以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法の構成例について説明する。
本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法は以下の工程を有していることが好ましい。
坩堝内に配置された原料融液の上方であって、原料融液表面から離隔した位置に種結晶を配置する種結晶配置工程。
種結晶配置位置に配置した種結晶の表面を撮像素子により撮影する種結晶表面撮影工程。
種結晶表面撮影工程において、撮像素子により撮影した画像からシーディングを実施するタイミングに達したかを判定するシーディングポイント判定工程。
シーディングを実施するタイミングの判定は、原料融液がシーディングに適した温度に達したか否かを判定することにより行える。従来の技術においては既述のように原料融液の温度の検知が困難であったことからシーディングを実施するタイミングを適切に判定することができていなかった。
そこで本発明の発明者らが原料融液の温度がシーディングに適した温度に達したことを判定する方法を検討したところ、原料融液の表面から離隔した種結晶配置位置に種結晶を配置した際の、種結晶表面の溶融状態から判定できることを見出し、本発明を完成させた。
まず、本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法は、公知の単結晶育成装置において実施することができ、例えば、チョクラルスキー型単結晶引上装置において好適に実施することができる。
ここでは、図1に示すような単結晶育成装置10を用いた場合を例に説明する。
単結晶育成装置10は、単結晶用原料を入れる坩堝11を炉体16内の支持軸12の上に配置している。そして、単結晶用原料を加熱融解するために、坩堝11の側面に側面ヒータ13が、また、坩堝11の下方に円盤状のボトムヒータ14がその中心部に支持軸12が貫通する形で配置されている。側面ヒータ13の周囲、ボトムヒータ14の下方には、断熱材15が炉体16の内面に沿って設けられている。また、坩堝11上部に上下動可能な引き上げ軸17が、断熱材15を貫通する形で設けられている。
坩堝11の材質は特に限定されるものではないが、十分な耐熱性を有し、単結晶用原料と反応しない材質であることが好ましく、例えば、モリブデン、タングステンもしくはそれらの合金のいずれかを好ましく用いることができる。
また、側面ヒータ13及びボトムヒータ14、断熱材15の材質についても特に限定されるものではなく、製造する単結晶の材料により、要求される加熱温度等に基づいて選択することができる。例えばカーボン製のヒータ、断熱材を好ましく用いることができる。側面ヒータ13およびボトムヒータ14の発熱体としては例えばカーボン粒子あるいは炭素繊維の成形体を好ましく用いることができる。また、断熱材15としては例えばカーボンフェルト断熱材を好ましく用いることができる。
本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法においては、まず、原料融液を用意するために、炉体16内の坩堝11に単結晶用原料を充填し、加熱融解して原料融液18とすることができる。
なお、単結晶用原料については、製造する単結晶により任意に選択することができ特に限定されるものではない。例えば単結晶としてサファイア単結晶すなわち酸化アルミニウム単結晶を製造する場合、酸化アルミニウム単結晶用原料については特に限定されるものではなく、通常の酸化アルミニウム単結晶用原料を用いることができる。酸化アルミニウム単結晶用原料は、少なくとも実質的にAlとOの2元素からなる酸化アルミニウムを含んでいる。そして、目的とする酸化アルミニウム単結晶の種類に合わせて、AlとOのほかに、Ti、Cr、Si、Ca、Mg等を含んでいてもよい。このうちSi、Ca、Mgなどは、焼結助剤の成分として不可避的に含まれうるが、その含有量は極力少ないことが望ましい。特に、Siは10重量ppm以下であることが好ましい。また、酸化アルミニウム単結晶用原料の直径や密度は、特に制限されないが、取り扱い上、密度は、酸化アルミニウム単結晶の密度に近い方が望ましい。
酸化アルミニウム単結晶用原料として酸化アルミニウム焼結体を用いる場合、例えば、半導体製造用の市販品を使用できる。また、次に示すような方法によって製造することもできる。例えば、焼成するとαアルミナに転化するαアルミナ前駆体のゾル又はゲルにαアルミナ粒子を種結晶として添加する。次いで、αアルミナ前駆体としてゾルを用いた場合は、ゾルをゲル化した後、この種結晶を添加されたαアルミナ前駆体のゲルを900℃〜1350℃の温度で焼結し、得られる焼結生成物を粉砕したものを単結晶用原料とする。また、ベルヌーイ法で製造された酸化アルミニウム単結晶用原料を粉砕して得られるクラックル原料も使用できる。
坩堝11に単結晶用原料を充填した後、側面ヒータ13及びボトムヒータ14を作動させて単結晶用原料を加熱する前に、炉体16内を不活性ガスで置換しておくことが好ましい。そして、上述のように、側面ヒータ13及びボトムヒータ14を作動させて単結晶用原料を加熱し、原料融液18とすることができる。
この際、原料融液18を生成した後、原料融液18の温度は特に限定されるものではなく、少なくとも、単結晶用原料の融点以上であれば足りる。ただし、種結晶配置工程前に、原料融液18の温度を、単結晶用原料の融点(mp)よりも15℃以上30℃以下高温に制御する原料融液温度制御工程を行うことが好ましい。すなわち、少なくとも種結晶19を種結晶保持位置に保持する前に原料融液18の温度Tは、mp+15≦T≦mp+30に制御されることが好ましい。
これは、原料融液18の温度Tがmp+15℃未満の場合、種結晶19を原料融液18表面に近づけた際、種結晶19を近づけたことにより原料融液18の熱が奪われて原料融液18の表面が固化してしまう場合があるためである。また、原料融液18の温度Tが、mp+30℃よりも高い場合、種結晶19を原料融液18に近づけた際に種結晶19自身が融解してしまう場合があるためである。特に、原料融液温度制御工程において、原料融液18の温度は、単結晶用原料の融点よりも20℃以上25℃以下高温に制御することがより好ましい。
原料融液温度制御工程を行う場合、熱電対により原料融液18表面を直接測定するのは困難であるが、例えば炉体16内の適当な場所の温度を代替値とすることができる。例えば、断熱材15の内部の温度を代替値とすることができる。この場合、比較的低温での温度測定のため、熱電対の劣化を抑えることができる。
断熱材15に設置した熱電対の検知温度は、坩堝11内の単結晶用原料が融解する際にプラトーになる。このため、断熱材15の温度がプラトーのときに、坩堝11内の単結晶用原料が融点になっていると判断でき、プラトーになった際の検知温度から、所望の温度だけ昇温することにより原料融液の温度を制御することができる。用いる熱電対の種類は特に限定されるものではなく、検出する温度域に対応した熱電対を用いることができ、例えば、白金ロジウム熱電対を好ましく用いることができる。また、断熱材15に設置した熱電対に限らず、放射温度計により原料融液の温度を測定することもできるが放射温度計の場合、原料融液の表面状態等により誤差を生じる場合があるため、本工程では断熱材15に設置した熱電対により温度を検出することが好ましい。
そして、上記のように原料融液を準備した後、本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法を実施できる。
上述のようにまず、種結晶配置工程を実施することができる。種結晶配置工程では、坩堝内に配置された原料融液の上方であって、原料融液表面から離隔した位置に種結晶を配置することができる。
種結晶の配置位置については特に限定されるものではなく、用いる単結晶育成装置のサイズ等により任意に選択することができ、特に限定されるものではない。
種結晶配置工程における種結晶19と原料融液18との位置の関係について図2を用いて説明する。図2は種結晶配置工程における種結晶19および原料融液18の位置関係を模式的に示したものであり、その他の構成は記載を省略して示している。図2に示したように種結晶配置工程においては種結晶19は、原料融液18の上方の種結晶配置位置に配置される。
ここで、種結晶配置位置は上述のように特に限定されるものではないが、原料融液18の表面181と、種結晶19の下端部、すなわち、種結晶19の原料融液18側の端部と、の間の距離hが、2mm以上10mm以下となる位置とすることが好ましい。特に距離hは、3mm以上5mm以下であることがより好ましい。
これは、原料融液18の表面181と、種結晶19の下端部との間の距離hが10mmよりも長くなると、原料融液18表面の温度を適切に反映しない場合があるためである。また、原料融液18の表面181と、種結晶19の下端部との間の距離hが2mmよりも短いと、種結晶19表面が融解した際に生成する融液が、種結晶19を伝って種結晶下端部に垂れ下がり、原料融液18と種結晶19とが接触してしまう場合があるためである。
なお、種結晶19は、製造する単結晶に応じて選択することができ、例えばサファイア単結晶を製造する場合には、酸化アルミニウムの種結晶を用いることができる。
種結晶19の形状については特に限定されない。ただし、種結晶表面を構成する面方位により融解の状態が異なる、すなわち温度への感応性が異なるため、種結晶の形状は円柱状のように特定面で構成されない形状よりも、多角形の棒状の方が、特定の面に注目して種結晶表面融解を確認しやすく、好ましい。このため、例えば種結晶19として直方体形状のものを好適に用いることができる。
後述のように種結晶19の表面が融解したか否かを種結晶19表面の輝度により判断する場合、光の輝度の変化がより判断しやすいように、種結晶表面の少なくとも一部を予め梨地状に荒らしておくこともできる。この際、種結晶19の梨地状とした部分の表面粗さは特に限定されるものではないが、種結晶19の表面が融解した際に光の輝度の変化が識別しやすくなる程度の表面粗さとしておくことが好ましい。具体的には、例えば、種結晶表面の少なくとも一部の表面粗さRaを0.3μm以上1.0μm以下とすることが好ましく、0.4μm以上0.7μm以下とすることがより好ましい。これは、種結晶19表面の表面粗さRaが0.3μmよりも小さいと、種結晶19表面が融解する前から透明に見える場合があり、かえって光の輝度の変化を判断しにくくなる恐れがあるためである。また、種結晶19表面の表面粗さRaが1.0μmより大きいと、種結晶19の表面が荒れているため、原料融液18と接触させた際に複数の凹凸部より核が発生することで粒界が発生しやすくなる場合があるためである。なお、上述の種結晶表面の表面粗さRaは、炉体16内に種結晶を設置する前の種結晶表面の表面粗さを意味している。また、表面粗さは例えばJIS B 0601に規定されており、例えば触針法もしくは光学的方法等により評価することができる。
この際、種結晶表面全体を梨地状とすることもできるが、少なくとも観察している面について梨地状としていればよい。
種結晶配置工程において上述の種結晶配置位置に種結晶を配置した後、種結晶の位置を変更させずに一定時間保持する。なお、種結晶は引き上げ軸17を回転軸として、種結晶配置工程で配置した場所で回転させることができる。これにより、原料融液からの熱を種結晶の表面で均一に受けることができる。
そして種結晶配置位置に配置した種結晶表面の融け具合から、原料融液の温度がシーディングに適した温度に達したことを判定できる。すなわち、シーディングを実施するタイミングに達したかを判定できる。
具体的には以下の種結晶表面撮影工程と、シーディングポイント判定工程と、を実施することにより、シーディングを実施するタイミングに達したかを判定できる。以下、両工程について説明する。
種結晶表面撮影工程は、原料融液18の上方に配置した種結晶19の表面を撮像素子22により撮影することにより行うことができる。この際、種結晶19の任意の面について撮像素子22により撮影することができる。ただし、種結晶表面撮影工程と、シーディングポイント判定工程とを繰り返し実施する場合、種結晶表面の輝度の変化を把握できるように、種結晶19の表面のうち、予め選択した面を撮影することが好ましい。
例えば図2に示すように撮像素子22は、種結晶19の表面を撮影できる位置に配置できる。撮像素子22は種結晶表面の状態を撮影できればよく、具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば、撮像素子は256諧調より大きな高諧調カメラであることが好ましい。これは、原料融液がシーディングに適した温度に達した場合、炉内は高温になり、原料融液の輻射熱により炉内がまぶしく、種結晶の表面が見えにくいが、高諧調カメラを用いることにより種結晶表面の輝度の分解能を高くできるためである。
なお、図2では模式的に示しているため、撮像素子22が坩堝の近くに配置されているが、通常、撮像素子22は炉体外に設置され、炉体16に設けられた覗き窓から種結晶19の表面を撮影することができる。
また、上述のように種結晶を回転させている場合、種結晶のうち予め選択した面が撮像素子22の前を通過する際に、種結晶の表面を撮影することができる。
次に、撮像素子により撮影した画像からシーディングを実施するタイミングに達したかを判定するシーディングポイント判定工程を実施することができる。
原料融液の温度が十分に高くシーディングに適した温度になっている場合、種結晶配置工程において、原料融液の表面から所定の距離離隔した位置に配置された種結晶は、表面から融け始める。従って、種結晶表面撮影工程において撮影した画像から、種結晶表面が融解し始めたことを確認できた場合、原料融液がシーディングに適した温度となっていると判定することができる。すなわち、シーディングを実施するタイミングに達したことを判定することができる。
ただし、原料融液がシーディングに適した温度に達している場合、炉内は高温になり、原料融液の輻射熱により炉内がまぶしくなっているため、撮影した画像から目視で種結晶表面が融解していることを判定することは困難な場合がある。また、撮影した画像から目視で種結晶表面が融解していることを判定する場合、作業者により判定の基準が異なり、安定した品質の単結晶を製造することが難しくなる。
そこで、本発明の発明者らが、種結晶表面が溶融していることを容易に判別できる方法を検討したところ、種結晶表面が溶融し始めた際に表面の一部がシワ状に変化する現象を発見した。すなわち、種結晶表面の一部がシワ状に変化した際に、種結晶表面が融解したと判定することができることを発見した。
ここで、種結晶表面が融解を始めた際の状態変化について図3を用いて説明する。図3は、種結晶の選択された一つの面について表面が融解を始めた時の状態を模式的に示している。種結晶は表面が融解を始めると透明になり、図3に示すように、種結晶19の下端部、すなわち、原料融液側の端部、から一定の距離離隔した部分の種結晶表面に横線状のシワ31が発生する。従って、種結晶の表面を撮像素子で撮影した画像からシワ31を検知できた場合、種結晶の表面が融解していることを判定することができる。すなわち、原料融液がシーディングに適した温度に達したことを判定することが可能になる。
種結晶19表面にシワ31が発生したことを検知する方法は特に限定されるものではなく、例えば種結晶表面撮影工程で撮影した画像から、目視により検知することもできる。ただし、安定した品質の単結晶を製造する観点から、自動的に検知できるように種結晶表面撮影工程で撮影した画像を画像処理し、シワ31の発生を検知できることが好ましい。
画像処理の具体的方法は特に限定されるものではないが、例えば、種結晶19表面の輝度分布の変化を検知することにより、シワ31の発生を検知することができる。すなわち、シーディングポイント判定工程において、種結晶表面撮影工程で撮影した画像から算出した種結晶表面の輝度に基づいて、シーディングを実施するタイミングに達したかを判定することができる。
具体的には例えば以下の手順により、シワ31の発生を検知することができる。
まず、上述した種結晶表面撮影工程において、種結晶の表面のうち、予め選択した一の面について撮像素子により撮影する。
そして、シーディングポイント判定工程は以下の二つのステップを有していることが好ましい。
種結晶表面撮影工程において撮影した種結晶の一の面について、高さ方向に複数の領域に分け、各領域について輝度の平均値を算出する輝度算出ステップ。
輝度算出ステップにおいて算出した各領域の輝度のうち少なくとも一部の領域が、予め定めた輝度閾値を超えた場合に、シーディングを実施するタイミングに達したことを判定する判定ステップ。
まず、輝度算出ステップについて説明する。
図4に種結晶表面撮影工程において撮影した画像の例を示す。既述のように、通常撮像素子は炉体の外に配置され、炉体に形成された覗き窓から撮影するため、例えば図4に示すように、種結晶19の一部と、原料融液181の表面とが写った画像を取得できる。
そして、図4において、種結晶19の高さ方向は図中矢印Zで示した方向であり、該高さ方向について、種結晶の一の面を領域41A〜41Dに分ける。この際、図4に示すように各領域が種結晶19の底辺191と平行になるように分けることが好ましい。なお。図中では種結晶19の一部の領域についてのみ複数の領域に分割しているが、撮影した種結晶19の表面全体を複数の領域に分割することもできる。また、各領域にサイズは特に限定されるものではなく、用いた撮像素子の分解能力等に応じて任意に選択できる。
分割した各領域の輝度の算出方法は特に限定されるものではないが、例えば以下の手順により算出することができる。ここでは分割した領域41Aの輝度の算出方法を例に説明する。まず、領域41Aをさらに、種結晶19の選択した面(撮影した面)の底辺191に沿って、複数の領域に分割する。図中領域41Aについて、領域411A〜414Aの4つの領域に分割した例を示している。そして、分割した領域411A〜414Aの各領域について例えば411Aから414Aの方向に順番に輝度を算出し、領域411A〜414Aの輝度の平均値を領域41Aの輝度とすることができる。領域41B〜領域41Dについても同様にして輝度を算出することができる。
次に判定ステップについて説明する。
輝度算出ステップにおいて算出した各領域の輝度について、領域41A〜領域41Dの、種結晶19の底辺からの距離を横軸に、各領域の輝度を縦軸にとったグラフの模式図を図5に示す。
図5に線Aで示したように、原料融液の温度が十分に高温になっておらず、種結晶表面が融解していない場合には、種結晶表面の輝度は高さ方向に分割した各領域間で大きな差はなく、ほぼ均一に低い値を取る。
これに対して、原料融液の温度が十分に高温になり、シーディングに適した温度に達した場合、既述のように種結晶表面が融解することから、図5中線Bで示したように、線Aの場合と比較して輝度が高くなる。そして、上述のように種結晶の表面には横線状のシワ31が発生するため、シワ31の部分での光の散乱により、局所的に輝度が高くなる。このため、高さ方向に分割した領域のうち、シワ31を含む領域については他の部分よりも輝度が高くなる。このため、輝度閾値51を予め規定しておき、本ステップにおいて各領域の輝度と輝度閾値51とを比較し、輝度閾値51を超えた領域があった場合にシワ31が発生したと判定することができる。
従って、シーディングポイント判定工程は、輝度算出ステップにおいて各領域の輝度を算出し、算出した各領域の輝度のうち少なくとも一部の領域が、予め定めた輝度閾値を超えた場合に、シーディングを実施するタイミングに達したことを判定することができる。
種結晶表面撮影工程及びシーディングポイント判定工程の間、原料融液の温度は一定に保っておいてもよいが、原料融液を加熱することもできる。ただし、原料融液を加熱しながら種結晶表面撮影工程及びシーディングポイント判定工程を行う場合、原料融液の昇温速度が速すぎると、原料融液がシーディングに適した温度になっていると判定した際には、原料融液がさらに高温となってしまう。このため、例えば図1に示した単結晶育成装置10を用い単結晶を育成する場合、炉体16内の昇温速度は0.2℃/min以下とすることが好ましい。
なお、種結晶表面撮影工程およびシーディングポイント判定工程は、種結晶配置工程で種結晶を種結晶配置位置に配置した後、繰り返し実施することが好ましい。繰り返し実施することにより、原料融液がシーディングに適した温度に達したタイミングをより確実に検出することが可能になる。
以上本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法について説明したが、係るシーディングを実施するタイミングの検知方法によれば、種結晶の表面が融解する現象を利用して原料融液の温度を検知するため、再現性良く正確にシーディングを実施するタイミングを検知できる。また、種結晶の表面の状態から原料融液の温度を検知するため、原料融液に不純物が混入することを防止できる。
シーディングを実施するタイミングを検知した後の操作については特に限定されるものではないが、例えば以下の手順によりシーディングを行い、単結晶を製造することができる。すなわち、上述したシーディングを実施するタイミングの検知方法を含む単結晶の製造方法とすることができる。
まず、シーディングポイント判定工程において、シーディングを実施するタイミングに達したと判定した場合には、まず、シーディング操作の準備を開始する。具体的には例えば、種結晶19を、種結晶配置位置よりも原料融液18の表面181から離隔した位置に一旦移動する種結晶位置移動工程を行うことが好ましい。これは、原料融液がシーディングに適した温度に達した後も種結晶をそのまま同じ種結晶配置位置に保持しておくと種結晶19全体が融解する恐れがあるためである。具体的に種結晶19を移動する位置は特に限定されるものではないが、例えば、原料融液18の表面181と種結晶19の下端部との間の距離が50mm以上になる位置に移動することが好ましい。なお、炉体16内の雰囲気を壊さないため、種結晶19はこの場合も炉体16内に配置しておくことが好ましい。
次に、シーディングポイント判定工程においてシーディングを実施するタイミングに達したと判定した時の原料融液18の温度を基準として、種結晶19と原料融液18とを接触させる時の原料融液18の温度を決定する原料融液温度決定工程を行うことができる。
種結晶19と原料融液18とを接触させる時の原料融液18の温度、すなわち、シーディング温度Tsは特に限定されるものではない。シーディングポイント判定工程において、シーディングを実施するタイミングに達したと判定した時の原料融液18の温度Tmeltを基準として選択することができる。例えば、シーディングを実施するタイミングに達したと判定した時の原料融液の温度Tmeltから、0.5℃以上4℃以下低い温度を、種結晶19と原料融液18とを接触させる時の原料融液18の温度、すなわち、シーディング温度Tsと決定することが好ましい。特に、シーディングを実施するタイミングに達したと判定した時の原料融液の温度から1.5℃以上3℃以下低い温度をシーディング温度Tsとすることがより好ましい。すなわち、Tmelt−4≦Ts≦Tmelt−0.5の関係を満たすことが好ましく、Tmelt−3≦Ts≦Tmelt−1.5の関係を満たすことがより好ましい。
シーディング温度Tsを、Tmeltよりも0.5℃以上低い温度とすることにより、シーディングの際、または、シーディングの直前に、原料融液18からの熱の移動により種結晶19が完全に融解することをより確実に防止できる。このため、上記のようにTs≦Tmelt−0.5とすることが好ましい。
また、シーディング温度Tsを、Tmeltから4℃を超えて低い温度とした場合、シーディングの際、原料融液18の温度が低下し、結晶が急成長し、粒界が生じる恐れがある。このため、上記のようにTmelt−4≦Tsとすることが好ましい。
次に、原料融液18の温度を原料融液温度決定工程において決定されたシーディング温度に降温する原料融液降温工程を実施することができる。原料融液降温工程においては、例えば、側面ヒータ13および/またはボトムヒータ14の温度を調整することにより原料融液の温度を降温できる。この際、原料融液温度決定工程において決定されたシーディング温度に降温することから、例えば、上述のように種結晶19の表面が融解した時の原料融液18の温度から、原料融液18の温度を0.5℃以上4℃以下降温することが好ましい。また、種結晶19の表面が融解したときの原料融液18の温度から、原料融液の温度を1.5℃以上3℃以下降温することがより好ましい。
原料融液温度決定工程において基準とする温度、及び、原料融液降温工程において温度制御に用いる温度は、炉体16内の適当な場所、例えば、断熱材15の内部に設けた熱電対での温度を原料融液18の温度の代替値として用いることができる。
原料融液のように高温の被測定物の場合、熱電対の表示温度は再現性を欠く場合が多いが、温度差については比較的正確に表示することができる。このため、シーディングポイント判定工程において、シーディングを実施するタイミングに達したと判定した際の、該熱電対での検知温度を基準として、該検知温度から所定温度低い温度までの降温を再現性よく実施することができる。このように、原料融液を直接接触しない場所に設置した熱電対を用いることにより、比較的低温での温度測定が可能となり、指標として用いる温度差の再現性が向上する。なお、熱電対に限らず、例えば、放射温度計を用いることもできるが、上述のように放射温度計は原料融液の表面状態等の影響を受ける恐れがあるため、熱電対により制御を行うことが好ましい。
そして、原料融液降温工程の後、原料融液と、種結晶とを接触させるシーディング工程を行うことができる。
シーディング工程の後は単結晶20の育成を行う結晶育成工程を行うことができる。結晶育成工程における結晶育成方法は特に限定されるものではなく、公知の結晶育成方法を用いることができる。例えば、種結晶19を回転させながら、徐々に引き上げることにより単結晶20を育成することができる。
得られた単結晶20については、用途に応じて任意の形状に加工する形状加工工程を実施することができる。例えば単結晶20をウエハー状にスライスして、ウエハーの両面または片面、場合によっては端面部分についてもポリッシュ研磨を行うことができる。
本実施形態で説明した単結晶の製造方法においては、適切なタイミングでシーディングを行うことができるため、粒界を含まない単結晶を高い歩留まりで製造することができる。