実施の形態1.
まず、本発明の実施の形態1における太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置について説明し、次に、このはんだ接合評価装置に用いる太陽電池モジュールのはんだ接合評価方法について説明する。
図1は、本発明の実施の形態1における太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置1を示す概略構成図である。はんだ接合評価装置1は、はんだ接合評価装置1により評価される太陽電池モジュールのはんだ接合部2に電気的に接触して、はんだ接合部2に同軸ケーブルを介して高周波信号を供給する触針部3と、はんだ接合部2に供給する微弱の高周波信号を発生する高周波発生部4とを備えている。高周波発生部4は発生する高周波信号の周波数を可変制御することができ、周波数を規則的または不規則的な間隔で離散的に掃引することができる。
また、はんだ接合評価装置1は、はんだ接合部2から反射される高周波信号、すなわち反射波の電圧などの振幅を測定し、高周波発生部4からはんだ接合部2に入力した高周波信号と反射波を比較して、はんだ接合部2における反射係数を計算し、反射係数からはんだ接合部2のインピーダンスを計算する波形解析部5を備えている。すなわち波形解析部5は、はんだ接合部2から反射される反射波を測定する反射波測定部と、反射係数を計算する反射係数計算部と、反射係数からインピーダンスを計算するインピーダンス計算部を有している。
さらに、波形解析部5はメモリなどの記憶部を有しており、はんだ接合部2と触針部3からなる等価回路モデルを記憶している。等価回路モデルは、等価回路モデルを表す数式や行列式として、記憶部に記憶されたプログラムやデータベースとして記憶されてもよい。そして波形解析部5は高周波発生部4からの高周波信号の周波数を掃引してはんだ接合部2に入力した場合に取得される、はんだ接合部2のインピーダンスの周波数特性から、はんだ接合部2の等価回路モデルの各回路定数を決定し、決定した回路定数の値に基づいてはんだ接合部2のはんだ接合の状態を評価する。
高周波発生部4は測定制御部6からの指示によって、高周波信号の発生、停止、周波数の変更等を行い、また波形解析部5は測定制御部6からの指示によって、はんだ接合部2のインピーダンス計算及び等価回路モデルの各回路定数計算等の解析を行う。
さらに、はんだ接合評価装置1は入出力部7を備えており、測定制御部6は入出力部7からの指示により、高周波発生部4と波形解析部5を制御する。また波形解析部5で解析されたはんだ接合部2のインピーダンス、等価回路モデルの各回路定数、はんだ接合の評価結果などの情報は入出力部7に出力される。
図2は図1で示したはんだ接合評価装置1の触針部3を示す側面図である。また図2には太陽電池モジュールのはんだ接合部2も合わせて示した。なお、はんだ接合部2は、はんだ接合評価装置1の評価対象であって、はんだ接合評価装置1を構成する物ではない。太陽電池モジュールは太陽電池セルを配列するガラス基板102の上に、太陽電池セルの電極を接続する幅5mmまたは幅1mmのタブ線11、12を備えており、タブ線11(第1の導電体)とタブ線12(第2の導電体)は、はんだ13で接合され、はんだ接合部2を構成している。
触針部3は、絶縁物で形成された支持部材14に固定された、良導電性の金属で形成された固定部材15と、固定部材15に設けられたコネクタ16と、はんだ接合部2のタブ線11、12に接触される良導電性の金属で形成されたプローブ17A、17Bとを備えている。プローブ17A、17Bは支持部材14に設けられた貫通孔(図示せず)により、支持部材14を貫通して設けられ、上下に動くようになっている。またプローブ17A、17Bの先端と支持部材14の間には、ばね18A、18Bが設けられており、支持部材14をはんだ接合部2の方向に近づけた場合に、ばね18A、18Bの力によってプローブ17A、17Bの先端が、タブ線11、12に押し当てられ、プローブ17A、17Bとタブ線11、12との間で、良好な電気接触が行われるようになっている。
プローブ17Aは支持部材14の上部に設けられた導体パターン19と接続され、導体パターン19上に設けられたコンデンサ20の一端に接続される。コンデンサ20の他端はコネクタ16を介して、同軸ケーブル21の内部導体に接続される。すなわちプローブ17Aはコンデンサ20を介して同軸ケーブル21の内部導体に電気接続されている。一方、プローブ17Bは支持部材14の上部に設けられた固定部材15に接続され、固定部材15に設けられたコネクタ16を介して、同軸ケーブル21の外部導体に接続される。すなわちプローブ17Bは同軸ケーブル21の外部導体に電気接続されている。
このように触針部3を構成して、はんだ接合部2の直近のタブ線に触針部3のプローブ17A、17Bを電気接触させて、はんだ接合部2のインピーダンスを測定することにより、同軸ケーブル21の端子からはんだ接合部2までの距離を30mm以下に近づけて、はんだ接合部2のインピーダンスを精度良く測定することができる。すなわち従来方法のように太陽電池モジュールの出力端子からはんだ接合部のインピーダンスを測定しようとした場合、出力端子からはんだ接合部までの距離は1m程度にも及ぶため、タブ線など配線のインダクタンスが30倍以上となり、高周波信号が配線で減衰して、はんだ接合部のインピーダンスを精度良く測定することが困難になる。しかし、本発明では上記のように構成した触針部3を用いるので、配線のインダクタンスによる影響が軽減され、はんだ接合部2のインピーダンスを精度良く測定することができる。
以上のように太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置1は構成される。なお、はんだ接合評価装置1は、図1で示した各構成部が一体となった専用装置でもよいし、高周波信号を掃引してはんだ接合部に入力し、反射波を解析してはんだ接合部のインピーダンスの周波数特性を求めるネットワークアナライザと、ネットワークアナライザによって求められたインピーダンスの周波数特性から等価回路モデルの各回路定数を計算し、はんだ接合部2のはんだ接合状態を評価するコンピュータから構成されていてもよい。また、はんだ接合部2のインピーダンスの周波数特性の測定には、10MHz〜10GHzの高周波での周波数掃引が可能なインピーダンスアナライザやLCRメータを用いてもよい。
次に本発明の太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置1を用いたはんだ接合評価方法について説明する。
図3は本発明の太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置1の評価対象である太陽電池モジュールの構造を示す上面図である。なお、ここで示す太陽電池モジュールの構造は一例であって、他の構造の太陽電池モジュールであってもよい。太陽電池モジュール101は、ガラス基板102上に複数の太陽電池セル103をマトリクス状に配置して構成される。なお、太陽電池モジュール101の使用時には、ガラス基板102は太陽電池セル103をカバーする働きをするため、太陽光はガラス基板102を通って太陽電池セル103に到達する。図3の太陽電池モジュール101では、8行×5列で合計40個の太陽電池セル103により構成されている。各太陽電池セル103は、列方向に並んだ太陽電池セル103を直列接続するタブ線11、11a(図3で紙面縦方向のタブ線)と、列方向に直列接続した太陽電池セル103の列をさらに直列接続するタブ線12、12a(図3で紙面横方向のタブ線)とにより、40個全ての太陽電池セル103が直列接続される。そして40個の太陽電池セル103をタブ線11、11a、12、12aにより直列接続した両端のタブ線12aには出力ケーブル104A、104Bが接続され、出力ケーブル104A、104Bの端部には出力端子105A、105Bが設けられる。
本発明の太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置1は、特にこのような構造の太陽電池モジュール101のタブ線11とタブ線12とのはんだ接合部2のはんだ接合状態の評価を行うのに適している。
図2に示すように評価を行う太陽電池モジュール101のはんだ接合部2に、はんだ接合評価装置1の触針部3を近づけて、触針部3のプローブ17A、17Bを、はんだ接合部2のタブ線11、12に電気接触させる。この工程は自動または手動で行うことができ、自動で行う場合には太陽電池モジュール101または触針部3をXYZステージに配置してもよいし、ロボットアームに触針部3を取り付けてもよい。
太陽電池モジュールの製造工程で、はんだ接合部の評価を行う場合は、XYZステージまたはロボットアームによって自動的に触針部3をはんだ接合部2に近づけて、触針部3のプローブ17A、17Bを、はんだ接合部2のタブ線11、12に電気接触させる方が、生産性の観点から適しており、このような場合には、製造業務の始業時にはんだ接合評価装置1の入出力部7から、はんだ接合部の評価を開始する指示を入力し、その後は再び指示を入力することなく、終業まで流れ作業により自動的に複数の太陽電池モジュールを評価してもよい。また太陽電池モジュールの設置現場で、はんだ接合部の評価を行う場合には、作業者が手動により触針部3をはんだ接合部2に近づけて、プローブ17A、17Bがタブ線11、12に電気接触した後に、はんだ接合評価装置1の入出力部7からはんだ接合部の評価を開始する指示を入力してもよい。すなわち入出力部7への評価開始の指示は、プローブ17A、17Bがタブ線11、12に電気接触する前後のどちらであってもよく、はんだ接合部の評価は測定制御部6による制御によって開始される。
はんだ接合部2のタブ線11、12に触針部3のプローブ17A、17Bが電気接触されると、測定制御部6が高周波発生部4に高周波信号を出力するように指示し、高周波発生部4が高周波信号を出力する。測定制御部6は、入出力部7から予め入力された周波数の範囲で高周波信号の周波数を掃引するために、高周波発生部4に出力する高周波信号の周波数を指示し、高周波発生部4は指示された周波数の高周波信号を発生する。高周波発生部4から出力された高周波信号は同軸ケーブル21と触針部3を通って、触針部3のプローブ17A、17Bからはんだ接合部2に供給される。はんだ接合部2に供給された高周波信号は、はんだ接合部2のインピーダンスに応じて反射され、反射された反射波は波形解析部5で測定される。波形解析部5は高周波発生部4が出力した高周波信号の振幅、すなわち入射波の振幅と、はんだ接合部2で反射した反射波の振幅の比率から、はんだ接合部2の反射係数を計算し、計算した反射係数からはんだ接合部2のインピーダンスを計算する。
図2の同軸ケーブル21から触針部3とはんだ接合部2側のインピーダンスをZm、同軸ケーブル21の複素出力インピーダンスをZ0とすると、反射係数rは数式(1)で表されるので、触針部3とはんだ接合部2のインピーダンスZmは数式(2)で求めることができる。
以上の方法により、高周波発生部4が出力した高周波信号の周波数f1での触針部3とはんだ接合部2のインピーダンスZm1が波形解析部5により計算される。数式(2)から分かるように、反射係数rが求められるとインピーダンスZmは一義的に計算される。
次に高周波発生部4は高周波信号の周波数をf2に変更して、はんだ接合部2に供給する。すると上記と同様に、波形解析部5は周波数f2での触針部3とはんだ接合部2のインピーダンスZm2を計算する。これを10MHz〜10GHzの範囲内の、所定の周波数f1〜fnまで行い、波形解析部5は触針部3とはんだ接合部2のインピーダンスZmの周波数特性を測定する。測定する周波数の範囲は10MHz〜10GHzの全ての範囲であってもよいが、入出力部7から予め入力して設定した10MHz〜10GHzの内の一部の範囲であってもよい。
波形解析部5は、触針部3とはんだ接合部2のインピーダンスZmの周波数特性を測定すると、波形解析部5に予め与えられた触針部3とはんだ接合部2の等価回路モデルによって計算されるインピーダンスの周波数特性が、上述の通りに実際に測定したインピーダンスZmの周波数特性に一致するように、等価回路モデルの各回路定数を変化させて、周波数特性が一致した場合の各回路定数を求める。こうして求めた各回路定数の一つが抵抗であり、この抵抗には、はんだ接合部2の抵抗に加え測定系の抵抗も含まれるものの、はんだ接合部2の抵抗が支配的である。従って、上記抵抗を以下、接合抵抗と呼ぶ。また、上記測定系とは具体的には、コネクタ16から評価対象であるはんだ接合部2までの経路の直列抵抗であり、タブ線11、12、プローブ17A、17Bとプローブ17A、17Bから同軸ケーブル21までの配線の抵抗である。
上記方法で求めた接合抵抗の数値ではんだ接合部2のはんだ接合状態を評価し、評価結果を入出力部7に出力する。具体的には測定した接合抵抗の数値が、予め設定した数値よりも大きい場合にはんだ接合状態は不良と判断し、小さい場合にははんだ接合状態は良好と判断すればよい。予め設定する数値は、はんだ接合状態が良好な太陽電池モジュールサンプルの接合抵抗を上記方法により、予め測定しておくことで設定することができる。入出力部7には波形解析部5がはんだ接合状態が良好か不良かを判別した評価結果を出力してもよいし、接合抵抗の数値を出力してもよい。
次に具体的なはんだ接合部の評価結果について述べる。図4は本発明の太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置を用いて測定したインピーダンスZmの測定結果の一例を示す図である。図4(a)はインピーダンスZmの振幅を示したもので、図4(b)インピーダンスZmの位相を示したものである。また測定は周波数10MHz〜1GHzまでを等間隔に合計1600点の周波数で行った。
図5は図2で示した本発明の太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置1の触針部3とはんだ接合部2の等価回路モデルを示す回路図である。図5の等価回路モデルにおいて、Csはコンデンサ20の静電容量である。Rsは接合抵抗であり、上述のように、はんだ接合部2の抵抗に加え、タブ線11、12、プローブ17A、17Bとプローブ17A、17Bから同軸ケーブル21までの配線の抵抗からなる。Lsはコネクタ16から評価対象側の経路のインダクタンスであり、C0はコネクタ16から評価対象側の経路とアースとの間の浮遊容量である。また図5の等価回路モデルの両端はコネクタ16との接続点の同軸ケーブル21の内部導体と外部導体に相当する。図5の等価回路モデルからインピーダンスZmは以下の数式(3)で表される。
ここで、ω=2πfであり、fは測定した周波数特性における周波数である。またjは虚数であり、j2=−1である。
数式(3)で、評価対象側の経路とアースとの間の浮遊容量C0が非常に小さく、1≫ωC0を満足すれば、インピーダンスZmは以下の数式(4)で近似できる。
インピーダンスZmの共振周波数frは、インピーダンスZmの虚部が0になる周波数であるから、図4の測定結果の共振周波数frは以下の数式(5)で近似できる。
また、共振周波数frでは数式(4)で虚部が0となるので、Zm≒Rsが成り立ち、接合抵抗Rsを求めることができる。すなわち1≫ωC0を満足する場合には、以下に述べる等価回路モデルを用いた方法によらないで、共振周波数frのインピーダンスZmを測定することにより、直接接合抵抗Rsを求めることができる。
以上に述べた例は評価対象側の経路とアースとの間の浮遊容量C0が非常に小さく、1≫ωC0を満足する場合であるが、実際には周波数が高い場合であったり、浮遊容量が大きい場合であったり、必ずしも1≫ωC0を満足できるとは言えない場合がある。このような場合でも正確に接合抵抗Rsを求めるために、本発明のはんだ接合部の評価方法では、図4のように測定したインピーダンスZmの周波数特性に、数式(3)で表した等価回路モデルのインピーダンスが一致するように、各回路定数を最小二乗法で当てはめていき、測定したインピーダンスZmの周波数特性と数式で表した等価回路モデルのインピーダンスが一致したときの各回路定数の値をもって、Cs、Ls、C0、Rsを決定している。図4においてプロットした各ポイントがはんだ接合評価装置1で測定したインピーダンスZmであり、実線が最小二乗法で当てはめて各回路定数を求めた等価回路モデルのインピーダンス計算値である。この方法により等価回路モデルの各回路定数は、共振周波数fr=220MHzのとき、Cs=12pF、Ls=43nH、C0=1pF、Rs=112mΩである結果が得られた。
ここで示した例は、測定した周波数の範囲に共振周波数frが含まれる場合であるが、必ずしも測定周波数範囲に共振周波数が含まれる必要はなく、その場合であっても上記に示したように測定したインピーダンスZmの周波数特性と、等価回路モデルを表す数式で計算したインピーダンスの周波数特性が一致するように、等価回路モデルの各回路定数を最小二乗法で当てはめて計算することで、接合抵抗Rsを求めることができる。しかし、測定周波数範囲に共振周波数が含まれると、共振周波数付近では測定したインピーダンスZmの周波数に対する変化が大きくなるため、最小二乗法による当てはめの精度を高くすることができる。接合抵抗Rsも周波数によって変化するが、インピーダンスZmの周波数による変化が大きい共振周波数frの付近で当てはめて、共振周波数frでの接合抵抗Rsを求めることにより精度良く各回路定数を決定することができる。また浮遊容量C0が小さい等、1≫ωC0を満足できるような場合には、共振周波数frで測定したインピーダンスZmは虚部が0になるので、共振周波数frのインピーダンスZmの振幅を接合抵抗Rsとしてもよい。
図6は本発明の太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置1により共振周波数を変えた場合の、良品と不良品の接合抵抗の測定結果を示す図である。測定は良品はんだ接合Aと不良品はんだ接合Bの2種類のはんだ接合サンプルを各20個作製して行った。Aの良品はんだ接合は、太陽電池モジュールのタブ線11とタブ線12を通常のはんだ接合により接合したものである。Bの不良品はんだ接合は、タブ線11とタブ線12をはんだ接合する際に、フラックス無しではんだ溶融時間を通常よりも短くして接合したものである。
また共振周波数を変えて測定するために、図2のコンデンサ20の静電容量を変化させた。なおコンデンサ20は固定容量のコンデンサを交換して静電容量を変化させてもよいが、可変コンデンサを使用して、可変コンデンサの静電容量を変化させもよい。またコンデンサ20の静電容量を変化させる代わりに、プローブ17Aから同軸ケーブル21の内部導体までの間に新たなインダクタンスを付加して共振周波数を変えることもできる。共振周波数frは、220MHz、172MHz、77MHz、17MHz、11MHz、9MHz、5MHzとした。図6の各共振周波数で測定した接合抵抗Rsの値は、それぞれの共振周波数での抵抗の値である。
図6の各測定結果において、エラーバーは±3σ(標準偏差×±3)である。図6より220MHzから11MHzまでは明確に良品はんだ接合Aと不良品はんだ接合Bの接合抵抗Rsに差があるが、5MHzでは良品はんだ接合Aと不良品はんだ接合Bの接合抵抗Rsの差は小さく、接合抵抗Rsの測定結果からはんだ接合状態の良否を評価することは困難であると言える。一方、9MHzでは良品はんだ接合Aと不良品はんだ接合Bの接合抵抗Rsの差は明確であり、はんだ接合状態の良否を評価することが十分可能であるが、不良品Bのエラーバーと良品Aの測定結果が重なっている部分があり、ごく稀にはんだ接合状態の良否評価を誤る可能性がある。すなわち9MHzが測定する周波数の下限値であると言える。従って、接合抵抗Rsを測定する周波数は、下限値の9MHzより余裕を持たせて10MHz以上とするのが良く、11MHz以上であればはんだ接合状態の良否をより高精度に評価できることは図6の測定結果から明らかである。
従って、図6で示した各周波数における良品はんだ接合の接合抵抗Rsの1.1倍や1.5倍あるいは2倍などの数値を基準値として予め設定し、評価する太陽電池モジュールの接合抵抗Rsを所定の周波数で測定して、測定した接合抵抗Rsの数値と、その周波数における基準値を比較し、測定した接合抵抗Rsの数値が基準値よりも大きい場合ははんだ接合状態が不良と判別し、測定した接合抵抗Rsの数値が基準値以下の場合にははんだ接合状態が良好と判別することで、太陽電池モジュールのはんだ接合状態の良否を評価することができる。
図6に示す測定結果で具体的に説明すると、測定した接合抵抗Rsの平均値は、測定周波数が9MHzの場合は良品はんだ接合Aが23.4mΩ、不良品はんだ接合Bが28.6mΩであり、不良品はんだ接合Bの接合抵抗Rsは良品はんだ接合Aの接合抵抗Rsの1.22倍であるから、測定周波数を9MHzにした場合は基準値を良品はんだ接合の接合抵抗Rsの1.1倍あるいは1.2倍に設定してもよい。また測定周波数が11MHzの場合は良品はんだ接合Aが25.5mΩ、不良品はんだ接合Bが44.8mΩであり、不良品はんだ接合Bの接合抵抗Rsは良品はんだ接合Aの接合抵抗Rsの1.76倍であるから、測定周波数を11MHzにした場合は基準値を良品はんだ接合の接合抵抗Rsの1.5倍に設定してもよい。さらに測定周波数が77MHzの場合は良品はんだ接合Aが68mΩ、不良品はんだ接合Bが209mΩであり、不良品はんだ接合Bの接合抵抗Rsは良品はんだ接合Aの接合抵抗Rsの3.07倍であるから、測定周波数を77MHzにした場合は基準値を良品はんだ接合の接合抵抗Rsの2倍あるいは3倍に設定してもよい。
図6の各周波数における良品はんだ接合Aの接合抵抗Rsの平均値に対する不良品はんだ接合Bの接合抵抗Rsの平均値の比率は、5MHzの場合1.06倍、9MHzの場合1.22倍、11MHzの場合1.76倍、17MHzの場合1.97倍、77MHzの場合3.07倍、172MHzの場合3.85倍、220MHzの場合3.89倍である。従って基準値を良品はんだ接合Aの接合抵抗Rsの平均値の1.1倍に設定しておけば、10MHz以上のどの周波数においても、はんだ接合状態の良否を評価することができる。良品はんだ接合の接合抵抗に対する不良品はんだ接合の接合抵抗の比率が大きいほど、はんだ接合状態の良否を高精度に評価することができるから、測定周波数が高いほどはんだ接合状態の良否を高精度に評価することができることが分かる。すなわち基準値を良品はんだ接合Aの接合抵抗Rsの平均値の1.5倍に設定しておけば、11MHz以上のどの周波数においても、はんだ接合状態の良否を高精度に評価することができる。
このように接合抵抗Rsを10MHz以上の高周波で測定することにより、はんだ接合状態の良否を評価できる理由は、周波数が高くなるほど電流が金属の表皮を流れる表皮効果によるものと考えられる。金属の導電率、透磁率をそれぞれσ、μ、高周波電流の周波数をfとすると、電流が表面電流の1/eになる深さである表皮深さδは、以下の数式(6)で表される。
はんだの場合、10MHz以上の周波数では表皮深さは50μm以下となる。接合状態が不良のはんだ接合では、10MHzの表皮深さ程度のクラックや隙間が多数存在するものと考えられる。すなわち太陽電池モジュールのタブ線とタブ線とのはんだ接合において、10MHz以上の周波数のはんだ接合部の電気抵抗を測定することで、はんだ接合部のはんだ接合状態の良否を明確に評価できることを本発明の発明者らは初めて見出し、太陽電池モジュールのはんだ接合部の10MHz以上の周波数の電気抵抗を測定するのに適した方法を本発明で示した。本発明で示した方法によりはんだ接合状態の良否を評価することで、電気的に接続はされているが断線には至っていない不良はんだ接合がある太陽電池モジュールを見つけて、撤去あるいは修理することができるので、太陽電池モジュールの信頼性を向上することができる。なお、当然のことながら本発明のはんだ接合評価装置及び評価方法により、はんだ接合が断線した太陽電池モジュールを見つけることができることは言うまでもない。
上述したように、接合抵抗Rsは、コネクタ16から評価対象側の経路の直列抵抗であり、はんだ接合部2、タブ線11、12、プローブ17A、17Bとプローブ17A、17Bから同軸ケーブル21までの配線の抵抗であるから、はんだ接合部2の電気抵抗以外にタブ線やプローブなどの電気抵抗を含む。本発明のはんだ接合評価装置1では触針部3により同軸ケーブル21の端部からはんだ接合部2までの距離を30mm以下としているので、タブ線やプローブの電気抵抗ははんだ接合部の電気抵抗に比べて十分に小さく、インピーダンスを測定する上で問題になることはない。しかし測定する周波数が高くなり、10GHzを超えるとプローブなど配線のインダクタンスLsによるωLsが大きくなり、さらに浮遊容量C0に流れる電流が増加するので、はんだ接合部2に到達する高周波信号が微弱になるため、はんだ接合部2の電気抵抗を正確に測定するのが困難になってくる。従って、測定周波数は10GHz以下が良く、10MHz〜10GHzの範囲の周波数で、はんだ接合部の電気抵抗を含む接合抵抗Rsを測定するのが良い。
図6の測定結果では、複数の共振周波数frにおける接合抵抗Rsを示したが、測定する共振周波数frを一定値にした方が、接合抵抗Rsの再現性を得る上では望ましい場合がある。このような場合は、コンデンサ20を可変コンデンサにして、コンデンサ20の静電容量を調整することで共振周波数frを一定値にすることができる。そのためには、インピーダンスZmの測定前に高周波発生部4から周波数frの高周波信号を供給し、波形解析部5で計算した後、入出力部7に出力された測定したインピーダンスZmの振幅をモニタしながら、インピーダンスZmの振幅が最小になるように可変コンデンサの静電容量を調整すればよい。
なお、数式(3)で1≫ωC0を満足する場合には、周波数を1点に固定して、インピーダンスZmの振幅が最小になるように可変コンデンサの静電容量を調整して得られたインピーダンスZmの測定結果が共振周波数frのインピーダンスZmとなり、Zm≒Rsが成り立つので、このようにして測定したインピーダンスZmを接合抵抗Rsとしてもよい。
本発明の実施の形態1では、以上のような構成としたことにより、太陽電池モジュールのタブ線とタブ線のはんだ接合状態の良否を評価できるという効果がある。特に断線に至らないはんだ接合不良を見つけることができるので、太陽電池モジュールの信頼性を向上させることができるという効果がある。
実施の形態2.
図7は、本発明の実施の形態2における太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置1の触針部3の構造を示す斜視図である。また図8は図7の触針部3に用いられるプローブ17Aの先端の構造を示す断面図である。図7、8において、実施の形態1の図2と同じ符号を付けたものは、同一または対応する構成を示しており、その説明を省略する。本発明の実施の形態1とは、プローブの先端に誘電体を設けて、プローブとタブ線との間にコンデンサを形成するようにした構成が相違している。
図7において、太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置1の触針部3は、実施の形態1の図2で示した触針部3とは異なり、プローブ17Aと同軸ケーブル21のコネクタ16との間にはコンデンサを配置していない。すなわちプローブ17Aは同軸ケーブル21の内部導体に配線のみによって電気接続されている。一方、プローブ17A、17Bの先端には誘電体が設けられ、タブ線11、12と接触したときに、プローブとタブ線の間にコンデンサを形成するようになっている。他の構成は実施の形態1に示した太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置と同じである。
図8において、プローブ17Aの先端には平面を有する銅、金、銀などの良導電性の金属で形成された平板部22が形成されており、平板部22の平面に、厚さ0.25mm、φ2mmで比誘電率70の高誘電体基板で形成された誘電体23が接着され、樹脂24で固定されている。すなわちプローブ17Aの先端には誘電体23が設けられている。なお、プローブ17Bも同様の構造となっている。
触針部3をはんだ接合部2に近づけて、プローブ17Aの先端が、タブ線11に接触すると、平板部22、誘電体23、タブ線11がコンデンサCAを形成する。プローブ17Aは実施の形態1の図2と同様に支持部材14を貫通して、同軸ケーブル21の内部導体に接続される。プローブ17Aは支持部材14に対して上下可動になっており、ばねの力でタブ線11に押し付けられる。プローブ17Bも同様の構造になっており、プローブ17Bの先端とタブ線12との間にコンデンサCBを形成する。
図9は本発明の実施の形態2の太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置1の触針部3とはんだ接合部2の等価回路モデルを示す回路図である。図5で示した実施の形態1の等価回路モデルのCsの代わりに、プローブ17A、17Bとタブ線11、12との間に形成されたコンデンサCA、CBが直列に入っている。実施の形態1と同様に、配線のインダクタンスをLs、コンデンサCA、CBの直列接続静電容量をCa、浮遊容量をC0、接合抵抗をRsとすると、図9の等価回路モデルのインピーダンスは以下の数式(7)で表される。
ここで、ω=2πfであり、fは測定した周波数特性における周波数である。またCaは以下の数式(8)で表される。
実施の形態1と同様に高周波発生部4から10MHz〜10GHzの高周波信号を掃引して、はんだ接合部2に供給し、波形解析部5が反射波を測定し、触針部3とはんだ接合部2のインピーダンスZmの周波数特性を測定する。測定したインピーダンスZmの周波数特性を共振周波数frの付近で、測定結果と数式(7)で表したインピーダンスの周波数特性が一致するように、図9の等価回路モデルの各回路定数を最小二乗法で当てはめて計算する。本実施の形態2のはんだ接合評価装置を用いた一例として、共振周波数fr=385MHzのとき、Ca=3.8pF、Ls=45nH、Rs=113mΩを得た。
実施の形態1に示した触針部3のプローブ17A、17Bを用いて測定した接合抵抗Rsには、はんだ接合部2の電気抵抗に加え、プローブ17A、17Bと、タブ線11、12との接触抵抗も含まれるため、これらの接触抵抗がプローブの接触状態によってばらつくと、接合抵抗Rsの測定結果がばらつくことになる。しかし、本実施の形態2で示すプローブ17A、17Bの場合、プローブ17A、17Bとタブ線11、12との接触状態によるばらつきは、プローブ先端とタブ線との間に形成されるコンデンサCA、CBの静電容量のばらつきになるので共振周波数frはばらつくが、プローブ17A、17Bの金属部分とタブ線11、12とは直接接触しないため接触抵抗が存在せず、接合抵抗Rsには、プローブの接触状態が影響しないといった利点がある。すなわちはんだ接合部2のはんだ接合状態をより高精度に評価できる。
本発明の実施の形態2では、以上のような構成としたことにより、接合抵抗Rsを高精度に測定することができ、太陽電池モジュールのタブ線とタブ線のはんだ接合状態の良否を高精度に評価できるという効果がある。
実施の形態3.
図10は本発明の実施の形態3における太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置の触針部とはんだ接合部の等価回路モデルを示す回路図である。実施の形態2の図9と同じ符号を付けたものは、同一または対応する構成を示しており、その説明を省略する。本発明の実施の形態2とは、プローブ17Aと同軸ケーブル21の内部導体との間に可変コンデンサCVをさらに設けた構成が相違している。
接合抵抗に含まれるはんだ接合部2の電気抵抗は周波数によって値が変化するので、測定する周波数を一定値に定めて行うのが、多数の太陽電池モジュールのはんだ接合部を評価する上では望ましい。しかし、実施の形態2のプローブは上述のように、プローブ先端とタブ線との接触状態がコンデンサCA、CBの静電容量の変化となって現れるので、共振周波数frがばらつく。そこで、本実施の形態3では、測定する周波数を一定値にするために、可変コンデンサCVをプローブ17Aと同軸ケーブル21の内部導体との間に設けて、可変コンデンサCVの静電容量を変化させて共振周波数frが一定値になるようにしている。
図10においてコンデンサCV、CA、CBの直列接続による合成した静電容量Cbは以下の数式(9)で表される。
数式(9)から分かるようにCVを変えることでCbを調整することができる。例えば、上述のCa=3.8pF、Ls=45nHのプローブを用いた場合、CV=1〜50pFとしておけば、共振周波数frを400〜844MHzの間に調整することができる。なお、共振周波数frの調整範囲を大きくするには、CV<CACB/(CA+CB)の条件を満足するようにCVを選択するとよい。
プローブ先端とタブ線との間に形成されるコンデンサCA、CBの静電容量が、プローブ先端とタブ線との接触状態により変化したときには、可変コンデンサCVの静電容量を調整することで共振周波数frを、接合抵抗Rsを測定する周波数に合わせることができる。例えば共振周波数frを760MHzに設定する場合、プローブ先端とタブ線との間に形成されるコンデンサCA、CBを直列接続した静電容量Caが3.8pFのときCV=1.3pFとすればよいが、Caが1pFに変化したときにはCV=40pFにすることで、共振周波数frを変化させないようにすることができる。
このように可変コンデンサCVを設けることにより、接合抵抗Rsを測定する周波数を1点に固定して測定することができ、はんだ接合部の接合状態を評価する際に、周波数の違いによるはんだ接合部の電気抵抗の変化を考慮せずに、精度の高いはんだ接合部の評価を行うことができるという効果がある。
実施の形態4.
図11は、本発明の実施の形態4における太陽電池モジュールのはんだ接合評価装置1の触針部3の構成を示す概略構成図である。図11において、図2及び図7と同じ符号を付けたものは、同一または対応する構成を示しており、その説明を省略する。本発明の実施の形態2及び3とは、プローブに直流電圧を印加して、この直流電圧により生じる静電力によりプローブとタブ線との接触を安定するようにした構成が相違している。
図11において、プローブ17A、17Bは実施の形態2に示したプローブと同一構造である。実施の形態2で述べたように、プローブ先端には誘電体が設けられており、プローブ先端がタブ線に接触したときに、プローブ先端とタブ線との間にコンデンサが形成されるようになっている。タブ線11と同軸ケーブル21の外部導体はアース25、26に接続されている。なお、アース25とアース26は同電位であるが以下の説明のために異なる番号を付けた。またプローブ17A、17BにはインダクタLD1、LD2を介して、高圧直流電源27からVH=1kVの直流電圧が印加されている。プローブ17Aは可変コンデンサCVとコンデンサCD1を介して同軸ケーブル21の内部導体に接続されており、プローブ17BはコンデンサCD2を介して同軸ケーブル21の外部導体、すなわちアース26に接続されている。
コンデンサCD1、CD2は直流電圧VHが同軸ケーブル21を通って高周波発生部4あるいは波形解析部5に印加されないようにするために設置される。すなわちコンデンサCD1、CD2は直流電圧をカットしながら、高周波信号を通すハイパスフィルタを構成している。ここではコンデンサCD1、CD2は耐圧3kV、静電容量200nFとしたが、コンデンサCD1、CD2はプローブ17A、17Bに印加する直流電圧VHの耐圧があり、可変コンデンサCVの静電容量より十分に大きい静電容量を有するコンデンサであればよい。
一方、インダクタLD1、LD2は高周波発生部4から供給された高周波信号が高圧直流電源27に流れ込まないように設置したローパスフィルタであり、ここではインダクタLD1とLD2のインダクタンスを共に1μHとした。
なお、アース25とアース26は同電位であるが、アース25とアース26の間には浮遊インダクタンスLaが存在するため、同軸ケーブル21の内部導体からプローブ17に入力された高周波信号が、プローブ17Bを通らずにアース25からアース26を通って同軸ケーブル21の外部導体に流れるといったことは起こらない。
タブ線11、はんだ13、タブ線12は直流では小さい電気抵抗で接続されているので、これらの直流電位はアースと同電位となる。一方、プローブ17Aと17Bには高圧直流電源27から直流電圧VHが印加されるので、プローブ17A、17Bの直流電位はVHとなる。直流電圧VHはアースとの電位差であるから、プローブ17A、17Bの先端とタブ線11、12との間の電位差はVHとなり、この電位差VHはプローブ17A、17Bの先端の誘電体に印加される。その結果、プローブ17A、17Bとタブ線11、12には分極により正負の電荷が生じ、プローブ17A、17Bとタブ線11、12とを吸引する静電力が生じ、プローブ17A、17Bとタブ線11、12との接触が安定する。直流電圧VH=1kVとしたときの静電力による吸引力は約200gfであった。
以上のように本発明の実施の形態4によれば、プローブ先端とタブ線との間に静電力による吸引力を生じさせることができるので、プローブ先端とタブ線との間の面接触が安定し、振動等により接触状態が変化せず、コンデンサCA、CBの値を安定させることができる。この結果、複数箇所のはんだ接合部の評価を行う場合であっても、プローブ先端とタブ線との間の面接触を常に同じような状態とすることができるため、それぞれの測定毎のコンデンサCA、CBの値を安定させることができ、共振周波数frの値のばらつきが小さくなる。その結果、共振周波数frの調整を行わなくても、常にほぼ一致した共振周波数frで接合抵抗Rsを測定することができるので、はんだ接合部の評価を高精度に行うことができるという効果がある。また、共振周波数frを高精度に調整する場合には、共振周波数frの調整に要する時間を短縮できるので、短時間にインピーダンスを測定して、はんだ接合部の評価を短時間に行うことができるという効果がある。