JP6405910B2 - 耐食鋼材 - Google Patents

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Description

本発明は耐食鋼材に関する。
海浜地域や海洋環境における鋼構造物や船舶の鋼構造部材などに使用される鋼材では、塩化物による腐食が問題になる。特に、海水の飛沫や塩分を含む粒子が鋼材に付着し、更に乾燥と湿潤とが繰り返される環境(乾湿繰り返し環境)に曝されると、鋼材の腐食が促進される。また、内陸部でも、冬季に塩化物を含む凍結防止剤が散布される地域では、橋梁等の構造物において塩化物に起因する腐食が懸念される。
Crは鋼材の耐食性を向上させる元素であり、塩化物による腐食を抑制するために多量のCrや他の合金元素を含有させた各種のステンレス鋼が開発され、前述のような腐食環境に曝される構造部材に適用されている。しかし、ステンレス鋼は高価であることから、コストを低減させるためにCrの添加量を抑制し、Alを添加して耐食性を向上させた鋼材が提案されている(例えば、特許文献1〜5)。
特許文献1〜3によって提案された発明は、合金成分の添加量や金属組織を制御し、母材や溶接部の機械特性を向上させようとするものである。また、特許文献4及び5によって提案された発明は、Cr及びAlの含有量の比(Cr/Al)を適正に制御して、すきま腐食の発生を抑制しようとするものである。
特開2004−162121号公報 特開2005−256135号公報 特開2006−161125号公報 特開2006−37201号公報 特開2008−7860号公報
海洋構造物の干満部、飛沫部や、タンカーのバラストタンクなど、塩化物イオン濃度が高くなるような部位では、特に腐食が問題になる。また、Cr、Al、Cu、Ni等の合金元素の添加によって全面腐食性を向上させた鋼材では、局所的に耐食性が劣化した部位が存在すると、孔食などの局部腐食が促進される傾向がある。したがって、合金元素の添加によって全面腐食性を向上させた耐食鋼材は、非常に厳しい腐食環境に曝された場合、局部腐食の促進が懸念される。
しかしながらこれまで、耐全面腐食性と耐局部腐食性を両立し得る鋼材は検討されておらず、その開発が望まれていた。
本発明は、このような実情に鑑みて案出されたものであり、特に、塩化物イオンが濃化されるような非常に厳しい腐食環境に曝された際の耐局部腐食性にも優れる、耐食鋼材を提供するものである。
本発明者は、Cr及びAlを含有する耐食鋼材では、AlNの生成に起因するAl欠乏層によって、部分的な耐食性の低下が生じることを見出し、その対策を検討した。その結果、Alよりも高温で窒化物を形成し、かつ固溶状態では鋼の耐食性の向上に寄与しないTiを添加することにより、AlNの生成を抑制して局部腐食を抑制できることを新たに見出した。
通常、Cr及びAlの含有量を増加させると鋼材の耐食性は向上するが、同時に、フェライト相変態域が広がるため、粗大なフェライトが生成しやすくなり、特に溶接熱影響部の靭性の低下が懸念される。そのため、Cr及びAlを含有する耐食鋼材では、Mn添加によってフェライト相変態の生成を抑制することが好ましい。
一方、Mnの添加量が増加するとCrやAlの添加効果である不動態化が阻害され、特に高塩害環境では、耐食性が劣化しやすくなる。更に、Sの含有量が増加すると、孔食の起点となるMnS介在物の増加や粗大化によって、局部腐食が発生しやすくなる。
そこで、本発明者は、Cr、Al、Mn、Sの含有量と耐食性との関係を評価した。その結果、Cr、Al、Mn、Sの含有量から求められるRc値が特定の範囲内となる場合に、粗大なフェライトの生成が抑制され、かつ、Mn添加に伴う不動態化の不安定化や、MnS介在物による局部腐食の発生も抑制されることを見出した。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]質量%で、
C:0.005〜0.20%、
Mn:1.60〜2.70%、
Cr:4.0〜9.0%、
Al:0.10〜1.15%、
Ti:0.005〜0.100%、
N:0.0020〜0.0080%
を含有し、Ti及びNの含有量が、Ti/N≧3.0を満足し、
更に、
Si:1.00%以下、
P:0.030%以下、
S:0.0050%以下
に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、下記(式1)で求められるRc値が0.40以上であることを特徴とする耐食鋼材。
Rc=(0.1Cr+0.2Al)/(0.3Mn+400S)・・・ (式1)
ここで、Cr、Al、Mn、Sは各元素の含有量(質量%)である。
[2]質量%で、更に、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下
の一方又は両方を含有することを特徴とする上記[1]に記載の耐食鋼材。
[3]質量%で、更に、
Mo:1.0%以下、
W:1.0%以下、
V:0.50%以下、
Nb:0.150%以下、
B:0.010%以下、
Ta:0.040%以下、
Sb:1.00%以下、
Sn:1.00%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の耐食鋼材。
[4]質量%で、更に、
Ca:0.010%以下、
Mg:0.010%以下、
REM:0.010%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の耐食鋼材。
[5]上記[1]〜[4]の何れか1項に記載の耐食鋼材の表面に、金属亜鉛又は亜鉛合金を30質量%以上を含有する5〜100μmの厚みの無機ジンクリッチプライマー層を設けたことを特徴とする耐食鋼材。
[6]前記無機ジンクリッチプライマー層の表面に、20〜400μmの厚みのエポキシ系樹脂層又はシリコン系樹脂層を設けたことを特徴とする上記[5]に記載の耐食鋼材。
本発明によれば、特に、塩化物イオンが濃化されるような非常に厳しい腐食環境に曝された際の耐局部腐食性にも優れる、耐食鋼材を提供することが可能になり、本発明は産業上の貢献が極めて顕著である。
本発明は、適量のCr及びAlを同時に添加し、全面耐食性を向上させた耐食鋼材に、Tiを添加し、局部腐食の起点となるAlN及びその周辺のAl欠乏層の生成を抑制し、かつ下記式1により求められるRc値の範囲が0.40以上となるようにCr、Al、Mn、Sの含有量を制御するものである。つまり、Rc値を0.40以上にすることで、耐食性の向上、局部腐食を顕著に抑制することができるものである。
Rc=(0.1Cr+0.2Al)/(0.3Mn+400S)・・・ (式1)
更に、鋼材表面に無機ジンクリッチプライマーを塗布することにより、市販のステンレス鋼に比べて低合金組成でありながら、長期間に亘って発錆を防止することが可能になる。さらに本発明では耐久性を向上させるために、前述の無機ジンクリッチプライマー層の表面に、エポキシ系樹脂層又はシリコン系樹脂層を形成させてもよい。
なお、本発明の耐食鋼材の形状は特に限定せず、鋼板、鋼管、形鋼であって構わない。
以下、本発明の耐食鋼材の成分を限定した理由について説明する。なお、%の表記は特に断りがない場合は質量%を意味する。
(C:0.005〜0.20%)
Cは、強度を向上させる元素であり、この効果を得るためには0.005%以上を含有させることが必要である。好ましくはC量を0.01%以上とする。一方、C量が0.20%を超えると、Cr系炭化物の生成により耐食性が劣化するため、C量を0.20%以下とする。好ましくは、C量を0.10%以下とし、より好ましくは0.05%以下とする。
(Mn:1.60〜2.70%)
Mnは、オーステナイトを安定化させる元素であり、粗大なフェライトの形成を抑制するために添加される。本発明では、フェライトを安定化させるCr及びAlを多量に含有させるため、Mn量が1.60%よりも少ないと、粗大なフェライトの結晶粒が形成され、製造性や機械特性を損なう場合がある。したがって、Mn量は1.60%以上とする。好ましくはMn量を2.00%以上とし、更に好ましくは2.50%以上とする。一方、Mn量が2.70%を超えると、不動態化が不安定になり、耐食性が劣化するため、Mn量を2.70%以下とする。Mn量は、好ましくは2.60%以下とする。
(Cr:4.0〜9.0%)
Crは、不動態化被膜を形成して鋼材の耐食性を向上させる元素であり、Alと同時に含有させることにより、この効果が顕著に発現する。本発明においてCr量は、優れた耐食性を得るために、4.0%以上とする。好ましくは5.0%以上、より好ましくは5.5%以上とする。一方、9.0%を超えてCrを含有させると、粗大なフェライトの結晶粒が形成され、製造性や機械特性を損なう。したがって、Cr量は9.0%以下とし、好ましくは8.0%以下、より好ましくは7.5%以下とする。
(Al:0.10〜1.15%)
Alは、Crとの相互作用によって、耐食性を顕著に向上させる有用な元素である。この効果を得るためには、0.10%以上のAl量が必要であり、好ましくはAl量を0.20%以上とする。一方、AlNの形成を抑制による局部腐食の発生の抑制やフェライト相変態の温度範囲の過剰な拡大を回避する観点から、Al量を1.15%以下とすることが必要である。好ましくは、Al量を0.7%以下とする。
(Ti:0.005〜0.100%)
Tiは、AlNよりも高温で窒化物を形成する元素であり、AlNの生成を抑制し、局部腐食の抑制に寄与する。本発明では、Tiは重要な元素の1つであり、耐局部腐食性を向上させるために、0.005%以上を添加する。好ましくは、0.010%以上を添加する。一方、0.100%超のTiを添加すると、機械特性が劣化するため、Ti量の上限を0.100%以下とする。好ましくは、Ti量を0.050%以下、より好ましくは0.030%以下とする。
(N:0.0020〜0.0080%)
Nは、AlとともにAlNを形成すると耐局部腐食性を損なうが、Tiと窒化物を形成することにより、結晶粒の微細化に寄与する元素である。本発明では、粗大なフェライトの生成を抑制するため、N量を0.0020%以上とする。一方、N量が0.0080%を超えると、窒化物に起因して機械特性が劣化するため、上限を0.0080%以下とする。N量は、好ましくは0.0070%以下、より好ましくは0.0060%以下とする。
(Si:1.00%以下)
Siは、脱酸及び強度の向上に寄与する元素であるが、1.00%を超えて含有させると靱性が低下するため、Si量を1.00%以下に制限する。好ましくはSi量を0.50%以下とする。Si量の下限は限定せず、0%でもよいが、Alの酸化物の生成を抑制して、Alを鋼中に固溶させ、耐食性を向上させるためには、Si量を0.05%以上にすることが好ましい。より好ましくはSi量を0.10%以上とする。
(P:0.030%以下)
Pは、不純物であり、鋼材の機械特性や製造性を低下させるため、P量を0.030%以下に制限する。好ましくはP量を0.020%以下とする。P量の下限は限定せず、0%でもよいが、製造コストの観点から0.001%以上とすることが好ましい。
(S:0.0050%以下)
Sは、不純物であり、局部腐食の起点となる硫化物を形成するので、S量を0.0050%以下に制限する。好ましくはS量を0.0020%以下、より好ましくは0.0010%以下とする。S量の下限は限定せず、0%でもよいが、製造コストの観点から0.0001%以上とすることが好ましい。
(Ti/N:3.0以上)
Tiは、鋼中のNを窒化物として固定し、AlNの形成を抑制するために添加される元素であるため、N量に応じてTi量を決定することが好ましい。Tiの窒化物は、主にTiNであり、Nの原子数と同等以上のTiを確保するために、質量%で表わされるTi及びNの含有量の比Ti/Nを3.0以上にすることが好ましい。Ti/Nの上限は、特に制限されるものではないが、Ti量の上限(0.10%)及びN量の下限(0.0020%)から50以下である。Ti/Nの好ましい上限は、Ti量の好ましい上限から25以下、より好ましくは15以下である。
(Rc値:0.40以上)
Rc値は、耐食性を向上させるCr及びAlと、耐食性を劣化させるMn、Sとによる鋼材の耐食性への影響に着目した検討によって、本発明者が実験的に見出した指標であり、Cr、Al、Mn、Sの含有量によって下記(式1)から求められる。
Rc値が、0.40未満では、不動態が不安定になり、腐食起点になりやすいこと、また、MnS介在物が生成し、局部腐食を抑制しにくくなることが実験的に見出されたため、0.40以上とする。Rc値の増加とともに鋼材の耐食性は向上するため、Rc値の上限は特に限定しないが、Cr量の上限値(9.0%)、Al量の上限値(1.15%)、Mn量の下限値(1.60%)、S量の下限値(0%)から2.35となる。Rc値の好ましい上限は、上記のCr量及びAl量の上限値並びにMn量の下限値と、S量の好ましい下限値(0.0001%)とから2.17となる。また、Rc値を上げるに従い耐食性効果は次第に飽和する。耐食性の向上効果が顕著に発現する、より好ましいRc値の上限は1.50であり、1.00とすることがさらに好ましい。
Rc=(0.1Cr+0.2Al)/(0.3Mn+400S)・・・ (式1)
本発明の鋼板に用いる鋼の成分は、以上のような元素、不純物、残部Feからなるが、さらに下記の元素を添加してもよい。
本発明では、上記の元素に加えて、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下の一方又は両方を添加することができる。
(Cu:0.50%以下)
Cuは、耐食性を向上させる元素であり、好ましくは0.05%以上を添加する。より好ましくはCu量を0.10%以上とする。一方、0.50%を超えてCuを添加すると脆化が生じることがあるため、Cu量は0.50%以下が好ましい。より好ましくはCu量を0.30%以下とする。
(Ni:0.50%以下)
Niは、耐食性を向上させる元素であり、好ましくは0.05%以上を添加する。より好ましくはNi量を0.10%以上とする。一方、Niは高価な元素であることから、Ni量の上限は0.50%以下が好ましい。より好ましくはNi量を0.30%以下とする。
なおCu及びNiは、両方を同時に添加することが好ましい。Cuは、Niに比べて耐食性を向上させる効果が大きいが、偏析し易く、単独で添加すると鋳造後の割れを助長する場合がある。これに対して、NiはCuの偏析を軽減する作用があり、CuとNiの両方を同時に添加すると、Cu偏析起因の鋳片の割れの抑制に加えて、偏析に起因する局部腐食の発生も抑制されるため、耐食性を向上させる効果が顕著に発現される。
本発明では、上記の元素に加えて、更に、Mo:1.0%以下、W:1.0%以下、V:0.50%以下、Nb:0.150%以下、Ta:0.040%以下、Sb:1.00%以下、Sn:1.00%以下の何れか1種又は2種以上を含有させることができる。
(Mo:1.0%以下)
Moは、Alに比べて窒化物を形成し難く、さらに固溶状態において、局部腐食の発生と成長を抑制することができる元素である。耐局部腐食性を向上させるには、Moを0.050%以上添加することが好ましい。ただし、Moは、1.0%を超えて含有させると、粗大なフェライトの結晶粒が形成され、製造性や機械特性を損なう。したがって、Moの含有量は1.0%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.2%以下とする。
(W:1.0%以下)
Wは、Mo同様に、Alに比べて窒化物を形成し難く、さらに固溶状態において、局部腐食の発生と成長を抑制することができる元素である。その効果を発現するためには、0.050%以上添加することが好ましい。ただし、Wは1.0%を超えて含有しても、その効果は飽和し、また、鋼材コストの上昇を伴う。したがって、Wの含有量は、1.0%以下とすることが好まししく、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.2%以下とする。
(V:0.50%以下)
Vは、Tiと同様に、窒化物を生成する元素であるが、主に、析出強化による強度の改善のために添加することができる。この効果を得るために、V量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、0.50%超のVを添加すると、機械特性が劣化することがあるため、V量は0.50%以下が好ましい。V量は、より好ましくは0.20%以下であり、更に好ましくは0.30%以下とする。
(Nb:0.150%以下)
Nbは、Tiと同様に、窒化物を生成する元素であり、AlNや粗大なフェライトの生成の抑制に寄与する。この効果を得るために、Nb量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、0.150%超のNbを添加すると、機械特性が劣化することがあるため、Nb量は0.150%以下が好ましい。Nb量は、より好ましくは0.10%以下であり、更に好ましくは0.050%以下とする。
(B:0.010%以下)
Bは焼入性を向上させ、強度を高める元素である。その効果を効果的に得るためには、0.0003%以上含有させることが好ましい。ただし、0.010%を超えてB添加しても効果が飽和し、また母材、HAZともに靭性が低下する場合がある。したがって、B量は0.010%以下が好ましい。より好ましいB量の上限は0.0050%以下である。
(Ta:0.040%以下)
Taは、耐食性の向上に有効な元素である。メカニズムは必ずしも明らかでないが、Taの酸化物が、表面に形成される保護的な被膜の安定性や緻密性に作用していると考えられる。この効果を得るために、Ta量を0.001%以上とすることが好ましい。一方、0.040%を超えてTaを添加しても、大幅な耐食性向上は期待できず、かつ製造上のコスト増になるため、Ta量は0.040%以下が好ましい。より好ましくはTa量を0.020%以下とする。
(Sb:1.00%以下)
(Sn:1.00%以下)
Sn及びSbは、耐食性の向上に有効な元素である。Sn及びSbの添加量は、好ましくは、それぞれ、0.01%以上、より好ましくは0.03%以上とし、更に好ましくは0.10%以上とする。一方、Sn及びSbの各添加量は、何れも、1.00%を超えると、熱間加工性が劣化する傾向にあるため、1.00%以下が好ましい。より好ましくは、それぞれ、0.50%以下、更に好ましくは0.30%以下とする。
また、本発明では、上記の元素に加えて更に、Ca:0.010%以下、Mg:0.010%以下、REM:0.010%以下の何れか1種又は2種以上を添加することができる。
(Ca:0.010%以下)
(Mg:0.010%以下)
Ca及びMgは、一般には酸化物や硫化物の制御に用いられるが、Cr及びAlを含有する鋼では、環境中で選択的に溶解し、鋼板表面でアルカリ環境を形成することから耐食性向上に寄与する。この効果を得るには、Ca及びMgの何れも0.0005%以上を添加することが好ましい。一方、Ca及びMgは、0.010%を超えて添加しても耐食性を向上させる効果は飽和し、機械特性が損なわれる場合があるため、Ca及びMgの各添加量は0.010%以下が好ましい。より好ましくは、それぞれ、0.005%以下とする。
(REM:0.010%以下)
本発明では、酸化物や硫化物の制御を目的として、希土類元素(REM)を適宜添加してもよい。この効果を得るには、0.001%以上のREMを添加することが好ましい。一方、REMを0.010%を超えて添加しても耐食性を向上させる効果は飽和し、機械特性が損なわれる場合があるため、REMの添加量は0.010%以下が好ましい。より好ましくは、0.005%以下とする。
本発明においては、上記元素以外の残部はFe及び不可避的不純物からなるが、本発明の作用効果を害さない範囲内で他の元素を微量に添加することができる。
(無機ジンクリッチプライマー層)
本発明の鋼材は、そのまま使用しても良好な耐食性を示すが、その表面を防食皮膜にて皮膜することで、耐食性を一層向上させることができる。
本発明の耐食鋼材は、前述の防食皮膜として、上記組成からなる下地鋼材の表面に、無機ジンクリッチプライマー層を設けてもよい。
無機ジンクリッチプライマー層は、無機ジンクリッチプライマーを塗布し、乾燥させて形成される被膜である。無機ジンクリッチプライマー層に含まれる亜鉛(金属亜鉛又は亜鉛合金)は、耐食鋼材の犠牲防食に寄与する。無機ジンクリッチプライマー層に含まれる亜鉛は粉末状(亜鉛末と呼ばれることがある。)である。
更に、無機ジンクリッチプライマー層の亜鉛が消費されて犠牲防食の効果が失われた後は、腐食生成物とCr等の相互作用によって耐食鋼材の腐食の進行が抑制されるため、長期間に亘って防食効果を得ることが可能である。
無機ジンクリッチプライマー層は、厚みが5μm未満では防食効果が早期に失われることが懸念されるため、5μm以上が好ましい。より好ましくは10μm以上とする。一方、無機ジンクリッチプライマー層の厚みは、100μmを超えると、割れやダレを生じ易くなるため、100μm以下が好ましい。更に、無機ジンクリッチプライマー層は、厚みが増加すると、溶断や溶接の際にヒュームやブローホールを生じやすくなる。また、加工性、耐食性、経済性のバランスを考慮すると、無機ジンクリッチプライマー層の厚みは80μm以下がより好ましく、更に好ましくは50μm以下とする。
無機ジンクリッチプライマー層は、乾燥塗膜中に金属亜鉛又は亜鉛合金を30質量%以上含有するものを用いることが好ましい。耐食鋼材の表面に塗布される無機ジンクリッチプライマーの組成は、アルキルシリケート、エチルシリケート等のシリケート縮合液をビヒクルとしたものを用いることが多い。また、加熱残分中の金属亜鉛又は亜鉛合金が30質量%以上のものであれば特に規定するものではないが、JIS K5552 1種相当品であることが、信頼性の点で好ましい。亜鉛合金は、例えば、Zn−Al合金、Zn−Mg合金、Zn−Al−Mg合金を使用することができる。
また、本発明の耐食鋼材では、無機ジンクリッチプライマー層の表面にエポキシ系樹脂層又はシリコン系樹脂層を形成させることにより、更に耐久性を向上させることが可能である。なお、本発明の耐食鋼材の表面に、直接、エポキシ系樹脂層又はシリコン系樹脂層を形成させることは好ましくない。
エポキシ系樹脂塗料は、主剤と硬化剤を含む2液型のもの、例えば、エポニックス(登録商標)又はマリンバラスター(登録商標)を使用することができる。マリンバラスター(登録商標)は、エポキシ樹脂を含む主剤と、変性脂肪族ポリアミンを含む硬化剤からなるエポキシ系樹脂塗料である。シリコン系樹脂塗料は、シリコン樹脂を含む主剤とトルエン等を含む硬化剤を混合させて得られたもの、例えば、パイロジンスタックACT#250やパイロジン(登録商標)B#1000を使用することができる。
エポキシ系樹脂層又はシリコン系樹脂層の厚みは、20μm未満では早期に樹脂層が破損又は剥離して効果が失われる場合があり、20μm以上とすることが好ましい。エポキシ系樹脂層の場合は40μm以上がより好ましい。一方、エポキシ系樹脂層又はシリコン系樹脂層の厚みは、400μmを超えると効果が飽和し、経済性に不利になる場合があり、400μ以下が好ましい。塗装性、経済性の観点から、エポキシ系樹脂層の場合は100μm以下がより好ましく、シリコン系樹脂層の場合は75μm以下がより好ましい。また、厚みは同じでも、2回塗りするなど多層塗りすることが好ましい。
なお、上述した無機ジンクリッチプライマー層、ならびにエポキシ系樹脂層又はシリコン系樹脂層は、必ずしも耐食鋼材の全面に形成する必要はなく、腐食環境に曝される面としての鋼材の片面(鋼管であれば外面または内面)だけ、すなわち鋼材表面の少なくとも一部を防食処理するだけでもよい。
本発明の耐食鋼材の製造方法については、特に限定されず、常法でよい。例えば、鋼片を加熱し、熱間圧延工程、及び必要に応じて熱処理工程を経て製造される。鋼片は、転炉あるいは電気炉により成分調整され溶製後、連続鋳造法及び造塊・分塊法などの工程により製造される。鋼片は加熱後、熱間圧延により鋼板、形鋼、鋼管などとして目的に応じて焼き入れ、焼き戻しや焼きならし、焼きなまし、などの熱処理を加えてもよい。
無機ジンクリッチプライマー層の形成方法については、特に限定されるものではない。例えば、鋼材に無機ジンクリッチプライマーを刷毛又はスプレーにて塗布することによって、鋼材表面に無機ジンクリッチプライマー層を形成することができる。無機ジンクリッチプライマーを塗布又はスプレーする前に、ショットブラストやサンドブラストにより、鋼材表面の錆落としをしておくことが、密着性の点で好ましい。ブラスト処理を施す場合は、ISO 8501−1に示すSa2・1/2以上とすることが好ましい。また、ブラスト処理された鋼材表面に無機ジンクリッチプライマーをスプレーする場合、エアレススプレーによりスプレーすることが、作業効率の点で好ましい。
エポキシ樹脂層又はシリコン系樹脂層の施工方法も特に限定されるものではない。例えば、鋼材の表面又は無機ジンクリッチプライマー層の表面に、刷毛、エアレス又はエアスプレー等により、乾燥塗膜の厚さが所望の厚みになるよう、エポキシ系樹脂塗料又はシリコン系樹脂塗料を塗装し、常温で硬化させて仕上げればよい。
以下、本発明の実施例を挙げながら、本発明の技術的内容について更に説明する。なお、以下に示す実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。また本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
表1および表2に示す成分組成の鋼を溶製し、鋳造し、得られた鋼片を1100℃に加熱し、仕上げ温度を740℃として5mm厚さまで熱間圧延し、室温まで空冷した。その後、950℃に加熱し、15分間保持した後、炉冷した。
得られた鋼板から長さ150mm、幅60mm、厚み4mmの試験片を採取した。試験片の表面には、Sa2.5(ISO 8501−1)以上になるようにブラスト処理を施した。一部の試験片には、無機ジンクリッチプライマー層を形成し、一部の試験片には、無機ジンクリッチプライマー層上に更にエポキシ系樹脂層又はシリコン系樹脂層を形成した。
次に、無機ジンクリッチプライマー層を形成させた試験片、及び、更にエポキシ系樹脂層又はシリコン系樹脂層を形成させた試験片には、幅0.6mm、長さ300mmの2本の直線が、互いに試験面の中央部で試験片上からみて30°で交わるXカットをカッターで入れ、地鉄面を露出させた。Xカットは、不可避的な欠陥を模擬するものである。
無機ジンクリッチプライマーは、JIS K 5552 1種相当品(日本ペイント株式会社製 商品名:ニッぺジンキ1000P)で調整したものを用い、試験片の表面にエアスプレーにて厚さ15μm狙いで塗布した。
無機ジンクリッチプライマー層を形成した後、一部の試験片の表面には、無機ジンクリッチプライマー層上に、シリコン系樹脂塗料(大島工業株式会社製、商品名:パイロジンB#1000)を厚さ100μm狙いで塗布し、シリコン系樹脂層を形成させた。また、一部の試験片の表面には、無機ジンクリッチプライマー層上に、エポキシ系樹脂塗料(関西ペイント株式会社製、商品名:エポマリンSHB)を100μm狙いで塗布し、エポキシ系樹脂層を形成させた。
試験片を海水中に3年間浸漬させる実海水浸漬試験と、海水の飛沫の影響を受ける、沿岸から5m程度離れた雨がかりのない日陰曝露環境で、試験片を水平曝露する2年間の実曝露試験とを実施した。
試験前後のポイントマイクロメータを用いた腐食深さ測定により、各試験片において最も腐食が深い点を3点選び、その平均の深さを、最大局部深さとした。その最大局部深さが、0.05mm以下を「◎」とし、0.05mm超、0.1mm以下を「○」とし、0.1mmを超えるものを「×」とした。
結果を表3に示す。
表3には、表面にブラスト処理のみを施した試験片(裸まま)、無機ジンクリッチプライマー層を形成させた試験片(無機Zn層)、エポキシ系樹脂層又はシリコン系樹脂層を形成させた試験片(無機Zn層+樹脂層)の最大局部深さの評価結果を「○」、「◎」、又は「×」で示した。
表3に示したように、鋼No.1〜17(本発明例)は、耐食性が良好である。
一方、Ti/Nが本発明の範囲に満たない鋼No.21、Rc値が本発明の範囲に満たない鋼No.22は耐食性(特に、耐局部腐食性)が低下している。また、Cr量が不足している鋼No.23、C量、Al量、及びMn量がそれぞれ過剰である鋼No.24、25、及び26は、耐食性(特に、耐局部腐食性)が低下している。
Figure 0006405910
Figure 0006405910
Figure 0006405910

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.005〜0.20%、
    Mn:1.60〜2.70%、
    Cr:4.0〜9.0%、
    Al:0.10〜1.15%、
    Ti:0.005〜0.100%、
    N:0.0020〜0.0080%
    を含有し、Ti及びNの含有量が、Ti/N≧3.0を満足し、
    更に、
    Si:1.00%以下、
    P:0.030%以下、
    S:0.0050%以下
    に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、下記(式1)で求められるRc値が0.40以上であることを特徴とする耐食鋼材。
    Rc=(0.1Cr+0.2Al)/(0.3Mn+400S)・・・ (式1)
    ここで、Cr、Al、Mn、Sは各元素の含有量(質量%)である。
  2. 質量%で、更に、
    Cu:0.50%以下、
    Ni:0.50%以下
    の一方又は両方を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐食鋼材。
  3. 質量%で、更に、
    Mo:1.0%以下、
    W:1.0%以下、
    V:0.50%以下、
    Nb:0.150%以下、
    B:0.010%以下、
    Ta:0.040%以下、
    Sb:1.00%以下、
    Sn:1.00%以下
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐食鋼材。
  4. 質量%で、更に、
    Ca:0.010%以下、
    Mg:0.010%以下、
    REM:0.010%以下
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の耐食鋼材。
  5. 請求項1〜4の何れか1項に記載の耐食鋼材の表面に、金属亜鉛又は亜鉛合金を30質量%以上を含有する5〜100μmの厚みの無機ジンクリッチプライマー層を設けたことを特徴とする耐食鋼材。
  6. 前記無機ジンクリッチプライマー層の表面に、20〜400μmの厚みのエポキシ系樹脂層又はシリコン系樹脂層を設けたことを特徴とする請求項5に記載の耐食鋼材。
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