本発明は、生体管腔内に導入および留置される内腔を有するカテーテルであって、前記カテーテルは、前記カテーテルの内腔に平行で、かつ、軸方向に延在している変形領域を有し、前記変形領域は、前記カテーテルが湾曲して湾曲部を形成した際、前記湾曲部の内側になるように構成されており、前記カテーテルの少なくとも一部の外表面は、表面潤滑層で被覆されており、前記カテーテルの外表面において、前記変形領域の少なくとも一部に前記表面潤滑層よりも潤滑性が低い低滑部(本明細書では、単に「低滑部」とも称する)が設けられており、カテーテルの軸方向の同一位置に、前記表面潤滑層と前記低滑部が設けられている、カテーテルを提供する。本発明は、カテーテルが湾曲する際、カテーテルの湾曲の内側となる位置の外表面に低滑部を配置することに特徴がある。また、カテーテルの内腔の軸心に対して変形領域と反対側の外表面に表面潤滑層を設け、カテーテルの外表面の軸方向の同一位置に表面潤滑部及び低滑部を配置することに特徴がある。上記構成を有するカテーテルは、生体管腔内に導入時の良好な操作性および生体管腔内に留置時の高いバックアップ性を両立することができる。このため、本発明のカテーテルを用いることによって、カテーテルを所望の部位にスムーズに導入しかつ確実に保持できる。ここで、変形領域は、カテ−テルの周方向において、相対的に伸びにくい領域または相対的に縮みやすい領域であることが好ましい。
カテーテルは、一般的に、所望の部位まではスムーズに導入できるように潤滑性を、また、所望の部位でしっかりと保持(留置)するためにはバックアップ性を、有することが好ましい。
一方、上記特許文献1によるように、カテーテルは、基端部以外の表面が親水性高分子物質で被覆されている。このため、所望の部位まではスムーズに導入でき、操作性を改善できる。しかしながら、治療薬や造影剤の投与・注入を目的として、当該カテーテルを所望の部位に保持・留置する際には、生体管腔(例えば、血管)壁での摩擦が低いため、良好なバックアップ力を期待できない。
これに対して、本発明のカテーテルの外表面には、カテーテルが湾曲する際にその湾曲の内側に位置する変形領域があり、かつ、カテーテルの内腔の中心軸(軸心)に対して偏心した位置で軸方向の同一位置に表面潤滑部及び低滑部が設置される。このため、表面潤滑部の存在により、所定の生体管腔(例えば、血管)内の位置にまでカテーテルをスムーズに挿入(導入)できる。一方、カテーテル先端が所定の位置にまで導入された場合には、表面潤滑部の存在位置と軸方向の同一の位置に存在する低滑部を生体管腔壁と接触させることができる。この際、当該低滑部の表面潤滑性は低いため、カテーテルは当該接触部でのカテーテルと生体管腔壁との高い摩擦力(即ち、高いバックアップ性)によって、そのままの位置に有効に保持されうる。したがって、本発明のカテーテルを使用することによって、所望の位置までの導入時の操作性は良好に保ちつつ、所望の位置への留置性(バックアップ性)を向上できる。
本発明のカテーテルは、カテーテルが湾曲した際に内側になるように構成されている変形領域を有しているため、湾曲した生体管腔内等を進める際、変形領域の外表面は生体管腔壁に接触しない。そのため、変形領域に設けられた低滑部が生体管腔壁に接触することなく、湾曲した生体管腔内等においてカテーテルを進める際、低滑部は移動の妨げにならない。また、カテーテルの内腔の軸心に対して低滑部を有する変形領域と反対側に位置するカテーテルの外表面は、表面潤滑層で覆われている。これにより、湾曲した生体管腔内等においてカテーテルを進める際、カテーテルの外表面で表面潤滑層を有する部分が常に生体管腔壁と接触するため、カテーテルのより良い操作性を達成できる。また、カテーテルを所定位置で固定したい場合には、カテーテルをわずかに手元側に引き戻して生体内腔内のカテーテルの撓みを除くことで、湾曲した生体内腔壁の内側をカテーテルが通るようになり、カテーテルの変形領域の外表面が生体管腔壁と接触するようになる。これにより、湾曲した生体管腔壁の内側と、カテーテルの外表面の低滑部が接触するため、生体内腔内でカテーテルを容易に固定することができる。ここで、生体内腔内のカテーテルの撓みを除くとは、例えば、図3Aの状態のカテーテルを図3Bの状態になるように、カテーテルの手元側を引くことで、生体内腔内に挿入されているカテーテルの長さを短くすることをいう。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」及び「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
[カテーテル]
本発明のカテーテルは、いずれの用途に使用されてもよいが、体液や血液との接触による潤滑性付与効果およびバックアップ性(留置性)を考慮すると、体液や血液と接触して用いられることが好ましい。具体的には、ガイディングカテーテル、造影用カテーテル、PTCA用、PTA用、IABP用等の各種バルーンカテーテル、超音波カテーテル、アテレクトミーカテーテル、内視鏡用カテーテル、留置カテーテル、薬液投与用カテーテル、脳や腹部等の臓器(例えば肝臓)内の目的部位に各種治療薬や塞栓物質、あるいは造影剤などを投与、注入するために用いられるマイクロカテーテル(塞栓術用カテーテル)等の種々のカテーテルに適用することができる。特に、本発明のカテーテルは、容易な構成により、操作性及び留置性を向上させることができるため、末梢血管の治療で使用するような細径化が必要なカテーテルに適用することが好適である。このため、本発明のカテーテルは、分岐が多く複雑に蛇行する直径3mm程度以下の細い末梢血管内に挿入されるマイクロカテーテルに適用するのが好ましい。
以下では、本発明の好ましい形態であるカテーテル(特にマイクロカテーテル)を例にとって、本発明を詳細に説明するが、本発明は下記に限定されるものではなく、他の生体管腔に導入・留置されるカテーテルに対しても同様にしてまたは適宜修飾して適用できる。
図1は、本発明の一実施形態(第1実施形態)に係るカテーテルの全体構成例を示す平面図および部分拡大図である。図2は、図1に示すカテーテルのA−A’線での概略断面図である。以下、図1中の右側を「基端」、左側を「先端」として説明する。
本実施例のカテーテル1は、可撓性を有する管状のカテーテル本体2と、該カテーテル本体2内に配設された、補強材3および変形領域10を形成する線材4とを備えている。また、カテーテル本体2の基端部には、治療薬や造影剤等を注入するための注入口としてのハブ11が形成されている。
補強材3は、いずれの形状を有していてもよいが、補強効果を有するコイル形状を有することが好ましい。ここで、コイル状の補強材とは、1本のワイヤやロープのような形状の補強材を巻いたり、ねじったりすることで形成された補強材の形状で、その形成された補強材の内側には円形のリングが複数形成されている。補強材3は、カテーテル本体の先端から基端にわたって軸方向全体に延在していてもよい。この際、補強材はカテーテル本体に埋没していることが好ましい。これにより、カテーテルの強度を高めつつ、内径が大きく、外径が小さいカテーテルを作製することができる。ここで、コイルの巻きピッチは、カテーテル本体の先端から基端にわたって同じであってもあるいは異なるものであってもよい。後者の場合には、基端側の領域では相対的に大きい巻きピッチで巻かれ、先端側の領域では相対的に小さい巻きピッチで巻かれており、かつ、該巻きピッチは先端側に向かって徐々に小さくなっていることが好ましい。このような構造をとることにより、基端側の領域に比べて先端側の領域でのカテーテルの剛性が小さくなる。このような形態を有するカテーテルとしては、例えば、特開2001−218851号公報(US 2002/0022825 A1に対応)に記載されるコイル形状の補強材を有するカテーテルが挙げられる。同様にして、上記したようなカテーテルの製造方法は、特に制限されないが、例えば、特開2001−218851号公報に記載される方法が同様にして適用できる。
本明細書において、コイルの巻きピッチとは、コイルを構成する隣接する巻回(巻き)と巻回(巻き)との間のカテーテルの長手方向における距離、言い換えれば、カテーテル1の長手方向における隣り合った巻回(巻き)と巻回(巻き)の隙間(隔たり)の長さを意味する。
変形領域10は、カテーテルの周方向において、相対的に伸びにくい領域である。具体的には、変形領域10は、カテーテル本体2の内腔に平行でかつ軸方向に延在している線材4と同じ側に形成されている。カテーテルにコイル状の補強材及び線材を設けることで、線材は、コイル状の補強材がコイルのピッチが拡がる方向に移動する動きを規制することができる。このため、カテーテルがコイル状の補強材を有する場合には、線材を入れた側のカテーテルの伸張が規制されるため、湾曲する際、線材を入れた側が内側になり、カテーテルの内腔の軸心に対して反対側に位置する線材をいれた側と反対側が外側になる。つまり、カテーテルがコイル状の補強材を有する場合には、線材を設けた側がカテーテルを湾曲させた際に内側になる変形領域となる。このように、コイル状の補強体の際には、線材を用いることで、容易に変形領域を作製することができる。
ここで、線材4は、いずれの形状を有していてもよく、補強材3よりも剛性が低い材料で構成されている。図1では、線材4の例示として直線状の線材を記載している。カテーテルがコイル状の補強材及び線材により構成されている場合、線材は、変形領域と同じ側の位置に配置される。すなわち、好ましい形態によると、カテーテルは、コイル状の補強材と、前記カテーテルの軸方向と平行にのびる線材と、を有し、前記線材は、前記変形領域と同じ側に配置される。これにより、以下に詳述するが、カテーテルの軸方向の伸縮性を制御して、カテーテルの屈曲方向を制御できる。また、変形領域が線材で構成される場合、線材は補強材に編込まれていることが好ましい。これにより、補強材に対して線材を編込むことで、カテーテルが湾曲した際、線材が移動して変形領域の位置が変化するのを抑制することができる。また、カテーテルの外径が大きくなるのを防止し、低侵襲かつ安全なカテーテルを提供することができる。さらに、コイル状の補強材の場合には、コイルの伸張をより規制し、コイルのピッチが拡がる方向に移動する動きをより良く規制することができる。加えて、カテーテルが湾曲部を通過することによる変形に起因する、線材の補強材からのずれを有効に抑制・防止できる。さらに、カテーテルの軸方向の伸縮性およびカテーテルの屈曲方向をより有効に制御できる。詳細には、補強材がコイル形状を有する場合には、線材により形成される変形領域をカテーテルの軸方向に設けると、変形領域があるカテーテル側面と、変形領域が存在しないカテーテル側面(特に変形領域がある側面とは反対の面)と、では、伸縮性に差が生じる。詳細には、線材を設けた側面でのカテーテルの伸縮性は、線材が存在しない側面に比べて、低くなる。このため、図3Aに示されるように、カテーテル1が血管湾曲部を通過する際には、線材4がある側面(変形領域)とは反対の面が血管湾曲部外側の血管内壁42と接触する。このようにカテーテルの軸方向に線材を設けることによって、カテーテルの軸方向の伸縮性を制御することにより、カテーテルの屈曲方向を制御できる。ここで、血管湾曲部外側の血管内壁42と接するカテーテルの内腔の軸心に対して変形領域と反対側に表面潤滑部が設けられることが好ましい。これにより、血管壁に対する摩擦が低いため、カテーテルをスムーズに挿入する(カテーテルの操作性を高める)ことができる。なお、図3A中、線材の配置をより明確に理解することを目的として、カテーテルのX−X’線での概略断面図を合わせて示す。当該概略断面図中、補強材3および線材4の位置関係を明確にするため、カテーテル基材(内層および外層)を白抜きで示し、補強材を斜線で示す。一方、治療薬や造影剤注入などを目的としてカテーテルを末梢で固定する場合には、図3Bに示されるように、カテーテル1をわずかに引き戻して、たわみを除いて、カテーテル1を血管湾曲部内側の血管内壁43に固定する。ここで、血管湾曲部内側の血管内壁43と接するカテーテルの内腔の軸心に対して変形領域と同じ側に低滑部が設けられることが好ましい。これにより、血管壁に対する摩擦が高いため、カテーテルを所定の位置にしっかりと固定する(留置性/バックアップ性を向上させる)ことができる。なお、図3B中、線材の配置をより明確に理解することを目的として、カテーテルのY−Y’線での概略断面図を合わせて示す。当該概略断面図中、補強材3および線材4の位置関係を明確にするため、カテーテル基材(内層および外層)を白抜きで示し、補強材を斜線で示す。したがって、上記構成をとることによって、所望の位置までの導入時の操作性、および所望の位置への留置性(バックアップ性)をより有効に向上できる。すなわち、補強材はコイル形状を有し、かつ低滑部は内腔の軸心に対して変形領域と同じ側に配置されることが好ましい。
なお、図1では、1本の線材4が、カテーテル本体2の内腔に平行でかつ軸方向に延在して存在しているが、本発明は当該形態に限定されず、複数本の線材がカテーテル本体2の内腔に平行でかつ軸方向に延在して存在していてもよい。この場合には、複数本の線材は、カテーテル本体の中心軸(軸心)に対して偏心して(即ち、一方の側に偏って)配設されればよい。この際、線材が偏って配設されている領域が変形領域となる。また、線材の配設数は、特に制限されないが、製造のしやすさ、細径化などを考慮すると、好ましくは1〜8本であり、より好ましくは1〜4本である。
カテーテル本体2の外表面の少なくとも一部は、表面潤滑部6および低滑部5で被覆されている。ここで、表面潤滑部6および低滑部5は、カテーテルの軸方向の同一位置に位置する。ここで、表面潤滑部が存在することによって、体液や血液などの水系液体中で潤滑性を発揮して、カテーテルを容易に生体管腔内に挿入できるなど、操作性を向上できる。また、表面潤滑部による被覆により、カテーテルの導入操作中の組織粘膜の損傷を低減できる。低侵襲性の観点から、表面潤滑部の摩擦係数は、好ましくは0.01〜0.3未満、より好ましくは0.03〜0.2である。ここで、本発明は、カテーテルを構成する基材(カテーテル本体)の表面の一部あるいは全部が表面潤滑性を有する形態双方を包含する。カテーテルは、全ての表面(表面全体)が潤滑性を有する必要はないが、少なくとも体液や血液と接触する表面部分(一部の場合もあれば全部の場合もある)に表面潤滑部が形成されることが好ましい。このため、表面潤滑部は、例えば、カテーテルの基端部側には形成されなくてもよい。また、カテーテル本体の外表面に加えて、カテーテルの内腔(ルーメンの内壁)に表面潤滑部が形成されてもよい。なお、カテーテルが複数のルーメンを有する場合には、すべてのルーメン内腔に表面潤滑部が設けられてもあるいは一部のルーメン内腔に表面潤滑部が設けられてもよい。また、カテーテルの内腔(ルーメンの内壁)全面に表面潤滑部が設けられる必要はなく、一部のみに表面潤滑部が設けられてもよい。
また、低滑部は、表面潤滑性の低い部分であり、表面潤滑部6と軸方向の同一位置にカテーテルの外表面に設置される。ここで、低滑部のバックアップ性(留置性)を考慮すると、低滑部の摩擦係数は、好ましくは0.3〜4、より好ましくは0.5〜3である。これにより、良好な操作性は確保しつつ、生体管腔(例えば、血管)内の所定の位置にカテーテルを留置した際に高いバックアップ性を発揮して、カテーテルを所定の位置にしっかりと保持することができる。本明細書において、「摩擦係数」は、下記方法によって測定された値である。
(摩擦係数の測定方法)
測定に十分な長さとなるよう切断したカテーテルに芯金を挿入し、直線形状としたものをサンプルとして用いる。図10に示されるように、ガラスシャーレ51の裏面に両面テープを貼り付け、サンプルの測定面が上部に位置するようシャーレ51中に固定する。シャーレ51中に純水を満たし、摩擦測定機50(トリニティーラボ社製、ハンディートライボマスターTL201)の試料台にセットし、重り53により円柱状ゴム端子(φ=10mm)52に荷重200gを印加して、10mmの距離を1000mm/分の移動速度で1回往復運動させた後の摺動抵抗値(初回摺動抵抗値)(gf)を測定する。なお、評価は、n=3で行い、その平均値を摺動抵抗値とする。摺動抵抗値を荷重の値で除し、摩擦係数とする。尚、測定すべき領域の長さが10mmに満たない場合、移動距離を測定長に合わせて適宜変更してもよい。
表面潤滑部及び低滑部の設置長さは、所望の操作性及びバックアップ性を達成できる限り、特に制限されない。表面潤滑部及び低滑部の設置長さは、100〜1000mmであることが好ましく、300〜900mmであることがより好ましい。このような設置長さであれば、挿入時の良好な操作性は確保しつつ、生体管腔内に留置された際に低滑部がより効率よくかつより確実に生体管腔壁と接触するため、より高いバックアップ性が達成できる。
表面潤滑部および低滑部は、カテーテルの軸方向の同一位置にカテーテルの外表面に形成される。ここで、「カテーテルの軸方向の同一位置」とは、カテーテルのある位置での断面において、表面潤滑部および低滑部双方が形成されることを意味する。カテーテルの外表面への表面潤滑部および低滑部の形成位置は、カテーテルの軸方向の同一位置であれば特に制限されず、カテーテルの形状、導入位置、留置位置などによって異なる。なお、図1では、変形領域を中心としたカテーテルの外表面の半分に低滑部5が形成され、カテーテルの外表面の残り半分に表面潤滑部6が形成されているが、上記形態に限定されない。具体的には、1本の線材4がカテーテル本体2の内腔に平行でかつ軸方向に延在する場合には、低滑部5は、線材4の中心とカテーテルの軸心8とを結ぶ線と、低滑部5の周方向における端部とカテーテルの軸心8とを結ぶ線がなす角度(図2中の「θ」)が、好ましくは±5〜±90°、より好ましくは±15〜±90°となるように形成される。また、複数本の線材4がカテーテル本体2の内腔に平行でかつ中心軸(軸心)に対して偏心して軸方向に延在する場合には、低滑部5は、最も離れた2本の線材間の中点とカテーテルの軸心8とを結ぶ線と、低滑部5の周方向における端部とカテーテルの軸心8とを結ぶ線がなす角度が、好ましくは±5〜±90°、より好ましくは±15〜±90°となるように形成される。このような状態で低滑部が形成されると、バックアップ性(留置性)をより向上できる。また、表面潤滑部6は、線材4の中心とカテーテルの軸心8とを結ぶ線の延長線(図2中の線「L」)と、表面潤滑部8の周方向における端部とを結ぶ線がなす角度(図2中の「θ’」)が、好ましくは±5〜±90°、より好ましくは±15〜±90°となるように形成される。なお、当該場合も、線材4が複数本存在する場合には、上記角度は、最も離れた2本の線材間の中点とカテーテルの軸心8とを結ぶ線の延長線と、表面潤滑部8の周方向における端部とを結ぶ線がなす角度となる。このような状態で低滑部が形成されると、操作性をより向上できる。したがって、このような部位に低滑部及び表面潤滑部が存在することによって、カテーテルを湾曲部に対してもよりスムーズに挿入でき、かつ生体管腔(例えば、血管)内の所定の位置にカテーテルをよりしっかりと保持することができる。また、上記θおよびθ’は、同じ大きさであってもよいし、異なる大きさであってもよい。
カテーテル本体2は、可撓性を有する管状の部材から構成されており、その基端から先端にかけて内部に管腔(内腔)7が形成されている。管腔7は、ガイドワイヤー用内腔として機能するものであり、カテーテル1の血管への挿入時には、図1に示されるように、管腔7内にガイドワイヤー9が挿通される。また、管腔7は、薬液や塞栓物質、造影剤等の通路として用いることもできる。
ハブ11は、管腔7内への前記ガイドワイヤー9の挿入口、管腔7内への薬液や塞栓物質、造影剤等の注入口等として機能し、また、カテーテル1を操作する際の把持部としても機能する。
また、カテーテル先端部は、カテーテル本体から延伸された部分であり、従来公知の種々の構造を採用することができる。例えば、先端部は、ループ状に湾曲した形状でもよいし、略直線状であってもよく、また、先端部には、洗浄、吸引、照明、撮像等の機能を付与するための部材が取り付けられていてもよい。
カテーテル本体2の構成材料としては、特に制限されないが、通常、可撓性を有するものが用いられる。例えば、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリスチレンエラストマー、ポリエステルエラストマー、フッ素系エラストマー等の各種可撓性を有する樹脂や、シリコーンゴム、ラテックスゴム等のゴム材料、またはこれらのうちの2以上を組み合わせたものが使用可能である。
カテーテル本体2は、基端側部分と、該基端側部分より先端側に位置する先端側部分とを有していてもよい。この際、前記先端側部分は、前記基端側部分よりも低い剛性を有していることが好ましい。このようにするためには、例えば、カテーテル本体2の基端側部分を前記した構成材料のうち比較的剛性の高い材料で構成し、カテーテル本体2の先端側部分を前記した構成材料のうち比較的剛性の低い材料で構成することが挙げられる。これにより、カテーテルの追従性が向上する。
カテーテル本体の構造は特に制限されないが、内層及び外層を有し、これらの間に補強材及び変形領域を形成する線材が埋設される構造を有していてもよい。この際、内層は、補強材(コイル)の内周を被覆し、補強材を配設するためのコアとなるとともに、管腔を形成するものである。内層としては、以下に詳述する外層と同様の構成材料を用いることが可能であるが、低摩擦材料で構成されていることが好ましい。これにより、内層の内面での摩擦を低減し、管腔に挿通されたガイドワイヤーとの摺動抵抗が低減され、先行するガイドワイヤーに沿ってカテーテルを血管内へ挿入する操作や、カテーテルからガイドワイヤーを抜去する操作をより容易かつ円滑に行うことができる。
具体的には、内層を構成する低摩擦材料としては、内層の内面の摩擦を低減できるものであればいかなるものでもよく、特に制限されない。例えば、フッ素系樹脂、ナイロン66、ポリエーテルエーテルケトン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。この中でも、フッ素系樹脂がより好ましい。フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン、パーフロロアルコキシ樹脂等が挙げられ、この中でも、ポリテトラフルオロエチレンがより好ましい。内層7の厚さとしては、特に限定されないが、例えば、細径化の観点から、5〜50μmであるのが好ましく、5〜40μmであるのがより好ましい。
また、外層の構成材料としては、特に制限されないが、通常、可撓性を有するものが用いられる。例えば、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリスチレンエラストマー、ポリエステルエラストマー、フッ素系エラストマー等の各種可撓性を有する樹脂や、シリコーンゴム、ラテックスゴム等のゴム材料、またはこれらのうちの2以上を組み合わせたものが使用可能である。外層の厚さとしては、特に限定されないが、通常、細径化の観点から、0.05〜0.15mm程度であるのが好ましく、0.06〜0.12mm程度であるのがより好ましい。このような厚さであれば、カテーテルは十分な押し込み性およびトルク伝達性を発揮できる。
補強材の構成材料は、特に制限されないが、金属部材または非金属部材のうちの、少なくとも一方で構成されたものが挙げられる。例えば、金属部材を螺旋状に形成したもの、非金属部材を螺旋状に形成したもの、金属部材と非金属部材を重ね合わせて螺旋状に形成したもの等を用いることができる。金属部材を構成する材料としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル−チタン合金、プラチナ、イリジウム、タングステン等のうちの、1種または2種以上を組合わせて用いることができる。一方、非金属部材を構成する材料としては、例えば、カーボン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のうちの、1種または2種以上を組合わせて用いることができる。補強材を、タングステン、プラチナ、イリジウムやこれらを含む合金等のX線不透過性材料で構成することが好ましい。これにより、カテーテルをX線透視下で良好に視認できる。なお、補強材は、同一の材料で構成されてもあるいは異なる材料で構成されてもよい。
補強材の横断面形状は、特に制限されず、円形、偏平形状(リボン状、帯状)など、いずれの形状であってもよい。
補強材の太さは、特に制限されない。例えば、補強材の横断面形状が円形である場合には、直径が10〜100μm程度のものが好ましく、30〜60μm程度のものがより好ましい。また、補強材の横断面形状がリボン状である場合には、補強材は、幅が0.1〜1.0mm程度で、厚さが0.04〜0.05mm程度であるものが好ましい。このような補強材を配置することにより、比較的薄い厚さで十分な補強効果が得られるため、カテーテルの細径化に有利である。
補強材の巻きのピッチとしては、特に限定されないが、例えば、50〜500μmであることが好ましく、80〜350μmであることがより好ましい。このような範囲内であれば、カテーテルは十分な柔軟(低剛性)を示し、血管(体腔)内の湾曲に沿って十分に曲がることができ、カテーテルの追従性を向上できる。
変形領域を形成する線材の構成材料は、特に制限されないが、金属部材または非金属部材のうちの、少なくとも一方で構成されたものが挙げられる。例えば、金属部材を螺旋状に形成したもの、非金属部材を螺旋状に形成したもの、金属部材と非金属部材を重ね合わせて螺旋状に形成したもの等を用いることができる。金属部材を構成する材料としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル−チタン合金、プラチナ、イリジウム、タングステン等のうちの、1種または2種以上を組合わせて用いることができる。一方、非金属部材を構成する材料としては、例えば、カーボン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のうちの、1種または2種以上を組合わせて用いることができる。線材を、タングステン、プラチナ、イリジウムやこれらを含む合金等のX線不透過性材料で構成することが好ましい。これにより、カテーテルをX線透視下で良好に視認できる。また、カテーテルの軸方向の伸縮性をより容易に制御できる。なお、線材は、補強材と同一の材料で構成されてもあるいは補強材とは異なる材料で構成されてもよい。
変形領域を形成する線材の横断面形状は、特に制限されず、円形、偏平形状(リボン状、帯状)など、いずれの形状であってもよい。なお、線材の横断面形状は、補強材と同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
変形領域を形成する線材の太さは、特に制限されない。例えば、線材の横断面形状が円形である場合には、直径が10〜100μm程度のものが好ましく、30〜60μm程度のものがより好ましい。また、線材の横断面形状がリボン状である場合には、線材は、幅が0.1〜1.0mm程度で、厚さが0.04〜0.05mm程度であるものが好ましい。このような線材を配置することにより、カテーテルの伸縮性を容易に制御でき、また、カテーテルの細径化に有利である。なお、線材の太さは、補強材と同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
なお、上記では、補強材がコイル形状の形態について詳述したが、本発明は上記形態に限定されない。例えば、補強材がメッシュ形状を有していてもよい。すなわち、本発明の別の実施形態としては、カテーテルは、メッシュ形状の補強材と、前記カテーテルの軸方向と平行にのびる線材と、を有し、線材は、カテーテルの内腔の軸心に対して変形領域と反対側に配置させる。ここで、メッシュ形状の補強材とは、複数本のワイヤやロープのような形状の補強材を編み込むことで形成された補強材の形状で、複数本の補強材を格子状に編み込むことで網形状になるように形成されている。なお、隣合う補強材間には、隙間が形成されていても、隙間が形成されていなくてもよい。カテーテルにメッシュ形状の補強材及び線材を設けることで、線材を設けた側の剛性を高めることができる。つまり、補強材がメッシュ形状の場合、補強材がコイル状の場合とは異なり、メッシュ形状の補強材を形成する補強材(例えば、図4の第1補強材と第2補強材)が部分的に重なって編組状態で形成されているため、補強材の動きが規制されている。そのため、線材の有無は、補強材の伸縮性にはあまり影響を与えないが、線材が入った側のカテーテルの物性を硬くすることには影響を与える。このため、カテーテルがメッシュ形状の補強材を有する場合には、線材を入れた側の部分が硬くなってカテーテルの湾曲しづらくなるため、線材を入れた側が外側になり、カテーテルの内腔の軸心に対して反対側に位置する線材をいれた側と反対側が内側となる。つまり、カテーテルがメッシュ形状の補強材を有する場合には、カテーテルの内腔の軸心に対して線材の反対側がカテーテルを湾曲させた際に内側になる変形領域となる。このように、メッシュ形状の補強体の際にも、線材を用いることで、容易に変形領域を作製することができる。
以下では、補強材がメッシュ形状を有するカテーテルについて説明する。
図4は、本発明の他の実施形態(第2実施形態)に係るカテーテルの全体構成例を示す平面図および部分拡大図である。図5は、図4に示すカテーテルのA−A’線での概略断面図である。以下、図4中の右側を「基端」、左側を「先端」として説明する。
本実施例のカテーテル21は、可撓性を有する管状のカテーテル本体22と、該カテーテル本体22内に配設された、補強材23および線材24とを備えている。本実施例のカテーテルでは、変形領域30は、線材24が存在しない、好ましくはカテーテルの内腔の軸心に対して線材24とは反対側に存在することが好ましい。また、カテーテル本体22の基端部には、治療薬や造影剤等を注入するための注入口としてのハブ11が形成されている。また、カテーテル本体22には、基端から先端まで延びる内腔が形成されている。カテーテル21の血管への挿入時には、管腔(内腔)内にガイドワイヤーが挿通される。また、内腔は造影剤や薬液などの流路としても用いられる。
図5に示すように、カテーテル本体22は管状部材である基材チューブ(内層)31の周囲に中層32を有する。図6に示すように、必要に応じて、中層32の周囲にさらに外層33を形成してもよい。図5及び6において、中層32に、補強材及び線材(図示せず)が形成される。また、カテーテル本体22の先端部27は、中層32を有さず、基材チューブ(内層)31のみから構成されてもよい。この場合には、先端部27は、基材チューブ(内層)31と外層33とから構成されていてもよい。
図4に示すように、カテーテル本体22の基端にはハブ11が装着されている。ハブ11は、管腔(内腔)内へのガイドワイヤーの挿入口、管腔(内腔)内への薬液等の注入口として機能し、またカテーテルを操作する際の把持部としても機能する。
中層32は、補強材23および線材24から構成され、この際、補強材23は、いずれの形状を有していてもよいが、補強効果を有するメッシュ形状を有することが好ましい。補強材23は、カテーテル本体の先端から基端にわたって軸方向全体に延在していてもよい。メッシュ形状の補強材23は、第1補強材23A及び第2補強材23Bから構成される。ここで、第1補強材23A及び第2補強材23Bは、いずれの材料(例えば、樹脂材料、金属材料)から形成されてもよい。また、上記材料は、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。また、第1補強材23A及び第2補強材23Bの編組密度もまた、特に制限されない。具体的には、図4に示されるように、第1補強材23A及び第2補強材23Bがほぼ同じ密度で編組される形態、図7Aに示されるように、第1補強材23Aが密にかつ第2補強材23Bが疎に編組される形態、および図7Bに示されるように、第1補強材23Aが疎にかつ第2補強材23Bが密に編組される形態などが挙げられる。なお、図7A及び図7Bでは、低滑部25、表面潤滑部26及び線材24を省略している。このような形態を有するカテーテルとしては、例えば、特開2001−87389号公報に記載されるメッシュ形状(編目状)の補強材を有するカテーテルが挙げられる。同様にして、上記したようなカテーテルの製造方法は、特に制限されないが、例えば、特開2001−87389号公報(特に段落「0101」〜「0119」参照)に記載される方法が同様にして適用できる。
変形領域30は、カテーテルの周方向において、相対的に縮みやすい領域である。具体的には、変形領域30は、カテーテル本体22の内腔(特に中層32)に平行でかつ軸方向に延在している線材とはカテーテルの内腔の軸心に対して反対側に形成されている。ここで、線材は、いずれの形状を有していてもよいが、補強材よりも剛性が低い材料で構成されていることが好ましい。また、補強材がメッシュ形状の場合、変形領域は、カテーテルの内腔の軸心に対して線材と反対側に構成される。すなわち、好ましい形態によると、カテーテルは、メッシュ形状の補強材と、前記カテーテルの軸方向と平行にのびる線材と、を有し、前記線材は、前記カテーテルの内腔の軸心に対して前記変形領域と反対側に配置される。これにより、以下に詳述するが、カテーテルの軸方向の剛性を制御して、カテーテルの屈曲方向を制御できる。また、線材は補強材に編込まれていることが好ましい。これにより、補強材に対して線材を編込むことで、カテーテルが湾曲した際、線材が移動して変形領域の位置が変化するのを抑制することができる。また、カテーテルの外径が大きくなるのを防止し、低侵襲かつ安全なカテーテルを提供することができる。加えて、カテーテルが湾曲部を通過することによる変形に対する、線材の補強材からのずれを有効に抑制・防止できる。さらに、カテーテルの軸方向の伸縮性およびカテーテルの屈曲方向をより有効に制御できる。詳細には、補強材がメッシュ形状を有する場合には、線材をカテーテルの軸方向に設けると、線材が存在するカテーテル側面(特に変形領域がある側面とは反対の面)と、線材が存在しないカテーテル側面(特に線材による変形領域がある側面とは反対の面)と、では、剛性に差が生じる。詳細には、補強材がメッシュ形状の場合、2つの補強線材(第1補強材及び第2補強材)が編組で構成されているため、カテーテルが変形した際、コイル形状の補強材と比較して、補強線材が移動しにくい。そのため、補強材がメッシュ形状の場合、カテーテルが湾曲した際の湾曲方向はカテーテルの剛性により決定される。このため、図8Aに示されるように、カテーテル21が血管湾曲部を通過する際には、線材24がある側面が血管湾曲部外側の血管内壁42と接触する。このようにカテーテルの軸方向に線材を設けることによって、カテーテルの軸方向の剛性を制御することにより、カテーテルの屈曲方向を制御できる。ここで、血管湾曲部外側の血管内壁42と接するカテーテルの内腔の軸心に対して変形領域の反対側に表面潤滑部が設けられることが好ましい。これにより、血管壁に対する摩擦が低いため、カテーテルをスムーズに挿入する(カテーテルの操作性を高める)ことができる。なお、図8A中、線材の配置をより明確に理解することを目的として、カテーテルのX−X’線での概略断面図を合わせて示す。当該概略断面図中、補強材3および線材4の位置関係を明確にするため、カテーテル基材(内層および外層)を白抜きで示し、補強材を斜線で示す。また、当該形態では、補強材3はメッシュ形状であるため、カテーテル断面は図8A右図のように円形とはならないが、補強材3の位置を明確に示すために円形で示している。一方、治療薬や造影剤注入などを目的としてカテーテルを末梢で固定する場合には、図8Bに示されるように、カテーテル21をわずかに引き戻して、たわみを除いて、カテーテル21を血管湾曲部内側の血管内壁43に固定する。ここで、血管湾曲部内側の血管内壁43と接するカテーテルの内腔の軸心に対して変形領域と同じ側に低滑部が設けられることが好ましい。これにより、血管壁に対する摩擦が高いため、カテーテルを所定の位置にしっかりと固定する(留置性/バックアップ性を向上させる)ことができる。なお、図8B中、線材の配置をより明確に理解することを目的として、カテーテルのY−Y’線での概略断面図を合わせて示す。当該概略断面図中、補強材3および線材4の位置関係を明確にするため、カテーテル基材(内層および外層)を白抜きで示し、補強材を斜線で示す。また、当該形態では、図8Aと同様、補強材3の位置を明確に示すために円形で示している。したがって、上記構成をとることによって、所望の位置までの導入時の操作性、および所望の位置への留置性(バックアップ性)をより有効に向上できる。すなわち、補強材がメッシュ形状を有する場合には、線材をカテーテルの内腔の軸心に対して変形領域と反対側に配置し、前記変形領域に低滑部が配置されることが好ましい。すなわち、補強材はコイル形状を有し、かつ低滑部は内腔の軸心に対して変形領域と同じ側に配置されることが好ましい。
なお、図4では、1本の線材24が、カテーテル本体22の内腔に平行でかつ軸方向に延在して存在しているが、本発明は当該形態に限定されず、複数本の線材はカテーテル本体22の内腔に平行でかつ軸方向に延在して存在していてもよい。この場合には、複数本の線材は、カテーテル本体の中心軸(軸心)に対して偏心して(即ち、一方の側に偏って)配設されればよい。この際、線材が偏って配設されている領域が変形領域となる。また、線材の配設数は、特に制限されないが、製造のしやすさ、細径化などを考慮すると、好ましくは1〜8本であり、より好ましくは1〜4本である。
カテーテル本体22の外表面の少なくとも一部は、表面潤滑部26および低滑部25で被覆されている。ここで、表面潤滑部26および低滑部25は、カテーテルの軸方向の同一位置に位置する。表面潤滑部が存在することによって、体液や血液などの水系液体中で潤滑性を発揮して、カテーテルを容易に生体管腔内に挿入できるなど、操作性を向上できる。また、表面潤滑部による被覆により、カテーテルの導入操作中の組織粘膜の損傷を低減できる。低侵襲性の観点から、表面潤滑部の摩擦係数は、好ましくは0.01〜0.3未満、より好ましくは0.03〜0.2である。ここで、本発明は、カテーテルを構成する基材(カテーテル本体)の表面の一部あるいは全部が表面潤滑性を有する形態双方を包含する。カテーテルは、全ての表面(表面全体)が潤滑性を有する必要はないが、少なくとも体液や血液と接触する表面部分(一部の場合もあれば全部の場合もある)に表面潤滑部が形成されることが好ましい。このため、表面潤滑部(及び低滑部25)は、例えば、カテーテルの基端部側には形成されなくてもよい。また、カテーテル本体の外表面に加えて、カテーテルの内腔(ルーメンの内壁)に表面潤滑部が形成されてもよい。なお、カテーテルが複数のルーメンを有する場合には、すべてのルーメン内腔に表面潤滑部が設けられてもあるいは一部のルーメン内腔に表面潤滑部が設けられてもよい。また、カテーテルの内腔(ルーメンの内壁)全面に表面潤滑部が設けられる必要はなく、一部のみに表面潤滑部が設けられてもよい。カテーテルの内腔(ルーメンの内壁)に表面潤滑部を設ける場合には、カテーテルの軸方向の同一位置に低滑部を設ける必要はない。
また、低滑部は、表面潤滑性の低い部分であり、表面潤滑部26と軸方向の同一位置にカテーテルの外表面に設置される。ここで、低滑部のバックアップ性(留置性)を考慮すると、低滑部の摩擦係数は、好ましくは0.3〜4、より好ましくは0.5〜3である。これにより、良好な操作性は確保しつつ、生体管腔(例えば、血管)内の所定の位置にカテーテルを留置した際に高いバックアップ性を発揮して、カテーテルを所定の位置にしっかりと保持することができる。
表面潤滑部及び低滑部の設置長さは、所望の操作性及びバックアップ性を達成できる限り、特に制限されない。表面潤滑部及び低滑部の設置長さは、100〜1000mmであることが好ましく、300〜900mmであることがより好ましい。このような設置長さであれば、挿入時の良好な操作性は確保しつつ、生体管腔内に留置された際に低滑部がより効率よくかつより確実に生体管腔壁と接触するため、より高いバックアップ性が達成できる。
表面潤滑部および低滑部は、カテーテルの軸方向の同一位置にカテーテルの外表面に形成される。ここで、「カテーテルの軸方向の同一位置」とは、カテーテルのある位置での断面において、表面潤滑部および低滑部双方が形成されることを意味する。カテーテルの外表面への表面潤滑部および低滑部の形成位置は、カテーテルの軸方向の同一位置であれば特に制限されず、カテーテルの形状、導入位置、留置位置などによって異なる。なお、図4では、線材を中心としたカテーテルの外表面の半分と変形領域とし、その変形領域に低滑部25が形成され、カテーテルの外表面の残り半分に表面潤滑部26が形成されているが、上記形態に限定されない。具体的には、1本の線材24がカテーテル本体22の内腔に平行でかつ軸方向に延在する場合には、低滑部25は、線材24の中心とカテーテルの軸心28とを結ぶ線の延長線(図9中の線「L」)と、低滑部25の周方向における端部とを結ぶ線がなす角度(図9中の「θ」)が、好ましくは±5〜±90°、より好ましくは±15〜±90°となるように形成される。また、複数本の線材24がカテーテル本体22の内腔に平行でかつ中心軸(軸心)に対して偏心して軸方向に延在する場合には、低滑部25は、最も離れた2本の線材間の中点とカテーテルの軸心28とを結ぶ線の延長線と、低滑部5の周方向における端部とを結ぶ線がなす角度が、好ましくは±5〜±90°、より好ましくは±15〜±90°となるように形成される。このような状態で低滑部が形成されると、バックアップ性(留置性)をより向上できる。また、表面潤滑部26は、線材24の中心とカテーテルの軸心28とを結ぶ線と、表面潤滑部26の周方向における端部とカテーテルの軸心28とを結ぶ線がなす角度(図9中の「θ’」)が、好ましくは±5〜±90°、より好ましくは±15〜±90°となるように形成される。なお、当該場合も、線材24が複数本存在する場合には、上記角度は、最も離れた2本の線材間の中点とカテーテルの軸心28とを結ぶ線の延長線と、表面潤滑部の周方向における端部とカテーテルの軸心とを結ぶ線がなす角度となる。このような状態で低滑部が形成されると、操作性をより向上できる。したがって、このような部位に低滑部及び表面潤滑部が存在することによって、カテーテルを湾曲部に対してもよりスムーズに挿入でき、かつ生体管腔(例えば、血管)内の所定の位置にカテーテルをよりしっかりと保持することができる。また、上記θおよびθ’は、同じ大きさであってもよいし、異なる大きさであってもよい。
カテーテル本体22は、可撓性を有する管状の部材から構成されており、その基端から先端にかけて内部に管腔(内腔)27が形成されている。管腔27は、ガイドワイヤー用内腔として機能するものであり、カテーテル21の血管への挿入時には、管腔27内にガイドワイヤー(図示せず)が挿通される。また、管腔27は、薬液や塞栓物質、造影剤等の通路として用いることもできる。
ハブ11は、管腔27内への前記ガイドワイヤーの挿入口、管腔27内への薬液や塞栓物質、造影剤等の注入口等として機能し、また、カテーテル21を操作する際の把持部としても機能する。
また、カテーテル先端部は、カテーテル本体から延伸された部分であり、従来公知の種々の構造を採用することができる。例えば、先端部は、ループ状に湾曲した形状でもよいし、略直線状であってもよく、また、先端部には、洗浄、吸引、照明、撮像等の機能を付与するための部材が取り付けられていてもよい。
カテーテル本体を構成する材料(基材チューブ(内層)31及び外層33)の構成材料としては、特に制限されないが、通常、可撓性を有する材料である。具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリアミド(例えば、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン系樹脂、パーフルオロアルコキシフッ素(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)、ポリイミド等の樹脂や、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリスチレンエラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーンゴム、ラテックスゴム等の各種エラストマー、またはこれらのうちの2以上を組み合わせたものを用いることができる。ここで、ポリアミドエラストマーとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン64、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、N−アルコキシメチル変性ナイロン、ヘキサメチレンジアミン−イソフタル酸縮重合体、メタキシロイルジアミン−アジピン酸縮重合体のような各種脂肪族または芳香族ポリアミドをハードセグメントとし、ポリエステル、ポリエーテル等のポリマーをソフトセグメントとするブロック共重合体が代表的である。また、ポリアミドと柔軟性の富む樹脂とのポリマーアロイ(ポリマーブレンド)、グラフトコポリマーもしくはランダムコポリマー、ポリアミドを可塑剤等で軟質化したもの、またはこれらの混合物を用いることもできる。また、ポリエステルエラストマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の飽和ポリエステルと、ポリエーテルまたはポリエステルとのブロック共重合体が代表的である。また、これらのポリマーアロイや、飽和ポリエステルを可塑剤等で軟質化したもの、またはこれらの混合物を用いることもできる。
これらのうち、内層及び外層の構成材料として、ABS樹脂やポリエーテル系ポリアミド樹脂を使用することにより、適度な強度を付与することができるため、好ましい。また、内層にはフッ素系樹脂、好ましくはPTFEを使用することにより、ルーメンに挿入されるガイドワイヤーや治療用カテーテルの操作性が向上できる。なお、カテーテルの挿入は、X線透視下で、その位置を確認しつつ行うため、カテーテル本体を構成する材料に、例えば、硫酸バリウム、酸化ビスマス、タングステンのようなX線不透過材料を配合しておくことが好ましい。これにより、カテーテルの挿入状態や位置などをX線透視下で容易に確認できる。また、先端部が基材チューブ(内層)と外層とから構成される場合には、内層及び外層はそれぞれ適当な接着剤により接着される、または熱により融着される、または被覆成形等により一体成形されうる。外層はさらに異なる樹脂を積層した多層構造であってもよい。
または、カテーテル本体内面に低摩擦材料を用いて低摩擦層を形成しても、あるいは内層が低摩擦材料で形成されてもよい。低摩擦材料は、管腔の内面の摩擦を低減できればいかなる材料からなるものでもよい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシ樹脂、ポリエチレン、ポリイミド等で構成されたものが挙げられる。この際、内層は、例えば、浸漬塗布法により形成することができる。この際、低摩擦層のカテーテル本体長手方向に対する設置位置は、特に限定されないが、カテーテル本体のほぼ全長にわたって設置するのが好ましい。または、カテーテル本体(基材チューブ)を低摩擦層に用いられる材料で構成していてもよい。このように低摩擦層を設けることにより、管腔に挿通されたガイドワイヤーとの摺動抵抗が低減され、先行するガイドワイヤーに沿ってカテーテルを血管内へ挿入する操作、およびカテーテルからガイドワイヤーを抜去する操作をより容易かつ円滑に行うことができる。
カテーテルの外面に補強層を設置してもよい。この補強層は、いずれの材料で構成されてもよいが、例えば、鋼線、ステンレスワイヤー等の金属線または金属リボンの編組体で構成されうる。また、補強層として、金属などの硬質材料からなるコイルまたはスリット入りチューブを用いることもできる。補強層は、カテーテルの内面に設けてもよいし、カテーテルの内部に埋設してもよい。ここで、補強層のカテーテル本体長手方向での設置位置は任意である。例えば、補強層をカテーテル本体の全長にわたって設置しても、または補強層をカテーテル本体の先端部を除く箇所に配置しても、または補強層をカテーテル本体の一部に配置してもよい。このように補強層の設置位置は、カテーテルの用途、求められる特性などに応じて適宜変更できる。
補強材(第1補強材、第2補強材)の構成材料は、特に制限されず、樹脂材料や金属材料が使用できる。ここで、金属材料としては、以下に制限されないが、ステンレス鋼、ニッケル−チタン合金、プラチナ、イリジウム、タングステン等が挙げられる。また、樹脂材料としては、以下に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、熱可塑性ポリウレタン、ポリカーボネート、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアセタール(PA)、ポリアリレート、ポリオキシメチレン(POM)、高張力ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−酢酸ビニルケン化物(EVOH)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド等の各種熱可塑性樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー等の各種熱可塑性エラストマー、これらのうちのいずれかを含むポリマーアロイ、あるいはこれらのうちの2以上を組み合わせたものが挙げられる。後者の場合、補強材(第1補強材、第2補強材)は、両者の樹脂材料として互いに相溶性のあるものを選択することが好ましい。互いに相溶性のある樹脂材料の組み合わせとしては、例えば、ポリウレタンとポリアミド、ポリアミドとポリアミドエラストマー、ポリエチレンまたはポリプロピレンとポリオレフィンエラストマー、ポリエチレンテレフタレートとポリエステルエラストマー、ポリウレタンとポリエステルエラストマー、高可塑化ポリ塩化ビニルと低可塑化ポリ塩化ビニル等が挙げられる。なお、第1補強材、第2補強材は、同じ材料で構成されてもあるいは異なる材料で構成されてもよい。
補強材(第1補強材、第2補強材)は、単繊維でもよいし、単繊維を縒った繊維の集合体でもよい。
補強材(第1補強材、第2補強材)の横断面形状は、特に制限されず、円形、偏平形状(リボン状、帯状)など、いずれの形状であってもよい。なお、第1補強材、第2補強材の横断面形状は、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
補強材(第1補強材、第2補強材)の太さは、特に制限されない。例えば、補強材の横断面形状が円形である場合には、直径が0.01〜0.5mm程度のものが好ましく、0.03〜0.3mm程度のものがより好ましい。補強材の横断面形状がリボン状である場合には、幅が0.03〜5mm、厚さ0.03〜0.2mm程度であるものが好ましい。このような補強材を配置することにより、比較的薄い厚さで十分な補強効果が得られるため、カテーテルの細径化に有利である。なお、補強材および剛性部の太さは、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。また、補強材(第1補強材、第2補強材)の径または幅は、カテーテル本体全長にわたって一定でなくてもよく、連続的ないし断続的に変化させてもよい。例えば、カテーテル本体2の基端側から先端側に向かうにつれて、一方の補強材(第1補強材または第2補強材)の径または幅を小さくし、かつ他方の補強材(第2補強材または第1補強材)の径または幅を大きくして、両者の密度をさらに変化させるようにしてもよい。
線材の構成材料は、特に制限されないが、金属部材または非金属部材のうちの、少なくとも一方で構成されたものが挙げられる。例えば、金属部材を螺旋状に形成したもの、非金属部材を螺旋状に形成したもの、金属部材と非金属部材を重ね合わせて螺旋状に形成したもの等を用いることができる。金属部材を構成する材料としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル−チタン合金、プラチナ、イリジウム、タングステン等のうちの、1種または2種以上を組合わせて用いることができる。一方、非金属部材を構成する材料としては、例えば、カーボン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のうちの、1種または2種以上を組合わせて用いることができる。補強材および線材を、タングステン、プラチナ、イリジウムやこれらを含む合金等のX線不透過性材料で構成することが好ましい。これにより、カテーテルをX線透視下で良好に視認できる。また、カテーテルの軸方向の伸縮性をより容易に制御できる。なお、線材は、補強材と同一の材料で構成されてもあるいは補強材とは異なる材料で構成されてもよい。
線材の横断面形状は、特に制限されず、円形、偏平形状(リボン状、帯状)など、いずれの形状であってもよい。なお、線材の横断面形状は、補強材と同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
線材の太さは、特に制限されない。例えば、線材の横断面形状が円形である場合には、直径が10〜100μm程度のものが好ましく、30〜60μm程度のものがより好ましい。また、線材の横断面形状がリボン状である場合には、線材は、幅が0.1〜1.0mm程度で、厚さが0.04〜0.05mm程度であるものが好ましい。このような線材を配置することにより、カテーテルの伸縮性を容易に制御でき、また、カテーテルの細径化に有利である。なお、線材の太さは、補強材と同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
上述したように、カテーテル本体の少なくとも一部の外表面は表面潤滑部及び低滑部で軸方向の同一位置で被覆される。ここで、表面潤滑部の厚さは、十分な潤滑性が得られれば特に制限されないが、表面潤滑部のカテーテル基材に強固に固定化され、かつ使用時の優れた表面潤滑性、および耐久性(潤滑維持性)を発揮することができるだけの厚さを有することが好ましい。このような観点から、表面潤滑部の厚さ(未膨潤時の表面潤滑部の厚さ)は、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは0.5〜10μm、さらに好ましくは1〜5μmの範囲とするのが望ましい。このような厚みであれば、均一な被膜を容易に形成でき、表面の潤滑性、および保水性(潤滑維持性)を十分発揮できる。
表面潤滑部を構成する材料は、吸水して潤滑性を示すものであればどのようなものであってもよい。例えば、親水性材料などが挙げられる。以下に具体例を示す。
表面潤滑部を構成する親水性材料は、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド系高分子物質、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系高分子物質、ポリアクリルアミドおよびポリジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド系高分子物質、ヒアルロン酸、ポリアクリル酸、無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体等の無水マレイン酸系高分子物質、水溶性ナイロン(登録商標)、およびそれらの誘導体といった親水性高分子が挙げられる。これらの親水性高分子であれば、湿潤時に吸水して潤滑性を発現することができる。これら親水性高分子をカテーテル(カテーテル基材)に強固に固定化するためには、適量の架橋剤を添加するか、表面潤滑部を形成する親水性高分子に反応性官能基を導入するなどにより、親水性高分子を架橋させることが好ましい。
親水性高分子に反応性官能基を導入する方法としては、反応性官能基を有する単量体(以下、「反応性単量体」とも称する。)と、親水性単量体とを共重合させる方法が挙げられる。ここで、反応性単量体とは、架橋反応等が可能な反応性官能基を有する単量体を意味する。本明細書中、「反応性官能基」とは、加熱処理、光照射、電子線照射、放射線照射、プラズマ照射などにより、他の単量体と架橋反応しうるまたはカテーテル基材と反応(結合)しうる官能基を指す。
反応性官能基は、特に制限されないが、エポキシ基、酸ハライド基、アルデヒド基、イソシアネート基、酸無水物基;などの官能基でありうる。これらのうち、反応性官能基を有する単量体(反応性単量体)としては、取り扱いの容易性、架橋反応の効率等の観点から、エポキシ基、イソシアネート基、アルデヒド基を有する単量体が好ましく、エポキシ基を有する単量体が特に好ましい。これら反応性官能基は、反応性単量体の中に単独で存在してもよいし、また、複数存在してもよい。
本発明で用いられる反応性単量体は、反応性官能基を有し、かつ体液や水系溶媒中において、少なくとも共重合体の製造時に使用される親水性単量体よりも疎水性を発現することが好ましい。このような反応性単量体としては、具体的には、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート(GMA)、メチルグリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基を分子内に有する単量体;(メタ)アクリル酸クロリド、(メタ)アクリル酸ブロミド、(メタ)アクリル酸アイオダイドなどの酸ハライド基を分子内に有する単量体;(メタ)アクリルアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、メタクロレインなどのアルデヒド基を分子内に有する単量体;(メタ)アクリロイルオキシメチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネートなどのイソシアネート基を分子内に有する単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の酸無水物基を分子内に有する単量体;などを例示できる。これらのうち、反応性官能基を有する単量体としては、エポキシ基を有する単量体が好ましく、反応が熱等により促進され、取り扱いも比較的容易であるグリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレートがより好ましい。これら反応性単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
また、親水性単量体としては、特に制限されないが、たとえば、アクリルアミドやその誘導体、ビニルピロリドン、アクリル酸やメタクリル酸およびそれらの誘導体、ポリエチレングリコールアクリレートおよびその誘導体、糖やリン脂質を側鎖に有する単量体、無水マレイン酸などの水溶性の単量体などを例示できる。より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、N−メチルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N,N’−ジメチルアミノエチルアクリレート、ビニルピロリドン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシエチル−D−グリコシド、2−メタクリロイルオキシエチル−D−マンノシド、ビニルメチルエーテル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート、およびポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートが挙げられる。合成の容易性や操作性の観点から、好ましくは、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、アクリル酸、メタアクリル酸、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ビニルピロリドンであり、より好ましくはN,N’−ジメチルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアミノエチルアクリレートであり、特に好ましくはN,N’−ジメチルアクリルアミドである。これら親水性単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
良好な潤滑性を発現するためには、親水性高分子が、反応性単量体と親水性単量体との共重合体であることが好ましく、反応性官能基を有する単量体から形成されるブロックと、親水性単量体から形成されるブロックとを有するブロック共重合体(反応性単量体と親水性単量体とのブロック共重合体)であることがより好ましい。こうしたブロック共重合体であると、表面潤滑部の強度や潤滑性において良好な結果が得られる。
また、本発明のより好ましい実施形態では、親水性高分子が、エポキシ基を有する単量体を少なくとも一つの構成単位とした反応性ドメインと、親水性単量体を少なくとも一つの構成単位とした親水性ドメインと、を有するブロック共重合体である。反応性官能基であるエポキシ基が、カテーテル基材との反応に加えて、隣接するエポキシ基と反応することで、隣接する親水性高分子が架橋構造を形成させ、表面潤滑部の強度を高めることができる。
親水性高分子における親水性単量体と反応性単量体の比率は、特に制限されない。良好な潤滑性、被膜の強度、カテーテル基材との強固な結合性などを考慮すると、親水性単量体と反応性単量体とのモル比は、好ましくは1:1〜100:1、より好ましくは5:1〜80:1、さらにより好ましくは10:1〜50:1である。かような比率であれば、親水性高分子の親水性部位と反応性部位の比率を良好な範囲にすることができる。このような範囲であれば、表面潤滑部は、親水性部位により、高い潤滑性を十分発揮でき、また、反応性部位により、高い耐久性(潤滑維持性)、被膜強度を発揮できる。
親水性高分子を重合させる親水性高分子の製造法(重合法)については、特に制限されるものではなく、公知の重合方法が使用できるが、一般的には、重合開始剤を用いて単量体を重合させればよい。また、本発明の親水性高分子がブロック共重合体またはグラフト共重合体である場合には、たとえば、リビング重合、マクロモノマーを用いた重合、高分子重合開始剤を用いた重合、重縮合などが例示できるが、特に限定されない。
本発明の親水性高分子(表面潤滑部)としては、無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体、グリシジルメタクリレート−ジメチルアクリルアミド共重合体が好ましく、グリシジルメタクリレート−ジメチルアクリルアミド共重合体(特にブロック共重合体)がより好ましい。
上記親水性材料は、湿潤(吸水)により潤滑性を発揮し、カテーテルと生体管腔内壁との摩擦抵抗を低減する。これら親水性材料はディップコート、スプレーコート、表面グラフト重合等、従来公知の技術により被覆され、表面潤滑部として固定される。
[カテーテルの製造方法]
本発明のカテーテルの製造方法は特に制限されず、公知の方法を同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。例えば、カテーテル外周(外表面)を親水性材料からなる表面潤滑層で被覆した後、カテーテルが湾曲した際に内側になるように構成された変形領域に選択的にエネルギー線を照射することにより、潤滑性が低下した低滑部を形成できる。このような低滑部の存在により、生体管腔壁と接触する際の摩擦係数が増加する(潤滑性が低下する)。このため、良好なバックアップ性を確保し、操作性及び留置性の高いカテーテルを提供することができる。
すなわち、本発明のカテーテルの製造方法の好ましい実施形態によると、(i)カテーテル表面に表面潤滑部を形成した後、(ii)得られた表面潤滑部の少なくとも一部にエネルギー線を照射して、低滑部を形成する。以下、本発明のカテーテルの好ましい製造方法(表面潤滑部および低滑部の形成方法)を説明するが、本発明は下記方法に限定されるものではない。
(工程(i))
本工程では、カテーテル表面に表面潤滑部を形成する。
ここで、表面潤滑部及び低滑部を形成する前のカテーテルは、いずれの方法によって製造されてもよく、公知の製造方法が公知の方法を同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。例えば、カテーテルは、コイル状の補強材と、線材とを有する場合には、内層の材料をポリテトラフルオロエチレンを用いて、芯材上に押し出し成型することによって、内層チューブを作製する。次に、この内層チューブの外表面に、外層の材料をポリエステルとして、適当なサイズ(例えば、幅15μm、厚さ15μm)のステンレス(材料)で構成された線材を長軸方向に編みこみながら、適当なサイズ(例えば、幅40μm、厚さ15μm)のタングステン線(補強材)を巻き付け、中間構造体を得た。この後、中間構造体に、外層の材料ポリエステルで作製した外層チューブを被せて、内層チューブと外層チューブとを結合した。これにより、貫通したルーメンを有するカテーテル本体(例えば、外径0.90mm、内径0.50mmの)が得られる。
次に、上記のようにして製造されたカテーテル表面に表面潤滑部を形成する。ここで、表面潤滑部を構成する材料は、上述の通りである。また、本工程(i)は、上記親水性材料を使用する以外は特に制限されず、公知の方法と同様にしてあるいはこれを適宜修飾して適用できる。
具体的には、上記親水性高分子(特に、ブロック共重合体が好ましい)を溶媒に溶解させて塗布液(潤滑コート剤、コート液)を調製し、当該塗布液をカテーテル基材上にコートして塗布層を形成した後、当該塗布層を加熱処理して、親水性高分子(ブロック共重合体)を架橋反応させることにより、表面潤滑部を形成する方法が挙げられる。すなわち、表面潤滑部の形成方法は、少なくとも、潤滑コート剤をカテーテル基材上にコートする潤滑コート剤被覆工程と、潤滑コート剤により形成された塗布層に加熱処理を施す加熱工程とを含むことが好ましい。このような方法により、カテーテル表面に良好な潤滑性、耐久性を付与することができる。
上記方法において、本発明に係る親水性高分子を溶解するのに使用される溶媒としては、親水性高分子を溶解できるものであれば特に制限されない。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等のハロゲン化物、ヘキサン等のオレフィン類、テトラヒドロフラン、ブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類などを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
コート液中の親水性高分子の濃度は、特に限定されない。塗布性、所望の効果(潤滑性および耐久性)が得られるなどの観点からは、コート液中の親水性高分子の濃度は、0.01〜20重量%、より好ましくは0.05〜15重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%である。親水性高分子の濃度が上記範囲であれば、得られる表面潤滑部の潤滑性、耐久性が十分発揮されうる。また、1回のコーティングで所望の厚みの均一な表面潤滑部を容易に得ることができ、操作性(例えば、コーティングのしやすさ)、生産効率の点で好ましい。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
カテーテル基材表面にコート液を塗布する方法としては、特に制限されるものではなく、塗布・印刷法、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。これらのうち、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)を用いるのが好ましい。なお、カテーテルの細く狭い内面にも表面潤滑部を形成させる場合には、コート液中にカテーテル(カテーテル基材)を浸漬して、系内を減圧にして脱泡させてもよい。減圧にして脱泡させることにより、細く狭い内面に素早く溶液を浸透させ、表面潤滑部の形成を促進できる。
また、カテーテルの一部にのみ表面潤滑部を形成させる場合には、カテーテル(カテーテル基材)の一部のみをコート液中に浸漬して、コート液をカテーテル(カテーテル基材)の一部にコーティングすることで、カテーテル(カテーテル基材)の所望の表面部位に、表面潤滑部を形成することができる。
カテーテルの一部のみをコート液中に浸漬するのが困難な場合には、予め表面潤滑部を形成する必要のないカテーテルの表面部分を着脱(装脱着)可能な適当な部材や材料で保護(被覆等)した上で、カテーテルをコート液中に浸漬して、コート液をカテーテルにコーティングした後、表面潤滑部を形成する必要のないカテーテルの表面部分の保護部材(材料)を取り外し、その後、加熱処理等により反応させることで、カテーテルの所望の表面部位に表面潤滑部を形成することができる。ただし、本発明では、これらの形成法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用して、表面潤滑部を形成することができる。例えば、カテーテルの一部のみを混合溶液中に浸漬するのが困難な場合には、浸漬法に代えて、他のコーティング手法(例えば、医療デバイスの所定の表面部分に、コート液を、スプレー装置、バーコーター、ダイコーター、リバースコーター、コンマコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ドクターナイフなどの塗布装置を用いて、塗布する方法など)を適用してもよい。なお、カテーテルの外表面及び内表面双方に表面潤滑部を形成する必要があるような場合には、一度に外表面と内表面の双方をコーティングすることができる点で、浸漬法(ディッピング法)が好ましく使用される。
このように親水性高分子を含むコート液中にカテーテルを浸漬した後は、コート液からカテーテルを取り出して、加熱処理を行う。ここで、コート液の加熱処理条件(温度、時間等)は、カテーテル上に親水性高分子を含む表面潤滑部が形成できる条件であれば、特に制限されない。具体的には、加熱温度は、好ましくは60〜200℃、より好ましくは80〜160℃であり、更に好ましくは80℃を超えて150℃以下であり、特に好ましくは90〜140℃である。また、加熱時間は、好ましくは15分〜24時間、より好ましくは1〜10時間である。このような条件とすることにより、親水性高分子の反応性官能基による架橋反応が起こり、カテーテルから容易に剥離することのない、強固な表面潤滑部を形成することができる。
なお、親水性高分子中に含まれる反応性官能基をエポキシ基とした場合、エポキシ基は加熱することで自己架橋しうるが、架橋反応を促進するためにエポキシ反応触媒や、エポキシ基と反応しうる多官能架橋剤をコート溶液に含ませてもよい。
また、加熱処理時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。
加熱処理手段(装置)としては、たとえば、オーブン、減圧乾燥機などを利用することができる。
上記方法により、基材表面に親水性高分子の被膜(塗布層)を形成した後、反応性官能基を架橋させることで基材から容易に剥離することのない、強固な第一の表面潤滑部を形成することができる。このため、本発明による医療デバイスは、優れた潤滑性、耐久性を発揮できる。
(工程(ii))
本工程では、上記工程(i)で形成した表面潤滑部の少なくとも一部にエネルギー線を照射して、低滑部を形成する。表面潤滑部にエネルギー線を照射することによって、照射部位の潤滑性が低下する。ここで、エネルギー線照射により照射部位の潤滑性が低下するメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。なお、本発明は、下記メカニズムに限定されない。すなわち、親水性高分子が反応性単量体と親水性単量体との共重合体の場合には、親水性部位が体液や水系溶媒中において潤滑性を発現するように作用する。一方、当該共重合体にエネルギー線を照射すると、親水性部位で活性点が生成し、当該活性点が起点となって架橋反応が起こり、表面潤滑部の架橋密度が増加する(表面潤滑部の膨潤度が低下する)。このため、表面潤滑部中の親水性部位が減少して、低滑部が形成される。
エネルギー線を照射する工程は、カテーテル表面に対するエネルギー線の照射量が均一になるような態様であれば特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。また、潤滑性(摩擦係数)を連続して徐々に変化させたいときには、エネルギー線の照射量を徐々に変化させることよって、潤滑性(摩擦係数)を制御してもよいが、操作性(線源の制御の容易性)、バックアップ性の確保などの観点から、均一にエネルギー線を照射することが好ましい。
また、エネルギー線の照射効率の向上と均一な照射を達成する観点から、線源によって発生させたエネルギー線は、発生源からのエネルギー線を反射板で反射させてから第一の表面潤滑部に照射してもよい。エネルギー線照射は、バッチ処理にも連続処理にも適用可能である。
上記エネルギー線は、表面潤滑部の表面を改質し、表面潤滑部における潤滑性を低下させる(摩擦係数を増加させる)ことができるものであれば、いかなるものであってもよいが、具体的には、紫外線、γ線、電子線等を例示できる。これらの中でも、照射量および照射範囲の制御が容易であるという観点から、紫外線であると好ましい。エネルギー線として紫外線を用いると、紫外線が照射された領域は、紫外線が照射されていない領域に比べて、摩擦係数を3〜50倍程度上昇できる。
したがって、以下、エネルギー線として紫外線を用いる場合の照射条件について詳説する。
本明細書において、「紫外線」とは、一般には、10〜400nmの波長を有する電磁波をいう。紫外線の線源としては、特に制限されないが、低圧水銀灯(波長:254nm)、高圧水銀灯(波長:365nm)、重水素ランプ(波長:185〜400nm)、キセノンエキシマランプ(波長:172nm)、メタルハライドランプ(波長:200〜450nm)等が用いられうる。また、蛍光灯、黄色灯等であってもよい。これらのうち、低圧水銀灯、高圧水銀灯等の水銀灯を用いることが好ましい。
ここで、エネルギー線の照射条件は、特に制限されないが、上記したような摩擦係数を有する低滑部が形成できる条件であることが好ましい。低滑部の摩擦係数(表面潤滑性の低下度合い)は使用するエネルギー線の種類、波長、照射時間等を制御することによって、適切に制御できる。
紫外線の照度は、特に制限されないが、1〜1,000mW/cm2であることが好ましい。また、照射エネルギーは、特に制限されないが、100〜20,000mJ/cm 2であることが好ましい。かような範囲とすることにより、上記したような摩擦係数を有する低滑部を形成することができる。
紫外線の照射時間は、表面潤滑層を形成する親水性材料の種類によって適宜選択され、特に制限されないが、通常1秒〜30分間であることが好ましく、10秒〜20分間であることがより好ましく、1〜15分間であることがさらにより好ましく、3〜10分間であることが特に好ましい。
また、紫外線の照射雰囲気は、空気雰囲気中であってもあるいは不活性ガス雰囲気中であってもよい。
上記したような照射条件によって、同一材料からなる表面潤滑層中に潤滑性の高い領域と潤滑性の低い領域を形成することができる。
エネルギー線照射は、細く絞ったエネルギー線をデバイスに照射することによって、表面潤滑部の所定の位置に選択的に行うことができる。または、カテーテルまたはエネルギー線を逐次移動させることで表面潤滑層の一部のみにエネルギー線を照射することも可能である。または、カテーテルに対して、広範囲にエネルギー線を照射してもよい。このような場合には、表面潤滑部の一部にはエネルギー線が照射され、他の部分にはエネルギー線が照射されないように、表面潤滑部を別の部材(材料)で保護(被覆)するとよい。具体的には、低滑部を形成したい所望の部分以外の部分をマスクで被覆して、カテーテルにエネルギー線を照射する。
このようにして、所望の位置に低滑部を設けたカテーテルを容易に製造できる。また、得られたカテーテルは、所定の生体管腔(例えば、血管)内の位置に留置される際には、低滑部が生体管腔壁と接触して、カテーテルの低滑部と生体管腔壁との摩擦力(即ち、高いバックアップ性)によって、そのままの位置にしっかりと保持できる。一方、カテーテルを生体管腔内に挿入する場合には、低滑部以外の外表面を被覆する表面潤滑部の存在により、スムーズに所望の位置にまでカテーテルを導入できる。したがって、本発明のカテーテルを使用することによって、所望の位置までの導入時の操作性は良好に保ちつつ、所望の位置への留置性を向上できる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
実施例1
ポリアミドエラストマー(EMS社製グリルアミドELG5660、ショア硬度D62、ハードセグメント:ナイロン12、ソフトセグメント:ポリテトラメチレングリコール、エラストマー中におけるソフトセグメント含有量:27wt%;なお、該エラストマーの両末端は封止されていない)をプレス成型して、厚さ1mmのシートを得た。
別途、親水性単量体としてN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)を、反応性単量体としてグリシジルメタクリレート(GMA)を有するブロックコポリマー(DMAA:GMA(モル比)=12:1)を5重量%の割合で溶解したDMF溶液(1)を調製した。同様にして、親水性単量体としてN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)を、反応性単量体としてグリシジルメタクリレート(GMA)を有するブロックコポリマー(DMAA:GMA(モル比)=38:1)を5重量%の割合で溶解したDMF溶液(2)を調製した。
作製したシートを1.5cm×5cmに切断し、それぞれ、上記で調製したDMF溶液(1)及び(2)中に浸漬した後、130℃で3時間加熱処理して、表面に厚さ(未膨潤時の厚さ)が3μmの表面潤滑層を形成したシート(1)及び(2)を作製した。
次に、このシート(1)及び(2)の表面潤滑層に対して、センエンジニアリング製紫外線照射装置PL16−110を用いて紫外線(波長:254nm、照度:16mW/cm2)を、所定時間照射した。
このようにして得られたシートをサンプルとして用い、上述した摩擦係数の測定方法に則って摩擦係数を評価した。紫外線照射時間と、得られたサンプルの摩擦係数との関係を図11に示す。図11の結果から、いずれのコート剤においても紫外線照射時間に応じて表面潤滑層の潤滑性が低下し、表面の潤滑性を任意に制御することが可能であると言える。
さらに、本出願は、2013年9月30日に出願された日本特許出願番号2013−205366号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。