JP6405909B2 - 耐食鋼材 - Google Patents
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Description
しかしながらこれまで、耐全面腐食性と耐局部腐食性を両立し得る鋼材は検討されておらず、その開発が望まれていた。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
C:0.005〜0.20%、
Mn:0.30〜3.00%、
Cr:4.0〜9.0%、
Al:0.10〜0.70%、
Ti:0.005〜0.100%、
N:0.0020〜0.0080%
を含有し、更に、
Mo、Wの一方又は両方を合計で、0.050〜1.0%含有し、更に、
Si:1.00%以下、
P:0.030%以下、
S:0.0050%以下
に制限し、
残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする耐食鋼材。
[2] 質量%で、更に、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下
の一方又は両方を含有することを特徴とする上記[1]に記載の耐食鋼材。
[3] 質量%で、更に、
V:0.50%以下、
Nb:0.150%以下、
Ta:0.040%以下、
Sb:1.00%以下、
Sn:1.00%以下、
B:0.010%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の耐食鋼材。
[4] 質量%で、更に、
Ca:0.010%以下、
Mg:0.010%以下、
REM:0.010%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の耐食鋼材。
[5] Ti及びNの含有量が、
Ti/N≧3.5
を満足することを特徴とする上記[1]〜[4]の何れか1項に記載の耐食鋼材。
[6]上記[1]〜[5]の何れか1項に記載の耐食鋼材の表面に、金属亜鉛又は亜鉛合金を30質量%以上を含有する5〜100μmの厚みの無機ジンクリッチプライマー層を設けたことを特徴とする耐食鋼材。
[7]前記無機ジンクリッチプライマー層の表面に、20〜400μmの厚みのエポキシ系樹脂層又はシリコン系樹脂層を設けたことを特徴とする上記[6]に記載の耐食鋼材。
なお、本発明の耐食鋼材の形状は特に限定せず、鋼板、鋼管、形鋼であって構わない。
Cは、強度を向上させる元素であり、この効果を得るためには0.005%以上を含有させることが必要である。好ましくはC量を0.01%以上とする。一方、C量が0.20%を超えると、Cr系炭化物の生成により耐食性が劣化するため、C量を0.20%以下とする。好ましくは、C量を0.10%以下とし、より好ましくは0.05%以下とする。
Mnは、オーステナイトを安定化させる元素であり、粗大なフェライトの形成を抑制するために添加される。本発明では、フェライトを安定化させるCr及びAlを多量に含有させるため、Mn量が0.30%よりも少ないと、粗大なフェライトの結晶粒が形成され、製造性や機械特性を損なう。したがって、Mn量は0.30%以上とする。好ましくはMn量を0.50%以上とし、より好ましくは1.00%以上、更に好ましくは1.50%以上とする。一方、Mn量が3.00%を超えると、粗大なMnSが生成し、耐食性や機械特性が劣化するため、Mn量を3.00%以下とする。Mn量は、好ましくは2.75%以下、より好ましくは2.50%以下とする。
Crは、不動態化被膜を形成して鋼材の耐食性を向上させる元素であり、Alと同時に含有させることにより、この効果が顕著に発現する。本発明においてCr量は、優れた耐食性を得るために、4.0%以上とする。好ましくは5.0%以上、より好ましくは5.5%以上とする。一方、9.0%を超えてCrを含有させると、粗大なフェライトの結晶粒が形成され、製造性や機械特性を損なう。したがって、Cr量は9.0%以下とし、好ましくは8.0%以下、より好ましくは7.5%以下とする。
Alは、Crとの相互作用によって、耐食性を顕著に向上させる有用な元素である。この効果を得るためには、0.10%以上のAl量が必要であり、好ましくはAl量を0.20%以上とする。一方、過度のAlの添加は局部腐食の起点となるAlNの形成を促進させるおそれがある。そのため、AlNの形成を抑制して局部腐食の発生を抑制するには、Al量を0.70%以下とすることが必要である。好ましくは、Al量を0.50%以下とする。
Tiは、AlNよりも高温で窒化物を形成する元素であり、AlNの生成を抑制し、局部腐食の抑制に寄与する。本発明では、Tiは重要な元素の1つであり、耐局部腐食性を向上させるために、0.005%以上を添加する。好ましくは、0.010%以上を添加する。一方、0.100%超のTiを添加すると、機械特性が劣化するため、Ti量の上限を0.100%以下とする。好ましくは、Ti量を0.050%以下、より好ましくは0.030%以下とする。
Nは、AlとともにAlNを形成すると耐局部腐食性を損なうが、Tiと窒化物を形成することにより、結晶粒の微細化に寄与する元素である。本発明では、粗大なフェライトの生成を抑制するため、N量を0.0020%以上とする。一方、N量が0.0080%を超えると、窒化物に起因して機械特性が劣化するため、上限を0.0080%以下とする。N量は、好ましくは0.0070%以下、より好ましくは0.0060%以下とする。
Mo及びWは、Alに比べて窒化物を形成し難く、さらに固溶状態において、局部腐食の発生と成長を抑制することができる重要な元素である。本発明においてMo、Wは、一方のみを添加してもよく、両方を添加してもよい。耐局部腐食性を向上させるには、Mo、Wの一方又は両方を合計で0.050%以上添加することが必要である。好ましくは、0.05%以上とする。Mo、Wは、一方又は両方を合計で1.0%を超えて含有させると、粗大なフェライトの結晶粒が形成され、製造性や機械特性を損なう。したがって、Mo、Wの一方又は両方の合計の含有量は1.0%以下とし、好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.5%以下とする。
Siは、脱酸及び強度の向上に寄与する元素であるが、1.00%を超えて含有させると靱性が低下するため、Si量を1.00%以下に制限する。好ましくはSi量を0.50%以下とする。Si量の下限は限定せず、0%でもよいが、Alの酸化物の生成を抑制して、Alを鋼中に固溶させ、耐食性を向上させるためには、Si量を0.05%以上にすることが好ましい。より好ましくはSi量を0.10%以上とする。
Pは、不純物であり、鋼材の機械特性や製造性を低下させるため、P量を0.030%以下に制限する。好ましくはP量を0.020%以下とする。P量の下限は限定せず、0%でもよいが、製造コストの観点から0.001%以上とすることが好ましい。
Sは、不純物であり、局部腐食の起点となる硫化物を形成するので、S量を0.0050%以下に制限する。好ましくはS量を0.0020%以下、より好ましくは0.0010%以下とする。S量の下限は限定せず、0%でもよいが、製造コストの観点から0.0001%以上とすることが好ましい。
Tiは、鋼中のNを窒化物として固定し、AlNの形成を抑制するために添加される元素であるため、N量に応じてTi量を決定することが好ましい。Tiの窒化物は、主にTiNであり、Nの原子数と同等以上のTiを確保するために、質量%で表わされるTi及びNの含有量の比Ti/Nを3.5以上にすることが好ましい。Ti/Nの上限は、特に制限されるものではないが、Ti量の上限(0.10%)及びN量の下限(0.0020%)から50以下である。Ti/Nの好ましい上限は、Ti量の好ましい上限から25以下、より好ましくは15以下である。
Cuは、耐食性を向上させる元素であり、好ましくは0.05%以上を添加する。より好ましくはCu量を0.10%以上とする。一方、0.50%を超えてCuを添加すると脆化が生じることがあるため、Cu量は0.50%以下が好ましい。より好ましくはCu量を0.30%以下とする。
Niは、耐食性を向上させる元素であり、好ましくは0.05%以上を添加する。より好ましくはNi量を0.10%以上とする。一方、Niは高価な元素であることから、Ni量の上限は0.50%以下が好ましい。より好ましくはNi量を0.30%以下とする。
Vは、Tiと同様に、窒化物を生成する元素であるが、主に、析出強化による強度の改善のために添加することができる。この効果を得るために、V量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、0.50%超のVを添加すると、機械特性が劣化することがあるため、V量は0.50%以下が好ましい。V量は、より好ましくは0.20%以下であり、更に好ましくは0.30%以下とする。
Nbは、Tiと同様に、窒化物を生成する元素であり、AlNや粗大なフェライトの生成の抑制に寄与する。この効果を得るために、Nb量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、0.150%超のNbを添加すると、機械特性が劣化することがあるため、Nb量は0.150%以下が好ましい。Nb量は、より好ましくは0.10%以下であり、更に好ましくは0.050%以下とする。
Taは、耐食性の向上に有効な元素である。メカニズムは必ずしも明らかでないが、Ta2O5の酸化物が、表面に形成される保護的な被膜の安定性や緻密性に作用していると考えられる。この効果を得るために、Ta量を0.001%以上とすることが好ましい。一方、0.040%を超えてTaを添加しても、大幅な耐食性向上は期待できず、かつ製造上のコスト増になるため、Ta量は0.040%以下が好ましい。より好ましくはTa量を0.020%以下とする。
(Sn:1.00%以下)
Sn及びSbは、耐食性の向上に有効な元素である。Sn及びSbの添加量は、好ましくは、それぞれ、0.01%以上、より好ましくは0.03%以上とし、更に好ましくは0.10%以上とする。一方、Sn及びSbの各添加量は、何れも、1.00%を超えると、熱間加工性が劣化する傾向にあるため、1.00%以下が好ましい。より好ましくは、それぞれ、0.50%以下、更に好ましくは0.30%以下とする。
Bは焼入性を向上させ、強度を高める元素である。その効果を得るためには、0.0003%以上のBを含有させることが好ましい。ただし、0.010%を超えてBを添加しても、効果が飽和し、また母材、HAZともに靭性が低下する場合がある。したがって、0.010%以下が好ましい。より好ましいB量の上限は0.0050%以下である。
(Mg:0.010%以下)
Ca及びMgは、一般には酸化物や硫化物の制御に用いられるが、Cr及びAlを含有する鋼では、環境中で選択的に溶解し、鋼板表面でアルカリ環境を形成することから耐食性向上に寄与する。この効果を得るには、Ca及びMgの何れも、それぞれ0.0005%以上を添加することが好ましい。一方、Ca及びMgは、0.010%を超えて添加しても耐食性を向上させる効果は飽和し、機械特性が損なわれる場合があるため、Ca及びMgの各添加量は0.010%以下が好ましい。より好ましくは、それぞれ、0.005%以下とする。
本発明では、酸化物や硫化物の制御を目的として、希土類元素(REM)を適宜添加してもよい。この効果を得るには、0.001%以上のREMを添加することが好ましい。一方、REMを0.010%を超えて添加しても耐食性を向上させる効果は飽和し、機械特性が損なわれる場合があるため、REMの添加量は0.010%以下が好ましい。より好ましくは、0.005%以下とする。
本発明の鋼材は、そのまま使用しても良好な耐食性を示すが、その表面を防食皮膜にて皮膜することで、耐食性を一層向上させることができる。
本発明の耐食鋼材は、前述の防食皮膜として、上記組成からなる下地鋼材の表面に、無機ジンクリッチプライマー層を設けてもよい。
耐食鋼材の表面に塗布される無機ジンクリッチプライマーの組成は、アルキルシリケート、エチルシリケート等のシリケート縮合液をビヒクルとしたものを用いることが多い。また、加熱残分中の金属亜鉛又は亜鉛合金が30質量%以上のものであれば特に規定するものではないが、JIS K5552 1種相当品であることが、信頼性の点で好ましい。亜鉛合金は、例えば、Zn−Al合金、Zn−Mg合金、Zn−Al−Mg合金を使用することができる。
次に、無機ジンクリッチプライマー層を形成させた試験片、及び、更にエポキシ系樹脂層又はシリコン系樹脂層を形成させた試験片には、幅0.6mm、長さ300mmの2本の直線が、互いに試験面の中央部で試験片上からみて30°で交わるXカットをカッターで入れ、地鉄面を露出させた。Xカットは、不可避的な欠陥を模擬するものである。
無機ジンクリッチプライマー層を形成した後、一部の試験片においては、無機ジンクリッチプライマー層上に、シリコン系樹脂塗料(大島工業株式会社製、商品名:パイロジンB#1000)を厚さ100μm狙いで塗布し、シリコン系樹脂層を形成させた。また、一部の試験片においては、無機ジンクリッチプライマー層上に、エポキシ系樹脂塗料(関西ペイント株式会社製、商品名:エポマリンSHB)を100μm狙いで塗布し、エポキシ系樹脂層を形成させた。
試験前後のポイントマイクロメータを用いた腐食深さ測定により、各試験片において最も腐食が深い点を3点選び、その平均の深さを、最大局部深さとした。その最大局部深さが、0.05mm以下を「◎」とし、0.05mm超、0.1mm以下を「○」とし、0.1mmを超えるものを「×」とした。
結果を表2に示す。
表2に示したように、鋼No.1〜21(本発明例)は、耐食性が良好であるが、Mo、Wの両方を含まない鋼No.22、Cr量、Ti量がそれぞれ不足している鋼No.23、24、及びAl量が過剰であるNo.25は、耐食性(特に耐局部腐食性)が低下している。また、C量が過剰である鋼No.26及びAl量が不足しているNo.27も耐食性(特に耐局部腐食性)が低下している。
Claims (7)
- 質量%で、
C:0.005〜0.20%、
Mn:0.30〜3.00%、
Cr:4.0〜9.0%、
Al:0.10〜0.70%、
Ti:0.005〜0.100%、
N:0.0020〜0.0080%
を含有し、更に、
Mo、Wの一方又は両方を合計で、0.050〜1.0%含有し、更に、
Si:1.00%以下、
P:0.030%以下、
S:0.0050%以下
に制限し、
残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする耐食鋼材。 - 質量%で、更に、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下
の一方又は両方を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐食鋼材。 - 質量%で、更に、
V:0.50%以下、
Nb:0.150%以下、
Ta:0.040%以下、
Sb:1.00%以下、
Sn:1.00%以下、
B:0.010%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐食鋼材。 - 質量%で、更に、
Ca:0.010%以下、
Mg:0.010%以下、
REM:0.010%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の耐食鋼材。 - Ti及びNの含有量が、
Ti/N≧3.5
を満足することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の耐食鋼材。 - 請求項1〜5の何れか1項に記載の耐食鋼材の表面に、金属亜鉛又は亜鉛合金を30質量%以上を含有する5〜100μmの厚みの無機ジンクリッチプライマー層を設けたことを特徴とする耐食鋼材。
- 前記無機ジンクリッチプライマー層の表面に、20〜400μmの厚みのエポキシ系樹脂層又はシリコン系樹脂層を設けたことを特徴とする請求項6に記載の耐食鋼材。
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