図1は、本発明の制御装置が適用されるハイブリッド車両用動力伝達装置13(以下、「動力伝達装置13」と表す。)を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は、動力伝達装置13の一部を構成している。変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、「ケース12」という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)を介して直接に連結された差動部11と、その差動部11と駆動輪38(図8参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式の変速機として機能する変速部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪38(図8参照)との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36(図8参照)および一対の車軸等を順次介して左右の駆動輪38へ伝達する。なお、変速機構10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。
第1電動機M1を利用して差動状態が変更されるという点で電気式差動部と言うことができる差動部11は、第1電動機M1と、エンジン8と駆動輪38との間に連結されて、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられて駆動輪38への動力伝達経路に連結されている第2電動機M2と、動力分配機構16を非差動状態とする切換クラッチC0および切換ブレーキB0を備えている。なお、第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能すなわち走行用電動機としての機能を少なくとも備える。
動力分配機構16は、シングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24を主体的に備えている。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、動力分配機構16の複数の回転要素の1つとしての差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は差動部サンギヤS0とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合させられると、動力分配機構16は前記差動作用をしないすなわち差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合させられると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0が共に回転すなわち一体回転状態とされて、差動部11も非差動状態とされる。また、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された状態とされる。次いで、上記切換クラッチC0に換えて切換ブレーキB0が係合させられると、動力分配機構16は差動部サンギヤS0が非回転状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、差動部リングギヤR0は差動部キャリヤCA0よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11(動力分配機構16)は増速変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
自動変速部20は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備えている。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えている。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えている。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えている。
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第3リングギヤR3は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2と第3キャリヤCA3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用有段式自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置である。
以上のように構成された変速機構10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられるようになっている。変速機構10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度Neを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1および第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2、第3キャリヤCA3を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3サンギヤS3をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
図4は、エンジン8に備えられた吸気および排気系を説明する図である。エンジン8は、ディーゼルエンジンまたはガソリンエンジンなどの内燃機関であり、過給機40を備えている。その過給機40は、エンジン8の吸気系に設けられており、エンジン8の排気によって回転駆動されてエンジン8の吸気圧を高くした過給圧を供給する公知の排気タービン過給機すなわちターボチャージャーである。具体的には図4に示すように、過給機40は、エンジン8の排気通路42内に設けられエンジン8の排気によって回転駆動される排気タービンホイール44と、エンジン8の吸気通路46内に設けられ排気タービンホイール44により回転させられることでエンジン8の吸気(吸入空気)を圧縮する吸気コンプレッサーホイール48と、排気タービンホイール44と吸気コンプレッサーホイール48とを連結する回転軸50とを備えている。エンジン8は、過給機40を駆動するのに十分なエンジン8の排気が排気タービンホイール44に導かれると、過給機40により過給される過給状態で動作する。一方で、排気タービンホイール44に導かれるエンジン8の排気が過給機40の駆動に不十分であると過給機40が殆ど駆動されず、エンジン8は、前記過給状態に比して過給が抑制された状態すなわち過給機40の無い自然吸気エンジンと同等の吸気の状態である自然吸気状態で動作する。なお、吸気通路46は、本発明の吸気経路に対応する。
また、排気通路42内の排気タービンホイール44が設けられている排気経路と並列に配設された排気バイパス経路52と、その排気バイパス経路52を開閉するウェイストゲートバルブ54とが設けられている。ウェイストゲートバルブ54は、そのウェイストゲートバルブ54の開度θwg(以下、ウェイストゲートバルブ開度θwgという)が連続的に調節可能になっており、後述する電子制御装置74は、図示しない電動アクチュエータを制御することにより、吸気通路46内の圧力を利用してウェイストゲートバルブ54を連続的に開閉する。例えば、ウェイストゲートバルブ開度θwgが大きいほどエンジン8の排気は排気バイパス経路52を通って排出され易くなるので、エンジン8の前記過給状態において、吸気通路46内での吸気コンプレッサーホイール48の下流側気圧PLin、要するに過給機40の過給圧Pcmout(=PLin)は、ウェイストゲートバルブ開度θwgが大きいほど低くなる。すなわち、ウェイストゲートバルブ54は、過給圧Pcmoutを調節する過給圧調節装置として機能する。排気通路42のウェイストゲートバルブ54よりも下流側の排気バイパス経路52が接続される部位よりも下流側に、スタートコンバータ56が設けられている。排気通路42のスタートコンバータ56よりも下流側には後処理装置58が設けられている。スタートコンバータ56は、排気の流れに対して後処理装置58よりも上流側に設けられ、より高温の状態の排気が通される触媒である。また、後処理装置58は、スタートコンバータ56よりも下流側に設けられた触媒である。なお、過給機40の過給圧Pcmoutは、一般的に知られているように、エンジン8の前記過給状態において電子スロットル弁60の開度θthすなわちスロットル開度θthを小さくするほど低下する。その電子スロットル弁60は、エンジン8の吸気通路46内の吸気コンプレッサーホイール48よりも上流側に設けられエンジン8の吸気量を調節する弁機構であって、電動のスロットルアクチュエータ82(図8に示す)により開閉作動させられる。吸気通路46の電子スロットル弁60の上流側には、吸気通路46内を流通する空気の流量に応じた信号を出力するエアフローメータ62が設けられている。このエアフローメータ62によりエンジン8の吸気量が測定される。また、吸気通路46の吸気コンプレッサーホイール48よりも下流側に、過給機40により圧縮された吸気の窒素濃度Cnを高くする窒素富化モジュール64と、窒素富化モジュール64の下流側に設けられ、窒素富化モジュール64を通過する気体中の窒素濃度Cndを測定する窒素濃度センサ66と、吸気通路46内の窒素富化モジュール64が設けられている吸気経路と並列に配設された吸気バイパス経路68と、その吸気バイパス経路68を開閉するバイパスバルブ70とが設けられている。吸気通路46のバイパスバルブ70の下流側の吸気バイパス経路68が接続される部位よりも下流側に、インタークーラ72が設けられている。インタークーラ72は、吸気と外気または冷却水とで熱交換を行い、過給機40により圧縮された吸気を冷却する熱交換器である。このように、窒素富化モジュール64を通されて窒素濃度Cnが高くされた吸気がエンジン8へ送られる。
窒素富化モジュール64は、複数の高分子製の中空糸膜とそれらの中空糸膜の束を収容する樹脂製の収容部材から構成されている。窒素富化モジュール64は、過給機40により圧縮された吸気が導入されると、吸気中の各成分の膜透過性の違いから、窒素と酸素および水分とを分離し、窒素濃度Cndが高くされた気体を吸気通路46内の下流側へ供給する、本発明の窒素富化装置として機能する。吸気中の水分、酸素は、中空糸膜を透過し易いため、中空糸膜を透過した水分、酸素は透過ガスとして大気圧で吸気通路46から排出され、窒素は、中空糸膜を透過し難いため非透過ガスとして濃縮され、窒素濃度Cndの高い気体が窒素富化モジュール64の下流側へ送られる。
窒素富化モジュール64の吸気中の窒素を分離する窒素分離能力は、窒素富化モジュール64の温度Tmnに依存し、その温度Tmnが高いほど窒素分離能力すなわち窒素富化モジュール64を通過する気体中の窒素量の割合(窒素濃度Cnd)を高くする能力が上昇する。図5は、窒素富化モジュール64の温度Tmnと、窒素富化モジュール64を通過後の気体の窒素濃度Cndとの関係を示す図である。図5に示されるように、窒素富化モジュール64の温度Tmnが高くなるほど窒素分離能力(膜能力)が高くなるため、窒素富化モジュール64の通過後の気体に含まれる窒素量の割合(窒素濃度Cnd)が高くなる。ここで、吸入空気の窒素富化モジュール64を通過する気体の窒素濃度Cndは、吸気通路46の窒素富化モジュール64の下流側であって、吸気バイパス経路68の接続点よりも上流側における、吸気バイパス経路68を通過した吸気の合流前の窒素濃度であり、窒素濃度センサ66により検出される。このため、窒素富化モジュール64の温度Tmnが高いほど、エンジン8の吸気の窒素濃度Cnが高くされる。窒素富化モジュール64の温度Tmnは、環境温度、たとえば外気温、吸気の温度、熱伝導などにより変化する。
図6は、窒素富化モジュール64に供給される過給圧Pcmoutと窒素富化モジュール64により分離される窒素量との関係を示す図である。図6に示されるように、窒素富化モジュール64に供給される吸気の圧力すなわち過給圧Pcmoutが高いほど、圧縮された吸気が窒素富化モジュール64へ供給されるため、窒素富化モジュール64により分離される窒素量が多くなり、吸気に含まれる窒素量を増加させる。このため、過給圧Pcmoutが高いほど、エンジン8へ供給される吸気の窒素濃度Cnが高くなる。従って、窒素富化モジュール64の温度Tmnが高い程、過給圧Pcmoutが大きい程、吸気の窒素濃度Cnは高くなる。これにより、過給圧調節装置として機能するウェイストゲートバルブ54は、窒素濃度調節装置としても機能できる。
このように、エンジン8へ吸入される窒素濃度Cnが高くされることにより、エンジン8での効率向上が図られ、NOXの発生やノッキングの発生が低減される。しかしながら、状況に応じて、過給後の吸気が吸気バイパス経路68を通されることにより、エンジン8へ吸入される吸気の窒素濃度Cnの上昇が抑制される必要がある。このため、吸気バイパス経路68には、吸気バイパス経路68を通る吸気量を調節することによりエンジン8の吸気に含まれる窒素濃度Cnを変更するバイパスバルブ70が設けられている。中空糸膜の目詰まり時には、又は、燃焼安定性の確保のため、エンジン8の吸気の窒素濃度Cnを上げないことが望ましいエンジン8の始動直後等には、窒素富化モジュール64を用いた吸気供給を行わないことが望ましい。
図7は、本発明に係る動力伝達装置13を制御するための制御装置である電子制御装置74に入力される信号及びその電子制御装置74から出力される信号を例示している。この電子制御装置74は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1電動機M1、第2電動機M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
電子制御装置74には、図7に示す各センサやスイッチなどから、窒素富化装置空気圧センサ92(図8に示す)により検出される窒素富化モジュール64へ送られる吸気の圧力(過給圧Pcmout)を表す信号、窒素濃度センサ66により検出される窒素富化モジュール64を通過後の気体の窒素濃度Cnd(%)を表す信号、レゾルバなどの回転速度センサにより検出される第1電動機M1の回転速度Nm1(rpm)(以下、「第1電動機回転速度Nm1」という)及びその回転方向を表す信号、レゾルバなどの回転速度センサ76(図1)により検出される第2電動機M2の回転速度Nm2(rpm)(以下、「第2電動機回転速度Nm2」という)及びその回転方向を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度Ne(rpm)を表す信号、窒素富化装置温度センサ90(図8に示す)により検出される窒素富化モジュール64の温度Tmnを表す信号、車速センサ78(図1)により検出される出力軸22の回転速度Nout(rpm)に対応する車速V(km/h)及び車両の進行方向を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量(アクセル開度)Acc(%)を示すアクセル開度信号などが、それぞれ供給される。なお、上記回転速度センサ76及び車速センサ78は回転速度だけでなく回転方向をも検出できるセンサであり、車両走行中に自動変速部20が中立ポジションである場合には車速センサ78によって車両の進行方向が検出される。また、窒素富化装置空気圧センサ92により検出される吸気圧は、エンジン8へ送られる吸気の過給圧Pcmoutでもあり、窒素富化装置空気圧センサ92は過給圧センサとして機能するものである。
また、上記電子制御装置74からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置80(図8参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気通路46に備えられた電子スロットル弁60の開度θthを操作するスロットルアクチュエータ82への駆動信号や燃料噴射装置84によるエンジン8の各気筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置86によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧Pcmoutを調整するための過給圧調整信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路88(図8参照)に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、吸気バイパス経路68を通る吸気の量を調節するバイパスバルブ70の開度を制御するアクチュエータへの駆動信号、油圧制御回路88の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号等が、それぞれ出力される。
図8は、電子制御装置74による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置74は、有段変速制御部94、ハイブリッド制御部98、窒素富化部バイパス判定部104、吸気中窒素濃度判断部106、走行状態切換条件設定部112を備えている。また、ハイブリッド制御部98は、走行切換部114を備えている。なお、電子制御装置74は、本発明の車両用動力伝達装置の制御装置に対応している。
図8において、有段変速制御部94は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御部94は、図9の実線および一点鎖線に示す関係(変速線図、変速マップ)から車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクToutで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の変速を実行する。このとき、有段変速制御部94は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を除いた油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令)を油圧制御回路88へ出力する。なお、図9に示される変速線図は、有段変速制御部94に予め記憶されている。
ハイブリッド制御部98は、変速機構10の前記無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセルペダル操作量Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
ハイブリッド制御部98は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度Neと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御部98は例えばエンジン回転速度Neとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)Teとをパラメータとする二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に定められたエンジン8の最適曲線(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適曲線に沿ってエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTeとエンジン回転速度Neとなるように変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。上記のエンジン8の最適曲線は、後述する図10に示されている。
ハイブリッド制御部98は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ82により電子スロットル弁60を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置84による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置86による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置80に出力して必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行する。例えば、ハイブリッド制御部98は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度信号Accに基づいてスロットルアクチュエータ82を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θthを増加させるようにスロットル制御を実行する。
車両の走行状態は、エンジン8が停止した状態で走行用電動機としての第2電動機M2を駆動力源として車両走行を行う電動機走行(モータ走行)と、エンジン8が運転された状態で車両走行を行うエンジン走行とに切換可能である。走行状態切換条件設定部112は、車両の走行状態を電動機走行あるいはエンジン走行の何れに切り換えるかを決定する走行状態切換線を設定する。
前記図9の実線A1は、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる通常走行である所謂エンジン走行とエンジン8が停止した状態で第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる電動機走行である所謂モータ走行とを切り換えるための走行状態切換条件としての、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線(走行状態切換線)である。この図9に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための走行状態切換線(実線A1)を有する予め記憶された関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクToutとをパラメータとする二次元座標で構成された走行状態切換線図(駆動力源切換線図、駆動力源マップ)である。走行状態切換線A1は、出力トルクToutの零値から上限トルクT0までの間における複数の車速閾値Vr1の集まりであるとともに、車速Vの零値から上限車速V0までの間における複数のトルク閾値Tr1の集まりでもある。走行状態切換線A1では、車速閾値Vr1を定めることによりトルク閾値Tr1の一部が定められ、トルク閾値Tr1を定めることにより車速閾値Vr1の一部が定められる。なお、上限車速V0は、出力トルクToutの極めて低値の範囲における車速閾値Vrであり、上限トルクT0が、車速Vの極めて低値の範囲におけるトルク閾値Trである。走行状態切換条件設定部112は、電動機走行又はエンジン走行の何れに車両の走行状態を切り換えるかを決定するための車速閾値Vrおよびトルク閾値Trを設定することにより、走行状態切換線A1を設定する。
そして、ハイブリッド制御部98の走行切換部114は、車速Vと要求出力トルクToutとで示される車両状態が図9の走行状態切換線A1内であることに基づいてモータ走行領域と判断し、走行状態切換線A1外であることに基づいてエンジン走行領域と判断して、モータ走行或いはエンジン走行を実行する。走行切換部114は、車速閾値およびトルク閾値の連なりである走行状態切換線A1よりも低車速側あるいは低トルク側では電動機走行を、走行状態切換線A1よりも高車速側或いは高トルク側ではエンジン走行を行う。このように、走行切換部114によるモータ走行は、図9から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルク時、或いは低車速域(低負荷域)で実行される。
走行切換部114は、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン8の作動状態を運転状態と停止状態との間で切り換える。走行切換部114は、例えば図9の走行状態切換線図から車両状態に基づいてモータ走行とエンジン走行との切換えが判断された場合に、エンジン8の始動または停止を実行する。
例えば、走行切換部114は、アクセルペダルが踏込操作されて要求出力トルクToutが大きくなり車両状態がモータ走行領域からエンジン走行領域へ変化した場合には、第1電動機M1に通電して第1電動機回転速度Nm1を引き上げることで、所定のエンジン回転速度Ne’例えば自律回転可能なエンジン回転速度Neで点火装置86により点火させるようにエンジン8の始動を行って、モータ走行からエンジン走行へ切り換える。
また、走行切換部114は、アクセルペダルが戻されて要求出力トルクToutが小さくなり車両状態がエンジン走行領域からモータ走行領域へ変化した場合には、燃料噴射装置84によりフューエルカットを行ってエンジン8を停止させ、エンジン走行からモータ走行へ切り換える。このとき、走行切換部114は、フューエルカットより先に、第1電動機回転速度Nm1を引き下げてエンジン回転速度Neを引き下げ、所定のエンジン回転速度Ne’でフューエルカットするようにエンジン8の停止を行ってもよい。
また、ハイブリッド制御部98は、エンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置102からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動してエンジン8の動力を補助するトルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行には、エンジン走行+モータ走行が含まれる。
また、ハイブリッド制御部98は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的無段変速機能によって第1電動機回転速度Nm1および/または第2電動機回転速度Nm2を制御してエンジン回転速度Neを任意の回転速度に維持することができる。例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御部98はエンジン回転速度Neを引き上げる場合には、車速Vに拘束される第2電動機回転速度Nm2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度Nm1の引き上げを実行する。
ハイブリッド制御部98は、車両状態に基づいて前記差動状態切換装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)の係合/解放の切り換えを制御することにより、前記無段変速状態と前記有段変速状態とを、すなわち前記差動状態と前記ロック状態(非差動状態)とを選択的に切り換える。例えば、ハイブリッド制御部98は、ハイブリッド制御部98に予め記憶された前記図9の破線および二点鎖線に示す関係(切換線図、切換マップ)から車速Vおよび要求出力トルクToutで示される車両状態に基づいて、変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか或いは変速機構10を有段変速状態とする有段制御領域内であるかを判定することにより、変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える変速状態の切換えを実行する。
ハイブリッド制御部98は、有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御或いは無段変速制御を不実施とするとともに、有段変速制御部94に対しては、予め設定された有段変速時の変速を許可する。このときの有段変速制御部94は、例えば図9に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速を実行する。例えば図2は、このときの変速において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、変速機構10全体すなわち差動部11および自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
しかし、ハイブリッド制御部98は、変速機構10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、変速機構10全体として無段変速状態が得られるために差動部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路88へ出力する。同時に、ハイブリッド制御部98は、有段変速制御部94には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは記憶部96に予め記憶された例えば図9に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御部94により、図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、ハイブリッド制御部98により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度が無段的に変化させられて変速機構10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
図9は自動変速部20の変速判断の基となる有段変速制御部94に予め記憶された関係(変速線図、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクToutとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図9の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。
また、図9の破線はハイブリッド制御部98による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1および判定出力トルクT1を示している。つまり、図9の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクToutが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図9の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。つまり、この図9は判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクToutとをパラメータとしてハイブリッド制御部98により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予めハイブリッド制御部98に記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。また、この切換線図は判定車速V1および判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速Vおよび出力トルクToutの何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。
図10は、エンジン8のエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとの関係により示されるエンジン8の最適曲線の一例を示す図である。図10では、エンジン8に吸入される吸気が非富化状態のときの最適曲線が実線で、エンジン8に吸入される吸気が窒素富化状態のときの最適曲線が破線で示されている。ここで、吸気が非富化状態(通常状態)とは、エンジン8の吸気の窒素濃度Cnが所定値Cn0以下の状態であり、窒素富化状態とは、エンジン8の吸気の窒素濃度Cnが所定値Cn0を超えている状態である。また、吸気の窒素濃度Cnの所定値Cn0は、エンジン走行と電動機走行とを切り換える走行状態切換線A1を、後述するように走行状態切換線A1よりも低出力側に変更するか否かの閾値である。吸気が窒素富化状態のときの最適曲線の一部は、吸気が非富化状態のときの最適曲線よりもエンジン回転速度Neが高回転側に、且つエンジントルクTeが低トルク側にシフトしている。このため、吸気の窒素富化状態でのエンジン8の動作点は、所定のエンジン出力において、吸気の非富化状態でのエンジン8の動作点よりも、エンジン回転速度Neが高回転側であり、且つエンジントルクTeが低トルク側となる。
図11は、動力伝達装置13において、吸気が窒素富化状態および非富化状態の場合のエンジン走行における、車両の走行用パワー(駆動力)とエンジン8の効率低下量との関係の一例を実線で示す図であるとともに、第2電動機M2による電動機走行の走行用パワーとモータ走行損失との関係の一例を破線で示す図である。ここで、効率低下量とは、最高エンジン効率と実エンジン効率との差である。また、最高エンジン効率とは、エンジン8が最も効率良く運転されているときの効率であり、実エンジン効率とは、エンジン8の動力により第1電動機M1で発電された電力が蓄電装置102により充放電されることなく、その第1電動機M1で発電された電力で第2電動機M2が作動させられるトルクアシストモードでの効率である。また、モータ走行損失とは、第2電動機M2から走行用パワーが出力される電動機走行において、第2電動機M2、蓄電装置102における電力損失である。効率低下量は、エンジン8の窒素富化状態および非富化状態において、車両の走行用パワーが大きくなるほど低下する。モータ走行損失は、第2電動機M2から出力される走行用パワーが大きくなるほど増加する。また、吸気の窒素富化状態では、非富化状態よりも窒素濃度Cnが高いことにより燃焼温度が下がるため、吸気が窒素富化状態の場合のエンジン8の効率低下量は吸気が非富化状態の場合のエンジン8の効率低下量よりも小さくなっている。本実施例の動力伝達装置13では、エンジン8の吸気が窒素富化状態にある場合に車両全体の効率の上昇のため、エンジン8の効率低下量がモータ走行損失以上のときには、エンジン8が停止される電動機走行(EV走行)が選択され、エンジン8の効率低下量がモータ走行損失よりも小さくなるときには、エンジン8が運転されるエンジン走行(E/G走行)が選択される。エンジン走行とモータ走行との何れかに切り換えるための切換パワーP2は、エンジン8の効率低下量とモータ走行損失とが等しいときの車両の走行用パワーとして与えられる。エンジン8の効率低下量がモータ走行損失以上の場合すなわち車両の走行用パワーが切換パワーP2以下の場合に電動機走行に切り換えられ、エンジン8の効率低下量がモータ走行損失よりも小さくなる場合すなわち車両の走行用パワーが切換パワーP2よりも大きい場合には、エンジン走行に切り換えられる。これにより、エンジン8の効率低下量とモータ走行損失とのうちの小さい方の走行状態が選択されて、車両全体の効率が向上させられる。なお、車両全体の効率は、駆動力源によって出力される走行用パワーに対して駆動輪38に供給される駆動力であり、エンジン8の効率低下量あるいはモータ走行損失が小さいほど向上する。
吸気の窒素濃度Cnが非富化状態の場合よりも高い窒素富化状態の場合には、エンジン8の効率低下量が非富化状態の場合よりも小さくなることに伴い、上記切換パワーP2は非富化状態での切換パワーP1よりも矢印方向に低下する。図11において、吸気が窒素富化状態の場合のエンジン8の効率低下量は、吸気が非富化状態の場合のエンジン8の効率低下量よりも小さいため、吸気が窒素富化状態での切換パワーP2は、吸気が非富化状態での切換パワーP1よりも低くなっている。なお、図11でのエンジン8の効率低下量は一例である。
ところで、エンジン8の吸気の窒素濃度Cnは、窒素富化モジュール64の温度Tmnおよび過給圧Pcmoutに応じて変化する。エンジン8の吸気の窒素富化状態において、上記切換パワーP2が非富化状態での上記切換パワーP1よりも小さくなるため、走行状態切換線A1が低出力側へ変更させられることにより、車両全体の効率が高められることが望まれる。なお、先に説明した図9は、吸気が非富化状態での変速線図、走行状態切換線図、差動部11の差動状態と非差動状態とを切り換える切換線図を併せて示す図である。
窒素富化部バイパス判定部104は、バイパスバルブ70が開放されて、吸気が吸気バイパス経路68を通されて窒素富化部(窒素富化モジュール64)を迂回(バイパス)しているか否かを判断する。窒素富化部バイパス判定部104は、窒素富化モジュール64の中空糸膜の目詰まり時、あるいは吸気の窒素濃度Cnを上げないことが望ましいエンジン8の始動直後などにおいて、バイパスバルブ70を開放させる指令がバイパスバルブ70を駆動するアクチュエータに送られている時に、吸気が窒素富化モジュール64をバイパスしていると判断する。
吸気中窒素濃度判断部106は、窒素富化部バイパス判定部104により吸気が窒素富化モジュール64をバイパスしていないと判定される場合には、窒素富化モジュール64の温度Tmnが予め定められた温度判定値Tmn0よりも高いか否かに基づいて、エンジン8の吸気中の窒素濃度Cnが所定値Cn0を超えるか否かを判断する。吸気中窒素濃度判断部106は、窒素富化装置温度センサ90により検出される窒素富化モジュール64の温度Tmnから窒素富化モジュール64の窒素分離能力を判断することにより、吸気中の窒素濃度Cnが所定値Cn0を超えるか否かを判断する。図5に示されるように、窒素富化モジュール64の温度Tmnが高いほど、窒素富化モジュール64を通過する気体の窒素濃度Cndが高くなる関係にある。このため、吸気中窒素濃度判断部106は、窒素富化モジュール64の温度Tmnが温度判定値Tmn0を超えている場合には、窒素富化モジュール64の窒素分離能力が所定の能力を超えてエンジン8の吸気中の窒素濃度Cnが所定値Cn0を超えていると判断する。一方、吸気中窒素濃度判断部106は、窒素富化モジュール64の温度Tmnが温度判定値Tmn0以下の場合には、窒素富化モジュール64の窒素分離能力が所定の能力に至らず、エンジン8の吸気の窒素濃度Cnが所定値Cn0以下であると判断する。ここで、所定温度Tmn0は、窒素富化モジュール64の窒素分離能力が所定の能力を超えているか否かを判断するための閾値であるとともに、吸気が非富化状態にあるか窒素富化状態にあるかを判断するための閾値である。
走行状態切換条件設定部112は、吸気中窒素濃度判断部106の判断結果に基づいて、車両の走行状態を切り換える走行状態切換線を変更する。図12は、吸気が非富化状態の場合から変更された吸気が窒素富化状態の場合の走行状態切換線図および変速線図の一例を、吸気が非富化状態の場合の差動部11の差動状態と非差動状態とを切り換える切換線図の一例とともに示す図であり、図9に相当する図である。走行状態切換条件設定部112は、窒素富化部バイパス判定部104より吸気が窒素富化モジュール64をバイパスしていることが否定され、且つ吸気中窒素濃度判断部106により窒素富化モジュール64の温度Tmnが所定温度Tmn0を超えることに基づいてエンジン8の吸気中の窒素濃度Cnが所定値Cn0を超えていると判断された場合には、吸気の非富化状態の場合の走行状態切換線A1(図9に示す)を、吸気の窒素富化状態の場合の走行状態切換線A2(図12に示す)に変更する。また、走行状態切換条件設定部112は、窒素富化部バイパス判定部104より吸気が窒素富化モジュール64をバイパスしていることが肯定されるとき、あるいは吸気中窒素濃度判断部106により窒素富化モジュール64の温度Tmnが所定温度Tmn0以下であることに基づいて吸気中の窒素濃度Cnが所定値Cn0以下であると判断される場合には、吸気の非富化状態の場合の走行状態切換線A1を、吸気の窒素富化状態の場合の走行状態切換線A2に変更しない。
図12において、吸気の窒素富化状態での走行状態切換線A2は、吸気の窒素富化状態での切換パワーP2が吸気の非富化状態での切換パワーP1よりも低いため、車両の走行状態に基づいて車両全体の効率が最大化されるように、吸気の非富化状態の場合の走行状態切換線A1よりも低出力側に設定される。この走行状態切換線A1の走行状態切換線A2への変更は、車速閾値Vrが、吸気が非富化状態の場合の変更前の車速閾値Vr1よりも低い値の車速閾値Vr2へ、およびトルク閾値Trが、吸気が非富化状態の場合の変更前のトルク閾値Tr1よりも低い値のトルク閾値Tr2へ、それぞれ変更されることにより為される。また、これにより、エンジン走行領域(エンジン動作領域)が吸気の非富化状態の場合よりも低出力側に拡大される。
走行切換部114は、吸気が窒素富化状態のときに、吸気の非富化状態の場合の図9の走行状態切換線図から走行状態切換条件設定部112により変更された図12の走行状態切換線図に基づいて、エンジン走行と電動機走行との間で車両の走行状態を切り換える。吸気の窒素富化状態でのエンジン8の効率低下量が吸気の非富化状態の場合よりも低下することに応じて、走行状態切換線A2が走行状態切換線A1より低出力側に変更されてエンジン動作域が拡大されて、エンジン走行と電動機走行とが適切に切り換えられ、車両全体の効率が高められる。
有段変速制御部94は、走行状態切換条件設定部112により走行状態切換線A1から走行状態切換線A2への変更がなされた場合には、吸気の非富化状態の場合の自動変速部20の変速段を切り換える変速線(図9に示す)を、吸気の窒素富化状態の場合の変速線(図12に示す)に変更する。吸気の窒素富化状態にある場合の図12に示される第1速ギヤ段と第2速ギヤ段とを切り換える変速線(アップシフト線、ダウンシフト線)は、吸気の非富化状態にある場合の図9に示される第1速ギヤ段と第2速ギヤ段とを切り換える変速線(アップシフト線、ダウンシフト線)よりも、低車速側且つ高出力トルク側に設定されている。また、吸気の窒素富化状態にある場合の図12に示される第2速ギヤ段と第3速ギヤ段とを切り換える変速線は、吸気の非富化状態にある場合の図9に示される第2速ギヤ段と第3速ギヤ段とを切り換える変速線よりも、低車速側且つ高出力トルク側に設定されている。また、吸気の窒素富化状態にある場合の図12に示される第3速ギヤ段と第4速ギヤ段とを切り換える変速線は、吸気の非富化状態にある場合の図9に示される第3速ギヤ段と第4速ギヤ段とを切り換える変速線よりも、低車速側且つ高出力トルク側に設定されている。なお、吸気の窒素富化状態にある場合の図12に示される第4速ギヤ段と第5速ギヤ段とを切り換える変速線は、吸気の非富化状態にある場合の図9に示される第4速ギヤ段と第5速ギヤ段とを切り換える変速線と等しい速度に設定されている。また、有段変速制御部94は、走行状態切換条件設定部112により走行状態切換線A1から走行状態切換線A2への変更がなされない場合には、吸気が非富化状態にある場合の図9に示される自動変速部20の変速段を切り換える変速線を、吸気が窒素富化状態にある場合の図12に示される自動変速部20の変速段を切り換える変速線へ変更しない。
有段変速制御部94は、吸気が窒素富化状態のときに、吸気の非富化状態の場合の図9の変速線図から変更した図12の変速線図に基づいて、自動変速部20の変速段を切り換える。
吸気の窒素富化状態の場合において、第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間、第2速ギヤ段と第3速ギヤ段との間および第3速ギヤ段と第4速ギヤ段との間における変速段の切換えは、吸気の非富化状態の場合のそれぞれのギヤ段との間の変速段の切換えと比較して、より低車速側且つ高トルク側で行われる。このため、エンジン8の動作域が低出力側まで拡大される吸気中の窒素濃度Cnが所定値Cn0を超えていると判断される場合において、動力分配機構16の差動状態における第1電動機M1の逆転力行状態での作動が抑制される。
図13は、電子制御装置74の制御作動の要部を説明するフローチャートである。図13において、窒素富化部バイパス判定部104の機能に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する。)S1において、吸気が窒素富化モジュール64をバイパスしているか否かが判定される。S1の判定が肯定される場合には、S5が実行される。S1の判定が否定される場合には、S2が実行される。吸気中窒素濃度判断部106の機能に対応するS2において、窒素富化装置温度センサ90から検出される窒素富化モジュール64の温度Tmnが取得され、吸気中窒素濃度判断部106の機能に対応するS3において、窒素富化モジュール64の温度Tmnが温度判定値Tmn0(閾値)より大きいか否かが判断される。これにより、エンジン8の吸気中の窒素濃度Cnが所定値Cn0を超えているか否かが判断される。S3の判定が肯定される場合には、走行状態切換条件設定部112の機能に対応するS4において、車両の走行状態をエンジン走行と電動機走行との間で切り換える、車速閾値Vrが吸気の非富化状態の場合の車速閾値Vr1から車速閾値Vr1よりも低い値の車速閾値Vr2に、トルク閾値Trが吸気の非富化状態の場合のトルク閾値Tr1からトルク閾値Tr1よりも低い値のトルク閾値Tr2に、それぞれ変更される。これにより、吸気の窒素富化状態において、図9に示される吸気が非富化状態での車両状態切換線A1よりもエンジン動作域が低出力側まで拡大された図12に一例が示される車両状態切換線A2に基づいて、車両の走行状態が切り換えられる。S4実行後、本フローチャートは終了させられる。S1の判定が肯定される場合、およびS3の判定が否定される場合には、走行状態切換条件設定部112の機能に対応するS5において、吸気が非富化状態の場合の走行状態切換線A1から走行状態切換線A2への変更が為されず、エンジン動作域が変更されない。S5実行後、本フローチャートは終了させられる。
上述のように、本実施例の電子制御装置74によれば、窒素富化モジュール64により高められた吸気の窒素濃度Cnが所定値Cn0を超えるか否かを判断する吸気中窒素濃度判断部106と、電動機走行又はエンジン走行の何れに車両の走行状態を切り換えるかを決定するための走行状態切換線の車速閾値Vrおよびトルク閾値Trを設定する走行状態切換条件設定部112と、を有し、走行状態切換条件設定部112は、吸気中窒素濃度判断部106により窒素富化モジュール64の温度Tmnが温度判定値Tmn0よりも高いことに基づいてエンジン8の吸気の窒素濃度Cnが所定値Cn0を超えると判断された場合に、走行状態切換線の車速閾値Vrおよびトルク閾値Trを変更前よりも低い値に変更して、吸気が非富化状態の場合よりもエンジン動作域を低出力側に拡大する。このため、吸気が窒素富化状態において、吸気が非富化状態の場合の走行状態切換線A1から低出力側へ変更された走行状態切換線A2に基づいて、車両の走行状態がエンジン走行と電動機走行との間で切り換えられる。これにより、吸気の窒素濃度Cnに基づくエンジン8の効率低下量に応じて、車両の走行状態がエンジン走行と電動機走行との間で適切に切り換えられ、車両全体の効率が高められる。
また、本実施例の電子制御装置74によれば、吸気中窒素濃度判断部106は、窒素富化モジュール64の温度Tmnが予め定められた温度判定値Tmn0よりも高いことに基づいて、エンジン8の吸気中の窒素濃度Cnが所定値Cn0を超えると判断する。このため、窒素富化モジュール64の温度Tmnが温度判定値Tmn0よりも高い場合に、エンジン走行と電動機走行とを切り換える走行状態切換線が低出力側に変更される。これにより、吸気の窒素富化状態において、エンジン走行と電動機走行とが適切に切り換えられて、車両全体の効率が高められる。