図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、走行用の駆動力源として機能するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間に設けられた動力伝達装置16とを備えている。動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース18(以下、ケース18という)内において、エンジン12に連結された流体式伝動装置としての公知のトルクコンバータ20、トルクコンバータ20に連結された自動変速機22、自動変速機22の出力回転部材である出力軸24に連結されたプロペラシャフト26、そのプロペラシャフト26に連結された差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)28、その差動歯車装置28に連結された1対の車軸30等を備えている。このように構成された動力伝達装置16において、エンジン12の動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義)は、トルクコンバータ20、自動変速機22、プロペラシャフト26、差動歯車装置28、及び車軸30等を順次介して1対の駆動輪14へ伝達される。
図2は、トルクコンバータ20や自動変速機22を説明する骨子図である。尚、トルクコンバータ20や自動変速機22等は中心線(軸心RC)に対して略対称的に構成されており、図2ではその中心線の下半分が省略されている。又、図2中の軸心RCはエンジン12、トルクコンバータ20の回転軸心である。
図2において、トルクコンバータ20は、軸心RC回りに回転するように配設されており、エンジン12に連結されたポンプ翼車20p、及び自動変速機22の入力回転部材である変速機入力軸32に連結されたタービン翼車20tを備えている。ポンプ翼車20pには、自動変速機22を変速制御したり、動力伝達装置16の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりする為の作動油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ34が連結されている。また、トルクコンバータ20は、エンジン12の動力を流体が介することなく変速機入力軸32に直接伝達するロックアップ機構としてのロックアップクラッチ21を備えている。このロックアップクラッチ21は、摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチであり、それが完全係合させられることにより、エンジン12の動力が変速機入力軸32に直接伝達される。
自動変速機22は、エンジン12から駆動輪14までの動力伝達経路の一部を構成し、複数の摩擦係合装置の何れかが選択的に係合されることによりギヤ比(変速比)が異なる複数のギヤ段(変速段)が成立させられる有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式多段変速機である。例えば、所謂クラッチツゥクラッチ変速を行う有段変速機である。この自動変速機22は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置36と、ラビニヨ型に構成されているシングルピニオン型の第2遊星歯車装置38及びダブルピニオン型の第3遊星歯車装置40とを同軸線上(軸心RC上)に有し、変速機入力軸32の回転を変速して出力軸24から出力する。
第1遊星歯車装置36、第2遊星歯車装置38、及び第3遊星歯車装置40は、良く知られているように、サンギヤ(S1、S2、S3)、ピニオンギヤ(P1、P2、P3)を自転及び公転可能に支持するキャリヤ(CA1、CA2、CA3)、及びピニオンギヤを介してサンギヤと噛み合うリングギヤ(R1、R2、R3)によって各々3つの回転要素(回転部材)が構成されている。そして、それら各々3つの回転要素は、直接的に或いは摩擦係合装置(クラッチC1,C2,C3,C4、及びブレーキB1,B2)を介して間接的(或いは選択的)に、一部が互いに連結されたり、変速機入力軸32、ケース18、或いは出力軸24に連結されている。
上記クラッチC1,C2,C3,C4、及びブレーキB1,B2(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキB、或いは摩擦係合要素という)は、車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式の摩擦係合装置であって、油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される。このように構成されたクラッチC及びブレーキBは、自動変速機22に備えられた油圧制御回路50(図1参照)が有するリニアソレノイドバルブSL1−SL6、SLU等からの油圧によりそれぞれのトルク容量(すなわち係合力)が変化させられて、係合と解放とが切り替えられる。
油圧制御回路50によってクラッチC及びブレーキBの係合と解放とが制御されることで、図3の係合作動表に示すように、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて前進8段、後進1段の各ギヤ段が成立させられる。図3の「1st」-「8th」は前進ギヤ段としての第1速ギヤ段−第8速ギヤ段、「Rev」は後進ギヤ段、「N」は何れのギヤ段も成立させられないニュートラル状態、「P」はニュートラル状態且つ機械的に出力軸24の回転が阻止(ロック)される状態を意味しており、各ギヤ段に対応する自動変速機22のギヤ比(=変速機入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)は、第1遊星歯車装置36、第2遊星歯車装置38、及び第3遊星歯車装置40の各歯車比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)によって適宜定められる。
図3の係合作動表は、上記各ギヤ段とクラッチC及びブレーキBの各作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、空欄は解放をそれぞれ表している。このように、自動変速機22は、リニアソレノイドバルブSL1−SL6等からの油圧により所定の係合装置を係合することでギヤ段が択一的に成立させられる自動変速機である。但し、本実施例の自動変速機22においては、互いに一体的に連結されたキャリヤCA2及びキャリヤCA3とケース18との間に、ブレーキB2が設けられている。
図1に戻り、車両10には、例えば自動変速機22の変速制御などに関連する自動変速機22の制御装置を含む電子制御装置60が備えられている。よって、図1は、電子制御装置60の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置60による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置60は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置60は、エンジン12の出力制御、自動変速機22の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン出力制御用や油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置60には、車両10が備える各種センサ(例えば各種回転速度センサ70,72,74、アクセル開度センサ76、スロットルセンサ78、シフトポジションセンサ80、ブレーキスイッチ86など)による検出信号に基づく各種実際値(例えばエンジン回転速度Ne、タービン回転速度Ntである変速機入力軸回転速度Nin、車速Vに対応する出力軸回転速度Nout、アクセル開度θacc、スロットル弁開度θth、シフト操作部材としてのシフトレバー82の操作ポジション(シフトポジション又はレバーポジションともいう)Psh、フートブレーキペダル88の操作(ブレーキオン)Bonを表す信号などが、それぞれ供給される。又、電子制御装置60からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Se、自動変速機22の変速に関する油圧制御の為の油圧制御指令信号Sp等が、それぞれ出力される。例えば、油圧制御指令信号Spとして、クラッチC、ブレーキBの各油圧アクチュエータACT1−ACT6へ供給される各油圧を調圧する各リニアソレノイドバルブSL1−SL6を駆動する為の指令信号(指令圧)が油圧制御回路50へ出力される。
図4は、クラッチC及びブレーキBの各油圧アクチュエータACT1−ACT6の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1−SL6等に関する油圧制御回路50の要部を示す回路図である。図4において、油圧制御回路50は、油圧供給装置52と、リニアソレノイドバルブSL1−SL6とを備えている。
油圧供給装置52は、オイルポンプ34が発生する油圧を元圧としてライン油圧PLを調圧する例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ54と、スロットル弁開度θth等で表されるエンジン負荷(例えばエンジントルクTeや変速機入力トルクTat等)に応じてライン油圧PLが調圧される為にプライマリレギュレータバルブ54へ信号圧Psltを供給するリニアソレノイドバルブSLTと、ライン油圧PLを元圧としてモジュレータ油圧PMを一定値に調圧するモジュレータバルブ56と、シフトレバー82の切替操作に連動して機械的或いは電気的に油路が切り替えられるマニュアルバルブ58とを備えている。マニュアルバルブ58は、シフトレバー82が前進走行操作ポジションD或いはシーケンシャル操作ポジションSにあるときには、入力されたライン油圧PLを前進油圧(Dレンジ圧、ドライブ油圧)PDとして出力し、シフトレバー82が後進走行操作ポジションRにあるときには、入力されたライン油圧PLを後進油圧(Rレンジ圧、リバース油圧)PRとして出力する。又、マニュアルバルブ58は、シフトレバー82がニュートラル操作ポジションN或いはパーキング操作ポジションPにあるときには、油圧の出力を遮断し、ドライブ油圧PD及びリバース油圧PRを排出側へ導く。このように、油圧供給装置52は、ライン油圧PL、モジュレータ油圧PM、ドライブ油圧PD、及びリバース油圧PRを出力する。
クラッチC1,C2,C4の各油圧アクチュエータACT1,ACT2,ACT4には、ドライブ油圧PDを元圧としてそれぞれリニアソレノイドバルブSL1,SL2,SL4により調圧された油圧Pc1,Pc2,Pc4が供給される。又、クラッチC3、ブレーキB1,B2の各油圧アクチュエータACT3,ACT5,ACT6には、ライン油圧PLを元圧としてそれぞれリニアソレノイドバルブSL3,SL5,SL6により調圧された油圧Pc3,Pb1,Pb2が供給される。リニアソレノイドバルブSL1−SL6は、基本的には何れも同じ構成であり、電子制御装置60によりそれぞれ独立に励磁、非励磁や電流制御が為される。なお、ブレーキB2の油圧アクチュエータACT6には、リニアソレノイドバルブSL6により調圧された油圧Pb2または、リバース油圧PRのどちらかがシャトル弁84を介して供給されるようになっている。
図5は、シフトレバー82の操作ポジションPshの一例を示す図である。図5に示すように、シフトレバー82は、操作ポジション「P」、「R」、「N」、「D」、又は「S」へ手動操作される。操作ポジション「P」は、自動変速機22のパーキングポジション(Pポジション)を選択し、自動変速機22を動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態(中立状態)とし且つ機械的に出力軸24の回転を阻止する為のパーキング操作ポジションPである。又、操作ポジション「R」は、自動変速機22の後進走行ポジション(Rポジション)を選択し、後進走行する為の後進走行操作ポジションRである。この後進走行操作ポジションRは、自動変速機22の後進ギヤ段を用いて後進走行を可能とする走行操作ポジションである。又、操作ポジション「N」は、自動変速機22のニュートラルポジション(Nポジション)を選択し、自動変速機22をニュートラル状態とする為のニュートラル操作ポジションNである。又、操作ポジション「D」は、自動変速機22の前進走行ポジション(Dポジション)を選択し、前進走行する為の前進走行操作ポジションDである。この前進走行操作ポジションDは、自動変速機22の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で第1速ギヤ段「1st」−第8速ギヤ段「8th」の総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御を実行して前進走行を可能とする走行操作ポジションである。又、操作ポジション「S」は、自動変速機22のDポジションにおいてギヤ段の変速範囲を制限する為のシーケンシャル操作ポジションSである。このシーケンシャル操作ポジションSは、変速可能な高車速側(ハイ側)のギヤ段が異なる複数種類の変速レンジを切り替えることにより手動変速を可能とする走行操作ポジションである。この操作ポジション「S」においては、シフトレバー82の操作毎に変速範囲をアップ側にシフトさせる為のアップシフト操作ポジション「+」、シフトレバー82の操作毎に変速範囲をダウン側にシフトさせる為のダウンシフト操作ポジション「−」が備えられている。
図1に戻り、電子制御装置60は、2重ダウンシフト判定手段すなわち2重ダウンシフト判定部68、差回転判定部66、第2ダウンシフト制御部64、及び第1ダウンシフト制御部62を備えている。
電子制御装置60は、図6に示すような車速V及びアクセル開度ACCを変数として予め定められた関係(変速マップ、変速線図)に実際の車速Vおよびアクセル開度ACCを適用し、車両状態を示す点が変速線を横切ることで変速段を判断し、その判断した所定のギヤ段が得られるように、自動変速機22の変速に関する係合装置を係合及び/又は解放させる変速指令として油圧制御指令信号Spを油圧制御回路50へ出力する。この油圧制御指令信号Spに従って、自動変速機22の変速が実行されるように油圧制御回路50内のリニアソレノイドバルブSL1−SL6が駆動させられて、その変速に関与する係合装置の油圧アクチュエータACT1−ACT6が作動させられる。図6の変速マップにおいて、実線はアップシフトが判断されるためのアップシフト線であり、破線はダウンシフトが判断されるためのダウンシフト線である。また、図6の変速マップは、自動変速機22で変速が実行される第1速ギヤ段「1st」−第8速ギヤ段「8th」の内で第1速ギヤ段「1st」−第6速ギヤ段「6th」が例示されている。また、電子制御装置60は、図6の車速線図上で車両状態を示す点がダウン変速線をダウン側へ横切るとダウンシフト指令信号を出力するとともに、タービン回転数Ntがダウンシフト後の同期回転数に到達してダウンシフトが完了すると、2重ダウンシフト判定部68にダウンシフト完了信号を送る。
2重ダウンシフト判定部68は、予め記憶された図6の変速線図から実際の車速Vおよびアックセル開度θaccに基づいて判断されたダウンシフト指令信号を受けると、前回のダウンシフト指令信号に基づくダウンシフトが完了されているか否かを、例えば、電子制御装置60からダウンシフトの完了を伝える完了信号を受けたか否かによって判断する。ダウンシフト完了信号に基づいて前回のダウンシフトが完了されていると判断した場合に、2重ダウンシフト判定部68は、新たなダウンシフトに対応する指令信号を、第1ダウンシフト制御部62へ送る。
2重ダウンシフト判定部68は、新たにダウンシフト指令信号を受け、指令信号を受けた時点において前回のダウンシフトの完了信号を電子制御装置60から受けていない、すなわち短時間にダウンシフトが連続的に実施される2重ダウンシフトの実施に相当すると判断した場合であり、また第1ダウンシフトにおける解放側係合要素が第2ダウンシフトにおいても引き続き解放とされる場合は、差回転判定部66に指令信号を送り、差回転判定部66は、現在のタービン回転数Ntと予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された第2ダウンシフト後のギヤ段の同期時タービン回転数Ng2との差回転ΔNが所定の閾値α以上か否かを判断し、ΔNがα以上であれば、第1ダウンシフト制御部62へ制御の中断を指示する指令信号を送ると共に、第2ダウンシフト制御部64へも制御の開始を指示する指令信号を送ることで、ダウンシフト制御から2重ダウンシフト制御への切換を行う。
第2ダウンシフト制御部64は、差回転判定部66による指令信号が差回転ΔNが閾値α以上を示す場合は、予め定められ記憶されたクラッチCおよびブレーキBへの油圧指令値を油圧制御回路50に油圧指令信号Spとして出力することで、第1ダウンシフトにおける解放側係合要素の解放と第1ダウンシフトにおける係合側係合要素の係合とを完了した後に、第2ダウンシフトにおける解放側係合要素、すなわち第1ダウンシフトの係合側係合要素の解放と第2ダウンシフトの係合側係合要素の係合とを実行する。また、第1ダウンシフト制御部62は、差回転判定部66による指令信号が差回転ΔNが閾値αを下回ることを示す場合は、予め定められ記憶されたクラッチCおよびブレーキBへの油圧指令値を油圧制御回路50に油圧指令信号Spとして出力することで、第1ダウンシフトにおける解放側係合要素のスリップ(半係合)を維持しつつ、第1ダウンシフトにおける係合側係合要素の係合を中止した後、第2ダウンシフトにおける係合側係合要素の係合とともに、前記スリップ(半係合)を維持した解放側係合要素の解放を実行する。
図7は、2重ダウンシフトにおける第2ダウンシフトが指示されたt3時点において、第2ダウンシフトのタービンの同期回転数Ng2とタービン回転数Ntとの差回転ΔNが閾値αを下回る場合の、タービン回転数Nt、出力軸トルク、摩擦係合要素への油圧指令値を示したタイムチャートである。図7には、具体的な例として、8速から6速に移行する2重ダウンシフトを示している。8速走行中の車両10においてアクセルペダル90(以下、ペダルを省略する)の踏込みすなわちアクセル開度θaccの増加等により、ダウンシフト線を通過し、第1変速ダウンシフトが開始され、第1ダウンシフトにおいて係合から解放とされる解放側係合要素であるブレーキB1に作動油を供給するリニアソレノイドバルブSL5にクイックドレーン油圧指令値と、第1ダウンシフトにおいて解放から係合とされる係合側係合要素であるクラッチC3に作動油を供給するリニアソレノイドバルブSL3(以降、リニアソレノイドバルブの記載は省略する)にクイックアプライ油圧信号が指令される(t1時点)。ブレーキB1への油圧指令値は、半係合を継続する油圧指令値に維持され、クラッチC3への油圧指令値も係合への待機油圧指令値に維持される。これにより、タービン回転数Ntは第1ダウンシフト同期回転数に向けて上昇を開始する(t2時点)。アクセル90の踏込み、すなわちアクセル開度θaccの増加等により、第1ダウンシフトの完了前に、別のダウンシフト線を通過し、2重ダウンシフトが発生すると、第2ダウンシフトにおける同期時タービン回転数Ng2と、この時点でのタービン回転数Ntとの差回転ΔNが閾値α以上であるか否かが判定される(t=3時点)。図7は、差回転ΔNが閾値αを下回った場合を示しており、第1ダウンシフトにおける係合側係合要素であるクラッチC3指令値は解放油圧に減少され、第2ダウンシフトにおける係合側係合要素であるクラッチC4への油圧指令値は、t3時点でクイックアプライ油圧指令値が指令された後、t4時点で係合に向けた油圧の上昇が開始される。第1ダウンシフトの解放側係合要素であるブレーキB1への油圧指令値は、半係合を継続する油圧指示値を維持した後、解放に向けた油圧の減少が開始される(t4時点)。タービン回転数Ntが6速同期時回転数に達し、ブレーキB1の解放とクラッチC4の係合が完了する(t5時点)。
図8は、2重ダウンシフトにおける第2ダウンシフトが指示されたt13時点において、第2ダウンシフトのタービンの同期回転数とタービン回転数Ntとの差が閾値α以上である場合の、タービン回転数Nt、出力軸トルク、摩擦係合要素への油圧指令値を示したタイムチャートである。t11時点からt12時点までは、図7のt1からt2時点までの内容と同一であり、説明は省略する。アクセル90の踏込み、すなわちアクセル開度θaccの増加等により、第1ダウンシフトの完了前に、別のダウンシフト線を通過し、2重のダウンシフト指令が発生すると、第2ダウンシフトにおける同期時タービン回転数Ng2と、この時点でのタービン回転数Ntとの差回転が閾値α以上であるか否かが判定される(t13時点)。図8は、差回転が閾値α以上である場合を示しており、第1ダウンシフトにおける係合側係合要素であるクラッチC3の指令値は、継続して係合への待機油圧指令値に維持された後、t14時点から係合に向けた油圧の上昇が開始される。第2ダウンシフトにおける係合側係合要素であるクラッチC4への油圧指令値は、係合への待機油圧指令値に維持される。t14時点から第1ダウンシフトの解放側係合要素であるブレーキB1への油圧指令値は、半係合を継続する油圧指示値から、解放に向けた油圧の減少が開始される。タービン回転数Ntは、第1ダウンシフトの同期回転数に達したt14時点から、第1ダウンシフトの解放側係合要素であるブレーキB1への油圧指令値は減少され、解放油圧に達し、第1ダウンシフトの係合側係合要素であるクラッチC3への油圧指令値は増加され、係合油圧に達する(t15時点)。タービン回転数Ntが第2ダウンシフト同期回転数に達したt16時点では、第2ダウンシフトの係合要素であるクラッチC4への油圧指令値は係合への待機油圧から係合に向けた油圧の上昇が開始され、第2ダウンシフトの解放側係合要素であるクラッチC3には解放に向けた解放油圧への油圧の減少が開始される。t17時点において、第2ダウンシフトにおける係合側係合要素であるクラッチC4の係合と第2ダウンシフトにおける解放側係合要素の解放が完了すると2重ダウンシフトが完了する。
図9は、電子制御装置の制御動作の要部、すなわち2重ダウンシフトが実行された場合において、第2ダウンシフトが指示された時点でのタービン回転数と第2タービン回転数との差回転ΔNの大小によって摩擦係合要素の解放および、係合を変える制御作動を説明するフローチャートであり、繰り返し実行される。なお、図9は、第1ダウンシフトの摩擦係合要素の解放要素が、第2ダウンシフトにおいても継続して解放される場合を示している。
図9において、2重ダウンシフト判定部68に対応するステップS1(以下ステップは省略する)において、電子制御装置60からダウンシフト線通過信号がおくられたか否かが判定される。このS1の判定が否定された場合は、判定が繰り返されることになる。この判定が肯定された場合は、第1ダウンシフト制御部62に対応するS2において、油圧制御指令信号Spが油圧制御回路50に送られ、これに基づいて第1ダウンシフト、すなわち第1ダウンシフトを実行するための所定の摩擦係合要素の制御が行われる。第1ダウンシフト制御部62に対応するS3において、第1変速の完了前であるか否かが判定される。この判定が否定される場合、すなわち第1変速が完了された場合は、別のダウンシフト線の通過が肯定されるまでは、S1およびS2の実行が繰り返される。また、S3において、第1変速の完了前であることが肯定された場合は、2重ダウンシフト判定部68に対応するS4において、電子制御装置60から第1ダウンシフトとは異なる、他のダウンシフト線の通過信号が送られたか否かが判定される。この判定が否定された場合は、S3およびS4の判定が繰り返されることとなる。また、このS4の判定が肯定された場合は、差回転判定部66に対応するS5において、第2ダウンシフトにおけるタービンの同期回転数Ng2と第2ダウンシフトが指示された時点におけるタービン回転数Ntとの差回転ΔNが閾値α以上であるか否かが判定される。この判定が否定された場合は、第2ダウンシフト制御部64に対応するS7において、第1ダウンシフト前のギヤ段(変速前ギヤ段)から第2ダウンシフト後のギヤ段(第2ギヤ段)への変速制御が行われる。また、この判定が肯定される場合は、2重ダウンシフト制御部64に対応するS6において、第1ダウンシフト前のギヤ段(変速前ギヤ段)から第1ダウンシフト後のギヤ段(第1ギヤ段)を経て、第2ダウンシフト後のギヤ段(第2ギヤ段)への変速制御が行われる。
上述のように、本実施例によれば、ダウンシフト中にさらにダウンシフトが要求される、2重ダウンシフトにおいて、第2ダウンシフトが終了するまでの時間が所定の時間より短い場合、すなわち第2ダウンシフトにおける同期時タービン回転数Ng2とタービン回転数Ntとの差回転ΔNが閾値αよりも小さい場合、差回転判定部66は、変速前ギヤ段から第2ギヤ段への飛び変速を選択することによって、時間が短くとも、係合要素の安定な制御が可能となる。また、第2ダウンシフトが終了するまでの時間が所定の時間より長い場合、すなわち第2ダウンシフトにおける同期時タービン回転数Ng2とタービン回転数Ntとの差回転ΔNが大きい場合、変速前ギヤ段から第1ギヤ段を経て第2ギヤ段への切換を行うことによって、円滑な駆動力のつながりが実現される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の様態においても適用される。
たとえば、本実施例によれば、2重ダウンシフトにおける、ギヤ段の切換をタービン回転数によって判断するものとしたが、特にタービン回転数に限らない。例えば、第1ダウンシフトからの経過時間によって、変速前ギヤ段からの切換について、第1ギヤ段を経由するか、もしくは第1ギヤ段を経由しないで第2ギヤ段に切り替えるかの選択を、第1ギヤ段の切換指令信号が出されてからの経過時間で判断するものとしても良い。
また、本実施例では、自動変速機22は前進8段の各ギヤ段が成立させられたが、特にこの様態に限らず、異なったギヤ段数に於いても同様の制御が可能である。
また、前述の実施例では、駆動力源としてエンジン12を例示したが、これに限らない。例えば、前記駆動力源は、電動機等の他の原動機を単独で或いはエンジン12と組み合わせて採用することもできる。又、エンジン12の動力は、トルクコンバータ20を介して自動変速機22へ伝達されたが、これに限らない。例えば、トルクコンバータ20に替えて、トルク増幅作用のない流体継手(フルードカップリング)などの他の流体式伝動装置が用いられても良い。或いは、この流体式伝動装置は必ずしも設けられなくても良い。又、操作ポジション「S」は、シフトレバー82の操作に応じて自動変速機22のギヤ段を切り替える為の手動変速操作ポジションであっても良いし、必ずしも設けられなくても良い。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。