以下、本発明に係る魚釣用リールの実施形態について説明する。
図1及び図2は、本発明に係る魚釣用リールの第1の実施形態(両軸受型リール)を示す図であり、図1は内部構成を示した断面図、図2は図1に示す魚釣用リールの主要部の拡大図である。
本実施形態に係る魚釣用リールのリール本体1は、左側板1A、右側板1B、及び両側板1A,1B間に回転自在に支持したスプール3を備えている。本実施形態では、右側板1B側にハンドル5を設けており、ハンドル5を巻き取り操作することで前記スプール3を回転駆動する構成となっている(右ハンドル式)。
前記リール本体1は、左右の側板1A,1Bを構成するフレーム7を備えている。このフレーム7は、例えば、アルミニウム合金の金属材等によって一体形成されており、前記左側板(反ハンドル側の側板)1Aそのものを構成すると共に、後述するカバー体15を装着した状態で右側板1Bを構成している。すなわち、フレーム7は、左側板7Aと右枠体7Bを備えており、左側板7Aが前記リール本体1の左側板1Aを構成し、右枠体7Bにカバー体15を装着することで前記リール本体1の右側板1Bを構成している。
前記フレーム7は、左側板7Aと右枠体7Bとを連結する連結部を備えている。この連結部は、例えば、スプール3の前方及び後方に設けるとともに、スプールの下方に設けることができ(連結部7C)、これらの連結部は、前記左側板7A及び右枠体7Bと共に一体形成されている。なお、前記連結部7Cには、釣竿のリールシートに装着されるリール脚8が一体的に装着されている(リール脚はフレームと一体形成されていてもよい)。
前記フレーム7の左側板7Aは、外周形状が側面視円形状に構成されており、左側板7Aには、スプール3のフランジ部3Aが収容される環状の凹所7aが形成されている(凹所7aの内径は、スプール3のフランジ部3Aの外径よりも僅かに大きく形成されている)。また、左側板7Aの中心領域には、凹部7bが形成されており、その凹所7b内には軸受10が配設され、スプール3の中央部を挿通するスプール軸(巻取駆動部材)21の左側端部を回転自在に支持している。
前記フレーム7の右枠体7Bは、スプール3が挿脱できるようにリング状に形成されている。この右枠体7Bには、カバー体15が止めビス16によって被着されており、カバー体15とスプール3のフランジ部3Aの外側面(円形の外側面)3bとの間にはスペースSが形成されている。このスペースS内には、ハンドル5の回転駆動力をスプール3に伝達する巻き取り駆動機構、磁気制動装置(磁気制動手段)、及び磁場発生手段が配設されている。なお、リング状に形成された右枠体7Bの一部には、略半円状に膨出する膨出部7Dが形成されており、その部分に後述するドライブギアが収容できるように構成されている。
前記スプール3は、釣糸が巻回される釣糸巻回胴部3Bと、その両側に形成された前記フランジ部3Aとを備えており、ハンドル5の巻き取り操作によって釣糸巻き取り方向に回転駆動されるとともに釣糸の繰り出しによって釣糸放出方向に回転する。スプール3の中心部は、スプール軸21が挿通されるように貫通孔3Cが形成されており、貫通孔3C内には、スプール3とスプール軸21との間に軸受17が配設されて、スプール3は、スプール軸21に対して相対回転可能に支持されている。
前記右枠体7Bに被着されるカバー体15は、前記スペースSが生じるように凹状に形成されている。この場合、カバー体15は、基本的に側面視で円形状に構成されているが、ハンドル5の巻き取り効率を向上するために、ハンドル軸5Aには大きいドライブギアを装着するようにしている。このドライブギアは、上記したように、右枠体7Bに形成された膨出部7Dに収容されることから、カバー体15には、この膨出部7Dを覆うように膨出部15Aが形成されている。
次に、上記したスペースS内に配設される巻き取り駆動機構、磁気制動装置、及び磁場発生手段について説明する。
上記したように、ハンドル5を回転操作すると、その回転駆動力は、巻き取り駆動機構20を介してスプール軸21に伝達され、スプール軸21の回転駆動力は、スプール軸21とスプール3との間に配設される磁気制動装置40によって生じる制動力によってスプール3に伝達される。本実施形態の巻き取り駆動機構20には、ハンドルの巻き取り駆動力をスプール側に伝達するに際して、高速巻き取り状態/低速巻き取り状態を切り換える公知の変速装置20Aが組み込まれている。
前記変速装置20Aは、前記スプール軸21に並設される高速従動ギア22、低速従動ギア23と、それぞれのギアに噛合され、前記ハンドル5が装着された筒状のハンドル軸5Aに並設された高速ドライブギア24、低速ドライブギア25とを備えている。なお、スプール軸21は、カバー体15に配設される軸受26、及び、上記した軸受10によって左右側板間に回転自在に支持されている。また、ハンドル軸5Aは、カバー体15に配設される軸受28,29によって回転自在に支持されている。
前記変速装置20Aは、ハンドル軸5A内に軸方向に移動可能に配設され、複数のバネ部材30a,30bの付勢力によって位置決めされる切り換えシャフト30と、切り換えシャフト30の軸方向移動によって、高速ドライブギア24及び低速ドライブギア25に対して選択的に係合して高速巻き取り状態/低速巻き取り状態に切り換える切換部材31と、前記ハンドル軸5A周りに回動可能に装着され、切り換えシャフト30を軸方向に駆動させる切換レバー33とを備えており、切換レバー33を所定角度回動操作することにより、切り換えシャフト30が軸方向に移動され、切換部材31が高速ドライブギア24又は低速ドライブギア25に係合してスプール3の巻き取りスピードが変更されるようになっている。
また、前記ハンドル軸5Aには、カバー体15との間に公知の一方向クラッチ35が配設されており、ハンドル5の釣糸巻き取り方向の回転を許容し、逆回転を阻止している。なお、本発明の巻き取り駆動機構20は、この実施形態に限らず、スプール軸に直接ハンドル軸を取り付けるような構成でも実現可能である。また、駆動源としてモータやエンジン等を用い、巻き取り駆動機構がその駆動源からトルクを伝達しても良い。
前記スペースS内に配設される磁気制動装置40は、上記した巻き取り駆動機構20(変速装置20A)を介して回転駆動されるスプール軸21とスプール3との間に配設されている。この場合、スプール軸21は、スプール3との間で、スプール3が相対回転する関係となる関連部材(巻取駆動部材)となっており、スプール3は、スプール軸21との間に配設される磁気制動装置40によって制動力が付与されるようになっている。
なお、本発明は、このような構成に限定されることはない。たとえば、ハンドル5に与えられた巻き取り駆動力は、従動ギアやドライブギアを介しスプール3に伝わるが、磁気制動装置40は、その間の任意の場所に配置可能である。したがって、本発明でいうところの関連部材(巻取駆動部材)には、スプール軸、ギアやプーリ等の駆動力伝達部材、ハンドルが含まれる。また、リールの構成によっては、磁気制動装置はスプールに直接取り付けられず、ギアやプーリ等の駆動力伝達部材を通して増速あるいは減速した箇所に取り付けられることがある。この場合でも、スプール3と連動して回転する箇所が、本発明で言うところのスプール側であり、ハンドルや駆動源と連動して回転する箇所が、本発明で言うところの関連部材側(巻取駆動部材側)である。
以下、本実施形態の磁気制動装置40について説明する。
本実施形態の磁気制動装置40は、磁場の大きさに応じて結合力が変化する磁気反応摩擦材であるMR流体を有する構成であり、このような磁気反応摩擦材を収容する収容部を具備した収容部材(密閉ケース)を、スプール3とスプール軸21との間に配設し、前記磁気反応摩擦材に対する剪断応力によってスプール3に対して所望の制動力を付与するよう構成されている。前記磁気制動装置40は、前記スプール3のフランジ部3Aの外側面と対向して配設されており、両者の間にはリール本体を構成する枠体等が介在しない構成となっている。本実施形態の構成では、前記フランジ部3Aの外側面に環状の凹所3aが形成されており、凹所3aの底面(フランジ部の外側面となる)3bに磁気制動装置40を構成する円板状のスプールヨーク41が固定されている。すなわち、磁気制動装置40の構成部材がフランジ部3Aの外側面3bに密着して配設されており、両者の間に間隙が存在しない状態で対向している。
前記円板状のスプールヨーク41は、フランジ部3Aの輪帯状の周縁面3cに当て付くと共に、凹所3a内に入り込むように屈曲部41aが形成されており、屈曲することで形成された当接面41bがフランジ部3Aの凹所3aの底面3bに密着して固定されている。また、スプールヨーク41の中心部分には、前記スプール軸21を挿通させる開口41cが形成されると共に、その周囲には環状壁部41dが形成されており、環状壁部41dがスプール3の開口内壁部3dに圧入された状態でスプールヨーク41はスプールのフランジ部3Aの外側面3bに密着、固定されている。なお、前記スプールヨーク41は、磁気回路が形成可能な材料、たとえば純鉄等の強磁性体によって構成されている。
前記磁気制動装置40は、前記スプールヨーク41に被着される収容部材43を備えている。収容部材43は収容空間(収容部)S1を備えた略カップ形状に形成されており、開口側に形成されたフランジ部43aを前記スプールヨーク41の屈曲部41aの段差に圧入することでスプールヨーク41に対して固定されている。収容部材43には、前記スプール軸21が挿通する開口43bが形成されると共に、スプール軸21との間に前記軸受27を配設する環状突起43cが形成されており、スプール軸21に対して相対回転可能な関係となっている。なお、前記収容部材43は、アルミニウムや樹脂材料等、非磁性材料によって構成されている。
前記収容部材43の収容空間S1内には、磁気反応摩擦材(MR流体)が密封されると共に、磁気反応摩擦材に対する剪断応力によってスプール3に対して制動力を付与する制動板が配設されている。この場合、磁気反応摩擦材は、そこに付与される磁場の大きさによってその結合力が変化する特性を備えており、制動板が回転することによって生じる剪断応力の大きさが変わることでスプール3に対する制動力が調整可能となっている。すなわち、後述する磁場発生手段によって生じる磁場の大きさを可変制御することによって、スプール3に対する制動力が調整される。
前記制動板は、スプール3に対して大きな制動力が作用するように多板式(全体で少なくとも2枚以上の制動板を備えている)に構成されている。以下、本実施形態の制動板の構成について説明する。
前記収容部材43の内周面には、2枚の円板状の制動板(スプール側制動板;第1制動板)45が、スペーサ45aを介在して一体的に固定(収容部材に固定)されている。前記第1制動板45は、純鉄等の強磁性材料によって構成され、前記スペーサ45aは、アルミニウム等の非磁性材料によって構成されている。この場合、前記スペーサ45aは、2枚の第1制動板45の間、一方の第1制動板45と収容部材43の内壁面との間、及び、他方の第1制動板45とスプールヨーク41の内面との間に、以下の第2制動板47が入り込んで所定の隙間を維持できる厚さに形成されている。
前記収容部材43に挿通されるスプール軸21には、前記スペーサ45aによって維持される間隔に制動板(巻取駆動部材側制動板;第2制動板)47が回り止め固定されている。この場合、第2制動板47間には、スペーサ47aが介在されており、このスペーサ47aは、第2制動板を所定の間隔で維持できる厚さに形成されている。前記第2制動板47は、純鉄等の強磁性材料によって構成され、前記スペーサ47aは、アルミニウム等の非磁性材料によって構成されている。
上記のように、本実施形態における制動板は、スプール側の第1制動板45が2枚、巻取駆動部材側の第2制動板47が3枚で構成され、それぞれが所定間隔をおいて対向配置される多板式となっており、各制動板間に磁気反応摩擦材が介在し、これにより、収容部材43の収容空間S1内に密封される磁気反応摩擦材に対して大きな制動力を生じさせることが可能となっている。なお、スプール軸21とスプールヨーク41との間、及び、スプール軸21と収容部材43との間には、環状の弾性シール材48a,48bが配設されており、収容部材43の収容空間S1内を密封している。
前記リール本体には、上記した構成の磁気制動装置40に対して異なる強度の磁場を付与する磁場発生手段50が装着されている。
本実施形態の磁場発生手段は、外部電源から電流の供給を受けて異なる磁場を発生させる励磁コイル51を備えている。前記励磁コイル51は、スプール軸21を中心軸として円筒形状に巻回されるコイルであり、純鉄等の磁性材料で形成された励磁ヨーク52に装着されている。この場合、励磁ヨーク52は、断面L字型となった環状の周壁52aを備えており、側板を構成する右枠体7Bに固定されている。そして、励磁コイル51は、励磁ヨーク52の環状の周壁52aの内側に固定され、収容部材43の径方向外方に配設された状態となっている。すなわち、スプール3のフランジ部の外側面3bに対向する(密着する)ようにして磁気反応摩擦材を収容した収容部材43を配設するとともに、収容部材43の径方向外方に励磁コイル51を配設しており、これにより磁気制動装置40及び磁場発生手段50を軸方向にコンパクト化することが可能となる。
上記のように、励磁コイル51が、断面L字型となった環状の励磁ヨーク52の周壁52aの内側に固定され、かつ、収容部材43の径方向外方に配設されることで、励磁コイルに通電した際、スプールヨーク41から励磁ヨーク52に亘って磁気回路を形成することができ、前記収容部材43に配設された複数枚の制動板を横切る磁場(スプール軸方向に沿った磁場)を発生させる。この場合、前記スペースS内には、励磁コイル用の駆動回路を装着した制御基板55が配設されており、駆動回路に対して外部電源(図示せず)から供給される電流値を制御することにより、励磁コイル51で発生する磁場の強さ(前記制動板を通過する磁場の強度)を調整することが可能となっている。なお、励磁コイル51に対する電流量は、リール本体の外部に装着した操作部材、たとえばカバー体15に対して回動可能な操作レバー57を配設し、その回動位置に応じて印加電流を可変制御することで調整される。
次に、上記した構成の魚釣用リールの作用及び効果について説明する。
前記励磁コイル51に対して電流を通電すると、励磁コイルは磁束を発生し磁気回路を形成する。この磁気回路は、スプールヨーク41、制動板45,47、及び励磁ヨーク52を一周するように形成され、前記第1制動板45、第2制動板47の間に強力な磁場を発生させ、各制動板の間で磁気反応摩擦材が鎖状に連結する。
この状態でハンドルを回転操作すると、前記巻き取り駆動機構20の一部である従動ギア22,23を介して一体回転するスプール軸21が回転駆動される。このとき、スプール軸21に回り止め固定された第2制動板47が回転駆動され、磁気反応摩擦材には剪断応力が作用して、第1制動板45を介して収容部材43と一体回転するスプール3に摩擦トルクを伝達する。この摩擦トルクは、磁気反応摩擦材に働く磁束密度の大きさ、すなわち励磁コイル51に通電する電流の大きさによって調整することができ、これにより、スプール3に対して所望の制動力を付与した状態での巻き取りをすることが可能となる。
次に、釣糸の繰り出し(魚のヒット等)に伴うスプール3の逆回転に制動力を付与する制動状態について説明する。
励磁コイル51の通電状態(磁気反応摩擦材の鎖状連結状態)において、釣糸に張力が作用してスプール3に逆回転方向の力が作用した場合、スプール3と一体的な第1制動板45と、スプール軸21と一体的な第2制動板47は摩擦連結され、そして巻き取り駆動機構20を介して一方向クラッチ35でハンドル軸5Aは逆転止めされているので、励磁コイル51への制御電流値に応じてスプール3の制動状態を調節できる。
上記した構成の魚釣用リールによれば、スプール3に対して制動力を付与する磁気制動装置40がフランジ部3Aの外側面3bと対向しており、磁気制動装置40とフランジ部3Aの外側面3bの間に、両者を仕切る側枠(フレーム)等が介在しないことから、従来のように、スプール3と外カバー15との間に、磁気制動手段用の大きなスペースを設置する必要が無く、構造も簡略化されるため、リール本体1を可及的に小型化することが可能となる。また、磁気制動装置40をスプール3とスプール軸21との間に配設し、かつ、磁場発生手段50は、収容部材43の径方向外方で励磁コイル51を配設した構成としたことで、磁気制動装置40と磁場発生手段50を軸方向にコンパクト化して配設することが可能となる。
特に、本実施形態では、フランジ部3Aの外側面に、直接、磁気制動装置40を構成するスプールヨーク41を固定している(フランジ部3Aの外側面3bと磁気制動手段40は密着した状態となっている)ため、リール本体を小型化することができ、更には、フランジ部の外側面に環状の凹所3aを形成し、その凹所3aの底面(フランジ部の外側面となる)3bに磁気制動装置40を構成する円板状のスプールヨーク41を固定しているため、リール本体をより小型化することが可能となる。
また、フランジ部3Aの外側面3bに対向するようにして磁気制動装置40を配設しており、制動部分を大きく確保することができるため、スプールに対して大きな制動力を作用させることが可能となる。特に、フランジ部3Aの外側面3bに対して磁気制動装置40の構成部材を密着するように取り付けたことで、取り付け部分をフランジ部3Aの比較的外径側に配置することができるため、十分な強度を確保することができ、大きな制動力(トルク)を作用させることが可能となる。
また、本実施形態では、励磁コイル51は、フレーム7に固定されているため、外部から励磁コイル51に容易に給電することができる。通常、電源あるいは電源ケーブルはフレーム7に保持されるが、励磁コイル51とフレーム7の間に可動部がないため、防水対策を施すのが容易になり、電気的に信頼性が高いという効果がある。また、密閉された収容空間に励磁コイルを取り付ける構成に比べ、回転部分にブラシ等で給電する必要が無いため、摺動摩擦の発生を無くすことができるという効果がある。
また、上記したように、制動板を円板体とし、これを多板式で構成しているため、伝達トルクを大きくすることが可能となる。すなわち、スプール軸21からスプール3に伝わるトルクは、磁気反応摩擦材が充填された隙間の数に比例するのであり、隙間は、第2制動板47の表裏両面にできるので、制動板を2枚以上用いることで、1枚で構成するよりも2倍以上摩擦面を増やすことができる(1枚の制動板で伝えられるトルクには限界があるが、本実施形態では、より大きなトルクを伝達することが可能となる)。
本実施形態では、3枚の第2制動板47で挟まれる隙間に第1制動板45を配置することから、第1制動板45の枚数は、第2制動板47の枚数よりも1枚少なく、両サイドの第2制動板47の外側は、それぞれスプールヨーク41及び収容部材43との間で磁気反応摩擦材が充填された隙間を形成することとなる。また、第2制動板47を複数枚で構成したことにより、1枚で構成した場合よりも磁気制動装置40は大型化してしまうが、その体積増加分は、増加した第2制動板及びその両側の隙間分であり、装置全体に対しては小さな割合である。一方、隙間を貫く磁束密度が同じと仮定すると、伝えられるトルクは1枚で構成したときよりも増加した枚数分だけ倍加する。したがって、体積当たりに伝えられるトルクの効率化が図れるようになる。
なお、本実施形態では、第1制動板45を2枚、第2制動板47を3枚で構成することにより、磁気反応摩擦材の摩擦トルクが生じる面を6面に増やし大きなトルクを伝達するようにしているが、これらの摩擦板は、それぞれ1枚以上あれば良い。例えば、第1制動板45を1枚、第2制動板47を1枚とした場合、摩擦トルクが生じる面を3面にすることができ、第1制動板45を1枚、第2制動板47を2枚とした場合、摩擦トルクが生じる面を4面にすることができ、従来の2面の構成と比較して大きなトルクを伝達することが可能となる。
さらに、本実施形態では、励磁コイル51は、フレーム7に固定されているため、外部から励磁コイル51に容易に給電することができる。通常、電源あるいは電源ケーブルはフレーム7に保持されるが、励磁コイル51とフレーム7の間に可動部がないため、防水対策を施すのが容易になり、電気的に信頼性が高いという効果がある。また、密閉された収容空間に励磁コイルを取り付ける構成に比べ、回転部分にブラシ等で給電する必要が無いため、摺動摩擦の発生を無くすことができるという効果がある。
上記した構成において、スプール3のフランジ部3Aの径方向外周部の環状部3eによって磁気制動手段40及び磁場発生手段50を覆うようにしても良い。このようにすることで、スプール3と励磁ヨーク52との間に生じる隙間を覆うことができ、水滴や糸などの異物の混入を効果的に防止することが可能となる。
図3は、上記した実施形態の変形例を示す図である。
上記した実施形態では、両側板間に回転自在に支持されたスプール軸21の回りの径方向内方に磁気制動装置40を配設し、その径方向外方に磁場発生手段50を配設したが、これらを逆に配設しても良い。
すなわち、前記実施形態と同様、フランジ部3Aの外側面に形成された環状の凹所3aには、磁気制動装置40Aを構成する円板状のスプールヨーク41が密着して固定されている。磁気制動装置40Aは、スプールヨーク41に被着され、収容空間(収容部)S1を備えた断面L字型で中央領域が開口したカップ状に形成された収容部材43Aと、スプール軸21に回り止め固定された純鉄等の強磁性材料からなる円板状の保持部43Bとを備えており、保持部43Bには、アルミニウム等の非磁性材料からなる外カバー側に向けて軸方向に突出する環状の突起(制動板保持部)43Cが一体的に形成されている。これらの収容部材43A、及び、保持部43B及び突起43Cは、磁気反応摩擦材(MR流体)を密封する収容空間S1を規定しており、この収容空間S1内には、磁気反応摩擦材に対する剪断応力によってスプール3に対して制動力を付与する制動板が配設されている。
前記収容部材43Aの環状壁の内面には、所定間隔をおいて純鉄等の強磁性材料からなる2枚の円板状の制動板(スプール側制動板;第1制動板)45Aが固定されている。また、前記環状の突起43Cの外面には、前記2枚の第1制動板45Aの間、及び、一方の制動板45Aと収容部材43Aの内面との間に1枚ずつ、合計2枚の制動板(巻取駆動部材側制動板;第2制動板)47Aがスプール軸21と一体回転可能に回り止め固定されており、これらが相互に所定間隔をおいて隣接して配設されている。これら複数枚の制動板45A,47Aは、上記した実施形態と同様、磁気反応摩擦材が密封された収容空間S1内で磁気反応摩擦材に対して大きな制動力を生じさせることが可能となっている。
なお、各制動板間には、上記した実施形態と同様、スペーサを介在してその間隔を維持するようにしても良い。また、前記スプールヨーク41とスプール軸21との間、及び、収容部43Aと環状の突起43Cとの間には、環状の弾性シール部材48A,48Bが配設されており、収容部材43Aの収容空間S1内を密封している。さらに、スプール軸21には、スプール3を回転可能に支持する軸受18が配設されている。
前記リール本体には、上記した構成の磁気制動手段40Aに対して異なる強度の磁場を付与する磁場発生手段50Aが装着されている。
本実施形態の磁場発生手段は、磁気制動装置40Aに対して径方向内側に配設されており、外部電源から電流の供給を受けて異なる磁力を発生させる励磁コイル51Aを備えている。前記励磁コイル51Aは、スプール軸21を中心軸として円筒形状に巻回されるコイルであり、純鉄等の磁性材料で形成された励磁ヨーク52Aに装着されている。この場合、励磁ヨーク52Aは、断面L字型となった環状の周壁52Bを備えており、リール本体を構成する右枠体7Bに固定されている。前記励磁コイル51Aは、環状の周壁52Bの径方向外側に固定され、収容部材43Aの径方向内方に配設された状態となっている。
このような構成では、励磁コイル51Aに通電すると、スプールヨーク41から励磁ヨーク52Aに亘って磁気回路が形成され、前記収容部材43Aの内部には、スプール軸方向に沿った磁場を発生させることが可能となる。
このように、径方向の外側に磁気制動手段40Aを配設し、その径方向内方に磁場発生手段50Aを配設しても、上記した実施形態と同様な作用効果が得られる。また、トルクの大きさは、制動板が摩擦力を発生する作用点の半径に比例する。本変形例では、制動板は、リール本体の外周側(スプール軸に対して径方向外側)に配設された状態になっているため、制動板に作用する磁束密度が前記実施形態と同一であると仮定すると、前記実施形態のように制動板を径方向内側に配設した場合と比較して大きな制動力を付与することが可能となる。
さらに、実際の使用時では、径方向の外側になる程、部品が波浪の飛沫等の影響を受け易くなる。本変形例では、励磁コイル51Aを径方向内側に配設し、その外側に第1及び第2の制動板を配設しているため、防水や漏電対策を施し易く、品質の良い磁気制動装置にすることができる。
図4は、本発明に係る魚釣用リールの第2の実施形態を示す図である。
本実施形態の磁気制動装置40Bは、スプール3のフランジ部3Aの外側面3bに対して被着され略カップ状に形成された収容部材43Dを備えている。収容部材43Dは収容空間(収容部)S1を備えており、環状の周壁43Eの端面をフランジ部3Aの外側面3bに当て付けた状態でスプール3に対して固定されている。収容部材43Dには、スプール軸21に回り止め固定された軸ヨーク47Dが挿通する開口43bが形成されると共に、軸ヨーク47Dとの間に軸受27Aを配設する環状突起43Fが形成されており、収容部材43D、すなわちスプール3は、スプール軸21に対して相対回転可能な関係となっている。また、収容空間S1内には、軸ヨーク47Dの一部、及び軸ヨーク47Dに一体化されると共に径方向に延びた輪帯状の制動板保持部材47Eが配設されている。
前記収容部材43Dの収容空間S1内には、磁気反応摩擦材(MR流体)が密封されると共に、磁気反応摩擦材に対する剪断応力によってスプール3に対して制動力を付与する制動板が配設されている。この場合、制動板は多板式に構成されており、スプールのフランジ部3Aの外側面3bに別体として固定され、軸方向に突出した4枚の環状の制動板(スプール側制動板;第1制動板)45Bと、前記制動板保持部材47Eに固定され、第1制動板45B間の隙間、第1制動板45Bと収容部材43Dの環状の周壁43Eとの間の隙間、第1制動板45Bと軸ヨーク47Dとの間の隙間に配置される5枚の環状の制動板(巻取駆動部材側制動板;第2制動板)47Bとを備えており、これらがスプールのフランジ部の外側面に、同心状で交互に配列されている(所定の隙間を維持して対向配置されている)。なお、スプール3、収容部材43D、前記制動板保持部材47Eはアルミ等の非磁性材料から構成される。また、第1制動板45B、第2制動板47B、軸ヨーク47Dは純鉄などの強磁性材料から構成される。
前記複数枚の環状の制動板45B,47Bは、上記した実施形態と同様、磁気反応摩擦材が密封された収容空間S1内で磁気反応摩擦材に対して大きな制動力を生じさせることが可能となっている。なお、各制動板間には、上記した実施形態と同様、スペーサを介在してその間隔を維持するようにしても良い。また、前記スプール3Aとスプール軸21との間、及び、収容部材43Dと軸ヨーク47Dとの間には、Oリング48C,48Dが配設されており、収容部材43Dの収容空間S1内を密封している。
前記リール本体には、上記した構成の磁気制動装置40Bに対して異なる強度の磁場を付与する磁場発生手段50Bが装着されている。
本実施形態の磁場発生手段は、磁気制動装置40Bに対して軸方向外方に配設されており、外部電源から電流の供給を受けて異なる磁力を発生させる励磁コイル51Bを備えている。前記励磁コイル51Bは、スプール軸21を中心軸として円筒形状に巻回されるコイルであり、純鉄等の磁性材料で形成された励磁ヨーク52Cに装着されている。この場合、励磁ヨーク52Cは、断面L字型となった環状の周壁52Dを備えており、リール本体を構成する右枠体7Bに固定されている。前記励磁コイル51Bは、環状の周壁52Dの内面に固定され、収容部材43Dの軸方向外方に配設された状態となっている。
このような構成では、励磁コイル51Bに通電すると、励磁ヨーク52Cに沿って磁気回路が形成され、前記収容部材43Dの内部には、スプール軸方向と直交する方向(制動板45B,47Bを横切る方向)に沿った磁場を発生させることが可能となる。
本実施形態によれば、制動板が多板式に構成されているため、大きな制動力を発生することができるとともに、第1制動板45B及び第2制動板47Bがそれぞれ環状に形成され、径方向に隙間を介して対向している(同心状に配列されている)ため、上記した実施形態の構成よりも制動板の精度が出し易くなる。すなわち、環状の制動板については、旋盤等によって容易に加工することができ、径方向の寸法については、ゲージ等によって管理できるため、精度が出易くなり、制動板間の隙間の幅についても管理し易く、隙間を狭くしても接触することがなくなる。これにより、制動板同士の隙間を狭くすることで磁束密度を上げることができ、大きな制動力を作用させることが可能となる。
また、上記した制動板の配列によれば、収容部材43Dを外すことで、それぞれの制動板45B,47Bを分解することなく、スプール側とスプール軸側を分解することが可能となり、メンテナンス時の作業性の向上や問題発生時の原因を特定し易くなる。
さらに、励磁コイル51Bは、制動板45B,47Bと略同径で軸方向に沿って併設することができるため、それぞれの部材をデッドスペース無く配置することができ、また、形成される磁気回路も小型化することができるため、リール本体を効率的に小型化することが可能となる。
なお、本実施形態では、第1制動板45Bは、スプールのフランジ部3Aに固定したが、フランジ部3Aの外側面3bに、同様な形状の制動板(同心状に配列された制動板)が設けられたヨーク部材を取着する構成であっても良い。
図5及び図6は、本発明に係る魚釣用リールの第3の実施形態(スピニングリール)を示す概略図であり、図5は、磁気制動装置が配設される部分の拡大図、図6は、図5に示す磁気制動装置の制動状態を示す図であり、(a)は、制動力が大きい状態を示す図、(b)は、制動力が小さい状態を示す図である。
本実施形態の磁気制動装置80は、スピニングリールのスプール73の内部に配設されており、上記した実施形態と同様、スプール73が釣糸の繰り出しで回転した際に、その回転に対して制動力を付与する構成となっている。
前記スプール73は、スプール軸75に対して軸受76,77を介して回転可能に支持されている。すなわち、スプール73は、スプール軸75との関係で相対回転する関係となっており、スプール軸75がスプール73と関連する関連部材(巻取駆動部材)となっている。スプール軸75は、公知のように、オシレート機構によって前後動するようにリール本体に支持されており(中心軸をXで示す)、スプール軸75とスプール73との間に、スプール73に対して制動力を付与する磁気制動装置80が配設されている。
前記スプール73の内部には、環状の凹部73Aが形成されており、この凹部73Aが磁気制動装置80の制動板、及び磁気反応摩擦材を収容する収容空間(収容部)S1を規定している。前記凹部73A内には、スプール軸75に対して直交する方向に延在する円板状の制動板(スプール側制動板;第1制動板)85a〜85cが軸方向に沿って複数枚(3枚)配設されている。これらの制動板85a〜85cは、純鉄等の強磁性材料によって構成されており、制動板85aが凹部73Aの底面73aに取着され、制動板85b,85cは、軸方向に所定の隙間を有するように、アルミニウム等の非磁性材料によって構成されたスペーサ86によって一定の間隔が維持されている。この場合、制動板85b,85cは、制動板85aよりも小径に形成されており、凹部73Aの内面壁73bとの間で一定の環状の隙間が生じるようにスペーサ86に一体的に固定されている。すなわち、制動板85a〜85cは、スペーサ86に一体化されており、両サイドの制動板85a,85cと前記スプール軸75との間に環状の弾性シール材88,89が配設されることで、収容空間S1は密閉された空間となっている。
また、前記スプール軸75には、スプール軸75に対して直交する方向に延在する2枚の円板状の制動板(巻取駆動部材側制動板;第2制動板)87が固定されている。各第2制動板87は、純鉄等の強磁性材料によって構成されており、前記3枚の第1制動板85a〜85c間で、第1制動板と所定の隙間を維持して対向配置されるようにスプール軸75に固定されている。
上記のように、本実施形態における制動板は、スプール側の第1制動板85が3枚、巻取駆動部材側の第2制動板87が2枚で構成され、それぞれが所定間隔をおいて対向配置される多板式となっており、各制動板間に磁気反応摩擦材(MR流体)が介在し、これにより、収容空間S1内に密封される磁気反応摩擦材に対して大きな制動力を生じさせることが可能となっている。
また、前記複数枚の制動板に対して異なる磁場を付与する磁場発生手段90は、永久磁石91を備えており、この永久磁石91は、前記凹部73Aの内面壁73bとスペーサ86との間の隙間に収容されるように環状に構成されている。前記永久磁石は、軸方向に着磁されており、図6(a)の矢印で示すように、複数枚の制動板を直交する方向に横切る磁場を生じさせるようになっている。そして、永久磁石91は、スプール軸75の先端に回転可能に装着された操作部材(操作ノブ)95に装着されており、操作部材95を回転操作することで、操作部材と共に軸方向に移動できるように配設されている。
上記した構成において、操作部材95を締め付けると、永久磁石91が複数枚の制動板に対して軸方向で重合する状態となり、図6(a)に示すように、上記した複数枚の制動板に対して、強い磁場を作用させることが可能となる。また、操作部材95を緩めると、永久磁石91が軸方向に移動して重合する範囲が少なくなり、図6(b)に示すように、上記した複数枚の制動板に対して作用する磁場を弱くすることが可能となる。
すなわち、永久磁石91の位置を、図6(a)で示す位置と図6(b)で示す位置との間で移動させることで、軸方向に沿って配設された複数枚の制動板に作用する磁場の強度を調整することが可能となり、これにより、スプール73に対する制動力を調整することが可能となる。
上記したスピニングリールでは、磁気制動装置をスプールの内部空間に収容したことで装置全体をコンパクト化することが可能となり、かつ、制動板を多板式に構成し、制動板を横切るように磁場を作用させたことで、上述した実施形態と同様、スプールに対して大きな制動力を付与することが可能となる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
上記した両軸受型リールの実施形態では、磁場発生手段を励磁コイルによって構成したが、永久磁石によって構成しても良い。この場合、永久磁石による磁場の強度が調整できるように、リール本体内に永久磁石や磁気回路を構成するヨークの位置をシフトさせる移動機構、及び、移動機構を駆動する操作部材を配設すれば良い。また、磁気制動装置、及び、磁場発生手段をハンドル側の側板内に配設することで、反ハンドル側の側板を握持、保持し易い形状に構成していたが、これらの部材に関しては、反ハンドル側の側板に配設しても良い。また、上記した実施形態では、スプール3を手動で巻き取る形式の両軸受型リールについて説明したが、スプールを駆動モータによって回転駆動する電動タイプの両軸受型リールに適用することが可能である。このような構成では、駆動モータを駆動する外部電源からの電力を励磁コイルに供給することが可能である。
また、両軸受型リールの実施形態において、スプールを回転駆動するための巻き取り駆動機構の構成については適宜変形することが可能であり、スプールに対して制動力を付与する磁気制動装置についても、上記した実施形態のように、スプール3とスプール軸21との間に配設されていても良いし、スプール3に対して相対回転可能な関係となる関連部材(例えば、巻き取り駆動機構の構成要素であるギアなど)との間に配設されていても良い。すなわち、磁気制動装置については、磁場の強度に応じて、回転するスプールに対して制動力を付与可能な構成であれば良い。
また、上記したスピニングリールに関する構成では、スプール73に凹部73Aを形成し、その凹部をシールすることで磁気反応摩擦材及び複数枚の制動板を封入したが、スプール73に別途、収容部を具備した収容部材を取着した構成であっても良い。また、磁気制動装置は、スプールの前方に配設したが、リール本体の後方側に配設する構成であっても良い。また、磁場発生手段の磁場の調整方法については、永久磁石をスプール軸上に移動させる方式に限らない。たとえば、周方向に磁場の強さが変化する永久磁石を回転させる方式であっても良い。
さらに、上述した各実施形態における磁気反応摩擦材は、磁場の強度でその粘度が調整できる公知の流体を適宜使用しても良い。