[第1の実施の形態]
以下、本発明の第1の実施の形態に係る電磁クラッチ装置について、図1乃至図4を参照して説明する。
図1は、本実施の形態に係る電磁クラッチ装置1を示す正面半断面図である。図2及び図3は、電磁クラッチ装置1に回転部材としてのシャフト10等が組み付けられた状態を示す正面半断面図であり、図2は非作動状態を、図3は作動状態を、それぞれ示す。図1乃至図3では、回転軸線Oに沿った電磁クラッチ装置1の断面の上側の半分を示している。なお、以下の説明では、回転軸線Oに対して平行な方向を単に軸方向ということがある。
電磁クラッチ装置1は、内部に収容空間2aが形成されたハウジング2と、収容空間2aに収容され、シャフト10とハウジング2とを係脱可能に連結するクラッチ部3と、クラッチ部3を作動させる電磁力を発生する電磁コイル4とを備えている。クラッチ部3は、電磁コイル4への通電により発生する磁束の磁路を形成する磁路形成部材30と、ハウジング2に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された複数のアウタクラッチプレート31と、シャフト10に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されたインナクラッチプレート32と、電磁コイル4への通電時に磁路形成部材30側に引き寄せられるアーマチャ33と、複数のアウタクラッチプレート31の間に配置され、アウタクラッチプレート31同士を軸方向に離間させる離間部材としての皿バネ34とを有している。
電磁クラッチ装置1は、電磁コイル4への通電によって作動し、アウタクラッチプレート31とインナクラッチプレート32との間に発生する摩擦力によってハウジング2とシャフト10との差動回転を抑制する。アウタクラッチプレート31は、本発明の「摩擦部材」の一態様であり、インナクラッチプレート32は、複数の摩擦部材の間に配置された本発明の「クラッチプレート」の一態様である。
ハウジング2は、例えばアルミニウム等の非磁性金属からなり、円筒状の円筒部20と、円筒部20の外周面から外方に向かって立設されたフランジ部21とを一体に有している。フランジ部21には、例えば車体等の支持部材に電磁クラッチ装置1を取り付けるためのボルト挿通孔21aが形成されている。円筒部20は、内径が異なる大径筒部201及び小径筒部202を有し、これらの大径筒部201及び小径筒部202が軸方向に並列している。
大径筒部201の内周部には、軸方向に延在する複数のスプライン突起からなるスプライン係合部201aが形成されている。小径筒部202の内側には、磁路形成部材30が例えば圧入によって固定されている。磁路形成部材30は、第1環状部材301と、第1環状部材301の内側に配置された第2環状部材302と、第2環状部材302の内側に配置された第3環状部材303とを有している。第1環状部材301は、小径筒部202に嵌着され、小径筒部202の内周面と第1環状部材301の外周面との間には、Oリング203が配置されている。
第1環状部材301及び第3環状部材303は、例えば鉄系金属からなる磁性体であり、第2環状部材302は、例えばオーステナイト系ステンレス等からなる非磁性体である。第2環状部材302と第1環状部材301及び第3環状部材303とは、磁路形成部材30の軸方向の一端部において、溶接によって結合されている。
電磁コイル4は、エナメル線からなる巻線40と、この巻線40を収容する樹脂からなる保持部材41とを有している。保持部材41は環状であり、その周方向の一箇所に軸方向に突出する突部411が形成されている。突部411の軸方向端面からは、シース42及びこのシース42に収容された電線43が導出され、図略の制御装置から出力される電流が電線43を介して巻線40に供給される。
電磁コイル4の巻線40は、第1環状部材301と第3環状部材303との間に形成された環状空間30aに収容されている。この環状空間30aは、軸方向に開口し、この開口が鉄系金属等の磁性体からなる蓋部材35によって閉塞されている。蓋部材35には、保持部材41の突部411を挿通させる挿通孔351が形成され、突部411の外周面と挿通孔351の内周面との間には、Oリング36が配置されている。
シャフト10は、ハウジング2の大径筒部201に対向する大径部101と、磁路形成部材30の第3環状部材303に対向する小径部102とを一体に有し、大径部101の外周部には、軸方向に延在する複数のスプライン突起からなるスプライン係合部101aが形成されている。また、小径部102の外周面と第3環状部材303の内周面との間には、軸受11及びシール部材12が配置されている。
シャフト10は、軸受11に支持されて、ハウジング2に対して相対回転可能に配置されている。軸受11は、第3環状部材303の内側に嵌着された外輪111と、シャフト10の小径部102の外側に嵌着された内輪112と、外輪111と内輪112との間に転動可能に配置された複数の転動体113とを有している。内輪112には、シャフト10の小径部102における大径部101側の端部に形成された段部103が突き当てられている。本実施の形態では、転動体113が球状であり、複数の転動体113が図略の保持器によって等間隔に保持されているが、これに限らず、転動体113が例えば円筒状であってもよい。
図4(a)は、アウタクラッチプレート31を示す平面図であり、図4(b)は、インナクラッチプレート32を示す平面図である。アウタクラッチプレート31とインナクラッチプレート32とは、軸方向に沿って交互に配置され、ハウジング2の収容空間2aに封入された潤滑油によって摩擦摺動が潤滑される。この潤滑油は、Oリング203,36、及びシール部材12によってハウジング2内に封入されている。
アウタクラッチプレート31は、鉄系金属等の磁性体からなる平坦な環板状であり、インナクラッチプレート32と摺動する摺接面31aには、回転軸線Oを中心とする複数の微細溝310が同心円状に形成されている。隣り合う微細溝310間の間隔は例えば15〜45μmであり、微細溝310の深さは例えば10〜30μmである。
アウタクラッチプレート31の外周側の端部には、複数の係合突起311が形成されている。複数の係合突起311は、ハウジング2の大径筒部201におけるスプライン係合部201aに係合する。また、アウタクラッチプレート31には、周方向に沿って延びる複数(本実施の形態では6つ)の円弧溝312が形成されている。
インナクラッチプレート32は、アウタクラッチプレート31と同じく鉄系金属等の磁性体からなる環板状であるが、アウタクラッチプレート31と摺動する摺接面32aが平坦ではなく、周方向にウェーブ状に湾曲している。より具体的に詳述すれば、インナクラッチプレート32には、磁路形成部材30側から見た場合に、手前側に膨出する3箇所の凸部32bと、奥側(アーマチャ33側)に窪んだ3箇所の凹部32cとが交互に形成されている。
インナクラッチプレート32の内周側の端部には、複数の係合突起321が形成されている。複数の係合突起321は、シャフト10の大径部101におけるスプライン係合部101aに係合する。また、インナクラッチプレート32には、周方向に沿って延びる複数(本実施の形態では6つ)の円弧溝322が形成されている。複数の円弧溝322は、アウタクラッチプレート31の複数の円弧溝312と相俟って、電磁コイル4への通電により発生する磁束の短絡を抑制している。
インナクラッチプレート32の摺接面32aには、潤滑油を流動させる複数の油溝320が格子状に形成されている。油溝320は、アウタクラッチプレート31の微細溝310よりも深く、隣り合う油溝320間の間隔も、微細溝310間の間隔よりも広く形成されている。なお、油溝320は、インナクラッチプレート32の両面に形成されている。
アーマチャ33は、鉄系金属等の磁性体からなる環板状の部材であり、磁路形成部材30との間にアウタクラッチプレート31及びインナクラッチプレート32を挟む位置に配置されている。アーマチャ33の外周側の端部には、ハウジング2の大径筒部201におけるスプライン係合部201aに係合する複数の係合突起331が形成されている。複数の係合突起331がハウジング2のスプライン係合部201aに係合することにより、アーマチャ33は、ハウジング2に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。
また、アーマチャ33は、ハウジング2のスプライン係合部201aの端部に嵌着された止め部材としてのスナップリング22によって磁路形成部材30から離間する方向への軸方向移動が規制されている。アーマチャ33の外周部には、軸方向に窪んだ窪部330が形成され、アーマチャ33がスナップリング22に当接したとき、スナップリング22は、この窪部330に収容される。これにより、電磁クラッチ装置1の軸方向の薄型化が図られている。
皿バネ34は、例えばバネ鋼等の金属からなる板状の弾性体であり、2枚のアウタクラッチプレート31の間であって、インナクラッチプレート32の外側にあたる位置に配置されている。また、皿バネ34は、2枚のアウタクラッチプレート31間に磁束を通過させることが可能な透磁率を有する磁性体である。
皿バネ34を挟む2枚のアウタクラッチプレート31のうち、磁路形成部材30側のアウタクラッチプレート31を第1のアウタクラッチプレート31Aとし、アーマチャ33側のアウタクラッチプレート31を第2のアウタクラッチプレート31Bとすると、アーマチャ33の軸方向の位置にかかわらず、皿バネ34の内周端部が第1のアウタクラッチプレート31Aに常に接触し、皿バネ34の外周端部が第2のアウタクラッチプレート31Bに常に接触する。
また、皿バネ34の板厚は、インナクラッチプレート32の板厚よりも薄く形成されている。皿バネ34の厚み(板厚)は例えば0.5mmであり、インナクラッチプレート32の厚み(板厚)は例えば1.0mmである。なお、アウタクラッチプレート31の厚みは、インナクラッチプレート32の厚みと同等である。
電磁コイル4の巻線40に通電されると、図3に示すように、第1環状部材301、アウタクラッチプレート31ならびにインナクラッチプレート32の外周部、アーマチャ33、アウタクラッチプレート31及びインナクラッチプレート32の内周部、第3環状部材303、及び蓋部材35を経由する磁路Zに磁束が発生する。また、電磁コイル4への通電により発生する磁束の一部は、皿バネ34を通過する。すなわち、磁路形成部材30の第1環状部材301ならびに第3環状部材303、アウタクラッチプレート31、インナクラッチプレート32、アーマチャ33、皿バネ34、及び蓋部材35は、電磁コイル4への通電により発生する磁束の磁路を構成する。
シャフト10の回転中に電磁コイル4に通電されると、アーマチャ33は、磁路Zに形成される磁束の磁力によって磁路形成部材30側に吸引され、アウタクラッチプレート31及びインナクラッチプレート32を軸方向に押圧する。これにより、アウタクラッチプレート31の摺接面31aとインナクラッチプレート32の摺接面32aとが摩擦摺動し、アウタクラッチプレート31とインナクラッチプレート32との間に発生する摩擦力によってシャフト10の回転が制動される。すなわち、本実施の形態では、電磁クラッチ装置1が電磁ブレーキとして機能する。
また、電磁コイル4への通電が遮断されると、皿バネ34の弾性力(復元力)によって2枚のアウタクラッチプレート31(第1のアウタクラッチプレート31A及び第2のアウタクラッチプレート31B)が離間し、これに伴ってアーマチャ33がスナップリング22に当接する。図1に示すように、電磁コイル4への非通電時において皿バネ34によって離間した2枚のアウタクラッチプレート31の間隔(D1)は、インナクラッチプレート32の単体での軸方向長さ(自由長さ:L1)よりも広い。ここで、インナクラッチプレート32の単体での軸方向長さとは、インナクラッチプレート32に外力が作用しない状態におけるインナクラッチプレート32の軸方向の長さをいい、より具体的には、凸部32bにおける第1のアウタクラッチプレート31A側の摺接面32aと、凹部32cにおける第2のアウタクラッチプレート31B側の摺接面32aとの間の軸方向の距離をいう。
電磁コイル4への通電時には、インナクラッチプレート32がアーマチャ33からの押圧力を受けて平坦化し、アウタクラッチプレート31との接触面積が増大する。すなわち、インナクラッチプレート32は、2枚のアウタクラッチプレート31の間に挟まれることにより平坦化して、アウタクラッチプレート31との接触面積が増大する弾性を有している。
本実施の形態では、図3に示すように、電磁コイル4への通電時にインナクラッチプレート32が平板状となり、表裏の摺接面32aがその全体にわたってアウタクラッチプレート31の摺接面31aに接触するが、これに限らず、凸部32bにおいては第2のアウタクラッチプレート31Bとの間に僅かな隙間が形成され、凹部32cにおいては第1のアウタクラッチプレート31Aとの間に僅かな隙間が形成されるように、インナクラッチプレート32を形成してもよい。
また、電磁コイル4への非通電時には、シャフト10の回転に伴ってインナクラッチプレート32に作用する潤滑油の動圧作用によって、インナクラッチプレート32が2枚のアウタクラッチプレート31の中間に位置し、インナクラッチプレート32が2枚のアウタクラッチプレート31の何れにも接触しない状態となる。すなわち、インナクラッチプレート32の凸部32bと第1のアウタクラッチプレート31Aとの間に隙間が形成されると共に、インナクラッチプレート32の凹部32cと第2のアウタクラッチプレート31Bとの間にも隙間が形成され、インナクラッチプレート32が両アウタクラッチプレート31と非接触となる。これにより、シャフト10は、その回転軸線Oを中心として、ハウジング2に対して自由に回転することが可能となる。
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態に係る電磁クラッチ装置1によれば、以下に述べる作用及び効果が得られる。
(1)電磁コイル4への非通電時に皿バネ34によってアウタクラッチプレート31同士が離間し、かつインナクラッチプレート32が湾曲しているので、仮にインナクラッチプレート32が湾曲せず平板状である場合に比較して、引き摺りトルクの低減効果を高めることが可能となる。つまり、アウタクラッチプレート31同士を離間させるだけでは、潤滑油の粘性によって皿バネ34を挟む2枚のアウタクラッチプレート31の何れか(第1のアウタクラッチプレート31A又は第2のアウタクラッチプレート31B)にインナクラッチプレート32が密着してしまうおそれがあり、この場合には引き摺りトルクの低減効果が十分に発揮されないが、本実施の形態では、インナクラッチプレート32が湾曲しているので、インナクラッチプレート32の凸部32b又は凹部32cが第1のアウタクラッチプレート31A又は第2のアウタクラッチプレート31Bに接触したとしても、その接触面積は小さく、引き摺りトルクが抑制される。また、インナクラッチプレート32は、2枚のアウタクラッチプレート31の間に挟まれることにより平坦化してアウタクラッチプレート31との接触面積が増大する弾性を有しているので、電磁クラッチ装置1の作動時には、アウタクラッチプレート31とインナクラッチプレート32とが面接触し、シャフト10を制動する摩擦力が確保される。
(2)インナクラッチプレート32は、周方向にウェーブ状に湾曲しているので、潤滑油の動圧作用によって2枚のアウタクラッチプレート31の中間に位置する。つまり、インナクラッチプレート32が凸部32bにおいて潤滑油から受ける軸方向の力と凹部32cにおいて潤滑油から受ける軸方向の力とがバランスし、電磁コイル4への非通電時にインナクラッチプレート32が2枚のアウタクラッチプレート31の何れかに押し付けられてしまうことが抑制される。
(3)皿バネ34は、磁性体からなるので、電磁コイル4への通電開始時に磁束の一部が皿バネ34を通過し、アーマチャ33が磁路形成部材30側に吸引されやすくなる。つまり、電磁コイル4への通電開始時には、アウタクラッチプレート31とインナクラッチプレート32との間の磁気抵抗が大きく、アーマチャ33を磁路形成部材30側に引き寄せるために大きな起磁力が必要となるが、本実施の形態では、電磁コイル4への通電開始時に皿バネ34を磁束が通過することで磁気抵抗が小さくなり、より小さな起磁力でアーマチャ33を磁路形成部材30側に引き寄せることができる。これにより、電磁クラッチ装置1の消費電力を削減できると共に、非作動状態から作動状態への移行に要する時間を短縮することができる。
(4)皿バネ34は、板状の金属からなり、その厚みがインナクラッチプレート32の厚みよりも薄いので、電磁コイル4の磁力を受けたアーマチャ33に押圧されることにより皿バネ34及びインナクラッチプレート32が平坦化した際、インナクラッチプレート32とアウタクラッチプレート31との面接触が皿バネ34によって妨げられることなく、広い面積で摩擦接触することができる。
(5)皿バネ34の弾性力によって離間したアウタクラッチプレート31同士の間隔(D1)は、インナクラッチプレート32の単体での軸方向長さ(L1)よりも広いので、電磁コイル4への非通電時には、インナクラッチプレート32が2枚のアウタクラッチプレート31の何れにも接触しない状態となる。これにより、引き摺りトルクが確実に低減される。
(6)湾曲したインナクラッチプレート32に形成された油溝320は、アウタクラッチプレート31の微細溝310よりも深いので、例えば凸部32b及び凹部32cにおいてインナクラッチプレート32がアウタクラッチプレート31に摺接しても、摺接面32aの摩耗によって油溝320が消失してしまうことがない。なお、凸部32b及び凹部32cにおいてインナクラッチプレート32がアウタクラッチプレート31と摺接する状態は、例えば電磁コイル4にシャフト10の回転を完全には停止させない程度の制動力を発生させる電流が供給された場合に発生し得る。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る電磁クラッチ装置1Aを示す正面半断面図である。図5において、第1の実施の形態について説明した構成要素と共通する構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
本実施の形態に係る電磁クラッチ装置1Aは、第1の実施の形態に係る電磁クラッチ装置1に対し、アウタクラッチプレート31を有していない他は同様に構成されている。すなわち、インナクラッチプレート32は磁路形成部材30とアーマチャ33との間に配置され、皿バネ34の弾性力によってアーマチャ33が磁路形成部材30から離間する方向に付勢されている。
シャフト10の回転中に電磁コイル4に通電されると、アーマチャ33が磁力によって磁路形成部材30側に引き寄せられ、インナクラッチプレート32がアーマチャ33及び磁路形成部材30と摺接し、インナクラッチプレート32とアーマチャ33及び磁路形成部材30との間に発生する摩擦力によってシャフト10の回転が制動される。すなわち、本実施の形態では、アーマチャ33及び磁路形成部材30が本発明の「摩擦部材」に相当する。なお、アーマチャ33及び磁路形成部材30におけるインナクラッチプレート32との対向面には、耐摩耗性を向上させるための熱処理や成膜処理を施すことが望ましい。
本実施の形態に係る電磁クラッチ装置1Aによっても、第1の実施の形態について説明した作用及び効果と同様の作用及び効果を得ることができる。また、電磁クラッチ装置1Aは、アウタクラッチプレート31を有していないので、軸方向の小型化が可能となると共に、部品点数を削減することができる。
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。
図6は、本発明の第3の実施の形態に係る電磁クラッチ装置1Bを示す正面半断面図である。図6において、第1の実施の形態について説明した構成要素と共通する構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
この電磁クラッチ装置1Bは、クラッチ部3に3枚のアウタクラッチプレート31と2枚のインナクラッチプレート32とが交互に配置されている。2枚のインナクラッチプレート32は平板状であり、これら2枚のインナクラッチプレート32に挟まれた1枚のアウタクラッチプレート31が周方向にウェーブ状に湾曲している。すなわち、本実施の形態では、2枚のインナクラッチプレート32が本発明の「摩擦部材」に相当し、これらのインナクラッチプレート32に挟まれた1枚のアウタクラッチプレート31が本発明の「クラッチプレート」に相当する。
また、2枚のインナクラッチプレート32の間には、これらのインナクラッチプレート32同士を離間させる皿バネ34が配置されている。皿バネ34は、第1の実施の形態と同様に磁性体からなり、電磁コイル4への通電開始時に磁束の一部を通過させる。
3枚のアウタクラッチプレート31のうち、2枚のインナクラッチプレート32に挟まれた1枚のアウタクラッチプレート31を除く2枚のアウタクラッチプレート31は平板状である。なお、これら2枚のアウタクラッチプレート31は省略することも可能である。この場合には、2枚のインナクラッチプレート32のうち一方のインナクラッチプレート32が磁路形成部材30に対向し、他方のインナクラッチプレート32がアーマチャ33に対向する。
皿バネ34の厚み(板厚)はアウタクラッチプレート31の厚み(板厚)よりも薄く、電磁コイル4への非通電時に皿バネ34によって離間したインナクラッチプレート32同士の間隔は、ウェーブ状に湾曲したアウタクラッチプレート31の単体での軸方向長さよりも広い。電磁コイル4に通電されると、ウェーブ状に湾曲したアウタクラッチプレート31が2枚のインナクラッチプレート32に挟まれて弾性変形し、平坦化することによってインナクラッチプレート32との接触面積が増大する。
また、第1の実施の形態では、アウタクラッチプレート31に複数の微細溝310が同心円状に形成され、インナクラッチプレート32に格子状の油溝320が形成されていたが、本実施の形態では、第1の実施の形態とは反対に、アウタクラッチプレート31に格子状の油溝が形成され、インナクラッチプレート32に複数の微細溝が形成されている。
本実施の形態に係る電磁クラッチ装置1Bによっても、第1の実施の形態について説明した作用及び効果と同様の作用及び効果を得ることができる。
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。
図7は、本発明の第4の実施の形態に係る電磁クラッチ装置1Cの断面図である。図8は、図7の部分拡大図である。
この電磁クラッチ装置1Cは、内部に収容空間5aが形成されたハウジング5と、ハウジング5と同軸上で相対回転可能に支持されたインナシャフト6と、ハウジング5とインナシャフト6との間に配置されたメインクラッチ機構7と、メインクラッチ機構7に軸方向の押圧力を付与するカム機構70と、カム機構70に押圧力としてのカム推力を発生させるトルクを伝達するパイロットクラッチ機構8と、パイロットクラッチ機構8によって伝達されるトルクを制御する磁力を発生させる電磁コイル9とを備えている。
電磁クラッチ1Cは、例えば四輪駆動車のプロペラシャフトとディファレンシャル装置との間に配置され、電磁コイル9に供給される励磁電流に応じた駆動力を伝達する。ハウジング5には、例えばプロペラシャフトが連結され、インナシャフト6には、例えばディファレンシャル装置のデフケースに固定されたリングギヤに噛み合うピニオンギヤシャフトが連結される。
ハウジング5は、アルミニウム等の非磁性体からなる有底円筒状のフロントハウジング51、及びフロントハウジング51に螺着等により一体に回転するように結合された環状のリヤハウジング52からなる。ハウジング5の内部には、図略の潤滑油が封入されている。フロントハウジング51の内周部には、回転軸線Oに沿って設けられた複数のスプライン突起からなるスプライン係合部51aが形成されている。リヤハウジング52は、フロントハウジング51に結合された磁性体からなる第1環状部材521、第1環状部材521の内周側に一体に結合された非磁性体からなる第2環状部材522、及び第2環状部材522の内周側に結合された磁性体からなる第3環状部材523からなる。第1環状部材521と第3環状部材523との間の環状空間52aには、電磁コイル9が配置されている。
インナシャフト6は、玉軸受61及びすべり軸受62によってハウジング5の内周側に支持された円筒状の部材である。インナシャフト6におけるフロントハウジング51のスプライン係合部51aとの対向部には、回転軸線Oに沿って設けられた複数のスプライン突起からなるスプライン係合部6aが形成されている。また、インナシャフト6の内周部には、図略のピニオンギヤシャフト等の駆動軸を相対回転不能に連結するための複数のスプライン係合部6bが形成されている。
メインクラッチ機構7は、回転軸線Oに沿って交互に配置された複数のアウタクラッチプレート71及び複数のインナクラッチプレート72を有し、アウタクラッチプレート71とインナクラッチプレート72との摩擦によってハウジング5の回転力をインナシャフト6に伝達する。アウタクラッチプレート71は、フロントハウジング51のスプライン係合部51aに係合する複数の突起711を有し、フロントハウジング51に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。インナクラッチプレート72は、インナシャフト6のスプライン係合部6aに係合する複数の突起721を有し、インナシャフト6に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。
カム機構70は、パイロットカム701と、メインクラッチ機構7を軸方向に押圧するメインカム702と、パイロットカム701とメインカム702との間に配置された複数の球状のカムボール703とを有して構成されている。メインカム702は、その内周面に形成されたスプライン歯702aがインナシャフト6のスプライン係合部6aに係合し、インナシャフト6との相対回転が規制されている。パイロットカム701の外周面には、複数のスプライン歯701aが回転軸線Oと平行に形成されている。パイロットカム701とリヤハウジング52の第3環状部材523との間には、スラスト針状ころ軸受704が配置されている。
パイロットカム701とメインカム702との対向面には、周方向に沿って軸方向の深さが変化する複数のカム溝701b,702bが形成されている。カム機構70は、カムボール703がこれらのカム溝701b,702bを転動することにより、メインカム702をメインクラッチ機構7に押し付ける軸方向の押圧力(カム推力)を発生させる。
パイロットクラッチ機構8は、回転軸線Oに沿って交互に配置された複数のアウタクラッチプレート81と、複数のアウタクラッチプレート81の間に配置されたインナクラッチプレート82と、電磁コイル9への通電により発生する磁力によってリヤハウジング52側に吸引され、アウタクラッチプレート81とインナクラッチプレート82とを軸方向に押圧するアーマチャ83と、複数のアウタクラッチプレート81の間に配置され、アウタクラッチプレート81同士を軸方向に離間させる離間部材としての皿バネ84とを有している。アウタクラッチプレート81とインナクラッチプレート82との摩擦摺動は、潤滑油によって潤滑される。
アウタクラッチプレート81及びインナクラッチプレート82は、鉄系金属等の磁性体からなる環板状である。本実施の形態では、パイロットクラッチ機構8が2枚のアウタクラッチプレート81と、1枚のインナクラッチプレート82とを有しているが、アウタクラッチプレート81及びインナクラッチプレート82の枚数は、パイロットクラッチ機構8において伝達することが必要なトルクに応じて適宜選択することが可能である。
2枚のアウタクラッチプレート81は平坦な板状であり、インナクラッチプレート82は周方向にウェーブ状に湾曲して形成されている。また、インナクラッチプレート82は、2枚のアウタクラッチプレート81の間に挟まれることにより平坦化して、アウタクラッチプレート81との接触面積が増大する弾性を有している。
アウタクラッチプレート81は、フロントハウジング51のスプライン係合部51aに係合する複数の突起811を有し、フロントハウジング51に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。インナクラッチプレート82は、カム機構70のパイロットカム701に形成された複数のスプライン歯701aに嵌合する複数の突起821を有し、パイロットカム701に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。また、アウタクラッチプレート81及びインナクラッチプレート82には、第1の実施の形態に係るアウタクラッチプレート31及びインナクラッチプレート32と同様に、複数の円弧溝812,822がそれぞれ形成されている。
アーマチャ83は、環状の磁性体からなり、アウタクラッチプレート81及びインナクラッチプレート82を挟む位置に軸方向移動可能に配置されている。アーマチャ83の外周部には、フロントハウジング51のスプライン係合部51aに係合する複数の突起831が設けられている。これにより、アーマチャ83は、フロントハウジング51に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。
皿バネ84は、例えばバネ鋼等の金属からなる板状の弾性体であり、2枚のアウタクラッチプレート81の間であって、インナクラッチプレート82の外側にあたる位置に配置されている。また、皿バネ84は、2枚のアウタクラッチプレート81間に磁束を通過させることが可能な透磁率を有する磁性体であり、皿バネ84の内周端部が2枚のアウタクラッチプレート81の一方のアウタクラッチプレート81に常に接触し、皿バネ84の外周端部が他方のアウタクラッチプレート81に常に接触する。
皿バネ84の厚みは、インナクラッチプレート82の厚みよりも薄く形成されている。また、電磁コイル9への非通電時において皿バネ84によって離間した2枚のアウタクラッチプレート81の間隔は、インナクラッチプレート82の単体での軸方向長さ(自由高さ)よりも広い。
本実施の形態では、アウタクラッチプレート81が本発明の「摩擦部材」に相当し、インナクラッチプレート82が本発明の「クラッチプレート」に相当する。また、パイロットカム701は、ハウジング5に対して相対回転可能に配置された本発明の「回転部材」に相当する。複数のアウタクラッチプレート81及びインナクラッチプレート82ならびに皿バネ84は、ハウジング5とパイロットカム701とを係脱可能に連結するクラッチ部80を構成する。
電磁コイル9は、玉軸受53によってリヤハウジング52の第3環状部材523に支持されたヨーク91に保持されている。電磁コイル9には、電線92を介して図略の制御装置から励磁電流が供給される。
上記のように構成された電磁クラッチ装置1Bは、制御装置から電磁コイル9に励磁電流が供給されると、ヨーク91、第1環状部材521、アウタクラッチプレート81ならびにインナクラッチプレート82の外周部、アーマチャ83、アウタクラッチプレート81及びインナクラッチプレート82の内周部、及び第3環状部材523を経由する磁路Zに磁束が発生し、この磁束の磁力によってアーマチャ83がリヤハウジング52側に吸引されてアウタクラッチプレート81及びインナクラッチプレート82を押圧する。
これによりアウタクラッチプレート81とインナクラッチプレート82とが摩擦摺動し、ハウジング5の回転力がパイロットクラッチ機構8を介してカム機構70のパイロットカム701に伝達され、パイロットカム701がメインカム702に対して相対回転する。このパイロットカム701とメインカム702との相対回転によって、カムボール703がカム溝701b,702bを転動し、パイロットカム701とメインカム702とが離間する方向の軸方向の推力が発生する。そして、このカム機構70の推力によってメインクラッチ機構7がメインカム702によって押圧され、複数のアウタクラッチプレート71と複数のインナクラッチプレート72との摩擦によってハウジング5からインナシャフト6に駆動力が伝達される。
一方、電磁コイル9の非通電時には、皿バネ84の弾性力によってアウタクラッチプレート81同士が離間し、インナクラッチプレート82との間に隙間が形成される。これにより、パイロットクラッチ機構8における引き摺りトルクが抑制され、ひいてはメインクラッチ機構7における引き摺りトルクが抑制される。
以上説明した第4の実施の形態によっても、第1の実施の形態について説明した作用及び効果と同様の作用及び効果を得ることができる。
(付記)
以上、本発明を第1乃至第4実施の形態に基づいて説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、第4の実施の形態に係る電磁クラッチ装置1Cのクラッチ部80を、第2又は第3の実施の形態に係る電磁クラッチ装置1B,1Cのクラッチ部3の如く構成してもよい。また、上記第1乃至第4の実施の形態では、インナクラッチプレート32,82、又はアウタクラッチプレート31が周方向にウェーブ状に湾曲して形成された場合について説明したが、これに限らず、例えば皿バネ状(中心部に穴が開いた底面のない円錐形状)であってもよく、あるいは径方向に沿って弓形に湾曲し、径方向の中央部が軸方向に膨出した形状等であってもよい。このような形状であっても、軸方向の押圧力を受けて平坦化する弾性を有していれば、引き摺りトルクを低減させることが可能である。
また、上記第1乃至第4の実施の形態では、本発明の離間部材として皿バネ34を用いた場合について説明したが、これに限らず、周方向にウェーブ状に湾曲したウェーブワッシャを離間部材として適用してもよい。またさらに、ゴム又は樹脂からなる弾性体を離間部材として用いることも可能である。ただし、離間部材としては、磁性体であることが、電磁クラッチ装置の非作動状態から作動状態に移行する際の応答性を高める上で望ましい。