以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[第1の実施形態]
本発明のシーディングを実施するタイミングの検知方法の構成例について説明する。
本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法は、以下の工程を有することができる。
坩堝内に配置された原料融液の上方であって、前記原料融液表面から離隔した位置に種結晶を配置する種結晶配置工程。
前記種結晶表面を撮像素子により撮影する種結晶表面撮影工程。
前記種結晶表面撮影工程で撮影した画像において、前記種結晶表面に前記原料融液表面の対流の様子が映りこんでいるかを判定する映りこみ判定工程。
シーディングを実施するタイミングの判定は、原料融液がシーディングに適した温度に達したか否かを判定することにより行える。従来技術においては既述のように原料融液の温度の検知が困難であったことからシーディングを実施するタイミングを適切に判定することができていなかった。
そこで、本発明の発明者らが原料融液の温度がシーディングに適した温度に達したことを判定する方法について検討を行った。そして、原料融液の上方であって、原料融液の表面から離隔した位置に種結晶を配置し、種結晶表面へ原料融液表面の対流の様子が映りこんでいる場合には原料融液の温度がシーディングに適した温度に達したと判定できることを見出し、本発明を完成させた。
本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法は、公知の単結晶育成装置において実施することができる。例えば、炉体内の坩堝に単結晶用原料をいれて加熱溶融して原料融液とした後、原料融液に種結晶を接触させて成長結晶を得る融液固化法による単結晶育成装置において実施できる。具体的には、例えばチョクラルスキー型単結晶引上装置において好適に実施することができる。
ここでは、図1に示すような単結晶育成装置10を用いた場合を例に説明する。
単結晶育成装置10は、単結晶用原料を入れる坩堝11を炉体16内の支持軸12の上に配置している。そして、単結晶用原料を加熱融解するために、坩堝11の側面に側面ヒータ13が、また、坩堝11の下方に円盤状のボトムヒータ14がその中心部に支持軸12が貫通する形で配置されている。側面ヒータ13の周囲、ボトムヒータ14の下方には、断熱材15が炉体16の内面に沿って設けられている。なお、図1では、ボトムヒータ14の下方については記載を省略している。また、炉の上部には反射板21を設置することができる。
そして、坩堝11上部に上下動可能であり、その先端部に種結晶19を保持できる引き上げ軸17が、断熱材15を貫通する形で設けられている。
坩堝11の材質は特に限定されるものではないが、十分な耐熱性を有し、単結晶用原料と反応しない材質であることが好ましく、例えば、モリブデン、タングステンもしくはそれらの合金のいずれかを好ましく用いることができる。
また、側面ヒータ13及びボトムヒータ14、断熱材15の材質についても特に限定されるものではなく、製造する単結晶の材料により、要求される加熱温度等に基づいて選択することができる。例えばカーボン製のヒータ、断熱材を好ましく用いることができる。側面ヒータ13およびボトムヒータ14の発熱体としては例えばカーボン粒子あるいは炭素繊維の成形体をより好ましく用いることができる。また、断熱材15としては例えばカーボンフェルト断熱材をより好ましく用いることができる。
本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法においては、まず、原料融液を用意するために、炉体16内の坩堝11に単結晶用原料を充填し、加熱融解して原料融液18とすることができる。
なお、単結晶用原料については、製造する単結晶により任意に選択することができ特に限定されるものではない。例えば単結晶としてサファイア単結晶すなわち酸化アルミニウム単結晶を製造する場合、酸化アルミニウム単結晶用原料については特に限定されるものではなく、通常の酸化アルミニウム単結晶用原料を用いることができる。酸化アルミニウム単結晶用原料は、少なくとも実質的にAlとOの2元素からなる酸化アルミニウムを含んでいる。そして、目的とする酸化アルミニウム単結晶の種類に合わせて、AlとOのほかに、Ti、Cr、Si、Ca、Mg等を含んでいてもよい。このうちSi、Ca、Mgなどは、焼結助剤の成分として不可避的に含まれうるが、その含有量は極力少ないことが望ましい。特に、Siは10重量ppm以下であることが好ましい。また、酸化アルミニウム単結晶用原料の直径や密度は、特に制限されないが、取り扱い上、密度は、酸化アルミニウム単結晶の密度に近い方が望ましい。
酸化アルミニウム単結晶用原料として酸化アルミニウム焼結体を用いる場合、例えば、半導体製造用の市販品を使用できる。また、次に示すような方法によって製造することもできる。例えば、焼成するとαアルミナに転化するαアルミナ前駆体のゾル又はゲルにαアルミナ粒子を種結晶として添加する。次いで、αアルミナ前駆体としてゾルを用いた場合は、ゾルをゲル化した後、この種結晶を添加されたαアルミナ前駆体のゲルを900℃〜1350℃の温度で焼結し、得られる焼結生成物を粉砕したものを単結晶用原料とする。また、ベルヌーイ法で製造された酸化アルミニウム単結晶用原料を粉砕して得られるクラックル原料も使用できる。
坩堝11に単結晶用原料を充填した後、側面ヒータ13及びボトムヒータ14を作動させて単結晶用原料を加熱する前に、炉体16内を不活性ガスで置換しておくことが好ましい。そして、上述のように、側面ヒータ13及びボトムヒータ14を作動させて単結晶用原料を加熱し、原料融液18とすることができる。
この際、原料融液18を生成した後、原料融液18の温度は特に限定されるものではなく、少なくとも、単結晶用原料の融点以上であれば足りる。ただし、種結晶配置工程前に、原料融液18の温度を、単結晶用原料の融点(mp)よりも15℃以上30℃以下高温に制御する原料融液温度制御工程を行うことが好ましい。すなわち、少なくとも種結晶配置工程で種結晶19を所定の種結晶配置位置に配置する前に原料融液18の温度Tは、mp+15≦T≦mp+30に制御されることが好ましい。
これは、原料融液18の温度Tがmp+15℃未満の場合、種結晶19を原料融液18表面に近づけた際、種結晶19を近づけたことにより原料融液18の熱が奪われて原料融液18の表面が固化してしまう場合があるためである。また、原料融液18の温度Tが、mp+30℃よりも高い場合、種結晶19を原料融液18に近づけた際に種結晶19自身が融解してしまう場合があるためである。特に、原料融液温度制御工程において、原料融液18の温度は、単結晶用原料の融点よりも20℃以上25℃以下高温に制御することがより好ましい。
原料融液温度制御工程を行う場合、熱電対により原料融液18表面を直接測定するのは困難であるが、例えば炉体16内の適当な場所の温度を代替値とすることができる。例えば、断熱材15の内部の温度を代替値とすることができる。この場合、比較的低温での温度測定のため、熱電対の劣化を抑えることができる。
断熱材15に設置した熱電対の検出温度は、坩堝11内の単結晶用原料が融解する際にプラトーになる。このため、断熱材15の温度がプラトーのときに、坩堝11内の単結晶用原料が融点になっていると判断でき、プラトーになった際の検知温度から、所望の温度だけ昇温することにより原料融液の温度を制御することができる。用いる熱電対の種類は特に限定されるものではなく、検出する温度域に対応した熱電対を用いることができ、例えば、白金ロジウム熱電対を好ましく用いることができる。また、断熱材15に設置した熱電対に限らず、例えば、放射温度計により原料融液の温度を測定することもできるが放射温度計の場合、原料融液の表面状態等により誤差を生じる場合があるため、断熱材15に設置した熱電対により温度を検出することが好ましい。
そして、上記のように原料融液を準備した後、本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法を実施できる。
上述のようにまず、種結晶配置工程を実施することができる。種結晶配置工程では、坩堝内に配置された原料融液の上方であって、原料融液表面から離隔した位置に種結晶を配置することができる。
種結晶の配置位置については特に限定されるものではなく、用いる単結晶育成装置のサイズ等により任意に選択することができ、特に限定されるものではない。
種結晶配置工程における種結晶19と原料融液18との位置の関係について図2を用いて説明する。図2は種結晶配置工程における種結晶19および原料融液18の位置関係を模式的に示したものであり、その他の構成は記載を省略して示している。図2に示したように種結晶配置工程においては種結晶19は、原料融液18の上方の種結晶配置位置に配置される。
ここで、種結晶配置位置は上述のように特に限定されるものではないが、原料融液18の表面181と、種結晶19の下端部、すなわち、種結晶19の原料融液18側の端部と、の間の距離hが、2mm以上10mm以下となる位置とすることが好ましい。特に距離hは、3mm以上5mm以下であることがより好ましい。
これは、原料融液18の表面181と、種結晶19の下端部との間の距離hが10mmよりも長くなると、原料融液18表面の温度を適切に反映しない場合があるためである。また、原料融液18の表面181と、種結晶19の下端部との間の距離hが2mmよりも短いと、種結晶19表面が融解した際に生成する融液が、種結晶19を伝って種結晶下端部に垂れ下がり、原料融液18と種結晶19とが接触してしまう場合があるためである。
なお、種結晶19は、製造する単結晶に応じて選択することができ、例えばサファイア単結晶を製造する場合には、酸化アルミニウムの種結晶を用いることができる。
種結晶19の形状については特に限定されない。ただし、種結晶表面を構成する面方位により融解の状態が異なる、すなわち温度への反応性が異なるため、種結晶の形状は円柱状のように特定面で構成されない形状よりも、多角形の棒状の方が、特定の面に注目して種結晶表面融解を確認しやすく、好ましい。このため、例えば種結晶19として直方体形状のものを好適に用いることができる。
後述のように種結晶19の表面に原料融液表面の対流の様子が映りこんでいるかを種結晶19表面の色の変化により判断する場合、色の変化がより判断しやすいように、種結晶表面の少なくとも一部を予め梨地状に荒らしておくこともできる。この際、種結晶19の梨地状とした部分の表面粗さは特に限定されるものではないが、種結晶19の表面が融解した際に光のコントラストの変化を識別できる程度の表面粗さとしておくことが好ましい。具体的には、例えば、種結晶表面の少なくとも一部の表面粗さRaを0.3μm以上1.0μm以下とすることが好ましく、0.4μm以上0.7μm以下とすることがより好ましい。これは、種結晶19表面の表面粗さRaが0.3μmよりも小さいと、種結晶19表面が融解する前から透明に見える場合があり、かえって光のコントラストの変化を判断しにくくなる恐れがあるためである。また、種結晶19表面の表面粗さRaが1.0μmより大きいと、種結晶19の表面が荒れているため、原料融液18と接触させた際に複数の凹凸部より核が発生することで粒界が発生しやすくなる場合があるためである。なお、上述の種結晶表面の表面粗さRaは、種結晶表面融解工程を行う前の種結晶表面の表面粗さを意味している。また、表面粗さは例えばJIS B 0601に規定されており、例えば触針法もしくは光学的方法等により評価することができる。
この際、種結晶表面全体を梨地状とすることもできるが、観察している面について梨地状としていればよい。
種結晶配置工程において上述の所定の位置に種結晶を配置した後、種結晶の位置を変更させずに一定時間保持する。なお、種結晶は引き上げ軸17を回転軸として、種結晶配置工程で配置した場所で回転させることができる。これにより、原料融液18からの熱を種結晶19の表面で均一に受けることができる。
そして種結晶表面に原料融液表面の対流の様子が映りこんでいる場合には、原料融液の温度がシーディングに適した温度に達したと判定できる。すなわち、シーディングを実施するタイミングに達したことを判定できる。
これは、本発明の発明者らの検討によればまず、種結晶配置工程において所定の位置に種結晶を配置し、原料融液の温度がシーディングに適した温度に達した場合、種結晶の表面が融解する。また、原料融液の温度がシーディングに適した温度に達した場合、原料融液に対流が生じ、原料融液の表面に対流によるパターン(スポークパターン)が生じる。
上記の様に種結晶の表面が融解すると、周囲の様子が映りこみやすくなり、原料融液の表面に生じた原料融液表面の対流の様子(以下、「スポークパターン」とも記載する)が映り込む。このため、係る現象が生じた時に原料融液がシーディングに適した温度に達したと判定することができる。すなわち、シーディングを実施するタイミングに達したと判定することができる。
具体的には以下の種結晶表面撮影工程と、映りこみ判定工程と、を実施することにより、シーディングを実施するタイミングに達したかを判定できる。特に、以下の種結晶表面撮影工程と、映りこみ判定工程と、を交互に繰り返し実施し、映りこみ判定工程でスポークパターンの映りこみが生じたと判定したときにシーディングを実施するタイミングに達したと判定することができる。以下、両工程について説明する。
例えば図1、図2に示したように種結晶表面撮影工程は、原料融液18の上方に配置した種結晶19の表面を撮像素子22により撮影することにより行うことができる。なお、図1に示したように撮像素子22は炉体16外に設置され、炉体16に設けられた覗き窓から種結晶19の表面を撮影することができる。
撮像素子22は、種結晶19の表面の状態を撮影できればよく、具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば、撮像素子22はCCDカメラ等を用いることができる。特に撮像素子22は高諧調カメラであることが好ましい。これは、原料融液がシーディングに適した温度に達した場合、炉内は高温になり、原料融液の輻射熱により炉内がまぶしく、種結晶の表面が見えにくいが、分解能が高い高諧調カメラを用いることにより種結晶表面の色の変化をより早く検知できるためである。
種結晶表面撮影工程においては、種結晶表面の選択した任意の面について撮影を行えばよく、撮影する面については特に限定されるものではない。特に周囲の温度に対する反応性が高い面を撮影の対象、すなわち、判定の対象とすることが好ましい。また、上述のように種結晶を種結晶配置工程後、引き上げ軸17を回転軸として回転している場合には、種結晶の予め選択した任意の面が撮像素子22の前を通過する毎に種結晶表面撮影工程を実施することができる。例えばサファイア単結晶を製造するため、種結晶として酸化アルミニウムを用いている場合には、種結晶表面の結晶面のうち、M面、C面、A面等について好ましく撮影することができ、特にM面についてより好ましく撮影できる。
次に、撮像素子22により撮影した画像において、種結晶表面に原料融液表面の対流の様子が映りこんでいるかを判定する映りこみ判定工程を実施することができる。
種結晶表面の原料融液表面の対流の様子が映りこんでいることを判定する方法は特に限定されるものではなく、例えば、種結晶表面撮影工程において撮影した画像から目視により判断することもできる。ただし、判定者の判定能力によりタイミングがずれる恐れがあることから、種結晶表面撮影工程において撮影した画像を画像処理することにより判定することが好ましい。具体的には例えば以下の手順により画像処理、判定を行うことができる。なお、この場合、撮像素子22は、図示しない画像処理手段、具体的には例えばPC(Personal Computer)と接続することができ、該画像処理手段において撮像素子22が撮影した画像を画像処理してから、映りこみ判定工程に供することができる。
まず、種結晶表面撮影工程において撮影した画像の例を図3に示す。図3(a)は撮影した画像内の各部材の配置を説明するため、図3(b)の写真を模式的に示したものである。図3(b)は、実際に撮影した画像の例を示している。
既述の様に、撮像素子22は、炉体16に設けられた覗き窓から種結晶19の表面を撮影しているため、図3(a)(b)に示す様に種結晶19の一部と、原料融液18の表面181の一部とが見えている。そして、図3(b)では、図3(a)の原料融液18の表面181として示した部分に対応する部分にスポークパターンが見える。
撮影した画像の画像処理を行う際、撮影した種結晶19の表面全体の画像について画像処理に供することもできるが、データの処理量を抑制し、判定に要する時間の短縮のため、典型的にスポークパターンが映り込む領域に画像処理の対象を限定することが好ましい。スポークパターンが映り込む場所は、撮像素子22の位置と、種結晶19の位置と、原料融液の液面の高さ等との関係により変化するため、予備試験等を行い予めスポークパターンが映り込む領域を調べ、該領域について画像処理に供することができる。発明者らの検討によると、通常、図3(b)中Xで示した領域、すなわち、種結晶の下端部(原料融液18側の端部)よりも少し上の領域に通常スポークパターンの映りこみが見られる。ここで、種結晶19の表面にスポークパターンが映りこんだ際の写真を図4に示す。図4中Xで示した領域にスポークパターンが映りこんでいることが確認できる。
このように種結晶19の一部領域Xにスポークパターンの映りこみが生じることから、図3(b)中Xで示した領域について色の変化を追跡し、スポークパターンの映りこみが生じたかを判定することができる。具体的には映りこみ判定工程で領域Xの色について数値化を行い該数値が大きく変化した際に、映りこみが生じたと判定することができる。
領域Xの色を数値化する際に用いる指標としては特に限定されるものではなく、種結晶19の表面にスポークパターンが映りこむ前後で、その数値が変化する指標であればよい。具体的には例えば、グレースケールにおける画素値や、L*a*b*表色系、RGB表色系等を好ましく用いることができる。
いずれの指標を用いる場合でも数値化に当たって、まず、領域Xについて複数のピクセルに分割することが好ましい。この際、分割するピクセルの数は領域Xのサイズや撮像素子の性能等により任意に選択することができ特に限定されるものではないが、例えば70×54、すなわち、計3780個のピクセルに分割することができる。また、例えば105×54の計5670個のピクセルに分割することもできる。
そして、上述のように、種結晶表面撮影工程で撮影した画像の領域Xについて色を数値化する。
領域Xについて色を数値化する方法としてまず、グレースケールによる画素値を用いた場合について説明する。グレースケールによる画素値を用いて領域Xについて色を数値化する方法は特に限定されるものではなく、任意の方法により数値化することができる。
例えば、上述の様に領域Xを分割したピクセル毎にグレースケールにおける画素値を算出し、領域X内における画素値の平均値を、該画像が撮影された時点(以下、「測定時間」とも記載する)での平均画素値(t)とする。なお、ここでの画素値は撮像素子22で撮影した画像のビット数により異なり、8ビット画像では2の8乗となる256諧調まで、16ビット諧調では2の16乗となる65,536諧調まで表現することができる。
上述のように、種結晶表面撮影工程と、映りこみ判定工程とを、交互に繰り返し実施し、映りこみ判定工程で算出した平均画素値の変化から、種結晶表面にスポークパターンの映りこみが生じたかを判定することができる。この際、各測定時間tでの平均画素値をそのまま用いて平均画素値の変化を捉えることもできるが、測定時間tにおける平均画素値と、測定開始時、すなわち測定時間t=0の時の平均画素値と、の差(以下、「測定時間tにおける平均画素値差」とも記載する)を用いて判定することが好ましい。なお、ここでは、測定開始時を時間tの起点として説明しているが、係る形態に限定されるものではなく、任意のタイミングを起点とすることができる。例えば、原料融液の昇温温度を変更した時点や、種結晶配置工程を実施した時点を起点、すなわちt=0としてもよい。
測定時間tにおける平均画素値差は、最初に種結晶表面撮影工程、映りこみ判定工程を実施した際(t=0)の平均画素値を平均画素値(0)とし、測定時間tにおける平均画素値を平均画素値(t)とした場合の、両者の差により算出することができる。すなわち、平均画素値(t)―平均画素値(0)の式により算出できる。そして、測定時間tをx軸に、測定時間tにおける平均画素値差をy軸にとって変化を観察した場合に、測定時間tにおける平均画素値の差が急激に変化した時に、種結晶の表面に原料融液表面の対流の様子(スポークパターン)が映りこんでいると判定することができる。すなわち、シーディングを実施するタイミングに達したと判定することができる。
領域Xについて色を数値化する方法として次に、L*a*b*表色系を用いた場合について説明する。L*a*b*表色系は人が知覚できる全ての色を表現できるように考案され、3次元空間上の座標を用いて色を表わす指標である。座標は明度を意味するL*、赤と緑との間の位置を表わすa*、黄色と青の間の位置を表わすb*により示すことができる。なお、赤と緑、黄と青はそれぞれ補色の関係となっている。そして、本実施形態においては、スポークパターンの映りこみ前後で、上述した領域Xの明度が変化するため、明度を表わすL*を好ましく用いることができる。
L*を用いて領域Xについて色を数値化する方法も特に限定されず、任意の方法により数値化することができる。
例えば、L*を用いて領域Xについて色を数値化する方法としては、上述したグレースケールによる画素値を用いた場合と同様にして評価を行うことができる。具体的には、上述の様に領域Xを分割したピクセル毎にL*を算出し、領域X内におけるL*の平均値を、該画像が撮影された時点でのL*(t)とすることができる。
L*を用いた場合でも、種結晶表面撮影工程と、映りこみ判定工程とを、交互に繰り返し実施し、映りこみ判定工程で算出したL*の変化から、種結晶表面にスポークパターンの映りこみが生じたかを判定することができる。この際、各測定時間tでのL*をそのまま用いてL*の変化を捉えることもできるが、測定時間tにおけるL*と、測定開始時、すなわち測定時間t=0の時のL*と、の差(以下、「測定時間tにおけるΔL*」とも記載する)を用いて判定することが好ましい。
測定時間tにおけるΔL*は、最初に種結晶表面撮影工程、映りこみ判定工程を実施した際のL*をL*(0)とし、測定時間tにおけるL*をL*(t)とした場合の、両者の差、すなわち、L*(t)―L*(0)の式により算出できる。そして、測定時間tをx軸に、測定時間tにおけるΔL*をy軸にとって変化を観察した場合に、測定時間tにおけるΔL*が急激に変化した時に、種結晶の表面に原料融液表面の対流の様子(スポークパターン)が映りこんでいると判定することができる。すなわち、シーディングを実施するタイミングに達したと判定することができる。
また、L*を用いて領域Xについて色を数値化する他の方法について説明すると、まず、上述の様に測定時間tにおいて撮影した種結晶表面の画像から、領域Xを分割したピクセル毎にL*を算出する。そして、領域X内におけるL*の値の上位50個の平均をL*high(t)とし、領域X内におけるL*値の下位50個の平均をL*low(t)とする。次いで、L*high(t)とL*low(t)との差、すなわち、L*high(t)−L*low(t)をΔL*(t)とする。この際、測定時間tをx軸、ΔL*(t)をy軸にとって変化を観察した場合に、ΔL*(t)が急激に変化したときに種結晶の表面に原料融液表面の対流の様子(スポークパターン)が映りこんでいると判定することができる。すなわち、シーディングを実施するタイミングに達したと判定することができる。
ここでは、グレースケールにおける画素値、L*a*b*表色系を用いた映りこみ判定工程について説明したが、上述の様に、係る評価、判定方法に限定されるものではない。例えば、RGB表色系等他の評価方法を用いた場合でも同様にして、種結晶表面の色の変化を検知し、シーディングを実施するタイミングに達したことを判定することができる。
以上に説明した種結晶表面撮影工程及び映りこみ判定工程の間、原料融液の温度は一定に保っておいてもよいが、原料融液を加熱することもできる。ただし、原料融液を加熱しながら種結晶表面観察工程及び映りこみ判定工程を行う場合、原料融液の昇温速度が速すぎると、原料融液がシーディングに適した温度になっていると判定した際には、原料融液がさらに高温となってしまう。このため、例えば炉体16内の昇温速度は0.2℃/min以下とすることが好ましい。
以上本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法について説明したが、係るシーディングを実施するタイミングの検知方法は、種結晶の表面が融解し、原料融液表面に生じたスポークパターンが映りこむ物理現象を利用して原料融液の温度を検知する。このため、再現性良く正確にシーディングを実施するタイミングを検知できる。また、種結晶の表面の状態から原料融液の温度を検知するため、原料融液に不純物が混入することを防止できる。
シーディングを実施するタイミングを検知した後の操作については特に限定されるものではないが、例えば以下の手順によりシーディングを行い、単結晶を製造することができる。すなわち、上述したシーディングを実施するタイミングの検知方法を含む単結晶の製造方法とすることができる。
まず、映りこみ判定工程において、種結晶の表面にスポークパターンが映りこんでいると判定した場合、すなわち、シーディングを実施するタイミングに達したと判定した場合には、まず、シーディング操作の準備を開始する。具体的には例えば、種結晶19を、種結晶配置位置よりも原料融液18の表面181から離隔した位置に一旦移動する種結晶位置移動工程を行うことが好ましい。これは、原料融液がシーディングに適した温度に達した後も種結晶をそのまま同じ種結晶配置位置に保持しておくと種結晶19全体が融解する恐れがあるためである。具体的に種結晶19を移動する位置は特に限定されるものではないが、例えば、原料融液18の表面181と種結晶19の下端部との間の距離が50mm以上になる位置に移動することが好ましい。なお、炉体16内の雰囲気を壊さないため、種結晶19はこの場合も炉体16内に配置しておくことが好ましい。
次に、映りこみ判定工程においてシーディングを実施するタイミングに達したと判定した時の原料融液18の温度を基準として、種結晶19と原料融液18とを接触させる時の原料融液18の温度を決定する原料融液温度決定工程を行うことができる。
種結晶19と原料融液18とを接触させる時の原料融液18の温度、すなわち、シーディング温度Tsは特に限定されるものではない。映りこみ判定工程において、シーディングを実施するタイミングに達したと判定した時の原料融液18の温度Tmeltを基準として選択することができる。例えば、シーディングを実施するタイミングに達したと判定した時の原料融液の温度Tmeltから、0.5℃以上4℃以下低い温度を、種結晶19と原料融液18とを接触させる時の原料融液18の温度、すなわち、シーディング温度Tsと決定することが好ましい。特に、シーディングを実施するタイミングに達したと判定した時の原料融液の温度から1.5℃以上3℃以下低い温度をシーディング温度Tsとすることがより好ましい。すなわち、Tmelt−4≦Ts≦Tmelt−0.5の関係を満たすことが好ましく、Tmelt−3≦Ts≦Tmelt−1.5の関係を満たすことがより好ましい。
シーディング温度Tsを、Tmeltよりも0.5℃以上低い温度とすることにより、シーディングの際、または、シーディングの直前に、原料融液18からの熱の移動により種結晶19が完全に融解することをより確実に防止できる。このため、上記のようにTs≦Tmelt−0.5とすることが好ましい。
また、シーディング温度Tsを、Tmeltから4℃を超えて低い温度とした場合、シーディングの際、原料融液18の温度が低下し、結晶が急成長し、粒界が生じる恐れがある。このため、上記のようにTmelt−4≦Tsとすることが好ましい。
次に、原料融液18の温度を原料融液温度決定工程において決定されたシーディング温度に降温する原料融液降温工程を実施することができる。原料融液降温工程においては、例えば、側面ヒータ13および/またはボトムヒータ14の温度を調整することにより原料融液の温度を降温できる。この際、原料融液温度決定工程において決定されたシーディング温度に降温することから、例えば、上述のように種結晶19の表面が融解した時の原料融液18の温度から、原料融液18の温度を0.5℃以上4℃以下降温することが好ましい。また、種結晶19の表面が融解したときの原料融液18の温度から、原料融液の温度を1.5℃以上3℃以下降温することがより好ましい。
原料融液温度決定工程において基準とする温度、及び、原料融液降温工程において温度制御に用いる温度は、炉体16内の適当な場所、例えば、断熱材15の内部に設けた熱電対での温度を原料融液18の温度の代替値として用いることができる。
原料融液のように高温の被測定物の場合、熱電対の表示温度は再現性を欠く場合が多いが、温度差については比較的正確に表示することができる。このため、映りこみ判定工程において、シーディングを実施するタイミングに達したと判定した際の、該熱電対での検知温度を基準として、該検知温度から所定温度低い温度までの降温を再現性よく実施することができる。このように、原料融液を直接接触しない場所に設置した熱電対を用いることにより、比較的低温での温度測定が可能となり、指標として用いる温度差の再現性が向上する。なお、熱電対に限らず、例えば、放射温度計を用いることもできるが、上述のように放射温度計は原料融液の表面状態等の影響を受ける恐れがあるため、熱電対により制御を行うことが好ましい。
そして、原料融液降温工程の後、原料融液と、種結晶とを接触させるシーディング工程を行うことができる。
シーディング工程の後は単結晶の育成を行う結晶育成工程を行うことができる。結晶育成工程における結晶育成方法は特に限定されるものではなく、公知の結晶育成方法を用いることができる。例えば、種結晶19を回転させながら、徐々に引き上げることにより単結晶を育成することができる。
得られた単結晶については、用途に応じて任意の形状に加工する形状加工工程を実施することができる。例えば単結晶をウエハー状にスライスして、ウエハーの両面または片面、場合によっては端面部分についてもポリッシュ研磨を行うことができる。
ここまで説明した単結晶の製造方法においては、適切なタイミングでシーディングを行うことができるため、粒界を含まない単結晶を高い歩留まりで製造することができる。
[第2の実施形態]
本発明のシーディングを実施するタイミングの検知方法の他の構成例について説明する。
本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法は、以下の工程を有することができる。
坩堝内に配置された原料融液の上方であって、原料融液表面から離隔した位置に種結晶を配置する種結晶配置工程。
種結晶表面を撮像素子により撮影する種結晶表面撮影工程。
種結晶表面撮影工程で撮影した画像において、種結晶表面に輝線が表れているかを判定する輝線判定工程。
本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法においては、第1の実施形態で説明した映りこみ判定工程に代えて、輝線判定工程を設けている。そして、種結晶配置工程、種結晶表面撮影工程、また、原料融液を準備する手順等の輝線判定工程以外の工程については第1の実施形態と同様にして実施できるため、ここでは説明を省略する。
第1の実施形態で説明したシーディングを実施するタイミングの検知方法では、種結晶表面が融解し、種結晶表面に原料融液表面の対流の様子(スポークパターン)が映りこむ現象を利用し、シーディングを実施するタイミングを検知していた。本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法は、種結晶表面にスポークパターンが映りこんだ後、種結晶19の下端付近に白色の輝線が出現する現象を利用して、シーディングを実施するタイミングを検知する。
種結晶表面に輝線が表れていることを判定する方法は特に限定されるものではなく、例えば、種結晶表面撮影工程において撮影した画像から目視により判断することもできる。ただし、判定者の判定能力によりタイミングがずれる恐れがあることから、種結晶表面撮影工程において撮影した画像を画像処理することにより判定することが好ましい。具体的には例えば以下の手順により画像処理、判定を行うことができる。なお、この場合、撮像素子22は、図示しない画像処理手段、具体的には例えばPC(Personal Computer)と接続することができ、該画像処理手段において撮像素子22が撮影した画像を画像処理してから、輝線判定工程に供することができる。
種結晶表面撮影工程で撮影した画像の画像処理を行う際、撮影した種結晶19の表面全体の画像を画像処理に供してもよいが、データの処理量を抑制し、判定に要する時間の短縮のため、典型的に輝線が出現する領域に画像処理の対象を限定することが好ましい。輝線が出現する場所は、撮像素子22の位置と、種結晶19の位置と、原料融液の液面の高さ等との関係により変化するため、予備試験等を行い予めスポークパターンが映り込む領域を調べ、該領域について画像処理に供することができる。本発明の発明者らの検討によると、通常、図3(b)中Yで示した領域、すなわち、種結晶の下端部(原料融液18側の端部)付近の領域に通常輝線が見られる。ここで、実際に輝線が生じた際の種結晶の写真を図5に示す。図5に示すように、種結晶19の下端付近に白色の輝線611が出現する。また、輝線611の上下に黒線51、52が生じる。
ここで、図6を用いて輝線611が生じる理由について説明する。輝線611が生じる理由は明らかではないが、本発明の発明者らの検討によると、原料融液の温度が上昇し、種結晶19の表面が融解し始めると、種結晶19は透明になっていく。このため、撮像素子22が撮影している面61と反対側の面62の下端部の辺621が、撮像素子22が撮影している面61に透けて見え、輝線611として見えていると推認される。黒線51、52については、辺621部分を面取りしている場合に、光の加減により生じたものと推認される。なお、第1の実施形態の場合と同様に種結晶表面のうち撮像素子22が撮影する面61については特に限定されるものではなく、選択した任意の面について撮影することができる。例えば種結晶19が回転している場合には予め選択した任意の面が撮像素子22の前を通過する毎に種結晶表面撮影工程を実施することができる。例えばサファイア単結晶を製造するため、種結晶として酸化アルミニウムを用いている場合には、種結晶表面の結晶面のうち、M面、C面、A面等について好ましく撮影することができ、特にM面についてより好ましく撮影できる。
そして、第1の実施形態の場合と同様に、種結晶表面撮影工程と、輝線判定工程と、を繰り返し行い、例えば、図3(b)中に示した領域Yについて色の変化を追跡し、輝線が出現したかを判定することができる。具体的には輝線判定工程で領域Yの色について数値化を行い該数値が大きく変化した際に、輝線が出現したと判定することができる。
領域Yの色を数値化する際に用いる指標としては特に限定されるものではなく、種結晶19の表面に輝線611が出現する前後で、その数値が変化する指標であればよい。具体的には例えば、グレースケールにおける画素値や、L*a*b*表色系、RGB表色系等を好ましく用いることができる。
いずれの指標を用いる場合でも数値化に当たって、まず、領域Yについて複数のピクセルに分割することが好ましい。分割するピクセルの数は領域Yのサイズや撮像素子の性能等により任意に選択することができ特に限定されるものではないが、例えば35×54、すなわち、計1890個のピクセルに分割することができる。また、例えば50×54の計2700個のピクセルに分割することもできる。
そして、上述のように、種結晶表面撮影工程で撮影した画像の領域Yについて色を数値化する。
領域Yについて色を数値化する方法としてまず、グレースケールによる画素値を用いた場合について説明する。グレースケールによる画素値を用いて領域Yについて色を数値化する方法は特に限定されるものではなく、任意の方法により数値化することができる。
例えば、上述の様に領域Yを分割したピクセル毎にグレースケールにおける画素値を算出し、領域Y内における画素値の平均値を、該画像が撮影された時点(以下、「測定時間」とも記載する)での平均画素値(t)とする。
上述のように、種結晶表面撮影工程と、輝線判定工程とを、交互に繰り返し実施し、輝線判定工程で算出した平均画素値の変化から、種結晶表面に輝線が出現したかを判定することができる。この際、各測定時間tでの平均画素値をそのまま用いて平均画素値の変化を捉えることもできるが、測定時間tにおける平均画素値と、測定開始時、すなわち測定時間t=0の時の平均画素値と、の差(以下、「測定時間tにおける平均画素値差」とも記載する)を用いて判定することが好ましい。なお、ここでは、測定開始時を時間tの起点として説明しているが、係る形態に限定されるものではなく、任意のタイミングを起点とすることができる。例えば、原料融液の昇温温度を変更した時点や、種結晶配置工程を実施した時点を起点、すなわちt=0としてもよい。
測定時間tにおける平均画素値差は、最初に種結晶表面撮影工程、輝線判定工程を実施した際(t=0)の平均画素値を平均画素値(0)とし、測定時間tにおける平均画素値を平均画素値(t)とした場合の、両者の差により算出できる。すなわち、平均画素値(t)−平均画素値(0)の式により算出できる。そして、測定時間tをx軸に、測定時間tにおける平均画素値差をy軸にとって変化を観察した場合に、測定時間tにおける平均画素値の差が急激に変化した時に、種結晶の表面に輝線が出現したと判定することができる。すなわち、シーディングを実施するタイミングに達したと判定することができる。
領域Yについて色を数値化する方法として次に、L*a*b*表色系を用いた場合について説明する。本実施形態においても、輝線の出現前後で、上述した領域Yの明度が変化するため、明度を表わすL*を好ましく用いることができる。
L*を用いて領域Yについて色を数値化する方法も特に限定されず、任意の方法により数値化することができる。例えば、L*を用いて領域Yについて色を数値化する方法としては、上述したグレースケールによる画素値を用いた場合と同様にして評価を行うことができる。具体的には、測定時間tにおいて上述の様に領域Yを分割したピクセル毎にL*を算出し、領域Y内におけるL*の平均値を、該画像が撮影された時点でのL*(t)とすることができる。
L*を用いた場合でも、種結晶表面撮影工程と、輝線判定工程とを、交互に繰り返し実施し、輝線判定工程で算出したL*の変化から、種結晶表面に輝線が出現したかを判定することができる。この際、各測定時間tでのL*をそのまま用いてL*の変化を捉えることもできるが、測定時間tにおけるL*と、測定開始時、すなわち測定時間t=0の時のL*と、の差(以下、「測定時間tにおけるΔL*」とも記載する)を用いて判定することが好ましい。
測定時間tにおけるΔL*は、最初に種結晶表面撮影工程、輝線判定工程を実施した際のL*をL*(0)とし、測定時間tにおけるL*をL*(t)とした場合の、両者の差、すなわち、L*(t)−L*(0)の式により算出できる。そして、測定時間tをx軸に、測定時間tにおけるΔL*をy軸にとって変化を観察した場合に、測定時間tにおけるΔL*が急激に変化した時に、種結晶の表面に輝線が出現したと判定することができる。すなわち、シーディングを実施するタイミングに達したと判定することができる。
また、L*を用いて領域Yについて色を数値化する他の方法について説明すると、まず上述の様に測定時間tにおいて撮影した種結晶表面の画像から、領域Yを分割したピクセル毎にL*を算出する。そして領域Y内におけるL*の値の上位50個の平均をL*high(t)とし、領域Y内におけるL*値の下位50個の平均をL*low(t)とする。次いで、L*high(t)とL*low(t)との差、すなわち、L*high(t)−L*low(t)をΔL*(t)とする。この際、測定時間tをx軸、ΔL*(t)をy軸にとって変化を観察した場合に、ΔL*(t)が急激に変化したときに種結晶の表面に輝線が出現したと判定することができる。すなわち、シーディングを実施するタイミングに達したと判定することができる。
なお、L*(t)は、時刻(t)における上位50個の場合を上記で例示したが、例えば、同じ高さに位置するピクセルのL*の値を積算しするプロジェクションと呼ばれる方法を用いてもよく、この場合はその積算値の例えば上位5個をL*high(t)、下位5個をL*low(t)とすることができる。
ここでは、グレースケールにおける画素値、L*a*b*表色系を用いた映りこみ判定工程について説明したが、上述の様に、係る評価、判定方法に限定されるものではない。例えば、RGB表色系等他の評価方法を用いた場合でも同様にして、種結晶表面の色の変化を検知し、シーディングを実施するタイミングに達したことを判定することができる。
以上に説明した種結晶表面撮影工程及び輝線判定工程の間、原料融液の温度は一定に保っておいてもよいが、原料融液を加熱することもできる。ただし、原料融液を加熱しながら種結晶表面観察工程及び輝線判定工程を行う場合、原料融液の昇温速度が速すぎると、原料融液がシーディングに適した温度になっていると判定した際には、原料融液がさらに高温となってしまう。このため、例えば図1に示した単結晶育成装置10を用い単結晶を育成する場合、炉体16内の昇温速度は0.2℃/min以下とすることが好ましい。
以上本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法について説明したが、係るシーディングを実施するタイミングの検知方法は、種結晶の表面が融解し、種結晶表面に輝線が出現する物理現象を利用して原料融液の温度を検知する。このため、再現性良く正確にシーディングを実施するタイミングを検知できる。また、種結晶の表面の状態から原料融液の温度を検知するため、原料融液に不純物が混入することを防止できる。
シーディングを実施するタイミングを検知した後の操作については特に限定されるものではないが、例えば第1の実施形態で説明した手順と同様の手順によりシーディングを行い、単結晶を製造することができる。すなわち、上述したシーディングを実施するタイミングの検知方法を含む単結晶の製造方法とすることができる。シーディングの具体的な手順については、第1の実施形態で説明したため、ここでは説明を省略する。
[第3の実施形態]
本発明のシーディングを実施するタイミングの検知方法の他の構成例について説明する。
本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法は、以下の工程を有することができる。
坩堝内に配置された原料融液の上方であって、原料融液表面から離隔した位置に種結晶を配置する種結晶配置工程。
種結晶表面を撮像素子により撮影する種結晶表面撮影工程。
前記種結晶表面撮影工程で撮影した画像において、前記種結晶表面に前記原料融液表面の対流の様子が映りこんでいるかを判定する映りこみ判定工程。
種結晶表面撮影工程で撮影した画像において、種結晶表面に輝線が表れているかを判定する輝線判定工程。
本実施形態のシーディングを実施するタイミングの検知方法は、上述のように第1の実施形態で説明したシーディングを実施するタイミングの検知方法に加えて、第2の実施形態で説明した輝線判定工程を含んでいる。すなわち、本実施形態においては、種結晶配置工程において、原料融液の上方であって、原料融液表面から離隔した位置に種結晶を配置し、その表面を種結晶表面撮影工程において撮影する。そして、種結晶の表面が融解し、種結晶の表面に原料融液の表面の対流の様子が映りこんでいるかを判定する映りこみ判定と、種結晶の表面に輝線が出現したかを判定する輝線判定工程を行う。その結果、種結晶の表面に原料融液の表面の対流の様子が映りこんでいると判定し、種結晶の表面に輝線が出現したと判定した場合に、シーディングを実施するタイミングに達したと判断することができる。
本実施形態においては、種結晶表面に原料融液の表面の対流の様子が映りこむ現象と、輝線が出現する現象と二つの現象によりシーディングを実施するタイミングに達したかを判断するため、より正確にシーディングのタイミングを検知することが可能になる。
各工程の詳細については第1、第2の実施形態で説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。
また、 シーディングを実施するタイミングを検知した後の操作については特に限定されるものではないが、例えば第1の実施形態で説明した手順と同様の手順によりシーディングを行い、単結晶を製造することができる。すなわち、上述したシーディングを実施するタイミングの検知方法を含む単結晶の製造方法とすることができる。シーディングの具体的な手順については、第1の実施形態で説明したため、ここでは説明を省略する。
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
図1に示した単結晶育成装置10を用いて以下の手順により、シーディングの実施のタイミングを検知し、さらには酸化アルミニウム単結晶の製造を行った。以下に具体的な手順について説明する。
図1に示した単結晶育成装置10において、坩堝11としてはモリブデン製坩堝を用いた。また、断熱材15としてカーボンフェルト断熱材を、側面ヒータ13及びボトムヒータ14としてカーボン製ヒータをそれぞれ用いた。
(原料融液温度制御工程)
坩堝11内に酸化アルミニウム単結晶用原料としてクラックル原料を充填した後、炉体16内をアルゴンガスで置換してから、側面ヒータ13及びボトムヒータ14により、坩堝11内の酸化アルミニウム単結晶用原料を融解し原料融液18とした。この際、坩堝11内の原料融液18を酸化アルミニウム単結晶用原料の融点である、2050℃よりも15℃高い温度に設定した。なお、この際の温度は、断熱材15に設置した図示しない白金ロジウム熱電対により測温し、該熱電対により検出した温度を原料融液18の温度とした。断熱材15の温度は、坩堝11内の酸化アルミニウム単結晶用原料が融解する際にプラトーになる。つまり、断熱材15の温度がプラトーのときに、坩堝11内の酸化アルミニウム単結晶用原料が融点(2050℃)になっていると判断できる。このため、坩堝11内の酸化アルミニウム単結晶用原料を融点より15℃高くしたい場合は、断熱材15温度をプラトー領域の値より15℃高くすれば良い。
(種結晶配置工程)
原料融液18の温度が上記設定温度で安定したことを確認してから、図2に示すように、原料融液18の上方であって、原料融液表面181と種結晶19の下端部との間の距離hが2mmとなる種結晶保持位置に保持した。この際、種結晶19としては直方体形状を有する酸化アルミニウム単結晶を用い、種結晶19は表面全体の表面粗さRaが0.4μmになるように均一に荒らした状態にしたものを用いた。
(種結晶表面撮影工程、映りこみ判定工程、輝線判定工程)
次いで、側面ヒータ13及びボトムヒータ14により炉体16内の温度を0.2℃/minの昇温速度で昇温した。
種結晶19は、引き上げ軸17を回転軸として、0.5回/分の速度で回転させており、撮像素子22の前を種結晶19の予め選択した一の面が通過する毎に、すなわち、30秒毎に種結晶表面撮影工程を実施した。
そして、種結晶表面撮影工程で撮影した画像から、映りこみ判定工程、輝線判定工程を実施した。
映りこみ判定工程において、領域Xを数値化した方法について説明する。まず、種結晶表面撮影工程で撮影した画像から、予備試験により調べておいたスポークパターンが映りこむ領域、すなわち、図3(b)の領域Xについて縦70×横54の計3780のピクセルに分割した。そして分割したピクセル毎にL*を算出し、領域X内におけるL*の平均値を、該画像が撮影された時点でのL*(t)として、領域Xの色を数値化した。
なお、本実施例では、種結晶配置工程後、側面ヒータ13及びボトムヒータ14により炉体16内の温度を0.2℃/minの昇温速度で昇温を開始した時点を測定時間t=0としている。そして、昇温開始後t分経過時におけるL*(t)と、昇温開始時、すなわち測定時間t=0の時のL*(0)と、の差である測定時間tにおけるΔL*(t)を用いて判定を行った。
ΔL*の変化を図7に示す。映りこみ判定工程で用いたΔL*の値は図7中、領域Xとして示している。
輝線判定工程において、領域Yを数値化した方法について説明する。まず、種結晶表面撮影工程で撮影した画像から、予備試験により調べておいた輝線が出現する領域、すなわち、図3(b)の領域Yについて縦35×横54の計1890のピクセルに分割した。分割したピクセル毎にL*を算出し、領域Y内におけるL*の値の上位50個の平均をL*high(t)とし、領域Y内におけるL*値の下位50個の平均をL*low(t)とする。そして、L*high(t)とL*low(t)との差、すなわち、L*high(t)−L*low(t)をΔL*(t)として算出した。
なお、tは映りこみ判定工程の場合と同様に、炉体16内の温度を0.2℃/minの昇温速度で昇温を開始した時点を測定時間t=0とし、炉体16内を0.2℃/minで昇温し始めてからの時間をtで示している。
ΔL*の変化を図7に示す。輝線判定工程で用いたΔL*の値は図7中、領域Yとして示している。
図7に示したように領域XのΔL*は、t=0の測定開始時から25分後に急峻なピークが出現することが確認できた。この際、撮像素子の画像から目視により同時刻にスポークパターンが出現したことも確認できた。
また、図7に示すように領域YのΔL*は、t=0の測定開始時から27分後に急上昇することが確認できた。この際、撮像素子の画像から目視により同時刻に輝線が出現したことも確認できた。
以上のように、スポークパターンの映りこみ、輝線の出現いずれもほぼ同じタイミングで起こり、シーディングを実施するタイミングの検知方法として適切に実施できることが確認できる。
そして、領域YのΔL*が急上昇した、測定開始時から27分後の原料融液18の温度を断熱材15に設置された図示しない熱電対により検出したところ1515℃であった。このため、1515℃を、後述する原料融液温度決定工程における基準温度とした。
次いで以下の手順によりシーディングの準備を行った上でシーディングを実施した。
(種結晶位置移動工程)
まず、種結晶19は、原料融液表面181と、種結晶19の下端部との間の距離が50mmになる位置に移動させた。
(原料融液温度決定工程)
上述した原料融液温度決定工程における基準温度である1515℃を基準として、種結晶19と原料融液18とを接触させる時の原料融液18の温度、すなわちシーディング温度を決定した。ここでは、シーディング温度を種結晶19の表面が融解した時の原料融液18の温度1515℃よりも0.5℃低い温度、すなわち、1514.5℃とした。
(原料融液降温工程)
原料融液18の温度を原料融液温度決定工程で決定したシーディング温度まで降温した。具体的には、側面ヒータ13及びボトムヒータ14をオフにし、断熱材15に設置された熱電対により検出した温度で1514.5℃まで降温した。
(シーディング工程、結晶育成工程)
原料融液18と種結晶19とを接触させるシーディング工程をおこなった。さらにその後、種結晶19を回転させながら、徐々に引き上げることにより単結晶を製造した。
以上の手順により酸化アルミニウム単結晶を作製した。作製した酸化アルミニウム単結晶について、ライトボックスと偏光板を用いて偏光検査を行ったところ、単結晶内に粒界が無いことが確認できた。
以上の結果から、本発明のシーディングを実施するタイミングの検知方法によれば、正確にシーディングを実施するタイミングを検知できることが確認できた。