu, Ag等)からなる高熱伝導体層に食い込ませているが、金属とダイヤモンドでは線膨張係数の差が大きいため、ヒートサイクルテストを行うと熱応力により両者が剥離する心配がある。また、ダイヤモンドが破損して欠陥を生じさせる可能性もある。また、ガラスの熱伝導率は1W/m・K程度と低いため、接合層にガラスを用いた絶縁部材では十分な放熱効果を得ることができない。加えて、ガラスは脆く破損しやすいという問題もある。
先行技術の調査から分かるように、従来行われているのは絶縁材料の開発であり、そうした絶縁材料を用いた絶縁部材を他の部材と接合することも提案されているが、加圧下でのヒートサイクルテスト後に所要の特性を満たすものではない。特に、絶縁部材には、取り扱いが簡単であり、また安価であることが求められているが、従来の絶縁部材には以下のような問題がある事が分かった。
樹脂は、金属やセラミックよりも明らかに柔軟であり、高い絶縁性と接合性を有している。しかし、熱伝導率が0.25W/m・K程度であり、これは硬質木材並みの低い値である。そのため、樹脂材料の種類、形態(シート状やグリス状)、あるいは硬さを変えても熱伝導率が大きく向上することはない。硬質の樹脂材料は柔軟性、流動性、密着性、接合性が低く、接合される冷却器の金属部材等との剥離が起こりやすいものの、加工後の形状を維持したり、ポンプアウト現象を防止したりするには有用である。そのため、一部のグリス材でもポンプアウト現象を防止するために硬質の樹脂材料が使用される。
フィラーやポールを構成するセラミックやダイヤモンドは高熱伝導性、高絶縁性、及び高耐熱性を有しているが脆く、また硬質の材料であることから、放熱基板電極や冷却器の金属部材等との接合性が低い。絶縁樹脂中に高熱伝導性絶縁材料を導入してなる絶縁樹脂複合材料の熱伝導率を向上させるには、樹脂材料にフィラーを分散配置するよりもポールを縦型配置する方が、少量で高い効果が得られる。樹脂材料とフィラーの組み合わせで絶縁部材を作製する場合、分散配置ではフィラー割合を非常に多くしないと熱伝導性を向上する効果が得られにくい。しかし、上述のとおり、高熱伝導性絶縁材料(ダイヤモンドやセラミック)の割合を多くすると脆くなり、また加圧下でのヒートサイクルテストや絶縁耐圧テスト(以下、これらをまとめて「ヒートサイクルテスト等」とも記載する。)による評価時に劣化が起こり、特性が大きく低下する問題がある。一方、樹脂材料からなる層にポールを貫通させて表面に露出させる縦型配置では、少量の高熱伝導性絶縁材料の使用でも熱伝導性を向上する効果が得られる。ただし、冷却器等を構成する金属部材との接合性が低く、ヒートサイクルテスト等による評価時に劣化が起こり、特性が大きく低下する問題がある。樹脂材料とダイヤモンドやセラミックは濡れ性が悪く、特にダイヤモンドやセラミックのポールを多くすると絶縁部材の作製時や完成品の評価時に劣化が起こり、特性が低下する問題がある。上述のとおり、縦型配置構造の一種とみなすことができる、高熱伝導性絶縁材料であるセラミックの薄板で構成される基板についても上記同様の問題がある。
本発明は上記の背景などを踏まえて成されたものであり、その目的とするところは、半導体モジュールへの実装を想定したヒートサイクルテストを行った後でも、絶縁耐圧テストに耐えうる十分な絶縁性と、高い熱伝導率とを有する高熱伝導性絶縁樹脂複合部材を提供することである。
上述のとおり、単純に樹脂材料と高熱伝導性材料の材料特性のみを考慮し、これらを組み合わせた絶縁部材を開発しても、半導体モジュールに実装されることを想定した加圧下でのヒートサイクルテスト等を行うと絶縁部材の使用実態に適合しておらず、所要の特性を得ることができていない。従来の方法では発熱体である半導体デバイスから冷却器に至る熱路の熱抵抗を低減することができず、実装時に所要の熱伝導性及び絶縁性を担保できる絶縁部材を得るという開発目標の達成は困難であることが分かった。
本発明者の開発目標は実用化可能な放熱基板電極(発熱側)と冷却器(冷却側)の部材に接合される、樹脂材料と高熱伝導性絶縁材料から構成される、安価で、絶縁性及び高熱伝導性(熱接触抵抗まで含む)を有する高熱伝導性絶縁樹脂複合部材を開発することである。
これまでに開発されてきた絶縁部材の問題点を解決するために、高熱伝導性及び絶縁性を有する主層の上下両面に、該主層を保護して劣化を防止するとともに、放熱基板電極や冷却器の金属部材等との接合性を向上させるための、柔らかく高い熱伝導率を有する樹脂材料からなる保護接合層を配置した構造の高熱伝導性絶縁樹脂複合部材を発案した。
新しい発想の高熱伝導性絶縁樹脂複合部材の元となる仮説を検証するために以下の実験を行った。併せて、既に実用化されている絶縁部材と比較するために、SiN基板の上下面に硬質グリスを配した(以下、こうした構成を「硬質グリス/SiN基板/硬質グリス」のように記載する。)試料(後記の試作品8)を、本発明者による開発品と同一寸法で作製し、両者を同一の基準で評価して特性を調べた。
分散配置構造はフィラーを絶縁樹脂材料からなる芯材の内部に均一分散させた構造である。縦型配置構造は高熱伝導性絶縁材料を厚さ方向に貫通させ表面に露出させた構造である。縦型配置構造には、樹脂材料と高熱伝導性材料(のポール)を組み合わせたもののほか、高熱伝導性材料からなる基板も含まれる。分散配置構造に比べると、縦型配置構造の方が少量の高熱伝導性絶縁材料で高い熱伝導率を有する絶縁部材が得られる可能性がある。芯材となる絶縁樹脂材料には、柔軟性を有し、他の部材の寸法のバラツキを吸収可能なものを用いることが好ましい。
試作品1〜6では、絶縁樹脂材料からなる芯材を厚さ方向に貫通して上下面に露出するようにポールを配置(縦型配置)した。高熱伝導性絶縁材料は1個のポール粒子が厚さ方向に配置されたものであってもよく、あるいは相互に接触する複数の粒子がネットワーク化してなる1つのポールが厚さ方向に貫通するように配置されたものであってもよい。また、ここでいう露出は、主層の表面からポールが確認できる状態をいう。つまり、ポールが主層の表面から突出した状態や表面と面一にある状態のほか、ポールの端部が表面から陥没した位置にある状態も含まれる。
ポールを構成する高熱伝導性絶縁材料には、各種材料の中でも最も高い熱伝導率を有するダイヤモンドを選択した。
絶縁性と高熱伝導性を兼ね備えた材料にはセラミックもあるが、今回の試作ではダイヤモンドのポールを用いた。ダイヤモンドは絶縁材料であり熱伝導率は2000W/m・Kと高い。これまで宝飾品のイメージから高価であると考えられ敬遠されてきたが、通常の大きさの工業用ダイヤモンド粒子の価格は他にフィラーとして用いられるAlNと同程度であり、またh-BNよりも安価である。既に、工業用のダイヤモンド粒子は、レーザ装置、あるいは光通信やマイクロ波通信用の装置における放熱基板として使用されているという実績があり、半導体モジュールの熱路の高熱伝導性絶縁材料として適しており、特性も優れている。
正確な測定データを得るためには主層を厚さ方向に貫通するポールが該主層の表面から露出する量を安定させる必要があり、そのためには寸法精度の高いものが必要である。安価に得られるという点では量産される工業用ダイヤモンド粒子が有利であるが、形状や寸法のバラツキが大きい。そのため、ここでは寸法精度の高さを優先し、CVD法で作製されたダイヤモンド基板から切断した1.1mm四方、厚さ0.7mmという大きさのチップ状のものを使用した。また、ダイヤモンド基板についても、同じ厚さ0.7mmのものを使用した。
主層の芯材となる絶縁樹脂材料には、これまでの報告を参考にしてシリコーン樹脂とエポキシ樹脂を選択した。樹脂材料の種類や形態は熱伝導率の向上にそれほど大きく影響しないが、その硬さは加圧下でのヒートサイクルテスト等における劣化やポンプアウト現象の有無に大きく影響を与える。硬質の方がポンプアウト現象には強いが、劣化に弱いため、以下のような確認を行なった。
なお、樹脂材料の硬さの測定には、ゴムやプラスチックの硬さを測定する際に多く用いられている株式会社テクロック社製のデュロメータ(JIS K 6253、JIS K 7215に準拠した測定機、測定される硬度値0〜100。非特許文献1参照)を用いた。この硬度値が70以上のものは硬質の樹脂材料に分類され、硬度値が30以下のものは軟質の樹脂材料に分類される。硬質の樹脂材料と軟質の樹脂材料のいずれにも該当しないものは硬度が中程度の一般樹脂材料とされている。
高熱伝導性絶縁樹脂複合部材の保護接合層を構成する材料については、加圧下でのヒートサイクルテストにおいて主層を劣化から保護し、またポンプアウト現象の発生を防止し、さらに被接合物との接合性を高めるという役割が求められる。保護接合層については、樹脂材料に高熱伝導性の絶縁性あるいは導電性のフィラーを分散配置した幾つかの樹脂複合材料を試して最適化を試みた。
樹脂材料の形態には、シート状のものとグリス状のものがあり、硬さにも硬質(硬度70以上)のものと軟質(硬度30以下)のものがある。また、絶縁性の樹脂材料と導電性の樹脂材料が存在する。
導電性の樹脂複合材料についてはシート状のもの及びグリス状のものを用いた。ポンプアウト現象が起こる柔らかい樹脂材料を使用する際には、保護接合層を構成する樹脂材料や樹脂複合材料のポンプアウト現象を防ぐための枠部材を使用した。一方、硬質の絶縁グリスではこうした枠部材を用いないことが一般的であるため、その実態に合わせて枠部材を使用しなかった。
高熱伝導性材料のフィラーとしては、これまでに報告されている絶縁性材料であるセラミックのAlN、BN、酸化アルミニウム、ダイヤモンド、及び導電性材料であるAg、Cu、Alカーボンの中から今回の実験に適したものを選んだ。
保護接合層を構成する樹脂材料には、これまでの報告を参考にしてシリコーン樹脂とエポキシ樹脂を選択した。種類や形態による熱伝導率への影響は小さいが、加圧下でのヒートサイクルテストにおける劣化やポンプアウト現象の有無に大きく影響をする。硬い(硬質)樹脂はポンプアウト現象を防止するために用いられる、その形態にはシート状のものとグリス状のものがある。
上述した主層及び保護接合層を構成する各種材料の特性を表1に示す。
既に述べたように、フィラーを分散配置するよりもポールを縦型配置する方が、少量で効率よく絶縁部材の熱伝導性を向上させることができる。また、高熱伝導性材料と被接合部材との接合性を考慮する必要があり、具体的には、加圧下でのヒートサイクルテスト後でも、絶縁耐圧テストに耐えうる十分な絶縁性と、高い熱伝導率とを有することが求められる。こうした課題を今回の提案で解決できるかを検証した。
実験は、原則として後述の実施例1により試作を行い評価や測定を行った。その結果の一部を表2に示す。また、詳細を表3に示す。
試作品1〜5のいずれについても、主層には、硬質のエポキシ樹脂に30vol%のダイヤモンド片のポールを縦型配置した樹脂複合材料を用いた。この主層の上下面に保護接合層をつけ、全体としてダイヤモンドを21vol%含有する高熱伝導性絶縁樹脂複合部材を作成し評価(ヒートサイクルテスト及び絶縁耐圧テスト)と特性測定(熱伝導率)を行った。
試作品1では、保護接合層を構成する高熱伝導性樹脂複合材料として、軟質のシリコーン樹脂にAgフィラーを50vol%分散してなるグリス状のもの(熱伝導率5W/m・K)を使用した。また、グリス状の軟質シリコーン樹脂がポンプアウト現象により流出するのを防止するための枠部材を使用した。試作品1では、ヒートサイクルテストと絶縁耐圧テストのいずれにおいても剥離や絶縁破壊は生じず、これらのテスト後に切り出した試験片について測定した熱伝導率も18W/m・Kと良好であった。この結果から、絶縁材料で構成した主層の上下面に樹脂複合材料からなる保護接合層を配置して該主層を劣化から保護し、また被接合部材との接合性を向上することが効果的であることを確認できた。また、30vol%(絶縁部を構成する主層におけるダイヤモンドの含有量。絶縁部材全体でのダイヤモンドの含有量は21vol%)という少量のダイヤモンドの使用で高い熱伝導率が得られた。保護接合層を構成する高熱伝導性樹脂複合材料として、軟質のシリコーン樹脂にAgフィラーを50vol%分散してなるグリス状のもの(熱伝導率5W/m・K)を使用したが問題はなかった。
試作品2では、保護接合層を構成する高熱伝導性樹脂複合材料として、硬質のシリコーン樹脂にAgフィラーを50vol%分散してなるグリス状のもの(熱伝導率5W/m・K)を使用した。試作品2でも、ヒートサイクルテストと絶縁耐圧テストのいずれにおいても剥離や絶縁破壊は生じず、これらのテスト後に切り出した試験片について測定した熱伝導率も13W/m・Kであった。ただし、熱伝導率は試作品1よりもやや低い値となった。
試作品3では、保護接合層を構成する高熱伝導性樹脂複合材料として、硬質のエポキシ樹脂にAgフィラーを50vol%分散してなるシート状のもの(熱伝導率5W/m・K)を使用した。試作品3でも、ヒートサイクルテストと絶縁耐圧テストのいずれにおいても剥離や絶縁破壊は生じず、これらのテスト後に切り出した試験片について測定した熱伝導率も11W/m・Kであった。また、ポンプアウト現象は起こらなかった。試作品3では平面度や平坦度の加工精度の良いシート状の樹脂複合材料を使用したが、シート材には流動性がないため被接合部材との接合性が悪く、試作品1よりも熱伝導率が低くなったと考えられる。
試作品4では、保護接合層を構成する高熱伝導性樹脂複合材料として、軟質のシリコーン樹脂にAlNフィラーを60vol%分散してなるグリス状のもの(熱伝導率5W/m・K)を用いた。試作品4では、グリス状の軟質シリコーン樹脂が流出するポンプアウト現象を防止するために枠部材を使用した。試作品4ではポンプアウト現象により劣化が生じる可能性が推測されたが、特性評価において問題は生じなかった。試作品4の断面を調べたところ、グリス状のシリコーン樹脂が流出するポンプアウト現象を防止するために設けた枠部材が、内部の劣化の修復に役立っているという新しい現象を発見した。AlNフィラーの含有量が60vol%と多かったが、ヒートサイクルテストと絶縁耐圧テストのいずれにおいても剥離や絶縁破壊は生じなかった。また、これらのテスト後に切り出した試験片について測定した熱伝導率は14W/m・Kであった。
試作品5では、保護接合層を構成する高熱伝導性樹脂複合材料として、硬質のエポキシ樹脂にAlNフィラーを60vol%分散してなるシート状のもの(熱伝導率5W/m・K)を用いた。試作品5では、ヒートサイクルテストを行った段階で被接合物である金属部材と保護接合層の界面に剥離が生じたため、絶縁耐圧テストと熱伝導率の測定は行わなかった。試作品5のヒートサイクルテストで剥離が生じたのは、60vol%という多くのAlNフィラーをエポキシ樹脂に分散し、これをシート状に加工した際にフィラーが破壊されたりネットワークが破断されたりして保護接合層の内部に欠陥が生じ、これに起因して評価時に劣化が起こったためであると考えられる。これは、シート状の硬質の樹脂材料と60vol%以上のAlNフィラーの組み合わせが実用化に適さない事を示唆している。
試作品6は比較のために作製したものであり、保護接合層を、軟質でグリス状のシリコーン樹脂のみ(熱伝導率0.25W/m・K)のみで構成した。また、グリス状のシリコーン樹脂の流出を防止するために枠部材を使用した。ヒートサイクルテストと絶縁耐圧テストのいずれにおいても剥離や絶縁破壊は生じなかったものの、これらのテスト後に切り出した試験片について測定した熱伝導率は1.4W/m・Kと低かったため、実用には適さない。
試作品7では、主層として40mm四方、厚さ0.7mmのダイヤモンド基板を用いた。保護接合層は試作品3と同じである。試作品7でも、ヒートサイクルテストと絶縁耐圧テストのいずれにおいても基板での剥離や絶縁破壊は生じず、これらのテスト後に切り出した試験片について測定した熱伝導率も103W/m・Kと良好であった。この結果から、絶縁材料で構成した主層(基板)の上下面に樹脂複合材料からなる保護接合層を配置して該主層を劣化から保護し、また被接合部材との接合性を向上することが効果的であることを確認できた。また、主層がダイヤモンド基板であっても高い熱伝導率が得られた。保護接合層を構成する高熱伝導性樹脂複合材料として、軟質のシリコーン樹脂にAgフィラーを50vol%充填してなるグリス状のもの(熱伝導率5W/m・K)を使用したが問題はなかった。非常に良好な結果であるがあまりにも高価である。
試作品8も比較のために作製したものであり、硬質グリス/SiN基板/硬質グリスという構造の絶縁部材である。試作品8ではヒートサイクルテストと絶縁耐圧テストのいずれにおいても剥離や絶縁破壊は生じなかった。しかし、これらのテスト後に切り出した試験片について測定した熱伝導率は1.8W/m・Kであった。
上記試作品1〜8の評価結果から、新しい発想に基づく高熱伝導性絶縁樹脂複合部材の検証結果を以下のようにまとめることができる。
絶縁部を構成する主層の上下面に、該主層を劣化から保護するとともに、被接合物との接合性を向上するための、軟質の高熱伝導率樹脂材料からなる保護接合層を設けると効果的である。
保護接合層を構成する高熱伝導性樹脂複合材料について、導電性のものではグリス状のものとシート状のもののいずれも有効である。絶縁性のものでは、ポンプアウト現象を防止するための枠部材を併用すればグリス状のものを用いることができる。なお、導電性でシート状の樹脂複合材料を用いる場合には、構成部材の精度、特に絶縁部材の上下面を構成する接合層の面精度等を高くしておくことが求められる。
今回の実験から、保護接合層に、グリス状で軟質の樹脂材料に多くのフィラーを充填した樹脂複合材料を用いた場合でも、ポンプアウト現象を防止するための枠部材を設けておけば問題が起きないことが新たに見出された。
比較のために作製した試作品8(硬質グリス/SiN基板/硬質グリス)の熱伝導率は1.8W/m・Kであった。この値は、300℃で動作する半導体デバイスを搭載した半導体モジュールへの実装を想定した絶縁材料に求められる熱伝導率の値よりも大幅に低い。
以上の実験を踏まえた本発明に係る高熱伝導性絶縁樹脂複合部材は、
a) 絶縁樹脂材料と1個又は複数個のセラミック片とを含む層であって該1個又は相互に接触する複数個のセラミック片が該層を厚さ方向に貫通し該層の表面から露出するように配置されてなる主層、またはセラミック基板からなる主層と、
b) 前記主層を保護し被接合部材との接合性を高めるために前記主層の表面及び裏面に配置された層であって、樹脂材料にフィラーを分散してなる熱伝導率が5W/m・K以上の樹脂複合材料により構成された保護接合層と
を備え、
厚さ方向に0.2kg/cm2の圧力を加えた状態で-40℃への冷却と150℃への加熱を100回繰り返すヒートサイクルテストにおいて前記主層と前記保護接合層の間に剥離が生じず、
前記ヒートサイクルテスト後に3.0kVのAC電圧を1分間印加する処理を3回繰り返す絶縁耐圧テストを行っても絶縁破壊が生じず、
前記ヒートサイクルテスト及び前記絶縁耐圧テストを行った後の熱伝導率が10W/m・K以上である
ことを特徴とする。
前記主層では、単一のセラミック片が主層を貫通するように配置されていてもよく、相互に接触することによりネットワーク化された複数のセラミック片が主層を貫通するように配置されていてもよい。即ち、1個又は複数個のセラミック片が上述のように縦型配置されたものであればよい(縦型配置構造)。セラミックが主層の厚さ方向に貫通する(主層の厚さ方向に熱路を構成する)という要件を同じく満たす、セラミック基板を主層として用いることもできる。なお、前記の縦型配置構造の場合、セラミック片としては粒状のもの、チップ状のもの等、種々の形態のものを用いることができる。
本発明に係る高熱伝導性絶縁樹脂複合部材において、前記主層に含まれる絶縁樹脂材料又は前記保護接合層に含まれる樹脂材料が軟化しやすいものである場合には
c) 前記主層又は前記保護接合層の外周に設けられた枠部材
を備えることが好ましい。
上記枠部材は、主層に含まれる絶縁樹脂材料と保護接合層に含まれる樹脂材料の特性に応じて配置を決めればよく、主層のみ又は保護接合層のみの外周に設けられていてもよいし、それら全ての外周を囲うように設けられていてもよい。
半導体モジュールに本発明に係る高熱伝導性絶縁樹脂複合部材を用いることにより、高い熱伝導性を有し、半導体デバイスの動作に伴う加圧下での温度変化(ヒートサイクル)が繰り返されても絶縁破壊、熱伝導性の低下、あるいは部材間の剥離が生じにくいという利点が得られる。
はじめに、上述した新しい発想の技術的思想に基づく高熱伝導性絶縁樹脂複合部材の技術的思想を説明する。なお、本発明に係る高熱伝導性絶縁樹脂複合部材として上記した具体的な構成はこの技術的思想に基づいて採りうる構成の一部であり、またその特性要件の値も、この技術的思想に基づいて構成し得る高熱伝導性絶縁樹脂複合部材が採り得る値を特に好ましい範囲に限定したものである。
1.構造と評価の考え方
上述の実験における試作品1〜8の評価結果から、高熱伝導性絶縁樹脂複合部材では、絶縁材料からなる主層に、該主層を保護し被接合物(放熱基板電極、冷却器の金属部材等)との接合性を高めるための、樹脂材料を芯材とする保護接合層を配置することが有効であることが見出された。
上記の結果から、新しい発想の技術的思想に基づく高熱伝導性絶縁樹脂複合部材の技術的思想を、
絶縁樹脂材料からなる芯材に、1又は複数のセラミック、ダイヤモンド等の高熱伝導性絶縁材料の個片を縦型配置又は分散配置してなる樹脂複合材料、又は高熱伝導性材料の基板からなる主層と、
前記主層を保護し被接合部材(放熱基板や放熱基板電極、あるいは冷却器の金属部材など)との接合性を高めるために該主層の表裏面に配置された層であって、樹脂材料(絶縁性樹脂の場合、その硬度50以下のもの、即ち硬度が中程度よりも軟質のものを用いる)に金属からなる導電性フィラーを分散配置してなる熱伝導率が3W/m・K以上の樹脂複合材料により構成された保護接合層を備え、
厚さ方向に0.2kg/cm2の圧力を加えた状態で-40℃への冷却と150℃への加熱を100回繰り返すヒートサイクルテストにおいて前記主層と前記保護接合層の間に剥離が生じず、
前記ヒートサイクルテスト後に3.0kVのAC電圧を1分間印加する処理を3回繰り返す絶縁耐圧テストを行っても絶縁破壊が生じず、
前記ヒートサイクルテスト及び前記絶縁耐圧テストを行った後の熱伝導率が5W/m・K以上である、と表現することができる。また、上述のとおり、必要に応じてポンプアウト現象を防止するための枠部材を適宜に設けるとよい。
2.主層
絶縁樹脂材料からなる芯材に、セラミックやダイヤモンドといった高熱伝導性絶縁材料に縦型配置(高熱伝導性絶縁材料を主層の厚さ方向に貫通させて該主層の表面に露出させた構造であり、複数個の高熱伝導性絶縁材料がネットワーク化して主層を貫通するものを含む)してなる樹脂複合材料、もしくは高熱伝導性絶縁材料の基板(これも一種の縦型配置に相当する)を主層として用いる。
主層を構成する絶縁材料は高熱伝導性絶縁樹脂複合部材全体としての絶縁性を確保する。しかし、半導体モジュールに実装する際に必要とされる加圧下でのヒートサイクルテスト等の評価において、構造が劣化して接合信頼性や特性の低下が起こる問題がある。これまではポンプアウト現象から硬質の樹脂にセラミック及びダイヤモンドを縦型配置した構造が望ましいとされていたが、上述した試作品の実験結果から、軟質の樹脂でもポンプアウト現象への対策の枠部材を設ければ使用が可能である。
高熱伝導性材料の個片には、粒状のもの、チップ状のもの等、種々の形態のものを用いることができる。また、該個片は、単一片が主層を貫通するように配置されていてもよく、相互に接触することによりネットワーク化された複数の片が主層を貫通するように配置されていてもよい。主層を貫通し、その表裏面から露出するように配置可能なものであれば、大きさについて細かな指定はない。
さらに、主層の厚さ方向に熱路を構成するという要件を満たすことができるという点で、高熱伝導性絶縁材料(セラミック、ダイヤモンド)の基板を主層として使用することができる。また、これらの基板から切り出したり分割したりしたものを用いることもできる。本願明細書では、これらの基板を主層に用いる場合を含めて縦型配置とする。セラミックは厚みが薄いものは熱抵抗が小さいが高価である。ダイヤモンドは厚くなると極端に高価になるので薄いものが選ばれる。
主層の厚さは、高熱伝導性絶縁樹脂複合部材全体の平均厚さに対して40%以上95%以下の範囲であることが好ましい。この範囲よりも薄いと絶縁耐圧が不足する可能性がある。また基板を使用する場合には劣化が起こりやすくなる。一方、この範囲よりも厚い複合樹脂材料を主層として用いると座屈が生じやすくなり、この範囲よりも厚い基板を主層として用いると信頼性が低下しやすい。さらに、ダイヤモンド基板の場合は高価になる。なお、この対策として金属やセラミックより柔軟な樹脂材料に高熱伝導性のフィラーを分散配置した樹脂複合材料からなる保護接合層を主層の表裏面に配置する構造を採ることによりこの問題を解決することができた。主層を構成する絶縁材料と、保護接合層を構成する樹脂材料の組み合わせの最適化が優れた開発品を生む。
主層には、絶縁性で高熱伝導性を有する材料から構成する樹脂複合材料からなるもの、もしくは基板を用いる。例えば、絶縁性の樹脂材料にポールを導入してなる樹脂複合材料を用いる場合、ポールが主層の縦方向(厚さ方向)に貫通するように配置(縦型配置)されて熱路を構成し、該ポールが主層の表面から露出した構成を採ることができる。ここでいう露出とは、主層を表面あるいは裏面から見たときに、ポールが見える状態を言い、該高熱伝導性絶縁材料が主層の表裏面から突出した状態や、表裏面から陥没した状態が含まれる。主層には、縦型配置には高熱伝導率絶縁材料からなる基板(セラミック基板等)を用いることもできる。
主層を樹脂複合材料から構成する場合、その芯材となる樹脂材料として、例えばシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、PPS樹脂等を用いることができる。その他の樹脂、ゴム、ガラス、オイルなどを使用することもできるが、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。なお、オイル等の液状の材料を芯材とする主層を構成する場合には、その上下に配置される保護接合層と枠部材で流出を防止するように構成すればよい。
また、樹脂材料の硬さはハードネスゲージを用いて測定される硬度0〜80の値で表される。また、この測定にはJIS規格があり、種々の樹脂やゴムの硬さが測定されているが種類が異なると硬度の値が同じでも感触が異なる等の問題がある。硬さ0は液状である。本発明者による調査から、硬さ5〜50の樹脂材料を用いる場合にはポンプアウト現象の対策のための枠部材を設ける必要がある。硬質の樹脂材料を用いるとポンプアウト現象が起こる可能性は低減されるが劣化や被接合物との接合性が低くなる可能性がある。また、形態はシート状のもの、グリス状のもの等、樹脂材料の形態は状況に応じて適宜に選択することができるが、主層を構成する樹脂複合材料はシート状のものが製造しやすく望ましい。
樹脂材料に細径の高熱伝導性絶縁物質を充填してなる樹脂複合材料を、該材料のポンプアウト現象を防止するための枠部材とともに用いる場合には、軟質の樹脂材料や硬度5〜50のグリス状の樹脂材料を用いることが望ましい。
高熱伝導性絶縁材料のポールとしてはセラミックやダイヤモンドを好適に用いることができる。また、最大寸法が1μm以上1000μm以下の粒子、チップ、鱗片体、破壊片等のものを用いることができ、またそれらを組み合わせて用いることもできる。1μm未満の粒子を用いると粒子の表面積が大きくなるため主層内に欠陥が発生する可能性が高くなる。一方、1000μmを超える大きさのものは高価である。薄いセラミック基板は熱抵抗が小さいが高価である。ダイヤモンドは厚くなると極端に高価になるので薄いものが選ばれる。
樹脂材料からなる芯材にポールを縦型配置する方法として、例えば以下のような方法が考えられる。
1つ目の方法(方法1)として、大きな1個のポールのチップや粒子が主層を貫通するように樹脂材料に充填し、これを主層の表面から露出させる製法である。この方法では、少ない量で熱伝導率を最も効率よく向上させることができる(後述の製造方法1に対応)。しかし、大きなポールは高価であり、また樹脂材料に正確に配置するために製造コストがかかるという問題がある。なお、本願明細書における「ポール」は、主層を厚さ方向に貫通しその表面から露出するように配置される個片を意味するものであって、円筒形状のものに限らず、球状等の他の形状であってもよい。
2つ目の方法(方法2)として、樹脂材料に大きなポールの粒子とダミーの粒子(Al2O3、AlN、樹脂、ガラス、ゴム等の粒子)を、両粒子の含有量の合計が50vol%以上となるように導入し、それを型に入れることによりポールを位置決めすることができる。粒子の含有量の比率を変えることでポールの含有量を増減することができる(後述の製造方法2に対応)。
3つ目の方法(方法3)は大きな高熱伝導性絶縁材料の粒子を使用しないでポールを製作する方法であり、これは上述の試作品3の作製過程で見出した方法とCuWやCuMoからなる部材の作製に用いられる含浸法を組み合わせた技術である。例えば、粒径が100μmと10μmである高熱伝導性絶縁材料の混合粒子を型に入れ、粒子が上下方向に接触したスケルトンを作り、そこに柔らかい樹脂を含浸させるというものである。高熱伝導性絶縁材料の含有を70vol%以上(粒径100μmの粒子と粒径10μmの粒子の混合比率は7:3であり、更なる最適化は実験により混合粒子の比率を求めることが可能である)とすることにより、高熱伝導性絶縁材料の粒子をネットワーク化し、主層の厚さ方向に貫通させ、その端部を表面から露出させることができる(後述の製造方法3に対応)。
方法3については、主層の作製だけでなく、ポンプアウト現象への対策のための枠部材を併用することにより高熱伝導性絶縁樹脂複合部材の全体を作製する方法として用いることもできる。ただし、絶縁部材が、半導体モジュールに実装して用いられるという実態に即した加圧下でのヒートサイクルテスト等を行った後でも、絶縁耐圧テストに耐えうる十分な絶縁性と、高い熱伝導率とを有することが求められる。ヒートサイクルテスト等による評価を行った後の品物の断面を調べたところ、表裏面にフィラーの含有量が少ない層(本発明における保護接合層に相当)が形成され全体として3層構造になっている。つまり、本発明の高熱伝導性絶縁樹脂複合部材の構成要件を満たす。
上記の方法1〜3により作製される主層は、絶縁部材の全体にわたって設けてもよく、あるいは絶縁部材のうち、発熱体である半導体デバイスが配置される領域に対応する部分に集中して設け、冷却効率を向上させるようにしても良い。また、上記の方法1〜3により作製した主層を上記方法1におけるポールとして用いることもできる。さらに、絶縁樹脂材料が厚くなると実際の使用を想定した加圧下でのヒートサイクルテストでの内部破断等が起こりやすくなるが、これは主層を多層構造にすることにより緩和できる可能性がある。
高熱伝導性絶縁材料のポールは、実際の製品を考えると、主層の表面及び裏面の10%以上70%以下の範囲で露出していることが望ましい。高熱伝導性絶縁材料が露出する面積が10%よりも少ないと、高い熱伝導性が得られにくい。一方、熱伝導性絶縁材料が露出する面積が70%以上になると、表面に占める樹脂材料の割合が小さくなりすぎて脆くなる。主層が高熱伝導性絶縁材料の基板である場合、主層の表面及び裏面に高熱伝導性絶縁材料が露出する面積が100%となる(換言すれば主層の表面及び裏面の全体に高熱伝導性絶縁材料が露出した状態である)が、樹脂材料を使用したものではないため上記の問題が生じる心配はない。
樹脂材料のポンプアウト現象を回避するために、枠部材のほか、他の形状のストッパーを配置することも考えられるが、主層(及び接合層)の外周を覆うような形状の枠部材を用いることが最も簡単であり確実にポンプアウト現象を防止することができる。枠部材は絶縁性を有し主層や保護接合層との接合性が良好な材料からなるものを用いればよく、特定の材料からなるものには限定されない。主層や保護接合層の一方が必要な場合には取り付けが必要である。
また、マイグレイションが心配な場合には保護接合層のフィラーとしてAgを使用しなければよい。また、湿度対策はポンプアウト対策の枠部材で大気中の水分等を主層及び保護接合層から遮断することで回避できる。
3.保護接合層
次に保護接合層は樹脂の柔軟性と接合性を利用するものである。主層の劣化を防止するため、また被接合物との接合性を向上するために用いる。保護接合層については役割から樹脂材料にフィラーを分散配置してなる樹脂複合材料を用いることが好ましい。上記の通り、主層により絶縁部材としての絶縁性が担保されるため、保護接合層に使用する樹脂複合材料は、導電性のもの、絶縁性のものいずれであってもよい。また、これらの多層であってもよい。
樹脂材料に導電性フィラーを導入した樹脂複合材料を用いる場合、その芯材となる樹脂材料として、例えばシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、PPS樹脂等を用いることができる。その他の樹脂、ゴム、ガラス、オイルなどを使用することもできるが、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。なお、オイル等の液状の材料を芯材とする主層を構成する場合には、その上下に配置される被接合物(放熱基板電極や冷却器の金属部材)と枠部材で流出を防止するように構成すればよい。
樹脂複合材料(あるいは樹脂材料)の樹脂硬さの指標には、ハードネスゲージで測定される硬度0〜100があり、その測定方法はJIS規格で定められ、樹脂やゴムの硬度の指標として用いられている。しかし、樹脂の種類が異なった場合に硬度による比較は目安でしかない問題がある。上述の調査結果から硬度50以下の樹脂材料を使用する場合にはポンプアウト現象への対策のために枠部材を設けておく必要があると考えられる。硬質の樹脂材料を用いるとポンプアウト現象が起こる可能性は低減されるが劣化や被接合物との接合性が低くなる。また、形態はシート状のもの、グリス状のもの等、樹脂材料の形態は状況に応じて適宜に選択することができる。被接合物との接合性を向上する観点から軟質(柔軟なものあるいは中程度の硬度)のものであることが好ましく、そうした特性を有するものの中から使用状況に応じて適宜の種類のものを選択することができる。各部材の寸法や平面度などのバラツキが少ない場合には硬質樹脂のシートを使用することもできる。
上述した主層には、高熱伝導性材料が主層の表面から突出したものが含まれ、突出したポールは保護接合層の内部に食い込むことになる。従って、保護接合層は、ポールの食い込みを許容し、かつ接合性を維持できるような柔軟性を有するものとすることが好ましい。また、被接合物との接合性の観点では、各部材の精度(例えば面精度)が担保されている限りにおいて、柔軟性及び密着性を有するシート状の物を用いることができる。しかし、各部材の加工精度の実態を考えると柔らかく、流動性があり、密着性が高いグリス状のものを用いることが望ましい。
保護接合層の厚さは、主層の表裏面に配置される層の両方を合わせて平均厚みで0.03mm以上1.50mm以下の範囲内であることが望ましい。これよりも薄くなると主層を保護し評価時の劣化を修復することが難しい。また、これよりも厚くなると座屈が生じやすくなり、ヒートサイクルテストで内部破断が起こる可能性がある。また、保護接合層は、高熱伝導性材料が均一に分散配置されたものであることが望ましい。使用する樹脂材料は柔らかく、流動性、密着性、各部材との接合性が良いものが望ましい。これらの要件を満たす限りにおいて、保護接合層の形状はシート状のものであってもよく、グリス状のものであってもよい。絶縁部材全体としての放熱性の向上を図る観点から、保護接合層の熱伝導率は3W/m・K以上、好ましくは熱伝導率5W/m・K以上である。
これらの要件を満たせば、保護接合層が導電性であるか絶縁性であるかを問わないが、一般に、導電性の樹脂複合材料の方が熱伝導性等の特性に優れており、また絶縁破壊を生じる心配もない。
導電性の樹脂複合材料は、既に半導体のICやLSI用の高熱伝導性接合材料として販売されている。こうした材料では、樹脂材料に導入されるフィラーとなる金属の熱伝導率が高い。例えば、Alの熱伝導率は230W/m・K、Cuの熱伝導率は393W/m・K、Agの熱伝導率は420W/m・Kといずれも高い。また、熱伝導率の向上に適した形状のフィラーが存在する。このフィラーは低融点金属を相互に接合して強固なネットワークを形成させたものであり、安定した高品質の品物を安価で入手することが可能である。金属フィラーは、セラミックフィラーよりも樹脂材料との濡れ性が良く、また少量で熱伝導率を向上させることができることから、保護接合層を構成する樹脂複合材料に導入する高熱伝導性材料に適している。樹脂材料とナノ金属(ナノサイズの金属粒子)からなるナノ金属接合材料を用いてもよい。その他、様々な硬度のシート材やグリス材が販売されている。
絶縁性の樹脂複合材料の構造も導電性の樹脂複合材料と基本的には同じ構成を有しているが、フィラーとして用いられるAl2O3、AlN、SiN、BNやダイヤモンドの含有率が高いものは脆く、劣化に弱いという問題がある。特に硬質の樹脂複合材料からなるシート材では、高熱伝導性材料が樹脂材料に食い込むと、そこで生じた欠陥が起点となり劣化が促進する。従って、硬い樹脂複合材料のシート材は適さない。柔らかい樹脂複合材料については、ポンプアウト現象を防止するための枠部材を設ければよい。なお、導電性の樹脂複合材料と絶縁性の樹脂複合材料を組み合わせて保護接合層を構成してもよい。また、ポンンプアウト現象への対策のための枠部材を設け、柔らかい樹脂を使用することで加圧下でのヒートサイクルテストで劣化を修正する機能を果たすという現象を発見した。
本発明の高熱伝導性絶縁樹脂複合部材は、半導体モジュールに実装され、半導体デバイスで発生した熱を効率的に冷却器に伝えるために用いられる。特に、半導体モジュールのように、熱路で絶縁性を担保する必要があり、かつ効率的に熱を伝えることが求められる場合に好適に用いることができる。具体的な用途には、IGBTモジュール、マイクロ波通信用モジュール、ICモジュール、LSIモジュール、LEDモジュール等が挙げられる。
本発明者が提案する高熱伝導性樹脂複合部材では、絶縁材料からなる主層の表裏面に、該主層を保護するとともに被接合部材との接合性を向上する、熱伝導率が3W/m・K以上(好ましくは5W/m・K以上)である樹脂複合材料からなる保護接合層を配したものである。主層には、絶縁樹脂材料に高熱伝導性絶縁材料を導入してなる絶縁性の樹脂複合材料や、絶縁性の基板が用いられる。絶縁性の樹脂複合材料は、主層を厚さ方向に貫通するように高熱伝導性絶縁材料(ポール)を配し、その端部を主層の表面から露出させた構成のものとすることができる。主層の芯材となる樹脂材料には、柔軟性を有し、熱伝導率が3W/m・K以上であるグリス状の樹脂複合材料や、熱伝導率が5W/m・K以上であるシート状やグリス状の樹脂複合材料を用いることができる。
電気自動車等で使用されるIGBTモジュールにおいて用いられる、Cu板、NiメッキされたCu板、あるいはNiメッキされた合金からなる放熱基板や放熱基板電極は、一体型のものでは最大220mm×170mm、厚さ3.0〜5.0mmであり、分割型のものでは40mm四方、厚さ1.0〜2.0mmである。また、冷却器にはこれらよりも十分に大きなCu板、NiメッキされたCu板、もしくはAl合金等の合金からなる板材が用いられる。これらの平面度、平坦度、あるいは寸法のバラツキや部材間の平行度を考慮すると、高熱伝導性絶縁樹脂複合部材の厚さは0.2mm以上2.0mm以下の範囲内であることが好ましい。厚さが0.2mm未満になると放熱基板電極と冷却器の線膨張係数の差によって生じる熱応力で剥離が生じる可能性が高まる。また、厚さが2.0mmよりも大きいと振動での内部破断に至りやすい。また、金属部材には平面度、平坦度、また、寸法にバラツキがあり、更に部材間の平行度の問題もある。実態に適応することを考慮し、開発する絶縁部材の大きさを40mm四方、厚さ1.0mmとした。また、評価や測定は上下に金属部材を接合した状態で行った。
従来、絶縁部材の開発では、主にシート材を製作し、それから切り出した小片の評価品を用いて個別に耐圧テストやヒートサイクルテスト、ポンプアウト現象の評価を行っていた。しかし、これらの評価では、半導体モジュール等に実装した状態での特性(劣化や接合信頼性、ポンプアウト現象)を確認することはできない。従って、被接合部材である放熱基板電極や冷却器などを想定した大型の金属部材に実際に接合した状態で加圧下でのヒートサイクルテスト等の評価を行う必要がある。これらの評価は従来のものに比べて厳しく、また絶縁部材の使用実態にも合っている。
次に、本実施例の高熱伝導性絶縁樹脂複合部材の評価方法を説明する。
本実施例では、ヒートサイクルテスト及び絶縁耐圧テストにおける構造の劣化、放熱基板電極等との接合性の評価、及びポンプアウト現象の有無を確認した。また、加圧下でのヒートサイクルテスト及び絶縁耐圧テスト後の熱伝導率を測定した。なお、構造に劣化が生じた場合でも、必ずしもポンプアウト現象が起こるわけではない。つまり、構造にわずかな劣化があっても、ポンプアウト現象を引き起こすようなものでなければ問題は生じないと考えられる。もちろん、構造の劣化が生じないことが好ましいことは当然である。
評価、測定に際しては、40mm四方、厚さ1.0mmという大きさで高熱伝導性絶縁樹脂複合部材の特性を確認するため、上下面にそれぞれ、40mm四方、厚さ1.0mmであるNiメッキ処理が施されたCu板とAl板を接合した。主層と保護接合材層のいずれかに軟質な樹脂材料が含まれる場合にはポンプアウト現象への対策のために枠部材を設けた。こうして全体として40mm四方、厚さ3.0mmの大きさである試料を作製し、各種の評価を行った後に熱伝導率を測定した。
耐熱性、接合性、ポンプアウト現象の確認と評価においては、上記試料(40mm四方、厚さ3.0mm)の厚さ方向に0.2kg/cm2の圧力を加えた状態で、-40℃への冷却と150℃への加熱を100回繰り返すヒートサイクルテストを行い、信頼性の確認(剥離や割れおよび樹脂の流れだしの有無の確認)を行った。
次に、ヒートサイクルテストを行った試料について、絶縁特性を評価するために、絶縁耐圧試験機(日置電機社製、絶縁耐圧試験機3153型)を用いて、AC3.0kVの電圧を1分間印加するテスト(絶縁耐圧テスト)を3回行い、絶縁破壊の有無を確認した。
続いて、絶縁耐圧試験を行った後の試料から、レーザ加工機により直径10mm、厚さ3.0mmの大きさで切りだした円板状の試験片について、熱伝導測定器(アドバンス理工社製 FTC-RT)を用いてレーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定した。この試験片は上下にCu板の金属板が接合された状態のものである。そこで、別途、SPS装置を用いて、厚さ1.0mmのCu板の上下に、厚さ1.0mmのNiメッキ処理が施されたCu板と厚さ1.0mmのAl板を接合(圧力1.5kg/cm2、温度850℃、処理時間3秒)したものを作製して同じ測定を行って得られた熱伝導率との比較により、各実施例の高熱伝導性絶縁樹脂複合部材の熱伝導率を求めた。熱伝導率の評価の基準を5W/m・K以上とし、より好ましい基準を10W/m・K以上、更に好ましい基準値を20W/m・K以上とした。
以下、高熱伝導性絶縁樹脂複合部材の製造方法1〜3(評価用試料の作製と、特性評価に関する工程を含む)を説明する。
<製造方法1>
製造方法1における工程を順に説明する。後述の実施例1〜5は製造方法1により作製した。
工程1:100mm四方、厚さ3mmのガラス板を準備し、その一面に離型剤を塗る。
工程2:100mm四方、厚さ0.1mmのSUS板の中央に40mm四方の孔を空け、その上下面に離型剤を塗布したガイド部材Aを2枚作製する。
工程3:作製した2枚のガイド部材Aうちの1枚を、離型剤が塗られたガラス板の面に重ね、ガイド部材Aの孔の内部に型取り用のシリコーン樹脂を流し入れて摺り切り、その上に離型剤を塗る。
工程4:100mm四方、高さ0.7mmのSUS板に1.2mm四方の孔を400個均等に設けた、高熱伝導性絶縁材料の位置決めのためのガイド部材Bを作製し、その上下面に離型剤を塗布して、工程3で作製した部材の上に重ねる。
工程5:工程4で作製したガイド部材Bの孔全てに、高熱伝導性絶縁材料である1.1mm×0.7mmのチップ状のダイヤモンド片を導入して軽く押さえ、工程3でガイド部材Aの孔に導入した型取り用のシリコーン樹脂に仮止めする(少量のフィラーを位置決めのために固定する)。
工程6:ガイド部材Bを除去する。
工程7:100mm四方、厚さ0.7mmのSUS板の中央に40mm四方の孔を設けたガイド部材Cの上下面に離型剤を塗布し、これをガイド部材Aの上に重ねたあと、ガイド部材Cの孔にエポキシ樹脂を流し入れる。
工程8:ガイド部材Cの上からシリコーンゴム製のロールを掛け厚みで擦り切り余分なエポキシ樹脂を除去する。
工程9:100mm四方、厚さ3mmのガラス板に離型剤を塗布してガイド部材Cの上に置き、0.2kg/cm2の圧力で押さえる。
工程10:工程9でガラス板を載せた状態のものを真空雰囲気に置き、エポキシ樹脂を硬化させた後、上下のガラス板とガイドAを取り外す。
工程11:工程10においてエポキシ樹脂を硬化させた部材の上下面を、バフ毛に研磨剤が付いた研磨材で研磨し、ダイヤモンド表面に付いた樹脂や汚れを除去する。これにより、エポキシ樹脂からなる芯材の内部にダイヤモンドからなる高熱伝導性絶縁材料を30vol%導入した高熱伝導性絶縁樹脂複合材料で構成された主層が得られる。
工程12:上記工程とは別に、100mm四方、厚さ3mmのガラス板を2枚準備し、それぞれの一面に離型剤を塗る。
工程13:100mm四方、厚さ0.15mmのSUS板の中央に40mm四方の孔を空け、その上下面に離型剤を塗布したガイド部材Dを2枚作製し、それぞれを工程12で準備したガラス板の上に重ねる。
工程14:2枚のガイド部材Dの孔にそれぞれグリス状の導電性樹脂複合材料(熱伝導率3W/m・K)を流し入れて擦りきりしたものを作製する。
工程15:工程14において導電性樹脂複合材料を流し入れたものを、工程11で得られた主層の上下に重ね、0.2kg/cm2の圧力をかけつつ真空中で接着する。その後、2組のガラス板とガイドDを除去する。こうして、全体として21vol%のダイヤモンドを含有した40mm四方、厚さ1.0mmの高熱伝導性絶縁樹脂複合部材が得られる。
工程16:工程15で得られた高熱電導性絶縁樹脂複合部材の上下面にそれぞれ、40mm四方、厚さ1.0mmの、Niメッキ処理が施されたCu板と、Al板とを取り付け、0.5kg/cm2の圧力をかけつつ真空中で接着する。こうして作製した40mm四方、厚さ3mmの部材の外周にポンプアウト対策の枠部材を設け評価用試料とした。
工程17:工程16により作製した評価用試料についてヒートサイクルテスト及び絶縁耐圧テストを行い、その後、熱伝導率を測定した。
<製造方法2>
製造方法2では、主層の内部にチップ状の高熱伝導性絶縁材料を縦型配置し、さらに高熱伝導性絶縁材料を分散配置して高熱伝導性絶縁樹脂複合部材を作製する。この製造方法2により後述の実施例6から13の高熱伝導性絶縁樹脂複合部材を作製した。製造方法2により作製される高熱伝導性絶縁樹脂複合部材の構成を図1に示す。この製造方法では、芯材11に高熱伝導性絶縁材料13(ダイヤモンド粒子)とダミー粒子12(酸化アルミニウム粒子)とが配置された主層10が形成され、その表裏面に設けられた保護接合層15に高熱伝導性絶縁材料13の端部が食い込んだ状態の高熱伝導性絶縁樹脂複合部材1が得られる。また、図1に示すように、主層10や保護接合層15の外周には適宜に枠部材14を設けることができる。
以下、製造方法2における工程を順に説明する。
工程1:100mm四方、厚さ3mmのガラス板を2枚準備し、それぞれの一面に離型剤を塗る。
工程2:100mm四方、厚さ0.1mmのSUS板の中央に40mm四方の孔を空け、その上下面に離型剤を塗布したガイド部材Aを2枚作製する。
工程3:作製した2枚のガイド部材Aうちの1枚を、離型剤が塗られたガラス板の面に重ね、ガイド部材Aの孔の内部に型取り用のシリコーン樹脂を流し入れて摺り切り、その上に離型剤を塗る。もう1枚のガイド部材Aについても同様の処理を行う。
工程4:100mm四方、厚さ0.7mmのSUS板の中央に40mm四方の孔を設けたガイド部材Bを作製し、その上下面に離型剤を塗布する。
工程5:工程3で作製したものの一方に、ガイド部材Bを重ねる。
工程6:100mm四方、厚さ0.1mmのSUS板の中央に40mm四方の孔を設けたガイド部材Cを作製し、その上下面に離型剤を塗布する。
工程7:工程6で作製したガイド部材Cを工程5で作製した部材の上に重ねる。
工程8:工程7で作製した部材の中央に形成されている、40mm四方、厚さ0.8mmの孔に、エポキシ樹脂、粒径0.9mmのダイヤモンド粒子(30vol%)、及び粒径0.6mmのダミーのAl2O3粒子(球状、30vol%)の混合物を流し入れて擦り切る。
工程9:工程8で作製したものに、離型剤と塗布したSUSの□100四方、厚さ3mmのSUS板を重ねて押さえ、型取り用のシリコーン樹脂にダイヤモンド粒子を0.1mm食い込ませる。
工程10:ガイドCを除去し、工程3で作製したものの他方(工程5以降で使用していないもの)を反転し、重ね合わせて加圧することにより型取り用のシリコーン樹脂にダイヤモンド粒子を0.1mm食い込ませる。
工程11:工程10においてエポキシ樹脂を硬化させた部材の上下面を、バフ毛に研磨剤が付いた研磨材で研磨し、ダイヤモンド表面に付いた樹脂や汚れを除去する。これにより、エポキシ樹脂からなる芯材の内部にダイヤモンド粒子を縦型配置して両端を露出させ、さらにAl2O3粒子を分散配置した絶縁樹脂複合材料で構成された主層が形成される。
工程12:上記工程とは別に、100mm四方、厚さ3mmのガラス板を2枚準備し、それぞれの一面に離型剤を塗る。
工程13:100mm四方、厚さ0.15mmのSUS板の中央に40mm四方の孔を空け、その上下面に離型剤を塗布したガイド部材Dを2枚作製し、それぞれを工程12で準備したガラス板の上に重ねる。
工程14:2枚のガイド部材Dの孔にそれぞれグリス状の導電性樹脂複合材料(熱伝導率3W/m・K)を流し入れて擦りきりしたものを作製する。
工程15:工程14において導電性樹脂複合材料を流し入れたものを、工程11で得られた主層の上下に重ね、0.2kg/cm2の圧力をかけつつ真空中で接着する。その後、2組のガラス板とガイドDを除去する。こうして、全体として21vol%のダイヤモンドを含有した40mm四方、厚さ1.0mmの高熱伝導性絶縁樹脂複合部材が得られる。
工程16:工程15で得られた高熱電導性絶縁樹脂複合部材の上下面にそれぞれ、40mm四方、厚さ1.0mmの、Niメッキ処理が施されたCu板と、Al板とを取り付け、0.5kg/cm2の圧力をかけつつ真空中で接着する。こうして作製した40mm四方、厚さ3mmの部材の外周にポンプアウト対策の枠部材を設け評価用試料とした。
工程17:工程16により作製した評価用試料についてヒートサイクルテスト及び絶縁耐圧テストを行い、その後、熱伝導率を測定した。
<製造方法3>
製造方法3では、主層の内部に高熱伝導性絶縁材料を分散配置してなる高熱伝導性絶縁樹脂複合部材を作製する。この製造方法3により後述の実施例14及び15の高熱伝導性絶縁樹脂複合部材を作製した。
以下、製造方法3における工程を順に説明する。
工程1:100mm四方、厚さ3mmのガラス板を準備し、その一面に離型剤を塗る。
工程2:100mm四方、厚さ0.1mmのSUS板の中央に40mm四方の孔を空け、その上下面に離型剤を塗布したガイド部材Aを2枚作製する。
工程3:作製した2枚のガイド部材Aうちの1枚を、離型剤が塗られたガラス板の面に重ね、ガイド部材Aの孔の内部に型取り用のシリコーン樹脂を流し入れて摺り切り、その上に離型剤を塗る。
工程4:100mm四方、高さ0.7mmのSUS板の中央に40mm四方の孔を空け、その上下面に離型剤を塗布したガイド部材Bを作製し、工程3で作製した部材の上に重ねる。
工程5:ガイド部材Bに、粒径0.1mmのダイヤモンド粒子と粒径0.01mmのダイヤモンド粒子を7:1の割合で混合したものを、主層中の含有量が70vol%となる分量で導入し、スケルトンを作り擦り切る。そして、エポキシ樹脂を含浸して擦り切る。
工程6:ガイド部材Bを除去する。
工程7:離型剤を塗った100mm四方、厚さ3mmのガラス板を載せ、0.2kg/cm2の圧力で押さえる。
工程8:工程7でガラス板を載せた状態のものを真空雰囲気に置いてガス抜きした後、上下のガラス板とガイドAを取り外す。これにより、エポキシ樹脂からなる芯材の内部に70vol%のダイヤモンド粒子(高熱伝導性絶縁材料)を導入した高熱伝導性絶縁樹脂複合材料で構成された主層が得られる。
工程9:上記工程とは別に、100mm四方、厚さ3mmのガラス板を2枚準備し、それぞれの一面に離型剤を塗る。
工程10:100mm四方、厚さ0.15mmのSUS板の中央に40mm四方の孔を空け、その上下面に離型剤を塗布したガイド部材Dを2枚作製し、それぞれを工程12で準備したガラス板の上に重ねる。
工程11:2枚のガイド部材Dの孔にそれぞれグリス状の導電性樹脂複合材料(熱伝導率3W/m・K)を流し入れて擦りきりしたものを作製する。
工程12:工程11において導電性樹脂複合材料を流し入れたものを、工程11で得られた主層の上下に重ね、0.2kg/cm2の圧力をかけつつ真空中で接着する。その後、2組のガラス板とガイドDを除去する。こうして、全体として53vol%のダイヤモンドを含有した40mm四方、厚さ1.0mmの高熱伝導性絶縁樹脂複合部材が得られる。
工程13:工程12で得られた高熱電導性絶縁樹脂複合部材の上下面にそれぞれ、40mm四方、厚さ1.0mmの、Niメッキ処理が施されたCu板と、Al板とを取り付け、0.5kg/cm2の圧力をかけつつ真空中で接着する。こうして作製した40mm四方、厚さ3mmの部材の外周にポンプアウト対策の枠部材を設け評価用試料とした。
工程14:工程13により作製した評価用試料についてヒートサイクルテスト及び絶縁耐圧テストを行い、その後、熱伝導率を測定した。
上述の製造方法1〜3により作製した実施例1〜16の構成と評価結果を表3に示す。なお、実施例16の高熱伝導性絶縁樹脂複合部材、及び比較例1〜4については、上述の製造方法1〜3に準じた製造方法により作製した。
実施例1〜17及び比較例1〜4を全て2枚ずつ作製し、それぞれについてヒートサイクルテスト、絶縁耐圧テストを順に行い、さらにその後に熱伝導率を測定した。ヒートサイクルテスト後に剥離が見られなったものを合格(2枚とも合格を「◎」と表記。)とし、絶縁耐圧テストでは絶縁破壊による劣化が見られなったものを合格(2枚とも合格を「◎」と表記。)とした。熱伝導率については、少なくとも5W/m・K以上、好ましくは10W/m・K以上、さらに好ましくは20W/m・K以上であることを判定の基準とした。なお、表3に記載の熱伝導率の値は2枚の平均値である。表3に示すとおり、実施例1〜16ではいずれも良好な特性が得られることが確認できた。
上記実施例は一例であって、上記の技術的思想や本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。