本発明の自動変速機としては、例えば複数の遊星歯車装置を有する遊星歯車式の自動変速機が好適に用いられ、複数の摩擦係合装置を選択的に係合、解放することにより、変速比が異なる複数の前進ギヤ段が形成される。摩擦係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式のブレーキなどの油圧式摩擦係合装置が広く用いられている。なお、油圧アクチュエータによって係合させられる同期噛合式の係合要素により所定のギヤ段が形成される常時噛合式の平行軸式変速機等にも適用され得る。また、電磁力など油圧以外のアクチュエータを用いて係合させられる摩擦係合装置を用いることも可能である。
パワーオン状態は、アクセルペダルが踏込み操作されて車両の駆動力が発生している状態で、ダウン変速は、変速比が大きい低速側のギヤ段へ変速することであり、例えば車速が略一定の定常走行状態や登り勾配などでアクセルペダルが踏込み操作された場合に、パワーオン状態でのダウン変速が行われる。ダウン変速は、例えば前記遊星歯車式の自動変速機において一方向クラッチを備えている場合には、単に解放側摩擦係合装置の係合圧を低下させて解放するだけでも行うことができるが、解放側摩擦係合装置の解放と同時に係合側摩擦係合装置を係合させるクラッチツークラッチ変速で行われる場合でも良い。
解放側摩擦係合装置の係合圧制御は、解放側摩擦係合装置の係合圧を急速に低下させるクイックドレーン制御を行うとともに待機圧に所定の待機時間だけ保持した後に低下させるものであれば良く、解放側摩擦係合装置が滑り始めて入力回転速度(タービン回転速度など)が変化するイナーシャ相では、例えばその入力回転速度が所定の変化パターン(一定の変化率など)で変化するように係合圧をフィードバック制御するなど、係合側摩擦係合装置の係合圧制御との関係で種々の態様が可能である。
滑り出し所要時間に基づく係合圧の学習制御は、例えば待機圧を学習補正するように構成されるが、その待機圧に保持する待機時間を学習補正したり、クイックドレーン制御の制御時間を学習補正したり、待機時間経過後に一定の変化率(勾配)で係合圧を低下させるスウィープ制御を行う場合には、その変化率を学習補正したりするなど、種々の態様が可能である。
多重ダウン変速は、第1ダウン変速が終了する前に第2ダウン変速が開始される場合であるが、例えばイナーシャ相が始まった後やイナーシャ相の進行度が50%以上の場合など、第1ダウン変速の終了を待ってから第2ダウン変速を開始する方が望ましい場合もあり、第1ダウン変速時の係合圧制御で低下させられた解放側摩擦係合装置の係合圧を一旦待機圧まで戻した方が、ショックや変速応答性等の観点から望ましい場合だけ多重ダウン変速を実行すれば良く、例えばイナーシャ相が始まった場合は多重ダウン変速を実行しないようにしても良い。
本発明では、第2ダウン変速を単一で行う場合のクイックドレーン制御の制御時間と待機時間とを加算した時間だけ待機圧に保持するようになっており、滑り出し所要時間が第2ダウン変速を単一で行う場合と同程度になるため、待機圧後の係合圧制御や学習制御を単一のダウン変速の場合と区別することなく行うことができる。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1の(a) は、車両用自動変速機10の骨子図で、(b) は複数のギヤ段を成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表である。この自動変速機10は、車両の幅方向(横置き)に搭載するFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両に好適に用いられるもので、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを同軸線上に有し、入力軸22の回転を変速して出力歯車24から出力する。入力軸22は入力部材に相当するもので、本実施例では走行用の動力源であるエンジン30によって回転駆動されるトルクコンバータ32のタービン軸であり、出力歯車24は出力部材に相当するもので、差動歯車装置を介して左右の駆動輪を回転駆動する。なお、この自動変速機10は中心線に対して略対称的に構成されており、図1(a) では中心線の下半分が省略されている。
上記第1変速部14を構成している第1遊星歯車装置12は、サンギヤS1、キャリアCA1、およびリングギヤR1の3つの回転要素を備えており、サンギヤS1が入力軸22に連結されて回転駆動されるとともに、リングギヤR1がブレーキB3を介して回転不能にトランスミッションケース26に固定されることにより、キャリアCA1が中間出力部材として入力軸22に対して減速回転させられて出力する。また、第2変速部20を構成している第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18は、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されており、具体的には、第3遊星歯車装置18のサンギヤS3によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置16のリングギヤR2および第3遊星歯車装置18のリングギヤR3が互いに連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置16のキャリアCA2および第3遊星歯車装置18のキャリアCA3が互いに連結されて第3回転要素RM3が構成され、第2遊星歯車装置16のサンギヤS2によって第4回転要素RM4が構成されている。上記第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18は、キャリアCA2およびCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2およびR3が共通の部材にて構成されており、且つ第2遊星歯車装置16のピニオンギヤが第3遊星歯車装置18の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
上記第1回転要素RM1(サンギヤS3)はブレーキB1によって選択的にトランスミッションケース26に連結されて回転停止させられ、第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)はブレーキB2によって選択的にトランスミッションケース26に連結されて回転停止させられ、第4回転要素RM4(サンギヤS2)はクラッチC1を介して選択的に前記入力軸22に連結され、第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)はクラッチC2を介して選択的に入力軸22に連結され、第1回転要素RM1(サンギヤS3)は中間出力部材である前記第1遊星歯車装置12のキャリアCA1に一体的に連結され、第3回転要素RM3(キャリアCA2、CA3)は前記出力歯車24に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。
図2は、上記第1変速部14および第2変速部20の各回転要素の回転速度を直線で表すことができる共線図で、下の横線が回転速度「0」で、上の横線が回転速度「1.0」すなわち入力軸22と同じ回転速度であり、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態(係合、解放)に応じて第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の6つの前進ギヤ段が形成されるとともに、1つの後進ギヤ段「Rev」が形成される。図1の(b) の作動表は、上記各ギヤ段とクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたもので、「○」は係合、空欄は解放を表しており、連続する前進ギヤ段は何れも1つの摩擦係合装置を解放するとともに1つの摩擦係合装置を係合するクラッチツークラッチ変速によって変速が行われるようになっている。また、各ギヤ段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
上記クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式の摩擦係合装置で、油圧制御回路98(図3参照)の変速用ソレノイドバルブが電子制御装置90によって制御されることにより、係合、解放状態が切り換えられる。図7は、油圧制御回路98のうち自動変速機10の変速制御に関連する部分の回路の一例で、クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)34、36、38、40、42には、油圧供給装置46から出力されたライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL5により調圧されて、そのまま供給されるようになっている。リニアソレノイドバルブSL1〜SL5の各ソレノイドは、電子制御装置90により独立に励磁されるようになっており、その励磁、非励磁や電流制御により各油圧アクチュエータ34〜42の油圧が独立に調圧制御され、クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の係合、解放状態が切り換えられるとともに係合、解放時の過渡油圧などが制御される。油圧供給装置46は、前記エンジン30によって回転駆動される機械式のオイルポンプや、ライン油圧PLを調圧するレギュレータバルブ等を備えており、エンジン負荷等に応じてライン油圧PLを制御するようになっている。
図3は、図1の自動変速機10などを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図で、アクセルペダル50の操作量Accがアクセル操作量センサ52により検出されるとともに、そのアクセル操作量Accを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。アクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるもので、アクセル操作部材に相当し、アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。また、エンジン30の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン30の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度TA を検出するための吸入空気温度センサ62、エンジン30の電子スロットル弁の全閉状態(アイドル状態)およびその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットルセンサ64、車速V(出力歯車24の回転速度NOUT に対応)を検出するための車速センサ66、エンジン30の冷却水温TW を検出するための冷却水温センサ68、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ70、シフトレバー72のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、タービン回転速度NT(=入力軸22の回転速度NIN)を検出するためのタービン回転速度センサ76、油圧制御回路98内の作動油の温度であるAT油温TOIL を検出するためのAT油温センサ78、アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82などが設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、吸入空気温度TA 、スロットル弁開度θTH、車速V、エンジン冷却水温TW 、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT、AT油温TOIL 、変速レンジのアップ指令RUP、ダウン指令RDN、などを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。
上記シフトレバー72はシフト操作部材に相当するもので、運転席の近傍に配設されており、図4に示すように4つの操作ポジション「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」、「D(ドライブ)」、または「S(シーケンシャル)」へ運転者により手動操作されるようになっている。「R」は後進走行を行うための後進走行ポジションで、「N」は動力伝達を遮断するニュートラルポジションで、「D」は自動変速による前進走行を行うための前進走行ポジションで、「S」は変速可能な高速側のギヤ段が異なる複数の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行ポジションであり、シフトレバー72がどの操作ポジションへ操作されているかがレバーポジションセンサ74によって検出される。
そして、「D」ポジションおよび「S」ポジションでは、前進ギヤ段である第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」で変速しながら前進走行することが可能となり、シフトレバー72が「D」ポジションへ操作された場合は、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断して自動変速モードを成立させ、第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の総ての前進ギヤ段を用いて変速制御を行う。すなわち、前記油圧制御回路98に設けられたソレノイドバルブやリニアソレノイドバルブの励磁、非励磁をそれぞれ制御することにより、クラッチCおよびブレーキBの係合、解放状態を切り換えて、第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の何れかの前進ギヤ段を形成するのである。この変速制御は、例えば図5に示すように車速Vおよびアクセル操作量Accをパラメータとして予め記憶された変速マップ(変速条件)に従って行われ、車速Vが低くなったりアクセル操作量Accが大きくなったりするに従って変速比が大きい低速側のギヤ段を形成する。なお、アクセル操作量Accや吸入空気量Q、路面勾配などに基づいて変速制御を行うなど、種々の態様が可能である。
シフトレバー72が「S」ポジションへ操作された場合は、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断し、「D」ポジションで変速可能な変速範囲内すなわち第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の中で定められた複数の変速レンジを任意に選択できるシーケンシャルモードを電気的に成立させる。「S」ポジションには、車両の前後方向にアップシフト位置「(+)」、およびダウンシフト位置「(−)」が設けられており、シフトレバー72がそれ等のアップシフト位置「(+)」またはダウンシフト位置「(−)」へ操作されると、そのことが前記アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82によって検出され、アップ指令RUPやダウン指令RDNに従って図6に示すように最高速段すなわち変速比が小さい高速側の変速範囲が異なる6つの変速レンジ「D」、「5」、「4」、「3」、「2」、「L」の何れかを電気的に成立させるとともに、各変速範囲内において例えば図5の変速マップに従って自動的に変速制御を行う。アップシフト位置「(+)」およびダウンシフト位置「(−)」は何れも不安定で、シフトレバー72はスプリング等の付勢手段により自動的に「S」ポジションへ戻されるようになっており、アップシフト位置「(+)」またはダウンシフト位置「(−)」への操作回数或いは保持時間などに応じて変速レンジが変更される。
電子制御装置90はまた、パワーオン状態でのダウン変速時の解放側摩擦係合装置の係合圧制御すなわち油圧制御を行うため、機能的に図8に示す解放側係合圧制御手段100を備えている。この解放側係合圧制御手段100は、解放側摩擦係合装置の油圧を、図9に示すように予め定められた油圧制御パターン110に従って低下させるもので、この油圧制御パターン110は係合側摩擦係合装置の係合圧制御との関係で設定されており、油圧制御回路98の対応するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5によって制御される。図9は、6→5ダウン変速で解放されるブレーキB1の油圧制御に関するタイムチャートで、時間t1 は6→5ダウン変速指令が出力された時間であり、ブレーキB1の油圧アクチュエータ38内の作動油をクイックドレーンするように、B1油圧を0とする指令値をリニアソレノイドバルブSL3に出力する。予め定められたクイックドレーン時間aが経過したら待機圧PW まで戻し、その待機圧PW に待機時間bだけ保持した後、一定の変化率Δcで低下させるとともに、その低下過程でブレーキB1が滑り出してイナーシャ相が始まったか否かを、例えばタービン回転速度NTが第6速ギヤ段「6th」の同期回転速度からずれ始めたか否か等により判断する。そして、イナーシャ相が始まったらタービン回転速度NTが予め定められた変化率で変化するようにB1油圧をフィードバック制御し、タービン回転速度NTが第5速ギヤ段「5th」の同期回転速度に近い所定の回転速度に達したら、B1油圧を徐々に0まで低下させ、一連の解放側油圧制御を終了する。図9の時間t2 は、イナーシャ相が始まってフィードバック制御が開始された時間である。
上記油圧制御パターン110のクイックドレーン時間a、待機時間b、変化率Δcは、図10の(a) に示すように、ダウン変速の種類毎に予め一定の値が設定されている。待機圧PW は、図10の(a) に示す設定値SPW に、図10の(b) に示す学習補正値LPW を加算したもので、学習補正値LPW は、学習制御手段102によって逐次書き換えられる。学習制御手段102は、ダウン変速出力からブレーキB1が滑り出すまでの滑り出し所要時間TT が、予め定められた目標時間MTT と一致するように、それ等の偏差に応じて学習補正値LPW を増減させる。目標時間MTT は、図10の(a) に示すようにダウン変速の種類毎に予め設定されているとともに、学習補正値LPW も、図10の(b) に示すようにダウン変速の種類毎に記憶されるようになっている。このように、待機圧PW が学習制御されることにより、各部の寸法の個体差や経時変化等に拘らず安定したダウン変速制御が行われるようになる。なお、上記設定値a、b、Δc、SPW 、MTT や学習補正値LPW は、変速の種類だけでなく車速V等の他の車両の運転状態をパラメータとして設定したり記憶したりすることもできる。
ここで、自動変速機10のダウン変速制御は、連続した前進ギヤ段同士だけでなく、本実施例では6→4ダウン変速等の飛越し変速も行われるようになっており、図10の(a) 、(b) に示すように、飛越し変速についてもクイックドレーン時間a、待機時間b、変化率Δc、待機圧PW の設定値SPW 、目標時間MTT がそれぞれ定められているとともに、待機圧PW の学習補正値LPW が記憶されるようになっている。
また、本実施例では、短時間でダウン変速指令が連続して出力された場合に、先行する第1ダウン変速が終了する前に次の第2ダウン変速を開始する多重ダウン変速を行うようになっている。この多重ダウン変速出力時において、第1ダウン変速と第2ダウン変速とで解放側摩擦係合装置が異なる場合は、第2ダウン変速出力時に新たに解放側摩擦係合装置の係合圧制御が開始されるため、第2ダウン変速時の滑り出し所要時間TT は、その第2ダウン変速が単一で行われる場合と同等であり、その滑り出し所要時間TT に基づいて前記学習制御手段102により待機圧PW の学習制御を行うことができる。図11は、このように解放側摩擦係合装置が異なる多重ダウン変速の一例で、第1ダウン変速として5→4ダウン変速指令が出力された後に、更にアクセルペダル50が踏み増しされるなどして、そのダウン変速が終了する前に第2ダウン変速として第3速ギヤ段「3rd」へダウン変速するための5→3ダウン変速指令が出力された場合である。そして、図1(b) の作動表から明らかなように、5→4ダウン変速ではブレーキB3が解放され、5→3ダウン変速ではクラッチC2が解放されるとともに、ブレーキB3は係合状態に維持されるため、時間t2 で5→3ダウン変速指令が出力されると、ブレーキB3の油圧は直ちに最大油圧まで戻されるとともに、クラッチC2の油圧は、5→3ダウン変速が単一で行われる場合と同じ油圧制御パターン110に従って制御される。このように、クラッチC2は5→3ダウン変速出力に伴って油圧制御が開始されるため、この時のクラッチC2の滑り出し所要時間TT は、アクセルペダル50が一気に踏込み操作されて5→3ダウン変速が単一で行われる場合と殆ど変わらず、その滑り出し所要時間TT に基づいてC2油圧の待機圧PW を良好に学習制御することができる。
一方、第1ダウン変速および第2ダウン変速で解放側摩擦係合装置が同じ場合、すなわち第1ダウン変速において解放される解放側摩擦係合装置の係合圧を、第2ダウン変速でも引き続き低下させて解放する場合に、その係合圧をそのまま低下させると、第2ダウン変速出力から滑り出し開始までの滑り出し所要時間TT が、第1ダウン変速における係合圧制御の影響を受けてばらつくため、その滑り出し所要時間TT に基づいて待機圧PW の学習制御を行うことはできない。例えば本実施例の自動変速機10の場合、6→5ダウン変速および6→4ダウン変速の多重ダウン変速では、ブレーキB1が引き続いて解放されるが、6→4ダウン変速出力時には既に6→5ダウン変速によるブレーキB1の係合圧制御が開始されているため、その変速出力からの滑り出し所要時間TT がばらついて待機圧PW の学習制御が不可となるのである。また、4→3ダウン変速および4→2ダウン変速の多重ダウン変速でもクラッチC2が引き続いて解放されるが、4→2ダウン変速出力時には既に4→3ダウン変速によるクラッチC2の係合圧制御が開始されているため、その変速出力からの滑り出し所要時間TT がばらついて待機圧PW の学習制御が不可となる。
これに対し、本実施例の解放側係合圧制御手段100は、上記のように第1ダウン変速および第2ダウン変速で解放側摩擦係合装置が同じ多重ダウン変速か否かを判断する多重ダウン変速出力判断手段104と、そのような多重ダウン変速出力時でも前記学習制御手段102により滑り出し所要時間TT に基づく待機圧PW の学習制御が好適に行われるように、解放側摩擦係合装置の係合圧制御を行う多重ダウン変速出力時係合圧制御手段106とを備えており、図12のフローチャートに従って信号処理を行うようになっている。図12のステップS1およびS2は、多重ダウン変速出力判断手段104に相当し、ステップS3およびS4は多重ダウン変速出力時係合圧制御手段106に相当する。また、図13は、6→5ダウン変速および6→4ダウン変速の多重ダウン変速出力時に、図12のフローチャートに従って解放側摩擦係合装置であるブレーキB1の油圧制御が行われた場合のタイムチャートの一例である。
図12は、パワーオン状態でダウン変速指令が出力された場合に実行され、ステップS1では、短時間でダウン変速指令が連続して出力され、先行する第1ダウン変速が終了する前に次の第2ダウン変速を開始する多重ダウン変速出力か否かを判断する。この判断は、第1ダウン変速が完全に終了して例えばタービン回転速度NTがダウン変速後のギヤ段の同期回転速度と略一致する前であれば、総て多重ダウン変速出力と判断してステップS2以下を実行するものでも良いが、例えば第1ダウン変速のイナーシャ相が始まった後は多重ダウン変速を実行することなく、その第1ダウン変速が終了した後に第2ダウン変速が行われるようにしても良い。図13は、6→5の第1ダウン変速がイナーシャ相になる前で、スウィープ制御が行われている最中に6→4の第2ダウン変速出力が為された場合である。
ステップS2では、その多重ダウン変速の第1ダウン変速および第2ダウン変速で解放側摩擦係合装置が同じか否か、すなわち第1ダウン変速において解放される解放側摩擦係合装置の係合圧を、第2ダウン変速でも引き続き低下させて解放する多重ダウン変速か否かを判断する。そして、解放側摩擦係合装置が異なる場合は、前記図11に示すように第2ダウン変速指令に従ってそのまま解放側摩擦係合装置の油圧制御や学習制御を行うことができるため、そのまま終了するが、解放側摩擦係合装置が同じ場合にはステップS3以下を実行する。図13は、6→5および6→4の多重ダウン変速でブレーキB1の油圧が引き続き低下させられる場合である。
ステップS3では、解放側摩擦係合装置の係合圧すなわち油圧を第2ダウン変速の待機圧PW まで戻すとともに、ステップS4では、その待機圧PW に(クイックドレーン時間a+待機時間b)だけ保持した後、前記変化率Δcでスウィープ制御を開始する。この場合の待機圧PW やクイックドレーン時間a、待機時間b、変化率Δcは、何れも第2ダウン変速に関するもので、図13に示すように6→5ダウン変速に続いて6→4ダウン変速指令が出力された場合は、6→4ダウン変速に関する値であり、具体的には待機圧PW は(設定値SPW2+学習補正値LPW2)で、クイックドレーン時間aはa2 、待機時間bはb2 、変化率ΔcはΔc2 である。
そして、このように解放側摩擦係合装置の係合圧すなわち油圧を第2ダウン変速の待機圧PW まで戻すとともに、その待機圧PW に(クイックドレーン時間a+待機時間b)だけ保持した後、単一のダウン変速と同じ変化率Δcでスウィープ制御を行った場合、第1ダウン変速時の油圧制御の進行度合や第2ダウン変速出力のタイミングの相違に拘らず、常に第2ダウン変速の待機圧PW から油圧制御が開始されるため、その第2ダウン変速出力から解放側摩擦係合装置の滑り出し開始までの滑り出し所要時間TT のばらつきが抑制される。したがって、前記学習制御手段102により、その滑り出し所要時間TT に基づいて待機圧PW の学習制御を行うことが可能で、変速制御の安定化を図ることができる。
特に、本実施例では、待機圧PW に(クイックドレーン時間a+待機時間b)だけ保持するようにしているため、滑り出し所要時間TT が第2ダウン変速を単一で行った場合の滑り出し所要時間TT と同程度になり、待機圧PW の学習制御を第2ダウン変速を単一で行う場合と区別することなく行うことができるとともに、その場合の学習制御の精度が向上する。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
10:車両用自動変速機 90:電子制御装置 100:解放側係合圧制御手段 102:学習制御手段 104:多重ダウン変速出力判断手段 106:多重ダウン変速出力時係合圧制御手段 a:クイックドレーン時間 b:待機時間 PW :待機圧 TT :滑り出し所要時間 MTT :目標時間