JP6443926B2 - 新規メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤 - Google Patents

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Description

本発明は、薬剤耐性菌の増殖阻害活性を有するため医薬品、動物薬に有効な新規メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤に関する。
抗細菌抗生物質は感染症の治療に欠かせないものである。抗生物質の中で細胞壁合成を阻害剤するβ−ラクタム薬はその選択性の高さから頻繁に使用されているが、薬剤耐性菌の産生するβ−ラクタマ−ゼによりβ−ラクタム薬が分解され、効果を示さないことがしばしば問題となっている。β−ラクタマ−ゼはクラスA、B、C、Dに分類される。これらのβ−ラクタマ−ゼは基質特異性が異なり、クラスAは主にペニシリン系抗菌薬を分解し、クラスB、C、Dはそれぞれカルバペネムを含むβ−ラクタム薬、セファロスポリン系抗菌薬、オキサシリンを含むペニシリン系抗菌薬を分解する。また、クラスA、C、Dのβ−ラクタマ−ゼは活性中心にセリン残基を含むためセリン−β−ラクタマ−ゼと呼ばれ、クラスBに分類されるβ−ラクタマ−ゼは活性中心に金属原子を含むためメタロ−β−ラクタマ−ゼ(MBL)と呼ばれる。カルバペネム系抗菌薬の乱用により、特にMBLが臨床上問題となっている。MBLは、カルバペネム系を含むほとんど全てのβ−ラクタム薬に耐性を示すため最も危険なβ−ラクタマーゼと考えられているが、臨床上で用いられるMBL阻害剤は存在しない。
MBLは活性中心の亜鉛原子に配位しているアミノ酸や亜鉛原子数によりさらにクラス分けされている。日本国内においては1991年に切り札として用いられているカルバペネム系β−ラクタム薬に耐性を示すIMP−1型MBL産生菌が単離されて以来、次々とIMP型のMBLが発見されてきた。2010年の厚生労働省による院内感染対策サ−ベイランス事業で報告された我が国で分離された多剤耐性腸内細菌においても、分離件数の約半数はIMP型MBLを産生していた。2014年までにアミノ酸置換等によるIMP型MBLの亜種は49種類報告されており、年々増加している。また、2008年にNDM−1という新型MBLが報告され瞬く間に世界中に拡散し、日本国内でも既に分離が報告されている。MBL遺伝子は伝達性プラスミド上に存在していることが多く、プラスミドの授受により様々なグラム陰性菌の間で菌種の壁を越えて容易に拡散することができる。そのため、他の病原性の強い細菌への伝播が危惧されている。
β−ラクタマ−ゼ産生菌に対する治療薬はβ−ラクタム薬とβ−ラクタマ−ゼ阻害剤の合剤が用いられている。β−ラクタマ−ゼ阻害剤は、放線菌から単離されたクラブラン酸や合成品であるタゾバクタム、スルバクタム等が使用されている。これらのβ−ラクタマ−ゼ阻害剤はセリン−β−ラクタマ−ゼを阻害することはできるが、MBLは阻害しないことが明らかとなっている。MBL阻害活性を有する化合物として、メルカプト酢酸ナトリウム、カプトプリル等のチオ−ル化合物や、金属キレ−タ−であるEDTAなどが知られているが、いずれも臨床応用に至っておらず、MBL産生菌に対して有効な薬剤の開発が望まれている。
本発明者らはIMP−1型MBLを産生する大腸菌、クレブシエラ菌、緑膿菌を用いて、β−ラクタム系薬メロペネムに対する耐性を克服する物質をスクリ−ニングする方法を確立した。その方法を用いてメロペネムへの耐性を克服する物質の探索を続けた結果、2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体(例えば、3Z,5E−octa−3,5−diene−1,3,4−tricarboxylic acid 3,4−anhydride(以下ODTAAと略す)、及びそのアルキルエステル)が、その耐性克服活性を示し、さらにMBLを阻害することを見出した。これまで、このような物質がMBLを阻害するという報告はなく、よって、本発明はこのような知見に基づいて新規のMBL阻害剤を提供するに至ったものである。
本発明は係る知見に基づいて完成されたものであって、具体的には以下の発明に関する:
(1) 下記一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤:
Figure 0006443926
[式中、R及びRは、同一又は異なって、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC1〜6アルキル基、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC2〜6アルケニル基、又は、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC2〜6アルキニル基を表し、
ここで、置換基は、直鎖若しくは分岐状のC1〜6アルコキシ基、及びオキソ基から選択される基である]。
(2) Rが、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC2〜6アルケニル基であり、かつ、Rが、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC1〜6アルキル基である、(1)に記載のメタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤。
(3) (1)又は(2)に記載のメタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤と、β−ラクタム薬とを有効成分として含有する、メタロ−β−ラクタマ−ゼ産生菌感染症治療薬又は予防薬。
(4) 下記一般式(II)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩:
Figure 0006443926
[式中、Rは、直鎖若しくは分岐状のC1〜6アルキル基を表し、ただし、Rがメチル基である場合を除く]。
(5) Rが、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、又はt−ブチル基である、(4)に記載の化合物又はその薬理学的に許容される塩。
(6) Rが、エチル基、プロピル基、又はイソプロピル基である、(4)に記載の化合物又はその薬理学的に許容される塩。
よって、一例として本発明は、下記式で表されるODTAAエチルエステル
Figure 0006443926
及び、下記式で表されるODTAAイソプロピルエステル
Figure 0006443926
を提供するものである。
本明細書において、「C1〜6アルキル基」とは、直鎖又は分岐状の炭素数が1〜6個の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2,3−ジメチルプロピル基、ヘキシル基、及びシクロヘキシル基などが挙げられ、好ましくは、C1〜5アルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、又は2,3−ジメチルプロピル基である。更に好ましくは、C1〜3アルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、及びi−プロピル基、であり、最も好ましくは、メチル基又はエチル基である。
「C2〜6アルケニル基」とは、1以上の炭素−炭素間の二重結合を有する直鎖又は分岐状の不飽和炭化水素の任意の炭素原子から一個の水素原子を除去してなる炭素原子数が2〜6個の一価の基を意味する。C2〜6アルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−メチリデン−1−プロパン基、1−ペンテニル基、1−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−メチル−1−ブテニル基、1−メチル−2−ブテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、1−メチリデンブチル基、2−メチル−1−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、2−メチリデンブチル基、3−メチル−1−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基、1−エチル−1−プロペニル基、1−エチル−2−プロペニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基、1−メチル−1−ペンテニル基、1−メチル−2−ペンテニル基、1−メチル−3−ペンテニル基、1−メチル−4−ペンテニル基、1−メチリデンペンチル基、2−メチル−1−ペンテニル基、2−メチル−2−ペンテニル基、2−メチル−3−ペンテニル基、2−メチル−4−ペンテニル基、2−メチリデンペンチル基、3−メチル−1−ペンテニル基、3−メチル−2−ペンテニル基、3−メチル−3−ペンテニル基、3−メチル−4−ペンテニル基、3−メチリデンペンチル基、4−メチル−1−ペンテニル基、4−メチル−2−ペンテニル基、4−メチル−3−ペンテニル基、4−メチル−4−ペンテニル基、1−エチル−1−ブテニル基、1−エチル−2−ブテニル基、1−エチル−3−ブテニル基、2−エチル−1−ブテニル基、2−エチル−2−ブテニル基、2−エチル−3−ブテニル基、1−(1−メチルエチル)−1−プロペニル基、1−(1−メチルエチル)−2−プロペニル基、1−エチル−2−メチル−1−プロペニル基、又は、1−エチル−2−メチル−2−プロペニル基を挙げることができる。
「C2〜6アルキニル基」とは、1以上の炭素−炭素間の三重重結合を有する直鎖又は分岐状の不飽和炭化水素の任意の炭素原子から一個の水素原子を除去してなる炭素原子数が2〜6個の一価の基を意味する。C2〜6アルキニル基としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、フェニルエチニル基等を挙げることができる。
本明細書において、「C1〜6アルコキシ基」とは、前記C1〜6アルキル基と酸素原子を介して結合する基((C1〜6アルキル基)−O−基)のことであり、該アルキル基部分は直鎖状であっても分岐状であってもよい。C1〜6アルコキシ基とは、該アルキル基部分の炭素原子数が1〜6個であることを意味する。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、1−プロピルオキシ基、2−プロピルオキシ基、2−メチル−1−プロピルオキシ基、2−メチル−2−プロピルオキシ基、2,2−ジメチル−1−プロピルオキシ基、1−ブチルオキシ基、2−ブチルオキシ基、2−メチル−1−ブチルオキシ基、3−メチル−1−ブチルオキシ基、2−メチル−2−ブチルオキシ基、3−メチル−2−ブチルオキシ基、1−ペンチルオキシ基、2−ペンチルオキシ基、3−ペンチルオキシ基、2−メチル−1−ペンチルオキシ基、3−メチル−1−ペンチルオキシ基、2−メチル−2−ペンチルオキシ基、3−メチル−2−ペンチルオキシ基、1−ヘキシルオキシ基、2−ヘキシルオキシ基、3−ヘキシルオキシ基などが挙げられる。C1〜6アルコキシ基として、好ましくはC1〜5アルコキシ基であり、より好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、及び2,3−ジメチルプロピルオキシ基であり、更に好ましくは、C1〜3アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、及びプロピルオキシ基)であり、より更に好ましくは、メトキシ基又はエトキシ基である。
本明細書において、オキソ基とは=Oで示される基である。また、本発明の化合物は不斉炭素を有する場合には、光学異性体が存在する。本発明の化合物としては、右旋性(+)又は左旋性(−)の何れの化合物であってもよいし、ラセミ体などのこれらの異性体の混合物であってもよい。また、本発明の化合物は、特に断らない限り、いずれの互変異性体、又は幾何異性体(例えば、E体、Z体など)も含むものである。
「薬理学的に許容される塩」とは、本発明の化合物が、無機又は有機の塩基又は酸と結合して形成した塩であって、医薬として体内に投与することが許容可能な塩のことである。このような塩は、例えば、Bergeら、J.Pharm.Sci.66:1−19(1977)等に記載されている。塩としては、例えば、カルボン酸基等の酸性基が存在する場合には、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩;アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルカミン、L−グルカミン等のアミンの塩;又はリジン、δ−ヒドロキシリジン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸との塩を形成することができる。なお、一般式(I)で表わされる化合物の水和物又は溶媒和物及び一般式(I)で表わされる化合物の薬理学的に許容される塩の水和物又は溶媒和物も本発明の化合物に包含される。また、本明細書において「一般式(I)で表わされる化合物」又は「2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体」とは、それが明らかに適さない場合を除き、明示されていない場合にも、一般式(I)で表わされる化合物に加えて、一般式(I)で表わされる化合物の薬理学的に許容される塩、水和物及び溶媒和物、並びに一般式(I)で表わされる化合物の薬理学的に許容される塩の水和物又は溶媒和物をも含む。
一態様において、本発明は、前記メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤と、β−ラクタム薬とを有効成分として含有する、メタロ−β−ラクタマ−ゼ産生菌感染症治療薬又は予防薬に関する。本明細書において、「β−ラクタム薬」とは、β−ラクタム構造を有する抗生物質を意味し、例えば、セファゾリン、セファロチン、セファピリン、セファレキシン、セファラジン、セファドロキシル、セフマンドール、セフロキシム、セフォニシド、セフォラニド、セファクロル、セフプロジル、セフポドキシム、ロラカルベフ、セフトリアキソン、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフタジジム、セフォペラゾン、セフスロジン、セフチブテン、セフィキシム、セフェタメット、セフジトレン ピボキシル、セフェピム、セフピロム、セフォキシチン、セフォテタン、セフメタゾール、セフブペラゾン、セフミノクス、ラタモキセフ、及びフロモキセフなどのセフェム系抗生物質;イミペネム、ビアペネム、パニペネム、ドリペネム、メロペネムなどのカルバペネム系抗生物質を挙げることができ、好ましくは、カルバペネム系抗生物質である。
本明細書において、「メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤」とは、メタロ−β−ラクタマ−ゼによるβ−ラクタム薬の分解を阻害するために、通常β−ラクタム薬と共に用いられる薬剤を意味する。「メタロ−β−ラクタマ−ゼ」とは、酵素の活性中心に亜鉛を有するクラスBに分類されるβ−ラクタマ−ゼであり、染色体性メタロ−β−ラクタマーゼ及びプラスミド媒介性メタロ−β−ラクタマーゼのいずれでもよく、例えば、ニューデリー・メタロベータラクタマーゼ1(NDM−1)、L−1、IMP−1、IMP−2、IMP−3、IMP−4、IMP−5、IMP−6、IMP−7、IMP−8、IMP−9、IMP−10、IMP−11、IMP−12、IMP−13、VIM−1、VIM−2、VIM−3、VIM−4、VIM−5、VIM−6、Bcll、BlaB、GOB−1,IND−1、CfiA、CcrA、CphA型などである。本発明のメタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤は、2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体を唯一の有効成分として含有していてもよいし、他の有効成分を含有していてもよい。
本明細書において、「メタロ−β−ラクタマ−ゼ産生菌」は、メタロ−β−ラクタマーゼを産生し、哺乳動物(特にはヒト)に感染して感染症を引き起こす菌であれば特に限定される者ではないが、例えば、緑膿菌、セラチア、肺炎桿菌、大腸菌、Proteus vulgaris、シトロバクター、アシネトバクター、プロビデンシア、セラチア・マルセセンス、及びエンテロバクター(エンテロバクター・クロアカなど)を含む。
メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤の剤型は、その種類が特に限定されるものではなく、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製することができる。また、液体製剤にあっては、用時、水又は他の適当な溶媒に溶解又は懸濁する形であってもよい。また錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明の化合物を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水或いはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。経口投与用又は非経口投与用の任意の製剤形態で提供される。例えば、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤又は液剤等の形態の経口投与用医薬組成物、静脈内投与用、筋肉内投与用、若しくは皮下投与用などの注射剤、点滴剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、点鼻剤、吸入剤、坐剤などの形態の非経口投与用医薬組成物として調製することができる。注射剤や点滴剤などは、凍結乾燥形態などの粉末状の剤形として調製し、用時に生理食塩水などの適宜の水性媒体に溶解して用いることもできる。
好ましくは、メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤は、β−ラクタム薬と併用されることから、これらの薬剤を含有するキットとして提供されていても良い。このようなキットは、メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤及びβ−ラクタム薬のほか、薬剤を格納する容器、説明書などを含んでいても良い。
本発明の2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体は、β−ラクタム薬(例えば、メロペネム)に対する耐性を克服する。よって、本発明によれば、2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体はMBLを阻害することから、β−ラクタム薬との併用でMBL産生薬剤耐性菌に対する治療薬又は予防薬として有効に使用し得る。
本発明で用いる2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体は、例えば、すでに報告されている方法に従って、糸状菌培養液からODTAAを精製〔D.C.Aldridge et al. J.Chem.Soc.,Perkin 1(1980)2134−2135、A.Jabbar et al.Pharmazie(1995)50,706−707、春日忍他(2001)再表WO99/46231〕することにより得ることができる。あるいは、2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体は、有機合成〔R.M.Adlington et al.Synlett(2002)820−822〕により調製することができる。またODTAAよりODTAAメチルエステルを調製する方法なども報告されている〔D.C.Aldridge et al. J.Chem.Soc.,Perkin 1(1980)2134−2135〕。
本発明の2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体の薬理学的に許容されるエステル誘導体、あるいはそれらの薬理学的に許容される塩、水和物又は溶媒和物は、当業者周知の方法を用いて適宜製造することができる。
本発明の2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体はメタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤として使用することができる。例えば、本発明の2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体は、上述のβ−ラクタム薬と併用することにより、メタロ−β−ラクタマ−ゼ産生菌感染症治療薬又は予防薬として用いることができる。
本発明のメタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤は、経口投与形態、又は注射剤、点滴剤等の非経口投与形態で用いることができる。本化合物を哺乳動物等に投与する場合、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等として経口投与してもよいし、又は、注射剤、点滴剤として非経口的に投与してもよい。
本発明のメタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤は、通常の薬学的に許容される担体を用いて、常法により製剤化することができる。経口用固形製剤を調製する場合は、主薬に賦形剤、更に必要に応じて、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を加えた後、常法により溶剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等とする。注射剤を調製する場合には、主薬に必要によりpH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤等を添加し、常法により皮下又は静脈内用注射剤とすることができる。
一態様において、本発明は、それを必要とする患者に有効量の本発明の2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体を投与することを備える、メタロ−β−ラクタマ−ゼの阻害方法、又はメタロ−β−ラクタマ−ゼ産生菌感染症の治療方法若しくは予防方法である。あるいは、本発明は、メタロ−β−ラクタマ−ゼの阻害、又はメタロ−β−ラクタマ−ゼ産生菌感染症の治療若しくは予防のための、本発明の2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体に関する。あるいは、本発明は、メタロ−β−ラクタマ−ゼの阻害剤、又はメタロ−β−ラクタマ−ゼ産生菌感染症の治療薬若しくは予防薬を製造するための本発明の2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体の使用に関する。本発明のメタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤を治療又は予防目的で使用する場合、本発明の2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体を有効成分として含有するメタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤を、経口投与形態、又は注射剤、点滴剤等の非経口投与形態で投与することができる。本発明の2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体を哺乳動物等に投与する場合の投与量は、症状、年齢、性別、体重、投与形態等により異なるが、例えば成人に経口的に投与する場合には、通常1日量は0.1〜1000mgとすることができ、1日1〜5回投与することができる。
好ましくは、メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤は、β−ラクタム薬と併用される。よって、本発明は、それを必要とする患者に有効量の本発明のメタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤、及びβ−ラクタム薬を投与することを備える、メタロ−β−ラクタマ−ゼ産生菌感染症の治療方法又は予防方法に関する。あるいは、本発明は、メタロ−β−ラクタマ−ゼ産生菌感染症の治療若しくは予防のための、本発明の2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体及びβ−ラクタム薬に関する。あるいは、本発明は、メタロ−β−ラクタマ−ゼ産生菌感染症の治療薬若しくは予防薬を製造するための本発明の2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体及びβ−ラクタム薬の使用に関する。メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤が、β−ラクタム薬と併用される場合、メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤とβ−ラクタム薬は同一又は別の製剤として同時に、別々に又は連続的に投与されても良い。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
(実施例1)2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体の製造
(1)ODTAAの製造
ODTAAはすでに報告されている合成法により調製した〔R.M.Adlington et al.Synlett(2002)820−822〕。
(2)ODTAAメチルエステルの製造
300mgのODTAAにメタノ−ル2mL、6M塩酸50μLを添加し、室温で1日反応させた。反応液を逆相HPLCのPegasil ODS SP100(20φ×250mm)により精製した。0.1%トリフルオロ酢酸を含む40%アセトニトリル水溶液を移動相とし、9mL/分の流速において生成物を分取し濃縮乾固することにより、184mgのODTAAメチルエステルを得た。
H−NMR δ(ppm)7.26,6.33,3.68,2.82,2.67,2.32,1.12。
13C−NMR δ(ppm)172.0,165.7,164.1,150.0,138.1,136.4,116.1,52.0,31.2,27.4,12.4。
(3)ODTAAエチルエステルの製造
300mgのODTAAにエタノ−ル2mL、6M塩酸50μLを添加し、室温で4日反応させた。反応液を逆相HPLCのPegasil ODS SP100(20φ×250mm)により精製した。0.1%トリフルオロ酢酸を含む40%アセトニトリル水溶液を移動相とし、9mL/分の流速において生成物を分取し濃縮乾固することにより、180mgのODTAAエチルエステルを得た。
H−NMR δ(ppm)7.26,6.33,4.13,2.82,2.66,2.32,1.25,1.12。
13C−NMR δ(ppm)171.6,165.7,164.2,149.9,138.0,136.6,116.2,61.0,31.5,27.4,19.4,14.1,12.5。
(4)ODTAAイソプロピルエステルの製造
300mgのODTAAにイソプロパノ−ル2mL、6M塩酸50μLを添加し、室温で4日反応させた。反応液を逆相HPLCのPegasil ODS SP100(20φ×250mm)により精製した。0.1%トリフルオロ酢酸を含む40%アセトニトリル水溶液を移動相とし、9mL/分の流速において生成物を分取し濃縮乾固することにより、155mgのODTAAイソプロピルエステルを得た。
H−NMR δ(ppm)7.26,6.33,4.99,2.81,2.64,2.33,1.22,1.22,1.12。
13C−NMR δ(ppm)171.1,165.7,164.1,149.8,137.9,136.7,116.2,68.5,31.7,27.4,21.7,21.7,19.5,12.4。
(実施例2)2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体がメタロ−β−ラクタマーゼ産生菌に対するメロペネムの抗菌活性に与える影響(阻止円形成)
IMP−1型MBLを産生するEscherichia coli KB366、Klebsiella pneumoniae KB365およびPseudomonas aeruginosa KB370を、5μg/mLのセフタジジムを含むミュラ−−ヒントン液体培地にそれぞれ一白金耳植菌し、24時間37℃で前培養した。ミュラ−−ヒントン寒天培地72mL、メロペネム水溶液9mL(終濃度:E.coli,0.06μg/mL、K.pneumoniae,0.5μg/mL、P.aeruginosa,64μg/mL、いずれの濃度においてもメロペネムはこれらのMBL産生菌に抗菌活性を示さない)、ミュラ−−ヒントン液体培地9mL、前培養液100μLを混合し、角型シャ−レに20mL播いてプレ−トを作製した。各サンプルを1μg、3μg、10μg、30μg、100μg、しみ込ませた8mmペ−パ−ディスク(アドバンテック社)を置き、37℃で一晩静置培養した後、ノギスで阻止円径の大きさを計測し、その結果を表1に示した。
Figure 0006443926
ODTAAおよびその3種の誘導体いずれも単独では100μg/ディスクで3種のMBL産生耐性菌に対して阻止円を示さなかった。対照に用いたカプトプリルも同様であった。一方、表1に示したように、これらの化合物は抗菌活性を示さない濃度のメロペネムと併用することで、MBL産生E.coliおよびK.pneumoniaeに阻止円を示すようになった。特にODTAAメチルエステルとODTAAエチルエステルは、ODTAAよりもはるかに強いメロペネム耐性克服活性を示した。ただし、いずれの化合物も、P.aeruginosaに対しては高濃度でわずかに阻止円を示すのみであった。
(実施例3)2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体がメタロ−β−ラクタマーゼ産生菌に対するメロペネムの抗菌活性に与える影響(チェッカ−ボ−ド法)
次に、ODTAAおよびその誘導体のFIC係数を、チェッカ−ボ−ド法を用いて調べた。IMP−1型MBLを産生するEscherichia coli KB366を10μg/mLのセフタジジムを含むミュラ−−ヒントン液体培地に一白金耳植菌し、24時間37℃で前培養した。96穴プレ−トを使用し、1行目に終濃度0.75μg/mLになるようにメロペネム水溶液を添加し7行目までの2倍希釈系列を作製した(濃度範囲:0.75−0.01μg/mL)。12列目にODTAAとその誘導体を終濃度750μg/mLになるように添加し、2列目までの2倍希釈系列を作製した(濃度範囲:750−0.73μg/mL)。被検菌液を1.0×10CFU/mL接種し最終液量が100μLになるようミュラ−−ヒントン液体培地を添加した。24時間37℃で培養した後、吸光度を測定し、各条件のMICを求めた。それに基づいてFIC係数を算出し、表2に示した。なお薬剤Aと薬剤BのFIC係数は下記式で算出される。

Aの併用時のMIC Bの併用時のMIC
FIC係数=─────────+─────────
Aの単独時のMIC Bの単独時のMIC
Figure 0006443926
ODTAAおよびその誘導体の単独でのMICがいずれも3,000μg/mLであり、チェッカ−ボ−ド法からFIC係数はすべて0.5以下と算出されたことから、メロペネムと相乗的に作用していると判定された。
(実施例4)2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体のメタロ−β−ラクタマーゼ阻害活性
酵素は大腸菌で発現させた組換えIMP−1型MBLを用いた。β−ラクタマ−ゼ反応の基質はニトロセフィン(メルク・ミリポア社)を用いた。ニトロセフィンはβ−ラクタマ−ゼにより開環することで極大吸収波長が391nmから491nmに変化する。これを基質として阻害剤を添加したときの阻害活性を測定した。96穴プレ−トに終濃度0.5nMになるように調製した酵素液10μL、終濃度10、50、100、500μMになるように調製したODTAAおよびその誘導体溶液各10μL、終濃度20μg/mLのBSAおよび終濃度100μMの塩化亜鉛を含む50mM HEPES(pH7.5)バッファ−170μLを混ぜ、室温で10分プレインキュベ−トした。終濃度0、20、40、60、80、100、120μMの異なる濃度のニトロセフィン溶液10μLを添加し、30℃にて30秒おきに485nmの吸光度を測定した。吸光度から濃度への換算は、モル吸光係数ε485=17,420M−1cm−1を使用し、ODTAAおよびその誘導体のK値をディクソンプロットにより算出し、その結果を表3に示した。
Figure 0006443926
酵素阻害実験より、ODTAAおよびその誘導体はIMP−1型MBLを拮抗阻害することがわかった。またODTAAはK値5.6μMでMBLを阻害し、その3種の誘導体はより低濃度のK値を示した。
このようにODTAAおよびその誘導体はMBLを低濃度で阻害し、β−ラクタム薬との併用でMBL産生薬剤耐性菌の生育を抑制し、またその作用はβ−ラクタム薬と相乗的であることが示された。

Claims (6)

  1. 下記一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤:
    Figure 0006443926
    [式中、R及びRは、同一又は異なって、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC1〜6アルキル基、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC2〜6アルケニル基、又は、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC2〜6アルキニル基を表し、
    ここで、置換基は、直鎖若しくは分岐状のC1〜6アルコキシ基、及びオキソ基から選択される基である]。
  2. が、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC2〜6アルケニル基であり、かつ、Rが、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC1〜6アルキル基である、請求項1に記載のメタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤。
  3. 請求項1又は請求項2に記載のメタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤と、β−ラクタム薬とを有効成分として含有する、メタロ−β−ラクタマ−ゼ産生菌感染症治療薬又は予防薬。
  4. 下記一般式(II)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩:
    Figure 0006443926
    [式中、Rは、直鎖若しくは分岐状のC1〜6アルキル基を表し、ただし、Rがメチル基である場合を除く]。
  5. が、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、又はt−ブチル基である、請求項4に記載の化合物又はその薬理学的に許容される塩。
  6. が、エチル基、プロピル基、又はイソプロピル基である、請求項4に記載の化合物又はその薬理学的に許容される塩。

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