従来より、トイレにおいては、臭気を含んだトイレ室内の空気を強制的に排気して外気を供給する換気システムが導入されている。近年、トイレ環境に対する意識が向上しており、トイレ空間に快適さや清潔さが求められ、住宅やオフィスなどのトイレへの空調設備の導入が増えている。また、公共のトイレにも快適性が求められるようになり空調設備の導入が進んでいる。トイレ内の臭気環境を考える際に、換気設計が重要であるが、一般的なトイレに導入される大排気量の考え方では、外気導入に伴う外気処理に必要な空調エネルギーが増加するため、空調設備の導入は難しい。そこで、換気回数を減らし省エネ性を考慮しながらニオイを排出するための排気効率(換気効率)を向上させる必要がある。
トイレにおける臭気の発生は、便器外に飛び散った排泄物、特に男性用の小便器外の床などに飛散(尿はね)した尿が、床面に付着している菌によってアンモニア等に分解されることが主な原因である。
従来の換気システムでは、図7に示されるように、一般にトイレの天井面に設置された排気口から排気する構造が多かったため、床面で発生した臭気が上昇して人の鼻の高さを通過する際に、トイレ使用者が悪臭を強く感じていた。この対策の一つとして、排気の風量を増やして換気回数を増加させることにより臭気の除去を促進するとともに、新鮮な空気による臭気の希釈化を図ることが挙げられる。しかしながら、この対策では、床面で発生した臭気が人の鼻の高さを通過するのには変わりがないため、快適性を飛躍的に向上させることができないにもかかわらず、後段で詳述するように、換気に伴うエネルギー消費量が増大するなどの新たな問題が生じていた。
このような問題に対処するための技術として、例えば下記特許文献1〜3などが存在する。下記特許文献1においては、横方向に長い開閉自在の流路を便室の床と側壁との接続部(ハバキ部)に設け、この流路を経由して便室内臭気の排気を行うことにより、便室のハバキ部に滞留する少量の臭気発生物質が発生する臭気は、便所の利用者の鼻に到達することなく、ハバキ部に設けられた横方向流路を経て大気に放出されるようにした便所の防臭装置が開示されている。
また下記特許文献2においては、バックキャビネットの前面に吸気口が便器本体の便鉢開口部より低い位置に開設され、トイレ室内の天井寄りに室内へ新鮮空気を取り込むための送風口が開設され、該送風口の吐出方向を前記便器本体の上方の使用者空間へ指向させることにより、新鮮空気が使用者に向かって降り下ろされ、便器本体から漏れた臭気を含んだ室内空気が便器本体の便鉢開口部より低い位置の吸気口から排気されるため、便器本体から漏れた臭気が用便中の使用者に接しなくしたトイレ室の換気構造が開示されている。
また下記特許文献3においては、トイレ施設内の壁の低部に排気装置を設置し、その吸い込み側にダクトを据え付け吸引排気し、通気口をその対角線上に設けて室内を換気することにより、悪臭の発生源である便器付近の空気を、床面に水平に横移動させながらトイレ施設外に排出するようにしたトイレ施設の換気方法が開示されている。
上記特許文献1〜3記載の技術では、いずれも壁面の低部に排気口を設けることにより使用者の鼻付近に到達する臭気を少なくして、使用者に臭気を感じさせないようにしているが、トイレ室内の空調や上記特許文献2に記載の使用者空間へ指向させた送風などのようにトイレ室内に給気をした場合、この排気量と給気量との関係によっては、臭気が排気口から効率的に排気されずにトイレ室内に拡散し、使用者の鼻付近に達して使用者に悪臭を感じさせるおそれがあった。
また、従来より一般的に行われている換気風量を増大して臭気を排気する場合の問題点を挙げると以下の通りである。
(1)特に男子トイレにおいては、換気回数を室内容積の20倍(20回/h)程度と非常に多くしても、アンモニア臭がきつい場合がある。これは、臭気の主な発生場所である小便器近傍の床部分(汚垂石部分)に飛び散った尿から発生したアンモニアガスが、完全混合空調方式(通常の事務所空調と同様に室内の空気を薄めて排気する考え方)の空調によって、トイレ室内に拡散混合されてから、天井に設置された排気口を通じて排気されるためである。
(2)トイレ用に空調システムを導入しても、空調後の冷風や温風が排気されてしまい、エネルギー効率が悪い(省エネでない)。
(3)また、これに関連して、外気を導入空気として使用する場合、室内空気を導入する場合よりも、供給する空気との温度や湿度の差が大きく、温湿度の処理に大きなエネルギーを要する。
(4)排気空気のエネルギーを回収する場合、全熱交換器や顕熱交換器の使用が考えられるが、トイレの排気にはアンモニアガス等が含まれるため、ニオイや腐食の問題から導入メリットは少ない。すなわち、全熱交換器では、ガスの一部(水分やアンモニア)が戻ってきてしまう可能性があり、顕熱交換器では、水分に溶解したアンモニアガスによる腐食が発生する。
(5)トイレ内で発生した微粒子や微生物(細菌、真菌、ウィルスを含む)は、給気口及び排気口がトイレ天井面(空間上部)に設置され、且つ換気風量を増加させて風速が大きな場合、巻き上げ効果によって長時間トイレ空間内に浮遊し、トイレ使用者がそれらの粒子を吸い込んでしまう可能性がある。
(6)また、これと同様に、衣服などに付着して持ち込まれた花粉などについても、トイレ内に浮遊して、トイレ使用者に悪影響を与えるおそれがある。
(7)大便器の使用によって発生したニオイが大便器空間から外に漏れた場合、トイレ空間全体に拡散し、長時間にわたって漂う可能性がある(ノロウィルス等も同様)。
(8)トイレ室内の清掃時に、水を流した後、ファンを使用して乾燥させる場合、トイレ室内に塵埃等が飛散し、飛散した塵埃等を排気口から排気するには長時間を要する。
(9)アンモニアガス(NH3)は、気体として分子量17であり、空気(窒素ガスN2=28、酸素ガスO2=32)よりも軽いため、上昇して天井付近に滞留する傾向がある。
(10)用足し時の顔周辺の空間のニオイが低減しない。
以上から、換気風量を増加させることにより、トイレ室内の臭気を低減するには限界があり、換気のためのエネルギーが多く必要となるなどの別の問題が発生するようになる。従って、換気回数(換気風量)を低減することで、省エネルギー化を含む環境改善を図る必要がある。
そこで本発明の主たる課題は、使用者がトイレ室内の臭気を感じないようにするとともに、トイレ室内の環境改善を図り、省エネルギー化を実現したトイレの換気構造を提供することにある。
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、便器近傍の側壁が床面と接続する巾木部に、トイレ室内の空気を排気する排気口が設けられるとともに、用便中にトイレ使用者が位置する空間の上部に、トイレ使用者の鼻付近に向けて新鮮な空気を吐出する給気口が設けられ、前記排気口からの排気量に対する前記給気口からの給気量の割合が、給気量/排気量=0.23〜0.83であり、
天井に、トイレ室内の空気を排気する第2の排気口が設けられているとともに、前記第2の排気口からの排気量は、前記巾木部に設けられた排気口からの排気量に対して30%以下に設定されていることを特徴とするトイレの換気構造が提供される。
上記請求項1記載の発明では、トイレの排気を便器近傍の側壁が床面と接続する巾木部に設けられた排気口から行い、給気を用便中にトイレ使用者が位置する空間の上部に、トイレ使用者の鼻付近に向けて新鮮な空気を吐出する給気口から行うようにしている。そして、前記排気口からの排気量に対する前記給気口からの給気量の割合が、給気量/排気量=0.23〜0.83に設定している。このように、排気量と給気量との比を最適化することによって、便器周囲に飛散した尿が床面などに付着した菌によって分解されることにより発生した臭気(アンモニア等)を、便器近傍の巾木部に設けられた排気口から効率良く排気できるようになる。このため、使用者がトイレ室内の臭気を感じなくなり、快適なトイレ空間が実現できるようになる。前記給気量/排気量が0.23より小さい(給気量が排気量に対して小さ過ぎる)場合、給気による気流が使用者空間まで十分に到達せず、床面で発生した臭気を給気による気流によって押さえ込むことができないため、臭気が使用者空間まで上昇して、使用者が臭気を感じるようになる。一方、前記給気量/排気量が0.83より大きい(給気量が排気量に対して大き過ぎる)場合、給気によって床面付近の気流が乱れて床面で発生した臭気が前記排気口から効率的に排気されず、トイレ室内に拡散し、使用者が臭気を感じるようになる。
また、本発明に係るトイレの換気構造によれば、悪臭の発生源付近の空気を効率良く排気できるので、換気回数(換気風量)を低く抑えることができ、風量の低減による消費エネルギーの削減が図れるとともに、室外空気の導入に伴う温湿度の処理にかかるエネルギーが低減でき省エネルギー化が図れるようになる。
更に、換気風量の低減により、室内の微粒子や微生物、花粉等の浮遊物が低減できるため、トイレ室内の環境改善が図れるようになる。
更に、本発明では、天井に、トイレ室内の空気を排気する第2の排気口が設けられているとともに、前記第2の排気口からの排気量は、前記巾木部に設けられた排気口からの排気量に対して30%以下に設定されている。
前記巾木部に設けられた排気口とは別に、天井に第2の排気口を設けることにより、前記巾木部に設けられた排気口から排気されずにトイレ室内を拡散し、天井付近に溜まった空気より比重の軽いアンモニアなどの臭気を前記第2の排気口から排気することができるようになる。
請求項2に係る本発明として、前記給気口として線状吹出口が用いられている請求項1記載のトイレの換気構造が提供される。
上記請求項2記載の発明では、前記給気口として線状吹出口、いわゆるブリーズラインを用いている。これにより、用足し時の顔周辺に上部から新鮮な空気が連続する線状に供給されるため、トイレ利用時に多くの滞在時間を占めるエリアにおいて、ニオイを低減する効果が向上できる。また、この連続する線状の下降気流によって、特に男子トイレの小便器において、汚垂石から発生するアンモニアガスの上昇が抑えられ、効率的に小便器近傍に設けられた巾木部の前記排気口からの排気を補助するようになる。
請求項3に係る本発明として、前記トイレは、室内外の出入口が開放されるか、出入口扉に通風口が設けられ、前記排気口からの排気に伴い、開放された前記出入口又は前記通風口を通じてトイレ室外の空気が自然流入している請求項1、2いずれかに記載のトイレの換気構造が提供される。
上記請求項3記載の発明では、屋外に設けられたトイレなどのようにトイレの室内外の出入口が開放される場合や、建物内に設けられたトイレなどのように出入口扉に通風口が設けられる場合のいずれにおいても、前記排気口からの排気に伴い、開放された前記出入口又は前記通風口を通じてトイレ室外の空気が自然流入するように構成している。このため、トイレ室内において、トイレ出入口から便器の設置位置に向けた気流が発生しやすくなり、便器近傍で発生した臭気をより効果的に前記排気口から排気できるようになる。
請求項4に係る本発明として、便器周囲の床面に抗菌作用のある床材が用いられている請求項1〜3いずれかに記載のトイレの換気構造が提供される。
上記請求項4記載の発明では、便器周囲に飛散した尿が床面に付着した菌の分解作用によってアンモニアなどの臭気を発生しにくくするため、便器周囲の床面に抗菌作用のある床材を用いている。これによって臭気の発生が抑えられ、使用者がトイレの臭気を感じにくくなる。
以上詳説のとおり本発明によれば、使用者がトイレ室内の臭気が感じなくなるとともに、トイレ室内の環境改善が図られ、省エネルギー化が実現できるようになる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
本発明に係るトイレの換気構造は、図1及び図2に示されるように、便器1の近傍の側壁が床面と接続する巾木部2に、トイレ室内の空気を排気する排気口3が設けられるとともに、用便中にトイレ使用者が位置する空間(トイレ使用者空間)の上部に、下方に向けてトイレ室外の新鮮な空気を吐出する給気口4が設けられている。
前記巾木部2とは、側壁の床面との境目に当たる部分であることを指すものであり、実際に巾木が設けられているか否かは関係ない。
前記排気口3は、図示例のように男性用の小便器の場合、小便器1が取り付けられた面の側壁が床面と接続する巾木部2に設けるのが望ましいが、これとは別に又はこれに加えて他の面の側壁が床面と接続する巾木部に設けてもよい。図示例のように複数の小便器1、1…が同じ側壁に隣接して設けられる場合、前記排気口3は、各小便器1の近傍に個別的に設けてもよいが、複数の小便器1、1…が設けられた側壁の巾木部2に連続して設けるのが好ましい。前記便器1が個室内に設置された大便器の場合、前記排気口3は、個室を囲う側壁のうち少なくとも1つの側壁が床面と接続する巾木部2に設けられている。
前記排気口3は、詳細には図3に示されるように、側壁の下端が床面と接続する部分(巾木部2)に、該巾木部2に沿って側壁より窪む断面略四角形の空間部5が形成されるとともに、この空間部5の上面のほぼ全長に亘って開口するように設けるのが好ましい。すなわち、前記排気口3は、側方の全面がトイレ室内に連通する窪み状の空間部5の上部において、下方に向けて開口している。このため、便器1の近傍の床面付近で、巾木部2に向けた、床面とほぼ平行する方向の気流が発生しやすくなり、この気流に乗って床面で発生した臭気が排気口3に吸い込まれやすくなる。また、排気口3が窪み状の空間部5の上部に形成されているため、トイレの清掃などの際に、水滴が排気口3を通じて排気流路内に浸入しにくい構造となっている。
図3に示されるように、前記排気口3の開口幅Dより、前記空間部5のトイレ室内側に連通する空間高さHの方が大きな寸法で形成するのが好ましい。これにより、排気口3の流速より、空間部5がトイレ室内に連通する面の流速の方が小さく抑えられるため、便器1の近傍の床面において巾木部2に向けた床面と平行する気流が乱れることなく、整った気流状態に形成されるとともに、異物の吸い込みによる排気流路の詰まりなどが防止できるようになる。前記空間高さHと開口幅Dとの比(H/D)は、1.5〜10、好ましくは3〜5とするのがよい。前記空間部5がトイレ室内と連通する面に網や柵などを設置して、排気口3を通じて排気流路内に異物が入り込まないようにしてもよい。
前記排気口3は、図示しない排気ファンを介してトイレ室外と連通しており、前記排気ファンの運転によりトイレ室内の空気を強制的にトイレ室外(屋外)に排出している。
前記給気口4は、トイレ使用者空間の上部から、トイレ使用者空間に向けて、特にトイレ使用者の鼻付近に向けて下降気流が生じるように設けられている。
前記給気口4としては、図1及び図2に示されるように、複数の便器1、1…に対応するトイレ使用者空間に一体的に跨るように連続する細長い給気口からなる線状吹出口(ブリーズライン)を用いるのが好ましい。これにより、用足し時の顔周辺に上方から、連続する線状に新鮮な空気が供給され、トイレ利用時に多くの滞在時間を占めるエリアにおいて、ニオイを低減する効果が向上できる。また、この連続する線状の下降気流によって、特に男子トイレの小便器において、汚垂石から発生するアンモニアガスの上昇が抑えられ、効率的に小便器近傍に設けられた巾木部2の排気口3からの排気を補助できるようになる。
なお、前記給気口4は、複数の給気口4を離間して配置した断続的に設けてもよく、各便器1におけるトイレ使用者空間にそれぞれ個別的に空気を供給する複数の吹出口から構成してもよい。
前記給気口4から供給される空気の方向は、トイレ使用者空間の略鉛直方向の上方から略鉛直方向の下方に向けた方向としてもよいし、トイレ使用者の斜め上方から斜め下方に向けた方向としてもよい。前者の方が、便器1の近傍の床面で発生した臭気が上方に拡散するのを押さえ込み、前記排気口3に吸い込まれやすい気流を発生させることができるので好ましい。
前記給気口4の高さは、トイレ使用者空間より上部であればよく、床面からの高さが2m〜3m程度とするのがよい。前記給気口4は、天井面とほぼ同等の面内に設けてもよいし、図1に示されるように天井面より下方に突出した位置に設けてもよい。天井面に溜まった比重の軽いアンモニアなどの臭気が吹き下ろされるのを防止するため、天井面より下方の位置に設けるのが好ましい。前記給気口4は、天井から下方に突出した給気流路の先端に設けてもよいし、側壁から側方に突出し、先端部が下方に屈折した給気流路の先端に設けてもよい。
前記排気口3から排気する風量(排気量)に対する前記給気口4から供給する風量(給気量)の割合(給気量/排気量)は、後段の[実施例]で詳述するように、0.23〜0.83、好ましくは0.45〜0.70とするのがよい。排気量と給気量との比を最適化することによって、便器1の周囲に飛散した尿が床面などに付着した菌によって分解されることにより発生した臭気を、便器1の近傍の巾木部2に設けられた開口部3から効率良く排気できるようになる。更に詳細に説明すると、便器1の周囲に飛散した尿は、床面などに付着する菌によって尿素が分解されアンモニアなどが発生するが、このアンモニアは空気より比重が軽いため上方に拡散しやすい性質を有している。本換気構造では、この上方に拡散しやすいアンモニアを含む臭気を、前記給気口4からの気流によって上方に拡散するのを抑えつつ、床面付近の排気口3に向けた気流を乱すことなく、確実に排気口3に吸い込ませるようにしている。これによって、床面で発生した臭気がトイレ使用者の鼻付近まで拡散するのが抑制できる結果、トイレ使用者がトイレ室内の臭気を感じなくなり、快適なトイレ空間が実現できるようになる。前記給気量/排気量が0.23より小さい場合、すなわち給気量が排気量に対して小さ過ぎる場合、給気による気流が使用者空間に作用しにくく、床面で発生した臭気が使用者空間に上昇しやすく、使用者が臭気を感じるようになる。一方、前記給気量/排気量が0.83より大きい場合、すなわち給気量が排気量に対して大き過ぎる場合、給気によって床面付近の排気口3に向けた気流が乱され、床面で発生した臭気が排気口3から効率的に排気されず、トイレ室内に拡散しやすくなり、使用者が臭気を感じるようになる。
また、トイレ室内における臭気の原因となる主な成分として、アンモニアの他にトリメチルアミンが存在するが、このトリメチルアミンは、アンモニアとは対照的に空気より重い物質であるため、巾木部2に設けられた排気口3からの排気が特に効果的である。
更に、本発明に係るトイレの換気構造によれば、悪臭の発生源付近の空気を効率良く排気できるので、換気回数を低く抑えることができ、風量の低減による消費エネルギーの削減が図れるようになる。試算によれば、従来の天井吸い込み方式の換気構造の場合、換気回数が20回/hであったものが、本発明に係るトイレの換気構造によれば、換気回数が10回/hで済み、これにより電気料金を約38%減少することができるようになる。
また、換気風量の低減により、トイレ室内空間を漂う微粒子や微生物、花粉等の浮遊物が低減できるため、トイレ室内の環境改善が図れるようになる。すなわち、大風量換気によって室内の微粒子等が巻き上げられることがなくなり、トイレ使用者が浮遊物を吸い込んでしまう可能性が低下する。
前記トイレは、主に屋外に設置されるトイレなどのように、トイレ室に出入りする出入口8に扉が無く開放されているタイプ(図1及び図2参照。)、主に建物内に設置されるトイレなどのように、出入口に設けられた出入口扉にガラリやアンダーカットなどの通風口が設けられるタイプのいずれにおいても、前記排気口3からの排気に伴い、開放された前記出入口8又は前記出入口扉の通風口を通じてトイレ室外の空気が自然流入するように構成するのが好ましい。一般に便器はトイレ出入口から離れた位置に設置されるため、トイレ出入口から便器1の設置位置に向けて気流が発生しやすくなり、便器1の近傍で発生する臭気を排気口3から更に効果的に排気できるようになる。また、トイレ出入口を通じて外部にトイレ室内の臭気が漏れるのが防止できる。
前記換気構造の変形例として、図4及び図5に示されるように、前記巾木部2に設けられた排気口3とは別に、天井に、トイレ室内の空気を排気する第2の排気口6を設けてもよい。これによって、前記排気口3から排気されずにトイレ室内を拡散し、天井付近に溜まった比重の軽いアンモニアなどの臭気を排気することが可能になる。前記第2の排気口6は、天井付近に溜まった臭気が確実に排気できるように、天井面とほぼ同等の面内に設けるのが好ましい。前記第2の排気口6は、1箇所又は複数箇所設置することができ、前記給気口4又はトイレ使用者空間に近い位置又は遠く離れた位置など任意の位置に設置できる。図4及び図5に示される例では、前記給気口4の近傍の中央部に1箇所(6a)、便器1から離れた出入口8とは反対側の壁面付近に1箇所(6b)設置されている。
前記第2の排気口6からの排気量は、天井付近に溜まった臭気が排気できればよいので、巾木部2に設けられた前記排気口3からの排気量より小さくするのが好ましい。具体的には、巾木部2に設けられた排気口3の排気量に対して、30%以下、好ましくは20%以下とするのがよい。
ところで、トイレの床面に飛散した尿中に含まれる尿素が床面上に繁殖した菌によって分解された結果生じるアンモニアは、トイレ内の悪臭の大きな原因である。そこで、図1及び図2に示されるように、便器1の周囲の床面には、抗菌作用のある床材7を用いるのが好ましい。これによって、床面上の菌量が減少し、アンモニアなどの臭気が分解生成されるのが低減でき、臭気の発生が低く抑えられるようになり、トイレ使用者がトイレの臭気を感じにくくなる。前記抗菌作用のある床材7としては、表面に抗菌塗装が施されたセラミック材などを用いることが可能である。
本発明に係るトイレの換気構造による効果を実証するため、図4及び図5に示されるように、男性用の小便器1、排気口3、給気口4及び第2の排気口6a、6bを備えたトイレにおいて、便器1近傍の床面上に敷設したパイプよりガスボンベからのアンモニアガスを発生させ、前記排気口3、給気口4及び第2の排気口6a、6bの風量の条件を変化させ、アンモニアガスを発生させてから60分経過後のトイレ室内のアンモニア濃度を測定した。
実際のトイレ空間の臭気環境(複合臭)は、平均値として臭気強度2.5(アンモニア濃度1ppm)程度である。実際の小便器前の1.5mの高さにおける臭気強度は3であった。これを試験室では、前述の床面上に敷設したパイプから発生させるアンモニアガス単成分にて再現した。本実験では、計測器の測定精度を考慮して、室内の平均臭気強度3.5(アンモニア濃度5ppm)を保持するようにアンモニアガスを発生させた。このときの床面上に敷設したパイプからのアンモニアガス発生量は、実環境の5倍程度であった。
アンモニア濃度の測定は、トイレ使用者が小便時の鼻の高さに対応する位置である床上1.5mの地点に、化学発光式アンモニア自動分析計(日本サーモ社製、Model 17C)を設置することにより行った。また、下式で示されるウェーバー・フェヒナーの法則を用いて、測定されたアンモニア濃度からアンモニア臭気強度を算出した。
アンモニア臭気強度=1.67log10(NH3濃度[ppm])+2.38
試験で用いたトイレの仕様は以下の通りである。
トイレ室容積:15m3(幅2,500×奥行き2,500×高さ2,500mm)
出入口8:扉無しの状態を想定し扉開放(幅840×高さ1,740mm)
小便器1:壁掛けタイプの小便器3個
排気口3:小便器1の設置壁の巾木部2に、20mm×2,400mm
給気口4:ブリーズライン(シングル)2,000mm
第2の排気口6a、6b:天井に、150×150mm×2箇所
表1は、従来の天井吸い込み方式(前記第2の排気口6a、6bのみからの排気)と、巾木部2に設けられた排気口3からの排気及びトイレ使用者空間の上部に設けられた給気口4からの給気による換気構造との比較を示したものである。表1中、「なし」は、給気又は排気の運転を停止し、その給気口又は排気口を通過する風量を0としたものである。
表1より、天井のみからの排気による従来の換気方式(比較例1)に比べて、前記排気口3からの排気及び前記給気口4からの給気による換気方式(比較例2)は、排気量を300m3/h(20回/h)から150m3/h(10回/h)と半減したにもかかわらず、アンモニア濃度が大幅に低減できることが確認できた。具体的には、比較例1と比較例2とを比較すると、前記測定点におけるアンモニア濃度は、従来換気方式(比較例1、天井排気のみ、換気回数20回/h)では11ppmであるのに対して、本発明に係る換気方式(比較例2、巾木排気+天井ブリーズライン給気)では0.36ppmとなり、本発明に係る換気方式では、省エネ性を向上させながら、アンモニア濃度を1/30に減少(97%減少)させることができた。従って、巾木部2に設けた排気口3からの排気とトイレ使用者空間上部の給気口4からの給気とを組み合わせた換気方式が臭気の低減に特に効果的であることが確認できた。
次いで、排気量と給気量の風量バランスの最適化を検証した結果を表2及び表3に示す。表2及び表3は、本発明に係る換気構造において排気口3からの排気量を一定(150m3/h)とし、給気口4からの給気量を変化させたときのアンモニア濃度を測定した結果である。また、表2において「出入口8からの給気量」とは、給気口4からの給気量が排気口3からの排気量より小さいとき、トイレの出入口8からトイレ室内にほぼ水平方向に(横向きに)自然流入する空気量のことである。このとき、トイレの排気は、全て巾木部2に設けられた排気口3から行われるものとし、第2の排気口6a、6bを通じた排気は行わない条件とした。この排気口3からの排気量をEAとする。
表3は、表2の給気量と排気量の風量バランスを無次元化したものである。表3における天井下向給気率η(SAv)は、給気口4からの給気量SAvと排気口3からの排気量EAの割合であり、η(SAv)=SAv/EAから求めることができる。この天井下向給気率η(SAv)は、強制的な給気量と排気量の比であるから、「給気量/排気量」と表すこともできる。また、水平横向給気率η(SAh)は、出入口8からの給気量SAhと排気口3からの排気量EAの割合であり、η(SAh)=SAh/EAから求めることができる。ここで、SAv+SAh=EAから、η(SAv)+η(SAh)=1となる。
表3における天井下向給気率η(SAv)(給気量/排気量)とアンモニア濃度との関係を図6に示す。
表3及び図6において、3次関数による近似式を求めると、次式のようになる。
y=1.3931x3−0.9406x2−0.3085x+0.2043(R2=0.977)
なお、図6では、上記近似式においてアンモニア濃度(y)がマイナスとなる天井下向給気率η(SAv)(給気量/排気量)の範囲では、アンモニア濃度が0ppm(直線)として近似曲線を描いている。
図6に示されるように、天井下向給気率η(SAv)(給気量/排気量)とアンモニア濃度との間には、アンモニア濃度が所定濃度以下となる給気と排気の最適風量バランスがあることが判る。この最適風量バランスの範囲について検討すると、本発明では、上述の従来換気方式(表1に示される比較例1、天井排気のみで換気回数20回/h)におけるアンモニア濃度と比較して、アンモニア濃度の低減率が1/100以下となる範囲を、給気と排気の最適風量範囲とした。アンモニア濃度の低減率が1/100以下である場合には、人の知覚によってアンモニア臭が格段に小さくなったと大多数の人が判断でき、十分な改善効果が期待できるためである。
従来換気方式(比較例1)と比較してアンモニア濃度を1/100以下とするには、天井下向給気率η(SAv)(給気量/排気量)が1.00のとき(比較例2)のアンモニア濃度(0.36ppm)を基準として10/36以下、つまりアンモニア濃度を0.1ppm以下とする必要がある。具体的には、上述の通り、従来換気方式(比較例1)に対して本発明に係る換気方式(比較例2)を採用することによるアンモニア濃度の低減率は1/30であり、これに風量バランスを最適化することによるアンモニア濃度の低減率10/36を掛け合わせて(1/30×10/36=1/108)、従来換気方式(比較例1)と比較してアンモニア濃度を1/100以下にすることができる。このときの給気量/排気量(天井下向給気率η(SAv))は、0.23〜0.83である。
更に、従来換気方式(比較例1)と比較してアンモニア濃度を1/1000以下にすることにより、より一層アンモニア濃度の低減を図るのが好ましい。このアンモニア濃度とするには、天井下向給気率η(SAv)が1.00のとき(比較例2)のアンモニア濃度(0.36ppm)に対して1/36以下、つまりアンモニア濃度を0.01ppm以下とする必要がある。このときの給気量/排気量(天井下向給気率η(SAv))は、0.45〜0.70である。
また、実験の結果、給気量/排気量(天井下向給気率η(SAv))が0.50〜0.67のとき、アンモニア濃度が最も低くなった。