以下、図面を参照して、本発明の実施形態におけるスイッチトリラクタンスモータの制御装置について具体的に説明する。
[1.システム構成]
図1は、本発明の一実施形態におけるスイッチトリラクタンスモータの制御装置を含むシステム構成例を示す概略図である。本実施形態のシステム構成は、スイッチトリラクタンスモータ(SRM)1と、インバータ2と、バッテリ3と、制御装置100とを含む。
スイッチトリラクタンスモータ(以下「SRモータ」という)1は、回転子に永久磁石を使用しない電動機であって、突極構造のステータ10と、突極構造のロータ20とを備えている。図1に示すSRモータ1は、六極のステータ10と、四極のロータ20とを有する三相誘導電動機である。
ステータ10は、環状構造の内周部に、突極としてのステータ歯11を複数備えている。各ステータ歯11には、インバータ2に接続されたコイル12が巻き回されている。ステータ10では、径方向で対向する位置に配置された一対のステータ歯11a,11aが、1つの相を成す。ステータ10の径方向内側に、ロータ20が配置されている。ロータ20は、環状構造の外周部に、突極としてのロータ歯21を複数備えている。なお、ロータ20は図示しないロータ軸と一体回転する。
SRモータ1は、三相交流式であるため、一対のステータ歯11a,11aとコイル12aによるA相、一対のステータ歯11b,11bとコイル12bによるB相、一対のステータ歯11c,11cとコイル12cによるC相、を含む。ロータ20は、一対のロータ歯21x,21xと、一対のロータ歯21y,21yと、を備える。
SRモータ1は、インバータ2を介してバッテリ3と電気的に接続されている。SRモータ1とインバータ2とは、コイル12によって電気的に接続されている。また、SRモータ1は、電動機および発電機として機能するものである。なお、インバータ2とバッテリ3との間には、SRモータ1に印加する電圧を昇圧する昇圧コンバータが設けられてもよい。
インバータ2は、三相交流をコイル12に通電できるように6つのスイッチング素子を備えた電気回路(インバータ回路)を含む。インバータ2は、インバータ回路に接続された各コイル12に対して相毎に電流を流す。図1に示すインバータ回路は、スイッチング素子としてのトランジスタを有し、各相とも2つのトランジスタと2つのダイオードとを含む。インバータ2は、各相において、2つのトランジスタを同時にオンまたはオフにすることで、コイル12に流れる電流値を変更する。A相においては、トランジスタTra1,Tra2とダイオードDa1,Da2を備える。B相においては、トランジスタTrb1,Trb2とダイオードDb1,Db2を備える。C相においては、トランジスタTrc1,Trc2とダイオードDc1,Dc2を備える。
制御装置100は、SRモータ1を制御する電子制御装置(ECU)である。制御装置100は、CPUと、各種プログラム等のデータが格納された記憶部とを有し、CPUにはSRモータ1を制御するための各種の演算を行う制御部が含まれる。制御部での演算の結果、制御装置100からインバータ2に、SRモータ1を制御するための指令信号が出力される。制御装置100は、インバータ2を制御することによって、SRモータ1に印加する電圧および励磁電流を制御する。
制御装置100には、SRモータ1の回転数を検出する回転数センサ51からレゾルバ信号が入力される。制御装置100は、回転数センサ51のレゾルバ信号から、回転方向でのステータ歯11とロータ歯21との相対的な位置関係に基づいて、通電対象となるコイル12の切り替えを相毎に繰り返す駆動制御を実行する。制御装置100が駆動制御を実行することによって、ロータ20を回転させる。駆動制御時、制御装置100は、ある相のコイル12に励磁電流を流してステータ歯11を励磁させ、ステータ歯11とそのステータ歯11近くのロータ歯21との間に磁気吸引力を発生させる。磁気吸引力は、周方向と径方向の分力に分解できる。周方向の分力が回転力であり、径方向の分力がラジアル力である。磁気吸引力の周方向成分である回転力がロータ20に作用することによって、SRモータ1のトルクが発生する。磁気吸引力の径方向成分であるラジアル力は、騒音・振動(NV)の要因となる。駆動中のSRモータ1で生じる音圧は、ラジアル力が大きくなるにつれて高くなる。SRモータ1に作用するラジアル力が大きくなると、ステータ10やロータ20の変位が大きくなり、振動が大きくなる。
なお、ステータ歯11とロータ歯21とが周方向で完全に重なる位置となる場合(ステータ歯11とロータ歯21とが径方向で完全に対向する位置となる場合)、磁気吸引力は径方向のみに作用する。そのロータ歯21には回転力が作用せずラジアル力のみが作用することになる。そのため、制御装置100は、コイル12に電流を流すことによって励磁対象になっているステータ歯11が、ロータ歯21と径方向で対向して完全に重なった位置となったとき、または完全に重なる前後に、コイル12への通電停止による非励磁対象とする。また、制御装置100は、次のロータ歯21が所定の位置まで近づいてきたときに、そのロータ歯21を励磁対象とする。
[2.切替マップ]
図2は、SRモータ1の特性を示すN−T線図である。図2のN−T線図は、横軸をSRモータ1の回転数、縦軸をSRモータ1のトルクとするマップである。SRモータ1は、図2に示すマップの運転領域内で駆動する。そのマップによれば、SRモータ1の最大トルクは、低回転数側では定格トルクであるが、モータ回転数が上昇するにつれて減少する。
制御装置100は、図2に示すマップを用いて、SRモータ1の駆動制御を第1制御モードと第2制御モードとに切り替える切替制御を実行する。つまり、切替制御時、制御装置100は、SRモータ1の回転数と、SRモータ1の要求トルク(目標モータトルク)とをパラメータに用いる。
第1制御モードは、トルク変動を低減させるための制御モードである。制御装置100は、第1制御モードの制御として、トルク変動を低減させる電流波形の励磁電流を流す第1制御(トルク変動低減制御)を実行する。トルク変動を低減させる電流波形とは、異なる相の励磁区間同士が重なる2相励磁区間が存在する波形のことである。
第2制御モードは、磁気吸引力の径方向成分であるラジアル力を低減させるための制御モードである。制御装置100は、第2制御モードの制御として、ラジアル力を低減させる電流波形の励磁電流を流す第2制御(ラジアル力変動低減制御)を実行する。ラジアル力を低減させる電流波形とは、励磁区間のうち相対的にラジアル力が小さい領域内(回転角度範囲内)において励磁電流が最大電流値まで上昇する波形のことである。
図2に示すように、切替マップ内の運転領域は、切替線Lを境界にして第1領域と第2領域とに分けられている。第1領域は、トルク変動を低減することが優先されるべき運転領域であり、トルク変動低減制御を実行する第1制御モードが選択される領域である。第2領域は、トルク変動の低減よりも振動・騒音の低減を優先することができる運転領域であり、ラジアル力変動低減制御を実行する第2制御モードが選択される領域である。切替線Lは、所定回転数の範囲内でトルクが増加するにつれて回転数が増大するように設定されている。その所定回転数は、SRモータ1の駆動時に大きなトルク変動が生じる低回転数域に設定される。図2に示すように、SRモータ1の出力可能トルクが定格トルクとなる回転数範囲(低回転数域)に、制御モードを切り替える基準値としての所定回転数を設定する。なお、その低回転数域は、回転数0を含まない。また、第1領域は、第2領域よりも低回転数側の運転領域に設定されている。すなわち、第1領域と第2領域との境界線である切替線Lは、所定回転数に設定されているとも言える。制御装置100は、SRモータ1の運転状態が第1領域と第2領域のどちらに含まれるのかを判定する判定部を備えている。
[3.切替制御]
図3は、切替制御の一例を示すフローチャートである。制御装置100は、SRモータ1の駆動制御に用いる各種情報を読み込む(ステップS1)。その情報には、回転数センサ51から入力されるレゾルバ信号と、SRモータ1の要求トルクが含まれる。そして、制御装置100は、レゾルバ信号に基づいてSRモータ1の回転数を演算する(ステップS2)。また、制御装置100は、要求トルクに応じたモータトルク指令値を導出する(ステップS3)。
制御装置100は、モータ駆動制御として、トルク変動を低減させる第1制御(トルク変動低減制御)を実行する必要があるか否かを判定する(ステップS4)。ステップS4では、モータ駆動制御を第1制御モードに設定するか否かを判定する。
具体的には、制御装置100は、回転数センサ51からの実際のSRモータ1の回転数と、要求トルクに応じたモータトルク指令値と、図2に示す切替マップとを用いて、ステップS4の判定処理を実行することができる。この場合、制御装置100は、モータ回転数とモータトルク指令値とによって定まる動作点が、切替マップの第1領域内であるか否かを判定する。SRモータ1の動作点が第2領域内から切替線Lを跨いて第1領域内に移動した場合、制御装置100は、ステップS4を肯定的に判定し、モータ駆動制御を第1制御モードに設定する。なお、この処理では、モータトルク指令値の代わりに要求トルク値を用いてもよい。つまり、SRモータ1の回転数と、SRモータ1の要求トルク値とに基づいて動作点を定めてもよい。
あるいは、制御装置100は、モータ回転数のみをパラメータに用いて、ステップS4の判定処理を実行することができる。この場合、制御装置100は、モータ回転数が所定回転数よりも低いか否かを判定する。所定回転数は、予め設定された値である。例えば、図2に示す切替マップの運転領域において、SRモータ1から出力可能な最大トルクが定格トルクとなるモータ回転数を所定回転数に設定することができる。モータ回転数が低回転数側では、高回転数側よりも磁気吸引力に起因するラジアル力の変動が小さいため、トルク変動を低減させることを優先できる。そのため、SRモータ1のトルクが所定値である状態(運転状態)においてモータ回転数が所定回転数よりも低い場合、制御装置100は、ステップS4においてトルク変動低減制御を実行する必要があると判定する。一方、SRモータ1のトルクが上記所定値である状態においてモータ回転数が上記所定回転数以上の場合、制御装置100は、ラジアル力変動低減制御を実行する必要があると判定する。なお、この判定処理で用いるSRモータ1のトルクとは、要求トルクであってもよく、モータトルク指令値であってもよい。
ステップS4で肯定的に判断された場合、制御装置100は、第1制御モードに設定して、トルク変動低減制御(第1制御)を実行する(ステップS5)。トルク変動低減制御(第1制御)は、トルク変動を低減させる電流波形の励磁電流を流す制御である。ステップS5を実行する機能的処理手段は、第1制御手段である。制御装置100の制御部には、ステップS5を実行する第1制御手段が含まれる。この第1制御モード(トルク変動低減制御)の詳細は、図4〜図6を参照して後述する。
ステップS4で否定的に判断された場合、制御装置100は、第2制御モードに設定して、ラジアル力変動低減制御(第2制御)を実行する(ステップS6)。ラジアル力変動低減制御(第2制御)は、磁気吸引力の径方向成分であるラジアル力の変動を低減させる電流波形の励磁電流を流す制御である。ステップS6を実行する機能的処理手段は、第2制御手段である。制御装置100の制御部には、ステップS6を実行する第2制御手段が含まれる。この第2制御モード(ラジアル力変動低減制御)の詳細は、図7,8を参照して後述する。
ステップS6が実行されるのは、モータ回転数が相対的に高回転数であることによってステップS4で否定的に判断された場合である。モータ回転数が高回転数側では、低回転数側よりも磁気吸引力に起因するラジアル力の変動が大きいため、トルク変動を低減させることよりもラジアル力を低減させることを優先する。すなわち、振動・騒音(NV)よりもトルク変動を優先する。
[4.第1制御モードの電流波形]
図4を参照して、第1制御モードの電流波形について説明する。図4(a)は、第1制御モードの電圧波形および電流波形を示す図である。図4(b)は、比較例の電圧波形および電流波形を示す図である。比較例とは、効率を重視する駆動制御を実行した場合である。
図4(a)に示すように、制御装置100は、あるロータ歯21の回転角度が励磁区間Aに入った場合、すなわち励磁開始角θ1(ON角)となった場合、励磁対象となるコイル12へ電流を流し始める。ロータ歯21の回転角度が電流立上げ区間A1内にある場合、制御装置100は、励磁対象となるステータ歯11のコイル12に対して電流の立上げ制御を行う。電流立上げ区間A1では、正の電圧を印加するモード(正電圧モード)に制御し、電流を最大電流値Imaxまで上昇させる。ヒステリシス区間A2では、正電圧モードと、電圧を0にするモード(還流モード)とを繰り返す制御を実行し、電流が最大電流値Imax付近の大きさとなるように制御する。還流モードとは、コイル12に電圧を印加せずに、コイル12を介してインバータ回路内で電流を還流させる制御モードである。具体的には、制御装置100は、ヒステリシス区間A2内で励磁電流値が、最大電流値Imaxを上限値とする所定電流幅の範囲内を推移するように制御する。この場合、励磁電流値が最大電流値Imaxに到達した場合には還流モードを実行し、その後、励磁電流値が所定電流幅の下限値に到達した場合には正電圧モードを実行する。あるいは、制御装置100は、励磁電流の瞬時電流値Iが制限電流値Iαよりも小さい場合には正電圧モードを実行し、瞬時電流値Iが制限電流値Iα以上の場合には還流モードを実行する。制限電流値Iαとは、最大電流値Imaxよりも小さい値に予め設定されている。そして、ロータ歯21の回転角度が、電流立下げ区間A3に入ったとき(OFF角になったとき)、励磁対象のステータ歯11のコイル12に対して通電中の電流を立下げ始める。電流立下げ区間A3において、制御装置100は、負の電圧を印加するモード(負電圧モード)に制御する。そして、励磁終了角θ4にて、コイル12を流れる電流が0になる。第1制御モードでは、励磁開始角θ1から励磁終了角θ4までの回転角度範囲において励磁電流が流れ続けている。すなわち、第1制御モードの励磁区間Aとは、励磁開始角θ1から励磁終了角θ4の回転角度範囲(励磁幅)である。励磁区間とは、励磁電流をコイル12に流す区間のことである。
そして、第1制御モードと、効率重視の比較例とを比較すると、比較例の励磁区間Bは、図4(b)に示すように励磁開始角θ2から励磁終了角θ3までの回転角度範囲である。比較例の励磁開始角θ2は、第1制御モードの励磁開始角θ1よりも大きい。さらに、比較例の励磁終了角θ3は、第1制御モードの励磁終了角θ4よりも小さい。要するに、励磁開始角θ1、励磁開始角θ2、励磁終了角θ3、励磁終了角θ4の順に回転角度が大きい。第1制御モードの励磁区間Aは、比較例の励磁区間Bよりも広い回転角度範囲になる。また、第1制御モードの励磁区間Aは、後述する第2制御モードの励磁区間Eよりも広い回転角度範囲に設定されている。図4(a),(b)に示す場合、第1制御モードでは、効率重視の電流波形に比べて、ON角の前出し、かつ励磁終了角の後出しを行っている。なお、第1制御モードでは、効率重視の電流波形に比べて、ON角の前出し、および励磁終了角の後出しのうち、少なくともいずれか一方を実行すればよい。また、SRモータ1の効率は、ロータ歯21の回転角度(励磁対象のステータ歯11に対する相対位置)と、コイル12のインダクタンスとの関係に基づくものである。
図5(a)は、第1制御モードのトルク変動を示す図である。図5(b)は、比較例のトルク変動を示す図である。トルク変動について、第1制御モードと比較例とを比較すると、第1制御モードのトルク幅Cは、比較例のトルク幅Dよりも狭い。トルク幅は、トルク変動の大きさを表す。第1制御モードによれば、効率重視の電流波形に比べて、トルク変動を低減させることができる電流波形を実現する。これは、第1制御モードの励磁区間Aが、比較例の励磁区間Bよりも広い回転角度範囲となっているためである。これにより、図5(a)に示すように、ある相のコイル12の励磁電流が0になる前に、他の相のコイル12への励磁電流が立ち上がり始める。つまり、励磁区間Aの回転角度範囲を拡大させたことによって、異なる相の励磁区間A同士が重なるためである。一方、図5(b)に示すように、効率重視の電流波形では励磁区間Bが狭いことにより、異なる相の励磁区間B同士が重ならない。つまり、比較例では、ある相の励磁電流が0になってから他の相の励磁電流が立ち上がるため、トルク変動の勾配が急峻になるとともに、そのトルク幅Dも大きくなってしまう。
[4−1.トルク変動低減制御]
図6は、トルク変動低減制御の一例を示すフローチャートである。制御装置100は、第1制御モードにおいて図6に示す制御フローを実行する。なお、図6に示すステップS11〜ステップS13は、上述した図3に示すステップS1〜ステップS3と同様である。そのため、ステップS11〜ステップS13の説明は省略する。
制御装置100は、第1制御モードの励磁条件として、ON角、OFF角、最大電流値Imaxを決定する(ステップS14)。また、制御装置100は、図示しない電流センサからの検出信号に基づいて、ある相のコイル12に実際に流れている瞬時電流Iを読み込む(ステップS15)。電流センサは、コイル12を流れる電流値を検出するものであり、各相のコイル12について瞬時電流Iを検出可能に構成されている。
そして、制御装置100は、ロータ20の回転角度に基づいて、励磁区間Aのうち電流立上げ区間A1内またはヒステリシス区間A2内であるか否かを判定する(ステップS16)。
電流立上げ区間A1内またはヒステリシス区間A2内であることによりステップS16で肯定的に判断された場合、制御装置100は、瞬時電流値Iが制限電流Iαよりも小さいか否かを判定する(ステップS17)。
瞬時電流値Iが制限電流値Iαよりも小さいことによりステップS17で肯定的に判断された場合、制御装置100は、正電圧モードを実行し、コイル12に正電圧を印加する(ステップS18)。例えば、電流立上げ区間A1内の場合、最大電流値Imaxに向けて上昇している励磁電流が最大電流値Imaxに到達しないことになり、制御装置100は、ステップS18により正電圧モードを継続する。また、ヒステリシス区間A2内の場合、最大電流値Imaxから低下していた励磁電流値が制限電流値Iαを下回ることになり、制御装置100は、ステップS18により、還流モードを終了し、正電圧モードを開始する。そして、制御装置100は、ステップS18を実行後、ステップS16にリターンする。
瞬時電流値Iが制限電流Iα以上であることによりステップS17で否定的に判定された場合、制御装置100は、還流モードを実行し、コイル12に印加する電圧を0にする(ステップS19)。例えば、電流立上げ区間A1内の場合、最大電流値Imaxに向けて上昇している励磁電流が最大電流値Imaxに到達したことになり、制御装置100は、ステップS18により、正電圧モードを終了し、還流モードを開始する。この場合、電流立上げ区間A1からヒステリシス区間A2に移行することになる。また、ヒステリシス区間A2内の場合、最大電流値Imaxに向けて上昇していた励磁電流値が制限電流値Iαを超えたことになり、制御装置100は、正電圧モードを終了し、還流モードを開始する。そして、制御装置100は、ステップS19を実行後、ステップS16にリターンする。
また、ステップS16において、電流立上げ区間A1内またはヒステリシス区間A2内ではないことにより否定的に判断された場合、制御装置100は、電流減少の必要があるか否かを判定する(ステップS20)。ステップS20では、ロータ歯21の回転角度が電流立下げ区間A3内にある場合に、積極的に電流を引き下げる制御を実行する必要があるか否かを判定する。
電流減少の必要があることによりステップS20で肯定的に判断された場合、制御装置100は、負電圧モードを実行し、コイル12に負電圧を印加する(ステップS21)。そして、制御装置100は、この制御ルーチンを終了する。
電流減少の必要がないことによりステップS20で否定的に判断された場合、制御装置100は、還流モードを実行し、コイル12の印加電圧を0にする(ステップS22)。そして、制御装置100は、この制御ルーチンを終了する。
上述したステップS16で否定的に判定された場合、制御装置100は、コイル12に流れている電流を立下げる制御として、ロータ20の回転数とコイル12に対する電流指令値(あるいは電流センサでの検出値)とに基づいて、還流モードまたは負電圧モードを選択する。SRモータ1は、負電圧モードよりも還流モードの方が高効率である。そのため、制御装置100は、還流モードによって十分に電流を立下げることができる、すなわち還流モードによって電流立下げ時の目標電流波形を実現できると判断した場合、負電圧モードよりも還流モードを優先して選択する。一方、制御装置100は、還流モードでは電流立下げ時の目標電流波形、すなわち電流立下げ時の目標電流指令値を実現できないと判断した場合、負電圧モードを選択して、還流モード時よりも急速に電流を立下げる。
[5.第2制御モードの電流波形]
図7を参照して、第2制御モードの電流波形について説明する。図7は、第2制御モードの電圧波形および電流波形を示す図である。なお、図7には、比較例の電流波形を破線で記載する。比較例とは、第1制御モードで比較した例と同様、効率重視の駆動制御を実行した場合である。
図7に示すように、第2制御モードと比較例とでは、最大電流値の大きさが異なる。第2制御モードでは、効率を優先した比較例に比べて、最大電流値Imaxが大きい電流波形の励磁電流を流す。つまり、第2制御(ラジアル力変動低減制御)は、最大電流値Imaxを比較例よりも大きな値に設定する制御を含む。さらに、図7に示す例では、第2制御モードの励磁区間Eが、比較例の励磁区間Bよりも広い回転角度範囲に設定されている。
詳細には、ロータ歯21は、励磁対象に切り替えられたステータ歯11との相対距離を縮めつつ、電流の立上げ区間から、高効率かつラジアル力の小さい領域B1へと移る。第2制御モードでは、高効率かつラジアル力の小さい領域B1よりも手前の回転角度θ5で、コイル12に電流を流し始める。回転角度θ5は、第2制御モードの励磁開始角であり、比較例の励磁開始角θ2よりも手前の回転角度に設定されている。つまり、第2制御モードでは、効率重視の比較例よりも励磁開始角を前出しする制御を実行する。
また、最大電流値Imaxは第2制御モードのほうが比較例よりも大きい値であるが、第2制御モードの電流立上げ区間では、比較例よりも手前の回転角度で励磁電流が最大電流値Imaxまで上昇する。その励磁電流が最大電流値Imaxに到達した際の回転角度θ6が、第2制御モードの還流開始角である。第2制御モードにおける電流立上げ区間は、回転角度θ5から回転角度θ6までの間となる。すなわち、第2制御モードの電流立上げ区間は、比較例の電流立上げ区間(B1)よりも手前の回転角度で終了する。さらに、第2制御モードでは、比較例とは異なり、高効率かつラジアル力の小さい領域B1内で、印加電圧を0にして電流値を低下させ始める。つまり、第2制御モードの還流開始角(θ6)が、高効率かつラジアル力の小さい領域B1内に含まれている。
そして、ロータ歯21は、その相対距離を縮めつつ、高効率かつラジアル力の大きい領域B2に移る。第2制御モードにおける高効率かつラジアル力の大きい領域B2では、電流値が、比較例の電流値よりも低い値に制御される。図7に示す例では、高効率かつラジアル力の小さい領域B1から高効率かつラジアル力の大きい領域B2にかけて、制御装置100は、還流モードを実行し、印加電圧を0にする。これにより、その角度範囲内における第2制御モードの電流波形は、最大電流値Imaxに到達した後に低下し続ける。当然に、第2制御モードの電流値は、高効率かつラジアル力の小さい領域B1よりも高効率かつラジアル力の大きい領域B2の方が小さい値となる。例えば、コイル12に対する電流値は、ラジアル力が目標値以下となるように設定すればよい。また、図7に示す例では、第2制御モードの電流値が0になる励磁終了角は、効率重視の比較例における励磁終了角θ3と同じである。なお、第2制御モードの励磁区間Eは、比較例の励磁区間Bと同じ励磁幅に設定されてもよい。例えば、第2制御モードでは、電流を立上げ始める励磁開始角および電流が0になる励磁終了角が、両方向とも比較例よりも前出しする制御を実行する。
要するに、第2制御モードでは、励磁対象のステータ歯11のコイル12に対する電流値は、電流の立上げ区間から高効率かつラジアル力の小さい領域B1の一部までの間、比較例の電流値よりも高くするとともに、高効率かつラジアル力の小さい領域B1の一部から高効率かつラジアル力の大きい領域B2までの間において、比較例の電流値よりも低くする。これにより、第2制御モードを実行するSRモータ1においては、比較例よりもラジアル力を低減させることができる。
図8は、第2制御モードのラジアル力変動を示す図である。図8に示す破線の波形は、比較例のラジアル力である。図8に示すように、第2制御モードのラジアル力は、そのピーク値が比較例よりも小さい値となる。このように、第2制御モード時に生じるラジアル力のピーク値が、効率重視の比較例よりも小さくなることによって、ラジアル力の変動を低減させることができる。
また、効率について、上述した第1制御モードの電流波形と、第2制御モードの電流波形とで比較すると、第2制御モードのほうが第1制御モードよりも効率がよい。第1制御モードでは、効率重視の電流波形よりも広い励磁区間Aに設定するため、相対的に効率の低い回転角度範囲を励磁区間に含んでしまう。第2制御モードでは、第1制御モードに比べて、効率重視の励磁区間Bに近い励磁区間Eを設定することができる。つまり、第2制御には、励磁区間Eを、第1制御モードの励磁区間Aよりも効率重視の電流波形の励磁区間Bに近い回転角度範囲にする制御が含まれる。そのため、第2制御モードは、第1制御モードよりも効率がよい運転状態を実現し、効率の低下を抑制しつつラジアル力変動を低減させることができる。
以上説明した通り、本実施形態の制御装置100によれば、モータ回転数とモータトルクとに応じて、異なる電流波形の励磁電流を流す制御を実行するので、効率の低下を抑制しつつ、騒音・振動およびトルク変動を低減することができる。
[6.変形例1]
変形例1では、切替マップが上述した具体例とは異なる。図9は、変形例1の切替マップを示す図である。制御装置100は、図9に示す切替マップを用いて、モータ駆動制御を第1制御モードと第2制御モードとに切り替える。
図9に示すように、変形例1の切替マップでは、第1制御モードと第2制御モードの切り替えが頻発しないように、所定のヒステリシス幅を有する切替区間が設けられている。切替区間は、第1切替線L1と第2切替線L2とによって規定されている。第1切替線L1は、第2制御モードから第1制御モードへの切り替えを実行する際に用いられる切替線である。第2切替線L2は、第1制御モードから第2制御モードへの切り替えを実行する際に用いられる切替線である。変形例1では、第1切替線L1が第2切替線L2よりも低回転側に設定されている。
図10は、変形例1の切替動作を説明するための図である。図10には、第2制御モードから第1制御モードへの切り替え時の動作を黒矢印で、第1制御モードから第2制御モードへの切り替え時の動作を白矢印で示す。
制御装置100が第1制御モードを選択する場合、図10に黒矢印で示すように、SRモータ1の回転数と要求トルク(モータトルク指令値)とによって定まる動作点が、第2領域内にある運転状態から第1切替線L1を跨いで第1領域内に移ることによって、制御装置100は、第2制御モードから第1制御モードへの切り替えを実行する。つまり、第2領域側の動作点が、モータ回転数の低下によって、第2切替線L2を跨いだとしても制御モードの切り替えは実行されない。
一方、制御装置100が第2制御モードを選択する場合、図10に白矢印で示すように、動作点が第1領域内にある運転状態から第2切替線L2を跨いで第2領域内に移ることによって、制御装置100は、第1制御モードから第2制御モードへの切り替えを実行する。つまり、第1領域側の動作点が、モータ回転数の上昇によって、第1切替線L1を跨いでも制御モードの切り替えは実行されない。
第1切替線L1上の回転数は、第2制御モードから第1制御モードへ切り替える所定回転数(第1回転数)である。第2切替線L2上の回転数は、第1制御モードから第2制御モードに切り替える所定回転数(第2回転数)である。図10に示す例では、SRモータ1のトルクが所定値である状態において、第2回転数は第1回転数よりも高回転数である。また、SRモータ1のトルクが所定値である状態において、第1回転数と第2回転数とが異なる値であることにより、切替制御時の基準値となる第1回転数と第2回転数との間はヒステリシス幅を有する。すなわち、制御モードを切り替える所定回転数は、ヒステリシス幅を有することになる。この場合、所定トルクにおいてSRモータ1の回転数が、第2回転数より高回転数側から第1回転数未満に低下した場合、制御装置100は、第2制御モードから第1制御モードへ切り替える。一方、所定トルクにおいてSRモータ1の回転数が、第1回転数よりも低回転側から第2回転数以上に上昇した場合、制御装置100は、第1制御モードから第2制御モードへ切り替える。
以上説明した通り、変形例1によれば、切替区間にヒステリシス幅を設けることによって、第1および第2制御モードの切り替えが頻繁に行われることによるビジー感を抑制できる。さらに、切替制御が頻繁に実行されてしまうことによる、効率、振動・騒音、トルク変動の変化を抑制することができる。
[7.変形例2]
変形例2では、切替マップと制御モードの切替動作が変形例1とは異なる。図11は、変形例2の切替マップおよび切替動作を説明するための図である。
制御装置100は、図11に示す切替マップを用いて、モータ駆動制御を第1制御モードと第2制御モードとに切り替える。図11に示すように、変形例2の切替マップでは、第1切替線L1が第2切替線L2よりも高回転側に設定されている。制御装置100は、切替区間内で制御モードを徐々に切り替える制御(徐変モード)を実行する。
第2制御モードから第1制御モードに切り替わる場合、図11に黒矢印で示すように、動作点は、第2領域側から第1切替線L1を跨いで切替区間内に移る。制御装置100は、動作点が第1切替線L1を跨いだ際に第1制御モードへの切替制御を開始する。つまり、モータ回転数が低下するなどして、その動作点が切替区間内を第2切替線L2側に向けて移動している際、制御装置100は、第2制御モードから第1制御モードへ徐々に切り替える制御(徐変モード)を実行する。そして、動作点が切替区間から第2切替線L2を跨いだ際に、第2制御モードから第1制御モードへの切替が完了する。
第1制御モードから第2制御モードに切り替わる場合、図11に白矢印で示すように、動作点は、第1領域側から第2切替線L2を跨いで切替区間内に移る。制御装置100は、動作点が第2切替線L2を跨いだ際に第2制御モードへの切替制御を開始する。つまり、モータ回転数が上昇するなどして、その動作点が切替区間内を第1切替線L1側に向けて移動する際、制御装置100は、第1制御モードから第2制御モードへ徐々に切り替える制御(徐変モード)を実行する。そして、動作点が切替区間から第1切替線L1を跨いだ際に、第1制御モードから第2制御モードへの切替が完了する。
図11に示す例では、所定トルクにおいて、第2切替線L2上の第2回転数は、第1切替線L1上の第1回転数よりも低回転数である。この場合、所定トルクにおいてSRモータ1の回転数が、第1回転数を下回って第2回転数に到達するまでの間、制御装置100は、第2制御モードから第1制御モードへ徐々に切り替える。一方、所定トルクにおいてSRモータ1の回転数が、第2回転数を超えて第1回転数に到達するまでの間、制御装置100は、第1制御モードから第2制御モードへ徐々に切り替える。
図12は、切替区間内での切替動作を説明するための図である。図12には、印加電圧のON角θON、印加電圧のOFF角θOFF、励磁電流の最大電流値Imax、還流開始角θSを示す。なお、図12には、第1制御であるトルク変動低減制御を実行する際の励磁条件(第1励磁条件)と、第2制御であるラジアル力変動低減制御を実行する際の励磁条件(第2励磁条件)とを示す。
ON角θONは、第1制御モードのON角θON1が第2制御モードのON角θON2よりも小さく設定されている。ON角θONを例にして、第1制御モードから第2制御モードへの切替動作を説明すると、切替区間内において、第1制御モードのON角θON1と第2制御モードのON角θON2との間の大きさで、その大きさが徐々に大きくなるように変化する。このように、ON角θONを徐々に大きく変化させる。なお、ON角θONについて、第2制御モードから第1制御モードへの切替動作では、第2制御モードのON角θON2から第1制御モードのON角θON1へ向けて徐々に小さくなるように変化する。
OFF角θOFFは、第1制御モードのOFF角θOFF1が第2制御モードのOFF角θOFF2よりも大きく設定されている。OFF角θOFFを例にして、第2制御モードから第1制御モードへの切替動作を説明すると、切替区間内において、第2制御モードのOFF角θOFF2と第1制御モードのOFF角θOFF1との間の大きさで、その大きさが徐々に大きくなるように変化する。このように、OFF角θOFFを徐々に大きく変化させる。一方、第1制御モードから第2制御モードへの切替動作では、第1制御モードのOFF角θOFF1から第2制御モードのOFF角θOFF2に向けて徐々に小さくなるように変化する。
最大電流値Imaxは、第1制御モードの最大電流値Imax1が第2制御モードの最大電流値Imax2よりも小さく設定されている。最大電流値Imaxを例にして、第1制御モードから第2制御モードへの切替動作を説明すると、切替区間内において、第1制御モードの最大電流値Imax1と第2制御モードの最大電流値Imax2との間の大きさで、その大きさが徐々に大きくなるように変化する。一方、第2制御モードから第1制御モードへの切替動作では、第2制御モードの最大電流値Imax2から第1制御モードの最大電流値Imax1に向けて徐々に小さくなるように変化する。
還流開始角θSは、第1制御モードの還流開始角θS1が第2制御モードの還流開始角θS2よりも大きく設定されている。還流開始角θSを例にして、第2制御モードから第1制御モードへの切替動作を説明すると、切替区間内において、第2制御モードの還流開始角θS2と第1制御モードの還流開始角θS1との間の大きさで、その大きさが徐々に大きくなるように変化する。このように、還流開始角θSを徐々に大きく変化させる。一方、第1制御モードから第2制御モードへの切替動作では、第1制御モードの還流開始角θS1から第2制御モードの還流開始角θS2に向けて徐々に小さくなるように変化する。
[7−1.徐変モードの電流波形]
図13を参照して、徐変モードの電流波形について説明する。図13(a)は、第2制御モードの電圧波形を示す図である。図13(b)は、徐変モードの電圧波形を示す図である。図13(c)は、第1制御モードの電圧波形を示す図である。図13(d)は、各モードの電流波形を示す図である。なお、図13(d)には、第1制御モードの電流波形が一点鎖線、第2制御モードの電流波形が二点鎖線、徐変モードの電流波形が実線で示されている。
図13(d)に示すように、徐変モードの電流波形は、第1制御モードの電流波形と第2制御モードの電流波形との間の形状を有する。徐変モードの励磁区間は、第1制御モードの励磁区間よりも狭くかつ第2制御モードの励磁区間よりも広い。さらに、徐変モードの最大電流値Imax3は、第1制御モードの最大電流値Imax1よりも大きくかつ第2制御モードの最大電流値Imax2よりも小さい。また、第1制御モードの電流波形は、第2制御モードの電流波形よりも励磁区間が広くかつ最大電流値が小さい。例えば、第1制御モードから第2制御モードに切り替わる際、第1制御モードの電流波形から徐変モードの電流波形を経由して第2制御モードの電流波形へと変化する。一方、第2制御モードから第1制御モードに切り替わる際、第2制御モードの電流波形から徐変モードの電流波形を経由して第1制御モードの電流波形へと変化する。このように制御モードを切り替える際に徐変モードを経由することによって電流波形を徐々に変化させることができる。
具体的には、徐変モードのON角θON3(励磁開始角)は、第1制御モードのON角θON1(励磁開始角)よりも大きくかつ第2制御モードのON角θON2(励磁開始角)よりも小さい。徐変モードの励磁終了角θend3は、第2制御モードの励磁終了角θend2よりも大きくかつ第1制御モードの励磁終了角θend1よりも小さい。また、徐変モードの還流開始角θS3は、第2制御モードの還流開始角θS2よりも大きくかつ第1制御モードの還流開始角θS1よりも小さい。そして、徐変モードのOFF角θOFF3は、第1制御モードのOFF角θOFF1よりも小さくかつ第2制御モードのOFF角θOFF2よりも大きい。第1制御モードでは、正電圧モードから還流モードを経由せずに負電圧モードへ移行するため、OFF角θOFF1と還流開始角θS1とが同一角となる。そして、徐変モードの還流開始角θS3とOFF角θOFF3との間隔(回転角度差)は、第2制御モードの還流開始角θS2とOFF角θOFF2との間隔よりも狭い。そのため、徐変モードにおいて還流モードが実行される回転角度範囲は、第2制御モードよりも狭くかつ第1制御モードよりも広く設定されている。さらに、徐変モードのヒステリシス区間は第1制御モードよりも狭く設定され、かつそのヒステリシス区間内で正電圧モードが実行される回数は第1制御モードよりも少なく設定されている。すなわち、徐変モードを経由することによってヒステリシス区間が変化するとともに、ヒステリシス区間の電流波形は山の数(谷の数)が変化する。
第1制御モードから徐変モードを経由して第2制御モードに切り替わる場合、励磁区間は徐々に狭くなるとともに最大電流値は徐々に大きくなる。この場合、ON角θON3(励磁開始角)を後出し、かつ還流開始角θS3を前出しすることによって励磁区間が徐々に狭められる。詳細には、徐変モードのON角θON3は第1制御モードのON角θON1(励磁開始角)よりも第2制御モードのON角θON2(励磁開始角)側へ後出しされ、かつ徐変モードの還流開始角θS3は第1制御モードの還流開始角θS1よりも第2制御モードの還流開始角θS2側へ前出しされる。このように還流開始角θSが前出しされることによって、徐変モードの励磁終了角θend3は第1制御モードの励磁終了角θend1よりも第2制御モードの励磁終了角θend2側へ小さくなる。また、第1制御モードでは還流開始角θS1とOFF角θOFF1とが同一角なので、第1制御モードから徐変モードを経由して第2制御モードに移行することによって還流開始角θSとOFF角θOFFとの間隔が徐々に広くなる。さらに、最大電流値は、第1制御モードの最大電流値Imax1から徐変モードの最大電流値Imax3を経て第2制御モードの最大電流値Imax2へと徐々に大きくなる。
第2制御モードから徐変モードを経由して第1制御モードに切り替わる場合、励磁区間は徐々に広くなるとともに最大電流値は徐々に小さくなる。この場合、ON角θON3(励磁開始角)を前出し、かつ還流開始角θS3を後出しすることによって励磁区間が徐々に広げられる。つまり、徐変モードのON角θON3は第2制御モードのON角θON2(励磁開始角)よりも第1制御モードのON角θON1(励磁開始角)側へ前出しされ、かつ徐変モードの還流開始角θS3は第2制御モードの還流開始角θS2よりも第1制御モードの還流開始角θS1側へ後出しされる。このように還流開始角θSが後出しされることによって、徐変モードの励磁終了角θend3は第2制御モードの励磁終了角θend2よりも第1制御モードの励磁終了角θend1側へ大きくなる。また、第2制御モードの還流開始角θS2とOFF角θOFF2との間隔は徐変モードよりも広いので、第2制御モードから徐変モードを経由して第1制御モードに移行することによって還流開始角θSとOFF角θOFFとの間隔が徐々に狭くなる。さらに、最大電流値は、第2制御モードの最大電流値Imax2から徐変モードの最大電流値Imax3を経て第1制御モードの最大電流値Imax1へと徐々に小さくなる。
以上説明した通り、変形例2によれば、制御モードの切り替え時、その励磁条件(電流波形)を徐々に変化させることができる。これにより、制御モードが切り替わる際に、励磁条件(電流波形)の違いにより生じる振動・騒音およびトルク変動の急激な変化を抑制できる。
[8.変形例3]
変形例3では、制御装置100は、第1制御モード用の励磁条件マップと第2制御モード用の励磁条件マップを切り替えるように構成されている。図14は、変形例3の制御装置100が実行する切替制御であって、切替制御の変形例を示すフローチャートである。なお、図14に示すステップS31〜ステップS34は、上述した図3のステップS1〜ステップS4と同様である。
図14に示すように、トルク変動低減制御が必要であることによりステップS34で肯定的に判断された場合、制御装置100は、トルク変動低減制御用の励磁条件マップを読み込む(ステップS35)。ステップS35では、上述した第1励磁条件のマップを読み込む。そして、制御装置100は、この制御ルーチンを終了する。
トルク変動低減制御が必要でないことによりステップS34で否定的に判断された場合、制御装置100は、ラジアル力変動低減制御用の励磁条件マップを読み込む(ステップS36)。ステップS36では、上述した第2励磁条件のマップを読み込む。そして、制御装置100は、この制御ルーチンを終了する。
[9.適用車両]
SRモータ1は、走行用動力源として車両に搭載されることが可能である。SRモータ1が車両に搭載される場合、上述した図3のステップS1では、アクセル開度センサから入力されるアクセル開度信号や、車速センサから入力される車速信号などの情報が読み込まれる。また、図3のステップS3では、アクセル開度信号と車速信号と所定の要求トルク用マップとを用いて、要求トルクを演算し、その要求トルクに応じたモータトルク指令値を導出する。
図15は、適用車両の一例を示すスケルトン図である。図15に示す車両200は、エンジン201と、車輪202と、変速機(T/M)203と、デファレンシャルギヤ204と、駆動軸205と、走行用動力源としてのSRモータ1とを備えている。車両200は、四輪駆動車であり、エンジン201が左右の前輪202FL,202FRを駆動し、リヤモータであるSRモータ1が左右の後輪202RL,202RRを駆動する。
エンジン201は、周知の内燃機関である。車両200のフロント側駆動装置では、エンジン201が、変速機203およびデファレンシャルギヤ204を介して左右の駆動軸205,205に接続されている。変速機203は、例えば有段や無段の自動変速機や、手動変速機である。左右の駆動軸205,205の一方は左前輪202FLに接続されており、他方は右前輪202FRに接続されている。前輪202FL,202FRは、エンジン201の出力トルク(エンジントルク)によって駆動される。なお、車両200は、エンジン201に加えて、前輪202FL,202FRを駆動させるモータ・ジェネレータ(MG)を備えていてもよい。
SRモータ1は、いわゆるインホイールモータであり、左右の後輪202RL,202RRにそれぞれ一つずつ設けられている。車両200のリヤ側駆動装置では、左後輪202RLには左後SRモータ1RLが接続され、かつ右後輪202RRには右後SRモータ1RRが接続されている。後輪202RL,202RRは、互いに独立して回転可能である。左後SRモータ1RLの出力トルク(モータトルク)によって左後輪202RLが駆動される。右後SRモータ1RRの出力トルク(モータトルク)によって右後輪202RRが駆動される。各SRモータ1RL,1RRは、インバータ2を介してバッテリ(B)3に接続されている。SRモータ1は、バッテリ3から供給される電力によって電動機として機能し、および後輪202RL,202RRから伝達されるトルク(外力)を電力に変換する発電機として機能する。なお、インバータ2には、左後SRモータ1RL用の電気回路と、右後SRモータ1RR用の電気回路とが含まれる。
制御装置100は、各SRモータ1RL,1RRと、エンジン201を制御する。例えば、制御装置100には、SRモータ用制御部(SRモータ用ECU)と、エンジン用制御部(エンジンECU)とが含まれる。この場合、エンジンECUは、吸気制御、燃料噴射制御、点火制御等によって、エンジン201の出力トルクを目標とするトルク値に調節するエンジントルク制御を実行する。また、SRモータ用ECUは、回転数センサ51から入力される信号に基づいて、各SRモータ1RL,1RRについてのモータ制御を実行する。回転数センサ51には、左後SRモータ1RLの回転数を検出する左後回転数センサ51RLと、右後SRモータ1RRの回転数を検出する右後回転数センサ51RRとが含まれる。
なお、SRモータ1を走行用動力源とする車両例は図15に示す例に限定されない。例えば、図15に示すフロント側駆動装置とリヤ側駆動装置とを入れ替えて、フロントモータとしてのSRモータ1が左右の前輪202FL,202FRを駆動し、エンジン201が左右の後輪202RL,202RRを駆動する車両であってもよい。また、図15に示すリヤ側駆動装置の変形例として、一つのSRモータ1がデファレンシャルギヤおよび左右の駆動軸を介して左右の後輪202RL,202RRに接続された車両であってもよい。さらに別の適用車両例として、エンジンを搭載していない車両(電気自動車)が挙げられる。電気自動車の場合、前後左右の車輪202全てにインホイールモータとしてのSRモータ1が設けられた四輪駆動車であってもよい。電気自動車の別の例として、フロント側インホイールモータとしての二つのSRモータ1が左右の前輪202FL,202FRを駆動する前輪駆動の電気自動車であってもよく、あるいはリヤモータとしてのSRモータ1が左右の後輪202RL,202RRを駆動する後輪駆動の電気自動車であってもよい。後輪駆動の電気自動である場合、一つのSRモータ1によって左右の後輪202RL,202RRが駆動される車両であってもよく、左右の後輪202RL,202RRそれぞれにインホイールモータとしてのSRモータ1が設けられた車両であってもよい。