JP6443389B2 - 車両用自動変速機の変速制御装置および変速制御方法 - Google Patents

車両用自動変速機の変速制御装置および変速制御方法 Download PDF

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Description

この発明は、変速比を段階的に変化させることのできる車両用自動変速機を対象とする変速制御装置および変速制御方法に関するものである。
特許文献1には、有段式の車両用自動変速機を対象とする変速制御装置であって、二段以上のスキップシフトを制御するように構成された装置が記載されている。その自動変速機は、クラッチ−ツウ−クラッチ変速機構からなる第1変速機構とクラッチ−ワン・ウェイ・クラッチ変速機構からなる第2変速機構とを備えており、変速制御装置は、これら第1変速機構と第2変速機構とにまたがるスキップシフトの場合に、前記第2変速機構の回転同期を前記第1変速機構の回転同期よりも優先させるように構成されている。
また、特許文献2には、車両の搭乗者が感じる加速感を、感性工学的な概念を利用して定量化し、車両の変速感を評価する方法が記載されている。特許文献2に記載されている方法では、初期加速反応時間と、最終加速度到達時間と、最大加速度到達後の一定時間の間の平均加速度維持時間と、速度上昇勾配と、初期最大ジャークと、末期最大ジャークとの六つの測定因子を求める。それらの測定因子に基づいて、反応速度と、反応強度と、柔らかさと、滑らかさとの四つの核心感性因子を算出し、それらの核心感性因子を使用して総合感性評点を求めるように構成されている。
さらに、特許文献3には、二段のダウンシフトを実行可能なデュアルクラッチ式自動変速機を対象とする変速制御方法であって、二段のダウンシフトの際に、中継ギヤ段を経由するか否かを、予測車両加速度に基づいて判断するように構成された方法が記載されている。
特開平8−189559号公報 特開2014−66692号公報 特開2013−87800号公報
加速要求に基づいてダウンシフトする場合、所定以上の加速度が生じ始めるまでに不可避的な遅れがある。その遅れは、ギヤ段ごと、もしくは変速パターンごとに異なっている。そのため、例えばアクセルペダルが大きく踏み込まれて二段以上離れたギヤ段にダウシフトする場合に、特許文献1に記載されているように第1変速機構による変速と第2変速機構による変速とを順序を決めて実行するのでは、運転者が加速を感じることのできる加速度が生じるまでの時間、あるいは実質的な変速時間が長くなる。特許文献2に記載されている方法では、上記の変速速度を反応速度として変速の評価に含めることがあり、その場合には、変速時間が長いことにより、変速応答性が劣るなど変速感の評価が低くなってしまう。
このような不都合を解消するために二段以上離れたギヤ段にダウンシフトする場合に、特許文献3に記載されているように、現ギヤ段と目標ギヤ段との間のいわゆる中間段に向けた変速を行い、その後に目標ギヤ段に向けた変速を行うことが考えられる。その場合、変速応答性のよい中間段を選ぶことにより、遅れ感の少ない変速を行うことが可能になるかも知れない。しかしながら、このような中間段を単に経由する場合には、中間段への変速が完了した後に、目標ギヤ段に向けた変速が生じ、運転者には二段の変速が生じたように感じられ、これが違和感となる可能性がある。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、大きい加速要求があった場合に変速の遅れや段階的な変速などの違和感を生じさせることなく変速を実行できる変速制御装置およびその変速制御方法を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、この発明の変速制御装置は、車速もしくは駆動要求量に応じて段階的に設定される複数の変速比を有する車両用自動変速機の変速制御装置において、前記変速比を制御するコントローラを有し、前記コントローラは、運転者による加速操作後に加速度の変化が小さいことにより駆動力の増大が停滞していると感じる停滞時間と、前記停滞時間後の加速度の変化量と加速度の時間変化率とによって決まる刺激強度とによって定義される領域として、前記加速操作に応じた大きさの加速度の発生を感じ取ることのできる加速領域と、前記加速領域を規定している下限の刺激強度より小さい予め定めた下限刺激強度以上でかつ前記加速領域を規定している最長の停滞時間より長い予め定めた限界停滞時間以下であり更に前記加速領域を除いた領域であって、加速度の変化の開始したことを感じ取ることのできる応答領域とが定められた制御マップを備え、前記運転者の加速操作に基づく前記駆動要求量から定まる目標変速比への現変速比からの変速が前記加速領域の刺激強度および停滞時間とならない変速の場合、前記現変速比と前記目標変速比との間の変速比であって、前記目標変速比に向けた変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記加速領域に入る単一の第1中継変速比を前記制御マップから選択し、前記現変速比から前記第1中継変速比への変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域に入る場合には、前記現変速比から前記第1中継変速比への第1変速と、前記第1中継変速比から前記目標変速比への第2変速とを実行し、前記現変速比から前記第1中継変速比への変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域に入らない場合には、前記現変速比と前記第1中継変速比との間の変速比であって、前記現変速比から前記第1中継変速比に向けた変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域に入る単一もしくは複数の第2中継変速比を前記制御マップから更に選択し、前記現変速比から前記第1中継変速比への変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域に入らない場合には、前記現変速比から前記第2中継変速比への第3変速と、前記第2中継変速比から前記第1中継変速比への第4変速と、前記第2変速とを実行するように構成されていることを特徴とするものである。
この発明の変速制御装置では、前記目標変速比が前記現変速比から二段階以上離れている場合の前記第1中継変速比は、前記現変速比のギヤ段と前記目標変速比のギヤ段との間の中間ギヤ段の変速比とすることができる。
この発明の変速制御装置では、前記自動変速機は、前記段階的に設定された変速比の中間の変速比を設定可能な無段変速機を含み、前記目標変速比が前記現変速比に対して一段階離れている場合の前記第1中継変速比は、前記現変速比と前記目標変速比との間の変速比とすることができる。
この発明の変速制御装置では、前記コントローラは、前記現変速比から前記目標変速比への変速がダウンシフトでありかつ前記第1中継変速比が複数存在する場合、前記単一の前記第2変速は、それら複数の前記中継変速比のうちから選択された小さい変速比から前記目標変速比に向けた変速となるように構成されていてよい。
さらに、この発明の変速制御方法は、車速もしくは駆動要求量に応じて段階的に設定される複数の変速比を有する車両用自動変速機の変速制御方法において、運転者による加速操作後に加速度の変化が小さいことにより駆動力の増大が停滞していると感じる停滞時間と、前記停滞時間後の加速度の変化量と加速度の時間変化率とによって決まる刺激強度とによって定義される領域として、前記加速操作に応じた大きさの加速度の発生を感じ取ることのできる加速領域と、前記刺激強度が前記加速領域より小さくかつ予め定めた下限刺激強度以上で、また前記停滞時間が前記加速領域より長くかつ予め定めた限界停滞時間以下であって、加速度の変化の開始したことを感じ取ることのできる応答領域とを定められた制御マップを用意し、前記運転者の加速操作に基づく前記駆動要求量から定まる目標変速比への現変速比からの変速が前記加速領域の刺激強度および停滞時間とならない変速の場合に、前記現変速比と前記目標変速比との間の変速比であって、前記目標変速比に向けた変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記加速領域に入る単一の第1中継変速比を前記制御マップから選択し、前記現変速比から前記第1中継変速比への変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域にいる場合には、前記現変速比から前記第1中継変速比への第1変速と、前記第1中継変速比から前記目標変速比への第2変速とを実行し、前記現変速比から前記第1中継変速比への変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域に入らない場合には、前記現変速比と前記第1中継変速比との間の変速比であって、前記現変速比から前記第1中継変速比に向けた変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域に入る単一もしくは複数の第2中継変速比を前記制御マップから更に選択し、前記現変速比から前記第1中継変速比への変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域に入らない場合には、前記現変速比から前記第2中継変速比への第3変速と、前記第2中継変速比から前記第1中継変速比への第4変速と、前記第2変速とを実行することを特徴とする方法である。
この発明によれば、現変速比から目標変速比への変速が、停滞時間が短くかつ刺激強度が大きい加速領域の加速にならない場合、第1中継変速比(または中間の変速比)への第1変速と、それに続く目標変速比への第2変速とが実行され、または第2中継変速比への第3変速と、第2中継変速比から第1中継変速比への第4変速と、それに続く目標変速比への第2変速とが実行される。第1変速や第3変速あるいは第4変速は、刺激強度および停滞時間が応答領域に入る変速であるから、運転者は加速のための何らかの挙動の変化を体感でき、またそれに続く第2変速では、加速領域に入る刺激強度および停滞時間の変速が実行されるので、加速の遅延が特にはなく、かつ要求に応じた加速度を運転者が体感できる。しかも、第1変速や第3変速あるいは第4変速は、刺激強度や停滞時間が前記加速領域に入らない変速であるから、第1変速や第3変速あるいは第4変速と第2変速とが生じるとしても、加速とその後の停滞ならびに再度の加速などのようないわゆる二段階の加速感を生じさせることがない。結局、この発明によれば、変速比を大きく変化させて加速する場合、応答性に優れ、しかもスムースな加速を実現することができる。
この発明では、いわゆる有段変速機において二段階以上離れたギヤ段への変速の際に、現ギヤ段と目標ギヤ段との間の中間のギヤ段を有効に利用して、応答性に優れ、しかもスムースな加速を実現することができる。
また、変速比を連続的に変化させることのできる無段変速機を有段的に使用する場合、隣接するギヤ段の間での変速の際に、それらのギヤ段の間の変速比を有効に利用して応答性に優れ、しかもスムースな加速を実現することができる。
また、この発明では、刺激強度および停滞時間が前記加速領域に入る第1中継変速比(または中間の変速比)が複数存在する場合、目標変速比への変速がダウンシフトであれば、それらの第1中継変速比のうちの小さい変速比を選択するので、第2変速での刺激強度が大きくなり、加速感を高めることができる。
この発明の実施形態における車両のパワートレーンを模式的に示すブロック図である。 変速マップの一例を示す模式図である。 制御マップの一例を示す模式図である。 中間ギヤ段(中間の変速比)を経由して変速を行う場合のギヤ段および加速度の変化の一例を模式的に示す図である。 この発明の実施形態における変速制御の一例を説明するためのフローチャートである。
この発明の実施形態での車両は、一例として図1に示すように、エンジン1の出力側に自動変速機2が連結され、その自動変速機2から出力された駆動トルクをデファレンシャルギヤ3を介して左右の駆動輪4に伝達するように構成されている。その自動変速機2は、複数の変速比を段階的に設定することのできる変速機である。例えば、クラッチやブレーキなどの係合機構を係合もしくは解放させることにより駆動トルクの伝達経路を変えて変速を実行するように構成されている。あるいはプーリに対するベルトの巻き掛け半径を変化させて変速比を連続的に変化させることのできるベルト式無段変速機や、エンジンと発電機能のあるモータと出力部材とを差動機構からなる動力分割機構に連結し、そのモータによってエンジンの回転数を連続的に変化させるいわゆるハイブリッド機構によって構成された無段変速機であってもよい。これら無段変速機を搭載した車両では、設定するべき複数の変速比もしくはギヤ段(以下、単にギヤ段と記す場合がある。)を予め決めておき、それらのギヤ段の間で変速を実行することにより、有段的に変速を行うように構成してよい。
自動変速機2における変速は、電子制御装置(ECU)5により制御される。ECU5は、この実施形態におけるコントローラに相当し、例えばマイクロコンピュータを主体にして構成され、入力されたデータや、予め記憶しているデータを使用して演算を行い、演算の結果を制御指令信号として出力するように構成されている。入力されるデータは、図示しない各種のセンサによって得られたデータであって、車速Vやアクセルペダルの踏み込み量であるアクセル開度ACCがその例である。アクセル開度ACCはこの実施形態における駆動要求量に相当している。また、予め記憶しているデータは、変速比を段階的に変化させる変速マップや後述する中継変速比を選択するための制御マップなどである。
変速マップは、従来の有段変速機の変速制御装置で採用されているものであってよく、車速Vとアクセル開度ACC(駆動要求量)とによってギヤ段が決められている。図2にはその一例を模式的に示してあり、横軸に車速Vを採り、縦軸にアクセル開度ACCを採ってある。屈曲している実線はアップシフト線であり、車速Vとアクセル開度ACCとによって決まる走行状態がそのアップシフト線を図2の左側から右側に、もしくは上側から下側に横切ることによりアップシフトの判断が成立し、設定するべきギヤ段が決まるように構成されている。また、屈曲している破線はダウンシフト線であり、車速Vがダウンシフト線を高車速側から低車速側(図2の右側から左側)に横切るように変化した場合、およびアクセル開度ACCがダウンシフト線を低開度側から高開度側(図2の下側から上側)に横切るように変化した場合に、ダウンシフトの判断が成立し、設定するべきギヤ段が決まるようになっている。このダウンシフト線はアップシフト線に対して所定のヒステリシスがあるように設定されている。なお、車速Vおよびアクセル開度ACCによって決まる走行状態が、複数本のアップシフト線もしくはダウンシフト線を横切るように変化した場合には、二段階以上の変速を実行することになる。また、この実施形態において、変速やギヤ段を判断するための走行状態は、車速Vに替えてこれに相当する他の所定の回転部材の回転数や、アクセル開度ACCに替えてこれに相当する検出データによって求めてもよい。
この実施形態における制御マップは、運転者の加速意図に適するギヤ段を選択するためのものであり、その一例を図3に模式的に示してある。ここに示す制御マップは、停滞時間Tと刺激強度Miとによって領域を定義し、その領域として応答領域Arと加速領域Aaとを設定したマップである。
停滞時間Tは、車両の加速度(特に前後加速度)Gを変化させる要因が生じた時点から加速度Gが変化し始めたことを運転者(搭乗者)が体感するまでの時間である。この停滞時間Tには、制御上の遅延時間や車種あるいは車格ごとの加速特性による応答時間などが含まれる。また、刺激強度Miは、停滞時間Tの直後に生じる加速度の変化量ΔGとその時間変化率(ジャーク)Jとによって決まる物理量であり、図3に示す例では、加速度Gの変化量ΔGとジャークJとの積(ΔG×J)としてある。
より具体的に説明すると、図4は所定のギヤ段Aで走行している際にアクセルペダルが踏み込まれるなどの加速操作が行われ、それに伴って加速度Gが増大し、さらに加速要求を満たすべく二段の変速が実行された場合の停滞時間T、加速度G、ジャークJの変化の一例を模式的に示している。横軸が時間を示し、縦軸が加速度Gを示している。なお、図4には、変速指示されるギヤ段(ギヤ比)の変化を併記してある。t0 時点にアクセルペダルが踏み込まれる(アクセルON)とエンジントルクが増大して加速度Gが増大し、t1 時点に運転者が加速度Gの増大を感じる。したがって、t1 時点は実際の車両を使用した官能試験によって決まる。加速操作(加速のための要因)の発生した上記のt0 時点から加速度Gの増大を体感し始めるt1 時点までの間は、駆動力の変化が小さいことにより駆動力の変化(加速度Gの増大)を体感できない期間であり、これが停滞時間T1 である。この停滞時間T1 は、本発明者等による試験によれば、車速に応じて異なっており、高車速ほど長くなる。
エンジントルクの増大によって加速度Gが増大する。その場合に到達する加速度は、アクセル開度やその時点のギヤ段Aなどに応じた値になり、図4に実線の曲線で示すように大小に僅かに変化する値になる。加速度Gの平均値(下記の停滞時間T2 の間での平均値)を「G1 」で示している。この加速度G1 に達したことは、加速度Gの増大が一時的に低下することによって定位反応が発生することにより体感される。ここで定位反応とは、運転者が加速度の増大を予想しているときに、予想しなかった事態(新奇刺激)が生じ、その新奇刺激を改めて注目する生物的な防衛反応である。図4に示す例では、運転者が加速度Gの変化(増大)を予想していたにも拘わらず、加速度Gが「G1 」に留まって変化(増大)しないことが新奇刺激となり、定位反応が発生することになる。以下に説明する加速度G2 に変化して一時的に留まる場合も同様の定位反応が発生することになる。
そのような定位反応(体感)が発生した時点を図4では「t2 時点」として示してある。そして、上記のt1 時点からt2 時点までの間の加速度Gの時間変化率がジャークJ1 である。このジャークJ1 は、t1 時点から加速度Gが上記の平均値G1 になるまで、最小二乗法により求めた近似線の傾きとして算出できる。上記の平均値G1 (すなわち加速度Gの変化量ΔG)とジャークJ1 とは、加速操作によって生じ、これらの積が刺激強度Miである。
ギヤ段Aでは加速要求に応じた駆動力を得られないことにより、低速側のギヤ段Bに向けたダウンシフトの制御指令が出力される。そのダウンシフト指令に基づく変速が開始され、かつ加速度が増大し始めるまでには所定の時間を要し、その間は、加速度Gは従前の値G1 に停滞する。ギヤ段Bへのダウンシフトによる加速度Gの増大が体感される時点t3 までの経過時間、すなわち上記のt2 時点からt3 時点までの間の時間が停滞時間T2 である。この停滞時間T2 は、前述した最初の停滞時間T1 と同様に、車速に応じて異なっており、高車速ほど長くなる。
ギヤ段Bへの変速が実行されて変速比が大きくなることにより加速度Gが増大し、その時点のエンジントルクや変速比に応じた加速度G2 になる。この加速度G2 は、前述した加速度G1 と同様に、停滞時間T3 の間での加速度Gの平均値である。この加速度G2 に達したことは、加速度Gの増大が一時的に低下することによる定位反応として体感される。そのような定位反応(体感)が発生した時点を図4では「t4 時点」として示してある。そして、上記のt3 時点からt4 時点までの間の加速度Gの時間変化率がジャークJ2 である。このジャークJ2 は、t3 時点から加速度Gが上記の平均値G2 になるまで、最小二乗法により求めた近似線の傾きとして算出できる。上記の各平均値G1 ,G2 の差(すなわち加速度Gの変化量ΔG)とジャークJ2 とは、加速操作に基づくダウンシフトによって生じ、これらの積が刺激強度Miである。
ギヤ段Bでは加速要求に応じた駆動力を得られないことにより、低速側の目標ギヤ段Cに向けたダウンシフトの制御指令が出力される。前回のダウンシフトと同様に、そのダウンシフト指令に基づく変速が開始され、かつ加速度が増大し始めるまでには所定の時間を要し、その間は、加速度Gは従前の値G2 に停滞する。ギヤ段Cへのダウンシフトによる加速度Gの増大が体感される時点t5 までの経過時間、すなわち上記のt4 時点からt5 時点までの間の時間が停滞時間T3 である。この停滞時間T3 は、前述した各停滞時間T1 ,T2 と同様に、車速に応じて異なっており、高車速ほど長くなる。
ギヤ段Cへの変速が実行されて変速比が大きくなることにより加速度Gが増大し、ついには加速操作に応じた最大加速度G3 になる。この加速度G3 に達したことは、加速度Gの増大が一時的に低下することによる定位反応として体感される。そのような定位反応(体感)が発生した時点を図4では「t6 時点」として示してある。そして、上記のt5 時点からt6 時点までの間の加速度Gの時間変化率がジャークJ3 である。このジャークJ3 は、t5 時点から加速度Gが最大値G3 になるまで、最小二乗法により求めた近似線の傾きとして算出できる。上記の各加速度G2 ,G3 の差(すなわち加速度Gの変化量ΔG)とジャークJ3 とは、加速操作に基づくダウンシフトによって生じ、これらの積が刺激強度Miである。
上記の停滞時間Tおよび刺激強度Miは、運転者の加速操作およびそれに伴う変速によって生じる車両の挙動あるいは運転者が体感される車両の挙動を表している。本発明者等による試験によれば、運転者もしくは搭乗者はそれらの値の大小や組み合わせに応じて、加速の良否や加速応答性の良否などの印象を抱くことが認められた。例えば、停滞時間Tが長くかつ刺激強度Miが大きい場合には、目標加速度(目標駆動力)を得ることができるものの、加速応答性が劣る印象を抱く。停滞時間Tを短くするために、二段階もしくは複数段階に変速を行い、第一段階目の変速による加速度の変化量と最終段階の加速度の変化量とが近似し、もしくは等しいと、一回の加速操作で、前記定位反応を挟んだ二回の変速感が生じ、違和感を抱く。
加速応答性は、加速操作に基づく何らかの変化を体感するまでの時間が長いことにより悪化し、また二段階の変速感は、加速度の変化を二回体感することにより生じると考えられる。そこでこの実施形態においては、加速操作に起因する変化を早期に体感させることにより加速感の遅れを抑制し、かつ目標変速比に向けた加速度の変化すなわち刺激強度を十分に大きくして十分な加速感を生じさせるように構成した。具体的には、上記の停滞時間Tと刺激強度Miとによって定義される領域として、加速操作に基づく加速に向けた挙動の変化を迅速に生じさせ、かつその刺激強度は加速の開始と体感しない程度に抑制する応答領域Arと、停滞時間Tが短くかつ刺激強度Miが加速感を十分に生じさせ得る程度に大きい加速領域Aaとを制御マップに設定する。そして、その制御マップに基づいて中継変速比(中間ギヤ段もしくは中間の変速比)を選択して、変速制御を行う。
これらの領域Ar,Aaは、実車を使用した官能試験によって決められる。その試験に使用する車両は、加速度および加速応答時間などを多様に変化させて試験を行うために、駆動力源としてモータを搭載した車両であることが望ましい。停滞時間Tおよび刺激強度Miを様々に変えて加速走行を行い、それぞれの加速の良否を評価し、「5」を満点とする評価点数を付ける。評価点数が同じ、もしくは近似している点を結ぶことにより、図3に「2,3,4,5」の評価点数を付した評価点数ラインLeが得られる。なお、評価を行う運転者あるいは搭乗者は、テストドライバーや運転を職業とする者であることが好ましく、また人数は多いほど、好ましい。図3に示す結果から明らかなように、停滞時間Tが長いほど、また刺激強度Miが小さいほど、加速性に関する評価が悪い。すなわち、加速応答性が悪く、また意図した加速感を得られない。このような結果から、所定の評価点数以上の領域を、良好な加速感を得られる加速領域Aaとして設定する。図3に示す例では、評価点数が「4.3」程度の位置に加速下限Aalを設定し、それより大きい刺激強度で短い停滞時間Tの領域が加速領域Aaである。
なお、加速下限Aalは、車両の最大加速度および許容ジャークによって異ならせることが好ましい。すなわち、最大加速度が大きい場合、短時間に大きい加速度の変化を生じさせることができるので、加速下限Aalは大きい値として設定する。例えば制御マップの作成に使用した車両より最大加速度が大きい車両の制御装置では、制御マップを作成した車両の最大加速度と制御マップを搭載する車両の最大加速度との差もしくは比率に応じて加速下限Aalを大きい値に変換した制御マップを使用する。
また、許容ジャークは、車種や車格、あるいはスポーツモードやノーマルモードなどの走行モードによって異なるので、許容ジャークに合わせて加速下限Aalを設定する。すなわち、許容ジャークが大きければ、所定の加速度変化量を短時間に達成することができるので、加速下限Aalは大きい値として設定する。例えば制御マップの作成に使用した車両より許容ジャークが大きい車両の制御装置では、制御マップを作成した車両の許容ジャークと制御マップを搭載する車両の許容ジャークとの差もしくは比率に応じて加速下限Aalを大きい値に変換した制御マップを使用する。
これに対して、加速領域Aaより刺激強度Miが小さく、また停滞時間Tが長い領域が応答領域Arとされている。応答領域Arに入る刺激強度Miは、加速操作に基づく体感可能な強度である必要があり、また停滞時間Tは加速の遅れ感を生じさせない程度に短いことが必要であるから、応答領域Arは所定の下限刺激強度Milと限界停滞時間Tlとによる応答下限Arlで規定される。この応答下限Arlは、加速操作に基づく体感可能な何らかの変化が生じ、またその変化が加速の遅れ感とならない時間を規定するものであればよいので、その目的の範囲で適宜に設定することができる。図3に示す例では、折れ曲がった直線で示してあり、この直線より図3での上側および左側が応答領域Arである。なお、下側の直線は加速操作後に生じる最初の加速度の変化量の大きさあるいはギヤ段に応じて設定してもよく、あるいは加速度の変化量やギヤ段に拘わらず一本の直線であってもよい。また、加速操作に起因する体感可能な変化は、高車速ほど大きい変化になるから、応答下限Arlは車速依存性を持たせ、高車速ほど、高刺激強度Miとする。さらに、応答領域Arの刺激強度Miの下限を示す直線は、図3に示すように、停滞時間Tが長いほど、刺激強度Miが大きくなるように、右上がりの線とする。
上記の下限刺激強度Milは、前記加速領域Aaを規定している刺激強度の下限値より小さく、また上記の限界停滞時間Tlは前記加速領域Aaを規定している停滞時間の最長値より長い。したがって、この発明の実施形態における応答領域Arは、上記の下限刺激強度Mil以上でかつ前記限界停滞時間Tl以下の領域のうち前記加速領域Aaを除いた領域となっている。
この発明の実施形態におけるコントローラは、上述した制御マップに基づいて以下に述べる変速制御を実行するように構成されている。図5はその制御例およびこの発明の実施形態における変速制御方法を説明するためのフローチャートである。なお、図5の制御について、以下の説明では「ギヤ段」の字句を使用するが、実際の制御では「ギヤ比(変速比)」によって制御を行ってもよく、したがって図5には「ギヤ比」の字句を併記する。図5において、車両の走行中にアクセルペダルが踏み込まれたことが検出されると(ステップS1)、現ギヤ段Aで前述した加速領域Aaの加速度変化を達成できるか否かが判断される(ステップS2)。このステップS2で肯定的に判断された場合には、変速(ダウンシフト)を行う必要がないので、特に制御を行うことなく、図5に示すルーチンを一旦終了する。
これとは反対にステップS2で否定的に判断された場合には、変速マップから目標ギヤ段Cが算出される(ステップS3)。現ギヤ段AにおいてもアクセルONとなることにより、所定の停滞時間Tの後に加速度Gが増大する。そのときの停滞時間TとジャークJと加速度Gの変化量とは、図4に符号「P1」を付して示したようになる。この符号「P1」で示される変速状態が、図3に符号「P1」で示すように前述した応答下限Arlを外れていれば、ステップS2で否定的に判断される。また、有段式の自動変速機では、現在の車速Vとアクセル開度ACCとを引数として変速マップ上のギヤ段が求められる。なお、変速マップに基づいて常時変速制御を行う有段自動変速機を対象とするコントローラにあっては、ステップS2の判断を行うことなく、直ちにステップS3で目標ギヤ段Cを求めることとしてもよい。
つぎに、目標ギヤ段Cへの変速で前述した加速領域Aaの加速度変化を達成できるか否かが判断される(ステップS4)。変速に要する時間(変速時間や遅れ時間)、発生可能なジャーク、所定時間内に達成できる加速度変化量などは、車両ごとに、また変化させるべき変速比の幅、さらにはアクセル開度などによってほぼ決まっており、これらのデータを予め用意してコントローラに記憶させておくことができるので、その記憶させてあるデータに基づいてステップS4の判断を行うことができる。このステップS4で肯定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく、図5に示すルーチンを一旦終了する。その場合、目標ギヤ段Cが求められているので、従来の自動変速機で実行されている変速制御と同様の制御で目標ギヤ段Cへの変速が実行される。
これに対してステップS4で否定的に判断された場合には、中継ギヤ段(中継変速比)Bが選択される(ステップS5)。アクセルペダルが大きく踏み込まれるなど駆動要求量が急速に増大し、それに伴って現ギヤ段Aに対して二段階以上離れた目標ギヤ段Cが算出された場合、現ギヤ段Aから目標ギヤ段Cに直ちに変速するとすれば、自動変速機2の機構上の制約や制御上の不可避的な遅れによって停滞時間Tが長くなる。その場合の停滞時間や刺激強度Miは、例えば図3に符号「Px」で示すものとなり、応答下限Arlの限界停滞時間Tlを超えて応答領域Arを外れたものとなる場合がある。このような場合にステップS4で否定的に判断される。
一方、中継ギヤ段Bは、目標ギヤ段Cに向けた変速が前述した加速領域Aaに入る刺激強度Miおよび停滞時間Tを生じるように選択される。その停滞時間TおよびジャークJならびに加速度Gの変化量は、図4に符号「P3」で示すようになり、これらが例えば図3に符号「P3」で示すように加速領域Aaに入るように中継ギヤ段Bが選択される。有段自動変速機では設定可能なギヤ段(変速比)が構造上、決まっているから、このステップS5の制御を行うのは、目標ギヤ段Cが現ギヤ段Aに対して二段階以上離れている場合に限られる。すなわち、前記目標ギヤ段が前記現ギヤ段から二段階以上離れている場合の前記中継変速比は、前記現変速比のギヤ段と前記目標変速比のギヤ段との間の中間ギヤ段の変速比である。したがって、有段自動変速機を対象とする制御装置の場合、上記のステップS4では、前記目標ギヤ段が前記現ギヤ段に対して二段階以上離れていないか否かの判断を、上述した加速領域Aa内の加速度を達成できるか否かの判断と併せて行い、二段階以上離れていることによりその判断結果が否定的である場合に、ステップS5に進むこととすればよい。
ステップS5で選択可能なギヤ段(変速比)が複数存在する場合、小さい変速比のギヤ段が選択される。図5に示す制御例は、加速要求があって駆動力を増大させる場合の例であるから、中継ギヤ段Bから目標ギヤ段Cに向けた変速の際の刺激強度Miを、停滞時間Tの要件を満足する範囲内で可及的に大きくして、運転者に与える加速感を増大させるためである。
このようにして選択された中継ギヤ段Bが、前述した応答領域Arに入る変速を生じさせるか否かが判断される(ステップS6)。言い換えれば、現ギヤ段Aから中継ギヤ段Bに変速した場合に、応答領域Arに入る刺激強度Miを生じ、かつ応答下限Aal以内の停滞時間Tとなるか否かが判断される。このステップS6で肯定的に判断された場合には、図5に示すルーチンを一旦終了する。この場合は、目標ギヤ段Cおよび中継ギヤ段Bが定まっているので、現ギヤ段Aから中継ギヤ段Bへの変速と、中継ギヤ段Bから目標ギヤ段Cへの変速が連続して実行される。したがって、中継ギヤ段Bは、現ギヤ段Aから変速した場合の刺激強度Miおよび停滞時間Tが加速領域Aaに入らないギヤ段である。なお、現ギヤ段Aから中継ギヤ段Bへの変速が、この発明の実施形態における「第1変速」に相当し、中継ギヤ段Bから目標ギヤ段Cへの変速が、この発明の実施形態における「第2変速」に相当する。
その場合のギヤ段(変速比)および加速度の変化は、前述した図4に符号「P2」で示すようになる。すなわち、中継ギヤ段Bへ変速することによる停滞時間T2 および刺激強度Mi(=(G2 −G1 )×J2 )が応答領域Arの範囲内の値になる。これを図3に符号「P2」で示してある。また、中継ギヤ段Bから目標ギヤ段Cへ変速することによる停滞時間T3 および刺激強度Mi(=(G3 −G2 )×J3 )が加速領域Aaの範囲内の値になる。したがって、運転者(搭乗者)は、加速操作した後、特には遅れ感が生じることのない時間の範囲で、加速操作に起因する加速度の変化を、「加速応答が生じた」として体感し、その後、特に遅れ感を生じることのない時間の範囲内で十分に大きい加速度の変化を体感することになる。そのため、運転者は加速の応答遅れの印象を抱くことがなく、また十分に大きい加速感を抱くので、運転者の意図もしくは期待する良好な加速が可能になる。また、現ギヤ段Aから中継ギヤ段Bへの変速は、刺激強度Miが加速を体感させるほどには大きくない。そのため、中継ギヤ段Bを経由するいわゆる二段階の変速であっても、体感上は連続した一連の加速となり、違和感を回避もしくは抑制することができる。
なお、図3に示す例では、図面上、加速度が「G2」に一旦停滞するように示され、ここで定位反応が生じることになる。しかしながら、このような変化は、前述した応答領域Ar内での小さい変化であるため、運転者に対して二段階の加速を体感させるものとはならない。
一方、現ギヤ段Aと中継ギヤ段Bとの変速比幅が大きいために停滞時間Tが長くなる場合には、応答領域Arを外れた変速となるからステップS6で否定的に判断される。ステップS6で否定的に判断された場合には、上記の中継ギヤ段Bより高速側のギヤ段であって、当該中継ギヤ段Bに向けた変速による刺激強度Miおよび停滞時間Tが前述した応答領域Arに入るギヤ段が第二の中継ギヤ段B’として選択される(ステップS7)。なお、このようにして選択した第二の中継ギヤ段B’について、上記のステップS6での判断と同様の判断を行い、その判断結果が否定的であった場合には、ステップS7の制御と同様にして第三の中継ギヤ段を選択することとしてもよい。
このようにして複数の中継ギヤ段B,B’を選択した後、図5に示すルーチンを一旦終了する。その場合には、現ギヤ段Aから前記第二の中継ギヤ段B’に向けた変速、第二の中継ギヤ段B’から中継ギヤ段Bに向けた変速、中継ギヤ段Bから目標ギヤ段Cに向けた変速との順に変速が連続して実行される。したがって、このように複数の中継ギヤ段B,B’を経由して変速を実行する場合であっても、運転者は、時間的な遅れが特にはない範囲で加速操作に起因する何らかの変化や加速度の変化を体感するので、運転者の意図もしくは期待する良好な加速が可能になる。また、現ギヤ段Aから第二の中継ギヤ段B’への変速や中継ギヤ段B’,B同士の間での変速は、刺激強度Miが加速を体感させるほどには大きくない。そのため、中継ギヤ段B,B’を経由するいわゆる複数段階の変速であっても、体感上は連続した一連の加速となり、違和感を回避もしくは抑制することができる。なお、現ギヤ段Aから第二の中継ギヤ段B’に向けた変速が、この発明の実施形態における「第3変速」に相当し、第二の中継ギヤ段B’から中継ギヤ段Bに向けた変速が、この発明の実施形態における「第4変速」に相当する。
なお、上述した実施形態から知られるように、この発明の実施形態での変速制御は、変速マップおよび上記の制御マップを使用して行うことができる。したがって、加速要求があった場合に、目標ギヤ段が直ちに求まるとともに、目標ギヤ段が決まれば現ギヤ段との関係および制御マップに基づいて中継ギヤ段を決めることができる。その中継ギヤ段は、現ギヤ段と目標ギヤ段とに応じて制御マップを利用して予め決めておき、制御データとして用意しておくことも可能である。このように中継ギヤ段を予め決めておく場合には、図5に示す制御ルーチンによらずに変速制御を行うことができる。その場合であっても、変速制御は上述した制御マップに基づく制御となることに変わりはない。
以上説明した実施形態は、いわゆる有段自動変速機を対象とした例である。したがって、その自動変速機は、機構上、変速比が段階的に設定される自動変速機や、変速比を連続的に変化させることができる無段変速機であって、制御上、変速比を段階的に設定するように構成された自動変速機である。そのため、中継ギヤ段(もしくは中継ギヤ比)は、現ギヤ段と現ギヤ段から二段以上離れた目標ギヤ段との間のギヤ段(ギヤ比)となる。これに対して、無段変速機においては、制御によって適宜のギヤ比を設定することができるので、その機能を有効に利用して、隣接するギヤ段の間のギヤ比を中継ギヤ比として、前述した図5に示す制御と同様の制御を実行することができる。以下、その例を図5を参照しつつ説明する。
走行中にアクセルペダルが踏み込まれた場合に(ステップS1)、その時点の現ギヤ段Aで加速領域Aa内の加速変化が可能か否かが判断されること(ステップS2)は、上述した実施形態と同様である。ステップS2で肯定的に判断された場合には、図5に示すルーチンを一旦終了する。これとは反対にステップS2で否定的に判断された場合には、変速マップにて目標ギヤ段Cが算出される(ステップS3)。ここで説明している例においても、無段変速機を有段自動変速機と同様に、変速比を段階的に変化させて設定するように制御するからである。
ついで、目標ギヤ段Cへの変速で加速領域Aa内の加速度変化を達成できるか否かが判断される(ステップS4)。ステップS4で肯定的に判断された場合には、図5に示すルーチンを一旦終了する。これに対してステップS4で否定的に判断された場合には、目標ギヤ段Cへの変速が加速領域Aa内の変速となる中継ギヤ比Bが選択される(ステップS5)。ここで、目標ギヤ段Cが現ギヤ段Aに隣接するギヤ段の場合、機構上、変速比を段階的に設定するように構成された有段自動変速機では中継ギヤ比Bが存在しないが、無段変速機の場合には、目標ギヤ段Cが現ギヤ段Aに隣接するギヤ段であっても中継ギヤ比Bが存在し、また制御によって設定することが可能である。したがって、無段変速機を対象として制御を行う場合、上記のステップS4では、有段自動変速機を対象とする場合とは異なり、ギヤ段Cが現ギヤ段Aに対して二段階以上離れたギヤ段ではないか否かの判断は行う必要がない。
また、無段変速機の場合、現ギヤ段Aの変速比と目標ギヤ段Cの変速比との間には無数の変速比が存在することになるので、中継ギヤ比Bは、現ギヤ段Aの変速比と目標ギヤ段Cの変速比とに応じて予め定めておくことが好ましい。その場合、中継ギヤ比Bは、一つの変速比であってもよく、あるいは複数の変速比であってもよい。複数の中継ギヤ比Bを選択可能な場合、最初に選択する中継ギヤ比Bは小さい値のギヤ比とする。また一方、中継ギヤ比Bは、現ギヤ段Aの変速比と目標ギヤ段Cの変速比とを変数とする適宜の演算式を予め用意し、変速の都度、その演算式によって算出することとしてもよい。
ステップS5で選択された中継ギヤ比Bへの変速が前述した応答領域Ar内に入っているか否かが判断される(ステップS6)。その判断結果が肯定的であれば、図5に示すルーチンを一旦終了する。これとは反対にステップS6で否定的に判断された場合には、他の中継ギヤ比B’が選択される(ステップS7)。当該他の中継ギヤ比B’は、最初に選択された中継ギヤ比Bよりもギヤ比が小さいギヤ比であって、予め用意されていた複数のギヤ比の内のいずれかであってよく、あるいは上述した演算式の所定の係数を変更した演算式によって算出されたギヤ比であってもよい。
なお、上述した実施形態では、中継ギヤ比B,B’を適宜に選択した後に、その中継ギヤ比B,B’がステップS6の条件を満たすか否かを判断することとしてあるが、これとは異なり、この発明の実施形態での制御装置では、ステップS5の条件を満たす中継ギヤ比Bが複数あり、それらの中継ギヤ比Bのうち、目標ギヤ段Cへの変速が前述した加速領域Aa内の変速になり、かつ現ギヤ段Aから中継ギヤ比Bへの変速が前述した応答領域Ar内の変化を生じさせるギヤ比となる中継ギヤ比Bがある場合には、上記の各条件を満たす中継ギヤ比Bを選択するように構成してもよい。このようなギヤ比は、現ギヤ段Aの変速比と目標ギヤ段Cの変速比とから予め定めた演算式によって求めることとしてもよく、あるいは各ギヤ段ごとに予め定めておいてもよい。
上述した実施形態では、官能試験によって加速領域と応答領域とを定めた制御マップを使用することとしたが、この発明は上述した実施形態に限定されないのであって、加速領域や応答領域は官能試験によらずに定めてもよい。例えば、前記停滞時間と刺激強度とによって定義される領域を適宜に設定したノミナルマップを用意し、そのノミナルマップに基づいて適宜に中継ギヤ段(中継変速比)を選択した変速制御を行う。その変速制御の際に、アクセルペダルが踏み増されたり、戻されるなどの修正操作が行われた中継ギヤ段(中継変速比)は「不良」とし、その中継ギヤ段を選択することとなった領域を採用せずに他の領域を採用して中継ギヤ段(中継変速比)を選択する。このような領域の変更あるいは中継ギヤ段の変更を行って定常的に使用する制御マップを得ることとしてもよい。
1…エンジン、 2…自動変速機、 5…電子制御装置(ECU)、 V…車速、 ACC…アクセル開度、 T,T1 ,T2 ,T3 …停滞時間、 Tl…限界停滞時間、 Mi…刺激強度、 Mil…下限刺激強度、 Ar…応答領域、 Aa…加速領域、 G,G1 ,G2 ,G3 …加速度、 ΔG…(加速度の)変化量、 J,J1 ,J2 ,J3 …加速度の時間変化率(ジャーク)、 A…ギヤ段、 B,B’…中継ギヤ段、 C…目標ギヤ段、 Le…評価点数ライン、 Aal…加速下限、 Arl…応答下限。

Claims (5)

  1. 車速もしくは駆動要求量に応じて段階的に設定される複数の変速比を有する車両用自動変速機の変速制御装置において、
    前記変速比を制御するコントローラを有し、
    前記コントローラは、
    運転者による加速操作後に加速度の変化が小さいことにより駆動力の増大が停滞していると感じる停滞時間と、前記停滞時間後の加速度の変化量と加速度の時間変化率とによって決まる刺激強度とによって定義される領域として、前記加速操作に応じた大きさの加速度の発生を感じ取ることのできる加速領域と、前記加速領域を規定している下限の刺激強度より小さい予め定めた下限刺激強度以上でかつ前記加速領域を規定している最長の停滞時間より長い予め定めた限界停滞時間以下であり更に前記加速領域を除いた領域であって、加速度の変化の開始したことを感じ取ることのできる応答領域とが定められた制御マップを備え、
    前記運転者の加速操作に基づく前記駆動要求量から定まる目標変速比への現変速比からの変速が前記加速領域の刺激強度および停滞時間とならない変速の場合、
    前記現変速比と前記目標変速比との間の変速比であって、前記目標変速比に向けた変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記加速領域に入る単一の第1中継変速比を前記制御マップから選択し、
    前記現変速比から前記第1中継変速比への変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域に入る場合には、前記現変速比から前記第1中継変速比への第1変速と、前記第1中継変速比から前記目標変速比への第2変速とを実行し、
    前記現変速比から前記第1中継変速比への変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域に入らない場合には、前記現変速比と前記第1中継変速比との間の変速比であって、前記現変速比から前記第1中継変速比に向けた変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域に入る単一もしくは複数の第2中継変速比を前記制御マップから更に選択し、
    前記現変速比から前記第1中継変速比への変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域に入らない場合には、前記現変速比から前記第2中継変速比への第3変速と、前記第2中継変速比から前記第1中継変速比への第4変速と、前記第2変速とを実行する
    ように構成されていることを特徴とする車両用自動変速機の変速制御装置。
  2. 前記目標変速比が前記現変速比から二段階以上離れている場合の前記第1中継変速比は、前記現変速比のギヤ段と前記目標変速比のギヤ段との間の中間ギヤ段の変速比であることを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の変速制御装置。
  3. 前記自動変速機は、前記段階的に設定された変速比の中間の変速比を設定可能な無段変速機を含み、
    前記目標変速比が前記現変速比に対して一段階離れている場合の前記第1中継変速比は、前記現変速比と前記目標変速比との間の変速比である
    ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の変速制御装置。
  4. 前記コントローラは、
    前記現変速比から前記目標変速比への変速がダウンシフトでありかつ前記第1中継変速比が複数存在する場合、前記単一の前記第2変速は、それら複数の前記中継変速比のうちから選択された小さい変速比から前記目標変速比に向けた変速となるように構成されている
    ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の車両用自動変速機の変速制御装置。
  5. 車速もしくは駆動要求量に応じて段階的に設定される複数の変速比を有する車両用自動変速機の変速制御方法において、
    運転者による加速操作後に加速度の変化が小さいことにより駆動力の増大が停滞していると感じる停滞時間と、前記停滞時間後の加速度の変化量と加速度の時間変化率とによって決まる刺激強度とによって定義される領域として、前記加速操作に応じた大きさの加速度の発生を感じ取ることのできる加速領域と、前記刺激強度が前記加速領域より小さくかつ予め定めた下限刺激強度以上で、また前記停滞時間が前記加速領域より長くかつ予め定めた限界停滞時間以下であって、加速度の変化の開始したことを感じ取ることのできる応答領域とを定められた制御マップを用意し、
    前記運転者の加速操作に基づく前記駆動要求量から定まる目標変速比への現変速比からの変速が前記加速領域の刺激強度および停滞時間とならない変速の場合に、
    前記現変速比と前記目標変速比との間の変速比であって、前記目標変速比に向けた変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記加速領域に入る単一の第1中継変速比を前記制御マップから選択し、
    前記現変速比から前記第1中継変速比への変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域にいる場合には、前記現変速比から前記第1中継変速比への第1変速と、前記第1中継変速比から前記目標変速比への第2変速とを実行し、
    前記現変速比から前記第1中継変速比への変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域に入らない場合には、前記現変速比と前記第1中継変速比との間の変速比であって、前記現変速比から前記第1中継変速比に向けた変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域に入る単一もしくは複数の第2中継変速比を前記制御マップから更に選択し、
    前記現変速比から前記第1中継変速比への変速による前記刺激強度および前記停滞時間が前記応答領域に入らない場合には、前記現変速比から前記第2中継変速比への第3変速と、前記第2中継変速比から前記第1中継変速比への第4変速と、前記第2変速とを実行する
    ことを特徴とする車両用自動変速機の変速制御方法。
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