図1はこの発明にかかる剥離装置の一実施形態を示す斜視図である。各図における方向を統一的に示すために、図1右下に示すようにXYZ直交座標軸を設定する。ここでXY平面が水平面、Z軸が鉛直軸を表す。より詳しくは、(+Z)方向が鉛直上向き方向を表している。
この剥離装置1は、主面同士が互いに密着した状態で搬入される2枚の板状体を剥離させるための装置である。例えばガラス基板や半導体基板等の基板の表面に所定のパターンを形成するパターン形成プロセスの一部において用いられる。より具体的には、このパターン形成プロセスでは、被転写体である基板に転写すべきパターンを一時的に担持する担持体としてのブランケット表面にパターン形成材料を均一に塗布し(塗布工程)、パターン形状に応じて表面加工された版をブランケット上の塗布層に押し当てることによって塗布層をパターニングし(パターニング工程)、こうしてパターンが形成されたブランケットを基板に密着させることで(転写工程)、パターンをブランケットから基板に最終転写する。
このとき、パターニング工程において密着された版とブランケットとの間、または転写工程において密着された基板とブランケットとの間を離間させる目的のために、本装置を好適に適用することが可能である。もちろんこれらの両方に用いられてもよく、これ以外の用途で用いられても構わない。例えば担持体に担持された薄膜を基板に転写する際の剥離プロセスにも適用することができる。
この剥離装置1は、筺体に取り付けられたメインフレーム11の上にステージブロック3および上部吸着ブロック5がそれぞれ固定された構造を有している。図1では装置の内部構造を示すために筐体の図示を省略している。また、これらの各ブロックの他に、この剥離装置1は後述する制御ユニット70(図4)を備えている。
ステージブロック3は、版または基板とブランケットとが密着されてなる密着体(以下、「ワーク」という)を載置するためのステージ30を有しており、ステージ30は、上面が略水平の平面となった水平ステージ部31と、上面が水平面に対して数度(例えば2度程度)の傾きを有する平面となったテーパーステージ部32とを備えている。ステージ30のテーパーステージ部32側、すなわち(−Y)側の端部近傍には初期剥離ユニット33が設けられている。また、水平ステージ部31を跨ぐようにローラユニット34が設けられる。
一方、上部吸着ブロック5は、メインフレーム11から立設されるとともにステージブロック3の上部を覆うように設けられた支持フレーム50と、該支持フレーム50に取り付けられたN組(Nは自然数)の吸着ユニット51,52,53,…,5Nとを備えている。これらの吸着ユニット51〜5Nは(+Y)方向に順番に並べられている。以下、各吸着ユニットを区別する必要がある場合には、(+Y)方向に数えて第i番目(iは自然数)の吸着ユニット5iを「第i吸着ユニット」と称することとする。
図2はこの剥離装置の主要構成を示す斜視図である。より具体的には、図2は、剥離装置1の各構成のうちステージ30、ローラユニット34および第i吸着ユニット5iの構造を示している。ステージ30は、上面310が略水平面となった水平ステージ部31と上面320がテーパー面となったテーパーステージ部32とを備えている。水平ステージ部31の上面310は載置されるワークの平面サイズより少し大きい平面サイズを有している。
テーパーステージ部32は水平ステージ部31の(−Y)側端部に密着して設けられており、その上面320は、水平ステージ部31と接する部分では水平ステージ部31の上面310と同じ高さ(Z方向位置)に位置する一方、水平ステージ部31から(−Y)方向に離れるにつれて下方、つまり(−Z)方向へ後退している。したがって、ステージ30全体では、水平ステージ部31の上面310の水平面とテーパーステージ部32の上面320のテーパー面とが連続しており、それらが接続する稜線部EはX方向に延びる直線状となっている。
また、水平ステージ部31の上面310には格子状の溝が刻設されている。より具体的には、水平ステージ部31の上面310の中央部に格子状の溝311が設けられるとともに、該溝311が形成された領域を取り囲むように、矩形のうちテーパーステージ部32側の1辺を除いた概略コの字型となるように、溝312が水平ステージ部31の上面310周縁部に設けられている。これらの溝311,312は制御バルブを介して後述する負圧供給部704(図4)に接続されており、負圧が供給されることで、ステージ30に載置されるワークを吸着保持する吸着溝としての機能を有する。2種類の溝311,312はステージ上では繋がっておらず、また互いに独立した制御バルブを介して負圧供給部704に接続されているので、両方の溝を使用した吸着の他に、一方の溝のみ使用した吸着も可能となっている。
このように構成されたステージ30を跨ぐように、ローラユニット34が設けられる。具体的には、水平ステージ部31のX方向両端部に沿って、1対のガイドレール351,352がY方向に延設されており、これらのガイドレール351,352はメインフレーム11に固定されている。そして、ガイドレール351,352に対し摺動自在にローラユニット34が取り付けられている。
ローラユニット34は、ガイドレール351,352とそれぞれ摺動自在に係合するスライダ341,342を備えており、これらのスライダ341,342を繋ぐように、ステージ30上部を跨いでX方向に延設された下部アングル343が設けられている。下部アングル343には適宜の昇降機構344を介して上部アングル345が昇降自在に取り付けられている。そして、上部アングル345に対して、X方向に延設された円柱状の剥離ローラ340が回転自在に取り付けられる。
上部アングル345が昇降機構344により下方、つまり(−Z)方向に下降されると、ステージ30に載置されたワークの上面に剥離ローラ340の下面が当接する。一方、上部アングル345が昇降機構344により上方、つまり(+Z)方向の位置に位置決めされた状態では、剥離ローラ340はワークの上面から上方に離間した状態となる。上部アングル345には、剥離ローラ340の撓みを抑制するためのバックアップローラ346が回転自在に取り付けられるとともに、上部アングル345自体の撓みを防止するためのリブが適宜設けられる。剥離ローラ340およびバックアップローラ346は駆動源を有しておらず、これらは自由回転する。
ローラユニット34は、メインフレーム11に取り付けられたモータ353によりY方向に移動可能となっている。より具体的には、下部アングル343が、モータ353の回転運動を直線運動に変換する変換機構としての例えばボールねじ機構354に連結されており、モータ353が回転すると下部アングル343がガイドレール351,352に沿ってY方向に移動し、これによりローラユニット34がY方向に移動する。ローラユニット34の移動に伴う剥離ローラ340の可動範囲は、(−Y)方向には水平ステージ部31の(−Y)側端部の近傍まで、(+Y)方向には水平ステージ部31の(+Y)側端部よりも外側、つまりさらに(+Y)側へ進んだ位置までとされる。
次に第i吸着ユニット5i(i=1,2,…,N)の構成について説明する。なお、第1ないし第N吸着ユニット51〜5Nはいずれも同一構造を有している。第i吸着ユニット5iは、X方向に延設されて支持フレーム50に固定される梁部材5i1を有しており、該梁部材5i1には鉛直下向き、つまり(−Z)方向に延びる1対の柱部材5i2,5i3がX方向に互いに位置を異ならせて取り付けられている。柱部材5i2,5i3には図では隠れているガイドレールを介してプレート部材5i4が昇降自在に取り付けられており、プレート部材5i4はモータおよび変換機構(例えばボールねじ機構)からなる昇降機構5i5により昇降駆動される。
プレート部材5i4の下部にはX方向に延びる棒状のパッド支持部材5i6が取り付けられており、該パッド支持部材5i6の下面に複数の吸着パッド5i7がX方向に等間隔で配列されている。図2では第i吸着ユニット5iを実際の位置よりも上方に移動させた状態を示しているが、昇降機構5i5によりプレート部材5i4が下方へ移動されたとき、吸着パッド5i7が水平ステージ部31の上面310にごく近接した位置まで下降することができ、ステージ30にワークが載置された状態では該ワークの上面に当接する。各吸着パッド5i7には後述する負圧供給部704からの負圧が付与されて、ワークの上面が吸着保持される。
図3は初期剥離ユニットの構造および各部の位置関係を示す側面図である。まず図1および図3を参照しながら初期剥離ユニット33の構造を説明する。初期剥離ユニット33は、テーパーステージ部32の上方でX方向に延設された棒状の押圧部材331を有しており、押圧部材331は支持アーム332により支持されている。支持アーム332は鉛直方向に延設されるガイドレール333を介して柱部材334に昇降自在に取り付けられており、昇降機構335の作動により、支持アーム332が柱部材334に対して上下動する。柱部材334はメインフレーム11に取り付けられたベース部336により支持されるが、位置調整機構337によりベース部336上での柱部材334のY方向位置が所定の範囲内で調整可能となっている。
水平ステージ部31およびテーパーステージ部32により構成されるステージ30に対して、剥離対象物たるワークWKが載置される。前述したパターニング工程におけるワークは版とブランケットとがパターン形成材料の薄膜を介して密着した密着体である。一方、転写工程におけるワークは基板とブランケットとがパターニングされたパターンを介して密着した密着体である。以下では転写工程における基板SBとブランケットBLとの密着体をワークWKとした場合の剥離装置1の剥離動作について説明するが、版とブランケットとによる密着体をワークとする場合でも同様の方法によって剥離を行うことが可能である。
ワークWKにおいて、基板SBよりもブランケットBLの方が大きい平面サイズを有しているものとする。基板SBはブランケットBLの略中央部に密着される。ワークWKはブランケットBLを下、基板SBを上にしてステージ30に載置される。このとき、図3に示すように、ワークWKのうち基板SBの(−Y)側端部が水平ステージ部31とテーパーステージ部32との境界の稜線部Eの略上方、より詳しくは稜線部Eよりも僅かに(−Y)側にずれた位置となるように、ワークWKがステージ30に載置される。したがって、(−Y)方向において基板SBよりも外側のブランケットBLはテーパーステージ部32の上にせり出すように配置され、ブランケットBLの下面とテーパーステージ部32の上面320との間には隙間が生じる。ブランケットBLの下面とテーパーステージ部32の上面320とがなす角θはテーパーステージ部32のテーパー角と同じ数度(この実施形態では2度)程度である。
水平ステージ部31には吸着溝311,312が設けられており、ブランケットBLの下面を吸着保持する。このうち吸着溝311は基板SBの下部に当たるブランケットBLの下面を吸着する一方、吸着溝312は基板SBよりも外側のブランケットBLの下面を吸着する。吸着溝311,312は互いに独立して吸着をオン・オフすることができ、2種類の吸着溝311,312を共に使用して強力にブランケットBLを吸着することができる。一方、外側の吸着溝312のみを使用して吸着を行い、パターンが有効に形成されたブランケットBLの中央部については吸着を行わないようにすることで、吸着によるブランケットBLの撓みに起因するパターンの損傷を防止することができる。このように、中央部の吸着溝311と周縁部の吸着溝312とへの負圧供給を独立に制御することで、ブランケットBLの吸着保持の態様を目的に応じて切り換えることが可能となっている。
このようにしてステージ30に吸着保持されるワークWKの上方に、第1ないし第N吸着ユニット51〜5Nと、ローラユニット34の剥離ローラ340とが配置される。前述したように第i吸着ユニット5iの下部には複数の吸着パッド5i7がX方向に並べて設けられている。より詳しくは、吸着パッド5i7は、例えばゴムやシリコン樹脂などの柔軟性および弾性を有する材料により形成されており、下面がワークWKの上面(より具体的には基板SBの上面)に当接してこれを吸着する機能を有している。以下では各吸着ユニット51,52,…,5Nに設けられた吸着パッドにそれぞれ符号517,527,…,5N7を付すことにより互いを区別することとする。
第1吸着ユニット51は水平ステージ部31の(−Y)側端部の上方に設けられており、下降したときに基板SBの(−Y)側端部の上面を吸着する。一方、第N吸着ユニット5Nは、ステージ30に載置される基板SBの(+Y)側端部の上方に設けられ、下降したときに基板SBの(+Y)側端部の上面を吸着する。第2吸着ユニット52ないし第(N−1)吸着ユニット5(N−1)はこれらの間に適宜分散配置され、例えば吸着パッド517〜5N7がY方向において略等間隔となるようにすることができる。なお、後述するように、吸着パッド517〜5N7の間隔は必要に応じて不均等としてもよい。これらの吸着ユニット51〜5Nの間では、上下方向への移動および吸着のオン・オフを互いに独立して実行可能となっている。
剥離ローラ340は上下方向に移動して基板SBに対し接近・離間移動するとともに、Y方向に移動することで基板SBに沿って水平移動する。剥離ローラ340が下降した状態では、基板SBの上面に当接して転動しながら水平移動する。最も(−Y)側に移動したときの剥離ローラ340の位置は、第1吸着ユニット51の吸着パッド517の(+Y)側直近位置である。このような近接位置への配置を可能とするために、第1吸着ユニット51については、図2に示す第i吸着ユニット5iと同一構造のものが、図1に示すように他の第2ないし第N吸着ユニット52〜5Nとは反対向きにして支持フレーム50に取り付けられている。
初期剥離ユニット33は、テーパーステージ部32の上方に突き出されたブランケットBLの上方に押圧部材331が位置するように、そのY方向位置が調整されている。そして、支持アーム332が下降することにより、押圧部材331の下端が下降してブランケットBLの上面を押圧する。このとき押圧部材331がブランケットBLを傷つけることがないように、押圧部材331の先端は弾性部材により形成されている。
図4はこの剥離装置の電気的構成を示すブロック図である。装置各部は制御ユニット70により制御される。制御ユニット70は、装置全体の動作を司るCPU701と、各部に設けられたモータ類を制御するモータ制御部702と、各部に設けられたバルブ類を制御するバルブ制御部703と、各部に供給する負圧を発生する負圧供給部704と、ユーザからの操作入力を受け付けたり装置の状態をユーザに報知するためのユーザインターフェース(UI)部705とを備えている。なお、工場用力など外部から供給される負圧を利用可能である場合には制御ユニット70が負圧供給部を備えていなくてもよい。
モータ制御部702は、ステージブロック3に設けられたモータ353および昇降機構335,344、上部吸着ブロック5の各吸着ユニット51〜5Nにそれぞれ設けられた昇降機構515〜5N5などのモータ群を駆動制御する。バルブ制御部703は、負圧供給部704から水平ステージ部31に設けられた吸着溝311,312につながる配管経路上に設けられてこれらの吸着溝に対し所定の負圧を個別に供給するためのバルブ群V3、負圧供給部704から各吸着パッド517〜5N7につながる配管経路上に設けられて各吸着パッド517〜5N7に所定の負圧を供給するためのバルブ群V5などを制御する。
次に、上記のように構成された剥離装置1の動作について説明する。この剥離装置1により実行される剥離動作は、前述の特許文献1(特開2014−189350号公報)に記載された剥離装置における剥離動作と基本的に同一である。そこで、この剥離装置1における剥離動作についての詳しい説明を省略し、ここでは剥離動作における各部の動きを簡単に説明する。
この剥離装置1に外部から剥離対象物たるワークWKが搬入されステージ30の所定位置に載置されると、装置各部が図3に示す初期状態に位置決めされる。初期状態では、ワークWKが吸着溝311,312の一方または両方によって吸着保持され、初期剥離ユニット33の押圧部材331、ローラユニット34の剥離ローラ340、第1ないし第N吸着ユニット51〜5Nの吸着パッド517〜5N7はいずれもワークWKから離間している。各吸着ユニット5iは、Y方向に走行するローラユニット34と干渉することがないように、吸着パッド5i7と基板SBとの間に十分なギャップを隔てて配置される。また剥離ローラ340は、第1吸着ユニット51の吸着パッド517よりもわずかに(+Y)側に寄った位置で、ワークWKから離間した状態にある。この状態から剥離動作が実行される。
図5は剥離動作の過程における各部の動作を示す図である。最初に、第1吸着ユニット51が下降し、負圧を供給された吸着パッド517が基板SBの(−Y)側端部上面に当接して基板SBを吸着保持する。また、剥離ローラ340が下降して基板SBの上面に当接する。この状態から、図5(a)に示すように、押圧部材331が下降してブランケットBLの端部を押し下げる。ブランケットBLの端部はテーパーステージ部32の上方に突出しており、その下面とテーパーステージ32の上面320との間には隙間がある。したがって、押圧部材331がブランケットBLの端部を下方へ押圧することにより、ブランケットBLの端部がテーパーステージ部32のテーパー面に沿って下方へ屈曲する。その結果、第1吸着ユニット51により吸着保持される基板SBの端部とブランケットBLとの間が離間し剥離が開始される。
続いて、図5(b)に示すように、第1吸着ユニット51の上昇が開始されるとともに、剥離ローラ340が基板SB表面に当接して転動しながら(+Y)方向に移動する。これにより、基板SBとブランケットBLとの剥離が(+Y)方向に向かって進行するが、剥離ローラ340を当接させているため、剥離ローラ340が基板SBに当接する領域を超えて剥離が進行することはない。剥離ローラ340を基板SBに当接させながら一定速度で(+Y)方向に移動させることで、剥離の進行速度を一定に維持することができる。
以下では、基板SBとブランケットBLとが既に剥離した剥離領域と、まだ剥離していない未剥離領域との境界線を「剥離境界線」と称することとする。剥離ローラ340はX方向に延びるローラ部材であり、これが基板SBに当接しながら(+Y)方向に移動する。このため、剥離境界線はローラ延設方向つまりX方向に沿った一直線状に維持され、しかも一定速度で(+Y)方向に進行する。これにより、剥離の進行速度の変動による応力集中に起因するパターンの損傷を確実に防止することができる。
剥離ローラ340が通過した後の基板SBに対して、吸着ユニット52,53,…が順次下降し、ブランケットBLから剥離した後の基板SBに当接してこれを保持する。具体的には、図5(b)に示すように、第2吸着ユニット52は、その直下位置を剥離ローラ340が通過すると下降を開始し基板SBに向けて進行する。吸着パッド527が基板SB上面に当接すると、負圧供給部704から供給される負圧によって、第2吸着ユニット52による基板SBの吸着保持が開始される。
図5(c)に示すように、第2吸着ユニット52は、基板SBの吸着保持を開始すると上昇に転じる。これ以後、基板SBは、第1吸着ユニット51と第2吸着ユニット52とによって保持されることとなる。これにより、ブランケットBLとの剥離が進行する基板SBがより確実に保持され、基板SBが下向きに撓んでブランケットBLと再接触したり、吸着パッド517から脱落したりするという問題が防止される。また、剥離境界線近傍における基板SBとブランケットBLとの角度を適正に保つことで、剥離を良好に進行させる効果も得られる。
他の吸着ユニット53,54,…,5Nも同様に、当該吸着ユニットの下方を剥離ローラ340が通過すると下降を始め、吸着パッドが基板SBに当接した時点で吸着保持を開始し上昇することにより、基板SBを上方へ引き上げる。各吸着ユニットはステージ30から所定の高さまで上昇した時点で停止する。
剥離進行方向の最下流側、つまり最も(+Y)側の吸着ユニット5Nが基板SBを保持して所定位置まで上昇することにより、図5(d)に示すように、基板SBとブランケットBLとが完全に分離し、剥離が完了する。剥離ローラ340および押圧部材331が基板SB、ブランケットBLのいずれからも離間した位置に退避することで、互いに分離された基板SBとブランケットBLとが搬出可能となる。こうして剥離動作が完了する。
上記のような剥離動作において、吸着ユニットの配設数やその配置については、基板SBの種類や厚さ、ブランケットBLとの間に形成されたパターンや薄膜の種類によって変更されることが好ましい場合がある。
図6は吸着ユニットの配設パターンが異なる例を示す図である。例えば基板SBとブランケットBLとの密着力が、両者の間に担持されるパターンの材料や形状に起因して比較的弱い場合には、図6(a)に示すように、剥離後の基板SBとブランケットBLとがなす角θを比較的小さな値に保って剥離を進行させることが好ましい。このような目的においては、剥離に要する引き上げ力も比較的小さいため、Y方向において吸着ユニットを比較的大きな間隔で配置すればよい。
一方、例えば基板SBとブランケットBLとの密着力が比較的強い場合には、図6(b)に示すように、剥離後の基板SBとブランケットBLとがなす角θをより大きな値に維持して剥離を進行させることが好ましい。また、基板SBを引き上げる力をより大きくする必要がある。このためには、Y方向における吸着ユニット間の間隔をより小さくする必要があり、場合によっては吸着ユニットの配設数を増加させる必要が生じる。
また、例えば基板SBの剛性が高く撓みにくい場合には、基板SBとブランケットBLとがなす角θを小さくしつつ、比較的強い引き上げ力で基板SBを引き上げる必要がある。この場合にも、吸着ユニットの数を増加させる必要が生じる。例えばこのような場合に対応するため、図6(c)に示すように基板SBの端部付近で吸着ユニットを近接配置するなど、吸着ユニットの間隔を不均等とすることも考えられる。
このように、吸着ユニットの配設数およびそれらの配置については、目的に応じて変更することができると装置の利用範囲が広がり便宜である。しかしながら、これを可能にするためには次のような問題が生じ得る。
図7はローラユニットと吸着ユニットとの位置関係を示す図である。図7(a)に示すように、剥離動作においてローラユニット34は(+Y)方向に一定速度で走行する。一方、吸着ユニット5iは、下部に吸着パッド5i7が設けられたプレート部材5i4をZ方向に昇降させることで、基板SBの保持および引き上げを行う。そのため、これらの移動タイミングが適切に設定されなければ、両者が干渉して接触するおそれがある。
図7(b)に示すように、原則的にはローラユニット34が直下位置を通過した後にプレート部材5i4が下降を開始すれば干渉は生じない。しかし、基板SBとブランケットBLとのなす角θを一定に維持し剥離を安定的に進行させるためには、剥離ローラ340が通過した後の基板SBをできるだけ早く吸着パッド5i7により保持することが望ましい。つまり、吸着パッド5i7が下降開始する際のパッド支持部材5i6の(+Y)側端面5i6yと剥離ローラ340が基板SBに当接する位置とのY方向における間隔Wができるだけ小さいことが好ましく、この間隔Wを0とするのが理想的である。
従来、このような動作を実現するための各部の移動タイミングは、例えば、オペレータが周期的に出力されるタイミング信号と各部の移動タイミングとを関連付けて装置に記憶させるティーチング作業を行うことにより設定される。しかしながら、前記したように吸着ユニットの配設個数が多い場合や配置が不均等となる場合にはティーチング作業も煩雑となり、取り付け位置のばらつきに対応する微調整まで含めると作業工数が膨大となる。
このため、剥離動作を良好に進行させるための処理レシピ、すなわち装置各部の動作手順やそのタイミングを規定した手順書が必要となる。特に、剥離ローラ340の移動に合わせて各吸着ユニット51〜5Nが協働して基板SBを引き上げブランケットBLから剥離させるための手順を適宜に定める必要がある。
この実施形態の剥離装置1では、吸着ユニットの配設数やその位置に関わらず、装置各部の動作タイミングを最適化した処理レシピを簡単に作成することのできるレシピ作成方法が採用されている。このレシピ作成処理は、制御ユニット70に設けられたCPU701が予め記憶された制御プログラムを実行することにより実現される。ユーザが基本的な処理パラメータを与えると、以下に示す原理に基づき、CPU701が与えられたパラメータを用いて計算を行うことにより処理レシピが作成される。
図8は吸着ユニット個々の動作シーケンスを示すフローチャートである。また、図9は剥離ローラと吸着ユニットとの位置関係を示す図である。また、図10は剥離ローラおよび吸着ユニットの動作を示すタイミングチャートである。これらの図を参照しながら、剥離ローラ340と吸着パッド5iとがどのように連動するかをより詳しく説明する。
この動作シーケンスは各吸着ユニット52〜5Nにおいて共通であり、また吸着ユニットの配設数や配置が変わっても基本的に同一である。なお、剥離ローラ340の移動方向において最も上流側に位置し、基板SBの(−Y)側端部に対向して配置される第1吸着ユニット51については、基本的な動作は共通するものの一部が異なっており、これについては後に説明する。
第i吸着ユニット5i(i=2〜N)は、まず高さ方向において所定の初期位置に位置決めされる(ステップS101)。初期位置は、例えば図3、図7(a)および図9(a)に示すように、吸着ユニット5iのパッド支持部材5i6が引き上げられて吸着パッド5i7が上方に退避しローラユニット34と干渉することのない位置である。このときの吸着パッド5i7下面と基板SB上面とのZ方向における距離、すなわち基板SBの上面を基準としたときの吸着パッド5i7下面の高さを符号Zaにより表すこととする。以下、特に断りなく吸着パッド5i7の「高さ」というとき、基板SBのうち未剥離の部位の上面を基準とした吸着パッド5i7下面の高さを意味するものとする。
図9(b)に示すように、図10に示す時刻Ti1においてローラユニット34の移動によって剥離ローラ340が直下位置を通過すると(ステップS102)、吸着ユニット5iは吸着パッド5i7を基板SBに向けて下降させる。このときの下降速度は、ローラ通過後の基板SBを速やかに保持するため、予め定められた比較的高速の第1下降速度とされる(ステップS103)。
剥離ローラ340が通過したことについては、種々の方法によって検知することが可能である。例えば、上部吸着ブロック5における吸着ユニットの配設数および位置が装置情報として予め記憶されていれば、Y方向におけるローラユニット34の位置を示す位置情報と上記の装置情報とから、各吸着ユニット5iとローラユニット34との相対位置を知ることができる。ローラユニット34の位置情報としては、ローラユニット34の位置を直接的に検出する位置センサやエンコーダなどからの出力信号、例えばカメラのような撮像手段により撮像されるローラユニット34の画像、ローラユニット34を移動させるモータ353に与えられる駆動パルスのカウント値などから取得することが可能である。また、吸着ユニット5iまたはローラユニット34の一方に他方の位置を検出するためのセンサまたは撮像手段を設け、その出力から両者間の相対位置を把握することも可能である。
図10に示すように、吸着パッド5i7は初期位置から所定の吸引開始位置まで第1下降速度で下降する。吸着パッド5i7が吸引開始位置に到達すると(ステップS104)、その時刻Ti2から制御ユニット70の負圧供給部704から当該吸着パッド5i7に負圧が供給され、吸着パッド5i7による吸引動作が開始される。また、吸着パッド5i7の下降速度が第1下降速度より低速の第2下降速度に変更される(ステップS105)。
吸引開始位置は、下降する吸着パッド5i7が基板SBの上面に接触する直前の位置である。隣接する吸着パッド5(i−1)7により引き上げられている基板SBの上面に吸着パッド5i7が比較的高速の第1下降速度のまま接触すると、その衝撃によって、既に基板SBを保持している他の吸着パッドから基板SBが脱落し基板SBを損傷するおそれがある。吸引開始位置において下降速度が第2下降速度に変更されることで、吸着パッド5i7が基板SBの上面に接触する直前に減速し、吸着パッド5i7が基板SBに接触する時の衝撃を小さくすることができる。また、吸引開始位置に到達する前に吸着パッド5i7が基板SBに接触することはないので、吸引開始位置に到達してから吸着パッド5i7に負圧が供給されれば足りる。
第1下降速度は、基板SBを保持していない吸着パッド5i7を速やかに吸引開始位置まで移動させるべく、機構上実現可能な最も速い速度であることが望ましい。一方、第2下降速度は、当該吸着パッド5i7が基板SBに接触したときに他の吸着パッドによる保持が解除されたり基板SBを損傷させたりすることがないような低速であることが望ましい。これらの速度については、装置の機械的制約から予め定めておくことができる。
剥離ローラ340は剥離境界線の位置を規制することで剥離の進行を制御するものである一方、吸着パッド5i7は剥離ローラ340の通過後に下降を開始する。したがって、吸着パッド5i7が基板SBに接触するとき、その位置において基板SBは既にブランケットBLから離間した状態となっている。このような状態の基板SBを確実に捕捉して吸着保持するために、吸着パッド5i7に負圧が供給された状態で、しかも比較的低速である第2下降速度で吸着パッド5i7が下降する。
図9(c)に示すように、吸着パッド5i7が吸引開始位置に到達する時刻Ti2における吸着パッド5i7の高さを符号Zbで表す。このときの吸着パッド5i7の高さZbは、基板SB上面のうちY方向において吸着パッド5i7に対応する位置における基板SB上面の高さZcより僅かに大きい。言い換えれば、そのような関係となるように、吸引開始位置が設定されなければならない。
また、吸引開始位置については、基板SBの姿勢に応じて設定される必要がある。剥離した基板SBを速やかに吸着保持するという観点からは、高速の第1下降速度での下降を基板SBの上面にごく近い位置まで継続し、低速の第2下降速度で下降する期間を可能な限り短くすることが求められる。したがって、吸引開始位置は、実際に吸着パッド5i7が基板SBに接触して基板SBを捕捉する時の位置(以下、「捕捉位置」という)にできるだけ近いことが望ましい。しかしながら、吸着パッド5i7が捕捉すべき基板SBは、例えば図5(c)に示すように既にブランケットBLから離間して持ち上げられた状態となっている。このため、吸引開始位置は、持ち上げられた基板SBの位置の予測に基づいて定められる必要がある。
吸引開始位置に到達した後、吸着パッド5i7は低速の第2下降速度でさらに下降し、基板SB上面と同一高さとなる捕捉位置において基板SBに接触する。これにより、吸着パッド5i7による基板SBの吸着保持が開始される。吸引開始位置が適切に設定されていれば、吸着パッド5i7が吸引開始位置に到達してから捕捉位置で吸着保持を開始するまでの時間を短くすることができる。これにより、低速での下降を短時間に留めて、処理時間の短縮を図ることができる。
吸着パッド5i7が基板SBの上面に接触し基板SBの吸着保持が開始されたことが検知されると(ステップS106)、図9(d)に示すように、吸着パッド5i7は上昇に転じる。吸着保持の開始については各種の検知方法が適用可能である。例えば、吸着パッド5i7が基板SBに接触することで生じる、負圧供給部704から吸着パッド5i7に至る負圧の供給経路上における圧力の変化から検知することが可能である。
吸着保持の開始が検知された時刻Ti3において、吸着パッド5i7は所定の第1上昇速度での上昇を開始し、上昇開始からのZ方向への移動距離が所定の第1移動距離になるまで上昇が継続される(ステップS107a)。吸着パッド5i7が基板SBを吸着保持した状態で上昇することで、基板SBがブランケットBLから引き離され、剥離がさらに進行する。
他の吸着パッドとの協働を可能とするために、吸着パッド5i7の上昇速度および当該速度での移動距離については多段階に設定可能となっている。すなわち、吸着パッド5i7は、第1上昇速度で第1移動距離だけ移動した後、さらに第2上昇速度で第2移動距離(ステップS107b)、第3上昇速度で第3移動距離(ステップS107c)、…、の上昇移動が可能となっている。吸着パッド5i7の上昇移動を何段階で実現するか、また各段階における上昇速度および移動距離の設定値については、吸着パッド5i7の配置や基板SBに転写されるべきパターンの物性値に応じて定められる必要がある。
図10に示すように、吸着パッド5i7が第1移動距離だけ上昇した時刻Ti4において、上昇速度が第1上昇速度から第2上昇速度に変更される。吸着パッド5i7が第2移動距離だけ上昇した時刻Ti5において、上昇速度はさらに第3上昇速度に変更され、吸着パッド5i7は第3移動距離だけ上昇する。
図9(e)に示すように、所定の終了位置に到達する時刻Ti6において、吸着パッド5i7の移動が停止される(ステップS108)。これにより、吸着パッド5i7はブランケットBLから剥離した基板SBを保持したまま所定の高さに位置決めされる。全ての吸着パッド5i7が同一高さに位置決めされると、図5(d)に示すように、ブランケットBLから完全に剥離した基板SBが、ブランケットBLから離間して略水平姿勢に保持されることになる。
図10では第1上昇速度から第3上昇速度まで速度が次第に増加する例を示しているが、上昇速度が低下する局面があってもよい。また、ここでは上昇速度が3段階に変化するが、速度変化の段階数は任意に設定することができる。また、図10では図を見やすくするために初期位置と終了位置とを異ならせているが、これらの位置関係についてもこの例に限定されず任意である。
なお、剥離ローラ340の移動方向において最も上流側に配置される第1吸着ユニット51においては、図5(a)に示す初期剥離ユニット33との協働を実現するために、上記動作が次のように一部変更される。まず、吸着パッド517の初期位置からの下降開始は、剥離ローラ340の走行移動の開始よりも早く、CPU701が規定する所定のタイミングで実行される。すなわち、ステップS102では、剥離ローラ340の通過ではなく、CPU701から与えられる制御信号に基づいて下降開始が判断される。
また、第1吸着ユニット51の吸着パッド517は、ステージ30上でブランケットBLに密着した状態にある基板SBに当接して基板SBを保持する。したがって、吸着パッド517に対応する吸引開始位置は、下降する吸着パッド517がブランケットBLから未剥離の基板SB上面に当接する直前の位置として、基板SBおよびブランケットBLの厚みから予め定めておくことができる。
このように、他の吸着ユニット52〜5Nでは、吸着ユニットの配置や基板SBおよび被転写物の物性などの条件に応じて、下降を開始するきっかけおよび吸引開始位置が動的に設定される必要がある。一方、第1吸着ユニット51では、これらのパラメータが予め定められている。この点を除けば、第1吸着ユニット51の動作は上記した第2〜第N吸着ユニット52〜5Nの動作と変わりない。第1上昇速度、第1移動距離等が諸条件に応じて設定される点も同じである。
ここまで述べてきたように、1つの吸着ユニット5iを他の吸着ユニットおよび剥離ローラ340と適切に協働させるためには、当該吸着ユニット5iについて、
・吸引開始位置
・第n上昇速度および第n移動距離(n=1,2,…)
の各パラメータを適正に設定する必要がある。さらに、実際の剥離動作では同時に複数の吸着ユニットが動作するので、それらの間で整合の取れた動作が必要となる。
図11は複数の吸着ユニットによる剥離動作を模式的に示す図である。図11(a)に示すように、Y方向におけるピッチGで配置された2つの吸着ユニット5i,5(i+1)による剥離動作を考える。ブランケットBLからの基板SBの剥離を良好に行わせるために、互いに離間した直後の基板SB下面とブランケットBL上面とがなす角(以下、「剥離角」と称する)θは剥離動作中概ね一定に維持されることが望ましい。
剥離動作の過程全般にわたって剥離角θを概ね一定に維持するための条件について考える。図11(a)に示す状態において剥離角θの形成に最も大きく寄与しているのは、剥離ローラ340と、基板SBを保持し引き上げる吸着パッドのうち剥離ローラ340に最も近い位置にある吸着パッド5i7である。これらの移動速度によって剥離角θが決定される。このように、剥離進行方向において剥離ローラ340よりも上流側、つまり(−Y)側で基板SBを保持する吸着パッドのうち剥離ローラ340に最も近い位置にある吸着パッド5i7が、剥離の品質の良否に大きく影響する。そこで、このような位置にある吸着パッド5i7およびこれを有する吸着ユニット5iを、ここでは「主剥離主体」と称する。また、主剥離主体としての動作を「主剥離動作」と称する。剥離の進行に伴い、主剥離主体としての機能は順次下流側の吸着パッドに移行してゆく。
剥離角θを維持しながら剥離を進行させるために、図11(b)に示すように、主剥離主体である吸着パッド5i7に対し剥離進行方向の下流側隣接位置にある吸着パッド5(i+1)7が基板SBに当接してその保持を開始する時刻において、吸着パッド5i7により上方へ引き上げられる基板SBがブランケットBLに対して剥離角θをなしていることが望ましい。これにより、主剥離主体としての作用が、剥離角θが維持された状態で吸着パッド5i7から吸着パッド5(i+1)7に引き継がれる。
主剥離主体としての機能を終えた吸着パッド5i7は、剥離角θの形成に対して主体的に作用しないが、新たに主剥離主体となった吸着パッド5(i+1)7による剥離を補助する機能を有する。このときの吸着パッド5i7の動作としては、図11(c)に示すように3つのパターンが考えられる。実線Aで示す第1のケースでは、吸着パッド5i7により引き上げられる基板SBが、主剥離主体である吸着パッド5(i+1)7により引き上げられる基板SBの傾きと同じ傾きを有している。吸着パッド5i7,5(i+1)7の上昇速度を同一としたとき、このようなケースが実現される。
また、破線Bで示す第2のケースでは、吸着パッド5i7により引き上げられる基板SBの傾きが、主剥離主体である吸着パッド5(i+1)7により引き上げられる基板SBの傾きよりも大きい。吸着パッド5i7の上昇速度を吸着パッド5(i+1)7の上昇速度よりも大きくしたとき、このようなケースが実現される。このケースでは、吸着パッド5i7が吸着パッド5(i+1)7による基板SBの剥離をより促進するように作用する。特に基板SBの剛性が高い場合やパターンの密着力が強い場合のように、基板SBの引き上げに比較的大きい力を要する条件のとき、このように吸着パッド5(i+1)7による剥離を吸着パッド5i7により補助することが有効である。以下、この動作を「補助剥離動作」と称する。
さらに、点線Cで示す第3のケースでは、吸着パッド5i7により引き上げられる基板SBの傾きが、主剥離主体である吸着パッド5(i+1)7により引き上げられる基板SBの傾きよりも小さい。吸着パッド5i7の上昇速度を吸着パッド5(i+1)7の上昇速度よりも小さくしたとき、このようなケースが実現される。
実線Aおよび点線Cで示すケースでは、吸着パッド5i7は、主剥離主体である吸着パッド5(i+1)7により実行される基板SBの剥離に対してこれを促進させるような積極的な貢献をするものではない。これらのケースで示される吸着パッド5i7の動作は、剥離後の基板SBをその姿勢を維持しながら所定の高さまで持ち上げる動作として有効である。特に、基板SBの傾きを小さくして水平姿勢に近付けるときの動作として用いられる。以下、この動作を「持ち上げ動作」と称する。
このように、各吸着パッド5i7(i=1〜N)の主剥離動作、補助剥離動作および持ち上げ動作を適宜組み合わせることで、吸着ユニットを剥離ローラ340と協働させて剥離動作を進行させることができる。前記したように、剥離の品質を主として決定付けるのは剥離ローラ340と主剥離主体となる吸着ユニットとである。そこで、複数の吸着パッド5i7(i=1〜N)の動作を設定するに当たっては、まずそれらのうち主剥離主体となるものの動作が要求される仕様に応じて決定され、これと適切に連動するように他の吸着パッドの動作が決定される。
主剥離動作、補助剥離動作および持ち上げ動作の主たる差異は吸着パッドの上昇速度である。すなわち、主剥離主体以外の吸着パッドであって、主剥離動作における吸着パッドの上昇速度よりも高速で上昇する吸着パッドは補助剥離動作をする。また、上昇速度が主剥離動作における上昇速度以下である吸着パッドは持ち上げ動作をしていることになる。したがって、主剥離主体以外の吸着パッドについては、主剥離主体として動作する吸着パッドの上昇速度に所定の係数を乗じることで、その動作を設定することができる。この係数を「広がり係数」と称する。広がり係数が1より大きければ当該吸着パッドの動作は補助剥離動作となり、1以下であれば持ち上げ動作となる。
図12は連動する複数の吸着パッドの動作を示すタイミングチャートである。一連の剥離動作を、1つの吸着パッドが主剥離主体として動作している期間ごとに複数のフェーズに分け、各フェーズにおける各吸着パッドの動作を考える。第i吸着ユニット5iが主剥離主体として動作している期間を「フェーズi」と称する。個々の吸着ユニットの動作は先に説明した動作シーケンスの通りである。
フェーズ1では、剥離進行方向において最上流側、つまり最も(−Y)側の第1吸着パッド517が主剥離主体として機能する。図5(a)に示される初期状態から、基板SBの上面に当接して基板SBを吸着保持する第1吸着パッド517が第1上昇速度で上昇を開始する時刻T0が、フェーズ1の開始時となる。このとき剥離ローラ340も剥離進行方向への移動を開始する。フェーズ1の期間中、剥離ローラ340が第2吸着パッド527の直下を通過する時刻T21に、第2吸着パッド527が初期位置から吸引開始位置に向けて第1下降速度で下降を開始する。第2吸着パッド527が吸引開始位置に到達する時刻T22を経て、時刻T23に第2吸着パッド527が捕捉位置において基板SBの吸着保持を開始する。時刻T0から時刻T23までがフェーズ1に該当する。
フェーズ2では、第2吸着パッド527が主剥離主体として機能する。時刻T23において基板SBを捕捉すると、第2吸着パッド527は第1上昇速度で上昇を開始する。これにより、基板SBは主として第2吸着パッド527によって上方へ引き上げられ、さらに剥離が進行する。このときの第1上昇速度は、第1吸着パッド517の第1上昇速度と同じであってもよく、また異なっていてもよい。フェーズ2における第1吸着パッド517の上昇速度は第2上昇速度とされる。このときの上昇速度の設定により、第1吸着パッド517が果たす機能が、前述のように補助剥離動作または持ち上げ動作のいずれかとなる。
同様に、剥離ローラ340が直下位置を通過する時刻T31において第3吸着パッド537が下降を開始し、吸引開始位置に到達する時刻T32を経て時刻T33において基板SBの吸着保持を開始する。この時点でフェーズ2が終了しフェーズ3が開始される。また、時刻T41において第4吸着パッド547が下降を開始し、吸引開始位置に到達する時刻T42を経て時刻T43において基板SBの吸着保持を開始する。ここでフェーズ3が終了しフェーズ4が開始される。このように、主剥離主体となる吸着パッドが剥離進行方向に順次遷移してゆき、その都度フェーズが切り替わってゆく。ワークWKに対する剥離動作は、初期剥離ユニット33による初期剥離動作と、剥離ローラ340およびN組の吸着ユニット51〜5Nによるフェーズ1〜フェーズNの動作とを含む。
1つの吸着パッドに対して、その上昇速度および移動距離がフェーズごとに個別に設定される。これにより、主剥離主体となって剥離を主に司る1つの吸着パッドの動作と、これを補助する他の吸着パッドの動作とがそれぞれ規定されて、剥離動作の処理レシピが特定される。
図13は処理レシピを可視化したリストの一例を示す図である。リストの空欄に適切な数値を充当することで処理レシピは完成する。剥離の進行速度および剥離角θの大きさの好ましい値は、基板SBや基板SBとブランケットBLとの間に介在するパターン等の被転写物の物性により異なる。また、補助剥離動作をさせる吸着パッドの数および補助剥離動作における基板SBの傾きを決める広がり係数(以下、「補助剥離用広がり係数」と称する)についても、基板SBおよびパターン等の物性に応じて変更する必要がある。さらに、持ち上げ動作における基板SBの傾きを決める広がり係数(以下、「持ち上げ用広がり係数」と称する)については、主として基板SBの剛性に応じて設定される必要がある。
そこで、これらの値については、UI部705を介してオペレータから初期情報として与えられるものとする。一方、これらの初期情報が与えられれば、その他の動作パラメータ、すなわち各吸着ユニット5iについての吸引開始位置と、上昇時の速度およびその移動距離とについては自動的に算出されるようにする。これにより、処理レシピを作成するオペレータの作業負担は大幅に軽減され、不適切な設定による誤動作も未然に防止することができる。以下、上昇時の速度および移動距離の具体的な算出方法の一例について説明する。
図14は処理レシピの作成処理を示すフローチャートである。この処理は、予め処理レシピ作成用として用意された制御プログラムをCPU701が実行することにより実現される。最初に装置情報が取得される(ステップS201)。装置情報は、装置に装着された吸着パッドの数Nおよびそれらの位置を示す情報である。CPU701は、この装置情報に基づき、各吸着パッド間の距離を把握するとともに、剥離動作において用意すべきフェーズ数を決定する。
続いて、剥離動作の内容に関わる上記した初期情報の入力を受け付ける(ステップS202)。初期情報の受け付けは、装置情報の取得より先に行われてもよい。また、初期情報の入力は剥離装置1に対して直接行われてもよく、外部の端末装置に入力された初期情報が通信回線を介して剥離装置1に与えられてもよい。また、オペレータが予め登録された数値から選択することで初期情報が設定される態様であってもよい。
次に、内部演算のためのパラメータIが初期値1に設定される(ステップS203)。この処理では、第1吸着パッド517から第N吸着パッド5N7までの動作条件がループ処理により順次設定され、パラメータIは、現在計算の対象となっている吸着パッドが何番目のものであるかを示すものである。図14では、第I吸着パッド5I7を「パッドI」と略記している。
パラメータIがパッド数(吸着パッドの総数)Nと比較され(ステップS204)、パッド数Nを超えていれば(ステップS204においてNO)全ての吸着パッドについて計算が終了しているので処理は終了する。ステップS204においてYESであれば計算対象である吸着パッドが残されており、このときステップS205以下が実行される。
ステップS205では、第I吸着パッド5I7が主剥離主体として機能する期間、つまりフェーズIの開始から終了までの期間が特定される。フェーズIの開始時刻は当該吸着パッド5I7が基板SBを保持しながら上昇を開始する時刻TI3である。また、フェーズIの終了時刻は当該吸着パッド5I7に隣接する吸着パッド5(I+1)7が基板SBの保持を開始する時刻T(I+1)3である。
図15は剥離動作における1つのフェーズを模式的に示す図である。図15に示すように、フェーズIの開始時刻TI3では、吸着パッド5I7が基板SBを保持しながら第1上昇速度Vu1での引き上げを開始する。剥離進行方向下流側において隣接する吸着パッド5(I+1)7が第1下降速度Vd1での下降を開始する時刻T(I+1)1を経て、吸着パッド5(I+1)7が基板SB上面に当接する時刻T(I+1)3において、フェーズIからフェーズ(I+1)に移行する。つまり、フェーズIの終了時刻T(I+1)3は、フェーズ(I+1)の開始時刻でもある。
なお、吸着パッド5(I+1)7は、図15下部のタイミングチャートに示すように、第1下降速度Vd1で吸引開始位置まで下降した後、第2下降速度Vd2でさらに下降して基板SBを捕捉吸着する。基板SBがブランケットBLから上方に離間した状態にあるとき、吸着パッド5(I+1)7が基板SBを捕捉する瞬間の時刻T(I+1)3を厳密に予測することは容易でない。すなわち、フェーズIの終了時刻を厳密に特定することが難しい。
そこで、ここでは計算を容易にするため、次のような近似を導入する。すなわち、図15のタイミングチャートに点線で示すように、吸着パッド5(I+1)7が吸引開始位置に到達した後も第1下降速度Vd1で下降を続けると仮定する。そして、吸着パッド5(I+1)7が基板SB上面に到達する時刻を、基板SBを捕捉する時刻T(I+1)3と見なし、フェーズIの終了時刻とする。この近似の有効性については、以下のように説明することができる。
吸着パッド5(I+1)7は実際には捕捉位置までしか下降しないので、上記近似における下降距離は実際の下降距離よりも長い。このため、近似により求められるフェーズIの終了時刻が実際よりも遅くなることが考えられる。しかしながら、吸着パッド5(I+1)7は、吸引開始位置から捕捉位置までは第1下降速度より低速の第2下降速度で下降するため、第1下降速度のまま下降する場合よりも長く時間がかかる。したがって、実機における速度低下の影響が近似における下降距離の仮想的な増加によってある程度補償されるため、近似による誤差が抑えられる。
また、下降開始タイミングおよび吸引開始位置が適切に設定されることで、吸着パッド5(I+1)7が初期位置から吸引開始位置まで下降する際の下降距離に比べて、吸引開始位置から捕捉位置までの距離および捕捉位置から基板上面までの距離を十分に小さくすることができる。したがって、吸着パッド5(I+1)7が初期位置から基板上面まで下降すると仮定したことに起因する誤差を抑えることが可能である。これらのことから、フェーズIの終了時刻T(I+1)3を求める際の上記近似は、十分に有効なものであるということができる。
上記近似に基づく具体的な計算方法を説明する。図15に示すように、吸着パッド5I7、5(I+1)7のY方向における位置をそれぞれ符号Y1、Y3により表す。また、フェーズIの開始時刻TI3における剥離ローラ340のY方向位置を符号Y2により表す。また、吸着パッド5(I+1)7が下降を開始する時刻T(I+1)1における剥離ローラ340のY方向位置を符号Y4により表す。また、フェーズIの終了時刻、すなわちフェーズ(I+1)の開始時刻T(I+1)3における剥離ローラ340のY方向位置を符号Y5により表す。剥離ローラ340は一定速度でY方向へ移動しており、その移動速度を符号Vrにより表す。
また、フェーズIの開始時刻TI3における吸着パッド5I7の基板上面からの高さは符号Zcにより、また初期位置における吸着パッド5(I+1)7の基板上面からの高さは符号Zaによりそれぞれ表される(図10)。また、当該フェーズIの終了時刻T(I+1)3における吸着パッド5I7の基板上面からの高さを符号Zdにより表す。
フェーズIの持続期間、つまりフェーズIの開始時刻から終了時刻までの時間ΔTは、剥離ローラ340がフェーズIの開始時の位置Y2から終了時刻における位置Y5まで移動する時間である。この時間ΔTは、剥離ローラ340の位置Y2から位置Y4までの移動と、吸着パッド5(I+1)7の初期位置から捕捉位置までの移動とにより律速される。このことおよび前述の近似より、次式:
ΔT=(Y4−Y2)/Vr+Za/Vd1 … (式1)
の関係が成立する。
フェーズ1、つまりI=1の場合を考えると、動作開始時の吸着パッド517の位置Y1と剥離ローラ340の位置Y2との距離(Y2−Y1)、および吸着パッド517の位置Y1と吸着パッド527の位置Y3との距離(Y3−Y1)はいずれも既知である。また、吸着パッド527が下降開始するときの剥離ローラ340の位置Y4も、予め定められている。そして、剥離ローラ340の移動速度Vr、吸着パッド527の初期位置の高さZaおよび第1下降速度Vd1も予め定められている。これらの値は、上記した装置情報として予め求められている。したがって、これら既知の値を用いて、(式1)よりフェーズ1の持続期間ΔTを確定的に求めることができる。
また、図15に示す位置関係から、次式:
ΔT=(Y5−Y2)/Vr … (式2)
の関係が成立する。そして、(式1)および(式2)から、次式:
Y5=Y4+Za・Vr/Vd1 … (式3)
の関係が得られる。位置Y5はフェーズ2の開始時における剥離ローラ340の位置であり、この位置Y5についても、既知の数値から求めることができることがわかる。したがって、フェーズ2の持続期間についても同様にして既知の値から求めることができる。以下、フェーズ3,4,…についても、1つのフェーズの持続期間ΔTを求めることで、次のフェーズの開始時における剥離ローラ340の位置が求められ、その値から次のフェーズの持続期間が求められる。こうして全フェーズの持続期間を順次特定することが可能である。
図14に戻って、ステップS205においてフェーズIの持続期間が求められると、続いてフェーズIにおける第I吸着パッド5I7の上昇速度(第1上昇速度)および移動距離(第1移動距離)が算出される(ステップS206)。ここで必要とされる要件は、フェーズIの終了時において、剥離された基板SBとブランケットBLとがなす剥離角が規定値θとなっていることである。
図15に示す位置関係から、次式:
Zd=(Y5−Y1)・tanθ … (式4)
の関係が得られる。値Y1,Y5は既に特定されており、剥離角θも予め定められているので、フェーズIの終了時における吸着パッド5I7の高さZdを特定することができる。フェーズIの開始時における吸着パッド5I7の高さZcを終了時の高さZdから差し引くことで、フェーズIにおいて吸着パッド5I7が上昇すべき第1移動距離が特定される。また、第1移動距離をフェーズIの持続期間ΔTで除することによって、第1上昇速度が求められる。
フェーズ1においては、吸着パッド517はブランケットBLに密着した基板SBに当接するので、Zc=0である。一方、フェーズ2以降では、フェーズ開始時の吸着パッド5(I+1)7の高さZcについては、図15に示す時刻T(I+1)3における吸着パッド5(I+1)7の位置から明らかなように、次式:
Zc=(Y5−Y3)・tanθ … (式5)
により求めることができる。吸着パッド5(I+1)7が下降する際の目標位置である吸引開始位置については、上記(式5)で与えられる高さZcに所定のオフセット値を加算した高さZbに相当する位置として求めることができる(ステップS207)。
このように、ステップS205〜S207では、フェーズIの持続期間、当該フェーズにおいて主剥離主体として機能する吸着パッド5I7の第1上昇速度および第1移動距離、ならびに次のフェーズ(I+1)において主剥離主体となる吸着パッド5(I+1)7の吸引開始位置が、既知の値から求められる。ステップS210として示されるように、パラメータIの値を順次増加させながら上記計算を行うことで、各フェーズIにおいて主剥離主体となる第I吸着パッドについての動作を特定することができる。
図14に示すフローでは、主剥離主体として機能するもの以外の吸着パッドについてもその動作を特定するための処理が付加されている。すなわち、ステップS208〜S215では、フェーズ2における第1吸着パッドの動作、フェーズ3における第1および第2吸着パッドの動作、フェーズ4における第1、第2および第3吸着パッドの動作、…、が決定される。
具体的には、ステップS205〜S207においてフェーズIの主剥離主体である第I吸着パッド5I7の動作が決定されると、ステップS211〜S215では、フェーズIにおける第J吸着パッド5J7(J=1,2,…,I−1)の動作が順次決定される。これらのうち、予め設定された補助剥離個数分だけを補助剥離動作とし、他を持ち上げ動作とするために、新たな内部パラメータKが導入されている。
ステップS208において内部パラメータKの値が1に設定され、ステップS209ではパラメータK,Iが比較される。パラメータKの値がパラメータIより小さければ(ステップS209においてYES)、ステップS211以降が実行される。パラメータKの値がパラメータI以上であれば(ステップS209においてNO)、ステップS210においてパラメータIの値に1が加算されてステップS204に戻り、次のフェーズにおける各吸着パッドの動作が決定される。
ステップS211では、パラメータJの値が(I−K)に設定される。パラメータJは主剥離主体としての機能を終えた吸着パッドを順に特定するためのパラメータである。パラメータJにより特定される吸着パッド5J7は、パラメータKの値が予め設定された補助剥離個数以下であれば(ステップS212においてYES)、フェーズIにおいて補助剥離動作をするものとされ、そのための上昇速度および移動距離が設定される(ステップS213)。一方、パラメータKの値が補助剥離個数より大きければ(ステップS212においてNO)、補助剥離個数分の吸着パッドの動作が既に決定されていることになる。そこで、残りの吸着パッド5J7は持ち上げ動作をするものとされ、そのための上昇速度および移動距離が設定される(ステップS214)。
このような処理により、主剥離主体である吸着パッド5I7に近い位置にあるものから順に補助剥離個数分だけの吸着パッド5J7について補助剥離動作としての動作条件が設定される。一方、他の吸着パッドについては持ち上げ動作として動作条件が設定される。
フェーズIにおいて補助剥離動作または持ち上げ動作をする吸着パッド5J7の上昇速度については、同じフェーズにおける主剥離主体である吸着パッド5I7の上昇速度(第1上昇速度)に、予め定められた補助剥離用または持ち上げ用広がり係数を乗じることで求められる。また、吸着パッド5J7の移動距離は、上記で求められた上昇速度に当該フェーズの持続期間の長さを乗じることで求められる。ただし、吸着パッド5J7が当該フェーズ中の移動によって終了位置に到達する場合には、終了位置までの距離が上昇距離とされる。また、既に終了位置に到達している吸着パッドに対しては、上昇速度および移動距離はいずれも0とされる。
こうして1つの吸着パッド5J7に対して補助剥離動作または持ち上げ動作としての動作条件が設定されると、パラメータKの値が1つ増やされ(ステップS215)、ステップS209に戻る。これにより、残りの吸着パッドについてもその動作が補助剥離動作または持ち上げ動作として決定される。
フェーズiにおいて吸着パッド5i7に対して設定される上昇速度および移動距離が、それぞれ当該吸着パッド5i7における「第1上昇速度」および「第1移動距離」(図10)に対応する。また、フェーズ(i+1)において当該吸着パッド5i7に対して設定される上昇速度および移動距離が、それぞれ「第2上昇速度」および「第2移動距離」に対応する。同様に、フェーズ(i+2)において当該吸着パッド5i7に対して設定される上昇速度および移動距離が、それぞれ「第3上昇速度」および「第3移動距離」に対応する。
例えば吸着パッド517についてみれば、フェーズ1に対応する上昇速度および移動距離がそれぞれ第1上昇速度および第1移動距離であり、フェーズ2に対応する上昇速度および移動距離がそれぞれ第2上昇速度および第2移動距離であり、フェーズ3に対応する上昇速度および移動距離がそれぞれ第3上昇速度および第3移動距離である。第1上昇速度および第1移動距離は吸着パッドごとに個別に設定可能であり、設定値は必ずしも同一ではない。第2上昇速度および第2移動距離以降についても同様である。
図16は吸着パッドの動作決定順序を示す図である。図において括弧を付した数字は動作パラメータ(上昇速度および移動距離)が決定される順序を示している。図14に示す処理レシピの作成処理が実行されると、最初にフェーズ1において主剥離主体となる吸着パッド517の動作パラメータが決定される。次に、フェーズ2において主剥離主体である吸着パッド527の動作パラメータ、当該フェーズにおいて補助的に動作する吸着パッド517の動作パラメータが、この順番に決定される。次いで、フェーズ3において主剥離主体である吸着パッド537の動作パラメータ、当該フェーズにおいて補助的に動作する吸着パッド517,527の動作パラメータが順次決定される。
以下同様にして、予め定められたあるいは演算処理の過程で決定された数値に基づき、各吸着パッドの動作条件が順次決定される。フェーズ数を示すパラメータIがパッド数に達するまで上記処理が繰り返されることで(ステップS204)、全ての吸着パッド、全てのフェーズについて動作が決定される。ここでは吸着パッド数N=8とした例が示されている。これにより、図13の各欄に充当すべき数値が決定され、処理レシピが確定する。
以上のように、この実施形態における剥離動作のレシピ作成処理では、剥離装置1における各部の配置状況から特定される装置情報と、動作を特徴づける基本的なパラメータとしてオペレータが入力する初期情報とが与えられると、それらの情報に基づき、剥離動作において相互間および剥離ローラ340との間で協働する吸着パッド517〜5N7の動作を決定し処理レシピを完成させることができる。
このため、レシピの細部をオペレータが設定する作業が不要となり、オペレータの負担が大きく軽減される。また、設定ミスによって協働が不調となり、剥離不良や部材の破損等の不具合が生じるのを未然に防止して、剥離装置1による剥離を良好に行わせることが可能となる。
なお、剥離装置としては、上記のように剥離ローラ340によって剥離の進行を制御しながら基板SBを引き上げるもののほか、次に示すように、剥離ローラを用いず、予め基板SBに当接させた複数の吸着パッドを順番に上昇させることで剥離の進行を制御するものがある。
図17は剥離ローラを設けない剥離装置の構成例およびその動作を示す図である。この剥離装置2の構成は、上記した剥離装置1から剥離ローラ340を除いた構成に類似している。そこで、剥離装置1と同一または相当する構成については同一符号を付して構成の詳細説明を省略し、動作上の相違点を主に説明する。
図17(a)に示すように、この剥離装置2では、予め全ての吸着ユニット51〜5Nの吸着パッドが基板SBの上面に当接しており、それぞれが基板SBを吸着保持している。この状態から、図7(b)、図7(c)に示すように、吸着ユニット51,52,53,…が順に上昇し基板SBを引き上げることで、剥離を進行させる。この態様では、未剥離の基板SBに当接する上昇前の吸着ユニットが、剥離ローラと同様に、剥離境界線の無秩序な進行を規制する作用をする。特に、Y方向に狭い間隔で多数の吸着ユニットを配することで、剥離の進行制御をより良好に行うことが可能となる。
この態様では、剥離ローラがないため、ローラ速度の設定および吸着開始位置の特定は必要ない。しかし、吸着パッドによる主剥離動作の開始後、次の吸着パッドが主剥離主体となるまでの待ち時間Twの設定が必要になる。この待ち時間Twは、剥離ローラありの場合の各フェーズの持続時間ΔTに対応するものであり、上記実施形態では剥離ローラ340の移動速度により律速されていた剥離の進行速度と同等の剥離進行速度を、吸着パッドの引き上げタイミングの調整によって得るためのものである。仮想的な剥離ローラが一定速度で移動するものと仮定し、当該剥離ローラが吸着パッド間を移動する際の移動時間と考えることもできる。具体的には、図17(d)に示すように、吸着パッド5i7により引き上げられる基板SBが上昇前の吸着パッド5(i+1)7の直下においてブランケットBLとなす角度(剥離角)θが規定値となるように、吸着ユニット5iの上昇速度および移動距離が特定される。
すなわち、図17(d)に示す関係から、吸着パッド5i7の第1移動距離Z1については次式:
Z1=G・tanθ … (式6)
により表される。ここで、符号Gは吸着パッド5i7,5(i+1)7の間のY方向における配列ピッチであり、装置情報から既知である。
さらに、吸着パッド5i7の上昇速度Vu1については次式:
Vu1=Z1/Tw … (式7)
により求めることができる。補助剥離動作または持ち上げ動作をする吸着パッドの動作については、上記した剥離ローラありの場合と同様の考え方で求めることができる。
このように、剥離ローラを設けない剥離装置2においても、フェーズiの持続期間、主剥離主体として動作する吸着パッド5i7の第1上昇速度および第1移動距離の計算式が異なり、また吸引開始位置の概念が不要となるという相違点があるものの、図14に示すレシピ作成処理の手順を適用可能である。
次に、作成された剥離動作のレシピを検証する方法について説明する。上記した作成方法で作成された処理レシピでは、剥離ローラおよび吸着ユニットが適切に協働して剥離が良好に進行するはずである。しかしながら、他の方法で作成された処理レシピや、上記方法で作成された後オペレータにより部分的に改変された処理レシピでは、必ずしもこのことが保証されない。また、装置情報または初期情報の不適切な設定入力によって、上記処理で作成された処理レシピが最適なものとならない場合があり得る。
これらの原因によって、処理レシピに基づいて実行される剥離動作が基板SBの損傷やパターン損傷などの剥離不良を生じるおそれがある。このような問題を未然に防止するために、この剥離装置1では、与えられた処理レシピに対して、下記のレシピ検証処理を実行可能となっている。なお、レシピ検証処理が適用される処理レシピは、上記方法に限定されず、どのような方法で作成されたものでもよい。
レシピ検証処理の概念を説明するために、まずこの剥離装置1における剥離動作の制御プログラムの全体構成について説明する。剥離動作は、CPU701が予め用意された制御プログラムを実行して以下の各機能ブロックを実現し、装置各部を制御することにより実行される。
図18は剥離動作を実行するための制御プログラムの構成を示す図である。より詳しくは、当該制御プログラムにより実現される機能ブロックおよびそれらの間の接続を示すブロック図である。実際の剥離動作では、図において一点鎖線で囲まれた各機能ブロックが使用される。
制御プログラムにより実現される機能ブロックは、主制御部711と、GUI(Graphical User Interface)部712と、実機用DLL(Dynamic Link Library)713と、現在値保存ファイル714とを含む。主制御部711は、剥離動作にかかる主たる動作、例えば図8に示す吸着ユニットの動作シーケンスを実行する。GUI部712は、ユーザからの各種設定入力の受け付けや処理結果の報知を行うためのユーザインターフェースとしての機能を有する。オペレータからの動作指示や作成済みのレシピを記述したファイル720は、GUI部712を介して主制御部711に与えられる。
実機用DLL713は、剥離動作の実行主体として機能する機構部品であるモータやその状態を検出する検出手段としてのセンサなどを、主制御部711からの制御指令に基づき作動させるための制御モジュールを含む。剥離装置1に含まれるモータやセンサ個々の特性に適合するよう特化された制御モジュールが用意される。このような構成とすることで、主制御部711では個々の機構部品の特性を考慮する必要がなくなる。
現在値保存ファイル714は、各種モータ、バルブ、センサ(以下、「モータ等」という)など装置各部の状態を表すデータを保存するためのファイルであり、主制御部711から随時与えられるデータにより更新される。現在値保存ファイル714に保存されたデータから、剥離装置1の各部が現在どのような状態になっているかを随時把握することができる。
このように構成された制御プログラムを用い、しかも装置を実際に動作させることなく処理レシピの検証を可能とするために、検証プログラム721および仮想装置用DLL722が用意される。剥離装置1に対し、オペレータがレシピ検証処理の実行を指示すると、実機用DLL713に代えて仮想装置用DLL722が制御プログラムに組み込まれる。そして、検証の対象となる処理レシピに基づいて制御プログラムが実行される。
仮想装置用DLL722は実機用DLL713と選択的に主制御部711に組み込まれるDLLであり、剥離装置1に装備された各種のモータ等の個々の動作をエミュレートして仮想モータ、仮想センサを実現するための制御モジュールを含む。
仮想装置用DLL722は、主制御部711からの制御指令に対して、実際に機構部品を作動させる実機用DLL713が返す応答と同様の応答を返すように構成される。したがって、主制御部711では、実機用DLL713を介してモータやセンサ等装置各部を実際に動作させている場合と、仮想装置用DLL722を介して仮想モータや仮想センサを動作させている場合とで同じように処理が進行する。このように、実機用DLL713に代えて仮想装置用DLL722を組み込んだ制御プログラムを仮想装置として動作させることにより、実際に装置の可動部を動作させることなく処理レシピの検証を行うことができる。
検証プログラム721は、仮想装置の動作をオペレータが視認可能な態様でシミュレーション表示するためのものである。検証プログラム721は、検証の対象となる処理レシピを実行する仮想装置の動作中、適宜のサンプリング間隔で現在値保存ファイル714からデータを読み出し、その時点の装置各部の状態をシミュレートする。このとき、装置に設けられた各可動部の位置や状態だけでなく、それらの動作によって実現される基板の姿勢についてもシミュレートされる。シミュレーションの結果は、UI部705に設けられた例えば液晶ディスプレイなどの表示手段(図示せず)、またはUI部705に接続された外部の表示装置に表示出力される。
図19は検証プログラムの処理内容を示すフローチャートである。検証プログラムは、図19に示すステップS301〜S312の各処理を所定のサンプリング間隔で繰り返すことにより、処理レシピを検証する。
まず、現在値保存ファイルからデータが読み込まれる(ステップS301)。これにより、剥離装置1を構成するモータ等の現時点の動作状況、位置等のデータが検証プログラムに取り込まれる。次に、剥離ローラ340および各吸着パッド517〜5N7を昇降駆動するモータ、またはこれらの状態を検出するセンサを示すデータの現在値から、剥離ローラ340および各吸着パッド517〜5N7の現在位置が算出される(ステップS302)。各部の位置は、それを検出するセンサの出力から直接的に求められるほか、駆動モータに与えられたパルス数から間接的に求めることも可能である。算出結果に基づき、剥離ローラ340および各吸着パッド517〜5N7の現在位置が表示出力される(ステップS303)。
図20は表示画面の例を示す図である。図20(a)は、算出された剥離ローラ340および吸着パッド517〜5N7の位置を表示した例である(この例ではN=6)。ここでは各吸着パッド517〜5N7の形状が単純な矩形に簡略化されているが、表示態様はこれに限定されず任意である。各吸着パッドの下部に示した丸印は当該吸着パッドの下端の位置を表し、このうち黒丸印(●)は当該吸着パッドが基板SBを吸着保持していることを、白丸印(○)は当該吸着パッドが基板SBを吸着保持していないことを、それぞれ示すものとする。また、剥離ローラ340下部の黒丸印(●)は、実機においては基板SBと当接する剥離ローラ340の下端位置を示す。なお、これらの印は表示画面の説明用に記したものであって、実際の画面にこれらの印が表示されることを意味するものではない。
次に、吸着パッドの吸着の有無に応じて、基板の姿勢を決定付けるいくつかの標本点の位置が決定される(ステップS304)。基板の標本点とは、剥離動作に供される基板のうち装置の部材により保持されることで位置が拘束される位置を表すものである。この剥離装置1では、吸着パッド517〜5N7のうち基板を吸着保持するもの、および未剥離の基板表面に当接する剥離ローラ340との当接位置において、基板が拘束される。
図10(a)に示す黒丸印のそれぞれが、ここでいう標本点に該当する。一方、白丸印で示される各点は、基板を吸着していない吸着パッドの下端を示しており、これらの吸着パッドは当然に基板の姿勢に影響しないので、これらの各点は、この時点での標本点には該当しない。
これらの標本点の間を適宜に補間することで基板の姿勢がシミュレートされ、シミュレーション結果が表示出力される(ステップS305)。図10(b)の例では、標本点間が直線補間されて基板SBの姿勢が折れ線により表示されているが、適宜のスムージングにより曲線補間がなされてもよい。ただし、標本点の位置は不変であることが好ましい。このようなシミュレーション表示がなされることにより、オペレータは剥離動作中に刻々と変化する基板SBの姿勢を画面上で確認することができる。
例えば図20(c)に示すように、表示された基板SBが大きなうねりを有する場合や、極端に大きな屈曲を有している場合、基板SBまたは転写されたパターンにダメージを与えたり、吸着パッドによる保持が失敗して基板SBが落下したりするおそれがある。このような状況が現れる処理レシピは不適切であるということができる。
なお、実機においては、吸着パッドが基板に接触したにもかかわらず吸着が失敗するケースがあり得る。このような基板保持の成否を仮想装置上で推定することは容易でないが、このようなシミュレーション表示を行う上では、負圧が供給された状態の吸着パッドが基板に接触した場合には吸着保持が開始されるものとみなしてよい。
次に、今回のサンプリング時において、吸着パッドによる吸着が新たに開始されたか否かが判断される(ステップS306)。すなわち、前回のサンプリング時において吸着状態になかった吸着パッドが吸着状態に変化していたとき、当該吸着パッドによる吸着が開始されたと判断される。
図21は吸着パッドと基板との位置関係を示す図である。あるサンプリング時において、図21(a)に示すように吸着パッド5(i+1)7が非吸着状態であり、次のサンプリング時において図21(b)に示すように吸着パッド5(i+1)7が吸着状態となっていれば、新たな吸着ありと判断される(ステップS306においてYES)。このとき、当該吸着パッド5(i+1)7と、当該吸着パッドに隣接し既に基板SBを吸着している吸着パッド5i7との間隔Daが求められる。
図21(b)に示す位置関係から、パッド間隔の初期値Daについては次式:
Da=(G2+ΔZ2)1/2 … (式7)
により表すことができる。ここで、Gは装置情報から把握される吸着パッド間のY方向における配列ピッチである。また、ΔZはその時点における2つの吸着パッド5i7,5(i+1)7の高さの差であり、現在値保存ファイル714から読み出されたデータから把握される。(式7)により求められた値Daはパッド間隔の初期値として記憶保存される(ステップS307)。新たな吸着がなければ(ステップS306においてNO)、ステップS307はスキップされる。
続いて、現時点で基板SBを吸着保持している全ての吸着パッドについて、隣接配置されたもの同士でパッド間隔Dbが求められる(ステップS308)。例えば吸着パッド517,527が基板SBを吸着し、他の吸着パッドは基板SBを吸着していない場合、吸着パッド517,527間の間隔が求められる。また例えば、吸着パッド517〜547が基板SBを吸着している場合、吸着パッド517,527間の間隔、吸着パッド527,537間の間隔、および吸着パッド537,547間の間隔が、それぞれパッド間隔Dbとして個別に求められる。パッド間隔Dbの求め方は上記と同じであり、図21(c)に示すように、2つの吸着パッド間のY方向における配列ピッチGと、その時点における2つの吸着パッド間の高さの差ΔZとに基づき算出される。
2つの吸着パッドの両方での基板SBの吸着が開始された時点での両者のパッド間隔Daに対し、その後の基板SBの姿勢変化に起因して、現時点のパッド間隔Dbは必ずしも同一値とならない。このようなパッド間隔の変化は、2つの吸着パッドにより保持された基板SBが剥離の進行に伴ってその主面に沿った方向に圧縮または伸長されることを意味している。このような基板SBの伸縮も、基板SBやパターンにダメージを与える原因となり得る。
そこで、吸着開始時のパッド間隔Daに対する現在のパッド間隔Dbの比の値Cが求められ(ステップS309)、その値Cが予め定められた許容範囲内にあるか否かが判断される(ステップS310)。比の値Cが1であれば基板SBの伸縮はなく、1より大きければ基板SBは伸長される。また、1より小さければ基板SBは圧縮される。したがって、許容範囲の値としては1を含んでその前後に設定される。
比の値Cが許容範囲を超えているとき(ステップS310においてNO)、基板SBに過度な圧縮または伸長が加わるおそれがあることを示す警告メッセージが表示される(ステップS311)。比の値Cが許容範囲内であれば(ステップS310においてYES)、ステップS311はスキップされる。この他、例えば標本点の位置から基板SB各部の曲率を算出し、その値が許容範囲を超えるときに警告メッセージが表示されるようにしてもよい。
検証処理が終了するまで(ステップS312)、上記処理が一定のサンプリング間隔で繰り返し実行される。その結果、剥離動作の進行につれて、画面表示される装置各部の位置および基板SBの姿勢が刻々と変化してゆき、与えられた処理レシピに基づく剥離動作の進行状況がアニメーション表示として示される。オペレータは、この画面を見て処理レシピの適否を判断することができる。また、警告表示すべき条件が満たされるか否かにより、処理レシピの適否が自動的に判断されるように構成されてもよい。このようにして、処理レシピの検証が行われる。
以上説明したように、この実施形態においては、ブランケットBLおよび基板SBがそれぞれ本発明の「第1板状体」および「第2板状体」に相当している。また、吸着ユニット51〜5N、特に吸着パッド517〜5N7が本発明の「剥離手段」として機能している。また、剥離ローラ340が本発明の「ローラ部材」として機能している。また、各吸着ユニットの第1下降速度Vd1が本発明の「接近移動速度」に相当する。また、上記実施形態においては、(+Y)方向が本発明の「剥離方向」に相当し、ある部材からみて(+Y)側が「下流側」、(−Y)側が「上流側」に相当している。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態の剥離装置1は、搬入されるワークWKに対する剥離動作を実行する機能と、該剥離動作のための処理レシピを作成する機能と、処理レシピを検証する機能とを兼備するものである。しかしながら、これらの機能が独立して個別の装置として実現されてもよい。
例えば、処理レシピ作成機能とその検証機能とが、剥離装置1とは別体のコンピューター装置上で実行されるプログラムとして実現されてもよい。また例えば、剥離装置1の制御ユニット70の少なくとも一部が剥離装置1とは別体のワークステーションとして構成され、該ワークステーション上で処理レシピ作成機能とその検証機能とが実現されてもよい。また例えば、処理レシピ作成に対し本発明を適用することで処理レシピの最適化が図れるため、処理レシピの検証機能は省かれてもよい。
また、上記実施形態の剥離装置1は、本発明にかかる処理レシピ作成方法を好適に適用可能な装置の一例として記載したものであって、装置構成は上記に限定されるものではない。
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明では、第1工程において、離間移動における剥離手段各々の移動速度が、剥離方向における剥離の進行速度が所定速度となるために必要な速度とされてもよい。また、第1工程では、離間移動における剥離手段各々の移動速度が、当該剥離手段が主剥離主体である期間の終了時に剥離直後の第1板状体の主面と第2板状体の主面とがなす角が所定角度となるために必要な速度とされてもよい。
また、第2工程では、離間移動における剥離手段各々の移動速度が、当該期間に主剥離主体である他の剥離手段の移動速度に所定の係数を乗じた値とされてもよい。この場合において、主剥離主体である剥離手段が互いに異なる複数の期間ごとに、個別に係数が設定されてもよい。
また、剥離装置が、第2板状体の表面に当接しながら剥離方向に移動することで剥離の進行を規制するローラ部材を備え、剥離手段の各々は、第2板状体から離間した退避位置から、ローラ部材の通過後に第2板状体に向かって接近移動して第2板状体に当接し、第1工程では、一の剥離手段が離間移動を開始してから、剥離方向において当該剥離手段の下流側において隣接する一の剥離手段が接近移動により第2板状体に当接するまでの期間が、当該剥離手段が主剥離主体である期間とされてもよい。
この場合、剥離方向へのローラ部材の移動速度が一定であり、第1工程では、ローラ部材の移動速度に基づき、剥離手段各々が主剥離主体である期間が求められてもよい。さらに、剥離手段が接近移動を開始する接近開始タイミングが、当該剥離手段とローラ部材との相対位置に基づいて予め定められるとともに、剥離手段が接近移動する際の接近移動速度が予め定められており、第1工程では、ローラ部材の移動速度と接近開始タイミングと接近移動速度とに基づいて、剥離手段各々が主剥離主体である期間が求められてもよい。
また、この発明においては、剥離装置は、一の剥離手段が離間移動を開始した後、所定の待機時間の経過後に、剥離方向において当該剥離手段の下流側において隣接する一の剥離手段が離間移動を開始するように構成され、第1工程では、離間移動における剥離手段各々の移動速度が、待機時間に基づいて求められてもよい。