本発明を実施したフィルム製造設備10は、光学フィルム11を製造するためのものであり、光学フィルム11は例えば位相差フィルムとしてディスプレイに用いることができる。面内レタデーションReが30nm以上80nm以下の範囲内であり、厚み方向レタデーションRthが80nm以上300nm以下の範囲内である光学フィルム11を製造する場合に、点状の傷を抑制する効果が特に大きい。Re(単位;nm)とRth(単位;nm)とは、本実施形態では以下の方法で求めている。光学フィルム11からサンプリングしたサンプルフィルムを温度25℃、相対湿度60%RHで2時間調湿した後、自動複屈折率計(KOBRA21DH、王子計測機器(株)製)にて、589.3nmにおけるフィルム面の垂直方向から測定した屈折率と、フィルム面を傾けながら測定した屈折率とから下記式により算出する。なお、下記式において、nZ2は長尺の光学フィルム11の幅方向に対応するサンプルフィルムにおける方向の屈折率、nZ1は光学フィルム11の長手方向に対応するサンプルフィルムにおける方向の屈折率、nTHは光学フィルム11の厚み方向の屈折率、dは光学フィルム11の厚み(単位;nm)である。
Re=(nZ2−nZ1)×d
Rth={(nZ2+nZ1)/2−nTH}×d
フィルム製造設備10は、溶液製膜装置14と、第1延伸装置15と、第2延伸装置16と、巻取装置17とを備える。溶液製膜装置14は、ポリマーフィルム20を形成するためのものである。溶液製膜装置14は、熱可塑性ポリマーが溶剤に溶けているポリマー溶液としてのドープを走行する支持体上に流延して流延膜を形成し、流延膜を支持体から剥ぎ取って乾燥することでポリマーフィルム20を形成する。
熱可塑性ポリマーとしては、本実施形態では環状ポリオレフィンを用いている。ただし、熱可塑性ポリマーは、環状ポリオレフィンに代えて、セルロースアシレートでもよい。セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのうち、ポリマーフィルム20を形成した際に、柔らかいものほど、後述の傷を抑制する効果は大きい。傷の抑制の観点からは、具体的には上記熱可塑性ポリマーのうち、環状ポリオレフィン、セルローストリアセテート、セルロースジアセテートを用いた場合に効果が大きく、環状ポリオレフィンを用いた場合に効果が特に大きい。
第1延伸装置15は、長尺に形成されたポリマーフィルム20を長手方向に延伸するためのものである。第1延伸装置15は、ポリマーフィルム20の搬送方向の上流側から順に配された、予熱機構21と、延伸ユニット22と、冷却機構23などから構成されている。延伸ユニット22は、ポリマーフィルム20を搬送しながら長手方向に延伸するためのものであり、延伸ユニット22ではポリマーフィルム20が加熱されて延伸される。なお、この第1延伸装置15では、乾燥したポリマーフィルム20を延伸する場合もあるし、溶剤を含んだ状態のポリマーフィルム20を延伸する場合もある。延伸ユニット22の詳細は別の図面を用いて後述する。
予熱機構21は、ポリマーフィルム20が下流の延伸ユニット22での加熱により急激に昇温することを防止し、また延伸ユニット22で均一に延伸されるように、予熱して昇温させるためのものである。予熱機構21はテンション調節部(図示無し)及び予熱炉(図示無し)を備えている。テンション調節部は、本実施形態ではテンションローラ、1対のフリーローラ、及びシフト機構を有するがこの構成に限られない。1対のフリーローラは、周面に接触するポリマーフィルム20の搬送に伴って従動回転し、ポリマーフィルム20の搬送方向で離間して設けられる。テンションローラは1対のフリーローラの間に設けられている。シフト機構はテンションローラを昇降させて、予熱機構21内のポリマーフィルム20の長手方向におけるテンションを一定に維持する。予熱炉は、ポリマーフィルム20の温度が予熱機構21の下流端である出口において(Te−30)℃以上(Te−10)℃以下の範囲内になるように、ポリマーフィルム20を予熱する。なお、Te(単位;℃)は後述の温度保持ゾーン72(図2参照)において保持されるポリマーフィルム20の温度であり、以下、延伸温度と称する。ポリマーフィルム20のガラス転移温度をTg(単位;℃)としたときに、延伸温度Teは(Tg−10)℃以上(Tg+40)℃以下の範囲内の温度である。本実施形態においては、Tgは150℃であり、Teは145℃としている。
ポリマーフィルム20は、後述のように第1ローラ31で加熱されるが、予熱炉は、ポリマーフィルム20を(Te−30)℃以上に予熱するから、第1ローラ31による温度上昇量が大きくなり過ぎることがなく、第1ローラ31上における波状のしわの発生が抑えられる。また、予熱炉で、ポリマーフィルム20の温度は(Te−10)℃以下に抑えることにより、予熱炉内でポリマーフィルム20が延伸されることがなく、延伸ユニット22で均一に延伸される。
Tgは、以下の動的粘弾性測定装置を用いて求めることができる。本実施形態では、動的粘弾性装置として、アイティー計測制御(株)製のバイブロン:DVA−225を用いている。予熱機構21に供するポリマーフィルム20から切り出した試料5mm×30mmを、動的粘弾性測定装置により、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜250℃、周波数1Hzとし、損失弾性率と貯蔵弾性率の比である損失正接(tanδ)のピーク温度をガラス転移温度Tgとして求める。試料は、25℃、相対湿度60%で2時間以上予め調湿してからTgの測定に供することが好ましい。溶剤が含まれるフィルムを延伸する場合のTgは、以下の通りとする。溶剤を含むフィルムで上記の動的粘弾性測定を行い、Tgを求める。動的粘弾性測定の測定開始と測定終了時の溶剤含有量の平均をそのフィルムの溶剤含有量とする。測定開始と測定終了時との溶剤含有量は、測定操作と同じ温度履歴を与えた別のフィルムの重量変化から算出する。溶剤含有量の異なるフィルムを複数測定して、横軸が溶剤含有量、縦軸がTgのグラフを得る。延伸工程の溶剤含有量は、延伸操作を行う未延伸の状態で、延伸ゾーンの入口で測定したフィルムの厚みと、加熱炉から出てきたフィルムを乾燥させたものの厚みから溶剤含有量を算出する。算出された溶剤含有量におけるTgを前述のグラフから読み取り、これを、延伸温度を決めるためのTgとする。
冷却機構23は、長手方向に延伸されたポリマーフィルム20を、次工程の処理、すなわちこの例では第2延伸装置16での搬送が可能な温度にまで冷却する。冷却機構23は、この例では、ポリマーフィルム20の搬送路を囲むチャンバと、このチャンバに温度調節された乾燥空気を送りこむ送風機とを備えるものであるが、これに限られない。
第2延伸装置16は、ポリマーフィルム20を幅方向に延伸して光学フィルム11を得るためのものである。第2延伸装置16は、この例では周知のクリップテンタとしており、クリップ(図示無し)によりポリマーフィルム20の両側縁部が把持され、ポリマーフィルム20を搬送しながらクリップがポリマーフィルム20の幅方向に移動して、ポリマーフィルム20を横延伸する。巻取装置17は、光学フィルム11を巻き芯に巻き取って、ロール状にする。
製造する光学フィルム11の光学特性や熱可塑性ポリマーの種類等によっては、この第2延伸装置16を設けない場合がある。この場合には、第1延伸装置15の下流側は巻取装置17に接続される。
溶液製膜装置14に代えて溶融押出装置を用いてもよい。すなわち、本実施形態では、ポリマーフィルム20を溶液製膜方法に代えて、溶融押出方法により、熱可塑性ポリマーから形成してもよい。また、第1延伸装置15を、溶液製膜装置14や溶融押出装置といったフィルムを形成するいわゆる製膜装置に代えて、送出装置に接続してもよい。送出装置は、製膜装置で長尺に製造されてロール状に巻かれたポリマーフィルムのフィルムロールからポリマーフィルムを送出するものである。
図2に示すように、延伸ユニット22は、加熱炉26と、ポリマーフィルム20の搬送方向における加熱炉26の上流に配された上流側ローラ部27と、下流に配された下流側ローラ部28と、加熱炉26と上流側ローラ部27と下流側ローラ部28とを統括的に制御するコントローラ29などから構成されている。上流側ローラ部27は、第1ローラ31と、ゴムローラ32と、案内ローラ33と、第1除電器34(図3参照)と、第2除電器35と、第3除電器36と、クリーンルーム37とを有する。
第1ローラ31は、後述の第2ローラ51と協働して、ポリマーフィルム20を長手方向に張力を付与しながら搬送するためのものである。第1ローラ31はモータ41によって回転駆動され、案内ローラ33により予熱機構21から案内されてくるポリマーフィルム20が周面に巻き掛けられる。モータ41のドライバ41aはコントローラ29に接続されており、コントローラ29はドライバ41aを介してモータ41を制御することで、第1ローラ31の周速度を制御する。第1ローラ31の周速度は例えば10m/min以上80m/min以下の範囲内で設定されることが好ましく、本実施形態では例えば30m/minとしている。第1ローラ31の周速度を10m/min以上とすることにより一定の製造効率が確保される。また、80m/min以下とすることにより、ポリマーフィルム20の第1ローラ31上での滑りが抑制されてより確実に搬送と延伸とが為される。
第1ローラ31及び後述の第2ローラ51には図示しない温調媒体循環部から個別に温調媒体、例えばオイルや加圧蒸気が供給されることが好ましく、本実施形態でもそのようにしてある。この温調媒体の循環供給によって、第1ローラ31及び第2ローラ51の周面は所望の温度に設定される。第1ローラ31の周面温度は(Te−30)℃以上(Te−10)℃以下の範囲内とされることが好ましく、第2ローラ51の周面温度は例えば(Te−30)℃以上(Te−10)℃以下の範囲内とされる。これら第1ローラ31と第2ローラ51とに接触することにより、ポリマーフィルム20は第1ローラ31と第2ローラ51との各周面温度と同じ温度に加熱、または冷却される。なお、第1ローラ31と第2ローラ51との周面は、ポリマーフィルム20の温度制御の観点から金属製とされている。
ゴムローラ32は、周面がゴム製とされている。ゴムローラ32は、第1ローラ31と回転軸が互いに平行な姿勢となるように第1ローラ31に対向して、回転自在に設けられ、第1ローラ31との間にポリマーフィルム20を挟持する。ゴムローラ32は、第1ローラ31に対して巻き掛けられるポリマーフィルム20の巻き掛け領域WA(図3参照)のうち、第1ローラ31の回転方向における下流端を挟持するよう配される。なお、第1ローラ31とゴムローラ32とによりポリマーフィルム20が挟持される位置を、以下、第1挟持位置と称し、符号NP1を付す。第1挟持位置NP1を巻き掛け領域WAの下流端よりも上流にした場合には、下流の巻き掛け領域WAのうち第1挟持位置NP1よりも下流の領域においてポリマーフィルム20は長手方向での延伸による伸びによって搬送速度と第1ローラ31の周速度との間に差が生じる。この速度差によって第1ローラ31とポリマーフィルム20との間で摩擦が生じて、ポリマーフィルム20の第1ローラ31と接触するフィルム面(以下、第1フィルム面と称する)20aに、長手方向に延びた傷が発生してしまうことがある。しかし、本実施形態のように第1挟持位置NP1をポリマーフィルム20の巻き掛け領域WAの下流端にすることで、第1挟持位置NP1よりも下流ではポリマーフィルム20が第1ローラ31と非接触になるから、長手方向に延びた傷が発生しない。
ゴムローラ32にポリマーフィルム20を巻き掛けた場合には、第1挟持位置NP1の下流のポリマーフィルム20とゴムローラ32との間で大きな摩擦が生じ、この摩擦によってポリマーフィルム20のゴムローラ32と接触するフィルム面(以下、第2フィルム面と称する)20bに、長手方向に延びた傷が発生しやすい。そこで、ゴムローラ32にはポリマーフィルム20は巻き掛けない。これにより、ポリマーフィルム20とゴムローラ32との摩擦が抑制されるから、第2フィルム面20bにおける長手方向に延びた傷の発生が抑制される。また、ゴムローラ32にポリマーフィルム20を巻き掛けないから、第1ローラ31から加熱炉26へ向かうポリマーフィルム20の搬送路は第1ローラ31の周面の接線方向にされる。
ゴムローラ32には、本実施形態のように圧力調整器42が設けられていることが好ましい。圧力調整器42は、第1ローラ31とゴムローラ32とによりポリマーフィルム20を挟持する際の、ポリマーフィルム20に対する圧力(以下、挟持圧力と称する)を調整するものである。コントローラ29はこの圧力調整器42を介して挟持圧力を制御することにより、ポリマーフィルム20を過度に押しつぶすことなく第1ローラ31上におけるポリマーフィルム20の滑りをより確実に抑え、これにより長手方向に延びた傷がポリマーフィルム20に発生することが抑制されたり、第1ローラ31と第2ローラ51とによる長手方向での延伸倍率がより確実に一定に維持される。
挟持圧力は、0.4N/mm以上1.6N/mm以下の範囲内であることが好ましく、本実施形態では例えば0.8N/mmとしている。長手方向での延伸を意図しないいわゆる通常の搬送系でポリマーフィルムをローラ対によって挟持する場合の挟持圧力よりも非常に大きい。挟持圧力を0.4N/mm以上とすることにより、第1ローラ31上におけるポリマーフィルム20の滑りがより確実に抑えられる。また、1.6N/mm以下とすることにより、ポリマーフィルム20が過度に押しつぶされることもない。この挟持圧力の単位である「N/mm」は、ポリマーフィルム20の幅1mmあたりに付与される力である。挟持圧力は、0.6N/mm以上1.2N/mm以下の範囲内であることがより好ましい。
ゴムローラ32は周面がゴム製とされているから、長手方向での延伸が、幅方向でより均一に為される。長手方向での延伸が、幅方向でより均一になる観点では、周面を構成するゴムは、ゴム硬度が60以上80以下の範囲内であるものが好ましく、65以上75以下の範囲内であるものがより好ましい。ゴム硬度が60以上80以下の範囲内のゴムとしては、例えば、フッ素ゴム、シリコーン、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム等が挙げられる。フッ素ゴムの例としては、バイトン(登録商標)(デュポンエラストマー(株)製、ゴム硬度は70)があり、本実施形態においてもこれを用いている。ゴム硬度は、日本工業規格JIS K6253(タイプA)に準じて求められる。
ゴムローラ32の周面は、後述のように第1除電器34(図3参照)により除電されるが、除電効果をより向上するために、表面抵抗率が107Ω以下とされることがより好ましい。表面抵抗率を107Ω以下とするためには、例えば、導電性のゴムでゴムローラの周面を形成するとよい。ゴム硬度が60以上80以下の範囲内である導電性のゴムとしては、例えば、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム等がある。フッ素ゴムとしては、たとえば導電性バイトン(登録商標)(ゴム硬度は70)がある。表面抵抗率が107Ω以下であることにより107Ωよりも大きい場合と比べて、ポリマーフィルム20の帯電量をより確実に小さく抑えることができる。なお、本実施形態のゴムローラ32の周面の表面抵抗率は106Ωである。
第1除電器34(図3参照)、第2除電器35、第3除電器36は、加熱炉26に向かうポリマーフィルム20の帯電量を−0.1kV以上+0.1kV以下の範囲内にするためのものである。第1除電器34(図3参照)は、ゴムで形成されているゴムローラ32の周面を除電するためのものであり、第2除電器35と第3除電器36とはポリマーフィルム20を除電するためのものである。第2除電器35は第1挟持位置NP1から加熱炉26へ向かうポリマーフィルム20を除電し、第3除電器36は、第1ローラ31に巻き掛けられていて第1挟持位置NP1へ向かうポリマーフィルム20を除電するためのものである。これらの除電により、ポリマーフィルム20は帯電量を−0.1kV以上+0.1kV以下の範囲内にされて(帯電量抑制工程)加熱炉26へ供給される。
ゴムローラ32にはポリマーフィルム20を巻き掛けていないものの、ポリマーフィルム20には第2ローラ51により長手方向に張力が付与されていることから、ポリマーフィルム20と第1ローラ31及びゴムローラ32とにはわずかではあるが摩擦が生じる。この摩擦によりポリマーフィルム20は、第1除電器34〜第3除電器36による除電処理を行わない場合には、プラス(+)に帯電する。例えば、ポリマーフィルム20の帯電量は、第1挟持位置NP1から搬送方向上流側0.05mの位置において0.3kVに、搬送方向下流側0.05mの位置において22kVとなり、また、ゴムローラ32も8kVの帯電量に帯電してしまうことが確認されている。第1ローラ31の周面は前述の通り金属製とされているが、第1挟持位置NP1が第1ローラ31に対する巻き掛け領域WAの下流端となっているため、帯電した第1ローラ31とポリマーフィルム20との間で電子の授受の機会はない。このため、第1挟持位置NP1近傍に存在する異物が第1挟持位置NP1の近傍でポリマーフィルム20に付着する。このように異物が付着した状態でポリマーフィルム20が第1ローラ31とゴムローラ32とに挟持されたり、下流の加熱炉26に供されて加熱により軟化すると、異物がポリマーフィルム20を凹ませて、光学フィルムにおける点状の傷になる。本実施形態のように長手方向での延伸処理を行う場合には、予熱機構21や第1ローラ31などによる加熱により、通常の搬送系におけるよりもポリマーフィルム20の温度は高くされていることからより柔らかくなっており、付着した異物はポリマーフィルム20内により入り込みやすくなっている。また、長手方向での延伸処理を行う場合には、ゴムローラ32とポリマーフィルム20との摩擦力も、通常の搬送系で挟持した場合に比べて、長手方向での張力の付与により非常に大きくなるので帯電量が例えば20kV以上に大きくなってしまう。
そこで、除電によりポリマーフィルム20の帯電量を−0.1kV以上+0.1kV以下の範囲内とする。この帯電量は、通常の搬送系における帯電防止レベルよりもはるかに小さく、これにより、第1挟持位置NP1近傍に存在する異物がポリマーフィルム20に付着することが抑制され、また、非常に小さい異物でも付着しにくくなる。その結果、光学フィルム11における点状の傷の発生が抑制される。除電により、ポリマーフィルム20の帯電量は−0.05kV以上+0.05kV以下の範囲内の範囲内にすることがより好ましい。本実施形態では第1除電器34〜第3除電器36での除電により、ポリマーフィルム20の帯電量を、第1挟持位置NP1から搬送方向上流側0.05mの位置において例えば0.1kVに、搬送方向下流側0.05mの位置において例えば−0.03kVに抑えており、また、ゴムローラ32を0.1kVの帯電量に抑えている。
帯電量を検知するセンサ43は、第1ローラ31及びゴムローラ32と、加熱炉26との間に備えられていればよいが、この例では加熱炉26のフィルム入口に備えることで、加熱炉26に案内される際のポリマーフィルム20の帯電量をより正確に検知するようにしている。また、センサ43は、第1フィルム面20a側と第2フィルム面20b側との両方に配してもよいが、配置スペース上などの理由からいずれか一方のフィルム面側にしか配せない場合には第2フィルム面20b側に配することが好ましく、第2フィルム面20bの帯電量のみの検知で足りる。第1除電器34(図3参照)、第2除電器35、第3除電器36による除電の詳細については別の図面を用いて後述する。
クリーンルーム37は、第1挟持位置NP1及びその周辺のポリマーフィルム20の搬送路を清浄な状態に保持するためのものである。クリーンルーム37は、第1ローラ31と、ゴムローラ32と、案内ローラ33と、第1除電器34(図3参照)と、第2除電器35と、第3除電器36とを収容しており、清浄器44によって内部の気体が清浄化される。本実施形態の清浄器44はエアフィルタとされる準HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタを備える。清浄器44はコントローラ29に接続されており、コントローラ29は清浄器44を介してクリーンルーム37内の清浄度を制御する。
クリーンルーム37の内部の清浄度は、クラス1000以下にされており、この清浄度は、米国連邦規格FED−STD(Federal Standard) 209Eによる。この清浄度にすることにより、光学フィルム11における点状の傷の発生がより確実に抑えられる。クリーンルーム37の内部は、1μm以上の粒径の塵埃が無いことがより好ましい。なお、クラス1000以下の清浄度とは、清浄度がクラス1000であることまたはクラス1000よりも清浄であることを意味する。
下流側ローラ部28は、第2ローラ51と、ゴムローラ52と、案内ローラ53と、第1除電器(図示無し)と、第5除電器55と、第6除電器56と、クリーンルーム57とを有する。第2ローラ51は第1ローラ31と同様に構成されており、モータ61により回転駆動され、加熱炉26から案内されてくるポリマーフィルム20が周面に巻き掛けられる。モータ61のドライバ61aはコントローラ29に接続されており、コントローラ29はドライバ41aを介してモータ41を制御することで、第2ローラ51の周速度を第1ローラ31よりも大きい周速度に制御する。これにより、第1ローラ31と第2ローラ51との間のポリマーフィルム20には長手方向に張力が付与される。
第1ローラ31と第2ローラ51の周速度差は長手方向での延伸倍率によって設定される。長手方向での延伸倍率は、本実施形態では例えば1.5としているが、これに限られず、たとえば1.0以上2.0以下の範囲内である。
第1ローラ31と第2ローラ51との間は、無接触搬送区間とされる。無接触搬送とは、ポリマーフィルム20に接触してこれを支持するガイド部材が設けられておらず、このようなガイド部材による接触支持が無い搬送である。このように第1ローラ31と第2ローラ51との間の搬送を無接触搬送とすることで、上流側ローラ部27により除電されたポリマーフィルム20がガイド部材との接触による摩擦で帯電してしまうことがない。その結果、ポリマーフィルム20の帯電に起因する異物の付着が抑制されて、長手方向に延びた傷や点状の傷の発生がより確実に抑制される。案内ローラ53は、第2ローラ51から冷却機構23(図1参照)へポリマーフィルム20を案内する。
ゴムローラ52は、ゴムローラ32と同様に構成されており、第2ローラ51と回転軸が互いに平行な姿勢となるように第2ローラ51に対向して回転自在に設けられ、第2ローラ51との間にポリマーフィルム20を挟持する。ゴムローラ52は、第2ローラ51に対して巻き掛けられるポリマーフィルム20の巻き掛け領域のうち、第2ローラ51の回転方向における上流端を挟持するよう配される。なお、第2ローラ51とゴムローラ52とによりポリマーフィルム20が挟持される位置を、以下、第2挟持位置と称し、符号NP2を付す。第2挟持位置NP2を巻き掛け領域の上流端よりも下流にした場合には、巻き掛け領域のうち第2挟持位置NP2よりも上流の領域においてポリマーフィルム20は長手方向での延伸による伸びによって搬送速度と第2ローラ51の周速度との間に差が生じる。この速度差によって第2ローラ51とポリマーフィルム20との間で摩擦が生じて、ポリマーフィルム20の第1フィルム面20aに、長手方向に延びた傷が発生してしまうことがある。しかし、本実施形態のように第2挟持位置NP2をポリマーフィルム20の巻き掛け領域の上流端にすることで、第2挟持位置NP2よりも上流ではポリマーフィルム20が第2ローラ51と非接触になるから、長手方向に延びた傷が発生しない。
ゴムローラ52にはポリマーフィルム20を巻き掛けない。これにより、ポリマーフィルム20をゴムローラ52に巻き掛けた場合と比べてゴムローラ52との摩擦が抑制されるから、第2フィルム面20bにおける長手方向に延びた傷の発生が抑制される。また、ゴムローラ52にポリマーフィルム20を巻き掛けないから、加熱炉26から第2ローラ51へ向かうポリマーフィルム20の搬送路は第2ローラ51の周面の接線方向にされる。
ゴムローラ52には、第2ローラ51とゴムローラ52とによりポリマーフィルム20を挟持する際の、挟持圧力を調整する圧力調整器62が設けられていることが好ましい。コントローラ29はこの圧力調整器62を介して挟持圧力を制御することにより、ポリマーフィルム20を過度に押しつぶすことなく第2ローラ51上におけるポリマーフィルム20の滑りをより確実に抑える。その結果、長手方向に延びた傷の発生がより確実に抑制され、また、第1ローラ31と第2ローラ51とによる長手方向での延伸倍率がより確実に一定に維持される。
第2ローラ51とゴムローラ52とによる挟持圧力は、第1ローラ31とゴムローラ32との挟持圧力とできるだけ同程度にすることが好ましく、本実施形態では同じにしている。
前述の第4除電器、第5除電器55、第6除電器56は、加熱炉26から案内されてくるポリマーフィルム20の帯電量を−0.1kV以上+0.1kV以下の範囲内にするためのものである。第4除電器は、ゴムローラ52の周面を除電するためのものであり、第5除電器55と第6除電器56とはポリマーフィルム20を除電するためのものである。第5除電器55は加熱炉26から第2挟持位置NP2へ向かうポリマーフィルム20を除電し、第6除電器56は、第2挟持位置NP2の下流で第2ローラ51に巻き掛けられているポリマーフィルム20を除電するためのものである。これらの除電により、ポリマーフィルム20は帯電量を−0.1kV以上+0.1kV以下の範囲内にされる。
第4除電器、第5除電器55、第6除電器56は必ずしも設けなくてもよいが、本実施形態のようにこれらを設けて除電処理を行う方が、異物の付着がより抑えられて点状の傷の発生がさらに抑制されることから好ましい。なお、第1除電器34〜第3除電器36、第4除電器、第5除電器55、第6除電器56による除電を行わなかった場合には、ポリマーフィルム20の帯電量は、第2挟持位置NP2から搬送方向上流側0.05mの位置において例えば15kV、搬送方向下流側0.05mの位置において例えば22kVであり、点状の傷が発生することが確認されている。これに対して、本実施形態では第1除電器34〜第3除電器36に加えて第4除電器、第5除電器55、第6除電器56により除電を行っており、これによりポリマーフィルム20の帯電量は、第2挟持位置NP2から搬送方向上流側0.05mの位置において例えば−0.03kV、搬送方向下流側0.05mの位置において例えば0.05kVに抑えており、点状の傷が抑制されることが確認されている。除電により、ポリマーフィルム20の帯電量は−0.05kV以上+0.05kV以下の範囲内にすることがより好ましい。
帯電量を検知するセンサ63は、加熱炉26と、第2ローラ51及びゴムローラ52との間に備えられていればよいが、この例ではクリーンルーム57のフィルム入口に備えることで、第2ローラ51及びゴムローラ52に案内される際のポリマーフィルム20の帯電量をより正確に検知するようにしている。また、センサ63は、第1フィルム面20a側と第2フィルム面20b側との両方に配してもよいが、配置スペース上などの理由からいずれか一方のフィルム面側にしか配せない場合には第2フィルム面20b側に配することが好ましく、第2フィルム面20bの帯電量のみの検知で足りる。
クリーンルーム57は、第2挟持位置NP2及びその周辺のポリマーフィルム20の搬送路を清浄な状態に保持するためのものである。クリーンルーム57は、クリーンルーム37と同様に構成されており、第2ローラ51と、ゴムローラ52と、案内ローラ53と、第1除電器と、第5除電器55と、第6除電器56とを収容しており、清浄器64によって内部の気体が清浄化される。コントローラ29は清浄器64を介してクリーンルーム57内の清浄度を制御する。クリーンルーム57内は、クリーンルーム37と同様に、米国連邦規格FED−STD 209Eでのクラス1000以下の清浄度にすることが好ましく、1μm以上の粒径の塵埃が無いことがより好ましく、本実施形態でもそのようにしてある。このように、上流側ローラ部27と下流側ローラ部28とは、加熱炉26と独立して清浄度が制御されているから、ポリマーフィルム20に対する異物の付着がより確実に抑制され、長手方向に延びた傷や点状の傷がより抑えられた光学フィルム11が得られる。
加熱炉26は、ポリマーフィルム20を長手方向において延伸可能な温度に調整するためのものである。加熱炉26は、上流側ローラ部27と下流側ローラ部28との間に、ポリマーフィルム20の搬送路を覆うように設けられている。加熱炉26は、内部に仕切り板26a,26bを有し、これら仕切り板26a,26bにより内部が昇温ゾーン71と温度保持ゾーン72と降温ゾーン73との3つに区画されている。仕切り板26a,26bの各々にはポリマーフィルム20が通過する開口が形成されている。
温度保持ゾーン72は、長手方向での延伸が確実に為される一定の値にポリマーフィルム20の温度が保持されるように、ポリマーフィルム20を加熱するためのものであり、加熱炉26の中で最も高温に内部温度が設定される。保持する温度の一定さは、厳格に一定でなくてよく、保持する範囲が±2℃以内、すなわち、(目的とする保持温度−2℃)以上(目的とする保持温度+2℃)以下の範囲内であれば一定とみなしてよい。昇温ゾーン71は、温度保持ゾーン72での設定温度に向けてポリマーフィルム20を昇温させるように加熱するためのものである。降温ゾーン73は、温度保持ゾーン72での設定温度から下流側ローラ部28の第2ローラ51での設定温度に向けてポリマーフィルム20を降温させるように冷却するためのものである。
昇温ゾーン71には温調ノズル76が、温度保持ゾーン72には温調ノズル77が、降温ゾーン73には温調ノズル78がそれぞれ複数配置されている。温調ノズル76は、昇温ゾーン71内でポリマーフィルム20の搬送路を挟むように、第1フィルム面20a側と第2フィルム面20b側のそれぞれに配置されている。温調ノズル76には配管81を介して温度調節器86、送風機91が接続されている。送風機91からの風は温度調節器86で温度が一定範囲に調節された後に、温調ノズル76からポリマーフィルム20に向かって吹き出す。これらの温調ノズル76、温度調節器86、送風機91によって、昇温機構が構成され、ポリマーフィルム20はこの昇温ゾーン71を通過することにより昇温する。
温調ノズル76は、ポリマーフィルム20の第1フィルム面20aと第2フィルム面20bとのそれぞれ全面に均一に風を送れるものであればよい。例えば本実施形態では、ポリマーフィルム20の幅方向に延びたスリット状の吹き出し口を先端に有し、これら吹き出し口はポリマーフィルム20の搬送方向に離間して複数設けられている。これら複数の温調ノズル76は、ポリマーフィルム20の搬送方向に一定ピッチで配置されている。温調ノズル76から温度調節された風がポリマーフィルム20に向けて吹き付けられることにより、ポリマーフィルム20は昇温ゾーン71内で所定の昇温速度で昇温され、昇温ゾーン71の出口では、温度保持ゾーン72で保持するポリマーフィルム20の温度としての延伸温度Teにされる。昇温速度は、ポリマーフィルム20の搬送速度に応じて調整される。昇温速度の調整は、温調ノズル76に供給する風の温度と風量を変化させることにより行われる。
温度保持ゾーン72も、昇温ゾーン71と同様に、温調ノズル77、配管82、温度調節器87、送風機92を有する。温度保持ゾーン72をポリマーフィルム20が通過する間、温調ノズル77からの風の吹き出しにより、ポリマーフィルム20の温度は一定の延伸温度Teに保持される。延伸温度Teは前述の通り(Tg−10)℃以上(Tg+40)℃以下の範囲内である。温度の保持は、温調ノズル77に供給する風の温度と風量を変化させることにより行われる。
降温ゾーン73も、昇温ゾーン71と同様に、温調ノズル78、配管83、温度調節器88、送風機93を有する。降温ゾーン73をポリマーフィルム20が通過することにより、温調ノズル78からの風の吹き出しにより、ポリマーフィルム20は降温ゾーン73内で所定の冷却速度で冷却される。冷却速度は、ポリマーフィルム20の搬送速度に応じて調整され、温調ノズル78に供給する風の温度と風量を変化させることにより行われる。
なお、昇温ゾーン71と温度保持ゾーン72と降温ゾーン73との各々では温調ノズル76〜78からの風の吹き出しによって、ポリマーフィルム20の温度を調整しているが、昇温ゾーン71と温度保持ゾーン72と降温ゾーン73との各内部に温調された風を単に送りこむことで、ポリマーフィルム20を加熱してもよい。
以上の加熱炉26を通過することでポリマーフィルム20は加熱される。この加熱の間のポリマーフィルム20は、第1ローラ31と第2ローラ51とにより長手方向において張力が付与されているから、この張力の付与と加熱炉26による加熱とによりポリマーフィルム20は長手方向に延伸される(延伸工程)。
昇温ゾーン71のポリマーフィルム20の搬送路長さL1は、第1挟持位置NP1に案内するポリマーフィルム20の幅をW1としたときに(W1×0.5)以上(W1×3.0)以下の範囲内に設定されることが好ましい。温度保持ゾーン72の搬送路長さL2は、W1以上(W1×5.0)以下の範囲内に設定されることが好ましい。降温ゾーン73の搬送路長さL3は、(W1×0.5)以上(W1×3.0)以下の範囲内に設定されることが好ましい。搬送路長さL1〜L3を上記の各範囲内にすることにより、長手方向に延びた傷や波状のしわの発生がより一層確抑えられた光学フィルム11が得られる。
前述の第1除電器34〜第3除電器36による帯電量抑制工程について、図3を参照しながら説明する。第1除電器34〜第3除電器36としては、加熱炉26へ向かうポリマーフィルム20の帯電量を−0.1kV以上+0.1kV以下の範囲内にするようにゴムローラ32とポリマーフィルム20とを除電することができるものであれば特に限定されず、例えば、イオン風を送出するイオン風除電器、紫外線や軟X線による光照射式除電器、自己放電式除電器等が挙げられる。これらの中でも、より迅速かつより確実な除電の観点から、イオン風除電器、光照射式除電器がより好ましく、イオン風除電器が特に好ましい。イオン風除電器としては、例えば(株)キーエンス製、シムコジャパン(株)製、(株)TRINK製が市販されており、本実施形態では、(株)キーエンス製の型式SJ−EH、バータイプを用いている。第1除電器34〜第3除電器36から送出される各々のイオン風の流量は、コントローラ29により調整され、加熱炉26へ向かうポリマーフィルム20の帯電量が−0.1kV以上+0.1kV以下の範囲内になるよう調整される。第1除電器34〜第3除電器36から送出される各々のイオン風の流量は、180L/min以上とすることが好ましい。第1除電器34〜第3除電器36は互いに同じものであってもよいし、異なるものであってもよく、好ましくは第1除電器34〜第3除電器36のうちいずれかひとつがイオン風除電器であることが好ましい。
第1除電器34は、ゴムローラ32の周面に対向して設けられており、この例では、図3におけるゴムローラ32の上方に配されている。第1除電器34は、イオン風の送出口がゴムローラ32の周面に向くように備えられている。第1除電器34によるゴムローラ32の周面へのイオン風の供給により、ゴムローラ32の周面が除電される(ローラ除電工程)。なお、前述の第4除電器も、ゴムローラ32に対する第1除電器34の配置位置と同様に、ゴムローラ52の周面に対向して設けられており、図2におけるゴムローラ52の上方に配されている。
第2除電器35は、第1挟持位置NP1よりも搬送方向における下流側に配されている。第2除電器35は、本実施形態のようにイオン風の送出口が第1挟持位置NP1に向くように配されることが好ましい。これにより第1挟持位置NP1に向けてイオン風が供給されて、第1挟持位置NP1から加熱炉26へ向かうポリマーフィルム20をより確実に除電し(第1のフィルム除電工程)、第1除電器34及び第3除電器36と協働してポリマーフィルム20の帯電量を−0.1kV以上+0.1kV以下の範囲内にする。本実施形態では、第1挟持位置NP1に向けてイオン風を供給することにより、第1挟持位置NP1から搬送方向下流側0.05mmまでの範囲のポリマーフィルム20にイオン風が吹き付けられており、この範囲で除電される。
第3除電器36は、第1挟持位置NP1よりも搬送方向における上流側に配されている。第3除電器36は、本実施形態のようにイオン風の送出口が第1挟持位置NP1に向くように配されることが好ましい。これにより第1挟持位置NP1に向けてイオン風が供給されて、予熱機構21(図1参照)から第1挟持位置NP1へ案内されるポリマーフィルム20をより確実に除電し(第2のフィルム除電工程)、第1除電器34及び第2除電器35と協働してポリマーフィルム20の帯電量を−0.1kV以上+0.1kV以下の範囲内にする。本実施形態では、第1挟持位置NP1に向けてイオン風を供給することにより、第1挟持位置NP1から搬送方向上流側0.05mmまでの範囲のポリマーフィルム20にイオン風が吹き付けられており、この範囲で除電される。
この例では、上記の通り、第1のフィルム除電工程と第2の除電工程との両方が行われているが、いずれか一方のフィルム除電工程でもよい。すなわち、第2除電器35と第3除電器36との少なくともいずれか一方が設けられていればよい。しかし、ポリマーフィルム20の搬送速度が大きい場合など、除電をより迅速かつ確実に行う観点では、第2除電器35と第3除電器36との両方を用いて除電する方が好ましい。以上のように、帯電量抑制工程は、ローラ除電工程とフィルム除電工程とにより、加熱炉26に向かうポリマーフィルム20の帯電量を−0.1kV以上+0.1kV以下の範囲内にする。
この例では、第1除電器34〜第3除電器36をいずれも第2フィルム面20b側に配している。これにより、ゴムローラ32との摩擦に起因する帯電量を、より効果的に低減している。ポリマーフィルム20の帯電量は、第1ローラ31との摩擦によるものよりもゴムローラ32との摩擦によるものの方が大きいから、ゴムローラ32との摩擦に起因する帯電量をより効果的に低減する観点では、イオン風はポリマーフィルム20の第2フィルム面20b側に供給することが好ましい。
第1接触位置NPから加熱炉26までの搬送路長さL4は、帯電防止の観点からできるだけ短い方がよい。本実施形態では、搬送路長さL4をスペース上最も短い距離である0.5mとしている。なお、第1ローラ31に対するポリマーフィルム20の巻き掛け中心角θは、5°以上180°以下の範囲内であることが好ましく、本実施形態では90°としている。
以下、本発明の実施例と、本発明に対する比較例とを挙げる。詳細は、実施例に記載し、比較例については実施例と異なる条件のみを記載する。
[実施例1]〜[実施例17]
フィルム製造設備10により、光学フィルム11を製造し、実施例1〜実施例17とした。光学フィルム11になる熱可塑性ポリマーとして環状ポリオレフィンとセルローストリアセテートとのいずれか一方を用いた。用いた熱可塑性ポリマーについては、表1中において、「ポリマー種」欄に、環状ポリオレフィンの場合には「COP」、セルローストリアセテートの場合には「TAC」と記載する。熱可塑性ポリマーを、ジクロロメタンに溶解して、熱可塑性ポリマーの濃度が25質量%であるドープをつくった。つくったドープは、静置脱泡した後に、送液ポンプによってフィルタを通して異物を除去し、異物除去後のドープを溶液製膜装置14での流延に供した。
延伸ユニット22においては、第1ローラ31と第2ローラ51とを周速度差をもうけて回転させることにより、長手方向での延伸倍率を1.5とした。第1ローラ31と第2ローラ51との間は、無接触搬送区間とした。第1ローラ31上におけるポリマーフィルム20の温度は130℃とした。Tgは150℃であったので、Teは145℃とした。第1除電器34〜第3除電器36の使用の有無、第1挟持位置NP1、ゴムローラ32に対する巻き掛けの有無などの条件を、表1に示す条件にした。なお、第1除電器34を使用し、第1除電器34をイオン風除電器を用いた場合には、イオン風をゴムローラ32の周面に供給した。いずれの実施例においても第4除電器、第5除電器55、第6除電器56を用いた。
表1の「加熱炉に向かうフィルムの帯電量」欄は、加熱炉26へ向かうポリマーフィルム20の帯電量(単位はkV)を示し、第1除電器34〜第3除電器36について、イオン風除電器を用いた場合には「方式」欄に「イオン風」と記載し、自己放電式除電器を用いた場合には「方式」欄に「自己放電」と記載している。「イオン風の向き」欄は、第2除電器35と第3除電器36との少なくともいずれか一方を用いた場合において、これらのイオン風の各送出口の向きを示しており、第1挟持位置NP1に向けた場合には「NP1」、ポリマーフィルム20の第2フィルム面20bに対して垂直に向けた場合には「垂直」と記載している。「イオン風を供給するフィルム面」欄は、第2除電器35と第3除電器36との少なくともいずれか一方を用いた場合において、これらからイオン風を第1フィルム面20aに供給した場合を「A」、第2フィルム面20bに供給した場合をBと記載している。「第1挟持位置」欄に記載する「A」は、第1挟持位置NP1が巻き掛け領域WAの第1ローラ31の回転方向における下流端であることを意味し、「B」は、第1挟持位置NP1が巻き掛け領域WA内ではあるが第1ローラ31の回転方向における下流端よりも上流であることを意味する。「挟持圧力」欄は、第1ローラ31とゴムローラ32とによる挟持圧力を示しており、「清浄度」欄は、クリーンルーム37の内部の清浄度を、米国連邦規格FED−STD(Federal Standard) 209Eのクラスで示している。「ゴムローラのゴム硬度」は、ゴムローラ32の周面を構成するゴムのゴム硬度を示す。
得られた各光学フィルム11につき、長手方向に延びた傷と点状の傷との発生につき、以下の方法及び基準で評価した。なお、長手方向に延びた傷と点状の傷との評価がともに合格である場合は総合評価として合格であり、少なくともいずれか一方が不合格である場合は総合評価として不合格である。
1.点状の傷の評価
点状の傷はおおよそ円形で、直径が10μm以上30μm以下の範囲のものである。長尺の光学フィルム11から1m2の面積で10領域を任意に抽出した。各領域につき、点状の傷の有無を目視で観察し、観察された傷について数を数え、それら10領域の個数の平均値を求めた。この平均値を点状の傷の評価結果とし、表1に示す。5個以下の場合が合格、5個よりも多い場合が不合格である。
2.長手方向に延びた傷の評価
長手方向の傷は、長手方向に筋(すじ)状に延びて、長さが300μm以上、幅が数μmのものであり、目視で確認される。長尺の光学フィルム11から1m2の面積で10領域を任意に抽出した。各領域につき、長手方向に延びた傷の有無を目視で観察し、観察された数を数え、それら10領域の各個数を合計して和を求めた。この和、すなわち10領域分の個数を点状の傷の評価結果とし、表1に示す。個数の和が2個以下である場合が合格、3個以上である場合が不合格である。
[比較例1]〜[比較例5]
実施例の条件を表1に示す条件に代えて、比較例1〜5とした。
得られた各光学フィルムにつき、長手方向に延びた傷と点状の傷との発生につき、実施例と同じ方法及び基準で評価した。評価結果は表1に示す。