JP6382301B2 - ステンレス鋼板 - Google Patents
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Description
特許文献2(特開2004−60009号公報)には、プレス成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法に関して、摩擦係数μが0.21以下である表面皮膜を有することにより、フェライト系ステンレス鋼のプレス成形性を向上させる技術が開示されている。この技術の実施例では、表面皮膜として固体潤滑皮膜(アクリル系、エポキシ系、ウレタン系など)を塗布している。
特許文献3(特許第4519482号公報)には、耐焼き付き性に優れた自動車排気系部品用フェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法に関して、フェライト系ステンレス鋼の表面に厚さが50〜500nmのCr−Mn系酸化物からなる酸化皮膜を有し、かつ表面粗度を制御することにより、優れた耐焼き付き性を達成しようとしている。ここで、酸化皮膜の形成は、酸素雰囲気下での熱処理で行われる。
特許文献4(特許第4519483号公報)には、耐焼き付き性に優れたフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法に関して、フェライト系ステンレス鋼の表面に厚さが50〜500nmのCr−Mn系酸化物からなる酸化皮膜を有し、かつ表面粗度を制御することにより、優れた耐焼き付き性を達成しようとしている。ここでも、酸化皮膜の形成は、酸素雰囲気下での熱処理で行われるが、特許文献3における条件とは異なる条件範囲で行われる。
また、特許文献2に開示されている技術では、耐型かじり性およびプレス成形性を改善するためには、固体潤滑皮膜を形成しなければならない場合がある。
さらに、特許文献3に開示されている技術および特許文献4に開示されている技術では、いずれも、Cr−Mn系酸化物を形成するために、CrおよびMnを含有する特殊なステンレス鋼が必要である。
この発明のさらなる目的は、ステンレス基地表面が露出する結晶粒界に沿って凹部を形成させその表面にCr(水)酸化物の表面皮膜を形成することにより、一般的なステンレス鋼を用いてもしかも非塩素系などの極圧添加剤や低粘性のプレス油を用いてもプレス成形時において耐型かじり性およびプレス成形性に一層優れた、ステンレス鋼板を提供することである。
また、本発明者らは、ステンレス鋼のプレス成形時の耐型かじり性およびプレス成形性について、上述の表面皮膜が原子%として10%以上のCrを含有することがさらに有効なことも見出した。
さらに、本発明者らは、ステンレス鋼の基地表面に露出する結晶粒界に沿って凹部を形成し、その凹部の表面を含むステンレス鋼の表面に上述の表面皮膜を形成することにより、ステンレス鋼の凹部に対応する表面皮膜の溝がプレス成形時にプレス油の供給源として働き、プレス油の効果を格段に有効に発揮し、ステンレス鋼のプレス成形時の耐型かじり性およびプレス成形性が著しく向上することも見出した。
この発明にかかるステンレス鋼板は、ステンレス鋼と、ステンレス鋼の表面に形成され、FeおよびCrを主体とする酸化物および/または水酸化物からなり、厚さが0.1μm以上で3.0μm以下の表面皮膜とを有する、ステンレス鋼板である。
この発明にかかるステンレス鋼板では、表面皮膜は、原子%としてCrを10%以上含有し残分が実質的にFeであり、厚さが0.1μm以上で3.0μm以下の酸化皮膜および/または水酸化皮膜を有することが好ましい。
また、この発明にかかるステンレス鋼板では、ステンレス鋼の基地表面に露出する結晶粒界に沿って凹部が形成され、凹部の表面を含むステンレス鋼の表面に表面皮膜が形成されることによって、凹部に対応して表面皮膜の表面側に開口幅が0.2μm以上で2.0μm以下且つ深さが0.2μm以上で2.0μm以下の溝が形成されていることが好ましい。この場合、溝は、深さ方向において底に近づくに従って幅が減少するように形成されていることが好ましい。ステンレス鋼の平均の結晶粒径は、100μmを超えるとプレス後のステンレス表面肌が梨地状になりやすく美観を損なうと同時に、結晶粒界に沿った溝におけるプレス油の保持量が全体として減少し潤滑効果が減少する。したがって、ステンレス鋼の平均の結晶粒径は100μm以下が好ましい。
表面皮膜の厚さが0.1μm未満の場合、プレス成形時に焼き付きやすくなり、型かじりしやすくなる。
一方、表面皮膜の厚さが3.0μmを超える場合、プレス成形時に表面皮膜が割れやすくなり、すなわちプレス成形性が悪くなり、プレス成形品の耐食性が低下しやすくなるとともに、経済的に高価になる。
それに対して、この発明におけるようにFeおよびCrを主体とする表面皮膜の厚さが0.1μm以上で3.0μm以下の場合、耐型かじり性およびプレス成形性が良好になる。
なお、表面皮膜となる酸化物および水酸化物は、どちらであっても表面皮膜による効果が変わらないので、それらの比率については限定しない。
また、この発明にかかるステンレス鋼板において、表面皮膜に含有するCrが10原子%以上の場合、表面皮膜に含有するCrが10原子%未満の場合と比べて、ステンレス鋼板の材料が一般的な金型の材料と著しく異なるようになるので、耐型かじり性およびプレス成形性が向上し、さらに、表面皮膜中の塩素イオンの浸透性が抑えられ、耐食性も向上する。
さらに、この発明にかかるステンレス鋼板において、ステンレス鋼の基地表面に露出する結晶粒界に沿って形成された凹部に対応して表面皮膜に形成された溝の開口幅が0.2μm未満またはその溝の深さが0.2μm未満の場合、その開口幅が0.2μm以上でその深さが0.2μm以上の場合と比べて、プレス油の必要な保持量を満たしにくく、プレス成形性が向上しない。
一方、この発明にかかるステンレス鋼板において、溝の開口幅が2.0μmを超える場合、その開口幅が2.0μm以下の場合と比べて、プレス油の油溜りとしての効果は減少し、プレス成形性が向上しない。
また、この発明にかかるステンレス鋼板において、溝の深さが2.0μmを超える場合、その深さが2.0μm以下の場合と比べて、プレス成形品の表面が梨地状になり、さらには極端な場合に割れが発生しやすくなる。
それに対して、この発明にかかるステンレス鋼板において、溝の開口幅が0.2μm以上で2.0μm以下且つ溝の深さが0.2μm以上で2.0μm以下の場合、プレス油の必要な保持量を満たしやすく、プレス油の油溜りとしての効果を発揮し、プレス成形品の表面が梨地状になりにくく、耐型かじり性およびプレス成形性が向上する。
また、この発明にかかるステンレス鋼板において、溝は、深さ方向において底に近づくに従って幅が減少するように形成される場合、たとえば溝の断面形状が逆3角形状または逆台形状に形成される場合、プレス油を節約することができる。
さらに、この発明によれば、ステンレス基地表面が露出する結晶粒界に沿って凹部を形成させその表面にCr(水)酸化物の表面皮膜を形成することにより、一般的なステンレス鋼を用いてもしかも非塩素系などの極圧添加剤や低粘性のプレス油を用いてもプレス成形時において耐型かじり性およびプレス成形性に一層優れた、ステンレス鋼板が得られる。
この発明によれば、型かじりが生じにくくまたプレス成形性に優れたステンレス冷延薄鋼板やステンレス冷延薄鋼帯などのステンレス鋼板が得られるので、プレス型等の寿命向上や生産性を向上させ、金属加工業界に大いに寄与する。
また、高耐食性ステンレス鋼として、フェライト系ステンレスにあっては高CrのMo添加ステンレス、オーステナイト系ステンレス鋼にあっては高Cr、高Ni、MoやN添加などの高耐食性ステンレス鋼が開発されているが、表面皮膜中にMoが混入しても何ら影響がなく、特にその量については限定しない。しかし、ステンレス鋼の素材としてはCr、Ni、Mo含有量が高くなるとその加工性が低下し、プレス成形性も低下するので、Crは35%以下、Niは40%以下、Moは10%以下の組成のステンレス鋼を用いるのが好ましい。
表面皮膜14の厚さが0.1μm未満の場合、プレス成形時に焼き付きやすくなり、型かじりしやすくなる。
一方、表面皮膜14の厚さが3.0μmを超える場合、プレス成形時に表面皮膜が割れやすくなり、すなわちプレス成形性が悪くなり、プレス成形品の耐食性が低下しやすくなるとともに、経済的に高価になる。
それに対して、図1に示すステンレス鋼板10では、FeおよびCrを主体とする表面皮膜14の厚さが0.1μm以上で3.0μm以下であるので、耐型かじり性およびプレス成形性が良好になる。
なお、表面皮膜14となる酸化物および水酸化物は、どちらであっても表面皮膜14による効果が変わらないので、それらの比率については限定しない。
一方、図1に示すステンレス鋼板10において、溝14aの開口幅が2.0μmを超える場合、その開口幅が2.0μm以下の場合と比べて、プレス油の油溜りとしての効果は減少し、プレス成形性が向上しない。
また、図1に示すステンレス鋼板10において、溝14aの深さが2.0μmを超える場合、その深さが2.0μm以下の場合と比べて、プレス成形品の表面が梨地状になり、さらには極端な場合に割れが発生しやすくなる。
それに対して、図1に示すステンレス鋼板10では、溝14aの開口幅が0.2μm以上で2.0μm以下且つ溝14aの深さが0.2μm以上で2.0μm以下であるため、プレス油の必要な保持量を満たしやすく、プレス油の油溜りとしての効果を発揮し、プレス成形品の表面が梨地状になりにくく、耐型かじり性およびプレス成形性が向上する。
図2に示すステンレス鋼板10でも、図1に示すステンレス鋼板10と同様の構成を有するので、図1に示すステンレス鋼板10が奏する効果と同様の効果を奏する。
実験例1では、厚さ0.2mmの板状のSUS304の1/2H材、BA材および#800仕上げ材をサンプル(ステンレス鋼)として用いた。
また、表1において、「皮膜形成条件種別」は、表面皮膜を形成するために用いられる電解の種類を示す。
さらに、表1の「電解条件」の「極性」において、「直流」は、陽極電解を行うが陰極電解を行わないことを意味し、「反転」は、陽極電解と陰極電解とを交互に繰り返して行うことを意味する。また、表1において、「陽極時間」は、1回の陽極電解の時間を示し、「陽極電流」は、陽極電解によってステンレス鋼に流す電流密度を示し、「陰極時間」は、1回の陰極電解の時間を示し、「陰極電流」は、陰極電解によってステンレス鋼に流す電流密度を示す。さらに、表1において、「反応時間」は、電解処理の全時間を示す。
実験例1で形成したいずれの表面皮膜も、原子%でCrは約35%、Niは約8%、残部の主成分は金属成分としてFe、非金属成分として酸素から構成されている。
さらに、実施例1−1〜1−7および比較例1−1〜1−5に対して、耐型かじり性試験評価方法として、円筒スウィフト深絞り試験を行った。この場合、パンチ径を40mmにし、パンチ進行速度を60mm/minにし、しわ押さえ力を12kNにし、ブランク径を72mm、78mmまたは84mmに変更して試験を行った。また、焼き付きの差異を検出しやすいように、実施例1−1〜1−7および比較例1−1〜1−5の表面に低粘性のプレス油(粘度25センチストークス)を塗布して試験を行い、型かじりの有無などを調べた。
それらの結果を表2に示す。
また、表2において、プレス成形性については、円筒スウィフト深絞り試験の結果、完全に絞り抜けができしかも割れが発生しなかったものを「◎」で示し、完全に絞り抜けができたがパンチコーナー部に割れが発生したものを「○」で示し、絞り抜けの途中で割れが発生して絞り抜けができなかったものを「×」で示した。
それに対して、この発明の実施例1−1〜1−7では、いずれも、一切型かじりが観察されず、しかも、プレス成形性および絞り性も良好であった。
実験例2では、厚さ0.3mmの板状のSUS443J1およびSUS304のBA材および#800仕上げ材をサンプル(ステンレス鋼)として用いた。
実験例2で形成した表面皮膜中の元素の定量分析の結果について、SUS443J1では、Crは約45%、残部は実質的にFeであり、また、SUS304では、実験例1の結果と同じであった。
さらに、形成した溝の開口幅および深さは、それぞれ、原子間力顕微鏡(キ−エンスVN−8010)によって10箇所の測定箇所で測定し、それらの平均値とした。
さらに、実施例2−1〜2−16および比較例2−1〜2−8に対して、プレス成形性試験として、円筒スウィフト深絞り試験を行って、限界絞り比を求めた。この場合、パンチ径を40mmにし、パンチ進行速度を60mm/minにし、しわ押さえ力を12〜20kNの範囲で変更し、またブランク径を72〜100mmの範囲で変更して試験を行った。また、実施例2−1〜2−16および比較例2−1〜2−8の表面に低粘性のプレス油(粘度25セントストークス)を塗布して試験を行った。
さらに、その試験中に型かじりが生じたか否かを観察した。
それらの結果を表3に示す。
それに対して、この発明の実施例2−1〜2−16では、ステンレス鋼の鋼種および表面仕上げに関係なく、型かじりが生じず、限界絞り比の値も大きいことが明らかである。
実験例3では、板厚が0.2mmで、幅が300mmであるロール状のSUS304の1/2ハ−ド材(鋼帯)をサンプル(ステンレス鋼)として用いた。
それらの結果を表5に示す。
それに対して、この発明の実施例3−1では、限界絞り比が高く、また、型かじりは認められなかった。
実験例4では、厚さ0.3mmの板状のSUS447J1、SUS316Lおよび23Cr−35Ni−7.5Mo−0.15Nの高耐食性オーステナイト系ステンレス鋼の2B材を#400バフで研磨仕上げしたものをサンプルとして用いた。
まず、それらのサンプルの一方主面において、30%王水水溶液中、室温〜60℃、1〜30分の条件で、結晶粒界のエッチングを行って、結晶粒界に沿ってその開口幅と深さを変化させ凹部を形成した。
その後、H2SO4500g/L水溶液中で電解条件として電流密度0.04A/dm2で10〜60分の陽極電解を行い、一方の主面に表面皮膜を形成した。それによって、凹部に対応して表面皮膜の表面側に溝を形成した。表面皮膜中の元素の表面分析、表面皮膜厚さの測定方法は、実験例1および2のそれと同一である。表面皮膜において、SUS447J1ではCrが約55%、Moが約3%、残部が実質的にFeであり、またSUS316LではCrが約30%、Niが約10%、Moが約3%であった。また、23Cr−35Ni−7.5Mo−0.15Nステンレス鋼では、Crが約35%、Niは約15%、Moは約5%であった。
皮膜厚さおよび溝形状の測定値を表6の比較例4−1〜4−5および実施例4−1〜4−6に示す。これらの比較例および実施例に対して、プレス成形性試験として、円筒スウィフト深絞り試験を行って限界絞り比を求めた。この場合、パンチ径を40mmにし、パンチ進行速度を60mm/minにし、しわ押さえ力を12kN〜20kNの範囲で変更し、ブランク径を60〜84mmの範囲で変更した。また、潤滑油として、表面に低粘性のプレス油(粘度50センチストークス)を塗布して試験を行った。さらに、その試験中に型かじりが生じたか否かを観察した。それらの結果を表6に示す。
それに対して、この発明の実施例4−1〜4−6では、ステンレス鋼の鋼種に関係なく、型かじりが生じず、比較例に対し限界絞り比の値が大きいことが明らかである。
実験例5では、「実験例2と同じ材料」である、厚さ0.3mmの板状のSUS443J1のBA材をサンプル(ステンレス鋼)として用いた。
さらに、実施例5−1〜5−9および比較例5−1〜5−3に対して、プレス成形性試験として、円筒スウィフト深絞り試験を行って、限界絞り比を求めた。この場合、パンチ径を40mmにし、パンチ進行速度を60mm/minにし、しわ押さえ力を12〜20kNの範囲で変更し、またブランク径を72〜100mmの範囲で変更して試験を行った。また、実施例5−1〜5−9および比較例5−1〜5−3の表面に低粘性のプレス油(粘度25セントストークス)を塗布して試験を行った。
さらに、その試験中に型かじりが生じたか否かを観察した。
それらの結果を表7に示す。
それに対して、この発明の実施例5−1〜5−9では、型かじりが生じず、限界絞り比の値も大きいことが明らかである。
12 ステンレス鋼
12a 凹部
14 表面皮膜
14a 溝
Claims (5)
- ステンレス鋼の基地表面に露出する結晶粒界に沿って凹部が形成され、前記凹部の表面を含む前記ステンレス鋼表面にFeおよびCrを主体とする酸化物および/または水酸化物からなり、厚さが0.1μm以上で3.0μm以下の表面皮膜を有し、前記凹部に対応して前記表面皮膜の表面側に開口幅が0.2μm以上で2.0μm以下且つ深さが0.2μm以上で2.0μm以下の溝が形成されたことを特徴とし、プレス成形される、ステンレス鋼板。
- ステンレス鋼の基地表面に露出する結晶粒界に沿って凹部が形成され、前記凹部の表面を含む前記ステンレス鋼表面にFeおよびCrを主体とする酸化物および/または水酸化物からなり、厚さが0.1μm以上で3.0μm以下の表面皮膜を有し、前記凹部に対応して前記表面皮膜の表面側にプレス油を保持するために開口幅が0.2μm以上で2.0μm以下且つ深さが0.2μm以上で2.0μm以下の溝が形成されたことを特徴とし、プレス成形される、ステンレス鋼板。
- 前記表面皮膜は、原子%としてCrを10%以上含有し残分が実質的にFe及びOであり、厚さが0.1μm以上で3.0μm以下の酸化皮膜および/または水酸化皮膜を有する、請求項1または請求項2に記載のステンレス鋼板。
- ステンレス鋼の平均の結晶粒径は100μm以下であり、
前記ステンレス鋼の基地表面に露出する結晶粒界に沿って凹部が形成され、前記凹部の表面を含む前記ステンレス鋼の表面に前記表面皮膜が形成されることによって、前記凹部に対応して前記表面皮膜の表面側に開口幅が0.2μm以上で2.0μm以下且つ深さが0.2μm以上で2.0μm以下の溝が形成されている、請求項1または請求項2に記載のステンレス鋼板。 - 前記溝は、プレス油を保持するために深さ方向において底に近づくに従って幅が減少するように形成されている、請求項4に記載のステンレス鋼板。
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