JP6394128B2 - 差幅調整方法 - Google Patents
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Description
アンギュラ玉軸受は2つを軸方向に並べて使用されることがあり、この場合、並べたアンギュラ玉軸受に対してアキシャル方向(スラスト方向)の予圧を付与することにより軸受全体としての剛性を確保している。また、アンギュラ玉軸受を単独で用いる場合であっても、アキシャル方向の予圧を付与し軸受剛性を確保している。
しかし、アンギュラ玉軸受の差幅が、予圧等級に応じた許容範囲内にない場合、耐荷重や振動特性等の軸受性能が低下する。
そこで、本発明は、アンギュラ玉軸受を組み立てする前に、差幅を調整するための加工を行う差幅調整方法を提供することを目的とする。
この場合、アンギュラ玉軸受の軸方向長さを目標長さとすることができる。また、前記加工工程によれば、外輪ワーク及び内輪ワークの軸方向長さは同じ状態にあり、その後の、仕上げ工程では、第1外輪端面及び第1内輪端面を仕上げ加工面として、外輪ワーク及び内輪ワークは同じ加工量についての研削が行われる。このため、前記加工工程で得られた差幅は維持される。さらに、この仕上げ工程によれば、外輪ワーク及び内輪ワークの軸方向長さは同じに維持され、これらを外輪及び内輪として組み立てて得たアンギュラ玉軸受では、軸方向一方側の差幅と、軸方向他方側の差幅とは等しくなる。
このように、アンギュラ玉軸受を組み立てする前に、つまり、内輪ワークと外輪ワークとを分解した状態で差幅の測定を行うことが可能となる。
〔1. アンギュラ玉軸受〕
まず、本発明の差幅調整方法により差幅の調整を行う対象となるアンギュラ玉軸受について説明する。
図1に示すように、アンギュラ玉軸受1は、内輪15、外輪16、複数の玉2、及びこれら玉2を保持する環状の保持器3を備えている。内輪15の外周面には、玉2が転動する軌道溝(以下、内輪軌道5bという。)が形成されており、外輪16の内周面には、玉2が転動する軌道溝(以下、外輪軌道6bという)が形成されている。各玉2は内輪軌道5b及び外輪軌道6bに対して接触角αを有して接触しており、アンギュラ玉軸受1はアキシャル荷重及びラジアル荷重の双方を負荷することができる。
また、本実施形態では、外輪ワーク6の軸方向他方側(図1において右側)の端面が、第2外輪端面(以下、外輪小端面6−2という)であり、内輪ワーク5の軸方向他方側(図1において右側)の端面が、第2内輪端面(以下、内輪大端面5−2という)である。
差幅調整方法には、図2に示すように、前記差幅δを測定する差幅測定工程St11、この差幅測定工程St11において求めた前記差幅δと目標差幅δ0とを比較して、差幅加工量(C:図15参照)を求める加工量決定工程St12、及び、この加工量決定工程St12で求められた差幅加工量(C)について研削を行うことで前記差幅δを調整する加工工程St13が含まれる。また、本実施形態の差幅調整方法には、更に、アンギュラ玉軸受1の軸方向長さWを目標長さW0とするために加工を行う仕上げ工程St14が含まれる。以下、各工程に関して説明する。
まず、本実施形態の差幅調整方法(特に、差幅測定工程St11における差幅測定方法)で用いられる内輪ワーク5、外輪ワーク6、治具セット10,20、内輪マスタMi、及び外輪マスタMoについての説明を行う。
・内輪ワーク5:アンギュラ玉軸受1の内輪15となるもの。
・外輪ワーク6:アンギュラ玉軸受1の外輪16となるもの。
・内輪測定用の治具セット10(図7参照):内輪ワーク5に関する内輪測定値Aを求めるために用いられ、外輪治具11、転動体治具12及び保持器治具13を含む。
・・外輪治具11:外輪16の設計値に基づいて(一部を除いて)設計値とおりとなるように作製され、事前に各寸法が取得済みである。
・・転動体治具12:玉2の設計値に基づいて設計値とおりとなるように作製され、事前に寸法(直径)が取得済みである。
・・保持器治具13:保持器3の設計値に基づいて(一部を除いて)設計値とおりとなるように作製されたものである。
・外輪測定用の治具セット20(図10参照):外輪ワーク6に関する外輪測定値Bを求めるために用いられ、内輪治具21、転動体治具22及び保持器治具23を含む。
・・内輪治具21:内輪15の設計値に基づいて(一部を除いて)設計値とおりとなるように作製され、事前に各寸法が取得済みである。
・・転動体治具22:玉2の設計値に基づいて設計値とおりとなるように作製され、事前に寸法(直径)が取得済みである。
・・保持器治具23:保持器3の設計値に基づいて(一部を除いて)設計値とおりとなるように作製されたものである。
・内輪マスタMi(図7参照):内輪15の設計値に基づいて設計値とおりとなるように作製され、事前に各寸法が取得済みである。
・外輪マスタMo(図10参照):外輪16の設計値に基づいて設計値とおりとなるように作製され、事前に各寸法が取得済みである。
本実施形態に係る差幅測定方法には、図2に示すように、準備工程St1、玉サイズ決定工程St2、内輪測定工程St3、外輪測定工程St4、及び差幅算出工程St5が含まれる。なお、各工程は図2に示す順に行われるが、内輪測定工程St3と外輪測定工程St4とはいずれを先に行ってもよい。
これら各工程を含む差幅測定方法は、アンギュラ玉軸受1を図1に示すような組み立てた状態とする前に、つまり、内輪15及び外輪16等が分解されている状態で行われる。そして、この差幅測定方法では、内輪15を内輪ワーク5と呼び、外輪16を外輪ワーク6と呼ぶ。
準備工程St1では、図3に示す内輪ワーク5の軌道径Di及び外輪ワーク6の軌道径Doが測定される。軌道径Diは、内輪軌道5bの溝底における直径であり、軌道径Doは、外輪軌道6bの溝底における直径である。
軌道径Diの測定方法の一例を説明する。図4(A)に示すように、内輪ワーク5を二つの固定側の支点S1,S2で下から支持し、接触子S3を上から内輪軌道5bの溝底に接触させる。この接触子S3の位置に応じて出力が変化する変位計35(図4(B)参照)から、内輪軌道5bの溝底の径方向についての位置に関する計測値を取得する。そして、このような計測値の取得を内輪マスタMiについても同様に行う。これにより、内輪ワーク5の計測値と内輪マスタMiの計測値との比較により軌道径Diを取得することができる。なお、外輪ワーク6の軌道径Doについても、支点S1,S2及び接触子S3を内周面から接触させることで、同様に測定することが可能である。
また、外輪治具11及び内輪治具21の軌道径についても、内輪ワーク5及び外輪ワーク6と同様の方法(図4参照)により測定される。
玉サイズ決定工程St2では、接触角α(図1参照)に関して設計値(図面規格)を満足するための玉2のサイズ(直径Bd)が算出される。この算出のために、準備工程St1により取得された内輪ワーク5の軌道径Di(図3参照)及び外輪ワーク6の軌道径Do(図3参照)が用いられる。例えば、接触角αの設計許容値(設計値)が20°±2°である場合、接触角αが設計許容値の中央値である20°になるような玉2の直径Bdを求める。
ここで接触角αは次の式(1)により表される。
ただし、d=Gi+Go−(Do−Di)/2
γ=Gi+Go−Bd
Gi:内輪軌道5bの曲率半径
Go:外輪軌道6bの曲率半径
前記式(1)に、α(=20°)、Gi、Go、Do及びDiの各値を代入することで、接触角α=20°となるための玉2の直径Bdを求めることが可能となる。つまり、求められた直径Bdの玉2を、内輪ワーク5と外輪ワーク6との間に介在させれば、接触角α=20°のアンギュラ玉軸受1が得られる。
内輪測定工程St3では、内輪測定用の治具セット10(図7参照)に対して、内輪ワーク5を組み合わせた場合と、内輪マスタMiを組み合わせた場合とで、所要の測定値についての比較を行い、後述する内輪測定値Aが求められる。図5は、内輪測定工程St3で用いられる測定装置30の説明図である。図6は、内輪測定用の治具セット10に対して内輪ワーク5(及び内輪マスタMi)を組み合わせて行う測定方法を説明する説明図である。
また、内輪ワーク5の代わりに、この治具セット10に対して内輪マスタMiを組み付け、内輪ワーク5の場合と同様の操作を行う。つまり、固定状態にある外輪治具11を含む治具セット10に対して、内輪マスタMiをシリンダ31により変位させ、組み立て状態とする。この際、同じアキシャル方向の荷重が付与される。この組み立て状態における外輪治具11と内輪マスタMiとの軸方向についての相対位置(マスタ位置という)を、測定器(変位センサ)32により測定する。
外輪測定工程St4では、外輪測定用の治具セット20(図10参照)に対して、外輪ワーク6を組み合わせた場合と、外輪マスタMoを組み合わせた場合とで、所要の測定値についての比較を行い、後述する外輪測定値Bが求められる。図8は、外輪測定工程St4で用いられる測定装置40の説明図である。図9は、外輪測定用の治具セット20に対して外輪ワーク6(及び外輪マスタMo)を組み合わせて行う測定方法を説明する説明図である。
また、外輪ワーク6の代わりに、この治具セット20に対して外輪マスタMoを組み付け、外輪ワーク6の場合と同様の操作を行う。つまり、固定状態にある外輪マスタMoに対して内輪治具21をシリンダ41により変位させ、組み立て状態とする。この際、同じアキシャル方向の荷重が付与される。この組み立て状態における外輪マスタMoと内輪治具21との軸方向についての相対位置(マスタ位置という)を、測定器(変位センサ)42により測定する。
差幅算出工程St5では、図1に示すアンギュラ玉軸受1の差幅δが求められる。この差幅δは、外輪16の軸方向一方側の端面(外輪大端面)6−1と、内輪15の軸方向一方側の端面(内輪小端面)5−1との間の軸方向についての寸法である。差幅δは、後に説明する式(2)により、前記内輪測定値A、前記外輪測定値B、マスタ差幅δ1、及び、補正値X0に基づいて、コンピュータ等の演算装置により演算で求められる。なお、この演算装置は、前記測定装置30,40が備えている演算装置33,43と兼用されていてもよい。
前記内輪測定値A、前記外輪測定値B、準備工程St1において取得された各値は、前記演算装置に入力され、記憶されている。また、演算装置には、次の式(2)により差幅δを算出するためのプログラムが記憶されている。
ただし、δ1:マスタ差幅
X0:補正値
前記内輪測定工程St3及び前記外輪測定工程St4では、実際のアンギュラ玉軸受1(図1参照)を構成する内輪15及び外輪16を組み合わせて測定を行うのではなく、内輪15となる内輪ワーク5を内輪測定用の治具セット10と組み合わせて測定を行っており、また、外輪16となる外輪ワーク6を外輪測定用の治具セット20と組み合わせて測定を行っている。したがって、内輪15(内輪ワーク5)と外輪16(外輪ワーク6)とを組み合わせて測定を行うことと比較して、各測定に誤差が生じる。
そこで、これら内輪測定用の治具セット10及び外輪測定用の治具セット20を用いることによる誤差を補正するために、補正値X0を必要としている。なお、補正値X0については、後に説明するが、次の式により定義され、演算で求められる値である。
X0=X1−X2+X3−X4+X5−X
このように、アンギュラ玉軸受1を組み立てする前に、つまり、内輪15(内輪ワーク5)と外輪16(外輪ワーク6)とを分解した状態で差幅δの測定を行うことが可能となる。
前記式(2)は、次のようにして得られた数式である。
〔5.1 内輪測定値Aについて〕
内輪測定工程St3において説明したように、内輪測定値A(図7参照)は、内輪測定用の治具セット10の外輪治具11に内輪ワーク5を組み合わせた場合の差幅δ3と、この内輪測定用の治具セット10の外輪治具11に内輪マスタMiを組み合わせた場合の差幅δ2との差(δ3−δ2)と等しくなる。そして、図11に示すように、前記差幅δ3は(Bi+X1−Bo1)であり、前記差幅δ2は(Bi1+X2−Bo1)である。
(内輪測定値A)=δ3−δ2
=(Bi+X1−Bo1)−(Bi1+X2−Bo1)
=Bi−Bi1+X1−X2 ・・・(3)
X1:内輪ワーク5と外輪治具11とを転動体治具12を挟んで組み合わせた場合における、内輪ワーク5の内輪軌道の曲率中心Ziと、外輪治具11の外輪軌道の曲率中心Zoとの軸方向距離
X2:内輪マスタMiと外輪治具11とを転動体治具12を挟んで組み合わせた場合における、内輪マスタMiの内輪軌道の曲率中心Ziと、外輪治具11の外輪軌道の曲率中心Zoとの軸方向距離
Bi:内輪ワーク5の軸方向端面(5−1)から内輪軌道の曲率中心Ziまでの軸方向距離
Bi1:内輪マスタMiの軸方向端面(Mi−1)から内輪軌道の曲率中心Ziまでの軸方向距離
Bo1:外輪治具11の軸方向端面(11−1)から外輪軌道の曲率中心Zoまでの軸方向距離
軸方向距離X1は、図12に示すように、内輪軌道の曲率中心Ziと外輪軌道の曲率中心Zoとの軸方向距離であり、γは、内輪軌道の曲率中心Ziと外輪軌道の曲率中心Zoとの直線距離であり、dは、内輪軌道の曲率中心Ziと外輪軌道の曲率中心Zoとの半径方向距離である。そして、αは接触角である。
これらX1、γ、d、αの関係は、次の式(4)により表される。なお、Bdは、内輪軌道と外輪軌道との間に介在する玉の直径である。
内輪ワーク5及び外輪治具11に関する各値を式(4)に代入することで、軸方向距離X1を求めることが可能となる。
また、軸方向距離X2の求め方は、軸方向距離X1の求め方と同様である。つまり、前記式(4)に、内輪マスタMi及び外輪治具11に関する各値を代入することで、軸方向距離X2を求めることが可能となる。
外輪測定工程St4において説明したように、外輪測定値B(図10参照)は、外輪測定用の治具セット20の内輪治具21に外輪ワーク6を組み合わせた場合の差幅δ5と、この外輪測定用の治具セット20の内輪治具21に外輪マスタMoを組み合わせた場合の差幅δ4との差(δ4−δ5)と等しくなる。図13に示すように、前記差幅δ5は(Bi2+X3−Bo)であり、前記差幅δ4は(Bi2+X4−Bo2)である。
(外輪測定値B)=δ4−δ5
=(Bi2+X4−Bo2)−(Bi2+X3−Bo)
=Bo−Bo2−X3+X4 ・・・(5)
X3:外輪ワーク6と内輪治具21とを転動体治具22を挟んで組み合わせた場合における、外輪ワーク6の外輪軌道の曲率中心Zoと内輪治具21の内輪軌道の曲率中心Ziとの軸方向距離
X4:外輪マスタMoと内輪治具21とを転動体治具22を挟んで組み合わせた場合における、外輪マスタMoの外輪軌道の曲率中心Zoと、内輪治具21の内輪軌道の曲率中心Ziとの軸方向距離
Bo:外輪ワーク6の軸方向端面(6−1)から外輪軌道の曲率中心Zoまでの軸方向距離
Bo2:外輪マスタMoの軸方向端面(Mo−1)から外輪軌道の曲率中心Zoまでの軸方向距離
Bi2:内輪治具21の軸方向端面(21−1)から内輪軌道の曲率中心Ziまでの軸方向距離
図14に示すように、マスタ差幅δ1は、内輪マスタMiと外輪マスタMoとを組み合わせた場合の差幅であり、前記準備工程St1において実測により取得されている値である。このマスタ差幅δ1は、次の式(6)により表される。そして、この式(6)を変形させると、式(7)となる。
Bi1−Bo2=δ1−X5 ・・・(7)
X5:内輪マスタMiと外輪マスタMotとを転動体マスタMbを挟んで組み合わせた場合における、内輪マスタMiの内輪軌道の曲率中心Ziと外輪マスタMoの外輪軌道の曲率中心Zoとの軸方向距離
Bi1:内輪マスタMiの軸方向端面(Mi−1)から内輪軌道の曲率中心Ziまでの軸方向距離
Bo2:外輪マスタMoの軸方向端面(Mo−1)から外輪軌道の曲率中心Zoまでの軸方向距離
本実施形態の差幅測定方法により求める対象は、図1に示すように、内輪ワーク5と外輪ワーク6とを組み合わせた場合の差幅δである。
この差幅δは、次の式(8)により表される。
δ=Bi+X−Bo ・・・(8)
X :内輪ワーク5と外輪ワーク6とを玉2を挟んで組み合わせた場合における、内輪軌道5bの曲率中心Ziと外輪軌道6bの曲率中心Zoとの軸方向距離
Bi:内輪ワーク5の軸方向端面(5−1)から内輪軌道5bの曲率中心Ziまでの軸方向距離
Bo:外輪ワーク6の軸方向端面(6−1)から外輪軌道6bの曲率中心Zoまでの軸方向距離
Bi=(内輪測定値A)+Bi1−X1+X2 ・・・(9)
Bo=(外輪測定値B)+Bo2+X3−X4 ・・・(10)
δ=(内輪測定値A)−(外輪測定値B)+(Bi1−Bo2)−(X1−X2
+X3−X4−X) ・・・(11)
δ=(内輪測定値A)−(外輪測定値B)+δ1−(X1−X2+X3−X4
+X5−X) ・・・(12)
このX0は、内輪測定用及び外輪測定用の治具セット10,20を用いたことによる誤差を補正するための補正値である。この補正値X0を求めるための各値(X1、X2、X3、X4、X5、X)は、準備工程St1において取得されている軸方向距離である。
図7に示す外輪治具11は、図1に示す外輪16の設計値に基づいて(一部を除いて)設計値とおりとなるように作製されたものである。つまり、本実施形態の外輪治具11では、図1に示す外輪16と比較すると、カウンタボアを有しておらず、外輪軌道11−3から小端面11−2までの内周面14の形状が異なる。
この内周面14は、外輪軌道11−3から小端面11−2に向かうにしたがって拡径するテーパ面からなる。しかも、この内周面14では、外輪軌道11−3の溝底(最大直径部)をテーパ形状の始点としている。このため、治具セット10に含まれる転動体治具12及び保持器治具13は、この内周面14のうちの小端面11−2側に位置することができ、その状態で、内輪ワーク5(内輪マスタMi)をこの治具セット10と、無理嵌めすることなく組み合わせることができる。
このポケット18は、転動体治具(玉)12を収容する空間を径方向内側(内輪ワーク5側)において狭くする形状を有している。つまり、転動体治具(玉)12と接触可能となるポケット面18aが傾斜面となっており、内輪ワーク5及び内輪マスタMiが存在しない場合であっても、転動体治具(玉)12が保持器治具13から脱落しないように構成されている。これにより、内輪ワーク5(内輪マスタMi)を治具セット10に組み合わせる作業が容易となる。
図10に示す内輪治具21は、図1に示す内輪15の設計値に基づいて(一部を除いて)設計値とおりとなるように作製されたものである。つまり、本実施形態の内輪治具21では、図1に示す内輪15と比較すると、カウンタボアを有しておらず、内輪軌道21−3から小端面21−1までの外周面24の形状が異なる。
この外周面24は、内輪軌道21−3から小端面21−1に向かうにしたがって縮径するテーパ面からなる。しかも、この外周面24では、内輪軌道21−3の溝底(最大直径部)をテーパ形状の始点としている。このため、治具セット20に含まれる転動体治具22及び保持器治具23は、この外周面24のうちの小端面21−1側に位置することができ、その状態で、この治具セット20を外輪ワーク6(外輪マスタMo)と、無理嵌めすることなく組み合わせることができる。
このポケット28は、転動体治具(玉)22を収容する空間を径方向外側(外輪ワーク6側)において狭くする形状を有している。つまり、転動体治具(玉)22と接触可能となるポケット面28aが傾斜面となっており、外輪ワーク6及び外輪マスタMoが存在しない場合であっても、転動体治具(玉)22が保持器治具23から脱落しないように構成されている。これにより、治具セット20を外輪ワーク6(外輪マスタMo)に組み合わせる作業が容易となる。
図2に示す〔4.5 差幅算出工程St5〕で説明したように、内輪ワーク5及び外輪ワーク6を内輪5及び外輪6として組み合わせて図1に示すアンギュラ玉軸受1を構成する場合の差幅δが、組み立て前の状態で求められる。
そして、この差幅δに基づいて、内輪ワーク5及び外輪ワーク6の一方又は双方の軸方向端面に対して研削加工が施され、設計上の差幅(目標差幅δ0:図1参照)を有するように、次の加工工程St13、更には、仕上げ工程St14が実施される。
このように、加工量決定工程St12では、前記差幅測定工程St11において求められた差幅δと、設計上の差幅の値である目標差幅δ0とを比較して差幅加工量Cが求められる。
加工工程St13(図2参照)では、前記加工量決定工程St12において求められた差幅加工量Cについて、研削を行うことで差幅δを調整する。
なお、この加工工程St13(及びその次の仕上げ工程St13)では、アンギュラ玉軸受1を図1に示すような組み立てた状態とする前に、つまり、内輪15及び外輪16等が分解されている状態で行われる。そして、この加工工程St13(及びその次の仕上げ工程St13)における加工の対象は、内輪ワーク5及び外輪ワーク6である。
外輪ワーク6の軸方向一方側(図1において左側)の第1外輪端面が、外輪大端面6−1であり、外輪ワーク6の軸方向他方側(図1において右側)の第2外輪端面が、外輪小端面6−2である。
また、内輪ワーク5の軸方向一方側(図1において左側)の第1内輪端面が、内輪小端面5−1であり、内輪ワーク5の軸方向他方側(図1において右側)の第2内輪端面が、内輪大端面5−2である。
研削後の状態を図15(B)に示す。研削前の外輪小端面6−2は、研削後、外輪小端面6−2aとなり、研削前の内輪小端面5−1は、研削後、内輪小端面5−1aとなる。
軸方向両側における差幅δ、Δが等しいことから、このようにして差幅δ,Δが調整されて組み立てられたアンギュラ玉軸受1は、背面組み合わせ用及び正面組み合わせ用の双方に用いることが可能となり、組み合わせの自由度が高いアンギュラ玉軸受となる。
図16では、仕上げ工程St14を省略してアンギュラ玉軸受1を組み立てる場合について説明したが、本実施形態では、図15に示す加工工程St13の次に、仕上げ工程St14が実施される。仕上げ工程St14では、アンギュラ玉軸受1(図1参照)の軸方向長さWを目標長さW0とするための加工が行われる。
なお、加工工程St13が行われると(図15(B)参照)、内輪ワーク5(及び外輪ワーク6)の軸方向の長さH1が測定され、この長さH1と、内輪15の設計値(図面値)との差が、仕上げ加工量tとして求められる。図17(A)中の寸法tが、この仕上げ加工量を示しているが、説明をわかり易くするためにこの仕上げ加工量tを実際よりも大きく記載している。
そして、この図17(A)に示す状態で前記研削盤(研削装置)により、基盤9上の内輪ワーク5及び外輪ワーク6に対して研削を行う。つまり、外輪大端面6−1及び内輪小端面5−1aを、同時に研削する仕上げ加工面Kとして、外輪ワーク6及び内輪ワーク5のこれら仕上げ加工面Kを研削する。この仕上げ加工面Kに対する加工代(加工量)は、既に求めている前記仕上げ加工量tである。研削後の状態を図17(B)に示す。研削前の外輪大端面6−1は、研削後、外輪大端面6−1aとなり、研削前の内輪小端面5−1aは、研削後、内輪小端面5−1bとなる。
そして、研削を終えると、内輪ワーク5及び外輪ワーク6に対して個別に洗浄を行い、本組み立てを行い、図1に示すアンギュラ玉軸受1が構成される。
また、この仕上げ工程St14の前工程である加工工程St13によれば、図15(B)及び図17(A)に示すように、外輪ワーク6及び内輪ワーク5の軸方向長さH1は同じ状態にあり、その後の、仕上げ工程St14では、外輪大端面6−1及び内輪小端面5−1aを仕上げ加工面Kとして、外輪ワーク6及び内輪ワーク5は同じ加工量(仕上げ加工量t)についての研削が行われる。これら外輪大端面6−1及び内輪小端面5−1aは、軸方向一方側の差幅δの基準となる面であり、これら両端面6−1,5−1aの双方が同じ仕上げ加工量tについて研削されることから、前工程である加工工程St13で得られた差幅δ,Δは、仕上げ工程St14後においても、維持される。
このようにして差幅δ,Δが調整されて組み立てられたアンギュラ玉軸受1は、軸方向について目標長さW0を有しており、かつ、背面組み合わせ用及び正面組み合わせ用の双方に用いることが可能となり、組み合わせの自由度が高いアンギュラ玉軸受となる。
以上より、本実施形態の差幅調整方法によれば、アンギュラ玉軸受1を組み立てする前に、差幅δ(Δ)を調整するための加工を行うことが可能となる。つまり、分解状態にある外輪ワーク6及び内輪ワーク5に対して差幅δ(Δ)を調整するための研削が行われる。このため、研削後に、外輪ワーク6及び内輪ワーク5を個別に洗浄することができ、洗浄を行い易く、研削屑等の異物を除去することができる。この結果、これら外輪ワーク6及び内輪ワーク5を外輪16及び内輪15として用いたアンギュラ玉軸受1が回転した際に、騒音が発生したり、軸受寿命が低下したりするという不具合の発生確率を低下することが可能となる。
5−1,5−1a,5−1b:内輪小端面(第1内輪端面)
5−2:内輪大端面(第2内輪端面) 6:外輪ワーク
6−1,6−1a:外輪大端面(第1外輪端面)
6−2,6−2a:外輪小端面(第2外輪端面)
10:内輪測定用の治具セット 11:外輪治具 15:内輪
16:外輪 20:外輪測定用の治具セット 21:内輪治具
A:内輪測定値 B:外輪測定値 C:差幅加工量
F:基準平面 J:研削面 K:仕上げ加工面
Mi:内輪マスタ Mo:外輪マスタ
W:アンギュラ玉軸受の軸方向長さ W0:目標長さ
X0:補正値 δ:差幅 δ0:目標差幅 δ1:マスタ差幅
Claims (3)
- アンギュラ玉軸受における外輪の軸方向一方側の第1外輪端面と内輪の軸方向一方側の第1内輪端面との間の差幅を調整する差幅調整方法であって、
前記差幅を測定する差幅測定工程と、
前記差幅測定工程において求められた前記差幅と目標差幅とを比較して差幅加工量を求める加工量決定工程と、
前記差幅加工量について研削を行うことで前記差幅を調整する加工工程と、
前記加工工程の後に行われる、前記アンギュラ玉軸受の軸方向長さを目標長さとするための仕上げ工程と、
を備え、
前記加工工程では、
前記第1内輪端面と反対側の第2内輪端面、及び前記第1外輪端面を共通する基準平面上に位置させ、前記第1外輪端面と反対側の第2外輪端面、及び前記第1内輪端面を研削面として、当該第1内輪端面を前記差幅加工量について研削するまで、前記外輪となる外輪ワーク及び前記内輪となる内輪ワークの前記研削面を研削し、
前記仕上げ工程では、
前記第2外輪端面及び前記第2内輪端面を共通する基準平面上に位置させ、前記第1外輪端面及び前記第1内輪端面を仕上げ加工面として、前記アンギュラ玉軸受の軸方向長さを目標長さとするために、前記外輪ワーク及び前記内輪ワークの前記仕上げ加工面を研削し、
前記加工工程では、前記差幅の基準とならない前記第2外輪端面と、前記差幅の基準となる前記第1内輪端面とが、前記研削面であり、
前記仕上げ加工工程では、前記差幅の基準となる前記第1外輪端面と、前記差幅の基準となる前記第1内輪端面とが、前記仕上げ加工面である
ことを特徴とする差幅調整方法。 - 前記差幅測定工程は、
外輪治具を含む内輪測定用の治具セットに対して内輪マスタを組み合わせることで得られる当該外輪治具と当該内輪マスタとの軸方向位置関係を示すマスタ基準値を基準として、当該内輪測定用の治具セットに対して前記内輪となる内輪ワークを組み合わせることにより前記外輪治具と当該内輪ワークとの軸方向位置関係を示す内輪測定値を求める内輪測定工程と、
内輪治具を含む外輪測定用の治具セットに対して外輪マスタを組み合わせることで得られる当該内輪治具と当該外輪マスタとの軸方向位置関係を示すマスタ基準値を基準として、当該外輪測定用の治具セットに対して前記外輪となる外輪ワークを組み合わせることにより前記内輪治具と当該外輪ワークとの軸方向位置関係を示す外輪測定値を求める外輪測定工程と、
前記内輪測定値、前記外輪測定値、前記内輪マスタと前記外輪マスタとを組み合わせた場合のマスタ差幅、及び、前記治具セットを用いることによる誤差を補正するための補正値に基づいて前記差幅を求める差幅算出工程とを備えている
請求項1に記載の差幅調整方法。 - 前記外輪治具は、外輪軌道から拡径するテーパ面により構成された内周面を有し、
前記内輪測定用の治具セットには、転動体治具となる玉を保持するポケットが設けられた保持器治具が含まれ、当該ポケットは、当該玉が脱落しないように当該玉を収容する空間が径方向内側において狭くなる形状を有し、
前記内輪治具は、内輪軌道から縮径するテーパ面により構成された外周面を有し、
前記外輪測定用の治具セットには、転動体治具となる玉を保持するポケットが設けられた保持器治具が含まれ、当該ポケットは、当該玉が脱落しないように当該玉を収容する空間が径方向外側において狭くなる形状を有する
請求項2に記載の差幅調整方法。
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